(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067949
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
F16J15/34 Z
F16J15/34 K
F16J15/34 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178386
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】503227553
【氏名又は名称】イーグルブルグマンジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恵太
【テーマコード(参考)】
3J041
【Fターム(参考)】
3J041AA02
3J041BA04
3J041BA08
3J041BA11
3J041BB05
3J041BD01
3J041DA16
(57)【要約】
【課題】静止密封環と回転密封環の摺動面同士の接触状態を保持したまま、容易に着脱可能なカートリッジ型のメカニカルシールを提供する。
【解決手段】ハウジング3に静止密封環11を保持したシールケース12が取り付けられ、回転軸2に回転密封環21を保持したスリーブ22が外挿され、スリーブ22はセット部材23により回転軸2に固定され、静止密封環11が付勢部材13から付勢力を受け、回転密封環21と相対摺動してシールするカートリッジ型のメカニカルシール1において、セット部材23は、スリーブ22に固定される第1セット部材30と、回転軸2に固定されるとともにスリーブ22に間接的に取り付けられる第2セット部材40とを有し、さらに第1セット部材30は、シールケース12とスリーブ22とを仮止めするセットプレート50を係止可能な係止部33を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに、静止密封環を保持したシールケースが取り付けられており、
前記ハウジングを貫通する回転軸に、回転密封環を保持したスリーブが外挿されており、
前記スリーブはセット部材により前記回転軸に固定されており、
前記静止密封環および前記回転密封環のうち一方の密封環が付勢部材から付勢力を受け、他方の密封環と相対摺動してシールするカートリッジ型のメカニカルシールにおいて、
前記セット部材は、前記スリーブに固定される第1セット部材と、前記回転軸に固定されるとともに前記スリーブに間接的または直接的に取り付けられる第2セット部材とを有し、
さらに前記第1セット部材は、前記シールケースと前記スリーブとを仮止めするセットプレートを係止可能な係止部を備えるメカニカルシール。
【請求項2】
前記第2セット部材は、前記スリーブと軸方位置が異なる場所にあり、前記回転軸にセットスクリュにて固定され、前記スリーブに固定されている前記第1セット部材に連結手段によって連結されている請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項3】
前記連結手段は、ボルトである請求項2に記載のメカニカルシール。
【請求項4】
前記連結手段は、前記第1セット部材と前記第2セット部材との凸部と環状の凹部とが軸方向に嵌合される凹凸嵌合からなる伝達部を有している請求項2に記載のメカニカルシール。
【請求項5】
前記連結手段は、前記第1セット部材と前記第2セット部材との周方向に係合する凹凸嵌合からなる廻り止め部を有している請求項2に記載のメカニカルシール。
【請求項6】
前記第1セット部材は、前記スリーブまたは前記スリーブに固定された部材に係止されるひっかけ部を有している請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項7】
前記第1セット部材には、雌ネジ孔が設けられており、
前記第1セット部材は、前記雌ネジ孔に螺合される第1セット部材側セットスクリュを用いて前記スリーブに固定されている請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項8】
前記第2セット部材は、前記スリーブと前記回転軸との間に挿入される軸方向延出部を有している請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項9】
前記第1セット部材には、第1セット部材側ピン孔が設けられており、
前記スリーブには、スリーブ側ピン孔が設けられており、
前記第1セット部材は、前記第1セット部材側ピン孔および前記スリーブ側ピン孔に挿入されるピンを用いて前記スリーブに固定されている請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項10】
前記係止部は、前記セットプレートを係止可能な溝である請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項11】
前記第1セット部材は、環状である請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項12】
前記第2セット部材は、環状である請求項1に記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルシール、例えば回転軸を軸封するメカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
メカニカルシールは、流体機器のハウジングと該ハウジングを貫通するように配置される回転軸との間に装着して使用されるものである。詳しくは、メカニカルシールは、ハウジングに取付けられる静止密封環の摺動面と、回転軸に取付けられ回転する回転密封環の摺動面とを周方向に摺接させて、被密封流体の漏れを防ぐ機能を有している。
【0003】
このようなメカニカルシールには、静止密封環を含む静止側要素と、回転密封環を含む回転側要素とを一体に仮止めすることで、流体機器への着脱を簡便としたカートリッジ型のメカニカルシールも知られている。
【0004】
例えば、特許文献1に示されるようなカートリッジ型のメカニカルシールは、流体機器におけるハウジングに固定されている静止側要素と、流体機器における回転軸に固定されている回転側要素と、静止側要素および回転側要素を仮止めするセットプレートから主に構成されている。
【0005】
静止側要素は、静止密封環と、シールケースと、付勢部材と、を有している。静止密封環は、シールケースに相対回転が規制された状態で保持されている。また、付勢部材は、静止密封環とシールケースの間に所定量圧縮された状態で配置されている。
【0006】
回転側要素は、回転密封環と、スリーブと、スリーブカラーと、セットスクリュを有している。回転密封環は、スリーブに対して相対回転が規制された状態で装着されている。スリーブには、径方向に貫通するセットスクリュ挿通孔が形成されている。スリーブカラーには、径方向に貫通する雌ネジ孔が形成されている。
【0007】
セットスクリュは、スリーブにスリーブカラーが外挿された状態で、スリーブカラーにおける雌ネジ孔に螺合され、スリーブにおける貫通孔に挿通され、回転軸の外周に圧接されている。これにより、スリーブカラーとスリーブは回転軸に回転規制された状態で固定されている。
【0008】
セットプレートは、流体機器にメカニカルシールが取り付けられる前に、シールケースに係止された状態で、ボルトを用いてスリーブカラーに係止される。これにより、静止側要素と回転側要素は仮止めされる。この仮止めにより、静止側要素と回転側要素とは、軸方向距離が所定間隔に維持される。この際、付勢部材は所定量圧縮され、静止密封環に所定の付勢力が作用する。
【0009】
流体機器にメカニカルシールを取り付ける際には、このように仮止めされているメカニカルシールを回転軸に外挿し、シールケースをハウジングに固定し、スリーブカラーに螺入されているセットスクリュを増し締めして回転軸に圧接させた後、セットプレートを取り外す。これにより、付勢部材が所定量圧縮された状態のままメカニカルシールを流体機器に取り付けることができるため、取り付け作業が簡便である。
【0010】
また、流体機器からメカニカルシールを取り外す際には、セットプレートを用いてメカニカルシールを再び仮止し、セットスクリュを緩めた後、回転軸よりメカニカルシールを抜き出す。これにより、流体機器からメカニカルシール全体を一度に取り外すことができるため、取り外し作業が簡便である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002-156046号公報(第5,6頁、第3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような特許文献1のメカニカルシールにおいては、スリーブカラーにセットプレートが仮止めされる。そのため、スリーブの設計自由度が高められている。
【0013】
ところで、特許文献1のようなメカニカルシールを回転軸に着脱するにあたって、上述したようにセットプレートの着脱とセットスクリュの締緩を行う必要がある。
【0014】
まず、セットプレートの着脱について説明する。同文献におけるセットプレートはスリーブカラーにボルトを用いて固定される。このボルトを回転させることで生じるトルクは、スリーブカラーに伝達され、さらにスリーブカラーに螺合されているセットスクリュを通じてセットスクリュ挿通孔において軸方向に当接しているスリーブへと伝達される。これにより、ボルトの回動に伴ってスリーブカラーがボルトの軸回りに微回動し、スリーブも同方向に微回動する虞がある。
【0015】
次いで、セットスクリュの締緩について説明する。同文献におけるスリーブは、セットプレートが装着された仮止め状態においても、セットプレートが取り外された使用状態においても、付勢部材の付勢により、セットスクリュ挿通孔に挿通されているセットスクリュに軸方向に当接されて位置が保持されている。言い換えれば、セットスクリュを締緩させる回転操作は、付勢部材の付勢力によってスリーブがセットスクリュに圧接されている状態のまま行われる。
【0016】
このことから、セットスクリュを回転させることで生じるトルクはスリーブへ直接伝達される。これにより、スリーブがスリーブカラーに対して相対的に微移動する虞がある。
【0017】
これらのように、セットプレートの着脱とセットスクリュの締緩において、スリーブは微回動や微移動し、スリーブを回転軸から抜き出しにくくなる場合がある。また、スリーブが微回動や微移動することで、静止密封環と回転密封環の摺動面同士が相対的に傾動し破損する虞もある。
【0018】
さらに、セットスクリュが圧接されていた回転軸には圧接箇所にバリが生じている場合がある。このようなバリは、セットプレートによって仮止めされたメカニカルシールを流体機器から取り外すにあたって、スリーブにおける内周面、スリーブと回転軸との間を密封するOリング等を傷付ける虞があった。
【0019】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、静止密封環と回転密封環の摺動面同士の接触状態を保持したまま、容易に着脱可能なカートリッジ型のメカニカルシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題を解決するために、本発明のメカニカルシールは、
ハウジングに、静止密封環を保持したシールケースが取り付けられており、
前記ハウジングを貫通する回転軸に、回転密封環を保持したスリーブが外挿されており、
前記スリーブはセット部材により前記回転軸に固定されており、
前記静止密封環および前記回転密封環のうち一方の密封環が付勢部材から付勢力を受け、他方の密封環と相対摺動してシールするカートリッジ型のメカニカルシールにおいて、
前記セット部材は、前記スリーブに固定される第1セット部材と、前記回転軸に固定されるとともに前記スリーブに間接的または直接的に取り付けられる第2セット部材とを有し、
さらに前記第1セット部材は、前記シールケースと前記スリーブとを仮止めするセットプレートを係止可能な係止部を備えるメカニカルシール。
これによれば、セットプレートを用いてシールケースとスリーブとを仮止めするにあたり、第1セット部材に負荷が作用することを防止することができる。また、セットプレートによって仮止めされているメカニカルシールにおいて、付勢部材の付勢力は第1セット部材を通じてセットプレートに負荷される。そのため、メカニカルシールは、回転軸に固定するにあたって、その影響がスリーブに及びにくくなっている。これらにより、着脱時においてメカニカルシールはその姿勢を保持しやすくなっている。このことから、メカニカルシールは、静止密封環と回転密封環の摺動面同士の接触状態を保持したまま、容易に着脱することができる。
【0021】
前記第2セット部材は、前記スリーブと軸方位置が異なる場所にあり、前記回転軸にセットスクリュにて固定され、前記スリーブに固定されている前記第1セット部材に連結手段によって連結されていてもよい。
これによれば、流体機器からメカニカルシールを取り外す際に、セットプレートを用いてシールケースとスリーブとを仮止めし、連結手段による連結を解除し、セットスクリュを緩め、第2セット部材を移動させることで、仮止めしたままセットスクリュにより生じたバリを簡便に除去することができる。これにより、流体機器から取り外すにあたって、メカニカルシールは、スリーブにおける内周面、スリーブと回転軸との間を密封するOリング等がバリによって傷付けられることを未然に防ぐことができる。
【0022】
前記連結手段は、ボルトであってもよい。
これによれば、第1セット部材と第2セット部材の着脱が容易であるばかりでなく、第2セット部材から第1セット部材へのトルク伝達を高めることができる。
【0023】
前記連結手段は、前記第1セット部材と前記第2セット部材との凸部と環状の凹部とが軸方向に嵌合される凹凸嵌合からなる伝達部を有していてもよい。
これによれば、第1セット部材と第2セット部材との位置決めが容易となるばかりでなく、第2セット部材から第1セット部材へのトルク伝達を高めることができる。
【0024】
前記連結手段は、前記第1セット部材と前記第2セット部材との周方向に係合する凹凸嵌合からなる廻り止め部を有していてもよい。
これによれば、第1セット部材と第2セット部材との位置決めが容易となるばかりでなく、第2セット部材から第1セット部材へのトルク伝達をより高めることができる。
【0025】
前記第1セット部材は、前記スリーブまたは前記スリーブに固定された部材に係止されるひっかけ部を有していてもよい。
これによれば、スリーブに対する第1セット部材の位置決めが容易となる。従って、第1セット部材に対するセットプレートの位置決めも容易となり、適切な位置にて静止側要素と回転側要素とを仮止めすることができる。また、スリーブに対して第1セット部材が滑りにくくなる。
【0026】
前記第1セット部材には、雌ネジ孔が設けられており、
前記第1セット部材は、前記雌ネジ孔に螺合される第1セット部材側セットスクリュを用いて前記スリーブに固定されていてもよい。
これによれば、簡便に第1セット部材をスリーブに固定することができる。
【0027】
前記第2セット部材は、前記スリーブと前記回転軸との間に挿入される軸方向延出部を有していてもよい。
これによれば、スリーブに対する第2セット部材の位置決めが容易となる。また、スリーブに対して第2セット部材を位置決めした状態でスリーブに対して第2セット部材が滑りにくく、第2セット部材を第1セット部材に連結しやすい。
【0028】
前記第1セット部材には、第1セット部材側ピン孔が設けられており、
前記スリーブには、スリーブ側ピン孔が設けられており、
前記第1セット部材は、前記第1セット部材側ピン孔および前記スリーブ側ピン孔に挿入されるピンを用いて前記スリーブに固定されていてもよい。
これによれば、簡素な構成でスリーブに対して第1セット部材を廻り止めできるばかりでなく、着脱可能に配置することができる。
【0029】
前記係止部は、前記セットプレートを係止可能な溝であっていてもよい。
これによれば、簡素な構成で、静止側要素と回転側要素とを仮止めすることができる。
【0030】
前記第1セット部材は、環状であってもよい。
これによれば、スリーブに対する固定が容易である。
【0031】
前記第2セット部材は、環状であってもよい。
これによれば、回転軸に対する固定が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明に係る実施例1のメカニカルシールを示す断面図である。
【
図2】(a)は実施例1のメカニカルシールにおける第1セットリングを軸方向一方側から見た図であり、(b)は同第2セットリングを軸方向他方側から見た図である。
【
図3】実施例1のメカニカルシールについて仮止め状態かつ流体機器に取り付けられる前の状態を示す断面図である。
【
図4】実施例1のメカニカルシールについて仮止め状態かつ流体機器に取り付けられた後の状態を示す断面図である。
【
図5】実施例1のメカニカルシールを仮止め状態かつ流体機器に取り付けられた後の状態としたまま、第2セット部材を取り外した状態を示す断面図である。
【
図6】実施例1のメカニカルシールを仮止め状態としたまま、流体機器より取外した状態を示す断面図である。
【
図7】(a)は実施例1のメカニカルシールにおける第1セットリングの別形態を軸方向一方側から見た図であり、(b)は同第2セットリングの別形態を軸方向他方側から見た図である。
【
図8】本発明に係る実施例2のメカニカルシールについて仮止め状態を示す断面図である。
【
図9】本発明に係る実施例3のメカニカルシールについて仮止め状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明に係るメカニカルシールを実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0034】
実施例1に係るメカニカルシールにつき、
図1から
図7を参照して説明する。以下、
図1の紙面左側を左側、紙面右側を右側として説明する。
【0035】
図1に示されるように、本実施例のメカニカルシール1は、流体機器における回転軸2とハウジング3との間をシールするためのものである。
【0036】
メカニカルシール1は、静止側要素10と、回転側要素20と、から主に構成されている。
【0037】
静止側要素10は、静止密封環11と、シールケース12と、付勢部材13を有している。
【0038】
静止密封環11は、シールケース12に対して非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で設けられている。
【0039】
シールケース12は略円筒状に形成されており、ハウジング3に固定されているボルト4にナット5が締結されてハウジング3に取り付けられている。また、シールケース12とハウジング3との間はOリングによって密封されている。
【0040】
付勢部材13は、静止密封環11とシールケース12の間に所定量圧縮された状態で配置されている。これにより、静止密封環11と回転密封環21は、それぞれの摺動面11a,21a同士の適度な密接状態が保たれている。
【0041】
回転側要素20は、回転密封環21と、スリーブ22と、セットリング23を有している。
【0042】
回転密封環21は、回転軸2と共に回転可能かつ軸方向移動可能な状態で設けられている。
【0043】
スリーブ22は外径側段付き円筒状に形成されている。スリーブ22における軸方向中央左側には、その内周面より外径側に向かって凹設され、内径側に開放されている環状の凹部が形成されている。この凹部内にはOリング24が配置されている。これにより、回転軸2とスリーブ22との間は密封されている。なお、Oリング24は、スリーブ22と回転軸2との間を密封可能であれば、その位置は適宜変更されてもよい。
【0044】
セットリング23は、第1セット部材としての第1セットリング30と、第2セット部材としての第2セットリング40と、連結手段としての4つのボルト25から主に構成されている。
【0045】
図1,
図2(a)に示されるように、第1セットリング30は環状に形成されている。第1セットリング30は、4等配されている径方向雌ネジ孔31と、4等配されている軸方向雌ネジ穴32と、環状溝33と、環状の切欠き部34と、ひっかけ部35を有している。
【0046】
径方向雌ネジ孔31は、外径側に形成されているザグリと共に第1セットリング30を径方向に貫通している。軸方向雌ネジ穴32は、第1セットリング30における右端面より軸方向左側に向かって凹設されており、軸方向右側に開放されている(
図1参照)。
【0047】
4つの径方向雌ネジ孔31と4つの軸方向雌ネジ穴32は周方向において互い違いに配置されている(
図2参照)。これにより、第1セットリング30における軸方向寸法は、径方向雌ネジ孔と軸方向雌ネジ穴をそれぞれ周方向において同じ位置に配置する構成よりも短くなっている。そのため、第1セットリング30は十分な構造強度を備えつつ小型となっている。
【0048】
環状溝33は、第1セットリング30における外周面の軸方向中央より内径側に向かって凹設されており、外径側に開放されている。また、環状溝33は周方向に延びる環状の溝である。環状溝33は、後述するように、セットプレート50が係止される係止部である。
【0049】
環状溝33の一部は軸方向雌ネジ穴32に連通するザグリを横切っている。これにより、第1セットリング30における軸方向寸法は、径方向雌ネジ孔とセットプレートに対する係止部を軸方向に並べて配置する構成よりも短くなっている。
【0050】
凹部としての切欠き部34は、第1セットリング30における軸方向右端外径側に形成されている。切欠き部34は、第1セットリング30における外周面より内径側に向かって凹設され、かつ同右端面より軸方向左側に向かって凹設されており、外径側かつ軸方向右側に開放されている。また、切欠き部34は周方向に延びる環状である。
【0051】
ひっかけ部35は、第1セットリング30における軸方向右端内径側に形成されている。ひっかけ部35は、第1セットリング30における内周面より内径側に向かって庇状に突出している。また、ひっかけ部35の内径は、スリーブ22の外径よりも小径かつ回転軸2の外径よりも大径となっている。
【0052】
第1セットリング30は、径方向雌ネジ孔31に螺入されているセットスクリュ26がスリーブ22に圧接されて、スリーブ22に固定されている。
【0053】
図1,
図2(b)に示されるように、第2セットリング40は環状に形成されている。第2セットリング40は、4等配されている径方向雌ネジ孔41と、4等配されている軸方向貫通孔42と、4等配されているザグリ43と、環状の凸部44を有している。
【0054】
径方向雌ネジ孔41は、外径側に形成されているザグリと共に第2セットリング40を径方向に貫通している。軸方向貫通孔42は、軸方向右側に形成されているザグリ43と共に、第2セットリング40を軸方向に貫通している。4つの径方向雌ネジ孔41と4つの軸方向貫通孔42は周方向において互い違いに配置されている。
【0055】
凸部44は、第2セットリング40における軸方向左端外径側に形成されている。凸部44は、第1セットリング30における切欠き部34と嵌合可能に形成されており、第2セットリング40における左端面より軸方向左側に向かって庇状に突出している。また、凸部44は周方向に延びる環状である。
【0056】
第2セットリング40は、軸方向貫通孔42に挿通されたボルト25が、第1セットリング30における軸方向雌ネジ穴32に締結されることで、第1セットリング30に連結されている。
【0057】
また、第2セットリング40は、径方向雌ネジ孔41に螺入されているセットスクリュ27が回転軸2に圧接されて、回転軸2に固定されている。
【0058】
次に、メカニカルシール1の仮止めについて説明する。
図3に示されるように、本実施例のメカニカルシール1は、4つのセットプレート50を用いて静止側要素10および回転側要素20を仮止めすることができる。なお、
図3では、メカニカルシール1は流体機器に取り付けられる前の状態にある。
【0059】
まず、セットプレート50について説明する。セットプレート50は、断面視d字状のプレート状に形成されている。セットプレート50は、基部51と、凸部52を有している。
【0060】
凸部52は、基部51における右端内径側に形成されており、基部51における内径側端面から内径側に向かって庇状に突出している。また、凸部52は、第1セットリング30における環状溝33に挿入可能に形成されている。
【0061】
次に、静止側要素10および回転側要素20を仮止めして、流体機器に取り付けるまでの手順について説明する。なお、
図3において、セットスクリュ26,27は、対応する径方向雌ネジ孔31,41に螺入されるものとして図示されているが、流体機器に取り付けるまで螺入されていなくてもよい。
【0062】
図3を参照して、まず、4つのボルト25を用いて第1セットリング30と第2セットリング40を連結し、セットリング23を組み立てる。
【0063】
詳しくは、最初に第2セットリング40における凸部44と、第1セットリング30における切欠き部34とを凹凸嵌合させる。これにより、第2セットリング40は、第1セットリング30に対する径方向の位置合わせがなされる。
【0064】
また、凸部44と切欠き部34とを凹凸嵌合させた状態のまま、第1セットリング30を第2セットリング40に対して相対的に周方向へ回動させる。これにより、第1セットリング30における軸方向雌ネジ穴32と、第2セットリング40における軸方向貫通孔42との位置合わせを容易に行うことができる。
【0065】
また、凸部44における左端面および内周面は、切欠き部34を構成する右端面および外周面に面当接する。そのため、第1セットリング30に対して第2セットリング40は周方向に滑りにくくなる。
【0066】
加えて、ひっかけ部35における右端面は第1セットリング30における右端面に面一となっている。これにより、第1セットリング30は第2セットリング40に広い範囲で面当接する。そのため、第1セットリング30に対して第2セットリング40は周方向に滑りにくくなる。
【0067】
そして、第2セットリング40における軸方向貫通孔42に挿通させたボルト25を、第1セットリング30における軸方向雌ネジ穴32と締結させてセットリング23とする。このように、第2セットリング40を第1セットリング30に取り付けることができるため、取り付けの操作が容易である。
【0068】
このとき、上述したように第1セットリング30に対して第2セットリング40は周方向に滑りにくくなっているため、各ボルト25の螺入操作が容易である。
【0069】
また、ボルト25における頭部は、その全体が第2セットリング40におけるザグリ43内に配置される。そのため、ボルト25が第2セットリング40よりも軸方向右側に突出しておらず回転時の抵抗が小さい。
【0070】
次いで、回転密封環21が取り付けられたスリーブ22に静止側要素10を外挿し、スリーブ22における右端部にセットリング23を外嵌する。このとき、第1セットリング30におけるひっかけ部35をスリーブ22における右端面に当接させることで、スリーブ22に対するセットリング23の軸方向に位置決めを容易になすことができる。
【0071】
また、ひっかけ部35における左端面をスリーブ22における右端面に当接させることにより面当接する範囲が増す。そのため、スリーブ22に対して第1セットリング30は周方向に滑りにくくなる。これにより、セットスクリュ26とスリーブ22における凹部22aとの位置合わせが容易である。
【0072】
また、環状である第1セットリング30は、スリーブ22に外挿することで互いの軸心位置をほぼ一致させることができる。これにより、各セットスクリュ26をスリーブ22の内径方向に進出させて、凹部22aの底面に圧接させることができる。
【0073】
例えば、互いに別体である複数の切片状の第1セット部材を個別にスリーブ22に装着するような構成では、第2セットリング40に対する径方向および軸方向位置を合わせ、かつセットスクリュ26がスリーブ22に対して内径方向に進出するように、径方向雌ネジ孔31の角度を調整する必要がある。そのため、本実施例の第1セットリング30はスリーブ22への固定が容易である。
【0074】
さらに、スリーブ22における凹部22a内に挿入されているセットスクリュ26は、第1セットリング30がスリーブ22に対して相対的に周方向に移動しようとしても、その移動を規制することができる。
【0075】
また、上述したように、凹凸嵌合されている切欠き部34と凸部44ばかりでなく、ひっかけ部35も面当接していることから、スリーブ22に対して第1セットリング30がより滑りにくくなっている。そのため、各セットスクリュ26の螺入操作が容易である。
【0076】
次いで、セットリング23を把持する等して回転側要素20を静止側要素10に対して軸方向右側に移動させる。これにより、回転密封環21と共に静止密封環11を軸方向右側へと移動させて付勢部材13が圧縮される。
【0077】
その後、セットプレート50における凸部52を第1セットリング30における環状溝33に係合させて、セットプレート50における基部51の左端面をシールケース12における右端面に当接させる。この状態で、基部51における貫通孔(図示略)にボルト53を挿通させシールケース12における雌ネジ穴(図示略)に締結することで、セットプレート50をシールケース12に固定する。
【0078】
このとき、無端状である環状溝33は、周方向におけるスリーブ22と第1セットリング30との位置に拘らず、シールケース12に形成されている雌ネジ穴にセットプレート50における基部51の貫通孔(図示略)の位置を合わせて、凸部52を環状溝33に係合させることができる。そのため、第1セットリング30およびシールケース12に対するセットプレート50の位置合わせが容易である。
【0079】
また、セットプレート50における凸部52を環状溝33に挿入した状態のままセットプレート50を周方向に移動させることで、セットプレート50は同移動を環状溝33に案内させることができる。そのため、シールケース12における雌ネジ穴にセットプレート50における貫通孔の位置を合わせることが容易となる。
【0080】
さらに、上述したように、スリーブ22に対する第1セットリング30の軸方向に位置決めがなされているため、第1セットリング30に対するセットプレート50の位置決めも容易となる。
【0081】
他のセットプレート50についても同様に取り付ける。これにより、回転密封環21が静止密封環11に対して離間方向、すなわち軸方向左側に移動しようとしても、また回転側要素20が静止側要素10に対して径方向に移動しようとしても、各セットプレート50によって規制される。これらのように、適切な位置にて静止側要素10と回転側要素20とを仮止めすることができる。
【0082】
また、セットプレート50はその凸部52を環状溝33に係合する構成である。そのため、特許文献1におけるメカニカルシールのように、セットプレートをスリーブカラーにボルト固定することにより生じるトルクが、スリーブカラーを通じてスリーブに作用することが防止されている。すなわち、本実施例では、セットプレート50を第1セットリング30に取り付けるにあたって、スリーブ22が第1セットリング30に対して相対的に微傾動するような力が加わることが防止されている。このことから、メカニカルシール1を仮固定するにあたって、メカニカルシール1は姿勢を保持しやすくなっている。
【0083】
また、セットプレート50における軸方向寸法は、予め付勢部材13を所定量圧縮した状態で仮止めされるように設計がなされている。これにより、所定量圧縮された付勢部材13から静止密封環11、回転密封環21を通じてスリーブ22に作用する付勢力を、セットプレート50は、スリーブ22に固定されている第1セットリング30を通じて負担することができる。
【0084】
また、メカニカルシール1は、セットプレート50を用いてシールケース12とセットリング23が連結されることから、スリーブに要求される板厚が、セットプレートが係止される溝等の係止部を確保できないほど薄い場合等であっても、静止側要素と回転側要素とを仮止めすることができる。そのため、スリーブの設計自由度が高い。
【0085】
なお、メカニカルシール1を組み立てる手順については適宜変更されてもよい。例えば、第1セットリング30をスリーブ22に固定した後で、第1セットリング30に第2セットリング40を固定するようにしてもよい。
【0086】
図4を参照して、仮止めされているメカニカルシール1を流体機器に取り付けるにあたっては、まず同メカニカルシール1を回転軸2に外挿する。次いで、シールケース12をボルト4およびナット5にてハウジング3と締結し、第2セットリング40における径方向雌ネジ孔41に螺入されている各セットスクリュ27を回転軸2に圧接させる。その後、ボルト53を緩めセットプレート50をシールケース12から取り外す。
【0087】
このようにして、メカニカルシール1は、付勢部材13が所定量圧縮された状態かつ、静止密封環11と回転密封環21とが相対回転可能な状態で流体機器に取り付けられる(
図1参照)。
【0088】
また、各セットスクリュ27を回転軸2に圧接させるにあたって、上述したように各セットプレート50は第1セットリング30を通じて付勢部材13の付勢力を負担している。このことから、仮止めされているメカニカルシール1において、付勢部材13の付勢力は、各セットスクリュ27に及びにくくなっている。そのため、仮止めされているメカニカルシール1ではセットスクリュ27を容易に回転させることができる。
【0089】
また、セットスクリュ27を回転させることにより生じるトルクが第2セットリング40、第1セットリング30などを通じてスリーブ22に及びにくくなっている。このことから、スリーブ22は回転軸2に対して微移動することが防止されている。このように、仮止めされているメカニカルシール1は、回転軸2に固定されるにあたって、その姿勢を保持しやすくなっている。
【0090】
また、セットプレート50をシールケース12から取り外すにあたって、ボルト53を緩めたのち、セットプレート50における凸部52を環状溝33より抜き出すだけでよい。そのため、特許文献1におけるメカニカルシールのようにスリーブカラーからボルトを抜き出すことにより生じるトルクが、スリーブカラーを通じてスリーブに作用することが防止されている。このことから、本実施例のメカニカルシール1は、仮固定されるにあたってその姿勢を保持しやすくなっている。
【0091】
また、メカニカルシール1を流体機器に取り付けた状態において、付勢部材13の付勢力は、第1セットリング30、第2セットリング40などを通じて各セットスクリュ27が負担している。これは、各セットスクリュ27と径方向雌ネジ孔41とのごくわずかな隙間分、スリーブ22が移動することによる。
【0092】
メカニカルシール1は、回転軸2が回転するにあたって、セットリング23、スリーブ22を通じて回転密封環21にトルクが伝達される。
【0093】
これについて詳しくは、回転軸2の回転により生じるトルクは、各セットスクリュ27を通じて第2セットリング40に伝達される。また、同トルクは、各ボルト25を通じて第1セットリング30に伝達される。
【0094】
また、上述したように、第2セットリング40における凸部44は、第1セットリング30における切欠き部34と広い範囲で面当接されているため、第2セットリング40が受けるトルクは、各ボルト25ばかりでなく、凹凸嵌合されている凸部44および切欠き部34からも第1セットリング30に伝達される。このように、トルク伝達の効率は高められている。このように、セットリング23は、切欠き部34と凸部44との凹凸嵌合からなる伝達部23aを有している。
【0095】
また、環状である第2セットリング40は、回転軸2に外挿することにより、互いの軸心位置を一致させやすくなっている。これにより、各セットスクリュ27を回転軸2の内径方向に進出させて圧接させることができる。
【0096】
例えば、互いに別体である複数の切片状の第2セット部材を個別に回転軸2に装着するような構成では、第1セットリング30に対する径方向および軸方向位置を合わせ、かつセットスクリュ27が回転軸2に対して内径方向に進出するように、径方向雌ネジ孔41の角度を調整する必要がある。そのため、本実施例の第2セットリング40は回転軸2への固定が容易である。
【0097】
また、セットリング23は第1セットリング30と第2セットリング40に分割されていることに加え、これらが軸方向に挿通されている各ボルト25によって連結されている。このことから、第1セットリング30の機能と、第2セットリング40の機能を有する一体のセットリングを適用する構成と比較して、メカニカルシール1は回転軸2から受ける径方向の振動を軽減することができる。
【0098】
次に、流体機器からメカニカルシール1を取り外す手順について説明する。
【0099】
まず、
図1に示されるメカニカルシール1に対して、上述したように各セットプレート50にて静止側要素10と回転側要素20を仮止めし(
図4参照)、第2セットリング40における径方向雌ネジ孔41に螺合されている各セットスクリュ27を緩める。
【0100】
このとき、上述したように、各セットプレート50は、第1セットリング30を通じて付勢部材13の付勢力を負担する。また、各セットスクリュ27に作用する付勢部材13の付勢力は軽減される。このことから、仮止めされているメカニカルシール1は、取り外し時においてその姿勢を保持しやすくなっている。
【0101】
次いで、各ボルト25による第1セットリング30と第2セットリング40との連結を解除する。これにより、第2セットリング40を第1セットリング30から取り外すことができるため、取り外しの操作が容易である。
【0102】
このとき、上述したように、各セットプレート50が付勢部材13の付勢力を負担しているため、各ボルト25を緩めて取り外すことが容易である。また、第2セットリング40を取り外しても、メカニカルシール1は仮止めされている状態を保つことができる。なお、各ボルト25、各セットスクリュ27の順で螺出操作がなされてもよく、適宜変更されてもよい。
【0103】
続けて、
図5に示されるように、第2セットリング40を回転軸2から取り外す。これにより、第1セットリング30とシールケース12がセットプレート50により連結された仮止め状態のまま、各セットスクリュ27が圧接されていた回転軸2における圧接箇所を露出させることができる。そのため、吹き出し内にて網掛けして示す研磨領域Pのように、各セットスクリュ27の圧接により生じていたバリB等を研磨する等して簡便に除去することができる。なお、
図5では、バリBを誇張して図示している。
【0104】
その後、ボルト4からナット5を取り外し、第2セットリング40以外のメカニカルシール1を回転軸2より取り外す(
図6参照)。バリB等が除去されていることから、バリB等によりスリーブ22、Oリング24等が損傷することを防止して、メカニカルシール1を流体機器より取り外すことができる。
【0105】
また、メカニカルシール1を流体機器より取り外した後、第2セットリング40を第1セットリング30に連結することで、再度回転軸2に取り付けることが可能となる。
【0106】
以上説明したように、本実施例のメカニカルシール1は各セットプレート50を用いてシールケース12とスリーブ22とを仮止めするにあたり、第1セットリング30に負荷が作用することを防止することができる。
【0107】
また、各セットプレート50によって仮止めされているメカニカルシール1において、付勢部材13の付勢力は第1セットリング30を通じて各セットプレート50に負荷される。そのため、メカニカルシール1は、回転軸2に固定するにあたって、その影響がスリーブ22に及びにくくなっている。
【0108】
これらにより、着脱時においてメカニカルシール1はその姿勢を保持しやすくなっている。このことから、メカニカルシール1は、静止密封環11と回転密封環21の摺動面11a,21a同士の接触状態を保持したまま、容易に着脱することができる。
【0109】
なお、第1セットリング30をスリーブ22に固定する固定手段については、セットスクリュ26に限定されるものではなく、後述するピンとスプリットリングであってもよく、ピン単体であってもよく、その構成は適宜変更されてもよい。
【0110】
また、セットスクリュ26は、4等配されているとして説明したが、これに限らず、セットスクリュ26の数や配置は適宜変更されてもよい。これはセットスクリュ27、ボルト25についても同様である。
【0111】
また、セットスクリュ26は、スリーブ22における凹部22a内に挿入されるとして説明したが、これに限られず、スリーブ22に凹部22aが形成されておらず、周方向に連続する平坦面状の外周面のいずこかに圧接される構成であってもよい。このような構成であれば、第1セットリング30と凹部22aとの周方向における位置合わせを省略することができる。
【0112】
また、伝達部23aは、共に環状である切欠き部34および凸部44から構成されているとして説明したが、これに限られず、切欠き部34が環状であれば、凸部は周方向に破断している形状であってもよく、切欠き部34内に配置可能な1以上のピン、ボルト等であってもよく、適宜変更されてもよい。
【0113】
また、本実施例では、セットリング23は連結手段としての伝達部23aを有している構成として説明したが、これに限られず、
図7に示されるように、第1セットリング30Aと第2セットリング40Aとの廻り止めをなす連結手段としての廻り止め部23bが構成されていてもよい。
【0114】
より詳しくは、廻り止め部23bは、第1セットリング30Aにおける切欠き部34Aに、第2セットリング40Aにおける凸部44Aが周方向に係合した状態に凹凸嵌合されて構成されている。切欠き部34Aは、周方向両端が閉塞されている有端形状である。凸部44Aは、切欠き部34Aと嵌合可能に形成されている。これら、切欠き部34Aおよび凸部44Aは8等配されている。
【0115】
これにより、セットリングを組み立てるにあたって、第2セットリング40Aにおける各凸部44Aと、対応する第1セットリング30Aにおける切欠き部34Aとを凹凸嵌合させる。これにより、第2セットリング40Aは、第1セットリング30Aに対する周方向および径方向の位置合わせがなされる。また、第1セットリング30Aにおける軸方向雌ネジ穴32と、第2セットリング40Aにおける軸方向貫通孔42との位置合わせがなされる。また、ボルト25締結後において、第1セットリング30Aと第2セットリング40Aとの相対回転を規制できるようになっている。
【0116】
また、メカニカルシールが流体機器に取り付けられた状態において、第2セットリング40Aにおける凸部44Aは、第1セットリング30Aにおける切欠き部34Aの周方向端部によって周方向への移動が規制される。そのため、第2セットリング40Aが受けるトルクは、各ボルト25ばかりでなく、廻り止め部23bからも第1セットリング30Aに伝達される。このように、廻り止め部23bはトルク伝達の効率をより高めることができる。
【0117】
なお、廻り止め部は、第1セットリングにおいて8等配されている切欠き部と、第2セットリングにおいて8等配されている凸部から構成されている構成として説明したが、これに限られず、その数や配置は適宜変更されてもよい。
【0118】
また、廻り止め部は、周方向への移動が規制可能であればよいため、周方向両端が閉塞している切欠き部に限られず、周方向両端が閉塞している溝状、凹状等であってもよく、矩形状や半月状に切欠かれていてもよく、多角形状、楕円状等に形成された環状の切欠き部と環状の凸部が係合される構成であってもよく、廻り止め可能であればその構成は適宜変更されていてもよい。
【0119】
また、伝達部および廻り止め部は、第1セットリングに形成されている切欠き部と、第2セットリングに形成されている凸部から構成されている構成として説明したが、これに限られず、第1セットリングに形成されている凸部と、第2セットリングに形成されている切欠き部から構成されていてもよく、凹凸嵌合可能であれば適宜変更されてもよい。
【0120】
また、セットリングは、伝達部および廻り止め部の一方のみ有する構成として説明したが、これに限られず、例えば径方向に異なる位置に伝達部および廻り止め部がそれぞれ形成されていてもよい。
本実施例2のメカニカルシール101は、回転側要素120におけるスリーブ122の軸方向右側の端部122aが拡径されて軸方向に沿って延びている。また、端部122aには、径方向に貫通するピン孔122bが形成されている。
第1セットリング130におけるピン孔131には、スリーブ122におけるピン孔122bに径方向内径側より外径側に向かって挿通されているピン28が設けられている。ピン28における頭部はピン孔122b内に配置されている。
切欠き部136は、第1セットリング130における内周面より外径側に向かって凹設され、かつ同右端面より軸方向左側に向かって凹設されており、内径側かつ軸方向右側に開放されている。また、切欠き部136は周方向に延びる環状であり、スリーブ122における端部122aに外嵌固定されているスプリットリング29と嵌合可能に形成されている。
これらピン28により、第1セットリング130は、スリーブ122に対する軸方向および周方向への相対移動が規制されている。加えて、ひっかけ部135における右端面がスプリットリング29に面当接することにより、第1セットリング130は、スリーブ122に対する軸方向への相対移動が規制されている。また、スリーブ122に対して第1セットリング130が滑り難くなる。
円筒部145は、スリーブ122における端部122aに内嵌可能に形成されている。フランジ部146は、円筒部145における右端外周面に略直交して外径側に延びている。環状凸部147は、フランジ部146における内径端右端面より軸方向右側に突出している。また、フランジ部146には軸方向貫通孔142が形成され、環状凸部147には径方向雌ネジ孔141が形成されている。
セットプレート150は、径方向長寸の大プレート片154と、径方向短寸の小プレート片155を有している。大プレート片154は、円板状に形成されている。小プレート片155は、大プレート片154より小径の円板状に形成されている。また、小プレート片155は大プレート片154における外径側かつシールケース112側に重ねて設けられている。
ここで、大プレート片154と小プレート片155が軸方向に重なっている部分が本実施例における基部151である。また、大プレート片154において小プレート片155よりも内径側に突出している部分が本実施例における凸部152である。
まず、回転密封環121が取り付けられたスリーブ122に、静止密封環111と、シールケース112と、付勢部材113を有する静止側要素110を外挿し、スリーブ122における端部122aにピン28とスプリットリング29を用いて第1セットリング130を固定する。
このとき、第1セットリング130におけるひっかけ部135を、スリーブ122に固定されているスプリットリング29に当接させることで、スリーブ122に対する第1セットリング130の軸方向に位置決めを容易になすことができる。そのため、スリーブ122におけるピン孔122bと第1セットリング130におけるピン孔131との位置合わせが容易である。
次いで、第1セットリング130における環状溝33にセットプレート150における凸部152を係合させ、ボルト53を用いて第1セットリング130をシールケース112に固定する。
このとき、上述したように、スリーブ122に対する第1セットリング130の軸方向に位置決めがなされているため、第1セットリング130に対するセットプレート150の位置決めも容易となる。これにより、適切な位置にて静止側要素110と回転側要素120とを仮止めすることができる。
続けて、第2セットリング140における円筒部145をスリーブ122における端部122aと回転軸102との間に挿入する。このとき、円筒部145は、端部122aと回転軸102により径方向への移動が規制されて軸方向への移動が案内される。そのため、第2セットリング140はスリーブ122に対する径方向および周方向の位置決めが容易である。
そして、ボルト125にて第1セットリング130に第2セットリング140を締結する。なお、本実施例では、ボルト125と第2セットリング140との間にスペーサが介在されている。
このとき、円筒部145は、端部122aや回転軸102と広い範囲で面当接しており、スリーブ122に対して第2セットリング140が滑りにくくなっていることから、ボルト125の螺入操作が容易である。そのため、第2セットリング140を第1セットリング130に連結しやすくなっている。
また、第1セットリング130に第2セットリング140が軸方向に近接することに応じて、スリーブ122と円筒部145との間に配置されているOリング124は狭圧されてスリーブ122と回転軸102とに圧着される。すなわち、第2セットリング140は押輪としての機能を兼ねている。
また、第2セットリング140は、フランジ部146がスリーブ122および第1セットリング130に当接することで軸方向への移動が規制され、位置決めがなされる。
その後、セットスクリュ27を螺入操作して回転軸102に圧接させて、セットプレート150を取り外す。このようにして、メカニカルシール101は流体機器に取り付けられる。
なお、第1セットリング130をスリーブ122に固定する固定手段については、ピン28とスプリットリング29に限定されるものではなく、セットスクリュであってもよく、その構成は適宜変更されてもよい。
また、第1セットリング130におけるひっかけ部135が係止されるのは、スリーブ122に固定されているスプリットリング29であるとして説明したが、これに限られず、ピンであってもよく、セットスクリュであってもよく、ひっかけ部135を係止できる構造であれば適宜変更されてもよい。