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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067882
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】船舶用自動操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B63H 25/04 20060101AFI20240510BHJP
   G05B 11/36 20060101ALI20240510BHJP
   G05D 1/00 20240101ALI20240510BHJP
【FI】
B63H25/04 D
G05B11/36 G
G05D1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178274
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003388
【氏名又は名称】東京計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107928
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正則
(74)【代理人】
【識別番号】110003362
【氏名又は名称】弁理士法人i.PARTNERS特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽根 冬希
【テーマコード(参考)】
5H004
5H301
【Fターム(参考)】
5H004GA30
5H004GB14
5H004HA07
5H004HA08
5H004HB07
5H004HB08
5H004KA71
5H004KA72
5H004KB32
5H301AA04
5H301CC03
5H301CC06
5H301GG07
5H301GG17
(57)【要約】      (修正有)
【課題】可変ピッチプロペラと舵とサイドスラスタとを備える船舶に適した離着桟技術を提供する。
【解決手段】可変ピッチプロペラとバウスラスタと舵とを有する推進駆動装置と、船首方位及び船体位置を検出するセンサとを備える船舶用自動操舵装置であって、船舶を目標位置及び方位に誘導するsurge方向とsway方向の参照位置及び方位の参照信号生成部と、sway方向の船体位置を参照信号に追従させる仮想制御量と、船首方位を参照方位に追従させるyaw方向の仮想制御量と、surge方向の船体位置を参照信号に追従させる可変ピッチプロペラのピッチ角を出力する制御部と、バウスラスタの推力によって、sway方向の仮想制御量についてyaw方向のモーメントが0に、且つyaw方向の仮想制御量についてsway方向の力が0になるように、バウスラスタのプロペラ回転数と舵の舵角とを制御量として出力する非干渉化処理部とを備えた。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変ピッチプロペラとバウスラスタと舵とを有する推進駆動装置と、船首方位及び船体位置を検出するセンサとを備える船舶を制御する船舶用自動操舵装置であって、
前記船舶を目標位置及び目標方位に誘導するsurge方向とsway方向の参照位置及び参照方位のそれぞれの時系列信号である参照信号を生成する参照信号生成部と、
sway方向の船体位置をsway方向の参照信号に追従させるsway方向の仮想制御量と、前記船首方位を前記参照方位の参照信号に追従させるyaw方向の仮想制御量と、surge方向の船体位置をsurge方向の参照信号に追従させる前記可変ピッチプロペラのピッチ角を出力する制御部と、
前記バウスラスタの推力によって、前記sway方向の仮想制御量についてyaw方向のモーメントが0になるように、且つ前記yaw方向の仮想制御量についてsway方向の力が0になるようにswayとyawとの連成運動を非干渉化し、前記バウスラスタのプロペラ回転数と前記舵の舵角とを制御量として出力する非干渉化処理部と
を備える船舶用自動操舵装置。
【請求項2】
前記swayとyawとの連成運動は、
を前記船舶のsway運動に作用する力、Mを前記船舶のyaw運動に作用するモーメント、λbtを前記バウスラスタのプロペラ回転数、δを前記舵の舵角、Kbtをプロペラ回転数に比例するバウスラスタの推力の比例定数、lbtを前記船舶の重心から前記バウスラスタまでの距離、mを船体重量、Jを前記船舶の重心周りの慣性モーメント、Kを前記舵の舵力の旋回力ゲイン、Kを前記舵の舵力の横流れゲイン、Tをsway方向の時定数、Tをyaw周りの時定数とすると、
【数1】
により表されることを特徴とする請求項1に記載の船舶用自動操舵装置。
【請求項3】
前記船舶の船体モデルは、uをsurge速度、vをsway速度v、rをyaw角速度、sをラプラス演算子、θをsurge方向の制御量、δをsway方向の仮想制御量、δをyaw方向の仮想制御量として
【数2】
により表され、
【数3】
であり、ここで、Kはピッチ角θに比例するsurge速度の比例定数であり、Tはsurge方向の時定数であり、K’はKに前記バウスラスタの推力に基づく係数を乗じたものであり、K’はKに前記バウスラスタの推力に基づく係数を乗じたものであることを特徴とする請求項2に記載の船舶用自動操舵装置。
【請求項4】
前記surge方向の参照信号は、開始時からsurge方向の目標位置に達するまで常時変動し、
前記sway方向の参照信号と前記yaw方向の参照信号は、互いに重複しないように変動することを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の船舶用自動操舵装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記sway方向の参照信号への追従、前記参照方位の参照信号への追従、及び前記surge方向の参照信号への追従のそれぞれをフィードフォワード制御とフィードバック制御とによって行い、
フィードバック制御のみにより前記surge方向の参照信号への追従が行われた後、フィードフォワード制御とフィードバック制御により前記surge方向の参照信号への追従が行われ、
前記sway方向の参照信号、及び前記参照方位の参照信号は、フィードバック制御のみにより前記surge方向の参照信号への追従が行われる最中に変動されることを特徴とする請求項4に記載の船舶用自動操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の自動操舵する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、船舶の航行技術において、離着桟航行に関する研究開発が精力的に進められている。離着桟航行の実現には、船体位置を出発地から移動させ、途中で旋回させ、そして目標地で停止させる船体位置制御技術が要求される。この種の技術として、本発明者による船体位置決め制御を適用した離着桟制御が知られている(非特許文献1,2参照)。この離着桟制御は、船首と船尾とに推進器を備えた両頭船を制御対象としている。
【0003】
ところで、一般的に、大型船舶は、プロペラのピッチが可変に構成された可変ピッチプロペラと、舵と、船体の船首側に設けられ船舶の左右方向を向く推力を発生させるバウスラスタとを備えるものが多い。本発明に関連する技術として、このような船舶を制御対象とするエキスパートシステムを応用した制御技術が知られている(非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】羽根冬希,非干渉化と経路順序による船位保持装置の設計,日本船舶海洋工学会講演会論文集,No.30,pp.33-41,may 2020.
【非特許文献2】羽根冬希,加減速誤差,航路誤差とリーチ見積もりの修正による船体位置決め制御の性能向上,日本船舶海洋工学会講演会論文集,No.33,pp.1-7,nov 2021.
【非特許文献3】羽生一成,三好晋太郎,無人運航船の実現に向けた自動着桟制御システムの開発-1軸1舵,バウスラスター1基の自動着桟制御-,日本船舶海洋工学会講演会論文集,No.34,pp.21-24,may 2022.
【非特許文献4】羽根冬希,方位初期条件および操舵機制約を考慮した参照信号の設計:船体の変針操縦への適用,計測自動制御学会論文集,Vol.44,No.4,pp.333-342,2008.
【非特許文献5】羽根冬希,航路保持システムのための保針制御に基づく解析的方法による設計,日本船舶海洋工学会論文集,Vol.23,pp.33-44,jun 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、可変ピッチプロペラと舵とサイドスラスタとを備える船舶に適した着桟技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態において、可変ピッチプロペラとバウスラスタと舵とを有する推進駆動装置と、船首方位及び船体位置を検出するセンサとを備える船舶を制御する船舶用自動操舵装置であって、前記船舶を目標位置及び目標方位に誘導するsurge方向とsway方向の参照位置及び参照方位のそれぞれの時系列信号である参照信号を生成する参照信号生成部と、sway方向の船体位置をsway方向の参照信号に追従させるsway方向の仮想制御量と、前記船首方位を前記参照方位の参照信号に追従させるyaw方向の仮想制御量と、surge方向の船体位置をsurge方向の参照信号に追従させる前記可変ピッチプロペラのピッチ角とを出力する制御部と、前記バウスラスタの推力によって、前記sway方向の仮想制御量についてyaw方向のモーメントが0になるように、且つ前記yaw方向の仮想制御量についてsway方向の力が0になるようにswayとyawとの連成運動を非干渉化し、前記バウスラスタのプロペラ回転数と前記舵の舵角とを制御量として出力する非干渉化処理部とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】船舶用自動操舵装置を含む制御システムの全体構成を示すブロック図である。
図2】船体モデルを示す図である。
図3】ピッチ角θの時系列特性を示す図である。
図4】surge速度uに対する舵力特性を示す図である。
図5】船舶用自動操舵装置の構成を示すブロック図である。
図6】参照信号生成部の構成を示すブロック図である。
図7】参照信号のシーケンスを示す図である。
図8】制御部による方位制御を示す図である。
図9】非干渉化処理部の構成を示す図である。
図10】シミュレーションにおける着桟計画のパラメータを示す図である。
図11】シミュレーションにおける参照信号設定値を示す図である。
図12】外乱なしの場合のシミュレーションによる船体航跡を示す図である。
図13】外乱ありの場合のシミュレーションによる船体航跡を示す図である。
図14】外乱なしの場合のシミュレーションによる船体運動を示す図である。
図15】外乱ありの場合のシミュレーションによる船体運動を示す図である。
図16】外乱なしの場合のシミュレーションによる誤差を示す図である。
図17】外乱ありの場合のシミュレーションによる誤差を示す図である。
図18】外乱なしの場合のシミュレーションによる力と応答を示す図である。
図19】外乱ありの場合のシミュレーションによる力と応答を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0009】
(1 制御システム)
本実施形態に係る船舶用自動操舵装置を含む制御システムについて説明する。図1は、船舶用自動操舵装置を含む制御システムの全体構成を示すブロック図である。
【0010】
図1に示すように、本実施形態における船舶用自動操舵装置1は、推進駆動装置3、センサ類4が備えられた船体2を有する船舶を制御するものである。
【0011】
推進駆動装置3は、surge速度u、sway速度v、及びyaw角速度rを制御可能であり、推進装置と操舵装置とを備える駆動装置である。推進駆動装置3は、推進装置として可変ピッチプロペラ(Controllable Pitch Propeller、以下CPPと称する)とバウスラスタ(Bow Thruster)とを備え、操舵装置としてフラップ舵(Flap rudder)を備える。
【0012】
センサ類4は、船体2の船首方位を検出するジャイロコンパス、船体2の対水速度を検出する速度計、GPS等の衛星測位システム(GNSS)からの船体位置を検出するGNSSセンサなどを含む。なお、センサ類4は、船首方位、船体位置をそれぞれ検出可能なセンサを含むものであれば良い。
【0013】
船舶用自動操舵装置1は、船舶の着桟制御を実施するため、船体運動のsurge速度u、sway速度v及びyaw角速度rを制御する。surge速度uはCPPのピッチ角θによって制御し、sway速度vとyaw角速度rとを舵角δとバウスラスタのプロペラ回転数λbtによって制御する。したがって、船舶用自動操舵装置1は、ピッチ角θ、舵角δ、プロペラ回転数λbtを用いて、船体位置を目標値の方位と位置に一致させるように船舶を制御する。なお、船舶用自動操舵装置1の構成については後に詳述する。
【0014】
(2 制御対象)
(2.1 船体モデル)
船体モデルについて説明する。図2は、船体モデルを示す図である。
【0015】
図2に示すように、O-XYは地球固定座標、OB-XBYB は船体固定座標、OBは重心である。
【0016】
以降の式において、uはsurge速度、vはsway速度、rはyaw角速度、ψは船首方位、θはCPPのピッチ角、δは舵角を示す。また、添字btはバウスラスタを示し、λbtはバウスラスタのプロペラ回転数を示す。なお、CPPの回転数は一定であるものとする。
【0017】
船体運動モデルを3自由度の線形項で表すと、次式になる。
【0018】
【数1】
ここで,太字はベクトルを表し、η(太字)=[x y ψ],μ(太字)=[u v r],τ(太字)=[θ λ δ],0(太字)は適当な次元をもつゼロ行列、x,yはそれぞれ北向き、東向きの位置であり、添字は転置行列を表し、
【0019】
【数2】
である。ここで、添字、添字、添字は、それぞれ、surge方向、sway方向、yaw周りを表わし、T,Kは船体パラメータでそれぞれ時定数とゲインであり、Kbtは推力ゲイン、lbtは船体の重心からバウスラスタまでの距離、mは船体重量、Jは船体の重心周りの慣性モーメントである。K,K,K,Kbtについては後に詳述する。
【0020】
Ω(太字) は添字で表される船体固定座標から添字で表される地球固定座標(添字E)に変換する行列であり、次式になる。
【0021】
【数3】
【0022】
(2.2 CPPモデルと舵力モデル)
CPPモデルと舵力モデルの特性を仮定する。図3は、ピッチ角θの時系列特性を示す図である。図4は、surge速度uに対する舵力特性を示す図である。
【0023】
CPPモデルの特性はCPPの回転数λとピッチ角θにより定められる。λは一定とする。surge速度uはピッチ角θに比例し、その比例定数をKとする。図3は、ピッチ角θとsurge速度uとの関係を示す。図3において、添字は後に詳述する参照信号を示し、surge速度の参照信号uはピッチ角の参照信号θに対して遅れ時間をもつものとする。舵力はuに比例する。
【0024】
図4は、surge速度uに対する舵力の旋回力ゲインK及び横流れゲインKの特性を示す。添字setは設定値を表す。図4に示すように、K,Kは、usetに対して定められる。また、u<0のとき舵力はほとんど生じないものとする。
【0025】
(2.3 バウスラスタモデル)
バウスラスタモデルについて説明する。
【0026】
バウスラスタモデルの推力はプロペラ回転数λbtに比例し、その比例定数をKbtとする。回転数の正方向はsway方向とする。
【0027】
(3 船舶用自動操舵装置)
(3.1 船舶用自動操舵装置の構成)
船舶用自動操舵装置の構成について説明する。図5は、船舶用自動操舵装置の構成を示すブロック図である。
【0028】
船舶用自動操舵装置1は、軌道追従方式によって、着桟開始時の船体の方位と位置を目標値の方位と位置に誘導移動させるものである。図5に示すように、船舶用自動操舵装置1は、参照信号生成部11、制御部12、非干渉化処理部13を備える。船舶用自動操舵装置1には複数の設定値を含む設定情報が入力される。
【0029】
参照信号生成部11は、設定情報に含まれる初期値と目標値とに基づいて、船体2を目標値へ誘導、移動する参照信号を生成する。ここで、初期値は、出発点における船体2の位置と方位とを示し、目標値は到達点における船体2の位置と方位とを示す。
【0030】
制御部12は、追従性能を向上させるフィードフォワード制御と、閉ループ安定性と外乱除去性を向上させるフィードバック制御とを実行する。非干渉化処理部13は、swayとyawの連成運動を非干渉化によって分離する。
【0031】
(3.2 船体モデル)
船体モデルについて説明する。
【0032】
船舶用自動操舵装置1により用いられる船体モデルを
【0033】
【数4】
とする。ここで、sはラプラス演算子、P(s)は伝達関数である。また、Θ(s),Δ(s),Δ(s)は制御量であり、特にΔ(s),Δ(s)は仮想したものである。また、P(s),P(s),P(s)は、次式になる。
【0034】
【数5】
ここで、船体パラメータは極低速対応のものであり、K’≠K,K’≠Kである。K’,K’については後に詳述する。
【0035】
(3.3 参照信号生成部)
参照信号生成部の構成と動作について説明する。
【0036】
(3.3.1 参照信号生成部の構成)
参照信号生成部の構成について説明する。図6は、参照信号生成部の構成を示すブロック図である。
【0037】
図6に示すように、参照信号生成部11は、生成管理部110、surge信号生成部111A、sway信号生成部111B、yaw信号生成部111Cを備える。図6において、設定位置、設定方位は軌道計画の条件であり、設定位置は出発点における船体2のsurge方向の船体位置xとsway方向の船体位置yとを含み、設定方位は出発点における船体2の船首方位ψである。
【0038】
開始時の値を目標値に移動させる場合、目標値との偏差がそのまま制御システムに入力されると無軌道状態で収束する。生成管理部110は、移動経路を計画し、移動経路に則った管理信号を、予め設定された順序でsurge信号生成部111A、sway信号生成部111B、yaw信号生成部111Cに与える。
【0039】
surge信号生成部111Aは、surge方向の参照位置の時系列信号である参照信号xを生成する。sway信号生成部111Bは、sway方向の参照位置の時系列信号である参照信号yを生成する。yaw信号生成部111Cは、参照方位の時系列信号である参照信号ψを生成する。
【0040】
(3.3.2 参照信号)
参照信号について説明する。図7は、参照信号のシーケンスを示す図である。
【0041】
図7には、参照信号生成部11によって生成された参照信号のシーケンスが示される。図7において、FF,FBは、それぞれフィードフォワード制御とフィードバック制御の動作状態である。参照信号xは、開始時から目標値に達するまで常時変動しており、参照信号xに追従するフィードフォワード制御のみがなされる第1区間と、参照信号xに追従する第1区間後にフィードフォワード制御とフィードバック制御とがなされる第2区間とを含む。参照信号y,ψは、それぞれ、互いに重複しないように第1区間中に目標値に向かって変動される。本実施形態においては、参照信号ψが変動された後に参照信号yが変動される。参照信号y,ψに対する追従は、フィードフォワード制御及びフィードバック制御によりなされる。このように、xに対するフィードバック制御は、参照信号y,ψに対する追従制御後になされる。
【0042】
参照信号の設定値は次式に示すように、その時点のx,y,ψに基づく。
【数6】
ここで、添字goal、添字setは、それぞれ、参照信号の目標値、設定値を示す。
【0043】
参照信号は次式になる。なお、次式の詳細は非特許文献4を参照されたい。
【0044】
【数7】
ここで、fは関数であり、移動や変針の設定値、推進駆動装置3の動作などの条件を設定情報により入力する。推進駆動装置3の条件が設定されることで、その飽和対策が可能になる。x、y、ψは、互いに同様の形となるが、一例として説明すると、参照方位ψ
【0045】
【数8】
になる。ここで、aは係数、tは時間である。
【0046】
(3.4 制御部)
制御部の動作について説明する。図8は、制御部による方位制御を示す図である。
【0047】
制御部12は、参照信号xに船体位置xを追従させる位置制御と、参照信号yに船体位置yを追従させる位置制御と、参照信号ψに船首方位ψを追従させる方位制御とを行う。上述したように、参照信号xが変動する間、参照信号yまたは参照信号ψのいずれか一方のみが変動するため、制御部12による船体2の制御は2自由度制御となる。
【0048】
図8に示すように、制御部12による3つの制御は、それぞれ、フィードフォワード制御とフィードバック制御とにより構成される。なお、図8には方位制御のみが一例として示されるが、船体位置x,yの位置制御も同様に構成される。
【0049】
方位制御を例として説明すると、フィードフォワード制御は、船首方位を参照方位に追従させるものであり、フィードバック制御は、制御対象との閉ループ系を構成して方位誤差ψをゼロに収束させ、外乱成分による誤差を低減させるものである。
【0050】
方位制御、2つの位置制御において、フィードフォワード制御、フィードバック制御は図7に示すように動作する。surge方向の位置制御と方位制御とによる2自由度制御がなされ、次いで、surge方向の位置制御とsway方向の位置制御とによる2自由度制御がなされる。2自由度制御がなされる際、surge方向の位置制御はフィードフォワード制御のみによってなされる。
【0051】
式(6)の制御量は図8から次式になる。
【0052】
【数9】
【0053】
(3.4.1 フィードフォワード制御)
フィードフォワード制御の制御量は、式(10)の微分値から次式になる。
【0054】
【数10】
ここで、後述の式(23)と式(27)からK’=S,K’=Sである。
【0055】
(3.4.2 フィードバック制御)
フィードバック制御の制御量について説明する。フィードバック制御における誤差量は、図8から地球座標で
【0056】
【数11】
になる。これらの誤差量を添字で表される船体座標の値に変換すると
【0057】
【数12】
になる。ここで、添字-1は逆行列を表す。
【0058】
制御量は上記の誤差量を用いると次式になる。なお、次式の詳細については非特許文献5を参照されたい。
【0059】
【数13】
ここで、C(s)はフィードバック制御器であり、
【0060】
【数14】
であり、ここでgは設定値、制御対象のパラメータなどを入力する関数である。
【0061】
フィードバック制御器は状態推定器と状態フィードバックからなり、船体パラメータの不確かさを考慮して、波浪成分、推進駆動装置3のバイアス成分などを含む外乱を除去する。
【0062】
(3.5 非干渉化処理部)
非干渉化処理部の構成について説明する。図9は、非干渉化処理部の構成を示す図である。
【0063】
式(6)により示される船体モデルにおいて、仮想制御量δ,δは、いずれも操舵に関する入力になるため、通常、同一になる。本実施形態においては、船舶用自動操舵装置1が仮想制御量をそのまま利用するために非干渉化処理部13が以下のように非干渉化を行う。
【0064】
swayとyawの連成運動に働く力とモーメントをバウスラスタの推力によって非干渉化する。式(4)から連成運動は
【0065】
【数15】
になる。ここで、Fはsway運動に作用する力、Mはyaw運動に作用するモーメントである。
【0066】
(3.5.1 仮想制御量δに関する非干渉化)
仮想制御量δについては、式(17)でモーメントがMr=0になるように非干渉化する。式(17)に
【0067】
【数16】
を代入すると、
【0068】
【数17】
になる。ここで、
【0069】
【数18】
である。
【0070】
(3.5.2 仮想制御量δに関する非干渉化)
仮想制御量δについては、式(17)で力がF=0になるように非干渉化する。式(17)に
【0071】
【数19】
を代入すると、
【0072】
【数20】
になる。ここで、
【0073】
【数21】
である。
【0074】
(3.5.3 非干渉化処理部の構成)
バウスラスタの推力によってsway方向の力とyaw周りのモーメントとを非干渉化すると、非干渉化処理部13は、図9に示すように構成される。非干渉化処理部13は、式(20)、(26)から
【0075】
【数22】
によってswayとyawとの連成運動を非干渉化し、制御量としてのプロペラ回転数λbt及び舵角δとを出力する。これによって、仮想制御量δ,δは船舶用自動操舵装置1において利用可能となる。
【0076】
(4 検証)
本実施形態に係る船舶用自動操舵装置をシミュレーションによって検証し、その有効性を確認する。ただし、図3に示した遅れ時間は簡単化のためゼロとする。
【0077】
(4.1 条件)
(4.1.1 着桟計画と参照信号設定値)
シミュレーションにおける着桟計画と参照信号設定値とについて説明する。図10は、シミュレーションにおける着桟計画のパラメータを示す図である。図11は、シミュレーションにおける参照信号設定値を示す図である。
【0078】
(4.1.2 参照信号)
シミュレーションにおける参照信号は以下の通りである。
【0079】
1.船体が前進開始後、方位がψ=0degに回転される。
2.方位は回転された後に保持され、sway方向位置がy=50mに移動される。
3.sway方向位置が移動された後に保持され、surge方向位置がx=600mに移動される。
【0080】
(4.1.3 船体パラメータ)
シミュレーションにおける船体パラメータは以下の通りである。
【0081】
船長:L=160.93m
海水密度:ρ=103.10kg・m-3
質量:m=m’×0.5ρ=1.7129・10kg,m’=798・10-5(添字’は無次元量を示す)
慣性モーメント:J=J’×0.5ρ=2.1791・1010kg・m,J’=39.2・10-5
バウスラスタ:Kbt=0.003kgf・rpm-1,lbt=75
=0.01kgf・rpm-1,T=60s,K=-0.05kgf・s-1,T=50s,K=0.005kgf・m・s-1,T=50s
=-9.6849・10rpm,C=5.7095・10rpm
=2.6963,S=1.5895,C=-10m,σ=0.058953m-1
【0082】
(4.1.4 外乱)
シミュレーションにおける外乱は、潮流成分とバイアス成分とからなり、潮流成分の大きさをU=0.2m・s-1、潮流成分の方向ψ=45degとし、yawバイアス成分をrbias=0.2deg・s-1とする。
【0083】
(4.1.5 制御パラメータ)
シミュレーションにおける船舶用自動操舵装置1における主な制御パラメータは、比例ゲインK=1、減衰係数ζ=0.7071である。
【0084】
(4.2 結果)
シミュレーションの結果について説明する。図12図13は、それぞれ、外乱なしの場合、外乱ありの場合のシミュレーションによる船体航跡を示す図である。図14図15は、それぞれ、外乱なしの場合、外乱ありの場合のシミュレーションによる船体運動を示す図である。図16、図、17は、それぞれ、外乱なしの場合、外乱ありの場合のシミュレーションによる誤差を示す図である。図18図19は、それぞれ、外乱なしの場合、外乱ありの場合のシミュレーションによる力と応答を示す図である。
【0085】
図12に示すように、外乱なしの場合、船体位置は着桟計画に沿う。図13に示すように、外乱ありの場合、船体位置は外乱なしの場合と比較して方位修正時の誤差がより大きくなる。
【0086】
図14に示すように、外乱なしの場合、船体運動は、方位修正時にv誤差が生じるが参照信号に追従する。図15に示すように、外乱ありの場合、船体運動は大きく過渡応答するが時間とともに静定する。
【0087】
図16に示すように、外乱なしの場合、xはフィードフォワード制御時に生じるが、フィードバック制御の働きによりゼロに収束する。図17に示すように、外乱ありの場合、外乱なしの場合と比較して誤差がより大きくなるが、外乱誤差修正の働きによりゼロに収束する。
【0088】
図18に示すように、外乱なしの場合、swayとyawの運動が非干渉化の効果により、互いに独立するように制御されるため、船舶用自動操舵装置1は、船体位置を目標値に誘導することができる。図19に示すように、外乱ありの場合、外乱の影響はあるが連成運動は非干渉化の効果により低減されるため、船舶用自動操舵装置1は、外乱がある場合であっても船体位置を目標値に誘導することができる。
【0089】
本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0090】
1 船舶用自動操舵装置
2 船体
3 推進駆動装置
4 センサ類
11 参照信号生成部
12 制御部
13 非干渉化処理部
図1
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