(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067926
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 41/00 20060101AFI20240510BHJP
F16C 19/16 20060101ALI20240510BHJP
F16C 19/52 20060101ALI20240510BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20240510BHJP
F16N 7/32 20060101ALI20240510BHJP
B23B 19/02 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
F16C41/00
F16C19/16
F16C19/52
F16C33/66 Z
F16N7/32 B
F16N7/32 E
B23B19/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178348
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】近藤 大地
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 勇介
【テーマコード(参考)】
3C045
3J217
3J701
【Fターム(参考)】
3C045FD08
3C045FD20
3J217JA02
3J217JA13
3J217JA15
3J217JA16
3J217JA24
3J217JA36
3J217JA37
3J217JA38
3J217JA39
3J217JA44
3J217JB22
3J217JB23
3J217JB68
3J217JB84
3J701AA02
3J701AA16
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA71
3J701CA07
3J701CA08
3J701CA13
3J701EA63
3J701EA66
3J701FA22
3J701FA23
3J701FA24
3J701FA26
3J701GA31
(57)【要約】
【課題】センサ等の電子部品を搭載した軸受装置において、その電子部品の性能を安定して発揮できるようにする。
【解決手段】主軸4の外周に軸方向に沿って並列する第1軸受5a及び第2軸受5bと、第1軸受5a及び第2軸受5bの間に配置される間座6とを備え、第1軸受5a及び第2軸受5bは、それぞれ内輪5ia,5ibと、外輪5ga,5gbと、複数の転動体Ta,Tbを備え、間座6は、2つの内輪5ia,5ib間に内輪間座6iを、2つの外輪5ga,5gbに外輪間座6gを備え、内輪間座6i及び外輪間座6gの一方は固定側間座で他方は回転側間座であり、固定側間座は、半径方向に並列する第1部材A及び第2部材Bを備え、第1部材A及び第2部材Bで挟まれた空間に電子機器を実装した回路基板30が配置され、第1部材A及び第2部材Bで挟まれた空間にポッティング材23が充填されている軸受装置とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸(4)と、
前記主軸(4)の外周に軸方向に沿って並列する第1軸受(5a)及び第2軸受(5b)と、
前記第1軸受(5a)及び前記第2軸受(5b)の間に配置される間座(6)と、
を備え、
前記第1軸受(5a)及び第2軸受(5b)は、それぞれ内輪(5ia,5ib)と、外輪(5ga,5gb)と、前記内輪(5ia,5ib)及び前記外輪(5ga,5gib)の間に配置される複数の転動体(Ta,Tb)を備え、
前記間座(6)は、軸方向に沿って並列する2つの前記内輪(5ia,5ib)間に内輪間座(6i)を、軸方向に沿って並列する2つの前記外輪(5ga,5gb)間に外輪間座(6g)を備え、
前記内輪間座(6i)及び前記外輪間座(6g)の一方は固定側間座で他方は一方に対して回転可能な回転側間座であり、前記固定側間座は、半径方向に並列する第1部材(A)及び第2部材(B)を備え、前記第1部材(A)及び前記第2部材(B)で挟まれた空間に電子機器を実装した回路基板(30)が配置され、前記第1部材(A)及び前記第2部材(B)で挟まれた空間にポッティング材(23)が充填されている軸受装置。
【請求項2】
前記第1部材(A)及び前記第2部材(B)は金属製又はセラミック製である請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
前記第1部材(A)及び前記第2部材(B)は、接着又は圧入により嵌合固定されている請求項1に記載の軸受装置。
【請求項4】
前記回路基板(30)が配置される前記第1部材(A)及び前記第2部材(B)で挟まれた空間は、蓋(6h)によって閉塞されている請求項1に記載の軸受装置。
【請求項5】
前記第1部材(A)及び前記第2部材(B)は、ビス又はピンで固定されている請求項1に記載の軸受装置。
【請求項6】
前記第2部材(B)は、外径側へ突出するフランジ状の突出部を一体に備え、第1部材(A)の軸方向端部は前記突出部に当接してその当接箇所が前記ビス又は前記ピンで固定されている請求項5に記載の軸受装置。
【請求項7】
前記第1部材(A)の内径部に凹部(6w)を備え、前記回路基板(30)は前記凹部(6w)に配置され、前記ポッティング材(23)は前記凹部(6w)に入り込んでいる請求項1に記載の軸受装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一つに記載の軸受装置を用い、
前記主軸(4)を軸回り回転させるモータ(40)を備えているスピンドル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械等の各種産業機械等に用いられる軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械等の各種産業機械において、各部に軸受装置が用いられている。例えば、特許文献1には、高速回転且つ低荷重で使用される工作機械主軸用の軸受装置が記載されている。この軸受装置では、エアオイル(オイルミスト)潤滑が採用されている。エアオイル潤滑は、潤滑油を外部から供給するので、潤滑状態を安定させることができる。また、特許文献1では、軸受装置の内部に熱流束(単位時間当たりに単位面積を通過する熱量)を検出する熱流センサを備え、熱流センサによって軸受の状態を検知することで、エアオイル潤滑による潤滑油の供給を制御する技術が開示されている。
【0003】
また、例えば、特許文献2には、軸方向に並列する2つの軸受間に外輪間座を備え、その外輪間座の内径面に設けられた平坦部に、複数のひずみセンサが取り付けられた軸受装置が記載されている。このひずみセンサにより外輪間座に生じるひずみを検出することで、予圧の把握と装置に作用している負荷の把握が容易であるとされている。
【0004】
さらに、特許文献3では、軸方向に並列する2つの軸受に隣接して外輪間座を備え、その外輪間座を、軸受の半径方向に2分割した軸受装置が記載されている。2分割された外輪間座のうち、外径側に位置する部材(外径部材)は金属製であり、内径側に位置する部材(内径部材)は内部に中空部を有する樹脂製となっている。樹脂製の内径部材は接着材等で外径部材に固定され、センサや各種の処理装置等の電子部品は、樹脂製の内径部材に搭載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-159547号公報
【特許文献2】特開2021-14886号公報
【特許文献3】特許第6486642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、センサ等の各種の電子部品にコンタミ等を含む油が付着すると、ショートを起こして装置が破損する恐れがある。このため、電気的に接続された電子部品は、絶縁性のある保護部材で覆うことが望ましい。
【0007】
しかし、特許文献1,2では、センサやコネクタ部等が保護部材で覆われておらず、コンタミを含んだ油がセンサやコネクタ部等に付着してショートする可能性がある。また、センサへ通じる配線がむき出しであるため、配線が回転部材と接触し、断線する恐れがある。さらに、ポッティング材(モールド樹脂)のような硬化型の保護部材で、センサやコネクタ部、配線等を保護する場合、硬化するまで保護部材は液状であるが、特許文献1,2の間座の形状では、液状のものを保護対象部材の周辺に保持することが困難である。
【0008】
また、工作機械は加工の最中や工具取り換えの際に回転部が急加減速するため、発熱源の軸受の温度が急激に変化し、その温度が間座に伝わる。この点、特許文献3の場合、外径部材は金属製であり、一方、内径部材と接着材は樹脂製であるため、それぞれ線膨張係数と熱伝導率が異なる。
【0009】
例えば、主軸が加速した直後は、軸受が急激に発熱し、その熱が伝えられた外径部材は、温度が急激に上昇し、それにともない急激に膨張する。しかし、樹脂は金属より熱伝達速度が遅いので、外径部材より遅れて内径部材と接着材が膨張する。このため、接着剤や内径部材には外径部材側から引っ張られる力が働く。また、主軸が加速し一定時間が経過すると、外径部材、接着材及び内径部材の温度が均一になる。その場合、樹脂の線膨張係数は金属の線膨張係数より大きいため、内径部材と接着材には外径部材側から圧縮される力が働く。工作機械を使用する中でこのような現象が繰り返し生じるため、過酷な使用条件で使用された場合は、外径部材と接着材の界面や接着材と内径部材の界面で剥離が生じ、あるいは、接着材や内径部材の内部で亀裂が入り破断に至る可能性がある。
【0010】
さらに、特許文献3の間座の構造では、樹脂製である内径部材にセンサを設ける必要があり、外径部材側から入力される振動が、樹脂部で減衰してしまう傾向がある。このため正確な信号検出ができないという問題もある。
【0011】
そこで、この発明の課題は、センサ等の電子部品を搭載した軸受装置において、その電子部品の性能を安定して発揮できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、この発明は、主軸と、前記主軸の外周に軸方向に沿って並列する第1軸受及び第2軸受と、前記第1軸受及び前記第2軸受の間に配置される間座と、を備え、前記第1軸受及び第2軸受は、それぞれ内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に配置される複数の転動体を備え、前記間座は、軸方向に沿って並列する2つの前記内輪間に内輪間座を、軸方向に沿って並列する2つの前記外輪間に外輪間座を備え、 前記内輪間座及び前記外輪間座の一方は固定側間座で他方は一方に対して回転可能な回転側間座であり、前記固定側間座は、半径方向に並列する第1部材及び第2部材を備え、前記第1部材及び前記第2部材で挟まれた空間に電子機器を実装した回路基板が配置され、前記第1部材及び前記第2部材で挟まれた空間にポッティング材が充填されている軸受装置を採用した(構成1)。
【0013】
ここで、前記第1部材及び前記第2部材は金属製又はセラミック製である構成を採用できる(構成2)。
【0014】
また、前記第1部材及び前記第2部材は、接着又は圧入により嵌合固定されている構成を採用できる(構成3)。
【0015】
また、前記回路基板が配置される前記第1部材及び前記第2部材で挟まれた空間は、蓋によって閉塞されている構成を採用できる(構成4)。
【0016】
さらに、前記第1部材及び前記第2部材は、ビス又はピンで固定されている構成を採用できる(構成5)。
【0017】
このとき、前記第2部材は、外径側へ突出するフランジ状の突出部を一体に備え、第1部材の軸方向端部は前記突出部に当接してその当接箇所が前記ビス又は前記ピンで固定されている構成を採用できる(構成5’)。
【0018】
また、前記第1部材の内径部に凹部を備え、前記回路基板は前記凹部に配置され、前記ポッティング材は前記凹部に入り込んでいる構成を採用できる(構成6)。
【0019】
上記の構成1に対して、構成2,3,4,5(5’を含む),6から選択される単一の又は複数の構成を付加した態様を採用できる。また、これらの各態様からなる軸受装置を用い、前記主軸を軸回り回転させるモータを備えているスピンドル装置を採用できる。
【発明の効果】
【0020】
この発明は、センサ等の電子部品を搭載した軸受装置において、その電子部品の性能を安定して発揮できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】この発明の第1の実施形態を示す縦断面図(
図3のA-A断面図)
【
図2】同実施形態を示す縦断面図(
図3のB-B断面図)
【
図5】この発明の第2の実施形態を示す縦断面図(第1の実施形態を示す
図3のA-A断面図に相当)
【
図6】同実施形態を示す縦断面図(第1の実施形態を示す
図3のB-B断面図に相当)
【
図8A】この発明の第3の実施形態の外輪間座を示す分解斜視図
【
図9A】この発明の第4の実施形態の外輪間座を示す分解斜視図
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1及び
図2は、この発明の実施形態のスピンドル装置1の概略構成を示している。
【0023】
(第1の実施形態)
図1に示すように、スピンドル装置1が備える主軸4の軸方向に沿って一端側(図中右側)にはビルトインモータ40が組み込まれ、他端側(図中左側)には図示しないエンドミル等の切削工具が接続される。ビルトインモータ40を採用すると、主軸4にロータの機能を持たせることにより、装置の小型化が可能である。なお、ビルトインモータ方式の装置では、高速回転時の振動が抑制される反面、モータの発熱が主軸4に伝わりやすいため、主軸4の冷却対策が重要である。以下、ビルトインモータ40を単にモータ40と称する。
【0024】
スピンドル装置1は、円筒状を成す外筒2内の他端寄りに、軸方向に沿って並列する対の軸受5a,5bと、その対の軸受5a,5bの間に配置される間座6を備えている。また、外筒2内の一端寄りには、モータ40と、モータ40よりも一端側に配置される軸受16とを備えている。主軸4は、外筒2の内径部に設けられたハウジング3に、対の軸受5a,5bによって回転自在に支持されている。ハウジング3は、外筒2内に圧入固定されている。以下、対の軸受5a,5bのうち、他端側の軸受5aを第1軸受5a、一端側の軸受5bを第2軸受5bと称し、また、モータ40よりも一端側に配置される軸受16を第3軸受16と称する。
【0025】
図1及び
図2に示すように、第1軸受5aは、内輪5ia及び外輪5gaと、その内輪5ia及び外輪5gaの間に配置される複数の転動体Taとを備えている。複数の転動体Taは、環状の保持器Rtaによって周方向に沿って保持されている。また、第2軸受5bも同様に、内輪5ib及び外輪5gbと、その内輪5ib及び外輪5gbの間に配置される複数の転動体Tbとを備えている。間座6は、軸方向に沿って並列する内輪5ia及び内輪5ibとの間に配置される内輪間座6iと、軸方向に沿って並列する外輪5ga及び外輪5gbとの間に配置される外輪間座6gとを備えている。内輪間座6iは、内輪5ia及び内輪5ibの対向する端面間を突っ張るように配置され、外輪間座6gは、外輪5ga及び外輪5gbの対向する端面間を突っ張るように配置されている。第1軸受5aの内輪5ia及び第2軸受5bの内輪5ibは、主軸4の外周に一体に回転するように固定されている。この実施形態では、内輪5ia、内輪5ib及び内輪間座6iは、主軸4の外周に圧入固定(締まり嵌め)されている。
【0026】
第1軸受5a及び第2軸受5bは、軸方向の力で予圧を付与することが可能な軸受である。 第1軸受5a及び第2軸受5bとして、例えば、アンギュラ玉軸受、深溝玉軸受、又はテーパころ軸受等の転がり軸受を用いることができる。この実施形態では、軸受装置50としてアンギュラ玉軸受を用いている。第1軸受5a及び第2軸受5bが背面組み合わせ(DB組み合わせ)で設置されている。背面組み合わせとは、軸心を含む縦断面において、転動体と内外輪との理論上の接触部間を結ぶ荷重の作用線同士が、転動体PCD(Pitch Circle Diameter)よりも外径側で交差する方向に、対のアンギュラ玉軸受を配置した構造である。ラジアル荷重と両方向のアキシアル荷重を負荷することができ、また、作用点距離が大きいので、モーメント荷重が作用する場合に有利である。
【0027】
この実施形態において、第3軸受16は内輪16a及び外輪16bとの間に円筒ころ16cを配置した円筒ころ軸受である。アンギュラ玉軸受である第1軸受5a及び第2軸受5bによって、スピンドル装置1に作用するラジアル方向の荷重及びアキシアル方向の荷重が支持され、円筒ころ軸受である第3軸受16によって、スピンドル装置1に作用するラジアル方向の荷重が支持される。なお、この実施形態では、第1軸受5a、第2軸受5b及び第3軸受16の3つの軸受で主軸4を支持する構造を例示して説明しているが、軸受の数は仕様に応じて適宜増減できる、例えば、2つ又は4つ以上の軸受で主軸4を支持する構造としてもよい。
【0028】
ハウジング3には冷却媒体流路Gが形成される。この実施形態では、冷却媒体流路Gは、ハウジング3と外筒2との間において、スピンドル装置1の軸回り方向に環状に複数列形成され、複数列のそれぞれの環状通路が潤滑油供給路に通じている。なお、冷却媒体流路Gは、軸方向に沿って螺旋状の形成されたものであってもよく、その形状は仕様に応じて種々の変更が可能である。また、冷却媒体流路Gは、ハウジング3の外周に形成された溝としてもよいし、外筒2の内周に形成された溝としてもよく、さらには、それらの内外の溝の組み合わせとしてもよい。ハウジング3と外筒2との間に冷却媒体を流すことにより、第1軸受5a及び第2軸受5bを冷却することができる。
【0029】
第1軸受5a及び第2軸受5bとしてグリース潤滑の軸受を用いた場合には潤滑油供給路は不要であるが、例えば、エアオイル潤滑等(オイルエア潤滑、オイルアンドエア潤滑等)による潤滑が必要な場合には、潤滑油供給路として、外輪間座6gにノズル6x及び供給路が設けられる。また、潤滑油供給路としてハウジング3にも供給路が設けられ、スピンドル装置1の外部から圧縮空気と潤滑油が供給される(ノズル6x及び供給路は後述の
図4等参照)。
【0030】
スピンドル装置1の組立時には、初めに主軸4に対して第1軸受5a、間座6、第2軸受5b、補助間座9が順に挿入され、ナット10を締めることによって初期予圧が与えられる。補助間座9は円筒状を成す部材であり、第2軸受5bの内輪5ibの一端側の端面に当接している。主軸4に対して一端側から他端側に向かってナット10を締め付けることにより、補助間座9を介して第2軸受5bの内輪5ibの端面に力が作用し、内輪5ibが内輪間座6iに向けて押される。この力は、内輪5ib、転動体Tb、外輪5gbと伝わり、内輪5ib及び外輪5gbの軌道面と転動体Tbの間に予圧を与えるとともに、外輪5gbから外輪間座6gにも伝わる。なお、ナット10の内面及び主軸4の外面に形成されたねじ部については図示省略している。
【0031】
また、この力は、第1軸受5aにおいて、外輪5ga、転動体Ta、内輪5iaへと伝わり、第1軸受5aの内輪5ia及び外輪5gaの軌道面と転動体Taの間にも予圧を与える。第1軸受5a及び第2軸受5bに付与される予圧は、例えば、外輪間座6gと内輪間座6iの幅の寸法差によって制限される移動量によって定まる。その後、第2軸受5bの外輪5gbの一端側がハウジング3に設けた段差部3aに当たるまで、第1軸受5a及び第2軸受5bと一体の主軸4がハウジング3内に挿入される。最後に、他端側の前蓋12によって、第1軸受5aの外輪5gaを他端側から一端側へ押すことで、主軸4がハウジング3に固定される。
【0032】
また、単列の第3軸受16について、
図1に示すように、内輪16aは、主軸4の外周に嵌合した筒状部材15と、その筒状部材15の一端側に配置した環状の内輪押さえ19により、軸方向に対して位置決めされている。内輪押さえ19は、主軸4の外周に一端側から他端側へ向かってねじ込まれたナット20により抜け止めされている。外筒2の一端側には環状の端部材17が配置されている。端部材17の一端には、その端部材17よりも内径方向へ突出する位置決め部材18が固定されている。また、端部材17の他端には、その端部材17よりも内径方向へ突出する位置決め部材21が固定されている。外輪16bは、軸方向両側から位置決め部材18と位置決め部材21とに挟まれている。内輪16aは、温度変化に伴う主軸4の軸方向への伸縮に応じて主軸4と一体的に移動して、端部材17に対して相対移動する。なお、ナット20の内面及び主軸4の外面に形成されたねじ部についても図示省略している。
【0033】
図1に示すように、外筒2の一端寄りにおいて、第2軸受5bと第3軸受16との間に、空間部22が形成されている。空間部22は、主軸4と外筒2との間に形成され、その内部に、主軸4を駆動するモータ40が配置されている。モータ40は、ステータ13及びロータ14を備え、電力の供給により駆動力を発生させて、外筒2に対して主軸4を軸回り回転させる。ロータ14は、主軸4の外周に嵌合した筒状部材15に固定され、ステータ13は外筒2の内周部に固定されている。主軸4と筒状部材15、及び、外筒2とステータ13との固定構造は、嵌合、圧入等の周知の手法でよい。なお、モータ40を冷却するための冷却媒体流路は図示省略している。
【0034】
間座6を構成する部材のうち、内輪間座6i及び外輪間座6gの一方は固定側間座であり、外筒2及びハウジング3に対して不動に固定されている。また、他方は一方に対して軸回り回転可能な回転側間座である。この実施形態では、内輪間座6iが回転側間座、外輪間座6gが固定側間座となっている。
【0035】
固定側間座である外輪間座6gは、軸受の半径方向に並列する円筒部を互いに有する第1部材A及び第2部材Bを備えている。第1部材Aの円筒部が外側に、第2部材Bの円筒部が内径側に位置して、その間に環状の空間が形成されている。この実施形態では、互いに別々に成形された第1部材A(この実施形態では第1部材6g1と称する)、及び、第2部材B(この実施形態では第2部材6g2と称する)を組み合わせて、外輪間座6gが構成されている。第1部材6g1及び第2部材6g2は、第2部材6g2に設けられたフランジ状の突出部6g3によって連結されている。この実施形態では、突出部6g3は第2部材6g2の円筒部と一体に成形されているが、これを別部材で成形して接合してもよい。また、この実施形態では、突出部6g3が第2部材6g2に設けられているが、第2部材6g2をストレート状の円筒部材とし、突出部6g3が第2部材6g2と接触するような形状で第1部材6g1に設けられてもよい。
【0036】
なお、前述の潤滑材供給用のノズル6xは、例えば、外輪間座6gに設けることができ、第1部材6g1又は第2部材6g2に形成することができる。ノズル6xは、第1軸受5a及び第2軸受5bの軸受空間に向けられているとよい。これにより、固定側間座である外輪間座6gに設けられたノズル6xから、潤滑油(実施形態ではエアオイル)が供給されるようになる。
【0037】
外輪間座6gを構成する第1部材6g1及び第2部材6g2には剛性が高い材料がよく、例えば、金属製又はセラミック製のとすることが好ましい。第1部材6g1と第2部材6g2を固定する手法として、嵌合固定が挙げられる。嵌合固定による固定構造として、例えば、第1部材6g1と第2部材6g2を圧入固定した構造、接着固定した構造、あるいは、これらの手法を併用した構造としてよい。また、第1部材6g1及び第2部材6g2の固定構造を、ビス又はピンで固定した構造としてもよい。
【0038】
この実施形態では、第2部材6g2は、外径側へ突出するフランジ状の突出部6g3を一体に備え、第1部材6g1の軸方向端部は、突出部6g3の内側端面に当接している。この当接箇所において、
図4に示すように、突出部6g3にはビス穴6qが設けられ、第1部材6g1側にも対応するビス穴(
図4に図示せず)が設けられている。このビス穴6qにねじ込まれたビス(ねじ)25(
図1参照)により、第1部材6g1と第2部材6g2は固定されている。なお、ビス25に代えて、周知のピン等を用いて両者を固定してもよい。また両者の間に雄ねじ部と雌ねじ部を設けて、互いに螺合うることで固定してもよい。
【0039】
また、この実施形態では、第2部材6gbの円筒部と突出部6g3とで断面L字状を成す環状部材を構成しているが、突出部6g3の軸方向位置を変更してもよい。例えば、突出部6g3が第2部材6g2の円筒部の軸方向反対側の端部に位置していてもよいし、突出部6g3が第2部材6g2の円筒部の軸方向中ほどに位置して断面T字状を成す構成としてもよい。なお、第1部材6g1と第2部材6g2との間に形成される空間は、後述の回路基板30が配置される方位を含む一部方位にのみ設けられていてもよい。
【0040】
ここで、前述のスピンドル装置1の組立時に、第1軸受5a及び第2軸受5b間に軸方向への予圧が付与される。この予圧は、外輪間座6gの第1部材6g1、第2部材6g2のうち、外輪5ga,5gbの端面間に位置する部材のみに作用する。この実施形態では、外輪5ga,5gbの端面間に位置する部材は、第1部材6g1と第2部材6g2の突出部6g3であり、それ以外の部位には予圧が作用しないようになっている。すなわち、第1部材6g1と第2部材6g2の突出部6g3には、主軸4(回転体)に印加された荷重を支持する機能が求められ、第2部材6g2の円筒部にはこのような機能は求められない。第1部材6g1及び第2部材6g2の素材には、その全体に剛性の高い材料(金属、セラミック等)が使用されているので、上記のような予圧に対抗でき、また、回転時の荷重を支持するのに充分である。なお、第1部材6g1及び第2部材6g2の両方の素材を金属としてもよいし、両方の素材をセラミックとしてもよい。また、いずれか一方の素材を金属、他方をセラミックとしてもよい。ここで、第1部材6g1と第2部材6g2の両方の素材を金属とすることで、急激な熱変化による外輪間座6gの破損を防止することができる。
【0041】
第1部材6g1の円筒部及び第2部材6g2の円筒部で挟まれた空間に、電子機器を実装した回路基板30が配置される。回路基板30に実装される電子機器として、例えば、センサ、そのセンサの処理回路、電源(発電機、電池)、及び、通信デバイス(無線デバイス)等が挙げられる。これらの電子機器を板状のベース上に実装して回路基板(プリント基板)30が構成されている。これらの回路基板30により、軸受の状態や軸受が搭載されている周辺機器の状態を検出し、その取得した情報を外部に送信することができる。ここで、回路基板30が通信デバイス(無線デバイス)を備えていれば、無線で外部へ情報を送信できる。
【0042】
回路基板30に実装されるセンサとして、例えば、主軸4の回転状態を検知する加速度センサ、あるいは、主軸4周囲や第1軸受5a又は第2軸受5b等の温度を検知する温度センサ、あるいは、振動を検知する振動センサ、あるいは、第1軸受5aおよび第2軸受5b等に加わる力を検知する荷重センサ、あるいは、第1軸受5aおよび第2軸受5b等に力が加わることで生じるひずみを検知するひずみセンサ、その他、第1軸受5a又は第2軸受5bの状態を監視する各種のセンサが挙げられる。また、処理回路として、それらのセンサ類の情報を、所定の目的に応じて処理する制御回路(フィルタ回路、AD変換回路など)が挙げられる。
【0043】
ここで、回路基板30が備えるセンサとして、ひずみセンサを例示する。ひずみセンサを実装する回路基板30は、外輪間座6gの内径部に設けられた金属製の凸状部6jのフラット面(平面部)に設けられ、外輪間座6gの変形を検出する。ここで、センサを備えた回路基板30の周囲には、ひずみセンサに油が触れることを防止するための絶縁性のポッティング材(保護部材)23が設けられる。
図4では、理解がしやすいように、固化(硬化)した状態のポッティング材23を、外輪間座6gから取り出した状態を図示しているが、ポッティング材23は、未硬化の保護部材23を外輪間座6gの内部に充填した後、その外輪間座6gを型枠として硬化させたものである。なお、絶縁性のポッティング材23がセンサに直接接触すると、ポッティング材23がセンサ出力に影響を及ぼす可能性がある。このため、センサとポッティング材23とは非接触であることが望ましい。このため、センサの周囲に、センサとポッティング材23とを隔てる蓋材26を設けることが望ましい(
図1参照)。
【0044】
このように、回路基板30は、保護部材であるポッティング材23に覆われた状態で第1部材6g1及び第2部材6g2で挟まれた空間に配置される。このため、回路基板30に実装された電子部品の性能を安定して発揮できるようになる。また、電子機器へ通じる配線、コネクタ等もポッティング材23で固定されるので、軸受の回転等に伴いこれらが回転部に接触して損傷することも防止できる。さらに、ポッティング材23が、第1部材6g1及び第2部材6g2で挟まれた空間に充填されて回路基板30を保護する形態としたので、ポッティング材23を充填する作業性が向上する。
【0045】
なお、ポッティング材23に防油機能を求める場合には、ポッティング材23は外輪間座6gの第1部材6g1の内径面と接触した状態で固化することが望ましい。また、ポッティング材23は、センサや配線、あるいは配線の接続部に油が付着することも防止する。
【0046】
ポッティング材23は、当初は液体又はゾル状の流動性がある状態であり、回路基板30の周辺に配置したのちに固化(硬化)するものである。固化後のポッティング材23は、モールド材のような比較的硬い素材でもよいし、シリコン系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂等の比較的柔らかい素材もよい。
【0047】
この実施形態では、第2部材6g2はフランジ状の突出部6g3を備え、突出部6g3と第1部材6g1との当接箇所は、前述のようにビス25で固定されているが、この当接部間から未硬化のポッティング材23が漏れ出ないように、OリングL0が設けられている。OリングL0は、突出部6g3に設けられた環状溝6vに入り込んで、突出部6g3と第1部材6g1との液密性を確保している。なお、このOリングL0の代わりに、第1部材6g1と第2部材6g2の突出部6g3との接触部における隅部(内部の空間側の奥まった隅部)を溶接してもよいし、その接触隅部にシーリング材を塗布してもよい。
【0048】
図4中の符号24は、第2部材6g2に設けられる突出ピン24である。突出ピン24は、第2部材6g2の円筒部に設けられたピン穴6rに挿入されて、その円筒部から外径側へ突出することで、固化したポッティング材23が位置ずれ、脱落することを防止する。
図4中の中央に示す突出ピン24は円筒部から内径側へ突出しているが、これを外径側へさらに押し込んで、突出ピン24が円筒部から外径側へ突出した状態で使用する(
図1参照)。
【0049】
また、
図4中の符号6pは、第2部材6g2にノズル6xを設けた場合に、外部からノズル6xに向かって潤滑油(実施形態ではエアオイル)を供給する供給路6pである。この供給路6pは、第2部材6g2の円筒部から外径側へ向かって突出する内部材6sに開口する供給路6tに連通する。ノズル6xは、供給路6tから軸受側へ向かって引き出された供給路の開口で構成されている。また。
図1及び
図4に示す符号SO1,SO2は、供給路6pの開口の周囲に設けられ、潤滑油の漏れを防ぐOリングSO1,SO2である。この油漏れ防止の手段として、Oリング等に代えて液状ガスケットのようなシーリング材を用いてもよい。
【0050】
この発明の第2の実施形態を、
図5~
図7に示す。主たる構成は、第1の実施形態と同様であるので、その差異点である外輪間座6gの構成を中心に説明する。
【0051】
この実施形態では、第1部材6g1の円筒部と第2部材6g2の円筒部との間の空間を閉じる蓋6hを、突出部6g3を設けた側の反対側の軸方向端部に設けたものである。これにより、回路基板30が配置される第1部材6g1及び第2部材6g2で挟まれた空間は、蓋6hによって閉塞される。蓋6hは、
図7に示すように、第1部材6g1と第2部材6g2との間の環状空間を閉じるように環状の板材で構成されていが、供給路6pを設けるための内部材6sの方位には蓋6hは不要であるので、内部材6sの方位を除く平面視C字状の部材となっている。
【0052】
蓋6hが設けられることで、第1部材6g1の円筒部と第2部材6g2の円筒部の間の空間に、油や異物が入ることをより確実に防止できる。また、未硬化のポッティング材23が外部に漏れ出ることも防止できる。
【0053】
ここで、蓋6hは、第1部材6g1及び第2部材6g2の一方又は両方にビス又はピンで固定、あるいは、溶接固定、嵌合固定、螺合による固定とされる。蓋6hは、金属製でもよいし、樹脂製でもよい。また、蓋6hによって第1部材6g1及び第2部材6g2に挟まれた空間と外部の空間とが液密に隔てられて、油や異物の侵入の危惧がない場合には、ポッティング材23の充填を省略することもできる。
【0054】
図8にこの発明の第3の実施形態を、
図9にこの発明の第4の実施形態を示す。この第3の実施形態及び第4の実施形態も、回路基板30が実装するセンサとして、ひずみセンサを例示する。
【0055】
第1の実施形態では、ひずみセンサを備える回路基板30は、第1部材6g1の円筒部の内径部に設けられた金属製の凸状部6jのフラット面(平面部)に設けられていたが、第3の実施形態では、回路基板30は、第1部材6g1の円筒部の内径部に設けられた凹部6wの底部の平面部に設けられ、外輪間座6gの変形を検出する。回路基板30が凹部6wに配置されるとともに、ポッティング材23が凹部6wに入り込むことで、回路基板30を保護している。それ以外の構成は、第1の実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0056】
また、第4の実施形態も同様に、回路基板30は、第1部材6g1の円筒部の内径部に設けられた凹部6wの底部の平面部に設けられ、外輪間座6gの変形を検出する。回路基板30が凹部6wに配置されるとともに、ポッティング材23が凹部6wに入り込むことで、回路基板30を保護している。それ以外の構成は、蓋6hを備えた第2の実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0057】
上記の各実施形態では、潤滑方法としてエアオイル潤滑を用いた軸受装置を例に、この発明の構成を説明したが、他の潤滑方式を備えた軸受装置にこの発明を適用してもよい。例えば、オイルミスト潤滑、ジェット潤滑等の潤滑方式を備えた軸受装置に対しても、この発明を適用できる。また、潤滑方式に限定されず、外部との無線通信機能を備えた各種の軸受装置にこの発明を適用できる。
【0058】
上記の各実施形態では、内輪間座6iが回転側間座、外輪間座6gが固定側間座となっていたが、これを逆にして、内輪間座6iが固定側間座、外輪間座6gが回転側間座となっている構成を採用することもできる。このとき、固定側間座である内輪間座6iは、半径方向に並列する第1部材A及び第2部材Bを備えることとなる。
【0059】
上記の各実施形態では、モータ40としてビルトインモータを採用したが、この実施形態には限定されず、ビルトインモータ以外の各種のモータを採用した装置においても、この発明を適用できる。
【0060】
さらに、上記の各実施形態では、軸受装置を用いて主軸4を軸回り回転自在に支持するとともに、その主軸4を軸回り回転させるモータ40を備えたスピンドル装置1を例に、この発明を説明したが、この発明の軸受装置は、スピンドル装置1以外の他の工作機械、その他機器類においても適用することができる。
【0061】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0062】
1 スピンドル装置
4 主軸
5a 第1軸受
5b 第2軸受
5ia,5ib 内輪
5ga,5gb 外輪
6 間座
6h 蓋
6i 内輪間座
6g 外輪間座
6w 凹部
23 ポッティング材
30 回路基板
40 モータ
Ta,Tb 転動体