(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067557
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】弾性波デバイス
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20240510BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20240510BHJP
H10N 30/06 20230101ALI20240510BHJP
H10N 30/87 20230101ALI20240510BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20240510BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H01L41/187
H01L41/29
H01L41/047
H01L41/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177738
(22)【出願日】2022-11-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)刊行物への発表による公開 令和4年2月21日に国立大学法人山梨大学発行,2021年度山梨大学工学部電気電子工学科卒業論文発表会予稿集,T18EE041-1~T18EE041-2にて掲載 (2)集会での発表による公開 令和4年2月21日に国立大学法人山梨大学における2021年度山梨大学工学部電気電子工学科卒業論文発表会で発表
(71)【出願人】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(71)【出願人】
【識別番号】522434015
【氏名又は名称】山本エイデック合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003535
【氏名又は名称】スプリング弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】垣尾 省司
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰司
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA01
5J097AA14
5J097BB11
5J097EE08
5J097EE10
5J097GG03
5J097GG04
5J097GG05
5J097GG07
5J097KK03
5J097KK09
(57)【要約】
【課題】スプリアスを低減させた弾性波デバイスを提供する。
【解決手段】2つの圧電薄板の層を有する接合基板と、前記層上に形成された電極と、を備え、前記2つの圧電薄板は、同じ材料で形成され、使用する振動モードに関係する前記2つの圧電薄板の圧電定数が同一であり、スプリアスとなる不要な振動モードに関係する前記2つの圧電薄板の圧電定数は、絶対値が同じで符号が反転するように、前記2つの圧電薄板のオイラー角が選ばれている弾性波デバイス。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの圧電薄板の層を有する接合基板と、
前記接合基板の上に形成された電極と、を備え、
前記2つの圧電薄板は、同じ材料で形成され、
使用する振動モードに関係する前記2つの圧電薄板の圧電定数が同一であり、
スプリアスとなる不要な振動モードに関係する前記2つの圧電薄板の圧電定数は、絶対値が同じで符号が反転するように、前記2つの圧電薄板のオイラー角が選ばれている弾性波デバイス。
【請求項2】
前記2つの圧電薄板は、使用する振動モードがLamb波であり、
かつ、前記2つの圧電薄板の圧電定数e11は、同じ値であり、
かつ、前記2つの圧電薄板の圧電定数e16、e34は、絶対値が同じで符号が反転するようなオイラー角である請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記2つの圧電薄板の厚さが同一である請求項2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記2つの圧電薄板がいずれもニオブ酸リチウムか、またはタンタル酸リチウムであり、前記2つの圧電薄板のうち一方の圧電薄板のオイラー角を(90°,90°,ψ)とすると、他方の圧電薄板のオイラー角が(90°,-90°,-ψ)であるか、または、これらと結晶学的に等価なオイラー角である請求項2に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
使用する振動モードがSH波であり、
前記2つの圧電薄板がいずれもニオブ酸リチウムか、またはタンタル酸リチウムであり、
かつ、前記2つの圧電薄板は、圧電定数e16が同じ値であり、
かつ、前記2つの圧電薄板の圧電定数e31、e15の絶対値が同じで符号が反転するように前記2つの圧電薄板のオイラー角が選ばれている請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記2つの圧電薄板の厚さが同一である請求項5に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記2つの圧電薄板がいずれもニオブ酸リチウムか、またはいずれもタンタル酸リチウムであり、前記2つの圧電薄板のうち一方のオイラー角を(0°,100°,0°)とすると、他方の圧電薄板のオイラー角が(0°,280°,180°)であるか、または、これらと結晶学的に等価なオイラー角であることを特徴とする請求項3に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記2つの圧電薄板は、第1圧電薄板と第2圧電薄板であり、
前記接合基板は、前記第1圧電薄板、前記第2圧電薄板とで構成され、
前記接合基板を支持する支持基板を備え、
前記第1圧電薄板、前記第2圧電薄板、前記支持基板の順に層を形成し、
前記支持基板の音速は、前記第1圧電薄板、前記第2圧電薄板の音速よりも速いことを特徴とする請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
前記支持基板は、Si、水晶、サファイア、SiC、SiO2、ダイヤモンド、あるいは水晶、サファイア、SiC、SiO2、ダイヤモンドから選択されるいずれかが成膜されたSi基板である請求項8に記載の弾性波デバイス。
【請求項10】
使用するSAWモードがLL-SAWの場合において、
前記2つの圧電薄板は、圧電定数e11が同じ値となり、圧電定数e16、e34が絶対値が同じで符号が反転するようなオイラー角である請求項8に記載の弾性波デバイス。
【請求項11】
前記2つの圧電薄板は、ニオブ酸リチウムか、またはタンタル酸リチウムであり、
前記2つの圧電薄板のうち一方の圧電薄板のオイラー角と、他方の圧電薄板のオイラー角の組み合わせが、下記(1)~(3)の何れか一つであるか、または、下記(1)~(3)のいずれか一つと結晶学的に等価なオイラー角である請求項10に記載の弾性波デバイス。
(1)一方の圧電薄板のオイラー角 (φ,90°,ψ)
他方の圧電薄板のオイラー角 (φ,-90°,-ψ)
(2)一方の圧電薄板のオイラー角 (90°,θ,ψ)
他方の圧電薄板のオイラー角 (90°,-θ,-ψ)
(3)一方の圧電薄板のオイラー角 (90°,90°,ψ)
他方の圧電薄板のオイラー角 (90°,-90°,-ψ)
【請求項12】
前記第1圧電薄板の厚さh1と前記第2圧電薄板の厚さh2の比率が、スプリアスとなる不要な振動モードを励振しない比率である請求項11に記載の弾性波デバイス。
【請求項13】
前記第1圧電薄板の厚さh1と前記第2圧電薄板の厚さh2の比率が、h1:h2=1:2である請求項12に記載の弾性波デバイス。
【請求項14】
使用するSAWモードがL-SAWの場合において、
前記2つの圧電薄板は、いずれもニオブ酸リチウムか、またはタンタル酸リチウムであり、前記2つの圧電薄板の圧電定数e16が同じ値であり、
前記2つの圧電薄板のオイラー角は、それぞれの前記圧電薄板の圧電定数e31、e15の絶対値が同じで符号が反転するように選ばれている請求項8に記載の弾性波デバイス。
【請求項15】
前記第1圧電薄板と前記第2圧電薄板のうち、一方の圧電薄板のオイラー角が(φ,θ,0°)とすると、他方の圧電薄板のオイラー角が(φ,θ±180°,0°±180°)であるか、または、これらと結晶学的に等価なオイラー角である請求項8に記載の弾性波デバイス。
【請求項16】
前記第1圧電薄板の厚さh1と前記第2圧電薄板の厚さh2の比率が、スプリアスとなる不要な振動モードを励振しない比率である請求項14に記載の弾性波デバイス。
【請求項17】
前記第1圧電薄板の厚さh1と前記第2圧電薄板の厚さh2の比率が、h1:h2=1:3である請求項16に記載の弾性波デバイス。
【請求項18】
前記2つの圧電薄板のうち、一方の圧電薄板のオイラー角と、他方の圧電薄板のオイラー角の組み合わせが、(90°,θ,ψ)と(90°,-θ,-ψ)の組み合わせであるか、または、(φ,90°,ψ)と(φ,-90°,-ψ)の組み合わせであるか、または、これらと結晶学的に等価なオイラー角である請求項2または10に記載の弾性波デバイス。
【請求項19】
前記2つの圧電薄板がいずれもニオブ酸リチウムか、またはいずれもタンタル酸リチウムであり、前記2つの圧電薄板のうち一方の圧電薄板のオイラー角を(φ,θ,0°)とすると、他方の圧電薄板のオイラー角が(φ,θ±180°,0°±180°)であるか、または、これらと結晶学的に等価なオイラー角であることを特徴とする請求項5または14に記載の弾性波デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波を利用した弾性波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の移動体通信の世界的な伸張と通信量の増加にともない、スマートフォン等の移動体通信機器の高速化、高性能化が求められてきている。通信機器の高性能化のためには、弾性波デバイスの高周波数化、広帯域化、高Q値化等が重要となるが、更に、通信の高速化のため、複数のバンドを同時に利用するキャリアアグリゲーションなどの新技術が導入され、帯域外のスプリアスの低減についても求められてきている。
【0003】
例えば、特許文献1には、圧電膜を有する弾性波装置であって、支持基板と、前記支持基板上に形成されており、前記圧電膜を伝搬する弾性波音速より伝搬するバルク波音速が高速である高音速膜と、前記高音速膜上に積層されており、前記圧電膜を伝搬するバルク波音速より伝搬するバルク波音速が低速である低音速膜と、前記低音速膜上に積層された前記圧電膜と、前記圧電膜の一方面に形成されているIDT電極とを備える、弾性波装置が開示されている。
【0004】
これにより、支持基板と圧電膜との間に、高音速膜及び低音速膜が配置されているため、Q値を高めることが可能となる。従って、高いQ値を有する弾性波装置を提供することが可能となるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載した弾性波デバイス等の従来の弾性波デバイスでは、スプリアスを低減するためは、主要な伝搬モード以外の結合係数が小さいカットの圧電薄板しか使えないという大きな制約があった。
【0007】
言い換えると、従来の弾性波デバイスでは、使いたい主要な伝搬モードの結合係数をある程度確保しつつ、不要な伝搬モードの結合係数が小さい条件を探索するしか無かった。そして、不要な伝搬モードの結合係数が小さい条件がもし無かったらその構造は諦めざるを得ないという大きな制約があった。
【0008】
本発明は、係る実情に鑑み、上記課題を解決し、積極的に不要な伝搬モードの結合係数を、圧電定数をキャンセルすることによって低減することにより、スプリアスが低減された弾性波デバイスを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題は、下記の各発明によって解決することができる。
即ち、本発明の弾性波デバイスは、2つの圧電薄板の層を有する接合基板と、前記接合基板上に形成された電極と、を備え、前記2つの圧電薄板は、同じ材料で形成され、使用する振動モードに関係する前記2つの圧電薄板の圧電定数が同一であり、スプリアスとなる不要な振動モードに関係する前記2つの圧電薄板の圧電定数は、絶対値が同じで符号が反転するように、前記2つの圧電薄板のオイラー角が選ばれていることを主要な特徴としている。
【0010】
また、本発明の弾性波デバイスは、前記2つの圧電薄板は、使用する振動モードがLamb波であり、かつ、前記2つの圧電薄板の圧電定数e11は、同じ値であり、かつ、前記2つの圧電薄板の圧電定数e16、e34は、絶対値が同じで符号が反転するようなオイラー角であることを主要な特徴としている。
【0011】
更に、本発明の弾性波デバイスは、前記2つの圧電薄板の厚さが同一であることを主要な特徴としている。
【0012】
更にまた、前記2つの圧電薄板がいずれもニオブ酸リチウムか、またはタンタル酸リチウムであり、前記2つの圧電薄板のうち一方の圧電薄板のオイラー角を(90°,90°,ψ)とすると、他方の圧電薄板のオイラー角が(90°,-90°,-ψ)であるか、または、これらと結晶学的に等価なオイラー角であることを主要な特徴としている。
【0013】
また、本発明の弾性波デバイスは、使用する振動モードがSH波であり、前記2つの圧電薄板がいずれもニオブ酸リチウムか、またはタンタル酸リチウムであり、かつ、前記2つの圧電薄板は、圧電定数e16が同じ値であり、かつ、前記2つの圧電薄板の圧電定数e31、e15の絶対値が同じで符号が反転するように前記2つの圧電薄板のオイラー角が選ばれていることを主要な特徴としている。
【0014】
更に、本発明の弾性波デバイスは、前記2つの圧電薄板の厚さが同一であることを主要な特徴としている。
【0015】
更にまた、本発明の弾性波デバイスは、前記2つの圧電薄板がいずれもニオブ酸リチウムか、またはいずれもタンタル酸リチウムであり、前記2つの圧電薄板のうち一方のオイラー角を(0°,100°,0°)とすると、他方の圧電薄板のオイラー角が(0°,280°,180°)であるか、または、これらと結晶学的に等価なオイラー角であることを主要な特徴としている。
【0016】
また、本発明の弾性波デバイスは、前記2つの圧電薄板は、第1圧電薄板と第2圧電薄板であり、前記接合基板は、前記第1圧電薄板、前記第2圧電薄板とで構成され、前記接合基板を支持する支持基板を備え、前記第1圧電薄板、前記第2圧電薄板、前記支持基板の順に層を形成し、前記支持基板の音速は、前記第1圧電薄板、前記第2圧電薄板の音速よりも速いことを主要な特徴としている。
【0017】
更に、本発明の弾性波デバイスは、前記支持基板は、Si、水晶、サファイア、SiC、SiO2、ダイヤモンド、あるいは水晶、サファイア、SiC、SiO2、ダイヤモンドから選択されるいずれかが成膜されたSi基板であることを主要な特徴としている。
【0018】
更にまた、本発明の弾性波デバイスは、使用するSAWモードがLL-SAWの場合において、前記2つの圧電薄板は、圧電定数e11が同じ値となり、圧電定数e16、e34が絶対値が同じで符号が反転するようなオイラー角であることを主要な特徴としている。
【0019】
また、本発明の弾性波デバイスは、 前記2つの圧電薄板は、ニオブ酸リチウムか、またはタンタル酸リチウムであり、前記2つの圧電薄板のうち一方の圧電薄板のオイラー角と、他方の圧電薄板のオイラー角の組み合わせが、下記(1)~(3)の何れか一つであるか、または、下記(1)~(3)のいずれか一つと結晶学的に等価なオイラー角であることを主要な特徴としている。
(1)一方の圧電薄板のオイラー角 (φ,90°,ψ)
他方の圧電薄板のオイラー角 (φ,-90°,-ψ)
(2)一方の圧電薄板のオイラー角 (90°,θ,ψ)
他方の圧電薄板のオイラー角 (90°,-θ,-ψ)
(3)一方の圧電薄板のオイラー角 (90°,90°,ψ)
他方の圧電薄板のオイラー角 (90°,-90°,-ψ)
【0020】
更に、本発明の弾性波デバイスは、前記第1圧電薄板の厚さh1と前記第2圧電薄板の厚さh2の比率が、スプリアスとなる不要な振動モードを励振しない比率であることを主要な特徴としている。
【0021】
更にまた、本発明の弾性波デバイスは、前記第1圧電薄板の厚さh1と前記第2圧電薄板の厚さh2の比率が、h1:h2=1:2であることを主要な特徴としている。
【0022】
また、本発明の弾性波デバイスは、使用するSAWモードがL-SAWの場合において、前記2つの圧電薄板は、いずれもニオブ酸リチウムか、またはタンタル酸リチウムであり、前記2つの圧電薄板の圧電定数e16が同じ値であり、前記2つの圧電薄板のオイラー角は、それぞれの前記圧電薄板の圧電定数e31、e15の絶対値が同じで符号が反転するように選ばれていることを主要な特徴としている。
【0023】
更に、本発明の弾性波デバイスは、前記第1圧電薄板と前記第2圧電薄板のうち、一方の圧電薄板のオイラー角が(φ,θ,0°)とすると、他方の圧電薄板のオイラー角が(φ,θ±180°,0°±180°)であるか、または、これらと結晶学的に等価なオイラー角であることを主要な特徴としている。
【0024】
更にまた、本発明の弾性波デバイスは、前記第1圧電薄板の厚さh1と前記第2圧電薄板の厚さh2の比率が、スプリアスとなる不要な振動モードを励振しない比率であることを主要な特徴としている。
【0025】
また、本発明の弾性波デバイスは、前記第1圧電薄板の厚さh1と前記第2圧電薄板の厚さh2の比率が、h1:h2=1:3であることを主要な特徴としている。
【0026】
更に、本発明の弾性波デバイスは、前記第1圧電薄板と前記第2圧電薄板のうち、一方の圧電薄板のオイラー角と、他方の圧電薄板のオイラー角の組み合わせが、(90°,θ,ψ)と(90°,-θ,-ψ)の組み合わせであるか、または、(φ,90°,ψ)と(φ,-90°,-ψ)の組み合わせであるか、または、これらと結晶学的に等価なオイラー角であることを主要な特徴としている。
【0027】
更にまた、本発明の弾性波デバイスは、前記2つの圧電薄板がいずれもニオブ酸リチウムか、またはいずれもタンタル酸リチウムであり、前記2つの圧電薄板のうち一方のオイラー角を(φ,θ,0°)とすると、他方の圧電薄板のオイラー角が(φ,θ±180°,0°±180°)であるか、または、これらと結晶学的に等価なオイラー角であることを主要な特徴としている。
【発明の効果】
【0028】
スプリアスを低減した弾性波デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1(A)は、本発明の電極が片面にあるタイプに係る弾性波デバイスの概略断面図である。
図1(B)は、電極が両面になるタイプの本発明に係る弾性波デバイスの概略断面図である。
【
図2A】
図2Aは、第1実施形態の電極片面タイプの一例を示す概略断面図である。
【
図2B】
図2Bは、
図2Aに示されるLN(LiNbO
3)圧電薄板の圧電定数テンソルを示す図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態の片面タイプの共振特性のFEM解析結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、第1実施形態の電極両面タイプの一例を示す概略断面図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態の両面タイプの共振特性のFEM解析結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、ダイヤフラム構造の弾性波デバイスの例である。
【
図7B】
図7Bは、
図7Aに示されるLT(LiTaO
3)圧電薄板の圧電定数テンソルを示す図である。
【
図8】
図8は、実施例2と比較例2のFEM解析結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例3と比較例3のFEM解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面を参照しながら、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。ここで、図中、同一の記号で示される部分は、同様の機能を有する同様の要素である。
また、本発明において、オイラー角は、すべてIRE1949のスタンダードで示されている。
【0031】
<第1実施形態>
本発明に係る弾性波デバイスの第1実施形態の電極片面タイプについて
図1を参照して説明する。第1実施形態の電極両面タイプについては後述する。
図1(A)は、電極が片面にあるタイプの本発明に係る弾性波デバイスの概略断面図である。
図1(B)は、電極が両面にあるタイプの本発明に係る弾性波デバイスの概略断面図である。
(1)電極片面タイプ
第1実施形態の電極片面タイプについて
図1(A)を参照して説明する。
図1(A)に示すように、本発明に係る弾性波デバイスは、第1圧電薄板10の層と、第2圧電薄板20との層とで形成された接合基板30と、IDT電極40と、を主に含んで構成されている。
【0032】
第1圧電薄板10と第2圧電薄板20とは、接合されており、第1圧電薄板の表面には、IDT電極(櫛形電極)が形成されている。第1圧電薄板10と第2圧電薄板20とは、同じ圧電材料から形成され、その圧電材料としては、例えば、水晶、タンタル酸リチウム (LiTaO3),ニオフ゛酸リチウム(LiNbO3)なと゛を用いることができる。
【0033】
ここで、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20は、以下の条件1、条件2すべてを満たすように形成される。
[条件1]
使用する振動モードに関係する第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の圧電定数が同一である。
【0034】
[条件2]
スプリアスとなる不要な振動モードに関係する、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の2つの圧電薄板の圧電定数は、絶対値が同じで符号が反転するように、前記2つの圧電薄板のオイラー角が選ばれている。
【0035】
接合基板30は、例えば、以下のようなステップで作製することができる。
(1) Si等の基板に第2圧電薄板20を貼り付けて、第2圧電薄板20を所定の厚さになるまで研磨する。
(2) 所定の厚さになった第2圧電薄板20に第1圧電薄板10を貼り付ける。
(3) 第1圧電薄板10が所定の厚さになるまで研磨する。
(4) フォトリソグラフィにより第1圧電薄板10表面にIDT電極(櫛形電極)40を形成する。
(5) Si基板を研磨、または溶解によって全部または一部を取り除く。(一部を取り除く場合は、IDT電極40の下部のSi基板を取り除く[
図6参照])
【0036】
上記(4)の電極40の形成ステップは、例えば、アルミニウム、金、チタン等の薄膜を第1圧電薄板の表面にスパッタリング、蒸着、CVD等で成膜し、フォトリソグラフィにより櫛形電極(IDT)の形状に形成することができる。電極40の形成に用いられる金属は、アルミニウム、金、チタンに限定されるものではなく、従来、弾性波デバイスの電極に用いられている金属ならば何を使用しても良い。
【0037】
実施例1として、このように構成された弾性波デバイスについて、有限要素法(FEM:Finite Element Method)を用いて共振特性のシミュレーション(FEM解析)を行った。FEM解析を行った弾性波デバイスについて
図2Aに示す。
図2Aは、第1実施形態の電極片面タイプの一例を示す概略断面図である。
【0038】
図2Aに示すように、オイラー角表示で(90°,90°,20°)で表せるXカット20°Y伝搬LN(ニオブ酸リチウム)で形成された第1圧電薄板10と、オイラー角表示で(90°,-90°,-20°)で表せるカット方位のLNで形成された第2圧電薄板20と2層をなした構造の接合基板30についてFEM解析を行った。
【0039】
FEM解析により、この構造で励振されうるすべて伝搬モードの応答が現れるが、Lamb波であるS0モードに着目して検討した。S0モードを伝搬させる場合に電極40は、Al(アルミニウム)とした。また、周囲は空気としてFEM解析を行った。
【0040】
第1圧電薄板10の厚みh1及び第2圧電薄板20の厚みh2は、接合基板30に伝搬させる弾性波の波長をλとしたとき、h1/λ=0.05、h2/λ=0.05として設定した。言い換えると、厚みh1、h2は、どちらも波長λの5%と設定した。
【0041】
また、電極40の厚みhAlは、アルミニウムに弾性波を伝搬させたときの波長をλAlをとしたとき、hAl/λAl=0.01となる値、即ち、弾性波が接合基板を伝搬したときの波長の1%の値とした。
【0042】
更に、使用する振動モードに関係する第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の圧電定数を同一とし、スプリアスとなる不要な振動モードに関係する、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の2つの圧電薄板の圧電定数は、絶対値が同じで符号が反転するように、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20のオイラー角を選んだ。
【0043】
このとき、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の圧電定数e11は、同じ値であり、かつ、この2つの圧電薄板の圧電定数e16、e34は、絶対値が同じで符号が反転するようなオイラー角となっている。
【0044】
具体的には、第1圧電薄板10は、オイラー角を(90°,90°,20°)とし、第2圧電薄板20は、オイラー角を(90°,-90°,-20°)とした。
【0045】
ここで、第1圧電薄板10のオイラー角と、第2圧電薄板20のオイラー角の組み合わせは、φ、θ、ψを任意の角度とすると、(90°,θ,ψ)と(90°,-θ,-ψ)の組み合わせでも、(φ,90°,ψ)と(φ,-90°,-ψ)の組み合わせでも、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の圧電定数e11は、同じ値であり、かつ、この2つの圧電薄板の圧電定数e16、e34は、絶対値が同じで符号が反転するようなオイラー角となる。
【0046】
図2Bに第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の圧電定数テンソルを示す。
図2Bは、
図2Aに示されるLN(LiNbO
3)圧電薄板の圧電定数テンソルを示す図である。
図2Bの上層で示される圧電定数テンソルは、第1圧電薄板10の圧電定数テンソルであり、下層で示される圧電定数テンソルは第2圧電薄板20の圧電定数テンソルである。
【0047】
図2Bに示すように、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の圧電定数e11は、同じ値であり、かつ、この2つの圧電薄板の圧電定数e16、e34は、絶対値が同じで符号が反転するようなオイラー角となっている。
【0048】
また、比較例1として、
図2Aにおいて接合基板30が2つに分割されておらず、第1圧電薄板10、第2圧電薄板20の両方が第1圧電薄板と同じもの(圧電定数、オイラー角、寸法)言い換えると第1圧電薄板10の厚みが2倍になったものについても共振特性のFEM解析を行った。
【0049】
FEMの解析結果を
図3に示す。
図3は、第1実施形態の片面タイプの共振特性のFEM解析結果を示すグラフである。
図3のX軸は、位相速度(波長×周波数)を表し、Y軸は、電極間のアドミッタンスを表す。
【0050】
実線は、実施例1の共振特性を示し、点線は、比較例1の共振特性を示す。
図3に示すように、比較例では、3700m/s近辺に不要な共振モードであるSH
0モードがスプリアスとして現れているが、実施例では、きれいに消えている。また、実施例では、6000m/s近辺にある必要な共振モードであるS
0モードは、減衰することなくそのまま存在している。
【0051】
このように、圧電薄板を2層構造にして、使用する振動モードに関係する第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の圧電定数を同一とし、スプリアスとなる不要な振動モードに関係する、それぞれの圧電薄板の圧電定数は、絶対値が同じで符号が反転するように2つの圧電薄板のオイラー角を設定することにより、スプリアスを低減させることができるとともに、必要な共振モードはそのまま残すことができる。
【0052】
ここで、FEM解析は、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20は、ニオブ酸リチウムで行ったが、タンタル酸リチウムにおいても同様な結果となり、更に、これらと結晶学的に等価なオイラー角であっても同様の結果となる。
【0053】
(2)電極両面タイプ
本発明に係る弾性波デバイスの第1実施形態の電極両面タイプについて図面を参照して説明する。
図4は、第1実施形態の電極両面タイプの一例を示す概略断面図である。
【0054】
この電極両面タイプは、電極片面タイプと電極以外は全く同じ構造なので、同じ部分の説明は省略し、異なる部分だけ説明する。
図1(B)及び
図4を参照して、この電極両面タイプは、第1圧電薄板10の表面に作成された電極40の接合基板30を挟んで真下の位置の第2圧電薄板20の表面に下部電極50が形成されている。即ち、上部電極40と下部電極50は接合基板30に対して対称となっている。
【0055】
また、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20のオイラー角は、使用する振動モードに関係する第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の圧電定数を同一とし、スプリアスとなる不要な振動モードに関係する、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の2つの圧電薄板の圧電定数は、絶対値が同じで符号が反転するように、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20のオイラー角を選んだ。
【0056】
この
図4に示される弾性波デバイスについて実施例2として、共振特性のFEM解析を行った。FEM解析により、この構造で励振されうるすべて伝搬モードの応答が現れるが、S
0モードに着目して検討した。その結果を
図5に示す。
図5は、第1実施形態の両面タイプの共振特性のFEM解析結果を示すグラフである。また、比較のため、電極が片面のみでそれ以外は同一のもの、即ち実施例1のFEM解析結果も併せて
図5に示す。
【0057】
図5のX軸、Y軸は、
図3と同様であるので説明を省略する。また、実線は実施例2である両面電極タイプの共振特性を、点線は、実施例1の共振特性を示す。
図5に示すように、電極を接合基板の両面に対称に形成することにより、実施例1において発生していた7600m/sあたりのわずかなスプリアスも完全に消去することができることが判明した。
【0058】
このように、本発明者の鋭意研究により、接合基板30を挟んで対称に電極を配置することにより、更に、スプリアスを低減することができることを見いだした。
【0059】
ここで、第1実施形態において、電極片面タイプにおいても、電極両面タイプにおいても、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の表面は空気でFEM解析を行ったが、弾性波デバイスとしては周囲は、空気でも真空でも良い。特に数十MHz(100MHz以下)の周波数の場合はエアーローディングの影響が効いてくるので、真空にする必要がある。
【0060】
接合基板30の両面を機械的開放端にすることにより、弾性波を完全反射させるためのダイヤフラム構造の弾性波デバイスの一例を
図6に示す。
図6は、ダイヤフラム構造の弾性波デバイスの例である。
の弾性波デバイスの構造の例である。
図6は、電極片面タイプを示しているが、電極両面タイプでも同様にすることができる。
【0061】
図6に示すように、電極40の有る側の表面も、電極40の有る側の反対面も、何もない開放端となっている。電極40の有る側の反対面の電極40から外れた接合基板の端部に支持基板60が接合されている。
【0062】
支持基板60は、例えば、Si基板を用いることができる。このような構造の形成方法の一例としては、支持基板60であるSi基板に接合基板30を貼り合わせ、その後、電極40の真下の部分のSi基板をエッチング等で取り除くことによりこのようなダイヤフラム構造を形成することができる。
これにより、接合基板30に強度を持たせることができる。
【0063】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態について図面を参照して説明する。
図7Aは、第2実施形態の概略断面図である。第2実施形態は、
図2Aで示される第1実施形態とほとんど同じであるので、同じ所の説明は一部省略し、異なる所を主に説明する。
【0064】
図7Aを参照して、第2実施形態の弾性波デバイスは、XカットY伝搬LT(タンタル酸リチウム)で形成された、第1圧電薄板10,第2圧電薄板20を備えている。
【0065】
第1圧電薄板10のオイラー角は、(90°,90°,31°)であり、第2圧電薄板20のオイラー角は、(90°,-90°,-31°)である。
【0066】
また、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20のオイラー角は、使用する振動モードに関係する第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の圧電定数を同一とし、スプリアスとなる不要な振動モードに関係する、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の2つの圧電薄板の圧電定数は、絶対値が同じで符号が反転するように、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20のオイラー角を選んだ。
【0067】
具体的には、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の圧電定数e11は、同じ値であり、かつ、この2つの圧電薄板の圧電定数e16、e34は、絶対値が同じで符号が反転するようなオイラー角を選んだ。
【0068】
図7Bに第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の圧電定数テンソルを示す。
図7Bは、
図7Aに示されるLT圧電薄板の圧電定数テンソルを示す図である。
図7Bの上層で示される圧電定数テンソルは、第1圧電薄板10の圧電定数テンソルであり、下層で示される圧電定数テンソルは第2圧電薄板20の圧電定数テンソルである。
【0069】
図7Bに示すように、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の圧電定数e11は、同じ値であり、かつ、この2つの圧電薄板の圧電定数e16、e34は、絶対値が同じで符号が反転するようなオイラー角となっている。
【0070】
この第2実施形態について、実施例2としてFEM解析を実施した。FEM解析により、この構造で励振されうるすべて伝搬モードの応答が現れるが、S
0モードに着目して検討した。また、
図7Aにおいて接合基板30が2つに分割されておらず、第1圧電薄板10、第2圧電薄板20の両方が第1圧電薄板と同じもの(圧電定数、オイラー角、寸法)、言い換えると第1圧電薄板10の厚みが2倍になったものについても比較例2として共振特性のFEM解析を行った。
【0071】
このFEM解析結果を
図8に示す。
図8に示すように、比較例2においては、3300m/s近辺にあるスプリアスが、実施例2では完全に消えている。また、実施例では、5800m/s近辺にある必要な共振モードであるS
0モードは、ほぼそのまま存在している。
【0072】
このように圧電薄板を2層構造にして、スプリアスとなる不要な振動モードに関係するそれぞれの圧電薄板の圧電定数は、絶対値が同じで符号が反転するように2つの圧電薄板のオイラー角を設定することにより、スプリアスを低減させることができるとともに、必要な共振モードはそのまま残すことができる。
【0073】
ここで、FEM解析は、第1圧電薄板10のオイラー角は、(90°,90°,31°)、第2圧電薄板20のオイラー角は、(90°,-90°,-31°)で行ったが、圧電薄板のうち一方の圧電薄板のオイラー角が(90°,90°,ψ)(ψは任意の角度)であるとすると、他方の圧電薄板のオイラー角は、(90°,-90°,-ψ)であるか、または、これらと結晶学的に等価なオイラー角の圧電薄板であっても、FEM解析は同じ結果となる。
【0074】
<第3実施形態>
本発明の第3実施形態について図面を参照して説明する。
図9Aは、第3実施形態の概略断面図である。第3実施形態は、
図2Aで示される第1実施形態とほとんど同じであるので、同じ所の説明は省略し、異なる所だけ説明する。
【0075】
図9Aを参照して、第3実施形態の弾性波デバイスは、オイラー角表示で(0°,100°,0°)で表せる10°回転YカットX伝搬LNで形成された第1圧電薄板10と、オイラー角表示で(0°,280°,180°)で表せるカット方位のLNで形成された第2圧電薄板20とを備えている。
【0076】
第1圧電薄板10の厚みh1及び第2圧電薄板20の厚みh2は、接合基板30に伝搬させる弾性波の波長をλとしたとき、h1/λ=0.025、h2/λ=0.025である。言い換えると、厚みh1、h2は、どちらも波長λの2.5%と設定した。
【0077】
また、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20のオイラー角は、使用する振動モードに関係する第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の圧電定数を同一とし、スプリアスとなる不要な振動モードに関係する、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の2つの圧電薄板の圧電定数は、絶対値が同じで符号が反転するように、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20のオイラー角を選んだ。
【0078】
具体的には、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20は、圧電定数e16が同じ値であり、かつ、前記2つの圧電薄板の圧電定数e31、e15の絶対値が同じで符号が反転するように前記2つの圧電薄板のオイラー角を選んだ。
【0079】
このように圧電定数e16が同じ値であり、かつ、前記2つの圧電薄板の圧電定数e31、e15の絶対値が同じで符号が反転するオイラー角の組み合わせとしては、φ、θを任意の角度とすると、(φ,θ,0°)と、(φ,θ±180°,0°±180°)の組み合わせがある。よって、この組み合わせか、またはこの組み合わせと結晶学的に等価なオイラー角であれば、後述するFEM解析結果は同じものになる。
【0080】
図9Bに第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の圧電定数テンソルを示す。
図9Bは、
図9Aに示されるLN圧電薄板の圧電定数テンソルを示す図である。
図9Bの上層で示される圧電定数テンソルは、第1圧電薄板10の圧電定数テンソルであり、下層で示される圧電定数テンソルは第2圧電薄板20の圧電定数テンソルである。
【0081】
図9Bに示すように、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の圧電定数e16は、同じ値であり、かつ、この2つの圧電薄板の圧電定数e31、e15は、絶対値が同じで符号が反転するようなオイラー角となっている。
【0082】
この第3実施形態について、実施例3としてFEM解析を実施した。FEM解析により、この構造で励振されうるすべて伝搬モードの応答が現れるが、SH板波に着目して検討した。また、
図9Aにおいて接合基板30が2つに分割されておらず、第1圧電薄板10、第2圧電薄板20の両方が第1圧電薄板と同じもの(圧電定数、オイラー角、寸法)、言い換えると第1圧電薄板10の厚みが2倍になったものについても比較例3として共振特性のFEM解析を行った。
【0083】
このFEM解析結果を
図10に示す。
図10に示すように、比較例3において、5000m/s及び6700m/s近辺にあるスプリアスが、実施例3ではほぼ消えている。また、実施例3では、3400m/s近辺にある必要な共振モードであるSHモードは、そのまま存在している。
【0084】
このように圧電薄板を2層構造にして、それぞれの圧電薄板の圧電定数は、絶対値が同じで符号が反転するように2つの圧電薄板のオイラー角を設定することにより、スプリアスを低減させることができるとともに、必要な共振モードはそのまま残すことができる。
【0085】
ここで、FEM解析は、第1圧電薄板10のオイラー角は、(0°,100°,0°)、第2圧電薄板20のオイラー角は、(0°,280°,180°)で行ったが、圧電定数e16が同じ値であり、かつ、前記2つの圧電薄板の圧電定数e31、e15の絶対値が同じで符号が反転するオイラー角の組み合わせでもFEM解析は同じ結果となる。
【0086】
即ち、圧電薄板のうち一方の圧電薄板のオイラー角が(φ,θ,0°)(φ、θは任意の角度)であるとすると、他方の圧電薄板のオイラー角は、(φ,θ±180°,0°±180°)であるか、または、これらと結晶学的に等価なオイラー角の圧電薄板であっても、FEM解析は同じ結果となる。
【0087】
また、FEM解析は、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20は、ニオブ酸リチウムで行ったが、ニオブ酸リチウムとタンタル酸リチウムは、結晶対称性が同一なのでタンタル酸リチウムにおいても同様な結果となり、更に、これらと結晶学的に等価なオイラー角であっても同様の結果となる。
【0088】
<第4実施形態>
本発明の第4実施形態について図面を参照して説明する。
図11は、第4実施形態の概略断面図である。第4実施形態は、
図2Aで示される第1実施形態と同じ所の説明は省略し、異なる所を説明する。
【0089】
図11を参照して、第4実施形態の弾性波デバイスは、伝搬LN(ニオブ酸リチウム)で形成された第1圧電薄板10及び第2圧電薄板20と、支持基板60である水晶基板と、電極40とを備えている。
【0090】
接合基板30は、第1圧電薄板10と、第2圧電薄板20とで形成され、第1圧電薄板10、第2圧電薄板20、水晶基板の順番に配置され、接合されている。
【0091】
電極40は、アルミニウムであり、第1圧電薄板10上に形成され、その厚みhAlは、アルミニウムに弾性波を伝搬させたときの波長をλAlとしたとき、hAl/λAl=0.03となる値、即ち、弾性波が接合基板を伝搬したときの波長の3%の値とした。
【0092】
第1圧電薄板10の厚みh1及び第2圧電薄板20の厚みh2は、接合基板30に伝搬させる弾性波の波長をλとしたとき、h1/λ=0.05、h2/λ=0.15である。また、水晶基板50の厚みは、弾性波の波長をλとしたとき10λとなる。
【0093】
第1圧電薄板10のオイラー角は、(0°,100°,0°)であり、第2圧電薄板20のオイラー角は、(0°,280°,180°)である。また、水晶基板50のオイラー角は、(0°,125°,90°)である。
【0094】
ここで、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20は、第3実施形態と同じ圧電定数のものを使用しており、圧電定数e16が同じ値であり、かつ、前記2つの圧電薄板の圧電定数e31、e15の絶対値が同じで符号が反転するようなオイラー角となっている。
【0095】
図9Bは、第4実施形態の第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の圧電定数テンソルの図でもある。即ち、
図9Bは、
図11に示されるLN圧電薄板の圧電定数テンソルを示す図でもある。
図9Bの上層で示される圧電定数テンソルは、第1圧電薄板10の圧電定数テンソルであり、下層で示される圧電定数テンソルは第2圧電薄板20の圧電定数テンソルである。
【0096】
図9Bに示すように、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の圧電定数e16は、同じ値であり、かつ、この2つの圧電薄板の圧電定数e31、e15は、絶対値が同じで符号が反転するようなオイラー角となっている。
【0097】
ここで、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20は、ニオブ酸リチウムであり、支持基板60は水晶基板なので、支持基板60の音速は、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の音速よりも速いことになる。
【0098】
この第4実施形態について、実施例4としてFEM解析を実施した。FEM解析により、この構造で励振されうるすべて伝搬モードの応答が現れるが、SH波型漏洩弾性表面波(L-SAW)に着目して検討した。第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の弾性波の波長を10μmとした。
【0099】
また、比較例4として、
図11において接合基板30が2つに分割されておらず、第1圧電薄板10、第2圧電薄板20の両方が第1圧電薄板と同じもの(圧電定数、オイラー角、寸法)言い換えると第1圧電薄板10の厚みがh
1/λ=0.20になり、第2圧電薄板20の厚みが0になったものについても共振特性のFEM解析を行った。
【0100】
このFEM解析結果を
図12、
図13に示す。
図12は、実施例4のFEM解析結果であり、
図13は、比較例4のFEM解析結果である。
図12に示すように、実施例4では、4000m/s近辺にある必要な共振モードであるL-SAWのモードは存在しているが、スプリアスとなるそれ以外の共振モードは存在していない。
【0101】
一方、
図13に示すように、比較例4の解析結果では、3400m/s近辺、及び6250m/s近辺にスプリアスが見られる。
このように、実施例4では、接合基板30の下面(電極40の無い側の面)に支持基板60が接合されているので、第1実施形態から第3実施形態とは異なり、接合基板30の上面、下面の対称性が崩れ、支持基板の中にも振動が漏れる。
【0102】
そのため、接合基板30を第1圧電薄板10と第2圧電薄板20とに分割する割合をそれに応じて変えることにより、スプリアスを低減させることができる。
【0103】
即ち、スプリアスとなる不要な振動モードに関係するそれぞれの圧電薄板の圧電定数は、絶対値が同じで符号が反転するように2つの圧電薄板のオイラー角を設定し、かつ、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の厚みの割合を調整することにより、支持基板60を接合してもスプリアスを低減させることができる。
【0104】
ここで、音速の速い支持基板とは、例えば、Si、水晶、サファイア、SiC、SiO2、ダイヤモンド、あるいは水晶、サファイア、SiC、SiO2、ダイヤモンドから選択されるいずれかが成膜されたSi基板がある。
【0105】
ここで、FEM解析は、第1圧電薄板10のオイラー角は、(0°,100°,0°)、第2圧電薄板20のオイラー角は、(0°,280°,180°)で行ったが、圧電定数e16が同じ値であり、かつ、前記2つの圧電薄板の圧電定数e31、e15の絶対値が同じで符号が反転するオイラー角の組み合わせでもFEM解析は同じ結果となる。
【0106】
即ち、圧電薄板のうち一方の圧電薄板のオイラー角が(φ,θ,0°)(φ、θは任意の角度)であるとすると、他方の圧電薄板のオイラー角は、(φ,θ±180°,0°±180°)であるか、または、これらと結晶学的に等価なオイラー角の圧電薄板であっても、FEM解析は同じ結果となる。
【0107】
また、FEM解析は、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20は、ニオブ酸リチウムで行ったが、ニオブ酸リチウムとタンタル酸リチウムは、結晶対称性が同一なのでタンタル酸リチウムにおいても同様な結果となり、更に、これらと結晶学的に等価なオイラー角であっても同様の結果となる。
【0108】
<第5実施形態>
本発明の第5実施形態について図面を参照して説明する。
図14Aは、第5実施形態の概略断面図である。第5実施形態は、
図11で示される第4実施形態と同じ所の説明は省略し、異なる所を説明する。
【0109】
図14Aを参照して、第5実施形態の弾性波デバイスは、XカットY伝搬LN(ニオブ酸リチウム)で形成された第1圧電薄板10及び第2圧電薄板20と、支持基板60であるダイヤモンド基板と、電極40とを備えている。ダイヤモンド基板は、アモルファスのダイヤモンドで形成されている。
【0110】
接合基板30は、第1圧電薄板10と、第2圧電薄板20とで形成され、第1圧電薄板10、第2圧電薄板20、ダイヤモンドの順番に配置され、接合されている。
【0111】
電極40は、アルミニウムであり、第1圧電薄板10上に形成され、その厚みhAlは、アルミニウムに弾性波を伝搬させたときの波長をλAlをとしたとき、hAl/λAl=0.03となる値、即ち、弾性波が接合基板を伝搬したときの波長の3%の値とした。
【0112】
第1圧電薄板10の厚みh1及び第2圧電薄板20の厚みh2は、接合基板30に伝搬させる弾性波の波長をλとしたとき、h1/λ=0.10、h2/λ=0.20である。また、ダイヤモンド基板の厚みは、弾性波の波長をλとしたとき10λとなる。
【0113】
また、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20のオイラー角は、使用する振動モードに関係する第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の圧電定数を同一とし、スプリアスとなる不要な振動モードに関係する、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の2つの圧電薄板の圧電定数は、絶対値が同じで符号が反転するように、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20のオイラー角を選んだ。
【0114】
図14Bに第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の圧電定数テンソルを示す。
図14Bは、
図14Aに示されるLN圧電薄板の圧電定数テンソルを示す図である。
図14Bの上層で示される圧電定数テンソルは、第1圧電薄板10の圧電定数テンソルであり、下層で示される圧電定数テンソルは第2圧電薄板20の圧電定数テンソルである。
【0115】
図14Bに示すように、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の圧電定数e16は、同じ値であり、かつ、この2つの圧電薄板の圧電定数e34、e16は、絶対値が同じで符号が反転するようなオイラー角となっている。
【0116】
具体的には、第1圧電薄板10のオイラー角は、(90°,90°,36°)であり、第2圧電薄板20のオイラー角は、(90°,-90°,-36°)である。
【0117】
ここで、上記オイラー角は、一方の圧電薄板のオイラー角が(90°,90°,ψ)(ψは任意の角度)であるとすると、他方の圧電薄板のオイラー角が(90°,-90°,-ψ)であるか、または、これらと結晶学的に等価なオイラー角であれば、FEM解析結果は同様のものとなる。
【0118】
ここで、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20は、ニオブ酸リチウムであり、支持基板60はダイヤモンド基板なので、支持基板60の音速は、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の音速よりも速いことになる。
【0119】
この第5実施形態について、実施例5としてFEM解析を実施した。FEM解析により、この構造で励振されうるすべて伝搬モードの応答が現れるが、縦波型漏洩弾性表面波[LL-SAW(Longitudinal-type Leaky SAW)]に着目して検討した。第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の弾性波の波長を10μmとした。
【0120】
また、比較例5として、
図14Aにおいて接合基板30が2つに分割されておらず、第1圧電薄板10、第2圧電薄板20の両方が第1圧電薄板と同じもの(圧電定数、オイラー角、寸法)言い換えると第1圧電薄板10の厚みがh
1/λ=0.30になり、第2圧電薄板20の厚みが0になったものについても共振特性のFEM解析を行った。
【0121】
このFEM解析結果を
図15、
図16に示す。
図15は、実施例5のFEM解析結果であり、
図16は、比較例5のFEM解析結果である。
図16に示すように、比較例5の解析結果では、6500m/s近辺以外の所に多くのスプリアスが見られる。
【0122】
しかしながら、
図15に示すように、実施例5では、6500m/s近辺にある必要な共振モードは減衰していないが、スプリアスとなるそれ以外の共振モードは消滅するか、大きく減衰している。
【0123】
このように、実施例5では実施例4と同様に接合基板30の下面(電極40の無い側の面)に支持基板60が接合されているので、第1実施形態から第3実施形態とは異なり、接合基板30の上面、下面の対称性が崩れ、支持基板の中にも振動が漏れる。
【0124】
そのため、接合基板30を第1圧電薄板10と第2圧電薄板20とに分割する割合をそれに応じて変えることにより、スプリアスを低減させることができる。
【0125】
即ち、スプリアスとなる不要な振動モードに関係するそれぞれの圧電薄板の圧電定数は、絶対値が同じで符号が反転するように2つの圧電薄板のオイラー角を設定し、かつ、第1圧電薄板10と第2圧電薄板20の厚みの割合を調整することにより、支持基板60を接合してもスプリアスを低減させることができる。
【0126】
ここで、音速の速い支持基板とは、例えば、Si基板、水晶基板、サファイア基板、SiC基板、SiO2基板、ダイヤモンド基板、あるいは水晶、サファイア、SiC、SiO2、ダイヤモンドから選択されるいずれかが成膜されたSi基板がある。
【0127】
ここで、FEM解析は、第1圧電薄板10のオイラー角は、(90°,90°,36°)、第2圧電薄板20のオイラー角は、(90°,-90°,-36°)で行ったが、以下の(1)~(3)のオイラー角の組み合わせか、または、(1)~(3)のオイラー角の組み合わせと結晶学的に等価なオイラー角の組み合わせの圧電薄板であってもFEM解析は同じ結果となる。(φ、θ、ψは任意の角度)
(1)一方の圧電薄板のオイラー角 (φ,90°,ψ)
他方の圧電薄板のオイラー角 (φ,-90°,-ψ)
(2)一方の圧電薄板のオイラー角 (90°,θ,ψ)
他方の圧電薄板のオイラー角 (90°,-θ,-ψ)
(3)一方の圧電薄板のオイラー角 (90°,90°,ψ)
他方の圧電薄板のオイラー角 (90°,-90°,-ψ)
【0128】
また、実施例5では、第1圧電薄板の厚さh1と第2圧電薄板の厚さh2の比率は、h1:h2=1:2であるが、この厚さの比率を調整することにより、スプリアスとなる不要な振動モードを励振しないようにすることができる。
【0129】
なお、本発明の第1圧電薄板10、第2圧電薄板20は、薄板という表現を使用しているが、CVDやスパッタにより成膜した膜や、その他、有機金属気相成長法、分子線エピタキシー、液相成長法等の結晶成長法を用いて成膜した膜を第1圧電薄板10、第2圧電薄板20として用いることもできることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0130】
10 第1圧電薄板
20 第2圧電薄板
30 接合基板
40 電極
50 下部電極
60 支持基板