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  • 特開-歪矯正方法 図1
  • 特開-歪矯正方法 図2
  • 特開-歪矯正方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067647
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】歪矯正方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 3/10 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
B21D3/10 J
B21D3/10 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177881
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】000241267
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトフルードパワーシステム
(72)【発明者】
【氏名】糟谷 大介
(57)【要約】      (修正有)
【課題】押し込む位置が矯正回数による制約を受けることなく良好な矯正効果が得られる歪矯正方法を提供する
【解決手段】矯正回数を数える工程S6と、歪を矯正した矯正値を目標値で除した矯正率を閾値と比較する工程S8と、押圧部材を軸方向に移動する移動位置を移動範囲を定める移動制限範囲と比較する工程S10とを備える。矯正回数が2回以上で、矯正率が閾値以下で、移動位置が移動制限範囲内であると、押圧部材を前回の押し込み位置より軸方向に移動した位置で押し込む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材の複数個所における歪量を計測する工程と、計測した歪量に基づいて軸部材の軸方向の押し込み位置を決定する工程と、決定した押し込み位置で計測した歪量に基づいて軸部材に対する押し込み量を算出する工程と、算出した押し込み量に基づいて軸部材の押し込み位置を押圧部材で押し込んで矯正する工程とを備える歪矯正方法であって、矯正回数を数える工程と、歪を矯正した矯正値を目標値で除した矯正率を閾値と比較する工程と、押圧部材を軸方向に移動する移動位置を移動範囲を定める移動制限範囲と比較する工程とを備え、矯正回数が2回以上で、矯正率が閾値以下で、移動位置が移動制限範囲内であると、押圧部材を前回の押し込み位置より軸方向に移動した位置で押し込むことを特徴とする歪矯正方法。
【請求項2】
前記押圧部材は前回の押し込み位置より軸方向の一方側のみに移動した位置で押し込むことを特徴とする請求項1に記載の歪矯正方法。
【請求項3】
前記矯正回数が1回では、前記押圧部材を前記移動制限範囲の端部に位置することを特徴とする請求項1または2のいずれか一つに記載の歪矯正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸部材に生じた歪を矯正する歪矯正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の歪矯正方法は、軸部材(ワ-ク)の歪量(振れ量)を計測する工程と、計測した歪量に基づいて軸部材の軸方向の押し込み位置を決定する工程と、決定した押し込み位置で計測した歪量に基づいて軸部材に対する押し込み量を算出する工程と、算出した押し込み量に基づいて軸部材の押し込み位置を押圧部材で押し込む工程とを備え、2回目以降に実施される矯正では、前回の矯正までの間で矯正回数が最も少ない位置(箇所)のうち、歪量が最大の位置を押し込みしている。そして、矯正回数が最も少ない位置を押し込みするから、矯正回数が多い位置より軸部材の加工硬化が小さく、矯正する場合の効果を発揮できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-174106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、かかる従来の歪矯正方法では、前回の矯正までの間で矯正回数が最も少ない位置を押し込みしているため、押し込む位置が矯正回数による制約を受けて、いまだ満足のいく矯正効果を得られ難かった。
【0005】
本発明の課題は、押し込む位置が矯正回数による制約を受けることなく良好な矯正効果が得られる歪矯正方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を達成すべく、本発明は次の手段をとった。即ち、
軸部材の複数個所における歪量を計測する工程と、計測した歪量に基づいて軸部材の軸方向の押し込み位置を決定する工程と、決定した押し込み位置で計測した歪量に基づいて軸部材に対する押し込み量を算出する工程と、算出した押し込み量に基づいて軸部材の押し込み位置を押圧部材で押し込んで矯正する工程とを備える歪矯正方法であって、矯正回数を数える工程と、歪を矯正した矯正値を目標値で除した矯正率を閾値と比較する工程と、押圧部材を軸方向に移動する移動位置を移動範囲を定める移動制限範囲と比較する工程とを備え、矯正回数が2回以上で、矯正率が閾値以下で、移動位置が移動制限範囲内であると、押圧部材を前回の押し込み位置より軸方向に移動した位置で押し込むことを特徴とする歪矯正方法がそれである。
【0007】
この場合、前記押圧部材は前回の押し込み位置より軸方向の一方側のみに移動した位置で押し込んでもよい。また、前記矯正回数が1回では、前記押圧部材を前記移動制限範囲の端部に位置してもよい。
【発明の効果】
【0008】
以上詳述したように、請求項1に記載の発明は、矯正回数を数える工程と、歪を矯正した矯正値を目標値で除した矯正率を閾値と比較する工程と、押圧部材を軸方向に移動する移動位置を移動範囲を定める移動制限範囲と比較する工程とを備え、矯正回数が2回以上で、矯正率が閾値以下で、移動位置が移動制限範囲内であると、押圧部材を前回の押し込み位置より軸方向に移動した位置で押し込む。このため、押圧部材の押し込み位置は、従来方法の如く、矯正回数による制約を受けることなくできるから、最適な位置を押し込みできて良好な矯正効果を得ることができる。また、押圧部材を前回の押し込み位置より軸方向に移動した位置で押し込むため、同じ位置で繰り返し押し込みする場合に比し、軸部材を矯正可能とする位置を探ることができ、矯正効果をより一層向上することができる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、押圧部材は前回の押し込み位置より軸方向の一方側のみに移動した位置で押し込む。このため、押圧部材は常に一方向にしか移動することがないから、押圧部材を軸方向の両方向に移動する場合に比し、押圧部材を移動するための制御を簡単にできる。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、矯正回数が1回では、押圧部材を移動制限範囲の端部に位置する。このため、押圧部材は、矯正回数が2回以上で軸方向に移動する際に、軸方向の一方側と反対方向となる他方側には移動制限範囲を超えて移動することがなく、必然的に軸方向の一方側にしか移動しないから、押圧部材を移動するための制御を簡単にできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態の歪矯正方法を実施する歪矯正装置の構成を説明する図である。
図2】一実施形態の歪矯正方法の流れ図である。
図3図1の要部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づき説明する。
図1において、1は軸部材で、軸方向の両端を第1固定受台2と第2固定受台3に載置している。第1固定受台2は第1基台4に、第2固定受台3は第2基台5にそれぞれ配置している。両基台4、5は駆動軸6に螺合し、モーター7による駆動軸6の一方向への回転駆動により相互に接近すると共に、駆動軸6の一方向と反対の他方向への回転駆動により相互に離間し、軸方向の長さ寸法が異なる種々の軸部材1を両固定受台2、3で載置可能にしている。
【0013】
8は第1可動受台、9は第2可動受台で、両固定受台2、3の軸方向内方に相互に離間して配置し、第1可動シリンダ10と第2可動シリンダ11により軸方向と直交する上下方向へ昇降自在に設け、上方端の位置で軸部材1を載置可能にしている。12は第1変位計、13は第2変位計、14は第3変位計、15は第4変位計で、それぞれ軸部材1の軸方向に離間して配置し、軸部材1の径方向の歪量を計測する。
【0014】
第1変位計12は第1固定受台2と第1可動受台8との間に配置し、当該配置箇所と径方向に対向する軸部材1の第1個所Aの歪量を計測する。第2変位計13は両可動受台8、9間に配置し、当該配置箇所と径方向に対向する軸部材1の第2個所Bの歪量を計測する。第3変位計14は第2可動受台9と第2固定受台3との間に配置し、当該配置箇所と径方向に対向する軸部材1の第3個所Cの歪量を計測する。第4変位計15は第2固定受台3の軸方向外方に配置し、当該配置箇所と径方向に対向する軸部材1の第4個所Dの歪量を計測する。
【0015】
16、17は回転支持部材で、各変位計12~15により軸部材1の歪量を計測する際に、軸部材1の軸方向両端を回転自在に挟持する。18は軸部材1を押し込んで歪を矯正する押圧部材で、軸部材1の上方位置に配置している。押圧部材18は駆動軸19に螺合し、モーター20による駆動軸19の一方向への回転駆動により軸方向の一方向へ移動すると共に、駆動軸19の他方向への回転駆動により軸方向の他方向へ移動する。また、押圧部材18は昇降シリンダ21により上下方向へ昇降自在に設けている。
【0016】
第1個所Aの歪を矯正する際には、第1固定受台2と第1可動受台8とで軸部材1を支持し、第1個所Aより若干軸方向左方の第1の初期位置A1を押圧部材18で押し込む。第2個所Bの歪を矯正する際には、第2固定受台3と第1可動受台8とで軸部材1を支持し、第2個所Bより若干軸方向右方の第2の初期位置B1を押圧部材18で押し込む。第3個所Cもしくは第4個所Dの歪を矯正する際には、第2固定受台3と第2可動受台9とで軸部材1を支持し、第3個所Cより若干軸方向右方の第3の初期位置C1を押圧部材18で押し込む。
【0017】
次に、歪矯正方法の流れを説明する。
図2において、工程S1では、軸部材1の軸方向の複数個所としての第1個所A~第4個所Dにおける歪量を計測する。工程S2では、計測した歪量と矯正規格とを比較し、歪量が矯正規格以下であれば矯正不要であるからそのまま終了する。一方、歪量が矯正規格より大きければ工程S3に進む。工程S3では、現在までの矯正回数と最大回数とを比較し、矯正回数が最大回数以下であれば工程S4に進む。一方、矯正回数が最大回数を上回れば、軸部材1を矯正不能と判定して終了する。
【0018】
工程S4では、軸部材1の第1個所A~第4個所Dで計測した歪量に基づいて、歪量の最も大きい個所の初期位置A1~C1が押し込み位置として決定される。ここで、一例として、第2個所Bを歪量の最も大きい個所として説明する。工程S5では、計測した歪量に基づいて軸部材1に対する押し込み量を算出する。工程S6では、矯正回数を数え、矯正回数が1回であれば工程S7に進む。工程S7では、押圧部材18を第2の初期位置B1に移動する。なお、図3に示す如く、初期位置B1とは、移動制限範囲B2の端部の位置を言う。移動制限範囲B2とは、第2個所Bの歪を矯正する際に、押圧部材18の軸方向移動を許容する範囲、すなわち押圧部材18で押し込みをしてもよい範囲を言う。移動制限範囲B2は軸部材1の形状、材質、熱処理等の要因に基づいて決定する。
【0019】
工程S9では、押圧部材18により軸部材1を押し込む。そして、工程S1に戻り、押し込み後の軸部材1の歪量を計測し、その結果に応じて工程S2以降を繰り返す。
【0020】
一方、工程S6で矯正回数が2回以上であれば工程S8に進む。工程S8では、矯正率を閾値と比較する。なお、矯正率とは歪を矯正した矯正値を目標値で除したものを言う。そして、矯正率が閾値を超えていると、押圧部材18を軸方向に移動せずに押し込みして矯正が期待できるから、工程S9に進み押圧部材18で押し込む。一方、矯正率が閾値以下だと、押圧部材18を軸方向に移動して押し込みしないと矯正が期待できないから、工程S10に進む。工程S10では、押圧部材18を軸方向に移動する移動位置を移動制限範囲B2と比較する。そして、移動位置が移動制限範囲B2を超えていると、移動制限範囲B2の限界位置B3にて、工程S9に進み押圧部材18で押し込む。なお、限界位置B3とは、移動制限範囲B2において初期位置B1と反対側の端部の位置を言う。一方、移動位置が移動制限範囲B2内であると、工程S11に進む。
【0021】
工程S11では、押圧部材18を前回の押し込み位置より軸方向の一方側に移動する。そして、移動した位置において、工程S9で押圧部材18で押し込み歪を矯正する。例えば、図3において、前回の押し込み位置が初期位置B1であったとすると、当該位置B1より軸方向の一方側に定距離t離間した位置B4に移動し、当該位置B4を押圧部材18で押し込む。また、前回の押し込み位置が位置B4であったとすると、当該位置B4より軸方向の一方側に定距離t離間した位置B5に移動し、当該位置B5を押圧部材18で押し込む。なお、定距離tは軸部材1の形状、材質、熱処理等の要因に基づいてあらかじめ定める。
【0022】
この流れにおいて、矯正回数を数える工程S6と、歪を矯正した矯正値を目標値で除した矯正率を閾値と比較する工程S8と、押圧部材18を軸方向に移動する移動位置を移動範囲を定める移動制限範囲B2と比較する工程S10とを備え、矯正回数が2回以上で、矯正率が閾値以下で、移動位置が移動制限範囲B2内であると、押圧部材18を前回の押し込み位置B1またはB4より軸方向に移動した位置B4またはB5で押し込む。このため、押圧部材18の押し込み位置は、従来方法の如く、矯正回数による制約を受けることなくできるから、最適な位置を押し込みできて良好な矯正効果を得ることができる。また、押圧部材18を前回の押し込み位置B1またはB4より軸方向に移動した位置B4またはB5で押し込むため、同じ位置で繰り返し押し込みする場合に比し、軸部材1を矯正可能とする位置を探ることができ、矯正効果をより一層向上することができる。
【0023】
また、押圧部材18は前回の押し込み位置B1またはB4より軸方向の一方側のみに移動した位置B4またはB5で押し込む。このため、押圧部材18は常に一方向にしか移動することがないから、押圧部材18を軸方向の両方向に移動する場合に比し、押圧部材18を移動するための制御を簡単にできる。
【0024】
また、矯正回数が1回では、押圧部材18を移動制限範囲B2の端部、すなわち初期位置B1に位置する。このため、押圧部材18は、矯正回数が2回以上で軸方向に移動する際に、軸方向の一方側と反対方向となる他方側には移動制限範囲B2を超えて移動することがなく、必然的に軸方向の一方側にしか移動しないから、押圧部材18を移動するための制御を簡単にできる。
【0025】
なお、前述の一実施形態では、押圧部材18は前回の押し込み位置B1またはB4より軸方向の一方側のみに移動した位置B4またはB5で押し込んだが、押圧部材を前回の押し込み位置より軸方向の一方側と反対側となる他方側に移動した位置で押し込んでもよい。また、押圧部材を前回の押し込み位置より軸方向の一方側と他方側に移動させる場合には、矯正回数が1回で押圧部材を移動制限範囲の端部に位置させなくてもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0026】
1:軸部材
18:押圧部材
B2:移動制限範囲
S1:歪量を計測する工程
S4:押し込み位置を決定する工程
S5:押し込み量を算出する工程
S6:矯正回数を数える工程
S8:矯正率を閾値と比較する工程
S10:移動位置を移動制限範囲と比較する工程
図1
図2
図3