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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067847
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】作業機械およびその温度管理システム
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/16 20060101AFI20240510BHJP
   E02F 9/00 20060101ALI20240510BHJP
   B60H 1/08 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
E02F9/16 C
E02F9/00 C
E02F9/00 M
B60H1/08 611Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178215
(22)【出願日】2022-11-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】505236469
【氏名又は名称】キャタピラー エス エー アール エル
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 襄
(72)【発明者】
【氏名】岸田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 有香理
(72)【発明者】
【氏名】的場 信明
【テーマコード(参考)】
2D015
3L211
【Fターム(参考)】
2D015CA02
2D015EC01
3L211AA09
3L211BA02
3L211DA43
(57)【要約】
【課題】背圧の増加を防止しつつ作動流体の熱を利用して省電力で熱管理できる作業機械の温度管理システムおよびこれを備えた作業機械を提供する。
【解決手段】作業機械1の温度管理システム31は、作動油をタンク3へ戻すリターンライン12と、リターンライン12に設けられ戻り油に背圧を与える背圧チェック弁14と、リターンライン12において背圧チェック弁14よりも上流側から戻り油の一部を分流する分流ライン18と、キャブ25内部を暖房する暖房装置37に用いられるクーラントを循環させるクーラントライン33と、分流ライン18とクーラントライン33との間で熱交換する熱交換器40と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体をタンクへ戻すリターンラインと、
このリターンラインに設けられ戻り流体に背圧を与える背圧チェック弁と、
リターンラインにおいて背圧チェック弁よりも上流側から戻り流体の一部を分流する分流ラインと、
キャブ内部を暖房する暖房装置に用いられるクーラントを循環させるクーラントラインと、
分流ラインと暖房装置のクーラントラインとの間で熱交換する熱交換器と、
を備えたことを特徴とする作業機械の温度管理システム。
【請求項2】
タンクから分流ラインに接続された補助ラインと、
この補助ラインに設けられたポンプと、
このポンプを動作させる電動モータと、
を備えたことを特徴とする請求項1記載の作業機械の温度管理システム。
【請求項3】
バッテリの温度を調整するバッテリ熱管理システムに用いられるクーラントを循環させるクーラントラインと、
バッテリ熱管理システムのクーラントラインと暖房装置のクーラントラインとの間に設けられ、バッテリ熱管理システムのクーラントラインのクーラントの一部を暖房装置のクーラントラインに供給する供給ラインと、
を備えたことを特徴とする請求項1記載の作業機械の温度管理システム。
【請求項4】
バッテリの温度を調整するバッテリ熱管理システムに用いられるクーラントを循環させるクーラントラインと、
電気装置の温度を調整する電気装置熱管理システムに用いられるクーラントを循環させるクーラントラインと、
電気装置管理システムのクーラントラインとバッテリ熱管理システムのクーラントラインとの間に設けられ、電気装置熱管理システムのクーラントラインのクーラントの一部をバッテリ熱管理システムのクーラントラインに供給する供給ラインと、
を備えたことを特徴とする請求項1記載の作業機械の温度管理システム。
【請求項5】
暖房装置を有するキャブと、
作動流体を貯留するタンクと、
請求項1乃至4いずれか一記載の温度管理システムと、
を備えたことを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動流体を利用して熱管理する作業機械の温度管理システムおよびこれを備えた作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばバックホウ等の作業機械において、キャブの内部を温める暖房装置として、油圧シリンダや油圧モータ等の油圧アクチュエータを作動させるための作動油から熱を得ることで別途電力等のエネルギーの供給を不要としたものが知られている(例えば、特許文献1および2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-80706号公報
【特許文献2】特開2022-96243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の作業機械の温度管理システムでは、油圧アクチュエータからタンクへの作動油のリターンラインに暖房装置を設けているため、暖房装置の熱交換器の流路抵抗が大きい場合、背圧が高くなり、油圧アクチュエータにより駆動される作業装置の操作性等に影響を与えるおそれがある。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、背圧の増加を防止しつつ作動流体の熱を利用して省電力で熱管理できる作業機械の温度管理システムおよびこれを備えた作業機械を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、作動流体をタンクへ戻すリターンラインと、このリターンラインに設けられ戻り流体に背圧を与える背圧チェック弁と、リターンラインにおいて背圧チェック弁よりも上流側から戻り流体の一部を分流する分流ラインと、キャブ内部を暖房する暖房装置に用いられるクーラントを循環させるクーラントラインと、分流ラインと暖房装置のクーラントラインとの間で熱交換する熱交換器と、を備えた作業機械の温度管理システムである。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の作業機械の温度管理システムにおいて、タンクから分流ラインに接続された補助ラインと、この補助ラインに設けられたポンプと、このポンプを動作させる電動モータと、を備えた作業機械の温度管理システムである。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の作業機械の温度管理システムにおいて、バッテリの温度を調整するバッテリ熱管理システムに用いられるクーラントを循環させるクーラントラインと、バッテリ熱管理システムのクーラントラインと暖房装置のクーラントラインとの間に設けられ、バッテリ熱管理システムのクーラントラインのクーラントの一部を暖房装置のクーラントラインに供給する供給ラインと、を備えた作業機械の温度管理システムである。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の作業機械の温度管理システムにおいて、バッテリの温度を調整するバッテリ熱管理システムに用いられるクーラントを循環させるクーラントラインと、電気装置の温度を調整する電気装置熱管理システムに用いられるクーラントを循環させるクーラントラインと、電気装置管理システムのクーラントラインとバッテリ熱管理システムのクーラントラインとの間に設けられ、電気装置熱管理システムのクーラントラインのクーラントの一部をバッテリ熱管理システムのクーラントラインに供給する供給ラインと、を備えた作業機械の温度管理システムである。
【0010】
請求項5記載の発明は、暖房装置を有するキャブと、作動流体を貯留するタンクと、請求項1乃至4いずれか一記載の温度管理システムと、を備えた作業機械である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明によれば、熱交換器の流路抵抗に起因する背圧の増加を防止しつつ、作動流体の熱を有効に利用して省電力でキャブ内部を暖房できる。
【0012】
請求項2記載の発明によれば、作動流体がリターンラインを流れていない状態であっても、補助ラインを利用して熱交換器に作動流体を送ることができるので、クーラントを温める熱源を得ることができる。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、作動流体の熱を回収して温められたクーラントを、バッテリを温めることにも利用できる。
【0014】
請求項4記載の発明によれば、電気装置熱管理システムの熱でバッテリを温めたり、バッテリ熱管理システムの冷えたクーラントを利用して電気装置を冷やしたりできる。
【0015】
請求項5記載の発明によれば、キャブ内部を暖房でき、かつ、温度管理システムの消費電力を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る温度管理システムを備える作業機械の一実施の形態を示す説明図である。
図2】同上温度管理システムの春季または秋季の運転動作を示す説明図である。
図3】同上温度管理システムの冬季の運転動作を示す説明図である。
図4】同上温度管理システムの夏季の運転動作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、図1乃至図4に示された一実施の形態に基いて詳細に説明する。
【0018】
図1に示される作業機械1は、例えば油圧ショベル等の作業機械である。特に、本実施の形態において、作業機械1は、例えば電動式油圧ショベル等の電動式作業機械を例に挙げて説明する。
【0019】
作業機械1は、流体圧回路2を備える。本実施の形態において、流体圧回路2は、油圧回路であり、作動流体である作動油を貯留するタンク3、作動油を供給するためのメインポンプ4,5、流体圧アクチュエータを構成する油圧シリンダや油圧モータ、メインポンプ4,5から油圧シリンダや油圧モータへの作動油の給排を制御するコントロールバルブ7等を備える。コントロールバルブ7は、オペレータの操作等に応じてスプールの位置が切り換えられ、その切り換え位置に応じて油路を連通または遮断することにより、油圧シリンダや油圧モータへの作動油の方向および流量を制御するように構成されている。
【0020】
メインポンプ4,5は、モータ8により駆動され、タンク3から吸い込んだ作動油を高圧の圧油としてポンプライン10,11に吐出する。本実施の形態において、モータ8は電動モータである。そして、ポンプライン10,11に吐出された圧油は、コントロールバルブ7等を介してシリンダやモータに供給される。また、シリンダやモータからの戻り流体すなわち戻り油は、コントロールバルブ7およびリターンライン12等を介してタンク3へ排出される。
【0021】
リターンライン12には、戻り油に背圧を付与する背圧チェック弁14が設けられている。また、リターンライン12には、背圧チェック弁14の下流側に、オイルクーラ15が設けられている。このオイルクーラ15を介して戻り油がタンク3に排出される。
【0022】
さらに、リターンライン12には、分流ライン18が接続されている。分流ライン18は、背圧チェック弁14の上流側から戻り油の一部を分流するものである。分流ライン18は、例えば背圧チェック弁14をバイパスしてリターンライン12に両端部が接続されている。
【0023】
また、分流ライン18からタンク3に亘り、補助ライン20が接続されている。補助ライン20は、ポンプライン10,11から分岐されている。補助ライン20には、作動油をタンク3から分流ライン18に送るポンプ21が設けられている。ポンプ21は、電動モータ22により動作される。また、ポンプ21の下流側には、分流ライン18との間に、作動油の逆流を阻止するチェック弁23が設けられている。また、分流ライン18には、作動油の温度を検出する温度センサ24が設けられている。本実施の形態では、温度センサ24は、補助ライン20と分流ライン18との接続点、つまり補助ライン20の最下流部に設けられている。
【0024】
また、作業機械1は、キャブ(運転室)25の内部の温度を調整する空調システム26を備える。本実施の形態において、作業機械1は、この作業機械1の電源となるバッテリ27の温度を調整するバッテリ熱管理システム28をさらに備える。また、作業機械1は、バッテリ27を電源とするモータやインバータ等の電気装置29の温度を調整する電気装置熱管理システム30をさらに備える。これら空調システム26、バッテリ熱管理システム28、および、電気装置熱管理システム30により、温度管理システム31が構成されている。
【0025】
空調システム26は、HVAC(Heating Ventilation and Air-Conditioning)とも呼ばれる。空調システム26は、温度調整用のクーラントを循環させる無端状のクーラントライン33を有する。クーラントライン33には、クーラントをクーラントライン33に送るクーラントポンプ34が設けられている。本実施の形態において、クーラントポンプ34は、電動モータにより駆動される電動ポンプである。
【0026】
また、クーラントライン33には、クーラントポンプ34から送られたクーラントが通過するラインにフィンが備えられて構成されたヒータコア35が設けられている。ヒータコア35に対向して、空調風をキャブ25の室内に送るためのファン36が設けられている。本実施の形態において、ファン36は、電動ファンである。ヒータコア35とファン36とにより、キャブ25内部を暖房する暖房装置37が構成されている。
【0027】
また、クーラントライン33の一部は、分流ライン18の一部に近接配置されて、これらクーラントライン33の一部と分流ライン18の一部とにより、熱交換器40が構成されている。この熱交換器40において、分流ライン18の一部が一次側(高温側)、クーラントライン33の一部が二次側(低温側)となっており、これら分流ライン18の一部とクーラントライン33の一部との間で熱交換可能となっている。すなわち、熱交換器40は、作動油の排熱を空調システム26に回収する排熱回収手段である。
【0028】
さらに、クーラントライン33には、クーラントライン33を循環するクーラントを温め可能なヒータ41が設けられている。本実施の形態において、ヒータ41は、電動ヒータである。図示される例では、ヒータ41は、クーラントライン33において熱交換器40の下流側に設けられている。
【0029】
また、クーラントライン33には、クーラントの温度を検出する温度センサ42が設けられている。本実施の形態では、温度センサ42は、クーラントポンプ34とヒータコア35との間においてクーラントライン33に設けられている。すなわち、温度センサ42は、ヒータコア35(暖房装置37)へのクーラントの入り口に設けられている。
【0030】
また、冷房用のエバポレータ(蒸発器)44がヒータコア35に近接して配置されている。エバポレータ44は、冷却用の冷媒を循環させる冷媒循環ラインである第一冷媒循環ライン45に設けられている。第一冷媒循環ライン45は、冷媒を圧縮するコンプレッサ、圧縮された冷媒を冷却するコンデンサ、および、コンデンサを経た冷媒から不純物等を除去するレシーバ等を有する冷媒装置46に接続されている。本実施の形態では、冷媒装置46は、図示されないコントローラからの信号により制御される。また、第一冷媒循環ライン45には、エバポレータ44に供給されるクーラントの圧力および流量を調整する膨張弁47がエバポレータ44の上流側に設けられている。エバポレータ44、第一冷媒循環ライン45、冷媒装置46、膨張弁47、および、ファン36により、キャブ25内部を冷房する冷房装置48が構成されている。
【0031】
また、キャブ25の内部の温度つまり室温は、温度センサ49により検出される。そして、温度センサ42により検出された温度情報、オペレータ等により設定されたキャブ25の内部の設定温度情報、図示されない外気温度情報、および、温度センサ49により検出された温度情報等に応じて、例えばクーラントポンプ34と、ファン36と、ヒータ41と、の少なくともいずれかに図示されないコントローラが信号を出力してこれらを制御するように構成されている。
【0032】
また、バッテリ熱管理システム28は、クーラントの一部を利用し、このクーラントの温度を制御することにより、バッテリ27を最適な温度に保つものである。
【0033】
バッテリ熱管理システム28は、クーラントを循環させるクーラントライン51を有する。クーラントライン51には、クーラントをクーラントライン51に送るクーラントポンプ53が設けられている。本実施の形態において、クーラントポンプ53は、電動モータにより駆動される電動ポンプである。また、クーラントライン51の一部は、バッテリ27に対し熱交換可能に近接配置されてクーラントポンプ53から送られたクーラントが通過する熱交換ライン54となっている。熱交換ライン54とバッテリ27とによりバッテリユニット55が構成されている。
【0034】
クーラントライン51を通過するクーラントは、膨張弁75とチラー56とから構成される冷却装置により冷却される。本実施の形態において、チラー56は、冷媒装置46から送り出される冷媒の一部を利用して膨張弁75を介して冷却される。チラー56は、第一冷媒循環ライン45と並列に冷媒装置46に接続された冷媒循環ラインである第二冷媒循環ライン57がクーラントライン51の一部に近接配置されて構成されている。
【0035】
そして、クーラントライン51は、供給ライン58,59を介してクーラントライン33と接続されている。供給ライン58は、クーラントライン51のバッテリユニット55とチラー56との間から分岐され、クーラントライン33のヒータコア35(暖房装置37)と熱交換器40との間に接続されている。また、供給ライン59は、クーラントライン51のチラー56とクーラントポンプ53との間から分岐され、クーラントライン33のヒータ41とクーラントポンプ34との間に接続されている。そのため、バッテリ熱管理システム28には、クーラントライン51から空調システム26の熱交換器40にクーラントを送る回路と、チラー56を介してクーラントポンプ53に直接クーラントを戻す回路と、空調システム26の熱交換器40、または、熱交換器40およびヒータ41により温められたクーラントをクーラントライン51のクーラントポンプ53に戻す回路と、が構成されている。
【0036】
クーラントライン51から熱交換器40に送るクーラントの流量は、流量制御弁60により制御される。流量制御弁60は、例えば三方弁であり、クーラントライン51を循環させるクーラントの流量とクーラントライン51からクーラントライン33(熱交換器40)に送るクーラントの流量とを制御する。本実施の形態において、流量制御弁60は、例えば電動三方弁である。
【0037】
さらに、クーラントライン51には、クーラントの温度を検出する温度センサ61が設けられている。本実施の形態では、温度センサ61は、クーラントポンプ53と熱交換ライン54との間、すなわちバッテリユニット55への冷媒の入り口に設けられている。例えば、温度センサ61は、クーラントの温度を介して、バッテリ27の温度を間接的に検出可能となっている。
【0038】
そして、温度センサ61により検出された温度情報等に応じて、例えばクーラントポンプ53と流量制御弁60との少なくともいずれかに図示されないコントローラが信号を出力してこれらを制御するように構成されている。すなわち、温度センサ61により検出された温度情報に応じて流量制御弁60の開度がコントローラによって制御されることで、クーラントライン51から供給ライン58を介してクーラントライン33に送られてクーラントライン33の熱交換器40、あるいは熱交換器40およびヒータ41により温められて供給ライン59を介してクーラントライン51に戻されるクーラントの流量が制御されるため、流量制御弁60の開度に応じて、バッテリ熱管理システム28のクーラントライン51を循環するクーラントの温度が制御される。
【0039】
また、電気装置熱管理システム30は、クーラントの一部を利用し、このクーラントの温度を制御することにより、電気装置29を最適な温度に保つものである。
【0040】
電気装置熱管理システム30は、クーラントを循環させるクーラントライン63を有する。クーラントライン63には、クーラントをクーラントライン63に送るクーラントポンプ65が設けられている。本実施の形態において、クーラントポンプ65は、電動モータにより駆動される電動ポンプである。また、クーラントライン63の一部は、電気装置29に熱交換可能に近接配置されてクーラントポンプ65から送られたクーラントが通過する熱交換ラインとなっている。
【0041】
クーラントライン63を通過するクーラントは、冷却装置であるラジエータ66により冷却される。ラジエータ66は、クーラントライン63に設けられたラジエータコア67と、クーラントを冷却するための冷却風をラジエータコア67に送るファン68と、クーラントを貯留するとともにクーラントライン63で膨張したクーラントの逃げ道となるリザーバタンクであるクーラントタンク69と、を備える。本実施の形態において、ファン68は、電動モータにより駆動される電動ファンである。
【0042】
そして、クーラントライン63は、供給ライン70,71を介してクーラントライン51と接続されている。供給ライン70は、クーラントライン63の電気装置29とラジエータ66との間から分岐され、クーラントライン51のバッテリユニット55と流量制御弁60(チラー56)との間に接続されている。供給ライン70には、クーラントライン51からクーラントライン63へのクーラントの逆流を阻止するチェック弁72が設けられている。また、供給ライン71は、クーラントライン63のラジエータ66とクーラントポンプ65との間から分岐され、クーラントライン51のチラー56とクーラントポンプ53との間に接続されている。そのため、電気装置熱管理システム30には、クーラントライン63からバッテリ熱管理システム28のチラー56にクーラントを送る回路と、ラジエータ66を介してクーラントポンプ65に直接クーラントを戻す回路と、バッテリ熱管理システム28のチラー56により冷却されたクーラントをクーラントライン63のクーラントポンプ65に戻す回路と、が構成されている。
【0043】
クーラントライン63からチラー56に送るクーラントの流量は、流量制御弁73により制御される。流量制御弁73は、例えば三方弁であり、クーラントライン63を循環させるクーラントの流量とクーラントライン63からクーラントライン51(チラー56)に送るクーラントの流量とを制御する。したがって、流量制御弁73,60により、電気装置熱管理システム30、バッテリ熱管理システム28、および、空調システム26間で、互いにクーラントを送りあうことが可能となっている。本実施の形態において、流量制御弁73は、例えば電動三方弁である。
【0044】
さらに、クーラントライン63には、クーラントの温度を検出する温度センサ74が設けられている。本実施の形態では、温度センサ74は、クーラントポンプ65と熱交換ラインとの間、すなわち電気装置29への冷媒の入り口に設けられている。例えば、温度センサ74は、クーラントの温度を介して、電気装置29の温度を間接的に検出可能となっている。
【0045】
そして、温度センサ74により検出された温度情報等に応じて、例えばクーラントポンプ65と、流量制御弁73と、ラジエータ66のファン68と、の少なくともいずれかに図示されないコントローラが信号を出力してこれらを制御するように構成されている。すなわち、温度センサ74により検出された温度情報に応じて流量制御弁73の開度がコントローラによって制御されることで、クーラントライン63から供給ライン70を介してクーラントライン51に送られてバッテリユニット55においてバッテリ27の排熱により温められたりチラー56により冷却されたりして供給ライン71を介してクーラントライン63に戻されるクーラントの流量が制御される。また、温度センサ74により検出された温度情報に応じてバッテリ熱管理システム28の流量制御弁60の開度がコントローラによって制御されることで、クーラントライン63から供給ライン70を介してクーラントライン51を経て供給ライン58を介して空調システム26に送られて熱交換器40、あるいは熱交換器40およびヒータ41により温められて供給ライン59を介してクーラントライン51からさらに供給ライン71を介してクーラントライン63に戻されるクーラントの流量が制御される。したがって、流量制御弁73,60の開度に応じて、電気装置熱管理システム30のクーラントライン63を循環するクーラントの温度が制御される。
【0046】
次に、図示された実施の形態の動作を説明する。
【0047】
温度管理システム31は、例えば、春季あるいは秋季等では、図2に示されるように、バッテリ熱管理システム28と、電気装置熱管理システム30と、が個々にクーラントを循環させ、バッテリ27と、電気装置29と、の温度を調整する。なお、空調システム26は、必要に応じて、コントローラがクーラントポンプ34、ファン36、ヒータ41、冷媒装置46に信号を出力して、暖房装置37または冷房装置48を用いてもよいし、これらを停止させてもよい。
【0048】
バッテリ熱管理システム28では、温度センサ61により検出された温度情報によってバッテリ27の温度が所定温度よりも高くなったと判断した場合、コントローラが、流量制御弁60に信号を出力して流量制御弁60を閉じるとともに、クーラントポンプ53および冷媒装置46に信号を出力してこれらをそれぞれ駆動させ、第二冷媒循環ライン57を介してチラー56に冷媒を供給して、クーラントライン51を循環するクーラントをチラー56によって冷却することで、熱交換ライン54の位置で熱交換ライン54とバッテリ27とを熱交換させ、バッテリ27を最適な温度に保つ。
【0049】
電気装置熱管理システム30では、温度センサ74により検出された温度情報によって電気装置29の温度が所定温度よりも高くなったと判断した場合、コントローラが、流量制御弁73に信号を出力して流量制御弁73を閉じるとともに、クーラントポンプ65およびラジエータ66のファン68に信号を出力してこれらを駆動させ、クーラントライン63を循環するクーラントを、ファン68により送気されるラジエータコア67を通過させることによって冷却することで、熱交換ラインの位置で熱交換ラインと電気装置29とを熱交換させ、電気装置29を適切な温度に保つ。つまり、空調システム26を利用しない時期であれば、外気温すなわちラジエータ66の周囲温度が高くないため、ラジエータ66によるクーラントの冷却によって電気装置29の冷却を十分に賄うことが可能である。
【0050】
また、温度管理システム31は、例えば冬季等の外気温が低い時期では、図3に示されるように、空調システム26の暖房装置37を主として用い、バッテリ熱管理システム28が必要に応じて空調システム26の熱交換器40、あるいは熱交換器40およびヒータ41を利用してバッテリ27を温め、電気装置熱管理システム30が個別にクーラントを循環させて電気装置29の温度を調整し、必要に応じて電気装置熱管理システム30の熱をバッテリ熱管理システム28に利用する。
【0051】
空調システム26では、コントローラがクーラントポンプ34に信号を出力してクーラントポンプ34を駆動させ、熱交換器40を利用して高温の作動油の排熱を回収してクーラントの温度を上げる。また、例えば温度センサ24により検出される作動油の温度が低い場合等、作動油の排熱による温めだけでは不十分な場合には、コントローラがヒータ41に信号を出力してヒータ41を駆動させることで、クーラントの温度を上げる。そして、コントローラは、信号によりファン36を駆動させて、ヒータコア35の位置でクーラントにより温められた空気すなわち暖気をキャブ25内部に送り込む。コントローラは、温度センサ49により検出される温度情報によりキャブ25内部の温度を監視し、温度センサ42により検出される温度情報によりクーラントの温度を監視しつつ、クーラントポンプ34、ヒータ41、および、ファン36を制御することで、キャブ25内部の温度を所定の設定温度に保つ。
【0052】
また、バッテリ熱管理システム28では、温度センサ61により検出された温度情報によってバッテリ27の温度が所定温度より低いと判断した場合、コントローラが、温度センサ61により検出された温度情報に応じて信号を出力して流量制御弁60の開度を制御するとともに、クーラントポンプ53に信号を出力してクーラントポンプ53を駆動させ、クーラントライン51から供給ライン58を介して空調システム26のクーラントライン33にクーラントを送って、クーラントライン33を循環するクーラントとともに熱交換器40、あるいは熱交換器40およびヒータ41を利用して高温の作動油の熱を回収してクーラントの温度を上げる。温度を上げたクーラントは、一部がクーラントポンプ34に供給されてクーラントライン33で循環されるとともに、残りの他部が供給ライン59を介してバッテリ熱管理システム28のクーラントライン51において流量制御弁60で分流されチラー56を介してクーラントポンプ53に戻るクーラントと合流し、クーラントポンプ53からクーラントライン51にてバッテリユニット55に送られて、熱交換ライン54の位置でバッテリ27と熱交換させ、バッテリ27を温める。
【0053】
なお、熱交換器40では、作業中等、流体圧回路2においてメインポンプ4,5が動作しているときには、コントロールバルブ7からタンク3への戻り油の一部を背圧チェック弁14の上流側から分流ライン18に分流して利用する。また、熱交換器40では、作業を停止しているとき等、流体圧回路2においてメインポンプ4,5が動作していないときには、コントローラが信号を電動モータ22に出力して電動モータ22を駆動させ、ポンプ21を介してタンク3から作動油を分流ライン18に送り込んで利用する。分流ライン18を通過した油は、オイルクーラ15を介してタンク3へと排出される。
【0054】
電気装置熱管理システム30では、温度センサ74により検出された温度情報によって電気装置29の温度が所定温度よりも高いと判断した場合、コントローラが、流量制御弁73に信号を出力して流量制御弁73を閉じるとともに、クーラントポンプ65およびラジエータ66のファン68に信号を出力してこれらを駆動させ、クーラントライン63を循環するクーラントを、ファン68により送気されるラジエータコア67を通過させることによって冷却することで、熱交換ラインの位置で熱交換ラインと電気装置29とを熱交換させ、電気装置29を適切な温度に保つ。流量制御弁60,73の開度を制御することで、電気装置29の熱をバッテリ熱管理システム28に利用することも可能である。
【0055】
また、温度管理システム31は、例えば夏季等の気温が高い時期では、図4に示されるように、空調システム26の冷房装置48を主として用い、バッテリ熱管理システム28が必要に応じて冷房装置48に用いられる冷媒の一部を利用してバッテリ27を冷却し、電気装置熱管理システム30が単独で、または、バッテリ熱管理システム28のチラー56を利用して、電気装置29を冷却する。
【0056】
空調システム26では、コントローラが、クーラントポンプ34に信号を出力してクーラントポンプ34を停止させるとともに、ファン36および冷媒装置46に信号を出力してこれらを駆動させ、エバポレータ44の作用により冷却された空気すなわち冷気をキャブ25内部に送り込む。コントローラは、温度センサ49により検出される温度情報によりキャブ25内部の温度を監視し、温度センサ42により検出されるクーラントの温度を監視しつつ、ファン36および冷媒装置46を制御することで、キャブ25内部の温度を所定の設定温度に保つ。
【0057】
また、バッテリ熱管理システム28では、温度センサ61により検出された温度情報によってバッテリ27の温度が所定温度より高いと判断した場合、コントローラが、流量制御弁60に信号を出力して流量制御弁60を閉じるとともに、クーラントポンプ53および冷媒装置46に信号を出力してこれらを駆動させ、チラー56を利用してクーラントの温度を下げる。温度を下げたクーラントは、クーラントポンプ53に供給され、クーラントポンプ53からクーラントライン51にてバッテリユニット55に送られて、熱交換ライン54の位置でバッテリ27と熱交換させ、バッテリ27を冷却する。
【0058】
電気装置熱管理システム30では、温度センサ74により検出された温度情報によって電気装置29の温度が所定温度より高いと判断した場合、ラジエータ66により電気装置29を冷却できるときには、春季または秋季、あるいは冬季と同様に単独で動作する。すなわち、電気装置熱管理システム30では、コントローラが、流量制御弁73に信号を出力して流量制御弁73を閉じるとともに、クーラントポンプ65およびラジエータ66のファン68に信号を出力してこれらを駆動させ、クーラントライン63を循環するクーラントを、ファン68により送気されるラジエータコア67を通過させることによって冷却することで、熱交換ラインの位置で熱交換ラインと電気装置29とを熱交換させ、電気装置29を冷却して適切な温度に保つ。
【0059】
また、例えば酷暑や高温地域での作業等の周囲温度が所定温度より高い場合等には、ラジエータ66による電気装置29の冷却が不十分となることが想定される。そこで、電気装置熱管理システム30では、コントローラが、温度センサ74により検出された温度情報に応じて信号を出力して流量制御弁73の開度を制御するとともに、クーラントポンプ65に信号を出力してクーラントポンプ65を駆動させ、電気装置熱管理システム30のクーラントライン63から供給ライン70を介してバッテリ熱管理システム28のクーラントライン51にクーラントを送って、クーラントライン51を循環するクーラントとともにチラー56を利用して冷媒によりクーラントの温度を下げる。温度を下げたクーラントは、一部がクーラントポンプ53に供給されてクーラントライン51で循環されるとともに、残りの他部が供給ライン71を介して電気装置熱管理システム30のクーラントライン63において流量制御弁73で分流されラジエータ66を介してクーラントポンプ65に戻るクーラントと合流し、クーラントポンプ65からクーラントライン63にて電気装置29に送られて、熱交換ラインの位置で電気装置29と熱交換させ、電気装置29を冷却する。
【0060】
上述したように、上記一実施の形態によれば、作動油をタンク3へ戻すリターンライン12に設けた背圧チェック弁14よりも上流側から分流ライン18により戻り油の一部を分流して、その分流ライン18と暖房装置37のクーラントを循環させるクーラントライン33との間で熱交換器40を構成することにより、熱交換器40の流路抵抗に起因する背圧の増加を防止しつつ、作動油の熱を有効に利用して暖房装置37でキャブ25内部を省電力で暖房できる。したがって、背圧の増加に起因する流体圧アクチュエータの作動、つまり流体圧アクチュエータにより作動される作業装置の操作性等への影響を抑制しつつ省電力で暖房できる作業機械1を提供できる。
【0061】
特に、バッテリ27を電源とする電動式の作業機械の場合、暖房装置37のクーラントを温めるためにヒータ41を用いる頻度が高くなると、バッテリ27の消費電力が増加することから、特に冬季等、暖房装置37の使用頻度が高い時期においては、バッテリ27の消費電力増加のために運転時間が短くなる。そこで、本実施の形態では、作動油の熱を回収して暖房装置37のクーラントの温めに利用することで、クーラントを温めるためのヒータ41の使用頻度を低減でき、運転時間を確保できる。
【0062】
タンク3から分流ライン18に亘り補助ライン20を接続し、この補助ライン20に設けたポンプ21を電動モータ22で動作させることにより、例えば作業停止中等、メインポンプ4,5が稼働せずに作動油がリターンライン12を流れていない状態であっても、補助ライン20を利用して熱交換器40に作動油を送ることができるので、クーラントを温める熱源を得ることができる。
【0063】
クーラントライン33にヒータ41を設けたことで、作動油の温度が低い状態であっても、ヒータ41を用いてクーラントを温めることができる。しかも、熱交換器40による作動油の排熱を併用するため、ヒータ41単独でクーラントを温める場合と比較して、ヒータ41の使用頻度は低くて済み、消費電力の増加を抑えることができる。
【0064】
バッテリ27の温度を調整するバッテリ熱管理システム28に用いられるクーラントライン51と、暖房装置37のクーラントライン33と、の間に、バッテリ熱管理システム28のクーラントライン51のクーラントの一部を暖房装置37のクーラントライン33に供給する供給ライン58を設けることで、作動油の熱を回収して温められたクーラントを、バッテリ27を温めることにも利用できる。
【0065】
また、流量制御弁60の開度を調整することにより、バッテリ熱管理システム28のクーラントライン51を空調システム26のクーラントライン33と接続してクーラントを共用できるので、例えばバッテリ27から発生した熱を、チラー56で放熱するだけでなく、流量制御弁60を開くことで、キャブ25の暖房として用いることが可能となる。
【0066】
さらに、バッテリ熱管理システム28に用いられるクーラントを循環させるクーラントライン51と、電気装置29の温度を調整する電気装置熱管理システム30に用いられるクーラントを循環させるクーラントライン63と、の間に、電気装置熱管理システム30のクーラントライン63のクーラントの一部をバッテリ熱管理システム28のクーラントライン51に供給する供給ライン70を設けることで、電気装置熱管理システム30とバッテリ熱管理システム28との間で熱交換ができ、例えば冬場は電気装置熱管理システム30の熱でバッテリ27を温めることができ、夏場はバッテリ熱管理システム28の冷えたクーラントを利用して電気装置29を冷やすことができる。
【0067】
そして、流量制御弁73,60の開度を調整することにより、電気装置熱管理システム30のクーラントライン63を空調システム26のクーラントライン33と接続してクーラントを共用できるので、例えば電気装置29から発生した熱を、ラジエータ66で放熱するだけでなく、流量制御弁73、あるいは流量制御弁73,60を開くことで、バッテリ27の加温やキャブ25の暖房としても用いることが可能となる。
【0068】
すなわち、本実施の形態によれば、流量制御弁60,73の開度の調整によってクーラントをクーラントライン33、クーラントライン51、および、クーラントライン63間で互いに行き来させることにより、作動油の排熱、ヒータ41による加熱、バッテリ27の排熱、および、電気装置29の排熱を、空調システム26、バッテリ熱管理システム28、および、電気装置熱管理システム30間で互いに融通し合うことが可能となり、暖房やバッテリ27、電気装置29の熱管理が可能になる。
【0069】
電気装置熱管理システム30は、電気装置29をラジエータ66により冷却しているが、酷暑や高温地域等、ラジエータ66による冷却が不十分または困難な場合であっても、流量制御弁73の開度を調整してクーラントをバッテリ熱管理システム28のクーラントライン51に送り、チラー56によって冷却したクーラントを電気装置熱管理システム30に戻すことによって、電気装置29を冷却できるので、酷暑や高温地域等でも作業機械1を運転可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、温度管理システム、および、それを備える作業機械等の製造業、販売業等に携わる事業者にとって産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0071】
1 作業機械
3 タンク
12 リターンライン
14 背圧チェック弁
18 分流ライン
20 補助ライン
21 ポンプ
22 電動モータ
25 キャブ
27 バッテリ
28 バッテリ熱管理システム
29 電気装置
30 電気装置熱管理システム
31 温度管理システム
33,51,63 クーラントライン
37 暖房装置
40 熱交換器
58,70 供給ライン
図1
図2
図3
図4