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  • 特開-透析排水処理システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006785
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】透析排水処理システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/66 20230101AFI20240110BHJP
   A61M 1/16 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C02F1/66 530Q
A61M1/16 185
C02F1/66 510K
C02F1/66 521
C02F1/66 522
C02F1/66 530C
C02F1/66 530G
C02F1/66 530K
C02F1/66 530L
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107993
(22)【出願日】2022-07-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】522268993
【氏名又は名称】株式会社グリンク
(74)【代理人】
【識別番号】100194526
【弁理士】
【氏名又は名称】叶野 徹
(72)【発明者】
【氏名】清田 英輝
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077BB01
4C077BB10
4C077DD12
4C077EE04
4C077GG12
4C077HH06
4C077HH20
4C077HH21
4C077JJ05
4C077JJ22
4C077JJ28
(57)【要約】      (修正有)
【課題】単純なシステムで単独運転が可能な透析排水処理システムを提供する。
【解決手段】透析液と、この透析液が移動する透析液供給ラインを洗浄する薬液と、をそれぞれ供給する透析液供給装置と、この透析液供給装置から供給される透析液によって、透析患者の血液を浄化する患者監視装置と、透析液供給装置及び透析監視装置から、透析患者の血液を浄化した透析液及び薬液を含む排液を収集する排水管と、排液を所定範囲のpHに中和するための中和液を排水管に供給する透析排水処理装置と、を含む透析排水処理システムであって、透析排水処理装置は、排液のpHを測定するpH測定手段と、排水管内の流体を検知する流体検知手段と、を含み、pH測定手段により測定されたpHが所定範囲外であり、かつ、流体検知手段により排水管内に流体が検知された場合にのみ、中和液を排水管に供給する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析液と、この透析液が移動する透析液供給ラインを洗浄する薬液と、をそれぞれ供給する透析液供給装置と、
この透析液供給装置から供給される透析液によって、透析患者の血液を浄化する患者監視装置と、
前記透析液供給装置及び前記透析監視装置から、前記透析患者の血液を浄化した前記透析液及び前記薬液を含む排液を収集する排水管と、
前記排液を所定範囲の水素イオン指数(pH)に中和するための中和液を前記排水管に供給する透析排水処理装置と、
を含む、透析排水処理システムであって、
前記透析排水処理装置は、前記排液の前記水素イオン指数(pH)を測定するpH測定手段と、前記排水管内の流体を検知する流体検知手段と、を含み、
前記pH測定手段により測定されたpHが所定範囲外であり、かつ、前記流体検知手段により前記排水管内に流体が検知された場合にのみ、前記中和液を前記排水管に供給する、透析排水処理システム。
【請求項2】
前記流体検知手段が、検流器又は電極式レベルセンサーである、請求項1記載の透析排水処理システム。
【請求項3】
前記流体検知手段が、電極式レベルセンサーである、請求項2記載の透析排水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透析排水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、透析施設から下水道に流された透析排水が、下水道基準を逸脱した排水であったためにコンクリート製の下水道管が損傷する事件が発生したことを受けて、透析排水基準が策定されている。この透析排水基準によれば、透析排水の水素イオン指数(pH)は、5を超えて9未満となることが定められている。
【0003】
透析装置では、透析液の透析液供給ラインを洗浄するために、酸性又はアルカリ性の薬液を使用することが多く、透析装置からの排水が、この薬液を含むことに起因して、上記の透析排水基準を逸脱することがある。
【0004】
このため、昨今での透析装置では、上記の排水に対して中和処理をするための排水処理装置も含む透析排水処理システムが開発されている。
【0005】
例えば、特許文献1には上記のような透析排水処理システムが開示されている。
【0006】
特許文献1に開示された透析排水処理システムは、透析液供給装置、患者監視装置、排水管、及び透析排水処理装置を含む。透析液供給装置は、透析液と、この透析液が移動する透析液供給ラインを洗浄する薬液と、をそれぞれ供給する。患者監視装置は、透析液供給装置から供給される透析液によって、透析患者の血液を浄化する。排水管は、透析液供給装置及び透析監視装置から、透析患者の血液を浄化した透析液及び薬液を含む排液を収集する。透析排水処理装置は、排液を所定範囲の水素イオン指数(pH)に中和するための中和液を前記排水管に供給する。
【0007】
上記の透析排水処理システムでは、透析液の透析液供給ライン及び患者監視装置へ供給されながら一定時間排水する際、透析液供給ラインに残留する薬液を下洗いするためのRO水を上記透析液供給ラインへ供給する際の開始に合わせて、上記の透析排水処理システムでは、透析排水処理装置が中和液を排水管へ排水の水素イオン指数(pH)に合わせて供給する。
【0008】
上記の透析排水処理システムは、このような特徴を備えることにより、排液を一旦貯めておく中和用のタンクを設置する必要がなく、透析施設の省スペース化を図ることができる。さらには、上記の透析排水処理システムは、中和液を排水管に段階的に減少させることにより、排液に応じた量の中和液を供給でき、中和液の無駄な消費を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2021-192823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に開示された透析排水処理システムの透析排水処理装置は、中和液タンクから供給される2種の中和液のいずれかを排水管に供給する中和液送出部と、制御部と、から構成されている。
【0011】
制御部は、CPU、メモリ、タイマー及び通信部から構成されている。このうち、通信部は、CPUによって制御されており、例えば、薬液が透析液供給装置から透析液供給ラインへ供給されたこと等を通知する信号を、透析液供給装置の通信部から有線または無線で受信することによって中和液の供給を調節している。
【0012】
このように、上記の透析排水処理システムでは各装置間で信号の送受信を行うための通信部を備えることを必須としており、透析排水処理システムの開発において、通信会社との共同が必要となり、単独での運転が難しいこと、さらにはシステムが複雑化するという問題点があった。
【0013】
そこで、本発明の目的は、単純なシステムで単独運転が可能な透析排水処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、透析排水処理装置を所定の構成とすることにより、驚くべきことに上記課題が達成させることを見出し、本発明をなすに至った。
【0015】
すなわち、本発明の透析排水処理システムは、透析液と、この透析液が移動する透析液供給ラインを洗浄する薬液と、をそれぞれ供給する透析液供給装置と、この透析液供給装置から供給される透析液によって、透析患者の血液を浄化する患者監視装置と、前記透析液供給装置及び前記透析監視装置から、前記透析患者の血液を浄化した前記透析液及び前記薬液を含む排液を収集する排水管と、前記排液を所定範囲の水素イオン指数(pH)に中和するための中和液を前記排水管に供給する透析排水処理装置と、を含む、透析排水処理システムであって、前記透析排水処理装置は、前記排液の前記水素イオン指数(pH)を測定するpH測定手段と、前記排水管内の流体を検知する流体検知手段と、を含み、前記pH測定手段により測定されたpHが所定範囲外であり、かつ、前記流体検知手段により前記排水管内に流体が検知された場合にのみ、前記中和液を前記排水管に供給する。なお、ここでいう所定範囲とは、透析排水基準により定めれらた基準、すなわち透析排水の水素イオン指数(pH)が、5を超えて9未満であることをいう。
【発明の効果】
【0016】
本発明の透析排水処理システムは、単純なシステムで単独運転が可能な透析排水処理システムを提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る透析排水処理システムの概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の透析排水処理システムの実施形態について説明する。
【0019】
<透析排水処理システム>
まず、図1を用いて、本実施形態の透析排水処理システム1について説明する。
【0020】
図1に示す透析排水処理システム1は、透析液供給装置2、透析監視装置(患者監視装置ともいう。)3、排水管4、透析排水処理装置5、透析用水製造装置6、及び溶解装置7を備えている。透析液供給装置2は、透析液と、透析液が移動する透析液供給ライン8を洗浄する薬液と、をそれぞれ供給する。患者監視装置3は、透析液供給装置2から、透析液供給ライン8を経由して供給される透析液によって、透析患者の血液を浄化する。排水管4は、透析液供給装置2及び透析監視装置3から、透析患者の血液を浄化した透析液及び薬液を含む排液を収集し、下水道へ排水する。透析排水処理装置5は、排液を、透析排水基準に策定された所定範囲の水素イオン指数(pH)(5を超えて9未満)に中和するための中和液を排水管3に供給する。透析用水製造装置6は、水道水等の原水から逆浸透(Reverse Osmosis)法により不純物を除去し、透析液の調整に用いられる純粋・洗浄度の高い水(RO水)を生成する。溶解装置7は、粉末の透析剤であるA剤及びB剤を、それぞれ、RO水で溶解して透析原液を調製する。なお、本実施形態では、透析排水処理システムは透析用水製造装置6及び溶解装置7を必須の構成要素としているが、本発明において、透析排水処理システムは必ずしも透析用水製造装置及び溶解装置を必須の構成要素としない。
【0021】
以下、透析排水処理システム1の各装置についてさらに詳しく説明する。
【0022】
(透析用水製造装置6)
透析用水製造装置6は、水道水等の原水から逆浸透(Reverse Osmosis)法で不純物を除去し、透析液の調製に用いられる純度・洗浄度の高い水(RO水)を生成する装置である。透析用水製造装置6は、透析液供給ライン8を介して生成したRO水を、透析液供給装置2及び溶解装置7にそれぞれ供給する。
【0023】
(溶解装置7)
溶解装置7は、粉末の透析剤であるA剤を、透析用水製造装置6から供給されたRO水で溶解して透析原液を調製する溶解装置7Aと、粉末の透析剤であるB剤を、透析用水製造装置6から供給されたRO水で溶解して透析原液を調製する溶解装置7Bと、からなる。各溶解装置7A及び7Bは、透析液供給ライン8を介して生成したRO水を、透析液供給装置2にそれぞれ供給する。
【0024】
(透析液供給装置2)
透析液供給装置2は、透析液調製部と、透析液送出部と、薬液調製部と、薬液送出部と、からなる。
【0025】
透析液調製部は、まず、透析液溶解装置7Aで調製されたA液と、透析液溶解装置7Bで調製されたB液を混合して混合液とする。透析液調製部は、次に、混合液を、透析用水製造装置6で生成されたRO水で希釈して透析液を調製する。
【0026】
透析液送出部は、例えば、ポンプにより構成されており、透析液調製部で調製した透析液を、透析液供給ライン8を介して、患者監視装置3に送出する。
【0027】
薬液調製部は、薬液タンク(図示せず)で貯蔵される薬液の原液を、所定濃度(100%)となるように、透析用水製造装置6で生成されたRO水で希釈して薬液を調製する。薬液の原液としては、例えば、希塩酸、酢酸、過酢酸などを主成分とする酸性洗浄液、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウムなどを主成分とするアルカリ性洗浄液が挙げられる。酸性洗浄液は、通常、装置内管(配管)などの炭酸カルシムなどの除去に用いられ、アルカリ性洗浄液は、通常、装置内管(配管)などのたんぱく質の除去に用いられる。
【0028】
薬液送出部は、例えば、ポンプにより構成されており、薬液調製部で調製した薬液を、透析液調製部及び透析液送出部を介し、さらに透析液供給ライン8を介して患者監視装置3に送出する。
【0029】
(透析監視装置3)
透析監視装置3は、透析患者の血液を、透析液によって浄化する(血液透析)。透析監視装置3は、血液透析の際に、透析液流量、温度、静脈圧などを監視する。透析監視装置3には、図示しないが、ダイアライザーが着脱交換自在に装着されている。ダイアライザーは、腎臓の糸球体と同じ働きをする一種の浄化器であり、透析患者の血液中の老廃物や余分な水分、電解質を、透析液に移すともに、透析液から不足している電解質などを透析患者の血液に補充する。
【0030】
透析監視装置3は、上述のとおり、透析液及び薬液の供給を受ける。そして、透析監視装置3は、使用済みの透析液を排液として、透析液供給ライン8と接続された排水管4に排出する。さらに、透析監視装置3は、透析液の透析液供給ライン8を洗浄する薬液を含む排液を、排水管4に排出する。
【0031】
なお、図1では、透析監視装置3は3台備えられている構成であるが、透析監視装置3の台数はこれに限定されない。
【0032】
(透析排水処理装置5)
透析排水処理装置5は、排水管4に排出された排液を所定範囲の水素イオン指数(pH)に中和するための中和液を排水管4に供給する。透析排水処理装置5は、pH測定手段と、流体検知手段と、中和液判定部と、中和液送出部と、からなる。
【0033】
pH測定手段は、排水管4内の排液の水素イオン指数(pH)を測定する。pH測定手段としては、排水管4内の排液のpHを測定可能なものであれば特に限定されず、例えば、pH計などが挙げられる。pH測定手段は、図示していないが、例えば、排水管4内に設置される。
【0034】
流体検知手段は、排水管内の流体を検知する。流体検知手段としては、排水管4の流体を検知可能なものであれば特に限定されないが、検流器又は電極式レベルセンサーであることが好ましく、電極式レベルセンサーであることがより好ましい。流体検知手段は、図示していないが、例えば、排水管4内に設置される。
【0035】
中和液判定部は、pH測定手段により測定された情報(測定値)、及び流体検知手段により検知された情報(例えば、流体検知手段であれば、オン・オフの情報)を受け取り、これらの情報に基づいて中和液を送出すべきかどうかを判定する。例えば、pH測定手段により、排水管4内の排液のpHが5~9を逸脱しており、かつ、流体検知手段により検知された情報がオン(排水管内に流体が検知されている)であれば、中和液送出部に中和液を排水管4に送出することを指令する。なお、この場合、排液のpHが5~9を逸脱していても、流体検知手段により検知された情報がオフ(排水管内に流体が検知されていない)であれば、中和液送出部に中和液を排水管4に送出することを停止するように指令する。
【0036】
中和液送出部は、中和液判定部により、中和液を排水管4に送出することの指令が通知された場合、中和液を排水管4に送出する。ここで、送出する中和液の送出量(注入量)は、排液のpHによって調節可能であってもよく、例えば、5段階可変方式で調節可能であってもよい。
【0037】
中和液は、薬液の種類によって適宜変更できる。例えば、薬液が酸性洗浄液であればアルカリ性中和剤を用いることができ、薬液がアルカリ性洗浄液であれば酸性中和剤を用いることができる。
【0038】
上述したように、特許文献1に開示された透析排水処理システムでは、上述の通り、各装置間で信号の送受信を行うことにより、中和液の排水管への送出の決定と、送出量の調節を行っており、このために、装置間通信が必要となり、単独での運転が難しいこと、さらにはシステムが複雑化するという問題点があった。これに対して、本実施形態の透析排水処理システム1では、pH測定手段及び流体検知手段から得られた情報に応じて、中和液の排水管への送出の決定と、送出量の調節を行っているため、よりシステムを簡素化でき、装置間通信が不要であり、単独での運転が可能である。
【0039】
以上のとおり、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の透析排水処理システムは、これに限定されず、透析液と、この透析液が移動する透析液供給ラインを洗浄する薬液と、をそれぞれ供給する透析液供給装置と、この透析液供給装置から供給される透析液によって、透析患者の血液を浄化する患者監視装置と、透析液供給装置及び透析監視装置から、透析患者の血液を浄化した透析液及び薬液を含む排液を収集する排水管と、排液を所定範囲の水素イオン指数(pH)に中和するための中和液を排水管に供給する透析排水処理装置と、を含む、透析排水処理システムであって、透析排水処理装置は、排液の前記水素イオン指数(pH)を測定するpH測定手段と、排水管内の流体を検知する流体検知手段と、を含み、pH測定手段により測定されたpHが所定範囲内であり、かつ、流体検知手段により排水管内に流体が検知された場合にのみ、中和液を排水管に供給する構成であればよい。
【符号の説明】
【0040】
1…透析排水処理システム、2…透析液供給装置、3…透析監視装置、4…排水管、5…透析排水処理装置、6…透析用水製造装置、7…溶解装置、8…透析液供給ライン
図1