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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067854
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】ワイヤ放電加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/10 20060101AFI20240510BHJP
   B65H 57/12 20060101ALI20240510BHJP
   B65H 51/16 20060101ALI20240510BHJP
   B23H 7/02 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
B23H7/10 F
B65H57/12
B65H51/16
B23H7/02 J
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178227
(22)【出願日】2022-11-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】竹田 剛
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】倉ヶ谷 翼
【テーマコード(参考)】
3C059
3F110
【Fターム(参考)】
3C059AA01
3C059AB05
3C059FB08
3C059FB11
3F110BA02
3F110CA04
3F110DA07
3F110DB01
3F110DB18
(57)【要約】
【課題】ワイヤ放電加工装置において搬送装置を改良して加工槽におけるシール装置をなくすこと。
【解決手段】方向転換プーリ10と巻取装置13Aとの間にワイヤ電極WEの移動経路に沿って設けられワイヤ電極WEを案内するガイドパイプ14Aは、帯電防止性を有する。ガイドパイプ14A内に気液混合流体が供給される。吸引ノズル14Nは、巻取装置13Aの一対のローラ13D,13T間を通過してガイドパイプ14Aの出口側に直接または間接的に接続する。吸引ノズル14Nは、吸引装置14Bによってガイドパイプ14A内の気液混合流体とワイヤ電極WEの先端とを吸引してワイヤ電極WEを捕捉する。捕捉されたワイヤ電極WEは、巻取装置13Aに巻き取られる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下側ガイドユニットを加工槽の中に位置するように支持する下アームと、前記下側ワイヤガイドユニットの下側に位置するように前記下アームに設けられる少なくとも1つの方向転換プーリと、前記加工槽の外側に位置するように設けられ開閉自在な一対のローラからなる巻取装置と、を備えたワイヤ放電加工装置において、前記方向転換プーリと前記巻取装置との間にワイヤ電極の移動経路に沿って設けられ前記ワイヤ電極の移動を案内するための帯電防止性を有するガイドパイプと、前記巻取装置の前記ワイヤ電極の出口側に設けられ吸引口が前記巻取装置の前記一対のローラ間を通過して前記ガイドパイプの出口に接続するように前記ワイヤ電極の移動経路に沿って往復移動可能であって前記ガイドパイプの入口から流入する加工液と空気とを混合した気液混合流体と共に送られてくる前記ワイヤ電極の先端とを吸引して捕捉する吸引ノズルと、前記吸引ノズルに気液混合流体を吸引させて前記気液混合流体を回収し排出する吸引装置とを含んでなる搬送装置を備えたワイヤ放電加工装置。
【請求項2】
前記搬送装置が前記吸引装置から排出される気泡を含んだ加工液を消泡する消泡装置を含んでなる請求項1に記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項3】
前記搬送装置が前記吸引装置を第1の吸引装置として前記ガイドパイプと前記巻取装置との間に設けられ加工中に前記ガイドパイプ内の前記ワイヤ電極と前記気液混合流体を吸引し前記ワイヤ電極を前記巻取装置に案内するとともに前記気液混合流体を排出する第2の吸引装置を含んでなる請求項1に記載のワイヤ放電加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動結線時にワイヤ電極を巻取装置まで送り出すワイヤ電極の搬送装置を備えたワイヤ放電加工装置に関する。特に、本発明は、ガイドパイプを含んでなる流体移送方式の搬送装置を備えたワイヤ放電加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ワイヤ放電加工装置は、ワイヤボビンに巻き回されたワイヤ電極を繰り出して、上側ワイヤガイドと下側ワイヤガイドを通って一対の巻取ローラからなる巻取装置に巻き取られるように構成されている。多くのワイヤ放電加工装置は、ワイヤ電極を上下のワイヤガイド間に自動で張架する自動結線装置を備えている。自動結線装置は、ワイヤ電極を送出ローラによって上側ワイヤガイドに向かって送り出し、上下のワイヤガイドに順次挿通し、下アームに沿って設けられているワイヤ電極の搬送装置によって加工槽の外側まで導いてワイヤ電極の先端を巻取装置に捕捉させる。
【0003】
ワイヤ電極の搬送装置において、ワイヤ電極を巻取装置まで移動させる方法として、ベルトコンベアによってワイヤ電極を移動させる方法と、流体によってワイヤ電極を移動させる方法が知られている。以下、説明の便宜上、ベルトコンベアによってワイヤ電極を移動させる方法をベルト移送方式といい、流体によってワイヤ電極を移動させる方法を流体移送方式という。
【0004】
特許文献1は、典型的なベルト移送方式の搬送装置を備えたワイヤ放電加工装置を開示している。ベルト移送方式の搬送装置は、一対の無端ベルトがワイヤ電極を挟み込んで摩擦でワイヤ電極に力を伝えて移動させる構成であるので、直径がφ0.2mm以上の比較的大きいワイヤ電極の搬送に有利である。しかしながら、流体移送方式に比べると全体のサイズが大きい。また、直径が比較的小さいワイヤ電極を送り出すときには、ワイヤ電極に与える負荷が相対的に大きくなって、ワイヤ電極の断線、巻付き、脱線が発生しやすい。
【0005】
特許文献2および特許文献3は、流体移送方式の搬送装置を備えたワイヤ放電加工装置を代表的に開示している。一般に、流体移送方式の搬送装置は、ガイドパイプの中を高圧流体で満たし、アスピレータによって流体をワイヤ電極と共に吸引してワイヤ電極を送り出すようにしている。そのため、高剛性で癖が付きやすい直径が大きすぎるワイヤ電極の場合、ガイドパイプの中にワイヤ電極の先端が引っ掛かって座屈しやすい。また、直径が小さすぎるワイヤ電極の場合は、ガイドパイプの内面にワイヤ電極が貼り付いて移動できなくなるおそれがあり、あまり適していない。
【0006】
特許文献4は、ガイドパイプを備えていない流体移送方式の搬送装置を設けたワイヤ放電加工装置を開示している。特許文献4に開示されているワイヤ放電加工装置の搬送装置は、流体の拘束力だけでワイヤ電極を一気に移動させることができるので、ワイヤ電極の先端を巻取装置に捕捉させるまでの搬送時間をより短くすることができる。ただし、被加工物を加工液に浸漬するダイシンキング方式で加工を行なう場合は、流体の拘束力だけで移動させるワイヤ電極の移動経路を確保するためのカバーを設ける必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1-114924号公報
【特許文献2】特開平1-135426号公報
【特許文献3】特開平5-92322号公報
【特許文献4】特許第6605564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的なワイヤ放電加工装置においては、下側ワイヤガイドを収容した下側ガイドユニットを支持する下アームが加工槽壁を貫通するように設置されている。そのため、少なくとも被加工物を加工液に浸漬するダイシンキング方式で加工を行なう場合には、下アームと加工槽壁との間で加工槽内の加工液の漏出を防止するシール装置が要求される。シール装置は、シール抵抗によって加工における不都合を生じさせるという問題を抱えている。また、シール装置のシール構造体は、加工槽まわりの構成を複雑にする。
【0009】
搬送装置のベルトコンベアまたはガイドパイプは、下アームに沿って下アームの外側に設けられるか、あるいは下アームの中空内に設けられている。シール構造体を除くために加工槽壁を乗り越えるように下アームの形を変えると、ワイヤ電極の移動経路が下から上に向かう、いわゆる上りの形状になる。そのため、ワイヤ電極の移動経路の変更に合わせてベルトコンベアまたはガイドパイプの配置を変える必要があり、あるいは外形を変える必要がある。
【0010】
したがって、加工槽と下アームとが相対移動可能な状態で下アームが加工槽壁を越えるように形状を変えて下アームを設置しようとする場合、ベルト移送方式の搬送装置においては、ワイヤ電極の移動経路がほぼ水平である構成に比べてワイヤ電極の移動方向を方向転換させる角度が大きくなるため、ワイヤ電極がより断線しやすくなる。流体移送方式の搬送装置においては、重力によって下がる傾向があるワイヤ電極を上向きの移動経路に沿って引き上げるようになるため、より座屈しやすくなる。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みて、ガイドパイプを備えた流体移送方式の搬送装置を備えたワイヤ放電加工装置において、下アームおよびガイドパイプが加工槽壁を貫通しない構造のワイヤ放電加工装置を提供することを主たる目的とする。本発明のワイヤ放電加工装置によって得ることができるいくつかの利点は、具体的な実施の形態の説明において、その都度詳しく示される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のワイヤ放電加工装置は、上記課題を解決するために、下側ガイドユニット(3B)を加工槽(4)の中に位置するように支持する下アーム(5)と、前記下側ワイヤガイドユニットの下側に位置するように前記下アームに設けられる少なくとも1つの方向転換プーリ(10)と、加工槽(4)の外側に位置するように設けられ開閉自在な一対のローラ(13D,13T)からなる巻取装置(13A)と、を備えたワイヤ放電加工装置において、方向転換プーリ(10)と巻取装置(13A)との間にワイヤ電極(WE)の移動経路に沿って設けられワイヤ電極(WE)の移動を案内するための帯電防止性を有するガイドパイプ(14A)と、巻取装置(13A)のワイヤ電極(WE)の出口側に設けられ吸引口が巻取装置(13A)の一対のローラ(13D,13T)間を通過してガイドパイプ(14A)の出口に接続するようにワイヤ電極(WE)の移動経路に沿って往復移動可能であってガイドパイプ(14A)の入口から流入する加工液と空気とを混合した気液混合流体と共に送られてくるワイヤ電極(WE)の先端とを吸引して捕捉する吸引ノズル(14N)と、吸引ノズル(14N)に気液混合流体を吸引させて気液混合流体を回収し排出する吸引装置(14B)とを含んでなる搬送装置(14)を備えるようにする。
【0013】
特に、本発明のワイヤ放電加工装置は、搬送装置(14)が吸引装置(14B)から排出される気泡を含んだ加工液を消泡する消泡装置(8)を含んでなるようにする。
また、本発明のワイヤ放電加工装置は、搬送装置(14)が吸引装置(14B)を第1の吸引装置としてガイドパイプ(14A)と巻取装置(13A)との間に設けられ加工中にガイドパイプ(14A)内のワイヤ電極(WE)と気液混合流体を吸引しワイヤ電極(WE)を巻取装置(13A)に案内するとともに気液混合流体を排出する第2の吸引装置(14C)を含んでなるようにする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、帯電防止性を有し内面が円滑なガイドパイプ内においてワイヤ電極を加工液と空気を混合した気液混合流体に乗せて送り出すことができるので、線径がφ0.2mm以下の細いワイヤ電極、とりわけφ0.1mm以下の極細のワイヤ電極がガイドパイプを通って巻取ローラに捕捉されるまでの間でガイドパイプの内面に貼り付いて、あるいはワイヤ電極の先端が引っ掛かって移動できなくなるおそれが小さい。
【0015】
そのため、自動結線時に、搬送装置においてワイヤ電極の移動経路が下から上に向かう、いわゆる上りの方向であっても、より確実に巻取装置がワイヤ電極を捕捉して巻き取れることができるようにワイヤ電極を移動させることができる。その結果、搬送装置のガイドパイプを、加工槽壁を貫通させずに越えるように設置することができ、加工槽壁に設けられているシール装置をなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のワイヤ放電加工装置の全体の構成を模式的に示す図である。
図2】本発明のワイヤ放電加工装置の搬送装置を模式的に示す図である。
図3】本発明のワイヤ放電加工装置の搬送装置に設けられる吸引装置および消泡装置の回路構成を示す図である。
図4】本発明のワイヤ放電加工装置の巻取装置と搬送装置の動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明のワイヤ放電加工装置の全体の概容を示す。図1は、ワイヤ電極の走行経路(移動経路)全体を一面で示すために、ワイヤ電極の供給側を機械本機の正面から見た状態で示し、ワイヤ電極の回収側を機械本機の左側面から見た状態で示している。図1は、模式図であって、図1において複数の構成部材の相対的なサイズと位置関係が実物に対して正確には示されていない。なお、図1は、油系放電加工液によって被加工物を浸漬して加工するダイシンキング方式のワイヤ放電加工装置を示している。
【0018】
まず、図1に示される実施の形態のワイヤ放電加工装置の全体の構成について説明する。実施の形態のワイヤ放電加工装置は、少なくとも、走行装置1と、自動結線装置2と、ワイヤガイドユニット3と、図示しない制御装置、電源装置、および相対移動装置と、を有する。走行装置1と、自動結線装置2と、ワイヤガイドユニット3と、相対移動装置が設けられている部位を機械本機という。
【0019】
走行装置1は、加工に未使用のワイヤ電極WEをワイヤ電極WEと被加工物WPとの間に形成される加工間隙GPに供給して、加工に供された使用済のワイヤ電極WEを回収する手段である。走行装置1は、供給装置11と、張力装置12と、回収装置13と、搬送装置14とを含んでなる。供給装置11から張力装置12と自動結線装置2を経由して上側ワイヤガイド3Aまでを含んでワイヤ電極WEの供給側1Aとし、下側ワイヤガイド3Bから搬送装置14を経由して回収装置13までを含んでワイヤ電極WEの回収側1Bとする。
【0020】
自動結線装置2は、ワイヤ電極WEを自動で張架する手段である。実施の形態のワイヤ放電加工装置の自動結線装置2は、送出ローラ2Aと、ガイドパイプ2Bと、カッタ2Cと、を含んでなる。送出ローラ2Aは、送出モータ2Mによって回転してワイヤ電極WEを送り出す手段である。ガイドパイプ2Bは、ワイヤ電極WEの先端を上側ワイヤガイドユニット3Aまで案内する手段である。カッタ2Cは、ワイヤ電極WEを切断する手段である。例えば、カッタ2Cを熱によってワイヤ電極を溶断する加熱ローラのような他のワイヤ電極WEを切断する手段に置き換えることができる。
【0021】
ワイヤガイドユニット3は、上側ワイヤガイドユニット3Aと、下側ワイヤガイドユニット3Bとでなる。上下ワイヤガイドユニット3A,3Bは、それぞれガイド本体に相当するワイヤ電極WEを位置決めして案内するワイヤガイド13Aと、ワイヤ電極WEに給電する通電体13Bと、加工間隙GPに加工液噴流を供給する加工液噴流ノズル13Cとを一体化してなるアセンブリである。
【0022】
図示省略されている制御装置は、ワイヤ放電加工装置の動作を制御する手段である。制御装置と、走行装置1、自動結線装置2、図示しない加工電源装置または相対移動装置との間は、それぞれ1以上の信号線で接続されていて、予め決められているシーケンス動作を実行させる。また、制御装置は、消泡装置14と気液混合装置50を制御する。制御装置は、NCプログラムに従って各装置の特定の動作を実行させるとともに、ワイヤ放電加工装置の全体の動作を任意に制御して所望の加工を実施する数値制御装置を含む。
【0023】
加工電源装置は、加工間隙GPに所望の波形とピーク電流値を有する放電電流パルスを連続して供給する手段である。相対移動装置は、ワイヤ電極WEと被加工物WPとを水平2軸方向に相対移動させる手段である。相対移動装置は、ワイヤ電極WEと被加工物WPに対して傾斜させるテーパ装置を含む。
【0024】
加工槽4は、被加工物WPを収容する手段である。また、加工槽4は、加工液を収容する手段である。被加工物WPを空気中に晒した状態で加工間隙GPに加工液噴流を噴射供給するフラッシング方式で加工を行なうときは、加工槽壁が加工液の飛散を防止して、加工槽4がスプラッシュガードとして機能する。被加工物WPを加工液に浸漬するダイシンキング方式で加工を行なうときは、加工槽壁が加工液の漏出を防止して、加工槽4が文字通りタンクとして機能する。
【0025】
下アーム5は、先端部位において下側ワイヤガイドユニット3Bを支持する手段である。下アーム5は、コラム6の上位に設置される図示しない構造物に吊り下げられるように取り付けられて固定される。下アーム5の先端は、加工槽4内に設置される被加工物WPの下側に位置するように配置される。下アーム5は、加工槽4に対して相対移動することができるように設けられる。そのため、実施の形態におけるワイヤ放電加工装置においては、下アーム5が加工槽4の背面側の加工槽壁を貫通しない構造であるため、下アーム5と加工槽4との間で加工液の漏出を防ぐシール装置が不要である。
【0026】
方向転換プーリ10は、下側ワイヤガイドユニット3Bの直下に位置するように、下アーム5の先端に固定して設けられるガイドブロック20に回転可能に取り付けられる。方向転換プーリ10は、被加工物WPの設置面に対して垂直方向に走行するワイヤ電極WEの進行方向を加工槽4の外側にある巻取装置13Aの方向に変向する。なお、ワイヤ電極WEの移動経路に合わせて方向転換プーリ10を複数設けることができる。
【0027】
次に、実施の形態のワイヤ放電加工装置における走行装置1について、より具体的に説明する。走行装置1の供給装置11は、ワイヤ電極WEを加工間隙GPに供給する手段である。供給装置11は、リール11Aと、ワイヤボビン11Bと、サーボプーリ11Fと、サーボモータ11Mと、を含む。ただし、ワイヤボビン11Bは、所定長のワイヤ電極WEを軸心に巻き回して貯留している交換可能な消耗品である。ワイヤボビン11Bは、リール11Aに装填されて回転する。
【0028】
リール11Aは、サーボモータ11Mによって張力装置12がワイヤボビン11Bからワイヤ電極WEを連続的に引き出す速度に合わせて回転する。サーボモータ11Mを、例えば、トルクモータまたはパウダクラッチでなるブレーキに置き換えることができる。サーボプーリ11Fは、上下に移動する。サーボモータ11Mをサーボプーリ11Fの上下方向の位置に合わせて制御することによってワイヤボビン11Bの回転を変化させ、ワイヤ電極WEをより滑らかに送り出すようにしている。
【0029】
張力装置29は、ワイヤ電極WEをワイヤボビン11から繰り出して順次加工間隙GPに送り出す手段である。また、張力装置12は、回収装置14との間で加工間隙GPに供給されるワイヤ電極WEに所定の張力を付与する手段である。張力装置12は、駆動ローラ12Aと、従動ローラ12Bと、ピンチローラ12Cと、サーボモータ12Mと、を含む。歪ゲージ12Tは、張力検出器である。リミットスイッチ12Lは、断線検出器である。なお、張力検出器によって張力と同時に断線をできるようにする装置構成である場合は、リミットスイッチ12Lを設ける必要がない。
【0030】
駆動ローラ12Aは、ワイヤ電極WEをワイヤボビン11Bから引き出して加工間隙GPに送り出す送出ローラと、ワイヤ電極WEに所定の張力を付与するテンションローラとを兼用する。ワイヤ電極WEは、従動ローラ12Bとピンチローラ12Cとによって駆動ローラ12Aの外周を遠回りするように巻き回される。駆動ローラ12Aは、サーボモータ12Mによって回転する。制御装置は、歪ゲージ12Tによって検出される張力に基づいてサーボモータ12Mの回転速度を制御して、張力を一定に維持する。
【0031】
回収装置13は、使用済のワイヤ電極WEを回収する手段である。また、回収装置13は、ワイヤ電極WEを定速で走行させる手段である。回収装置13は、使用済のワイヤ電極WEを液体と分離させて回収することができる。回収装置13は、巻取装置13Aと、バケット13Bとを含んでなる。
【0032】
回収装置13の巻取装置13Aは、巻取モータ13Mによって自転する駆動ローラ13Dと、駆動ローラ13Dと接触して駆動ローラ13Dに従って回転する従動ローラ13Tとの一対のローラを含んでいう。巻取装置13Aは、一対のローラ13D,13T間にワイヤ電極WEを挟み込んでワイヤ電極WEを一定の走行速度で走行させる。一対のローラ13D,13Tは、相互に開離する方向に移動することによって開閉自在である。一対のローラ13D,13Tが開放するとき、ワイヤ電極WEを拘束から解放すると同時に実質的にワイヤ電極WEの走行経路(移動経路)から障害を除くことができる。
【0033】
駆動ローラ13Dを回転させる巻取モータ13Mは、張力装置12のサーボモータ12Mの回転速度よりも速い所定の回転速度を維持する。張力装置12の駆動ローラ12Aと巻取装置13Aとの間に速度差が生じることによって、ワイヤ電極WEが予め定められている走行速度で走行しながら、ワイヤ電極WEに駆動ローラ12Aと巻取装置13Aとの速度差に対応する大きさの張力が付与される。
【0034】
回収装置13のバケット13Bは、ワイヤ電極WEを回収する回収箱である。バケット13Bには、例えば、金網のような水切板14Cが設けられているので、吸引装置13Bからワイヤ電極WEに付着して排出されてくる加工液をワイヤ電極WEから分離して回収することができる。ワイヤ電極WEを細かく切断して回収するようにしたいときには、水切板13Cを細目のフィルタに換装することができる。
【0035】
図2は、本発明のワイヤ放電加工装置の搬送装置の有力な実施の形態を示す。図2は、図1と同じように模式図であって、複数の構成部材の相対的なサイズと位置関係が実物に対して正確ではない。また、図3は、搬送装置における気液混合流体の供給と排出を行なう回路を簡略化して模式的に示す。図3において、制御装置は、図示省略されている。以下に、図1ないし図3を用いて搬送装置の具体的な構成を説明する。なお、図3中の加工液供給装置においては、本発明と直接関係がない部材については、図示および説明を省略する。
【0036】
搬送装置14は、方向転換プーリ10によって上向きに変向した使用済のワイヤ電極WEを加工槽4の外側に導出する手段である。搬送装置14は、ガイドパイプ14Aと、第1の吸引装置14Bと、第2の吸引装置14Cと、ブロワ14Fと、吸引ノズル14Nとを含んでなる。実施の形態のワイヤ放電加工装置における搬送装置14は、図3に示される消泡装置8を含んでなる。
【0037】
実施の形態のワイヤ放電加工装置における搬送装置14の第1の吸引装置14Bと第2の吸引装置14Cは、具体的には、それぞれ、加工液供給装置の加工液貯留槽の近くに設けられたエジェクタ14Eに接続する。エジェクタ14Eに加工液を供給することによって負圧を発生させ、吸引装置14Bないしは吸引装置14Cから気泡を含む加工液を吸引して清液槽72に排出する。
【0038】
第1の吸引装置14Bは、吸引ノズル13Nを含んでいる。第1の吸引装置は、気液混合流体と一緒にワイヤ電極WEを巻取装置13Aに捕捉させ、図1に示されるように、ワイヤ電極WEを巻取装置13Aの後方に案内する。吸引装置として、エジェクタに代えてアスピレータを用いることができる。
【0039】
ガイドパイプ14Aは、ワイヤ電極WEの移動経路に沿って方向転換プーリ10と巻取装置13Aとの間に設けられる。ガイドパイプ14Aは、方向転換プーリ10と巻取装置13Aとの間でワイヤ電極WEの移動を案内する手段である。ガイドパイプ14Aは、帯電防止性を有する。また、ガイドパイプ14Aの内面の表面が可能な限り円滑にされている。
【0040】
ワイヤ電極WEを下から上に向けて送るとき、ワイヤ電極WEが水平に移動するときに比べてワイヤ電極を引き上げる十分な力が必要である。もとより、ワイヤ電極WEとガイドパイプ14Aの内面が接触して摩擦が生じると、静電気が発生し、とりわけ、ワイヤ電極WEがφ0.1mm以下の極細のワイヤ電極であるときは、帯電した静電気力によってワイヤ電極WEがガイドパイプ14Aの内面に貼り付きやすくなっている。
【0041】
本発明のワイヤ放電加工装置は、搬送装置14のガイドパイプ14Aが帯電防止性を有しているため、静電気力によってワイヤ電極WEがガイドパイプ14Aの内面に貼り付くことを抑制することができる。そして、ガイドパイプ14Aの内面が円滑であることによって、ワイヤ電極WEとガイドパイプ14Aとの摩擦が小さく、また、ワイヤ電極WEがガイドパイプ14Aの内面に引っ掛かりにくい。
【0042】
ガイドパイプ13Aは、帯電防止性を長期間維持するために、電気絶縁度が高い素材に導電性の帯電防止材料を含んでなるものが望ましい。電気絶縁性材料であると、静電気をアースによって除去することが困難である。また、帯電防止材料を表面に塗布したガイドパイプ13Aを使用することができるが、比較的短期間に必要十分な帯電防止性を喪失するおそれがある。また、ガイドパイプ13Aは、内面が円滑で耐摩耗性を有している材質のものが望ましい。例えば、帯電防止性を有し内面が円滑で耐摩耗性を有する材料として、導電性ムライトセラミックスが有効である。
【0043】
もともと、液体に比べて気体のほうがワイヤ電極WEを移動させる力が小さい。一方、液流に乗せてワイヤ電極WEを移動させるとき、表面張力によってワイヤ電極WEが円滑なガイドパイプ14Aの内面に貼り付きやすい。本発明においては、特にワイヤ電極WEが極細線であるときは、液体に比べて気液混合流体は、より搬送能力が高いことが見出された。また、ワイヤ電極WEが極細線であるとき、気液混合流体によると、ワイヤ電極WEがガイドパイプ14Aの内面に貼り付きにくく、直進性が付与される。
【0044】
気液混合流体は、可能な限り加工液に空気が気泡となって均等に混合している状態がワイヤ電極WEをよりよく移動させることができるようであるが、例えば、加工液と空気が分離して2層になっている状態であっても、ワイヤ電極WEをよりよく移動させることができる点において、依然として効果が維持されている。
【0045】
吸引ノズル14Nは、巻取装置13Aのワイヤ電極WEの出口側に設けられる。吸引ノズル14Nは、吸引口がワイヤ電極WEの移動経路上にあるようにワイヤ電極WEの移動経路と同軸に設けられる。吸引ノズル14Nは、ワイヤ電極WEの移動経路に沿って往復移動可能に設けられる。吸引ノズル14Nは、シリンダ装置14Sとシリンダ装置14Sによって移動するL形アーム14Lとによって移動する。吸引ノズル14Nは、巻取装置13Aの一対のローラ13D,13Tが開放状態にあるときに、一対のローラ13D,13Tとの間を通過してガイドパイプ14Aの出口側に接続するように移動する。
【0046】
吸引ノズル14Nは、気液混合流体と気液混合流体と共に送られてくるワイヤ電極WEの先端とを吸引してワイヤ電極WEの先端を捕捉する。このとき、吸引ノズル14Nがワイヤ電極WEと気液混合流体の吸引動作を停止して巻取ローラ13Aに挟み込ませる。そして、第1の吸引装置14Bが元の位置に後退したときに自動結線が完了する。エジェクタ14Eによって第1の吸引装置14Bと第2の吸引装置によって吸引された気液混合流体は、消泡装置8に排出される。
【0047】
ブロア14Fは、空気の力によって巻取装置13Aの一対のローラ13D,13Tの間を通過する極細のワイヤ電極WEがローラの表面に貼り付かないようにするために、ワイヤ電極WEとローラの表面との間に空気の層を作る。
【0048】
第1の吸引装置14Bと第2の吸引装置14Cは、選択的に作動する。第1の吸引装置14Bは、比較的直径が小さいワイヤ電極WEのときに動作する。このとき、第2の吸引装置14Cは、動作しない。第2の吸引装置14Cは、比較的直径が大きいワイヤ電極WEのときに動作する。このとき、第1の吸引装置14Bは、動作しない。制御装置は、制御バルブV1と制御バブルV2を切り換えて、第1の吸引装置14Bと第2の吸引装置14Cとを切り換える。
【0049】
第1の吸引装置14Bと第2の吸引装置14Cから排出されてくる気液混合流体は、消泡装置14に導入される。実施の形態のワイヤ放電加工装置の搬送装置14に設けられる消泡装置14は、例えば、サイクロン式消泡装置である。消泡装置14は、容器内で気液混合流体を高速で渦流ができるように導入し、容器の上面側から空気を導出して、容器の底側から比重の大きい加工液を導出する。加工液は、加工液貯留槽7の清液槽7Bに戻される。気液混合流体を消泡することによって、気泡を含む加工液による障害を防ぐことができる。例えば、キャリブレーションを防止して、安全に加工液を再利用することができる。
【0050】
図3に示されるように、ワイヤ放電加工装置の本機における加工液の供給と回収を行なう加工液供給装置に設けられている加工液貯留槽7は、少なくとも汚液槽7Aと清液槽7Bとを有する。加工液貯留槽7は、汚液槽7Aに回収される汚れた加工液を浄化して清液槽7Bに貯留しておくことができる。浄化された加工液は、加工に供されると共に新しい気液混合流体を生成するときに使用される。
【0051】
加工液貯留槽7において、汚液槽7Aの加工液は、ポンプP1によってフィルタFTを通して清液槽7Bに送られる。清液槽7BからポンプP2によって下側ワイヤガイドユニット3B内の加工液噴流ノズルに送液される加工液のうち、下方向に噴出する加工液が方向転換プーリ10を経てガイドパイプ14Aの入口に接続する気液混合口14Vに到達する。また、方向転換プーリ10の上側からチューブを通って空気が気液混合口14Vに到達する。第1の吸引装置14Bまたは第2の吸引装置14Cによって吸引される加工液によって負圧が生じて加工液に空気が混入し気液混合流体がガイドパイプ14A内を流通する。
【0052】
次に、実施の形態のワイヤ放電加工装置の自動結線時の動作について、図1ないし図4を用いて具体的に説明する。図4は、図2に示される搬送装置から巻取装置におけるワイヤ電極を巻き取って回収する部位を抜き出して示す。図1から図4に示される各構成要素に付された符号が同じであるときは、同じ構成要素であることを示す。 自動結線を開始する直前、ワイヤ電極WEの先端は、少なくとも図1に示される自動結線装置2の送出ローラ2Aよりも加工間隙GP側に位置している。制御装置は、図4Aに示されるように閉じられて互いに接触している状態にある回収装置13の巻取装置13Aの一対のローラ14D,14Tを、図4Bに示されるように開放する。
【0053】
次に、制御装置は、搬送装置14のシリンダ装置14Sを駆動して、第1の吸引装置14Bと一体で吸引ノズル14Nを移動させる。吸引ノズル14Nが一対のローラ14D,14Tの間を通過して、吸引ノズル14Nの吸引口が第2の吸引装置14Cの出口に接近または出口に接触した位置まで前進したときに吸引ノズルNの移動が停止される。なお、第2の吸引装置14Cが存在しない場合は、吸引ノズル14Nの吸引口がガイドパイプ14Aの出口に接近するか接触した位置で吸引ノズル14Nの移動が停止される。
【0054】
制御装置は、自動結線を開始するまでに、自動結線装置2のガイドパイプ2Bを所定の高さ位置に配置した状態でガイドパイプ2Bの中に圧縮空気を供給しておく。また、制御装置は、気液混合装置50を作動させて搬送装置14のジェットノズル14Jに気液混合流体を供給するとともに、ワイヤ電極WEの線径に対応して第1の吸引装置14Bまたは第2の吸引装置14Cの何れかを作動させる。
【0055】
自動結線の開始にともなって、制御装置は、自動結線装置2の送出ローラ2Aの送出方向に所定の回転速度で回転させる。制御装置は、ワイヤ電極WEの移動に合わせてガイドパイプ2Bを下降させる。ガイドパイプ2Bの中は、圧縮空気の流れが生じているので、先端が下向きのワイヤ電極WEは、ガイドパイプ2Bの内壁に引っ掛かることなくガイドパイプ2Bに案内されながら、上側ワイヤガイドユニット3Aに到達する。
【0056】
ワイヤ電極WEの先端が下側ワイヤガイドユニット3Bに到達して下側ワイヤガイドを通過したワイヤ電極WEは、ガイドブロック20に形成されている走行径路を逸脱することなく、方向転換プーリ10とガイドブロック20との間に形成されている溝形状の移動経路に到達する。
【0057】
ワイヤ電極WEの先端が気液混合口14Vに到達すると、ワイヤ電極WEは、第1の吸引装置14Aまたは第2の吸引装置14Bに吸引されて、気液混合口14Vで生成された気液混合流体に乗って下から上に向かって吸い上げられる。このときのガイドパイプ14Aの傾斜角度は、例えば、13度である。ワイヤ電極WEは、ガイドパイプ14A内に形成されている気液混合流体の流れに乗って途中で座屈することなく巻取装置13Aを通過して一気に吸引ノズル14Nまで到達する。
【0058】
制御装置は、ワイヤ電極WEが巻取装置13Aを通過したことを図示しないセンサが検出したとき、搬送装置14のシリンダ装置14Sを駆動して、第1の吸引装置14Bと一体で吸引ノズル14Nを移動させる。制御装置は、吸引ノズル14Nが一対のローラ14D,14Tの間を通過して、初期位置まで後退したときに吸引ノズルNの移動を停止する。
【0059】
次に、制御装置は、図4Aに示されるように、巻取装置13Aの一対のローラ13D,13Tを閉じてワイヤ電極WEを一対のローラ13D,13Tに挟持させ、巻取装置13Aがワイヤ電極WEを保持する。同時に、制御装置は、開放している巻取装置13Aの一対のローラを閉じてワイヤ電極WEを挟持させる。
【0060】
自動結線が完了したら、制御装置は、全ての自動結線装置を初期位置に戻して加工を再開させる。なお、自動結線完了時に、制御装置は、第1の吸引装置14Bと、ジェットノズル14Jと、消泡装置14と、気液混合装置50の動作を停止させるが、第2の吸引装置14Cは、依然として作動させたままであってよい。このとき、第2の吸引装置14Cにおいては、圧縮空気が供給されて空気が排出されるので、回路中の図示しない制御バルブを切り換えて、排気をそのまま大気中に放出するようにされる。
【0061】
本発明は、以上に説明される実施の形態のワイヤ放電加工装置の構成と同じである必要はなく、すでにいくつかの例が示されているが、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で、変形したり、部材を置き換えたり、他の発明と組み合わせたりすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、放電加工の技術分野に適用することができる。本発明は、ワイヤ放電加工装置において下アームおよび搬送装置におけるガイドパイプを加工槽壁に対して貫通させずに設置することができるようにする。本発明は、加工槽壁からシール装置を除くことを可能にして、放電加工の発展に寄与する。
【符号の説明】
【0063】
1 走行装置
2 自動結線装置
2A 送出ローラ
2B ガイドパイプ
3 ワイヤガイドユニット
3A 上側ワイヤガイドユニット
3B 下側ワイヤガイドユニット
4 加工槽
5 下アーム
6 コラム
7 加工液貯留槽
8 消泡装置
10 方向転換プーリ
11 供給装置
11B ワイヤボビン
12 送出装置
12A 駆動ローラ
12M サーボモータ
13 回収装置
13A 巻取装置
13B バケット
13C 水切板
13D 駆動ローラ
13M 巻取モータ
13T 従動ローラ
14 搬送装置
14A ガイドパイプ
14B 第1の吸引装置
14C 第2の吸引装置
14F ブロア
14V 気液混合口
20 ガイドブロック
WE ワイヤ電極
WP 被加工物

図1
図2
図3
図4