(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067977
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】金属エレメントおよび金属板への金属エレメントの接合構造
(51)【国際特許分類】
F16B 4/00 20060101AFI20240510BHJP
B21J 15/00 20060101ALI20240510BHJP
B21D 39/00 20060101ALI20240510BHJP
B21D 35/00 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
F16B4/00 Q
B21J15/00 D
B21D39/00 F
B21D35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178442
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】390038069
【氏名又は名称】株式会社青山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 敬也
(74)【代理人】
【識別番号】100162293
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 久生
(74)【代理人】
【識別番号】100126170
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 義之
(72)【発明者】
【氏名】小島 剛
(57)【要約】
【課題】事前に加工困難な形状(接合に必要な形状)を付与しなくても、金属板に強固に接合することが可能なエレメントを提供する。
【解決手段】エレメント1は、フランジ状部分2と、そのフランジ状部分2より小径の円柱状部分3とを有している。そして、円柱状部分3を、金属板11に穿設された挿通孔12に挿入した状態で、軸方向に圧力を加えて、前記フランジ形状部分2にて、前記金属板11を圧縮方向に変形流動させ、かつ、変形流動する金属を受け止めるように、円柱状部分3の先端際の部分を拡径するように変形させることによって、金属からなる金属板11に接合させることができるようになっている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板に接合させる金属エレメントであって、
フランジ状部分と、そのフランジ状部分より小径の円柱状部分とを有しており、
前記円柱状部分を、前記金属板に穿設された挿通孔に挿入した状態で、軸方向に圧力を加えて、前記フランジ状部分にて前記金属板を圧縮方向に変形流動させ、かつ、前記円柱状部分が前記変形流動する金属を受け止めるように、前記円柱状部分の先端際の部分を拡径するように変形させることによって、前記金属板に接合させることを特徴とする金属エレメント。
【請求項2】
前記円柱状部分の先端面に凹状部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の金属エレメント。
【請求項3】
前記フランジ状部分が、逆円錐台状に形成されていることを特徴とする請求項1、または2に記載の金属エレメント。
【請求項4】
金属板に金属エレメントを接合させるための接合構造であって、
前記金属エレメントが、フランジ状部分と、そのフランジ状部分より小径の円柱状部分とを有するものであり、
前記金属エレメントの円柱状部分を、前記金属板に穿設された挿通孔に挿入した状態で、前記エレメントに軸方向に圧力を加えて、前記フランジ状部分にて前記金属板を圧縮方向に変形流動させ、かつ、変形流動する金属を受け止めるように前記円柱状部分の先端際の部分を拡径するように変形させることによって、前記金属板に前記金属エレメントを接合させることを特徴とする金属板への金属エレメントの接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の板材に接合させるための金属部材(エレメント)、および、その接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体等の製造においては、高張力鋼板等の鉄鋼材料からなる板材と、アルミニウム合金等の軽合金からなる板材とを重ね合わせて固着させることがある。そのように異種金属からなる板材同士を固着させる方法として、軽合金からなる板材に鉄鋼材料からなるエレメント(リベット)を嵌め込んで固定し、そのエレメントの部分を、抵抗溶接等の方法で鉄鋼材料からなる板材に融着させる方法が採用されている。
【0003】
また、上記の如く、異種金属からなる板材同士を固着させる際に、軽合金からなる板材に鉄鋼材料からなるエレメントを嵌め込んで固定する方法としては、
図5の如く、扁平な円柱状のフランジの下側の部分を円錐台状に形成したエレメントを、軽合金からなる板材に圧入する方法が知られている。すなわち、
図5(a)の如く、エレメントの円錐台状の部分を、軽金属製の板材に穿設された挿通孔に挿入した状態で、軸方向に圧力を加えて、エレメントのフランジを板材の挿通孔に圧入することによって、挿入孔の周囲を塑性変形させて、
図5(b)の如く、その塑性変形した金属を、円錐台状の部分の上面とフランジの下面とで形成される隙間に入り込ませることによって、エレメントを、板材から脱離しないように固定するものである。
【0004】
さらに、軽合金からなる板材に鉄鋼材料からなるエレメントを嵌め込んで固定する方法として、特許文献1の如く、フランジの下側の軸部の外周面を凹状に湾曲させて軸部の中間の部分を小径にしたエレメントを、軽合金製の板材に圧入することによって、塑性変形した金属を、エレメントの軸部の凹状部分に入り込ませることによって、エレメントを、板材から脱離しないように固定する方法も考案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、
図5の如き、軸部を円錐状に形成したエレメントを軽合金からなる板材に嵌め込んで固定する方法や、特許文献1の如き、軸部の外周面を凹状に湾曲させて軸部の中間の部分を小径にしたエレメントを軽合金からなる板材に嵌め込んで固定する方法は、エレメントを軽合金製の板材に対して抜けないように強固に固着するためには、軽合金からなる板材に穿設する孔の径の微調整が必要であり、径がわずかに小さくなるだけで、圧入にきわめて大きな力が必要となってしまうし、反対に径がわずかに大きくなるだけで、板材から抜けないように強固に固着することが困難になってしまう。
【0007】
本発明の目的は、上記従来のエレメントにおける問題点を解消し、金属板に穿設する挿通孔の孔径の微調整を必要とすることなく、金属板に強固に接合することが可能なエレメントを提供することにある。また、本発明の目的は、上記従来のエレメントと金属板との接合方法における問題点を解消し、金属板に穿設する挿通孔の孔径の微調整を必要とすることなく、エレメントを金属板に強固に接合することが可能な金属板へのエレメントの接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の内、請求項1に記載された発明は、金属板に接合させる金属エレメントであって、フランジ状部分と、そのフランジ状部分より小径の円柱状部分とを有しており、前記円柱状部分を、前記金属板に穿設された挿通孔に挿入した状態で、軸方向に圧力を加えて、前記フランジ状部分にて前記金属板を圧縮方向に変形流動させ、かつ、前記円柱状部分が前記変形流動する金属を受け止めるように、前記円柱状部分の先端際の部分を拡径するように変形させることによって(すなわち、金属板の塑性変形と同時に自身が塑性変形することによって)、前記金属板に接合させることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記円柱状部分の先端面に凹状部が形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に記載された発明は、請求項1、または2に記載された発明において、前記フランジ状部分が、逆円錐台状に形成されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4に記載された発明は、金属板に金属エレメントを接合させるための接合構造であって、前記金属エレメントが、フランジ状部分と、そのフランジ状部分より小径の円柱状部分とを有するものであり、前記金属エレメントの円柱状部分を、前記金属板に穿設された挿通孔に挿入した状態で、前記金属エレメントに軸方向に圧力を加えて、前記フランジ状部分にて前記金属板を圧縮方向に変形流動させ、かつ、変形流動する金属を受け止めるように前記円柱状部分の先端際の部分を拡径するように変形させることによって(すなわち、金属板の塑性変形と同時に自身が塑性変形することによって)、前記金属板に前記金属エレメントを接合させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の金属エレメント(以下、単にエレメントともいう)は、軸方向への圧力によって円柱状部分が塑性変形することによって、金属板の塑性変形後の形状にフィットするため、事前に円筒状部に拡径した抜け止めの形状を施すことなく、金属板に強固に接合することができる。
【0013】
請求項2に記載の金属エレメントは、円柱状部分の先端面に凹状部が形成されているため、軸方向へ圧力を加えた際に、円柱状部分の先端部分が拡径するように変形し易いので、金属板の塑性変形後の形状にフィットし易いため、より強固に金属板に接合させることができる。
【0014】
請求項3に記載の金属エレメントは、フランジ状部分が逆円錐台状に形成されており、金属体の挿通孔内へ入り込み易く、金属体に塑性変形を促す必要最小限な体積にすることにより、小さい圧力で容易に、金属板と同一の厚みになるように(すなわち、表裏両面が金属板と面一になるように)変形させることができる。
【0015】
請求項4に記載の金属板への金属エレメントの接合構造によれば、軸方向への圧力によって金属エレメントの円柱状部分が塑性変形することによって、金属板の塑性変形後の形状にフィットするため、金属エレメントの製造時に拡径形状とする困難な加工を施さなくても、円筒状部を金属板に強固に接合することが可能となるため、金属エレメントの製造を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】エレメントを示す説明図である(aは正面図であり、bは平面図であり、cはbにおけるA-A線断面の一部(左側の部分)の拡大図である)。
【
図2】エレメントを接合させる金属板を示す説明図である(aは正面図であり、bは平面図である)。
【
図3】エレメントを金属板に接合させる様子を示す説明図である。
【
図4】エレメントの変更例を示す説明図である(aは正面図であり、bは平面図であり、cはbにおけるB-B線断面の一部(左側の部分)の拡大図である)。
【
図5】従来の方法によりエレメントを金属板に接合させる様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る金属エレメントおよび金属板へのエレメントの接合構造の一実施形態について、図面に基いて詳細に説明する。
【0018】
<エレメントの構造>
図1は、エレメントを示したものであり、エレメント(リベット)1は、鉄(たとえば、ブリネル硬度=約290HBWのもの)によって一体的に形成されている。そして、上部のフランジ状部分2の下側に、円柱状部分3が同心円状に形成されている。フランジ状部分2は、略逆円錐台状に形成されており、上方から下方にかけて次第に小径になっており、下面が、水平面に対して約30°傾斜した状態になっている。また、フランジ状部分2の上面の直径は、約11mmになっており、フランジ状部分2の厚みは、約0.8mmになっている。さらに、フランジ状部分2の上端際には、一定の直径を有する厚さ約0.2mmの扁平な円柱状の定径部4が形成されている。
【0019】
一方、円柱状部分3は、直径=約9.0mmで高さ=1.2mmの扁平な円柱状に形成されている。したがって、エレメント1は、約2.0mmの高さ(H)を有している。そして、円柱状部分3の下面の中央には、直径=約8.0mmで高さ(G)=0.35mmの扁平な円錐状の凹状部5が形成されている。そして、当該凹状部5の周囲に、一定幅(W)の円環状の水平面6が形成された状態になっている。
【0020】
<エレメントを用いた金属板との接合方法>
図2は、上記の如く構成されたエレメントを接合させるための金属板を示したものであり、金属板11は、アルミニウム合金(たとえば、ブリネル硬度=約50HBWのもの)によって厚さ(T)=1.6mmの矩形の平板状に形成されている。そして、略中央に、直径約10.0mmの扁平な円柱状の挿通孔12が穿設されている。
【0021】
上記した金属板11に、エレメント1を接合させる場合には、
図3(a)の如く、エレメント1を、円柱状部分3が下側に位置するように金属板11の挿通孔12の内部に挿入する。そして、その状態で、プレス装置(図示せず)を利用して、エレメント1に軸方向(
図3における上下方向)に沿って所定の圧力(たとえば、約130kN)を加えて、エレメント1の高さが、金属板11の厚みと同一になるまで、エレメント1を圧縮させる。
【0022】
そのようにエレメント1に所定の圧力を加えると、
図3(b)の如く、エレメント1の円柱状部分3の下端際の部分が拡径するように変形する。一方、エレメント1の上部においては、金属板11の挿通孔12の上端際の周囲の部分が、フランジ状部分2に押し下げられるように塑性変形して、加圧前に存在していた円柱状部分3と挿通孔12の周面との隙間(S)が充足される。そして、そのように拡径した円柱状部分3の下端際の部分の上部の隙間が塑性変形した金属で満たされることによって、エレメント1は、金属板11に強固に接合された状態となる。
【0023】
<エレメントの効果>
エレメント1は、上記の如く、フランジ状部分2と、そのフランジ状部分2より小径の円柱状部分3とを有しており、円柱状部分3を、金属板11に穿設された挿通孔12に挿入した状態で、軸方向に圧力を加えて、円柱状部分3の先端際の部分を拡径するように変形させることによって、金属板11に接合させるものである。したがって、エレメント1によれば、軸方向への圧力によって拡径するように塑性変形した円柱状部分3が、金属板11の塑性変形後の形状にフィットするため、事前に円筒状部に拡径した抜け止め形状を施すことなく、金属板11に強固に接合することができる(すなわち、エレメント1の製造時に、拡径形状とする困難な加工を施さなくても、エレメント1を金属板11に強固に接合させることが可能となるため、エレメント1の製造を容易なものとすることができる)。
【0024】
また、エレメント1は、円柱状部分3の先端面に凹状部5が形成されているため、軸方向へ圧力を加えた際に、円柱状部分3の先端部分が拡径するように変形し易いので、金属板11の塑性変形後の形状によりフィットし易いため、一層強固に金属板11に接合させることができる。
【0025】
さらに、エレメント1は、フランジ状部分2が逆円錐台状に形成されており、金属板11の挿通孔12内へ入り込み易く、金属体に塑性変形を促す必要最小限な体積にすることにより、小さい圧力で容易に、金属板11と同一の厚みになるように(すなわち、表裏両面が金属板11と面一になるように)変形させることができる。
【0026】
一方、上記したエレメント1を用いた金属板11との接合構造によれば、軸方向への圧力によって金属エレメント1の円柱状部分3が塑性変形することによって、金属板11の塑性変形後の形状にフィットするため、事前に(エレメント1の製造時等に)、円筒状部に拡径した抜け止め形状を付与する困難な加工を施さなくても、エレメント1を金属板11に強固に接合することが可能となる(すなわち、エレメント1の製造時に、拡径形状とする困難な加工を施さなくても、エレメント1を金属板11に強固に接合させることが可能となるため、エレメント1の製造を容易なものとすることができる)。
【0027】
<エレメントおよび金属板へのエレメントの接合構造の変更例>
本発明に係るエレメントは、上記した実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、フランジ状部分、円柱状部分の材質、形状、構造、大きさ等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【0028】
たとえば、本発明に係るエレメントは、上記実施形態の如く、上端際にフランジ状部分を設けた扁平な円柱状のものに限定されず、
図4の如く、軸中心にフランジ状部分および円柱状部を貫通する貫通孔7を設けた扁平で肉厚な円筒状のもの等でも良い。また、そのように、エレメントを軸中心に貫通孔を設けた扁平で肉厚な円筒状体とする場合には、
図4の如く、下面の貫通孔7の周囲に、内側から外側にかけて次第に大径になるようにテーパ面8を設けることも可能である。そのように、貫通孔7を設けたり、テーパ面を設けたりすることによって、エレメント1’は、より小さな圧力で円柱状部分3の下端際を拡径変形させ易いものとなる。
【0029】
また、本発明に係るエレメントは、上記実施形態の如く、フランジ状部分が逆円錐台状であるものに限定されず、フランジ状部分が扁平な円柱状であるもの等でも良い。さらに、本発明に係るエレメントは、上記実施形態の如く、円柱状部分の下面に、円錐状の凹状部を形成したものに限定されず、球体の一部をなす形状(時計皿状)の凹状部を形成したものや、円柱状部分の下面が平坦なもの等でも良い。
【0030】
一方、本発明に係る金属板へのエレメントの接合構造は、上記実施形態の如く、エレメントが鉄(鋼鉄)からなり、金属板がアルミニウム合金からなるものに限定されず、塑性変形の性質を有する金属板と金属エレメントを接合させるものであれば、エレメントがステンレス(マルテンサイト系ステンレス、ビッカース硬度=約615)からなり、金属板がニッケル合金(インコネル、ビッカース硬度=約215)からなるもの等、エレメントおよび金属板を構成する金属の種類を、必要に応じて適宜変更することができる。
【0031】
一方、本発明に係る金属板へのエレメントの接合構造は、上記実施形態の如く、エレメントの円柱状部分の外周と金属板の挿通孔との隙間を約1.0mmとするものに限定されず、当該隙間を、エレメントの高さや金属板の厚み、エレメント・金属板の材質等の必要に応じて、概ね、エレメントの直径の5~15%の範囲内で適宜変更することができる。また、本発明に係る金属板へのエレメントの接合構造においては、予め、エレメントの体積と金属板の挿通孔の空洞部分の体積とが略等しくなるように計算し、その計算結果に基づいて、フランジ部分の大きさ、円柱状部分の大きさ、エレメントの円柱状部分の外周と金属板の挿通孔との隙間、凹状部の体積を決定することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係るエレメントは、上記の如く優れた効果を奏するものであるから、塑性変形の性質を有する金属からなる金属板に接合させる部材として好適に用いることができる。また、本発明に係る金属板へのエレメントの接合構造は、異種金属同士を接合させるための構造として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0033】
1,1’・・エレメント
2・・フランジ状部分
3・・円柱状部分
5・・凹状部
11・・金属板
12・・挿通孔