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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000679
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】保持装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20231226BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20231226BHJP
   H02N 13/00 20060101ALI20231226BHJP
   C04B 35/56 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H01L21/302 101G
H02N13/00 D
C04B35/56 260
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099517
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100167232
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 みな
(72)【発明者】
【氏名】飯田 悠太
(72)【発明者】
【氏名】茂木 淳
(72)【発明者】
【氏名】宮田 英次
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴道
【テーマコード(参考)】
5F004
5F131
【Fターム(参考)】
5F004BB22
5F004BB25
5F004BB26
5F004BB29
5F004CA04
5F131AA02
5F131BA03
5F131BA04
5F131CA02
5F131CA09
5F131CA33
5F131CA42
5F131EA03
5F131EB11
5F131EB12
5F131EB14
5F131EB15
5F131EB18
5F131EB78
5F131EB79
5F131EB81
5F131EB82
5F131EB84
(57)【要約】
【課題】保持装置において、高プラズマ環境下における過熱の問題や、板状部材とベース部との間の熱膨張係数の差に起因する問題を抑えつつ、ベース部の加工性の低下を抑える。
【解決手段】対象物を保持する保持装置は、板状に形成された板状部材と、板状部材に接合されて、超硬合金によって構成され、室温における飽和磁化の値が5×10-7Tm/kg以下であり、板状部材との-70℃から200℃における平均線熱膨張係数の差が1ppm/K以下であるベース部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を保持する保持装置であって、
板状に形成された板状部材と、
前記板状部材に接合されて、超硬合金によって構成され、室温における飽和磁化の値が5×10-7Tm/kg以下であり、前記板状部材との-70℃から200℃における平均線熱膨張係数の差が1ppm/K以下であるベース部と、
を備えることを特徴とする
保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載の保持装置であって、
前記板状部材の主成分はアルミナであることを特徴とする
保持装置。
【請求項3】
請求項1に記載の保持装置であって、
前記超硬合金は、
炭化タングステン(WC)を主成分とする硬質相と、
ニッケル(Ni)を主成分として含有し、該ニッケルの前記超硬合金における含有率が18~27質量%である結合相と、
を備えることを特徴とする
保持装置。
【請求項4】
請求項2に記載の保持装置であって、
前記ベース部の-70℃から200℃における平均線熱膨張係数が、4.61~6.61ppm/Kであることを特徴とする
保持装置。
【請求項5】
請求項1に記載の保持装置であって、
前記ベース部の50℃から200℃における平均熱伝導率が50W/mK以上であることを特徴とする
保持装置。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか一項に記載の保持装置であって、さらに、
金属材料により構成されて、前記板状部材と前記ベース部とを接続する接続部を備えることを特徴とする
保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エッチング装置やCVD装置やPVD装置等の半導体製造装置において、装置内でウェハを保持するために、静電チャック等の保持装置が用いられてきた。保持装置は、一般に、静電引力を発生して半導体ウェハを吸着保持する板状部材と、板状部材に接合されるベース部と、を備える。このような保持装置を高出力プラズマ環境下で使用する場合には、保持装置の温度が大きく上昇し得るため、過熱の問題を抑えるためには、保持装置における抜熱性を高める必要がある。そのため、保持装置を構成するベース部としては、例えば、熱伝導率が比較的高い材料であるアルミニウム製のベース部等が選択されていた。しかしながら、アルミニウムは、熱膨張係数が比較的大きく、アルミナ等により形成される板状部材との間の熱伝導率差が大きくなるという問題が生じる。このような問題を解決するために、板状部材との間の熱伝導率差を小さくするためのベース部の構成材料として、例えば、炭化珪素(SiC)や珪化チタン(TiS)等を含有するセラミック複合材料を用いる構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6182082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、セラミック材料は一般に脆性材料であり、特に上記のセラミック複合材料は、難加工性の炭化珪素(SiC)を含むため、所望の寸法形状への加工が困難となる可能性がある。具体的には、例えば、保持装置の大型化の要求を満たすことが困難になり得る。そのため、高プラズマ環境下における過熱の問題や、板状部材とベース部との間の熱膨張係数の差に起因する問題を抑えつつ、ベース部の加工性の低下を抑える技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、対象物を保持する保持装置が提供される。この保持装置は、板状に形成された板状部材と、前記板状部材に接合されて、超硬合金によって構成され、室温における飽和磁化の値が5×10-7Tm/kg以下であり、前記板状部材との-70℃から200℃における平均線熱膨張係数の差が1ppm/K以下であるベース部と、を備える。
この形態の保持装置によれば、飽和磁化の値を抑えることによって比較的高出力のプラズマ照射下であってもベース部の発熱を抑える効果と、ベース部と板状部材との間の熱膨張率差を抑えることによってベース部と板状部材との間に生じる応力を抑える効果と、ベース部における加工性の確保と、を実現し、保持装置の性能を高めることができる。
(2)上記形態の保持装置において、前記板状部材の主成分はアルミナであることとしてもよい。このような構成とすれば、アルミナは比較的体積抵抗率が高いため、例えば高出力プラズマ環境下であっても保持装置の安定した性能を維持することができる。
(3)上記形態の保持装置において、前記超硬合金は、炭化タングステン(WC)を主成分とする硬質相と、ニッケル(Ni)を主成分として含有し、該ニッケルの前記超硬合金における含有率が18~27質量%である結合相と、を備えることとしてもよい。このよ
うな構成とすれば、ニッケルの含有率が低いことに起因するベース部の加工性の低下や、ニッケルの含有率が高いことに起因するベース部の熱伝導率の低下を抑えることができる。
(4)上記形態の保持装置において、前記ベース部の-70℃から200℃における平均線熱膨張係数が、4.61~6.61ppm/Kであることとしてもよい。このような構成とすれば、板状部材の主成分をアルミナとするときに、ベース部において、板状部材との-70℃から200℃における平均線熱膨張係数の差を1ppm/K以下にすることが容易になる。
(5)上記形態の保持装置において、前記ベース部の50℃から200℃における平均熱伝導率が50W/mK以上であることとしてもよい。このような構成とすれば、50℃から200℃という比較的高く広い温度範囲で保持装置を使用する場合であっても、ベース部を介した板状部材からの抜熱性を確保することが容易になる。
(6)上記形態の保持装置において、さらに、金属材料により構成されて、前記板状部材と前記ベース部とを接続する接続部を備えることとしてもよい。このような構成とすれば、接続部の熱伝導性を高めて、保持装置において板状部材からの抜熱性を向上させることができる。また、接続部の耐熱性を高めて、より高い温度条件下で保持装置を使用することが可能になる。
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、保持装置を含む半導体製造装置や、保持装置の製造方法などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態の静電チャックの外観の概略を表す斜視図。
図2】静電チャックの構成を模式的に表す断面図。
図3】各サンプルの組成と製造条件と評価結果とをまとめて示す説明図。
図4】サンプルS1焼成温度の推移の様子を表す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
A.静電チャックの全体構成:
図1は、本開示の実施形態としての静電チャック10の外観の概略を表す斜視図である。図2は、静電チャック10の構成を模式的に表す断面図である。図1では、静電チャック10の一部を破断して示している。また、図1および図2には、方向を特定するために、互いに直交するXYZ軸を示している。各図に示されるX軸、Y軸、Z軸は、それぞれ同じ向きを表す。本願明細書においては、Z軸は鉛直方向を示し、X軸およびY軸は水平方向を示している。なお、上記各図は、各部の配置を模式的に表しており、各部の寸法の比率を正確に表すものではない。
【0008】
静電チャック10は、対象物を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば半導体製造装置の真空チャンバ内で、対象物であるウェハWを固定するために使用される。静電チャック10は、セラミック部20と、ベース部30と、接続部40と、を備える。これらは、-Z軸方向(鉛直下方)に向かって、セラミック部20、接続部40、ベース部30の順に積層されている。本実施形態における静電チャック10を、「保持装置」とも呼ぶ。
【0009】
セラミック部20は、略円形の「板状部材」であり、セラミックを主成分として形成されている。本願明細書において、特定成分が「主成分である」とは、当該特定成分の含有率が50質量%以上であることを意味する。セラミック部20の主成分であるセラミックは、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ:Al)や窒化アルミニウム(AlN)等とすることができる。特に、酸化アルミニウムは、比較的体積抵抗率が高いため、高出力プラズマ環境下でも静電チャック10の安定した性能を維持できるため望ましい。
【0010】
例えば、セラミック部20の体積抵抗率がある程度低いと、J-R(ジョンセン・ラーベック)力型静電チャックしか得られないことになる。この場合には、セラミック部20の誘電体層とウェハWとの間に微小電流を流すためにウェハWが損傷を受ける可能性があり、また、セラミック部20の内部電極(後述する吸着電極22)に印加する電圧をオフにしてもデチャックが難しい(デチャックに時間を要する)という問題が生じ得る。これに対して、上記主成分をアルミナとしてセラミック部20の体積抵抗率を比較的高くすると、クーロン力型静電チャックとすることができる。この場合には、ウェハWの歩留まりが向上し、デチャックが速いために生産効率を高めることができる。
【0011】
図2に示すように、セラミック部20の内部には、吸着電極22が配置されている。吸着電極22は、例えば、タングステンやモリブデンなどの導電性材料により形成されている。吸着電極22に対して図示しない電源から電圧が印加されると、静電引力が発生し、この静電引力によってウェハWがセラミック部20の載置面24に吸着固定される。吸着電極22は、双極型であってもよく、単極型であってもよい。また、セラミック部20の内部には、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成された抵抗発熱体で構成されて、載置面24に吸着固定されたウェハWを加熱するための、図示しないヒータ電極をさらに設けてもよい。
【0012】
ベース部30は、超硬合金によって構成されて、略円形に形成された板状部材である。ベース部30の内部には、複数の冷媒流路32がXY平面に沿うように形成されている。冷媒流路32に、例えばフッ素系不活性液体や水や液体窒素等の冷媒を流すことにより、ベース部30が冷却される。そして、接続部40を介したベース部30とセラミック部20との間の伝熱によりセラミック部20が冷却され、セラミック部20の載置面24に保持されたウェハWが冷却される。これにより、ウェハWの温度制御が実現される。ただし、ベース部30の内部に冷媒流路32を有する形態の他、ベース部30の外部からベース部30を冷却することにより、ベース部30に冷却機能を持たせる構成も可能である。ベース部30の構成材料等については、後に詳しく説明する。
【0013】
接続部40は、セラミック部20とベース部30との間に配置されて、セラミック部20とベース部30とを接合する。接続部40は、金属材料により構成することが望ましい。接続部40を構成する金属材料としては、例えば、金属ろう、あるいは、はんだを用いることができる。金属ろうとしては、例えば銀ろうやアルミニウムろう等を用いることもできるが、セラミックは一般的な溶融ろうに対する濡れ性が比較的不十分であるため、この場合にはセラミック部20の表面をメタライジングした後にろう付けする必要がある。接続部40を構成する金属材料として、活性金属を添加した活性金属ろうを用いることで、セラミック部20に対して直接ろう付けを行うことが容易になる。活性金属ろうとしては、例えば、Cu-Ag系、Cu-Au系、Cu-Ni系、Au-Ni系等の金属ろうに、チタン(Ti)やジルコニウム(Zr)等の活性金属を添加したものを用いることができる。例えば、セラミック部20を酸化アルミニウムにより構成する際に、AgCuTi系の活性金属ろうを用いて、850℃で30分間、真空(1.0×10-4Torr)にてセラミック部20とベース部30とを接合することで、良好な接合性を示す接続部40を形成することができる。
【0014】
接続部40を、上記のように金属材料により構成することで、例えば樹脂材料から成る接着剤により接続部40を構成する場合に比べて、熱伝導性に優れた接続部40とすることができ、静電チャック10においてセラミック部20からの抜熱性を向上させることができる。また、樹脂材料により接続部40を構成する場合に比べて、接続部40の耐熱性を高めることができるため、より高い温度条件下で静電チャック10を使用することが可能になる。ただし、接続部40に起因するセラミック部20からの抜熱性の低下や、接続部40の耐熱性が許容範囲であれば、接続部40を、シリコーン接着剤などの樹脂材料に
より構成してもよい。接続部40を樹脂材料により構成する場合には、接続部40は、さらに、セラミック粉末等の無機フィラーを含んでいてもよい。
【0015】
静電チャック10には、さらに、複数のガス供給路50が形成されている。ガス供給路50は、セラミック部20、接続部40、およびベース部30をZ方向に貫通して設けられており、載置面24に形成されたガス吐出口52において開口している。ガス供給路50は、図示しないガス供給装置から、例えばヘリウムガス等の不活性ガスを供給されて、載置面24とウェハWとの間の空間に対して、ガス吐出口52から不活性ガスを供給する。これにより、セラミック部20とウェハWとの間の伝熱性を高めて、ウェハWの温度分布の制御性がさらに高められる。なお、ガス供給路50は必須ではなく、静電チャック10にガス供給路50を設けないこととしてもよい。
【0016】
B.ベース部の構成:
ベース部30は、非磁性材料である超硬合金により構成されている。具体的には、ベース部30の室温における飽和磁化の値が5×10-7Tm/kg以下となっている。上記のように非磁性材料によりベース部30を構成することで、静電チャック10を高出力プラズマ環境下で使用する場合であっても、プラズマ照射に伴う高周波誘導による発熱を抑えることができる。飽和磁化の値は一般に温度が低いほど大きくなるが、室温における飽和磁化の値が5×10-7Tm/kg以下の超硬合金であれば、通常は、例えば-70℃以上の温度範囲において、飽和磁化の値が十分に小さい非磁性材料となる。
【0017】
また、本実施形態では、ベース部30とセラミック部20との間の-70℃から200℃における平均線熱膨張係数の差が、1ppm/K以下となっている。このような平均線熱膨張係数の差の値は、ベース部30の構成材料として、従来広く用いられてきたアルミニウム等の金属材料を用いる場合には達成できない値である。このようにベース部30とセラミック部20との間の平均線熱膨張係数の差を小さくすることで、-70℃から200℃という広い温度範囲で静電チャック10を使用する際に、ベース部30とセラミック部20との間の熱膨張の程度の差に起因して、ベース部30とセラミック部20との間に望ましくない程度の応力が発生することを抑えている。例えば、酸化アルミニウム(Al)によってセラミック部20を構成する場合には、酸化アルミニウムの-70℃~200℃における平均線熱膨張係数は5.61であるため、ベース部30の-70℃~200℃における平均線熱膨張係数は、4.61~6.61とすればよい。
【0018】
また、ベース部30の50℃から200℃における平均熱伝導率は、50W/mK以上であることが望ましい。このようなベース部30を備えることで、50℃から200℃という比較的高く広い温度範囲で静電チャック10を使用する場合であっても、セラミック部20からの抜熱性を確保することが容易になる。なお、静電チャック10の使用温度が50℃未満の場合には、使用温度(静電チャック10の環境温度)と静電チャック10の温度との差が大きくなることによりセラミック部20からの抜熱性が高まる。そのため、ベース部30の50℃から200℃における平均熱伝導率を50W/mK以上とすることで、例えば-70℃から200℃という広い温度範囲で静電チャック10を使用する際に、静電チャック10における抜熱性を確保することが容易になる。
【0019】
このようなベース部30を構成する超硬合金としては、例えば、炭化タングステン(WC)を主成分とする硬質相と、ニッケル(Ni)を主成分とする結合層と、を備えるWC-Ni系超硬合金を挙げることができる。炭化タングステンを主成分とする硬質相を備える超硬合金は、合金炭素量を低下させることにより、飽和磁化の値を低下させることができる。ここで、合金炭素量とは、WCを主成分とする硬質相における炭素の含有率(質量%)を指す。合金炭素量を低下させることにより、結合相におけるタングステン(W)の固溶量が増加して、超硬合金の飽和磁化が小さくなる。合金炭素量を調整することなく、
炭化タングステンによって構成される硬質相とニッケルによって構成される結合層とを備える超硬合金を作製すると、合金炭素量は約6.13%程度となり、通常は、合金炭素量を5.90~5.95質量%以下とすることで、WC-Ni系超硬合金を非磁性化することができる。そのため、ベース部30を、合金炭素量を調整したWC-Ni系超硬合金を用いて構成することにより、ベース部30の室温における飽和磁化の値を5×10-7Tm/kg以下にすることが容易になる。
【0020】
なお、ベース部30を構成するWC-Ni系超硬合金は、さらに、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)等の元素を含有していてもよい。これらの元素は、例えば、ニッケルを主成分とする結合層中に固溶することができる。また、これらの元素中に、炭化タングステンが固溶していてもよい。
【0021】
ベース部30を構成する超硬合金としてWC-Ni系超硬合金を用いる場合には、WC-Ni系超硬合金は、さらに、炭化クロム(Cr)を含むことが望ましい。WC-Ni系超硬合金に炭化クロムを加えることにより、炭化クロムの一部がニッケルを主成分とする結合層に固溶して、WC-Ni系超硬合金における磁性の発現を抑制することができる。また、WC-Ni系超硬合金に炭化クロムを加えることにより、WC-Ni系超硬合金の焼結を容易化して、例えば焼成温度をより低くすることが可能になる。焼成温度が高いほど超硬合金が劣化し易くなるため、炭化クロムの添加によりWC-Ni系超硬合金の劣化を抑制することができる。
【0022】
また、ニッケルを主成分とする結合相を有するWC-Ni系超硬合金によって構成されるベース部30において、WC-Ni系超硬合金におけるニッケルの含有率は、18~27質量%とすることが望ましい。ニッケルの含有率が低いほどベース部30の硬度が上昇する傾向があるため、ニッケルの含有率が18質量%未満であると、ベース部30の加工性が低下し易くなるためである。また、ニッケルの含有率が27質量%を超えると、ベース部30の熱伝導率が低下し易くなるためである。
【0023】
ベース部30は、WC-Ni系超硬合金以外の超硬合金によって構成することとしてもよい。ベース部30を構成する超硬合金は、ベース部30の熱伝導率を確保する観点から、熱伝導性に優れる炭化タングステン(WC)を主成分とする硬質相を備える超硬合金であることが望ましい。そして、超硬合金を非磁性化するために、ニッケル(Ni)に代えて、珪素(Si)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)から選択される金属を含む結合相(金属相)を備える超硬合金とすることができる。あるいは、結合相(金属相)は、ニッケル(Ni)、珪素(Si)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)から選択される2以上の金属の合金を含むこととしてもよい。すなわち、ベース部30を構成する超硬合金は、例えば、炭化タングステン(WC)を主成分とする硬質相と、ニッケル(Ni)、珪素(Si)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)から選択される金属、または2種以上の金属の合金を結合相とする超硬合金とすることができる。
【0024】
以上のように構成された本実施形態の静電チャック10によれば、比較的高出力のプラズマ照射下であってもベース部30の発熱を抑える効果と、ベース部30とセラミック部20との間の熱膨張率差を抑える効果と、ベース部30における加工性の確保と、を実現し、静電チャック10の性能を高めることができる。具体的には、ベース部30が、室温における飽和磁化の値が5×10-7Tm/kg以下である材料により構成される、すなわち、非磁性材料により構成されるため、半導体製造装置からの高周波誘導に対して発熱が起こることを抑えることができる。また、ベース部30において、-70℃から20
0℃におけるセラミック部20との間の平均線熱膨張係数の差が1ppm/K以下であるため、-70℃から200℃の温度範囲で静電チャック10を使用する際に、ベース部30とセラミック部20との間の熱膨張の程度の差に起因して両者の間に生じる応力を抑えることができる。また、ベース部30が、セラミックである炭化タングステンを主成分とする硬質相と、金属であるニッケルを主成分とする結合層と、を備える超硬合金によって構成されるため、ベース部30の構成材料として、例えばセラミック材料を用いる場合に比べて、ベース部30の加工性を高めることができる。
【0025】
ここで、超硬合金は一般に導電性を有する材料であるため、例えば放電加工を適用することが可能になり、ベース部30の加工性をさらに高めることができる。そして、上記のようにベース部30の加工性を高めることにより、ベース部30における冷媒流路32(図1図2参照)の形成の自由度が高まり、冷媒流路32の形状によって、静電チャック10における抜熱性能をさらに高めることが可能になる。
【0026】
セラミック部20との平均線熱膨張係数の差を抑えると共に、加工性を担保可能な材料としては、超硬合金の他に、例えば、金属とセラミックとの複合材料であるサーメットが知られている。しかしながらサーメットは、一般に熱伝導率が不十分である。本実施形態のように超硬合金によってベース部30を構成することで、ベース部30の熱伝導率をより大きくして、さらに、静電チャック10の抜熱性能を高める効果を得ることができる。
【0027】
また、本実施形態では、上記したように、ベース部30においてセラミック部20との平均線熱膨張係数の差を1ppm/K以下に抑えているため、接続部40において、ベース部30とセラミック部20との間の熱膨張差を吸収する必要が抑えられる。そのため、接続部40を、樹脂製接着剤に比べて柔軟性が低い金属材料により構成することが可能になる。その結果、静電チャック10を、より高い温度条件下で使用することが可能になると共に、静電チャック10における抜熱性をさらに高めることができる。
【0028】
C.他の実施形態:
本開示は、静電引力を利用してウェハWを保持する静電チャック以外の保持装置に適用してもよい。すなわち、板状部材と、ベース部と、板状部材とベース部とを接合する接続部と、を備え、板状部材の表面上に対象物を保持する他の保持装置、例えば、CVD、PVD、PLD等の真空装置用ヒータ装置や、真空チャック等にも同様に適用可能である。
【0029】
また、上記した実施形態では、載置面を有する板状部は、セラミックを主成分とするセラミック部20としたが、板状部は、セラミック以外の材料を主成分とすることとしてもよい。このような構成としても、実施形態で例示した本開示の構成を適用することにより、保持装置における過熱の問題や、板状部材とベース部との間の熱膨張係数差に起因する問題を抑えつつ、ベース部の加工性を確保する同様の効果が得られる。
【実施例0030】
図3は、サンプルS1~サンプルS16までの16種類のWC-Ni系超硬合金を作製し、それらの各サンプルの組成と、製造条件と、得られた超硬合金の評価結果とを、まとめて示す説明図である。各サンプルは、組成(用いた材料の混合割合)や、製造条件が、それぞれ異なっている。図3において、「4πσ」は、室温における飽和磁化を示し、「TC」は、-70℃から200℃における平均熱伝導率を示す。
【0031】
<各サンプルの作製>
[サンプルS1]
原料粉末として、平均粒径0.5μmの炭化タングステン(WC)粉末、平均粒径2.5μmのニッケル(Ni)粉末、平均粒径1.0μmの炭化クロム(Cr)粉末、
および、平均粒径1.0μmのタングステン(W)粉末を用いた。これらの原料粉末を、図3においてサンプルS1の組成として示す組成となるように調合した。上記のようにして調合した原料粉末は、以下の条件でボールミルを用いて粉砕混合した。すなわち、樹脂製ポット、および、WC-Ni系超硬合金製の球石を用い、粉砕時間40時間にて、溶媒としてエタノールを加えて湿式で粉砕混合を行った。得られた混合スラリは振動乾燥機にて乾燥し、乾燥混合粉を得た。
【0032】
得られた乾燥混合粉を用いて、以下の条件で無加圧焼成(常圧焼成)を行って、サンプルS1の超硬合金を得た。すなわち、カーボン製の型およびアルミナ(Al)製の敷板を用いて、図3に示す焼成温度にて、1気圧の窒素ガス(N)中で、無加圧焼成を行った。なお、焼成の雰囲気は、窒素ガスの他、アルゴンガス(Ar)を用いてもよく、真空雰囲気下としてもよい。
【0033】
図4は、サンプルS1の焼成時に設定した焼成プログラムに基づく温度の推移の様子を表す説明図である。焼成プログラムに基づく焼成工程の最高温度を、焼成温度として図3に示している。一般に、WC-Ni系超硬合金は、1500℃程度で焼成できると考えられることから、1500℃以下の種々の温度で予め各サンプルについて焼成を行い、焼成後にアルキメデス法にて密度を測定し、密度の低下が見られない最小温度を焼成温度として設定した。図3および図4に示すように、サンプルS1の焼成温度は1380℃に設定した。
【0034】
図3では、各サンプルの組成は、原料粉末の混合割合に基づく値として記載している。得られた超硬合金を構成する各成分の含有率は、波長分散型の蛍光X線分析(WDX)により求めることができる。具体的には、得られた超硬合金を、直径45mm、高さ20mmの円柱形状に加工して、直径30mm、深さ0.1mmの領域をWDXにより測定することができる。図3に示すサンプルにおいて、原料粉末は揮発成分を実質的に含まないため、図3に示す組成は、得られた超硬合金における組成を示している。
【0035】
[サンプルS2~S16]
原料粉末を調合する際に、各々のサンプルごとに図3に示した組成になるように調合したこと、および、図3に示す焼成温度にて焼成を行ったこと以外は、サンプルS1と同様にして超硬合金を作製した。ただし、サンプルS10、サンプルS15、およびサンプルS16は、原料粉末として炭化クロム(Cr)粉末を用いていない。また、サンプルS11およびサンプルS12は、原料粉末のうちの炭化タングステン(WC)粉末として、平均粒径2.0μmの粉末を用いた。
【0036】
<飽和磁化の測定>
室温における飽和磁化測定には、磁気飽和誘導測定装置(型式:MSM-1025S、電子磁気工業株式会社製)を使用した。各サンプルは、縦横の長さ10mm、高さ5mmの直方体形状に加工して測定を行い、測定値は、純度99.9%の酸化アルミニウム(Al)をリファレンスとして値を補正した。
【0037】
<線熱膨張係数の測定>
各サンプルを、直径5mm、高さ20mmの円柱形状に加工し、熱機械分析(Thermomechanical Analysis:TMA)により、-70~200℃の温度範囲で、窒素雰囲気下において、圧縮法にて平均線熱膨張係数を求めた。図3では、サンプルS1~サンプルS16に加えて、酸化アルミニウム(アルミナ)について同様に測定した平均線熱膨張係数の値を示している。また、図3ではさらに、各サンプルについて、酸化アルミニウムとの間の、-70℃から200℃における平均線熱膨張係数の差を算出した値(図3では、「線熱膨張係数差(-70℃~200℃)」として記載)を示している。
【0038】
<平均熱伝導率の測定>
各サンプルを、直径10mm、厚さ2mmの円盤形状に加工し、50℃~200℃の温度範囲で、レーザフラッシュ法により平均熱伝導率を測定した。
【0039】
<合金炭素量>
合金炭素量は、炭化タングステン(WC)を主成分とする硬質相における炭素の含有率(mol%)を指す。合金炭素量は、以下の(1)式により求められる。具体的には、(1)式の「含有する炭素の物質量(mol)」は、「各サンプルの製造に用いた原料粉末に含まれる炭素量(mol)の合計」といえる。また、「含有する炭化物の物質量(mol)
」は、「各サンプルの製造に用いた炭化タングステン(WC)量(mol)と、炭化クロム(Cr)量(mol)と、タングステン(W)量(mol)と、の合計」といえる。なお、原料粉末が炭化クロム粉末を含む場合には、炭化クロムの一部はニッケルを主成分とする結合層中に固溶するが、このような固溶量は、最大15atm%といわれている。そのため、原料粉末として添加した炭化クロム量全体を100%としたときに、最大固溶量の残部である85atm%が、WCを主成分とする硬質相に存在するものと仮定して、上記した合金炭素量を算出した。
合金炭素量(mol%)=[含有する炭素の物質量(mol)/含有する炭化物の物質量(mol)]×100 … (1)
【0040】
<硬度>
各サンプルの硬度として、ロックウェル硬度(HRA)を測定した。ロックウェル硬度は、JIS Z 2245(2021)に準拠して測定した。
【0041】
<評価結果>
図3に示すように、合金炭素量を5.85%としたすべてのサンプルにおいて、室温における飽和磁化の値が5×10-7Tm/kg以下となった。これに対して、合金炭素量が6.05%であるサンプルS14では、飽和磁化は19.02×10-7Tm/kgであり、より大きな値となった。このように、ベース部を非磁性化して飽和磁化の値を5×10-7Tm/kg以下とするには、合金炭素量を抑えることが重要であることが確認された。
【0042】
図3に示すように、いずれのサンプルにおいても、-70℃から200℃における平均線熱膨張係数は4.61~6.61ppm/Kの範囲であった。すなわち、各サンプルによりベース部を構成して、酸化アルミニウム製の板状部材と組み合わせて保持装置を構成すると、板状部材との-70℃から200℃における平均線熱膨張係数の差が1ppm/K以下になる結果であった。このとき、図3に示すように、ニッケル(Ni)の含有率が高いほど、平均線熱膨張係数が大きくなる傾向が認められた(例えば、サンプルS1~S7の対比)。このように、ベース部を構成するWC-Ni系超硬合金におけるニッケルの含有率を調節することにより、ベース部の平均線熱膨張係数を、板状部材の平均線熱膨張係数に近づけることができることが確認された。
【0043】
さらに、図3に示すように、ニッケル(Ni)の含有率が低いほど(WCの含有率が高いほど)、硬度が上昇する傾向が認められ、例えばニッケルの含有率が15.6質量%であるサンプルS16は、硬度(HRA)が90以上であった。一般に、硬度が高いほど、例えば加工に用いるダイヤモンド砥石の摩耗が大きくなる等の不都合が生じやすく、その結果、砥石の摩耗抑制のために加工効率を抑える必要が生じ、生産性が低下する。図3に示す結果から、ニッケルの含有率を調節して硬度を抑えることにより、生産性の低下を抑制できることが確認された。
【0044】
図3に示すように、いずれのサンプルにおいても、50℃から200℃における平均熱伝導率は50W/mK以上であった。このとき、上記平均熱伝導率は、Ni/WCの含有比によらず、炭化クロムの添加量に応じて変化し、クロムの含有率が高いほど平均熱伝導率が低下する傾向が認められた。また、クロムの含有率が高いほど、焼成温度が低下する傾向が認められた(サンプルS1~S10の比較)。さらに、原料粉末である炭化タングステン(WC)粉末の粒径が大きいほど、50℃から200℃における平均熱伝導率が高くなる傾向が認められた(サンプルS7とサンプルS11との対比、および、サンプルS4とサンプルS12の対比)。
【0045】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0046】
本開示は、以下の形態としても実現することが可能である。
[適用例1]
対象物を保持する保持装置であって、
板状に形成された板状部材と、
前記板状部材に接合されて、超硬合金によって構成され、室温における飽和磁化の値が5×10-7Tm/kg以下であり、前記板状部材との-70℃から200℃における平均線熱膨張係数の差が1ppm/K以下であるベース部と、
を備えることを特徴とする
保持装置。
[適用例2]
適用例1に記載の保持装置であって、
前記板状部材の主成分はアルミナであることを特徴とする
保持装置。
[適用例3]
適用例1または2に記載の保持装置であって、
前記超硬合金は、
炭化タングステン(WC)を主成分とする硬質相と、
ニッケル(Ni)を主成分として含有し、該ニッケルの前記超硬合金における含有率が18~27質量%である結合相と、
を備えることを特徴とする
保持装置。
[適用例4]
適用例1から3までのいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記ベース部の-70℃から200℃における平均線熱膨張係数が、4.61~6.61ppm/Kであることを特徴とする
保持装置。
[適用例5]
適用例1から4までのいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記ベース部の50℃から200℃における平均熱伝導率が50W/mK以上であることを特徴とする
保持装置。
[適用例6]
適用例1から5までのいずれか一項に記載の保持装置であって、さらに、
金属材料により構成されて、前記板状部材と前記ベース部とを接続する接続部を備える
ことを特徴とする
保持装置。
【符号の説明】
【0047】
10…静電チャック
20…セラミック部
22…吸着電極
24…載置面
30…ベース部
32…冷媒流路
40…接続部
50…ガス供給路
52…ガス吐出口
図1
図2
図3
図4