(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067912
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法および空気調和機
(51)【国際特許分類】
H02P 27/06 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
H02P27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178328
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】小宮 真一
(72)【発明者】
【氏名】相場 謙一
(72)【発明者】
【氏名】清水 健志
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA06
5H505BB05
5H505CC05
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505GG02
5H505GG04
5H505HA07
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ17
5H505JJ22
5H505JJ24
5H505JJ26
5H505LL14
5H505LL22
(57)【要約】
【課題】モータの回転位置と速度を精度よく推定する。
【解決手段】制御装置は、マグネットトルクとリラクタンストルクを用いて回転するモータを交流駆動するインバータを制御する制御装置であって、モータに流れるd軸電流値およびq軸電流値とモータの極対数とに基づき、モータのロータの機械角速度と位置とを推定する際に、d軸電流値およびq軸電流値または推定したロータの角速度から、機械角速度に極対数を乗じた値の6次および12次を少なくとも含む6n次(nは1および2と、0個以上の3以上の自然数を含む)の高調波成分を除去して、機械角速度と位置とを推定し、推定した機械角速度と位置とを利用してインバータを制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネットトルクとリラクタンストルクを用いて回転するモータを交流駆動するインバータを制御する制御装置であって、
前記モータに流れるd軸電流値およびq軸電流値と前記モータの極対数とに基づき、前記モータのロータの機械角速度と位置とを推定する際に、
前記d軸電流値および前記q軸電流値または推定した前記ロータの角速度から、前記機械角速度に前記極対数を乗じた値の6次および12次を少なくとも含む6n次(nは1および2と、0個以上の3以上の自然数を含む)の高調波成分を除去して、前記機械角速度と前記位置とを推定し、
推定した前記機械角速度と前記位置とを利用して前記インバータを制御する
制御装置。
【請求項2】
前記d軸電流値および前記q軸電流値は、前記インバータの入力側の直流電流の検知結果に基づき算出されたものであり、
前記d軸電流値および前記q軸電流値から、前記機械角速度に前記極対数を乗じた値の3m次(mは1と、0個以上の2以上の自然数を含む)の高調波成分をさらに除去する
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
マグネットトルクとリラクタンストルクを用いて回転するモータを交流駆動するインバータを制御する制御方法であって、
前記モータに流れるd軸電流値およびq軸電流値と前記モータの極対数とに基づき、前記モータのロータの機械角速度と位置とを推定する際に、前記d軸電流値および前記q軸電流値または推定した前記ロータの角速度から、前記機械角速度に前記極対数を乗じた値の6次および12次を少なくとも含む6n次(nは1および2と、0個以上の3以上の自然数を含む)の高調波成分を除去して、前記機械角速度と前記位置とを推定し、
推定した前記機械角速度と前記位置とを利用して前記インバータを制御する
制御方法。
【請求項4】
圧縮機と、
マグネットトルクとリラクタンストルクを用いて前記圧縮機を回転駆動するモータと、
前記モータを交流駆動するインバータと、
前記インバータを制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記モータに流れるd軸電流値およびq軸電流値と前記モータの極対数とに基づき、前記モータのロータの機械角速度と位置とを推定する際に、
前記d軸電流値および前記q軸電流値または推定した前記ロータの角速度から、前記機械角速度に前記極対数を乗じた値の6次および12次を少なくとも含む6n次(nは1および2と、0個以上の3以上の自然数を含む)の高調波成分を除去して、前記機械角速度と前記位置とを推定し、
推定した前記機械角速度と前記位置とを利用して前記インバータを制御する
空気調和機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御装置、制御方法および空気調和機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1および特許文献2には、モータに流れる電流値に基づいて推定したモータの速度と回転位置(回転角度)を利用してモータを制御する制御装置が記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、マグネットトルクとリラクタンストルクを用いて回転する埋込磁石型同期型モータ(IPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor))で発生する高調波成分について次の記載がある。すなわち、特許文献2には、「空間高調波を含む回転子磁束は波形の点対称性により偶数次の高調波が励起されない。また、三相結線において3n次の高調波成分が存在しないことから、回転子磁束が持つ高調波成分は6nプラスマイナス1次成分となる。実験的にモータ(IPMSM)6は6プラスマイナス1次、12プラスマイナス1次の高調波成分を主成分として持つことが知られており、dq軸に座標変換すると、6プラスマイナス1次は6次に、12プラスマイナス1次は12次となる。」との記載がある(特許文献2の段落0046)。
【0004】
また、特許文献3には、リラクタンストルクリプルの高調波成分について次の記載がある。すなわち、特許文献3には、「当業者は周知のように、リラクタンストルクを発生する同期電動機においては、空間依存リラクタンストルクリプルの主成分は6次、12次成分である。」との記載がある(特許文献3の段落0041)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-245506号公報
【特許文献2】特開2021-136806号公報
【特許文献3】特開2021-121163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および特許文献2に記載されている制御装置においては、モータの速度と回転位置を推定する際に、モータにおいて発生する上述したような高調波成分の影響を受ける場合があることから、モータの速度と回転位置の推定精度のさらなる向上が望まれる場合があるという課題があった。
【0007】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、モータの回転位置と速度を精度よく推定することができる制御装置、制御方法および空気調和機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示に係る制御装置は、マグネットトルクとリラクタンストルクを用いて回転するモータを交流駆動するインバータを制御する制御装置であって、前記モータに流れるd軸電流値およびq軸電流値と前記モータの極対数とに基づき、前記モータのロータの機械角速度と位置とを推定する際に、前記d軸電流値および前記q軸電流値または推定した前記ロータの角速度から、前記機械角速度に前記極対数を乗じた値の6次および12次を少なくとも含む6n次(nは1および2と、0個以上の3以上の自然数を含む)の高調波成分を除去して、前記機械角速度と前記位置とを推定し、推定した前記機械角速度と前記位置とを利用して前記インバータを制御する。
【0009】
本開示に係る制御方法は、マグネットトルクとリラクタンストルクを用いて回転するモータを交流駆動するインバータを制御する制御方法であって、前記モータに流れるd軸電流値およびq軸電流値と前記モータの極対数とに基づき、前記モータのロータの機械角速度と位置とを推定する際に、前記d軸電流値および前記q軸電流値または推定した前記ロータの角速度から、前記機械角速度に前記極対数を乗じた値の6次および12次を少なくとも含む6n次(nは1および2と、0個以上の3以上の自然数を含む)の高調波成分を除去して、前記機械角速度と前記位置とを推定し、推定した前記機械角速度と前記位置とを利用して前記インバータを制御する。
【0010】
本開示に係る空気調和機は、圧縮機と、マグネットトルクとリラクタンストルクを用いて前記圧縮機を回転駆動するモータと、前記モータを交流駆動するインバータと、前記インバータを制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記モータに流れるd軸電流値およびq軸電流値と前記モータの極対数とに基づき、前記モータのロータの機械角速度と位置とを推定する際に、前記d軸電流値および前記q軸電流値たは推定した前記ロータの角速度から、前記機械角速度に前記極対数を乗じた値の6次および12次を少なくとも含む6n次(nは1および2と、0個以上の3以上の自然数を含む)の高調波成分を除去して、前記機械角速度と前記位置とを推定し、推定した前記機械角速度と前記位置をと利用して前記インバータを制御する。
【発明の効果】
【0011】
本開示の制御装置、制御方法および空気調和機によれば、モータの回転位置と速度を精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の第1実施形態に係るモータの制御装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】本開示の第1実施形態に係る速度・位置推定部の構成例を示すブロック図である。
【
図3】本開示の第1実施形態に係る速度・位置推定部の他の構成例を示すブロック図である。
【
図4】本開示の第1実施形態に係る速度および位置の推定例を説明するための模式図である。
【
図5】本開示の第1実施形態に係る正規化トルクパターンテーブルの構成例を示す模式図である。
【
図6】本開示の第1実施形態に係る正規化トルクパターンテーブルにおけるロータ回転角度と複数の係数値との関係の一例を示す図である。
【
図7】本開示の第2実施形態に係るモータの制御装置の構成例を示すブロック図である。
【
図8】本開示の第2実施形態に係るモータの制御装置の構成例を説明するための模式図である。
【
図9】少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態に係る制御装置、制御方法および空気調和機について、
図1~
図9を参照して説明する。
図1は、本開示の第1実施形態に係るモータの制御装置の構成例を示すブロック図である。
図2は、本開示の第1実施形態に係る速度・位置推定部の構成例を示すブロック図である。
図3は、本開示の第1実施形態に係る速度・位置推定部の他の構成例を示すブロック図である。
図4は、本開示の第1実施形態に係る速度および位置の推定例を説明するための模式図である。
図5は、本開示の第1実施形態に係る正規化トルクパターンテーブルの構成例を示す模式図である。
図6は、本開示の第1実施形態に係る正規化トルクパターンテーブルにおけるロータ回転角度と複数の係数値との関係の一例を示す図である。
図7は、本開示の第2実施形態に係るモータの制御装置の構成例を示すブロック図である。
図8は、本開示の第2実施形態に係るモータの制御装置の構成例を説明するための模式図である。
図9は、少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。なお、各図において同一または対応する構成には同一の符号を用いて説明を適宜省略する。
【0014】
<第1実施形態>
図1は、本開示の第1実施形態に係る制御装置1の構成例を示す。制御装置1は、空気調和機100が備える圧縮機5を回転駆動するモータ2を交流駆動するインバータ4を制御する制御装置である。モータ2は、例えば、マグネットトルクとリラクタンストルクを用いて回転するIPMSMである。インバータ4は、交流電源3を電源として、モータ2へ電力を供給する。電流センサ10は、インバータ4からモータ2に通電される電流値を検出する。
図1に示す例では、空気調和機100は、制御装置1、モータ2、インバータ4、および、電流センサ10を備える。制御装置1は、例えばマイクロコンピュータ等のコンピュータと、そのコンピュータの周辺装置、周辺回路等とを備える。そして、制御装置1は、コンピュータ等のハードウェアと、そのコンピュータが実行するプログラム等のソフトウェアとの組み合わせ等から構成される機能的構成として、減算部14、速度制御部20、負荷トルク補償部13、速度・位置推定部11、2相/3相変換部21、および3相/2相変換部22を備える。速度制御部20は、速度PI制御部(速度比例積分(Proportional Integral)制御部)12と、加算部15と、電流変換部16と、減算部17と、電流PI制御部18とを備える。
【0015】
なお、本実施形態に係る制御装置は、
図1に示す例に限定されず、例えばマグネットトルクとリラクタンストルクを用いて回転するモータを制御する制御装置であればよい。また、モータ2は圧縮機5を駆動するものに限定されず、また、モータ2は空気調和機が備えるものに限定されない。なお、
図1は、制御装置1によるモータ2の回転数制御に係る主な構成を示したものであり、例えば、冷媒回路、ファン、温度制御や湿度制御に係る構成等、空気調和機100または制御装置1内の他の一部の構成については図示を省略している。
【0016】
(制御装置の構成)
3相/2相変換部22は、電流センサ10が検出した3相電流値Iと速度・位置推定部11が推定したモータ2のロータの回転位置(回転角度)θesとを入力し、電流センサ10が検出した3相電流値Iをd軸およびq軸の2相のd軸電流値idおよびq軸電流値iqに変換して出力する。電流センサ10は、例えばモータ2に流れる相電流を検知する。ただし、電流センサ10の構成はこれに限定されない。例えば、インバータ4が備える複数のスイッチング素子に流れる電流を検知し、相電流を算出する構成等とすることができる。2相/3相変換部21は、回転位置θesと電流PI制御部18が出力したd軸およびq軸の2相のd軸指令電圧値vd*およびq軸指令電圧値vq*とを入力し、3相電圧値Vに変換してインバータ4へ出力する。なお、インバータ4は、2相/3相変換部21が出力した3相電圧値Vに基づいてインバータが備える図示してない複数のスイッチング素子を制御する。
【0017】
速度・位置推定部11は、電流PI制御部18が出力した2相のd軸電圧値vdおよびq軸電圧値vqと、3相/2相変換部22が出力した2相のd軸電流値idおよびq軸電流値iqとを入力し、2相のd軸電流値idおよびq軸電流値iqと、モータ2の極対数Npとに基づきモータ2のロータの回転位置θesと回転数(機械角速度)ωmesとを推定する。
【0018】
図2に、速度・位置推定部11の構成例を示す。同図において、速度・位置推定部11は、調整モデル111、速度推定部112、積分器113、除算器114および高調波成分除去部115を備えている。
【0019】
調整モデル111では、q軸電流値iqおよびd軸電流値id、並びに1つ前のクロックサイクルでのロータ推定速度(電気角速度(以下、単に角速度ともいう))ωesに基づき、モータ2のデータモデルを用いて、モデルq軸電流値iq^およびモデルd軸電流値id^を算出する。例えば、典型的なデータモデルを例示すれば、次式の通りである。ここで、Rは巻線抵抗、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、Keは誘起電圧定数、pは微分演算子(p=d/dt)である。
【0020】
【0021】
具体的には、この微分方程式をルンゲ・クッタ等の数値計算法を用いて解くことにより、モデルq軸電流値iq^およびモデルd軸電流値id^が算出される。
【0022】
また、速度推定部112では、モデルq軸電流値iq^およびモデルd軸電流値id^と、後述する高調波成分除去部115による所定の高調波成分除去後のq軸電流値iqおよびd軸電流値idとを入力し、ポポフの超安定理論に従って、次式に示す評価関数Errを算出し、この評価関数Errに対するPI制御により、ロータ推定速度ωesを求める。なお、評価関数Errの求め方は種々存在し、この例に限定されない。
【0023】
【0024】
【0025】
ここで、Lはインダクタンス、Kpは比例定数、Kiは積分定数である。
【0026】
さらに、速度推定部112で求めたロータ推定速度ωesを積分器113で積分して、ロータ推定位置θesを得る。なお、2相/3相変換部21に対して供給される1つ次のクロックサイクルでのロータの推定位置θesは、ここで得られたロータ推定位置θesにロータ推定速度ωes応じた補正を加えて生成する。
【0027】
ここで、高調波成分除去部115について説明する。IPMSMのようにマグネットトルクとリラクタンストルクを用いて回転するモータでは、誘起電圧の5次および7次の歪み成分は、dq軸で6次の歪みとなり、同様に6n-1次および6n+1次の歪み成分は、dq軸で6n次の歪みとなる。また、インダクタンスの5次および7次の歪み成分の場合は、dq軸で12次の歪みとなり、6n-1次および6m+1次の歪み成分の場合は、dq軸で12n次の歪みとなる。このため、速度・位置推定部11では、モデルq軸電流値iq^およびモデルd軸電流値id^に、歪みの影響が6次および12次、…、6n次に現れる(nは自然数)。他の推定手法でもdq軸では6n次の変動となるので、同様である。なお、ここでの次数は電気角なので、極対数Npのモータでは、回転数(機械角速度)に極対数Npを乗じた値の6n次、すなわち、6Np×n次となる。このため、実速度が変動していないにも関わらず、回転数の6Np×n次の推定速度変動が誤差として現れるので、回転数(機械角速度)の6Np×n次の推定速度変動は推定速度変動から除去することで、歪みの大きいモータは推定速度変動の誤差を低減できる。
【0028】
そこで、本実施形態の高調波成分除去部115は、速度・位置推定部11へ入力されたd軸電流値idおよびq軸電流値iqから、機械角速度に極対数を乗じた値の6次および12次を少なくとも含む6n次の高調波成分を除去する。なお、特定の周波数を除去するには、共振ノッチフィルタやフーリエ変換など手段は問わない。また、速度変動を低減するように調整する場合において、6Np×n次が調整対象の回転数のk倍より大きい場合はLPF(ローパスフィルタ)により除去としてもよい。係数kの値は、例えば速度制御における所望の応答速度に対応する周波数等に応じて設定することができる。また、これまでの知見から、nの値は1および2を含むこと、すなわち、6次および12次を含むことが望ましい。この場合、高調波成分除去部115は、速度・位置推定部11へ入力されたd軸電流値idおよびq軸電流値iqから、機械角速度に極対数を乗じた値の6次および12次を少なくとも含む6n次(nは1および2と、0個以上の3以上の自然数を含む(この場合、nは1と2を少なくとも含み、3以上の自然数を含まなかったり(0個の場合)、3以上の自然数を1個または複数個含んだりする))の高調波成分を除去することが望ましい。
【0029】
ただし、速度・位置推定部11の特性によっては、d軸電流値idおよびq軸電流値iqから高調波成分を除去すると速度・位置推定ができなくなる場合がある。この場合は、
図3に示すように、速度・位置推定部11a(
図2の速度・位置推定部11に対応する構成)の速度推定部112には3相/2相変換部22が出力したd軸電流値idおよびq軸電流値iqを高調波成分を除去せず、そのまま入力する。そして、推定した推定速度ωesの出力から、高調波成分除去部115aにより、回転数の6Np×n次の高調波成分を除去する。この構成では、歪みの大きいモータでは推定速度変動の誤差を低減できる。なお、
図3に示す構成例では、速度推定部112が出力した推定速度ωesを高調波成分除去部115aへ入力し、高調波成分除去部115aの出力を除算器114へ入力しているが、例えば、速度推定部112が出力した推定速度ωesに代えて高調波成分除去部115aの出力を積分器113や調整モデル111へ入力するようにしてもよい。
【0030】
また、除算器114は、ロータ推定速度ωesをモータ2の極対数Npで除することで、モータ2のロータの回転数(機械角速度)ωmesを算出する。
【0031】
本実施形態において、速度・位置推定部11は、速度推定を行う際に、d軸電流値idおよびq軸電流値iqのほか、例えば、モータ定数や誘起電圧を利用して推定することができる。このときモータ2のインダクタンスや誘起電圧波形は例えば正弦波を前提として定めることができる。
図4は、推定の際に用いる軸の定義を示す。実位置による座標dq軸に対して推定位置による座標をδγ軸とする。実位置と推定位置の差をΔφとする。
調整モデル111では、q軸電流値iqおよびd軸電流値id、並びに1つ前のクロックサイクルでのロータ推定速度ωesに基づき、式(1)に示すモータ2のデータモデルを用いて、モデルq軸電流値iq^およびモデルd軸電流値id^を算出する。速度推定部112は、実位置と推定位置の誤差Δφに関係する評価関数Errを用いて、PI制御(Kp×Err+∫Ki×Err)により推定速度ωesを求めている。Δφが正であれば推定位置が実位置より遅れているので推定速度を大きくし、逆に負であれば推定速度を小さくする。これにより評価関数Errが0へ収束する。
【0032】
減算部14は、回転数(機械角速度)指令値ωm*から回転数ωmesを減算し、偏差Δωmを算出して、速度PI制御部12へ出力する。
【0033】
速度PI制御部12は、偏差Δωmに対して比例積分動作によって偏差Δωmを小さくするためのモータ2の出力トルク指令値の平均値である平均トルク指令値を算出して加算部15と負荷トルク補償部13へ出力する。この場合、速度PI制御部12は、モータ2の回転数ωmesと回転数指令値ωm*との偏差Δωmに応じて平均出力トルク指令値を算出して出力する。
【0034】
負荷トルク補償部13は、正規化トルクパターンテーブル131を含み、速度PI制御部12が出力した平均トルク指令値と、速度・位置推定部11が出力した回転位置θesとを入力し、正規化トルクパターンテーブル131を用いて、補償トルク値を算出して、加算部15へ出力する。補償トルク値は、モータ2の1回転中のモータ2の負荷トルクの変動を補償するためのトルク値である。
【0035】
正規化トルクパターンテーブル131は、モータ2の回転位置(回転角)θesに応じて変化する複数の係数値のパターンである正規化トルクパターンを定義するテーブルである。本実施形態においてモータ2はロータリ圧縮機等の圧縮機5を駆動する。ロータリ圧縮機においては、1回転の間に吸入、圧縮、および吐出の各行程における冷媒ガス圧の変化が発生するため、定常的な負荷トルク変動が発生する。そこで、本実施形態では、平均トルクと正規化トルクパターンとの積により、推定ロータ位置に合わせて出力トルク指令を補償することで、モータの速度変動を抑えている。
【0036】
負荷トルク補償部13は、正規化トルクパターンテーブル131に基づきモータ2の回転位置(回転角)θesに応じて係数値を決定し、平均トルク指令値に決定した係数値を乗じることで補償トルク値を算出する。補償トルク値と係数値は、正負またはゼロの値をとる。この場合、負荷トルク補償部13は、「各回転位置における補償トルク値=平均トルク指令値×各回転位置における正規化トルクパターン」の式で各回転位置における補償トルク値を算出する。この補償トルク値を平均トルク指令値に加算することで、回転位置θesに応じて負荷トルクの変動分が補償された出力トルク指令値(加算部15の出力値)が算出される。なお、補償トルク値は、1回転中の負荷トルク変動を補償する値であり、補償トルク値によって補償された1回転の出力トルク指令値の平均値は、平均トルク指令値に一致することが求められる。すなわち、補償トルク値の1回転の合計値はゼロであることが求められる。この場合、正規化トルクパターンを構成する(定義する)係数値の1回転の合計値もゼロであることが求められる。
図5は、正規化トルクパターンテーブル131の構成例を示す。また、
図6は、横軸をロータ回転角度[deg]、縦軸を係数値[%]として、ロータ回転角度と複数の係数値との関係の一例を示す。
【0037】
図5に示す例では、正規化トルクパターンテーブル131は、1回転360度(deg)を30度毎に区分して12の区間に分け、区間毎に係数値y(n1)(m1)を設定している。ここで、n1は正規化トルクパターンテーブル131を速度変動を低減するように調整する場合の調整回数を表す。また、mは区間の番号(m1=0~11)を表す。各係数値y(n1)(m1)からなるパターンは、正規化トルクパターンy(n1)という。上述したように、係数値y(n1)(m1)は、1回転の合計値がゼロとなるように設定されている。
【0038】
なお、正規化トルクパターンテーブル131における回転位置の分割数、すなわち位相軸の分割数は次のように決定することができる。すなわち、圧縮機2の負荷トルク変動のk次成分までの低減に対応するには、正規化トルクパターンの位相軸を2×lcm(1,…,k)×ndivまで分割することになる。2はサンプリング定理に基づく係数を表す。lcm(1,…,k)は1からkまでの自然数の最小公倍数を表す。ndivは任意の自然数である。これにより、k次まで高調波を含むトルク変動を表現できる。例えば、1次~3次成分までを低減する場合、ndivを1としたとき、分割数は2×6×1で12分割となる。
【0039】
加算部15は、速度PI制御部12が出力した平均トルク指令値と、負荷トルク補償部13が出力した補償トルク値を加算して、出力トルク指令値を算出し、電流変換部16へ出力する。
【0040】
電流変換部16は、加算部15が出力した出力トルク指令値を入力し、出力トルク指令値を電流変換して、d軸指令電流値id*およびq軸指令電流値iq*を算出して減算部17へ出力する。
【0041】
減算部17は、d軸指令電流値id*およびq軸指令電流値iq*とd軸電流値idおよびq軸電流値iqを入力し、d軸指令電流値id*およびq軸指令電流値iq*からd軸電流値idおよびq軸電流値iqをそれぞれ減算し、指令値とモータ電流値とのd軸成分およびq軸成分の各偏差を算出して、電流PI制御部18へ出力する。
【0042】
電流PI制御部18は、減算部17が出力した各偏差に対して比例積分動作によって各偏差を小さくするためのd軸指令電圧値vd*とq軸指令電圧値vq*を算出して、2相/3相変換部21と速度・位置推定部11へ出力する。
【0043】
(作用・効果)
本実施形態によれば、位置および速度を推定する際に、電流値または推定速度から、モータの歪みによる成分による誤差成分を除去するので、位置および推定速度の誤差を減らして、正しくモータを制御し、例えば速度変動等を抑制することができる。本実施形態によれば、モータの回転位置と速度を精度よく推定することができる。
【0044】
<第2実施形態>
図7は、本開示の第2実施形態に係る制御装置1aとインバータ4aの構成例を示す。第2実施形態では、制御装置1aが、第1実施形態の制御装置1と比較して、新たに高調波成分除去部23aを備える点で異なる。他の構成については制御装置1と制御装置1aは同一である。また、第2実施形態では、
図1の空気調和機100に対応する空気調和機100aにおいて、
図1に示す電流センサ10に対応する構成を、インバータ4aが電流センサ10aとして内部に備え、電流センサ10aがインバータ4aの入力側の直流電流を検知した結果に基づき、モータ2の相電流が算出される。その際、電流センサ10aは、所定のスイッチング素子のオン/オフのタイミングに同期して、タイミングをずらして各相電流を検知する。このタイミングの違いによって検知電流には、推定速度(電気角速度)の3m次の高調波成分発生する(mは自然数)。なお、mは少なくとも1を含むことが望ましい。そこで、本実施形態では、高調波成分除去部23aが、速度・位置推定部11へ入力されるd軸電流値およびq軸電流値から、機械角速度ωmesに極対数Npを乗じた値の3m次(mは1と、0個以上の2以上の自然数を含む)の高調波成分を除去する。この場合、高調波成分除去部23aと、
図2に示す高調波成分除去部115との組み合わせによって、制御装置1aでは、d軸電流値およびq軸電流値から、モータ2のロータの機械角速度ωmesに極対数Npを乗じた値の6次および12次を少なくとも含む6n次(nは1および2と、0個以上の3以上の自然数を含む)の高調波成分と、機械角速度ωmesに極対数Npを乗じた値の3m次(mは1と、0個以上の2以上の自然数を含む)の高調波成分が除去されることになる。なお、変数nと変数mは同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、高調波成分除去部23aと高調波成分除去部115は一体として構成されていてもよい。
【0045】
なお、
図7に示す制御装置1aおよびインバータ4aは、それぞれ
図1に示す制御装置1およびインバータ4に対応する構成である。また、
図7に示す電流センサ10aと電流検知部43を組み合わせたものが、
図1に示す電流センサ10に対応する。また、高調波成分除去部23aを除き、他の構成については、第1実施形態と第2実施形態で基本的に同一である。
【0046】
インバータ装置4aは、
図7に示すように、3相PWM(パルス幅変調)によるインバータの主回路41と、交流電源3から供給された交流電力を直流電力に変換する整流回路42と、モータ2を経由して主回路41に戻る電流が流れる電流センサ10aと、電流検知部43と、3相PWM波形生成部44とを備える。
【0047】
主回路41は、電源3に整流回路42を介して接続されており、U相用回路12U、V相用回路12V、W相用回路12Wを備える。そして、U相用回路12Uは、上アームスイッチング素子PUおよび下アームスイッチング素子NUを備え、V相用回路12Vは、上アームスイッチング素子PVおよび下アームスイッチング素子NVを備え、W相用回路12Wは、上アームスイッチング素子PWおよび下アームスイッチング素子NWを備えている。各々の回路における上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子は、互いに直列に接続されている。そして、各回路の出力は、図示を省略するU相コイル、V相コイルおよびW相コイルを備える3相のモータ2に接続されている。
【0048】
3相PWM波形生成部44は、2相/3相変換部21からの3相電圧値Vに基づき主回路41に与える3相PWM波形を生成する。
【0049】
電流検知部43は、電流センサ10aの検知結果から、
図8に示す各上アームスイッチング素子PU~PWおよび下アームスイッチング素子NU~NWのON/OFFタイミングの組み合わせに基づき、電流検知部43がモータ2のU相電流Iu、V相電流Iv、およびW相電流Iwの電流値を算出する。電流検知部43が算出(検知)した3相電流Iを3相/2相変換部22へ出力する。
【0050】
本実施形態では、インバータの直流バスに流れる電流を検知することでモータ電流を検知する。電流センサ10aを流れる電流は
図8に示すようにモータ2の相電流と一致するときがあるので、電流検知部43は、3相PWM信号と同期をとって読みだすことで、モータ2の各相電流を検知している。この場合、3相のモータ電流を検出するタイミングが3相同時でなく変化するため、電流がPWMによるリプル成分を含めた誤差を持つことになる。また、電流検出が3相で切り換わっていくため、推定速度変動に電気角で3m次の誤差となる(mは1と、0個以上の2以上の自然数を含む)。極対数Npのモータの場合、高調波成分は、回転数の3Np×m次となる。この場合、実速度が変動していないにも関わらず、回転数の3Np×m次の推定速度変動が誤差として現れることになる。そこで、高調波成分除去部23aが、速度・位置推定部11へ入力されるd軸電流値およびq軸電流値から、モータ2のロータの機械角速度ωmesに極対数Npを乗じた値の3m次(mは1と、0個以上の2以上の自然数を含む)の高調波成分とを除去する。これによれば、回転数の3Np×m次の推定速度変動は推定速度変動から除去することができるので、直流バス電流によるモータ電流検出の誤差を低減することができる。なお、特定の周波数を除去するには、共振ノッチフィルタやフーリエ変換など手段は問わない。また、速度変動を低減するように調整する場合において、3Np×m次や6Np×n次が調整対象の回転数のk次より大きい場合はLPFにより除去しもよい。
【0051】
(作用効果)
本実施形態によれば、d軸電流値およびq軸電流値をインバータ4aの入力側の直流電流の検知結果に基づき算出する場合に、3m次の高調波成分を除去するので、モータの回転位置と速度を精度よく推定することができる。
【0052】
<作用効果>
上記各実施形態に係る制御装置、制御方法および空気調和機によれば、モータの回転位置と速度を精度よく推定することができる。
【0053】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、機械角速度と電気角速度については、相互に変換可能であるため、両方を例えば算出対象として用いたり、機械角速度に代えて電気角速度を用いたり、電気角速度に代えて機械角速度を用いたりしてもよい。
【0054】
<コンピュータ構成>
図9は、少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す。
コンピュータ90は、プロセッサ91、メインメモリ92、ストレージ93、および、インタフェース94を備える。
上述の制御装置1および1aは、コンピュータ90に実装される。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式でストレージ93に記憶されている。プロセッサ91は、プログラムをストレージ93から読み出してメインメモリ92に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、プロセッサ91は、プログラムに従って、上述した各記憶部に対応する記憶領域をメインメモリ92に確保する。
【0055】
プログラムは、コンピュータ90に発揮させる機能の一部を実現するためのものであってもよい。例えば、プログラムは、ストレージに既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせ、または他の装置に実装された他のプログラムとの組み合わせによって機能を発揮させるものであってもよい。なお、他の実施形態においては、コンピュータは、上記構成に加えて、または上記構成に代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等が挙げられる。この場合、プロセッサによって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。
【0056】
ストレージ93の例としては、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)、半導体メモリ等が挙げられる。ストレージ93は、コンピュータ90のバスに直接接続された内部メディアであってもよいし、インタフェース94または通信回線を介してコンピュータ90に接続される外部メディアであってもよい。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ90に配信される場合、配信を受けたコンピュータ90が当該プログラムをメインメモリ92に展開し、上記処理を実行してもよい。少なくとも1つの実施形態において、ストレージ93は、一時的でない有形の記憶媒体である。
【0057】
<付記>
各実施形態に記載の制御装置1および1aは、例えば以下のように把握される。
【0058】
(1)第1の態様に係る制御装置1および1aは、マグネットトルクとリラクタンストルクを用いて回転するモータ2を交流駆動するインバータ4、4aを制御する制御装置1、1aであって、前記モータに流れるd軸電流値およびq軸電流値と前記モータの極対数Npとに基づき、前記モータのロータの機械角速度と位置とを推定する際に、前記d軸電流値および前記q軸電流値または推定した前記ロータの角速度から、前記機械角速度に前記極対数を乗じた値の6次および12次を少なくとも含む6n次(nは1および2と、0個以上の3以上の自然数を含む)の高調波成分を除去して、前記機械角速度と前記位置とを推定し、推定した前記機械角速度と前記位置とを利用して前記インバータを制御する。本態様および以下の各態様によれば、モータの回転位置と速度を精度よく推定することができる。
【0059】
(2)第2の態様に係る制御装置1aは、(1)の制御装置1aであって、前記d軸電流値および前記q軸電流値は、前記インバータの入力側の直流電流の検知結果に基づき算出されたものであり、前記d軸電流値および前記q軸電流値から、前記機械角速度に前記極対数を乗じた値の3m次(mは1と、0個以上の2以上の自然数を含む)の高調波成分をさらに除去する。本態様によれば、電流検出に伴って発生する高調波成分を除去することができる。
【符号の説明】
【0060】
1、1a 制御装置
2 モータ
3 交流電源
4、4a インバータ
5 圧縮機
10、10a 電流センサ
11、11a 速度・位置推定部
12 速度PI制御部
13 負荷トルク補償部
14 減算部
15 加算部
16 電流変換部
17 減算部
18 電流PI制御部
20 速度制御部
115、115a、23a 高調波成分除去部
27 加算部
100、100a 空気調和機
131 正規化トルクパターンテーブル