(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067806
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】水硬性組成物の吹付装置
(51)【国際特許分類】
B28B 1/32 20060101AFI20240510BHJP
E21D 11/10 20060101ALI20240510BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
B28B1/32 D
E21D11/10 D
E02D17/20 104B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178147
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(74)【代理人】
【識別番号】100203242
【弁理士】
【氏名又は名称】河戸 春樹
(72)【発明者】
【氏名】谷本 理勇
【テーマコード(参考)】
2D044
2D155
【Fターム(参考)】
2D044DC04
2D155BA05
2D155CA01
2D155DB01
2D155KA08
2D155LA10
(57)【要約】
【課題】対象表面に吹き付けられた水硬性組成物の付着力が高く、簡便な、水硬性組成物の吹付装置を提供する。
【解決手段】水硬性組成物を対象表面に吹き付ける水硬性組成物の吹付装置1であって、水硬性組成物を吸引する吸引口2aと、前記吸引口2aから吸引された水硬性組成物が吐出される吐出ノズル2bとを有する筒状の本体2と、前記本体2の側部に設けられ、当該本体2内部に、該本体2の内側面から前記吐出ノズル2b方向に向かって流れる圧縮空気を供給する入力部3と、を備え、吐出ノズル2bの先端の開口部の内径dに対する、吐出ノズル2bの先端と入力部3からの圧縮空気が流通する本体2の内側壁に形成された開口2cの端部との距離Lの割合L/dが、1.5以上5.0以下である、水硬性組成物の吹付装置1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性組成物を対象表面に吹き付ける水硬性組成物の吹付装置であって、
水硬性組成物を吸引する吸引口と、前記吸引口から吸引された水硬性組成物が吐出される吐出ノズルとを有する筒状の本体と、
前記本体の側部に設けられ、当該本体の内部に、該本体の内側面から前記吐出ノズル方向に向かって流れる圧縮空気を供給する入力部と、を備え、
前記吐出ノズルの先端の開口部の内径dに対する、前記吐出ノズルの先端と前記入力部からの圧縮空気が流通する前記本体の内側壁に形成された開口の端部との距離Lの割合L/dが、1.5以上5.0以下である、
水硬性組成物の吹付装置。
【請求項2】
吐出ノズルの先端の開口部の内径dが、1.0cm以上7.0cm以下である、請求項1に記載の水硬性組成物の吹付装置。
【請求項3】
前記入力部に圧縮空気を供給する空気圧縮機を備え、該空気圧縮機から供給される圧縮空気の圧力が、0.2MPa以上0.9MPa以下である、請求項1又は2に記載の水硬性組成物の吹付装置。
【請求項4】
水硬性粉体と水を含む水硬性組成物を、請求項1~3の何れか1項に記載の水硬性組成物の吹付装置で、対象表面に吹き付ける、水硬性組成物の吹付方法。
【請求項5】
前記水硬性組成物は、粘土鉱物を含む、請求項4に記載の水硬性組成物の吹付方法。
【請求項6】
前記水硬性組成物は、高分子増粘剤を含む、請求項4又は5に記載の水硬性組成物の吹付方法。
【請求項7】
前記高分子増粘剤は、ポリアルキレンオキシド及びカルボキシ基を有する高分子化合物から選ばれる1種以上である、請求項6に記載の水硬性組成物の吹付方法。
【請求項8】
請求項1~3の何れか1項に記載の水硬性組成物の吹付装置と、前記吹付装置の吐出ノズルと対向して備えられ、該吹付装置から水硬性組成物が吹付けられる被吹付部材と、を備える、水硬性組成物の評価装置。
【請求項9】
前記被吹付部材を収容する箱を備え、該箱の一方の内壁に前記吹付部材が備えられ、前記内壁と対向する前記箱の側部に前記吹付装置が備えられる、請求項8に記載の水硬性組成物の評価装置。
【請求項10】
評価対象である水硬性組成物を、請求項1~3の何れか1項に記載の水硬性組成物の吹付装置を用いて、被吹付部材に吹き付ける、水硬性組成物の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物の吹付装置、水硬性組成物の吹付方法、水硬性組成物の評価装置及び水硬性組成物の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル掘削等露出した地山の崩落を防止するために、急結剤をコンクリートに配合した急結性コンクリートを用いた吹付工法が行われている。この工法のうち、湿式吹付工法と呼ばれるものは、通常、掘削工事現場に設置した、セメント、骨材及び水の計量混合プラントで吹付コンクリートを調製し、それをアジテータ車で運搬・吹付け機に移送する。そして、この吹付コンクリートと粉末急結剤を、吹付け機のポンプで吹付コンクリートを吐出口まで空気圧送するラインと、その途中に設けた合流管で粉末急結剤を他方から空気圧送するラインとで合流混合して、急結性吹付コンクリートとして地山面に所定の厚みになるまで吹き付ける工法である。
【0003】
特許文献1には、モルタル又はコンクリートである主材を搬送する吹付装置であって、撹拌手段により撹拌された主材を吐出可能な吐出口を有する撹拌混合容器と、吐出口に基端が接続された搬送管と、搬送管に設けられ、圧縮空気を利用して吐出口から主材を吸引し、搬送管の先端側に搬送するエジェクターとを備える搬送装置が開示されている。
特許文献2には、粘土鉱物と、アルカリ金属アルミン酸塩及び/又は水酸化アルミニウムとを含有してなるスランプ低減用吹付混和剤が開示されている。そして、スランプ低減用吹付混和剤と、配管内を空気搬送してなるセメントコンクリートとを施工箇所に吹付ける直前に合流混合し、吹付けてなる吹付方法が開示されている。
特許文献3には、リチウムベントナイトを含有してなる吹付け材料が開示されている。そして、水硬性組成物と水とを混合したコンクリートを空気圧送して急結剤を合流混合して吹付ける湿式吹付け工法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-276940号公報
【特許文献2】特開2002-029799号公報
【特許文献3】特開2001-206749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
吹付用水硬性組成物を対象表面に吹付ける吹付工法では、吹付けた水硬性組成物の一部が対象に付着せずに廃棄され、経済的に、環境上も好ましくないという問題があった。
また、材料ロスの低減や生産性向上の観点から、吹付け直後の吹付け面からの吹付用水硬性組成物のダレ防止が望まれている。
また、作業効率向上と経済性の観点から、可能な限り少ない設備で連続的に水硬性組成物を吹付けられる吹付装置が望まれている。
本発明は、対象表面に吹付けられた水硬性組成物の付着力が高く、簡便な、水硬性組成物の吹付装置、水硬性組成物の吹付方法、水硬性組成物の評価装置及び水硬性組成物の評価方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、水硬性組成物を対象表面に吹き付ける水硬性組成物の吹付装置であって、水硬性組成物を吸引する吸引口と、前記吸引口から吸引された水硬性組成物が吐出される吐出ノズルとを有する筒状の本体と、前記本体の側部に設けられ、当該本体の内部に、該本体の内側面から前記吐出ノズル方向に向かって流れる圧縮空気を供給する入力部と、を備え、前記吐出ノズルの先端の開口部の内径dに対する、前記吐出ノズルの先端と前記入力部からの圧縮空気が流通する前記本体の内側壁に形成された開口の端部との距離Lの割合L/dが、1.5以上5.0以下である、水硬性組成物の吹付装置に関する。
【0007】
また、本発明は、水硬性粉体と水を含む水硬性組成物を、前記の水硬性組成物の吹付装置で、対象表面に吹付ける、水硬性組成物の吹付方法に関する。
【0008】
また、本発明は、前記の水硬性組成物の吹付装置と、前記吹付装置の吐出ノズルと対向して備えられ、該吹付装置から水硬性組成物が吹き付けられる被吹付部材と、を備える、水硬性組成物の評価装置に関する。
【0009】
また、本発明は、評価対象である水硬性組成物を、前記の水硬性組成物の吹付装置を用いて、被吹付部材に吹付ける、水硬性組成物の評価方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、対象表面に吹付けられた水硬性組成物の付着力が高く、簡便な、水硬性組成物の吹付装置、水硬性組成物の吹付方法、水硬性組成物の評価装置及び水硬性組成物の評価方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る水硬性組成物の吹付装置の要部を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る水硬性組成物の評価装置の概略を示す模式図である。
【
図3】本発明の実施例に係る評価装置Aの概略を示す模式図である。
【
図4】本発明の比較例に係る評価装置Bの概略を示す模式図である。
【
図5】本発明の比較例に係る評価装置Cの概略を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の水硬性組成物の吹付装置が、対象表面に吹付けられた水硬性組成物の付着力を向上させる機構は定かではないが、以下のように推察される。
本発明の水硬性組成物の吹付装置は、本体内を負圧にして水硬性組成物を吸引しながらほぐして吹き付けることで、水硬性組成物の締固め性が向上し、ダレを抑制できると推察される。
更に、本発明の水硬性組成物の吹付装置は、該吹付装置に設けられる吐出ノズルの先端の開口部の内径に対する該吐出ノズル長さを短くすることで、水硬性組成物が吹付装置内に滞留することを抑制し、水硬性組成物の締固め性が向上し、これにより対象表面に吹付けられた水硬性組成物の付着力が更に向上すると推察される。
なお、本発明の水硬性組成物の吹付装置、水硬性組成物の吹付方法、水硬性組成物の評価装置及び水硬性組成物の評価方法は、上記の作用機構に限定されるものではない。
【0013】
<水硬性組成物の吹付装置>
図1に示すように、本発明の実施形態に係る水硬性組成物の吹付装置1は、水硬性組成物を吸引する吸引口2aと、吸引口2aから吸引された水硬性組成物が吐出される吐出ノズル2bとを有する筒状の本体2と、本体2の側部に設けられ、本体2の内部に、本体2の内側面から吐出ノズル2b方向に向かって流れる圧縮空気を供給する入力部3と、を備える。図では、吐出ノズル2bとして、本体2と一体に形成された筒状の部材を示しているが、吐出ノズル2bは、着脱可能な延長ノズル(図示せず)を備えることができる。
【0014】
吸引口2aには、図示省略の搬送管を介して水硬性組成物を貯留する貯留部が接続される。
また、入力部3には、図示省略の空気圧縮機(コンプレッサ)が接続される。空気圧縮機から供給された圧縮空気は、入力部3から本体2の内部に供給される。本体2の内側の側壁には、本体2の内周に沿って圧縮空気が流入する開口2cが形成されており、入力部3から供給された圧縮空気は、この開口2cを通って、本体2の内側面から吐出ノズル2bに向かって流れる。例えば、本体2は、2重管構造を有する短尺の筒状体であり、入力部3から開口2cを通って本体2内に供給された圧縮空気は、本体2の内壁面から吐出ノズル2bに向かう環状の流れとなる。
この圧縮空気の流れにより、本体2の吸引口2a側の内部は負圧となり、この負圧により、貯留部に貯留された水硬性組成物が吸引口2aを通って本体2内部に吸引される。本体2内部に吸引された水硬性組成物は、圧縮空気によって、本体2内部で撹拌され、圧縮空気とともに吐出ノズル2bの開口2dから対象表面に吹き付けられる。
【0015】
本発明の水硬性組成物の吹付装置1において、吐出ノズル2bの先端の開口部の内径dに対する吐出ノズル2bの先端と開口2cの端部との距離Lの割合L/dは、水硬性組成物の付着性と粉塵抑制の観点から、1.5以上、好ましくは2.0以上、より好ましくは2.5以上、更に好ましくは3.0以上、そして、水硬性組成物の付着性の観点から、5.0以下、好ましくは4.5以下、より好ましくは4.0以下、更に好ましくは3.6以下である。
【0016】
吐出ノズル2bの先端の開口部の内径dは、水硬性組成物の付着性の観点から、好ましくは1.0cm以上、より好ましくは1.5cm以上、更に好ましく1.8cm以上、そして、水硬性組成物の付着性と粉塵抑制の観点から、好ましくは7.0cm以下、より好ましくは6.0cm以下、更に好ましくは5.0cm以下である。吐出ノズル先端の開口部の形状は、楕円形や多角形であっても良いが、好ましくは円形である。吐出ノズル先端の形状が円形でない場合は、長さが最小となる径を内径dとする。
吐出ノズル2bの先端と開口2cの端部との距離Lは、水硬性組成物の付着性の観点から、好ましくは3.0cm以上、より好ましくは4.0cm以上、更に好ましく5.0cm以上、そして、水硬性組成物の付着性と粉塵抑制の観点から、好ましくは10.0cm以下、より好ましくは9.0cm以下、更に好ましくは8.0cm以下である。
【0017】
空気圧縮機から入力部3に供給される圧縮空気の圧力は、水硬性組成物の付着性の観点から、好ましくは0.2MPa以上、より好ましくは0.25MPa以上、更に好ましくは0.3MPa以上、そして、水硬性組成物の付着性と粉塵抑制の観点から、好ましくは0.9MPa以下、より好ましくは0.7MPa以下、更に好ましくは0.6MPa以下である。
【0018】
<吹付用水硬性組成物>
次に、本発明の実施形態に係る吹付装置1で吹付けられる吹付用水硬性組成物について、詳細に説明する。なお、本発明において、対象表面に吹き付けられる水硬性組成物を便宜上、吹付用水硬性組成物という。
本発明の吹付用水硬性組成物は、水硬性粉体及び水を含む水硬性組成物が挙げられる。本発明の吹付用水硬性組成物は、水硬性粉体及び水を含み、更に高分子増粘剤、粘土鉱物及び急結剤から選ばれる1種以上を任意に含む組成物が好ましい。
【0019】
本発明の吹付用水硬性組成物に使用される水硬性粉体としては、水と混合することで硬化する粉体であり、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、エコセメント(例えばJIS R5214等)が挙げられる。これらの中でも、吹付用水硬性組成物の広がりの観点から、早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、耐硫酸性ポルトランドセメント及び白色ポルトランドセメントから選ばれるセメントが好ましく、早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメントがより好ましい。
【0020】
また、水硬性粉体には、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム、無水石膏等が含まれてよく、また、非水硬性の石灰石微粉末等が含まれていてもよい。水硬性粉体として、セメントと高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム等とが混合された高炉セメントやフライアッシュセメント、シリカヒュームセメントを用いてもよい。
【0021】
本発明の吹付用水硬性組成物は、骨材を含有することが好ましい。骨材としては、細骨材及び粗骨材から選ばれる骨材が挙げられる。骨材は細骨材が含まれることが好ましい。細骨材として、JIS A0203-2014中の番号2311で規定されるものが挙げられる。細骨材としては、川砂、陸砂、山砂、海砂、石灰砂、珪砂及びこれらの砕砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、軽量細骨材(人工及び天然)及び再生細骨材等が挙げられる。また、粗骨材として、JIS A0203-2014中の番号2312で規定されるものが挙げられる。例えば粗骨材としては、川砂利、陸砂利、山砂利、海砂利、石灰砂利、これらの砕石、高炉スラグ粗骨材、フェロニッケルスラグ粗骨材、軽量粗骨材(人工及び天然)及び再生粗骨材等が挙げられる。細骨材、粗骨材は種類の違うものを混合して使用しても良く、単一の種類のものを使用しても良い。
本発明の吹付用水硬性組成物は、骨材として細骨材を含有することが好ましい。本発明の吹付用水硬性組成物での細骨材の使用量は、好ましくは800kg/m3以上、より好ましくは900kg/m3以上、そして、好ましくは1300kg/m3以下、より好ましくは1200kg/m3以下である。
本発明の吹付用水硬性組成物では、細骨材率が好ましくは35%以上、より好ましくは45%以上、そして、好ましくは70%以下、より好ましくは65%以下である。ここで細骨材率は、全骨材中の細骨材の容積含有率である。
【0022】
本発明の吹付用水硬性組成物は、水/水硬性粉体比(W/C)が、水硬性組成物の付着性と強度発現性の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは65質量%以下である。
すなわち、本発明の吹付用水硬性組成物は、水硬性組成物の付着性と強度発現性の観点から、水を、水硬性粉体100質量部に対して、好ましくは30質量部以上、より好ましくは40質量部以上、更に好ましくは50質量部以上、そして、好ましくは80質量部以下、より好ましくは70質量部以下、更に好ましくは65質量部以下含有する。
なお、この水/水硬性粉体比(W/C)は、吹付用水硬性組成物中の水硬性粉体に対する水の質量百分率(質量%)であり、(水/水硬性粉体)×100で算出される。
また、水硬性粉体が、セメントなどの水和反応により硬化する物性を有する粉体の他、ポゾラン作用を有する粉体、潜在水硬性を有する粉体及び石粉(炭酸カルシウム粉末)から選ばれる粉体を含む場合、本発明では、それらの量も水硬性粉体の量に算入する。また、水和反応により硬化する物性を有する粉体が、高強度混和材を含有する場合、高強度混和材の量も水硬性粉体の量に算入する。これは、水硬性粉体の質量が関係する他の質量部などにおいても同様である。
【0023】
<高分子増粘剤>
本発明の吹付用水硬性組成物は、任意に高分子増粘剤を含むことができる。高分子増粘剤は、ポリアルキレンオキシド及びカルボキシ基を有する高分子化合物から選ばれる1種以上が挙げられ、水硬性組成物の付着性の観点から、ポリアルキレンオキシド、並びにポリアクリル酸及びその塩から選ばれる1種以上が好ましく、ポリアルキレンオキシドがより好ましい。
【0024】
ポリアルキレンオキシドとしては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドの共重合物から選ばれる1種以上が好ましく、水硬性組成物の付着性の観点から、ポリエチレンオキシドが好ましい。ポリアルキレンオキシドが異なる種類のアルキレンオキシドを含む場合、アルキレンオキシドの結合はブロック結合でもランダム結合であってもよい。
【0025】
ポリアルキレンオキシドの重量平均分子量は、水硬性組成物の付着性の観点から、好ましくは20万以上、より好ましくは40万以上、そして、好ましくは1,000万以下、より好ましくは500万以下、更に好ましくは170万以下、より更に好ましくは150万以下である。
【0026】
ポリアルキレンオキシドの重量平均分子量は、市販品の場合は商品情報(カタログなど)に基づいた値を採用してよい。また、ポリアルキレンオキシドの重量平均分子量が未知の場合でも、ポリアルキレンオキシドの重量平均分子量は、水溶液の粘度と相関があるため、例えば、ポリエチレンオキシドの場合は、下記の方法でおよその値を求めることができる。
<ポリエチレンオキシドの重量平均分子量>
測定対象のポリエチレンオキシドから、下記基準表を参照して、各種濃度の水溶液(以下、サンプル水溶液という)を調製する。サンプル水溶液の粘度を、B型粘度計を用い、25℃、No.2ローター、30rpm、1分後の条件で測定する。ただし、No.2ローターでの測定で1000mPa・sを超える場合はNo.3ローターを用いて上記の条件と同様の条件(25℃、30rpm、1分後)で測定する。得られた粘度から、該当する重量平均分子量を求める。なお、この基準表は、重量平均分子量が既知のポリエチレンオキシドを用いて作成したものである。基準表中、PEOは、ポリエチレンオキシドの意味である。
【0027】
ポリアルキレンオキシドは、ポリアルキレンオキシドの水溶液であっても、固体状であってもよい。
固体状のポリアルキレンオキシドは、粒子状、更に粉末状又は顆粒状であることが好ましい。顆粒は、通常、粉末よりも相対的に粒径が大きい粒子である。
固体状のポリアルキレンオキシドの形状は限定されず、例えば、球状、板状などが挙げられる。また、固体状のポリアルキレンオキシドの形状は、定形、不定形のいずれでもよい。
【0028】
カルボキシ基を有する高分子化合物としては、アクリル酸及びその塩、アクリル酸エステル、メタクリル酸及びその塩、メタクリル酸エステル、並びにアクリルアミドから選ばれる1種又は2種以上の単量体(以下、単量体(A1)という)を含む、重量平均分子量2万以上650万以下である高分子が挙げられる。カルボキシ基を有する高分子化合物は、単量体(A1)由来の構成単位を含む高分子である。
【0029】
アクリル酸及びメタクリル酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、アルミニウム塩、カルシウム塩が挙げられる。
アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチルエステル、アクリル酸エチルエステル、アクリル酸プロピルエステル、アクリル酸ブチルエステル、アクリル酸ヘキシルエステル、アクリル酸オクチルエステル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸-2-エチルヘキシルエステル、アクリル酸グリシジルエステルなどが挙げられる。
メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチルエステル、メタクリル酸エチルエステル、メタクリル酸プロピルエステル、メタクリル酸ブチルエステル、メタクリル酸ヘキシルエステル、メタクリル酸オクチルエステル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシルエステル、メタクリル酸グリシジルエステルなどが挙げられる。
【0030】
単量体(A1)は、アクリル酸及びその塩、メタクリル酸及びその塩、並びにアクリルアミドから選ばれる1種又は2種以上の単量体が好ましく、アクリル酸及びその塩、並びにアクリルアミドから選ばれる1種又は2種の単量体がより好ましく、アクリル酸又はその塩の単量体が更に好ましい。
【0031】
カルボキシ基を有する高分子化合物は、単量体(A1)以外の単量体(以下、単量体(A2)という)を含んでもよい。
単量体(A2)としては、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、アコニット酸、及びクロトン酸などの不飽和カルボン酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などの不飽和カルボン酸無水物、及びイタコン酸モノメチル、イタコン酸モノブチル、マレイン酸モノエチル等の不飽和カルボン半エステル、ビニルスルホン酸、メタリルスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などの不飽和スルホン酸、リン酸-2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル、リン酸水素ビス[2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]などの不飽和リン酸、ビニルフェノールなどの不飽和フェノール、エチレン、アクリロニトリルやメタクリロニトリルなどのシアノビニル、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、ネオデカン酸ビニルエステルなどの炭素数3以上18以下の脂肪族カルボン酸のビニルエステル、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテルなどのビニルエーテルモノマー、アリルメタクリレートなどの多官能性ビニルモノマー、スチレン、ブタジエンなどの不飽和炭化水素、及びメタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-ビニルピロリドンなどの不飽和アミド化合物などが挙げられる。
【0032】
カルボキシ基を有する高分子化合物を構成する全単量体中、単量体(A1)の割合は、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、より更に好ましくは90モル%以上、そして、好ましくは100モル%以下であり、100モル%であってもよい。
【0033】
カルボキシ基を有する高分子化合物は、水硬性組成物の付着性の観点から、ポリアクリル酸及びその塩、ポリメタクリル酸及びその塩、並びにポリアクリルアミドから選ばれる1種以上が好ましく、ポリアクリル酸及びその塩、並びにポリアクリルアミドから選ばれる1種以上がより好ましく、ポリアクリル酸又はその塩が更に好ましい。ポリアクリル酸及びポリメタクリル酸の塩は、上記単量体A1の説明で挙げられた塩が挙げられ、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。
【0034】
カルボキシ基を有する高分子化合物の重量平均分子量は、水硬性組成物の付着性の観点から、好ましくは2万以上、より好ましくは5万以上、更に好ましくは10万以上、より更に好ましくは20万以上、そして、好ましくは650万以下、より好ましくは500万以下、更に好ましくは350万以下、より更に好ましくは250万以下、より更に好ましくは200万以下である。カルボキシ基を有する高分子化合物の重量平均分子量は、下記高分子増粘剤の重量平均分子量を求めるゲルパーミエーションクロマトグラフィーと同じ方法で求める。
【0035】
高分子増粘剤の重量平均分子量は、水硬性組成物の付着性の観点から、好ましくは2万以上、より好ましくは5万以上、更に好ましくは10万以上、より更に好ましくは20万以上、より更に好ましくは40万以上、そして、好ましくは1,000万以下、より好ましくは650万以下、更に好ましくは500万以下、より更に好ましくは350万以下、より更に好ましくは250万以下、より更に好ましくは200万以下、より更に好ましくは170万以下、より更に好ましくは150万以下である。
【0036】
高分子増粘剤の重量平均分子量は、アセトニトリルと水の混合溶媒(リン酸緩衝液)を展開溶媒とし、ポリエチレングリコールを標準物質として、下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィーで求める。
カラム:東ソー(株)製GMPWXL-GMPWXL(アニオン)
検出器:示差屈折率計
溶離液:0.2Mリン酸緩衝液/アセトニトリル=9/1
標品:ポリエチレングリコール換算(分子量既知の単分散ポリエチレングリコール、分子量:21,000、44,200、101,000、185,000、580,000、977,000)
条件:カラム温度:40℃、流速:0.5mL/min、濃度:2mg/mL
【0037】
本発明の吹付用水硬性組成物は、高分子増粘剤を、水硬性組成物の付着性の観点から、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.002質量%以上、更に好ましくは0.003質量%以上、より更に好ましくは0.004質量%以上、より更に好ましくは0.01質量%以上、そして、水硬性組成物の吐出性の観点から、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.05質量%以下含有することができる。
【0038】
本発明の吹付用水硬性組成物は、高分子増粘剤を、該吹付用水硬性組成物中の水硬性粉体に対して、水硬性組成物の付着性の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上、そして、水硬性組成物の吐出作業性の観点から、好ましくは1.0質量%以下、より好ましく0.5質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下含有することができる。
【0039】
本発明の吹付用水硬性組成物は、ポリアルキレンオキシドを、水硬性組成物の付着性の観点から、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.002質量%以上、更に好ましくは0.003質量%以上、より更に好ましくは0.004質量%以上、より更に好ましくは0.01質量%以上、そして、水硬性組成物の吐出性の観点から、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下、更に好ましくは0.02質量%以下含有することができる。
【0040】
本発明の吹付用水硬性組成物は、ポリアルキレンオキシドを、該吹付用水硬性組成物中の水硬性粉体に対して、水硬性組成物の付着性の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上、そして、好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下含有することができる。
【0041】
本発明の吹付用水硬性組成物は、カルボキシ基を有する高分子化合物を、水硬性組成物の付着性の観点から、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.04質量%以上、そして、水硬性組成物の吐出性の観点から、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.06質量%以下含有することができる。
【0042】
本発明の吹付用水硬性組成物は、カルボキシ基を有する高分子化合物を、該吹付用水硬性組成物中の水硬性粉体に対して、水硬性組成物の付着性の観点から、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上、そして、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下含有することができる。
【0043】
<粘土鉱物>
本発明の吹付用水硬性組成物は、任意に粘土鉱物を含むことができる。粘土鉱物は、水硬性組成物の付着性の観点から、膨潤度が15mL/2g以上50mL/2g以下の粘土鉱物が好ましい。
【0044】
粘土鉱物の膨潤度は、吹付用水硬性組成物の広がりの観点から、15mL/2g以上、好ましくは20mL/2g以上、そして、50mL/2g以下、好ましくは45mL/2g以下、より好ましくは40mL/2g以下である。
この膨潤度は、日本ベントナイト工業会JBAS104:77のベントナイト(粉状)の膨潤試験方法に従って測定する。すなわち水分8.0質量%に調整した試料2.0gを、蒸留水100mLを入れた100mLの共栓メスシリンダーに約10回に分けて加える。このとき、前の添加物がメスシリンダー底に沈着してから次の添加を行う。24時間放置するとき、メスシリンダー底部の試料の塊が膨潤した見掛けの体積をメスシリンダーの目盛から読み膨潤度(mL/2g)として表示する。
【0045】
粘土鉱物としては、カチオン交換性層状シリケートが挙げられる。このような粘土鉱物の一例としてスメクタイト及びベントナイトから選ばれる1種以上の粘土鉱物が挙げられる。スメクタイトは、粘土鉱物に属する一群のカチオン交換性層状シリケートであり、天然物としてはベントナイトの主成分として良く知られているモンモリロナイトの他、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト、ノントロナイトなどが挙げられ、合成物として膨潤性弗素系雲母類などが挙げられる。これらの中で、本発明の吹付用水硬性組成物に含まれる粘土鉱物としては、水硬性組成物の付着性の観点から、ベントナイト、サポナイト、ヘクトライト及びモンモリロナイトから選ばれる粘土鉱物が好ましく、ベントナイト及びモンモリロナイトから選ばれる粘土鉱物がより好ましく、ベントナイトが更に好ましい。
ベントナイト、サポナイト、ヘクトライト及びモンモリロナイトから選ばれる粘土鉱物の含有量は、吹付用水硬性組成物に含まれる粘土鉱物中、60質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましく、ベントナイトの含有量が100質量%であることが更に好ましい。
【0046】
本発明の吹付用水硬性組成物は、粘土鉱物を、水硬性組成物の付着性の観点から、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上、そして、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下含有することができる。
【0047】
本発明の吹付用水硬性組成物は、粘土鉱物を、該吹付用水硬性組成物中の水硬性粉体に対して、水硬性組成物の付着性の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、そして、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下、更に好ましくは2質量%以下含有することができる。
【0048】
本発明の吹付用水硬性組成物は、水を含有する。水は、水道水、地下水、湖沼水、河川水が挙げられる。
【0049】
<急結剤>
本発明の吹付用水硬性組成物は、任意に急結剤を含むことができる。急結剤は、粉末状の急結剤が好ましい。急結剤は、例えば、セメント鉱物系急結剤及びアルミニウム系急結剤から選ばれる1種以上の急結剤である。
【0050】
セメント鉱物系急結剤としては、アルミン酸カルシウム、カルシウムサルホアルミネート及びカルシウムアルミネートから選ばれる1種以上が挙げられる。
アルミニウム系急結剤としては、水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、カリウムミョウバン、鉄ミョウバン及びアンモニウム鉄ミョウバン等を含むアルミニウム塩から選ばれる1種以上が挙げられる。
急結剤は、水硬性組成物の付着性と強度発現性の観点から、アルミン酸カルシウム、カルシウムサルホアルミネート、カルシウムアルミネート、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム及び硫酸アルミニウムから選ばれる1種以上が好ましく、カルシウムアルミネート、カルシウムサルホアルミネート及び硫酸アルミニウムから選ばれる1種以上がより好ましく、カルシウムアルミネート及び硫酸アルミニウムから選ばれる1種以上が更に好ましい。
【0051】
本発明の吹付用水硬性組成物では、上記粘土鉱物と急結剤の混合物である吹付用水硬性組成物用添加剤(以下、本発明の添加剤という)を用いてもよい。該添加剤は、吹付用水硬性組成物を吹付けるときに、水硬性粉体及び水を含む水硬性組成物に混合される。
本発明の添加剤は、急結剤を、水硬性組成物の付着性と強度発現性の観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、そして、好ましくは98質量%以下、より好ましくは96質量%以下、更に好ましくは95質量%以下含有する。
【0052】
本発明の吹付用水硬性組成物が急結剤を含む場合、本発明の吹付用水硬性組成物は、急結剤を、水硬性粉体100質量部に対して、水硬性組成物の付着性と強度発現性の観点から、好ましくは4質量部以上、より好ましくは6質量部以上、更に好ましくは6.5質量部以上、より更に好ましくは7質量部以上、そして、好ましくは15質量部以下、より好ましくは12質量部以下、更に好ましくは10質量部以下含有する。
【0053】
本発明の吹付用水硬性組成物は、必要に応じて、高性能減水剤、高性能AE減水剤、AE減水剤及び流動化剤を含む減水剤、膨張材、硬化促進剤、硬化遅延剤、セメント用ポリマー、発泡剤、防水剤、防錆剤、収縮低減剤、顔料、繊維、撥水剤、白華防止剤などの1種又は2種以上を含有してもよい〔但し、上記の高分子増粘剤に相当するものを除く〕。
【0054】
<水硬性組成物の吹付方法>
本発明は、水硬性粉体と水を含む水硬性組成物を、本発明の水硬性組成物の吹付装置で、対象表面に吹付ける、水硬性組成物の吹付方法を提供する。
対象表面は、例えば、道路、鉄道、及び導水路等のトンネルの内周面や、地山掘削、盛土などにより形成される法面が挙げられる。
本発明の水硬性組成物の吹付方法では、上記本発明の実施形態に係る水硬性組成物の吹付装置1を好適に用いることができる。
また、本発明の水硬性組成物の吹付方法では、上記本発明の吹付用水硬性組成物を好適に用いることができる。
よって、本発明の水硬性組成物の吹付方法では、本発明の実施形態に係る水硬性組成物の吹付装置1や本発明の吹付用水硬性組成物において記載した態様を適宜適用することができる。
【0055】
本発明の水硬性組成物の吹付方法について、具体的な例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明の水硬性組成物の吹付方法は、この具体例になんら限定されるものではない。
本発明の水硬性組成物の吹付方法では、まず、水硬性粉体と、水と、任意に高分子増粘剤と、任意に骨材とを混合して、水硬性組成物を製造する。
本発明では、水硬性粉体、水、任意に高分子増粘剤及び任意に骨材を混合して得た水硬性組成物に、粘土鉱物及び/又は急結剤を任意に添加して、吹付用水硬性組成物を製造する。前記水硬性組成物と、粘土鉱物及び/又は急結剤との混合は、例えば、前記水硬性組成物と、粘土鉱物及び/又は急結剤とを空気圧送して合流混合する一般的な湿式吹付方法で実施できる。また、粘土鉱物と急結剤は、予め粘土鉱物と急結剤を混合して、前記水硬性組成物と混合しても良い。
水硬性粉体、水、任意に高分子増粘剤、及び任意に骨材を混合して製造された水硬性組成物は、水/水硬性粉体比(W/C)〔水硬性組成物中の水と水硬性粉体の質量百分率(質量%)〕が、水硬性組成物の付着性と吐出作業性の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは65質量%以下である。通常、当該水硬性組成物の水/水硬性粉体比は、引き続き製造される吹付用水硬性組成物に反映される。従って、本発明では、前記吹付用水硬性組成物も、水/水硬性粉体比は、前記範囲であることが好ましい。
【0056】
本発明では、高分子増粘剤を、前記水硬性組成物中の水硬性粉体100質量部に対して、水硬性組成物の付着性の観点から、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.02質量部以上、更に好ましくは0.05質量部以上、そして、水硬性組成物の吐出作業性の観点から、好ましくは1.0質量部以下、より好ましく0.5質量部以下、更に好ましくは0.3質量部以下混合する。
すなわち、本発明では、高分子増粘剤を、前記水硬性組成物中の水硬性粉体に対して、水硬性組成物の付着性の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上、そして、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下混合する。
【0057】
本発明において、水硬性粉体、高分子増粘剤、水及び骨材などの任意成分の混合は、公知の方法により行うことができる。具体的には、水硬性粉体と水と骨材とを同時に混合する方法が挙げられる。これらの成分の混合には、パン型強制ミキサー、2軸強制ミキサー、可傾式ミキサー等の混合ミキサーを使用することができる。
【0058】
本発明では、水硬性粉体、水及び任意の骨材を混合して得た水硬性組成物に、任意に粘土鉱物及び/又は急結剤を添加して、吹付用水硬性組成物を製造する。前記水硬性組成物と粘土鉱物及び/又は急結剤との混合は、例えば、前記水硬性組成物と粘土鉱物及び/又は急結剤とを空気圧送して合流混合する一般的な湿式吹付方法で実施できる。また、粘土鉱物と急結剤は、予め粘土鉱物と急結剤を混合して、前記水硬性組成物と混合しても良い。
【0059】
本発明では、粘土鉱物を、前記水硬性組成物中の水硬性粉体100質量部に対して、水硬性組成物の付着性の観点から、好ましくは0.1質量部以上、より好ましく0.2質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上、そして、水硬性組成物の吐出作業性の観点から、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下、更に好ましくは2.5質量部以下混合する。
すなわち、本発明では、粘土鉱物を、前記水硬性組成物中の水硬性粉体に対して、水硬性組成物の付着性の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、そして、水硬性組成物の吐出作業性の観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは2.5質量%以下混合する。
【0060】
本発明では、前記急結剤を用いる場合は、該急結剤を、前記水硬性組成物中の水硬性粉体100質量部に対して、水硬性組成物の付着性と強度発現性の観点から、好ましくは4質量部以上、より好ましくは6質量部以上、更に好ましくは6.5質量部以上、より更に好ましくは7質量部以上、そして、好ましくは15質量部以下、より好ましくは12質量部以下、更に好ましくは10質量部以下混合する。
【0061】
本発明の水硬性組成物の吹付方法では、このようにして調製した吹付用水硬性組成物を対象物に吹き付ける。この方法は、いわゆる湿式吹付工法に相当する。
本発明の水硬性組成物の吹付方法は、本発明の水硬性組成物の吹付装置1を用いて実施可能である。なお、粘土鉱物と急結剤の混合物の圧送にちよだ製作所製、商品名「ナトムクリート」等を用い、両者を混合して吹付用水硬性組成物を調製して吹き付けを行うことが可能である。
【0062】
<水硬性組成物の評価装置>
図2に示すように、本発明の実施形態に係る水硬性組成物の評価装置4は、水硬性組成物の吹付装置1と、この吹付装置1の吐出ノズル2bと対向して備えられ、吹付装置1から水硬性組成物が吹付けられる被吹付部材5と、を備える。
なお、水硬性組成物の評価装置4の説明では、
図1で示した吹付装置1と同様の構成については、同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0063】
被吹付部材5は、例えば、木製の板が挙げられる。被吹付部材5は、樹脂製の箱6の内に設けられる。箱6は、被吹付部材5が備えられる内壁6aと内壁6aに対向した開口部6bを有し、この開口部6bには、開口部6bを閉塞する蓋部6cが備えられる。蓋部6cには、本発明の吹付装置1の吐出ノズル2bが挿通される開口部6dが形成され、この開口部6dに吐出ノズル2bを挿通して蓋部6cに吹付装置1が備えられる。また、蓋部6cには、フィルタ7が備えられる開口部6eが形成されており、空気圧縮機8から入力部3を通って吹付装置1の本体2内に供給された圧縮空気は、吐出ノズル2bから箱6内に噴射され、フィルタ7を通って箱6の外に排出される。
また、本体2内部に供給された圧縮空気が、本体2の内側部から吐出ノズル2b方向に流れることで、本体2の吐出ノズル2bと反対側の内部が負圧になる。本体2には、搬送管9を介して水硬性組成物の貯留部(図示せず)が接続されており、この負圧により、貯留部の水硬性組成物が本体2の内部に吸引される。本体2の内部に吸引された水硬性組成物は、本体2内部で圧縮空気と混合され、吐出ノズル2bから被吹付部材5に吹付けられる。
フィルタ7としては、圧縮空気が通ることができ、且つ粉塵を捕捉できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、紙、布、繊維、スポンジなどを用いることができる。
【0064】
本発明の水硬性組成物の評価装置4は、水硬性組成物の付着性が優れているため、水硬性組成物の簡易的な評価を行うことに好適である。
本発明の水硬性組成物の評価装置4における、水硬性組成物の評価結果は、水硬性組成物を吹付装置1と異なる他の装置で吹付けた場合でも、同様の傾向を示すと考えられる。
【0065】
<水硬性組成物の評価方法>
本発明の実施形態に係る水硬性組成物の評価装置4について、具体的に、本発明の水硬性組成物の評価方法を例示して、詳細に説明する。
本発明は、評価対象である水硬性組成物を、本発明の水硬性組成物の吹付装置を用いて、被吹付部材に吹付ける、水硬性組成物の評価方法を提供する。
本発明の水硬性組成物の評価方法では、本発明の実施形態に係る水硬性組成物の評価装置4を好適に用いることができる。
【0066】
水硬性組成物の評価装置4が行う評価としては、(1)水硬性組成物の付着性評価、(2)水硬性組成物の作業性の評価、(3)水硬性組成物の吹付時の粉塵発生量の評価などが挙げられる。
【0067】
(1)~(3)の評価では、吹付装置1により、それぞれ被吹付部材5に水硬性組成物が吹付けられ、以下の(1)~(3)の評価を行うことができる。
【0068】
(1)水硬性組成物の付着性評価
水硬性組成物の付着性評価では、被吹付部材5に付着した水硬性組成物の質量と、被吹付部材5に吹付けられた水硬性組成物の総質量に基づいて、下記式(1)で示される付着率が算出される。この付着率に基づいて、水硬性組成物の付着性が評価される。水硬性組成物における付着率が高いほど、水硬性組成物の付着性が高いと評価できる。
付着率(質量%)=100×(被吹付部材5に付着した水硬性組成物の質量)/(被吹付部材5吹付けられた水硬性組成物の総質量) (1)
なお、付着性の評価は、被吹付部材5に付着した水硬性組成物を目視で観察して、水硬性組成物の付着状態に基づいて、水硬性組成物の付着性を評価することもできる。
【0069】
(2)水硬性組成物の作業性の評価
水硬性組成物の作業性の評価は、例えば、水硬性組成物の広がり性に基づいて行われる。広がり性が低減された水硬性組成物は、水硬性組成物を積層させることが容易となり、吹付作業の作業性が向上する。
水硬性組成物の広がり性(%)は、例えば、被吹付部材5に吹付けられた水硬性組成物の中心部から一定の範囲の円より外に付着した水硬性組成物の質量と、この円内に付着した水硬性組成物の質量と、に基づいて、下記(2)式で求められる。この広がり性が低いほど、広がり性が低減された水硬性組成物といえる。
広がり性(%)=100×〔円の外側に付着した水硬性組成物の質量〕/〔円の内側に付着した水硬性組成物の質量〕 (2)
【0070】
(3)水硬性組成物の吹付時の粉塵発生量の評価
水硬性組成物の吹付時の粉塵発生量の評価では、例えば、フィルタ7の表面を色差計で測定し、水硬性組成物の吹付作業前後におけるフィルタ7の濃淡に基づいて、フィルタ7に付着した粉塵量を定量して評価することができる。
【実施例0071】
(1)吹付用水硬性組成物の作製
吹付用水硬性組成物の配合成分は以下の通りである。
【0072】
<吹付用水硬性組成物の配合成分>
<水硬性組成物>
水:水道水
セメント(水硬性粉体):太平洋セメント株式会社製普通ポルトランドセメントと住友大阪セメント製普通ポルトランドセメントとの質量比1:1の混合物
骨材(砂):京都府 城陽市産 山砂 表乾状態 比重2.55
<高分子増粘剤>
PEO:ポリエチレンオキシド、重量平均分子量(Mw)80万、平均付加モル数1816mol、(商品名)アルコックス、明成化学工業社製
ポリアクリル酸:ジュリマーAC-10LHPK、東亞合成株式会社製、重量平均分子量2,000,000
<粘土鉱物>
粘土鉱物:ベントナイト、クニゲルGS、クニミネ工業株式会社製、膨潤度33mL/2g
【0073】
粘土鉱物の膨潤度は、日本ベントナイト工業会JBAS104:77のベントナイト(粉状)の膨潤試験方法に従って測定した。すなわち水分8.0質量%に調整した試料2.0gを、蒸留水100mLを入れた100mLの共栓メスシリンダーに約10回に分けて加えた。このとき、前の添加物がメスシリンダー底に沈着してから次の添加を行った。24時間放置するとき、メスシリンダー底部の試料の塊が膨潤した見掛けの体積をメスシリンダーの目盛から読み膨潤度(mL/2g)とした。
【0074】
水硬性組成物の作製には、「JIS R 5201 セメントの物理試験方法」に規定されるモルタルミキサーを使用した。
モルタルミキサーの練鉢に水を240g、水硬性粉体を400g、砂を1054g加え低速で2分撹拌した。ポリエチレンオキシド及びポリアクリル酸を加える場合は、砂と同時に加えた。得られた水硬性組成物に必要に応じて粘土鉱物を加え、高速で10秒撹拌し、吹付用水硬性組成物を得た。
【0075】
(2)評価
図3~5に示す評価装置A~Cを用いて、得られた吹付用水硬性組成物を木板5aに吹付けて、水硬性組成物の付着率の評価を行った。
評価装置A、Bでは、吹付装置として、粉粒体搬送装置(ブレスライダーK-20型、株式会社ブレス製)を使用した。評価装置Cでは、
図5に示すような構成の評価装置をプラスチック製のパーツを繋げて自作して使用した。
評価装置A、Bでは、粉粒体搬送装置の本体2に、コンプレッサ8aから0.6MPa、空気量22.5L/minの圧縮空気を供給して、本体2内の負圧により水硬性組成物を本体2内に吸引し、吸引した水硬性組成物を圧縮空気と混合して木板5aに吹付けた。モルタル吹付量は、4.2L/minで行った。評価装置Aの吐出ノズル2b
Aの長さ(すなわち、吐出ノズル2b
Aの先端と入力部3からの圧縮空気が流通する本体2の内側壁に形成された開口(図示せず)の端部との距離L)は6.5cm、吐出ノズル2b
Aの開口部の口径は2cm、L/dは3.25であった。評価装置Bの吐出ノズル2b
Bの長さ(すなわち、吐出ノズル2b
Bの先端と入力部3からの圧縮空気が流通する本体2の内側壁に形成された開口(図示せず)の端部との距離L)は21cm、吐出ノズル2b
Bの開口部の口径は2cm、L/dは10.5であった。評価装置A、Bでは、水硬性組成物を10秒間木板5aに吹き付けた。
評価装置Cは、コンプレッサ8aの圧力で、搬送管10の流路に配置された水硬性組成物を押し出して木板5aに吹付ける吹付装置を備えた評価装置である。搬送管10の先端の開口部の口径は2cmであった。
吹付けた水硬性組成物の総質量と、木板5aに付着した水硬性組成物の質量から、下記式(3)により付着率(%)を算出し、評価装置A~Cの付着率の評価を行った。付着率が高いほど、経済的にも環境的にも優れた吹付装置である。
付着率(%)=100×(木板5aに付着した水硬性組成物の質量)/(木板5aに吹付けた水硬性組成物の質量) (3)
なお、表1では、付着率が30%以上の評価装置を「優」、付着率が30%未満の評価装置を「劣」とする指標に基づいて、各装置における水硬性組成物の付着性を評価した。
【0076】
また、下記指標に基づいて、評価装置A~Bの簡易さ及び経済性の評価を行った。評価装置A及びBは、搬送管9に水硬性組成物を連続投入するだけで、水硬性組成物の吹付が可能であり、吹付作業が簡易となった。
一方、評価装置Cは、連続的に水硬性組成物を吹付けるためには、水硬性組成物の投入口からの逆噴射を防ぐために水硬性組成物を圧送するポンプを設ける必要があり、更にポンプの駆動電力源の設置と動力源の燃料を追加で必要になるため経済的に不利であった。更に、評価装置Cは、連続的に水硬性組成物を吹付けない場合は、この逆噴射を抑制するため水硬性組成物の投入部の密閉動作が必要となり、この密閉動作と水硬性組成物の投入とを繰り返すことで、水硬性組成物の吹き付け作業が煩雑であった。
[簡易さ及び経済性の指標]
〇:水硬性組成物の連続投入時に追加の作業又は装置が不要
×:水硬性組成物の連続投入時に追加の作業又は装置が必要
【0077】
【0078】