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特開2024-67733量子鍵配送システム、量子鍵配送方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067733
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】量子鍵配送システム、量子鍵配送方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/70 20130101AFI20240510BHJP
   H04L 9/12 20060101ALI20240510BHJP
   H04J 14/06 20060101ALI20240510BHJP
   H04B 10/61 20130101ALI20240510BHJP
【FI】
H04B10/70
H04L9/12
H04J14/06
H04B10/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178041
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100181135
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 隆史
(72)【発明者】
【氏名】川上 哲生
(72)【発明者】
【氏名】安田 和佳子
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AA61
5K102AA63
5K102AB11
5K102AD15
5K102AH02
5K102AH14
5K102AH27
5K102AH31
5K102MA01
5K102MB09
5K102MC11
5K102PA01
5K102PB01
5K102PH01
5K102PH22
5K102PH31
5K102PH42
5K102PH49
5K102RD04
5K102RD26
5K102RD28
(57)【要約】
【課題】連続量量子鍵配送において、量子光の送信側と受信側とでクロックタイミングを同期させるためのクロック抽出用信号の通信を、比較的効率よく行えるようにする。
【解決手段】第1の送信装置が、送信対象のビット列を示す第1の乱数列と、送信対象のビット列の位相変調における基底を示す第2の乱数列とに基づいて、送信光における直行する2つの偏波成分のうち第1の偏波成分を位相変調し、もう一方の偏波成分である第2の偏波成分を、第2の乱数列を示す信号に変調し、光強度を減衰された第1の偏波成分と、変調された第2の偏波成分とを偏波多重し送信する。第2の送信装置は、受信光を偏波分離し、第2の乱数列を示す信号からクロックタイミングを抽出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のチャネル、および、前記第1のチャネルよりも信頼性の高い第2のチャネルにより通信接続される第1の通信装置と第2の通信装置とを備え、
前記第1の通信装置は、
送信対象のビット列を示す第1の乱数列と、前記送信対象のビット列の位相変調における基底を示す第2の乱数列とに基づいて、送信光における直行する2つの偏波成分のうち第1の偏波成分を位相変調し、もう一方の偏波成分である第2の偏波成分を、前記第2の乱数列を示す信号に変調するDP-QPSK(Dual Polarization Quadrature Phase Shift Keying)変調装置と、
変調された前記第1の偏波成分の光強度を減衰させる光強度減衰器と、
光強度を減衰された前記第1の偏波成分と、変調された前記第2の偏波成分とを偏波多重し、得られた信号光を前記第1のチャネルに出力する偏波ビームスプリッタと、
を備え、
前記第2の通信装置は、
送信された信号光を偏波分離することで、微弱光と直交した成分に符号された前記第2の乱数列の読み出しと前記微弱光の受信のためのクロックタイミング抽出とを行う偏波ビームスプリッタと、
コヒーレント検波のための局所光源と、
偏波分離された成分のうち前記微弱光の成分と局所光と干渉させて直交位相成分を読み出す90°ハイブリッドと、
読み出された直交位相成分を電気信号に変換するフォトディテクタと、
前記偏波ビームスプリッタが抽出したクロックタイミングをもとに、前記電気信号から前記第1の乱数列を読み出し量子生鍵を生成する信号処理手段と、
生成された前記量子生鍵と前記第2の乱数列とをもとに、前記第1の通信装置と前記第2の通信装置との間における前記第2のチャネルでの通信を用いた基底照合の処理を行い選別鍵を生成する基底照合手段と、
生成された前記選別鍵に対して、第1の通信装置と第2の通信装置の間における前記第2のチャネルでの通信を用いた誤り訂正を行う誤り訂正手段と、
誤り訂正後の前記選別鍵に対し、第1の通信装置と第2の通信装置の間における前記第2のチャネルでの通信を用いた秘匿性増強を行うことで量子鍵を生成する秘匿性増強手段と、
を備える、
量子鍵配送システム。
【請求項2】
前記第1の通信装置は、前記第2の乱数列を示す信号光を遅延させるディレイを備え、
前記DP-QPSK変調装置は、前記遅延された信号光をDP-QPSK変調する、
請求項1に記載の量子鍵配送システム。
【請求項3】
第1のチャネル、および、前記第1のチャネルよりも信頼性の高い第2のチャネルにより通信接続される第1の通信装置と第2の通信装置とを備える量子鍵配送システムの、
前記第1の通信装置が、
送信対象のビット列を示す第1の乱数列と、前記送信対象のビット列の位相変調における基底を示す第2の乱数列とに基づいて、送信光における直行する2つの偏波成分のうち第1の偏波成分を位相変調し、もう一方の偏波成分である第2の偏波成分を、前記第2の乱数列を示す信号に変調し、
変調された前記第1の偏波成分の光強度を減衰させ、
光強度を減衰された前記第1の偏波成分と、変調された前記第2の偏波成分とを偏波多重し、得られた信号光を前記第1のチャネルに出力し、
前記第2の通信装置は、
送信された信号光を偏波分離することで、微弱光と直交した成分に符号された前記第2の乱数列の読み出しと前記微弱光の受信のためのクロックタイミング抽出とを行い、
コヒーレント検波のための局所光を出力し、
偏波分離された成分のうち前記微弱光の成分と局所光と干渉させて直交位相成分を読み出し、
読み出された直交位相成分を電気信号に変換し、
抽出したクロックタイミングをもとに、前記電気信号から前記第1の乱数列を読み出し量子生鍵を生成し、
生成された前記量子生鍵と前記第2の乱数列とをもとに、前記第1の通信装置と前記第2の通信装置との間における前記第2のチャネルでの通信を用いた基底照合の処理を行い選別鍵を生成し、
生成された前記選別鍵に対して、第1の通信装置と第2の通信装置の間における前記第2のチャネルでの通信を用いた誤り訂正を行い、
誤り訂正後の前記選別鍵に対し、第1の通信装置と第2の通信装置の間における前記第2のチャネルでの通信を用いた秘匿性増強を行うことで量子鍵を生成する、
ことを含む量子鍵配送方法。
【請求項4】
第1のチャネル、および、前記第1のチャネルよりも信頼性の高い第2のチャネルにより通信接続される第1の通信装置と第2の通信装置とを備える量子鍵配送システムの、
前記第1の通信装置を制御するコンピュータに、
送信対象のビット列を示す第1の乱数列と、前記送信対象のビット列の位相変調における基底を示す第2の乱数列とに基づいて、送信光における直行する2つの偏波成分のうち第1の偏波成分を位相変調し、もう一方の偏波成分である第2の偏波成分を、前記第2の乱数列を示す信号に変調することと、
変調された前記第1の偏波成分の光強度を減衰させることと、
光強度を減衰された前記第1の偏波成分と、変調された前記第2の偏波成分とを偏波多重し、得られた信号光を前記第1のチャネルに出力することと、
を実行させ、
前記第2の通信装置を制御するコンピュータに、
送信された信号光を偏波分離することで、微弱光と直交した成分に符号された前記第2の乱数列の読み出しと前記微弱光の受信のためのクロックタイミング抽出とを行い、
コヒーレント検波のための局所光を出力することと、
偏波分離された成分のうち微弱光の成分と局所光と干渉させて直交位相成分を読み出すことと、
読み出された直交位相成分を電気信号に変換することと、
抽出したクロックタイミングをもとに、前記電気信号から前記第1の乱数列を読み出し量子生鍵を生成することと、
生成された前記量子生鍵と前記第2の乱数列とをもとに、前記第1の通信装置と前記第2の通信装置との間における前記第2のチャネルでの通信を用いた基底照合の処理を行い選別鍵を生成することと、
生成された前記選別鍵に対して、第1の通信装置と第2の通信装置の間における前記第2のチャネルでの通信を用いた誤り訂正を行うことと、
誤り訂正後の前記選別鍵に対し、第1の通信装置と第2の通信装置の間における前記第2のチャネルでの通信を用いた秘匿性増強を行うことで量子鍵を生成することと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子鍵配送システム、量子鍵配送方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
量子鍵配送(Quantum Key Distribution;QKD)の1つに、連続量量子鍵配送(Continuous-Variable Quantum Key Distribution;CV-QKD)がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2019-522394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
連続量量子鍵配送において、量子光の送信側と受信側とでクロックタイミングを同期させる必要がある。その際、量子光の強度は非常に微弱であるため、送信側と受信側とでクロックタイミングを精度よく合わせるためには量子光とは異なる強い強度のクロック抽出用信号が必要である。このクロック抽出用信号の通信を効率よく行えることが好ましい。
【0005】
本発明の目的の一例は、上述の課題を解決することのできる量子鍵配送システム、量子鍵配送方法およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、量子鍵配送システムは、第1のチャネル、および、前記第1のチャネルよりも信頼性の高い第2のチャネルにより通信接続される第1の通信装置と第2の通信装置とを備え、前記第1の通信装置は、送信対象のビット列を示す第1の乱数列と、前記送信対象のビット列の位相変調における基底を示す第2の乱数列とに基づいて、送信光における直行する2つの偏波成分のうち第1の偏波成分を位相変調し、もう一方の偏波成分である第2の偏波成分を、前記第2の乱数列を示す信号に変調するDP-QPSK(Dual Polarization Quadrature Phase Shift Keying)変調装置と、変調された前記第1の偏波成分の光強度を減衰させる光強度減衰器と、光強度を減衰された前記第1の偏波成分と、変調された前記第2の偏波成分とを偏波多重し、得られた信号光を前記第1のチャネルに出力する偏波ビームスプリッタと、を備え、前記第2の通信装置は、送信された信号光を偏波分離することで、微弱光と直交した成分に符号された前記第2の乱数列の読み出しと前記微弱光の受信のためのクロックタイミング抽出とを行う偏波ビームスプリッタと、コヒーレント検波のための局所光源と、偏波分離された成分のうち前記微弱光の成分と局所光と干渉させて直交位相成分を読み出す90°ハイブリッドと、読み出された直交位相成分を電気信号に変換するフォトディテクタと、前記偏波ビームスプリッタが抽出したクロックタイミングをもとに、前記電気信号から前記第1の乱数列を読み出し量子生鍵を生成する信号処理手段と、生成された前記量子生鍵と前記第2の乱数列とをもとに、前記第1の通信装置と前記第2の通信装置との間における前記第2のチャネルでの通信を用いた基底照合の処理を行い選別鍵を生成する基底照合手段と、生成された前記選別鍵に対して、第1の通信装置と第2の通信装置の間における前記第2のチャネルでの通信を用いた誤り訂正を行う誤り訂正手段と、誤り訂正後の前記選別鍵に対し、第1の通信装置と第2の通信装置の間における前記第2のチャネルでの通信を用いた秘匿性増強を行うことで量子鍵を生成する秘匿性増強手段と、を備える。
【0007】
本発明の第2の態様によれば、量子鍵配送方法は、第1のチャネル、および、前記第1のチャネルよりも信頼性の高い第2のチャネルにより通信接続される第1の通信装置と第2の通信装置とを備える量子鍵配送システムの、前記第1の通信装置が、送信対象のビット列を示す第1の乱数列と、前記送信対象のビット列の位相変調における基底を示す第2の乱数列とに基づいて、送信光における直行する2つの偏波成分のうち第1の偏波成分を位相変調し、もう一方の偏波成分である第2の偏波成分を、前記第2の乱数列を示す信号に変調し、変調された前記第1の偏波成分の光強度を減衰させ、光強度を減衰された前記第1の偏波成分と、変調された前記第2の偏波成分とを偏波多重し、得られた信号光を前記第1のチャネルに出力し、前記第2の通信装置は、送信された信号光を偏波分離することで、微弱光と直交した成分に符号された前記第2の乱数列の読み出しと前記微弱光の受信のためのクロックタイミング抽出とを行い、コヒーレント検波のための局所光を出力し、偏波分離された成分のうち前記微弱光の成分と局所光と干渉させて直交位相成分を読み出し、読み出された直交位相成分を電気信号に変換し、抽出したクロックタイミングをもとに、前記電気信号から前記第1の乱数列を読み出し量子生鍵を生成し、生成された前記量子生鍵と前記第2の乱数列とをもとに、前記第1の通信装置と前記第2の通信装置との間における前記第2のチャネルでの通信を用いた基底照合の処理を行い選別鍵を生成し、生成された前記選別鍵に対して、第1の通信装置と第2の通信装置の間における前記第2のチャネルでの通信を用いた誤り訂正を行い、誤り訂正後の前記選別鍵に対し、第1の通信装置と第2の通信装置の間における前記第2のチャネルでの通信を用いた秘匿性増強を行うことで量子鍵を生成する、ことを含む。
【0008】
本発明の第3の態様によれば、プログラムは、第1のチャネル、および、前記第1のチャネルよりも信頼性の高い第2のチャネルにより通信接続される第1の通信装置と第2の通信装置とを備える量子鍵配送システムの、前記第1の通信装置を制御するコンピュータに、送信対象のビット列を示す第1の乱数列と、前記送信対象のビット列の位相変調における基底を示す第2の乱数列とに基づいて、送信光における直行する2つの偏波成分のうち第1の偏波成分を位相変調し、もう一方の偏波成分である第2の偏波成分を、前記第2の乱数列を示す信号に変調することと、変調された前記第1の偏波成分の光強度を減衰させることと、光強度を減衰された前記第1の偏波成分と、変調された前記第2の偏波成分とを偏波多重し、得られた信号光を前記第1のチャネルに出力することと、を実行させ、前記第2の通信装置を制御するコンピュータに、送信された信号光を偏波分離することで、微弱光と直交した成分に符号された前記第2の乱数列の読み出しと前記微弱光の受信のためのクロックタイミング抽出とを行い、コヒーレント検波のための局所光を出力することと、偏波分離された成分のうち前記微弱光の成分と局所光と干渉させて直交位相成分を読み出すことと、読み出された直交位相成分を電気信号に変換することと、抽出したクロックタイミングをもとに、前記電気信号から前記第1の乱数列を読み出し量子生鍵を生成することと、生成された前記量子生鍵と前記第2の乱数列とをもとに、前記第1の通信装置と前記第2の通信装置との間における前記第2のチャネルでの通信を用いた基底照合の処理を行い選別鍵を生成することと、生成された前記選別鍵に対して、第1の通信装置と第2の通信装置の間における前記第2のチャネルでの通信を用いた誤り訂正を行うことと、誤り訂正後の前記選別鍵に対し、第1の通信装置と第2の通信装置の間における前記第2のチャネルでの通信を用いた秘匿性増強を行うことで量子鍵を生成することと、を実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、連続量量子鍵配送において、量子光の送信側と受信側とでクロックタイミングを同期させるためのクロック抽出用信号の通信を、比較的効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る量子鍵配送システムの構成を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る量子鍵配送システム1が量子鍵配送を行う処理手順の例を示す図である。
図3】実施形態に係る量子ユニット100および量子ユニット200の構成を示すブロック図である。
図4】実施形態に係る位相変調器が光を変調する際の位相について説明するためのI-Q平面図である。
図5】実施形態に係る量子鍵配送システムの構成のもう1つの例を示す図である。
図6】実施形態に係る量子鍵配送方法における処理の手順の例を示す図である。
図7】少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
図1は、実施形態に係る量子鍵配送システムの構成を示すブロック図である。図1において、量子鍵配送システム1は送信機10および受信機20を備える。送信機10は、量子ユニット100と、鍵生成制御部110と、メモリ120と、基底照合部130と、誤り訂正部140と、秘匿性増強部150と、ディレイ(Delay)160と、乱数生成器1000とを備える。受信機20は、量子ユニット200と、鍵生成制御部210と、メモリ220と、基底照合部230と、誤り訂正部240と、秘匿性増強部250とを備える。
【0012】
送信機10と受信機20とは、量子チャネル30および古典チャネル40により通信接続されている。ここで、量子チャネルは送信機10から受信機20へ送信する微弱光を送受信する通信チャネルである。ここでいう微弱光は、例えば、光パワーが1フォトン/ビット(photon/bit)以下程度で量子的に振る舞う光である。量子チャネル30は、例えば光ファイバを用いて構成される。量子チャネル30は、第1のチャネルの例に該当する。
【0013】
なお、送信機10の「送信」との表記、および、受信機20の「受信」との表記は、何れも説明の便宜上のものであり、受信機20から送信機10へデータの送信を行ってもよい。特に、受信機20は、古典チャネル40を用いて、量子鍵配送における処理を行うための情報を送信機10へ送信する。
送信機10は、第1の通信装置の例に該当する。受信機20は、第2の通信装置の例に該当する。
【0014】
古典チャネル40は、量子チャネル30よりも信頼性の高いチャネルである。通信チャネルの信頼性が高いとは、例えばビットエラーレート(Bit Error Rate;BER)が低いことである。
以下では、説明の便宜上、古典チャネル40として誤りのない通信チャネルを想定する。ここでいう誤りがないことは、誤り訂正によって全ての通信誤りを訂正可能であること、または、誤り検出によって全ての誤りを検出し再送できることであってもよい。古典チャネル40における通信方式は、特定の方式に限定されない。古典チャネル40は、第2のチャネルの例に該当する。
【0015】
量子鍵配送システム1は、量子鍵配送を行う。量子鍵配送では、暗号鍵の素となる乱数列を、量子光を用いて伝送する。これにより、送信機10と、受信機20とで、安全な鍵共有が可能となる。量子鍵配送システム1は、量子的なふるまいが確認できる程度に強度を下げた光を利用して量子鍵配送を行う。これにより、暗号鍵が漏洩しないことを量子力学的に保証することができ、高い秘匿性を実現することができる。
【0016】
図2は、量子鍵配送システム1が量子鍵配送を行う処理手順の例を示す図である。
図2では、量子鍵配送システム1が量子鍵配送を行う処理ステップとして、(1)微弱光伝送(光子伝送)、(2)基底照合、(3)誤り訂正、(4)秘匿性増強、の4つのステップが示されている。
【0017】
(1)微弱光伝送では、送信機10は、量子鍵の素となるビット値(2値)の乱数列を、量子チャネル30における光通信にて、DP-QPSK(Dual Polarization Quadrature Phase Shift Keying)変調方式で送信する。その際、送信機10は、量子鍵の素となるビットごとに、2つの基底のうち何れか一方をランダムに選択し、選択した基底を用いて信号光を変調して、量子鍵の素となるビット値を表現する。
【0018】
ここでいう基底は、変調においてデータの表現に用いられる状態のうち2つの状態の組み合わせである。基底の選択とは、複数の基底のうちの何れかを、変調に用いる基底として選択することである。後述するように、量子鍵配送システム1は、位相変調における0°の位相と180°の位相との組み合わせを1つの基底として用い、90°の位相と270°の位相との組み合わせをもう1つの基底として用いる。
【0019】
量子鍵配送システム1は、連続量量子鍵配送にて量子鍵の配送を行う。連続量量子鍵配送では、受信機は、コヒーレント検波により光電場の状態を測定して暗号鍵を生成する。コヒーレント検波では、信号光を局所光と干渉させることで空間的、時間的、波長的にフィルタリングして信号状態を読み出す。ここでの局所光として、受信機が備えるレーザ光源からのレーザ光が用いられる。この局所光を局発光とも称する。連続量量子鍵配送を、連続量QKDとも表記する。
【0020】
ここで、量子鍵配送の方式として、連続量QKDの他に、離散量QKD(離散量量子鍵配送)がある。離散量QKDでは、受信機は、光子検出器を用いて光子の有無から暗号鍵を生成する。連続量QKDは、一般的な光部品で実現可能であり、光子検出器を用いる離散量QKDと比較して低コストに実現できる。また、連続QKDでは、局所光を用いたフィルタリングにより一般通信光と伝送経路が共存するQKDを実現できる。
【0021】
コヒーレント検波では、光パワーの強い局所光を信号光と干渉させることにより、信号光は光増幅効果を得ることができる。このため、信号光のパワーが1フォトン/ビット以下の微弱な状態であっても、一般的なフォトディテクタ(Photo Ditector、光検出器)を使って検波することが可能となる。
【0022】
(2)基底照合では、受信機20は、伝送経路を通って伝わってきた微弱な量子光に符号(符号化)されている情報を、送信機10と受信機20とでクロックタイミングを同期させて読み出す。ここでいう、光または信号に情報を符号することは、光または信号を、その情報を示すように変調することである。
【0023】
受信機20は、送信機10が量子光に偏波多重して符号する、送信機10における基底選択情報を、送信機10からの光信号から読み出してメモリ220に保存する。そして、受信機20は、保存した基底選択情報もとに、検波結果をI軸もしくはQ軸に射影して0または1のビット値に変換する。これにより、受信機20は、検波結果より量子鍵の素となるビット値を取得する。受信機20は、検波結果からビット値を取得する際、検波した値に一定の閾値を設け、検波値の絶対値が閾値よりも小さいビットについては、ビット0かビット1か判断を誤る確率が大きいため、事後選択としてそのビットを破棄する。ここでは、ビットを破棄することは、そのビットを量子鍵に用いないことである。
【0024】
上記の(1)微弱光伝送で送信される量子光の強度は非常に微弱であり、(2)基底照合において送信者と受信者でクロックタイミングを精度よく合わせるためには量子光とは異なる強い強度のクロック抽出用信号が必要である。
【0025】
上記の(2)基底照合が完了したら、量子鍵配送システム1は、(3)誤り訂正と(4)秘匿性増強とを行う。(3)誤り訂正では、送信機10と受信機20とが、基底照合が完了したビットの一部を古典チャネル40にて公開して誤り率を計測し、計測した誤り率に応じてさらにビットの一部を公開して訂正に用いることで送受信者の間で同一のビット列を共有する。(4)秘匿性増強では、受信機20が、量子チャネル30における雑音と損失とを計測して、盗聴者がいると想定した場合に盗聴者の得られる最大の情報量を見積もり、盗聴者が得られる情報量がゼロになるようにビット列の一部をランダムに破棄する。これにより、送信機10と受信機20とは、盗聴されていないことが量子力学的に保証された乱数列を共有することができる。
【0026】
送信機10の乱数生成器1000は、2つの乱数列を、何れもビット列にて生成する。これら2つの乱数列のうち1つは、量子鍵の素となるビット列として用いられる。この乱数列を、第1の乱数列または第1のビット列とも称する。第1の乱数列のうち一部のビットを選択して得られるビット列が、量子鍵として用いられる。
【0027】
2つの乱数列のうち、もう1つは、第1の乱数列における各ビットを送信する際に選択すべき基底を示す。この乱数列を、第2の乱数列または第2のビット列とも称する。第2の乱数列は、量子鍵の素となるビット列の符号化に用いられた基底を示す情報といえる。このことから、第2の乱数列を基底情報とも称する。また、第2の乱数列は、送信機10が、量子鍵の素となるビット列の符号化の際に選択した基底を示す情報といえる。このことから、第2の乱数列を基底選択情報、または、送信機10における基底選択情報とも称する。
【0028】
量子ユニット100は、上記の(1)微弱光伝送における送信側の処理を行う。量子ユニット100は、乱数生成器1000が生成した鍵の素となる乱数列(第1の乱数列)と、基底選択情報となる乱数列(第2の乱数列)とを用いて微弱光を変調し、変調された微弱光を受信機20へ送信する。量子ユニット100は、鍵生成制御部110により制御に従って、微弱光の変調および受信機20への送信を行う。
【0029】
微弱光の変調において、量子ユニット100は、量子光にクロック抽出用信号として基底選択情報を偏波多重させる。その際、量子ユニット100は、乱数生成器1000が出力する基底情報(第2の乱数列)を、ディレイ160が時間遅延させたものを基底選択情報として偏波多重させる。
【0030】
基底情報を遅延させるのは盗聴を防ぐ目的である。受信機20が、量子光による符号を受信するタイミングよりも後に、その符号を復号するための基底選択情報が送信されるように、ディレイ160による時間遅延を設ける。
盗聴者が使用する受信機が送信機10からの量子光を受信する場合、量子光による符号を受信するよりも先に、その符号を復号するための基底選択情報を受信することができない。量子複製不可能定理より痕跡を残さず量子光を量子光の状態のまま保持することは不可能であり、盗聴者の受信機は2つの基底のうち何れかをランダムに選択してかすめ取った量子光による符号を復号することになる。この場合、盗聴者が使用する受信機は、2分の1の確率で、送信機10が用いた基底とは異なる基底を用いて復号を行うことになり正確に復号を行うことができない。また、異なる基底の測定によって量子状態が変化し、盗聴の検知が行えるため盗聴を行う事は不可能である。
【0031】
鍵生成制御部110は、送信機10の各部を制御して各種処理を行う。特に、鍵生成制御部110は、上記の量子ユニット100に加えて、基底照合部130、誤り訂正部140、および秘匿性増強部150を制御する。鍵生成制御部110は、たとえばCPU(Central Processig Unit、中央処理装置)等の、プログラム制御によるプロセッサ上に、ソフトウエアにより実装可能である。
【0032】
メモリ120は、各種データを記憶する。例えば、メモリ120は、乱数生成器1000が生成した乱数を格納する。この乱数は、量子鍵を生成する過程で鍵生成制御部110からアクセスされる。メモリ120は、送信機10が備える記憶デバイスを用いて実装可能である。
【0033】
基底照合部130は、上記の(2)基底照合に係る処理を行う。基底照合部130は、基底照合手段の例に該当する。基底照合部130が行う処理で得られる乱数列を、選別鍵とも称する。
誤り訂正部140は、上記(3)誤り訂正に係る処理を行う。誤り訂正部140は、誤り訂正手段の例に該当する。
秘匿性増強部150は、上記の(4)秘匿性増強に係る処理を行う。秘匿性増強部150は、秘匿性増強手段の例に該当する。秘匿性増強部150が出力する乱数列は、量子鍵として用いられる。
基底照合部130、誤り訂正部140、および秘匿性増強部150の機能、またはこれらのうち一部は、CPUまたはGPU(Graphics Processing Unit)がソフトウエアを実行することで実装されていてもよい。あるいは、基底照合部130、誤り訂正部140、および秘匿性増強部150、またはこれらのうち一部は、FPGA(Field Programmable Gate Array)またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハードウエアを用いて実装されていてもよい。
【0034】
受信機20は、量子ユニット200と、鍵生成制御部210と、メモリ220と、基底照合部230と、誤り訂正部240と、秘匿性増強部250とを備える。
受信機20の量子ユニット200は、上記の(1)微弱光伝送における受信側の処理を行う。量子ユニット200は、鍵生成制御部210により制御される。
【0035】
鍵生成制御部210は、受信機20の各部を制御して各種処理を行う。特に、鍵生成制御部210は、上記の量子ユニット200に加えて、基底照合部230、誤り訂正部240、および秘匿性増強部250を制御する。鍵生成制御部210は、たとえばCPU等の、プログラム制御によるプロセッサ上に、ソフトウエアにより実装可能である。
【0036】
メモリ220は、各種データを記憶する。例えば、メモリ220は、量子ユニット200から出力される量子化生鍵を格納する。この量子化生鍵は、量子鍵を生成する過程で鍵生成制御部210からアクセスされる。メモリ220は、受信機20が備える記憶デバイスを用いて実装可能である。
【0037】
基底照合部130と基底照合部230とは、上記の(2)基底照合に係る処理を行う。基底照合部130と基底照合部230とは、基底照合手段の例に該当する。基底照合部130と基底照合部230とが出力する乱数列は、選別鍵の例に該当する。
誤り訂正部240は、上記(3)誤り訂正に係る処理を行う。誤り訂正部240は、誤り訂正手段の例に該当する。誤り訂正部240は、理想的には誤り訂正部140と同様の処理を行って、誤り訂正部140と同じ乱数列を出力する。
【0038】
秘匿性増強部250は、上記の(4)秘匿性増強に係る処理を行う。秘匿性増強部250は、秘匿性増強手段の例に該当する。秘匿性増強部250は、理想的には秘匿性増強部150と同様の処理を行って、秘匿性増強部150と同じ乱数列を出力する。秘匿性増強部250が出力する乱数列は、量子鍵として用いられる。
【0039】
基底照合部230、誤り訂正部240、および秘匿性増強部250の機能、またはこれらのうち一部は、CPUまたはGPUがソフトウエアを実行することで実装されていてもよい。あるいは、基底照合部230、誤り訂正部240、および秘匿性増強部250、またはこれらのうち一部は、FPGAまたはASICなどのハードウエアを用いて実装されていてもよい。
【0040】
送信側の鍵生成制御部110と受信側の鍵生成制御部210とは、古典チャネル40により通信接続されている。古典チャネル40は、送信機10および受信機20が、基底照合部130および230の処理、ならびに、誤り訂正部140および240の処理を実施する際に必要な情報をやり取りするために用いられる。
【0041】
図3は、量子ユニット100および量子ユニット200の構成を示すブロック図である。
送信機10の量子ユニット100は、光源101、光カプラ(Coupler)102、位相変調器(Phase Modulator)103-x、位相変調器103-y、可変減衰器(Variable Optical Attenuator)104、および偏波ビームスプリッタ(Polarizing Beam Splitter)105を備える。
【0042】
位相変調器103-xと103-yとを総称して位相変調器103とも表記する。光源をLDとも表記する。光カプラをCPLとも表記する。位相変調器をPMとも表記する。2つの位相変調器を区別する場合、位相変調器103-xをPMxとも表記し、位相変調器103-yをPMyとも表記する。可変減衰器をVOAとも表記する。偏波ビームスプリッタをPBSとも表記する。
送信機10について上述したように、位相変調器103は、量子チャネル30における光通信の信号光を、DP-QPSK変調方式で変調する。位相変調器103は、DP-QPSK変調装置の例に該当する。
【0043】
受信機20の量子ユニット200は、局所光源201、90°ハイブリッド(Hybrid)202、フォトディテクタ203-x、フォトディテクタ203-y、アナログ-デジタル変換器(Analog To Digital Converter)204-x、アナログ-デジタル変換器204-y、デジタル信号処理回路(Digital Signal Processing Circuit)205、および偏波ビームスプリッタ206を備える。
【0044】
フォトディテクタ203-xと203-yとを総称してフォトディテクタ203とも表記する。アナログ-デジタル変換器204-xと204-yとを総称してアナログ-デジタル変換器204とも表記する。局所光源をLOとも表記する。フォトディテクタをPDとも表記する。アナログ-デジタル変換器をADCとも表記する。デジタル信号処理回路をDSPとも表記する。
【0045】
送信機10の量子ユニット100では、光源101は、信号光に変換される素の光を出力する。光カプラ102は、光源101が出力する光を、X偏波の光とY偏波の光とに分岐する。
【0046】
位相変調器103-xは、光カプラ102が分岐した光のうちX偏波の光を変調してX偏波の信号光Exを生成する。位相変調器103-xは、ディレイ160が遅延させた基底情報に基づいてX偏波の光を変調することで、遅延された基底情報を表すX偏波の信号光Exを生成する。遅延された基底情報は、過去の基底情報ということができる。また、上記のように、基底情報は、送信機10が選択した基底を示す基底選択情報に該当する。
受信機20は、受信信号光を偏波分離した信号光のうち、X偏波の信号光を、クロックタイミング抽出処理および基底照合処理に用いる。
【0047】
位相変調器103-yは、光カプラ102が分岐した光のうちY偏波の光を変調してY偏波の信号光Eyを生成する。位相変調器103-yは、”鍵の素”となるビット列を表現する乱数列である第1の乱数列と、”基底”を表現する乱数列である第2の乱数列とに基づいてY偏波の光を変調する。
位相変調器103-xおよび103-yの何れも、DP-QPSK変調方式にて光を変調する。位相変調器103-xと103-yとの組み合わせは、DP-QPSK変調装置の例に該当する。
【0048】
第1の乱数列、第2の乱数列の何れもビット列で表すことができ、第1の乱数列におけるビットと、第2の乱数列におけるビットとは一対一に対応している。位相変調器103-yは、第1の乱数列と第2の乱数列とで対応するビットに基づいて、第2の乱数列におけるビットが示す基底を選択する。そして、位相変調器103-yは、第1の乱数列におけるビットが示す鍵の素となるビット値を、選択した基底で表すように、Y偏波の光を変調する。
【0049】
図4は位相変調器103-yが光を変調する際の位相について説明するためのI-Q平面図である。図4では、I軸の正の方向を基準として位相を表す。I軸の正の方向における位相は0°、Q軸の正の方向における位相は90°、I軸の負の方向における位相は180°、Q軸の負の方向における位相は270°である。また、図4の例では、第2の乱数列におけるビットが表す基底と、第1の乱数列におけるビットが表す、鍵の素となるビット値との組み合わせを、(基底、鍵の素)のように表す。
【0050】
基底が+(プラス)基底のときは、位相変調器103-yは、I軸を使って変調を行う。具体的には、位相変調器103-yは、(基底、鍵の素)=(+、0)のとき0°の位相変調を行い、(基底、鍵の素)=(+、1)のとき180°の位相変調を行う。
基底が×(クロス)基底のときは、位相変調器103-yは、Q軸を使って変調を行う。具体的には、位相変調器103-yは、(基底、鍵の素)=(×、0)のとき、90°の位相変調を行い、(基底、鍵の素)=(×、1)のとき、270°の位相変調を行う。
【0051】
可変減衰器104は、Y偏波の信号光Eyについて、光パワーを1フォトン/ビット以下程度で量子的に振る舞う微弱な状態まで減衰する。これにより、量子力学の原理により盗聴の有無を判定可能となる。可変減衰器104は、光強度減衰器の例に該当する。
【0052】
偏波ビームスプリッタ105は、X偏波の信号光Exと、Y偏波の信号光Eyとを偏波多重して、信号光Sxy=Ex+Eyを生成する。送信機10は、偏波多重で得られた信号光Sxyを、受信機20へ送信する。
【0053】
受信機20の量子ユニット200では、偏波ビームスプリッタ206が、受信機20が受信した信号光SxyをX偏波の信号光とY偏波の信号光とに分離する。
フォトディテクタ203-yは、信号光Sxyの偏波分離で得られたX偏波の信号光を検出して電気信号に変換する。以下では、この電気信号を、X偏波による電気信号と称する。また、フォトディテクタによる信号光の検出を検波とも称する。
【0054】
アナログ-デジタル変換器204-yは、X偏波による電気信号で符号されている基底選択情報を読み出し、読み出した基底選択情報をメモリ220に記憶させる。メモリ220が記憶する基底選択情報は、基底照合部230が上記の(2)基底照合に係る処理を行う際に用いられる。
アナログ-デジタル変換器204-yは、基底選択情報の読み出しに加えて基底選択情報のクロックタイミングを抽出する。アナログ-デジタル変換器204-yが抽出したクロックタイミングを示す信号は、アナログ-デジタル変換器204-xが行う処理におけるトリガとして使用される。
【0055】
アナログ-デジタル変換器204-xに入力される信号は量子光でありその強度は非常に小さいためクロックタイミングの抽出は困難である。そこで、量子鍵配送システム1は、基底選択情報のクロックタイミングをトリガに用いる。これにより、量子鍵配送システム1では、精度良くクロックタイミングの取得を行うことができる。
【0056】
90°ハイブリッド202は、信号光Sxyの偏波分離で得られたY偏波の信号光を局所光Sx’y’と干渉させる。これにより、Y偏波の信号光は、局所光の任意の偏波面X’およびY’に投射され、偏波面X’に投射された信号光Ex’と偏波面Y’に投射された信号光Ey’とがフォトディテクタ203-xへ入力される。
【0057】
フォトディテクタ203-xは、信号光Ex’と信号光Ey’とを検出し、それぞれ電気信号に変換する。ここでの変換で得られる電気信号を、信号光Ex’による電気信号、および、信号光Ey’による電気信号とも称する。
【0058】
アナログ-デジタル変換器204-xは、信号光Ex’による電気信号と、信号光Ey’による電気信号とを、それぞれ量子化(アナログ-デジタル変換)する。信号光Ex’による電気信号が量子化された信号を、デジタル電気信号ex’とも称する。信号光Ey’による電気信号が量子化された信号を、デジタル電気信号ey’とも称する。
【0059】
デジタル信号処理回路205は、デジタル電気信号ex’とデジタル電気信号ey’とに対する偏波分離処理を行う。デジタル信号処理回路205が行う偏波分離処理は、偏波面Ex’と偏波面Ey’とによる座標系を、X偏波における偏波面と、Y偏波における偏波面とによる座標系に変換する座標変換に相当する。デジタル信号処理回路205が偏波分離処理を行う手法として、公知の手法を用いることができる。デジタル信号処理回路205は、偏波分離処理により、信号光Exに相当するデジタル信号exと、信号光Eyに相当するデジタル信号eyとを生成する。デジタル信号処理回路205は、デジタル信号eyが示すビット列をメモリ220に記憶させる。このビット列は量子化生鍵として用いられ、上記の(2)基底照合、(3)誤り訂正、および、(4)秘匿性増強を経て量子鍵になる。(2)基底照合、(3)誤り訂正、および、(4)秘匿性増強を、鍵蒸留処理とも称する。
デジタル信号処理回路205は、信号処理手段の例に該当する。
【0060】
量子鍵配送システム1によれば、連続量QKDにおいて量子光にクロック抽出用信号として基底選択情報を偏波多重させて符号することで、連続量QKDの波長利用効率および信号品質を向上させることができる。
【0061】
以上のように、量子鍵配送システム1は、量子チャネル30、および、量子チャネル30よりも信頼性の高い古典チャネル40により通信接続される送信機10と受信機20とを備える。
送信機10の位相変調器103は、送信対象のビット列を示す第1の乱数列と、送信対象のビット列の位相変調における基底を示す第2の乱数列とに基づいて、送信光における直行する2つの偏波成分のうち第1の偏波成分を位相変調する。また、位相変調器103は、もう一方の偏波成分である第2の偏波成分を、第2の乱数列を示す信号に変調する。
可変減衰器104は、変調された第1の偏波成分の光強度を減衰させる。
偏波ビームスプリッタ105は、光強度を減衰された第1の偏波成分と、変調された第2の偏波成分とを偏波多重し、得られた信号光を量子チャネル30に出力する。
【0062】
受信機20の偏波ビームスプリッタ206は、送信機10から量子チャネル30を経由して送信された信号光を偏波分離することで、微弱光と直交した成分に符号された第2の乱数列の読み出しと微弱光受信のためのクロックタイミング抽出とを行う。
局所光源201は、コヒーレント検波のための光を出力する。
【0063】
90°ハイブリッドは、偏波分離された成分のうち微弱光の成分と局所光とを干渉させて直交位相成分を読み出す。
フォトディテクタ203は、読み出された直交位相成分を電気信号に変換する。
デジタル信号処理回路205は、偏波ビームスプリッタ206が抽出したクロックタイミングをもとに、電気信号から第1の乱数列を読み出し量子生鍵を生成する。
【0064】
基底照合部230は、生成された量子生鍵と第2の乱数列とをもとに、送信機10と受信機20との間における第2のチャネルでの通信を用いた基底照合の処理を行い選別鍵を生成する。
誤り訂正部240は、生成された選別鍵に対して送信機10と受信機20との間における第2のチャネルでの通信を用いた誤り訂正を行う。
秘匿性増強部250は、誤り訂正後の選別鍵に対し、送信機10と受信機20との間における第2のチャネルでの通信を用いた秘匿性増強を行うことで量子鍵を生成する。
【0065】
このように、送信機10が、量子光に基底選択情報を偏波多重させ、受信機20が、この基底選択情報をクロック抽出用信号として用いる。量子鍵配送システム1によれば、この点で、連続量量子鍵配送において、量子光の送信側と受信側とでクロックタイミングを同期させるためのクロック抽出用信号の通信を、比較的効率よく行うことができる。また、量子鍵配送システム1によれば、受信機20が、量子光とは異なる強い強度のクロック抽出用信号を取得することができる点で、信号品質を向上させることができる。
また、量子鍵配送システム1では、量子光と、クロック抽出用信号として用いられる基底選択情報とを偏波多重させて同時に送信する点で、伝送経路上での波長分散の影響を軽減することができ、この点でも信号品質を向上させることができる。
【0066】
また、送信機10のディレイ160は、第2の乱数列を示す信号光を遅延させる。位相変調器103は、遅延された信号光をDP-QPSK変調する。
量子鍵配送システム1によれば、盗聴を防止することができ、かつ、量子光をコヒーレント検波した乱数列を記憶するための記憶容量を比較的小さくすることができる。
【0067】
具体的には、盗聴者が使用する受信機は、量子光による符号を受信するよりも先に、その符号を復号するための基底選択情報を受信することができない。これにより、上記のように、盗聴を防止することができる。
また、送信機10は、量子光の送信完了前に基底選択情報の送信を開始することができる。これにより、受信機20は、量子光をコヒーレント検波した乱数列を全て記憶する必要はなく、この点で、記憶容量を比較的小さくすることができる。
【0068】
図5は、実施形態に係る量子鍵配送システムの構成のもう1つの例を示す図である。図5に示す構成で、量子鍵配送システム610は、第1のチャネル640、および、第1のチャネル640よりも信頼性の高い第2のチャネル650により通信接続される第1の通信装置620と第2の通信装置630とを備える。
【0069】
第1の通信装置620は、DP-QPSK変調装置621と、光強度減衰器622と、偏波ビームスプリッタ623と、を備える。第2の通信装置630は、偏波ビームスプリッタ631と、局所光源632と、90°ハイブリッド633と、フォトディテクタ634と、信号処理部635と、基底照合部636と、誤り訂正部637と、秘匿性増強部638と、を備える。
【0070】
かかる構成で、DP-QPSK変調装置621は、送信対象のビット列を示す第1の乱数列と、送信対象のビット列の位相変調における基底を示す第2の乱数列とに基づいて、送信光における直行する2つの偏波成分のうち第1の偏波成分を位相変調し、もう一方の偏波成分である第2の偏波成分を、第2の乱数列を示す信号に変調する。
光強度減衰器622は、変調された第1の偏波成分の光強度を減衰させる。
偏波ビームスプリッタ623は、光強度を減衰された第1の偏波成分と、変調された第2の偏波成分とを偏波多重し、得られた信号光を第1のチャネルに出力する。
【0071】
偏波ビームスプリッタ631は、送信された信号光を偏波分離することで、微弱光と直交した成分に符号された第2の乱数列の読み出しと微弱光受信のためのクロックタイミング抽出とを行う。
局所光源632は、コヒーレント検波のための光を出力する。
【0072】
90°ハイブリッド633は、偏波分離された成分のうち微弱光の成分と局所光と干渉させて直交位相成分を読み出す。
フォトディテクタ634は、読み出された直交位相成分を電気信号に変換する。
信号処理部635は、偏波ビームスプリッタ631が抽出したクロックタイミングをもとに、電気信号から第1の乱数列を読み出し量子生鍵を生成する。
【0073】
基底照合部636は、生成された量子生鍵と第2の乱数列とをもとに、第1の通信装置と第2の通信装置との間における第2のチャネルでの通信を用いた基底照合の処理を行い選別鍵を生成する。
誤り訂正部637は、生成された選別鍵に対して、第1の通信装置と第2の通信装置の間における第2のチャネルでの通信を用いた誤り訂正を行う。
秘匿性増強部638は、誤り訂正後の選別鍵に対し、第1の通信装置と第2の通信装置の間における第2のチャネルでの通信を用いた秘匿性増強を行うことで量子鍵を生成する。
信号処理部635は、信号処理手段の例に該当する。基底照合部636は、基底照合手段の例に該当する。誤り訂正部637は、誤り訂正手段の例に該当する。秘匿性増強部638は、秘匿性増強手段の例に該当する。
【0074】
このように、第1の通信装置620が、量子光に基底選択情報を偏波多重させ、第2の通信装置630が、この基底選択情報をクロック抽出用信号として用いる。量子鍵配送システム610によれば、この点で、連続量量子鍵配送において、量子光の送信側と受信側とでクロックタイミングを同期させるためのクロック抽出用信号の通信を、比較的効率よく行うことができる。また、量子鍵配送システム610によれば、第2の通信装置630が、量子光とは異なる強い強度のクロック抽出用信号を取得することができる点で、信号品質を向上させることができる。
また、量子鍵配送システム610では、量子光と、クロック抽出用信号として用いられる基底選択情報とを偏波多重させて同時に送信する点で、伝送経路上での波長分散の影響を軽減することができ、この点でも信号品質を向上させることができる。
【0075】
図6は、実施形態に係る量子鍵配送方法における処理の手順の例を示す図である。図6に示す量子鍵配送方法は、変調を行うこと(ステップS621)と、光強度を減衰すること(ステップS622)と、偏波多重を行うこと(ステップS623)と、偏波分離を行うこと(ステップS631)と、局所光を出力すること(ステップS632)と、コヒーレント検波を行うこと(ステップS633)と、光を検出すること(ステップS634)と、信号処理を行うこと(ステップS635)と、基底照合を行うこと(ステップS636)と、誤り訂正を行うこと(ステップS637)と、秘匿性増強を行うこと(ステップS638)とを含む。
【0076】
変調を行うこと(ステップS621)では、第1のチャネル、および、第1のチャネルよりも信頼性の高い第2のチャネルにより通信接続される第1の通信装置と第2の通信装置とを備える量子鍵配送システムの、第1の通信装置が、送信対象のビット列を示す第1の乱数列と、送信対象のビット列の位相変調における基底を示す第2の乱数列とに基づいて、送信光における直行する2つの偏波成分のうち第1の偏波成分を位相変調し、もう一方の偏波成分である第2の偏波成分を、第2の乱数列を示す信号に変調する。
【0077】
光強度を減衰すること(ステップS622)では、第1の通信装置が、変調された第1の偏波成分の光強度を減衰させる。
偏波多重を行うこと(ステップS623)では、第1の通信装置が、変調された第1の偏波成分の光強度を減衰させる。
【0078】
偏波分離を行うこと(ステップS631)では、第2の通信装置が、送信された信号光を偏波分離することで、前記微弱光と直交した成分に符号された前記第2の乱数列の読み出しと前記微弱光受信のためのクロックタイミング抽出とを行う。
局所光を出力すること(ステップS632)では、第2の通信装置が、コヒーレント検波のための局所光を出力する。
【0079】
コヒーレント検波を行うこと(ステップS633)では、第2の通信装置が、偏波分離された成分のうち前記微弱光の成分と局所光と干渉させて直交位相成分を読み出す。
光を検出すること(ステップS634)では、第2の通信装置が、読み出された直交位相成分を電気信号に変換する。
【0080】
信号処理を行うこと(ステップS635)では、第2の通信装置が、抽出したクロックタイミングをもとに、前記電気信号から前記第1の乱数列を読み出し量子生鍵を生成する。
基底照合を行うこと(ステップS636)では、第2の通信装置が、生成された前記量子生鍵と前記第2の乱数列とをもとに、前記第1の通信装置と前記第2の通信装置との間における前記第2のチャネルでの通信を用いた基底照合の処理を行い選別鍵を生成する。
【0081】
誤り訂正を行うこと(ステップS637)では、第2の通信装置が、生成された前記選別鍵に対して、第1の通信装置と第2の通信装置の間における前記第2のチャネルでの通信を用いた誤り訂正を行う。
秘匿性増強を行うこと(ステップS638)では、第2の通信装置が、誤り訂正後の前記選別鍵に対し、第1の通信装置と第2の通信装置の間における前記第2のチャネルでの通信を用いた秘匿性増強を行うことで量子鍵を生成する。
【0082】
このように、第1の通信装置が、量子光に基底選択情報を偏波多重させ、第2の通信装置が、この基底選択情報をクロック抽出用信号として用いる。図6に示す量子鍵配送方法によれば、この点で、連続量量子鍵配送において、量子光の送信側と受信側とでクロックタイミングを同期させるためのクロック抽出用信号の通信を、比較的効率よく行うことができる。また、図6に示す量子鍵配送方法によれば、第2の通信装置が、量子光とは異なる強い強度のクロック抽出用信号を取得することができる点で、信号品質を向上させることができる。
また、図6に示す量子鍵配送方法では、量子光と、クロック抽出用信号として用いられる基底選択情報とを偏波多重させて同時に送信する点で、伝送経路上での波長分散の影響を軽減することができ、この点でも信号品質を向上させることができる。
【0083】
図7は、少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
図7に示す構成で、コンピュータ700は、CPU710と、主記憶装置720と、補助記憶装置730と、インタフェース740と、不揮発性記録媒体750とを備える。
【0084】
上記の送信機10、受信機20、第1の通信装置620、および、第2の通信装置630のうち何れか1つ以上またはその一部が、コンピュータ700によって制御されていてもよい。その場合、これらの装置の動作は、プログラムの形式で補助記憶装置730に記憶されている。CPU710は、プログラムを補助記憶装置730から読み出して主記憶装置720に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU710は、プログラムに従って、これらの装置が処理を行うための記憶領域を主記憶装置720に確保する。各装置と他の装置との通信は、インタフェース740が通信機能を有し、CPU710の制御に従って通信を行うことで実行されてもよい。各装置とユーザとのインタラクションは、インタフェース740がディスプレイ、キーボードおよびマウス等の入出力デバイスを備え、CPU710の制御に従って動作することで実行されてもよい。また、インタフェース740は、不揮発性記録媒体750用のポートを有し、不揮発性記録媒体750からの情報の読出、および、不揮発性記録媒体750への情報の書込を行う。
【0085】
上述したプログラムのうち何れか1つ以上が不揮発性記録媒体750に記録されていてもよい。この場合、インタフェース740が不揮発性記録媒体750からプログラムを読み出すようにしてもよい。そして、CPU710が、インタフェース740が読み出したプログラムを直接実行するか、あるいは、主記憶装置720または補助記憶装置730に一旦保存して実行するようにしてもよい。
【0086】
なお、送信機10、受信機20、第1の通信装置620、および、第2の通信装置630に対する制御の全部または一部を実行するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各部の処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウエアを含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0087】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0088】
1、610 量子鍵配送システム
10 送信機
1000 乱数生成器
20 受信機
30 量子チャネル
40 古典チャネル
100、200 量子ユニット
101 光源
102 光カプラ
103、103-x、103-y 位相変調器
104 可変減衰器
105、206、623、631 偏波ビームスプリッタ
110、210 鍵生成制御部
120、220 メモリ
130、230、636 基底照合部
140、240、637 誤り訂正部
150、250、638 秘匿性増強部
160 ディレイ
201、632 局所光源
202、633 90°ハイブリッド
203、203-x、203-y、634 フォトディテクタ
204、204-x、204-y アナログ-デジタル変換器
205 デジタル信号処理回路
620 第1の通信装置
621 DP-QPSK変調装置
622 光強度減衰器
630 第2の通信装置
635 信号処理部
640 第1のチャネル
650 第2のチャネル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7