(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067577
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】プレス成形品の形状予測方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B21D 22/00 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
B21D22/00
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177778
(22)【出願日】2022-11-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】卜部 正樹
(72)【発明者】
【氏名】仲本 平
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐輔
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA21
4E137BA01
4E137BB01
4E137BC01
4E137CA09
4E137CB01
4E137CB03
4E137EA01
4E137FA12
4E137FA17
4E137GA03
4E137GA08
4E137GB03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】成形後数秒~数分での形状測定結果から、プレス成形品の安定形状を簡易に予測できるプレス成形品の形状予測方法及び装置を提供する。
【解決手段】本発明に係るプレス成形品の形状予測方法は、離型直後から所定時間経過した少なくとも2回のタイミングで、前記プレス成形品の特定部位の形状変化量を測定し、該測定結果に基づいて(1)式における係数a、bを、係数a1、b1として特定し、前記形状変化量を測定したタイミングの時期に応じて予め設定された時間tfを(2)式に代入して形状が安定したプレス成形品における前記特定部位の形状変化量の予測値であるXfを求める。
x=a×log(t)+b・・・(1)
ただし、tは、離型直後からの経過時間
xは、時間tにおける形状変化量
Xf=a1×log(tf)+b1・・・(2)
ただし、tfは、予め設定された時間
a1,b1は、係数特定ステップで特定された値
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板のプレス成形において、離型直後に瞬間的に発生するスプリングバックの後に、時間経過によって形状が変化した後に形状が安定したプレス成形品の形状を予測するプレス成形品の形状予測方法であって、
離型直後から所定時間経過した少なくとも2回のタイミングで、各タイミングにおける前記プレス成形品の特定部位の形状変化量を測定し、測定結果に基づいて(1)式における係数a、bを、係数a1、b1として特定する係数特定ステップと、
前記形状変化量を測定したタイミングの時期に応じて予め設定された時間tfを(2)式に代入して形状が安定したプレス成形品における前記特定部位の形状変化量の予測値であるXfを求める予測値算出ステップと、を備えたことを特徴とするプレス成形品の形状予測方法。
x=a×log(t)+b ・・・(1)
ただし、tは、離型直後からの経過時間
xは、時間tにおける形状変化量
Xf=a1×log(tf)+b1 ・・・(2)
ただし、tfは、予め設定された時間
a1,b1は、係数特定ステップで特定された値
【請求項2】
前記予測値算出ステップは、前記2回のタイミングが離型直後から120秒以内の場合には、tfを4400~7800秒の範囲の数値とし、前記2回のタイミングが離型直後から120秒超え1800秒以内の場合には、tfを7900~31000秒の範囲の数値とすることを特徴とする請求項1に記載のプレス成形品の形状予測方法。
【請求項3】
前記係数特定ステップにおいて測定する形状変化量が、プレス成形品の2点間の距離の変化量、プレス成形品の1点と基準治具の1点との距離の変化量、プレス成形品の2点間の線分と基準治具上の2点間の線分との角度の変化量、プレス成形品表面の曲率の変化量、プレス成形品中の1つ以上の曲げ稜線を挟む2組の2点間の線分がなす角度の変化量、のいずれかであることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス成形品の形状予測方法。
【請求項4】
金属板のプレス成形において、離型直後に瞬間的に発生するスプリングバックの後に、時間経過によって形状が変化した後に形状が安定したプレス成形品の形状を予測するプレス成形品予測装置であって、
離型直後からの経過時間を測定する時間測定部と、
離型直後から所定時間経過した少なくとも2回のタイミングで、各タイミングにおける前記プレス成形品の特定部位の形状変化量を測定し、測定タイミング、測定部位及び測定値を記録する形状測定部と、
該形状測定部の測定結果に基づいて(1)式における係数a、bを、係数a1、b1として特定し、前記形状変化量を測定したタイミングの時期に応じて予め設定された時間tfを(2)式に代入して形状が安定したプレス成形品における前記特定部位の形状変化量の予測値であるXfを求める予測値算出部と、を備えたことを特徴とするプレス成形品の形状予測装置。
x=a×log(t)+b ・・・(1)
ただし、tは、離型直後からの経過時間
xは、時間tにおける形状変化量
Xf=a1×log(tf)+b1 ・・・(2)
ただし、tfは、予め設定された時間
a1,b1は、係数特定ステップで特定された値
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板のプレス成形において、離型直後に瞬間的に発生するスプリングバックの後に、時間経過によって形状が変化した後に形状が安定したプレス成形品の形状を予測するプレス成形品の形状予測方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス成形は金属部品を低コストかつ短時間に製造することができる製造方法であり、多くの自動車部品の製造に用いられている。
近年では、自動車の衝突安全性と車体の軽量化を両立するため、より高強度の金属板が自動車部品に利用されるようになっている。高強度の金属板をプレス成形する場合の主な課題の一つにスプリングバックによる寸法精度の悪化がある。金属板をプレス成形により変形させる際に発生する応力が駆動力となり、金属板が加工前の形状にバネのように戻ろうとする現象をスプリングバックと呼ぶ。
【0003】
プレス成形時に発生する応力は高強度の金属板ほど大きくなるため、スプリングバックによる形状変化も大きくなる。
したがって、高強度の鋼板ほどスプリングバック後の形状を規定の寸法内におさめることが難しくなる。
そこで、プレス成形品の生産ラインにおいては、実プレス成形品である試作プレス成形品を作成後、寸法測定が行われる。そして、寸法精度が基準を満足しない場合は、金型の修正、あるいは加工荷重などの成形条件を変化させる等の調整が行われる。
【0004】
一般的に、実プレス成形品の寸法精度の測定は、専用の検査治具に設置した上で、検査治具と成形品との隙間量を計測する方法、あるいは成形品の3次元形状測定を行い、コンピュータ上で正寸形状データと比較する方法がとられる(非特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、実プレス成形品では、離型後にスプリングバックした直後から時間の経過に伴って、形状変化が生ずることが知られている。(特許文献1参照)。そして、金型から離型してスプリングバックした実プレス成形品の形状変化がほとんど生じない安定した状態(安定形状)になるまでに少なくとも30分間以上を要するので、離型した後30分間以上放置してからプレス成形品の形状を測定する方法が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】プレス成形難易ハンドブック第3版 薄鋼板成形技術研究会編 P.341-342
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、生産性の観点から、実プレス成形品を離型した後30分間以上を待つことなく、実プレス成形品の安定形状を簡易に予測できる方法が望まれていた。
【0009】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、成形後数秒~数分での形状測定結果から、プレス成形品の安定形状を簡易に予測できるプレス成形品の形状予測方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]本発明に係るプレス成形品の形状予測方法は、金属板のプレス成形において、離型直後に瞬間的に発生するスプリングバックの後に、時間経過によって形状が変化した後に形状が安定したプレス成形品の形状を予測する方法であって、
離型直後から所定時間経過した少なくとも2回のタイミングで、各タイミングにおける前記プレス成形品の特定部位の形状変化量を測定し、測定結果に基づいて(1)式における係数a、bを、係数a1、b1として特定する係数特定ステップと、
前記形状変化量を測定したタイミングの時期に応じて予め設定された時間tfを(2)式に代入して形状が安定したプレス成形品における前記特定部位の形状変化量の予測値であるXfを求める予測値算出ステップと、を備えたことを特徴とするものである。
x=a×log(t)+b ・・・(1)
ただし、tは、離型直後からの経過時間
xは、時間tにおける形状変化量
Xf=a1×log(tf)+b1 ・・・(2)
ただし、tfは、予め設定された時間
a1,b1は、係数特定ステップで特定された値
【0011】
[2]また、上記[1]に記載のものにおいて、前記予測値算出ステップは、前記2回のタイミングが離型直後から120秒以内の場合には、tfを4400~7800秒の範囲の数値とし、前記2回のタイミングが離型直後から120秒超え1800秒以内の場合には、tfを7900~31000秒の範囲の数値とすることを特徴とするものである。
【0012】
[3]また、上記[1]又は[2]に記載のものにおいて、前記係数特定ステップにおいて測定する形状変化量が、プレス成形品の2点間の距離の変化量、プレス成形品の1点と基準治具の1点との距離の変化量、プレス成形品の2点間の線分と基準治具上の2点間の線分との角度の変化量、プレス成形品表面の曲率の変化量、プレス成形品中の1つ以上の曲げ稜線を挟む2組の2点間の線分がなす角度の変化量、のいずれかであることを特徴とするものである。
【0013】
[4]本発明に係るプレス成形品の形状予測装置は、金属板のプレス成形において、離型直後に瞬間的に発生するスプリングバックの後に、時間経過によって形状が変化した後に形状が安定したプレス成形品の形状を予測するものであって、
離型直後からの経過時間を測定する時間測定部と、
離型直後から所定時間経過した少なくとも2回のタイミングで、各タイミングにおける前記プレス成形品の特定部位の形状変化量を測定し、測定タイミング、測定部位及び測定値を記録する形状測定部と、
該形状測定部の測定結果に基づいて(1)式における係数a、bを、係数a1、b1として特定し、前記形状変化量を測定したタイミングの時期に応じて予め設定された時間tfを(2)式に代入して形状が安定したプレス成形品における前記特定部位の形状変化量の予測値であるXfを求める予測値算出部と、を備えたことを特徴とするものである。
x=a×log(t)+b ・・・(1)
ただし、tは、離型直後からの経過時間
xは、時間tにおける形状変化量
Xf=a1×log(tf)+b1 ・・・(2)
ただし、tfは、予め設定された時間
a1,b1は、係数特定ステップで特定された値
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、一般的に離型後に寸法が安定するとされる時間(例えば30分)を待つことなく、プレス成形品の安定形状を予測することができる。そして、プレス成形品の安定形状が最終的に目標の寸法精度を達成するか否かを早期に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態1に係るプレス成形品の形状予測方法の説明図である。
【
図2】実施の形態2に係るプレス成形品の形状予測装置の説明図である。
【
図3】
図2に示したプレス成形品の形状予測装置における形状測定部の具体的な構成の説明図である。
【
図4】本発明に至る経緯を説明する図である(その1)。
【
図5】本発明に至る経緯を説明する図である(その2)。
【
図6】本発明に至る経緯を説明する図である(その3)。
【
図7】本発明に至る経緯を説明する図である(その4)。
【
図8】実施例のプレス成形品の形状及び特定部位の説明図であり、
図8(a)は平面図、
図8(b)は
図8(a)のD-D’断面図、
図8(c)は
図8(a)のA-A’断面、B-B’断面及びC-C’断面の3つの断面を示している。
【
図9】実施例の結果を示すグラフである(その1)。
【
図10】実施例の結果を示すグラフである(その2)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[発明に至る経緯]
実施の形態の説明に先立って、本発明に至った経緯を説明する。
発明者らは、スプリングバック後の安定形状の寸法予測値を簡易的な方法により精度よく予測する方法を検討した。検討に際して、
図4に示すように、L曲げ金型試験機21を用いて、固定片部23aとパンチ肩R部23bを介して連続する曲げ片部23cとを有するL形部品23をプレス成形(L字曲げ成形)する試験を実施した。
試験は、L曲げ金型試験機21の側面にレーザー変位計25を設置してレーザーを曲げ片部23cに照射し、成形下死点位置からの離型後の曲げ片部23cの変位量を連続的に計測するというものである。
なお、
図4における点線(A)は、離型直後のスプリングバックした時の曲げ片部23cを示しており、実線(B)がその後の時間経過による変形後の曲げ片部23cを示している。そして、レーザー変位計25を設置した高さ方向の位置における点線(A)と実線(B)の間の水平方向距離を、スプリングバック後の経時的な形状変化の大きさ(形状変化量)として評価した。
【0017】
L型部品23の条件は、以下の通りである。
・引張強度:1180Mpa級、590Mpa級
・ブランク形状:縦120(mm)×横90(mm)×厚さ1.2(mm)
・パンチ肩R部23bの曲率半径:R6mm、R8mm
【0018】
図5は上記の試験結果を示すグラフであり、横軸が離型後経過時間(s)の対数、縦軸が曲げ片部23cの形状変化量(mm)を示している。
図5に示されるように、引張強度が高く、L字曲げ成形のパンチ肩R部23bの曲率半径が大きいほど、曲げ片部23cの形状変化量は大きくなる。しかし、いずれも離型直後からの時間の経過とともに、緩やかな変化(傾き)に徐々に移行しつつ、形状が安定した状態(安定形状)に向かうという点では共通している。
【0019】
図6は、
図5に示した0.1秒から172800秒(48時間)までの形状変化量を、172800秒(48時間)の時の形状変化量で除して正規化、すなわち172800秒の時の形状変化量を1.0として表示したものである
図6に示されるように、
図5に示した3つの曲線がほぼ重なった状態になっている。すなわち、金属板の引張強度や、L字曲げ成形のパンチ肩R部23bの曲率半径等、スプリングバック量に影響する因子が違っていても、スプリングバック後の経時的な形状変化は、同じパターン(形状変化の経路)で生じている。これは、実プレス成形品(L型部品23)を離型した後30分間以上待たなくとも、離型直後から数秒~数分の所定時間経過した時点の形状変化量に基づいて、スプリングバックの後に、時間経過によって形状が変化した後に形状が安定した実プレス成形品の形状変化量を予測できることを示している。
【0020】
図7に示すように、離型直後(離型後0.1秒)から所定時間(離型後120秒)の間の形状変化量は、片対数グラフ上においてほぼ直線となる。この直線は、離型後経過時間の対数に関する下記に示す一次式(形状変化近似式)で表される。
x=a×log(t)+b ・・・ (1)
t:離型直後からの経過時間
x:時間tにおける形状変化量
a、bは係数
そして、離型直後から所定時間経過した少なくとも2回のタイミング(例えば、120秒以内に2回)で、各タイミングにおけるL型部品23の形状変化量を測定し、測定結果に基づいて上記(1)式の係数a、bを特定することで、L字曲げ成形後の経過時間に対応する形状変化量を求めることができる。
【0021】
しかし、離型後時間経過と形状変化量の関係は、
図7に示すように、実際のスプリングバック後の経時変化による形状変化は非線形であり、離型直後からの時間経過とともに、緩やかな変化(傾き)に徐々に移行しつつ、形状が安定した状態(安定形状)に向かうので、172800秒(48時間)の時点では、式(1)の形状変化近似式(一次式)で算出される形状変化量の予測値と実際の形状変化量とで乖離が生じ、補正が必要である。
そこで、式(1)で算出される形状変化量の予測値が、L字曲げ成形後48時間(172800秒)経過後の実際の形状変化量と等しくなる時の式(1)のt(離型後経過時間tf)を求めた。
表1は、離型直後から120秒以内に2回のタイミング(1回目:t1秒、2回目:t2秒)で、各タイミングにおけるL型部品23の形状変化量を測定し、測定結果に基づいて式(1)の係数a、bを特定した場合について、上記の条件と結果をまとめて示したものである。
【0022】
【0023】
表1に示すように、式(1)で算出される形状変化量の予測値が離型後48時間経過後の実際の形状変化量と等しくなる離型後経過時間tfは、最小4357秒~最大7845秒で、平均5938秒であった。
そこで、式(1)にそれぞれの形状変化近似式の係数a、bを用い、式(1)の離型後経過時間tに、平均値であるtf=5938秒を代入して形状変化量の予測値を算出し、48時間経過後の実際の安定形状に到達後の形状変化量と比較した。比較の結果、形状変化量の予測値の誤差は±3%以内(平均2%)と良好な精度が得られた。
【0024】
表1は、2回の測定タイミングが離型後経過時間が120秒以内のものであったので、測定タイミングが離型後経過時間が120秒以上360秒以内の場合についても同様に式(1)の係数a、bの算出と、形状変化量の予測値が離型後48時間経過後の実際の形状変化量と等しくなる離型後経過時間tfを求めた。
表2は、これら条件と結果をまとめて示したものである。
【0025】
【0026】
表2に示すように、式(1)で算出される形状変化量の予測値が離型後48時間経過後の実際の形状変化量と等しくなる離型後経過時間tfは、最小7845秒秒~最大31190秒で、平均15600秒であった。
また、式(1)にそれぞれの形状変化近似式係数a、bを用い、式(1)の離型後経過時間tに平均値であるtf=15600秒を代入して求めた形状変化量と、実際の安定形状に到達後の形状変化量との誤差は±9%以内(平均2%)と良好な精度が得られた。
本発明は上述の検討結果に基づきなされたものである。
【0027】
[実施の形態1]
本実施の形態に係るプレス成形品の形状予測方法は、金属板のプレス成形において、離型直後に瞬間的に発生するスプリングバックの後に、時間経過によって形状が変化した後に形状が安定したプレス成形品の形状を予測する方法である。
そして、本実施の形態のプレス成形品の形状予測方法は、
図1に示すように、係数特定ステップと予測値算出ステップとを備えている。
以下、各ステップを詳細に説明する。
【0028】
<係数特定ステップ>
係数特定ステップは、離型直後から所定時間経過した少なくとも2回のタイミングで、各タイミングにおけるプレス成形品の特定部位の形状変化量を測定し、該測定結果に基づいて下記の(1)式における係数a、bを、係数a1、b1として特定するステップである。
x=a×log(t)+b ・・・(1)
ただし、tは、離型直後からの経過時間
xは、時間tにおける形状変化量
【0029】
係数特定ステップにおいて測定するプレス成形品の特定部位の形状変化量における特定部位及び変化量は適宜設定できるが、例えば以下のように設定するのが好ましい。
・プレス成形品の特定した2点間の距離の変化量
・プレス成形品の特定した1点と基準治具の特定した1点との距離の変化量
・プレス成形品の特定した2点間の線分と基準治具上の特定した2点間の線分との角度の変化量
・プレス成形品表面の特定部位の曲率の変化量
・プレス成形品中の1つ以上の曲げ稜線を挟む2組の2点間の線分がなす角度の変化量
【0030】
<予測値算出ステップ>
予測値算出ステップは、形状変化量を測定したタイミングの時期に応じて予め設定された時間tfを下記の(2)式に代入して形状が安定したプレス成形品における特定部位の形状変化量の予測値であるXfを求めるステップである。
Xf=a1×log(tf)+b1 ・・・(2)
ただし、tfは、予め設定された時間
a1,b1は、係数特定ステップで特定された値
【0031】
予測値算出ステップは、2回のタイミングが離型直後から120秒以内の場合には、表1に示したtfの範囲より、tfを4400~7800秒の範囲の数値とする。
また、2回のタイミングが離型直後から120秒超え1800秒以内の場合には、表2に示したtfの範囲より、tfを7900~31000秒の範囲の数値とする。
【0032】
本実施の形態のプレス成形品の形状予測方法においては、プレス成形後に少なくとも2回の寸法測定と測定タイミングを記録し、所定の計算作業を行うようにした。これにより、一般的に離型後に寸法が安定するとされる時間(例えば30分)を待つことなく、プレス成形品の安定後の形状を予測することができる。そして、プレス成形品の安定後の形状が最終的に目標の寸法精度を達成するか否かを早期に予測することができる。
【0033】
[実施の形態2]
本実施の形態は、実施の形態1におけるプレス成形品の形状予測方法を実行するプレス成形品の形状予測装置1に関するものである。
本実施の形態に係るプレス成形品の形状予測装置1は、金属板のプレス成形において、離型直後に瞬間的に発生するスプリングバックの後に、時間経過によって形状が変化した後に形状が安定したプレス成形品の形状を予測するものである。
具体的には、
図2に示すように、時間測定部3と、形状測定部5と、予測値算出部7と、を備えている。
以下、各構成を説明する。
【0034】
<時間測定部>
時間測定部3は、プレス成形品を離型した直後からの経過時間を測定する。
時間測定部3の具体的な構成例としては、タイマー3aと、金型の離型動作と連動してタイマー3aを起動してタイマー3aの計測時間に基づいて形状測定部5に測定開始信号を出力するタイマー制御部3bと、を備えたものが例示できる。
【0035】
<形状測定部>
形状測定部5は、離型直後から所定時間経過した少なくとも2回のタイミングで、各タイミングにおけるプレス成形品の特定部位の形状変化量を測定し、測定タイミング、測定部位及び測定値を記録する。
測定のタイミングは、時間測定部3からの信号に基づいて、該信号の入力したときに測定を実行するようにすればよい。
測定のタイミング、特定部位、形状変化量は、実施の形態1で説明したのと同様である。
【0036】
形状測定部5の具体的な構成例としては、光学式あるいは接触式の測定機5aと、測定機5aを制御する測定機制御部5bと、を備えたものが例示できる。
測定機5aと測定部位の例としては、例えば
図3に示すものが挙げられる。
図3(a)に示す例は、固定ピン9によって検査治具11に固定されたプレス成形品であるコ字断面部品13の特定部位、例えば縦壁部13aと検査治具11との隙間を隙間ゲージ15で測定するものである。
また、
図3(b)に示す例は、固定ピン9によって検査治具11に固定されたコ字断面部品13の特定部位、例えば縦壁部13aから離れた位置に距離計17を設置して、距離計17と縦壁部13aとの距離を測定する。距離計17としては、光学式又は接触式のいずれでもよい。
さらに、
図3(c)に示す例は、光学式測定機19によって、コ字断面部品13の対向する縦壁間の距離を測定したり、縦壁部13aと底部13bとの角度を測定したり、縦壁部13aと底部13bの曲げRの曲率半径を測定したりする例である。
【0037】
<予測値算出部>
予測値算出部7は、形状測定部5の測定結果に基づいて下式(1)における係数a、bを、係数a1、b1として特定する。そして、形状変化量を測定したタイミングの時期に応じて予め設定された時間tfを(2)式に代入して形状が安定したプレス成形品における特定部位の形状変化量の予測値であるXfを求める。
x=a×log(t)+b ・・・(1)
ただし、tは、離型直後からの経過時間
xは、時間tにおける形状変化量
Xf=a1×log(tf)+b1 ・・・(2)
ただし、tfは、予め設定された時間
a1,b1は、係数特定ステップで特定された値
測定タイミングの時期及び時期に応じて予め設定された時間tfは実施の形態1で説明したのと同様である。
【0038】
予測値算出部7の具体的な構成例としては、表示部7a、記憶部7b、及び演算・制御部7cが挙げられる。
表示部7a及び記憶部7bは、演算・制御部7cに接続され、演算・制御部7cからの指令によってそれぞれの機能が実行される。
表示部7aは、形状変化量の予測値、又は形状を表示する。記憶部7bは、形状変化量の予測値を記憶し、また式(1)、式(2)等を含む演算プログラムを記憶する。演算・制御部7cは、形状測定部5の測定結果を入力して、式(1)及び式(2)に基づいて形状変化量の予測値を演算し、また表示部7a及び記憶部7bを制御する。
【0039】
上記のように構成されたプレス成形品の形状予測装置1の動作を説明する。
まず、時間測定部3は、プレス成形品を金型から離型した直後からの経過時間を測定する。
形状測定部5は、離型直後から所定時間経過した少なくとも2回のタイミングで、各タイミングにおけるプレス成形品の特定部位の形状変化量を測定し、測定タイミング、測定部位及び測定値を記録する。
予測値算出部7は、形状測定部5の測定結果に基づいて式(1)における係数a、bを、係数a1、b1として特定する。そして、形状変化量を測定したタイミングの時期に応じて予め設定された時間tfを(2)式に代入して形状が安定したプレス成形品における特定部位の形状変化量の予測値であるXfを求め、結果を記録及び/又は表示する。
【実施例0040】
本発明の効果を確認するための試験を行ったので以下説明する。
試験に用いたプレス成形品は、
図8に示すように、平面視で略T字型の張り出し部を有するBピラー部品31であり、断面ハット形状で、長手方向に上向きに凸状に反っている。
1180MPa級の鋼板を用いてBピラーのプレス成形試験(ドロー成形)を行い、その後、三次元形状測定機で一定時間ごとに形状測定を継続的に実施した。
【0041】
Bピラー部品31におけるスプリングバックによる変形は、反り変形(反り)と捩じり変形(ねじれ)、および断面の口開き変形(開き)とに大きく分類できる。
そこで、評価対象とする特定部位として、
図8に示すように、C-C’断面の開きC、ハネC、およびねじれCとした。
そして、離型後4分経過後より、
図8中の特定部位に対して、離型後経過時間と反り、ねじれ、開きとの関係を測定した。
【0042】
測定結果を基に、式(1)及び式(2)の同定を行った。
1回目の離型後経過時間t1を252秒、2回目の成形経過時間t2を1800秒として、当該経過時間における開きC、ねじれC、ハネCの寸法測定値を求め、式(1)の形状変化近似式の係数(a,b)を算出して、a1、b1とした。表3にそれぞれの係数a1、b1の値を示す。
【0043】
【0044】
t1およびt2が120秒以上1800秒以下であるので、式(2)のtに代入する値を7900~31000秒の範囲内であるtf=20400秒とし、式(2)にtf=20400秒と係数a1、b1を代入して形状変化の予測値を算出した。そして、この予測値と48Hr経過後の寸法測定値とを比較した。
【0045】
図9及び
図10にその結果を示す。
図9は、予測値(破線の直線)と実測値(プロット)のグラフであり、縦軸が寸法変化(mm)を示し、横軸が離型後経過時間(s)を示している。
図10は、48Hr経過後の形状変化量と予測値を特定部位ごとに比較した棒グラフである。
図9、
図10の結果から本発明の予測精度は、開きC(-6%)、ハネC(+1%)、ねじれC(-3%)と良好であった。