(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067625
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】音増幅構造及び建物壁構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/99 20060101AFI20240510BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20240510BHJP
H04R 5/02 20060101ALI20240510BHJP
E04B 1/82 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
E04B1/99 E
H04R1/02 101Z
H04R5/02 Z
E04B1/82 W
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177844
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】521488370
【氏名又は名称】株式会社シメックス
(74)【代理人】
【識別番号】100173679
【弁理士】
【氏名又は名称】備後 元晴
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 篤
【テーマコード(参考)】
2E001
5D011
5D017
【Fターム(参考)】
2E001DF14
2E001EA01
2E001FA06
2E001GA11
2E001HA04
2E001KA05
5D011AA02
5D017AD17
(57)【要約】
【課題】建物内に配置されるスピーカーを大型化することなく、かつ、新築後に設ける場合であっても床下基礎の改修を行うことなく、臨場感のある音場を建物内の任意のフロアで実現する。
【解決手段】本発明の音増幅構造1は、スピーカーユニットUと連通可能な空間11が建物Bの建物側壁BW内に形成されており、建物側壁BW内には、一端(第1端部12A)において空間11と連通可能な音道12がさらに形成されており、音道12の幅が第1端部12Aから音道12の他端(第2端部12C)に向けて広くなっており、音道12の第2端部12Cは、スピーカーユニットUから出され、音道12を通じて増幅した音を建物側壁BWの外部に出力可能であり、音道12の長さは、4m以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカーユニットと連通可能な空間が建物の壁内に形成されており、
前記壁内には、一端において前記空間と連通可能な音道がさらに形成されており、
前記音道の幅が前記一端から前記音道の他端に向けて広くなっており、
前記音道の前記他端は、前記スピーカーユニットから出され、前記音道を通じて増幅した音を壁の外部に出力可能であり、
前記音道の長さは、4m以上である、音増幅構造。
【請求項2】
前記壁の材質がコンクリートを含み、前記空間及び前記音道がコンクリートと前記壁とによって画定される、請求項1に記載の音増幅構造。
【請求項3】
前記音道は、U字型、Z字型又はジグザグ型である、請求項1に記載の音増幅構造。
【請求項4】
前記壁のうち前記音道と前記壁の外部との間にある部分の少なくとも一部が前記スピーカーユニットから出された音の一部を壁の外部に通過させることが可能である、請求項1に記載の音増幅構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音増幅構造及び建物壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、臨場感のある音場を実現したいという要請がある。しかしながら、質の高い音響空間を提供するには、建物内に配置されるスピーカーを大型化する必要があり、当該音響空間を建物内に設置するには、スペース面、床の耐荷重の面の双方で制約がかかる。
【0003】
質の高い音響空間を提供する場合におけるスペース面、床の耐荷重の面の双方での制約を解決する試みとして、例えば、建物の一階の床下基礎をスピーカーのバックロードホーンとして利用することが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の発明によると、建物内に配置されるスピーカーを大型化することなく、臨場感のある音場を建物内で実現できるという効果が奏される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、建物の一階の床下基礎をスピーカーのバックロードホーンとして利用するため、建物の一階以外のフロアにバックロードホーンを設ける点において、さらなる改良の余地がある。
【0006】
また、特許文献1に記載の発明は、建物を新築するとき以外のタイミングでバックロードホーン等を設ける場合、床下基礎を改修する工事を要する。このような工事は、建物の管理者及び/又は利用者等にとって負担となることが懸念される。
【0007】
本発明は、上述のような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであり、建物内に配置されるスピーカーを大型化することなく、かつ、新築後に設ける場合であっても床下基礎の改修を行うことなく、臨場感のある音場を建物内の任意のフロアで実現可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、バックロードホーン型スピーカーにおいて音を増幅する管状構造に相当する構造を、建物の床下基礎ではなく、建物の壁内に設けることで、上述の課題を解決可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
第1の特徴に係る発明は、スピーカーユニットと連通可能な空間が建物の壁内に形成されており、この壁内には、一端においてこの空間と連通可能な音道がさらに形成されており、この音道の幅が一端から音道の他端に向けて広くなっており、この音道の他端は、上述のスピーカーユニットから出され、この音道を通じて増幅した音を壁の外部に出力可能であり、この音道の長さは、4m以上である、音増幅構造を提供する。
【0010】
スピーカーの形式には、密閉型、バスレフ型、フロントロード型、及びバックロードホーン型が知られている。
【0011】
バックロードホーン型であれば、密閉型、バスレフ型、及びフロントロード型に比べ、高い能率で音を生成できることが知られている。そのため、低音域だけでなく有効音域すべてにおいて、立ち上がりが鋭い臨場感のある音場を再現し得る。
【0012】
このように、臨場感のある音場の再現という観点では、バックロードホーン型が優れるが、バックロードホーン型ではスピーカーユニットの背後に全長数メートルの、音を増幅する管状構造を設けなくてはならず、他の型式に比べてエンクロージャー(「筐体」、「キャビネット」とも呼ばれる。)が巨大になるという課題がある。そのため、現在、日本でバックロードホーン型のスピーカーは、量産されていない。
【0013】
第1の特徴に係る発明によると、管状構造に相当する音道が建物の壁内に設けられるため、建物内に配置されるスピーカーの筐体に長大な管状構造を設ける必要がない。
【0014】
これにより、長さが4m以上の長大な音道を用いたバックロードホーン型の大型スピーカーシステムであるにもかかわらず、スピーカーユニットを収容する筐体の大きさを他の型式である密閉型、バスレフ型及びフロントロード型と同程度にし、室内に配置可能とすることができる。
【0015】
また、第1の特徴に係る発明によると、管状構造に相当する音道が建物の壁内に設けられるため、新築後に設ける場合であっても床下基礎の改修を行うことなく、また、設置箇所を建物の一階に限定することなく、バックロードホーン型の大型スピーカーシステムを実現できる。
【0016】
よって、第1の特徴に係る発明によると、建物内に配置されるスピーカーを大型化することなく、かつ、新築後に設ける場合であっても床下基礎の改修を行うことなく、臨場感のある音場が建物内の任意のフロアで実現可能となる。
【0017】
第2の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明であって、壁の材質がコンクリートを含み、空間及び音道がコンクリートと壁とによって画定される、音増幅構造を提供する。
【0018】
密閉型、バスレフ型、フロントロード型、バックロードホーン型のいずれの型によっても、エンクロージャーは、木材でできているのが一般的である。しかしながら、木材では低音域振動に弱く、20Hz~600Hzの低音域では音の歪みが生ずる。そのため、生演奏の雰囲気を再現するには限界がある。特に30Hz以下の低音域の音波を出力し、人の感性、聴力だけでなく、全身への音波による震えまで生演奏の雰囲気を十分に体感させるのは難しい。
【0019】
第2の特徴に係る発明によると、建物の壁の材質がコンクリートを含み、空間及び音道がコンクリートと壁とによって画定されており、音道の長さが4m以上である。
【0020】
低音の再現精度を高めるには、音道が長い方が好ましいところ、木材製エンクロージャーであると、音道の長さが3mを超えると、低音が中高音より遅れて耳に到達してしまい、音の聴取者にとってストレスになる。一方、コンクリートは、木材より強靭な物理特性を有している。そのため、コンクリートで画定された音道において、低音域の音波による歪みは、皆無である。
【0021】
第2の特徴に係る発明では、空間及び音道がコンクリートと壁とによって画定されているため、音道の長さが4m以上であっても、低音の到達遅延が生じず、聴取者は、ストレスなく音を聴取できる。
【0022】
また、第2の特徴に係る発明では、建物の壁の材質がコンクリートを含むため、音増幅構造のコンクリート部分だけでなく、壁のコンクリート部分をも活用して、上述の効果を得ることができる。
【0023】
よって、第2の特徴に係る発明によると、建物内に配置されるスピーカーを大型化することなく、かつ、新築後に設ける場合であっても床下基礎の改修を行うことなく、臨場感のある音場が建物内の任意のフロアで実現可能となる。
【0024】
第3の特徴に係る発明は、第1又は第2の特徴に係る発明であって、音道は、U字型、Z字型又はジグザグ型である、音増幅構造を提供する。
【0025】
第3の特徴に係る発明によると、壁内の限られたスペースに音道を配置することを可能にすると共に、音道において中高音を減衰させ、中高音と低音とのレベル差を小さく抑えることができる。
【0026】
よって、第3の特徴に係る発明によると、建物内に配置されるスピーカーを大型化することなく、かつ、新築後に設ける場合であっても床下基礎の改修を行うことなく、臨場感のある音場が建物内の任意のフロアで実現可能となる。
【0027】
第4の特徴に係る発明は、第1の特徴から第3の特徴のいずれかに係る発明であって、壁のうち音道と壁の外部との間にある部分の少なくとも一部がスピーカーユニットから出された音の一部を壁の外部に通過させることが可能である、音増幅構造を提供する。
【0028】
第4の特徴に係る発明によれば、壁の一部を通過した音により、聴取者を包み込むような臨場感のある音場が建物内で実現可能となる。
【0029】
よって、第4の特徴に係る発明によると、建物内に配置されるスピーカーを大型化することなく、かつ、新築後に設ける場合であっても床下基礎の改修を行うことなく、臨場感のある音場が建物内の任意のフロアで実現可能となる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、建物内に配置されるスピーカーを大型化することなく、かつ、新築後に設ける場合であっても床下基礎の改修を行うことなく、臨場感のある音場が建物内の任意のフロアで実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、正面から見た本実施形態のスピーカーシステムSの概略を示す部分透視図である。
【
図2】
図2は、右側面から見た本実施形態のスピーカーシステムSの概略を示す部分透視図である。
【
図3】
図3は、正面から見た音増幅構造1の概略図である。
【
図5】
図5は、正面から見た本実施形態のスピーカーシステムSの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下は、本発明の実施形態の一例について、図面を参照しながら詳細に説明するものである。
【0033】
<<スピーカーシステムS>>
図1は、正面から見た本実施形態のスピーカーシステムSの概略を示す部分透視図である。スピーカーシステムSは、少なくとも、スピーカーユニットUと、音増幅構造1を備える建物壁構造BWと、を含んで構成される。
【0034】
<スピーカーユニットU>
スピーカーユニットUは、電気信号を音に変換可能であり、かつ、この音を前面及び背面から出力可能であれば、特に限定されない。スピーカーユニットUは、後述する音増幅構造1の空間11とスピーカーユニットUの背面において連通するよう配置可能である。
【0035】
スピーカーユニットUは、後述する音増幅構造1の空間11と連通するよう、建物壁構造BWに設置される。スピーカーユニットUは、建物壁構造BWの室内側から容易に視認されない態様で建物壁構造BWに設置されることが好ましい。
【0036】
これにより、スピーカーシステムSの利用者は、スピーカーユニットUの存在を意識することなく、臨場感豊かな音を楽しめる。建物壁構造BWの室内側から容易に視認されない態様でスピーカーユニットUを建物壁構造BWに設置する手段は、特に限定されない。
【0037】
該手段として、例えば、スピーカーユニットUに取り付けたときの室内側のデザインが建物壁構造BWの室内側と略同じデザインであり、かつ、音を通すことが可能な面状部材をスピーカーユニットUに取り付ける手段が挙げられる。このような面状部材として、例えば、サランネット等のスピーカー用部材が挙げられる。
【0038】
スピーカーユニットUは、ハイパスフィルタ(「高域通過濾波器」とも称する。)及びローパスフィルタ(「低域通過濾波器」とも称される。)等のフィルタ回路(「フィルタ」「濾波器」「ネットワーク」とも称される。)を用いないフルレンジスピーカーを含むことが好ましい。
【0039】
ネットワークは、電気信号の位相を遅延させ得る。フルレンジスピーカーを含むスピーカーユニットUは、ネットワークを使用せずに音を出力できる。これにより、フルレンジスピーカーを含むスピーカーユニットUは、微細信号に対する反応が速い音を高能率で出力できる。したがって、フルレンジスピーカーを含むスピーカーユニットUは、電気信号に含まれる原音によりいっそう忠実で、微細な音を識別可能な音を出力できる。
【0040】
フルレンジスピーカーは、一般に、低域の音及び高域の音を中域の音より出力しづらい。本実施形態のスピーカーシステムSは、後述する音増幅構造1を介した増幅により、フルレンジスピーカーを含むスピーカーユニットUであっても、豊かな低域を含む音を出力できる。
【0041】
スピーカーユニットUは、フルレンジスピーカーを含む場合において、強力な磁気回路と軽い振動板とを組み合わせた構成であることが好ましい。これにより、スピーカーユニットUは、微細信号に対する反応がよりいっそう速い音をよりいっそう高能率で出力できる。
【0042】
スピーカーシステムSは、左音声チャンネルに対応する左スピーカーユニット群ULと、右音声チャンネルに対応する右スピーカーユニット群URと、を含んで構成されることが好ましい。左スピーカーユニット群ULは、左音声チャンネルに対応する1以上のスピーカーユニットUを含む。右スピーカーユニット群URは、右音声チャンネルに対応する1以上のスピーカーユニットUを含む。これにより、スピーカーシステムSは、音楽等をステレオ再生できる。
【0043】
左スピーカーユニット群UL及び右スピーカーユニット群URのそれぞれが含むスピーカーユニットUの数は、1以上であれば、特に限定されない。
【0044】
左スピーカーユニット群UL及び右スピーカーユニット群URのそれぞれが含むスピーカーユニットUの数は、2つ以下であることが好ましい。これにより、左スピーカーユニット群UL及び右スピーカーユニット群URは、3つ以上のスピーカーユニットUを含む場合より点音源に近くなり、音の位置である音位がより忠実に再現された音を出力できる。
【0045】
左スピーカーユニット群UL及び右スピーカーユニット群URのそれぞれが含むスピーカーユニットUの数は、2つであることが好ましい。これにより、左スピーカーユニット群UL及び右スピーカーユニット群URのそれぞれは、点音源に近い構成を保ちつつ、1つのスピーカーユニットUを含む場合よりパワフルな音を出力することができる。
【0046】
<ツイーターT>
スピーカーユニットUがフルレンジスピーカーを含む場合において、スピーカーシステムSは、高域の音を少ない歪みで出力可能なツイーターTを含んでもよい。これにより、スピーカーシステムSは、スピーカーユニットUがフルレンジスピーカーを含んでいる場合であっても、高域の音を少ない歪みで出力できる。
【0047】
スピーカーシステムSが左スピーカーユニット群ULと右スピーカーユニット群URとを含んで構成される場合、ツイーターTは、左音声チャンネルに対応する左ツイーター群TLと、右音声チャンネルに対応する右ツイーター群TRと、を含んで構成されることが好ましい。左ツイーター群TLは、左音声チャンネルに対応する1以上のツイーターTを含む。右ツイーター群TRは、右音声チャンネルに対応する1以上のツイーターTを含む。これにより、ツイーターTは、高域の音をステレオ再生できる。
【0048】
<建物壁構造BW>
図2は、右側面から見た本実施形態のスピーカーシステムSの概略を示す部分透視図である。建物壁構造BWは、建物Bの側壁である建物側壁BSの内部に形成される。以下、建物側壁BSの内部は、単に「壁内」とも称される。建物Bは、建物側壁BSの他に、建物天井BC及び建物床BF等によって例示される建物構造の1以上を含む。
【0049】
建物側壁BSの材質は、特に限定されないものの、コンクリートを含むことが好ましい。これにより、後述する音道12における低域の音の到達遅延が低減され得る。また、これにより、スピーカーシステムSが出力する音が外部に漏れないよう防音され得る。建物側壁BSのうち空間11及び音道12を画定する部分の主な材質は、コンクリートであることがより好ましい。建物壁構造BWは、少なくとも、壁内に形成された音増幅構造1を備える。
【0050】
建物側壁BSは、コンクリート以外の材質を含んで構成されてもよい。このような材質として、例えば、断熱材、合板、石膏ボード等が挙げられる。これらの材質は、例えば、防音壁として構成されたコンクリート壁の室内側に重ねて配される。建物側壁BSがコンクリート以外の材質を含んで構成されることにより、建物側壁BSの壁としての機能を高め得る。
【0051】
〔建物側壁BSが音を通過させることについて〕
建物側壁BSは、建物側壁BSのうち後述する音道12と建物側壁BSの外部との間にある部分の少なくとも一部がスピーカーユニットUから出された音の一部を建物側壁BSの外部に通過させることが可能であることが好ましい。
【0052】
これにより、スピーカーシステムSは、建物側壁BSの一部を通過した音により、聴取者を包み込むような臨場感のある音場を建物B内で実現できる。
【0053】
〔ステレオ再生について〕
スピーカーシステムSが左スピーカーユニット群ULと右スピーカーユニット群URとを含んで構成される場合、建物壁構造BWは、左スピーカーユニット群ULに対応する左建物壁構造BWLと、右スピーカーユニット群URに対応する右建物壁構造BWRと、備えることが好ましい。
【0054】
これにより、左建物壁構造BWL及び右建物壁構造BWRは、左スピーカーユニット群ULが出力する音と右スピーカーユニット群URが出力する音とを独立して増幅できる。これにより、建物壁構造BWは、ステレオ再生された音をステレオ再生のまま増幅できる。
【0055】
以下の説明では、スピーカーユニットU、建物壁構造BW及びツイーターT等によって例示される、本実施形態のスピーカーシステムSの各種構成要素について左右一対であるか否か及び/又は左右の別が示されない場合がある。この場合でも、当業者であれば、本実施形態の記載及び図面に基づいて、本実施形態の各種構成要素を左右一対にして略左右対称に配置し、ステレオ再生に適したスピーカーシステムSを構成可能であることが理解されよう。
【0056】
〔音増幅構造1〕
図3は、正面から見た音増幅構造1の概略図である。音増幅構造1は、スピーカーユニットUと連通可能な空間11と、空間11と連通可能な音道12と、建物側壁BSとともに空間11及び音道12を画定する壁部13と、を有する。空間11及び音道12は、いずれも壁内に形成される。
【0057】
[空間11]
空間11は、スピーカーユニットUと連通可能なスピーカーユニット連通部11Aと、音道12と連通可能な音道連通部11Bと、を含む。
【0058】
図4は、
図2の空間11周辺を拡大した概略図である。建物側壁BSの内部に形成された空間11は、スピーカーユニット連通部11AにおいてスピーカーユニットUの背面と連通している。スピーカーユニットUの背面から出力された音は、スピーカーユニット連通部11Aから音道連通部11Bを経由して、音道12の第1端部12Aから音道12へと入る。
【0059】
図4において、スピーカーユニットUは、建物側壁BSの内部に埋め込まれている。これにより、建物側壁BSの室内側にスピーカーユニットUのエンクロージャーが設置されることなく、スピーカーユニットUを用いたスピーカーシステムSが構築可能となる。
【0060】
図5は、正面から見た本実施形態のスピーカーシステムSの概略図である。
図5におけるスピーカーユニットUは、壁内に埋め込まれており、エンクロージャーが室内に突出していない。これにより、スピーカーシステムSの利用者は、スピーカーシステムSを設置した室内の空間をより有効に活用し得る。
【0061】
[音道12]
図3に戻る。音道12は、壁内に形成される。音道12は、音道12の一端である第1端部12Aにおいて空間11と連通可能である。音道12は、音道12の他端である第2端部12CにおいてスピーカーユニットUから出され、音道12を通じて増幅した音を建物側壁BSの外部に出力可能である。
【0062】
音道12の幅は、第1端部12Aから第2端部12Cに向けて広くなっている。第2端部12Cにおける音道12の幅を第1端部12Aにおける音道12の幅で割った比の上限は、4以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましく、2.5以下であることがさらに好ましい。これにより、急激に広がる音道12において、音道を画定する壁部13及び/又は建物側壁BSから音が離れて直進することが防がれ得る。
【0063】
上述の比の下限は、1.3以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2以上であることがさらに好ましい。これにより、音道12において、スピーカーユニットUが出力する音がよりいっそう減圧される。これにより、音波の変位がよりいっそう増加し、音がよりいっそう増幅される。これにより、よりいっそう大きな変位を有する増幅された音が出力され得る。
【0064】
音道12の長さの下限は、4m以上であることが好ましい。これにより、低域の音の再現精度がよりいっそう高められ得る。音道12の長さの上限は、15m以下であることが好ましく、8m以下であることがより好ましく、5m以下であることがさらに好ましい。これにより、音道12で増幅された音の到達遅延の発生がよりいっそう防がれ得る。
【0065】
(湾曲部12B)
音道12は、湾曲部12Bを有することが好ましい。これにより、第2端部12Cが第1端部12Aの周辺に配置可能となる。すなわち、増幅された音を出力する第2端部12Cが第1端部周辺に配置されたスピーカーユニットUの周辺に配置可能となる。これにより、スピーカーユニットUの前面から出力される音と、第2端部12Cから出力される増幅された音との音位の違いが低減され得る。
【0066】
図5において、スピーカーユニットUは、第2端部12Cの周辺に配置されている。これにより、スピーカーユニットUの前面から出力される音と、第2端部12Cから出力される増幅された音との音位の違いが低減され得る。
【0067】
図3に戻る。湾曲部12Bの数は、特に限定されない。湾曲部12Bは、音道12の形状を、略U字型、略Z字型、及びジグザグ型の1以上を組み合わせた形状にするよう設けられることが好ましい。これにより、壁内の限られたスペースに音道12を配置することが可能になると共に、中域の音及び高域の音が減衰され、中域の音及び高域の音と低域の音とのレベル差が小さく抑えられ得る。
【0068】
なかでも、湾曲部12Bは、音道12の形状を、略U字を組み合わせた形状にするよう設けられることが好ましい。これにより、湾曲部12Bの数が最小限に抑えられ、音道12の湾曲部12Bにおいて低域の音が減衰することがよりいっそう防がれ得る
【0069】
[壁部13]
壁部13は、壁内に配置され、建物側壁BSとともに空間11及び音道12を画定する。壁部13は、特に限定されない。壁部13は、建物Bの柱を含んでもよい。
【0070】
壁部13の材質は、特に限定されないものの、コンクリートを含むことが好ましい。壁部13の材質がコンクリートを含む場合、壁部13の主な材質は、コンクリートであることがより好ましい。
【0071】
低音の再現精度を高めるには、音道が長い方が好ましいところ、木材製エンクロージャーであると、音道の長さが3mを超えると、低音が中高音より遅れて耳に到達してしまい、音の聴取者にとってストレスになる。一方、コンクリートは、木材より強靭な物理特性を有している。そのため、コンクリートで画定された音道12において、低音域の音波による歪みは、皆無である。
【0072】
壁部13の材質がコンクリートを含むことにより、空間11及び音道12がコンクリートと建物側壁BSとによって画定され得る。これにより、音道12の長さが4m以上であっても、低域の音の到達遅延が生じず、聴取者は、ストレスなく音を聴取できる。
【0073】
特に、建物側壁BSの材質と壁部13の材質とが共にコンクリートを含む場合、空間11及び音道12がコンクリートによって画定され得る。これにより、音道の長さが4m以上であっても、低域の音の到達遅延が生じず、聴取者は、ストレスなく音を聴取できる。
【0074】
[音増幅構造1の効果]
スピーカーの形式には、密閉型、バスレフ型、フロントロード型、バックロードホーン型が知られている。バックロードホーン型であれば、密閉型、バスレフ型及びフロントロード型に比べ、高い能率で音を生成できることが知られている。そのため、低音域だけでなく有効音域すべてにおいて、立ち上がりが鋭い臨場感のある音場を再現し得る。
【0075】
このように、臨場感のある音場の再現という観点では、バックロードホーン型が優れるが、バックロードホーン型ではスピーカーユニットの背後に全長数メートルの管状構造を設けなくてはならず、他の型式に比べてエンクロージャー(「筐体」、「キャビネット」とも呼ばれる。)が巨大になるという課題がある。そのため、現在、日本でバックロードホーン型のスピーカーは、量産されていない。
【0076】
本実施形態では、管状構造に相当する音道12が建物Bの壁内に設けられるため、建物B内に配置されるスピーカーの筐体に長大な管状構造を設ける必要がない。
【0077】
これにより、長さが4m以上の長大な音道12を用いたバックロードホーン型の大型スピーカーシステムであるにもかかわらず、室内にスピーカーエンクロージャーが突出しないようスピーカーユニットUを配置可能とすることができる。
【0078】
建物内部に管状構造を設ける工夫として、床下基礎に音道を設ける技術がある(特許文献1)。しかし、既存住宅の床下基礎に音道を追加する場合、床下基礎の改修を要する。また、床下基礎に音道を設ける技術では、適用可能なフロアが建物の一階等によって例示される建物基礎の直上にあるフロアに限定され得る。
【0079】
本実施形態では、管状構造に相当する音道12が建物Bの壁内に設けられるため、新築後に設ける場合であっても床下基礎の改修を行うことなく、また、設置箇所を建物基礎の直上にあるフロアに限定することなく、バックロードホーン型の大型スピーカーシステムを実現できる。
【0080】
これにより、本実施形態のスピーカーシステムSは、建物B内に配置されるスピーカーを大型化することなく、かつ、新築後に設ける場合であっても床下基礎の改修を行うことなく、臨場感のある音場を建物B内の任意のフロアで実現できる。すなわち、本実施形態のスピーカーシステムSは、地階がない建物Bの一階のみならず、二階以上の地上階等によって例示される建物基礎の直上でないフロアにおいても実現可能である。
【0081】
〔その他の構成要素〕
[設置部2]
建物壁構造BWは、再生装置P及びアンプA等を設置可能な設置部2を壁内に形成する構造であることが好ましい(
図5)。これにより、スピーカーユニットUだけでなく、再生装置P、アンプA等もが壁内に配置可能となる。よって、スピーカーシステムSの利用者は、スピーカーシステムSを設置した室内の空間をより有効に活用し得る。
【0082】
〔サブウーファーを設けないことについて〕
本実施形態のスピーカーシステムSは、サブウーファーを設けない構成であることが好ましい。これにより、スピーカーシステムSは、床下基礎部分より容積が限られた建物壁構造BWの内部のより広い領域をバックロードホーンとして利用し得る。また、これにより、スピーカーシステムSは、建物壁構造BWの内部に設置部2を形成し得る。また、これにより、本実施形態のスピーカーシステムSは、音道12によって増幅された低音とサブウーファーの低音とによって低音域の音像がボケることを防ぎ得る。
【0083】
〔建物壁構造BWの効果〕
上述のとおり、実施形態の建物壁構造BWによれば、壁内に形成された音増幅構造1が音を増幅する。これにより、実施形態の建物壁構造BWは、スピーカーを大型化することなく、臨場感のある音場を住宅内で実現できる。
【0084】
床等に配置する構造のスピーカー装置は、床等の強度のため、大きさ及び重さに制限を有する。本実施形態の建物壁構造BWは、バックロードホーン部分を音増幅構造1として壁内に形成することにより、大きさ及び重さの制限を払拭し得る。これにより、コンクリート造りかつ大型の音増幅構造1を実現し、特に低域再生において、音を汚す歪みなく音響性能を飛躍的に向上させることができる。
【0085】
本実施形態の建物壁構造BWは、壁内に形成されることにより、建物側壁BSを兼用するよう設けられ得る。これにより、住宅建設又は壁リフォーム工事等の住宅工事を行う場合において、建物壁構造BWが同時に施工され得る。これにより、住宅工事は、建物壁構造BWを設けるという新たな選択肢を得うる。
【0086】
本実施形態の建物壁構造BWは、壁内に形成されることにより、建物B内に配置されるスピーカーを大型化することなく、かつ、新築後に設ける場合であっても床下基礎の改修を行うことなく、臨場感のある音場を建物B内の任意のフロアで実現できる。
【0087】
本実施形態の建物壁構造BWは、特に低域再生において音響性能を向上させることができるのみならず、国土の狭い日本の住宅事情において、壁内空間を有効利用し、優れた音質で音楽を再生可能な機能を住宅に与えることもできる。
【0088】
ところで、空気の振動を耳で聴いたときの体験と、空気の振動に加えて建物の揺れ等を介して振動を感じたときの体験とは、異なる。例えば、地震の振動を音としてヘッドフォンで聴いた場合と、地震体験施設等で揺れを含む地震の振動を感じた場合とでは、体験した人の恐怖感及び体験の生々しさが異なり得る。
【0089】
本実施形態の建物壁構造BWは、壁内の空間を用いて音を増幅するため、スピーカーユニットUが空気を震わせる音だけでなく、建物壁構造BWによる音の波動、震え、及び/又は揺れを、建物側壁BSを介して人の全身に伝え得る。これにより、建物壁構造BWは、人の耳が備える聴覚だけでなく、人の体全体が備える他の感覚をも通して、生々しさを伴う音による感動を、人に与え得る。
【0090】
本実施形態の建物壁構造BWは、木製エンクロージャーを用いたスピーカーより大型のスピーカーシステムSを提供できる。また、建物壁構造BWが壁内に形成されるため、床上に載置困難な大重量にて音増幅構造1を実現し、木製エンクロージャーが有する低周波の震えに弱い課題を解決できる。
【0091】
本実施形態の建物壁構造BWは、音増幅構造1がバックロードホーン型であるため、密閉型及びバスレフ型との比較において、瞬間的な信号の変化、音の立ち上がり及び立ち下がりに対して、より短い遅延で追従可能な反応の良さ(「トランジェント」とも称する。)を実現できる。優れたトランジェントを実現可能であることにより、CD、レコード、テープ等の媒体に記録された情報を可能な限り忠実に音に変換して出力するピュアオーディオとして、よりいっそう優れたスピーカーシステムSが実現され得る。
【0092】
本実施形態の音増幅構造1は、バックロードホーン型であるため、スピーカーユニットUの後方が塞がれていない。これにより、音増幅構造1は、密閉型及びバスレフ型より微小な信号を音として出力し得る。これにより、音増幅構造1は、密閉型及びバスレフ型より大きなダイナミックレンジを実現し得る。
【0093】
特に、建物側壁BSの材質がコンクリートを含み、空間11及び音道12がコンクリートと建物側壁BSとによって画定される場合、本実施形態の建物壁構造BWは、コンクリートの強靭さ、大質量、及び大重量を利用し、低域の音を低歪みではっきりと再生することを可能とする。
【0094】
<スピーカーシステムSの使用例>
以下は、本実施形態におけるスピーカーシステムSの使用例の説明である。以下の説明では、スピーカーシステムSの利用者を単に「利用者」とも称する。
【0095】
〔再生装置P・アンプAの接続〕
利用者は、適宜の配線等を用いて再生装置PをアンプAに接続し、アンプAが再生装置Pから出力された電気信号を増幅できるようにする。さらに、利用者は、適宜の配線等を用いてアンプAを左右それぞれ2つずつのスピーカーユニットUに接続し、増幅された電気信号に基づく音をこれらのスピーカーユニットUが出力できるようにする。
【0096】
〔音楽の再生〕
利用者は、コンパクトディスク等の媒体を再生装置Pに読み込ませる等して、媒体に記録された音に対応する電気信号を再生装置Pに出力させる。再生装置Pにより出力された電気信号は、アンプAで増幅され、スピーカーユニットUそれぞれにおいて音に変換される。そして、変換された音がスピーカーユニットUそれぞれの前面及び背面から出力される。
【0097】
〔低域の音の増幅〕
スピーカーユニットUの背面から出力された音は、音増幅構造1において増幅され、音道12の第2端部12Cから出力される。
【0098】
〔音楽の聴取〕
利用者は、スピーカーユニットUの前面から出力された音と、音道12の第2端部12Cから出力された音と、を聴取する。すなわち、利用者は、スピーカーユニットUの前面から出力された音に加えて音増幅構造1において増幅された低域の音をも聴取可能である。これにより、利用者は、低域の音の到達遅延及び低域の音の歪みを感じず、立ち上がりが鋭く、スピード感があって濁りなくしっかりと収まる、臨場感のある音を楽しめる。
【0099】
利用者は、左右それぞれ2つずつのスピーカーユニットU、左右のツイーターT、及び左右の第2端部12Cから出力された音を聴取できる。これにより、利用者は、スピーカーシステムSから出力される面音源的な性質の音を聴取できる。また、利用者は、スピーカーシステムSから出力される肉厚のある規模感がより感じられる音を聴取できる。
【0100】
以上、本発明の実施形態の一例が説明された。なお、本発明の思想の範疇において、当業者であれば各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。例えば、前述の実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除若しくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略若しくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0101】
S スピーカーシステム
BW 建物壁構造
BWL 左建物壁構造
BWR 右建物壁構造
1 音増幅構造
11 空間
11A スピーカーユニット連通部
11B 音道連通部
12 音道
12A 第1端部
12B 湾曲部
12C 第2端部
13 壁部
2 設置部
B 建物
BS 建物側壁
BC 建物天井
BF 建物床
P 再生装置
A アンプ
U スピーカーユニット
UL 左スピーカーユニット群
UR 右スピーカーユニット群
T ツイーター
TL 左ツイーター群
TR 右ツイーター群
【手続補正書】
【提出日】2024-02-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカーユニットと連通可能な空間が建物の壁内に形成されており、
前記壁内には、一端において前記空間と連通可能な音道がさらに形成されており、
前記音道の幅が前記一端から前記音道の他端に向けて広くなっており、
前記音道の前記他端は、前記スピーカーユニットから出され、前記音道を通じて増幅した音を壁の外部に出力可能であり、
前記音道の長さは、4m以上であり、
前記壁の材質がコンクリートを含み、前記空間及び前記音道がコンクリートと前記壁とによって画定される、音増幅構造。
【請求項2】
前記音道は、U字型、Z字型又はジグザグ型である、請求項1に記載の音増幅構造。
【請求項3】
前記壁のうち前記音道と前記壁の外部との間にある部分の少なくとも一部が前記スピー
カーユニットから出された音の一部を壁の外部に通過させることが可能である、請求項1
に記載の音増幅構造。