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特開2024-67670弾性波計測装置及び改良土の品質判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067670
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】弾性波計測装置及び改良土の品質判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/00 20060101AFI20240510BHJP
   G01N 3/32 20060101ALI20240510BHJP
   G01N 33/24 20060101ALI20240510BHJP
   G01N 29/07 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
G01N3/00 D
G01N3/32 M
G01N33/24 B
G01N29/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177918
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】000182030
【氏名又は名称】若築建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】有木 高明
(72)【発明者】
【氏名】水野 健太
【テーマコード(参考)】
2G047
2G061
【Fターム(参考)】
2G047AA10
2G047AD08
2G047BA01
2G047BC02
2G047BC03
2G047BC04
2G047GG20
2G047GG28
2G047GG30
2G047GG32
2G047GG33
2G061AA02
2G061AB04
2G061BA07
2G061CA06
2G061CB03
2G061DA01
2G061EA01
2G061EA06
2G061EA07
(57)【要約】
【課題】一軸圧縮試験以外で改良土の品質判定を高精度に行うことができる弾性波計測装置を提供する。
【解決手段】弾性波計測装置1は、P波及びS波の少なくとも一方の振動波を発生させる発振子21と、発振子21から発生した振動波が供試体Tを介して伝達される受振波を検出する受振子22と、供試体Tを発振子21と受振子22で挟み込んで固定圧力によって圧着する圧着部23と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
P波及びS波の少なくとも一方の振動波を発生させる発振子と、
前記発振子から発生した前記振動波が供試体を介して伝達される受振波を検出する受振子と、
前記供試体を前記発振子と前記受振子で挟み込んで固定圧力によって圧着する圧着部と、
を備える弾性波計測装置。
【請求項2】
前記振動波と前記受振波とに基づき前記供試体における弾性波速度を算出し、算出した前記弾性波速度に基づき前記供試体の品質を判定する品質判定部を備える、
請求項1に記載の弾性波計測装置。
【請求項3】
過去の実験データに基づく前記弾性波速度と前記供試体の硬さとの相関関係を記憶する品質データベースを備え、
前記品質判定部は、算出した前記弾性波速度に基づき前記品質データベースを参照して前記供試体の硬さの情報を抽出して、抽出した前記硬さの情報に基づき前記供試体の品質を判定する、
請求項2に記載の弾性波計測装置。
【請求項4】
前記品質判定部は、前記受振波の速度、振幅、及び周波数の少なくとも一部を用いて前記供試体の品質を判定する、
請求項2または3に記載の弾性波計測装置。
【請求項5】
前記発振子は、前記P波及び前記S波の両方を発生させ、
前記品質判定部は、前記受振子により検出された前記P波の前記受振波と、前記S波の前記受振波とを用いて、前記S波のNear-field-effectの影響を判定する、
請求項2または3に記載の弾性波計測装置。
【請求項6】
前記圧着部による前記固定圧力は20(kN/m)以上である、
請求項1に記載の弾性波計測装置。
【請求項7】
P波及びS波の少なくとも一方の振動波を発生させる発振子と、
前記発振子から発生した前記振動波が供試体を介して伝達される受振波を検出する受振子と、
前記供試体を前記発振子と前記受振子で挟み込んで固定圧力によって圧着する圧着部と、
前記振動波と前記受振波とに基づき前記供試体における弾性波速度を算出し、算出した前記弾性波速度に基づき前記供試体の品質を判定する品質判定部と、
を備える弾性波計測装置を用いる改良土の品質判定方法であって、
前記改良土の施工現場にて採取された現場供試体を用いて一軸圧縮試験を行う現場試験ステップと、
前記現場試験ステップにて前記現場供試体の強度判定結果が条件を満たさない場合に、試験後の前記現場供試体を用いて前記弾性波計測装置による前記弾性波速度の算出と、算出した前記弾性波速度に基づく品質判定を行う現場判定ステップと、
を含む、
改良土の品質判定方法。
【請求項8】
前記改良土の施工前の配合試験において作成した室内配合供試体を用いて一軸圧縮試験を行う室内試験ステップと、
前記室内試験ステップにおける前記一軸圧縮試験の前または後の少なくとも一方で、前記室内配合供試体を用いて前記弾性波計測装置による前記弾性波速度の計測を行い、前記弾性波速度と前記室内配合供試体の硬さとの相関関係を記憶する品質データベースを作成する品質データ作成ステップと、
を含み、
前記現場判定ステップでは、算出した前記弾性波速度に基づき前記品質データベースを参照して前記現場供試体の硬さの情報を抽出して、抽出した前記硬さの情報に基づき前記現場供試体の品質を判定する、
請求項7に記載の改良土の品質判定方法。
【請求項9】
前記現場試験ステップの前記一軸圧縮試験を行う前に、前記施工現場にて採取された試験前現場供試体を用いて前記弾性波計測装置による前記弾性波速度の算出と、算出した前記弾性波速度に基づく品質判定を行う現場試験前判定ステップと、
前記現場試験前判定ステップにて前記品質が所定の条件を満たすと判定された前記試験前現場供試体を、前記現場試験ステップにおける前記一軸圧縮試験で用いる前記現場供試体として選別する選別ステップと、
を含む、
請求項7または8に記載の改良土の品質判定方法。
【請求項10】
前記改良土の施工前の配合試験において作成した室内配合供試体を用いて一軸圧縮試験を行う室内試験ステップと、
前記室内試験ステップにおける前記一軸圧縮試験の前または後の少なくとも一方で、前記室内配合供試体を用いて前記弾性波計測装置による前記弾性波速度の計測を行い、前記弾性波速度と前記室内配合供試体の硬さとの相関関係を記憶する品質データベースを作成する品質データ作成ステップと、
を含み、
前記現場試験前判定ステップでは、算出した前記弾性波速度に基づき前記品質データベースを参照して前記試験前現場供試体の硬さの情報を抽出して、抽出した前記硬さの情報に基づき前記試験前現場供試体の品質を判定する、
請求項9に記載の改良土の品質判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、弾性波計測装置、及び、弾性波計測装置を用いる改良土の品質判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント等と撹拌混合して地盤を固化させる地盤改良では、施工後の改良土の品質確認手法として、改良土から採取したコア(供試体)を用いる一軸圧縮試験が規定されている。一軸圧縮試験で強度不足と判定された場合には、別孔からコアを採取して再度一軸圧縮試験を行う、再施工を行う、などの対策がとられる。
【0003】
一方、別の品質判定方法として、例えばベンダーエレメント法や岩石法などの弾性波速度計測方法が知られている(例えば特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-027007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ベンダーエレメント法では、供試体端面に一対の溝を掘り、送信用ベンダーエレメントと受信用ベンダーエレメントをこれらの溝に挿入して設置する構成となる。この構成により、改良土を試験対象とする場合、計測する弾性波に供試体に生じる攪乱や、ベンダーエレメントに生じる応力の影響が強く出る虞がある。このため、改良土の品質判定にベンダーエレメント法は適さない場合がある。
【0006】
また、岩石法では、軟岩までが計測対象として規定されており、改良土は対象外とされている。このように、ベンダーエレメント法や岩石法などの従来の弾性波速度計測方法に対して、より改良土の品質判定に適した手法が望まれている。
【0007】
本開示は、一軸圧縮試験以外で改良土の品質判定を高精度に行うことができる弾性波計測装置と、この弾性波計測装置を用いる改良土の品質判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態の一観点に係る弾性波計測装置は、P波及びS波の少なくとも一方の振動波を発生させる発振子と、前記発振子から発生した前記振動波が供試体を介して伝達される受振波を検出する受振子と、前記供試体を前記発振子と前記受振子で挟み込んで固定圧力によって圧着する圧着部と、を備える。
【0009】
また、本発明の実施形態の一観点に係る改良土の品質判定方法は、P波及びS波の少なくとも一方の振動波を発生させる発振子と、前記発振子から発生した前記振動波が供試体を介して伝達される受振波を検出する受振子と、前記供試体を前記発振子と前記受振子で挟み込んで固定圧力によって圧着する圧着部と、前記振動波と前記受振波とに基づき前記供試体における弾性波速度を算出し、算出した前記弾性波速度に基づき前記供試体の品質を判定する品質判定部と、を備える弾性波計測装置を用いる改良土の品質判定方法であって、前記改良土の施工現場にて採取された現場供試体を用いて一軸圧縮試験を行う現場試験ステップと、前記現場試験ステップにて前記現場供試体の強度判定結果が条件を満たさない場合に、前記現場供試体を用いて前記弾性波計測装置による前記弾性波速度の算出と、算出した前記弾性波速度に基づく品質判定を行う現場判定ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、一軸圧縮試験以外で改良土の品質判定を高精度に行うことができる弾性波計測装置と、この弾性波計測装置を用いる改良土の品質判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る弾性波計測装置の概略構成を示す図
図2図1に示す弾性波計測装置の使用手順の一例を示すフローチャート
図3】PC(解析装置)の機能ブロック図の一例
図4】複数の直径の供試体を用いた実証実験結果を示す図
図5】弾性波速度及び変形係数と、土塊混入率との相関関係の一例を示す図
図6】実施形態に係る弾性波計測装置を用いるタイミングを示すフローチャート
図7】一軸圧縮試験前後における供試体の弾性波速度の相関の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0013】
<弾性波計測装置>
まず図1図5を参照して、実施形態に係る弾性波計測装置1について説明する。
【0014】
図1は、実施形態に係る弾性波計測装置1の概略構成を示す図である。図1に示すように、弾性波計測装置1は、弾性波計測部2と、ファンクションジェネレータ3と、バイポーラ電源4と、発振端子5と、荷重指示器6と、受振端子7と、デジタルオシロスコープ8と、PC(解析装置)9と、を備える。
【0015】
弾性波計測部2は、改良土の供試体Tの弾性波を計測する。弾性波計測部2は、発振子21と、受振子22と、圧着部23とを有する。
【0016】
発振子21は、供試体Tに入力する発振波を発生させる。供試体Tは略円柱状で形成され、発振子21は供試体Tの略円柱状の一方(図1では上方)の端面に接触して設置される。これにより発振子21は供試体Tに発振波を入力することができる。発振波は、P波(縦波、粗密波)及びS波(横波、せん断波)の少なくとも一方の振動波を含む。
【0017】
受振子22は、供試体Tの略円柱状の他方(図1では下方)の端面に接触して設置され、発振子21から発生した振動波が供試体Tを介して伝達される受振波を検出する。本実施形態では、発振子21と受振子22内に厚み振動と厚みすべり振動のそれぞれに分級された圧電振動子を組み込んで、P波とS波のそれぞれを計測可能としている。
【0018】
なお、発振子21と受振子22の形状は、供試体Tと同様に略円柱状に形成され、それぞれの発振子21の下端面と受振子22の上端面とが供試体Tの各端面と面接触し、これにより供試体Tの軸方向に均等に振動波を伝達できるよう構成されるのが好ましい。また、発振子21と受振子22の円柱形状の端面の面積は、供試体Tの端面に対して充分に大きく形成され、これによりさまざまな径の供試体Tを使用できるよう構成されるのが好ましい。
【0019】
圧着部23は、供試体Tを発振子21と受振子22で挟み込んで固定圧力によって圧着する。ここで、本実施形態で用いる「圧着」とは、供試体Tを発振子21と受振子22とで挟み込んでいる力だけで固定されている状態をいう。また、供試体Tは、圧着状態においても発振子21及び受振子22に接着や接合をされておらず、固定圧力を緩めれば発振子21及び受振子22から離間させることができる。圧着部23は、基部231と、支柱232と、固定圧力載荷梁233と、固定圧力載荷軸234と、荷重計235と、を有する。
【0020】
基部231は弾性波計測部2のうち最も下方に配置される例えば板状などの部材であり、弾性波計測部2が載置される載置面上に設置される。基部231の鉛直方向視の形状は、例えば円形状であり、受振子22は基部231の上面の中央に設置されて固定されている。
【0021】
支柱232は、基部231から鉛直上方に延在するよう設置される棒状部材である。支柱232は、2本以上の複数本が設けられる。複数の支柱のそれぞれは、例えば鉛直方向視において受振子22の外周側に、受振子22の円形状の周方向に沿って略等間隔で配置されるのが好ましい。
【0022】
固定圧力載荷梁233は、複数の支柱232の間を水平方向に掛け渡して設置される部材である。固定圧力載荷梁233は、支柱232の延在方向(鉛直方向)に沿って摺動可能に設置される。また、図1の例の場合、固定圧力載荷梁233は、発振子21より上方に配置されて、鉛直方向視において少なくとも発振子21の円柱形状の端面の中央部分と重畳する位置に配置されている。
【0023】
固定圧力載荷軸234は、固定圧力載荷梁233に固設され、鉛直方向に沿って延在するよう設置される棒状部材である。固定圧力載荷軸234は、例えば鉛直方向視において、発振子21の上面の円形状の中央の位置に配置される。固定圧力載荷梁233を支柱232に沿って下方に移動させることにより、固定圧力載荷軸234も連動して下方に移動して、これにより固定圧力載荷軸234の下端が発振子21の上面と接触して、発振子21に荷重を付加できる。
【0024】
なお、固定圧力載荷軸234が発振子21に荷重を付加する構成は、例えばピストンなどの押圧装置を用いて固定圧力載荷梁233または固定圧力載荷軸234に対して下方の発振子21側への外力を付加するなど、任意の構成を用いることができる。
【0025】
荷重計235は、固定圧力載荷軸234から発振子21へ付加されている荷重を計測する。
【0026】
ここで、供試体Tを発振子21と受振子22で挟み込むために圧着部23によって付加される固定圧力の値は、供試体の諸量(直径、高さ、質量など)によらずに弾性波速度を安定させることができる程度の値であるのが好ましい。具体的には圧着部23による固定圧力は20(kN/m)以上であるのが好ましく、固定圧力は20(kN/m)であるのがより好ましい。
【0027】
本実施形態では、図1に示す圧着部23のように、支柱232を有する計測機を用いることにより、供試体Tに傾きがあった場合にも、発振子21と受振子22間ではP波は垂直に、S波は平行に伝播できる。なお、圧着部23は、少なくとも供試体Tを発振子21と受振子22とで挟持して固定できる構成であればよく、図1に例示する構成以外の構成を用いてもよい。
【0028】
ファンクションジェネレータ3は、発振子21に電圧を与えるための信号Vcon-inを発生させる信号発生器である。
【0029】
バイポーラ電源4は、ファンクションジェネレータ3から入力される信号Vcon-inに応じて発振波を生成する制御指令を発振端子5に出力し、制御指令と同様の発振波の波形に相当する発振波情報Vmoniをデジタルオシロスコープ8に出力する。
【0030】
発振端子5は、バイポーラ電源4から入力される制御指令に応じて発振子21に対して、ファンクションジェネレータ3で生成された発振波を発生させるための電圧を印加する。
【0031】
荷重指示器6は、荷重計235から固定圧力載荷軸234から発振子21へ付加されている荷重の情報を受け取り表示する。
【0032】
受振端子7は、受振子22が検出した受振波の信号に増幅などの処理を行ってデジタルオシロスコープ8に出力する。
【0033】
デジタルオシロスコープ8は、受振端子7から入力された受振波の情報と、バイポーラ電源4から入力された発振波の情報を表示すると共にPC9に出力する。
【0034】
PC(解析装置)9は、デジタルオシロスコープ8から入力される発振波と受振波の情報に基づき弾性波速度の算出などの各種解析処理や試験結果の記録を行う。
【0035】
図2は、図1に示す弾性波計測装置の使用手順の一例を示すフローチャートである。
【0036】
ステップS1では、供試体Tの諸量(直径、高さ、質量など)が計測される。
【0037】
ステップS2では、受振子22上の中心に供試体Tが設置される。
【0038】
ステップS3では、圧着部23の固定圧力載荷軸234、荷重計235、荷重指示器6などを用いて、供試体Tを発振子21と受振子22で挟み込むために圧着部23によって付加される固定圧力が所定値に設定される。固定圧力の所定値は例えば20(kN/m)である。
【0039】
ここで、図4を参照して固定圧力を20(kN/m)と設定するのが好ましい根拠を説明する。図4は、複数の直径の供試体を用いた実証実験結果を示す図である。
【0040】
図4の(A)は、第1の直径の供試体Tでの実証実験結果を示し、(B)は、第2の直径と第3の直径の供試体Tでの実証実験結果を示す。第1~第3の直径は、この順番で小さい方から大きい方へ設定されている。つまり図4では3種類の直径の供試体Tの実験結果を示している。図4の実証実験では、この3種類の直径ごとに、複数の硬さ(例えば弾性係数などの指標)の供試体Tを作製し、各供試体Tを用いて固定圧力を変化させたときの弾性波速度を計測した。
【0041】
図4の(A)、(B)共に、上側が供試体TにP波を入力したときの実験結果であり、下側がS波の実験結果である。各図では、横軸が固定圧力(kN/m)を示し、縦軸が弾性波速度(m/秒)を示す。
【0042】
図4(A)、(B)では、複数の硬さで形成した供試体Tを用い、固定圧力を変化させたときの弾性波速度の推移を示す。図4には、固定圧力が20(kN/m)の位置を点線で示す。図4(A)、すなわち最も小径である第1の直径の供試体では、4種類の硬さの供試体の弾性波速度を計測した。図4(A)では、硬さが小さい方から大きくなる順番で、下向き三角形(▽)、丸形(〇)、四角形(□)、上向き三角形(△)の各プロットで4種類のグラフを図示している。また、図4(A)では、参考例として土の代わりにウレタンゴムの供試体を用いた場合の弾性波速度の推移を黒丸(●)のプロットのグラフで図示している。
【0043】
図4(B)では、第2の直径と第3の直径のそれぞれにおいて2種類の硬さの供試体の弾性波速度を計測した。図4(B)では、第2の直径の供試体において、硬さが大きい方を白色と黒色が半分ずつの丸形のプロットで示し、硬さが小さい方を白丸(〇)のプロットで示す。また、第3の直径の供試体において、硬さが小さい方を白色と黒色が半分ずつの三角形のプロットで示し、硬さが大きい方を白三角(△)のプロットで示す。
【0044】
図4に示すように、固定圧力が20(kN/m)以上の範囲では、各グラフの弾性波速度の推移がほぼ一定の値となって、供試体の直径や硬さの変化によらず安定していることがわかる。また、この範囲内で最小の20(kN/m)とすれば、改良土の供試体が固定圧力によって変形することも抑制できるので、弾性波速度への影響をより抑制できると考えられる。
【0045】
図3に戻り、ステップS4では、ファンクションジェネレータ3を用いて、発振波形の設定、生成、発振が行われる。
【0046】
ステップS5では、バイポーラ電源4により、発振波形の振幅が増幅される。
【0047】
ステップS6では、発振端子5により、発振波が発振子21に入力される。
【0048】
ステップS7では、デジタルオシロスコープ8により、発振波形、受振子22の受振波形が計測、記録される。
【0049】
ステップS8では、PC9により、受振波形の解析が行われる。
【0050】
なお、図2に示す手順のうち、ステップS3~S8などにおける弾性波計測装置1の各要素の動作は、弾性波計測装置1の使用者が手動操作によって実行させる構成でもよいし、PC9などの制御装置によって自動制御する構成でもよい。自動制御の場合には、図1に示される弾性波計測部2、ファンクションジェネレータ3、バイポーラ電源4、発振端子5、荷重指示器6、受振端子7、デジタルオシロスコープ8などの弾性波計測装置1の各要素は、例えばそれぞれPC9と通信可能に電気的に接続されており、PC9からの制御指令に応じて動作することができる。
【0051】
図3は、PC9(解析装置)の機能ブロック図の一例である。図3に示すように、PC9は、受振波形の解析に係る機能として、品質データベース91と、品質データ作成部92と、品質判定部93とを備える。
【0052】
品質データベース91は、過去の実験データに基づく弾性波速度と供試体Tの硬さとの相関関係(品質データ)を記憶する。
【0053】
品質データ作成部92は、品質データベース91に記憶する品質データを作成する。品質データ作成部92は、例えば施工前に行われる配合試験(図6のステップS12参照)など、事前に得られる試験結果などの情報に基づき、弾性波速度と供試体Tの硬さとの相関関係のデータを作成することができる。
【0054】
品質判定部93は、振動波と受振波とに基づき供試体Tにおける弾性波速度を算出し、算出した弾性波速度に基づき供試体Tの品質を判定する。品質判定部93は、算出した弾性波速度に基づき品質データベース91を参照して供試体Tの硬さの情報を抽出して、抽出した硬さの情報に基づき供試体Tの品質を判定する。
【0055】
また、例えば、事前の試験データに用いられた供試体Tの土塊混入率や空隙率を計測して、この供試体Tの弾性波速度や変形係数等の情報と、計測した土塊混入率や空隙率の情報との相関関係のデータを作成して品質データベース91に記憶することもできる。この場合、品質判定部93は、算出した弾性波速度等の情報に基づき、品質データベース91を参照して土塊混入率や空隙率を推定し、土塊混入率や空隙率が所定値(例えば50%)以上の場合に、供試体Tの品質が悪いと判定できる。
【0056】
図5は、弾性波速度及び変形係数と、土塊混入率との相関関係の一例を示す図である。図5の横軸は土塊混入率(%)を示し、縦軸は、弾性波速度と変形係数とを示す。また、図5には、一軸圧縮試験を行う前と後の供試体Tの弾性波速度及び変形係数と、土塊混入率との関係を示す4つのグラフが図示されている。図5中の丸形(〇)のプロットのグラフは、一軸圧縮試験を行う前の供試体Tの弾性波速度(初期値)を示す。上向き三角形(△)のプロットのグラフは、一軸圧縮試験を行った後の供試体Tの弾性波速度(一軸後)を示す。四角形(□)のプロットのグラフは、一軸圧縮試験を行う前の供試体Tの変形係数(初期値)を示す。下向き三角形(▽)のプロットのグラフは、一軸圧縮試験を行った後の供試体の変形係数(一軸後)を示す。
【0057】
図5に示す相関関係は、例えば土塊混入率の異なる複数の供試体Tを作成し、各供試体Tにおいて一軸圧縮試験を行う前と後の供試体Tの弾性波速度及び変形係数を算出することで取得できる。
【0058】
図5に示すように、一軸圧縮試験を行う前と後の供試体Tの弾性波速度及び変形係数と、土塊混入率との相関関係は、一軸圧縮試験を行う前と後によらず、土塊混入率が50%以下では弾性波速度及び変形係数が共に安定している。一方、土塊混入率が50%を超えると、弾性波速度及び変形係数は共に一様に減少し、すなわち所望の硬さを得られなくなる傾向となる。したがって、このような相関関係を品質データベース91に記憶しておけば、品質判定部93は、算出した弾性波速度等の情報に基づき、品質データベース91を参照して土塊混入率や空隙率を推定し、供試体Tの品質を判定することができる。
【0059】
また、品質判定部93は、受振波の速度、振幅、及び周波数の少なくとも一部を用いて供試体Tの品質を判定することもできる。
【0060】
例えば、受振波の波形の速度、振幅、周波数等の分析をすることによって土塊混入率や空隙率などの一軸圧縮強さに影響を与える因子が過度ではないか判定することができる。土塊混入率や空隙率が増大するほど、受振波の速度が遅くなる、振幅が小さくなる、周波数が小さくなる傾向がある。このような傾向を利用して、事前の試験データに用いられた供試体Tの土塊混入率や空隙率を計測して、品質データベース91が、この供試体Tの受振波の波形の速度、振幅、周波数等の情報と、計測した土塊混入率や空隙率の情報との相関関係のデータを作成して品質データベース91に記憶することができる。この場合、品質判定部93は、取得した受振波の波形に基づき、品質データベース91を参照して土塊混入率や空隙率を推定し、土塊混入率や空隙率が所定値(例えば50%)以上の場合に、供試体Tの品質が悪いと判定できる。
【0061】
さらに、品質判定部93は、受振子により検出されたP波の受振波と、S波の受振波とを用いて、S波のNear-field-effectの影響を判定することもできる。「Near-field-effect」とは、波長に比べて伝達距離が短い場合にのみ生じ、せん断弾性波(S波)に比べて大きい速度の波が受信波時刻歴の初期部分に現れる現象のことであり、せん断弾性波到達時の見極めを困難にするものとして知られている。
【0062】
本実施形態では、S波のNear-field-effectの影響判定は例えば以下の手順で行うことができる。P波の弾性波速度Vpと、S波の弾性波速度Vsから、下記の(1)式を用いてポアソン比νを算出する。
【数1】
【0063】
そして上記(1)式により算出したポアソン比νが0~0.5の範囲内であり(条件1)、かつ、数種類の周波数に設定された発振波によって計測された受振波のポアソン比を比較したときに大きな差がない(条件2)場合に、S波のNear-field-effectの影響は問題ないと判定できる。なお、品質判定部93は、上記の条件1、2の両方を満たす場合以外にも、条件1、2のいずれか一方を満たす場合に影響なしを判定する構成でもよい。また、上記の条件2の「数種類の周波数」とは、任意の複数の周波数以外にも、1種類の周波数の場合も含む。
【0064】
品質データ作成部92及び品質判定部93には、共にデジタルオシロスコープ8から同一の弾性波計測装置1の計測結果の情報が入力される。PC9は、例えば弾性波計測装置1の設置場所や、利用者からの指令情報などの各種情報に基づき、品質データ作成部92による品質データの作成機能と、品質判定部93による品質判定機能のどちらを実施するかを適宜選択することができる。
【0065】
PC9は、物理的には、CPU(Central Processing Unit)、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)、入力デバイスであるキーボード及びマウス等の入力装置、ディスプレイ等の出力装置、ネットワークカード等のデータ送受信デバイスである通信モジュール、補助記憶装置、などを含むコンピュータシステムとして構成することができる。上記のPC9の各機能は、CPU、RAM等のハードウェア上に所定のコンピュータソフトウェアを読み込ませることにより、CPUの制御のもとで通信モジュール、入力装置、出力装置を動作させるとともに、RAMや補助記憶装置におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。
【0066】
なお、PC9は、品質データベース91と、品質データ作成部92と、品質判定部93などを含む解析装置としての機能を発揮できればよく、汎用のPC以外にも専用装置でもよいし、制御基板などの部品で実装してもよい。
【0067】
次に、本実施形態に係る弾性波計測装置1の効果を説明する。本実施形態に係る弾性波計測装置1は、P波及びS波の少なくとも一方の振動波を発生させる発振子21と、発振子21から発生した振動波が供試体Tを介して伝達される受振波を検出する受振子22と、供試体Tを発振子21と受振子22で挟み込んで固定圧力によって圧着する圧着部23と、を備える。
【0068】
この構成により、供試体Tを発振子21と受振子22で挟み込んで固定圧力によって圧着して、発振子21と受振子22との間に固定できるので、従来のベンダーエレメント法のように供試体Tに溝を掘る等の供試体Tを固定するための作業が不要となる。これにより、これらの従来の固定手法によって供試体Tに生じる攪乱や応力の影響を受振波が受けることを防止できるので、計測する受振波への影響要因を排除することが可能となる。この結果、本実施形態では、受振子22による検出される受振波に基づく品質判定精度を向上でき、一軸圧縮試験以外で改良土の品質判定を高精度に行うことができる。
【0069】
また、本実施形態の弾性波計測装置1は、振動波と受振波とに基づき供試体Tにおける弾性波速度を算出し、算出した弾性波速度に基づき供試体Tの品質を判定する品質判定部93を備える。
【0070】
この構成により、受振子22による検出される受振波が、上述のように従来のベンダーエレメント法のような供試体Tに生じる攪乱や応力の影響を受けることを防止できるので、この受振波を用いて算出される弾性波速度の精度も向上できる。これにより、算出した弾性波速度を用いる品質判定の精度をさらに向上できるので、一軸圧縮試験以外で改良土の品質判定を高精度に行うことができる。
【0071】
また、本実施形態の弾性波計測装置1は、過去の実験データに基づく供試体Tの弾性波速度と硬さとの相関関係を記憶する品質データベース91を備える。品質判定部93は、算出した弾性波速度に基づき品質データベース91を参照して供試体Tの硬さの情報を抽出して、抽出した硬さの情報に基づき供試体Tの品質を判定するのが好ましい。
【0072】
この構成により、事前に取得している品質データベース91の情報を利用して供試体Tの品質を判定することが可能となるので、改良土の品質判定をより迅速に行うことが可能となる。
【0073】
また、本実施形態の弾性波計測装置1では、品質判定部93は、受振波の速度、振幅、及び周波数の少なくとも一部を用いて供試体Tの品質を判定するのが好ましい。
【0074】
この構成により、受振子22による検出される受振波を利用して、弾性波速度に基づく手法以外でも改良土の品質判定を行うことが可能となるので、品質判定を行うための要素を増やすことができ、改良土の品質判定をより高精度に行うことが可能となる。また、受振波の波形の振幅と周波数等の分析をすることによって、土塊混入率や空隙率などの一軸圧縮強さに影響を与える因子が過度ではないか判定することができる。
【0075】
また、本実施形態の弾性波計測装置1では、発振子21は、P波及びS波の両方を発生させるのが好ましい。この場合、品質判定部93は、受振子22により検出されたP波の受振波と、S波の受振波とを用いて、S波のNear-field-effectの影響を判定することができる。
【0076】
この構成により、P波及びS波の両方を計測する構成であれば、P波とS波との比較によりS波のNear-field-effectの影響を判定することができるので、上述の弾性波速度に基づく品質判定や、受振波の速度などを利用した品質判定を行う前に、品質判定に用いる受振波の品質を判別できる。例えばNear-field-effectの影響が強く、受振波の品質が悪い場合には、上述の品質判定処理を回避することができる。これにより、高品質のS波に限定して品質判定処理を実施することが可能となるので、改良土の品質判定をより高精度に行うことが可能となる。
【0077】
また、本実施形態の弾性波計測装置1では、圧着部23による固定圧力は20(kN/m)以上であるのが好ましい。
【0078】
この構成により、図4を参照して説明したように、このような固定圧力の範囲とすることにより、供試体の直径や硬さの変化によらず弾性波速度を安定化できるので、弾性波速度に基づく改良土の品質判定の精度をさらに向上できる。
【0079】
<弾性波計測装置を用いる改良土の品質判定方法>
次に、図6図7を参照して、本実施形態に係る弾性波計測装置1を用いる改良土の品質判定方法について説明する。
【0080】
図6は、実施形態に係る弾性波計測装置1を用いるタイミングを示すフローチャートである。図6のフローチャートのうち本実施形態に係る処理は点線で囲んだ部分Bが対応する。
【0081】
まず従来の品質判定方法の流れを説明する。まず地盤改良現場の施工前の土である原位置土が採取され(ステップS11)、この採取した現位置土を用いて配合試験が行われる(ステップS12:室内試験ステップ)。配合試験では、例えば現位置土にセメント等をさまざまな割合で撹拌混合して複数の供試体を作成する。以下ではこの供試体を「室内配合供試体T1」とも呼ぶ。そして、これらの室内配合供試体T1を用いて、一軸圧縮試験などの各種試験を実施する。ステップS12の配合試験の結果、所望の硬さを実現できる改良地盤の配合条件が設定される(ステップS13)。
【0082】
配合条件が決まると、地盤改良現場で試験施工または本施工が行われ(ステップS14)、施工後の改良地盤からコアが採取される(ステップS15)。以下ではこの供試体を「現場供試体T2」とも呼ぶ。
【0083】
次に、現場供試体T2を用いて一軸圧縮試験が行われ(ステップS16:現場試験ステップ)、試験結果に基づき現場供試体T2の強度判定が行われる(ステップS17)。現場供試体T2が所望の強度を満たせていない場合(ステップS17のNG)には、解決策としては、ステップS14に戻り再施工が行われるか、または、ステップS15に戻り別孔からコアが採取されて再度一軸圧縮試験が行われる。
【0084】
一方、現場供試体T2が所望の強度を満たせていると判定される場合(ステップS17のOK)には、改良土が所望の品質を満たしているものと判定されて処理を終了する。
【0085】
つまり、従来の品質判定方法では、現場供試体T2を用いた一軸圧縮試験において所望の強度条件を満たさない場合には、一点鎖線で囲んだ部分Aのように、即座に再施工または別孔による再試験を行う必要がある。
【0086】
一方本実施形態では、まず配合試験において、弾性波計測装置1を用いる改良土の品質判定が行われる。ステップS21では、ステップS12の配合試験中の一軸圧縮試験の実施前の状態である「試験前室内配合供試体T11」を用いて弾性波計測装置1による弾性波計測と、一軸圧縮試験の実施後の状態である「試験後室内配合供試体T12」を用いて弾性波計測装置1による弾性波計測と、のいずれか一方、または両方が行われる。
【0087】
ステップS22では、ステップS21にて計測した試験前室内配合供試体T11または試験後室内配合供試体T12の弾性波計測結果を用いて、供試体の硬さとの相関性が確認される。具体的には、供試体T11、T12の強度が計測され、弾性波速度などの弾性波計測装置1の計測結果に基づき算出される情報と、供試体T11、T12の硬さなどの情報との相関関係が品質データとして品質データベース91に記憶される。なお、ステップS22にて品質データベース91に記憶される品質データは、弾性波速度に基づく品質データの他にも、受振波の速度、振幅、周波数等に基づく土塊混入率や空隙率などの品質データなどを含んでもよい。ステップS22の処理が完了すると、ステップS13に戻る。
【0088】
つまり本実施形態では、ステップS21、S22のように、現場施工前の配合試験の段階で、室内配合供試体T1(試験前室内配合供試体T11または試験後室内配合供試体T12)を用いる弾性波計測装置1の計測結果に基づき、予め品質判定に用いる品質データベース91が作成される(品質データ作成ステップ)。このような品質データベース91を予め作成しておけば、後述の施工現場において実施される弾性波速度に基づく品質判定において、事前に取得している品質データベース91の情報を利用して供試体Tの品質を判定することが可能となるので、改良土の品質判定をより迅速に行うことが可能となる。
【0089】
また、本実施形態では、施工現場での一軸圧縮試験の前にも、下記のステップS23、S24のように、弾性波計測装置1を用いる改良土の品質判定が行われる(現場試験前判定ステップ)。ステップS23では、ステップS15にて採取された「試験前現場供試体T21」を用いて弾性波計測装置1による弾性波計測が行われる。
【0090】
ステップS24では、ステップS23の計測結果に基づき、品質データベース91を用いた試験前現場供試体T21の品質判定が行われる。品質判定部93は、ステップS23にて取得された弾性波速度に基づき、品質データベース91を参照して試験前現場供試体T21の硬さに関する情報を取得する。また、品質判定部93は、品質データベース91に受振波の速度、振幅、周波数等に基づく土塊混入率や空隙率などの品質データが含まれる場合には、ステップS23にて計測された受振波の速度等の情報に基づき、品質データベース91を参照して試験前現場供試体T21の土塊混入率や空隙率に関する情報を取得してもよい。さらに、弾性波計測装置1がS波とP波の両方を計測する構成の場合には、品質判定部93は、受振子22により検出されたP波の受振波と、S波の受振波とを用いて、S波のNear-field-effectの影響を判定してもよい。品質判定部93は、上記のうち少なくとも一部の情報を利用して、試験前現場供試体T21の品質が所定の条件を満たすか否かを判定できる。
【0091】
上記の品質判定部93による判定の結果、試験前現場供試体T21の品質が条件を満たす場合(ステップS24のOK)には、ステップS16に戻り試験前現場供試体T21を用いて一軸圧縮試験が行われる。一方、試験前現場供試体T21の品質が条件を満たさない場合(ステップS24のNG)には、一軸圧縮試験の試験結果が条件を満たさないことは明白なので、試験前現場供試体T21を除外して、ステップS15に戻り、別孔から現場供試体T2の採取が再度行われる。
【0092】
つまり本実施形態では、ステップS23、S24によって、地盤改良の施工現場での一軸圧縮試験の前に、一軸圧縮試験に用いられる現場供試体T2の選別を行うことができる(選別ステップ)。これにより、明らかに一軸圧縮試験の要件を満たさない試験前現場供試体T21を事前に除外できるので、無駄な一軸圧縮試験の実施を回避することができ、作業効率を改善できる。
【0093】
また、本実施形態では、施工現場での一軸圧縮試験の後にも、下記のステップS25、S26のように、弾性波計測装置1を用いる改良土の品質判定が行われる(現場判定ステップ)。ステップS25では、ステップS17にてNGと判定された「試験後現場供試体T22」を用いて弾性波計測装置1による弾性波計測が行われる。
【0094】
ステップS26では、ステップS25の計測結果に基づき、品質データベース91を用いた試験後現場供試体T22の品質判定が行われる。品質判定部93は、例えばステップS24と同様の手法によって試験後現場供試体T22の品質が所定の条件を満たすか否かを判定する。試験後現場供試体T22の品質が条件を満たさない場合(ステップS26のNG)には、一軸圧縮試験と、弾性波計測装置1による試験の両方で条件を満たさないと判定されたため、ステップS14に戻り再施工が行われるか、または、ステップS15に戻り別孔からコアが採取されて再度一軸圧縮試験が行われる。
【0095】
一方、試験後現場供試体T22の品質が条件を満たす場合(ステップS26のOK)には、一軸圧縮試験では条件を満たさなかったものの、弾性波計測装置1による試験では条件を満たせていると判定されたので、改良土が所望の品質を満たしているものと判定されて処理を終了する。
【0096】
つまり本実施形態では、地盤改良の施工現場での一軸圧縮試験で品質不良と判定された場合でも、さらに弾性波計測装置1による試験を行って品質判定を行うことで、改良土が所望の品質を満たしているものと判断することができる。本実施形態では、図6に一点鎖線で囲む部分Aのように、施工現場での一軸圧縮試験で品質不良と判定された場合に、即座に再施工または別孔による再試験を行う必要がなくなる。これにより、無駄な再施工や、別孔による再度の一軸圧縮試験の実施を回避することができ、作業効率をさらに改善できる。
【0097】
また、再施工に際して、一般に、最初に施工条件の変更について検討して再施工が行われる。そして、それでも品質が改善されない場合に、配合条件の見直しについて検討する。従来の一軸圧縮試験だけでは、強度の大小しか分からないため、原因の特定はできない。一方、本実施形態では例えば下記のような2段階の検討が可能である。
(1)土塊混入率などが判定できる場合に、土塊混入率が大きい=撹拌不良等であるため、施工条件の検討が必要であることがわかる。
(2)土塊混入率は正常で強度不足が判定できる場合は配合条件の再検討が必要であることがわかる。
このように本実施形態では、一軸圧縮試験結果の原因の特定と対策の検討が可能となる。
【0098】
図7は、一軸圧縮試験前後における供試体の弾性波速度の相関の一例を示す図である。図7(A)はP波での相関性を示し、図7(B)はS波での相関性を示す。(A)、(B)各図では、横軸が初期値(一軸圧縮試験前)の弾性波速度を示し、縦軸が一軸圧縮試験後の弾性波速度を示す。各図の円形(●)のプロットと、三角形(△)のプロットは、2回の実験結果のそれぞれに対応する。
【0099】
図7(A)、(B)では、共に縦軸と横軸における弾性波速度が同一となる位置、すなわち相関が1となる位置に沿って点線が図示されている。図7(A)、(B)では、各プロットの大半がこの点線に近い位置となっていることがわかる。つまり、P波の場合も、S波の場合も、一軸圧縮試験前後の弾性波速度の相関が強いことが示されている。
【0100】
理想的には、ステップS21、S22では、試験前室内配合供試体T11と試験後室内配合供試体T12の両方の計測を行って、両方の品質データを品質データベース91に記憶するのが好ましい。この場合、ステップS24では試験前現場供試体T21の測定結果の判定を行うので、試験前室内配合供試体T11の品質データを用いる構成とするのが、室内配合供試体T1と現場供試体T2との条件が近いので、より精度良く品質を判定できる。同様に、ステップS26では試験後現場供試体T22の測定結果の判定を行うので、試験後室内配合供試体T12の品質データを用いる構成とするのが、室内配合供試体T1と現場供試体T2との条件が近いので、より精度良く品質を判定できる。
【0101】
ただし、図7に示すように、弾性波速度には、一軸圧縮試験の前後で相関関係があると考えられる。このため、ステップS21、S22では、試験前室内配合供試体T11と試験後室内配合供試体T12の一方のみの計測を行って、一方のみの品質データを品質データベース91に記憶する構成でもよい。この場合でも、弾性波速度には、一軸圧縮試験の前後で相関関係があるので、ステップS24の試験前現場供試体T21の測定結果の判定と、ステップS26の試験後現場供試体T22の測定結果の判定の両方で同一の判定データを用いても、充分な精度で供試体の品質を判定することができる。
【0102】
なお、図6のステップS16の一軸圧縮試験を行わずに、施工現場において本実施形態の弾性波計測装置1を用いる改良土の品質判定手法のみ(ステップS25、S26)を行う構成としてもよい。
【0103】
また、図6のフローチャートでは、本実施形態の弾性波計測装置1を用いる改良土の品質判定方法では、最大で下記(1)~(4)の4回のタイミングで行う構成が例示されている。
(1)配合試験時に室内配合供試体を用いる一軸圧縮試験の前
(2)配合試験時に室内配合供試体を用いる一軸圧縮試験の後
(3)施工現場にて採取された現場供試体を用いる一軸圧縮試験の前
(4)施工現場にて採取された現場供試体を用いる一軸圧縮試験の後
【0104】
しかしながら、本実施形態に係る改良土の品質判定方法では、上記(1)~(4)の4回のタイミングの少なくとも一部のみを実施する構成としてもよい。例えば、上記(3)または(4)のみを実施する構成でもよいし、上記(3)、(4)の2回のタイミングで実施する構成でもよい。これらの場合、上記(1)、(2)の配合試験時(ステップS12)の弾性波計測や品質データベース91の作成は行われない。この場合でも、ステップS12の今回の配合試験より以前に、相当数の試験実績が蓄積されている場合には、これらの蓄積データから標準的な評価基準(品質データベース91に相当)を作成することができる。そして、上記(3)または(4)のタイミングで品質判定を行うときには、これらの標準的な評価基準に基づいて、計測した弾性波速度を利用して改良土の品質判定を行うことができる。
【0105】
また、上記(1)及び(2)のタイミングで弾性波計測を行えば、試験前現場供試体T21の測定結果に基づく相関関係と、試験後現場供試体T22の測定結果に基づく相関関係の両方を含む品質データベース91を作成できる。このような品質データベース91がある場合、施工現場では上記(3)のみで弾性波計測を実施すれば、(3)の計測結果と、(1)と(2)の差異や相関関係などを考慮して、上記(4)の計測結果を推定することも可能である。同様に、施工現場では上記(4)のみで弾性波計測を実施すれば、上記(3)の計測結果を推定することも可能である。
【0106】
なお、上記(1)~(4)のすべてのタイミングで弾性波計測を行えば、例えば以下のような利点がある。(1)~(4)それぞれの頻度分布からばらつきの差を評価することも可能である。これは、一軸圧縮試験での強度の評価には頻度分布から統計的にばらつきを確認する方法が規定されているのと同じ方法である。この方法に準じて、弾性波速度等のばらつきを評価するなどの方法によって、個々の評価と一軸圧縮強さとの対比も可能である。さらに、(1)と(3)の関係、また、(2)と(4)の関係から、現場と室内の比較も可能である(一軸圧縮強さでも現場と室内の強度比を求めることと同様)。
【0107】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0108】
1 弾性波計測装置
2 弾性波計測部
21 発振子
22 受振子
23 圧着部
231 基部
232 支柱
233 固定圧力載荷梁
234 固定圧力載荷軸
235 荷重計
3 ファンクションジェネレータ
4 バイポーラ電源
5 発振端子
6 荷重指示器
7 受振端子
8 デジタルオシロスコープ
9 PC(解析装置)
91 品質データベース
92 品質データ作成部
93 品質判定部
T 供試体
T1室内配合供試体
T11 試験前室内配合供試体
T12 試験後室内配合供試体
T2 現場供試体
T21 試験前現場供試体
T22 試験後現場供試体
ステップS21、S22 品質データ作成ステップ
ステップS23、S24 現場試験前判定ステップ
ステップS25、S26 現場判定ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7