(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067698
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】害虫誘引シート
(51)【国際特許分類】
A01M 1/14 20060101AFI20240510BHJP
A01M 1/02 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
A01M1/14 E
A01M1/02 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177965
(22)【出願日】2022-11-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 第37回日本ペストロジー学会 北海道大会
(71)【出願人】
【識別番号】504348541
【氏名又は名称】株式会社フジ環境サービス
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】設楽 明利
(72)【発明者】
【氏名】早川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】田中 康次郎
【テーマコード(参考)】
2B121
【Fターム(参考)】
2B121AA16
2B121BA03
2B121BA07
2B121BA09
2B121BA42
2B121BA47
2B121BA51
2B121BA54
2B121BA58
2B121DA34
2B121DA38
(57)【要約】
【課題】チャタテムシ等のような屋内で常時飛翔しない小型の害虫を効率的に誘引できる害虫誘引シートを提供する。
【解決手段】害虫誘引シートは、シート状の本体部から構成され、チャタテムシ、ダニ、およびゴキブリからなる群から選択される害虫を誘引する害虫誘引シートであって、前記本体部上に配設され、粘着性を有する粘着剤から構成される粘着部と、前記本体部上に配設され、紫外線を発光射出および/または反射する紫外線射出部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の本体部から構成され、チャタテムシ、ダニ、およびゴキブリからなる群から選択される害虫を誘引する害虫誘引シートであって、
前記本体部上に配設され、粘着性を有する粘着剤から構成される粘着部と、
前記本体部上に配設され、紫外線を発光射出および/または反射する紫外線射出部と、
を備えることを特徴とする
害虫誘引シート。
【請求項2】
請求項1に記載の害虫誘引シートにおいて、
前記本体部上に前記紫外線射出部が積層され、
前記紫外線射出部上に前記粘着部が積層されることを特徴とする
害虫誘引シート。
【請求項3】
請求項1に記載の害虫誘引シートにおいて、
前記粘着部および前記紫外線射出部が、前記本体部上に一体に構成されることを特徴とする
害虫誘引シート。
【請求項4】
請求項1に記載の害虫誘引シートにおいて、
前記粘着部が、炭素数1~5の4つのアルキル基で置換されたピラジン化合物から構成される誘引剤を含むことを特徴とする
害虫誘引シート。
【請求項5】
請求項4に記載の害虫誘引シートにおいて、
前記誘引剤が、2,3,5,6-テトラメチルピラジンを含むことを特徴とする
害虫誘引シート。
【請求項6】
請求項1に記載の害虫誘引シートにおいて、
前記紫外線射出部が、酸化チタンおよび/または酸化亜鉛から構成されることを特徴とする
害虫誘引シート。
【請求項7】
請求項1に記載の害虫誘引シートにおいて、
前記本体部に配設され、可視光を吸収する可視光吸収部を備えることを特徴とする
害虫誘引シート。
【請求項8】
請求項1に記載の害虫誘引シートにおいて、
前記粘着部の外部に配設され、炭素数1~5の2つのアルキル基で置換されていてもよいピラジン化合物から構成される忌避剤を含む忌避部を備えることを特徴とする
害虫誘引シート。
【請求項9】
請求項8に記載の害虫誘引シートにおいて、
前記忌避剤が、2,3-ジメチルピラジン、2,6-ジメチルピラジン、およびピラジンからなる群から選択される1つ以上の化合物を含むことを特徴とする
害虫誘引シート。
【請求項10】
請求項1に記載の害虫誘引シートにおいて、
前記紫外線射出部が、315~400nmのUVA波長の紫外線を発光射出および/または反射することを特徴とする
害虫誘引シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫を防除する害虫誘引シートに関し、特に、害虫を効率的に誘引できる害虫誘引シートに関する。
【背景技術】
【0002】
工場で自然発生する害虫は、製造される製品に混入してしまうケースがある。その場合には、製品の品質を低下させ、風評被害も含めて製品事業に与える影響が大きい。
【0003】
このような害虫として、チャタテムシ(茶立虫)、ダニ、ゴキブリ等が知られている。とくに、チャタテムシの一種であるヒラタチャタテ(Liposcelis bostrychophila、チャタテムシ目コナチャタテ科)は、食品工場や医薬品工場などで高頻度かつ大量に発生して工場製品に混入するケースがあり、世界的に問題視されている。
【0004】
ヒラタチャタテの防除対策は工場の防虫管理に必須とされているが、一般に普及している総合的有害生物管理(IPM)で重視されている調査においても、ヒラタチャタテの行動についてはほとんど知られていない。
【0005】
害虫の防除対策には殺虫剤が用いられるケースが多いが、出現した害虫を殺虫剤で処分した場合には、直ちにこれを除去しないと、害虫の死骸がその場に残ることや、殺虫剤自体の毒性もあることから、近時は、害虫を誘引して防除するソフトな方法が重視されている。
【0006】
例えば、ヒラタチャタテの誘引剤としては、飛翔害虫誘引剤として知られるテトラメチルピラジン等の香料および食酢を含む誘引物質を適用する可能性が指摘されている(特許文献1参照)。
【0007】
しかし、実用面において、誘引剤それ自体では近くに所在している害虫を誘引するにとどまり、広大な工場の敷地内等では十分に防除できるとはいえない。しかも、ヒラタチャタテ等に対する実質的な効果についても報告例は存在しない。
【0008】
また、ヒラタチャタテの誘引行動に関しては、実験室内であるが、特に波長351nmの紫外線に誘引される行動特性を確認した報告もある(非特許文献1参照)。しかし、この文献では非実用的な小型シャーレーを細工した容器を用いる特殊な実験にとどまっており、試験虫数も15匹程度と極端に少ないことから十分な評価には至っておらず(非特許文献1参照)、実際に工場等の現場でヒラタチャタテの誘引に紫外線は用いられていない。
【0009】
その理由としては、従来の技術前提として、ヒラタチャタテのような屋内で常時飛翔しない小型の害虫は、紫外線を忌避する性質があることが一般に知られており(例えば、特許文献2参照)、上記非特許文献1の報告との明らかな矛盾が存在する事が挙げられる。
【0010】
そのため、実用性の観点から、害虫を捕捉しやすい粘着テープを用いた害虫誘引シートが研究開発されている。
【0011】
例えば、従来の害虫誘引シートとしては、基材の片面が粘着性を有するトラップ面であって、前記トラップ面をトラップ配置面と対面させて配置して使用する昆虫捕獲用粘着トラップであり、前記トラップ面には、トラップ配置面との間に昆虫の進入・捕獲領域となる間隙を設けると共に、前記トラップ配置面に粘着するための、定着用凸部を有している昆虫捕獲用粘着トラップが知られている(特許文献3参照)。
【0012】
また、例えば、従来の害虫誘引シートとしては、チャタテムシ等とは異なりハエ類等のやや大型の飛翔昆虫を対象とするものではあるが、このような大型の飛翔昆虫を誘引しやすい色を利用して、飛翔昆虫を誘引して捕獲する飛翔昆虫捕獲器であって、前記飛翔昆虫が付着する粘着シートと、前記粘着シートが設置される本体と、前記粘着シートを覆うように装着されるカバー部と、前記カバー部に設けられる前記飛翔昆虫が侵入する侵入口と、を備え、前記本体に前記カバー部を装着したとき、前記本体と前記カバー部との間に前記粘着シートを収容する内部空間が形成されるとともに、当該内部空間が前記侵入口を介して前記飛翔昆虫が生息する外部環境と連通するように構成され、前記粘着シートは、PCCS色相環において、色相番号n1[n1:4(赤みの橙)~6(黄みの橙)]に着色された背景領域と、色相番号(n2+2)~(n2+4)[n2←n1:6(黄みの橙)~10(黄緑)]に着色された複数の島状部とからなる海島模様を備える飛翔昆虫捕獲器が知られている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2013‐151470号
【特許文献2】特開昭58‐76036号
【特許文献3】特開2020‐5569号
【特許文献4】国際公表2014/104197号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】J Pest Sci, 89, page.923‐930, 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、従来の害虫誘引シートは、例えば、上記の特許文献3のように、粘着性を有するトラップ面を備えるものがあるが、チャタテムシ等を効果的にトラップ内へ誘導する工夫がなされておらず、そのため誘引精度が不安定なものとなっている。
【0016】
また、従来の害虫誘引シートは、例えば、上記の特許文献4のように、害虫が誘引しやすい色をシートに着色して誘引するものもあるが、当該誘引に適合するのはハエ類等のやや大型の飛翔昆虫であり、行動特性の違いから、チャタテムシ等のような屋内で常時飛翔しない小型の害虫にそのまま適用することは困難である。
【0017】
本発明は、如上の課題を解決するためになされたものであり、チャタテムシ等のような屋内で常時飛翔しない小型の害虫を効率的に誘引できる害虫誘引シートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、鋭意研究の結果、チャタテムシ等の小型の害虫に対して優れた防除効果を発揮できる新たな構成の害虫誘引シートを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
かくして、本願に開示する害虫誘引シートは、シート状の本体部から構成され、チャタテムシ、ダニ、およびゴキブリからなる群から選択される害虫を誘引する害虫誘引シートであって、前記本体部上に配設され、粘着性を有する粘着剤から構成される粘着部と、前記本体部上に配設され、紫外線を発光射出および/または反射する紫外線射出部と、を備えるものである。
【0020】
このように、前記本体部上に配設され、粘着性を有する粘着剤から構成される粘着部と、前記本体部上に配設され、紫外線を発光射出および/または反射する紫外線射出部と、を備えることから、前記紫外線射出部からの紫外線が前記害虫を誘引し、当該誘引された害虫が前記粘着部の粘着剤によって捕捉されることとなり、効率的かつ低コストで、効率的に前記害虫を誘引し捕捉することができる。
【0021】
また、本願に開示する害虫誘引シートは、必要に応じて、前記本体部上に前記紫外線射出部が積層され、前記紫外線射出部上に前記粘着部が積層されるものである。このように、前記本体部上に前記紫外線射出部が積層され、前記紫外線射出部上に前記粘着部が積層されることから、多層構造によって、前記紫外線射出部からの紫外線が前記害虫を誘引し、当該誘引された害虫が直ちに前記粘着部の粘着剤によって捕捉されることとなり、省スペースかつ低コストで効率的に前記害虫を誘引し捕捉することができる。
【0022】
また、本願に開示する害虫誘引シートは、必要に応じて、前記粘着部が、炭素数1~5の4つのアルキル基で置換されたピラジン化合物から構成される誘引剤を含むものである。このように、前記粘着部が、炭素数1~5の4つのアルキル基で置換されたピラジン化合物から構成される誘引剤を含むことから、紫外線のみならず当該誘引剤からも前記害虫が重畳的に誘引されることとなり、効率的に前記害虫を誘引して捕捉することができる。
【0023】
また、本願に開示する害虫誘引シートは、必要に応じて、前記誘引剤が、2,3,5,6-テトラメチルピラジンを含むものである。このように、前記誘引剤が、2,3,5,6-テトラメチルピラジンを含むことから、取り扱いの容易な化合物を用いて前記誘引剤が構成されることとなり、効率的かつ低コストで、前記害虫を誘引することができる。
【0024】
また、本願に開示する害虫誘引シートは、必要に応じて、前記紫外線射出部が、酸化チタンおよび/または酸化亜鉛から構成されるものである。このように、前記紫外線射出部が、酸化チタンおよび/または酸化亜鉛から構成されることから、微小な部材で高い耐久性でかつ紫外線を反射できることとなり、前記害虫の誘引に際して、省スペース化と耐久性を向上させることができる。
【0025】
また、本願に開示する害虫誘引シートは、必要に応じて、前記本体部に配設され、可視光を吸収する可視光吸収部を備えるものである。このように、前記本体部に配設され、可視光を吸収する可視光吸収部を備えることから、当該可視光吸収部が前記本体部で反射しようとする可視光を反射することなく吸収して、前記紫外線射出部から高濃度の紫外線が放出されることとなり、より高品質な紫外線によって、効率的に前記害虫を誘引することができる。
【0026】
また、本願に開示する害虫誘引シートは、必要に応じて、前記粘着部の外部に配設され、炭素数1~5の2つのアルキル基で置換されたピラジン化合物、およびピラジンから構成される忌避剤を含む忌避部を併用するものである。このように、前記粘着部の外部に配設され、炭素数1~5の2つのアルキル基で置換されていてもよいピラジン化合物から構成される忌避剤を含む忌避部を備えることから、前記粘着部の外部にある前記忌避部を忌避した害虫が、前記紫外線射出部からの紫外線に誘引されて前記粘着部の粘着剤に効率的に捕捉されることとなり、捕捉効率を重畳的に高めて前記害虫を誘引することができる。
【0027】
また、本願に開示する害虫誘引シートは、必要に応じて、前記紫外線射出部が、315~400nmのUVA波長の紫外線を発光射出および/または反射するものである。このように、前記紫外線射出部が、315~400nmのUVA波長の紫外線を発光射出および/または反射することから、前記害虫がより誘引されやすい紫外線が前記紫外線射出部から放出されることとなり、前記粘着部の粘着剤に効率的に捕捉され、捕捉効率を重畳的に高めて前記害虫を誘引することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る害虫誘引シートの構成図を示す。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る害虫誘引シートの本体部が屈折した構成図を示す。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る害虫誘引シートの複数の本体部から構成される構成図を示す。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係る害虫誘引シートの紫外線ランプを備えた構成図を示す。
【
図5】本発明の第2の実施形態に係る害虫誘引シートの紫外線ランプをランプ固定台に固定した構成図を示す。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る折り畳み形状の害虫誘引シートの構成図を示す。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る害虫誘引シートの電池ケースを備えた構成図を示す。
【
図8】本発明の第2の実施形態に係る害虫誘引シートの鏡面部を備えた構成図を示す。
【
図9】本発明の第2の実施形態に係る害虫誘引シートの鏡面部を備えた構成図を示す。
【
図10】本発明の第3の実施形態に係る害虫誘引シートの構成図を示す。
【
図11】本発明の第4の実施形態に係る害虫誘引シートの構成図を示す。
【
図12】本発明の第4の実施形態に係る害虫誘引シートの構成図を示す。
【
図13】本発明の第4の実施形態に係る害虫誘引シートの構成図を示す。
【
図14】本発明の第4の実施形態に係る害虫誘引シートの構成図を示す。
【
図15】本発明の第5の実施形態に係る害虫誘引シートの構成図を示す。
【
図16】本発明の第5の実施形態に係る害虫誘引シートの構成図を示す。
【
図17】本発明の第6の実施形態に係る害虫誘引シートの構成図を示す。
【
図18】本発明の実施例1に係る害虫誘引シートの各区画に分布していた供試虫の割合(%)についての実験結果を示す。
【
図19】本発明の実施例2に係る害虫誘引シートの各照射光波長(nm)ごとに捕獲された供試虫の割合(%)についての実験結果を示す。
【
図20】本発明の実施例3に係る害虫誘引シートのコントロールと比較した捕獲数の比率(%)についての実験結果を示す。
【
図21】本発明の実施例4に係る害虫誘引シートの各照射光波長(nm)ごとの供試虫の捕獲率(%)についての実験結果を示す。
【
図22】本発明の実施例5に係る害虫誘引シートの供試虫のココア粉末の捕獲率(%)についての実験結果を示す。
【
図23】本発明の実施例5に係る害虫誘引シートに関してココア粉末の匂い成分についてガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)結果を示す。
【
図24】本発明の実施例6に係る害虫誘引シートの各化合物ごとの供試虫の捕獲率(%)についての実験結果を示す。
【
図25】本発明の実施例7に係る害虫誘引シートの紫外線強度(μw/cm
2)ごとの供試虫の捕獲率(%)についての実験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る害虫誘引シートは、
図1に示すように、シート状の本体部1から構成され、チャタテムシ、ダニ、およびゴキブリからなる群から選択される害虫を誘引する害虫誘引シートであって、この本体部1上に配設され、粘着性を有する粘着剤から構成される粘着部2と、この本体部1上に配設され、紫外線を発光射出および/または反射する紫外線射出部3と、を備えるものである。
【0030】
この対象となる害虫は、屋内で常時飛翔しない小型の害虫であり、チャタテムシ、ダニ、およびゴキブリからなる群から選択され、例えば、チャタテムシが挙げられる。
【0031】
この対象となるチャタテムシとしては、ヒラタチャタテ(Liposcelis bostrychophila)、コチャタテ(Trogium pulsatorium)、ツヤコチャタテ(Lepinotus reticulatus)、ウスグロチャタテ(Liposcelis corrodens)、カツブシチャタテ(Liposcelis entomophilus)、ソウメンチャタテ(Liposcelis kidderi)、コナチャタテ(Liposcelis simulans)、トガリチャタテ(Tapinella africana)、ヒメチャタテ(Lachesilla pedicularia)が挙げられる。このうち例えば、ヒラタチャタテ(Liposcelis bostrychophila)を対象とすることができる。
【0032】
ヒラタチャタテは、上述のように、医薬品製造工場や食品製造工場の衛生区内で捕獲される昆虫の一種であり、これらの工場にとって、調査トラップにヒラタチャタテが捕獲されることは、その製造現場の衛生状況が良好でないことを示すものとなっている。ヒラタチャタテの防除対策は工場の防虫管理に必須と考えられている。ヒラタチャタテの効果的な防除方法は、現在、工場現場で模索されているところであり、産業上のニーズは極めて高い。
【0033】
この他にも、ダニやゴキブリを対象とすることもでき、ゴキブリの場合には、特にその幼虫に対して効果的である。
【0034】
この本体部1の基材は、特に限定されないが、例えば、紙、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂等の公知のものを用いることができる。
【0035】
この粘着部2を構成する粘着剤は、特に限定されないが、例えば、紙、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂等の公知のものを用いることができる。
【0036】
この粘着部2をこの本体部1に形成する方法は、公知の手法を用いることができ、特に限定されないが、例えば、融着、固着、塗布、吹付け、貼付け、混錬、含浸等を用いることができる。
【0037】
この紫外線射出部3は、この本体部1上に配設され、紫外線を自発的に発光する構成も可能であり、自然光等の紫外線を含む光線または紫外線それ自体を反射して紫外線を発光する構成も可能である。本体部1上に配設されていれば、どのような構造でも限定されない。
【0038】
例えば、
図1に示すように、この本体部1上にこの紫外線射出部3が積層され、この紫外線射出部3上にこの粘着部2が積層される多層構造を形成することが可能である。この場合には、例えば、この紫外線射出部3として、アルミニウムやステンレス鋼などの紫外線反射材料からなるプレートを用いることができる。このようなプレート面は、光沢を有していることが好適である。また、白色を呈していてもよい。このプレート面により、より紫外線の反射率を高めることができる。
【0039】
このようにして、この紫外線射出部3は、紫外線を発光射出および/または反射する。すなわち、この紫外線射出部3は、紫外線を自発的に発光する構成も可能であり、自然光等の紫外線を含む光線または紫外線それ自体を反射して紫外線を発光する構成も可能である。
【0040】
この紫外線射出部3が発光射出および/または反射する紫外線の波長帯域は、特に限定されないが、より好適には、315~400nm(例えば、365nm)のUVA波長である。これにより、チャタテムシ等の害虫がより誘引されやすくなる(後述の実施例参照)。
【0041】
この害虫誘引シートにおいて、この紫外線射出部3からの紫外線を用いてチャタテムシ等の害虫を誘引する構成は、これまで害虫誘引の技術分野で採用されていなかった構成であり、本発明者らが鋭意研究の結果、新たにこの害虫誘引シートに試行錯誤して得られたものである(後述の実施例参照)。
【0042】
この構成によって、この紫外線射出部3からの紫外線がこの害虫を誘引し、この誘引された害虫が直ちにこの粘着部2の粘着剤によって捕捉されることとなり、効率的かつ低コストでこの害虫を誘引することができる。
【0043】
特に、この紫外線射出部3が、315~400nmのUVA波長の紫外線を発光射出および/または反射する場合には、この害虫がより誘引されやすい紫外線がこの紫外線射出部3から放出されることとなり、この粘着部2の粘着剤に効率的に捕捉され、捕捉効率を重畳的に高めてこの害虫を誘引することができる。
【0044】
また、本実施形態に係る害虫誘引シートは、様々な形状を採用することができる。例えば、
図2(a)に示すように、この本体部1が屈折した形状として構成することができる。
【0045】
この屈折した形状によって、
図2(b)に示すように、外部からの自然光等を紫外線射出部3が反射した際に、隣接する本体部1に向かって紫外線が反射することが可能となる。また、この紫外線射出部3により紫外線が乱反射することによって、高密度の紫外線がこの粘着部2に向かって放出されることとなり、紫外線によるこの害虫への誘引効果と相俟って捕捉効果を高めることができる。
【0046】
この他にも、本実施形態に係る害虫誘引シートは、
図3(a)に示すように、複数の本体部1から構成することもできる。この複数の本体部1から構成された形状によって、
図3(b)に示すように、外部からの自然光等を紫外線射出部3が反射して放出された紫外線が、対向する本体部1に向かって反射する。この反射が本体部1間で繰り返されることにより紫外線の乱反射が発生し、高密度の紫外線がこの粘着部2に向かって反射することとなり、紫外線による害虫への誘引効果と相俟って捕捉効果を高めることができる。
【0047】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る害虫誘引シートは、第1の実施形態と同様に、前記本体部1と、前記粘着部2と、前記紫外線射出部3と、を備え、さらに、
図4(a)に示すように、前記本体部1の上面から前記本体部1に向かって紫外線を発光する紫外線ランプ31を備える構成である。
【0048】
この紫外線ランプ31は、紫外線を発光するものであれば特に限定されず、例えば、LEDランプ、エキシマランプ、水銀ランプ、メタルハライドランプ等が挙げられるが、取り扱いの容易さから、LEDランプを用いることが好適である。
【0049】
また、
図5(b)に示すように、上記第1の実施形態と同様に、シート状の紫外線射出部3としての紫外線反射シート32を、この本体部1上に配設することも可能である。これにより、この紫外線ランプ31が紫外線を直接放出すると共に、この紫外線をさらに紫外線反射シート32が反射する。これにより、紫外線量が増幅し、高濃度の紫外線がこの本体部1上に充満し、さらに強くこの害虫を誘引することができる。
【0050】
また、本実施形態に係る害虫誘引シートは、
図5(a)に示すように、この紫外線ランプ31を固定するテーブル状の枠体としてのランプ固定台33を備える構成も可能である。このランプ固定台33の材質は、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン樹脂(PP)等のプラスチック製とすることができる。
【0051】
本実施形態に係る害虫誘引シートは、
図5(a)に示すように、底部に本体部1と粘着部2を有し、これら本体部1と粘着部2を収容する本体収容部1aからなるスティキートラップ(粘着式捕虫器)として取り換え可能に構成することができる。所定期間の経過後に、このランプ固定台33はそのまま継続使用可能であると共に、経年劣化により粘着性の低下したスティキートラップ(粘着式捕虫器)のみを交換することで、高度な粘着性を常時維持することが可能となり、利用者にとっても利便性が高いものとなり、また使い捨てではないことから環境負荷も低減することができる。
【0052】
また、本実施形態に係る害虫誘引シートは、
図5(b)に示すように、この紫外線ランプ31の周囲近傍に正の焦点距離を有する平凸球面レンズ31aを備えることもできる。この平凸球面レンズ31aは、公知の材質を使用することができ、例えば、石英、フッ化カルシウム、シリコンなどから構成できる。
【0053】
この平凸球面レンズ31aによって、この紫外線ランプ31から放出される紫外線光線の発散角を減少させることができ、紫外線ランプ31から拡散される紫外線光線をコリメート光として、この粘着部2に向かってより確実に集中的に照射することができる。
【0054】
また、本実施形態に係る害虫誘引シートは、このランプ固定台33を一定形状に固定された構成のみならず、折り畳み可能で可変形状の構成とすることもできる。例えば、
図6(a)に示すように、このランプ固定台33は、このランプ固定台33の折り畳み位置を固定する支持棒33aと、このランプ固定台33の縁端部近傍に配設されてこの支持棒33aの縁端部を固定する固定穴33bと、このランプ固定台33と本体部1とを折り畳み可能に接続して支点固定で回転自在な支持構造である蝶番としてのヒンジ33cと、この本体部1の縁端部近傍に配設されて軟磁性体成分を含む軟磁性体部33dと、このランプ固定台33のうちこの軟磁性体部33dに対向する位置に配設されて磁性体成分を含む磁性体部33eと、を備えることができる。
【0055】
この支持棒33aの材質は、ある程度の強度があれば特に限定されないが、例えば、プラスティック製やステンレス製とすることができる。この軟磁性体部33dは、
図6(b)に示すように、この本体部1の縁端部近傍に配設される。この軟磁性体成分としては、例えば、鉄、けい素鉄などが挙げられる。また、この磁性体部33eは、
図6(c)に示すように、このランプ固定台33の端部近傍に配設されて磁性体成分を含む。この磁性体成分は、磁性体であれば特に限定されないが、例えば、ネオジム(Nd)、フェライト(Fe
3O
4等)、サマリウム(Sm)などが挙げられ、このランプ固定台33の材質(例えばポリプロピレン樹脂(PP))中に練り込まれていてもよい。
【0056】
この軟磁性体部33dと磁性体部33eとが対向配置されることによって、磁力によって、この本体部1とランプ固定台33が近づく位置でのみ引き付け合って強固に固定することができる。その一方で、離れた位置ではこの本体部1とランプ固定台33が引き付け合わずに離れた状態を維持することができる。これにより、折り畳み形状において利便性の高い固定を得ることができる。
【0057】
また、この紫外線ランプ31の電源として電池(例えば市販のボタン電池等)を用いることができる。例えば、
図7(a)に示すように、このランプ固定台33の台上に電池を収容するケース状の電池ケース31bを備えることができる。
このランプ固定台33の台上では、
図7(b)に示すように、この電池ケース31bが載置され、このランプ固定台33の台の裏では、
図7(c)に示すように、この紫外線ランプ31が載置され、このランプ固定台33は、側面からは、
図7(d)に示すように、この紫外線ランプ31の固定を阻害することなく電池ケース31bによる電源供給が可能となる。この電池ケース31bを備えることにより、省スペース化と共に、利用者が電池を容易に交換可能となり、長期間継続して利用でき利便性を向上させることができる。
【0058】
また、この粘着部2は、この本体部1上への配置形態は、特に限定されず、均一に配置することも可能であり、また、
図7(e)に示すように、不均一でまばらな形状で配置することができる。不均一でまばらな形状とすることで、この粘着部2の粘着性能を維持しつつ製造コストを抑えることができる。
【0059】
この他にも、本実施形態に係る害虫誘引シートは、この紫外線ランプ31を本体部1近傍に配置することも可能である。さらに、この紫外線ランプ31の上部に、複数の光反射面が組み合わされて多面体として構成された多面反射窪みを形成することができる。この多面反射窪みの形状は、特に限定されないが、角錐形状とすることが可能であり、例えば、三角錐形状、四角錐形状、五角錐形状、六角錐形状、七角錐形状、八角錐形状なども可能である。
【0060】
例えば、
図8(a)に示すように、本実施形態に係る害虫誘引シートは、この紫外線ランプ31の上部に配設される多面反射窪みとして窪んだ四角錐形状で形成されたプラスチック製の天井部34と、この天井部34の内面側(裏面)を鏡面として形成された鏡面部34aを備えることができる。紫外線ランプ31は、必ずしも害虫誘引シートと一体化する必要はなく、大型・中型・小型の様々なサイズを用意することにより用途に併せて市販の害虫誘引(粘着)シートと併用することも可能である。
【0061】
この天井部34に連結する横側面34bは、この害虫が侵入可能な空洞部34cを一部に設けたプラスチック製とすることができる。この紫外線ランプ31は、例えば、ボタン電池搭載のLEDランプとすることができる。この場合には、市販の安価なボタン電池式の紫外線ランプを使えることから、低コストで市場価値の高い害虫誘引シートが構成できる。これにより、
図8(a)に示すように、この紫外線ランプ31から放出された紫外線が、この鏡面部34aで乱反射されて紫外線A’を周囲にあらゆる角度で放出することができる。
【0062】
本実施形態に係る害虫誘引シートは、そのサイズについては特に限定されず、例えば、大型・中型・小型のタイプのように、用途に応じて自由に作成することが可能である。例えば、広い面積を有する屋根裏や床下等においては、大規模な害虫捕獲用として大型のタイプの害虫誘引シートを設置することができる。また、例えば、市販の害虫捕獲器などの内部にも入れられる小型のタイプのサイズにすることで、市販の害虫捕獲器と組み合わせて相乗的に各種の害虫を捕獲できる害虫捕獲エンハンサーとしても利用可能となる。
【0063】
また、本実施形態に係る害虫誘引シートは、
図8(b)に示すように、この粘着部2が取り換え可能なプレート形状として独立して構成されると共に、この本体部1の側部にこの粘着部2を出し入れ可能とするシート取出口11を備えることもできる。
【0064】
これにより、所定期間の経過後に、使用後の粘着部2のみをシート取出口11から取り出して、新品未使用の粘着部2に交換することで、この粘着部2において新鮮で高度な粘着性を常時維持することが可能となる。利用者にとっても利便性が高く、また使用の都度使い捨てではないことから、環境負荷を低減することができる。
【0065】
この鏡面部34aが形成される天井部34の形状は、上記の多面反射窪みとして窪んだ角錐形状に限定されず、この他にも、凸状の形状とするとも可能である。例えば、多面体形状のダイヤモンドカットの形状のように頂点が突き出た角錐形状として形成することもできる。例えば、
図9(a)に示すように、この鏡面部34aは、頂点が突き出た四角錐形状の天井部34の内側面(裏面)に形成することも可能である。
【0066】
これにより、
図9(b)に示すように、この紫外線ランプ31から放出された紫外線が、この鏡面部34aで、カットされたダイヤモンドのように複雑に乱反射した紫外線A’を周囲にあらゆる角度で放出することができる。
【0067】
以上のように、本実施形態に係る害虫誘引シートは、紫外線ランプ31を備えることから、とりわけ自然光が届かない屋根裏等の暗部においても、十分な量の紫外線が得られ、この紫外線により害虫の誘引効果を高めることが可能となる。
【0068】
(第3の実施形態)
第3の実施形態に係る害虫誘引シートは、第1の実施形態と同様に、前記本体部1と、前記粘着部2と、前記紫外線射出部3と、を備え、さらに、前記粘着部2および前記紫外線射出部3が、前記本体部1上に一体に構成されるものである。
【0069】
この紫外線射出部3は、特に限定されないが、
図10に示すように、粒子形状の紫外線反射粒子35を用いることができる。この紫外線反射粒子35としては、高屈折率を有する酸化チタン粒子(TiO
2)および/または酸化亜鉛粒子(ZnO
2)を用いることが好適である。この他にも、シリカ粒子(SiO
2)、アルミナ粒子(Al
2O
3)を用いることができる。これらの粒子は、単体を用いてもよいし、複数の粒子の混合体を用いることもできる。
【0070】
特に酸化チタンは、可視光線から選択的かつ効率的に紫外線を反射することができる。したがって、自然光が十分に届く環境下では電池や電源を必要としない低コスト紫外線照射部となる。酸化チタンは、アナターゼ型とルチル型のいずれの結晶構造も用いることが可能であり、さらに副次的に抗菌作用も発揮されることとなり、害虫誘引シートの耐久性を向上することができる。
【0071】
この粘着部2および紫外線射出部3としての紫外線反射粒子35をこの本体部1上に一体構成する方法は、特に限定されないが、例えば、融着、固着、塗布、吹付け、貼付け、混錬、含浸等を用いることができる。例えば、この粘着部2および紫外線射出部3としての紫外線反射粒子35は、ゲル状態で一体構成されていてもよい。
【0072】
このように、この粘着部2およびこの紫外線射出部3としての紫外線反射粒子35が、この本体部1上に一体に構成されることで、
図10に示すように、この紫外線射出部3としての紫外線反射粒子35(例えば酸化チタン粒子から構成される)が、外部からの自然光Aを反射して、選択的に紫外線A’を放出できる。この紫外線A’により害虫が誘引されると同時にこの粘着部2の粘着剤によって確実に捕捉されることとなり、効率的かつ低コストでこの害虫を誘引することができ、また省スペース化と耐久性を向上させることができる。
【0073】
特にこの紫外線射出部3としての紫外線反射粒子35が酸化チタン粒子や酸化亜鉛粒子から構成される場合には、耐久性も高められると共に、効率よく紫外線を反射することができる。
【0074】
(第4の実施形態)
第4の実施形態に係る害虫誘引シートは、第1の実施形態と同様に、前記本体部1と、前記粘着部2と、前記紫外線射出部3としての紫外線反射シート32と、を備え、さらに、
図11(a)に示すように、前記粘着部2が、炭素数1~5の4つのアルキル基で置換されたピラジン化合物から構成される誘引剤4を含むものである。
【0075】
この誘引剤4は、例えば、以下の一般式(1)で表される化合物またはその誘導体から構成することができる。
【0076】
【0077】
上記一般式(1)中、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立して、置換されていてもよい直鎖状または分岐状の炭素数1~6のアルキル基である。R1、R2、R3、およびR4は、好適には、それぞれ独立して、無置換の直鎖アルキル基である。
【0078】
このような誘引剤4は、この害虫を強く誘引することが確認されている(後述の実施例参照)。
【0079】
上記一般式(1)で表される化合物の一例としては、例えば、以下の化学式(1a)で表される2,3,5,6-テトラメチルピラジンまたはその誘導体が挙げられる。
【0080】
【0081】
この誘引剤4が、この2,3,5,6-テトラメチルピラジンから構成される場合には、取り扱いの容易な化合物を用いてこの誘引剤4が構成されることとなり、取り扱いやすく低コストで、この害虫を積極的に誘引することができる。また、従来から誘引効果の可能性が指摘されている酵母や酢などに含まれる誘引性成分を使用することもできる。
これにより、複数の誘引成分が相乗的に作用することによって、誘引効果をさらに高めることが可能となる。
【0082】
また、上述の第3の実施形態に係る害虫誘引シートと同様に、この粘着部2およびこの紫外線射出部3が、この本体部1上に一体に構成されることも可能であり、
図11(b)に示すように、この紫外線射出部3としての紫外線反射粒子35(例えば酸化チタン粒子から構成される)が、外部からの自然光Aを反射して、選択的に紫外線A’を放出できる。この紫外線A’と誘引剤4との相乗効果により害虫が強く誘引されて、この誘引剤4の近傍にあるこの粘着部2の粘着剤によって効率的に捕捉されることとなり、効率的かつ低コストでこの害虫を誘引することができ、また省スペース化と耐久性を向上させることができる。
【0083】
また、上述の
図3で示した第1の実施形態に係る害虫誘引シートのように、複数の本体部1から構成することもできる。例えば、
図12(a)に示すように、この誘引剤4を隣接する本体部1間の接する面上に配置することができる。
【0084】
この複数の本体部1から構成された形状によって、
図12(b)に示すように、外部からの自然光を受光した紫外線射出部3が紫外線を反射する際に、この紫外線が直接この粘着部2に向かって放出することができる。また、紫外線の乱反射が生じて、高密度の紫外線がこの粘着部2に向かって放出される。さらに、この紫外線と誘引剤4との相乗効果により害虫が強く誘引されて、この誘引剤4の近傍にある粘着部2の粘着剤によって効率的に捕捉されることとなり、害虫への誘引効果を一層高めることができる。
【0085】
また、本実施形態に係る害虫誘引シートは、
図13に示すように、この紫外線ランプ31と電池ケース31bが備えられたテーブル状の枠体のランプ固定台33に対して、この本体部1と粘着部2(誘引剤4を含む)を別体で取り換え可能に構成することも可能である。この本体部1と粘着部2は、1セットとして、市販品の粘着シート(例えば、UC-200S、ピオニーコーポレーション社製)をそのまま用いることも可能である。例えば、この市販品の粘着シートの粘着部2にこの誘引剤4を混錬、塗布、または散布させて、別体で取り換え可能な粘着シートを形成することができる。本実施形態に係る害虫誘引シートは、このランプ固定台33の側部に設けられて外部に開放された開放窓33fを通じて、上記の粘着シートを出し入れすることが容易に可能となる。
【0086】
また、本実施形態に係る害虫誘引シートは、ランプ固定台33の台に紫外線ランプ31を直接固定する構成に限定されず、他にも、ランプ固定台33の台から紫外線ランプ31を離隔して構成することもできる。
【0087】
例えば、
図14に示すように、本実施形態に係る害虫誘引シートは、この本体部1を収容する本体収容部1aと、上面と側面と下部からコの字が構成されるコの字型フレーム形状で形成され本体収容部1aを収容可能なランプ固定台33と、このランプ固定台33のコの字型フレーム形状の底部近傍に外部に開放された開放窓33fと、金属製で可撓性を有する棒状部材から形成されて上記電池ケース31bから伸長して先端部で紫外線ランプ31を支持するとともに所望の位置に固定可能なフレキシブルアーム31cと、から構成することも可能である。
【0088】
この本体収容部1aは、このランプ固定台33から取り出し可能に構成される。さらに、このフレキシブルアーム31cは、自由に可動して形状自在に変形可能なため、この本体収容部1aの内部深く粘着部2および誘引剤4の近傍位置にまで紫外線ランプ31を固定配置することができる。これにより、この本体収容部1aの内部で紫外線ランプ31から至近距離で粘着部2および誘引剤4に直接多量の紫外線が照射され、この本体収容部1aによる交換容易性が得られることのみならず、外部に開放された上記開放窓33fからも害虫が積極的に誘引され、高度な誘引効果も得ることができる。
【0089】
このように、本実施形態に係る害虫誘引シートは、この粘着部2が、炭素数1~5の4つのアルキル基で置換されたピラジン化合物から構成される誘引剤4を含むことから、紫外線のみならずこの誘引剤4の誘引効果によっても、この害虫が重畳的に誘引されることとなり、効率的かつ低コストで、この害虫を誘引することができる。
【0090】
(第5の実施形態)
第5の実施形態に係る害虫誘引シートは、第1の実施形態と同様に、前記本体部1と、前記粘着部2と、前記紫外線射出部3としての紫外線反射シート32と、を備え、さらに、
図15(a)に示すように、前記本体部1に配設され、可視光を吸収する可視光吸収部5を備えるものである。
【0091】
この可視光吸収部5は、特に限定されないが、感光性ブラックレジストや黒色金属プレートを用いることができる。この他にも、粒子状の可視光吸収剤を用いることもでき、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、チタンブラック、活性炭等の炭素系素材を用いることができる。この他にも、遷移金属イオンによって可視光吸収が可能な遷移金属酸化物を用いることもでき、例えば、酸化鉄(FeO、Fe2O3)や酸化銅(Cu2O)などを用いることができる。
【0092】
さらに、上記の第3の実施形態と同様に、この粘着部2およびこの紫外線射出部3が、
図15(b)に示すように、この本体部1上に一体に構成することもでき、この紫外線射出部3としての紫外線反射粒子35(例えば酸化チタン粒子)は自然光Aを反射して紫外線A’を放出する。また、この可視光吸収部5は自然光Bから可視光を吸収して紫外線A’を放出する。
【0093】
このように、この本体部1に配設され、可視光を吸収する可視光吸収部5を備えることから、この可視光吸収部5がこの本体部1で反射しようとする可視光を反射することなく吸収して、この紫外線射出部3から高密度で高濃度の紫外線が放出されることとなり、より高品質な紫外線によって、効率的にこの害虫を誘引することができる。
【0094】
また、この粘着部2は、上記の第4の実施形態と同様に、
図16(a)に示すように、上述の誘引剤4を含むことができる。これにより、放出された紫外線とこの誘引剤4による誘引効果が重畳的に作用し、この害虫を一層積極的に誘引することができる。
【0095】
また、この紫外線射出部3については、
図16(a)に示すように、この紫外線射出部3がプレート形状を有する紫外線反射シート32として多層構造が形成されていてもよいし、
図16(b)に示すように、この粘着部2および紫外線射出部3が、紫外線反射粒子35として、この本体部1上に一体的に構成することもできる。一体的に構成するとは、この粘着部2および紫外線射出部3が、別体として別々に分離可能に構成されているのではなく、混然一体として形成されている状態を示す。
【0096】
図16(b)に示すように、この紫外線射出部3としての紫外線反射粒子35(例えば酸化チタン粒子)は自然光Aを反射して紫外線A’を放出する。また、この可視光吸収部5は自然光Bから可視光を吸収して可視光を含まない紫外線A’を放出する。さらに、この放出された紫外線A’とこの誘引剤4の誘引作用が重畳的に組み合わさることによって、この害虫を一層効率的に誘引することができる。
【0097】
(第6の実施形態)
第6の実施形態に係る害虫誘引シートは、第1の実施形態と同様に、前記本体部1と、前記粘着部2と、前記紫外線射出部3と、を備え、さらに、
図17に示すように、前記粘着部2の外部に配設され、炭素数1~5の2つのアルキル基で置換されていてもよいピラジン化合物から構成される忌避剤を含む忌避部6を備えるものである。この忌避部6は粘着部と離して設置する構成とすることも可能であり、使用する現場の状況に応じて柔軟な配置場所を決定することができる。また、害虫侵入を食い止めたい部屋の予想される侵入口付近に忌避部6を設置することにより、効果的に害虫防除することも可能となる。
【0098】
この忌避剤は、例えば、以下の一般式(2)で表されるピラジン化合物またはその誘導体から構成することができる。
【0099】
【0100】
上記一般式(2)中、R5およびR6は、それぞれ独立して、置換されていてもよい直鎖状または分岐状の炭素数1~6のアルキル基または水素原子である。
【0101】
上記一般式(2)で表されるピラジン化合物の一例としては、例えば、化学式(2a)で表される2,3-ジメチルピラジン、化学式(2b)で表される2,6-ジメチルピラジン、化学式(2c)で表される2,5-ジメチルピラジン、化学式(2d)で表されるピラジンが挙げられる。
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
このように、この粘着部2の外部に配設され、炭素数1~5の2つのアルキル基で置換されていてもよいピラジン化合物から構成される忌避剤を含む忌避部6を併用することから、この粘着部2の外部に配置された忌避部6を忌避した害虫が、今度は、この紫外線射出部3からの紫外線に誘引されて、この粘着部2の粘着剤に効率的に捕捉されることとなり、捕捉効率を重畳的に高めてこの害虫を誘引することができる。
【0107】
このうち特に、この忌避剤が、上述の2,3-ジメチルピラジン、2,6-ジメチルピラジン、およびピラジンからなる群から選択される1つ以上の化合物を含む場合には、取り扱いの容易な化合物を用いてこの忌避剤が構成されることとなり、取り扱いやすさを向上させると共に低コストで、この忌避剤を忌避した害虫をこの粘着部2に向かって効果的に誘引することができる。
【0108】
以下に、本発明の特徴をさらに具体的に示すために実施例を記すが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
【0109】
(実施例1)
暗条件におけるヒラタチャタテの発生消長や発生源を効率的に調査するために、人工光源に対するヒラタチャタテの行動に及ぼす影響を確認した。
先ず、ヒラタチャタテの走光性(遠方に誘引)を確認した。
【0110】
上記第2の実施形態に係る害虫誘引シートとして、卓上暗室内に、測定用角形バット(19cm×24cm、深さ5cm)と波長交換式LED照射装置を設置した。バットには、半径4cm、8cm、12cm、16cmの四分円を、バットの一角を中心にして描画し、5区画を設けた。上記の四分円の中心角と対象の角に当たる位置に穴をあけた黒色プラスチック板をバットに被せ、その穴より光を照射した。ピーク波長が365nm、420nm、505nm、730nmのLED光源を個別に用いた。1回の試験には約150頭のヒラタチャタテ(幼虫、成虫)を用い、光照射から最も遠方となる区画1の四分円の中心角に放飼した。供試虫を放飼し、光を照射してから、15分後の供試虫の分布を観察した(n=4)。
【0111】
各区画ごとに分布した供試虫の割合(%)について得られた結果を
図18に示す。得られた結果から、ピーク波長が365nmの紫外線領域のLED光源については、ヒラタチャタテに対する優れた誘引性が確認された。
【0112】
(実施例2)
ヒラタチャタテの走光性(中央に誘引)を確認した。
【0113】
上記第2の実施形態に係る害虫誘引シートとして、測定用角形バット(19cm×24cm、深さ5cm)の中央に3cm四方に裁断した白色の粘着トラップを配置した。粘着トラップの真上になる中央に穴をあけた黒色プラスチック板をトレーに被せ、その穴より光を照射した。照射した光は、粘着トラップを照らす。ピーク波長が365nm、420nm、730nmのLED光源を個別に用いた。バットの縁(1.5cm幅)に、供試虫を放飼した。1回の試験には250頭から300頭のヒラタチャタテ(幼虫、成虫)を用いた。供試虫であるヒラタチャタテを放飼し、光を照射してから、1時間後の供試虫の捕獲数を計数し、捕獲された割合(捕獲虫数/全供試虫数)を算出した。(n=4)
【0114】
各照射光波長(nm)ごとに捕獲された供試虫の割合(%)について得られた結果を
図19に示す。得られた結果から、ピーク波長が365nmの紫外線領域のLED光源について、ヒラタチャタテに対する最も優れた誘引性があることが確認された。
【0115】
(実施例3)
暗黒下でのヒラタチャタテの走化性(物質による誘引)を確認した。
【0116】
上記第2の実施形態に係る害虫誘引シートとして、測定用角形バット(19cm×24cm、深さ5cm)の上辺、測定用角形バット上方左右端に3cm四方に裁断した粘着トラップ(粘着紙からなる粘着部)を配置した。粘着トラップの上に、脱脂粉乳、乾燥酵母、ココア粉末を個別に0.1g載置した。左右どちらかの粘着トラップの一方を何も載置していないコントロール区とした。バットの下方中央の直径2cm円内に供試虫(幼虫、成虫)を約200頭放飼した。暗黒下で、10時間後、粘着トラップに捕獲された供試虫の数を計数した(n=5)。
【0117】
コントロールと比較した捕獲数の比率(%)について得られた結果を
図20に示す。得られた結果から、脱脂粉乳や乾燥酵母に比べココア粉末は、ヒラタチャタテに対する最も優れた誘引性があることが確認された。
【0118】
(実施例4)
ヒラタチャタテの走光性と走化性(光と誘引剤の相乗効果)を確認した。
【0119】
上記第2の実施形態に係る害虫誘引シートとして、粘着トラップ(粘着紙からなる粘着部)上に、脱脂粉乳、乾燥酵母、ココア粉末を個別に0.1g配置した。何も載置していない状態をコントロール区とした。ピーク波長が365nm、420nm、730nmの3種のLED光源を個別に用いた。測定用角形バット(19cm×24cm、深さ5cm)の縁(1.5cm幅)に、供試虫を放飼した。1回の試験には約250頭のヒラタチャタテ(幼虫、成虫)を用いた。供試虫を放飼し、光を照射してから、1時間後の供試虫の捕獲数を計数し、捕獲された割合を算出した(n=4)。
【0120】
各照射光波長(nm)ごとの供試虫の捕獲率(%)について得られた結果を
図21に示す。得られた結果から、各波長ともココア粉末による相乗効果が確認されたが、紫外線照射下でのヒラタチャタテに対してココア粉末が特に優れた誘引性が発揮されることが確認された。これにより、ココア粉末と紫外線(365nm)ランプを用いた害虫誘引シートは、ヒラタチャタテに対して特に優れた誘引性と高い捕捉性が発揮されることが確認された。
【0121】
(実施例5)
ガスクロマトグラフィー質量分析法によるココア粉末の匂い成分の分析
【0122】
上記実施例3および4でヒラタチャタテに対する誘引効果が確認されたココア粉末の有効成分を確認した。V社とM社の生産元の異なるココア粉末の市販品を入手し、それらについて(実施例3と同様の実験により)ヒラタチャタテに対する同等の誘引効果を確認した。その上で、ガスクロマトグラフィー質量分析法によってV社とM社のココア粉末の匂い成分を分析した。
【0123】
その結果を
図22と
図23に示す。両社のココア粉末には誘引性に有意な差はなく(
図22)、共通する主要匂い成分として2,3,5,6-テトラメチルピラジンを含有することが確認された(
図23)。このことから、2,3,5,6-テトラメチルピラジンが、ヒラタチャタテを強く誘引する有効成分である可能性が示唆された。
【0124】
(実施例6)
ヒラタチャタテの誘引剤と忌避剤を確認した。
【0125】
上記第4の実施形態に係る害虫誘引シートとして、粘着トラップ(害虫誘引シートの粘着部)上に、2,3,5,6-テトラメチルピラジン、2,3-ジメチルピラジン、2,6-ジメチルピラジン、ピラジン、2-ペンチルフランの各化合物ごとに個別に0.05g配置した。測定用角形バット(19cm×24cm、深さ5cm)の縁(1.5cm幅)に、供試虫を放飼し、暗黒下で粘着トラップ真上から365nmの紫外線を照射した。1回の試験には約250頭のヒラタチャタテ(幼虫、成虫)を用いた。供試虫を放飼し、1時間後の供試虫の捕獲数を計数し、全供試虫数に対する捕獲虫数の割合を算出した(n=10)。
【0126】
上記各化合物ごとの供試虫の捕獲率(%)について得られた結果を
図24に示す。得られた結果から、2,3,5,6-テトラメチルピラジンは、ヒラタチャタテに対して特に優れた誘引性が発揮されることが確認された。
【0127】
さらに、ピラジン、2,3-ジメチルピラジン、2,6-ジメチルピラジンは、ヒラタチャタテに対して優れた忌避性が発揮されることが確認され、このうち特に2,3-ジメチルピラジン、2,6-ジメチルピラジンは、特に優れた忌避効果を発揮されることが確認された。これにより、これら忌避剤を2,3,5,6-テトラメチルピラジンを用いた害虫誘引シートと併用することにより、ヒラタチャタテに対して特に優れた誘引性が増強され、高い捕捉性が発揮されることが示唆された。
【0128】
(実施例7)
ヒラタチャタテの誘引に対する紫外線強度の影響を確認した。
【0129】
上記第1の実施形態に係る害虫誘引シートとして、測定用角形バット(19cm×24cm、深さ5cm)の中央に粘着紙を配置し真上から30分間365nmの紫外線を照射した後に、害虫誘引シートの粘着部(粘着シート)に張り付いたヒラタチャタテの捕獲率(捕獲数/全供試虫数)を測定した。この照射した紫外線強度を0~7.0μw/cm2に変化させて測定した。
【0130】
この紫外線強度(μW/cm
2)ごとの供試虫の捕獲率(%)について得られた結果を、
図25に示す。得られた結果から、横軸の紫外線強度1.0μW/cm
2と7.0μW/cm
2ではヒラタチャタテの捕獲率に差がなかったことから、紫外線強度に依存せずにヒラタチャタテを捕獲できることが確認された。つまり、僅かな(弱い)紫外線でも十分に誘引活性があることが確認された。このことから、紫外線ランプとして、市販の安価なボタン電池式の紫外線ランプも害虫誘引シートに十分に使えることが確認され、低コストで市場価値の高い害虫誘引シートが構成できることが確認された。
【符号の説明】
【0131】
1 本体部
1a 本体収容部
11 シート取出口
2 粘着部
3 紫外線射出部
31 紫外線ランプ
31a 平凸球面レンズ
31b 電池ケース
31c フレキシブルアーム
32 紫外線反射シート
33 ランプ固定台
33a 支持棒
33b 固定穴
33c ヒンジ
33d 磁性体部
33e 軟磁性体部
33f 開放窓
34 天井部
34a 鏡面部
34b 横側面
34c 空洞部
35 紫外線反射粒子
4 誘引剤
5 可視光吸収部
6 忌避部