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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067565
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】含フッ素スチレン化合物の精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/386 20060101AFI20240510BHJP
   C07C 25/28 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
C07C17/386
C07C25/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177751
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】井上 大輔
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AD12
4H006AD16
4H006BB17
4H006BM10
4H006BM30
4H006BM71
4H006EA21
(57)【要約】
【課題】含フッ素スチレン化合物および含フッ素スチレン2量体を含有する組成物から、高純度の含フッ素スチレン化合物を得る方法を提供する。
【解決手段】含フッ素スチレン化合物および含フッ素スチレン2量体を含有する組成物を、カルボン酸溶剤の存在下に蒸留し、含フッ素スチレン化合物とカルボン酸溶剤の共沸混合物を得て、その後、塩基水洗浄しカルボン酸溶剤を除去することで高純度な含フッ素スチレン化合物を得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化3】
(式(1)中、において、X~Xは、以下のいずれかを示す。
~Xの全てがフッ素原子である、
~Xの全てが水素原子である、または
~Xにおいて、XおよびXが水素原子であり、X~Xのいずれか1つがハロゲン原子、アルキル基、アミノ基、シアノ基、メトキシ基もしくはニトロ基であり、残りが全て水素原子である)
で表される含フッ素スチレン化合物および下記一般式(2)
【化4】
(式(2)中、X~Xは、前記一般式(1)におけるX~Xと同じである。)
で表される含フッ素スチレン2量体を、カルボン酸溶剤の存在下に蒸留し、含フッ素スチレン化合物と溶剤の共沸混合物を得て、その後塩基水洗浄によりカルボン酸溶剤を除去することで高純度な含フッ素スチレン化合物を得ることを特徴とする含フッ素スチレン化合物の精製方法。
【請求項2】
前記カルボン酸溶剤が、下記一般式(3)
R-COOH (3)
(式(3)中、Rは炭素数1~10のアルキル基を示す。)
で表されるカルボン酸溶剤である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一般式(1)および一般式(2)におけるX~Xの全てが水素原子である請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記一般式(1)および一般式(2)におけるX~Xの全てが水素原子であり、かつ、前記カルボン酸溶剤が酢酸である請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は含フッ素スチレン化合物の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素スチレン化合物は、燃料電池用電解質膜や化学増幅レジスト材料、有機半導体材料等の機能性材料、医農薬の製造中間体として工業的に有用な化合物である。
しかしながら、α,β,β-トリフルオロスチレン等の含フッ素スチレン化合物は、熱により容易に2量化が進行することが知られており(例えば非特許文献1参照)、製造後の保管中に純度低下が起こり、精製が困難となるという課題があった。
【0003】
特許文献1では、α,β,β-トリフルオロスチレンの2量化という課題に対し、α-アリール-α,β,β,β-テトラフルオロエタン類をアルカリ金属ビス(トリメチルシリル)アミドと反応させ、次いでα,β,β-トリフルオロスチレン類と副生物のビス(トリメチルシリル)アミンとを含む混合物をフッ化水素、または、有機塩基とフッ化水素とからなる塩もしくは錯体と反応させて、目的物のα,β,β-トリフルオロスチレン類を精製するという工程を経る提案をしている。この手法は蒸留精製だけで後処理と精製を素早く効率的に行えるという利点があるものの、α,β,β-トリフルオロスチレン類が2量化した場合に対し、2量体を除去するという課題にはまだ改善すべき点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-171948号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】V.B.Rudak et.al., Zhurnal Organicheskoi Khimii, 1974, 10, 1019-1024.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記従来の技術において改善すべき点を鑑み、含フッ素スチレン化合物の単量体を精製する新たな方法を提供することにある。詳しくは、含フッ素スチレン化合物の単量体と含フッ素スチレン2量体を含有する組成物から、高純度の含フッ素スチレン化合物を得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、含フッ素スチレン化合物の単量体の精製方法について鋭意検討した結果、含フッ素スチレン化合物の単量体と含フッ素スチレンの2量体とを含有する混合物を、カルボン酸溶剤の存在下に蒸留し、含フッ素スチレン化合物の単量体とカルボン酸溶剤の共沸混合物を得て、その後、塩基水洗浄しカルボン酸溶剤を除去することで高純度な含フッ素スチレン化合物の単量体が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記の要旨に係る。
[1]下記一般式(1)
【化1】
(式(1)中、において、X~Xは、以下のいずれかを示す。
~Xの全てがフッ素原子である、
~Xの全てが水素原子である、または
~Xにおいて、XおよびXが水素原子であり、X~Xのいずれか1つがハロゲン原子、アルキル基、アミノ基、シアノ基、メトキシ基もしくはニトロ基であり、残りが全て水素原子である)
で表される含フッ素スチレン化合物および下記一般式(2)
【化2】
(式(2)中、X~Xは、前記一般式(1)におけるX~Xと同じである。)
で表される含フッ素スチレン2量体を、カルボン酸溶剤の存在下に蒸留し、含フッ素スチレン化合物と溶剤の共沸混合物を得て、その後塩基水洗浄によりカルボン酸溶剤を除去することで高純度な含フッ素スチレン化合物を得ることを特徴とする含フッ素スチレン化合物の精製方法。
[2]前記カルボン酸溶剤が、下記一般式(3)
R-COOH (3)
(式(3)中、Rは炭素数1~10のアルキル基を示す。)
で表されるカルボン酸溶剤である項[1]に記載の方法。
[3]前記一般式(1)および一般式(2)におけるX~Xの全てが水素原子である項[1]または項[2]に記載の方法。
[4] 前記一般式(1)および一般式(2)におけるX~Xの全てが水素原子であり、かつ、前記カルボン酸溶剤が酢酸である項[1]に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により高純度の含フッ素スチレン化合物の単量体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一態様は、含フッ素スチレン化合物の精製方法に関する。より詳しくは、含フッ素スチレン化合物の単量体と含フッ素スチレンの2量体とを含有する混合物を、カルボン酸溶剤の存在下に蒸留し、含フッ素スチレン化合物の単量体とカルボン酸溶剤の共沸混合物を得て、その後、塩基水洗浄しカルボン酸溶剤を除去することで高純度な含フッ素スチレン化合物の単量体を得る、含フッ素スチレン化合物の精製方法に係る。
【0011】
<含フッ素スチレン化合物>
本発明において精製の対象となる含フッ素スチレン化合物としては、前記一般式(1)で表される化合物である。例えば、α,β,β-トリフルオロスチレン、1-メチル-4-(1,2,2-トリフルオロエテニル)ベンゼン、1-メトキシ-4-(1,2,2-トリフルオロエテニル)ベンゼン、1-フルオロ-4-(1,2,2-トリフルオロエテニル)ベンゼン、1-クロロ-4-(1,2,2-トリフルオロエテニル)ベンゼン、1-ブロモ-4-(1,2,2-トリフルオロエテニル)ベンゼン、1-(1,2,2-トリフルオロエテニル)-4-(トリフルオロメチル)ベンゼン、4-(1,2,2-トリフルオロエテニル)ベンゾニトリル、3-(1,2,2-トリフルオロエテニル)ベンゾニトリル、1-ニトロ-4-(1,2,2-トリフルオロエテニル)ベンゼン、1-ニトロ-3-(1,2,2-トリフルオロエテニル)ベンゼン、3-(1,2,2-トリフルオロエテニル)アニリン、パーフルオロスチレンなどで表されるトリフルオロビニル基を有する含フッ素スチレン化合物が挙げられ、これらの内でも、α,β,β-トリフルオロスチレン、パーフルオロスチレンが前記の製造中間体として有用である点で好ましい。
【0012】
本発明において、前記一般式(2)で表される含フッ素スチレン化合物の2量体は、前記一般式(1)で表される含フッ素スチレン化合物の単量体の2分子から生成する化合物である。一般式(2)で表される含フッ素スチレン化合物の2量体構造において、2つのベンゼン環の間での立体構造はシス型であってもトランス型であってもよい。
【0013】
<カルボン酸溶剤>
本発明においては、カルボン酸溶剤を含フッ素スチレン化合物の単量体と含フッ素スチレンの2量体を含有する混合物に添加し、その後蒸留を行うことで、含フッ素スチレン化合物の単量体とカルボン酸溶剤の共沸混合物を得ることができ、含フッ素スチレン化合物の単量体と含フッ素スチレンの2量体との分離が可能となる。
本発明において使用されるカルボン酸溶剤としては特に種類は限定されないが、含フッ素スチレン化合物と共沸混合物を形成でき、さらに、塩基水洗浄で容易に除去できる化合物であることが望ましい。また、含フッ素スチレン化合物と共沸混合物を形成する可能性が高いため、カルボン酸溶剤は含フッ素スチレン化合物の沸点に対して±30℃以内程度の沸点であるものが好ましい。カルボン酸溶剤は例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ヘキサン酸、吉草酸、ノナン酸、オクタン酸、デカン酸などが挙げられる。これらの内でも、入手性の良さ、塩基水への溶解性の良さ、および含フッ素スチレン化合物と沸点が近いことから酢酸、プロピオン酸、酪酸が好ましく、中でも、悪臭懸念が小さいことから酢酸がより望ましい。
【0014】
使用するカルボン酸溶剤の好ましい添加量は、含フッ素スチレン化合物1mol当量に対して、0.5mol当量~10mol当量、より好ましくは1.0mol当量~5.0mol当量、より好ましくは2.0mol当量~4.0mol当量である。カルボン酸溶剤が少なすぎると共沸混合物を得ることが困難となることがあり、蒸留収率が低下する可能性がある。また、カルボン酸溶剤が多すぎると塩基水洗浄での中和操作が煩雑となることがあり、さらに水層へ含フッ素スチレン化合物が一部抽出され収率が低下する可能性がある。
【0015】
<蒸留>
本発明においては、蒸留を行うことで、含フッ素スチレン化合物の単量体とカルボン酸溶剤の共沸混合物を得ることができ、含フッ素スチレン化合物の単量体と含フッ素スチレンの2量体とを分離できる。
本発明において使用される蒸留方法には特に制限はないが、含フッ素スチレン化合物の単量体の2量化反応を抑制できることが望ましい。例えば、単蒸留、精密蒸留、薄膜蒸留などが挙げられる。熱負荷が少ない点で単蒸留が好ましい。
【0016】
本発明における蒸留温度は、10℃~90℃が好ましく、より好ましくは30℃~70℃である。蒸留温度が高すぎると、熱による含フッ素スチレン化合物の単量体の2量化反応が起こることがあり、蒸留収率が低下する可能性がある。また、蒸留温度が低すぎると、蒸留操作が困難となる可能性がある。
本発明における蒸留時の圧力は、含フッ素スチレン化合物の単量体とカルボン酸溶剤の共沸混合物の沸点が、前記の好ましい蒸留温度となるような圧力とすることができる。
本発明における蒸留の時間は、特に制限はないが、0.1時間~6時間が好ましく、より好ましくは0.1時間~3時間である。蒸留時間が長くなると、熱による含フッ素スチレン化合物の単量体の2量化反応により蒸留収率が低下する可能性がある。
【0017】
<塩基水洗浄>
本発明においては、塩基水洗浄を行うことで、含フッ素スチレン化合物とカルボン酸溶剤の共沸混合物から、カルボン酸溶剤をカルボン酸塩の形で水層へ除去することができる。
本発明において使用される塩基の種類は特に限定されないが、含フッ素スチレン化合物と反応しないものが望ましい。例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア水などが挙げられる。入手性の点および塩の溶解性の良さ、着色懸念の少なさから炭酸水素カリウムまたは炭酸カリウムがより望ましい。
【0018】
必要に応じて、塩基水洗浄後にさらなる後処理を実施してもよい。例えば、飽和食塩水などによる洗浄、硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウム、モレキュラーシーブなどの脱水剤による脱水、ろ過やカラムクロマトグラフィーなどによる精製が挙げられる。
【実施例0019】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0020】
なお、分析に当たっては下記機器を使用した。
ガスクロマトグラフィー(GC):島津製 GC-2025
【0021】
[実施例1]
ビグリュー管、コンデンサー、真空ポンプを備えた300mLの4口フラスコ(反応容器として)に、α,β,β-トリフルオロスチレン(97.25g、0.615mol相当量)とα,β,β-トリフルオロスチレン二量体(26.07g、0.082mol、21.06重量%相当量)とを含有する混合物(合計123.78g)、および酢酸106.97g(1.78mol)を仕込んだ。この反応容器を絶対圧力10kPaまで減圧し、オイルバスに反応容器を浸し、その内容液を60℃に加熱して沸騰させ単蒸留を行なった。これにより、α,β,β-トリフルオロスチレン/酢酸(mol比1.0/3.0)の共沸混合物を199.61g取得した。得られた共沸混合物を10重量%炭酸カリウム水溶液200mLで中和し、飽和食塩水200mLで洗浄し、テフロン(登録商標)製0.22μmメンブレンフィルターでろ過した。その結果、精製された無色透明液体のα,β,β-トリフルオロスチレンを72.86g得た。この精製されたα,β,β-トリフルオロスチレンをGC測定したところ、純度は99.74重量%(72.67g、0.460mol相当量)、回収率は74.7%であった。α,β,β-トリフルオロスチレン二量体は0.14重量%含有していた。なお、取得したα,β,β-トリフルオロスチレン中にはGC測定において酢酸は検出されなかった。
【0022】
[比較例1]
酢酸を添加しなかったこと以外は実施例1と同様に単蒸留を実施した。反応容器を絶対圧力10kPaまで減圧し、オイルバスにて内容液を60℃に加熱したところ、α,β,β-トリフルオロスチレンの蒸気の発生が見られなかった。その後、絶対圧力3kPaまで減圧度を高めたところ、内容液が激しく発泡してしまい、単蒸留を実施することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明により得られる含フッ素スチレン化合物は、燃料電池用電解質膜や化学増幅レジスト材料、有機半導体材料等の機能性材料、医農薬の製造中間体としての利用が期待される。