(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067840
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】油圧システム
(51)【国際特許分類】
F15B 11/08 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
F15B11/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178206
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森村 章一
【テーマコード(参考)】
3H089
【Fターム(参考)】
3H089AA52
3H089AA59
3H089BB15
3H089CC01
3H089DA01
3H089DA14
3H089DB13
3H089DB44
3H089DB54
3H089DC02
3H089FF03
3H089GG02
3H089JJ20
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で第二油圧シリンダの可動範囲を適切に維持できる油圧システムを提供する。
【解決手段】油圧システム10は、第一容積室26および第二容積室28を有する第一油圧シリンダ20と、第三容積室46および第四容積室48を有する第二油圧シリンダ40と、前記第一容積室26と前記第三容積室46とを連通する第一連結配管80aと、前記第二容積室28と前記第四容積室48とを連通する第二連結配管80bと、第二ピストン44を静止させた状態で第一ピストン24を進退させることで、前記第一ピストン24の位置を修正する修正機構と、を備え、前記修正機構は、前記第二ピストン44の移動を規制するブレーキ60と、前記第一連結配管80aと前記第二連結配管80bを連通するバイパス配管82と、前記バイパス配管82を開閉するバルブ84と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一ピストンと、前記第一ピストンの進退に伴い容積変化する第一容積室および第二容積室と、を有する第一油圧シリンダと、
前記第一ピストンに従動する第二ピストンと、前記第二ピストンの進退に伴い容積変化する第三容積室および第四容積室と、を有する第二油圧シリンダと、
前記第一油圧シリンダおよび前記第二油圧シリンダの内部に充填される作動油と、
前記第一容積室と前記第三容積室とを連通する第一連結配管と、前記第二容積室と前記第四容積室とを連通する第二連結配管と、を有し、前記第一ピストンの運動を、前記作動油を介して前記第二ピストンに伝達する伝達機構と、
前記第二ピストンを静止させた状態で前記第一ピストンを進退させることで、前記第一ピストンの位置を修正する修正機構と、
を備え、前記修正機構は、
前記第二ピストンの移動を規制するブレーキと、
前記第一連結配管と前記第二連結配管を連通するバイパス配管と、
前記バイパス配管を開閉するバルブと、
を備えることを特徴とする油圧システム。
【請求項2】
請求項1に記載の油圧システムであって、さらに、
前記第一ピストンの位置を第一検出位置として検出する第一位置センサと、
前記第二ピストンの位置を第二検出位置として検出する第二位置センサと、
前記第一検出位置と前記第二検出位置との比較に基づいて、前記第一ピストンの位置の修正の要否を判断するコントローラと、
を備えることを特徴とする油圧システム。
【請求項3】
請求項2に記載の油圧システムであって、
前記第一位置センサは、前記第一ピストンが規定の駆動側基準位置に到達したときに信号を出力する接触式または非接触式のリミットスイッチであり、
前記コントローラは、前記第一ピストンが前記駆動側基準位置に到達したときの第二検出位置に基づいて、前記第一ピストンの位置ズレ量を特定する、
ことを特徴とする油圧システム。
【請求項4】
請求項2に記載の油圧システムであって、
前記コントローラは、前記第一ピストンの位置ズレ量が、規定の基準ズレ量を超えたタイミングで、前記第一ピストンの位置の修正、または、アラームの出力を行う、ことを特徴とする油圧システム。
【請求項5】
請求項2に記載の油圧システムであって、
前記コントローラは、前記第一油圧シリンダまたは前記第二油圧シリンダの動作時間、動作回数および動作距離の少なくとも一つが、規定の基準値を超えたタイミングで、前記第一ピストンの位置の修正、または、アラームの出力を行う、ことを特徴とする油圧システム。
【請求項6】
請求項2に記載の油圧システムであって、
前記第二油圧シリンダは、上位アクチュエータの可動部に組み込まれており、
前記コントローラは、前記可動部の動作指令が停止したタイミングで、前記第一ピストンの位置の修正、または、アラームの出力を行う、ことを特徴とする油圧システム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の油圧システムであって、
前記修正機構は、さらに、前記バイパス配管に設けられた絞りを備える、ことを特徴とする油圧システム。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項に記載の油圧システムであって、
前記第一油圧シリンダの容積は、前記第二油圧シリンダの容積よりも大きい、ことを特徴とする油圧システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、油圧を用いて位置および力の少なくとも一方を伝達する油圧システムを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来からアクチュエータとして、油圧を用いて位置および力の少なくとも一方を伝達する油圧システムが広く知られている。こうした油圧システムとして、二つの油圧シリンダを有し、一方の油圧シリンダの運動を、他方の油圧シリンダに伝達するシステムが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、マスター側シリンダ(以下「第一油圧シリンダ」と呼ぶ)の容積室を、スレーブ側シリンダ(以下「第二油圧シリンダ」と呼ぶ)の容積室と、チューブで連通した油圧システムが開示されている。この場合、第一油圧シリンダのピストンロッドには、直動機構が連結されている。そして、第一油圧シリンダの運動に伴い、作動油が、チューブを介して、第一油圧シリンダおよび第二油圧シリンダの間で送受される。そして、これにより、第一油圧シリンダの運動が、第二油圧シリンダに伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のように、二つの油圧シリンダの間で作動油を送受する油圧システムの場合、作動油のリークに起因して、第二油圧シリンダの可動範囲を適切に維持できないおそれがあった。
【0006】
すなわち、特許文献1の構成の場合、第一油圧シリンダのピストン(以下「第一ピストン」と呼ぶ)の後退に伴い、第二油圧シリンダのピストン(以下「第二ピストン」と呼ぶ)が進出する。換言すれば、第一ピストンが、シリンダチューブの基端に到達し、更なる後退ができない場合、第二ピストンの更なる進出も規制される。そのため、通常、第一ピストンがシリンダチューブの基端に到達する前に、第二ピストンが最大進出位置に到達できるように、第二ピストンの位置に対する第一ピストンの位置が予め調整されている。
【0007】
しかし、ピストンの移動に伴い、作動油のリークが生じると、第二ピストンの位置に対する、第一ピストンの位置がズレる。そして、このズレが累積することで、第二ピストンが最大進出位置に到達する前に、第一ピストンがシリンダチューブの基端に到達してしまい、第二ピストンを最大進出位置まで移動できない場合があった。つまり、従来技術では、第二油圧シリンダの可動範囲を適切に維持できないおそれがあった。
【0008】
そこで、本明細書では、簡易な構成で第二油圧シリンダの可動範囲を適切に維持できる油圧システムを開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書で開示する油圧システムは、第一ピストンと、前記第一ピストンの進退に伴い容積変化する第一容積室および第二容積室と、を有する第一油圧シリンダと、前記第一ピストンに従動する第二ピストンと、前記第二ピストンの進退に伴い容積変化する第三容積室および第四容積室と、を有する第二油圧シリンダと、前記第一油圧シリンダおよび前記第二油圧シリンダの内部に充填される作動油と、前記第一容積室と前記第三容積室とを連通する第一連結配管と、前記第二容積室と前記第四容積室とを連通する第二連結配管と、を有し、前記第一ピストンの運動を、前記作動油を介して前記第二ピストンに伝達する伝達機構と、前記第二ピストンを静止させた状態で前記第一ピストンを進退させることで、前記第一ピストンの位置を修正する修正機構と、を備え、前記修正機構は、前記第二ピストンの移動を規制するブレーキと、前記第一連結配管と前記第二連結配管を連通するバイパス配管と、前記バイパス配管を開閉するバルブと、を備える。
【0010】
この場合、さらに、前記第一ピストンの位置を第一検出位置として検出する第一位置センサと、前記第二ピストンの位置を第二検出位置として検出する第二位置センサと、前記第一検出位置と前記第二検出位置との比較に基づいて、前記第一ピストンの位置の修正の要否を判断するコントローラと、を備えてもよい。
【0011】
また、前記第一位置センサは、前記第一ピストンが規定の駆動側基準位置に到達したときに信号を出力する接触式または非接触式のリミットスイッチであり、前記コントローラは、前記第一ピストンが前記駆動側基準位置に到達したときの第二検出位置に基づいて、前記第一ピストンの位置ズレ量を特定してもよい。
【0012】
また、前記コントローラは、前記第一ピストンの位置ズレ量が、規定の基準ズレ量を超えたタイミングで、前記第一ピストンの位置の修正、または、アラームの出力を行ってもよい。
【0013】
また、前記コントローラは、前記第一油圧シリンダまたは前記第二油圧シリンダの動作時間、動作回数および動作距離の少なくとも一つが、規定の基準値を超えたタイミングで、前記第一ピストンの位置の修正、または、アラームの出力を行ってもよい。
【0014】
また、前記第二油圧シリンダは、上位アクチュエータの可動部に組み込まれており、前記コントローラは、前記可動部の動作指令が停止したタイミングで、前記第一ピストンの位置の修正、または、アラームの出力を行ってもよい。
【0015】
また、前記修正機構は、さらに、前記バイパス配管に設けられた絞りを備えてもよい。
【0016】
また、前記第一油圧シリンダの容積は、前記第二油圧シリンダの容積よりも大きくてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本明細書で開示する油圧システムによれば、第二ピストンを静止させた状態で第一ピストンを進退させることができるため、第一ピストンの位置を修正することができる。そして、これにより、作動油のリークが生じた場合でも、第二油圧シリンダの可動範囲を適切に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3A】第二ピストンの可動範囲を説明する図である。
【
図3B】第一ピストンの位置ズレが生じた場合の第二ピストンの可動範囲を説明する図である。
【
図4】第一ピストンの位置修正の様子を示す模式図である。
【
図5】第一ピストンの位置修正の流れを示すフローチャートである。
【
図6】第一ピストンの位置修正の実行タイミングを決定する流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して油圧システム10の構成について説明する。
図1は、油圧システム10の構成を示す模式図である。
図1に示す通り、油圧システム10は、第一油圧シリンダ20と、第二油圧シリンダ40と、直動機構90と、複数の配管80a,80b,82と、コントローラ12と、を有する。このうち、第二油圧シリンダ40は、例えば、上位アクチュエータ100の可動部110に組み込まれる。上位アクチュエータ100は、第二油圧シリンダ40の出力動力で運動する装置であり、例えば、多関節アーム型のロボットである。また、この場合、可動部110は、そのロボットの関節部やハンド部である。
【0020】
第一油圧シリンダ20は、直動機構90により駆動される油圧シリンダである。第一油圧シリンダ20は、第一シリンダチューブ22と、当該第一シリンダチューブ22の内部で進退する第一ピストン24と、を有する。第一ピストン24には、第一ピストンロッド36が連結されている。第一ピストンロッド36は、第一ピストン24から、第一シリンダチューブ22の外側まで延びている。以下では、第一ピストン24から見て第一ピストンロッド36側を「進出方向」または「ロッド側」と呼び、反対側を「退避方向」または「ヘッド側」と呼ぶ。
【0021】
第一ピストン24は、第一シリンダチューブ22の内部を、第一容積室26と第二容積室28とに分割する。第一容積室26は、第一ピストン24よりヘッド側に位置しており、第二容積室28は、第一ピストン24よりロッド側に位置する。第一容積室26は、第一連結配管80aを介して、後述する第三容積室46に連通されている。第二容積室28は、第二連結配管80bを介して、後述する第四容積室48に連通されている。
【0022】
第一位置センサ38は、第一ピストン24の位置を検出し、第一検出位置として出力する。ここで、第一位置センサ38は、第一ピストン24の位置を正確に検出するセンサでもよいが、第一ピストンのおおよその位置を検出する簡易的なセンサでもよい。例えば、第一位置センサ38は、第一ピストン24が規定の基準位置に到達した場合に信号を出力するリミットスイッチでもよい。また、この場合、リミットスイッチは、接触式および非接触式のいずれでもよい。
【0023】
第二油圧シリンダ40は、第二シリンダチューブ42と、第二シリンダチューブ42の内部で進退する第二ピストン44と、を有する。本例では、第二油圧シリンダ40の容積は、第一油圧シリンダ20の容積より小さい。第二ピストン44には、第二ピストンロッド56が連結されている。第二ピストンロッド56は、第二シリンダチューブ42の外側まで突出している。この第二シリンダチューブ42には、リンク機構112が接続されている。そして、リンク機構112が動くことで、上位アクチュエータ100の可動部110が動く。
【0024】
第二位置センサ58は、第二ピストン44の位置を、直接、または、リンク機構112を介して間接的に、検出し、第二検出位置として出力する。ここで、第二ピストン44またはリンク機構112は、位置制御の対象物であるため、第二位置センサ58は、第一位置センサ38よりも、高精度なセンサが用いられる。
【0025】
第二ピストン44は、第二シリンダチューブ42の内部を、第三容積室46と第四容積室48とに分割する。第三容積室46は、第二ピストン44よりヘッド側に位置しており、第四容積室48は、第二ピストン44よりロッド側に位置する。上述した通り、第三容積室46は、第一連結配管80aを介して、第一容積室26に連通されている。また、第四容積室48は、第二連結配管80bを介して、第二容積室28に連通されている。
【0026】
第一シリンダチューブ22および第二シリンダチューブ42の内部には、非圧縮性流体である作動油が充填されている。そのため、第一ピストン24の退避に伴い、第一容積室26の体積が低下すると、第一容積室26内の作動油が、第一連結配管80aを介して第三容積室46に流れ込み、第二ピストン44が、進出方向に移動する。また、第一ピストン24の進出に伴い、第二容積室28の体積が低下すると、第二容積室28内の作動油が、第二連結配管80bを介して、第四容積室48に流れ込み、第二ピストン44が、退避方向に移動する。つまり、第一連結配管80aおよび第二連結配管80bは、第一ピストン24の運動を、作動油を介して第二ピストン44に伝達する伝達機構として機能する。
【0027】
第二油圧シリンダ40は、さらに、第二ピストン44の移動を規制するブレーキ60を有する。ブレーキ60は、第二ピストンロッド56に押し付けられ、摩擦力により、第二ピストンロッド56の移動を規制する摩擦ブレーキである。
図2は、このブレーキ60の構成を示す模式図である。
【0028】
図2に示す通り、ブレーキ60は、第二シリンダチューブ42に対して固定された固定体62と、固定体62に対して動く可動体64と、を有している。固定体62には、第二ピストンロッド56が挿通される貫通孔63が形成されている。この貫通孔63の内周面の一部には、ヘッド側に近づくにつれて縮径するテーパ面74が形成されている。可動体64は、このテーパ面74に沿う楔部76を有している。
【0029】
可動体64は、スプリング66により、ヘッド側に付勢されている。また、可動体64と固定体62との間には、密閉空間67が形成されている。固定体62には、この密閉空間67に繋がる油圧供給路68が、形成されている。ブレーキ用ポンプ70によって、油圧源72から密閉空間67に作動油が供給された場合、可動体64は、スプリング66の付勢力に抗して、ロッド側に移動する。一方、密閉空間67から作動油が流出すると、可動体64は、スプリング66の付勢力によりヘッド側に移動する。そしてこれにより、楔部76が、テーパ面74と第二ピストンロッド56との隙間に入り込む。その結果、楔部76と第二ピストンロッド56との間に大きな摩擦が発生し、第二ピストンロッド56および第二ピストン44の移動が規制される。
【0030】
なお、ここで説明したブレーキ60の構成は、一例であり、ブレーキ60は、第二ピストン44の移動を規制できるのであれば、他の構成でもよい。したがって、例えば、ブレーキ60は、第二油圧シリンダ40ではなく、第二油圧シリンダ40からの出力動力で可動する可動部110に設けられてもよい。例えば、第二油圧シリンダ40の出力動力で、ロボットの関節を動かす場合、ブレーキ60は、そのロボットの関節の回転をロックするようなブレーキでもよい。また、ブレーキ60は、摩擦ブレーキに限らず、他の形態のブレーキでもよい。
【0031】
次に、直動機構90について説明する。直動機構90は、第一ピストン24を、直進進退させる。
図1に示す通り、直動機構90は、サーボモータ92と、ギヤユニット94と、ボールねじ96と、を有する。ギヤユニット94は、サーボモータ92の出力軸に取り付けられた主ギヤ94aと、主ギヤ94aと噛み合う一対の副ギヤ94bと、を有している。一対の副ギヤ94bは、主ギヤ94aを挟んで180°対称位置に配されており、主ギヤ94aの回転に伴い、互いに同一方向に回転する。各副ギヤ94bには、ボールねじ96が固着されており、副ギヤ94bの回転に伴い、ボールねじ96も回転する。一対のボールねじ96には、移動ブロック98が、螺合締結されている。この移動ブロック98には、第一ピストンロッド36が固着されている。そのため、サーボモータ92の駆動に伴い、一対のボールねじ96が回転すると、移動ブロック98ひいては、第一ピストンロッド36および第一ピストン24が、直進進退する。
【0032】
なお、ここで説明した直動機構90は、一例である。直動機構90は、第一ピストン24を直進進退できるのであれば、他の構成でもよい。例えば、直動機構90は、モータとタイミングベルトとを組み合わせた機構でもよいし、リニアモータを有した機構でもよい。
【0033】
また、
図1に示すとおり、本例の油圧システム10は、バイパス配管82を有している。バイパス配管82は、第一連結配管80aと第二連結配管80bとを連通する。このバイパス配管82には、バルブ84および絞り86が設けられている。バルブ84は、バイパス配管82を開閉できるのであれば、その構成は、限定されない。したがって、バルブ84は、例えば、電気信号に応じて開閉可能なソレノイドバルブでもよいし、作業者の手動操作により開閉されるバルブでもよい。なお、バルブ84として、作動油のリークが生じないリークレスバルブを用いれば、後述する第一ピストン24の位置修正の頻度を低減できる。また、バルブ84は、バイパス配管82およびブレーキ60とともに、第一ピストン24の位置ズレを修正する修正機構として機能するが、これについては、後述する。
【0034】
コントローラ12は、油圧システム10の動作を制御する。かかるコントローラ12は、物理的には、プロセッサ14とメモリ16を有したコンピュータである。この「コンピュータ」には、コンピュータシステムを一つの集積回路に組み込んだマイクロコントローラも含まれる。また、コントローラ12は、単一のコンピュータに限らず、物理的に離れて設けられた複数のコンピュータを組み合わせて構成されてもよい。また、コントローラ12は、油圧システム10のために専用に設けられたコンピュータでもよいし、他の制御対象のために設けられたコンピュータでもよい。したがって、例えば、上位アクチュエータ100の動作を制御するために設けられたコンピュータを、油圧システム10のコントローラ12として利用してもよい。
【0035】
コントローラ12は、上位アクチュエータ100からの動作指令に応じて、油圧システム10を駆動する。具体的には、第二ピストンロッド56の進出が必要な場合、コントローラ12は、サーボモータ92を駆動して、第一ピストン24を退避方向に移動させる。また、第二ピストンロッド56の退避が必要な場合、コントローラ12は、サーボモータ92を駆動して、第一ピストン24を進出方向に移動させる。このとき、コントローラ12は、第二ピストン44、ひいては、リンク機構112の位置をモニタリングすればよく、第一ピストン24の位置のモニタリングは、不要である。ただし、後述する第一ピストン24の位置ズレを修正するために、第一ピストン24の位置、ひいては、第一ピストン24のズレ量DEは、定期的に取得される。
【0036】
次に、第一ピストン24の位置修正について説明する。はじめに、こうした位置修正が必要な理由について
図3A、
図3Bを参照して説明する。本例では、上述した通り、第一ピストン24の進退に伴い第一油圧シリンダ20から流出する作動油を、第二油圧シリンダ40に送り込むことで、第二ピストン44を移動させている。
【0037】
こうしたピストン24,44の移動、ひいては、容積室26、28,46,48の体積変動に伴い、作動油に大きな圧力が作用し、作動油の内部リークおよび外部リークが生じる場合がある。内部リークでは、作動油が、ピストン24,44とシリンダチューブ22,42とのシールを通過し、シリンダチューブ22,42内で移動する。また、外部リークでは、作動油がピストンロッド36,56とシリンダチューブ22,42とのシールを通過し、シリンダチューブ22,42の外部に漏出する。
【0038】
第一油圧シリンダ20において作動油のリーク、特に内部リークが発生すると、第一ピストン24が、本来意図した位置からズレる。通常、第一ピストン24の位置がズレたとしても、第二ピストン44、ひいては、リンク機構112を適正に位置決めできれば問題とはならない。しかし、こうした第一ピストン24の位置ズレが累積し、位置ズレ量DEが、大きくなると、第二ピストン44を適切に位置決めできない場合がある。
【0039】
例えば、第一シリンダチューブ22断面積が、第二シリンダチューブ42の断面積と同じであり、第一ピストン24の移動量が、第二ピストン44の移動量と同じになる油圧システム10を考える。
【0040】
図3Aに示すように、第二ピストン44が、ロッド側の端部から距離L1だけ離れている場合に、第一ピストン24が、ヘッド側の端部から距離L1以上離れているとする。この場合、第一ピストン24は、ヘッド側に移動することで、第二ピストン44を、ロッド側の端部まで進出させることができる。
【0041】
一方、
図3Aの状態から第一ピストン24の往復動を繰り返すことで、作動油のリーク、ひいては第一ピストン24の位置ズレが蓄積し、
図3Bの状態に変化したとする。
図3Bでは、第二ピストン44が、ロッド側の端部から距離L1だけ離れている場合に、第一ピストン24は、ヘッド側の端部から距離L2(なおL2<L1)しか離れていない。この場合、第一ピストン24をヘッド側の端部まで移動させたとしても、第二ピストン44をロッド側端部まで移動させることができない。その結果、作動油のリーク、ひいては第一ピストン24の位置ズレが累積した
図3Bの状態では、第二ピストン44を、適切に、位置決めできない。
【0042】
こうした問題は、第一油圧シリンダ20の容積を第二油圧シリンダ40の容積よりも十分に大きくすることで、ある程度解消できる。例えば、
図3Bの例では、第一ピストン24の位置ズレが発生した状態で、第一ピストン24からヘッド側端部までの距離がL1以上になるように、第一油圧シリンダ20の容積を大きくすれば、第二ピストン44を適切に位置決めできる。しかし、第一油圧シリンダ20を大きくしたとしても、第一ピストン24の位置ズレがさらに累積すれば、いずれ、第一ピストン24を適切に位置決めできない状況が発生する。また、第一油圧シリンダ20を、大型化した場合、油圧システム10全体の大型化やコスト増加という別の問題が生じる。
【0043】
そこで、本例では、バイパス配管82およびバルブ84を設け、第一ピストンの位置を修正する。これについて、
図4、
図5を参照して説明する。
図4は、第一ピストン24の位置修正の様子を示す模式図である。また、
図5は、第一ピストン24の位置修正の流れを示すフローチャートである。
【0044】
第一ピストン24の位置修正が必要な場合、コントローラ12は、直動機構90を駆動して、第二ピストン44を、規定の従動側基準位置Pbまで移動させる(S10)。このとき、バルブ84は、
図1に示すように、閉鎖されている。
【0045】
ここで、従動側基準位置Pbは、第二ピストン44の可動範囲内であれば、特に限定されない。したがって、従動側基準位置Pbは、第二シリンダチューブ42の端部でもよいし、中間位置でもよい。本例では、第二シリンダチューブ42の中心位置を、従動側基準位置Pbとしている。従動側基準位置Pbを、第二シリンダチューブ42の中心位置とすれば、第一ピストン24の位置ズレ量DEが大きい場合でも、第二ピストン44を従動側基準位置Pbまで確実に移動させることができる。
【0046】
第二ピストン44が従動側基準位置Pbまで移動すれば、コントローラ12は、直動機構90を停止したうえで、ブレーキ60を作動させる(S12)。これにより、第二ピストン44は、従動側基準位置Pbで固定される。
【0047】
続いて、コントローラ12は、
図5に示すように、バルブ84を開放する(S14)。その後、コントローラ12は、直動機構90を駆動し、第一ピストン24を駆動側基準位置Paまで移動させる(S16)。ここで、駆動側基準位置Paとは、従動側基準位置Pbに対応する位置である。したがって、第一ピストン24の位置ズレがない理想状態において、第一ピストン24を駆動側基準位置Paまで移動させたとき、第二ピストン44は、従動側基準位置Pbまで移動する。
【0048】
ブレーキ60を作動させるとともにバルブ84を開放した状態で第一ピストン24を移動させると、第一容積室26および第二容積室28との間で作動油が送受される。
図4の例では、第一ピストン24を実線の位置から破線の位置まで移動させると、第二容積室28の作動油が、バイパス配管82を通って、第一容積室26に流入する。これにより、第一油圧シリンダ20における内部リーク、ひいては、第一ピストン24の位置ズレが解消される。
【0049】
なお、第一容積室26と第二容積室28は、体積が異なるため、ステップS16で第一ピストン24を移動させた際には、作動油の圧縮率が変化し、容積室26,28の内圧が変化する。この内圧の変化は、作動油に混入した空気量や、配管80a,80b,82の柔らかさ等の影響を受ける。ただし、位置ズレが生じる前の初期位置では、無理のない圧力であったはずなので、元の位置まで位置ズレを修正しても問題は生じない。
【0050】
また、バルブ84を開くと、第二油圧シリンダ40の第三容積室46および第四容積室48が同じ圧力になるように、第三容積室46および第四容積室48の間でも作動油が、送受される。このとき、急激な圧力変化を避けるために、本例では、バイパス配管82に絞り86を設け、作動油の急激な移動を防止している。
【0051】
第一ピストン24が、駆動側基準位置Paまで移動すれば、コントローラ12は、直動機構90を停止したうえで、バルブ84の閉鎖およびブレーキ60の解除を行う(S18,S20)。そして、ブレーキ60を解除すれば、第一ピストン24の位置修正は、終了となる。
【0052】
以上の説明で明らかな通り、本例によれば、第一ピストン24の位置ズレを修正できる。その結果、作動油のリークが累積した場合でも、この影響を解消でき、第二ピストン44を適切に位置決めできる。
【0053】
なお、
図5の例では、コントローラ12が、第一ピストン24の位置修正を実行している。しかし、作業者が、上述のフローの一部を手動で行ってもよい。例えば、コントローラ12は、位置修正が必要と判断した場合、作業者に対して、位置修正の実行を促すためのアラームを出力してもよい。この場合、作業者は、必要に応じて、直動機構90、ブレーキ60、およびバルブ84の少なくとも一つを手動で動作させてもよい。
【0054】
次に、第一ピストン24の位置修正の実行タイミングについて説明する。上述した通り、第一油圧シリンダ20の容積を、第二シリンダの容積よりも大きくしておけば、ある程度の位置ズレ量DEを許容できる。そこで、許容可能な位置ズレ量を、基準ズレ量DEstとして予め記憶しておいてもよい。そして、コントローラ12は、実際に生じているズレ量DEが、この基準ズレ量DEst以上になった場合に、
図5に示す位置ズレ修正を実行、あるいは、アラームを出力してもよい。この場合、コントローラ12は、油圧システム10を駆動している期間中、第一ピストン24の位置ズレ量DEをモニタリングしておく。例えば、コントローラ12は、油圧システム10の駆動期間中、第一ピストン24が、駆動側基準位置Paに到達するたびに、第二ピストン44の位置を第二検出位置として取得する。コントローラ12は、得られた第二検出位置と、従動側基準位置Pbとの差分値を、位置ズレ量DEとして算出する。そして、算出された位置ズレ量DEが、規定の基準ズレ量DEst以上になった場合に、第一ピストン24の位置修正を実行、あるいは、アラームを出力してもよい。
【0055】
また、別の形態として、コントローラ12は、第一油圧シリンダ20または第二油圧シリンダ40の動作時間、動作回数、および動作距離の少なくとも一つが規定の基準値を越えたタイミングで、第一ピストン24の位置修正を実行、あるいは、アラームを出力してもよい。
【0056】
また、別の形態として、コントローラ12は、第二油圧シリンダ40が組み込まれた可動部110に対する動作指令が停止したタイミングで、第一ピストン24の位置修正を実行、あるいは、アラームを出力してもよい。
図6は、この場合の処理の流れを示すフローチャートである。
図6に示すとおり、コントローラ12は、第二油圧シリンダ40が組み込まれた可動部110に対する動作指令の有無を監視する(S30)。その結果、可動部110に対する動作指令がある場合は、位置修正を行うことなく、待機する。一方、可動部110に対する動作指令がない場合、コントローラ12は、直近で取得された位置ズレ量DEと、基準ズレ量DEstと、を比較する(S32)。比較の結果、位置ズレ量DEが、基準ズレ量DEst未満の場合には、位置修正を行うことなく、待機する。一方、位置ズレ量DEが、基準ズレ量DEst以上の場合、コントローラ12は、
図5のフローに従って、第一ピストン24の位置ズレを修正する(S34)。なお、当然ながら、位置修正の実行中に、可動部110に対する動作指令を受信した場合、コントローラ12は、位置修正処理を中断したうえで、動作指令に従って、油圧システム10を駆動する。
【0057】
また、これまで説明した構成は、いずれも、一例である。油圧システム10は、第一油圧シリンダ20および第二油圧シリンダ40を連結する二つの連結配管80a,80bと、二つの連結配管80a,80bを連結するバイパス配管82と、バイパス配管82を開閉するバルブ84と、第二ピストン44の移動を規制するブレーキ60と、を有するのであれば、その他の構成は変更されてもよい。例えば、上述の説明では、第一油圧シリンダ20のヘッド側の容積室と、第二油圧シリンダ40のヘッド側の容積室と、を連結配管80aで連結している。しかし、この連結される容積室の組み合わせは変更されてもよい。例えば、
図7に示すとおり、第一油圧シリンダ20のヘッド側に位置する第一容積室26が、第二油圧シリンダ40のロッド側に位置する第三容積室46と、第一連結配管80aで連結されてもよい。この場合、当然ながら、第一油圧シリンダ20のロッド側に位置する第二容積室28は、第二油圧シリンダ40のヘッド側に位置する第四容積室48と、第二連結配管80bで連結される。
【0058】
また、外部リークによる作動油の減少を補償するために、
図8に示すように、油圧システム10に、さらに、アキュムレータ99を設けてもよい。この場合、アキュムレータ99は、第一連結配管80aおよび第二連結配管80bに接続される。
【符号の説明】
【0059】
10 油圧システム、12 コントローラ、14 プロセッサ、16 メモリ、20 第一油圧シリンダ、22 第一シリンダチューブ、24 第一ピストン、26 第一容積室、28 第二容積室、36 第一ピストンロッド、38 第一位置センサ、40 第二油圧シリンダ、42 第二シリンダチューブ、44 第二ピストン、46 第三容積室、48 第四容積室、56 第二ピストンロッド、58 第二位置センサ、60 ブレーキ、62 固定体、63 貫通孔、64 可動体、66 スプリング、67 密閉空間、68 油圧供給路、70 ブレーキ用ポンプ、72 油圧源、74 テーパ面、76 楔部、80a 第一連結配管、80b 第二連結配管、82 バイパス配管、84 バルブ、86 絞り、90 直動機構、92 サーボモータ、94 ギヤユニット、96 ボールねじ、98 移動ブロック、99 アキュムレータ、100 上位アクチュエータ、110 可動部、112 リンク機構。