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特開2024-67552グラフェン接合体の双方の表面に、金属ないしは合金からなる厚みが20μm以下の箔を、摩擦圧接で接合した厚みが50μmより薄いフィルムを形成する方法
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  • 特開-グラフェン接合体の双方の表面に、金属ないしは合金からなる厚みが20μm以下の箔を、摩擦圧接で接合した厚みが50μmより薄いフィルムを形成する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067552
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】グラフェン接合体の双方の表面に、金属ないしは合金からなる厚みが20μm以下の箔を、摩擦圧接で接合した厚みが50μmより薄いフィルムを形成する方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20240510BHJP
   C01B 32/184 20170101ALI20240510BHJP
   B23K 20/12 20060101ALI20240510BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
B32B9/00 A
C01B32/184
B23K20/12 G
H01B5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177729
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】512150358
【氏名又は名称】小林 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 博
【テーマコード(参考)】
4E167
4F100
4G146
5G307
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167AA10
4E167AA19
4E167BF00
4F100AA37A
4F100AB01B
4F100AB01C
4F100AB02B
4F100AB02C
4F100AB16B
4F100AB16C
4F100AB20B
4F100AB20C
4F100AB31B
4F100AB31C
4F100AB33B
4F100AB33C
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100DE01A
4F100EJ17
4F100JD08
4F100JG06
4F100YY00B
4F100YY00C
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC01B
4G146AD05
4G146AD20
4G146AD22
4G146AD26
4G146BA02
4G146BB05
4G146BC18
4G146BC38B
4G146DA07
4G146DA50
5G307BA07
5G307BB01
5G307BB02
5G307BB04
5G307BB05
5G307BB09
5G307BC10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】グラフェンの面同士が接合したグラフェン接合体を形成し、金属ないしは合金からなる箔を、グラフェン接合体に接合する。これらの方法が簡単な処理方法で、また、用いる原料が安価である。
【解決手段】最初に、グラフェンの集まりがメタノールに分散した懸濁液を作成する。次に、重ね合わせた枠体同士の間隙に箔を挟み、懸濁液を枠体の内側に注入する。さらに、懸濁液に3方向の振動加速度を加え、懸濁液中でグラフェンの集まりを並ばせ、この後、メタノールを気化する。もう一枚の箔を、グラフェンの集まりに被せ、2枚の箔の間隙に、グラフェンの集まりを形成する。重ね合わせた枠体の内側に、1枚の平板を下方から挿入し、もう一枚の平板を上方から挿入し、この後、上方の平板の表面全体を均等に圧縮する。これによって、グラフェン接合体2の双方の表面に、金属ないしは合金の箔が摩擦圧接で接合し、厚みが50μmより薄いフィルムが形成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン接合体の双方の表面に、金属ないしは合金からなる厚みが20μm以下の箔を、摩擦圧接で接合した厚みが50μmより薄い四角形のフィルムを形成する方法は、
2枚の平行平板電極板を構成する一方の電極板の表面に、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを平坦に敷き詰め、該一方の電極板を、第一の容器に充填したメタノール中に浸漬させ、他方の電極板を、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりを介して、前記一方の電極板の上に重ね合わせ、前記一方の電極板と前記他方の電極板とからなる平行平板電極板対を、前記メタノール中に浸漬させる、この後、該電極板対の間隙に予め決めた大きさからなる直流の電位差を印加する、これによって、該電位差の大きさを前記電極板対の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりに印加され、該電界の印加によって、前記鱗片状黒鉛粒子ないしは前記塊状黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが同時に破壊され、前記電極板対の間隙に前記基底面からなるグラフェンの集まりが析出する、この後、前記電極板対の間隙を拡大し、該電極板対を前記メタノール中で傾斜させ、さらに、前記第一の容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を順番に繰り返し加え、前記グラフェンの集まりを、前記電極板対の間隙から前記メタノール中に移動させる、この後、前記第一の容器から前記電極板対を取り出す、前記第一の容器内に、前記メタノールに分散したグラフェンの集まりを作成する第一の工程と、
前記第一の容器内で超音波方式のホモジナイザー装置を稼働させ、前記メタノールを介して前記グラフェンの集まりに衝撃波を繰り返し加え、該グラフェンの集まりを、前記メタノール中で1枚1枚のグラフェンに分離させる、この後、前記第一の容器から前記ホモジナイザー装置を取り出し、前記メタノール中で1枚1枚に分離したグラフェンの集まりからなる懸濁液を、前記第一の容器内に作成する第二の工程と、
厚みが20μm以下で、四角形からなる金属ないしは合金からなる箔の2枚と、外形が前記箔の四角形からなり、一定の幅からなる枠を持ち、該枠の内側は空間である同一形状からなる2つの枠体と、加振機とを用意する、この後、前記2つの枠体のうちの一方の枠体の枠の表面に、前記2枚の箔のうちの一方の箔を重ね合わせ、さらに、該箔の上に、もう一方の枠体を重ね合わせ、該枠体の表面を圧縮し、該重ね合わせた枠体同士の間隙に前記箔を挟む、さらに、該重ね合わせた枠体の上方の枠体の内側に、第二の工程で作成した懸濁液を、該枠体の厚みの1/5以下の高さまで注入し、この後、前記重ね合わせた枠体を、前記加振機の加振台の上に載せ、該加振機を稼働させ、前記注入した懸濁液に、左右、前後、上下の3方向の振動加速度を順番に繰り返し加え、最後に上下方向の振動加速度を加える、これによって、前記懸濁液におけるグラフェンの集まりが、該懸濁液中で面を上にしてランダムに並び、該グラフェンの集まりがメタノール中に分散した懸濁液が、前記箔の表面に形成される第三の工程と、
前記重ね合わせた枠体を、前記加振台の上から熱処理装置に移動させ、該重ね合わせた枠体を前記メタノールの沸点に昇温し、前記箔の表面に形成された懸濁液からメタノールを気化させ、面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりを前記箔の表面に形成する、この後、前記2枚の箔のうちの残りの1枚の箔を、前記グラフェンの集まりが表面に形成された箔の上に押し込んで該箔同士を重ね合わせ、該重ね合わせた2枚の箔の間隙に、面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりを形成する、さらに、前記枠体の枠の内側の大きさからなり、前記枠体の厚みより厚みが厚く、同一形状からなる2枚の平板を用意する、この後、該2枚の平板のうちの1枚の平板の上に、前記重ね合わせた枠体の下方の枠体の枠の内側を挿入し、該平板の上方の表面を、前記重ね合わせた2枚の箔の下方の箔の面に接触させる、さらに、もう一枚の平板を、前記重ね合わせた枠体の上方の枠体の枠の内側に挿入し、該平板を前記重ね合わせた2枚の箔の上方の箔の面に接触させる、これによって、前記重ね合わせた枠体同士の間隙に、前記重ね合わせた2枚の箔が挟まれるとともに、前記重ね合わせた平板同士の間隙にも、前記重ね合わせた2枚の箔が挟まれる、この後、前記上方の平板の表面全体を均等に圧縮する、これによって、前記重ね合わせた2枚の箔の間隙に形成された面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりの全体が均等に圧縮され、該重なり合ったグラフェンが摩擦圧接で接合し、該接合したグラフェンの集まりからなるグラフェン接合体が、0.1μmより薄い厚みで形成されるとともに、該グラフェン接合体の双方の表面に前記2枚の箔の各々の箔が摩擦圧接で接合し、該グラフェン接合体の双方の表面に前記各々の箔が摩擦圧接で接合した50μmより厚みが薄い四角形のフィルムが形成される、この後、前記重ね合わせた枠体の上方の枠体の4つの枠の各々の枠の表面の中央部に、衝撃加速度を同時に加え、該重ね合わせた枠体を、前記重ね合わせた平板から引き離すとともに、該重ね合わせた枠体の間隙に挟まれた前記グラフェン接合体が形成されていない前記フィルムの周辺部を、該フィルムから破断させ、前記グラフェン接合体の双方の表面に各々の箔が摩擦圧接で接合した50μmより厚みが薄い四角形のフィルムを、前記重ね合わせた平板の間隙に形成する、この後、前記上方の平板の4つの側面のうちの1つの側面の互いに離間した複数個所に、衝撃加速度を同時に加え、さらに、前記下方の平板の4つの側面のうちの1つの側面の互いに離間した複数個所に、前記衝撃加速度と同等の衝撃加速度を同時に加え、前記フィルムを前記重ね合わせた平板の間隙から剥がし、該フィルムを取り出す第四の工程とからなり、
これら4つの工程を連続して実施することによって、グラフェン接合体の双方の表面に、金属ないしは合金からなる厚みが20μm以下の箔を、摩擦圧接で接合した厚みが50μmより薄い四角形のフィルムが形成される、該フィルムの形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載したフィルムを形成する方法が、強磁性の性質を有するフィルムを形成する方法であり、該強磁性の性質を有するフィルムを形成する方法は、
請求項1に記載した金属ないしは合金からなる箔が、ニッケルないしは鉄からなる箔であり、該箔を請求項1に記載した金属ないしは合金からなる箔として用い、請求項1に記載したフィルムを形成する方法に従って強磁性の性質を有するフィルムを形成する、強磁性の性質を有するフィルムを形成する方法。
【請求項3】
請求項1に記載したフィルムを形成する方法が、磁気シールドの機能を有するフィルムを形成する方法であり、該磁気シールドの機能を有するフィルムを形成する方法は、
請求項1に記載した金属ないしは合金からなる箔が、PCパーマロイからなる箔であり、該箔を請求項1に記載した金属ないしは合金からなる箔として用い、請求項1に記載したフィルムを形成する方法に従って磁気シールドの機能を有するフィルムを形成する、磁気シールドの機能を有するフィルムを形成する方法。
【請求項4】
請求項1に記載したフィルムを形成する方法が、500℃以下の温度環境下で使用できるフィルムを形成する方法であり、該500℃以下の温度環境下で使用できるフィルムを形成する方法は、
請求項1に記載した金属ないしは合金からなる箔が、モリブデンからなる箔であり、該箔を請求項1に記載した金属ないしは合金からなる箔として用い、請求項1に記載したフィルムを形成する方法に従って、500℃以下の温度環境下で使用できるフィルムを形成する、500℃以下の温度環境下で使用できるフィルムを形成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛粒子における黒鉛結晶の層間結合を同時に破壊して製造したグラフェンの集まりを面同士で重ね合わせ、重ね合わせたグラフェンの集まりを摩擦圧接で接合して厚みが0.1μmより薄いグラフェン接合体を作成し、該グラフェン接合体の双方の表面に、金属ないしは合金からなる厚みが20μm以下の箔を摩擦圧接で接合した50μm以下の厚みからなるフィルムを形成する方法に関わる。
黒鉛粒子における黒鉛結晶の層間結合を同時に破壊して製造したグラフェンの大きさは小さく、また、1-300μmのバラツキがある。しかし、黒鉛粒子を原料とするため、最も安価なグラフェンの集まりが製造でき、また、純正な黒鉛結晶からなるグラフェンのみが製造でき、さらに、莫大な数からなるグラフェンの集まりが同時に製造できる。これに対し、化学気相成長法や熱分解法によって製造するグラフェンの大きさは大きいが、グラフェンの大きさが大きくなるほど、また、純正なグラフェンのみを製造するには、さらに、製造するグラフェンの数が多くなるほど、グラフェンの製造費用が高価になる。従って、安価なフィルムを作成するには、高価なグラフェンを用いることは適切でない。この理由から、本発明では、黒鉛粒子をグラフェンの原料とした。なお、JISの包装用語では、厚みが250μm以下の板状体をフィルムと称し、厚みが250μmより厚い板状体をシートと称するため、本発明で形成する板状体をフィルムと記した。
本発明のフィルムは、グラフェン接合体の双方の表面に、四角形からなる金属ないしは合金からなる箔を、摩擦圧接で接合させたため、グラフェン接合体の性質がフィルムに反映される。すなわち、グラフェンは、厚みが0.332nmと極めて薄く、グラフェンの厚み方向の導電率は極めて小さく、面方向に電子が優先して移動するため、面方向の導電率が高い。従って、面同士を重ね合わせたグラフェンの集まりを、摩擦圧接で接合したグラフェン接合体は、面方向に電子が優先して伝わる。このため、グラフェン接合体の導電率は、グラフェンの導電率に近い。なお、グラフェンの体積固有抵抗率は1.3μΩcmで、金属の中で最も体積固有抵抗率が小さい銀の体積固有抵抗率は1.6μΩcmである。また、グラフェンの導電率は7.5×10S/mで、金属の中で最も導電率が高い銀の導電率は6.1×10S/mである。さらに、グラフェンの厚みが極めて薄いため、グラフェンの厚み方向の熱伝導率は極めて小さく、面方向に熱が優先して伝わるため、面方向の熱伝導率は高い。従って、面同士を重ね合わせたグラフェンの集まりを、摩擦圧接で接合したグラフェン接合体は、面方向に熱が優先して伝わる。このため、グラフェン接合体の熱伝導率は、グラフェンの熱伝導率に近い。なお、グラフェンの熱伝導率は1880W/(m・K)で、金属の中で最も熱伝導率が高い銀の熱伝導率の4.5倍に相当する熱伝導率を持つ。このように、グラフェンの性質の異方性によって、グラフェン接合体の性質は、グラフェンの性質に近くなる。いっぽう、本発明のフィルムは、グラフェン接合体の双方の表面に、金属ないしは合金からなる箔を、摩擦圧接で接合させたため、フィルムの性質にグラフェン接合体の性質が反映され、フィルムの導電性と熱伝導性は、金属ないしは合金からなる箔の導電性と熱伝導性より優れる。さらに、グラフェンは、破断強度が42N/mで、鋼の100倍を超える強度を持ち、ヤング率が1020GPaと極めて大きい強靭な素材である。従って、面同士を重ね合わせたグラフェンの集まりを、摩擦圧接で接合したグラフェン接合体は、グラフェンの面が有する機械的強度に近い強度を持つ。さらに、グラフェン接合体の厚みが0.1μmより薄いため、本発明のフィルムの厚みと重量は、金属ないしは合金からなる箔の厚みと重量と殆ど変わらない。これに対し、フィルムの性質にグラフェン接合体の性質が反映され、フィルムの機械的強度は、金属ないしは合金からなる箔の機械的強度より優れる。従って、本発明のフィルムは、新たな用途に用いることができる。また、金属ないしは合金からなる箔を摩擦圧接でグラフェン接合体に接合させるため、フィルムを構成する箔の材質の制約はない。
なお、本発明者は、グラフェン接合体の双方の表面に、合成樹脂からなる厚みが1mmより薄いシートを、摩擦圧接で接合したシートを形成する方法を、特願2022-166561として先行出願している。これに対し、本発明のフィルムは、グラフェン接合体の双方の表面に、金属ないしは合金からなる厚みが20μm以下からなる箔を摩擦圧接で接合させる。従って、本発明のフィルムと、先願のシートとでは、グラフェン接合体に接合させる物質が、一方が金属ないしは合金からなる箔であるのに対し、他方が合成樹脂のシートである。いっぽう、金属ないしは合金を圧縮する際に発生する変位量は、合成樹脂を圧縮する際に発生する変位量より1桁以上小さく、金属ないしは合金は、合成樹脂に比べ、圧縮によって破断しにくく、金属ないしは合金の圧縮強度は、合成樹脂の圧縮強度より1桁以上大きい。例えば、同一の圧縮荷重を加えた時の変位量を、冷間圧延鋼板の変位を1とした場合の変位倍率は、ステンレス304で1であり、アルミニウム-マグネシウム合金A5052で3である。これに対し、合成樹脂の変位倍率は、アクリル樹脂が60で、ポリプロピレン樹脂が156で、ポリカーボネート樹脂が81である。このため、合成樹脂は、金属ないしは合金に比べると、変位量が大きいため圧縮によって破断しやすい。従って、金属ないしは合金からなる箔と、合成樹脂のシートとでは、圧縮する際の支持構造が大きく異なる。
【背景技術】
【0002】
グラフェンと金属ないしは合金からなる箔とを複合化する目的は、金属ないしは合金からなる箔に、グラフェンの優れた性質を付与させることにある。いっぽう、前記したように、グラフェンの性質は異方性を持つ。従って、グラフェンと金属ないしは合金からなる箔とを複合化するに当たり、グラフェンの面同士を近接ないしは接合させ、近接ないしは接合したグラフェンの集まりが、直接、金属ないしは合金からなる箔と接触ないしは接合して複合化できれば、金属ないしは合金からなる箔に、グラフェンの優れた性質が付与できる。
グラフェンと金属ないしは合金からなる箔とを複合化させる最近の技術として、以下の技術がある。
特許文献1に、グラフェンとその他の物質を分散させて塗料を作成し、アルミニウム箔の上に、塗料を塗布し、塗膜を乾燥させた後に焼結し、アルミニウム箔と、グラフェンとその他の物質を含む層とを、積層する複合材の技術が記載されている。本技術は、グラフェンが塗料中に任意に分散するため、グラフェンを含む層において、グラフェン同士が近接ないしは接触しない。このため、本複合材には、グラフェンの性質が殆ど反映しない。
特許文献2に、アルミフレークとグラフェンとポリマーバインダーとを撹拌して、ペーストを作成し、ペーストを押し出して成形物を成形させ、成形物をロール圧縮して電極フィルムを製造する技術が記載されている。本技術も、特許文献1と同様に、アルミフレークとグラフェンとポリマーバインダーとを撹拌して作成したペーストにおいて、グラフェンが任意にペースト中に分散するため、ペーストにおいて、グラフェン同士が接触ないしは接触しない。このため、電極フィルには、グラフェンの性質が殆ど反映されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】再表2020-105328号公報
【特許文献2】特表2020-501338号公報
【特許文献3】特許第6166860号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記したように、グラフェンと金属ないしは合金からなる箔とを複合化するに当たって、複合材にグラフェンの性質を反映するには、グラフェンの面同士を近接ないしは接合させ、面同士が近接ないしは接合したグラフェンの集まりが、直接、金属ないしは合金からなる箔と接触ないしは接合して複合化し、複合材を形成する必要がある。さらに、グラフェンを面同士で直接接合させ、接合したグラフェンの集まりが、直接金属ないしは合金からなる箔に接合できれば、この方法が、グラフェンの性質を複合材に反映させる最も優れた方法になる。いっぽう、グラフェンと金属ないしは合金からなる箔とを複合化させる主たる目的は、多くの場合は、導電性と熱伝導性の性質を金属ないしは合金からなる箔より高めた複合材を形成することにある。このため、汎用的に用いることができる複合材である必要がある。従って、安価な材料を用いて、簡単な製造方法で複合材を形成することが必要になる。従って、発明が解決しようとする課題として、以下の課題がある。
第一に、グラフェンの集まりを面同士で直接接合させ、グラフェンの面同士が接合したグラフェン接合体を形成する技術を見出す。
第二に、金属ないしは合金からなる箔を、直接、グラフェン接合体に接合する技術を見出す。
第三に、グラフェン接合体を形成する方法と、金属ないしは合金からなる箔を、直接、グラフェン接合体に接合する方法とが、簡単な処理方法であり、また、用いる原料が安価である。
第四に、金属ないしは合金からなる箔を、直接、グラフェン接合体に接合した複合材が、導電性と熱伝導性のみならず、金属ないしは合金からなる箔より優れた他の性質を実現させることができる。これによって、グラフェン接合体と金属ないしは合金からなる箔とからなる複合材が、新たな用途に用いられる。
発明が解決しようとする課題は、上記した4つの課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
グラフェン接合体の双方の表面に、金属ないしは合金からなる厚みが20μm以下の箔を、摩擦圧接で接合した厚みが50μmより薄い四角形のフィルムを形成する方法は、
2枚の平行平板電極板を構成する一方の電極板の表面に、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを平坦に敷き詰め、該一方の電極板を、第一の容器に充填したメタノール中に浸漬させ、他方の電極板を、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりを介して、前記一方の電極板の上に重ね合わせ、前記一方の電極板と前記他方の電極板とからなる平行平板電極板対を、前記メタノール中に浸漬させる、この後、該電極板対の間隙に予め決めた大きさからなる直流の電位差を印加する、これによって、該電位差の大きさを前記電極板対の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりに印加され、該電界の印加によって、前記鱗片状黒鉛粒子ないしは前記塊状黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが同時に破壊され、前記電極板対の間隙に前記基底面からなるグラフェンの集まりが析出する、この後、前記電極板対の間隙を拡大し、該電極板対を前記メタノール中で傾斜させ、さらに、前記第一の容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を順番に繰り返し加え、前記グラフェンの集まりを、前記電極板対の間隙から前記メタノール中に移動させる、この後、前記第一の容器から前記電極板対を取り出す、前記第一の容器内に、前記メタノールに分散したグラフェンの集まりを作成する第一の工程と、
前記第一の容器内で超音波方式のホモジナイザー装置を稼働させ、前記メタノールを介して前記グラフェンの集まりに衝撃波を繰り返し加え、該グラフェンの集まりを、前記メタノール中で1枚1枚のグラフェンに分離させる、この後、前記第一の容器から前記ホモジナイザー装置を取り出し、前記メタノール中で1枚1枚に分離したグラフェンの集まりからなる懸濁液を、前記第一の容器内に作成する第二の工程と、
厚みが20μm以下で、四角形からなる金属ないしは合金からなる箔の2枚と、外形が前記箔の四角形からなり、一定の幅からなる枠を持ち、該枠の内側は空間である同一形状からなる2つの枠体と、加振機とを用意する、この後、前記2つの枠体のうちの一方の枠体の枠の表面に、前記2枚の箔のうちの一方の箔を重ね合わせ、さらに、該箔の上に、もう一方の枠体を重ね合わせて該枠体の表面を圧縮し、該重ね合わせた枠体同士の間隙に前記箔を挟む、さらに、該重ね合わせた枠体の上方の枠体の内側に、第二の工程で作成した懸濁液を、該枠体の厚みの1/5以下の高さまで注入する、この後、前記重ね合わせた枠体を、前記加振機の加振台の上に載せ、該加振機を稼働させ、前記注入した懸濁液に、左右、前後、上下の3方向の振動加速度を順番に繰り返し加え、最後に上下方向の振動加速度を加える、これによって、前記懸濁液におけるグラフェンの集まりが、該懸濁液中で面を上にしてランダムに並び、該グラフェンの集まりがメタノール中に分散した懸濁液が、前記箔の表面に形成される第三の工程と、
前記重ね合わせた枠体を、前記加振台の上から熱処理装置に移動させ、該重ね合わせた枠体を前記メタノールの沸点に昇温し、前記箔の表面に形成された懸濁液からメタノールを気化させ、面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりを前記箔の表面に形成する、この後、前記2枚の箔のうちの残りの1枚の箔を、前記グラフェンの集まりが形成された箔の上に押し込んで該箔同士を重ね合わせ、該重ね合わせた2枚の箔の間隙に、面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりを形成する、さらに、前記枠体の枠の内側の大きさからなり、前記枠体の厚みより厚みが厚く、同一形状からなる2枚の平板を用意する、この後、該2枚の平板のうちの1枚の平板の上に、前記重ね合わせた枠体の下方の枠体の枠の内側を挿入し、該平板の上方の表面を、前記重ね合わせた2枚の箔の下方の箔の面に接触させる、さらに、もう一枚の平板を、前記重ね合わせた枠体の上方の枠体の枠の内側に挿入し、該平板を前記重ね合わせた2枚の箔の上方の箔の面に接触させる、これによって、前記重ね合わせた枠体同士の間隙に、前記重ね合わせた2枚の箔が挟まれるとともに、前記重ね合わせた平板同士の間隙にも、前記重ね合わせた2枚の箔が挟まれる、この後、前記上方の平板の表面全体を均等に圧縮する、これによって、前記重ね合わせた2枚の箔の間隙に形成された面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりの全体が均等に圧縮され、該重なり合ったグラフェンが摩擦圧接で接合し、該接合したグラフェンの集まりからなるグラフェン接合体が、0.1μmより薄い厚みで形成されるとともに、該グラフェン接合体の双方の表面に前記各々の箔が摩擦圧接で接合し、該グラフェン接合体の双方の表面に前記各々の箔が摩擦圧接で接合した50μmより厚みが薄い四角形のフィルムが形成される、この後、前記重ね合わせた枠体の上方の枠体の4つの枠の各々の枠の表面の中央部に、衝撃加速度を同時に加え、該重ね合わせた枠体を、前記重ね合わせた平板から引き離すとともに、該重ね合わせた枠体の間隙に挟まれた前記グラフェン接合体が形成されていない前記フィルムの周辺部を、該フィルムから破断させ、前記グラフェン接合体の双方の表面に各々の箔が摩擦圧接で接合した50μmより厚みが薄い四角形のフィルムを、前記重ね合わせた平板の間隙に形成する、この後、前記上方の平板の4つの側面のうちの1つの側面の互いに離間した複数個所に、衝撃加速度を同時に加え、さらに、前記下方の平板の4つの側面のうちの1つの側面の互いに離間した複数個所に、前記衝撃加速度と同等の衝撃加速度を同時に加え、前記フィルムを前記重ね合わせた平板の間隙から剥がし、該フィルムを取り出す第四の工程とからなり、
これら4つの工程を連続して実施することによって、グラフェン接合体の双方の表面に、金属ないしは合金からなる厚みが20μm以下の箔を、摩擦圧接で接合した厚みが50μmより薄い四角形のフィルムが形成される、該フィルムの形成方法。
【0006】
本発明は、極めて簡単な次の4つの工程からなる。
第一の工程は、容器内にグラフェンの集まりがメタノールに分散した懸濁液を作成する工程である。このため、最初に、2枚の平行平板電極対の間隙に敷き詰められた鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを、絶縁体であるメタノール中に浸漬させ、2枚の平行平板電極間に予め決めた大きさからなる直流の電位差を印加させる。これによって、電位差を2枚の平行平板電極の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりが存在する電極間隙に発生する。この電界は、前記した黒鉛粒子の全てに対し、黒鉛結晶からなる基底面の層間結合を破壊させるのに十分なクーロン力を、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子に同時に与える。これによって、π電子はπ軌道上の拘束から解放され、全てのπ電子がπ軌道から離れて自由電子となる。つまり、π電子に作用するクーロン力が、π軌道の相互作用より大きな力としてπ電子に与えられると、π電子はπ軌道の拘束から解放されて自由電子になる。この結果、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子が、π軌道上に存在しなくなり、黒鉛粒子の全てについて、黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが同時に破壊される。これによって、2枚の平行平板電極対の間隙に、基底面の集まり、すなわちグラフェンの集まりが瞬時に作成される。作成されたグラフェンは、不純物がなく、黒鉛結晶のみからなる真性な物質である。いっぽう、グラフェンは、質量を殆ど持たない極めて軽量な物質であるが、2枚の平行平板電極対がメタノール中に浸漬しているため、平行平板電極対の間隙に析出したグラフェンの集まりは飛散しない。なお、電界の印加で、鱗片状黒鉛粒子または塊状黒鉛粒子における黒鉛結晶の層間結合を同時に破壊してグラフェンの集まりを製造する技術は、本発明者による特許文献3に記載されている。
すなわち、絶縁体であるメタノール中に浸漬した2枚の平行平板電極間に、電位差を印加させると、2枚の平行平板電極の間隙に電界が発生する。なお、メタノールは比抵抗が3MΩ・cm以上で、誘電率が33の絶縁体である。また、エタノールも誘電率が24からなる絶縁体である。なお、エタノールの電気導電率は7.5×10-6S/mで、鱗片状黒鉛粒子の電気伝導度が43.9S/mである。従って、エタノールは、導電体である鱗片状黒鉛粒子に比べ、電気導電度が1.7×10倍低い絶縁体である。
なお、黒鉛粒子は、鉱物としての天然の黒鉛結晶を用い、精製した黒鉛粒子に、鱗片状黒鉛粒子、塊状黒鉛粒子(鱗状黒鉛粒子とも言う)、土状黒鉛粒子の3種類が存在する。土状黒鉛粒子は、他の2種類の黒鉛粒子に比べ、黒鉛結晶の結晶性が劣るため、土状黒鉛粒子の層間結合を破壊して得られるグラフェンの量が、他の2種類の黒鉛粒子に比べ少ない。また、鱗片状黒鉛粒子は、塊状黒鉛粒子に比べ、アスペクト比が大きい扁平状の粒子である。このため、鱗片状黒鉛粒子の層間結合を破壊すると、塊状黒鉛粒子よりアスペクト比が大きいグラフェンが得られる。いっぽう、塊状黒鉛粒子は、鱗片状黒鉛粒子に比べ、粒子が大きい。このため、塊状黒鉛粒子の層間結合を破壊することで、鱗片状黒鉛粒子より多くのグラフェンが得られる。この理由から、黒鉛粒子として、鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子を用いた。
次に、グラフェンの集まりを、2枚の平行平板電極対の間隙からメタノール中に移動させる。このため、2枚の平行平板電極対の間隙を、メタノール中で拡大させ、さらに、メタノール中で傾斜させ、この後、メタノールが充填された容器に、容器の大きさに応じて、0.2-0.3Gからなる3方向の振動加速度を順番に繰り返し加える。これによって、グラフェンの集まりが、2枚の平行平板電極対の間隙からメタノール中に移動する。この後、2枚の平行平板電極対を容器から取り出す。この結果、容器内に、グラフェンの集まりがメタノールに分散した懸濁液が作成される。
第二の工程は、メタノール中で1枚1枚に分離したグラフェンの集まりからなる懸濁液を、容器内に作成する工程である。このため、グラフェンの集まりがメタノールに分散した懸濁液中で、ホモジナイザー装置を稼働させる。つまり、メタノールを介してグラフェンの集まりに衝撃波を繰り返し加える。これによって、グラフェンが、質量を殆ど持たない極めて軽量な物質であるため、グラフェンの集まりが、メタノール中で1枚1枚のグラフェンに分離され、分離されたグラフェンの集まりがメタノールに分散する。つまり、超音波方式のホモジナイザー装置を懸濁液中で稼働させると、グラフェンの扁平面よりさらに1桁以上小さい極微細で莫大な数からなる気泡の発生と消滅とが、超音波の振動周波数の周期に応じてメタノール中で連続して繰り返され(この現象をキャビテーションという)、気泡がはじける際の衝撃波が、殆ど質量を持たないグラフェンの集まりに繰り返し加わり、グラフェンの集まりが、短時間で1枚1枚のグラフェンにメタノール中で分離する。この結果、1枚1枚のグラフェンンに分離されたグラフェンの集まりが、メタノール中に分散する。すなわち、ホモジナイザー装置によって、低粘度で低密度のメタノールに加えた衝撃波は、メタノールの分子振動に消費される割合は少なく、多くの衝撃波が殆ど質量を持たないグラフェンの集まりに加わる。重なり合ったグラフェン同士の接合力が極めて小さいため、重なり合ったグラフェンに衝撃波が加わると、メタノール中で短時間に、かつ、確実に、グラフェン同士の重なり合いが解除され、1枚1枚のグラフェンに分離される。この結果、1枚1枚のグラフェンに分離したグラフェンがメタノールで覆われた該グラフェンの集まりが、メタノール中に分散した懸濁液となる。
第三の工程は、グラフェンの集まりを、面を上にしてランダムに並ばせ、該グラフェンの集まりがメタノールに分散した懸濁液を、金属ないしは合金からなる箔の上に形成する工程である。このため、最初に、厚みが20μm以下で、四角形からなる2枚の金属ないしは合金からなる箔と、外形が箔の四角形の大きさからなり、一定の幅からなる枠を持ち、枠の内側は空間である同一形状からなる2つの枠体と、加振機とを用意する。次に、一方の枠体の枠の表面に、金属ないしは合金からなる1枚の箔を重ね合わせ、さらに、該箔の上に、もう一方の枠体を重ね合わせ、該枠体を圧縮し、重ね合わせた枠体同士の間隙に箔を挟む。さらに、第二の工程で作成した懸濁液を、2つの枠体のうちの上方の枠体の内側に、枠体の厚みの1/5以下の高さまで注入する。なお、懸濁液は、懸濁液が持つ表面張力によって、箔が密着した枠体の底部から滲み出ない。さらに、加振機を稼働させ、注入した懸濁液に、懸濁液の量に応じて、0.1-0.2Gからなる左右、前後、上下の3方向の振動加速度を順番に繰り返し加え、最後に0.1-0.2Gからなる上下方向の振動加速度を加える。つまり、メタノールで覆われ、メタノール中で1枚1枚のグラフェンに分離したグラフェンに振動加速度を加えると、質量を殆ど持たないグラフェンが振動方向に容易に移動する。いっぽう、グラフェンは、厚みが0.332nmと極めて薄く、厚みに対する面積の比率であるアスペクト比が極めて大きい。このため、グラフェンがメタノール中で振動加速度を受けると、面を上にしてメタノール中を移動するのが、グラフェンに最も負荷が加わらない。従って、グラフェンの集まりが3方向の振動加速度を繰り返し受けると、1枚1枚のグラフェンが、懸濁液中で面を上にしてランダムに並ぶ。最後に、上下方向の振動加速度を加え、1枚1枚のグラフェンが、懸濁液中で面を上にしてランダムに並んだグラフェンの集まりが、確実に形成される。この結果、グラフェンの集まりが面を上にして懸濁液中でランダムに並んだ懸濁液が、箔の上に形成される。
第四の工程は、グラフェン接合体の双方の表面に、金属ないしは合金からなる箔が、摩擦圧接で接合した厚みが50μmより薄く、四角形のフィルムを形成する工程である。このため、最初に、重ね合わせた枠体を、加振台の上から熱処理装置に移動させ、重ね合わせた枠体をメタノールの沸点に昇温する。この際、箔の表面に形成された懸濁液からメタノールが気化し、面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりが、箔の表面に形成される。さらに、2枚の箔のうちの残りの1枚の箔を、グラフェンの集まりが形成された箔の上に押し込んで重ね合わせる。これによって、2枚の箔の間隙に、面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりが形成される。この後、枠体の枠の内側の大きさからなり、枠体の厚みより厚みが厚く、同一形状からなる2枚の平板を用意する。さらに、1枚の平板の上に、重ね合わせた枠体の下方の枠体の枠の内側を挿入し、平板の上方の表面を、重ね合わせた2枚の箔の下方の箔に接触させる。もう一枚の平板を、重ね合わせた枠体の上方の枠体の枠の内側に挿入し、平板の下方の表面を、重ね合わせた2枚の箔の上方の箔に接触させる。これによって、重ね合わせた枠体同士の間隙に、重ね合わせた2枚の箔が挟まれるとともに、重ね合わせた平板同士の間隙にも、重ね合わせた2枚の箔が挟まれる。この後、上方の平板の表面全体を均等に圧縮する。これによって、2枚の箔の間隙に形成された面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりの全体が均等に圧縮され、重なり合ったグラフェンの集まりが摩擦圧接で接合し、接合したグラフェンの集まりからなる厚みが0.1μmより薄いグラフェン接合体が形成されるとともに、グラフェン接合体の双方の表面に、箔が摩擦圧接で接合し、グラフェン接合体の双方の表面に、箔が摩擦圧接で接合した厚みが50μmより薄い四角形のフィルムが形成される。この後、重ね合わせた枠体の上方の枠体の4つの枠の各々の枠の表面の中央部に、枠体の大きさと、箔の材質と厚みとに応じて、0.2-0.4Gからなる衝撃加速度を同時に加え、重ね合わせた枠体を2枚の平板から引き離すとともに、重ね合わせた枠体の間隙に挟まれたグラフェン接合体が形成されていないフィルムの周辺部を、フィルムから破断させる。これによって、グラフェン接合体の双方の表面に箔が摩擦圧接で接合した厚みが50μmより薄い四角形のフィルムが、2枚の平板の間隙に作成される。この後、上方の平板の4つの側面のうちの1つの側面の互いに離間した複数個所に、平板の大きさに応じて、0.2-0.3Gからなる衝撃加速度を同時に加え、さらに、下方の平板の4つの側面のうちの1つの側面の互いに離間した複数個所に、前記衝撃加速度と同等の衝撃加速度を同時に加え、フィルムを2枚の平板の間隙から剥がし、フィルムを取り出す。
【0007】
以上に説明した方法で作成したフィルムの作用効果を説明する。
フィルムは、厚みが0.1μmより薄いグラフェン接合体の双方の表面に、厚みが20μm以下からなる金属ないしは合金からなる箔を、摩擦圧接で接合させた複合材である。この複合材は、複合材の材料の構成と複合材の構造とが、これまでは存在しなかった。従って、これまでの複合材では実現しなかった作用効果を、フィルムが発揮する。
最初に、フィルムの材料構成とフィルムの構造から、フィルムの作用効果を説明する。
フィルムを構成する金属ないしは合金からなる箔は、材質に応じた導電性と熱伝導性とを持つ。いっぽう、フィルムを構成するグラフェン接合体は、グラフェンの性質を反映し、金属ないしは合金からなる箔より、導電性と熱伝導性とに優れる。このため、金属ないしは合金からなる各々の箔が、電子が移動する経路をフィルムに形成するとともに、グラフェン接合体も、電子が移動する経路をフィルムに形成する。従って、フィルムに、3つの電子が移動する経路が形成される。いっぽう、グラフェン接合体は、金属ないしは合金からなる箔より、導電性に優れるため、フィルムにおける導電性は、グラフェン接合体の導電性が優勢になる。また、熱伝導性についても、フィルムに、熱が伝導する3つの経路が形成される。いっぽう、グラフェン接合体は、金属ないしは合金からなる箔より、熱伝導性に優れるため、フィルムにおける熱伝導性は、グラフェン接合体の導電性が優勢になる。
また、グラフェン接合体の双方の表面に、金属ないしは合金からなる各々の箔が摩擦圧接で接合したため、フィルムの厚みは50μmより薄いが、フィルムの機械的強度は、グラフェン接合体の性質が反映され、金属ないしは合金からなる箔の機械的強度より著しく高くなる。従って、外観は金属ないしは合金からなる厚みが薄い箔であるが、フィルムの機械的強度を活かして、構造部材として用いることができる。
次に、グラフェン接合体の固有の性質と、金属ないしは合金からなる箔の固有の性質に基づいて、フィルムの作用効果を説明する。
第一に、金属ないしは合金からなる箔より熱伝導性に優れるグラフェン接合体の熱伝導性が、フィルムに反映される。すなわち、グラフェンの熱伝導率は1880W/(m・K)で、金属の中で最も熱伝導率が高い銀の熱伝導率の4.5倍に相当する熱伝導率を持つ。また、グラフェンの厚みが0.332nmと極めて薄いため、グラフェンの厚み方向の熱伝導率は極めて小さく、面方向に熱が優先して伝わるため、面方向の熱伝導率は高い。従って、全てのグラフェンが面同士で接合したグラフェン接合体は、グラフェンに近い熱伝導率を持つ。いっぽう、金属ないしは合金からなる箔も熱伝導性である。このため、本発明のフィルムにおける熱が伝導する経路は、金属ないしは合金からなる各々の箔において熱が伝導する2つの経路と、グラフェン接合体において熱が伝導する経路とからなる3つの経路が形成され、フィルムにおいては、3つの経路が熱の伝導する経路として同時に作用する。いっぽう、グラフェン接合体の熱伝導率は、金属ないしは合金からなる箔の熱伝導率より高いため、フィルムにおける熱の伝導は、グラフェン接合体における熱の伝導が優勢になる。このため、本発明のフィルムは金属ないしは合金からなる箔より優れた熱伝導率を持つ。例えば、銅箔を用いて、本発明のフィルムを形成すると、フィルムは、銀より優れた熱伝導率を持つ。これによって、銀箔より安価な銅箔を用いて、銀より優れた熱伝導率を持つフィルムが形成できる作用効果がもたらされる。また、銅箔より熱伝導率が劣るが、銅箔より密度が小さいアルミニウム箔を用いて、本発明のフィルムを形成すると、フィルムは、銅より優れた熱伝導率を持つ。これによって、銅箔より軽量なアルミニウム箔を用いて、銅箔より優れた熱伝導率を持つフィルムが形成できる作用効果をもたらす。なお、銅箔は2μmの厚みからなる箔が、アルミニウム箔は7μmの厚みからなる箔が、銀箔は5μmの厚みからなる箔が市販品の在庫としてある。
第二に、金属ないしは合金からなる箔より導電性に優れるグラフェン接合体の導電性が、フィルムに反映される。すなわち、グラフェンの体積固有抵抗率は1.3μΩcmで、金属の中で最も体積固有抵抗率が低い銀の体積固有抵抗率である1.6μΩcmよりさらに低い。また、グラフェンの導電率は7.5×10S/mで、金属の中で最も導電率が高い銀の導電率は6.1×10S/mである。いっぽう、グラフェンの厚みが0.332nmと極めて薄いため、グラフェンの厚み方向の導電率は極めて小さく、面方向に電子が優先して移動するため、面方向の導電率は高い。従って、全てのグラフェンが面同士で接合したグラフェン接合体は、グラフェンに近い導電率を持つ。いっぽう、金属ないしは合金からなる箔も導電性である。このため、本発明のフィルムにおける電子が移動する経路は、金属ないしは合金からなる各々の箔において電子が移動する2つの経路と、銀に近い導電率を有するグラフェン接合体において電子が移動する経路とからなる3つの経路が形成され、フィルムにおいて、3つの経路が電子の移動する経路として同時に作用する。いっぽう、グラフェン接合体の導電率は、金属ないしは合金からなる箔の導電率より高いため、フィルムにおける電子の移動は、グラフェン接合体における電子の移動が優勢になる。このため、本発明のフィルムは、箔を構成する金属ないしは合金の導電率より優れた導電率を持つ。例えば、銅箔を用いて、本発明のフィルムを形成すると、フィルムは、銀に近い導電率を持つ。これによって、銀箔より安価な銅箔を用いて、銀に近い導電率を持つフィルムが形成できる作用効果がもたらされる。また、銅箔より導電率が劣るが、銅箔より密度が小さいアルミニウム箔を用いて、本発明のフィルムを形成すると、フィルムは、銅より優れた導電率を持つ。これによって、銅箔より軽量なアルミニウム箔を用いて、銅箔より優れた導電率を持つフィルムが形成できる作用効果をもたらす。なお、銅箔は2μmの厚みからなる箔が、アルミニウム箔は7μmの厚みからなる箔が、銀箔は5μmの厚みからなる箔が市販品の在庫としてある。
第三に、極めて強靭なグラフェンの性質が、フィルムに反映される。すなわち、グラフェンは、破断強度が42N/mであり、鋼の100倍を超える強度を持ち、ヤング率が1020GPaと極めて大きい強靭な素材である。従って、全てのグラフェンが、面同士で摩擦圧接によって接合したグラフェン接合体に、グラフェンの面の性質が反映され、グラフェン接合体はグラフェンに近い強度を持つ。従って、重なり合ったグラフェン同士を摩擦圧接で接合する際に、グラフェンは破壊しない。いっぽう、厚みが20μm以下からなる金属ないしは合金からなる箔の表面の全体が、グラフェン接合体に摩擦圧接で接合するため、箔がグラフェン接合体で補強され、外観は金属ないしは合金の光沢を発する厚みが薄いフィルムであるが、箔より著しく大きな衝撃強度を持ち、また、箔より著しく大きな曲げ強度を持つ作用効果をもたらす。このため、本発明のフィルムは厚みが50μmより薄いが、高強度の構造体の部品として用いることができる。
第四に、本発明のフィルムの双方の表面は金属ないしは合金からなる箔である。このため、フィルムの表面は、金属ないしは合金の性質を発揮する。例えば、金属ないしは合金からなる箔が強磁性体であれば、フィルムの表面は強磁性の性質を発揮する作用効果をもたらす。
第五に、金属ないしは合金からなる箔とグラフェン接合体との接合強度が大きい。すなわち、重なり合ったグラフェン同士が、強固に摩擦圧接で接合するとともに、グラフェン接合体の双方の表面に、金属ないしは合金からなる箔が、強固に摩擦圧接で接合する。このため、フィルの大きさは制約を受けず、一定の面積を持つ箔と、同じ面積を持つグラフェン接合体からなるフィルムが形成できる。つまり、重なり合ったグラフェン同士が摩擦圧接する際に、重なり合ったグラフェンの面は、グラフェンの厚みに相当する0.332nmの段差しかない。このため、鏡面仕上げより平坦度が高い平面同士が摩擦圧接で接合する際に、重なり合ったグラフェンの面に極めて短い時間であるが、高温の摩擦熱が発生する。この際、重なり合ったグラフェンの面に存在する不純物が瞬間的に気化し、重なり合ったグラフェンの面が清浄化される。清浄化したグラフェンの面同士が摩擦圧接で接合するため、グラフェン同士の接合力は大きい。このため、グラフェン接合体に、圧縮応力や曲げ応力が加わっても、グラフェン接合体は破壊せず、グラフェンに近い機械的強度を持つ。また、金属ないしは合金からなる箔が形成される際に、ミクロンサイズの高さからなるうねりが表面に形成され、箔の表面は平坦でない。従って、金属ないしは合金からなる箔の表面全体が均等に圧縮されると、箔の表面に形成されたうねりの凸部が、平坦度に優れたグラフェンと接触する。さらに、圧縮応力が加わると、うねりの凸部に、極めて短い時間であるが、高温の摩擦熱が発生する。この際、凸部に存在する不純物が瞬間的に気化し、凸部が清浄化される。清浄化した数多くの凸部が、摩擦圧接でグラフェンの集まりに接合するため、金属ないしは合金からなる箔の表面とグラフェンとの接合力は大きい。このため、フィルムに衝撃力や曲げ応力が加わっても、金属ないしは合金からなる箔は、グラフェン接合体から剥がれない。従って、本発明のフィルムは、厚みが50μmより薄い金属ないしは合金の光沢を放つフィルムであるが、グラフェン接合体の性質が反映され、金属ないしは合金からなる箔より機械的強度が著しく大きく、金属ないしは合金からなる厚みが薄い板状体が、従来使用できなかった用途に使用できる作用効果をもたらす。
第六に、厚みが0.1μmより薄いグラフェン接合体の双方の表面に、厚みが20μm以下からなる金属ないしは合金からなる箔を、摩擦圧接で接合するため、フィルムの重量と厚みは、2枚の箔の重量と厚みと殆ど変わらない。いっぽう、フィルムはグラフェン接合体に近い機械的強度を持つ。このため、本発明のフィルムは、厚みが50μmより薄い金属ないしは合金の光沢を放つフィルムが、従来使用できなかった用途に使用できる作用効果をもたらす。
第七に、厚みが0.1μmより薄いグラフェン接合体の双方の表面に、厚みが20μm以下からなる金属ないしは合金からなる箔を、摩擦圧接で接合するため、箔は衝撃によって破壊されず、また、曲げ応力でも破壊されない。つまり、金属ないしは合金からなる箔の厚みが薄いほど、厚みに対する表面積のアスペクト比が大きくなり、アスペクト比が大きい程、箔とグラフェン接合体との接合力が増大する。このため、箔の厚みが20μm以下と薄くても、フィルムに衝撃が加わった際に、衝撃が箔を介して、グラフェン接合体に伝わり、箔は破壊されない作用効果をもたらす。また、形成されたフィルムに曲げ応力が加わった際に、曲げ応力が箔を介して、グラフェン接合体に伝わり、箔は破壊されない作用効果をもたらす。従って、外観は金属ないしは合金の光沢を発するが、従来使用できなかった用途に使用できる。
第八に、厚みが0.1μmより薄いグラフェン接合体の双方の表面に、厚みが薄い金属ないしは合金からなる箔を、摩擦圧接で接合するため、箔の材質に関わらず、箔をグラフェン接合体に摩擦圧接で接合きる。これによって、本発明のフィルムの表面は、様々な金属ないしは合金の光沢を発するとともに、様々な金属ないしは合金の性質が発揮される作用効果をもたらす。
第九に、フィルムを形成する前記した4つの工程は、いずれも極めて簡単な処理からなる。また、用いる原料はいずれも汎用的な原料である。すなわち、黒鉛粒子は汎用的な工業用素材で、また、メタノールは最も汎用的なアルコールである。さらに、金属ないしは合金からなる箔は、汎用的な工業用基材である。従って、本発明のフィルムは、画期的な様々な作用効果をもたらすが、安価に製造できる。
以上に説明したように、本発明のフィルムは、構成と構造とが従来のフィルムと異なる。このため、従来の金属ないしは合金からなる箔や合成樹脂のフィルムとは全く異なり、箔とグラフェン接合体とが持つ固有の作用効果が相乗効果としてフィルムに発揮される。これによって、4段落に記載した全ての課題が解決される。
【0008】
5段落に記載したフィルムを形成する方法が、強磁性の性質を有するフィルムを形成する方法であり、該強磁性の性質を有するフィルムを形成する方法は、
5段落に記載した金属ないしは合金からなる箔が、ニッケルないしは鉄からなる箔であり、該箔を5段落に記載した金属ないしは合金からなる箔として用い、5段落に記載したフィルムを形成する方法に従って強磁性の性質を有するフィルムを形成する、強磁性の性質を有するフィルムを形成する方法。
【0009】
つまり、強磁性元素であるニッケルないしは鉄からなる箔は、強磁性の性質を有する。このため、ニッケルないしは鉄からなる箔を用いて、本発明のフィルムを形成すると、フィルムは、強磁性の性質を有する。従って、50μm以下の厚みからなる軽量なフィルムは、強磁性の部品や基材に磁気吸着し、部品や基材に、ニッケルないしは鉄より高い熱伝導性と高い導電性とを同時に付与する作用効果をもたらす。このため、本発明のフィルムは、強磁性の部品や基材に、熱伝導性と導電性とを同時に付与する簡便な手段として有効である。また、ニッケルの磁気キュリー温度は627℃で、鉄の磁気キュリー温度は1043℃である。従って、フィルムは磁気キュリー温度に近い温度まで、強磁性の部品や基材に磁気吸着する。なお、ニッケル箔は2μmの厚みからなる箔が、鉄の箔は10μmの厚みからなる箔が市販品の在庫としてある。
【0010】
5段落に記載したフィルムを形成する方法が、磁気シールドの機能を有するフィルムを形成する方法であり、該磁気シールドの機能を有するフィルムを形成する方法は、
5段落に記載した金属ないしは合金からなる箔が、PCパーマロイからなる箔であり、該箔を5段落に記載した金属ないしは合金からなる箔として用い、5段落に記載したフィルムを形成する方法に従って磁気シールドの機能を有するフィルムを形成する、磁気シールドの機能を有するフィルムを形成する方法。
【0011】
つまり、PCパーマロイは、最大比透磁率が2×10と極めて大きい。このため、PCパーマロイからなる箔は、磁気シールドの機能を有する。従って、PCパーマロイからなる箔を用いて、本発明のフィルムを形成すると、フィルムは磁気シールドの機能を有する。なお、PCパーマロイのヤング率は205GPaである。いっぽう、グラフェンは、破断強度が42N/mであり、鋼の100倍を超える強度を持ち、ヤング率が1020GPaと極めて大きい強靭な素材である。従って、全てのグラフェンが、面同士で摩擦圧接によって接合したグラフェン接合体は、グラフェンの面の性質が反映され、グラフェンに近い強度を持つ。このため、PCパーマロイの箔をグラフェン接合体の双方の表面に接合したフィルムは、PCパーマロイよりさらに剛性が高く変形しにくい。また、フィルムは、50μm以下の厚みからなる軽量なフィルムであるが、グラフェン接合体に近い機械的強度を持つ。このため、本発明のフィルムは、従来の軟磁性金属の板材より厚みと重量とが1桁以上少ないが、従来の軟磁性金属のシートより著しく機械的強度が高い作用効果をもたらす。従って、本発明のフィルムは、磁気シールドルーム、磁気シールドチャンバーないしは磁気シールドケースを構成する厚みが薄いが、高強度の板状の構造部材として用いることができる。また、PCパーマロイの体積抵抗率は、60×10-8Ωmであり、ニッケルより1桁体積抵抗率が大きい。さらに、PCパーマロイの熱伝導率は、33W/m・Kで、多くの金属の熱伝導率より引き。いっぽう、7段落に記載したように、フィルムにおける電子の移動は、グラフェン接合体における電子の移動が優勢になり、また、フィルムにおける熱の伝導は、グラフェン接合体における熱の伝導が優勢になるため、フィルムは、磁気シールドの機能とともに、PCパーマロイより高い導電性と高い熱伝導性をもたらす作用効果を発揮する。また、PCパーマロイからなる箔は、20μmの厚みから箔が市販品の在庫としてある。
【0012】
5段落に記載したフィルムを形成する方法が、500℃以下の温度環境下で使用できるフィルムを形成する方法であり、該500℃以下の温度環境下で使用できるフィルムを形成する方法は、
5段落に記載した金属ないしは合金からなる箔が、モリブデンからなる箔であり、該箔を5段落に記載した金属ないしは合金からなる箔として用い、5段落に記載したフィルムを形成する方法に従って、500℃以下の温度環境下で使用できるフィルムを形成する、500℃以下の温度環境下で使用できるフィルムを形成する方法。
【0013】
つまり、モリブデンは、融点が2620℃で、沸点が4804℃であり、高い融点と高い沸点を持つ金属である。また、熱膨張係数が5.2×10-6/℃であり、他の金属や合金に比べ著しく小さい。いっぽう、グラフェンの厚み方向の熱膨張率は、(0.5-1.0)×10-6/℃であり、面方向の熱膨張率は、(4-6)×10-6/℃である(株式会社エス・アイ・シーの製品グラフェンパウダー)。従って、モリブデンの熱膨張率は、グラフェン接合体の熱膨張係数に近い。このため、モリブデンの箔をグラフェン接合体の双方の表面に接合したフィルムは、高温において形状安定性に優れるとともに、高温に晒された際に発生する熱応力が小さい。
さらに、モリブデンのヤング率が327GPaで、他の金属や合金に比べ大きく、剛性が高く変形しにくい金属である。いっぽう、グラフェンは、破断強度が42N/mであり、鋼の100倍を超える強度を持ち、ヤング率が1020GPaと極めて大きい強靭な素材である。従って、全てのグラフェンが、面同士で摩擦圧接によって接合したグラフェン接合体は、グラフェンの面の性質が反映され、グラフェンに近い強度を持つ。また、融点が3000℃を超える単結晶材料で、耐熱性が極めて高い材料である。このため、モリブデンの箔をグラフェン接合体の双方の表面に接合したフィルムは、モリブデンよりさらに剛性が高く変形しにくい。さらに、モリブデンの引張強度は784MPaで、他の金属や合金に比べ強度が高い。このため、モリブデンの箔をグラフェン接合体に接合したフィルムは、モリブデンよりさらに引張強度が高い。
従って、本発明のフィルムは、高温環境下で、機械的強度に優れ、また、高温において形状安定性に優れる。
なお、モリブデンの体積抵抗率は、300Kで5.7×10-8Ωmであり、ニッケルの6.84×10-8Ωmの体積抵抗率に近い。また、モリブデンの熱伝導率は、20℃で142W/m・Kであり、アルミニウムの204W/m・Kの熱伝導率に近い。このため、導電性と熱伝導性に優れた金属である。従って、モリブデンの箔をグラフェン接合体の双方の表面に接合したフィルムは、導電性と熱伝導性がモリブデンより優れる。
しかしながら、モリブデンは、大気雰囲気では500℃以上の温度で、酸化モリブデンMoOとなる酸化反応が進む。このため、大気雰囲気では500℃以下の温度環境で、フィルムを使用する。
フィルムは、50μm以下の厚みからなる軽量なフィルムである。このため、本発明のフィルムは、耐熱性に優れた従来の特殊合金の板材より1桁以上厚みと重量とが少ないが、従来の特殊合金より高温での機械的強度が高く、高温において形状安定性に優れる作用効果をもたらす。従って、自動車、航空機、発電機において、500℃以下の大気雰囲気の温度環境下で様々な応力を受ける部品の構造部材として用いることができる。また、モリブデンからなる箔は、10μmの厚みからなる箔が市販品の在庫としてある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】500nmの厚みのグラフェン接合体の双方の表面に、2μmの厚みの銅箔を接合したフィルムの側面を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施例1
本実施例は、5段落に記載した方法に従って、メタノール中で1枚1枚に分離したグラフェンの集まりからなる懸濁液を容器内に作成する。
最初に、5リットルのメタノールを、2.2m×2.2mの底面をもち、底が浅い容器に充填した。
次に、2枚の平行平板電極の間隙に電界が発生する電極の有効面積が、2m×2mである平行平板電極を用意し、2枚の平行平板電極を100μmの間隙で重ね合わせ、この間隙に黒鉛粒子を満遍なく敷き詰め、メタノール中に析出させる。なお、黒鉛粒子を粒径が25μmの球と仮定し、2枚の平行平板電極で作られる100μmの間隙に、黒鉛粒子を満遍なく敷き詰めた場合、2.6×10個の黒鉛粒子が存在する。この黒鉛粒子の集まりに、10.6キロボルト以上の直流電圧を印加すると、全ての黒鉛粒子の基底面の層間結合が同時に破壊される。この際、7.6×1013個のグラフェンの集まりが得られ、用いる黒鉛粒子の集まりは、僅かに4.72gである。
電界が発生する電極の有効面積が2m×2mである平行平板電極の表面に、鱗片状黒鉛粒子(例えば、伊藤黒鉛工業株式会社のXD100)の50gを重ねて敷き詰めた。この平行平板電極を、メタノールが充填された容器に浸漬し、さらに、もう一方の平行平板電極を前記の平行平板電極の上に重ね合わせ、2枚の平行平板電極を100μmの間隙で離間させ、12キロボルトの直流電圧を電極間に加えた。次に、2枚の平行平板電極の間隙を拡大し、さらに、2枚の平行平板電極をメタノール中で傾斜させ、0.2Gからなる3方向の振動加速度を容器に繰り返し加え、この後、容器から2枚の平行平板電極を取り出した。さらに、容器内のメタノールに、超音波ホモジナイザー装置(ヤマト科学株式会社の製品LUH300)によって20kHzの超音波振動を2分間加えた。この後、超音波ホモジナイザー装置を、容器から取り出した。この後、容器内にあるメタノール中に分散したグラフェンの集まりを撹拌し、メタノール中で1枚1枚に分離したグラフェンの集まりからなる懸濁液を作成した。
次に、作成した試料の一部を取り出し、電子顕微鏡を用いて、試料の観察と分析を行なった。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は、100ボルトからの極低加速電圧による表面観察が可能で、試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料の表面が観察できる特徴を持つ。
試料の表面からの反射電子線の900-1000ボルトの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。メタノール中に分散した物質は、厚みが極めて薄い扁平な物質であることが確認できた。さらに、特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理した結果、炭素原子のみ存在した。このため、物質は、グラフェンであることが確認できた。
これによって、2枚の平行平板電極の間隙に、鱗片状黒鉛粒子の集まりを敷き詰め、電極間に直流の電位差を与え、この電位差を2枚の平行平板電極対の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、鱗片状黒鉛粒子の集まりが存在する電極間隙に発生し、この電界によって、全ての黒鉛粒子に対し、黒鉛結晶からなる基底面の層間結合を破壊させるのに十分なクーロン力を、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子に同時に与えられ、この結果、黒鉛結晶の層間結合の全てが同時に破壊され、黒鉛結晶からなる基底面、すなわち、グラフェンの集まりが製造できることが確認された。
【0016】
実施例2
本実施例は、5段落に記載した方法に従って、グラフェン接合体の双方の表面に、銅箔を摩擦圧接で接合したフィルムを形成する。
最初に、厚みが2μmで、幅が100mmで、長さが100mmの銅箔(竹内金属箔粉工業株式会社の製品C1020R-H)を2枚用意した。次に、加振機を用意した。さらに、外側の形状が10cm×10cmで、枠体の幅が1cmで、厚みが2cmからなる枠体を2個用意した。
次に、一方の枠体の枠の表面に銅箔を重ね合わせ、さらに、銅箔の上に、もう一方の枠体を重ね合わせ、該枠体を圧縮して、重ね合わせた枠体の間隙に銅箔を挟んだ。さらに、実施例1で作成した懸濁液を、2つの枠体のうちの上方の枠体の内側に、枠体の3mmの高さまで注入した。この後、重ね合わせた枠体を、加振機の加振台の上に載せ、加振機を稼働させ、注入した懸濁液に、0.2Gからなる左右、前後、上下の3方向の振動加速度を順番に3回繰り返し懸濁液に加え、最後に0.2Gからなる上下方向の振動加速度を懸濁液に加えた。
さらに、重ね合わせた枠体を、加振台の上から熱処理装置に移動させ、重ね合わせた枠体を65℃に昇温し、銅箔の上に形成された懸濁液からメタノールを気化させ、面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりを銅箔の表面に形成した。この後、もう一枚の銅箔を、グラフェンの集まりが表面に形成された箔の上に押し込んで銅箔同士を重ね合わせ、重ね合わせた2枚の銅箔の間隙に、面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりを形成した。さらに、8cm×8cm×3cm(厚み)からなる2枚の平板を用意した。この後、1枚の平板の上に、重ね合わせた枠体の下方の枠体の枠の内側を挿入し、平板の上方の表面を重ね合わせた2枚の銅箔の下方の銅箔の表面に接触させた。さらに、もう一枚の平板を、重ね合わせた枠体の上方の枠体の枠の内側に挿入し、平板を重ね合わせた2枚の銅箔の上方の銅箔の表面に接触させた。
この後、上方の平板の表面の角部を結ぶ対角線上に、等間隔で離間した5箇所と、対角線上の角部に最も近い2箇所の中央部に相当する4個所とからなる合計9箇所に、直径が2cmで、厚みが2cmの円柱を配置させ、9個の円柱に、40kg重に相当する圧縮荷重を同時に加え、フィルムを作成した。さらに、重ね合わせた枠体の上方の枠体の4つの枠の各々の枠の表面の中央部に、0.2Gからなる衝撃加速度を同時に加え、重ね合わせた枠体を2枚の平板から引き離すとともに、重ね合わせた枠体の間隙に挟まれたフィルムの周辺部を、フィルムから破断させ、平板の外形形状である8cm×8cmからなるフィルムを、2枚の平板の間隙に作成した。
さらに、上方の平板の4つの側面のうちの1つの側面の互いに離間した3個所に、0.2Gからなる衝撃加速度を同時に加え、さらに、下方の平板の4つの側面のうちの1つの側面の互いに離間した3個所に、0.2Gからなる衝撃加速度を同時に加え、フィルムを2枚の平板の間隙から剥がした。
作成したフィルムの側面を、実施例1で用いた電子顕微鏡で観察した結果、2枚の銅箔の間隙に、厚みが500nmからなるグラフェン接合体が形成されていた。図1に、フィルムの側面の一部を拡大して模式的に示す。1は銅箔で、2はグラフェン接合体である。
最初に、フィルムの表面の表面抵抗を表面抵抗計によって測定した(シムコジャパン株式会社の表面抵抗計ST-4)。表面抵抗値は1×10Ω/□未満であったため、フィルムは銅に近い表面抵抗を有した。
次に、フィルムの熱伝導率を測定した。フィルムの熱伝導率の測定は、非定常法の一種である周期加熱法に基づく周期加熱法拡散率測定装置(アドバンス理工社製FTC-1)を用いた。フィルムの20℃における熱伝導率は、550±20W/(m・K)であった。銀より優れた熱伝導率を持った。
さらに、フィルムの衝撃強度を、落下衝撃から測定した。フィルムを2mの高さから繰り返し3回自然落下させたが、フィルムの変化は認められなかった。さらに、4mの高さからフィルムを繰り返し3回自然落下させたが、フィルムの変化は認められなかった。このため、フィルムは優れた衝撃強度を持つ。
次に、インストロン万能試験機を用いて、3点曲げ試験によって、フィルムの屈折強度を測定した。7.8×10MPaの強度を持った。また、熱間圧延鋼板は、曲げ強度が980MPaの鋼板が市販されている。従って、フィルムは熱間圧延鋼板の80倍に近い曲げ強度を持つ。なお、銅のヤング率は117GPaで、グラフェンのヤング率は1020GPaである。
【0017】
実施例3
本実施例は、5段落に記載した方法に従って、グラフェン接合体の双方の表面に、ニッケル箔を摩擦圧接で接合したフィルムを形成する。
最初に、厚みが5μmで、幅が110mmで、長さが110mmのニッケル箔(竹内金属箔粉工業株式会社の製品Ni-H)を2枚用意した。さらに、外側の形状が11cm×11cmで、枠体の幅が1cmで、厚みが2cmからなる枠体を2個用意した。加振機は、実施例2で用いた加振機を使用した。
次に、一方の枠体の枠の表面にニッケル箔を重ね合わせ、さらに、ニッケル箔の上に、もう一方の枠体を重ね合わせ、該枠体を圧縮して、重ね合わせた枠体の間隙にニッケル箔を挟んだ。さらに、実施例1で作成した懸濁液を、2つの枠体のうちの上方の枠体の内側に、枠体の3mmの高さまで注入した。この後、重ね合わせた枠体を、加振機の加振台の上に載せ、加振機を稼働させ、注入した懸濁液に、0.2Gからなる左右、前後、上下の3方向の振動加速度を順番に3回繰り返し懸濁液に加え、最後に0.2Gからなる上下方向の振動加速度を懸濁液に加えた。
さらに、重ね合わせた枠体を、加振台の上から熱処理装置に移動させ、重ね合わせた枠体を65℃に昇温し、ニッケル箔の上に形成された懸濁液からメタノールを気化させ、面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりをニッケル箔の表面に形成した。この後、もう一枚のニッケル箔を、グラフェンの集まりが表面に形成されたニッケル箔の上に押し込んでニッケル箔同士を重ね合わせ、重ね合わせた2枚のニッケル箔の間隙に、面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりを形成した。さらに、9cm×9cm×3cm(厚み)からなる2枚の平板を用意した。この後、1枚の平板の上に、重ね合わせた枠体の下方の枠体の枠の内側を挿入し、平板の上方の表面を重ね合わせた2枚のニッケル箔の下方のニッケル箔の表面に接触させた。さらに、もう一枚の平板を、重ね合わせた枠体の上方の枠体の枠の内側に挿入し、平板を重ね合わせた2枚のニッケル箔の上方のニッケル箔の表面に接触させた。
この後、上方の平板の表面の角部を結ぶ対角線上に、等間隔で離間した5箇所と、対角線上の角部に最も近い2箇所の中央部に相当する4個所とからなる合計9箇所に、直径が2cmで、厚みが2cmの円柱を配置させ、9個の円柱に、50kg重に相当する圧縮荷重を同時に加え、フィルムを作成した。さらに、重ね合わせた枠体の上方の枠体の4つの枠の各々の枠の表面の中央部に、0.3Gからなる衝撃加速度を同時に加え、重ね合わせた枠体を2枚の平板から引き離すとともに、重ね合わせた枠体の間隙に挟まれたフィルムの周辺部を、フィルムから破断させ、平板の外形形状である9cm×9cmからなるフィルムを、2枚の平板の間隙に作成した。
さらに、上方の平板の4つの側面のうちの1つの側面の互いに離間した3個所に、0.2Gからなる衝撃加速度を同時に加え、さらに、下方の平板の4つの側面のうちの1つの側面の互いに離間した3個所に、0.2Gからなる衝撃加速度を同時に加え、フィルムを2枚の平板の間隙から剥がした。
作成したフィルムの側面を、実施例1で用いた電子顕微鏡で観察した結果、2枚のニッケル箔の間隙に、厚みが395nmからなるグラフェン接合体が形成されていた。
最初に、フィルムの表面の表面抵抗を、実施例2で用いた表面抵抗計によって測定した。表面抵抗値は1×10Ω/□に近い値であったため、フィルムはニッケルに近い表面抵抗を有した。
次に、フィルムの熱伝導率を測定した。フィルムの熱伝導率は、実施例2で用いた周期加熱法拡散率測定装置を用いて行った。フィルムの20℃における熱伝導率は、165±20W/(m・K)であった。アルミニウムの熱伝導率に近い熱伝導率を持った。なお、ニッケルの熱伝導率は90W/(m・K)で、アルミニウムの熱伝導率は204W/(m・K)である。
さらに、フィルムを永久磁石の上に置いた際に、フィルムが永久磁石に磁気吸着した。
次に、フィルムの衝撃強度を、落下衝撃から測定した。フィルムを2mの高さから繰り返し3回自然落下させたが、フィルムの変化は認められなかった。さらに、4mの高さからフィルムを繰り返し3回自然落下させたが、フィルムの変化は認められなかった。このため、フィルムは優れた衝撃強度を持つ。
さらに、実施例2で用いたインストロン万能試験機を用いて、3点曲げ試験によって、フィルムの屈折強度を測定した。5.9×10MPaの強度を持った。なお、熱間圧延鋼板として、曲げ強度が980MPaの鋼板が市販されている。従って、フィルムは熱間圧延鋼板の60倍に近い曲げ強度を持った。なお、ニッケルのヤング率は204GPaで、グラフェンのヤング率は1020GPaである。
【0018】
実施例4
本実施例は、5段落に記載した方法に従って、グラフェン接合体の双方の表面に、PCパーマロイの箔を摩擦圧接で接合したフィルムを形成する。
最初に、厚みが20μmで、幅が120mmで、長さが120mmのPCパーマロイ箔(竹内金属箔粉工業株式会社の製品PC-H)を用意した。さらに、外側の形状が12cm×12cmで、枠体の幅が1cmで、厚みが2cmからなる枠体を2個用意した。加振機は、実施例2で用いた加振機を使用した。
次に、一方の枠体の枠の表面にPCパーマロイ箔を重ね合わせ、さらに、PCパーマロイ箔の上に、もう一方の枠体を重ね合わせ、該枠体を圧縮して、重ね合わせた枠体の間隙にPCパーマロイ箔を挟んだ。さらに、実施例1で作成した懸濁液を、2つの枠体のうちの上方の枠体の内側に、枠体の3mmの高さまで注入した。この後、重ね合わせた枠体を、加振機の加振台の上に載せ、加振機を稼働させ、注入した懸濁液に、0.2Gからなる左右、前後、上下の3方向の振動加速度を順番に3回繰り返し懸濁液に加え、最後に0.2Gからなる上下方向の振動加速度を懸濁液に加えた。
さらに、重ね合わせた枠体を、加振台の上から熱処理装置に移動させ、重ね合わせた枠体を65℃に昇温し、PCパーマロイ箔の上に形成された懸濁液からメタノールを気化させ、面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりをPCパーマロイ箔の表面に形成した。この後、もう一枚のPCパーマロイ箔を、グラフェンの集まりが表面に形成されたPCパーマロイ箔の上に押し込んでPCパーマロイ箔同士を重ね合わせ、重ね合わせた2枚のPCパーマロイ箔の間隙に、面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりを形成した。さらに、10cm×10cm×3cm(厚み)からなる2枚の平板を用意した。この後、1枚の平板の上に、重ね合わせた枠体の下方の枠体の枠の内側を挿入し、平板の上方の表面を、重ね合わせた2枚のPCパーマロイ箔の下方のPCパーマロイ箔の表面に接触させた。さらに、もう一枚の平板を、重ね合わせた枠体の上方の枠体の枠の内側に挿入し、平板の下方の表面を、重ね合わせた2枚のPCパーマロイ箔の上方のPCパーマロイ箔の表面に接触させた。
この後、上方の平板の表面の角部を結ぶ対角線上に、等間隔で離間した5箇所と、対角線上の角部に最も近い2箇所の中央部に相当する4個所とからなる合計9箇所に、直径が2cmで、厚みが2cmの円柱を配置させ、9個の円柱に、50kg重に相当する圧縮荷重を同時に加え、フィルムを作成した。さらに、重ね合わせた枠体の上方の枠体の4つの枠の各々の枠の表面の中央部に、0.3Gからなる衝撃加速度を同時に加え、重ね合わせた枠体を2枚の平板から引き離すとともに、重ね合わせた枠体の間隙に挟まれたフィルムの周辺部を、フィルムから破断させ、平板の外形形状である9cm×9cmからなるフィルムを、2枚の平板の間隙に作成した。
さらに、上方の平板の4つの側面のうちの1つの側面の互いに離間した3個所に、0.2Gからなる衝撃加速度を同時に加え、さらに、下方の平板の4つの側面のうちの1つの側面の互いに離間した3個所に、0.2Gからなる衝撃加速度を同時に加え、フィルムを2枚の平板の間隙から剥がした。
作成したフィルムの側面を、実施例1で用いた電子顕微鏡で観察した結果、2枚のPCパーマロイ箔の間隙に、厚みが320nmからなるグラフェン接合体が形成されていた。
最初に、フィルムの表面の表面抵抗を、実施例2で用いた表面抵抗計によって測定した。表面抵抗値は1×10Ω/□に近い値であったため、フィルムはPCパーマロイに近い表面抵抗を有する。
次に、フィルムの熱伝導率を測定した。フィルムの熱伝導率は、実施例2で用いた周期加熱法拡散率測定装置を用いて行った。フィルムの20℃における熱伝導率は、50±10W/(m・K)であった。黄銅(赤)の熱伝導率に近い熱伝導率を持った。なお、PCパーマロイの熱伝導率は33W/(m・K)で、黄銅の熱伝導率は60W/(m・K)である。
さらに、フィルムの表面の透磁率を、MSLプローブを用いて測定した。初透磁率は5×10で、最大透磁率は1.5×10であった。PCパーマロイに近い値であった。
次に、フィルムの衝撃強度を、落下衝撃から測定した。フィルムを2mの高さから繰り返し3回自然落下させたが、フィルムの変化は認められなかった。さらに、4mの高さからフィルムを繰り返し3回自然落下させたが、フィルムの変化は認められなかった。このため、フィルムは優れた衝撃強度を持つ。
さらに、実施例2で用いたインストロン万能試験機を用いて、3点曲げ試験によって、フィルムの屈折強度を測定した。3.9×10MPaの強度を持った。なお、熱間圧延鋼板は、曲げ強度が780MPaと980MPaの鋼板が市販されている。従って、フィルムは熱間圧延鋼板の40倍に近い曲げ強度を持つ。なお、PCパーマロイのヤング率は205GPaで、グラフェンのヤング率は1020GPaである。
【0019】
実施例5
本実施例は、5段落に記載した方法に従って、モリブデン箔とグラフェン接合体とからなるフィルムを形成する。
最初に、厚みが10μmで、幅が110mmで、長さが110mmのモリブデン箔(竹内金属箔粉工業株式会社の製品Mo-H)を用意した。さらに、外側の形状が11cm×11cmで、枠体の幅が1cmで、厚みが2cmからなる枠体を2個用意した。加振機は、実施例2で用いた加振機を使用した。
次に、一方の枠体の枠の表面にモリブデン箔を重ね合わせ、さらに、モリブデン箔の上に、もう一方の枠体を押し込んで重ね合わせ、該枠体を圧縮して、モリブデン箔を重ね合わせた枠体の間隙で挟んだ。さらに、実施例1で作成した懸濁液を、2つの枠体のうちの上方の枠体の内側に、枠体の3mmの高さまで注入した。この後、重ね合わせた枠体を、加振機の加振台の上に載せ、加振機を稼働させ、注入した懸濁液に、0.2Gからなる左右、前後、上下の3方向の振動加速度を順番に3回繰り返し懸濁液に加え、最後に0.2Gからなる上下方向の振動加速度を懸濁液に加えた。
さらに、重ね合わせた枠体を、加振台の上から熱処理装置に移動させ、重ね合わせた枠体を65℃に昇温し、モリブデン箔の上に形成された懸濁液からメタノールを気化させ、面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりをモリブデン箔の表面に形成した。この後、もう一枚のモリブデン箔を、グラフェンの集まりが表面に形成された箔の上に押し込んでモリブデン箔同士を重ね合わせ、重ね合わせた2枚のモリブデン箔の間隙に、面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりを形成した。さらに、9cm×9cm×3cm(厚み)からなる2枚の平板を用意した。この後、1枚の平板の上に、重ね合わせた枠体の下方の枠体の枠の内側を挿入し、平板の上方の表面を、重ね合わせた2枚のモリブデン箔の下方のモリブデン箔の表面に接触させた。さらに、もう一枚の平板を、重ね合わせた枠体の上方の枠体の枠の内側に挿入し、平板の下方の表面を、重ね合わせた2枚のモリブデン箔の上方のモリブデン箔の表面に接触させた。
この後、上方の平板の表面の角部を結ぶ対角線上に、等間隔で離間した5箇所と、対角線上の角部に最も近い2箇所の中央部に相当する4個所とからなる合計9箇所に、直径が2cmで、厚みが2cmの円柱を配置させ、9個の円柱に、60kg重に相当する圧縮荷重を同時に加え、フィルムを作成した。さらに、重ね合わせた枠体の上方の枠体の4つの枠の各々の枠の表面の中央部に、0.4Gからなる衝撃加速度を同時に加え、重ね合わせた枠体を2枚の平板から引き離すとともに、重ね合わせた枠体の間隙に挟まれたフィルムの周辺部を、フィルムから破断させ、平板の外形形状である9cm×9cmからなるフィルムを、2枚の平板の間隙に作成した。
さらに、上方の平板の4つの側面のうちの1つの側面の互いに離間した3個所に、0.2Gからなる衝撃加速度を同時に加え、さらに、下方の平板の4つの側面のうちの1つの側面の互いに離間した3個所に、0.2Gからなる衝撃加速度を同時に加え、フィルムを2枚の平板の間隙から剥がした。
作成したフィルムの側面を、実施例1で用いた電子顕微鏡で観察した結果、2枚のモリブデン箔の間隙に、厚みが395nmからなるグラフェン接合体が形成されていた。
最初に、フィルムの表面の表面抵抗を、実施例2で用いた表面抵抗計によって測定した。表面抵抗値は1×10Ω/□に近い値であったため、フィルムはモリブデンに近い表面抵抗を有した。
次に、フィルムの熱伝導率を測定した。フィルムの熱伝導率は、実施例2で用いた周期加熱法拡散率測定装置によって測定した。フィルムの20℃における熱伝導率は180±10W/(m・K)であった。マグネシウムの熱伝導率より優れた熱伝導率を持った。なお、モリブデンの熱伝導率は142W/(m・K)で、マグネシウムの熱伝導率は159W/(m・K)である。
次に、フィルムの機械的強度を、落下衝撃から測定した。フィルムを2mの高さから繰り返し3回自然落下させたが、フィルムの変化は認められなかった。さらに、4mの高さからフィルムを繰り返し3回自然落下させたが、フィルムの変化は認められなかった。このため、フィルムは優れた衝撃強度を持つ。
さらに、実施例2で用いたインストロン万能試験機を用いて、3点曲げ試験によって、フィルムの屈折強度を測定した。4.9×10MPaの強度を持った。また、熱間圧延鋼板は、曲げ強度が780MPaと980MPaの鋼板が市販されている。従って、フィルムは熱間圧延鋼板の50倍に近い曲げ強度を持つ。なお、モリブデンのヤング率は324GPaで、グラフェンのヤング率は1020GPaである。
【0020】
実施例では、4種類の材質からなる金属ないしは合金の箔を用いたが、本発明で用いることができる金属ないしは合金からなる箔の材質は、実施例の4種類の材質からなる金属ないしは合金の箔に限定されない。また、金属ないしは合金の箔の厚みは、実施例で用いた箔の厚みに限定されない。さらに、箔の大きさも、実施例で用いた箔の大きさに限定されない。この理由は、金属ないしは合金からなる箔を、グラフェン接合体の表面に摩擦圧接で接合するため、箔の材質と厚みと大きさに関わらず、箔をグラフェン接合体に摩擦圧接で接合きるからである。従って、フィルムの用途に応じて、箔の材質と厚みと大きさを選択する。
【符号の説明】
【0021】
1銅箔 2 グラフェン接合体
図1