(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067712
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】皮膚バリア機能改善用組成物、タイトジャンクション形成促進用組成物及び角層セラミド前駆体合成促進用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/8965 20060101AFI20240510BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240510BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20240510BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20240510BHJP
A61Q 5/02 20060101ALI20240510BHJP
A61K 8/9794 20170101ALI20240510BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240510BHJP
A61P 17/10 20060101ALI20240510BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20240510BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20240510BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240510BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240510BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240510BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240510BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20240510BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240510BHJP
【FI】
A61K36/8965
A61Q19/00
A61Q5/00
A61Q19/10
A61Q5/02
A61K8/9794
A61P17/00
A61P17/10
A61P17/04
A61P17/06
A61P29/00
A61P37/08
A61P43/00 105
A23L33/105
A23L19/00 A
C12N15/09 Z ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177987
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】590003722
【氏名又は名称】佐賀県
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【弁理士】
【氏名又は名称】森 博
(74)【代理人】
【識別番号】100229389
【弁理士】
【氏名又は名称】香田 淳也
(72)【発明者】
【氏名】岩元 彬
(72)【発明者】
【氏名】柘植 圭介
【テーマコード(参考)】
4B016
4B018
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B016LC07
4B016LG05
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4B018ME14
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4C088AB85
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4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZB11
4C088ZB13
4C088ZB21
(57)【要約】
【課題】皮膚バリア機能改善用組成物、タイトジャンクション形成促進用組成物及び角層セラミド前駆体合成促進用組成物、並びにその応用品を提供する。
【解決手段】アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物を含有することを特徴とする皮膚バリア機能改善用組成物。
本発明の組成物は、皮膚バリア機能改善作用、タイトジャンクション形成促進作用、角層セラミド前駆体合成促進作用を有する。これに基づいて、皮膚組織の機能向上等の作用を有するため、様々な症状(シワ、乾燥肌、肌荒れ、かゆみ、炎症等)を予防又は改善することができ、医薬用、及び医薬用に該当しない化粧料などの皮膚外用用、食品やサプリメントなどの経口用の形態として用いることができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物を含有することを特徴とする皮膚バリア機能改善用組成物。
【請求項2】
皮膚バリア機能改善作用が、タイトジャンクション形成促進作用及び角層セラミド前駆体合成促進作用のいずれか一方に基づく請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アスパラガス抽出物が、アスパラガスの水、エタノール及びブチレングリコールから選択される1種以上の抽出溶媒による溶媒抽出物である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物を含有することを特徴とするタイトジャンクション形成促進用組成物。
【請求項5】
クローディン1発現及び/又はクローディン4発現を促進するための請求項4に記載のタイトジャンクション形成促進用組成物。
【請求項6】
アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物を含有することを特徴とする角層セラミド前駆体合成促進用組成物。
【請求項7】
セリンパルミトイルトランスフェラーゼ発現、セラミドシンセサーゼ発現、及びスフィンゴミエリンシンセサーゼ発現から選択される1種以上を促進するための請求項6に記載の角層セラミド前駆体合成促進用組成物。
【請求項8】
医薬用である、請求項1から7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
皮膚外用用(但し、医薬用である場合を除く。)である、請求項1から7のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
経口用(但し、医薬用である場合を除く。)である、請求項1から7のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚バリア機能改善用組成物、タイトジャンクション形成促進用組成物及び角層セラミド前駆体合成促進用組成物、並びにその応用品に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、表皮、真皮、皮下組織の3層から構成され、その中でも表皮は、皮膚の最外層として外界と接している。表皮は、表面側から順に角層、顆粒層、有棘層、及び基底層の4層から構成され、皮膚の水分量を保持したり、外部からの異物が生体内に侵入するのを防ぐ、バリア機能を有する。
【0003】
一般的に、皮膚におけるバリア機能は、経皮水分蒸散量(Transepideramal water loss、TEWL)によって評価される。経皮水分蒸散量(TEWL)は、皮膚からの水分蒸散量であり、生体内から角層を通じて揮発する水分量のことを表す。皮膚のバリア機能が低下すると、経皮水分蒸散量が増加し、皮膚からの水分の喪失が増える。
【0004】
一方、皮膚のバリア機能には、角層に基づくバリア機能(セラミドやヒアルロン酸等)と角層に隣接する顆粒層に基づくバリア機能(タイトジャンクション)がある。タイトジャンクションによるバリア機能が低下すると、角層に基づくバリア機能にも影響し、肌の乾燥や肌荒れ、さらには皮膚老化等の問題が起こるため、近年では、皮膚のバリア機能として、角層に基づくバリア機能だけでなく、タイトジャンクションによるバリア機能も注目されている。
【0005】
例えば、タイトジャンクション形成を促進するものとして、サボテン科ウチワサボテン属に属する植物の果実から得られるカクタスフルーツ果実抽出物からなる皮膚バリア機能改善剤(特許文献1)、ツバメの巣エキスを有効成分とするタイトジャンクション形成促進剤(特許文献2)等が報告されている。
【0006】
また、角層に基づくバリア機能においても、セラミド合成を促進するもの等が研究されている。例えば、米ぬか、米胚芽等の植物素材から得られたグルコシルセラミドが皮膚中に内因性セラミド(角層セラミド)を増加させること(特許文献3)、ムラサキバレンギク、ラベンダーから選択される1種又は2種を有効成分とする、セラミド産生促進剤(特許文献4)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-121871号公報
【特許文献2】特開2014-210748号公報
【特許文献3】特開2012-184166号公報
【特許文献4】特開2019-156777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1,2で開示されているように、植物等に由来される皮膚バリア機能改善剤やタイトジャンクション形成促進剤が報告され、特許文献3,4に開示されているように、植物等に由来されるセラミド合成を促進する種々のセラミド合成促進剤が報告されている。このように、皮膚のバリア機能改善等に対する需要は高まっており、皮膚バリア機能改善作用、タイトジャンクション形成促進作用、角層セラミド前駆体合成促進作用ついての新たな成分の開発が求められている。
【0009】
かかる状況下、本発明の目的は、皮膚バリア機能改善用組成物、タイトジャンクション形成促進用組成物及び角層セラミド前駆体合成促進用組成物、並びにその応用品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物が皮膚バリア機能改善、タイトジャンクション形成促進、角層セラミド前駆体合成促進に優れた効果を有することを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物を含有する皮膚バリア機能改善用組成物。
<2> 皮膚バリア機能改善作用が、タイトジャンクション形成促進作用及び角層セラミド前駆体合成促進作用のいずれか一方に基づく<1>に記載の組成物。
<3> 前記アスパラガス抽出物が、アスパラガスの水、エタノール及びブチレングリコールから選択される1種以上の抽出溶媒による溶媒抽出物である<1>又は<2>に記載の組成物。
<4> アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物を含有するタイトジャンクション形成促進用組成物。
<5> クローディン1発現及び/又はクローディン4発現を促進するための<4>に記載のタイトジャンクション形成促進用組成物。
<6> アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物を含有する角層セラミド前駆体合成促進用組成物。
<7> セリンパルミトイルトランスフェラーゼ発現、セラミドシンセサーゼ発現、及びスフィンゴミエリンシンセサーゼ発現から選択される1種以上を促進するための<6>に記載の角層セラミド前駆体合成促進用組成物。
<8> 医薬用である、<1>から<7>のいずれかに記載の組成物。
<9> 皮膚外用用(但し、医薬用である場合を除く。)である、<1>から<7>のいずれかに記載の組成物。
<10> 経口用(但し、医薬用である場合を除く。)である、<1>から<7>のいずれかに記載の組成物。
【0012】
<1a> アスパラガスと、抽出溶媒とを接触させることにより、アスパラガス抽出物を得る抽出工程を有することを特徴とする皮膚バリア機能改善用組成物の製造方法。
<2a> アスパラガスと、抽出溶媒とを接触させることにより、アスパラガス抽出物を得る抽出工程を有することを特徴とするタイトジャンクション形成促進用組成物の製造方法。
<3a> アスパラガスと、抽出溶媒とを接触させることにより、アスパラガス抽出物を得る抽出工程を有することを特徴とする角層セラミド前駆体合成促進用組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、皮膚バリア機能改善用組成物、タイトジャンクション形成促進用組成物及び角層セラミド前駆体合成促進用組成物、並びにその応用品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】表皮における角層セラミドの合成経路を示す説明図である。
【
図2】実施例1のアスパラガス抽出物のヒト3次元培養表皮の経皮水分蒸散量(TEWL)への影響の評価結果を示す図である((a):2日間培養,(b):8日間培養)。
【
図3】実施例1のアスパラガス抽出物のヒト3次元培養表皮のタイトジャンクション形成への影響の評価結果を示す図である((a):Claudin1遺伝子の発現,(b):Claudin4遺伝子の発現)。
【
図4】実施例1のアスパラガス抽出物のヒト3次元培養表皮の角層セラミド前駆体合成への影響の評価結果を示す図である((a):CerS3遺伝子の発現,(b):SMS1遺伝子の発現,(c):SMS2遺伝子の発現,(d):SPT1遺伝子の発現,(e):SPT2遺伝子の発現)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書において、「~」という表現を用いた場合、その前後の数値または物理値を含む意味で用いることとする。また、本明細書において、「A及び/又はB」という表現には、「Aのみ」、「Bのみ」、「A及びBの双方」が含まれる。
【0016】
<1.本発明の皮膚バリア機能改善用組成物>
本発明は、アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物を含有する皮膚バリア機能改善用組成物(以下、「本発明の皮膚バリア機能改善用組成物」と記載する場合がある)に関する。
【0017】
アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物は、皮膚バリア機能を改善する作用を有し、皮膚バリア機能改善組成物の有効成分として利用することができる。
なお、本発明において、「皮膚バリア機能の改善」は、正常な皮膚バリア機能を維持すること、正常な皮膚バリア機能を向上させること、低下した皮膚バリア機能を回復させることのみならず、皮膚バリア機能の低下を抑制すること、皮膚バリア機能の低下を予防することを含むものとする。
本発明の皮膚バリア機能改善用組成物は、皮膚バリア機能が低下することにより引き起こされる疾患や症状(シワ、肌荒れ、かゆみ、炎症、敏感肌など)の予防、治療、症状の改善の少なくとも一つに対して有用である。すなわち、「予防」には、当該疾患または症状の発症の抑制および遅延が含まれる。また、「治療」には、当該疾患または症状の病態の改善および寛解、並びに当該疾患または症状の進展の抑制が含まれる。
【0018】
また、アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物は、皮膚バリア機能改善の効果を有するため、皮膚を保湿する効果を有する。そのため、本発明の組成物は、皮膚保湿用組成物として用いることができる。
【0019】
本発明において、「皮膚バリア機能」は、経皮水分蒸散量(TEWL)を指標として判断することができる。TEWLは、皮膚バリア機能が低下すると増加し、皮膚バリア機能が増加すると低下する。TEWLの評価方法は実施例における<2-2.経皮水分蒸散量(TEWL)測定における評価>にて後述する。
【0020】
皮膚バリア機能改善作用は、含有するアスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物に起因してタイトジャンクション形成促進作用及び角層セラミド前駆体合成促進作用のいずれか一方に基づくものである。これらは、どちらか一方でもよく、両方でもよい。
【0021】
また、アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物は、顆粒層に存在するタイトジャンクションの形成を促進する作用を有する。そのため、アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物は、タイトジャンクション形成促進用組成物の有効成分として使用できる。
【0022】
すなわち、本発明のタイトジャンクション形成促進用組成物は、アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物を有効成分として含有する。
アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物は、角層直下の顆粒層に局在する細胞間結合であるタイトジャンクションの形成を促進することにより、体内からの水分の蒸散を阻害することができるため、皮膚バリア機能が改善される。
【0023】
タイトジャンクション形成促進作用は、タイトジャンクション関連遺伝子の発現を評価することにより判断することができ、具体的には、後述する実施例の評価方法<2-3-1.タイトジャンクション形成促進作用における評価>によって評価することができる。
【0024】
本発明のタイトジャンクション形成促進用組成物は、タイトジャンクション関連遺伝子のうち、少なくとも一つについての形成促進作用を奏すればよい。タイトジャンクション形成促進の対象となるタイトジャンクション関連遺伝子としては、例えば、クローディン(Claudin)、オクルディン(Occludin)、ZO(Zonula Occludens)等が挙げられる。
この中でもClaudin1、Claudin4が特に好適な対象である。すなわち、本発明のタイトジャンクション形成促進用組成物は、Claudin1及び/又はClaudin4の発現が促進されることが好ましく、これらの両方の発現が促進されることが特に好ましい。
【0025】
また、アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物は、皮膚の構成要素である有棘層や顆粒層に存在する角層セラミド前駆体の合成を促進する作用を有する。そのため、アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物は、角層セラミド前駆体合成促進用組成物の有効成分としても使用できる。
【0026】
すなわち、本発明の角層セラミド前駆体合成促進用組成物は、アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物を有効成分として含有する。アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物は、表皮を構成する4層(角層、顆粒層、有棘層、及び基底層)のうち、顆粒層及び有棘層に存在する角層セラミド前駆体の合成を促進することにより、皮膚の水分保持能を向上させることができるため、皮膚バリア機能が改善される。
【0027】
本発明において、「角層セラミド前駆体」は、以下に説明する角層セラミドの合成経路において、角層セラミドを合成する前段階で合成されるものを含む。すなわち、角層セラミド前駆体は、角層セラミドが合成する過程で合成されるジヒドロスフィンゴシン、セラミド、スフィンゴミエリン、グリコシルセラミドから選択される1種以上を含む。
なお、以下の説明において、角層セラミドを合成する前段階で合成される「セラミド」を「角層セラミド」と区別するために、「セラミド(角層外)」と記載する。
【0028】
以下、表皮における角層セラミドの合成経路について
図1に基づいて説明する。
表皮の角層セラミドの合成には、様々な酵素が関与している。まず基底層から有棘層にかけて、角層セラミド合成の第一段階であるセリンとパルミトイル-CoAの縮合が、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(Serine palmitoyltransferase(SPT))の働きにより起こり、結果として、ジヒドロスフィンゴシンが合成される。そして、セラミドシンセサーゼ(Ceramide synthase(CerS))の脂肪酸のN-アシル化によりジヒドロスフィンゴシンからセラミド(角層外)が形成される。
【0029】
セラミド(角層外)から角層セラミドが合成される経路は二つある。一つの経路はグルコシルセラミドシンセサーゼ(GCS)の働きにより、セラミド(角層外)がグルコシルセラミドに変化して顆粒層に蓄積される。その後、βグルコセレブロシダーゼ(GBA)により角層で角層セラミドに合成される経路である(
図1の右側経路)。
もう一つの経路はスフィンゴミエリンシンセサーゼ(Sphingomyelin synthase(SMS))の働きにより、セラミド(角層外)がスフィンゴミエリンに変化して顆粒層に蓄積される。その後、スフィンゴミエリナーゼ(Acid sphingomyelinase(SMase))により角層で角層セラミドに合成される経路である(
図1の左側経路)。
【0030】
本発明の角層セラミド前駆体合成促進用組成物は、角層セラミド前駆体の合成を促進するものである。本発明の角層セラミド前駆体合成促進用組成物は、角層セラミド前駆体の中でも特に、ジヒドロスフィンゴシン、セラミド(角層外)、スフィンゴミエリンを促進するものが好ましい。
【0031】
本発明の角層セラミド前駆体合成促進用組成物は、角層セラミド前駆体関連遺伝子のうち、少なくとも一つについての合成促進作用を奏すればよい。
角層セラミド前駆体合成促進の対象となる角層セラミド前駆体関連遺伝子としては、例えば、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)、セラミドシンセサーゼ(CerS)、スフィンゴミエリンシンセサーゼ(SMS)、グルコシルセラミドシンセサーゼ(GCS)等が挙げられる。
この中でもSPT(SPT1、SPT2)、CerS3、SMS(SMS1、SMS2)が特に好適な対象である。すなわち、本発明の角層セラミド前駆体合成促進用組成物は、SPT(SPT1、SPT2)、CerS3、SMS(SMS1、SMS2)から選択される1種以上の発現が促進されることが好ましく、これらのすべて発現が促進されることが特に好ましい。
【0032】
角層セラミド前駆体合成促進作用は、対象となる角層セラミド前駆体関連遺伝子の発現を評価することにより判断することができ、具体的には、後述する実施例の評価方法<2-3―2.角層セラミド前駆体合成促進作用における評価>によって評価することができる。
【0033】
以下、本発明の皮膚バリア機能改善用組成物、本発明のタイトジャンクション形成促進用組成物及び本発明の角層セラミド前駆体合成促進用組成物についてより詳細に説明する。なお、以下、「本発明の皮膚バリア機能改善用組成物」、「本発明のタイトジャンクション形成促進用組成物」および「本発明の角層セラミド前駆体合成促進用組成物」をまとめて、「本発明の組成物」と称する。
【0034】
(アスパラガス)
本発明の組成物の原料として使用される「アスパラガス」は、一般に食用で用いられているアスパラガス・オフィシナリス(Asparagus officinalis)の茎部、切下部及び擬葉を含む概念である。
「茎部」は、アスパラガスの若茎の部分であり、可食部である。また、「切下部」は、アスパラガスの規格外の根元部分とされる部分であり、通常、下から2cm程度である。これらは、通常廃棄されている。また、「擬葉」は、茎部がさらに伸びた後、枝分かれしてできる茎であり、葉に代わり光合成で養分を作る部分である。
【0035】
アスパラガスは、その使用部位に応じて、未加工、又は適当な形状に加工されて使用される。すなわち、アスパラガスの茎部、切下部及び擬葉をそのまま、スライス、粉砕、圧搾またはすりおろす等により、細粒物として使用することもできる。
【0036】
アスパラガスは、事前処理せずにそのまま溶媒抽出物に使用することもできるが、通常、抽出効率を高めるため、スライス、粉砕、圧搾またはすりおろし等により、細粒物として使用する。
【0037】
本発明において、「抽出物」とは、対象となる原料植物、又はこれを必要に応じて前処理(乾燥、細切)したものを、圧搾又は溶媒抽出する等して、有効成分の含有量を高めた形態のものを総括した概念である。
【0038】
アスパラガス抽出物は、アスパラガスを抽出原料として得られる抽出液、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。なお、抽出液を乾燥して得られる乾燥物も、抽出物に該当するものとする。
【0039】
アスパラガス抽出物を溶媒抽出で得る場合、抽出溶媒は、アスパラガスに含有される皮膚バリア機能改善作用(特には、タイトジャンクション形成促進作用や角層セラミド前駆体合成促進作用)を発現する成分を抽出できるものであればよい。
具体例としては、水、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、グリセリン、エチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、メタノール、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ヘキサン、エチルアセテート等が挙げられる。また、抽出溶媒としての水は、本発明の効果を損なわない限り、冷水、常温水、温水、熱水等を用いることができる。
これらの抽出溶媒は単独又はこれら2種以上の混合物として使用することができ、2種以上の溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。
【0040】
なお、抽出溶媒には、本発明の効果を損なわない範囲で添加剤を含んでいてもよい。例えば、pH調整剤、粘度調整剤などが挙げられる。
【0041】
抽出効率、環境や生体への安全性及び製造コストの観点等から、アスパラガス抽出物の好適な例は、アスパラガスの水、エタノール及びブチレングリコールから選択される1種以上の抽出溶媒による溶媒抽出物である。
抽出溶媒として、水、エタノール及びブチレングリコールから選択される1種以上の抽出溶媒を使用することにより、優れた皮膚バリア機能改善作用(特には、タイトジャンクション形成促進作用や角層セラミド前駆体合成促進作用)を有するアスパラガス抽出物を得ることができる。
【0042】
抽出溶媒として水とエタノールの混合溶媒を用いる場合、水とエタノールの混合割合は、アスパラガスに含有される皮膚バリア機能改善作用(特には、タイトジャンクション形成促進作用や角層セラミド前駆体合成促進作用)を発現する成分を抽出できる範囲で適宜調整すればよい。例えば、水及びエタノールの混合溶媒を100体積%とした時に、エタノールの割合が、0.1~95体積%である。
【0043】
原料であるアスパラガスに対する抽出溶媒の量は特に制限はないが、通常、アスパラガスに対して重量比で1~100倍量程度である。
【0044】
アスパラガスから溶媒抽出物を抽出する方法は、アスパラガスに含有される皮膚バリア機能改善作用(特には、タイトジャンクション形成促進作用や角層セラミド前駆体合成促進作用)を発現する成分を抽出できる方法であればよい。
好適なアスパラガス抽出物の製造方法を例示すると、アスパラガスと、抽出溶媒とを接触させ、抽出溶媒中に、アスパラガスから有効成分が十分に抽出されるまで一定時間撹拌する方法が挙げられる。
抽出時間は、抽出溶媒の種類や、アスパラガスと抽出溶媒との割合を考慮し適宜選択されるが、抽出溶媒が水及びエタノールの混合溶媒の場合は、例えば、1~24時間が挙げられる。
【0045】
抽出工程における抽出操作は品質劣化を避けるために常温で行うが、抽出効率を上げるために加温状態にして行うことができる。また、必要に応じて、アスパラガス抽出物の有効成分の割合を高めるために減圧濃縮や凍結乾燥により溶媒除去してもよい。
【0046】
また、抽出物に含まれる残渣を取り除くため、濾過や遠心分離を行ってもよい。また、得られた抽出液はそのまま利用してもよいが、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。また、必要に応じて、減圧濃縮や凍結乾燥、噴霧乾燥等の濃縮・乾燥により溶媒除去してもよい。
【0047】
本発明の組成物の有効成分は、原料であるアスパラガスから得られた抽出物を分画したものであってもよい。
本発明において、「抽出物の分画物」は、アスパラガス抽出物に対して、通常用いられるろ過、遠心分離又は精製分離処理等の分画方法によって得ることができる。
また、得られた抽出物の分画物は、アスパラガスに含有される皮膚バリア機能改善作用(特には、タイトジャンクション形成促進作用や角層セラミド前駆体合成促進作用)を発現する成分を少なくとも一つの成分含んでいればよく、その他の成分を含んでいてもよい。
【0048】
分画方法としては、アスパラガスに含有される皮膚バリア機能改善作用(特には、タイトジャンクション形成促進作用や角層セラミド前駆体合成促進作用)を発現する成分が分離できるものであればよい。
分画方法としては、各種クロマトグラフィーを用いることができ、例えば、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等が挙げられる。
これらの分画方法は、単独又はこれら2種以上の方法を組み合わせて使用することができる。
【0049】
<2.本発明の組成物の応用>
本発明の組成物は、本発明におけるアスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物をそのまま使用してもよいが、通常、本発明の効果を損なわないその他の成分を組み合わせて使用される。
その他の成分としては、ヒトが安全に使用できる成分であればよく、後述する使用形態(医薬用、皮膚外用用、経口用)を考慮して適宜決定される。
その他の成分の配合割合は、本発明の効果を損なわない限りその目的に応じて適宜選択して決定することができる。
【0050】
本発明の組成物は、含有するアスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物に起因して皮膚バリア機能改善作用に対して優れた効果を奏するため、「皮膚バリア機能改善用組成物」として用いることができる。
【0051】
本発明の組成物は、含有するアスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物に起因してタイトジャンクション形成促進作用及び角層セラミド前駆体合成促進作用に対して優れた効果を奏するため、上述の通り、皮膚バリア機能改善用組成物として使用できる他、「タイトジャンクション形成促進用組成物」、「角層セラミド前駆体合成促進用組成物」として個別に用いることができる。
【0052】
本発明の組成物は、その目的に応じて任意の形態で使用することができる。すなわち、医薬用組成物、及び医薬用組成物に該当しない皮膚外用用組成物(化粧料組成物等)、経口用組成物(サプリメント、機能性食品等)等への使用が可能である。
【0053】
本発明の組成物を皮膚バリア機能改善用として用いる場合、含有するアスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物の量は、皮膚バリア機能が関与する症状の種類及び程度、本発明の組成物の形態、使用方法を考慮して、必要量が摂取できるような範囲で適宜決定される。
【0054】
また、本発明の組成物をタイトジャンクション形成促進用として用いる場合、含有するアスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物の量は、タイトジャンクション形成が関与する症状の種類及び程度、本発明の組成物の形態、使用方法を考慮して、必要量が摂取できるような範囲で適宜決定される。
【0055】
また、本発明の組成物を角層セラミド前駆体合成促進用として用いる場合、含有するアスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物の量は角層セラミド前駆体合成が関与する症状の種類及び程度、本発明の組成物の形態、使用方法を考慮して、必要量が摂取できるような範囲で適宜決定される。
【0056】
(医薬組成物)
本発明の組成物の好適な形態の一つは、アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物の有効量を薬学的に許容される基材とともに配合した医薬用の組成物(以下、「本発明の医薬組成物」と記載する場合がある。)である。
【0057】
本明細書において、「医薬組成物」とは、対象となる疾患の予防、治療、症状の改善の少なくとも一つに対して有用な薬剤を意味する。また、本明細書において、「医薬組成物」には、医薬品のみならず、医薬部外品も含む。
【0058】
本発明の医薬組成物は、アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物以外にもその効能を損なわない範囲で他の薬剤や薬理学的に許容される任意の成分を含んでもよい。
【0059】
本発明の医薬組成物は、皮膚バリア機能が関与する疾患の予防、治療、症状の改善の少なくとも一つに対して有用である。すなわち、「予防」には、当該疾患または症状の発症の抑制および遅延が含まれる。また、「治療」には、当該疾患または症状の病態の改善および寛解、並びに当該疾患または症状の進展の抑制が含まれる。
【0060】
本発明の医薬組成物の対象となる皮膚バリア機能が関与する疾患又は症状には制限はないが、具体例として例えば、アトピー性皮膚炎、炎症性皮膚炎、ニキビ炎症、アレルギー疾患、湿疹、乾癬等が挙げられる。
【0061】
本発明の医薬組成物は、アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物を含有していればよく、どのような形態の薬剤であっても構わない。本発明の医薬組成物の形態としては、錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤、又はカプセル剤等の剤型がある。本発明の医薬組成物の形態は、固体又は液体同士でもよいし、固体と液体でも良いし、特に限定されない。投与方法としては、経口又は非経口であってもよい。本発明の医薬組成物の好適な態様としては、経口剤や皮膚外用剤が挙げられる。
【0062】
本発明の医薬組成物は、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。そのため、動物用の医薬組成物とすることもできる。
【0063】
本発明の医薬組成物の摂取量は、本発明の効果を発揮できる量であれば、特に限定されず、摂取させる対象者の性別、体重、健康状態等に応じて適宜決定される。当該摂取量は、1回で摂取してもよく、1日数回に分けて摂取してもよい。また、対象となる疾患の予防、治療、症状の改善の観点から、本発明の医薬組成物は、持続して摂取することが好ましい。
【0064】
<医薬組成物以外の形態>
上述の通り、アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物は、医薬品、医薬部外品以外の製品に配合してもよい。そのような形態のうち、好適な具体例としては、皮膚外用用組成物や経口用組成物(但し、医薬組成物である場合は除く)が挙げられる。
【0065】
(皮膚外用用組成物)
本発明の組成物の好適な形態の一つは、アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物を配合した皮膚外用用組成物(以下、「本発明の皮膚外用用組成物」と記載する場合がある。)である。
【0066】
以下、本発明の皮膚外用用組成物の典型例である化粧料組成物について説明するが、本発明の皮膚外用組成物は化粧料組成物に限定されない。
【0067】
本発明の皮膚外用用組成物は、優れた皮膚バリア機能改善作用(特には、タイトジャンクション形成促進作用や角層セラミド前駆体合成促進作用)を有し、上述の通り、皮膚バリア機能が関与する症状を予防又は改善することができる。例えば、皮膚のハリや弾力低下、皮膚の保湿、皮膚のしわの形成等に対する美容効果を得ることができる。
【0068】
本発明の皮膚外用用組成物は、慣用の化粧料基材を適宜配合し、所望の剤型とすることができる。その形態は特に制限はないが、化粧水、乳液、ジェル、クリーム、パック、ヘアトニック、ヘアクリームファンデーション、水性軟膏、スプレー等の形態が挙げられる。また、本発明において、化粧料組成物は、入浴剤、ボディーソープ、シャンプー等の入浴用組成物も含む概念である。
【0069】
また、本発明の皮膚外用用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で通常化粧料や皮膚外用医薬、入浴用製品で使用される任意の成分を添加することができる。かかる任意成分の具体例としては、増粘・ゲル化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色素剤、金属封鎖剤、防腐剤、pH調整剤、香料、ミツロウ等が挙げられる。これら任意成分の配合割合は、その目的に応じて適宜選択して決定することができる。
【0070】
アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物を、皮膚外用用組成物に配合する割合は任意であるが、皮膚バリア機能改善作用(特には、タイトジャンクション形成促進作用や角層セラミド前駆体合成促進作用)に寄与できる範囲で配合割合が選択される。
【0071】
本発明の皮膚外用用組成物は、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。そのため、動物用の皮膚外用用組成物とすることもできる。
【0072】
(経口用組成物)
本発明の組成物の好適な形態の一つは、アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物を配合した経口用組成物(以下、「本発明の経口用組成物」と記載する場合がある。)である。
本発明の経口用組成物は、優れた皮膚バリア機能改善作用(特には、タイトジャンクション形成促進作用や角層セラミド前駆体合成促進作用)を有するため、機能性食品、サプリメント等へ好適に使用される。
【0073】
以下、本発明の経口用組成物の典型例である機能性食品、サプリメント、食品添加剤について説明するが、本発明の経口用組成物は機能性食品、サプリメント、食品添加剤に限定されない。
【0074】
本発明の経口用組成物の摂取量は、本発明の効果を発揮できる量であれば、特に限定されず、本発明の経口用組成物の形態、摂取させる対象者の性別、体重、健康状態等に応じて適宜決定される。当該摂取量は、1回で摂取してもよく、1日数回に分けて摂取してもよい。また、本発明の経口用組成物の有する作用又は効能を得るために、本発明の経口組成物は、持続して摂取することが好ましい。
【0075】
本発明の組成物は、日常的に経口摂取しやすいように、各種の食品、飲料と混ぜて機能性食品とすることで、長期的に摂取することも容易である。
ここでいう「機能性食品」とは、一般食品に加えて、健康の維持の目的で摂取する食品及び/又は飲料を意味し、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品又は機能性表示食品)や、健康食品、栄養補助食品、栄養保険食品等を含む概念である。この中でも保健機能食品である特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品が好ましい機能性食品の態様である。なお、機能性食品として製品化する場合には、食品に用いられる様々な添加剤、具体的には、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤漂白剤、防菌防黴剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料等を添加していてもよい。
【0076】
機能性食品の対象となる、食品、飲料は特に限定されるものではない。例えば、食品として、ソーセージ、ハム、魚介加工品、ゼリー、キャンディー、チューインガムなどの食品類が挙げられる。また、飲料としては、各種の茶類、青汁飲料、清涼飲料水、酒類、栄養ドリンクなどが挙げられる。
【0077】
また、本発明の経口用組成物は、サプリメントの形態として使用することも可能である。サプリメントの形態は、特に制限されず、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、糖衣錠、フィルム剤、トローチ剤、チュアブル剤、溶液、乳濁液、懸濁液等の任意の形態でよい。
本発明のサプリメントは、本発明の組成物以外に、サプリメントとして通常使用される任意の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、アミノ酸、ペプチド;ビタミンE、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンB、葉酸等のビタミン類;ミネラル類;糖類;無機塩類;クエン酸またはその塩;茶エキス;油脂;プロポリス、ローヤルゼリー、タウリン等の滋養強壮成分;ショウガエキス、高麗人参エキス等の生薬エキス;ハーブ類:コラーゲン等が挙げられる。
【0078】
アスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物を、機能性食品やサプリメントに配合する割合は任意であるが、皮膚バリア機能改善作用(特には、タイトジャンクション形成促進作用や角層セラミド前駆体合成促進作用)に寄与できる範囲で配合割合が選択される。
【0079】
本発明の経口組成物を保健機能食品として用いる場合、製品において本発明に係るアスパラガス抽出物又は前記抽出物の分画物によりもたらされる作用又は効能が表示されていてもよい。例えば、本発明に係る製品の本体、包装、容器、パッケージ等の収納物、又はその広告等への表示が挙げられる。
【0080】
また、製品化の際に付される作用又は効能に関する表示としては、例えば、「紫外線に負けない肌に」、「潤いのある肌へ」、「肌の水分を保持する」、「肌をバリアする」、「肌を守る」、「肌のはり低下を防止する」、「シワを防止する」、「肌の水分を保持する」等が挙げられる。
【0081】
また、本発明の組成物は、それ自体またはこれに他の成分を添加して食品添加剤として使用することも可能である。他の成分は、飲食品添加剤として使用可能であるならば特に制限はない。食品添加剤の添加対象となる飲料、食品についても任意であり、特に制限はない。
【0082】
本発明の組成物を、食品添加剤に配合する割合は任意であるが、皮膚バリア機能改善作用(特には、タイトジャンクション形成促進作用や角層セラミド前駆体合成促進作用)に寄与できる範囲で配合割合が選択される。
【0083】
本発明の経口用組成物は、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。そのため、ペットフード等の動物用の経口用組成物とすることもできる。
【実施例0084】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
また、実施例の混合溶媒において示す「%」は、特に明示しない限り「体積%」を示す。また、抽出溶媒が混合溶媒の場合、バランスである水は省略して記載する。例えば、「50%エタノール」と記載した場合、50体積%エタノールと50体積%水との混合溶媒を意味する。
【0085】
1.アスパラガス抽出物の調製
以下の方法で、実施例1のアスパラガス抽出物を製造した。
【0086】
<1-1.アスパラガス乾燥物の調製>
原料アスパラガスとして、佐賀県産アスパラガス(Asparagus officinalis)を使用した。また、原料アスパラガスとしては、原料アスパラガスを穂先(上部)から25cmの部分で切り分け、その下部(茎部や切下部)を使用した。原料アスパラガスは、スチームコンベクションオーブンを用いて、100℃の水蒸気で7分間加熱処理した後、凍結乾燥させた。得られた乾燥物は粉砕し、アスパラガス乾燥粉砕物を得た。
【0087】
<1-2.アスパラガス抽出物の調製>
上記<1-1.アスパラガス乾燥物の調製>で得られたアスパラガス乾燥粉砕物に対して重量比で20倍量の80%(v/v)エタノール水溶液を加え、室温で4時間撹拌抽出を行った。その後、遠心分離(12,000×g,30分,4℃)し、得られた上澄み液をアスパラガス抽出物とし、実施例1のアスパラガス抽出物を得た。
【0088】
2.評価方法
<2-1.ヒト3次元培養表皮を用いた試験>
LabCyte EPI-MODEL24(J-TEC)の培養カップを500μLのアッセイ培地(J-TEC)を分注したアッセイプレートに移し、CO2インキュベーター内で培養した。18時間培養後、培養カップをアッセイ培地または実施例1のアスパラガス抽出物を含むアッセイ培地を分注したアッセイプレートに移し、CO2インキュベーター内で培養した。4時間培養後、これにUVB(280-320nm,ランプ:Toshiba SH1002MA,フィルター:Asahi spectra SH0325)を150mJ/cm2の強度で照射し、新しく1.0mLのアッセイ培地又は実施例1のアスパラガス抽出物を含むアッセイ培地を分注したアッセイプレートに培養カップを移し、CO2インキュベーター内で2日間又は8日間培養した。また、アッセイ培地をアスパラガス抽出物の代わりに添加し、かつUVB未照射のものをコントロールとした。2日間又は8日間培養した培養表皮は、経皮水分蒸散量(TEWL)、RT-qPCR法による遺伝子解析に使用した。
なお、図示していないが、ヒト3次元培養表皮を用いて、MTTアッセイ(細胞生存アッセイ)を行い、すべての群で細胞生存率に影響を与えないことを確認した。
【0089】
<2-2.経皮水分蒸散量(TEWL)測定における評価>
ヒト3次元培養表皮LabCyte EPI-MODEL24を用いて経皮水分蒸散量(TEWL)の測定を行った。
測定には、2日間又は8日間培養後の培養表皮を使用した。
【0090】
2日間又は8日間培養後のLabCyte EPI-MODEL24を32℃に保ったHIENAI MAT(コスモ・バイオ)上で5分間フタを空けて静置した。その後、Tewitro TW24(Courage+Khazaka electronic GmbH)をセットし、箱(W340mm×H320mm×D275mm)で覆った後、900秒間経皮水分蒸散量を測定した。解析には測定値が安定する881~900秒の20秒間の経皮水分蒸散量を使用した。なお、これらの操作は、テーブルコーチ(興研)を用いた無菌環境下で行った。
【0091】
コントロールの経皮水分蒸散量を100として、実施例1のアスパラガス抽出物を添加した試験群の経皮水分蒸散量の相対値を算出した。結果を
図2(a)及び
図2(b)に示す。なお、
図2において、*はp<0.05(いずれもTukey-Kramer testによる)を示す。
【0092】
図2(a)及び
図2(b)に示すように、UVBを照射したものは、未照射のもの(コントロール)と比較して、TEWLが上昇するのに対し、実施例1のアスパラガス抽出物(200μg/mL)を添加した試験区については、TEWLの上昇が抑制される傾向にあった。特に、
図2(b)に示すように、8日間培養後のヒト3次元培養表皮では、実施例1のアスパラガス抽出物を添加することによって、UVB照射によるTEWLの上昇が著しく抑制されることが確認された。したがって、アスパラガス抽出物は経皮水分蒸散量(TEWL)の上昇抑制に有用であることが示された。
【0093】
<2-3.RT-qPCR法による遺伝子解析>
ヒト3次元培養表皮LabCyte EPI-MODEL24を用いてRT-qPCR法による遺伝子解析を行った。
2日間培養後の培養表皮をバイオマッシャーIIを用いて破砕した。破砕後、TRIzol Reagent(Thermo)を用いて総RNAを抽出した。
【0094】
cDNAの合成は、PrimeScriptTM RT Master Mix(Takara)を用い、製造元プロトコルに従い、PrimeScriptTM RT Master Mix、総RNA500ngに滅菌超純水を混合し10μL反応溶液として逆転写反応を行った。リアルタイムPCRは、TB Green Premix EX TaqTM(Takara)を用いて行った。リアルタイムPCRに使用したプライマーセットを表1に示す。
【0095】
【0096】
PCR反応はBIO-RAD、c1000 TouchTM Thermal Cycler,CFX 96TM Real-Time Systemを用いて行った。また、解析はBIO-RAD CFX Manager version3.1を用いて、GAPDHを内部標準として比較CT法(Comparative CT法)により行った。
【0097】
<2-3-1.タイトジャンクション形成促進作用における評価>
ヒト3次元培養表皮LabCyte EPI-MODEL24を用いて実施例1のアスパラガス抽出物のタイトジャンクション形成への影響を調べた。
上記<2-3.RT-qPCR法による遺伝子解析>の方法でRT-qPCRを行い、タイトジャンクション形成に関わる遺伝子(Claudin)の発現を解析した。
なお、タイトジャンクション形成の評価は、表1に示すClaudin1、Claudin4、GAPDHを用いて行った。
【0098】
コントロールのClaudin1遺伝子又はClaudin4遺伝子の発現量を100として、実施例1のアスパラガス抽出物を添加した試験群のClaudin1遺伝子又はClaudin4遺伝子の発現量の相対値を算出した。結果を
図3(a)及び
図3(b)に示す。なお、
図3において、有意差検定はアッセイ培地をアスパラガス抽出物の代わりに添加し、かつUVB照射したものに対して行い、*はp<0.05、**はp<0.01(いずれもTukey-Kramer testによる)を示す。
【0099】
図3(a)に示すように、UVB照射したヒト3次元培養表皮ではClaudin1の発現量が低下したのに対し、実施例1のアスパラガス抽出物を添加した培地で培養したものは、発現量の低下が抑制された。また、
図3(b)に示すように、Claudin4の場合でも、実施例1のアスパラガス抽出物を添加した培地で培養したものは、同様に発現量の低下が抑制された。そのため、アスパラガス抽出物はClaudinの発現量低下を抑制したり、もしくは発現量を増強することにより、タイトジャンクションの維持や向上に有用であることが示された。
【0100】
<2-3-2.角層セラミド前駆体合成促進作用における評価>
ヒト3次元培養表皮LabCyte EPI-MODEL24を用いて実施例1のアスパラガス抽出物の角層セラミド前駆体合成への影響を調べた。
上記<2-3.RT-qPCR法による遺伝子解析>の方法でRT-qPCRを行い、角層セラミド前駆体の合成に関わる遺伝子(CerS、SMS、SPT)の発現を解析した。
なお、角層セラミド前駆体合成の評価は、表1に示すCerS3、SMS1、SMS2、SPT1、SPT2、GAPDHを用いて行った。
【0101】
コントロールのCerS3遺伝子、SMS1遺伝子、SMS2遺伝子、SPT1遺伝子又はSPT2遺伝子の発現量を100として、実施例1のアスパラガス抽出物を添加した試験群のCerS3遺伝子、SMS1遺伝子、SMS2遺伝子、SPT1遺伝子又はSPT2遺伝子の発現量の相対値を算出した。結果を
図4(a)~(e)に示す。なお、
図4において、有意差検定はアッセイ培地をアスパラガス抽出物の代わりに添加し、かつUVB照射したものに対して行い、*はp<0.05、**はp<0.01(いずれもTukey-Kramer testによる)を示す。
【0102】
図4(a)~(e)に示すように、UVBを照射したヒト3次元培養表皮を比較すると、実施例1のアスパラガス抽出物を含む培地で培養した培養表皮では、角層セラミド前駆体の合成に関わる遺伝子(CerS3、SMS1、SMS2、SPT1、SPT2)の発現量は濃度依存的に増加した。特に、
図4(a)、
図4(c)及び
図4(e)に示すように、CerS3遺伝子、SMS2遺伝子、SPT2遺伝子の発現量は著しく増加した。これらの結果から、アスパラガス抽出物はCerS3遺伝子、SMS2遺伝子、SPT2遺伝子等の角層セラミド前駆体の合成に関わる遺伝子の発現量低下を抑制したり、発現量を増強することにより、生体の角層セラミド前駆体の維持や向上に有用であることが示された。
本発明の組成物は、優れた皮膚バリア機能改善作用、タイトジャンクション形成促進作用、角層セラミド前駆体合成促進作用を有するため、皮膚のハリや弾力、しわ、保湿等に対して効果がある。また、本発明の組成物は、各種医薬組成物、皮膚外用用組成物、経口用組成物等に好適に使用することができる。