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特開2024-6781ポリマー組成物及びその製造方法、並びに、ゴム組成物及びタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006781
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ポリマー組成物及びその製造方法、並びに、ゴム組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 15/00 20060101AFI20240110BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20240110BHJP
   C08L 25/02 20060101ALI20240110BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20240110BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C08L15/00
C08L9/06
C08L25/02
C08L65/00
B60C1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107988
(22)【出願日】2022-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】小齋 智之
(72)【発明者】
【氏名】熊木 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】矢木 礼子
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA01
4J002AC081
4J002AC111
4J002BC032
4J002BC092
4J002CE002
4J002FD022
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】耐コールドフロー性に優れるポリマー組成物及びその製造方法、並びに、該ポリマー組成物を含むゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いたタイヤを提供する。
【解決手段】数平均分子量が500,000g/mol以上であるジエン系ポリマーと、%H Ar値が20%以上かつ軟化点が110℃以上の樹脂とを含有し、前記樹脂の含有量が、前記ジエン系ポリマー100質量部に対し20質量部以上であるポリマー組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が500,000g/mol以上であるジエン系ポリマーと、
%H Ar値が20%以上かつ軟化点が110℃以上の樹脂と
を含有し、前記樹脂の含有量が、前記ジエン系ポリマー100質量部に対し20質量部以上であるポリマー組成物。
【請求項2】
前記ジエン系ポリマーが、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムを含む請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記ジエン系ポリマーのガラス転移温度が-30℃以下である請求項1又は2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記ジエン系ポリマーが変性されている請求項1又は2に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
前記樹脂が、C系樹脂及びテルペン-芳香族化合物系樹脂からなる群より選択される1種以上を含む請求項1又は2に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記樹脂が、スチレン系モノマー単一重合系樹脂及びテルペン-フェノール樹脂からなる群より選択される1種以上を含む請求項5に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
前記樹脂のガラス転移温度が、65℃以上である請求項1又は2に記載のポリマー組成物。
【請求項8】
前記樹脂の数平均分子量が、300g/mol以上である請求項1又は2に記載のポリマー組成物。
【請求項9】
前記ジエン系ポリマーのガラス転移温度が-60℃以下である請求項3に記載のポリマー組成物。
【請求項10】
油の含有量が、0質量%である請求項1又は2に記載のポリマー組成物。
【請求項11】
数平均分子量が500,000g/mol以上であるジエン系ポリマーと、
%H Ar値が20%以上かつ軟化点が110℃以上の樹脂と
を混合し、前記樹脂の配合量が、前記ジエン系ポリマー100質量部に対し20質量部以上であるポリマー組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項1又は2に記載のポリマー組成物を含むゴム組成物。
【請求項13】
請求項12に記載のゴム組成物を用いたタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー組成物及びその製造方法、並びに、ゴム組成物及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ製造のために用いられるポリマーは種々の性能要求を満たすため、比較的高分子量となることがある。この場合、加工性を向上させるために加工油が加えられた油添ポリマーを用いられることがある。さらに、タイヤのグリップ性能等の向上と加工性の両立を目的に樹脂を添加したポリマーが使われることもある。
例えば、特許文献1においては、特定の樹脂を添加したポリマーを用いることで、組成物の粘着性が低減されるといった技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2020-528487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に例示されるような、油又は樹脂を添加したポリマーはコールドフロー現象が顕著に生じる傾向にあるため、この観点からの改善が求められていた。
本発明は、耐コールドフロー性に優れるポリマー組成物及びその製造方法、並びに、該ポリマー組成物を含むゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いたタイヤを提供することを目的とし、該目的を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
<1> 数平均分子量が500,000g/mol以上であるジエン系ポリマーと、
%H Ar値が20%以上かつ軟化点が110℃以上の樹脂と
を含有し、前記樹脂の含有量が、前記ジエン系ポリマー100質量部に対し20質量部以上であるポリマー組成物。
【0006】
<2> 前記ジエン系ポリマーが、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムを含む<1>に記載のポリマー組成物
<3> 前記ジエン系ポリマーのガラス転移温度が-30℃以下である<1>又は<2>に記載のポリマー組成物。
<4> 前記ジエン系ポリマーが変性されている<1>~<3>のいずれか1つに記載のポリマー組成物。
【0007】
<5> 前記樹脂が、C系樹脂及びテルペン-芳香族化合物系樹脂からなる群より選択される1種以上を含む<1>~<4>のいずれか1つに記載のポリマー組成物。
<6> 前記樹脂が、スチレン系モノマー単一重合系樹脂及びテルペンフェノール樹脂からなる群より選択される1種以上を含む<5>に記載のポリマー組成物。
<7> 前記樹脂のガラス転移温度が、65℃以上である<1>~<6>のいずれか1つに記載のポリマー組成物。
<8> 前記樹脂の数平均分子量が、300g/mol以上である<1>~<7>のいずれか1つに記載のポリマー組成物。
【0008】
<9> 前記ジエン系ポリマーのガラス転移温度が-60℃以下である<3>に記載のポリマー組成物。
【0009】
<10> 油の含有量が、0質量%である<1>~<9>のいずれか1つに記載のポリマー組成物。
【0010】
<11> 数平均分子量が500,000g/mol以上であるジエン系ポリマーと、
%H Ar値が20%以上かつ軟化点が110℃以上の樹脂と
を混合し、前記樹脂の配合量が、前記ジエン系ポリマー100質量部に対し20質量部以上であるポリマー組成物の製造方法。
【0011】
<12> <1>~<10>のいずれか1つに記載のポリマー組成物を含むゴム組成物。
<13> <12>に記載のゴム組成物を用いたタイヤ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐コールドフロー性に優れるポリマー組成物及びその製造方法、並びに、該ポリマー組成物を含むゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いたタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<ポリマー組成物>
本発明におけるポリマー組成物は、数平均分子量が500,000g/mol以上であるジエン系ポリマーと、%H Ar値が20%以上かつ軟化点が110℃以上の樹脂とを含有し、前記樹脂の含有量が、前記ジエン系ポリマー100質量部に対し20質量部以上である。
以下、「数平均分子量が500,000g/mol以上であるジエン系ポリマー」を「本発明におけるジエン系ポリマー」;「%H Ar値が20%以上かつ軟化点が110℃以上の樹脂」を「本発明における樹脂」と称することがある。
【0014】
従来より、油展スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(油展SBR)等に代表されるように、数平均分子量が500,000g/mol以上となる剛性のあるジエン系ポリマーには、ポリマーの加工性改善の観点から、可塑剤として油等が混合するされることがある。しかし、油等が混合するされたジエン系ポリマーを、例えば、シート状ないしブロック状に加工して、積み上げて収納すると、ジエン系ポリマーが変形し、流れる現象(コールドフロー現象)が生じ易かった。
これに対し、本発明のポリマー組成物は、耐コールドフロー性に優れる。かかる理由は定かではないが、次の理由によるものと推察される。
【0015】
本発明における樹脂は、%H Ar値が20%以上かつ軟化点が110℃以上であるため、数平均分子量が500,000g/mol以上であるジエン系ポリマーとの相溶性が小さく、剛性を有する。そのため、本発明における樹脂は、本発明におけるジエン系ポリマー中において緩和しにくいフィラーのような作用をすると考えられる。その結果、ポリマー組成物の変形を抑制し、コールドフロー現象を抑制することができると考えられる。
以下、ポリマー組成物の構成成分について詳細に説明する。
【0016】
〔ジエン系ポリマー〕
本発明におけるジエン系ポリマーは、数平均分子量が500,000g/mol以上である。
以下、分子量の下三桁の「,000」を「k」と表し、500,000を「500k」のように記載することがある。
なお、本発明において、数平均分子量(Mn)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定したポリスチレン換算数平均分子量を意味する。
ジエン系ポリマーの数平均分子量は、500,000(500k)g/molを超えることが好ましく、1,000,000(1000k)g/mol以上であることがより好ましく、1,250,000(1250k)g/mol以上であることが更に好ましい。また、ジエン系ポリマーの数平均分子量は、3,000,000(3000k)g/mol以下であることが好ましく、2,500,000(2500k)g/mol以下であることがより好ましく、2,000,000(2000k)g/mol以下であることが更に好ましい。
【0017】
ジエン系ポリマーは、本発明のポリマー組成物を含むゴム組成物から得られるタイヤの転がり抵抗とWET性能バランスをより向上する観点から、ガラス転移温度(Tg)が、-30℃以下であることが好ましく、-45℃以下であることがより好ましく、-60℃以下であることが更に好ましく、また、-80℃以上であることが好ましい。
ジエン系ポリマーのTgは、示差走査熱量測定装置(DSC)により測定することができる。
【0018】
ジエン系ポリマーは、変性されていることが好ましい。換言すると、ジエン系ポリマーは分子鎖に変性官能基を有していることが好ましい。
ジエン系ポリマーが変性されていることで、本発明のポリマー組成物を含むゴム組成物がフィラーを含む場合に、フィラー分散性が向上し、発熱性が低い加硫ゴムを得ることができる。
ジエン系ポリマーは、例えば、アルコキシシラン化合物、アミン化合物、スズ化合物等の変性剤で変性することができる。変性剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。これらの変性剤を用いることで、ジエン系ポリマーは、分子鎖に、アルコキシシラン基;第1級、第2級、若しくは第3級のアミノ基、スズ原子含有基等の変性官能基を有することができる。更に、1級、2級アミノ基は加水分解可能な保護基で保護されていてもよい。ジエン系ポリマーが有する変性官能基は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。中でも、ジエン系ポリマーは、分子鎖に、アルコキシシラン基を少なくとも有することが好ましく、加えてアミノ基を有することがより好ましい。
【0019】
ジエン系ポリマーとしては、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ブタジエン重合体(BR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニリトル-ブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。また、SBR、BR及びIRは水添されていてもよい。
ジエン系ポリマーは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
以上の中でも、本発明におけるジエン系ポリマーは、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)を含むことが好ましく、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)からなることがより好ましい。
【0020】
ジエン系ポリマーのジエン化合物部分のビニル結合量(Vi)は、本発明のポリマー組成物を含むゴム組成物から得られるタイヤの転がり抵抗とWET性能とのバランスの観点から、10~70モル%であることが好ましく、15~60モル%であることが好ましく、20~50モル%であることが更に好ましい。
なお、ジエン系ポリマーのビニル結合量は、H-NMRスペクトルにより測定することができる。
【0021】
ジエン系ポリマーとして、変性もしくは無変性のSBRを用いる場合、変性もしくは無変性のSBRの結合スチレン量(St)は、本発明のポリマー組成物を含むゴム組成物から得られるタイヤの低ロス性とWET性能の観点から、3~25モル%であることが好ましく、4~22モル%であることがより好ましく、5~18モル%であることが更に好ましい。
変性もしくは無変性のSBRの結合スチレン量は、H-NMRスペクトルにより測定することができる。
【0022】
〔樹脂〕
ポリマー組成物は、%H Ar値が20%以上かつ軟化点が110℃以上の樹脂(本発明における樹脂)を含み、ポリマー組成物中の本発明における樹脂の含有量は、ジエン系ポリマー100質量部に対し20質量部以上である。
ポリマー組成物中の本発明における樹脂の含有量が、ジエン系ポリマー100質量部に対し20質量部未満では、ポリマー組成物のコールドフロー現象を抑制することができない。ポリマー組成物の耐コールドフロー性をより向上する観点から、ポリマー組成物中の本発明における樹脂の含有量は、ジエン系ポリマー100質量部に対し、30質量部以上であることが好ましく、35質量部以上であることがより好ましく、50質量部以上であることが更に好ましい。
ポリマー組成物中の本発明における樹脂の含有量は、ジエン系ポリマー100質量部に対し、100質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましく、70質量部以下であることが更に好ましい。
【0023】
(%H Ar値)
%H Ar値とは、化合物中の芳香環(Ar)に結合した水素原子(H)量[%]を表し、樹脂の構造の観点から見た極性の程度を表すものであり、樹脂中に含まれる水素原子を芳香族由来、非芳香族由来に分けたときに、下記式で求めることができる。
%H Ar値=〔芳香族由来の水素原子量/(芳香族由来の水素原子量+非芳香族由来の水素原子量)〕×100
【0024】
%H Ar値が大きいと極性が大きく、数平均分子量が500,000g/mol以上であるジエン系ポリマーとの相溶性が小さい。%H Ar値が小さいと極性が小さく、数平均分子量が500,000g/mol以上であるジエン系ポリマーとの相溶性が大きい。
本発明における樹脂は、%H Ar値が20%以上であるため、数平均分子量が500,000g/mol以上であるジエン系ポリマーとの相溶性が小さい。
本発明における樹脂の%H Ar値は高いほどジエン系ポリマーとの相溶性が小さく良好であり、25%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。また、本発明における樹脂の%H Ar値は、62.5%以下であることが好ましい。
【0025】
%H Ar値は、次のようにして測定することができる。
樹脂20mg±1mgを、重水素化率100%のCDCl(0.7mL)に溶かし、Bruker社製500MHzのNMRを用いて、25℃、32回スキャンでH NMRを測定する。内部標準の[Si(CH]Oのシグナルを0ppmとしたときの[(8.5~6.2ppmの積分値)/(8.5~0ppmの積分値)]×100を%H Arとする。
【0026】
なお、ポリマーと樹脂との相溶性を表す特性として、SP(Solubility Parameter)値が用いられることがあるが、SP値は樹脂の分子構造が不明な場合に算出することができない。一方で、%H Ar値は、ジエン系ポリマーと樹脂との相溶性に重要な芳香族成分を示す指標であり、分子構造詳細が不明な場合でも相溶性を表現することができる。
【0027】
(軟化点)
本発明における樹脂は、軟化点(Ts)が110℃以上である。
本発明における樹脂の軟化点が110℃以上であることで、ポリマー組成物に剛性を与え、ポリマー組成物の変形を抑制し、コールドフロー現象を抑制することができる。
本発明における樹脂の軟化点は、115℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。また、ポリマー組成物の加工性の観点から、本発明における樹脂の軟化点は、150℃以下であることが好ましく、145℃以下であることがより好ましく、140℃以下であることが更に好ましい。
軟化点は、JIS-K2207-1996(環球法)に準拠した方法により測定することができる。
【0028】
本発明における樹脂は、%H Ar値が20%以上かつ軟化点が110℃以上であれば特に制限されず、例えば、C-C系樹脂、C系樹脂、テルペン-芳香族化合物系樹脂、DCPD-芳香族化合物系樹脂等が挙げられる。
本発明における樹脂は1種のみ用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
中でも、%H Ar値と軟化点の両立の観点から、C系樹脂及びテルペン-芳香族化合物系樹脂が好ましく、スチレン系モノマー単一重合系樹脂及びテルペンフェノール樹脂が好ましい。
【0029】
系樹脂とは、例えばAlCl、BF等のフリーデルクラフツ型触媒を用い、C留分を重合して得られる固体重合体を指す。
系樹脂としては、例えば、インデン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等を主成分とする(共)重合体等が挙げられる。C系樹脂は、スチレン系モノマー単一重合系樹脂を含むことが好ましく、スチレン系モノマー単一重合系樹脂としては、例えば、ポリスチレン、α-メチルスチレン樹脂、ビニルトルエン樹脂、α-メチルビニルトルエン樹脂等が挙げられる。スチレン系モノマー単一重合系樹脂は、ポリスチレン及びα-メチルスチレン樹脂が好ましい。
【0030】
テルペン-芳香族化合物系樹脂は、代表例としてテルペン-フェノール樹脂を挙げることができる。このテルペン-フェノール樹脂は、テルペン類と種々のフェノール類とを、フリーデルクラフツ型触媒を用いて反応させたり、或いは更にホルマリンで縮合する方法で得ることができる。原料のテルペン類としては特に制限はなく、α-ピネンやリモネン等のモノテルペン炭化水素が好ましく、α-ピネンを含むものがより好ましく、特にα-ピネンであることが好ましい。なお、骨格中にスチレン等を含んでいてもよい。
【0031】
本発明における樹脂は、ポリマー組成物の変形をより抑制する観点から、ガラス転移温度が65℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。また、耐コールドフロー性の観点から、本発明における樹脂のガラス転移温度は、100℃以下であることが好ましく、97℃以下であることがより好ましく、93℃以下であることが更に好ましい。
なお、本発明における樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定装置(DSC)により測定することができる。
【0032】
本発明における樹脂は、数平均分子量(Mn)が300g/mol以上であることが好ましい。本発明における樹脂の数平均分子量が300g/mol以上であることで、ジエン系ポリマーに対する本発明における樹脂の相溶性を低下させることができる。
本発明における樹脂の数平均分子量(Mn)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定したポリスチレン換算数平均分子量を意味する。
本発明における樹脂の数平均分子量は、500g/mol以上であることがより好ましく、600g/mol以上であることが更に好ましい。また、本発明における樹脂の数平均分子量は、1000g/mol以下であることが好ましく、950g/mol以下であることがより好ましく、900g/mol以下であることが更に好ましい。
【0033】
本発明における樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ジエン系ポリマーとの相溶性の観点から、1000~2000g/molであることが好ましく、1200~1900g/molであることがより好ましく、1400~1800g/molであることが更に好ましい。
重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定したポリスチレン換算重量平均分子量を意味する。
【0034】
本発明における樹脂の分子量分布(MWD)は、ジエン系ポリマーとの相溶性の観点から、1.30~2.50であることが好ましく、1.40~2.40であることがより好ましく、1.50~2.30であることが更に好ましい。
本発明における樹脂の分子量分布(MWD)は、重量平均分子量(Mw)と対数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)から計算され得る。
【0035】
既述のように、ポリマー組成物が、本発明におけるジエン系ポリマー及び所定の量の本発明における樹脂を含むことで、ポリマー組成物のガラス転移温度を高め、または非相溶の高Tgドメインを作ることで、コールドフロー現象を抑制することができる。
なお、ポリマー組成物のガラス転移温度は、示差走査熱量測定装置(DSC)により測定することができる。
【0036】
ポリマー組成物は、本発明におけるジエン系ポリマー及び本発明における樹脂以外の成分を更に含んでいてもよいが、油は含まないことが好ましい。すなわち、ポリマー組成物中の油の含有量は0質量%であることが好ましい。ポリマー組成物が油を含まないことでポリマー組成物の剛性を維持し易い。
ここで、油とは、25℃で液状の軟化剤を意味し、例えば、プロセスオイル等の鉱物油、植物油等が挙げられる。
ポリマー組成物の耐コールドフロー性をより向上する観点から、ポリマー組成物は、本発明におけるジエン系ポリマー及び本発明における樹脂からなることが好ましい。
【0037】
<ポリマー組成物の製造方法>
数平均分子量が500,000g/mol以上であるジエン系ポリマーと、%H Ar値が20%以上かつ軟化点が110℃以上の樹脂とを混合し、前記樹脂の配合量が、前記ジエン系ポリマー100質量部に対し20質量部以上である方法である。
数平均分子量が500,000g/mol以上であるジエン系ポリマーは、本発明におけるジエン系ポリマーとして説明したポリマーを用いることができ、好ましい態様も同様である。また、%H Ar値が20%以上かつ軟化点が110℃以上の樹脂は、本発明における樹脂として説明した樹脂が挙げられ、好ましい態様も同様である。
本発明における樹脂の配合量は、製造されるポリマー組成物の耐コールドフロー性をより向上する観点から、ジエン系ポリマー100質量部に対し、30質量部以上であることが好ましく、35質量部以上であることがより好ましく、50質量部以上であることが更に好ましく;また、100質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましく、70質量部以下であることが更に好ましい。
【0038】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、本発明のポリマー組成物を含む。
本発明のゴム組成物は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等のジエン系ゴムをゴム成分として含むことができる。本発明におけるジエン系ポリマーがジエン系ポリマーである場合は、本発明のポリマー組成物をゴム成分として用いることができる。
本発明のゴム組成物は、本発明のポリマー組成物のほか、カーボンブラック、シリカ等に代表される無機充填剤;軟化剤;老化防止剤;スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤等に代表される加硫促進剤;ステアリン酸;亜鉛華;加硫剤等を含むことができる。
【0039】
<タイヤ>
本発明のタイヤは、本発明のゴム組成物を用いてなる。
タイヤは、適用するタイヤの種類や部材に応じ、未加硫のゴム組成物を用いて成形後に加硫して得てもよく、または予備加硫工程等を経て、一旦未加硫のゴム組成物から半加硫ゴムを得た後、これを用いて成形後、さらに本加硫して得てもよい。なお、タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
本発明のタイヤは、乗用車用、小型トラック用、航空機用等種々のタイヤとして用いることができる。
【0040】
本明細書に記載されているポリマー組成物、ゴム組成物、及びタイヤに含まれる各種成分(樹脂、ゴム、各種添加剤等)は、部分的に、又は全てが化石資源由来であってもよく、植物資源等の生物資源由来であってもよく、使用済タイヤ等の再生資源由来であってもよい。また、当該各種成分は、化石資源、生物資源、再生資源のいずれか2つ以上の混合物由来であってもよい。
【実施例0041】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0042】
<実施例1~4及び比較例1~5>
(ジエン系ポリマー)
1)変性SBR:合成方法1により合成された変性スチレン-ブタジエン共重合体ゴム
2)無変性SBR:合成方法2により合成された無変性スチレン-ブタジエン共重合体ゴム
【0043】
(樹脂)
油:JX日鉱日石エネルギー社製、商品名「JOMO PROCESS NC300BN」
C5C9系樹脂:日本ゼオン社製、商品名「Quintone G100B」
C5系樹脂:日本ゼオン社製、商品名「Quintone A100」
α-メチルスチレン樹脂:Cray Valley社製、商品名「Cleartack W 140」
スチレン系モノマー単一重合系樹脂:三井化学社製、商品名「FTR8120」
【0044】
(合成方法1)
不活性雰囲気としたガラス瓶の中にシクロヘキサン(200g)、ブタジエン/シクロヘキサン溶液(25%質量%、216g)、スチレン(6g)を加え混合した後、2,2-ジ-(2-テトラヒドロフリル)プロパン/シクロヘキサン溶液(0.2M、0.18mL)とn-ブチルリチウム溶液(1.6M、0.19mL)を添加した。50℃で4時間ゆるやかに振とうさせ、その後、N,N-ビス(トリメチルシリル)-(3-アミノ-1-プロピル)](メチル)(ジエトキシ)シランを0.3mol添加した。その後、50℃で更に30分浸透させた。続いて脱気したイソプロピルアルコールをガラス瓶に適量加えることで完全に反応を終了させた後、得られたポリマーセメントに2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールのイソプロピルアルコール溶液(5質量%)0.6mLを加えた。
ポリマーセメントを一部取り出し、H-NMRの積分比より重合体(変性SBR)の分子特性を調べたところ、重合体の結合スチレン量(St)は11%、ブタジエン部分のビニル結合量(Vi)は47モル%であった。
重合体(変性SBR)の数平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィを用いて測定したところ、単分散ポリスチレン換算で612,000(612k)g/molであった。
【0045】
(合成方法2)
不活性雰囲気としたガラス瓶の中にシクロヘキサン(300g)、ブタジエン/シクロヘキサン溶液(25%質量%、108g)、スチレン(3g)を加え混合した後、2,2-ジ-(2-テトラヒドロフリル)プロパン/シクロヘキサン溶液(0.2M、0.10mL)と1,3-ビス(1-リチオ-1,3-ジメチルペンチル)ベンゼンを含むシクロヘキサン溶液(0.15M、0.76mL)を添加した。50℃で10時間ゆるやかに振とうさせ、続いて脱気したイソプロピルアルコールをガラス瓶に適量加えることで重合を終了させた。得られたポリマーセメントに2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールのイソプロピルアルコール溶液(5質量%)0.3mLを加えた。
ポリマーセメントを一部取り出し、H-NMRの積分比より重合体(無変性SBR)の分子特性を調べたところ、重合体の結合スチレン量(St)は11%、ブタジエン部分のビニル結合量(Vi)は45モル%であった。
重合体(無変性SBR)の数平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィを用いて測定したところ、単分散ポリスチレン換算で1,140,000(1140k)g/molであった。
【0046】
〔ポリマー組成物の調製〕
合成方法1及び2で得られたポリマーセメント(ポリマー30g分を含む)と各種樹脂15gを含むTHF溶液とを混ぜ合わせ、30分間振とうさせた。得られたポリマーセメントをイソプロピルアルコールで再沈殿させ、減圧乾燥させることでポリマー組成物を得た。
表1及び2中、各成分の配合単位は[質量部]である。
例えば、表1において、実施例2は、結合スチレン量(St)が11%、ブタジエン部分のビニル結合量(Vi)が47モル%、数平均分子量(Mn)が612,000(612k)g/mol、ガラス転移温度(Tg)が-54℃の変性SBRを100質量部と;数平均分子量(Mn)が886g/mol、重量平均分子量(Mw)が1605g/mol、分子量分布(MWD)が1.81、%H Arが31.60%、ガラス転移温度(Tg)が70℃及び軟化点(Ts)が120℃のスチレン系モノマー単一重合系樹脂50質量部とを混合して調製したことを意味する。
【0047】
〔樹脂のMn、Mw、MWD、%H Ar、Tg、Ts〕
表1に示す樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(MWD)、%H Ar、ガラス転移温度(Tg)及び軟化点(Ts)は、以下の方法で測定した。
【0048】
(数平均分子量、重量平均分子量、分子量分布)
樹脂成分約2.5mgをテトラヒドロフラン10mLに溶解したものをサンプルとして調製した。得られたサンプルを用いて、以下の条件で、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)により、水添樹脂の平均分子量を測定し、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を算出した。また、Mw/MnによりMWDを算出した。
・カラム温度:40℃
・注入量:50μL
・キャリアー及び流速:テトラヒドロフラン 0.6mL/min
【0049】
(%H Ar)
樹脂20mg±1mgを、重水素化率100%のCDCl(0.7mL)に溶かし、Bruker社製500MHzのNMRを用いて、25℃、32回スキャンでH NMRを測定した。内部標準の[Si(CH]Oのシグナルを0ppmとしたときの[(8.5~6.2ppmの積分値)/(8.5~0ppmの積分値)]×100を%H Arとした。
【0050】
(ガラス転移温度)
樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定装置(DSC)により測定した。
具体的には、ISO 22768:2006に準拠して、TAインスツルメント社製の示差走査熱量計「DSC2500」を用い、ヘリウム50mL/分の流通下、-100℃から10℃/分で昇温しながらDSC曲線を記録し、DSC微分曲線のピークトップ(Inflection point)をガラス転移温度とした。
【0051】
(軟化点)
樹脂の軟化点は、JIS-K2207-1996(環球法)に準拠して測定した。
【0052】
〔ポリマー組成物の耐コールドフロー性評価〕
通常、耐コールドフロー性は、余熱1分後から、ロータを回転してポリマー組成物に4分間トルクをかけたときのトルク(ML1+4)の80%緩和値であるT80を用いて評価を行う。しかし、緩和が遅く、測定時間の上限(4分=240秒)に達してもT80の差が見えない場合は、回転停止から更に120秒後の減衰率(減衰率@120sec)による評価も行った。このように、耐コールドフロー性を多面的に評価した。
【0053】
1.T80の観点からの耐コールドフロー性評価
JIS K-6300-1:2001に準拠し、試験温度80℃で、L形の形状を有するロータを余熱時間1分間とし、ロータの回転時間を4分間として、ポリマー組成物を加熱して、ML1+4を測定した。測定装置は、島津製作所社製のムーニービスコメーター「SMV-300RT」を用いた。
ML1+4測定直後にL形ロータの回転を停止し、ML1+4値が80%低減するまでに必要な時間(秒)をT80とした。
【0054】
表1においては、比較例1のT80を100として、実施例及び比較例のT80を指数化し、また、表2においては、比較例3のT80を100として、実施例及び比較例のT80を指数化して、表に示した。
T80の指数が大きいほど、ポリマー組成物はT80の観点からの耐コールドフロー性に優れていることを示す。
【0055】
2.減衰率@120secの観点からの耐コールドフロー性評価
島津製作所社製のムーニービスコメーター「SMV-300RT」を用い、下記条件でML1+4を測定した。
ローターサイズ:L型
試験温度:80℃
余熱時間:1分
試験時間:4分
アフタータイム:4分
減衰率@120sec[%]は、ML1+4測定直後にL形ロータの回転を停止し、回転停止時のML1+4値と、回転停止時から120秒後のML1+4値を用い、下記式により算出した。
減衰率@120sec[%]
=100×[(回転停止時のML1+4値)-(120sec後のML1+4値)]/回転停止時のML1+4
【0056】
表1においては、比較例1の減衰率@120secを100として、実施例及び比較例の減衰率@120secを指数化し、また、表2においては、比較例3の減衰率@120secを100として、実施例及び比較例の減衰率@120secを指数化して、表に示した。
減衰率@120secの指数が大きいほど、ポリマー組成物は減衰率@120secの観点からの耐コールドフロー性に優れていることを示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
表1及び2に示す実施例及び比較例の結果から、本発明に従うポリマー組成物を用いることで、T80及び減衰率@120secの両方の観点において、優れた耐コールドフロー性を示すことがわかる。
一方、本発明における樹脂を含まない比較例のポリマー組成物の多くは、T80の観点からの耐コールドフロー性が不十分であった(比較例1~3、5)。比較例4のポリマー組成物は、T80の観点からの耐コールドフロー性は優れるものの、減衰率@120secの観点からの耐コールドフロー性は不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明におけるポリマー組成物は、ゴム組成物の構成成分として好適に利用することができ、該ゴム組成物は、乗用車、トラック等のタイヤのほか、ホース、ベルト等の各種加硫ゴム物品に好適に利用することができる。