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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067747
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】水素移送システムおよび水素移送方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/10 20060101AFI20240510BHJP
   F17C 9/02 20060101ALI20240510BHJP
   F17C 13/02 20060101ALI20240510BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
F17C1/10
F17C9/02
F17C13/02 301A
F02M21/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178060
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】仲井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】本山 紘次朗
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB01
3E172AB12
3E172BB12
3E172BB17
3E172BC05
3E172GA11
3E172JA10
3E172KA03
3E172KA21
(57)【要約】
【課題】水素移送システムにおいて、水素脆化を抑制することを可能にする。
【解決手段】一態様に係る水素移送システムは、水素供給源から、水素ガス、または、液化水素を気化させた水素ガスを水素移送先に移送する水素移送流路と、インヒビター供給源と、インヒビター供給源と水素移送流路のある接続箇所とを接続し、インヒビター供給源から接続箇所にインヒビターを導くインヒビター供給流路と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素供給源から、水素ガス、または、液化水素を気化させた水素ガスを水素移送先に移送する水素移送流路と、
インヒビター供給源と、
前記インヒビター供給源と前記水素移送流路のある接続箇所とを接続し、前記インヒビター供給源から前記接続箇所にインヒビターを導くインヒビター供給流路と、を備える、水素移送システム。
【請求項2】
前記水素供給源は、液化水素を供給し、
前記水素移送システムは、
前記水素移送流路における前記接続箇所より上流側部分に配置される、前記水素供給源から導かれた液化水素を昇圧する昇圧器と、
前記水素移送流路における前記昇圧器と前記接続箇所との間の部分に配置される、前記昇圧器により昇圧された液化水素を気化させる気化器と、を備える、請求項1に記載の水素移送システム。
【請求項3】
前記水素供給源は、水素ガスを供給し、
前記水素移送システムは、前記水素移送流路における前記接続箇所より下流側部分に配置される、前記水素供給源から導かれた水素ガスを昇圧する昇圧器を備える、請求項1に記載の水素移送システム。
【請求項4】
前記インヒビターは、酸素、空気、一酸化炭素、または、二酸化硫黄である、請求項1または2に記載の水素移送システム。
【請求項5】
前記水素移送先は、水素ガスを消費するガス消費器を含み、
前記ガス消費器は、水素ガスタービン、水素ガスエンジン、または、水素燃料ボイラである、請求項1または2に記載の水素移送システム。
【請求項6】
前記インヒビター供給流路に配置された流量調整弁を更に備える、請求項1または2に記載の水素移送システム。
【請求項7】
前記水素移送流路における前記接続箇所より上流側部分を流れる水素ガスの流量を検知する流量センサと、
前記流量センサにより検知された流量情報に基づき、前記流量調整弁を制御するコントローラと、を更に備える、請求項6に記載の水素移送システム。
【請求項8】
前記水素移送流路内のガス中のインヒビターの濃度を検知するガス濃度センサと、
前記ガス濃度センサにより検知された濃度情報に基づき、前記流量調整弁を制御するコントローラと、を更に備える、請求項6に記載の水素移送システム。
【請求項9】
前記水素移送先は、前記水素移送流路により導かれた水素ガスとオイルとを燃焼して、二酸化硫黄を含む排気ガスを排出する水素エンジンを含み、
前記水素移送システムは、前記水素エンジンで生じた排気ガスを前記インヒビター供給源に移送する排気流路を更に備え、
前記インヒビター供給源は、前記排気流路により導かれた排気ガス中の二酸化硫黄を前記インヒビターとして前記インヒビター供給流路へ供給する、請求項1または2に記載の水素移送システム。
【請求項10】
前記インヒビター供給源は、前記水素供給源であって、水を電気分解して水素ガスと酸素ガスとを生成する水素生成装置を含み、
前記水素移送流路は、前記水素生成装置により生成された水素ガスを前記水素移送先に移送し、
前記インヒビター供給流路は、前記水素生成装置により生成された酸素ガスを前記インヒビターとして前記接続箇所に導く、請求項1または2に記載の水素移送システム。
【請求項11】
水素移送流路により、水素ガスまたは液化水素を供給する水素供給源から、水素ガス、または、液化水素を気化させた水素ガスを水素移送先に向かって流し、
前記水素移送流路における水素ガスが流れる箇所において、水素ガス中にインヒビターを添加する、水素移送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素移送システムおよび水素移送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、タンク等に貯蔵されている液体水素を水素ガスとしてユースポイントへ供給するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-070301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、水素により金属材料の強度および靭性が劣化される水素脆化が知られている。水素移送元から水素移送先に水素を移送するシステムにおいて、水素脆化を抑制することが望まれる。
【0005】
そこで、本開示は、水素脆化を抑制することを可能にする水素移送システムおよび水素移送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る水素移送システムは、水素供給源から、水素ガス、または、液化水素を気化させた水素ガスを水素移送先に移送する水素移送流路と、インヒビター供給源と、前記インヒビター供給源と前記水素移送流路のある接続箇所とを接続し、前記インヒビター供給源から前記接続箇所にインヒビターを導くインヒビター供給流路と、を備える。
【0007】
本開示の一態様に係る水素移送方法は、水素移送流路により、水素ガスまたは液化水素を供給する水素供給源から、水素ガス、または、液化水素を気化させた水素ガスを水素移送先に向かって流し、前記水素移送流路における水素ガスが流れる箇所において、水素ガス中にインヒビターを添加する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、水素脆化を抑制することを可能にする水素移送システムおよび水素移送方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る水素移送システムの概略構成図である。
図2】変形例1に係る水素移送システムの概略構成図である。
図3】第2実施形態に係る水素移送システムの概略構成図である。
図4】変形例2に係る水素移送システムの概略構成図である。
図5】変形例3に係る水素移送システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。
【0011】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る水素移送システム1Aの概略構成図である。
【0012】
水素移送システム1Aは、液化水素を供給する水素供給源2から、液化水素を気化させた水素ガスを水素移送先であるガス消費器3に移送するシステムである。本実施形態において、水素供給源2は、液化水素を貯留する貯留器である。また、ガス消費器3は、水素ガスを燃料とする水素ガスエンジンである。すなわち、本実施形態の水素移送システム1Aは、水素ガスエンジンに水素ガス燃料を供給する燃料供給システムである。
【0013】
水素移送システム1Aは、水素移送流路4と、昇圧器5と、気化器6と、インヒビター供給源7と、インヒビター供給流路8とを備える。なお、水素移送流路4やインヒビター供給流路8など、本明細書で説明される流路は、流体を流通させる配管や機器などにより構成される。
【0014】
水素移送流路4は、水素供給源2からガス消費器3に液化水素または水素ガスを導く。水素移送流路4を構成する配管や機器は、金属製である。本実施形態では、水素移送流路4は、水素供給源2とガス消費器3とを接続する。より詳しくは、水素移送流路4の上流側端部が、水素供給源2である貯留器の流体出口に接続されており、水素移送流路4の下流側端部が、ガス消費器3である水素ガスエンジンの燃料噴射弁に接続されている。
【0015】
本実施形態において、ガス消費器3である水素ガスエンジンは、シリンダ内に水素燃料を直接噴射する直噴エンジンである。燃料噴射弁に供給される水素ガスとして、例えば20MPa以上の高圧の水素ガスが要求される。
【0016】
昇圧器5は、水素移送流路4に配置されている。昇圧器5は、水素供給源2から、水素移送流路4における昇圧器5より上流側部分により導かれた液化水素を昇圧する。例えば、昇圧器5は、高圧液化水素ポンプである。
【0017】
気化器6は、水素移送流路4における昇圧器5より下流側部分に配置されている。気化器6には、昇圧器5により昇圧された液化水素が流入する。気化器6は、昇圧器5より昇圧された液化水素を気化して水素ガスを生成する。
【0018】
気化器6は、その流出口6aから流出する水素ガスの温度が所定の温度および圧力となるように構成されている。所定の温度及び圧力は、後述のインヒビターである酸素ガスが、流出口6aから流出する水素ガスと接触しても液化しない温度および圧力である。
【0019】
インヒビター供給源7は、水素移送流路4を流れる水素ガスに混合されることになるインヒビターの供給源である。インヒビターは、水素ガスに添加されることにより、添加された水素ガスによる金属材料の水素脆化を抑制する。本実施形態において、インヒビターは、酸素ガスである。また、本実施形態において、インヒビター供給源7は、高圧状態で酸素ガスを貯留する酸素ボンベである。
【0020】
インヒビター供給流路8は、水素移送流路4における気化器6より下流側部分とインヒビター供給源7とを接続する。より詳しくは、インヒビター供給流路8の一端部は、インヒビター供給源7である酸素ボンベの吐出口に接続されており、インヒビター供給流路8の他端部は、水素移送流路4における気化器6より下流側のある箇所に接続されている。以下、水素移送流路4におけるインヒビター供給流路8との接続箇所を、単に「接続箇所4a」と称し得る。なお、接続箇所4aは、気化器6の流出口6aの近傍に位置付けられている。水素移送流路4における水素脆化抑制効果が得られる範囲をできるだけ長くするためである。
【0021】
また、水素移送システム1Aは、流量調整弁11と、流量センサ12と、コントローラ13とを備える。
【0022】
流量調整弁11は、インヒビター供給流路8に配置されている。流量調整弁11は、インヒビター供給源7からインヒビター供給流路8を通じて水素移送流路4に供給されるインヒビターの流量を制御する。本実施形態において、流量調整弁11は、コントローラ13からの電気信号により開度が調節される自動弁である。
【0023】
流量センサ12は、水素移送流路4における気化器6と接続箇所4aとの間の部分に配置されている。流量センサ12は、水素移送流路4における気化器6と接続箇所4aとの間の部分を流れる、すなわち接続箇所4aへと流れる水素ガスの流量を検知する。
【0024】
コントローラ13は、ハードウェア面において、演算処理器および記憶器などを有する。演算処理器は、例えばプロセッサなどを含む。記憶器は、揮発性メモリ、不揮発性メモリなどを含む。コントローラ13は、演算器が記憶器に記憶されたプログラムを読み込んで実行することで各種処理を行う。なお、コントローラ13は、集中制御する単独の装置や回路によって構成されていてもよいし、互いに協働して分散制御する複数の装置や回路によって構成されていてもよい。
【0025】
コントローラ13は、流量調整弁11および流量センサ12に通信可能に接続されている。コントローラ13は、流量センサ12により検知された流量情報を受信する。コントローラ13は、流量センサ12により検知された流量情報に基づき、流量調整弁11を制御する。
【0026】
具体的には、コントローラ13は、流量センサ12により検知された流量情報に基づき、水素移送流路4における接続箇所4aより下流側部分を流れる水素ガス中のインヒビターの比率が設置値となるように、流量調整弁11を制御する。設置値は、水素脆化の抑制効果が得られ、且つ、水素移送先の要求を満たすように設定されている。例えば、コントローラ13は、水素ガス中のインヒビターの体積分率が例えば0.1%となるように、流量調整弁11を制御する。
【0027】
なお、水素脆化の抑制効果が得られる水素ガス中のインヒビターの比率は、水素脆化抑制の対象となる金属材料の種類や、水素ガスに添加されるインヒビターの種類などに応じて異なる。水素移送先に応じて、供給される水素ガスに許容されるインヒビターの比率も異なる。このため、設定値は、水素脆化抑制の対象となる金属材料の種類や、水素ガスに添加されるインヒビターの種類、水素移送先である機器などの種類などに応じて適宜設定される。
【0028】
水素移送流路4における水素供給源2と昇圧器5との間には、開閉弁9が配置されている。開閉弁9を開いた状態で水素供給源2から昇圧器5に液化水素が導かれると、昇圧器5にて液化水素が昇圧される。昇圧器5より昇圧された液化水素は、気化器6に流入し、気化器6にて水素ガスが生成される。水素ガスは、気化器6から流出した後、水素移送流路4における接続箇所4aでインヒビターが添加される。こうして、インヒビターが添加された水素ガスが、水素移送流路4における接続箇所4aより下流側部分を通じてガス消費器3へと導かれる。
【0029】
以上に説明したように、本実施形態における水素移送システム1Aでは、水素移送流路4におけるインヒビター供給流路8との接続箇所4aより下流側部分を、インヒビターが添加された水素ガスが流れる。このため、水素移送流路4におけるインヒビター供給流路8との接続箇所4aより下流側部分の金属材料の水素脆化を抑制することができる。
【0030】
このため、少なくとも水素移送流路におけるインヒビターの添加位置および当該添加位置より下流側部分を構成する配管や機器を構成する金属材料として、例えば、高強度なニッケル基合金や比強度の高いチタン合金など、水素脆化しやすいが強度が高い材料を使用しやすくなる。
【0031】
また、本実施形態では、水素移送流路4における接続箇所4aより上流側部分に昇圧器5が配置され、水素移送流路4における昇圧器5と接続箇所4aとの間の部分に気化器6が配置されている。このため、液化水素にインヒビターが接触すること、すなわち液化水素によってインヒビターが液化することを防ぐことができる。
【0032】
また、本実施形態では、インヒビター供給流路8に流量調整弁11が配置されているため、流量調整弁11を調整することで、水素ガス中に添加するインヒビターの比率を、水素脆化の抑制効果が得られ、且つ、水素移送先の要求を満たすように調整できる。
【0033】
また、本実施形態では、コントローラ13は、流量センサ12により検知された流量情報に基づき、流量調整弁11を制御する。このため、水素ガス中に添加するインヒビターの比率を精度よく調整することができる。
【0034】
(変形例1)
図2は、変形例1に係る水素移送システム1Bの概略構成図である。なお、変形例1および後述の変形例2、3の説明において、上述した第1実施形態および後述の第2実施形態と実質的に同一の構成要素に対しては同一の符号を付し、重複する説明は省略または簡略化される。
【0035】
本変形例1では、インヒビター供給流路8に、流量調整弁11の代わりに昇圧器15が配置されている。昇圧器15は、インヒビター供給源7からインヒビター供給流路8を通じて水素移送流路4に供給されるインヒビター、すなわち酸素ガスを昇圧する。本変形例1において、昇圧器15は、圧縮機である。
【0036】
本変形例1によれば、水素移送流路4における気化器6より下流側部分を流れる水素ガスの圧力が、インヒビター供給源7が供給するインヒビターのガス圧より高い場合でも、昇圧器15によりインヒビター供給源7から供給されるインヒビターを圧縮することにより、水素移送流路4における気化器6より下流側部分にインヒビターを供給できる。このため、インヒビター供給源7に対し高圧状態でインヒビターを供給することは要求されないため、インヒビター供給源7の簡素化を実現できる。
【0037】
なお、図2に示すように、本変形例1の水素移送システム1Bは、流量調整弁11、流量センサ12およびコントローラ13を備えていない構成であるが、水素移送システム1Bは、昇圧器15に加えて、流量調整弁11、流量センサ12およびコントローラ13を備えてもよい。
【0038】
<第2実施形態>
図3は、第2実施形態に係る水素移送システム1Cの概略構成図である。
【0039】
水素移送システム1Cは、水素ガスを供給する水素供給源21から、水素ガスを水素移送先としてのガス消費器22に移送するシステムである。本実施形態において、水素供給源21は、水素ガスを貯留する貯留器である。また、ガス消費器22は、水素ガスを燃料とする水素ガスエンジンである。すなわち、本実施形態の水素移送システム1Cは、水素ガスエンジンに水素ガス燃料を供給する燃料供給システムである。
【0040】
水素移送システム1Cは、水素移送流路23と、昇圧器24と、インヒビター供給源25と、インヒビター供給流路26とを備える。
【0041】
水素移送流路23は、水素供給源21からガス消費器22に水素ガスを導く。水素移送流路23は、金属製である。本実施形態では、水素移送流路23は、水素供給源21とガス消費器22とを接続する。より詳しくは、水素移送流路23の上流側端部が、水素供給源21である貯留器の流体出口に接続されており、水素移送流路23の下流側端部が、ガス消費器22である水素ガスエンジンの燃料噴射弁に接続されている。
【0042】
本実施形態において、ガス消費器22である水素ガスエンジンは、シリンダ内に水素燃料を直接噴射する直噴エンジンである。燃料噴射弁に供給される水素ガスとして、例えば20MPa以上の高圧の水素ガスが要求される。
【0043】
昇圧器24は、水素移送流路23に配置されている。昇圧器24は、水素供給源21から、水素移送流路23における昇圧器24より上流側部分により導かれた水素ガスを昇圧する。例えば、昇圧器24は、例えばロータリー式の圧縮機である。昇圧器24は、例えばターボ式やレシプロ式など、別のタイプの圧縮機でもよい。
【0044】
インヒビター供給源25は、水素移送流路23を流れる水素ガス中に混合するインヒビターの供給源である。インヒビターは、水素ガスに添加されることにより、添加された水素ガスによる金属材料の水素脆化を抑制する。本実施形態において、インヒビターは、酸素ガスである。また、インヒビター供給源25は、高圧状態で酸素ガスを貯留する酸素ボンベである。
【0045】
インヒビター供給流路26は、水素移送流路23における昇圧器24より上流側部分とインヒビター供給源25とを接続する。より詳しくは、インヒビター供給流路26の一端部は、インヒビター供給源25である酸素ボンベの吐出口に接続されており、インヒビター供給流路26の他端部は、水素移送流路23における昇圧器24より上流側のある箇所に接続されている。以下、水素移送流路23におけるインヒビター供給流路22との接続箇所を、単に「接続箇所23a」と称し得る。
【0046】
また、水素移送システム1Cは、流量調整弁31と、流量センサ32と、コントローラ33とを備える。
【0047】
流量調整弁31は、インヒビター供給流路26に配置されている。流量調整弁31は、インヒビター供給源25からインヒビター供給流路26を通じて水素移送流路23に供給されるインヒビターの流量を制御する。本実施形態において、流量調整弁31は、コントローラ33からの電気信号により開度が調節される自動弁である。
【0048】
流量センサ32は、水素移送流路23における接続箇所23aより上流側部分に配置されている。流量センサ32は、水素移送流路23における接続箇所23aより上流側部分を流れる、すなわち接続箇所23aへと流れる水素ガスの流量を検知する。
【0049】
コントローラ33は、ハードウェア面において、演算処理器および記憶器などを有する。演算処理器は、例えばプロセッサなどを含む。記憶器は、揮発性メモリ、不揮発性メモリなどを含む。コントローラ33は、演算器が記憶器に記憶されたプログラムを読み込んで実行することで各種処理を行う。なお、コントローラ33は、集中制御する単独の装置や回路によって構成されていてもよいし、互いに協働して分散制御する複数の装置や回路によって構成されていてもよい。
【0050】
コントローラ33は、流量調整弁31および流量センサ32に通信可能に接続されている。コントローラ33は、流量センサ32により検知された流量情報を受信する。コントローラ33は、流量センサ32により検知された流量情報に基づき、流量調整弁31を制御する。
【0051】
具体的には、コントローラ33は、流量センサ32により検知された流量情報に基づき、水素移送流路23における接続箇所23aより下流側部分を流れる水素ガス中のインヒビターの比率が設置値となるように、流量調整弁31を制御する。設置値は、水素脆化の抑制効果が得られ、且つ、水素移送先の要求を満たすように設定されている。例えば、コントローラ33は、水素ガス中のインヒビターの体積分率が例えば0.1%となるように、流量調整弁31を制御する。
【0052】
水素移送流路23における接続箇所23aより上流側部分には、開閉弁27が配置されている。開閉弁27を開いた状態で水素供給源21から接続箇所23aへと水素ガスが流れる。水素移送流路23を流れる水素ガスには、水素移送流路23における接続箇所23aでインヒビターが添加される。こうして、インヒビターが添加された水素ガスが、昇圧器24にて昇圧され、その後、ガス消費器22へと導かれる。
【0053】
本実施形態でも、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0054】
また、本実施形態では、昇圧器24により水素ガスを昇圧する前に、水素ガス中にインヒビターを添加できる。これにより、昇圧器24を構成する金属材料の水素脆化を抑制できる。
【0055】
<その他の実施形態>
本開示は上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0056】
例えば水素供給源は、液化水素または水素ガスを供給可能に構成されていればよい。例えば、水素供給源は、液化水素または水素ガスを貯留する水素貯留器を含くんでもよい。あるいは、例えば水素供給源は、液化水素または水素ガスを生成する水素生成装置を含んでもよい。
【0057】
上記実施形態では、ガス消費器が水素ガスエンジンであったが、ガス消費器はこれに限定されない。例えば、水素ガスを燃料として消費するガス消費器は、水素ガスタービン、水素ガスエンジン、または、水素燃料ボイラであってもよい。また、水素移送先は、水素ガスを消費するガス消費器でなくてもよい。例えば、水素移送先は、水素ガスステーションなど、水素ガスを貯留する設備や貯留器でもよい。
【0058】
上記実施形態では、インヒビターが酸素であったが、水素脆化を抑制するインヒビターは、これに限定されない。例えば、インヒビターは、空気、一酸化炭素、または、二酸化硫黄などの別の種類のガスであってもよい。
【0059】
上記実施形態では、インヒビター供給源の一例として酸素ボンベが説明されたが、インヒビター供給源はこれに限定されない。例えば、インヒビター供給源は、インヒビターを貯留するボンベなどの圧力容器であってもよいし、インヒビターを生成する装置であってもよい。インヒビター供給源がインヒビター生成装置である場合、インヒビター生成装置はインヒビターを生成するための専用装置でなくてもよい。
【0060】
例えば、図4に、変形例2に係る水素移送システム1Dの概略構成図を示す。水素移送システム1Dにおいて、水素ガス中に添加するインヒビターとして、酸素ガスではなく、水素エンジンの排気ガス中の二酸化硫黄などを利用する。具体的には、水素移送先であるガス消費器3は、水素移送流路4により導かれた水素ガスとエンジンオイルとを消費して、二酸化硫黄を含む排気ガスを排出する水素エンジンである。水素移送システム1Dは、水素エンジン3で生じた排気ガスをインヒビター供給源42に移送する排気流路41を備える。インヒビター供給源42は、排気流路41により導かれた排気ガス中の二酸化硫黄を、インヒビターとしてインヒビター供給流路8へ供給するように構成される。このように、水素移送先のガス消費器がインヒビター供給源であってもよい。
【0061】
また、水素供給源は、水を電気分解して水素と酸素とを生成する水素生成装置を含んでもよい。この場合、水素供給源である水素生成装置が、インヒビター供給源を兼ねてもよい。
【0062】
例えば図5に、変形例3に係る水素移送システム1Eの概略構成図を示す。水素移送システム1Eは、水を電気分解して水素と酸素とを生成する水素生成装置51を備える。水素生成装置51は、水素供給源でもあり、インヒビター供給源でもある。すなわち、水素移送流路23は、水素供給源である水素生成装置51からガス消費器22に、水素生成装置により生成された水素ガスを導く。また、インヒビター供給流路26は、水素生成装置51により生成された酸素ガスを、インヒビターとして接続箇所23aに導く。なお、水素生成装置51により生成される酸素ガスのうち、接続箇所23aで添加されずに余剰となった酸素ガスは、タンクなどに貯蔵され得る。
【0063】
また、第1実施形態において、接続箇所4aは、気化器6の流出口6aの近傍に位置付けられていたが、水素移送流路4における接続箇所4aと気化器6の流出口6aとの距離が十分に長くてもよい。また、気化器6から流出した水素ガスが、インヒビターの添加位置である接続箇所4aに到達するまでの間に、所定温度以上に昇温する場合、気化器6は、その流出口6aから流出する水素ガスの温度が所定温度以上となるように構成されていなくてもよい。ただし、水素脆化抑制の効果が得られる範囲を広げるために、気化器6を、その流出口6aから流出する水素ガスの温度を、水素ガスと接触しても液化しない所定温度以上となるように構成するとともに、接続箇所4aを、気化器6の流出口6aの近傍に位置付けることが好ましい。
【0064】
上記実施形態では、流量調整弁がコントローラからの電気信号により制御される自動弁であることが説明されたが、流量調整弁は、手動操作可能に構成された手動弁であってもよい。流量調整弁を手動弁とすることで、簡易な構成で水素ガス中に添加するインヒビターの比率を調整できる。
【0065】
また、上記実施形態では、コントローラが、流量センサにより検知された流量情報に基づき、流量調整弁を制御したが、流量調整弁の調整方法はこれに限定されない。
【0066】
例えば、水素移送システムは、水素移送流路内のガス中のインヒビターの濃度を検知するガス濃度センサを備えてもよく、コントローラが、ガス濃度センサにより検知された濃度情報に基づき、流量調整弁を制御してもよい。例えば、コントローラは、ガス濃度センサにより検知された濃度情報が、設定値となるように、流量調整弁を制御してもよい。この構成でも、水素ガス中に添加するインヒビターの比率を精度よく調整することができる。なお、ガス濃度センサは、例えば水素移送流路におけるインヒビター供給流路との接続箇所、または、前記接続箇所より下流側部分に配置されてもよい。例えば第2実施形態の構成がガス濃度センサを備える場合、ガス濃度センサは、水素移送流路23における接続箇所23aと昇圧器24との間の部分に配置され得る。
【0067】
上記第1および第2実施形態、変形例1乃至3、並びに、その他の実施形態にて説明した構成は、適宜組み合わせ可能である。
【0068】
本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、または、それらの任意の組み合わせ、を含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本開示において、回路、ユニット、または手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、またはユニットはハードウェアとソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェアまたはプロセッサの構成に使用される。
【0069】
[開示項目]
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態の開示である。
【0070】
[項目1]
水素供給源から、水素ガス、または、液化水素を気化させた水素ガスを水素移送先に移送する水素移送流路と、
インヒビター供給源と、
前記インヒビター供給源と前記水素移送流路のある接続箇所とを接続し、前記インヒビター供給源から前記接続箇所にインヒビターを導くインヒビター供給流路と、を備える、水素移送システム。
【0071】
前記構成によれば、水素移送流路におけるインヒビター供給流路との接続箇所より下流側部分を、インヒビターが添加された水素ガスが流れる。このため、水素移送流路におけるインヒビター供給流路との接続箇所より下流側部分の金属材料の水素脆化を抑制することができる。
【0072】
[項目2]
前記水素供給源は、液化水素を供給し、
前記水素移送システムは、
前記水素移送流路における前記接続箇所より上流側部分に配置される、前記水素供給源から導かれた液化水素を昇圧する昇圧器と、
前記水素移送流路における前記昇圧器と前記接続箇所との間の部分に配置される、前記昇圧器により昇圧された液化水素を気化させる気化器と、を備える、項目1に記載の水素移送システム。
【0073】
前記構成によれば、液化水素にインヒビターが接触すること、すなわち、液化水素によってインヒビターが液化することを防ぐことができる。
【0074】
[項目3]
前記水素供給源は、水素ガスを供給し、
前記水素移送システムは、前記水素移送流路における前記接続箇所より下流側部分に配置される、前記水素供給源から導かれた水素ガスを昇圧する昇圧器を備える、項目1に記載の水素移送システム。
【0075】
前記構成によれば、昇圧器により水素ガスを昇圧する前に、水素ガス中にインヒビターを添加できる。これにより、昇圧器を構成する金属材料の水素脆化を抑制できる。
【0076】
[項目4]
前記インヒビターは、酸素、空気、一酸化炭素、または、二酸化硫黄である、項目1乃至3のいずれかに記載の水素移送システム。
【0077】
[項目5]
前記水素移送先は、水素ガスを消費するガス消費器を含み、
前記ガス消費器は、水素ガスタービン、水素ガスエンジン、または、水素燃料ボイラである、項目1乃至4のいずれかに記載の水素移送システム。
【0078】
[項目6]
前記インヒビター供給流路に配置された流量調整弁を更に備える、項目1乃至5のいずれかに記載の水素移送システム。
【0079】
前記構成によれば、流量調整弁を調整して、水素ガス中に添加するインヒビターの比率を、水素脆化の抑制効果が得られ、且つ、水素移送先の要求を満たすように調整できる。
【0080】
[項目7]
前記水素移送流路における前記接続箇所より上流側部分を流れる水素ガスの流量を検知する流量センサと、
前記流量センサにより検知された流量情報に基づき、前記流量調整弁を制御するコントローラと、を更に備える、項目6に記載の水素移送システム。
【0081】
前記構成によれば、水素ガス中に添加するインヒビターの比率を精度よく調整することができる。
【0082】
[項目8]
前記水素移送流路内のガス中のインヒビターの濃度を検知するガス濃度センサと、
前記ガス濃度センサにより検知された濃度情報に基づき、前記流量調整弁を制御するコントローラと、を更に備える、項目6に記載の水素移送システム。
【0083】
前記構成によれば、水素ガス中に添加するインヒビターの比率を精度よく調整することができる。
【0084】
[項目9]
前記水素移送先は、前記水素移送流路により導かれた水素ガスとオイルとを燃焼して、二酸化硫黄を含む排気ガスを排出する水素エンジンを含み、
前記水素移送システムは、前記水素エンジンで生じた排気ガスを前記インヒビター供給源に移送する排気流路を更に備え、
前記インヒビター供給源は、前記排気流路により導かれた排気ガス中の二酸化硫黄を前記インヒビターとして前記インヒビター供給流路へ供給する、項目1乃至8のいずれかに記載の水素移送システム。
【0085】
前記構成によれば、排気ガス中の二酸化硫黄を有効利用できる。
【0086】
[項目10]
前記インヒビター供給源は、前記水素供給源であって、水を電気分解して水素ガスと酸素ガスとを生成する水素生成装置を含み、
前記水素移送流路は、前記水素生成装置により生成された水素ガスを前記水素移送先に移送し、
前記インヒビター供給流路は、前記水素生成装置により生成された酸素ガスを前記インヒビターとして前記接続箇所に導く、項目1乃至8のいずれかに記載の水素移送システム。
【0087】
前記構成によれば、水素供給源とは別にインヒビター供給源を容易しなくてすむ。
【0088】
[項目11]
水素移送流路により、水素ガスまたは液化水素を供給する水素供給源から、水素ガス、または、液化水素を気化させた水素ガスを水素移送先に向かって流し、
前記水素移送流路における水素ガスが流れる箇所において、水素ガス中にインヒビターを添加する、水素移送方法。
【0089】
前記方法によれば、水素移送流路におけるインヒビターの添加位置および当該添加位置より下流側部分を構成する金属材料の水素脆化を抑制することができる。
【符号の説明】
【0090】
1A :水素移送システム
1B :水素移送システム
1C :水素移送システム
1D :水素移送システム
1E :水素移送システム
2 :水素供給源
3 :ガス消費器
4 :水素移送流路
4a :接続箇所
5 :昇圧器
6 :気化器
7 :インヒビター供給源
8 :インヒビター供給流路
11 :流量調整弁
12 :流量センサ
13 :コントローラ
15 :昇圧器
21 :水素供給源
22 :ガス消費器
23 :水素移送流路
23a :接続箇所
24 :昇圧器
25 :インヒビター供給源
26 :インヒビター供給流路
31 :流量調整弁
32 :流量センサ
33 :コントローラ
41 :排気流路
42 :インヒビター供給源
51 :水素生成装置
図1
図2
図3
図4
図5