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  • 特開-車両下部構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067795
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】車両下部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20240510BHJP
   B62D 35/00 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
B62D25/20 N
B62D35/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178125
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】倉地 星也
(72)【発明者】
【氏名】谷口 圭一
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203BB03
3D203CB27
(57)【要約】
【課題】強いダウンフォースを発生させることができる乗用車の車両下部構造を提供する。
【解決手段】本発明の車両下部構造は、少なくとも車両の後部下面を覆うアンダーカバーと、
上記アンダーカバーから吊り下がり、車両の前後方向に延びる複数の縦壁部と、
上記アンダーカバーと平行に設けられ、上記縦壁部間の鉛直方向中間部を架橋した棚部とを備える。
そして、上記縦壁部が、後輪のホイールハウス間に設けられ、上記縦壁部が設けられた領域のうち、車両幅方向両側の側部領域に上記棚部を設け、車両幅方向中央領域には上記棚部を設けないこととしたため、車両サイドから車両下に巻き込んだ走行風と、車両フロントから入った整流された走行風とが分けられて、強いダウンフォースを発生させることができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも車両の後部下面を覆うアンダーカバーと、
上記アンダーカバーから吊り下がり、車両の前後方向に延びる複数の縦壁部と、
上記アンダーカバーと平行に設けられ、上記縦壁部間の鉛直方向中間部を架橋した棚部とを備え、
上記縦壁部が、後輪のホイールハウス間に設けられ、
上記縦壁部が設けられた領域のうち、車両幅方向両側の側部領域に上記棚部を設け、車両幅方向中央領域には上記棚部を設けないことを特徴とする車両下部構造。
【請求項2】
上記アンダーカバーが、後輪のホイールハウスの前端よりも後方かつ後輪の車軸よりも前方から車両後端に向かってせり上がり、
上記棚部が上記アンダーカバーに沿ってせり上がっていることを特徴とする請求項1に記載の車両下部構造。
【請求項3】
上記縦壁部の前端が、ホイールハウスの前端よりも後方かつ後輪の車軸よりも前方に位置し、
上記棚部の前端が、後輪の車軸よりも後方かつホイールハウスの後端よりも前方に位置することを特徴とする請求項2に記載の車両下部構造。
【請求項4】
上記縦壁部と上記棚部とが、左右対称に設けられていることを特徴とする請求項2記載の車両下部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両下部構造に係り、更に詳細には、ダウンフォースを発生させる車両下部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両下部に様々な部品が露出していると、高速走行時に車両下部に露出した部品間のくぼみによって空気の流れが乱れて抵抗となるため、近年では車両下部にアンダーカバーが設けられる。
【0003】
上記アンダーカバーによって、フロントから車両下に入ってきた走行風がスムーズに流れ、車両下の走行風の流速が上がるとベルヌーイの定理より、車両下の圧力が低くなり、車両が下方に引っ張られるダウンフォースを発生させることができる。
【0004】
非特許文献1には、リアアクスルよりも前方、かつ車幅方向中央部のアンダーカバーの下面に開口部を設け、ここから巻き込んだ整流された空気流によってダウンフォースを発生させる車両下部構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】使用禁止になった”画期的”デバイス4:勢力図を一変させた、”魔法の”ダブルディフューザー 2020/05/26 執筆:Matt Somerfield URL https://jp.motorsport.com/f1/news/banned-why-double-diffusers-were-outlawed/4793903/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に記載の車両下部構造は、最低地上高が極めて低いレーシングカーの車両下部構造に関するものであり、最低地上高が高い乗用車とレーシングカーとでは、ホイールハウスの有無など、後輪近傍の構造が異なり、後輪による車両下の空気の流れが異なるため、同様な方法でダウンフォースを発生させることは困難である。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、レーシングカーに比して最低地上高が高く、ホイールハウスを有する乗用車において、強いダウンフォースを発生させることができる車両下部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、最低地上高が高い乗用車においては、後輪に走行風が当たって車両サイドから車両下に空気を巻き込み、これが車両下の走行風の流れを乱し、車両下の走行風の流速が遅くなっていることを突き止めた。
【0009】
そして、車両サイドから車両下に空気を巻き込み、流れが乱れた走行風と、車両フロントからの整流された走行風とを分けることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の車両下部構造は、少なくとも車両の後部下面を覆うアンダーカバーと、
上記アンダーカバーから吊り下がり、車両の前後方向に延びる複数の縦壁部と、
上記アンダーカバーと平行に設けられ、上記縦壁部間の鉛直方向中間部を架橋した棚部とを備える。
そして、上記縦壁部が、後輪のホイールハウス間に設けられ、上記縦壁部が設けられた領域のうち、車両幅方向両側の側部領域に上記棚部を設け、車両幅方向中央領域には上記棚部を設けないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、車両サイドから車両下に巻き込んだ走行風と、車両フロントから入った整流された走行風とを分けることとしたため、車両下中央領域を流れる車両前方からの走行風の流れが速くなって、強いダウンフォースを発生させることができる車両下部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の車両下部構造を車両の斜め下後方から見た状態の一例を示す図である。
図2】本発明の車両下部構造を車両の斜め下前方から見た状態の一例を示す図である。
図3】車両下の圧力を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の車両下部構造について詳細に説明する。
本発明の車両下部構造は、図1に示すように、車両の下面を覆うアンダーカバーと、上記アンダーカバーから吊り下がり、車両の前後方向に延びる複数の縦壁部と、上記アンダーカバーと平行に設けられ、上記縦壁間の鉛直方向中間部を架橋した棚部とを備える。
【0014】
上記アンダーカバーは、車両下部に設けられた様々な部品を覆い、上記部品間のくぼみが空気入り込むのを防止し、車両下を流れる走行風をスムーズに車両後方に流すものである。
【0015】
上記アンダーカバーは、少なくとも後輪のホイールハウスの前端から車両後端を覆っていればよいが、車両の前方から連続していることが好ましい。
【0016】
これにより、車両下を流れる車両前方からの走行風が整流されて、走行風が車両下をスムーズに流れるのでダウンフォースを発生させることができる。
【0017】
なお、「車両の前方から連続している」とは、車両の下面が連続して覆われていればよく、アンダーカバーが分割されていないことを意味しない。
【0018】
上記アンダーカバーによって、走行風が車両下をスムーズに流れて車両下が負圧になると、車両下と車両サイドとの圧力差によって、車両サイドから走行風を巻き込み易くなる。
【0019】
上記縦壁部は、図1に示すように、車両の前後方向に延び、後輪のホイールハウス間のホイールハウスの近傍に設けられて、後輪に当たって車両サイドから車両下に巻き込んだ走行風が、車両幅方向中央領域まで入り込むことを防止するものである。
【0020】
上記縦壁部が、左右の後輪のホイールハウスの近傍にそれぞれ2つ以上並んで設けられていることで、上記ホイールハウスの近傍に、それぞれ車両前後方向に延びる空気流路が形成される。
【0021】
すると、図2に示すように、車両前方からの車両幅方向中央領域を流れる走行風と、車両サイドから巻き込んだ走行風との流れを分離することができ、車両サイドから巻き込んだ走行風によって車両前方からの流速が速い走行風が乱されて、その流速が低下することを防止できる。
【0022】
したがって、図2中、太い矢印で示す、車両幅方向中央領域を流れる車両前方からの走行風の流速が上がり、車両下の圧力が低くなって、強いダウンフォースを得ることができる。
【0023】
さらに、車両サイドから巻き込んだ空気が、ホイールハウスに近い側の縦壁部を超えることで、該縦壁部の近傍で車両幅方向外側と内側とに圧力差が生じて、図2に示すように、空気流路内に旋回流が生じ、縦壁部間の空気流路内においてもダウンフォースを発生させることができる。
【0024】
上記空気流路は、左右のホイールハウスの近傍に、それぞれ1つずつ形成されればよいが、左右それぞれに複数の空気流路を形成してもよい。
【0025】
上記棚部は、アンダーカバーと平行に設けられて、上記縦壁部によって形成された車両下の空気流路内を流れる走行風を鉛直方向に分離するものである。
【0026】
車両下を流れる走行風は、地面側が遅く車体側が速い。そして、上記空気流路を流れる走行風は、車両サイドから巻き込んだ走行風であり、旋回しており未だ完全には整流されておらず、地面側の遅い走行風の影響を受ける。
【0027】
上記棚部によって、上記空気流路内を流れる走行風を鉛直方向に分離し、上記2つの縦壁部と、アンダーカバーと、棚部と、で囲まれた空気流路を形成することで、この囲まれた空気流路を流れる走行風は、地面側の遅い走行風だけでなく、車両サイドから巻き込んだ走行風の影響を受けない。
【0028】
したがって、上記囲まれた空気流路内を流れる走行風が乱れることが防止され、ここを流れる走行風の流れが速くなってダウンフォースを発生させることができる。
【0029】
この棚部は、一部が縦壁部間の鉛直方向中間部に設けられていれば、そのすべてが縦壁部間の鉛直方向中間部に設けられている必要はなく、縦壁部の形状に合わせて、例えば、その前端が縦壁部の下端から始まっていてもよい。
【0030】
上記棚部は、ホイールハウス近傍の空気流路に設けられていれば足り、車両幅方向中央領域には設けない。すなわち、上記縦壁部が設けられた領域のうち、車両幅方向両側の側部領域に上記棚部を設け、車両幅方向中央領域には上記棚部を設けない。
車両幅方向中央領域は、車両前方からの流速が速い走行風が流れているので、車両幅方向中央領域には棚部を設けないことで、上記縦壁部と相俟って、図2に示すように、流速が速い走行風がそのまま車両幅方向中央領域を吹き抜けるので、強いダウンフォースを得ることができる。
【0031】
このように、本発明の車両下部構造は、車両下を流れる走行風を、車両幅方向と、車両高さ方向とに分離している。
【0032】
したがって、車両前方からの車両幅方向中央領域を流れる流速の走行風が、車両サイドから巻き込んだ走行風の影響を受けて遅くなることが防止されることと共に、上記空気流路内を流れる走行風が、地面近傍の遅い走行風の影響を受けることが防止され、極めて強いダウンフォースを発生させることができる。
【0033】
また、本発明の車両下部構造は、上記アンダーカバーが、後輪のホイールハウスの前端よりも後方かつ後輪の車軸よりも前方から車両後端に向かってせり上がり、かつ上記棚部が上記アンダーカバーに沿ってせり上がっていることが好ましい。
【0034】
上記アンダーカバーが、後輪の近傍から車両後端に向かってせり上がっていることで、車両幅方向中央領域を流れる走行風を、車両後方に向けて拡散させることができ、後輪の近傍で負圧を発生させ、後輪の近傍で生じるダウンフォースを強くすることができる。
【0035】
また、棚部が上記アンダーカバーに沿って平行にせり上がっていることで、2つの縦壁部と、アンダーカバーと、棚部と、で囲まれた空気流路の断面積が、車両前方から後方に向けて一定になり、上記囲まれた空気流路内での圧力変化が生じることがないので、該空気流路内を走行風がスムーズに流れ、ダウンフォースを得ることができる。
【0036】
本発明の車両下部構造は、上記縦壁部の前端が、ホイールハウスの前端よりも後方かつ後輪の車軸よりも前方に位置し、上記棚部の前端が、後輪の車軸よりも後方かつホイールハウスの後端よりも前方に位置することが好ましい。
【0037】
上記縦壁部が、上記アンダーカバーがせり上がり始める、ホイールハウスの前端よりも後方かつ後輪の車軸よりも前方から始まっていることで、縦壁部が地面に当たることなく、後輪に当たって車両サイドから車両下に巻き込んだ走行風が、車幅方向中央領域に向かうことを防止できる。
【0038】
また、上記棚部が、後輪の車軸よりも後方かつホイールハウスの後端よりも前方から始まっていれば、車両サイドから巻き込んだ走行風が後輪近傍の空気流路に入ることを棚部が妨げずに、後輪の近傍の空気流路を流れる走行風を鉛直方向に分離することができる。
【0039】
本発明の車両下部構造は、上記縦壁部と上記棚部とが、左右対称に設けられていることが好ましい。これにより、左右のバランスがよいダウンフォースを発生させることができる。
【実施例0040】
図1に示す構造の縦壁部と棚部とを有する車両下部構造(実施例)の車両下の圧力と、アンダーカバーのみ(比較例)車両下の圧力とを、車両の前方から後方にかけて測定した結果を図3に示す。
【0041】
図3の結果から、本発明の車両下部構造は、後輪近傍で比較例よりも車両下部構造圧力が下がっており、強いダウンフォースが発生していることが分かる。
【符号の説明】
【0042】
1 アンダーカバー
11 せり上がり開始箇所
2 縦壁部
21 縦壁部前端
3 棚部
31 棚部前端
4 空気流路
5 後輪
6 ホイールハウス
図1
図2
図3