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特開2024-67954空中浮遊体および空中浮遊体の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067954
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】空中浮遊体および空中浮遊体の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B64B 1/60 20060101AFI20240510BHJP
   B64B 1/44 20060101ALI20240510BHJP
   B64D 41/00 20060101ALI20240510BHJP
   B64D 47/00 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
B64B1/60
B64B1/44
B64D41/00
B64D47/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178397
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100163511
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 啓太
(72)【発明者】
【氏名】松田 和也
(72)【発明者】
【氏名】山本 敏治
(57)【要約】
【課題】差圧を低減するための被膜の内部の気体の排出と、高度の維持のための気体の排出量の低減との両立を図る。
【解決手段】
本開示に係る空中浮遊体10は、空気よりも比重の小さい第1の気体が封入されるガスバッグ11と、ガスバッグ11を内包するとともに、空気よりも比重の小さい第二の気体が封入される外皮12と、を備え、ガスバッグ11における気体の通気度が、外皮12における気体の通気度よりも小さい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気よりも比重の小さい第一の気体が封入されるガスバッグと、
前記ガスバッグを内包するとともに、空気よりも比重の小さい第二の気体が封入される外皮と、を備え、
前記ガスバッグにおける前記第一の気体の通気度が、前記外皮における前記第二の気体の通気度よりも小さい、空中浮遊体。
【請求項2】
前記外皮は、繊維からなる織構造体を含む、請求項1に記載の空中浮遊体。
【請求項3】
前記ガスバッグに前記第一の気体を供給する外部タンクと、
前記外部タンクから前記ガスバッグへの前記第一の気体の供給を制御可能なバルブと、をさらに備える、請求項1に記載の空中浮遊体。
【請求項4】
高度センサと、
制御装置と、をさらに備え、
前記制御装置は、
前記高度センサから前記空中浮遊体の高度に関する高度情報を取得する取得部と、
前記高度情報から特定される前記空中浮遊体の高度が、前記空中浮遊体の目標高度よりも所定の割合だけ低い落下高度未満である場合、前記バルブを制御して所定量の気体を前記ガスバッグに供給する処理部と、を備える、請求項3に記載の空中浮遊体。
【請求項5】
前記ガスバッグの外表面にアンテナが設けられている、請求項1に記載の空中浮遊体。
【請求項6】
前記外皮の比誘電率が、1.0以上、3.5以下である、請求項5に記載の空中浮遊体。
【請求項7】
回転軸をさらに備え、
前記回転軸は、前記外皮の周方向に前記外皮を回転可能に支持される、請求項1に記載の空中浮遊体。
【請求項8】
前記回転軸周りに回転可能であり、前記外皮と連結された回転子をさらに備える、請求項7に記載の空中浮遊体。
【請求項9】
前記回転軸と連結され、前記回転軸の回転により発電する発電機をさらに備える、請求項7に記載の空中浮遊体。
【請求項10】
空気よりも比重の小さい気体が封入されるガスバッグと、前記ガスバッグに前記気体を供給する外部タンクと、前記外部タンクから前記ガスバッグへの前記気体の供給を制御可能なバルブと、高度センサと、を備える空中浮遊体の制御方法であって、
前記高度センサから前記空中浮遊体の高度に関する高度情報を取得するステップと、
前記高度情報から特定される高度が、前記空中浮遊体の目標高度よりも所定の割合だけ低い落下高度未満である場合、前記バルブを制御して所定量の気体を前記ガスバッグに供給するステップと、を含む、空中浮遊体の制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空中浮遊体および空中浮遊体の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被膜の内部に空気よりも比重の小さい気体を密閉することで浮遊する空中浮遊体が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような空中浮遊体で得られる浮力Fupは以下の式(1)で示される。式(1)においては、被膜の内部に封入される気体はヘリウムガスであるとする。また、式(1)において、ρatmは空中浮遊体の周囲の外気の質量密度であり、ρHeは被膜の内部に封入されるヘリウムガスの質量密度であり、Vは被膜の体積であり、Gは重力加速度である。
Fup=(ρatm-ρHe)VG 式(1)
【0003】
空中浮遊体が空中で静止する高度は、空中浮遊体の浮力と重力との作用が釣り合う高度である。すなわち、以下の式(2)が成立する高度で空中浮遊体は静止する。式(2)において、Mは被膜に封入される気体を除く、空中浮遊体の全体の重さであり、被膜の重量および被膜に取り付けられるペイロードの重量を加算した重量である。
(ρatm-ρHe)VG=MG 式(2)
【0004】
式(2)において、質量密度ρatmは高度に応じて変化する値であり、大気モデル(例えば、US Standard Atmosphere 1976)に基づき算出される。地表では、(ρatm-ρHe)VG>MGとなり、浮力が重力を上回るため、空中浮遊体は上昇する。高度が高くなるほど質量密度ρatmは小さくなるため、空中浮遊体の高度が高くなるとやがて、浮力と重力とが釣り合い、空中浮遊体は静止する。
【0005】
空中浮遊体の被膜には、被膜の内部の圧力(内圧Pin)と被膜の外部の圧力(外圧Pout)との差圧ΔP(=Pin-Pout)に応じた引張応力σ(単位面積あたりの力)がかかる。被膜にかかる引張応力σが被膜の破断応力以上になると、被膜が破裂してしまう。空中浮遊体の被膜が球形である場合、被膜には以下の式(3)で示される、差圧ΔPに比例する引張応力σがかかる。式(3)において、Rは被膜の半径であり、tは被膜の厚みである。
σ=(R×ΔP)/2t
【0006】
空中浮遊体は差圧ΔPに応じて2つのタイプに区分される。1つめのタイプは、ゼロプレッシャー型である。ゼロプレッシャー型の空中浮遊体では、差圧ΔPが常にほぼゼロに維持される。高度の上昇により気圧が低くなると、被膜の内部に封入された気体は膨張する。被膜の内部の気体の膨張で被膜が破裂しないように、ゼロプレッシャー型の空中浮遊体では、被膜に排気口が設けられ、気体の膨張に伴って排気口から気体を排出することで、差圧ΔPをほぼゼロに維持している。
【0007】
2つめのタイプは、スーパープレッシャー型である。スーパープレッシャー型の空中浮遊体では、ゼロプレッシャー型の空中浮遊体とは異なり、被膜の内部の気体を排出しない。そのため、スーパープレッシャー型の空中浮遊体では、被膜の内部と外部とで有限な差圧ΔPが存在する。スーパープレッシャー型の空中浮遊体では、高度の上昇とともに、差圧ΔPに比例した大きな引張応力σがかかるが、そのような引張応力σがかかっても破裂しない丈夫な素材を被膜として使用する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-55323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来のゼロプレッシャー型の空中浮遊体では、被膜の内部の気体を排出することで、高度上昇に伴う差圧ΔPを小さくしている。一方で、空中浮遊体の高度を維持するためには、不必要な気体の排出量を可能な限り低減する必要がある。そのため、従来の空中浮遊体では、差圧ΔPを低減するための被膜の内部の気体の排出と、高度の維持のための気体の排出量の低減との両立を図ることが困難であった。
【0010】
なお、特許文献1には、金属皮膜からなる外殻と、樹脂被膜からなり、外殻の内部に内包された内殻と、からなる二重殻構造を有する空中浮遊体が記載されている。特許文献1に記載の空中浮遊体は、高度上昇の前後で外殻の形状が保持される、いわゆるスーパープレッシャー型の空中浮遊体であり、上述したような、差圧ΔPを低減するための被膜の内部の気体の排出と、空中浮遊体の高度の維持のための気体の排出量の低減との両立については何ら考慮されていない。
【0011】
本開示の目的は、上述した課題を解決し、差圧を低減するための被膜の内部の気体の排出と、高度の維持のための気体の排出量の低減との両立を図ることができる空中浮遊体および空中浮遊体の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上述した課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、空気よりも比重の小さい第一の気体が封入されるガスバッグと、ガスバッグを内包するとともに、空気よりも比重の小さい第二の気体が封入される外皮と、を設け、ガスバッグにおける第一の気体の通気度を、外皮における第二の気体の通気度よりも小さくすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]
空気よりも比重の小さい第一の気体が封入されるガスバッグと、
前記ガスバッグを内包するとともに、空気よりも比重の小さい第二の気体が封入される外皮と、を備え、
前記ガスバッグにおける前記第一の気体の通気度が、前記外皮における前記第二の気体の通気度よりも小さい、空中浮遊体。
[2]
前記外皮は、繊維からなる織構造体を含む、[1]に記載の空中浮遊体。
[3]
前記ガスバッグに前記第一の気体を供給する外部タンクと、
前記外部タンクから前記ガスバッグへの前記第一の気体の供給を制御可能なバルブと、をさらに備える、[1]または[2]空中浮遊体。
[4]
高度センサと、
制御装置と、をさらに備え、
前記制御装置は、
前記高度センサから前記空中浮遊体の高度に関する高度情報を取得する取得部と、
前記高度情報から特定される前記空中浮遊体の高度が、前記空中浮遊体の目標高度よりも所定の割合だけ低い落下高度未満である場合、前記バルブを制御して所定量の気体を前記ガスバッグに供給する処理部と、を備える、[3]に記載の空中浮遊体。
[5]
前記ガスバッグの外表面にアンテナが設けられている、[1]から[4]のいずれかに記載の空中浮遊体。
[6]
前記外皮の比誘電率が、1.0以上、3.5以下である、[5]に記載の空中浮遊体。
[7]
回転軸をさらに備え、
前記回転軸は、前記外皮の周方向に前記外皮を回転可能に支持される、[1]から[6]のいずれかに記載の空中浮遊体。
[8]
前記回転軸周りに回転可能であり、前記外皮と連結された回転子をさらに備える、[7]に記載の空中浮遊体。
[9]
前記回転軸と連結され、前記回転軸の回転により発電する発電機をさらに備える、[7]または[8]に記載の空中浮遊体。
[10]
空気よりも比重の小さい気体が封入されるガスバッグと、前記ガスバッグに前記気体を供給する外部タンクと、前記外部タンクから前記ガスバッグへの前記気体の供給を制御可能なバルブと、高度センサと、を備える空中浮遊体の制御方法であって、
前記高度センサから前記空中浮遊体の高度に関する高度情報を取得するステップと、
前記高度情報から特定される高度が、前記空中浮遊体の目標高度よりも所定の割合だけ低い落下高度未満である場合、前記バルブを制御して所定量の気体を前記ガスバッグに供給するステップと、を含む、空中浮遊体の制御方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る空中浮遊体および空中浮遊体の制御方法によれば、差圧を低減するための被膜の内部の気体の排出と、高度の維持のための気体の排出量の低減との両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の一実施形態に係る空中浮遊体の概略構成を示す図である。
図2図1に示す空中浮遊体における高度上昇に伴う外皮の体積変化を示す図である。
図3】被膜の通気について説明するための図である。
図4】織構造体の構造および織構造体における通気について説明するための図である。
図5】織構造体におけるクリンプ率について説明するための図である。
図6】本開示の一実施形態に係る空中浮遊体の構成の具体例を示す図である。
図7図6に示す制御装置の構成例を示す図である。
図8図6に示す制御装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図9図6に示す空中浮遊体の高度制御の一例を示す図である。
図10】本開示の一実施形態に係る空中浮遊体の構成の別の具体例を示す図である。
図11】透過率と比誘電率との関係を示す図である。
図12】本開示の一実施形態に係る空中浮遊体の構成のさらに別の具体例を示す図である。
図13A】空中浮遊体が風による受ける抗力について説明するための図である。
図13B】空中浮遊体が風による受ける抗力について説明するための図である。
図14】本開示の一実施形態に係る空中浮遊体の構成のさらに別の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本開示の一実施形態に係る空中浮遊体10の概略構成を示す図である。
【0018】
図1に示すように、本実施形態に係る空中浮遊体10は、ガスバッグ11と、外皮12とを備える。
【0019】
ガスバッグ11は、空気よりも比重の小さい第一の気体(例えば、ヘリウムガス)が内部に封入される。ガスバッグ11に空気よりも比重の小さい第一の気体が封入されることで浮力が得られる。ガスバッグ11は、封入された第一の気体を通気させないガスバリア層として機能する。以下では、ガスバッグ11に封入される、空気よりも比重の小さい第一の気体を単に「気体」と呼ぶことがある。
【0020】
外皮12は、ガスバッグ11を内包するとともに、空気よりも比重の小さい第二の気体(例えば、ヘリウムガス)が内部に封入される。外皮12に空気よりも比重の小さい第二の気体が封入されることで浮力が得られる。外皮12は、封入された第二の気体を通気させる通気層として機能する。以下では、外皮12に封入される、空気よりも比重の小さい第二の気体を単に「気体」と呼ぶことがある。外皮12は、外圧と、外皮12の内部の圧力との差圧に応じて変形する可撓性を有する。なお、空中浮遊体10に求められる浮力を得られれば、ガスバッグ11に封入される第一の気体と、外皮12に封入される第二の気体とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0021】
図1に示すように、本実施形態に係る空中浮遊体10は、内殻としてのガスバッグ11が外殻としての外皮12に内包された、二重殻構造を有する。なお、図1においては、1つのガスバッグ11が外皮12に内包される例を示しているが、この例に限られるものではない。例えば、連結された複数のガスバッグ11が外皮12に内包されてもよい。上述したように、ガスバッグ11は封入された気体を通気させないガスバリア層として機能し、外皮12は封入された気体を通気させる通気層として機能する。すなわち、本実施形態に係る空中浮遊体10においては、ガスバッグ11における第一の気体(ガスバッグ11に封入される気体)の通気度が、外皮12における第二の気体(外皮12に封入される気体)の通気度よりも小さい。
【0022】
上述したように、空中浮遊体10の高度上昇に伴って、空中浮遊体10の内部に封入された気体が膨張し、空中浮遊体10の内圧と、空中浮遊体10の周囲の外圧との差圧ΔPに応じた引張応力σが空中浮遊体10にかかる。ここで、本実施形態に係る空中浮遊体10においては、ガスバッグ11における第一の気体の通気度が、外皮12における第二の気体の通気度よりも小さいため、空中浮遊体10の高度上昇に伴って、差圧ΔPにより外皮12から気体が排出される。その結果、図2に示すように、外皮12は、空中浮遊体10の高度上昇とともに内部に封入された気体が排出されてしぼんでいき、破裂することはない。また、ガスバッグ11は、外皮12よりも通気度が小さいため、通気が起こらない、あるいは、通気が起こっても気体の排出量は少ない。そのため、ガスバッグ11内には十分な気体が保持され、高度を維持することができる。したがって、本開示に係る空中浮遊体10によれば、差圧ΔPを低減するための被膜の内部の気体の排出と、空中浮遊体10の高度の維持のための気体の排出量の低減との両立を図ることができる。
【0023】
なお、「通気(leak)」とは、図3に示すように、被膜に作用する圧力差(図3では、被膜の左側の圧力P1と、被膜の右側の圧力P2との差)によって駆動される、被膜に対する気体の透過のことである。通気度kは、被膜を透過した気体の量の標準状態(0℃1atm)における体積と、被膜の膜厚との積を、透過に要した時間と、被膜の面積と、被膜にかかる圧力差の積で除算した値として定義される。したがって、通気度kは、被膜素材および気体の種類によって異なる値となる。
【0024】
通気度kを測定する測定装置としては、例えば、高山リード株式会社製の通気度測定器Fx3350を用いることができる。当該測定装置からは、差圧ごとの気体の通気量が測定結果として得られる。通気量は、差圧に比例するため、測定装置から得られる差圧-通気量特性の傾きが通気度kとなる。通気度kは、例えば、ASTMD6476-02” Standard Test Method for Determining Dynamic Air Permeability of Inflatable Restraint Fabrics”に準拠して測定することができる。
【0025】
外皮12の通気度が大きすぎると、目標高度に達する前に外皮12の内部に封入された気体がすべて排出されてしまい、目標高度まで上昇できない場合がある。そのため、外皮12の通気度は、目標高度および空中浮遊体10全体の重量などに応じた適切な値である必要がある。例えば、外皮11に封入する気体をヘリウムガスとし、空中浮遊体10の目標高度を500mとし、空中浮遊体10の設備重量を177kgとする。この場合、地上における外皮12の体積を178.4m3とすると、必要な外皮12における気体の通気度は0.5E-5cc(STP)*mm/(cm2*sec*Pa)となる。そして、空中浮遊体10が地上から目標高度に到達するまでに差圧ΔPによって外皮12からは10.7m3のヘリウムガスが排出(通気)され、目標高度において、浮力と重力とが釣り合い空中浮遊体10は静止する。
【0026】
外皮12における気体の通気度を目標高度および空中浮遊体10全体の重量などに応じた適切な値に制御するため、外皮12は、繊維からなる織構造体を含むことが望ましい。織構造体は、図4に示すように、縦糸と横糸とが織り込まれて構成されており、各糸束は、数十本から数百本の繊維から構成される。
【0027】
外皮12が織構造体を含む場合、外皮12の内部に封入された気体は、図4に示す縦糸と横糸とが交差する部分に生じる隙間(織の隙間)から外部に漏れる。また、外皮12が織構造体を含む場合、外皮12の内部に封入された気体は、織構造体として織り込まれた糸束を構成する繊維の隙間からも外部に漏れる。織の隙間あるいは繊維の隙間からの気体の漏れは、織構造体の折り方(平織、綾織など)、糸束を構成する繊維の径および本数、糸束の撚り、クリンプ率あるいは織構造体に塗布されるコーティング剤の種類および塗布量などによって変化する。
【0028】
したがって、外皮12が織構造体を含む場合、外皮12における気体の通気度は、織構造体の折り方、糸束を構成する繊維の径および本数、糸束の撚り、クリンプ率あるいは織構造体に塗布されるコーティング剤の種類および塗布量などによって制御することができる。
【0029】
なお、クリンプ率とは、図5に示す織構造体の断面視において、一方向に延在する隣り合う糸束それぞれの中心間の一方向と交差する方向の距離L1に対する、当該隣り合う糸束それぞれ中心間の一方向の距離L2との比である。同じ織り方の場合、クリンプ率が大きいほど、織の隙間が小さくなり、通気度kも小さくなる。
【0030】
また、外皮12は、PVC(Poly Vinyl Chloride)あるいはPE(Polyethylene)などの樹脂材で構成されてもよい。これらの樹脂材は、織り込まれた状態でなくても通気性を有することが知られている。例えば、樹脂材同士で比較すると、PVCおよびPEは、PVDC(polyvinylidene chloride)よりもガス透過度(すなわち、通気度k)が大きいことが知られている。したがって、外皮12に求められる通気度に応じ、外皮12を構成する樹脂材を選択すればよい。
【0031】
なお、ガスバッグ11における第一の気体の通気度は、外皮12における第二の気体の通気度よりも小さければよく、空中浮遊体10が目標高度を維持する所望の滞留時間に基づいて決定することができる。また、ガスバッグ11における気体の通気度が小さいほど、目標高度における空中浮遊体10の滞留時間が長くなり好ましい。ガスバッグ11を構成する素材についても、外皮12を構成する素材の選定と同様に、ガスバッグ11に求められる通気度に応じ、ガスバッグ11を構成する織構造体あるいは樹脂材を選択すればよい。
【0032】
以下では、本実施形態に係る空中浮遊体10の具体的な構成例について説明する。
【0033】
図6は、本実施形態に係る空中浮遊体10の構成の一例を示す図である。図6において、図1と同様の構成には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0034】
図6に示すように、本実施形態に係る空中浮遊体10は、ガスバッグ11と、外皮12と、飛行体13と、ペイロード14とを備える。
【0035】
飛行体13は、ドローンと呼ばれる小型の無人飛行体であり、例えば、地上から操縦可能である。飛行体13を操縦することで、空中浮遊体10を水平方向に移動させることができる。
【0036】
ペイロード14は、外皮12に連結され、空中浮遊体10の用途などに応じて種々の機材が搭載される。ペイロード14には、例えば、図6に示すように、高度センサ141と、外部タンク142と、制御装置143とが搭載される。
【0037】
高度センサ141は、空中浮遊体10の高度を検出し、空中浮遊体10の高度に関する高度情報を取得する。高度センサ141は、取得した高度情報を制御装置143に出力する。
【0038】
外部タンク142は、ガスバッグ11に供給するための気体(第一の気体)を貯留する。外部タンク142は、ガスバッグ11の内部に挿入されたチューブ144に連結されており、チューブ144を介して、ガスバッグ11に気体を供給することができる。チューブ144は、例えば、テフロン(登録商標)あるいは塩化ビニールにより構成される。外部タンク142には、ガスバッグ11への気体の供給を制御可能なバルブ142aが設けられている。例えば、バルブ142aを開閉することで、外部タンク142からガスバッグ11への気体の供給を制御することができる。
【0039】
制御装置143は、外部タンク142からガスバッグ11への気体の供給を制御する。図7は、制御装置143の構成例を示す図である。
【0040】
図7に示すように、制御装置143は、取得部1431と、処理部1432と、を備える。
【0041】
取得部1431は、高度センサ141から高度情報を取得し、処理部1432に出力する。
【0042】
処理部1432は、取得部1431から出力された高度情報から特定される空中浮遊体10の高度が落下高度未満であるか否かを判定する。落下高度とは、目標高度よりも所定の割合(例えば、5%)だけ低い高度である。処理部1432は、空中浮遊体10の高度が落下高度未満であると判定した場合、バルブ142aを制御し、所定量の気体をガスバッグ11に供給する。ガスバッグ11への気体の供給量は、例えば、目標高度と落下高度との差だけ空中浮遊体10を上昇させることができる量であり、例えば、実験的に定められていてよい。空中浮遊体10の高度と落下高度との比較に応じてガスバッグ11に気体を供給することで、温度変動による空中浮遊体10の変化に対しても、ガスバッグ11への気体の供給の必要の有無を適切に判定することができる。
【0043】
図8は、制御装置143の動作の一例を示すフローチャートであり、本実施形態に係る空中浮遊体10の制御方法を説明するための図である。本実施形態に係る制御方法は、空気よりも比重の小さい気体(第一の気体)が封入されるガスバッグ11と、ガスバッグ11に気体を供給する外部タンク142と、外部タンク142からガスバッグ11への気体の供給を制御可能なバルブ142aと、高度センサ141と、を備える空中浮遊体10の制御方法である。
【0044】
取得部1431は、高度センサ141から高度情報を取得する(ステップS11)。
【0045】
処理部1432は、高度情報から特定される空中浮遊体10の高度が落下高度未満であるか否かを判定する(ステップS12)。上述したように、落下高度は、空中浮遊体10目標高度よりも所定の割合(例えば、5%)だけ低い高度である。
【0046】
処理部1432により空中浮遊体10の高度が落下高度より高いと判定された場合(ステップS12:No)、制御装置143は動作を終了する。
【0047】
空中浮遊体10の高度が目標高度未満であると判定した場合(ステップS12:Yes)、処理部1432は、バルブ142aを制御し(ステップS13)、所定量の気体をガスバッグ11に供給する。制御装置143は、図8を参照して説明した処理を、例えば、所定の時間間隔で繰り返す。
【0048】
上述したように、ガスバッグ11は、封入された気体を通気させないガスバリア層として機能する。しかしながらガスバッグ11の溶着欠陥による想定外のリーク、あるいは、長時間の浮遊によるリークなどにより、ガスバッグ11の体積が減少して浮力が減少し、図9に示すように、空中浮遊体10の高度が低下する可能性がある。
【0049】
図6に示す空中浮遊体10によれば、空中浮遊体10の高度が落下高度未満となると、外部タンク142からガスバッグ11に気体を供給することで、図9に示すように、ガスバッグ11への気体の供給量によっては、空中浮遊体10の高度を目標高度まで上昇させることができる。
【0050】
また、本実施形態に係る空中浮遊体10においては、図10に示すように、ガスバッグ11の外表面にアンテナ15が設けられてもよい。アンテナ15は、例えば、マイクロ波帯のアンテナが整列配置されたアレイアンテナである。アンテナ15は、例えば、図10に示すように、地上、または空中から送信電力を送受信するためのアンテナである。この場合、アンテナ15が大面積であるほど、多くの電力を送受信することができる。したがって、アンテナ15は、例えば、ガスバッグ11の外表面全面にわたって設けられる。
【0051】
アンテナ15が電力の受信用のアンテナである場合、例えば、ペイロード14には、情報の送受信用のアンテナ15aが設けられてもよい。アンテナ15aは、例えば、アンテナ15が受信した電力により駆動され、上空の衛星および地上のアンテナと情報の送受信を行う。こうすることで、長時間にわたって空中浮遊体10を浮遊させながら、遠隔地と情報の送受信を行うことができる。
【0052】
なお、アンテナ15は、ガスバッグ11の外表面、すなわち、外皮12の内側に設けることが望ましい。通常、アンテナ15の周辺には整流回路などの電子回路が配置される。例えば、外皮12の外表面にアンテナ15を設ける場合、当該電子回路も外皮12の外表面に設けられることになる。外皮12の外表面に電子回路を設けると、気温、雨および雷などの影響により、電子回路が機能しなくなる可能性がある。例えば、空中浮遊体10の高度によっては、外気温が-70℃程度になることもある。このような環境では、電子回路が機能しなくなる可能性がある。ガスバッグ11の外表面、すなわち、外皮12の内側にアンテナ15および電子回路を設けることで、例えば、加熱装置による保温が可能となり、電子回路が機能しなくなる可能性を低減することができる。また、ガスバッグ11の外表面、すなわち、外皮12の内側にアンテナ15および電子回路を設けることで、雨などの水分によるショート、および、雷あるいは帯電による電子回路の破壊を防ぐことができる。
【0053】
アンテナ15がガスバッグ11の外表面に設けられる場合、外皮12は電波を透過させる必要がある。電波の透過率Tは以下の式(4)で表される。式(4)において、μ’は比透磁率であり、ε’は比誘電率である。
【0054】
【数1】
【0055】
図11は、比透磁率μ’=1として、比誘電率ε’に対する透過率Tをプロットした図である。図11に示すように、比誘電率ε’に対して透過率Tは単調減少する。
【0056】
アンテナ15がガスバッグ11の外表面に配置される場合、外皮12の比誘電率ε’は1.0以上、3.5以下であることが望ましい。外皮12に求められる強度、通気度および脆性温度などを考慮すると、外皮12の織構造体又は樹脂材を構成する素材としては、例えば、PA66(ポリアミド66)あるいはPEなどがある。これらの素材の比誘電率ε’は1.0以上、3.5以下であるため、外皮12として用いるのに好適である。
【0057】
図12は、本実施形態に係る空中浮遊体10のさらに別の構成例を示す図である。
【0058】
図12に示すように、空中浮遊体10は、外皮12の周方向に外皮12を回転可能な回転軸16をさらに備えてよい。回転軸16により外皮12が周方向に回転することで、ジャイロ効果により、空中浮遊体10の姿勢の安定性を向上させることができる。例えば、図12に示すように、風の影響により空中浮遊体10が水平面に対して傾いた場合にも、外皮12が回転することで元の姿勢に戻る力が働くため、空中浮遊体10の姿勢の安定性を向上させることができる。
【0059】
回転軸16には、例えば、図12に示すように、フライホイール17が連結される。フライホイール17は、回転軸16周りに回転可能であり、中心部において回転軸16と連結されるとともに、端部において外皮12と連結される(例えば、縫い合わされる)。フライホイール17は、例えば、外皮12の幅方向のサイズが最大となる位置に設けられる。
【0060】
回転軸16周りに回転可能であり、外皮12と連結された回転子(フライホイール17)を備えることで、図12に示す空中浮遊体10は、外皮12の周方向に外皮12を回転させることができる。なお、図12に示すように、外皮12の内部にフライホイール17を設ける場合、フライホイール17の回転を妨げないように、ガスバッグ11は、例えば、フライホイール17の上下に分割して設けられる。また、外皮12の外側には風により回転力を得易くする翼が設けられてもよい。さらに、外皮12を滑らかに回転させるため、ガスバッグ11と外皮12の間に空間が設けられてもよい。こうすることで、外皮12が回転しやすくなる。
【0061】
上述したように、図12に示す空中浮遊体10によれば、水平方向の空中浮遊体10の姿勢の安定性を向上させることができる。図13Aは、空中浮遊体10の姿勢が水平に保たれている状態を示す図であり、図13Bは、空中浮遊体10の姿勢が水平方向に傾いた状態を示す図である。なお、図13A,13Bにおいては、図の簡略化のため、空中浮遊体10の構成のうち、外皮12のみを示している。
【0062】
図13A,13Bに示すように、水平方向から風速Vの風が空中浮遊体10(外皮12)にあたったとする。この場合、空中浮遊体10に働く抗力Fは以下の式(5)で表される。
【0063】
【数2】
【0064】
式(5)において、ρは大気の質量密度であり、Sは風の流れ方向に垂直な面に投影した空中浮遊体10の面積であり、Cは抗力数である。
【0065】
図13A,13Bに示すように、空中浮遊体10が水平に保たれている状態と比べて、空中浮遊体10が水平方向に傾いた状態では、風の流れ方向に垂直な面に投影した空中浮遊体10の面積Sが大きくなる。面積Sが大きくなると、式(5)より、空中浮遊体10が受ける抗力Fが大きくなる。抗力Fが大きくなると、風の影響を受けて、空中浮遊体10は水平方向に流されやすくなる。図12に示す空中浮遊体10によれば、上述したように、水平方向の姿勢の安定性が向上するため、風による影響を受けにくくなる。
【0066】
また、本実施形態に係る空中浮遊体10は、図14に示すように、回転軸16と連結され、回転軸16の回転により発電する発電機18をさらに備えてもよい。具体的には、発電機18は、回転軸16を外皮12の周方向に回転可能に支持する軸受け161を介して、回転軸16と連結される。
【0067】
発電機18の構成は、例えば、コイルと、コイルの内部に設けられた磁石とを有する。磁石には回転軸16が連結され、回転軸16の回転に伴って、磁石も回転する。磁石が回転することで、コイルを通る磁束が変化すると、コイルに電流が流れるため、発電機18は発電することができる。このような構成によれば、空中浮遊体10に搭載された各種装置などに、風などの影響による外皮12の回転により得られた電力を供給することができる。その結果、バッテリなどの搭載が不要となり、浮遊時間の延長を図ることができる。
【0068】
このように本実施形態に係る空中浮遊体10は、空気よりも比重の小さい第一の気体が封入されるガスバッグ11と、ガスバッグ11を内包するとともに、空気よりも比重の小さい第二の気体が封入される外皮12と、を備える。ここで、ガスバッグ11における第一の気体の通気度が、外皮12における第二の気体の通気度よりも小さい。
【0069】
ガスバッグ11における第一の気体の通気度が、外皮12における第二の気体の通気度よりも小さいため、空中浮遊体10の高度上昇にともなって、差圧ΔPにより外皮12から気体(第二の気体の)が排出される。その結果、外皮12は、空中浮遊体10の高度上昇とともに内部に封入された気体が排出されてしぼんでいき、破裂することはない。また、ガスバッグ11は、外皮12よりも通気度が小さいため、ガスバッグ11内には十分な気体(第一の気体)が保持され、高度を維持することができる。したがって、本開示に係る空中浮遊体10によれば、差圧ΔPを低減するための被膜の内部の気体の排出と、空中浮遊体10の高度の維持のための気体の排出量の低減との両立を図ることができる。
【0070】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨および範囲内で、多くの変更および置換が可能であることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形および変更が可能である。例えば、実施形態の構成図に記載の複数の構成ブロックを1つに組み合わせたり、あるいは1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0071】
10 空中浮遊体
11 ガスバッグ
12 外皮
13 飛行体
14 ペイロード
15,15a アンテナ
16 回転軸
161 軸受け
17 フライホイール(回転子)
18 発電機
141 高度センサ
142 外部タンク
142a バルブ
143 制御装置
1431 取得部
1432 処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14