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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067716
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】流量制御システム
(51)【国際特許分類】
   G05D 7/06 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
G05D7/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177998
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 亘
(72)【発明者】
【氏名】松永 晋輔
(72)【発明者】
【氏名】小田 康彦
【テーマコード(参考)】
5H307
【Fターム(参考)】
5H307DD15
5H307EE02
5H307FF01
5H307HH04
5H307HH12
(57)【要約】
【課題】流量制御装置のローフローカット閾値を自動的に設定する。
【解決手段】流量制御システムは、流量制御装置1の流量計測値のデータを記憶するデータ保持部16と、データ保持部16のデータを読み出す通信部40と、通信部40によって読み出された流量計測値のゼロ点付近のふらつき幅に基づいて流量制御装置1のローフローカット閾値を設定する閾値設定部43とを備える。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流量制御装置の流量計測値のデータを記憶するように構成されたデータ保持部と、
前記データ保持部のデータを読み出すように構成された通信部と、
前記通信部によって読み出された流量計測値のゼロ点付近のふらつき幅に基づいて前記流量制御装置のローフローカット閾値を設定するように構成された閾値設定部とを備えることを特徴とする流量制御システム。
【請求項2】
流量制御装置の流量計測値のデータを記憶するように構成されたデータ保持部と、
前記流量計測値を平滑化処理して出力するように構成されたPVフィルタと、
前記データ保持部のデータを読み出すように構成された通信部と、
前記通信部によって読み出された流量計測値のゼロ点付近のふらつき幅に基づいて前記PVフィルタの時定数を設定するように構成された時定数設定部とを備えることを特徴とする流量制御システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の流量制御システムにおいて、
前記通信部は、前記流量制御装置のゼロ点調整時に前記データ保持部のデータを読み出すことを特徴とする流量制御システム。
【請求項4】
請求項1または2記載の流量制御システムにおいて、
前記流量計測値のデータを前記データ保持部に記録するように構成されたデータ記録部をさらに備えることを特徴とする流量制御システム。
【請求項5】
請求項4記載の流量制御システムにおいて、
前記流量計測値と流量設定値とが一致するように操作量を算出して、前記流量制御装置の配管に配設されたバルブに出力することにより、前記バルブの開度を制御するように構成された流量制御部をさらに備え、
前記データ記録部は、前記流量計測値に加えて、前記操作量のデータを前記データ保持部に記録することを特徴とする流量制御システム。
【請求項6】
請求項5記載の流量制御システムにおいて、
前記データ記録部は、ユーザから記録開始の指示があったとき、流量制御開始の指示があったとき、流量設定値変更の指示があったとき、あるいはゼロ点調整実行の指示があったときに、前記流量計測値と前記操作量の前記データ保持部への記録を開始することを特徴とする流量制御システム。
【請求項7】
請求項5記載の流量制御システムにおいて、
前記データ記録部は、ユーザから記録停止の指示があったときに、前記流量計測値と前記操作量の前記データ保持部への記録を停止することを特徴とする流量制御システム。
【請求項8】
請求項5記載の流量制御システムにおいて、
前記データ記録部は、記録開始時点から特定点数のデータを記録したときに、前記流量計測値と前記操作量の前記データ保持部への記録を停止することを特徴とする流量制御システム。
【請求項9】
請求項5記載の流量制御システムにおいて、
前記流量制御装置に異常かないかどうかを判定するように構成された異常判定部をさらに備え、
前記データ記録部は、前記流量制御装置に異常があると前記異常判定部が判定したときに、前記流量計測値と前記操作量の前記データ保持部への記録を停止することを特徴とする流量制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量制御装置の設定を自動的に行うことができる流量制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に流体の流量を制御するのに流量制御装置(マスフローコントローラ)が使用される。流量制御装置は、フローセンサによって検出した流体の流量と設定流量とを比較演算して、その結果に基づいてバルブに駆動電流を出力することにより、流量制御を行う。このような流量制御装置では、例えば低流量域での応答性を改善するために、バルブを制御するコントローラのPID定数を自動的に設定したり(特許文献1参照)、バルブの正確な制御のためにコントローラのゲインを自動的に設定したりすること(特許文献2参照)が行われている。
【0003】
しかしながら、従来の技術では、流量制御装置のローフローカット閾値を自動的に設定したり、フローセンサによって計測された瞬時流量(PV)を平滑化処理して出力するPVフィルタの時定数を自動的に設定したりすることは行われていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-149502号公報
【特許文献2】特表2018-528550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、流量制御装置のローフローカット閾値を自動的に設定することができる流量制御システムを提供することを目的とする。
また、本発明は、流量制御装置のPVフィルタの時定数を自動的に設定することができる流量制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の流量制御システムは、流量制御装置の流量計測値のデータを記憶するように構成されたデータ保持部と、前記データ保持部のデータを読み出すように構成された通信部と、前記通信部によって読み出された流量計測値のゼロ点付近のふらつき幅に基づいて前記流量制御装置のローフローカット閾値を設定するように構成された閾値設定部とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の流量制御システムは、流量制御装置の流量計測値のデータを記憶するように構成されたデータ保持部と、前記流量計測値を平滑化処理して出力するように構成されたPVフィルタと、前記データ保持部のデータを読み出すように構成された通信部と、前記通信部によって読み出された流量計測値のゼロ点付近のふらつき幅に基づいて前記PVフィルタの時定数を設定するように構成された時定数設定部とを備えることを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明の流量制御システムの1構成例において、前記通信部は、前記流量制御装置のゼロ点調整時に前記データ保持部のデータを読み出すことを特徴とするものである。
また、本発明の流量制御システムの1構成例は、前記流量計測値のデータを前記データ保持部に記録するように構成されたデータ記録部をさらに備えることを特徴とするものである。
また、本発明の流量制御システムの1構成例は、前記流量計測値と流量設定値とが一致するように操作量を算出して、前記流量制御装置の配管に配設されたバルブに出力することにより、前記バルブの開度を制御するように構成された流量制御部をさらに備え、前記データ記録部は、前記流量計測値に加えて、前記操作量のデータを前記データ保持部に記録することを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の流量制御システムの1構成例において、前記データ記録部は、ユーザから記録開始の指示があったとき、流量制御開始の指示があったとき、流量設定値変更の指示があったとき、あるいはゼロ点調整実行の指示があったときに、前記流量計測値と前記操作量の前記データ保持部への記録を開始することを特徴とするものである。
また、本発明の流量制御システムの1構成例において、前記データ記録部は、ユーザから記録停止の指示があったときに、前記流量計測値と前記操作量の前記データ保持部への記録を停止することを特徴とするものである。
また、本発明の流量制御システムの1構成例において、前記データ記録部は、記録開始時点から特定点数のデータを記録したときに、前記流量計測値と前記操作量の前記データ保持部への記録を停止することを特徴とするものである。
また、本発明の流量制御システムの1構成例は、前記流量制御装置に異常かないかどうかを判定するように構成された異常判定部をさらに備え、前記データ記録部は、前記流量制御装置に異常があると前記異常判定部が判定したときに、前記流量計測値と前記操作量の前記データ保持部への記録を停止することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、データ保持部と通信部と閾値設定部とを設けることにより、流量がゼロのときにノイズなどによってゼロ以外の流量計測値が誤って出力される可能性がほぼないローフローカット閾値を自動的に設定することができる。
【0010】
また、本発明では、データ保持部と通信部と時定数設定部とを設けることにより、PVフィルタの時定数を自動的に適切な値に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の第1の実施例に係る流量制御システムの外観図である。
図2図2は、本発明の第1の実施例に係る流量制御システムの構成を示すブロック図である。
図3図3は、本発明の第1の実施例に係る流量制御装置の動作を説明するフローチャートである。
図4図4は、本発明の第1の実施例に係る端末の動作を説明するフローチャートである。
図5図5は、流量計測値と操作量のデータ表示の1例を示す図である。
図6図6は、流量計測値と操作量のデータ表示の別の例を示す図である。
図7図7は、本発明の第2の実施例に係る流量制御システムの構成を示すブロック図である。
図8図8は、本発明の第2の実施例に係る流量制御装置の動作を説明するフローチャートである。
図9図9は、本発明の第3の実施例に係る流量制御システムの構成を示すブロック図である。
図10図10は、本発明の第3の実施例に係る流量制御装置の動作を説明するフローチャートである。
図11図11は、本発明の第4の実施例に係る流量制御システムの構成を示すブロック図である。
図12図12は、本発明の第4の実施例に係る流量制御装置の動作を説明するフローチャートである。
図13図13は、本発明の第5の実施例に係る流量制御システムの構成を示すブロック図である。
図14図14は、本発明の第5の実施例に係る流量制御装置の動作を説明するフローチャートである。
図15図15は、本発明の第1~第5の実施例に係る流量制御装置と端末を実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1の実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施例に係る流量制御システムの外観図である。流量制御システムは、流量制御装置1と、通信ケーブル3を介して流量制御装置1と接続された端末2とから構成される。
【0013】
図2は本実施例に係る流量制御システムの構成を示すブロック図である。流量制御装置1は、流量制御の対象となる流体が流れる配管10と、配管10に配設されたセンサパッケージ11と、配管10に配設されたバルブ12と、センサパッケージ11に搭載されたフローセンサ13の出力値を流量計測値PVに変換する流量計測部14と、流量計測値PVと流量設定値SPとが一致するように操作量MVをバルブ12に出力することにより、バルブ12の開度を制御する流量制御部15と、流量計測値PVと操作量MVのデータを記憶するデータ保持部16と、流量計測値PVと操作量MVのデータをデータ保持部16に記録するデータ記録部17と、流量計測値PVを平滑化処理するPVフィルタ18と、平滑化処理された流量計測値PVを外部に出力するPV出力部19と、ゼロ点調整時にゼロ点補正値を算出するゼロ点調整部20と、端末2との通信を行うための通信部21とを備えている。
【0014】
図2において、31は配管10の入口側の開口、32は配管10の出口側の開口である。流体(ガス)は、開口31から配管10に流入してバルブ12を通過し、開口32から排出される。フローセンサ13は、センサパッケージ11に搭載され、計測対象の流体に晒されるように配管10に装着される。
【0015】
端末2は、流量制御装置1との通信を行うための通信部40と、データ表示のための表示部41と、ユーザが端末2に指示を与えるための操作部42と、通信部40によって読み出された流量計測値PVのゼロ点付近のふらつき幅に基づいて流量制御装置1のローフローカット閾値を設定する閾値設定部43と、通信部40によって読み出された流量計測値PVのゼロ点付近のふらつき幅に基づいてPVフィルタ18の時定数を設定する時定数設定部44とを備えている。
【0016】
図3は流量制御装置1の動作を説明するフローチャート、図4は端末2の動作を説明するフローチャートである。
ユーザは、流量制御装置1の設定やメンテナンス時に、通信ケーブル3を介して流量制御装置1と端末2とを接続する。
【0017】
流量制御装置1のフローセンサ13は、配管10を流れる流体の流量に対応する値の信号を出力する。流量計測部14は、フローセンサ13の出力値を流量計測値Qに変換する(図3ステップS100)。具体的には、フローセンサ13の出力値(実際にはフローセンサ13の出力をA/D変換した値)をXとすると、流量計測値Qの変換式は式(1)のようになる。
Q=AX+C ・・・(1)
【0018】
式(1)のA,Cは流量制御装置1の出荷時に求めた個体毎の既知の特性係数である。そして、流量計測部14は、流量制御装置1の出荷時に行われたゼロ点調整時の流量オフセット値OFSrefを流量計測値Qから減算した値を、補正後の流量計測値PVとして出力する。
PV=Q-OFSref ・・・(2)
【0019】
流量オフセット値OFSrefは、出荷時に流量をゼロにしたときの流量計測値Qの代表値である。このときの代表値は、例えば流量計測値Qの平均値である。さらに、流量計測部14は、補正後の流量計測値PVが所定のローフローカット閾値C以内のときには、流量計測値PVをゼロにするローフローカット処理を施して出力する。このときのローフローカット閾値Cは、初期値に設定されている。
【0020】
流量制御装置1の流量制御部15は、流量計測部14から出力された流量計測値PVと流量設定値SPとを入力として、流量計測値PVと流量設定値SPとが一致するようにPID制御演算によって操作量MVを算出する(図3ステップS101)。流量制御部15は、算出した操作量MVをバルブ12に出力してバルブ12の開度を調節することにより、配管10を流れる流体の流量を制御する(図3ステップS102)。
【0021】
流量制御装置1のデータ記録部17は、流量計測部14から出力された流量計測値PVと流量制御部15から出力された操作量MVとをデータ保持部16に記録する(図3ステップS103)。
【0022】
データ保持部16は、流量計測値PVと操作量MVのデータをそれぞれ特定点数(例えば1000点)保持できる容量を有する。データ記録部17は、データ保持部16の先頭アドレスから順にデータを格納し、データ保持部16の最後尾アドレスまでデータを格納し、流量計測値PVと操作量MVのデータをそれぞれ特定点数格納し終えたときには、格納済みの最も古いデータから順に上書きするようにしてデータを更新する。
【0023】
次に、流量制御装置1のPVフィルタ18は、流量計測部14から出力された流量計測値PVを平滑化処理する(図3ステップS104)。平滑化処理としては、例えば1次遅れローパスフィルタ処理がある。
PV’=PV/(1+Ks) ・・・(3)
【0024】
式(3)において、PV’は平滑化処理された流量計測値PV、Kは時定数、sはラプラス演算子である。
平滑化処理された流量計測値PV’は、PV出力部19から流量制御装置1の外部に出力される(図3ステップS105)。
【0025】
流量制御装置1の通信部21は、端末2からデータの読み出し要求があったときに(図3ステップS106においてYES)、データ保持部16に記録された流量計測値PVと操作量MVのデータを内部の通信バッファ(不図示)にいったんコピーして(図3ステップS107)、通信バッファに格納したデータを端末2に転送する(図3ステップS108)。
【0026】
また、通信部21は、後述のように端末2から送信されたゼロ点調整実行の指示信号を受信すると(図3ステップS109においてYES)、この指示信号をゼロ点調整部20に転送する。
【0027】
ゼロ点調整部20は、指示信号を受けた調整開始時から所定のゼロ点調整時間(例えば3秒)の間の流量計測値PVの代表値をゼロ点補正値OFSとして算出する(図3ステップS110)。このときの代表値は、例えば流量計測値PVの平均値である。ゼロ点調整部20は、ゼロ点補正値OFSを流量計測部14に対して設定する(図2ステップS111)。以後、流量計測部14は、式(1)によって算出した流量計測値Qから、流量オフセット値OFSrefとゼロ点補正値OFSとを減算した値を、補正後の流量計測値PVとして出力する。
PV=Q-OFSref-OFS ・・・(4)
【0028】
また、通信部21は、後述のように端末2から送信されたローフローカット閾値Cを受信すると(図3ステップS112においてYES)、このローフローカット閾値Cを流量計測部14に転送する。流量計測部14は、自身に設定されているローフローカット閾値Cを、通信部21から転送されたローフローカット閾値Cに更新する(図3ステップS113)。以後、流量計測部14は、更新後のローフローカット閾値Cを用いて流量計測値PVのローフローカット処理を行う。
【0029】
さらに、通信部21は、後述のように端末2から送信された時定数Kを受信すると(図3ステップS114においてYES)、この時定数KをPVフィルタ18に転送することにより、PVフィルタ18に設定されている時定数Kを端末2から受信した時定数Kに更新する(図3ステップS115)。以後、PVフィルタ18は、更新後の時定数Kを用いて式(3)の平滑化処理を行う。流量制御装置1は、以上のような図3の処理を制御周期(例えば1.5ms)毎に行う。
【0030】
一方、端末2の通信部40は、流量制御装置1に対してデータの読み出し要求を行う(図4ステップS200)。通信部40は、一定時間毎に読み出し要求を行ってもよいし、ユーザからの指示に応じて読み出し要求を行ってもよい。
【0031】
通信部40は、流量制御装置1の通信部21から転送された流量計測値PVと操作量MVのデータを受信する(図4ステップS201)。
端末2の表示部41は、通信部40が受信した流量計測値PVと操作量MVのデータのうち少なくとも一方を表示する(図4ステップS202)。
【0032】
図5は流量計測値PVと操作量MVのデータ表示の1例を示す図である。図5の例は、流量設定値SPを50%FSから80%FSに変更したときの制御応答例を示している。表示部41の画面410には、流量計測値PVと操作量MVのデータがグラフ表示される。
【0033】
ユーザは、流量計測値PVの変化をグラフで見ることにより、例えば数値表示では発見することができない流量計測値PVのオーバーシュート(図5の411の部分)を確実に捉えることができる。図5の例では、時刻0において50%FSから80%FSに変更された設定値SPに対する流量計測値PVの98%応答が100ms程度である。
【0034】
図5によると、流量計測値PVの立ち上がり時にオーバーシュートしてから80%FSに復帰するまでの時間は20ms程度である。このオーバーシュートの大きさにはバルブ12による個体差がある。オーバーシュートを正確に観測することにより、ユーザは、流量制御部15のPID定数(比例ゲイン、積分時間、微分時間)をチューニングするなど対応をとることでオーバーシュートを抑制することができる。
【0035】
ユーザは、PID定数の変更が必要と判断した場合、端末2の操作部42を操作して、変更すべきPID定数を入力する。これにより、端末2の通信部40と流量制御装置1の通信部21を介して流量制御部15のPID定数を設定変更することができる。
【0036】
また、ユーザは、流量計測値PVの変化をグラフで見ることにより、流量計測値PVの整定時の細かなふらつき(図5の412の部分)の変動幅および周期を正確に観測することができる。これにより、ユーザは、流量制御部15のPID定数などを適切に決定することができる。
【0037】
図6は流量計測値PVと操作量MVのデータ表示の別の例を示す図である。図6の例では、流量計測値PVにハンチングが発生している。ハンチング発生時に、操作量MVも流量計測値PVと同じ周期でふらついている場合はバルブ12の過応答が原因と推測でき、流量制御部15の比例ゲインを小さくするなどの対応が考えられる。一方で、操作量MVの振動周期が流量計測値PVの振動周期と一致しない場合は、外乱による上流圧力の変動や下流圧力の一次遅れが原因であると推測できる。その場合は、流量制御部15の比例ゲインや制御周期を変更する、あるいは積分時間を小さくする、といった対応が考えられる。
【0038】
次に、ユーザは、流量制御装置1のゼロ点調整の実行時に、流量制御装置1の前後にあるバルブ(不図示)を全閉にして流体の流量をゼロにし、端末2の操作部42を操作して、ゼロ点調整実行を指示する。なお、流量制御装置1の後ろにあるバルブを閉じる代わりに、流量制御装置1のバルブ12を閉じてもよい。
【0039】
端末2の通信部40は、ユーザからゼロ点調整実行の指示があったときに(図4ステップS203においてYES)、ゼロ点調整実行の指示信号を流量制御装置1に送信する(図4ステップS204)。
【0040】
次に、通信部40は、ユーザからゼロ点調整実行の指示があったときから所定時間経過後(例えば数秒経過後)に、流量制御装置1に対してデータの読み出し要求を行う(図4ステップS205)。図4のステップS206,S207の処理は、ステップS201,S202と同じである。
【0041】
端末2の閾値設定部43は、ステップS205の読み出し要求によって通信部40が受信した流量計測値PVのデータのふらつき幅に基づいて流量制御装置1のローフローカット閾値Cを算出する(図4ステップS208)。具体的には、閾値設定部43は、流量がゼロのときに通信部40が受信した流量計測値PVの標準偏差をσとしたとき、ローフローカット閾値Cを式(5)のように算出する。
C=α×σ ・・・(5)
【0042】
係数αは予め定められた正数であり、例えば10とすればよいが、別の値でもよいことは言うまでもない。また、式(3)で算出した値が例えば3σ+n(nは予め定められた正数)未満の場合には、ローフローカット閾値Cを3σ+nとする下限処理を行ってもよい。
【0043】
閾値設定部43は、算出したローフローカット閾値Cを通信部40を介して流量制御装置1に送信する(図4ステップS209)。これにより、上述のように流量制御装置1の流量計測部14に設定されているローフローカット閾値Cが更新される。
【0044】
こうして、本実施例では、ゼロ点調整実行の際にローフローカット閾値Cを自動的に適切な値に設定することができ、流量がゼロのときにノイズなどによってゼロ以外の流量計測値PVが誤って出力される可能性がほぼないローフローカット閾値Cを設定することができる。
【0045】
一方、端末2の時定数設定部44は、ステップS205の読み出し要求によって通信部40が受信した流量計測値PVのデータのふらつき幅に基づいて流量制御装置1のPVフィルタ18の時定数Kを算出する(図4ステップS210)。流量がゼロのときに通信部40が受信した流量計測値PVの標準偏差をσ、流量計測値PVの標準偏差がσrefの時の理想的な時定数をKrefとすると、時定数Kは式(6)により算出できる。
=(σ/σrefref ・・・(6)
【0046】
式(6)は、流量計測値PVが理想的なホワイトノイズのみの状況である場合、その流量計測値PVの標準偏差はおおよそローパスフィルタ時定数の平方根に反比例する、という事実に基づくものである。時定数Krefは、ある形番の流量制御装置について、流量がゼロのときの流量計測値PVの標準偏差がσrefであったときに、PVフィルタ18の理想的な時定数を実験的に求めたものである。
【0047】
時定数設定部44は、式(6)によって算出した時定数Kを通信部40を介して流量制御装置1に送信する(図4ステップS211)。これにより、上述のように流量制御装置1のPVフィルタ18に設定されている時定数Kが更新される。
こうして、本実施例では、ゼロ点調整実行の際にPVフィルタ18の時定数Kを自動的に適切な値に設定することができる。
【0048】
また、本実施例では、流量計測値PVと操作量MVのデータをいったんデータ保持部16に格納して、データ保持部16に格納されたデータを端末2によって読み出すことができる。上記のとおり、流量制御装置1の制御周期は例えば1.5msであるが、流量制御装置1と端末2との間のシリアル通信のサンプリング周期は、流量制御装置1と端末2のそれぞれのCPU(Central Processing Unit)の処理時間や伝送時間などの制約により、高速化に限界がある。シリアル通信によるサンプリング周期は流量計測値PVと操作量MVの2データで通常100ms程度である。したがって、流量計測値PVと操作量MVのデータを通常の通信によって収集しようとすると、流量制御のプロセス応答よりも遅い速度でしかデータを収集できないことになり、制御の現象を正しく解析するだけのデータを収集できないことになる。
【0049】
そこで、本実施例では、流量制御装置1の制御周期でデータをデータ保持部16にいったん記録し、データ保持部16に格納されたデータを端末2によって読み出す。これにより、通常の通信によるデータ取得よりも高速のサンプリング周期のデータを取得することができ、制御の現象解析に適したデータを得ることができる。
【0050】
[第2の実施例]
次に、本発明の第2の実施例について説明する。図7は本実施例に係る流量制御システムの構成を示すブロック図である。本実施例の流量制御システムは、流量制御装置1aと、端末2とから構成される。
【0051】
流量制御装置1aは、配管10と、センサパッケージ11と、バルブ12と、フローセンサ13と、流量計測部14と、流量制御部15と、データ記録部17aと、PVフィルタ18と、PV出力部19と、ゼロ点調整部20と、通信部21とを備えている。
【0052】
図8は流量制御装置1aの動作を説明するフローチャートである。図8のステップS100~102,S104~S115の処理は第1の実施例で説明したとおりである。
データ記録部17aは、流量制御装置1aに対して例えばユーザから流量制御開始の指示があったとき、あるいはユーザから流量設定値SP変更の指示があったとき、あるいは端末2からゼロ点調整実行の指示信号を受信したときに(図8ステップS116においてYES)、流量計測値PVと操作量MVのデータ保持部16への記録を開始する(図8ステップS117)。ユーザから流量制御装置1aへの指示は、流量制御装置1aに設けられたキーの操作、端末2からのコマンド送信、またはデジタル入力(DI)信号の入力などによって行うことができる。
【0053】
また、データ記録部17aは、ステップS117の記録開始時点から特定点数(例えば1000点)のデータを記録したときに(図8ステップS118においてYES)、データ保持部16への記録を停止する(図8ステップS119)。
端末2の構成と動作は第1の実施例と同じである。
【0054】
こうして、本実施例では、流量制御の開始時、流量設定値SPの変更時、またはゼロ点調整実行時に流量計測値PVと操作量MVのデータの記録を開始し、記録開始時点から特定点数のデータを記録したときに自動的に記録を停止することができる。上記のように第1の実施例では、記録開始時点からのデータの記録回数が特定点数を超えると、データの上書きが発生するが、本実施例では、上書きが発生することはない。
【0055】
[第3の実施例]
次に、本発明の第3の実施例について説明する。図9は本実施例に係る流量制御システムの構成を示すブロック図である。本実施例の流量制御システムは、流量制御装置1bと、端末2とから構成される。
【0056】
流量制御装置1bは、配管10と、センサパッケージ11と、バルブ12と、フローセンサ13と、流量計測部14と、流量制御部15と、データ記録部17bと、PVフィルタ18と、PV出力部19と、ゼロ点調整部20と、通信部21とを備えている。
【0057】
図10は流量制御装置1bの動作を説明するフローチャートである。図10のステップS100~102,S104~S115の処理は第1の実施例で説明したとおりである。
データ記録部17bは、ユーザからデータ記録開始の指示があったとき、あるいは端末2からゼロ点調整実行の指示信号を受信したときに(図10ステップS120においてYES)、流量計測値PVと操作量MVのデータ保持部16への記録を開始する(図10ステップS121)。ユーザから流量制御装置1bへの指示は、流量制御装置1bに設けられたキーの操作、端末2からのコマンド送信、またはDI信号の入力などによって行うことができる。
【0058】
また、データ記録部17bは、ステップS121の記録開始時点から特定点数(例えば1000点)のデータを記録したときに(図10ステップS122においてYES)、データ保持部16への記録を停止する(図10ステップS123)。
端末2の構成と動作は第1の実施例と同じである。
【0059】
こうして、本実施例では、ユーザからデータ記録開始の指示があったとき、またはゼロ点調整実行時に流量計測値PVと操作量MVのデータの記録を開始し、記録開始時点から特定点数のデータを記録したときに自動的に記録を停止することができる。
【0060】
[第4の実施例]
次に、本発明の第4の実施例について説明する。図11は本実施例に係る流量制御システムの構成を示すブロック図である。本実施例の流量制御システムは、流量制御装置1cと、端末2とから構成される。
【0061】
流量制御装置1cは、配管10と、センサパッケージ11と、バルブ12と、フローセンサ13と、流量計測部14と、流量制御部15と、データ記録部17cと、PVフィルタ18と、PV出力部19と、ゼロ点調整部20と、通信部21とを備えている。
【0062】
図12は流量制御装置1cの動作を説明するフローチャートである。図12のステップS100~S115の処理は第1の実施例で説明したとおりである。
データ記録部17cは、ユーザからデータ記録停止の指示があったときに(図12ステップS124においてYES)、流量計測値PVと操作量MVのデータ保持部16への記録を停止する(図12ステップS125)。ユーザから流量制御装置1cへの指示は、流量制御装置1cに設けられたキーの操作、端末2からのコマンド送信、またはDI信号の入力などによって行うことができる。
【0063】
端末2の構成と動作は第1の実施例と同じである。こうして、本実施例では、第1の実施例と同様にデータの記録を常時行い、ユーザから停止の指示があったときに記録を停止することができる。
【0064】
[第5の実施例]
次に、本発明の第5の実施例について説明する。図13は本実施例に係る流量制御システムの構成を示すブロック図である。本実施例の流量制御システムは、流量制御装置1dと、端末2とから構成される。
【0065】
流量制御装置1dは、配管10と、センサパッケージ11と、バルブ12と、フローセンサ13と、流量計測部14と、流量制御部15と、データ記録部17dと、PVフィルタ18と、PV出力部19と、ゼロ点調整部20と、通信部21と、流量制御装置1dに異常かないかどうかを判定する異常判定部22とを備えている。
【0066】
図14は流量制御装置1dの動作を説明するフローチャートである。図14のステップS100~S115の処理は第1の実施例で説明したとおりである。
異常判定部22は、流量制御装置1dに異常が発生したと判断した場合に、アラームを出力する。例えば異常判定部22は、流量計測値PVがSP±β(βは許容範囲)の範囲内の場合、正常と判定し、流量計測値PVがSP±βの範囲外の場合、異常と判定してアラームを出力する。アラームの発生は、デジタル出力(DO)信号や、流量制御装置1dに設けられたLEDの点灯などによってユーザに通知される。
【0067】
データ記録部17dは、異常判定部22が異常と判定してアラームを出力したときに(図14ステップS126においてYES)、流量計測値PVと操作量MVのデータ保持部16への記録を停止する(図12ステップS127)。
端末2の構成と動作は第1の実施例と同じである。
【0068】
流量が流量設定値SPどおりに制御できず、流量設定値SPと流量計測値PVとの偏差がゼロにならずに一定値以上ある場合にアラームを出力する機能が流量制御装置に備わっている。このようなアラームが出力されたときに流量計測値PVと操作量MVの記録を停止することにより、アラーム解析の一助になると考えられる。
【0069】
例えば、ユーザはDO信号の状態変化によりアラームの発生を認識したときに、端末2を操作して流量制御装置1dに対してデータの読み出しを要求する。これにより、図5の例のように流量計測値PVと操作量MVのデータを端末2にグラフ表示させることができる。
【0070】
グラフを見たユーザは、例えばアラーム発生の直前に操作量MVが上昇している場合、上流圧力が下がってきており、上流圧が足りず、設定流量を流せないためバルブ12が徐々に開いたことを確認できる。このときは、上流側でガスリークや、ガスボンベの供給圧の低下といったトラブルが発生していると判断することができる。
【0071】
第1~第5の実施例で説明した流量制御装置1,1a~1dの流量計測部14と流量制御部15とデータ記録部17,17a~17dとPVフィルタ18とゼロ点調整部20と通信部21と異常判定部22とは、CPU、記憶装置及びインターフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。また、端末2の通信部40と閾値設定部43と時定数設定部44についてもコンピュータによって実現することができる。これらのコンピュータの構成例を図15に示す。
【0072】
コンピュータは、CPU100と、記憶装置101と、インターフェース装置(I/F)102とを備えている。流量制御装置1,1a~1dの場合、I/F102には、バルブ12とフローセンサ13とPV出力部19と通信部21のハードウェア等が接続される。端末2の場合、I/F102には、操作部42と表示部41と通信部40のハードウェア等が接続される。このようなコンピュータにおいて、本発明の流量制御方法を実現させるためのプログラムは記憶装置101に格納される。各々の装置のCPU100は、記憶装置101に格納されたプログラムに従って第1~第5の実施例で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、流量制御装置を外部から設定する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1,1a~1d…流量制御装置、2…端末、3…通信ケーブル、10…配管、11…センサパッケージ、12…バルブ、13…フローセンサ、14…流量計測部、15…流量制御部、16…データ保持部、17,17a~17d…データ記録部、18…PVフィルタ、19…PV出力部、20…ゼロ点調整部、21,40…通信部、22…異常判定部、41…表示部、42…操作部、43…閾値設定部、44…時定数設定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15