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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067864
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】電動航空機
(51)【国際特許分類】
   B64D 27/40 20240101AFI20240510BHJP
   B64D 27/24 20240101ALI20240510BHJP
   B64C 27/04 20060101ALI20240510BHJP
   B64C 1/00 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
B64D27/26
B64D27/24
B64C27/04
B64C1/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178242
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】生出 理子
(72)【発明者】
【氏名】松井 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】平林 大輔
(57)【要約】
【課題】eVTOL等の電動航空機の重量を軽減することである。
【解決手段】電動航空機は、胴体と、少なくとも1つのロータと、前記胴体に前記ロータを連結する連結構造と、前記ロータを回転させる電動モータと、前記胴体に取付けられ、前記電動モータに電流を供給するバッテリとを備え、前記バッテリと前記電動モータを電気的に接続する配線の少なくとも一部を前記連結構造の少なくとも一部を構成する剛体の導体とし、前記剛体の導体で少なくとも1つの前記ロータから前記胴体にかかる荷重の少なくとも一部を受けるようにしたものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴体と、
少なくとも1つのロータと、
前記胴体に前記ロータを連結する連結構造と、
前記ロータを回転させる電動モータと、
前記胴体に取付けられ、前記電動モータに電流を供給するバッテリと、
を備え、
前記バッテリと前記電動モータを電気的に接続する配線の少なくとも一部を前記連結構造の少なくとも一部を構成する剛体の導体とし、前記剛体の導体で少なくとも1つの前記ロータから前記胴体にかかる荷重の少なくとも一部を受けるようにした電動航空機。
【請求項2】
前記連結構造は、
パネルと、
前記パネルを補強する補強部材と、
を少なくとも一部に有し、
前記補強部材を前記剛体の導体とした請求項1記載の電動航空機。
【請求項3】
前記補強部材を絶縁性を有する繊維強化プラスチックからなる絶縁材料で被覆した請求項2記載の電動航空機。
【請求項4】
前記パネルを炭素繊維強化プラスチックで構成する一方、前記補強部材をアルミニウム又は銅で構成し、前記絶縁材料で被覆された前記補強部材を接着剤で前記パネルに接着した請求項3記載の電動航空機。
【請求項5】
前記連結構造をパイプ状のアームとし、
前記アームの一部を前記補強部材で補強した前記パネルで構成する一方、前記アームの別の一部をサンドイッチ構造で構成した請求項2乃至4のいずれか1項に記載の電動航空機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電動航空機に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の一種として、電動垂直離着陸機(eVTOL:electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)や電動短距離離着陸機(eSTOL:electric Short Take‐Off and Landing aircraft)に代表される電動航空機が知られている(例えば特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
eVTOLに分類される回転翼航空機としては、電動式のヘリコプタ及びマルチコプタが挙げられる。ヘリコプタは、メインロータとテールロータを有する回転翼航空機であるのに対して、マルチコプタは、4つのロータを有するクワッドコプタや6つのロータを有するヘキサコプタのように3つ以上のロータを有する回転翼航空機である。近年ではヘリコプタやマルチコプタ等の無人航空機(UAV:Unmanned aerial vehicle)がドローンと呼ばれるのに対して、マルチコプタからなる有人航空機は空飛ぶクルマとも呼ばれる場合もある。
【0004】
ヘリコプタ及びマルチコプタ等の電動式の回転翼航空機は、複数のロータをそれぞれ回転させるための救数の電動モータと、各電動モータに電力を供給するためのバッテリを搭載している。典型的な回転翼航空機の場合には、胴体に配置された共通のバッテリから、各ロータの下方に配置される電動モータに電力が供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-222031号公報
【特許文献2】特開2021-066330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、バッテリから各電動モータに大電流を供給する場合、断面積が大きい配線を電動航空機の胴体から各電動モータに向かって敷設することが必要となる。このため、電動航空機の重量増加に繋がる。
【0007】
そこで本発明は、eVTOL等の電動航空機の重量を軽減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る電動航空機は、胴体と、少なくとも1つのロータと、前記胴体に前記ロータを連結する連結構造と、前記ロータを回転させる電動モータと、前記胴体に取付けられ、前記電動モータに電流を供給するバッテリとを備え、前記バッテリと前記電動モータを電気的に接続する配線の少なくとも一部を前記連結構造の少なくとも一部を構成する剛体の導体とし、前記剛体の導体で少なくとも1つの前記ロータから前記胴体にかかる荷重の少なくとも一部を受けるようにしたものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施形態に係る電動航空機の構成例を示す斜視図。
図2図1に示す配線を含むアームの構造例を示す横断面図。
図3図2に示す剛体の導体の接点における構造例を示す上面図。
図4図3に示す剛体の導体の位置A-Aにおける横断面図。
図5図3に示す剛体の導体の位置B-Bにおける横断面図。
図6】単純なパネル構造を有する従来のアームの横断面図。
図7】パネルをストリンガで補強した従来のアームの横断面図。
図8】本発明の第2の実施形態に係る電動航空機のアームの構造例を示す横断面図。
図9】本発明の第3の実施形態に係る電動航空機のアームの構造例を示す横断面図。
図10】ハニカムサンドイッチ構造を有する従来のアームの横断面図。
図11】本発明の第4の実施形態に係る電動航空機のアームの構造例を示す横断面図。
図12】本発明の第5の実施形態に係る電動航空機のアームの構造例を示す横断面図。
図13】本発明の第6の実施形態に係る電動航空機のアームに補強部材として取付けられる剛体の導体を含む配線図。
図14図13の位置C-Cにおける剛体の導体を含むアームの横断面図。
図15】本発明の第7の実施形態に係る電動航空機に設けられる剛体の導体を含む配線図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る電動航空機について添付図面を参照して説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
(構成及び機能)
図1は本発明の第1の実施形態に係る電動航空機1の構成例を示す斜視図である。
【0012】
電動航空機1は、胴体2に少なくとも1つのロータ3を連結した回転翼航空機である。ロータ3は、ファン又はプロペラと呼ばれる場合もある。図1には6つのロータ3を有するヘキサコプタが例示されているがロータ3の数は任意である。
【0013】
従って、電動航空機1は、マルチコプタに限らず電動式のヘリコプタでも良い。典型的なヘリコプタは、メインロータとテールロータを有するが、二重反転ヘリコプタのようにテールロータが無いヘリコプタやエアの吹き出し口を形成することによってテールロータを省略し、単一のロータ3を有するヘリコプタも知られている。このため、電動航空機1は、少なくとも1つのロータ3を有することになる。但し、以降では図1を参照して複数のロータ3を有する電動航空機1を例に説明する。
【0014】
電動航空機1は、ドローンとも呼ばれるUAV、空飛ぶクルマとも呼ばれる有人航空機及びOPV(Optionally Piloted Vehicle)のいずれであっても良い。OPVはパイロットが搭乗して操縦することも可能な無人航空機であり、有人航空機と無人航空機のハイブリッド航空機である。電動航空機1は、複数のロータ3の回転数やブレードのピッチ角を制御することによって垂直離着陸、推力の発生及び姿勢制御を行うことができる。このため、電動航空機1は、eVTOLに分類することができる。
【0015】
各ロータ3は、連結構造4で胴体2に連結される。図1に示す例では、各ロータ3をそれぞれ支持するパイプ状のアーム5で連結構造4が構成されているが、連結構造4はロータ3ごとに明瞭に分離していなくても良い。具体例として、アーム5間をリブで連結して補強したり、アーム5をカウルプレートで覆ったりしても良い。
【0016】
各ロータ3は電動式であるため、各ロータ3の下方にはそれぞれロータ3を回転させるための電動モータ6が配置される。通常、電動モータ6の出力シャフトは、ロータ3の回転シャフトと一体化される。すなわち、電動モータ6の出力シャフトの回転軸と、ロータ3の回転シャフトの回転軸が同一直線上となるようにロータ3に電動モータ6が固定される。そして、複数のロータ3は複数の電動モータ6の駆動によって回転する。
【0017】
胴体2には、複数の電動モータ6に電流を供給するバッテリ7が取付けられる。バッテリ7は、複数の配線8で複数の電動モータ6と電気的に接続される。従って、ロータ3及び電動モータ6を支持する各アーム5に沿って配線8が敷設される。アーム5が中空である場合には、アーム5の内部に配線8を配置することができる。一方、バッテリ7には、ロータ3及び配線8の数に応じた端子が設けられる。もちろん、ロータ3及び配線8の数に応じて複数のバッテリ7を胴体2に搭載することができる。
【0018】
電動モータ6としては、直流(DC:direct current)モータを用いれば交流(AC:alternate current)モータと比較して安価で小型化が容易となる。加えて、DCモータは、電圧に対する回転特定が安定していることから速度制御を行う場合に適している。このため、電動モータ6としてDCモータを用いれば、配線8の数は図1に例示されるように1つの電動モータ6につき正負の2本となる。
【0019】
尚、各電動モータ6をバッテリ7と個別に接続せずに、複数の電動モータ6をバッテリ7と並列に接続しても良い。図1に示す例では、機体の右側に配置される前後一対の電動モータ6がバッテリ7と並列に接続されている。同様に、機体の左側に配置される前後一対の電動モータ6がバッテリ7と並列に接続されており、機体の中央に配置される前後一対の電動モータ6がバッテリ7と並列に接続されている。
【0020】
この場合、6つの電動モータ6と接続される配線8の数は正負を別々に数えると6本となる。このため、単一又は複数のバッテリ7に6つの端子を設け、各端子と配線8を電気的に接続すれば良いことになる。
【0021】
図2図1に示す配線8を含むアーム5の構造例を示す横断面図である。
【0022】
各ロータ3を胴体2に連結する連結構造4を構成するアーム5は、図2に例示されるように横断面が角丸四角形、すなわちR面取りを施した四角形等となっている中空かつ棒状のパネル10と、パネル10を補強する補強部材11で構成することができる。上述したように連結構造4にはアーム5以外の構造部材を設けても良い。このため、連結構造4は、パネル10と、パネル10を補強する補強部材11を少なくとも一部に有する構造とすることができる。
【0023】
補強部材11は、アーム5の長さ方向を長さ方向とする長尺構造を有する棒状の部材である。長尺構造を有する補強部材11は、形状や配置される位置に応じてストリンガ、スパー、フレーム或いはリブと呼ばれる。胴体2から機体の端部に向かう補強部材11は、ストリンガと呼ばれる場合が多い。
【0024】
中空構造を形成するパネル10を補強するためのストリンガ等の補強部材11は、通常、図2に示すように外部に露出しないようにパネル10の内側に固定されるが、パネル10の外側に固定しても良い。すなわち、図2に示す例では、補強部材11がアーム5の内部に配置されているが、アーム5の外部に取付けても良い。
【0025】
アーム5を構成するパネル10は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)等の繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)で構成することができる。FRPは、複合材とも呼ばれ、金属よりも比強度及び比剛性が高い。このため、電動航空機1の軽量化を図ることができる。
【0026】
一方、アーム5を構成する補強部材11は、剛体の導体12で構成し、バッテリ7から電動モータ6に電流を供給する配線8の一部とすることができる。つまり、荷重を受けるための補強部材11に電流を流すことができる。
【0027】
そのために、補強部材11を兼ねる剛体の導体12の横断面における断面積は、荷重を受けるために必要であり、かつ電流を流すために必要な断面積に決定される。また、補強部材11を兼ねる剛体の導体12の横断面における形状は、図2に例示されるように矩形とする他、強度を確保するためにハット型、I字型、逆T字型、捩りを設けたブレード型など所望の形状とすることができる。
【0028】
補強部材11を兼ねる剛体の導体12を構成する材料としては、アルミニウムが適している。これは、アルミニウムは良導体でありながら比強度が高いためである。但し、補強部材11を兼ねる剛体の導体12を構成する材料として銅を用いれば、アルミニウムを用いる場合に比べて電気抵抗が小さく、かつ強度が高いため断面積を小さくすることができる。具体的には、補強部材11を兼ねる剛体の導体12を銅で構成する場合、原理的には、従来の銅線と同じ断面積があれば必要な電流を流すことができるため、荷重を受けるために必要な断面積を確保できれば良いことになる。
【0029】
このため、干渉がある場合など狭隘部に補強部材11を兼ねる剛体の導体12を配置する場合には銅を用いても良い。逆に、補強部材11を兼ねる剛体の導体12を配置するスペースに制約が無ければ、鉄よりも比重が大きい銅を用いるよりも、比重が小さいアルミニウムを用いることが電動航空機1の重量軽減に繋がる。従って、補強部材11を少なくともアルミニウムで構成し、必要に応じて局所的に銅を用いることができる。
【0030】
補強部材11を剛体の導体12で構成する場合、剛体の導体12を絶縁することが必要となる。そこで、補強部材11を兼ねる剛体の導体12を絶縁材料13で被覆することができる。従って、パネル10には、絶縁材料13で被覆された状態で剛体の導体12が接合されることになる。
【0031】
絶縁材料13としては、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)に代表される絶縁性を有するFRPを用いると、後述するようにパネル10への接着が容易となる。絶縁性を有するFRPとしては他にケブラー(登録商標)とも呼ばれるアラミド繊維で樹脂を強化したアラミド繊維強化プラスチック(AFRP:Aramid Fiber Reinforced Plastics)や天然繊維で樹脂を強化した天然繊維強化プラスチック(NFRP:Natural Fiber Reinforced Plastics)が挙げられるが、ここではGFRPを用いる場合を例に説明する。
【0032】
具体的には、剛体の導体12にGFRPを積層し、硬化することによって剛体の導体12を兼ねた補強部材11をGFRPからなる絶縁材料13で被覆することができる。尚、補強部材11をGFRPで被覆しても荷重は補強部材11を兼ねる剛体の導体12にかかるため、GFRPは構造部材としてではなく絶縁材料13として機能する。
【0033】
補強部材11を被覆するGFRPと、パネル10を構成するCFRPは、一体成形せずに成形後に常温で二次接着することが適切である。すなわち、パネル10を構成するパイプ状のCFRPについては、複数の断片に分割してCFRPを成形又は中間硬化した後、接着剤又は再硬化等で接合して組立てる製法の他、CFRPの成形後に引き抜くことが可能なブラダーバッグ等の中子を中空の部分に挿入した状態でCFRPを一体成形する製法が可能であるが、GFRPからなる絶縁材料13で被覆された補強部材11については、CFRPと一体成形せずに接着剤14でCFRPからなるパネル10に接着することが適切である。
【0034】
これは、補強部材11とFRPとの間で無視できない熱膨張差があるためである。具体的には、アルミニウムや銅等の金属の熱膨張率は、CFRP等のFRPの熱膨張率と比較して桁違いに大きい。このため、仮にアルミニウムを被覆するGFRPとCFRPを、FRPの成形温度である130℃からや180℃程度まで加熱して一体成形しようとすると、熱膨張差によってアルミニウムに反りが生じたり、GFRPとCFRPの接合部分に亀裂が入って剥がれたりする不具合が生じる。
【0035】
GFRPもCFRPもマトリクス(母材)はエポキシ樹脂に代表される公知の樹脂である。このため、絶縁材料13としてGFRPを用いれば、FRP同士を接着するための樹脂の種類に応じたエポキシ樹脂系接着剤やウレタン樹脂系接着剤等の適切な公知の接着剤14で容易かつ安定的に常温で補強部材11をパネル10に接着することができる。すなわち、絶縁材料13としてGFRPを用いれば、剛体の導体12からの絶縁材料13の剥がれと、パネル10からの補強部材11の剥がれを確実に防止することができる。
【0036】
尚、絶縁材料13としては上述したGFRPの他、銅線を被覆する絶縁チューブと同様な絶縁チューブや公知の絶縁塗料を用いることも可能である。絶縁チューブを用いる場合には、剛体の導体12が絶縁チューブでカバーされる。一方、絶縁塗料を用いる場合には、剛体の導体12が絶縁塗料で塗布される。
【0037】
銅線を被覆する絶縁チューブと異なり、剛体の導体12からなる補強部材11を被覆する絶縁チューブは剥がれないように接着剤で接着することが適切である。また、絶縁チューブでカバーされた補強部材11や絶縁塗料で被覆された補強部材11を、接着剤14でパネル10に接着することが必要となる。このため、絶縁チューブや絶縁塗料の材質に応じた適切な接着剤14を選定することが適切である。
【0038】
剛体の導体12は絶縁材料13で被覆することが適切であるが、電気的な接点では剛体の導体12を絶縁材料13で被覆せずに露出することが必要となる。すなわち、剛体の導体12のうち、電動モータ6との接続部分と、バッテリ7との接続部分では、剛体の導体12を銅線等と電気的に接続することが必要となる。
【0039】
図3図2に示す剛体の導体12の接点における構造例を示す上面図、図4図3に示す剛体の導体12の位置A-Aにおける横断面図、図5図3に示す剛体の導体12の位置B-Bにおける横断面図である。
【0040】
図3乃至図5に示すように剛体の導体12の接点では絶縁材料13を除去して剛体の導体12を局所的に露出させることができる。露出させた剛体の導体12の部分には、下孔加工と下孔へのタップ加工によって雌ねじを形成し、図示されるような典型的なボルト20やスタッドボルト等で電線押え金具21を剛体の導体12に固定することができる。そして、電動モータ6又はバッテリ7の端子と接続するための銅線等の電線22の端部を電線押え金具21で挟み込んで固定することができる。
【0041】
以上のような電動航空機1は、バッテリ7から電動モータ6に電流を供給するための配線8の少なくとも一部を、ロータ3を胴体2に連結する連結構造4の少なくとも一部を構成する剛体の導体12とし、剛体の導体12で少なくとも1つのロータ3から胴体2にかかる荷重の少なくとも一部を受けるようにしたものである。
【0042】
(効果)
このため、電動航空機1によれば、従来、連結構造4とは別に敷設することが必要であった銅線を不要にすることができる。その結果、電動航空機1の軽量化を図ることができる。加えて、連結構造4の中に銅線を通したり、連結構造4に銅線を固定したりする銅線の敷設作業も不要にできることから、電動航空機1の組立に要する労力を削減することが可能となる。
【0043】
また、補強部材11は強度を確保するための断面積を有しており、補強部材11の断面積を、電流を流すための断面積としても有効活用することができる。すなわち、電流を流すための断面積を容易に確保し、電気抵抗を小さくすることができる。
【0044】
図6は単純なパネル構造を有する従来のアーム30の横断面図である。
【0045】
従来の最も単純なアーム30の構造は、図6に示すようにストリンガが無いパネル31のみの構造である。この場合、アーム30は凹凸の無いパイプ状の構造となり、内部に銅線32が配置される。従来のアーム30についてもCFRPで構成すればアルミニウム等の金属で構成する場合に比べて重量を軽減できる。
【0046】
これに対して、図2に示すように補強部材11で補強したパネル10の場合には、パネル10のみならず補強部材11で荷重を受けることができる。従って、素材が同じであれば、従来のパネル31のみからなるアーム30の断面積よりも、パネル10の断面積を小さくすることができる。従って、比強度が高いアルミニウム棒で補強部材11を構成すれば、パネル10に補強部材11を付加したアーム5であっても、アルミニウムよりも比重が大きい銅線32が不要となるので、従来のアーム30と比較して重量を軽減することができる。
【0047】
或いは、補強部材11で補強されたパネル10の断面積を従来のパネル31の断面積と同等にする場合には、補強部材11でも荷重を受けることが可能となるため、より出力の大きい電動モータ6を支持することが可能となる。その結果、ロータ3で発生させる揚力を大きくすることが可能となる。
【0048】
図7はパネル31をストリンガ33で補強した従来のアーム30Aの横断面図である。
【0049】
従来のアーム30Aの構造として、図7に示すようにストリンガ33でパネル31を補強した構造も知られている。この場合も、ストリンガ33及びパネル31をCFRPで構成すれば、アルミニウム等の金属で構成する場合に比べて重量を軽減できる。パネル31をストリンガ33で補強した従来のアーム30Aにおいても、内部に銅線32が配置される。
【0050】
これに対して、図2に示すように補強部材11をアルミニウムからなる剛体の導体12にすれば、アルミニウムからなる補強部材11の重量がCFRPからなる従来のストリンガ33の重量よりも大きくなったとしても、比重が大きい銅線32を不要にできるので、パネル31をストリンガ33で補強した従来のアーム30Aと比較して重量を軽減することができる。
【0051】
尚、従来のアーム30Aに取付けられるストリンガ33の断面積が、電流を流すために必要となる断面積よりも小さい場合には、従来のアーム30に取付けられるストリンガ33の断面積よりも大きな断面積を有する補強部材11をパネル10に取付けるだけでなく、従来のアーム30に取付けられるストリンガ33の数よりも多くの補強部材11をパネル10に取付けるようにしても良い。
【0052】
また、パネル31をストリンガ33で補強した従来のアーム30Aの場合には、パネル31とストリンガ33をいずれもCFRPで構成することによって一体成形できるのに対して、剛体の導体12をパネル10に取付けたアーム5の場合には、上述したように剛体の導体12とパネル10との間において熱膨張係数の差が大きくなることから、CFRPからなるパネル10と、GFRPで絶縁被覆した剛体の導体12を別々に成形した後、接着剤14で接着することになる。
【0053】
(第2の実施形態)
図8は本発明の第2の実施形態に係る電動航空機1Aのアーム5の構造例を示す横断面図である。
【0054】
図8に示された第2の実施形態における電動航空機1Aは、複数のロータ3をそれぞれ胴体2に連結するアーム5の構造が第1の実施形態における電動航空機1と相違する。第2の実施形態における電動航空機1Aの他の構成及び作用については第1の実施形態における電動航空機1と実質的に異ならないためアーム5の構造例を示す横断面のみ図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0055】
剛体の導体12で構成される補強部材11の断面積が電流を流すために十分な断面積となっており、強度を確保するための断面積に対して不足する場合には、図8に示すようにCFRPからなる補強部材40と、剛体の導体12で構成される補強部材11の双方でパネル10を補強するようにしても良い。これにより、剛体の導体12で構成される補強部材11のみで強度を確保する場合と比較してアーム5の重量を軽減することができる。
【0056】
(第3の実施形態)
図9は本発明の第3の実施形態に係る電動航空機1Bのアーム5の構造例を示す横断面図である。
【0057】
図9に示された第3の実施形態における電動航空機1Bは、複数のロータ3をそれぞれ胴体2に連結するアーム5の構造が第1の実施形態における電動航空機1と相違する。第3の実施形態における電動航空機1Bの他の構成及び作用については第1の実施形態における電動航空機1と実質的に異ならないためアーム5の構造例を示す横断面のみ図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0058】
図9に示すようにパネル10の一部を補強部材11で補強する代わりにハニカムサンドイッチ構造50で構成しても良い。すなわち、アーム5の一部を剛体の導体12で構成される補強部材11で補強したパネル10で構成する一方、アーム5の別の一部をハニカムサンドイッチ構造50で構成しても良い。
【0059】
パネル10を補強する補強部材11の長さ方向は、アーム5の長さ方向となる。従って、アーム5は、図9に示すようにアーム5の横断面において、ハニカムサンドイッチ構造50で構成される部分と、補強部材11で補強したパネル10で構成される部分に分割される。換言すれば、アーム5の外周方向においてアーム5の一部がハニカムサンドイッチ構造50で構成され、アーム5の別の一部が補強部材11で補強したパネル10で構成される。
【0060】
ハニカムサンドイッチ構造50は、ハニカム構造を有するコア材、すなわちハニカムコア51を2枚のパネル52で挟んだ構造体である。典型的なハニカムコア51はアルミニウム、CFRPやGFRP等のFRP、アラミド紙に樹脂を含浸させたノーメックス(登録商標)等で構成される。一方、ハニカムコア51を挟むパネル52は、アルミニウムやCFRP等で構成される。
【0061】
尚、曲率が小さい場合にはハニカムコア51をある程度曲げ成形することができるが、アーム5の横断面において曲率が大きくなるR面取り部分については、図9に例示されるようにハニカムコア51を配置せずにCFRPやアルミニウム等からなるパネルのみとしても良い。
【0062】
また、第1の実施形態においても説明したように、絶縁材料13で被覆した剛体の導体12で構成される補強部材11は、アーム5の外側に固定しても良い。図9に示す例では、横断面がT字型の補強部材11がアーム5の外側に固定されている。この場合、補強部材11のフランジの一部を絶縁材料13で被覆せずに露出させ、典型的なボルト20やスタッドボルト等で電線押え金具21を固定することによって電気的な接点とすることができる。
【0063】
このように補強部材11をアーム5の外側に配置すれば、補強部材11のパネル10への接着が容易となるのみならず、補強部材11を兼ねた剛体の導体12の接点と電線22との接続作業も容易となる。尚、補強部材11をアーム5の外側に固定する場合には、補強部材11が大気側に露出しないようにフェアリング(カウル)で覆ったり、別の構造物を連結したりしても良い。
【0064】
図10はハニカムサンドイッチ構造34を有する従来のアーム30Bの横断面図である。
【0065】
ハニカムサンドイッチ構造34を採用した従来のアーム30Bは、中空のパイプ状であり、内部に銅線32が配置される。eVTOL等の小型機の場合には、図6に示す単一パネル構造のアーム30か図10に示すハニカムサンドイッチ構造34を有するアーム30Bが採用される場合が多い。
【0066】
これに対して、図9に示すようにハニカムサンドイッチ構造50で構成されるアーム5の一部を補強部材11で補強したパネル10で構成し、かつ補強部材11を剛体の導体12で構成すれば、ハニカムサンドイッチ構造34を有する従来のアーム30Bと同等な強度をアーム5に付与しつつ、銅線32の敷設を不要にできることから、ハニカムサンドイッチ構造34を有する従来のアーム30Bと比較して、アーム5の重量を軽減することができる。
【0067】
(第4の実施形態)
図11は本発明の第4の実施形態に係る電動航空機1Cのアーム5の構造例を示す横断面図である。
【0068】
図11に示された第4の実施形態における電動航空機1Cは、サンドイッチ構造60のコア材をハニカムコア51とせずにフォームコア61とした点が第3の実施形態における電動航空機1Bと相違する。第4の実施形態における電動航空機1Cの他の構成及び作用については第3の実施形態における電動航空機1Bと実質的に異ならないためアーム5の構造例を示す横断面のみ図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0069】
図11に示すように、サンドイッチ構造60は2枚のパネル62でフォームコア61を挟んだ構造体とすることもできる。フォームコア61は、サンドイッチ構造60のコア材として用いられる発泡体である。図9に例示されるハニカムサンドイッチ構造50と、図11に例示されるフォームコア61をパネル62で挟んだサンドイッチ構造60(フォームコアサンドイッチ構造)を総称してサンドイッチ構造と呼ぶことが多い。フォームコア61の材質の具体例としては、PMI(ポリメタクリルイミド)をベースとした発泡体が挙げられるが他の材質の発泡体を用いても良い。
【0070】
(第5の実施形態)
図12は本発明の第5の実施形態に係る電動航空機1Dのアーム5の構造例を示す横断面図である。
【0071】
図12に示された第5の実施形態における電動航空機1Dは、複数のロータ3をそれぞれ胴体2に連結するアーム5の構造が第1の実施形態における電動航空機1と相違する。第3の実施形態における電動航空機1Dの他の構成及び作用については第1の実施形態における電動航空機1と実質的に異ならないためアーム5の構造例を示す横断面のみ図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0072】
図12に示すようにアーム5をアルミニウム製の導体パネル70で構成し、電流を流すための剛体の導体12として導体パネル70を用いることもできる。この場合、導体パネル70が絶縁材料13で被覆される。尚、正負の電流を流す必要があることから、それぞれGFRP等の絶縁材料13で被覆された少なくとも2枚の導体パネル70が連結金具や接着剤で連結されることになる。或いは、複数の導体パネル70を被覆するGFRPを一体成形しても良い。
【0073】
図12に示す例では、サイズが小さいパイプ状の導体パネル70が、サイズが大きいパイプ状の導体パネル70の内部に配置されており、各導体パネル70の厚さを調整することによって断面積は互いに同等となっている。もちろん、1枚のパイプ状のアーム5を複数の断片に分割し、それぞれ絶縁材料13で被覆された複数の導体パネル70を連結金具や接着剤で連結しても良い。或いは、複数の導体パネル70を被覆するGFRPを一体成形してパイプ状にしても良い。
【0074】
導体パネル70の接点については、図12に示す2層の例であれば内側の導体パネル70の長さを外側の導体パネル70の長さよりも長くすることによって内側の導体パネル70の両端を外側の導体パネル70から突出させたり、外側の導体パネル70に貫通孔を形成したりすれば、内側の導体パネル70と外側の導体パネル70の双方を局所的に絶縁材料13で被覆せずに露出させることができる。また、導体パネル70を1層として複数の断片に分割する場合であれば、各断片を局所的に絶縁材料13で被覆せずに露出させることができる。
【0075】
また、必要に応じて補強部材を追加しても良い。その場合には、図2に示す第1の実施形態と同様に絶縁材料13で被覆されたアルミニウム製又は銅製の補強部材11を導体パネル70に取付け、導体パネル70のみならず補強部材11も剛体の導体12として使用することができる。
【0076】
以上の第5の実施形態によれば、FRPを使用することが必須でないためアーム5の製造コストを低減しつつ、従来必要であった銅線32を不要とすることによってアーム5の軽量化も図ることができる。
【0077】
(第6の実施形態)
図13は本発明の第6の実施形態に係る電動航空機1Eのアーム5に補強部材11として取付けられる剛体の導体12を含む配線図であり、図14図13の位置C-Cにおける剛体の導体12を含むアーム5の横断面図である。
【0078】
図13及び図14に示された第6の実施形態における電動航空機1Eは、電動モータ6をACモータ6Aとした点が第1の実施形態における電動航空機1と相違する。第6の実施形態における電動航空機1Eの他の構成及び作用については第1の実施形態における電動航空機1と実質的に異ならないため配線図及びアーム5の構造例を示す横断面のみ図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0079】
電動モータ6がACモータ6Aである場合においても、バッテリ7から電動モータ6に電流を供給するための配線8の少なくとも一部を、ロータ3を胴体2に連結する連結構造4の少なくとも一部を構成する補強部材11を兼ねた剛体の導体12とすることができる。バッテリ7から出力される電流は直流であるため、ACモータ6Aを使用する場合には、図13に示すようにバッテリ7とACモータ6Aとの間に直流を三相交流に変換するインバータ80が接続される。
【0080】
バッテリ7からインバータ80までの直流電流が流れる範囲では、正負の少なくとも2本の配線8が必要となる。このため、直流電流が流れる範囲に補強部材11を兼ねた剛体の導体12を配置する場合には、第1の実施形態と同様に、剛体の導体12も少なくとも2本配置することが必要となる。
【0081】
一方、インバータ80からACモータ6Aまでの交流電流が流れる範囲では、図13に示すように3本の配線8が必要となる。このため、交流電流が流れる範囲に補強部材11を兼ねた剛体の導体12を配置する場合には、図13及び図14に示すように少なくとも3本の剛体の導体12を配置することが必要となる。
【0082】
(第7の実施形態)
図15は本発明の第7の実施形態に係る電動航空機1Fに設けられる剛体の導体12を含む配線図である。
【0083】
図15に示された第7の実施形態における電動航空機1Fは、構造部材の一部を構成するストリンガ等の補強部材を兼ねた剛体の導体12で弱電系の信号線90を形成した点が第1の実施形態における電動航空機1と相違する。第7の実施形態における電動航空機1Fの他の構成及び作用については第1の実施形態における電動航空機1と実質的に異ならないため配線図のみ図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0084】
上述した第1乃至第6の各実施形態では電力供給を目的とする強電系の配線8の一部を剛体の導体12で構成する例について説明したが、図15に示すように弱電系の信号線90の一部を、ストリンガ等の荷重を受けるための補強部材を兼ねた剛体の導体12で構成しても良い。すなわち、信号送信回路91と信号受信回路92とを接続する信号線90の一部を荷重を受ける剛体の導体12で構成することができる。
【0085】
信号送信回路91は、電動モータ6のコントローラのように制御信号を送信する制御回路に限らず、気圧センサ、光学カメラ、高度計、GPS(Global Positioning System)センサ等の測定信号や検出信号を送信するセンサであっても良い、もちろん、信号を送受する信号送受回路に接続される信号線90の一部を、荷重を受ける剛体の導体12で構成することもできる。信号線90で伝送される信号は直流及び交流のいずれであっても良く、信号線90の本数に合わせて剛体の導体12の本数を決定することができる。
【0086】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0087】
1、1A、1B、1C、1D、1E、1F 電動航空機
2 胴体
3 ロータ
4 連結構造
5 アーム
6 電動モータ
6A ACモータ
7 バッテリ
8 配線
10 パネル
11 補強部材
12 剛体の導体
13 絶縁材料
14 接着剤
20 ボルト
21 電線押え金具
22 電線
30、30A、30B 従来のアーム
31 パネル
32 銅線
33 ストリンガ
34 ハニカムサンドイッチ構造
40 補強部材
50 ハニカムサンドイッチ構造
51 ハニカムコア
52 パネル
60 サンドイッチ構造
61 フォームコア
62 パネル
70 導体パネル
80 インバータ
90 信号線
91 信号送信回路
92 信号受信回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
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図15