(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067730
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】培養容器、微生物培養システム、及び核酸分析システム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240510BHJP
C12M 1/28 20060101ALI20240510BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20240510BHJP
C12N 15/10 20060101ALN20240510BHJP
【FI】
C12M1/00 D
C12M1/28
C12Q1/68 100Z
C12N15/10 100Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178035
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】桑田 正弘
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA23
4B029BB01
4B029DB16
4B029GB01
4B029GB02
4B029GB03
4B029GB07
4B029GB10
4B063QA11
4B063QQ05
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR62
4B063QR74
4B063QS31
4B063QS39
(57)【要約】
【課題】液体が零れ難く、操作が容易で、シート状の対象物が容器本体内で液中に沈んでいることを保証できる培養容器、及びその培養容器を用いた微生物培養システム、及び核酸分析システムの提供を目的とする。
【解決手段】培養容器10は、スリット状に開口する開口部11aを有し、開口部11aからシート状の対象物(メンブレンフィルター100)を縦に収容する容器本体11を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリット状に開口する開口部を有し、前記開口部からシート状の対象物を縦に収容する容器本体を備える、
培養容器。
【請求項2】
前記容器本体は、前記開口部の短手方向に隣接する一対の側壁部を備え、
前記一対の側壁部の下部は、円弧状に湾曲している、
請求項1に記載の培養容器。
【請求項3】
前記一対の側壁部の上部は、前記円弧状に連続する矩形状に形成されると共に、前記下部の上下方向の寸法よりも上下方向に長く形成されている、
請求項2に記載の培養容器。
【請求項4】
前記一対の側壁部の対向面の間隔が、前記容器本体の底部から前記開口部に向かうに従って広がっている、
請求項2に記載の培養容器。
【請求項5】
前記開口部の少なくとも一部に、傾斜を有する注ぎ口が形成されている、
請求項1に記載の培養容器。
【請求項6】
前記開口部の少なくとも一部を覆う蓋部を有する、
請求項1に記載の培養容器。
【請求項7】
前記蓋部が、通気性を有する、
請求項6に記載の培養容器。
【請求項8】
前記蓋部と前記容器本体との隙間を封止する封止部を有する、
請求項6に記載の培養容器。
【請求項9】
前記蓋部が、フィルムであり、
前記封止部が、前記フィルムを着脱可能な粘着剤である、
請求項8に記載の培養容器。
【請求項10】
前記容器本体が、連結部を介して複数連結されている、
請求項1に記載の培養容器。
【請求項11】
前記連結部は、破断可能な弱化部を有する、
請求項10に記載の培養容器。
【請求項12】
前記一対の側壁部には、前記開口部を部分的に短手方向に広げる逆さ円錐状の膨出部が形成されている、
請求項2に記載の培養容器。
【請求項13】
前記一対の側壁部には、前記容器本体の内側に突出する突出部が形成されている、
請求項2に記載の培養容器。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の培養容器を用いて、微生物の培養を行う、
微生物培養システム。
【請求項15】
請求項14に記載の微生物培養システムを備え、前記微生物より抽出した核酸を分析する、
核酸分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養容器、微生物培養システム、及び核酸分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、伝統的なシャーレに代わる簡便な培養容器が開示されている。
この培養容器は、いずれも樹脂シート製の本体と蓋を備え、前記本体には培地が充填される凹部を形成し、前記蓋には前記本体の凹部に嵌合する凸部を形成するとともに、前記凸部の表面には試料採取用の粘着層を形成し、前記凹部に前記凸部を嵌合したとき、前記粘着層が前記培地に接触し、前記本体と蓋が、ヒンジ部により連結された形で同一の樹脂シートから製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記容器本体は、対象物を横置き(平置き)に収容するものであるため、培地が液体である場合、容器本体から零れやすく、操作し難いという問題があった。また、対象物がシート状であると、その少なくとも一部が、培地の液面に浮くことがあり、対象物に付着した微生物を培養できなくなる虞があった。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、液体が零れ難く、操作が容易で、シート状の対象物が容器本体内で液中に沈んでいることを保証できる培養容器、及びその培養容器を用いた微生物培養システム、及び核酸分析システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様による培養容器は、スリット状に開口する開口部を有し、前記開口部からシート状の対象物を縦に収容する容器本体を備える。
【0007】
本発明の第2の態様による培養容器は、本発明の第1の態様による培養容器において、前記容器本体は、前記開口部の短手方向に隣接する一対の側壁部を備え、前記一対の側壁部の下部は、円弧状に湾曲している。
【0008】
本発明の第3の態様による培養容器は、本発明の第2の態様による培養容器において、前記一対の側壁部の上部は、前記円弧状に連続する矩形状に形成されると共に、前記下部の上下方向の寸法よりも上下方向に長く形成されている。
【0009】
本発明の第4の態様による培養容器は、本発明の第2又は第3の態様による培養容器において、前記一対の側壁部の対向面の間隔が、前記容器本体の底部から前記開口部に向かうに従って広がっている。
【0010】
本発明の第5の態様による培養容器は、本発明の第1の態様から第4の態様のいずれかによる培養容器において、前記開口部の少なくとも一部に、傾斜を有する注ぎ口が形成されている。
【0011】
本発明の第6の態様による培養容器は、本発明の第1の態様から第5の態様のいずれかによる培養容器において、前記開口部の少なくとも一部を覆う蓋部を有する。
【0012】
本発明の第7の態様による培養容器は、本発明の第6の態様による培養容器において、前記蓋部が、通気性を有する。
【0013】
本発明の第8の態様による培養容器は、本発明の第6の態様または第7の態様による培養容器において、前記蓋部と前記容器本体との隙間を封止する封止部を有する。
【0014】
本発明の第9の態様による培養容器は、本発明の第8の態様による培養容器において、前記蓋部が、フィルムであり、前記封止部が、前記フィルムを着脱可能な粘着剤である。
【0015】
本発明の第10の態様による培養容器は、本発明の第1の態様から第9の態様のいずれかによる培養容器において、前記容器本体が、連結部を介して複数連結されている。
【0016】
本発明の第11の態様による培養容器は、本発明の第10の態様による培養容器において、前記連結部は、破断可能な弱化部を有する。
【0017】
本発明の第12の態様による培養容器は、本発明の第2の態様から第4の態様による培養容器において、前記一対の側壁部には、前記開口部を部分的に短手方向に広げる逆さ円錐状の膨出部が形成されている。
【0018】
本発明の第13の態様による培養容器は、本発明の第2の態様から第4の態様、第12の態様のいずれかによる培養容器において、前記一対の側壁部には、前記容器本体の内側に突出する突出部が形成されている。
【0019】
本発明の第14の態様による微生物培養システムは、本発明の第1の態様から第13の態様のいずれかによる培養容器を用いて、微生物の培養を行う。
【0020】
本発明の第15の態様による核酸分析システムは、本発明の第14の態様による微生物培養システムを備え、前記微生物より抽出した核酸を分析する。
【発明の効果】
【0021】
上記本発明の態様によれば、液体が零れ難く、操作が容易で、シート状の対象物が容器本体内で液中に沈んでいることを保証できる培養容器、及びその培養容器を用いた微生物培養システム、及び核酸分析システムの提供を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1実施形態に係る核酸分析システムの概略図である。
【
図2】第1実施形態に係る培養容器の側面図である。
【
図3】
図2に示す矢視III-III断面図である。
【
図4】第1実施形態に係る培養容器の平面図である。
【
図5】第2実施形態に係る培養容器の部分破断側面図である。
【
図7】第2実施形態に係る培養容器の平面図である。
【
図8】第3実施形態に係る培養容器の平面図である。
【
図10】第3実施形態に係る培養容器の部分破断側面図である。
【
図11】第4実施形態に係る培養容器の側面図である。
【
図13】第5実施形態に係る培養容器の分解斜視図である。
【
図14】第5実施形態に係る容器本体の側面図である。
【
図16】第5実施形態に係る容器本体の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る培養容器、微生物培養システム、及び核酸分析システムについて詳細に説明する。以下では、まず本発明の実施形態の概要について説明し、続いて本発明の実施形態の詳細について説明する。
【0024】
〔概要〕
細菌等の微生物は、人体に悪影響をもたらす可能性があり、微生物の混入を検査する方法が望まれている。このような検査は、伝統的にはシャーレを用いて、微生物を寒天培地などの上で培養し、発生したコロニーの数を数えることで、微生物の混入や数を検査している。例えば、上記特許文献1では、このような伝統的に用いられるシャーレに変わり、試料の採取と培養を簡便に行い得る培養容器に関する技術が開示されている。
【0025】
一方で、培養により発生するコロニーによる検査では、コロニーが検査可能なサイズに成長するまでに、数日から数週間の培養時間を必要とする場合があり、より早く微生物の混入を検査する方法が望まれており、種々の迅速測定法が開発されている。例えば、微生物などの細胞を高温、高圧で処理することにより、微生物から核酸を抽出する技術や、ハイブリダイゼーションにより特定の核酸の配列を蛍光により計測する技術が開発されている。
【0026】
このような迅速測定の方法の1つとして、メンブレンフィルターにより微生物を捕集し、捕集した微生物が含まれる液体から核酸を抽出する技術がある。しかし、メンブレンフィルターに捕集された微生物からの核酸抽出では、計測に十分な量の核酸が抽出できず、微生物の検出ができない問題がある。このため、メンブレンフィルターにより捕集した微生物を培養により増やし、増えた微生物が含まれる液体から核酸を抽出して検査する技術が望まれている。
【0027】
ここで、上記特許文献1に開示されている培養容器は、寒天培地などの固体の培地を用いる培養に関するものである。そのため、この培養容器を用いてメンブレンフィルターにより捕集した微生物を液体にて培養することは出来ず、前述のような微生物が含まれる液体から核酸を抽出して検査を行うことができなかった。また、伝統的に培養に用いられるシャーレを用いて、メンブレンフィルターにより捕集した微生物を液体にて培養を行う場合、シャーレの開口が大きく、シャーレを移動させるなどの操作を行う際に、培養に用いる液体がこぼれやすく、操作しにくいという問題があった。
【0028】
また、微生物を液体にて培養を行う場合、微生物の培養状態が均一であることを保証するために、微生物が捕集されたメンブレンフィルターが液中に確実に沈んでいることを保証することが望ましい。しかしながら、伝統的に培養に用いられるシャーレを用いて、メンブレンフィルターにより捕集した微生物を液体にて培養を行う場合、メンブレンフィルターの少なくとも1部がシャーレの中で浮いてしまい、確実にメンブレンフィルターが培養液中に沈んでいることを保証することが難しかった。
【0029】
また、一方で確実にメンブレンフィルターが培養液中に沈んでいることを保証するためには、シャーレの中に入れる培養液を増やす必要がある。しかしながら培養液を増やしてしまうと、培養によって増えた微生物の量は、主として培養時間により決まり、同じ培養時間が経過した後の培養液に含まれる微生物の量は変わらないため、培養液に含まれる微生物の濃度は低下してしまうこととなる。すなわち、培養液を増やしてしまうと、同じ培養時間では液中に含まれる微生物の濃度は低くなるため、前述の検査にて微生物を検知することができない濃度の微生物量となる場合が生じ、微生物の検査に問題が生じる問題があった。また逆に検知可能な微生物の濃度まで培養を行うと、培養時間が長くなる問題があった。
【0030】
このような課題に対して、本発明の一実施形態に係る培養容器、微生物培養システム、及び核酸分析システムは、スリット状に開口する開口部を有し、当該開口部からシート状の対象物を縦に収容する容器本体を備える。これにより、容器本体の内容積を拡大することなく収容空間を深くできるため、液体が零れ難く、操作が容易になる。また、容器本体に縦にシート状の対象物を収容することで、当該対象物が液面上に浮き難くなる。これにより、少ない液量でも対象物が液中に沈んでいることを保証できる。したがって、シート状の対象物を用いた液体培地において、効率的な培養が可能となる。
【0031】
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態に係る核酸分析システム1の概略図である。
図1に示すように、核酸分析システム1は、微生物回収システム2と、微生物培養システム3と、核酸抽出システム4と、ハイブリダイズ反応システム5と、検出システム6と、を備えている。
【0032】
微生物回収システム2は、サンプル200から、サンプル200に含まれている微生物(ウィルスや細菌や真菌など)を回収するシステムである。サンプル200は、例えば、飲料を対象とした検査であれば、製造した飲料や、当該飲料を製造するための水、または、当該飲料を製造する過程の液体などである。あるいは、サンプル200は、製造環境の微生物による汚染の有無、汚染度合いを検査するために、検査環境をふき取った綿棒などから微生物を回収した液体である場合もある。
【0033】
微生物は、例えば、回収した液体に加圧あるいは減圧を加えることで、後述するメンブレンフィルター100(シート状の対象物)で濾過して回収することができる。メンブレンフィルター100は、例えば、微生物を回収する場合には、孔径が0.22μm~0.45μmであるとよい。メンブレンフィルター100で微生物を回収した後は、当該メンブレンフィルター100を後述する培養容器10に収容すると共に、微生物が培養される培養液に浸し、微生物培養システム3にて微生物の培養を行う。
【0034】
微生物培養システム3は、後述する培養容器10を用いて、微生物の培養を行うシステムである。微生物の培養では、例えば、培養容器10を静置して培養する静置培養と、培養容器10を振盪させながら培養を行う振盪培養とがある。微生物が培養された培養液は、次工程(核酸抽出システム4)に移される。メンブレンフィルター100を入れた液体を振動させ、微生物が懸濁した液を次工程に移してもよい。
【0035】
核酸抽出システム4は、液中の細胞の膜構造を破壊(溶解)し、微生物の細胞の核酸を抽出するシステムである。なお、核酸を抽出したサンプル200に、抽出した核酸と反応する他の核酸が含まれた液体を混ぜてもよい。また、当該他の核酸は、後述する検出工程(検出システム6)にて検出するために、特定の条件で蛍光や発光や消光作用を有する部位が付与された核酸であってもよい。これらは核酸抽出システム4にて処理をする前のサンプル200に混ぜても良いし、核酸抽出システム4にて処理をした後のサンプル200に対して混ぜても良い。
【0036】
ハイブリダイズ反応システム5は、サンプル200中の核酸にハイブリダイズ反応をさせるシステムである。なお、この工程にて、サンプル200は、例えば60℃に加熱されると共に撹拌されることにより、上述の他の核酸と合致するハイブリダイズ反応を行う。この反応にて、例えば、上述の他の核酸に付与した特定の条件で蛍光や発光や消光作用を有する部位が、サンプル200中の核酸と反応することで、蛍光や発光や消光作用が発現する。
【0037】
なお、上述の他の核酸の構造を、特定の核酸と反応するように設計することにより、例えば、サンプル200中の特定の微生物が持つ核酸とのみ反応させることができる。つまり、ハイブリダイズ反応システム5の処理では、当該特定の核酸と反応する他の核酸を用いることにより、サンプル200の中に特定の微生物が含まれている時のみ、他の核酸に付与した蛍光や発光や消光作用を発現するようにすることができる。
【0038】
検出システム6は、ハイブリダイズ反応システム5で処理したサンプル200において発現した蛍光や発光や消光作用の有無、その程度などを検出する。検出システム6は、例えば、サンプル200の核酸で発現した蛍光作用を、励起レーザー光にて励起し、励起後の蛍光を高感度カメラにて検出する。
【0039】
あるいは、検出システム6は、サンプル200の核酸で発現した発光作用を、高感度カメラにて検出する。あるいは、検出システム6は、サンプル200の核酸で発現した消光作用を、消光作用を付与した部位の近傍に付与した蛍光や発光が消光される程度を高感度カメラにて検出する。この検出方法に関しては、例えば、特開2020-74726号公報に記載されているような方法を採用してもよい。
【0040】
核酸分析システム1は、上述のような一連のシステムを用いることにより、サンプル200の中に特定の微生物(ウィルスや細菌や真菌など)が含まれているか、またはその濃度を分析する。
【0041】
図2は、第1実施形態に係る培養容器10の側面図である。
図3は、
図2に示す矢視III-III断面図である。
図4は、第1実施形態に係る培養容器10の平面図である。
これらの図に示すように、培養容器10は、スリット状に開口する開口部11aを有し、開口部11aから円形のメンブレンフィルター100を縦に収容する容器本体11を備える。
【0042】
なお、「スリット状」とは、長方形のみならず、略長方形を含む。略長方形には、長方形の一部(例えば角部等)が円弧状、テーパー状等になったものを含み、また部分的に凹凸が形成されても全体としてスリットとみなせるものを含む。以下同様に、「~状」とは、上記と同じ広い意味で使用する。
【0043】
図2に示すように、開口部11aの長手方向の一端部には、傾斜を有する注ぎ口11bが形成されている。以下、培養容器10において、注ぎ口11bが形成される側を「前」、注ぎ口11bと反対側を「後」として、前後左右上下を規定する。なお、注ぎ口11bは、開口部11aの長手方向の両端部に形成されていてもよい。その場合、2つの注ぎ口11bのうち、一方の注ぎ口11bが形成される側を「前」、他方の注ぎ口11bが形成される側を「後」として、前後左右上下を規定する。
【0044】
容器本体11は、例えば、射出成形や、真空成形、圧空成形などで樹脂成形することができる。また、容器本体11は、例えば透明、半透明の樹脂で形成することができる。容器本体11を透明、半透明にすることで、内部のメンブレンフィルター100や、培養液を確認することができる。
容器本体11は、
図3に示すように、開口部11aの短手方向(左右方向)で隣接する一対の側壁部20を備える。一対の側壁部20の下部は、
図2に示すように、円弧状に湾曲している。本実施形態では、メンブレンフィルター100が円形であるため、一対の側壁部20の下部が半円状に湾曲している。
【0045】
一対の側壁部20の上部は、下部の円弧状に連続する矩形状に形成されると共に、当該下部の上下方向の寸法よりも上下方向に長く形成されている。本実施形態では、一対の側壁部20の上部の上下方向の寸法は、メンブレンフィルター100の半径以上の寸法を有する。つまり、一対の側壁部20の上部は、縦置きのメンブレンフィルター100の上端より高い位置まで延在している。
【0046】
一対の側壁部20の外表面には、液量目盛12が設けられている。液量目盛12は、少なくとも縦置きのメンブレンフィルター100の上端より高い位置に1つあればよい。液量目盛12まで培養液を注ぐことで、メンブレンフィルター100を確実に液中に沈めることができる。液量目盛12は、容器本体11に印刷により形成してもよいし、容器本体11の外表面に凹凸を設けて形成してもよい。
【0047】
図3に示すように、一対の側壁部20は、互いの対向面の間隔が、容器本体11の底部11cから開口部11aに向かうに従って徐々に広がっている。一対の側壁部20は、第1対向面21と、第2対向面22と、を備えている。第1対向面21は、容器本体11の底部11cからメンブレンフィルター100より上方まで延在している。第1対向面21は、メンブレンフィルター100を縦に収容可能な狭隘空間を形成している。
【0048】
第2対向面22は、第1対向面21の上端に連設され、第1対向面21の傾斜よりも水平面に対する傾斜が緩くなり、左右方向両側に広がっている。第2対向面22は、メンブレンフィルター100より上方において、開口部11aの短手方向の幅を広げることで、メンブレンフィルター100を容器本体11内に挿入し易くしている。
【0049】
一対の側壁部20の周縁部は、
図2に示すように、注ぎ口11bを含む開口部11a以外の部分が、前壁部30と後壁部40によって接続されている。前壁部30は、
図4に示すように、湾曲面31と、傾斜面32と、を有する。傾斜面32は、注ぎ口11bの下端から下方に向かって傾斜している。傾斜面32は、後壁部40と前後方向(開口部11aの長手方向)で対向している。湾曲面31は、傾斜面32の下端から容器本体11内の最下端まで延在している。湾曲面31は、容器本体11の円弧状の底部11c(
図2参照)の前側部分を形成している。
【0050】
後壁部40も、
図4に示すように、湾曲面41と、傾斜面42と、を有する。傾斜面42は、後壁部40の上端から下方に向かって傾斜している。傾斜面42は、前壁部30の傾斜面32と前後方向(開口部11aの長手方向)で対向している。湾曲面41は、傾斜面42の下端から容器本体11内の最下端まで延在している。湾曲面41は、前壁部30の湾曲面31と前後方向(開口部11aの長手方向)で対向すると共に、容器本体11の円弧状の底部11c(
図2参照)の後側部分を形成している。
【0051】
このように、本実施形態の培養容器10は、スリット状に開口する開口部11aを有し、開口部11aからメンブレンフィルター100(シート状の対象物)を縦に収容する容器本体11を備える。この構成によれば、
図3に示すように、容器本体11の内容積を拡大することなく収容空間を深くできるため、培養液が零れ難く、操作が容易になる。また、容器本体11に縦にメンブレンフィルター100を収容することで、メンブレンフィルター100が液面上に浮き難くなる。これにより、少ない液量でもメンブレンフィルター100が液中に沈んでいることを保証できる。したがって、メンブレンフィルター100を用いた液体培地において、効率的な培養が可能となる。
【0052】
また、本実施形態において、容器本体11は、開口部11aの短手方向に隣接する一対の側壁部20を備え、一対の側壁部20の下部は、
図2に示すように、円弧状に湾曲している。この構成によれば、容器本体11内のデッドスペースを削減し、少ない液量でもメンブレンフィルター100を液中に沈めることができる。
【0053】
また、本実施形態において、一対の側壁部20の上部は、下部の円弧状に連続する矩形状に形成されると共に、当該下部の上下方向の寸法よりも上下方向に長く形成されている。この構成によれば、メンブレンフィルター100を折るなど変形させることなく、容器本体11の開口部11aから底部11cまで挿入することができる。
【0054】
また、本実施形態において、一対の側壁部20の対向面の間隔が、
図3に示すように、容器本体11の底部11cから開口部11aに向かうに従って広がっている。この構成によれば、容器本体11にメンブレンフィルター100を、より収容し易くなる。また、容器本体11を射出成形や、真空成形、圧空成形などで形成する場合、金型から離型されやすくなり形状の形成が容易となる。
【0055】
また、本実施形態において、
図2及び
図4に示すように、開口部11aの少なくとも一部に、傾斜を有する注ぎ口11bが形成されている。この構成によれば、微生物の培養後の培養液を容易に別の容器に移しかえることが可能となり、簡便に次の工程に進めることが可能となる。
【0056】
上述したように、本実施形態によれば、液体が零れ難く、操作が容易で、シート状の対象物が容器本体11内で液中に沈んでいることを保証できる培養容器10、及びその培養容器10を用いた微生物培養システム、及び核酸分析システムを提供できる。
【0057】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
【0058】
図5は、第2実施形態に係る培養容器10の部分破断側面図である。
図6は、
図5に示す矢視VI-VI断面図である。
図7は、第2実施形態に係る培養容器10の平面図である。
これらの図に示すように、第2実施形態の培養容器10は、開口部11aの少なくとも一部を覆う蓋部50を有する。
【0059】
蓋部50は、有頂筒状に形成されている。蓋部50は、頂壁部51と、周壁部52と、を備えている。頂壁部51は、容器本体11の注ぎ口11bを含む開口部11aの全域を覆っている。頂壁部51は、
図7に示す平面視で、前側(注ぎ口11b側)が凸となった直角五角形状を有する。
【0060】
周壁部52は、
図6に示すように、頂壁部51の周縁部から下方に向けて垂設され、容器本体11の開口部11aを側方から囲っている。周壁部52の内側には、封止部60をさらに設けてもよい。封止部60は、蓋部50と容器本体11との隙間を封止する。封止部60は、例えば、可撓性のゴムやエラストマー等を用いることができる。あるいは容器本体11と蓋部50との嵌め合いにより封止する構造としてもよい。
【0061】
このように、第2実施形態の培養容器10は、開口部11aの少なくとも一部を覆う蓋部50を有する。この構成によれば、例えば、振盪培養をする場合に、容器本体11内の培養液が蓋部50により外部に漏れ出ることを防止できる。また、開口部11aを閉塞していることで、空中に浮遊している微生物や異物等が容器本体11内に落下することによるコンタミネーションを防止できる。
【0062】
また、本実施形態において、蓋部50と容器本体11との隙間を封止する封止部60を有する。この構成によれば、培養液の漏れ及び浮遊物のコンタミネーションを確実に防止できる。なお、静置培養の場合には、培養液の漏れの可能性が少ないため、封止部60は無くてもよい。
【0063】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
【0064】
図8は、第3実施形態に係る培養容器10の平面図である。
図9は、
図8に示す矢視IX-IX断面図である。
図10は、第3実施形態に係る培養容器10の部分破断側面図である。
これらの図に示すように、第3実施形態の培養容器10は、容器本体11が、連結部70を介して複数連結されている。
【0065】
連結部70は、
図8に示すように、容器本体11同士を左右方向(短手方向)に連結している。第3実施形態では、
図9に示すように、容器本体11の開口部11aの開口縁にフランジ部11dが形成されており、連結部70は、フランジ部11dを介して容器本体11同士を連結させている。なお、連結部70は、一対の側壁部20のいずれか一方から、他の容器本体11の側壁部20に直接連結されていても構わない。このような連結部70は、容器本体11と一体成形することができる。
【0066】
連結部70は、破断可能な弱化部を有する構成としても良い。本実施形態の弱化部は、
図8に示すように、容器本体11の間を接続する複数の細い柱状部からなる。これにより、連結部70を破断し、個々の容器本体11に分離できる。なお、弱化部としては、例えば、フランジ部11d同士が接続される場合、フランジ部11dにミシン目状に穴を設け、他の部分より剛性を弱くする構成としても良いし、また、フランジ部11dの一部を望ましくは直線あるいは曲線状に他のフランジ部より左右方向の幅ないし上下方向の厚みの薄い部分を形成することで弱くする構成としてもよい。
【0067】
第3実施形態の蓋部50は、例えば、可撓性のフィルムで形成されている。このフィルム(蓋部50)は、粘着剤からなる封止部60によって、容器本体11のフランジ部11dに対し着脱可能とされている。なお、蓋部50は、通気性を有する構成としてもよい。例えば、蓋部50が、酸素透過フィルムなどであると、培養を行う微生物が好気性の微生物である場合、微生物の培養を促進することが可能となる。
【0068】
このように、第3実施形態の培養容器10は、容器本体11が、連結部70を介して複数連結されている。この構成によれば、微生物の検査において複数の検査を同時に行う場合であっても、複数の検査を集約して行うことが可能となり、培養容器10の管理及び操作が煩雑にならずに済む。
【0069】
また、第3実施形態において、連結部70は、破断可能な弱化部を有する。この構成によれば、連結された容器本体11を目的に応じて個別に分離して、培養、検査することができるため、操作性が向上する。
【0070】
また、第3実施形態において、蓋部50が、フィルムであり、封止部60が、フィルムを着脱可能な粘着剤である。この構成によれば、蓋部50がフィルムであるため、簡便に容器本体11の開口部11aを開閉することが可能となる。また、蓋部50と連結部70との干渉を避けて、簡便に蓋部50を配置することができる。
【0071】
また、第3実施形態において、蓋部50が、通気性を有する。なお、第2実施形態及び後述する第5実施形態においても、蓋部50は、通気性を有してもよい。例えば、蓋部50が、酸素透過フィルムなどであると、培養を行う微生物が好気性の微生物である場合、微生物の培養を促進することが可能となる。
なお、蓋部50が、通気性を有さなくてもよい。例えば、培養を行う微生物が嫌気性の微生物である場合、培養容器10外からの酸素などの流入を阻止することが可能となり、嫌気性の微生物の培養を促進することが可能となる。
【0072】
〔第4実施形態〕
次に、本発明の第4実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
【0073】
図11は、第4実施形態に係る培養容器10の側面図である。
図12は、
図11に示す矢視XII-XII断面図である。
これらの図に示すように、第4実施形態の培養容器10は、一対の側壁部20に、容器本体11の内側に突出する突出部80が形成されている。
【0074】
突出部80は、
図11に示すように、一対の側壁部20の外表面に形成された凹部である。突出部80は、上下方向に間隔をあけて複数形成されると共に、上述した液量目盛12を形成している。突出部80は、メンブレンフィルター100の中心位置を通るように、上下方向に列を成している。
【0075】
突出部80は、
図12に示すように、容器本体11内では凸部となり、一対の側壁部20の第1対向面21の間隔を部分的に狭めている。なお、一対の側壁部20のうち、一方に設けられた突出部80は、他方に設けられた突出部80と上下方向の位置が一致しているが、上下方向の位置が互い違いになっていてもよい。
【0076】
このように、第4実施形態の培養容器10において、一対の側壁部20には、容器本体11の内側に突出する突出部80が形成されている。この構成によれば、突出部80によって、一対の側壁部20の第1対向面21へのメンブレンフィルター100の貼り付きを抑制し、メンブレンフィルター100の表面に支持された微生物に培養液を供給し易くなる。
【0077】
〔第5実施形態〕
次に、本発明の第5実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
【0078】
図13は、第5実施形態に係る培養容器10の分解斜視図である。
図14は、第5実施形態に係る容器本体11の側面図である。
図15は、
図14に示す矢視XV-XV断面図である。
図16は、第5実施形態に係る容器本体11の平面図である。
これらの図に示すように、第5実施形態の培養容器10は、一対の側壁部20に、開口部11aを部分的に短手方向に広げる逆さ円錐状の膨出部90が形成されている。
【0079】
膨出部90は、一対の側壁部20の外表面に形成された凸部である。膨出部90は、一対の側壁部20の上端から容器本体11の最下端に向かって形成されている。膨出部90は、容器本体11内では凹部となり、
図16に示すように、開口部11aの長手方向の中央部を部分的に短手方向に広げる拡径部11eを形成している。
【0080】
拡径部11eは、平面視円形状を呈し、
図15及び
図16に示すように、容器本体11の最下端に向かうに従ってその開口面積が小さくなっている。なお、蓋部50には、
図13に示すように、膨出部90を収容する筒状の収容筒部52bが形成されている。
【0081】
このように、第5実施形態の培養容器10において、一対の側壁部20には、開口部11aを部分的に短手方向に広げる逆さ円錐状の膨出部90が形成されている。この構成によれば、一対の側壁部20の第1対向面21の間隔が狭い場合であっても、膨出部90による拡径部11eを介して、ピペットやスポイト等を容器本体11内に挿入することができる。培養後の微生物は、メンブレンフィルター100を離れ、また培養液中に浮遊する場合には、重力による沈降により、容器本体11の下部に濃く溜まる場合がある。その場合であっても、ピペットやスポイトの先端を容器本体11の下部まで挿し入れ、容器本体11の下部の培養液を捕集することができる。また、拡径部11eによって、ピペットやスポイトを、容器本体11の任意の高さ位置から培養液を捕集することが可能となる。
【0082】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0083】
例えば、容器本体11及び蓋部50を適度な可撓性を有する材料で構成し、容器本体11及び蓋部50にそれぞれが嵌合するように凹凸部を形成し、凹凸の勘合により封止を行う構成としてもよい。このような構成とすることにより、粘着剤など容器本体11や蓋部50とは異なる材料を使用する必要がなくなり、粘着剤などの異物質からの溶出化学物質が培養液に流入することを防止することが可能となる。
【0084】
また、例えば、上記実施形態では、シート状の対象物として、メンブレンフィルター100を例示したが、当該構成に限定されるものではなく、微生物を支持して培養できるものであれば、紙体、板体、帯状体、フィルム体、シート体、その他のシート状の物体であればよい。
【符号の説明】
【0085】
1 核酸分析システム
2 微生物回収システム
3 微生物培養システム
4 核酸抽出システム
5 ハイブリダイズ反応システム
6 検出システム
10 培養容器
11 容器本体
11a 開口部
11b 注ぎ口
11c 底部
11d フランジ部
11e 拡径部
12 液量目盛
20 側壁部
21 第1対向面
22 第2対向面
30 前壁部
31 湾曲面
32 傾斜面
40 後壁部
41 湾曲面
42 傾斜面
50 蓋部
51 頂壁部
52 周壁部
52b 収容筒部
60 封止部
70 連結部
80 突出部
90 膨出部
100 メンブレンフィルター
200 サンプル