(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067775
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】ナノ潤滑装置
(51)【国際特許分類】
F04B 43/02 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
F04B43/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178099
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】509311780
【氏名又は名称】上野 弘
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 弘
【テーマコード(参考)】
3H077
【Fターム(参考)】
3H077AA03
3H077BB10
3H077CC02
3H077CC09
3H077DD06
3H077EE26
3H077FF03
3H077FF36
(57)【要約】
【課題】潤滑油が漏洩するのを抑制できるナノ潤滑装置を提供する。
【解決手段】ナノ潤滑装置1は、ケース2と、ポンプ室7を区画形成するダイヤフラム4と、ダイヤフラム4を変形させる圧電素子5と、流路15,16に設けられたチェック弁6とを備え、ダイヤフラム4を変形によりナノリットルレベルの超微少量の潤滑油を吐出する。ケース2は、ポンプ室7に面する第1プレート11と、第1プレート11の下面11aに重ね合わされた第2プレート12と、を有する。第1プレート11には、流路15,16の内周面151a,161aとチェック弁6の外周面61a,62aとの隙間がポンプ室7と最短距離で連通するのを阻止する阻止部30が設けられている。チェック弁6の外周面61a,62aに所定の締め代をもって嵌合され、且つ第1プレート11の下面11aと第2プレート12との間をシールするシール部材20が設けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油が流れる流路を有するケースと、
前記ケース内において前記流路と連通するポンプ室を区画形成するダイヤフラムと、
前記ダイヤフラムに設けられ、電圧が印加されることで前記ダイヤフラムを変形させる圧電素子と、
前記ケース内において前記流路に設けられ、潤滑油の一方向の流れを許容するとともに潤滑油の他方向への流れを阻止するチェック弁と、を備え、
前記ダイヤフラムの変形により前記ポンプ室の容積が変化することで、ナノリットルレベルの超微少量の潤滑油を吐出するナノ潤滑装置であって、
前記ケースは、前記ポンプ室に面して前記ダイヤフラムと対向する一面を有する第1プレートと、前記第1プレートの前記一面と反対側の他面に重ね合わされた第2プレートと、を有し、
前記流路は、前記第1プレートの前記一面から前記第2プレートの内部に至るまで形成され、
前記チェック弁は、前記流路において前記第1プレートおよび前記第2プレートを跨って挿入されており、
前記第1プレートに設けられ、前記流路の内周面と前記チェック弁の外周面との隙間が、前記ポンプ室と最短距離で連通するのを阻止する阻止部と、
前記チェック弁の前記外周面に所定の締め代をもって嵌合され、且つ前記第1プレートの前記他面と前記第2プレートとの間をシールするシール部材と、を備えるナノ潤滑装置。
【請求項2】
前記阻止部は、前記第1プレートと一体に形成されている、請求項1に記載のナノ潤滑装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ナノ潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微少量の液体を吐出させるポンプとして、特許文献1に示される圧電ポンプ(マイクロポンプ)が知られている。この圧電ポンプは、圧電素子に電圧を印加してダイヤフラムを変形させることで、ポンプ室から微少量の液体を吐出させるものである。ポンプ室には、吸入口からチェック弁(吸入バルブ)を介して液体が吸入され、ポンプ室の液体は、チェック弁(吐出バルブ)を介して吐出口から吐出される。前記2つのチェック弁は、複数のプレート(基板)を積層して構成されたケース内に収容されている。ケースを複数のプレートに分解することで各チェック弁が露出するので、各チェック弁のメンテナンス作業を容易に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、各種機械装置の小型化、高速化および低トルク化等の要請が高まっている。このため、機械装置の回転部や摺動部等の潤滑対象に対して、微少量の潤滑油を確実に供給することができる潤滑装置が要望されている。より具体的には、例えば100nl(ナノリットル)以下の超微少量の潤滑油を、均一かつ安定的に供給することができるナノ潤滑装置が要望されている。そこで、特許文献1に記載の圧電ポンプを、ナノ潤滑装置として用いることが検討されている。
【0005】
前記圧電ポンプをナノ潤滑装置に用いた場合、ダイヤフラムを変形させたときに、ポンプ室の潤滑油の圧力が瞬間的に少し高くなる。その際、ポンプ室から吐出される潤滑油が、ケース内の隣接するプレート間の隙間に極僅かに浸入し、外部へ漏洩するおそれがある。このような極僅かな潤滑油の漏洩は、一般の圧電ポンプでは潤滑油の吐出量が多いので特に問題にならないが、ナノ潤滑装置ではナノリットルレベルの潤滑油の吐出量に占める漏洩量の割合が高くなるので、ナノリットルレベルの潤滑油を均一かつ安定して供給することができなくなる。
【0006】
かかる課題に鑑み、本開示の目的は、潤滑油が漏洩するのを抑制できるナノ潤滑装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本開示のナノ潤滑装置は、潤滑油が流れる流路を有するケースと、前記ケース内において前記流路と連通するポンプ室を区画形成するダイヤフラムと、前記ダイヤフラムに設けられ、電圧が印加されることで前記ダイヤフラムを変形させる圧電素子と、前記ケース内において前記流路に設けられ、潤滑油の一方向の流れを許容するとともに潤滑油の他方向への流れを阻止するチェック弁と、を備え、前記ダイヤフラムの変形により前記ポンプ室の容積が変化することで、ナノリットルレベルの超微少量の潤滑油を吐出するナノ潤滑装置であって、前記ケースは、前記ポンプ室に面して前記ダイヤフラムと対向する一面を有する第1プレートと、前記第1プレートの前記一面と反対側の他面に重ね合わされた第2プレートと、を有し、前記流路は、前記第1プレートの前記一面から前記第2プレートの内部に至るまで形成され、前記チェック弁は、前記流路において前記第1プレートおよび前記第2プレートを跨って挿入されており、前記第1プレートに設けられ、前記流路の内周面と前記チェック弁の外周面との隙間が、前記ポンプ室と最短距離で連通するのを阻止する阻止部と、前記チェック弁の前記外周面に所定の締め代をもって接触し、且つ前記第1プレートの前記他面と前記第2プレートとの間をシールするシール部材と、を備える。
【0008】
上記ナノ潤滑装置によれば、第1プレートに設けられた阻止部は、潤滑油の流路の内周面とチェック弁の外周面との隙間がポンプ室と最短距離で連通するのを阻止している。このため、圧電素子に電圧を印加してダイヤフラムを変形させたときに、ポンプ室で瞬間的に圧力が高くなった潤滑油が、前記隙間に最短距離で勢いよく浸入するのを抑制することができる。また、潤滑油が前記隙間に浸入しても、その潤滑油が第1プレートと第2プレートとの間を通過するのを、シール部材によって抑制することができる。これにより、潤滑油が、前記隙間を介して第1プレートと第2プレートとの間を通過し、ケース外に漏洩するのを抑制することができる。
【0009】
(2)前記(1)のナノ潤滑装置において、前記阻止部は、前記第1プレートと一体に形成されているのが好ましい。
この場合、阻止部を第1プレートと別体に設ける必要がない。さらに、阻止部を第1プレートと別体にした場合、阻止部と第1プレートとの隙間をシールするシール構造が別途必要になるが、阻止部を第1プレートと一体にすることで前記シール構造も不要になる。したがって、部品点数が減るので、ナノ潤滑装置の構成を簡素化することができる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、潤滑油が漏洩するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係るナノ潤滑装置を示す斜視図である。
【
図5】ポンプ室と吸入路との連通部分を示す拡大断面図である。
【
図6】ポンプ室と吐出路との連通部分を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、好ましい実施形態について図面を参照しつつ説明する。
[ナノ潤滑装置の全体構成]
図1は、実施形態に係るナノ潤滑装置1を示す斜視図である。
図2は、ナノ潤滑装置1の断面図である。
図1および
図2において、ナノ潤滑装置1は、例えば歯車機構の潤滑対象である歯車に対して、超微少量の潤滑油を供給する目的で使用される。以下の本実施形態の説明において、「上」、「下」、「右」、「左」、「前」、および「後」といった方向は、
図1に示す方向を意味する。
【0013】
ナノ潤滑装置1は、例えば長さおよび幅が10~15mm、高さが7~10mm程度の極小サイズのものである。ナノ潤滑装置1は、ケース2と、ノズル3と、ダイヤフラム4と、圧電素子5と、一対のチェック弁6と、を備えている。
【0014】
ケース2は、第1プレート11と、第2プレート12と、を有している。第1プレート11および第2プレート12は、いずれも矩形状に形成されている。第2プレート12は、第1プレート11よりも上下方向に厚く形成されている。第1プレート11および第2プレート12は、上下方向に重ね合わされた状態で、複数のボルト17によって分解可能に連結されている(
図7も参照)。
【0015】
図3は、ケース2を上側から見た斜視図である。なお、
図3では、ダイヤフラム4と圧電素子5の図示を省略している。
図2および
図3において、ケース2の第1プレート11には、上側に開口する溝部13が形成されている。溝部13の開口は、図示を省略する蓋部材により閉鎖される。溝部13の内部には、その底面(一面)13aよりも上方に僅かに突出する段差部14が設けられている。段差部14は、溝部13の前後左右の各側面に沿って略矩形枠状に形成されている。第2プレート12は、その上面12aが第1プレート11の下面(他面)11aに接するように、当該下面11aに重ね合わされている。
【0016】
第2プレート12の右側の側面において開口する吸入路15(後述)には、給油管91の一端部が接続されている。給油管91の他端部は、図示を省略する貯油タンクに接続されている。この貯油タンクから給油管91を介して、ナノ潤滑装置1に潤滑油が供給されるようになっている。
【0017】
第2プレート12の前側の側面において開口する吐出路16(後述)には、ノズル3の基端部が挿入して取り付けられている。ノズル3は、外径が細い円筒状の部材であり、ノズル3の先端3aから潤滑油が吐出されるようになっている。ノズル3の外径および内径は、特に限定されないが、例えば外径は1.0mmであり、内径は0.2mmである。
【0018】
図1および
図2において、第1プレート11の溝部13内における段差部14の上面14aには、ダイヤフラム4が設けられている。ダイヤフラム4は、例えば厚みが30~100μmの矩形状の金属薄板からなる。ダイヤフラム4の下面は、段差部14の上下方向の高さ分だけ、溝部13の底面13aに対して上方向に離れて対向している。ダイヤフラム4の下面と溝部13の底面13aとの間には、ポンプ室7が区画形成されている。これにより、溝部13の底面13aは、ポンプ室7に面している。ポンプ室7は、密封された微小空間であり、その容積は潤滑油の吐出量に応じて設定される。なお、
図2においては、ポンプ室7の微小空間を拡大して表示している。
【0019】
ダイヤフラム4の上面には、圧電素子5が接着されている。圧電素子5は、矩形状のピエゾ素子からなる。圧電素子5に電圧が印加されると、ダイヤフラム4が下方に湾曲(変形)する。このダイヤフラム4の変形によって、ポンプ室7の容積が減少(変化)するようになっている。
【0020】
[潤滑油の流路]
図2および
図3において、ケース2には、潤滑油が流れる流路が形成されている。流路は、給油管91からポンプ室7へ潤滑油を吸入する吸入路15と、ポンプ室7からノズル3へ潤滑油を吐出する吐出路16と、を有している。吸入路15はケース2の右側に形成されており、吐出路16はケース2の左側に形成されている。吸入路15および吐出路16は、それぞれ第1プレート11の溝部13の底面13aから、第2プレート12の内部に至るまで形成されており、ポンプ室7と連通している。
【0021】
吸入路15は、第1プレート11に形成された第1吸入路部151と、第2プレート12に形成された第2吸入路部152および第3吸入路部153と、を有している。第1吸入路部151は、溝部13の底面13aから第1プレート11の下面11aまで貫通して形成された円孔からなる。第1吸入路部151には、後述する第1チェック弁61の一部分が挿入される。
【0022】
第2吸入路部152は、第2プレート12の上側に形成されている。第2吸入路部152は、第2プレート12の上面12aで開口する円孔からなる。第2吸入路部152の孔径は、第1吸入路部151の孔径と同一であり、第1チェック弁61の他部分が挿入される。
【0023】
第3吸入路部153は、第2プレート12の下側に形成されている。第3吸入路部153は、第2吸入路部152よりも小径の円孔からなり、
図2の断面視においてL字状に形成されている。第3吸入路部153の一端は、第2吸入路部152の下端と連通している。第3吸入路部153の他端は、第2プレート12の右側の側面において開口している。
【0024】
吐出路16は、第1プレート11に形成された第1吐出路部161と、第2プレート12に形成された第2吐出路部162および第3吐出路部163と、を有している。第1吐出路部161は、溝部13の底面13aから第1プレート11の下面11aまで貫通して形成された円孔からなる。第1吐出路部161には、後述する第2チェック弁62の一部分が挿入される。
【0025】
第2吐出路部162は、第2プレート12の上側に形成されている。第2吐出路部162は、第2プレート12の上面12aで開口する円孔からなる。第2吐出路部162の孔径は、第1吐出路部161の孔径と同一である。第2吐出路部162は、第1吐出路部161よりも上下方向に深く形成されている。第2吐出路部162には、第2チェック弁62の他部分が挿入される。
【0026】
第3吐出路部163は、第2プレート12の下側に形成されている。第3吐出路部163は、第2吐出路部162よりも小径の円孔からなり、第3吸入路部153と同様に、断面L字状に形成されている。第3吐出路部163の一端は、第2吐出路部162の下端と連通している。第3吐出路部163の他端は、第2プレート12の前側の側面において開口している。
【0027】
[チェック弁]
図2において、一対のチェック弁6は、ケース2内の吸入路15に設けられた第1チェック弁61と、ケース2内の吐出路16に設けられた第2チェック弁62と、からなる。なお、
図2では、第1チェック弁61及び第2チェック弁62を簡略化して図示している(
図5及び
図6も同様)。第1チェック弁61は、吸入路15において、第1プレート11の第1吸入路部151および第2プレート12の第2吸入路部152を跨って挿入されている。第2チェック弁62は、吐出路16において、第1プレート11の第1吐出路部161および第2プレート12の第2吐出路部162を跨って挿入されている。
【0028】
第1チェック弁61は、給油管91からポンプ室7に向かう一方向(吸入方向)への潤滑油の流れを許容するとともに、ポンプ室7から給油管91に向かう他方向への潤滑油の流れを阻止する。第2チェック弁62は、ポンプ室7からノズル3(
図1参照)に向かう一方向(吐出方向)への潤滑油の流れを許容するとともに、ノズル3からポンプ室7に向かう他方向への潤滑油の流れを阻止する。
【0029】
前記ナノ潤滑装置1において、圧電素子5に電圧を印加すると、ダイヤフラム4が下方に湾曲することでポンプ室7の容積が減少し、ポンプ室7内が瞬間的に正圧になる。これにより、予めポンプ室7に吸入されている潤滑油の圧力が瞬間的に少し高くなるので、当該潤滑油が、吐出路16および第2チェック弁62を通してノズル3へ吐出される。その際、ダイヤフラム4を1回変形させるごとに、100nl以下2nl以上であるナノリットルレベルの超微少量の潤滑油が吐出される。圧電素子5に対する電圧の印加が停止すると、ダイヤフラム4が原位置に復帰する。これにより、ポンプ室7の容積が増加してポンプ室7内が負圧になるので、給油管91から吸入路15および第1チェック弁61を介してポンプ室7に潤滑油が吸入される。
【0030】
ナノ潤滑装置1は、上記のように極小サイズであるため、第1チェック弁61および第2チェック弁62も極小サイズとなり、弁内部において潤滑油が詰まり易くなる。このため、第1チェック弁61および第2チェック弁62のメンテナンス作業が定期的に行われる。そのメンテナンス作業が行われる際、
図1に示す状態から複数のボルト17の締め付けを緩め、
図4に示すように第1プレート11を第2プレート12から分離してケース2を分解する。これにより、第1チェック弁61および第2チェック弁62の各上部が露出するので、各チェック弁61,62のメンテナンス作業時に、各チェック弁61,62に容易にアクセスすることができる。また、各チェック弁61,62を第2プレート12から取り外した状態でメンテナンス作業を行うこともできる。これにより、各チェック弁61,62のメンテナンス作業を容易に行うことができる。
【0031】
図5は、ポンプ室7と吸入路15との連通部分を示す拡大断面図である。
図6は、ポンプ室7と吐出路16との連通部分を示す拡大断面図である。
図5および
図6において、ナノ潤滑装置1が潤滑油を吐出するとき、上記のようにポンプ室7の潤滑油の圧力が瞬間的に少し高くなる。このため、ポンプ室7の潤滑油が、吸入路15と第1チェック弁61との隙間、および吐出路16と第2チェック弁62との隙間に極僅かに浸入する場合がある。
【0032】
具体的には、ポンプ室7内の潤滑油は、第1プレート11の第1吸入路部151の内周面151aと、第1チェック弁61の外周面61aとの隙間(以下、第1隙間ともいう)に極僅かに浸入する場合がある。また、ポンプ室7内の潤滑油は、第1プレート11の第1吐出路部161の内周面161aと、第2チェック弁62の外周面62aとの隙間(以下、第2隙間ともいう)に極僅かに浸入する場合がある。
【0033】
第1隙間および第2隙間に浸入した潤滑油は、第1プレート11の下面11aと第2プレート12の上面12aとの間を通過してケース2外に漏洩するおそれがある。このように潤滑油が漏洩すると、ナノ潤滑装置1は超微少量の潤滑油を均一かつ安定して吐出することができなくなる。そこで、本実施形態のナノ潤滑装置1は、潤滑油のケース2外への漏洩を抑制するシール構造として、一対のシール部材20と、一対の阻止部30と、を備えている。
【0034】
[シール部材]
一対のシール部材20は、第1チェック弁61の外周面61aよりも径方向外側に設けられた環状の第1シール部材21と、第2チェック弁62の外周面62aよりも径方向外側に設けられた環状の第2シール部材22と、からなる。第1シール部材21および第2シール部材22は、例えばOリングである。
【0035】
図5において、第1シール部材21の内径は、第1チェック弁61の外径よりも少し小さい。これにより、第1シール部材21は、第1チェック弁61の外周面61aに、所定の締め代をもって嵌合されている。したがって、第1シール部材21の内周側は、第1チェック弁61の外周面61aに密着している。
【0036】
第2プレート12の上面12aには、第2吸入路部152の径方向外方に第1環状溝18が形成されている。第1環状溝18の内周側は、第2吸入路部152と連通している。第1環状溝18には、第1チェック弁61の外周面61aに嵌合された第1シール部材21が嵌め込まれている。第1環状溝18の外径は、第1シール部材21の外径よりも少し小さい。これにより、第1シール部材21の外周側は、第1環状溝18の外周面18aに密着している。
【0037】
第1シール部材21は、第1プレート11の下面11aと、第1環状溝18の底面18bとによって、上下方向に圧縮されている。これにより、第1シール部材21の上側は、第1プレート11の下面11aに密着し、第1シール部材21の下側は、第2プレート12の第1環状溝18の底面18bに密着している。
【0038】
以上により、第1シール部材21の内周側、外周側、上側、及び下側の全てが、それぞれ対向する相手面61a,18a,11a,18bとの間をシールしている。これにより、ポンプ室7から第1隙間に浸入した潤滑油が、第1シール部材21の上側又は下側を通過するのを抑制することができる。その結果、第1隙間に浸入した潤滑油が、第1プレート11の下面11aと第2プレート12の上面12aとの間を通過してケース2外に漏洩するのを抑制することができる。
【0039】
なお、第1環状溝18は、第1プレート11の下面11aにおいて第1吸入路部151の径方向外方に形成されていてもよい。その場合、第1環状溝18に嵌め込まれる第1シール部材21は、第2プレート12の上面12aおよび第1チェック弁61の外周面61aにそれぞれ密着させればよい。
【0040】
図6において、第2シール部材22の内径は、第2チェック弁62の外径よりも少し小さい。これにより、第2シール部材22は、第2チェック弁62の外周面62aに、所定の締め代をもって嵌合されている。したがって、第2シール部材22の内周側は、第2チェック弁62の外周面62aに密着している。
【0041】
第2プレート12の上面12aには、第2吐出路部162の径方向外方に第2環状溝19が形成されている。第2環状溝19の内周側は、第2吐出路部162と連通している。第2環状溝19には、第2チェック弁62の外周面62aに嵌合された第2シール部材22が嵌め込まれている。第2環状溝19の外径は、第2シール部材22の外径よりも少し小さい。これにより、第2シール部材22の外周側は、第2環状溝19の外周面19aに密着している。
【0042】
第2シール部材22は、第1プレート11の下面11aと、第2環状溝19の底面19bとによって、上下方向に圧縮されている。これにより、第2シール部材22の上側は、第1プレート11の下面11aに密着し、第2シール部材22の下側は、第2プレート12の第2環状溝19の底面19bに密着している。
【0043】
以上により、第2シール部材22の内周側、外周側、上側、及び下側の全てが、それぞれ対向する相手面62a,19a,11a,19bとの間をシールしている。これにより、ポンプ室7から第2隙間に浸入した潤滑油が、第2シール部材22の上側又は下側を通過するのを抑制することができる。その結果、第2隙間に浸入した潤滑油が、第1プレート11の下面11aと第2プレート12の上面12aとの間を通過してケース2外に漏洩するのを抑制することができる。
【0044】
なお、第2環状溝19は、第1プレート11の下面11aにおいて第1吐出路部161の径方向外方に形成されていてもよい。その場合、第2環状溝19に嵌め込まれる第2シール部材22は、第2プレート12の上面12aおよび第2チェック弁62の外周面62aにそれぞれ密着させればよい。
【0045】
[阻止部]
図5および
図6において、一対の阻止部30は、第1プレート11の吸入路15に設けられた第1阻止部31と、第1プレート11の吐出路16に設けられた第2阻止部32と、からなる。本実施形態の第1阻止部31および第2阻止部32は、いずれも第1プレート11に一体に形成されている。
【0046】
図7は、第1プレート11を下側から見た斜視図である。
図5および
図7において、第1阻止部31は、環状の部材からなり、第1チェック弁61の上方において第1吸入路部151の内周面151aから径方向内方に突出している。第1阻止部31の内径は、第1チェック弁61の外径よりも小さい。第1阻止部31の上下方向の厚みは、第1阻止部31の下面に第1チェック弁61の上面が当接する寸法に設定されるのが好ましい。
【0047】
以上により、第1吸入路部151の内周面151aと第1チェック弁61の外周面61aとの第1隙間の直上には、第1阻止部31が配置されている。すなわち、第1阻止部31は、第1隙間がポンプ室7と最短距離で連通するのを阻止している。したがって、ポンプ室7内において第1隙間の上方にある潤滑油が
図5の鉛直下方に向かって流れるのを、第1阻止部31によって阻止することができる。
【0048】
図6および
図7において、第2阻止部32は、環状の部材からなり、第2チェック弁62の上方において第1吐出路部161の内周面161aから径方向内方に突出している。第2阻止部32の内径は、第2チェック弁62の外径よりも小さい。第2阻止部32の上下方向の厚みは、第2阻止部32の下面に第2チェック弁62の上面が当接する寸法に設定されるのが好ましい。
【0049】
以上により、第1吐出路部161の内周面161aと第2チェック弁62の外周面62aとの第2隙間の直上には、第2阻止部32が配置されている。すなわち、第2阻止部32は、第2隙間がポンプ室7と最短距離で連通するのを阻止している。したがって、ポンプ室7内において第2隙間の上方にある潤滑油が
図6の鉛直下方に流れるのを、第2阻止部32によって阻止することができる。
【0050】
[実施形態の作用効果]
本実施形態のナノ潤滑装置1によれば、潤滑油が流れるケース2の流路(吸入路15および吐出路16)には、ケース2を構成する第1プレート11および第2プレート12を跨ってチェック弁6が挿入されている。このため、第1プレート11を第2プレート12から分離することでチェック弁6が露出するので、チェック弁6のメンテナンス作業時に、チェック弁6に容易にアクセスすることができる。また、チェック弁6を第2プレート12から取り外した状態でメンテナンス作業を行うこともできる。これにより、チェック弁6のメンテナンス作業を容易に行うことができる。
【0051】
第1プレート11に設けられた阻止部30は、潤滑油の流路15,16の内周面151a,161aとチェック弁6の外周面61a,62aとの隙間がポンプ室7と最短距離で連通するのを阻止している。このため、圧電素子5に電圧を印加してダイヤフラム4を湾曲させたときに、ポンプ室7で瞬間的に圧力が高くなった潤滑油が、前記隙間に向かって鉛直下方に流れるのを阻止できる。これにより、圧力が高くなった潤滑油が、前記隙間に最短距離で勢いよく浸入するのを抑制することができる。また、チェック弁6の外周面61a,62aに所定の締め代をもって接触し、且つ第1プレート11の下面11aと第2プレート12の上面12aとの間をシールするシール部材20が設けられている。これにより、潤滑油が前記隙間に浸入しても、その潤滑油が第1プレート11と第2プレート12との間を通過するのを、シール部材20によって抑制することができる。したがって、潤滑油が、前記隙間を介して第1プレート11の下面11aと第2プレート12の上面12aとの間を通過し、ケース2外に漏洩するのを抑制することができる。
【0052】
阻止部30は、第1プレート11と一体に形成されている。これにより、阻止部30を第1プレート11と別体に設ける必要がない。さらに、阻止部30を第1プレート11と別体にした場合、阻止部30と第1プレート11との隙間をシールするシール構造が別途必要になるが、阻止部30を第1プレート11と一体にすることで前記シール構造も不要になる。したがって、部品点数が減るので、ナノ潤滑装置1の構成を簡素化することができる。
【0053】
[その他]
本発明に係るナノ潤滑装置は、歯車以外に、リニアガイド、軸受、回転ローラ、摺動軸等の種々の潤滑対象に適用して実施することができる。ケース2は、少なくとも第1プレート11および第2プレート12の2枚のプレートを有していればよく、3枚以上のプレートを有していてもよい。シール部材20は、第1シール部材21および第2シール部材22の少なくとも一方を有していればよい。同様に、阻止部30は、第1阻止部31および第2阻止部32の少なくとも一方を有していればよい。阻止部30は、第1プレート11と別体であってもよい。
【0054】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0055】
1 ナノ潤滑装置
2 ケース
4 ダイヤフラム
5 圧電素子
6 チェック弁
7 ポンプ室
11 第1プレート
11a 下面(他面)
12 第2プレート
13a 底面(一面)
15 吸入路(流路)
16 吐出路(流路)
20 シール部材
30 阻止部
151a,161a 内周面
61a,62a 外周面