(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067986
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】オイル除去方法およびオイル除去装置、搬送装置および検査システム
(51)【国際特許分類】
G01N 1/34 20060101AFI20240510BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
G01N1/34
G01N1/28 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】28
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178459
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【弁理士】
【氏名又は名称】芝野 正雅
(72)【発明者】
【氏名】多嘉良 直之
(72)【発明者】
【氏名】山崎 充生
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA28
2G052FA05
2G052FC02
2G052FC10
2G052GA31
2G052JA24
(57)【要約】
【課題】塗抹標本の鏡検や保管に適したオイル除去方法を提供する。
【解決手段】このオイル除去方法は、検体の塗抹標本1の塗抹面1aに付着した油浸対物レンズ用のオイル3を除去する方法である。オイル除去対象の塗抹標本1を保持する第1保持部10と、オイル3を吸収する吸油部材4を保持する第2保持部20との少なくとも一方を、吸油部材4の当接面CSと塗抹面1aとが離れて配置された離隔状態から、塗抹面1aおよび当接面CSが当接した当接状態へ移動させることによってオイル3を除去し、オイル3の除去後に、第1保持部10と第2保持部20との少なくとも一方を当接状態から離隔状態に移動させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体の塗抹標本の塗抹面に付着した油浸対物レンズ用のオイルを除去する方法であって、
オイル除去対象の前記塗抹標本を保持する第1保持部と、前記オイルを吸収する吸油部材を保持する第2保持部との少なくとも一方を、前記吸油部材の当接面と前記塗抹面とが離れて配置された離隔状態から、前記塗抹面および前記当接面が当接した当接状態へ移動させることによって前記オイルを除去し、
前記オイルの除去後に、前記第1保持部と前記第2保持部との少なくとも一方を前記当接状態から前記離隔状態に移動させる、オイル除去方法。
【請求項2】
前記塗抹面と前記当接面とを前記当接面の法線方向に対向させた状態から前記塗抹面と前記当接面とを当接させる、請求項1に記載のオイル除去方法。
【請求項3】
前記吸油部材は、弾性変形可能な多孔質部材を有し、
前記当接状態において、前記塗抹面により前記吸油部材を圧縮させる、請求項1に記載のオイル除去方法。
【請求項4】
一枚の前記塗抹標本の前記塗抹面を、前記吸油部材と複数回当接させる、請求項1~3のいずれか1項に記載のオイル除去方法。
【請求項5】
前記塗抹面と前記吸油部材を当接および離隔させる際、一枚の前記塗抹標本の前記塗抹面を、2つ以上の前記吸油部材にそれぞれ当接させる、請求項4に記載のオイル除去方法。
【請求項6】
第1群の前記塗抹標本の各々について、前記塗抹面を第1の前記吸油部材と当接させた後に、前記塗抹面を第2の前記吸油部材と当接させた後、
前記第1群とは異なる第2群の前記塗抹標本の各々について、前記塗抹面を前記第2の前記吸油部材と当接させた後、前記塗抹面を第3の前記吸油部材と当接させる、請求項5に記載のオイル除去方法。
【請求項7】
前記塗抹標本の前記塗抹面を、一の前記吸油部材に第1回数だけ当接させた後、他の前記吸油部材に対して、前記塗抹面を前記第1回数よりも多い第2回数だけ当接させる、請求項5に記載のオイル除去方法。
【請求項8】
前記当接状態において、前記塗抹面と前記当接面とが互いに摺動しない範囲に、前記第1保持部と前記第2保持部との相対位置を維持する、請求項1~3のいずれか1項に記載のオイル除去方法。
【請求項9】
前記吸油部材の前記当接面は、前記塗抹標本の前記塗抹面よりも小さく形成され、
前記塗抹面と前記当接面とを当接させる際、前記当接面が前記塗抹面の外周縁よりも内側に収まるように、前記塗抹面と前記当接面とを当接させる、請求項1~3のいずれか1項に記載のオイル除去方法。
【請求項10】
前記吸油部材は、連続気孔構造を有する多孔質部材を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のオイル除去方法。
【請求項11】
複数の前記塗抹標本のそれぞれについて、
前記塗抹面と前記当接面との当接および離隔により前記塗抹面に付着した前記オイルを除去した後、標本移送部により前記第1保持部から取り出し、
前記第1保持部から取り出した前記塗抹標本を、前記標本移送部により、収容容器に収容する、請求項1~3のいずれか1項に記載のオイル除去方法。
【請求項12】
前記第1保持部を移動機構部により移動させることによって、前記離隔状態から前記当接状態への移動と、前記当接状態から前記離隔状態への移動とを行う、請求項1~3のいずれか1項に記載のオイル除去方法。
【請求項13】
前記第2保持部を移動機構部により移動させることによって、前記離隔状態から前記当接状態への移動と、前記当接状態から前記離隔状態への移動とを行う、請求項1~3のいずれか1項に記載のオイル除去方法。
【請求項14】
検体の塗抹標本の塗抹面に付着した油浸対物レンズ用のオイルを除去する装置であって、
オイル除去対象の前記塗抹標本を保持する第1保持部と、
前記オイルを吸収する吸油部材を保持する第2保持部と、
前記第1保持部および前記第2保持部の少なくとも一方を移動させることにより、前記吸油部材の当接面と前記塗抹面とが離れて配置された離隔状態から、前記塗抹面および前記当接面が当接した当接状態へ移動させる移動機構部と、を備える、オイル除去装置。
【請求項15】
前記移動機構部は、前記塗抹面と前記当接面とを前記塗抹面の法線方向に対向させた状態から前記塗抹面と前記当接面とを当接させるように構成されている、請求項14に記載のオイル除去装置。
【請求項16】
前記吸油部材は、弾性変形可能な多孔質部材を有し、
前記移動機構部は、前記当接状態において、前記塗抹面により前記吸油部材を圧縮させるように構成されている、請求項14に記載のオイル除去装置。
【請求項17】
一枚の前記塗抹標本の前記塗抹面を、前記吸油部材と複数回当接させるように前記移動機構部を制御する制御部をさらに備える、請求項14~16のいずれか1項に記載のオイル除去装置。
【請求項18】
前記第2保持部は、前記吸油部材を複数保持し、
前記制御部は、一枚の前記塗抹標本の前記塗抹面を、2つ以上の前記吸油部材にそれぞれ当接させるように前記移動機構部を制御する、請求項17に記載のオイル除去装置。
【請求項19】
前記第2保持部は、第1、第2および第3の前記吸油部材を保持し、
前記制御部は、
第1群の前記塗抹標本の各々について、前記塗抹面を前記第1の吸油部材と当接させた後に、前記塗抹面を前記第2の吸油部材と当接させた後、
前記第1群とは異なる第2群の前記塗抹標本の各々について、前記塗抹面を前記第2の吸油部材と当接させた後、前記塗抹面を前記第3の吸油部材と当接させるように、前記移動機構部を制御する、請求項18に記載のオイル除去装置。
【請求項20】
前記制御部は、前記塗抹標本の前記塗抹面を、一の前記吸油部材に第1回数だけ当接させた後、他の前記吸油部材に対して、前記塗抹面を前記第1回数よりも多い第2回数だけ当接させるように前記移動機構部を制御する、請求項18に記載のオイル除去装置。
【請求項21】
前記当接状態において、前記塗抹面と前記当接面とが互いに摺動しない範囲に、前記第1保持部および前記第2保持部の相対位置を維持するように、前記移動機構部を制御する制御部をさらに備える、請求項14~16のいずれか1項に記載のオイル除去装置。
【請求項22】
前記吸油部材の前記当接面は、前記塗抹標本の前記塗抹面よりも小さく形成され、
前記当接面が前記塗抹面の外周縁よりも内側に収まるように、前記塗抹面と前記当接面とを当接させるように、前記移動機構部を制御する制御部をさらに備える、請求項14~16のいずれか1項に記載のオイル除去装置。
【請求項23】
前記第2保持部は、前記第2保持部に着脱可能に設けられた保持具を有し、
前記吸油部材は、前記保持具に取り付けられている、請求項14~16のいずれか1項に記載のオイル除去装置。
【請求項24】
前記吸油部材は、連続気孔構造を有する多孔質部材を有する、請求項14~16のいずれか1項に記載のオイル除去装置。
【請求項25】
前記移動機構部は、オイル除去対象の前記塗抹標本を前記第1保持部に保持させる第1位置と、オイル除去後の前記塗抹標本を前記第1保持部から取り出す第2位置との間で、前記第1保持部を移動させるように構成され、
前記第2保持部は、前記第1位置と前記第2位置との間の位置で、前記吸油部材を保持している、請求項14~16のいずれか1項に記載のオイル除去装置。
【請求項26】
前記移動機構部は、
前記第1保持部の端部を支持して水平面内の回転軸周りに前記第1保持部を回動させることにより、前記塗抹面と前記当接面とを当接および離隔させる回動駆動部と、
前記第1保持部を水平方向に移動させることにより、前記第1位置と前記第2位置との間で前記第1保持部を移動させる水平駆動部とを含む、請求項25に記載のオイル除去装置。
【請求項27】
請求項14に記載のオイル除去装置と、
前記塗抹標本を移送する標本移送部と、
複数の前記塗抹標本を収容可能に構成された収容容器を搬送する容器搬送路とを備え、
前記標本移送部は、複数の前記塗抹標本のそれぞれについて、前記オイル除去装置により前記オイルが除去された後、前記第1保持部から取り出し、前記第1保持部から取り出した前記塗抹標本を、前記収容容器に収容するように構成されている、搬送装置。
【請求項28】
請求項14に記載のオイル除去装置を備えた検査システムであって、
検体をスライドガラス上に塗抹した塗抹標本を作製し、作製した前記塗抹標本を、複数の前記塗抹標本を収容可能に構成された収容容器に収容する標本作製部と、
前記標本作製部から前記収容容器を受け取り、前記収容容器に収容された前記塗抹標本を搬送する容器搬送部と、
前記容器搬送部から搬送された前記塗抹標本の塗抹面にオイルを供給し、油浸対物レンズによって前記塗抹標本の撮像を行う標本撮像部と、を備え、
前記容器搬送部は、撮像済みの前記塗抹標本を前記標本撮像部から受け取り、前記オイル除去装置により前記オイルを除去した後、前記収容容器に収容するように構成されている、検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体の塗抹標本に付着した油浸対物レンズ用のオイルを除去するオイル除去方法、オイル除去装置、搬送装置および検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
血液や体液などの検体をスライドガラスに塗抹した塗抹標本を作製し、作製した塗抹標本を顕微鏡で撮像して検体中の細胞を観察する検査が行われている。顕微鏡画像の撮像の際、対物レンズと塗抹標本の塗抹面との間のギャップをイマージョンオイル(オイル)で満たすことによってオイルを用いない場合よりも開口数を高めて、観察される像を鮮明化するレンズである油浸対物レンズが用いられる。そのため、油浸対物レンズを用いた撮像後には、塗抹標本の塗抹面にオイルが付着した状態となる。顕微鏡画像の撮影後の塗抹標本は、検査技師や医師等が標本を直接視認するために顕微鏡検査(鏡検)に供されたり、後で鏡検できるように保管されたりする。塗抹標本の鏡検や保管の際には、塗抹標本に付着したオイルを除去する作業が必要となる。オイル除去作業のために塗抹標本に触れると、作業者の手にオイルが付着して汚れてしまうおそれがある。また、オイルの残存をできるだけ少なくしつつ、塗抹標本に傷をつけたりゴミを付着させたりしないように、従来はキシレンを用いて塗抹標本の洗浄を行っていた。しかし、キシレンは劇物であるため、環境負荷低減の観点から劇物を用いないオイル除去方法が望まれていた。
【0003】
特許文献1には、生物標本のスライドを把持するハンドリング装置を有し、x軸、y軸及びz軸に沿って移動可能なロボットと、カメラ、中間光学系および前方光学系を有する光学系と、を備え、生物標本の顕微鏡画像を取得するアナライザが開示されている。アナライザには、光学オイルを含むオイルパックが配置され、各スライドにオイル滴が付与される。特許文献1には、分析後のスライドからオイルを取り除くために、スクイジまたはスポンジが配置されることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1にはスクイジまたはスポンジを用いてオイルを除去する構成が示唆されているものの、鏡検や保管に適したオイル除去を実現するための具体的な構成は開示されていない。本発明は、鏡検や保管に適したオイル除去方法、オイル除去装置、搬送装置および検査システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のオイル除去方法は、
図1(A)および
図1(B)に示すように、検体の塗抹標本(1)の塗抹面(1a)に付着した油浸対物レンズ用のオイル(3)を除去する方法であって、オイル除去対象の塗抹標本(1)を保持する第1保持部(10)と、オイル(3)を吸収する吸油部材(4)を保持する第2保持部(20)との少なくとも一方を、吸油部材(4)の当接面(CS)と塗抹面(1a)とが離れて配置された離隔状態から、塗抹面(1a)および当接面(CS)が当接した当接状態へ移動させることによってオイル(3)を除去し、オイル(3)の除去後に、第1保持部(10)と第2保持部(20)との少なくとも一方を当接状態から離隔状態に移動させる。
【0007】
これにより、吸油部材(4)の当接面(CS)と塗抹面(1a)とが離れて配置された離隔状態から、塗抹面(1a)および当接面(CS)が当接した当接状態へ移動させることによって、塗抹面(1a)に付着したオイル(3)を吸油部材(4)に接触させることができる。そして、吸油部材(4)によるオイル(3)の吸収によりオイル(3)を吸油部材(4)へ移動させることができるので、塗抹面(1a)からオイル(3)を効果的に除去することができる。そのため、本発明のオイル除去方法によれば、塗抹標本(1)の鏡検や保管に適したオイル除去を行うことができる。
【0008】
本発明のオイル除去装置(100)は、
図1(A)および
図1(B)に示すように、検体の塗抹標本(1)の塗抹面(1a)に付着した油浸対物レンズ用のオイル(3)を除去する装置であって、オイル除去対象の塗抹標本(1)を保持する第1保持部(10)と、オイル(3)を吸収する吸油部材(4)を保持する第2保持部(20)と、第1保持部(10)および第2保持部(20)の少なくとも一方を移動させることにより、吸油部材(4)の当接面(CS)と塗抹面(1a)とが離れて配置された離隔状態から、塗抹面(1a)および当接面(CS)が当接した当接状態へ移動させる移動機構部(30)と、を備える。
【0009】
これにより、吸油部材(4)の当接面(CS)と塗抹面(1a)とが離れて配置された離隔状態から、塗抹面(1a)および当接面(CS)が当接した当接状態へ移動させることによって、塗抹面(1a)に付着したオイル(3)を吸油部材(4)に接触させることができる。そして、吸油部材(4)によるオイル(3)の吸収によりオイル(3)を吸油部材(4)へ移動させることができるので、塗抹面(1a)からオイル(3)を効果的に除去することができる。その結果、本発明のオイル除去装置(100)によれば、塗抹標本(1)の鏡検や保管に適したオイル除去を行うことができる。
【0010】
本発明の搬送装置(130)は、
図4に示すように、上記発明によるオイル除去装置(100)と、塗抹標本(1)を移送する標本移送部(141)と、複数の塗抹標本(1)を収容可能に構成された収容容器(5)を搬送する容器搬送路(131)とを備え、標本移送部(141)は、複数の塗抹標本(1)のそれぞれについて、オイル除去装置(100)によりオイル(3)が除去された後、第1保持部(10)から取り出し、第1保持部(10)から取り出した塗抹標本(1)を、収容容器(5)に収容するように構成されている。
【0011】
これにより、本発明のオイル除去装置(100)によって、塗抹標本(1)の鏡検や保管に適したオイル除去を行うことができる。そして、オイル除去後の塗抹標本(1)を収容容器(5)に収容するので、収容容器(5)の内面にオイル(3)が付着することを抑制できる。そのため、塗抹標本(1)を適切なオイル除去状態で保管できることに加えて、収容容器(5)の洗浄作業の負荷を低減することもできる。
【0012】
本発明の検査システム(200)は、
図4に示すように、本発明のオイル除去装置(100)を備えた検査システムであって、検体をスライドガラス上に塗抹した塗抹標本(1)を作製し、作製した塗抹標本(1)を、複数の塗抹標本(1)を収容可能に構成された収容容器(5)に収容する標本作製部(110)と、標本作製部(110)から収容容器(5)を受け取り、収容容器(5)に収容された塗抹標本(1)を搬送する容器搬送部(130)と、容器搬送部(130)から搬送された塗抹標本(1)の塗抹面(1a)にオイル(3)を供給し、油浸対物レンズによって塗抹標本(1)の撮像を行う標本撮像部(150)と、を備え、容器搬送部(130)は、撮像済みの塗抹標本(1)を標本撮像部(150)から受け取り、オイル除去装置(100)によりオイル(3)を除去した後、収容容器(5)に収容するように構成されている。
【0013】
これにより、本発明のオイル除去装置(100)によって、塗抹標本(1)の鏡検や保管に適したオイル除去を行うことができる。そして、オイル除去後の塗抹標本(1)を収容容器(5)に収容するので、収容容器(5)の内面にオイル(3)が付着することを抑制できる。そのため、塗抹標本(1)を適切なオイル除去状態で保管できることに加えて、収容容器(5)の洗浄作業の負荷を低減することもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鏡検や保管に適したオイル除去方法、オイル除去装置、搬送装置および検査システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図4】オイル除去装置の適用例である検査システムの平面説明図である。
【
図7】標本作製部の染色槽および移送部の斜視説明図である。
【
図10】検査システムの制御に関わる構成を示したブロック図である。
【
図12】第1保持部が第3角度位置に配置された状態の斜視説明図である。
【
図13】第1保持部が第2角度位置に配置された状態の斜視説明図である。
【
図14】
図14(A)は、第2角度位置における側方支持部の位置を示した模式図である。
図14(B)は、第1角度位置における側方支持部の位置を示した模式図である。
【
図15】第1保持部の移動位置を説明するための平面説明図である。
【
図16】第2保持部を引き出した状態を示した斜視説明図である。
【
図17】
図17(A)は、吸油部材の斜視説明図である。
図17(B)は、塗抹面における吸油部材の当接領域を示した模式図(B)である。
【
図18】吸油部材を構成する多孔質部材の気孔構造を説明するための模式図である。
【
図19】塗抹面を第1の吸油部材と当接させた状態を示した斜視説明図である。
【
図20】第1保持部を第2の吸油部材の配置位置へ移動させた状態を示した斜視説明図である。
【
図21】塗抹面を第2の吸油部材と当接させた状態を示した斜視説明図である。
【
図22】第1保持部を第2位置へ移動させた状態を示した斜視説明図である。
【
図23】
図23(A)は、塗抹標本と第1の吸油部材とが離隔状態にある状況の模式図である。
図23(B)は、塗抹標本と第1の吸油部材とが当接状態にある状況の模式図である。
図23(C)は、塗抹標本と第1の吸油部材とを当接状態から離隔させた状況の模式図である。
図23(D)は、塗抹標本と第2の吸油部材とが当接状態にある状況の模式図である。
図23(E)は、塗抹標本と第2の吸油部材とを当接状態から離隔させた状況の模式図である。
【
図24】第1群および第2群の塗抹標本に対する3つの吸油部材の使い分けを説明するための模式図である。
【
図25】吸油部材の交換を案内する案内画面の模式図である。
【
図26】オイル除去装置の動作モードの設定画面の模式図である。
【
図27】検査システムの制御処理を示したフロー図である。
【
図29】実施例によるオイル除去枚数とオイルの残留量との関係を示したグラフである。
【
図30】オイル除去装置の第1変形例を示した斜視説明図である。
【
図31】オイル除去装置の第2変形例を示した斜視説明図である。
【
図32】オイル除去装置の第3変形例を示した説明図である。
【
図33】オイル除去装置の第4変形例を示した説明図である。
【
図34】オイル除去装置の第5変形例を示した説明図である。
【
図35】検査システムの変形例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて説明する。
【0017】
[オイル除去装置の概要]
まず、
図1(A)および
図1(B)を参照して、オイル除去装置100の概要について説明する。
図1は、第1の例によるオイル除去装置の概要を示す図である。
図1(A)は、第1の例によるオイル除去装置100の離隔状態を示す図である。
図1(B)は、第1の例によるオイル除去装置100の当接状態を示す図である。第1の例によるオイル除去装置100は、検体の塗抹標本1の塗抹面1aに付着した油浸対物レンズ用のオイル3を除去する装置である。
【0018】
(塗抹標本およびオイル)
塗抹標本1は、
図3に示すように、長方形状のガラス製の板材であるスライドガラス2に、検体が塗抹され、標本として処理されたものである。標本とは、検体を顕微鏡観察可能な状態に処理したものである。塗抹標本1は、検体が塗抹される塗抹面1aを有する。塗抹面1aは、スライドガラス2の一方表面である。塗抹面1aのうち、外周縁1bよりも内側の中央部1cに、検体が塗抹される。検体は、被検者の血液であるが、検体は血液には限定されない。スライドガラス2の他方表面は、検体が塗抹されない裏面1dである。スライドガラス2における塗抹面1aの長手方向の一端部である上部(ハッチングを付した部分)には、後述する識別情報の印字領域であるフロスト部2aが設けられている。フロスト部2aは、ガラス表面に合成樹脂をコーティングすることにより、インクによる印字が可能な処理が施された領域である。塗抹標本1は、標本撮像装置に供給され、標本撮像装置において標本の顕微鏡画像(以下、標本画像という)が撮像される。
【0019】
標本画像の撮像の際、油浸対物レンズが用いられる。油浸対物レンズとは、対物レンズと塗抹面1aとの間のギャップをイマージョンオイル(以下、「オイル」という)で満たすことによってオイルを用いない場合よりも開口数を高めて、観察される像を鮮明化するレンズである。そのため、油浸対物レンズを用いた撮像後には、
図1(A)に示したように、塗抹標本1の塗抹面1aに、オイル3が付着した状態となる。
【0020】
撮像後の塗抹標本は、検査技師や医師等が標本を直接視認する顕微鏡検査(鏡検)に供されたり、後で鏡検できるように保管されたりする。塗抹標本1に付着したオイル3は、油浸対物レンズを用いない鏡検を行う場合には、鏡検の前に除去する必要がある。また、オイル3が付着したままの塗抹標本1は、保管に適さない。
【0021】
このオイル3は、手作業で除去する場合、通常、キシレンを用いてふき取る必要がある。キシレンは、使用および管理に十分な注意が必要とされる劇物であるため、オイル3の除去作業は、煩雑なものである。
【0022】
オイル除去装置100は、塗抹標本1の塗抹面1aに付着したオイル3の除去処理を自動的に行えるように構成されている。また、オイル除去装置100では、塗抹面1aに付着したオイル3を吸油部材4に吸収させる手法で除去することにより、劇物であるキシレンを用いずにオイル3の除去を可能とした。
【0023】
図1(A)および
図1(B)に示すように、オイル除去装置100は、第1保持部10と、第2保持部20と、移動機構部30と、を備える。
【0024】
第1保持部10は、オイル除去対象の塗抹標本1を保持するように構成されている。第1保持部10は、塗抹面1aにオイル3が付着している状態の塗抹標本1を、保持する。
【0025】
第2保持部20は、オイル3を吸収する吸油部材4を保持するように構成されている。第2保持部20は、吸油部材4が塗抹標本1の塗抹面1aと当接可能なように、吸油部材4の当接面CSを露出させた状態で吸油部材4を保持する。吸油部材4の表面のうち、塗抹面1aと当接させる面が、当接面CSである。
【0026】
吸油部材4は、オイル3と接触することによりオイル3を吸収するように構成された部材である。吸油部材4は、たとえば多孔質部材である。多孔質部材は、微細孔が多数形成された構造を有する部材であり、微細孔内に液体(ここではオイル3)を取り込むことによって、取り込んだ液体を保持できる。
【0027】
移動機構部30は、第1保持部10と第2保持部20とを相対移動させるように構成されている。移動機構部30は、第1保持部10と第2保持部20との相対移動のための駆動源を備える。駆動源は、たとえばモータ31である。
図1A、
図1Bの例では、第1保持部10を移動させるように構成された1つの駆動源が設けられているが、駆動源は2以上設けられてもよい。
【0028】
移動機構部30は、第1保持部10を移動させることにより、吸油部材4の当接面CSと塗抹面1aとが離れて配置された離隔状態(
図1(A)参照)から、塗抹面1aおよび当接面CSが当接した当接状態(
図1(B)参照)へ移動させるように構成されている。
【0029】
図1(A)および
図1(B)では、移動機構部30は、回転軸32を介して第1保持部10と連結されており、モータ31により第1保持部10を回転軸32周りに回動させる。第1保持部10は、回転軸32から所定距離だけ離れた位置に塗抹標本1を保持している。塗抹標本1は、第1保持部10が回動することにより、回転軸32を中心としてR方向に旋回するように移動する。吸油部材4は、第2保持部20によって、塗抹標本1の移動経路上に保持されている。
【0030】
図1(A)では、当接面CSと塗抹面1aとが離れた離隔状態を示している。離隔状態では、当接面CSと塗抹面1aとが非接触である。この離隔状態において、移動機構部30がモータ31により第1保持部10を回転軸32周りに回動させることにより、塗抹標本1が回転軸32周りにR方向に移動し、塗抹標本1が吸油部材4に近付けられる。回動の結果、塗抹標本1の塗抹面1aが、当接面CSに当接(
図1(B)参照)する。
【0031】
図1(B)では、塗抹面1aと当接面CSとが当接した当接状態を示している。移動機構部30のモータ31の駆動力により、塗抹面1aは当接面CSに当接する。塗抹面1aの表面に付着していたオイル3は、当接面CSから吸油部材4に吸収される。
【0032】
その後、移動機構部30は、モータ31により第1保持部10を回転軸32周りに逆方向に回動させる。その結果、
図1(A)に示したように、塗抹面1aおよび当接面CSが離隔され、当接状態から離隔状態になる。
【0033】
なお、移動機構部30は、第1保持部10および第2保持部20の少なくとも一方を移動させることにより、吸油部材4の当接面CSと塗抹面1aとが離れて配置された離隔状態から、塗抹面1aおよび当接面CSが当接した当接状態へ移動させるように構成されていてもよい。また、離隔状態において、当接面CSと塗抹面1aとの離隔距離の大きさは特に限定されず、
図1(A)に示した離隔距離よりも大きくしてもよいし、小さくしてもよい。
【0034】
[オイル除去方法の概要]
第1の例によるオイル除去装置100を用いたオイル除去方法の概要を説明する。オイル除去方法は、検体の塗抹標本1の塗抹面1aに付着した油浸対物レンズ用のオイル3を除去する方法であって、以下のステップ(1A)および(2A)を備える。
(1A)オイル除去対象の塗抹標本1を保持する第1保持部10を、オイル3を吸収する吸油部材4を保持する第2保持部20に対して、吸油部材4の当接面CSと塗抹面1aとが離れて配置された離隔状態(
図1(A)参照)から、塗抹面1aおよび当接面CSが当接した当接状態(
図1(B)参照)へ移動させることによってオイル3を除去する。
(2A)オイル3の除去後に、第1保持部10と第2保持部20との少なくとも一方を当接状態(
図1(B)参照)から離隔状態(
図1(A)参照)に移動させる。
【0035】
ステップ(1A)において、
図1(A)および
図1(B)の例では、移動機構部30によって、塗抹標本1を保持する第1保持部10が、第2保持部20に固定された吸油部材4に対して近づくR方向に移動されることにより、塗抹面1aおよび当接面CSが当接する。
【0036】
ステップ(2A)において、
図1(A)および
図1(B)の例では、移動機構部30によって、塗抹標本1を保持する第1保持部10が、第2保持部20に固定された吸油部材4から離れる方向(Rとは逆方向)に移動されることにより、塗抹面1aおよび当接面CSが離隔する。
【0037】
このように、オイル除去装置100およびオイル除去方法は、吸油部材4の当接面CSと塗抹面1aとが離れて配置された離隔状態から、塗抹面1aおよび当接面CSが当接した当接状態へ移動させることによって、塗抹面1aに付着したオイル3を吸油部材4に接触させることができる。そして、吸油部材4によるオイル3の吸収によりオイル3を吸油部材4へ移動させることができるので、塗抹面1aからオイル3を効果的に除去することができる。その結果、塗抹標本1の鏡検や保管に適したオイル除去を行うことができる。
【0038】
なお、第1保持部10と第2保持部20との少なくとも一方を、離隔状態から当接状態へ移動させることによってオイル3を除去してもよい。また、オイル3の除去後に、第1保持部10と第2保持部20との少なくとも一方を当接状態から離隔状態に移動させてもよい。
【0039】
[他のオイル除去装置の概要]
図2は、第2の例によるオイル除去装置100の概要を示す。オイル除去装置100は、第1保持部10と、第2保持部20a、20bと、移動機構部30と、を備える。
【0040】
オイル除去装置100では、第2保持部20a、20bは、オイル3を吸収する吸油部材4として2つの吸油部材4a、4bを保持するように構成されている。
図2の例では、第2保持部20aが吸油部材4aを保持すると共に第2保持部20bが吸油部材4bを保持し、2つの吸油部材4a、4bがX方向に間隔を隔てて保持されている。
【0041】
移動機構部30は、第1保持部10を移動させることにより、1枚の塗抹標本1の塗抹面1aを、2つの吸油部材4a、4bにそれぞれ当接および離隔させるように構成されている。
図2では、移動機構部30は、第1保持部10を移動させる。移動機構部30は、第1保持部10を回転軸32周りに回動させるモータ31に加えて、第1保持部10をX方向に移動させるモータ41を備えている。
【0042】
移動機構部30は、第1保持部10を移動させることにより、塗抹標本1の塗抹面1aを、第1の吸油部材4aとの当接状態へ移動させてオイル3を除去し、オイル3の除去後に、離隔状態に移動させる。すなわち、移動機構部30は、モータ41により、塗抹標本1のX方向の位置を第1の吸油部材4aの配置位置と一致させるように第1保持部10をX方向に移動させる。次に、移動機構部30は、モータ31により、塗抹標本1の塗抹面1aを、第1の吸油部材4aと当接および離隔させる。塗抹面1aを第1の吸油部材4aとの当接状態および離隔状態に移動させる動作は、
図1(A)および
図1(B)と同様である。塗抹面1aを第1の吸油部材4aとの当接状態および離隔状態に移動させることにより、塗抹面1aに付着したオイル3の1次除去動作が行われる。この1次除去動作で、オイル3の大部分が第1の吸油部材4aに吸収される。
【0043】
次に、塗抹面1aを第1の吸油部材4aから離隔させた後、移動機構部30は、第1保持部10を移動させることにより、塗抹標本1の塗抹面1aを、第2の吸油部材4bと当接状態へ移動させてオイル3を除去し、オイル3の除去後に、離隔状態に移動させる。すなわち、移動機構部30は、モータ41により、塗抹標本1のX方向の位置を第2の吸油部材4bの配置位置と一致させるように第1保持部10をX方向に移動させる。移動機構部30は、モータ31により、塗抹標本1の塗抹面1aを、第2の吸油部材4bとの当接状態および離隔状態に移動させる。塗抹面1aを第2の吸油部材4bとの当接状態および離隔状態に移動させることにより、塗抹面1aに付着したオイル3の2次除去動作が行われる。この2次除去動作で、1次除去動作では除去しきれずに塗抹面1aに残ったオイル3が第2の吸油部材4bに吸収される。
【0044】
なお、移動機構部30は、第1保持部10および第2保持部20a、20bの少なくとも一方を移動させることにより、1枚の塗抹標本1の塗抹面1aを、2つ以上の吸油部材4に対してそれぞれ当接状態および離隔状態にさせるように構成されていてもよい。
【0045】
[他のオイル除去方法の概要]
第2の例によるオイル除去装置100を用いたオイル除去方法を説明する。オイル除去方法は、検体の塗抹標本1の塗抹面1aに付着した油浸対物レンズ用のオイル3を除去する方法であって、以下のステップ(1B)および(2B)を備える。
(1B)オイル除去対象の塗抹標本1を保持する第1保持部10を、オイル3を吸収する吸油部材4を保持する第2保持部20に対して、塗抹面1aと第1の吸油部材4aとが当接した当接状態へ移動させることによってオイル3を除去し、オイル3の除去後に、第1保持部10を当接状態から、塗抹面1aと第1の吸油部材4aとが離れて配置された離隔状態に移動させる。
(2B)第1保持部10を離隔状態に移動させた後、第1保持部10を、塗抹面1aと第2の吸油部材4bとが当接した当接状態へ移動させることによってオイル3を除去し、オイル3の除去後に、第1保持部10を当接状態から、塗抹面1aと第2の吸油部材4bとが離れて配置された離隔状態に移動させる。
【0046】
ステップ(1B)において、
図2の例では、移動機構部30がモータ41を駆動することにより、第1保持部10に保持された塗抹標本1のX方向の位置を第1の吸油部材4aの位置と一致させる処理と、移動機構部30がモータ31を駆動することにより、第1保持部10に保持された塗抹標本1の塗抹面1aを、第1の吸油部材4aとの当接状態および離隔状態に移動させる処理と、を含む1次除去動作が行われる。
【0047】
ステップ(2B)において、
図2の例では、移動機構部30がモータ41を駆動することにより、第1保持部10に保持された塗抹標本1のX方向の位置を第2の吸油部材4bの位置と一致させる処理と、移動機構部30がモータ31を駆動することにより、第1保持部10に保持された塗抹標本1の塗抹面1aを、第2の吸油部材4bとの当接状態および離隔状態に移動させる処理と、を含む2次除去動作が行われる。
【0048】
このように、オイル除去装置100およびオイル除去方法は、1枚の塗抹標本1の塗抹面1aを、2つ以上の吸油部材4に対して、順番に、当接状態および離隔状態に移動させる。これにより、塗抹面1aを吸油部材4と1回当接させただけでは吸収しきれないオイル3が塗抹面1aに残留した場合でも、塗抹面1aと吸油部材4とを一旦離隔状態にさせた後、塗抹面1aと別の吸油部材4とを当接状態にさせることによって、残留したオイル3を別の吸油部材4に追加で吸収させることができる。塗抹面1aに付着したオイル3の大部分は、1つ目の吸油部材4(第1の吸油部材4a)によって吸収されるが、その1つ目の吸油部材4(第1の吸油部材4a)は、オイル3の吸収に伴ってオイル3の吸収能力が少なくとも一時的には低下する。そこで、最初の当接でオイル3を吸収した吸油部材4とは異なる2つ目の吸油部材4(第2の吸油部材4b)に塗抹面1aを当接させることによって、オイル3の吸収能力が1つ目の吸油部材4よりも低下していない2つ目の吸油部材4(第2の吸油部材4b)により、塗抹面1aに残留したオイル3を効果的に除去できる。その結果、キシレンを用いることなく、塗抹標本1の鏡検や保管に適したオイル除去を行うことができる。
【0049】
なお、第1保持部10と第2保持部20との少なくとも一方を移動させることにより、1枚の塗抹標本1の塗抹面1aと第1の吸油部材4aとを当接状態および離隔状態にしてもよい。また、塗抹面1aを第1の吸油部材4aから離隔させた後、第1保持部10と第2保持部20との少なくとも一方を移動させることにより、塗抹標本1の塗抹面1aと第2の吸油部材4bとを当接状態および離隔状態にしてもよい。
【0050】
図1および
図2では、第1保持部10を移動機構部30により移動させることによって、離隔状態から当接状態への移動と、当接状態から離隔状態への移動とを行う。第2保持部20は固定されている。これにより、第1保持部10と第2保持部20との両方を移動させる構成と比べて、装置構成を簡素化することができる。
【0051】
なお、第2保持部20を移動機構部30により移動させることによって、離隔状態から当接状態への移動と、当接状態から離隔状態への移動とを行ってもよい。この場合、第1保持部10が固定されていてもよい。
【0052】
[実施形態]
(検査システムの概要)
次に、
図4~
図26を参照して、実施形態によるオイル除去装置100の適用例である検査システム200について説明する。
【0053】
(検査システム)
検査システム200は、
図4に示すように、標本作製部110と、容器搬送部130と、標本撮像部150とを備えている。標本作製部110では、塗抹標本1が作製され、作製された塗抹標本1が収容容器5に収容される。塗抹標本1を収容した収容容器5が、標本作製部110から容器搬送部130へ搬送される。容器搬送部130では、標本作製部110から搬送された収容容器5内の塗抹標本1が容器搬送部130により標本撮像部150に供給される。標本撮像部150では、容器搬送部130から供給された塗抹標本1の塗抹面1aにオイル3が供給され、油浸対物レンズによって塗抹標本1の顕微鏡画像が撮像される。撮像後、塗抹標本1が標本撮像部150から容器搬送部130に返却される。容器搬送部130では、塗抹標本1が、オイル除去の後、撮像済みの塗抹標本1を収容するための収容容器5に収容される。検査システム200は、これらの標本作製部110、容器搬送部130および標本撮像部150により、検体が塗抹された塗抹標本1の作製から検体の撮像までの一連の動作を自動的に行うことができる。
【0054】
オイル除去装置100は、容器搬送部130に設けられている。オイル除去装置100は、標本撮像部150からオイル3が付着した塗抹標本1を受け取り、塗抹標本1が収容容器5に収容される前に、塗抹標本1に付着したオイル3を除去する。オイル除去装置100は、塗抹標本1に付着したオイル3を除去する機能に加えて、標本撮像部150と容器搬送部130との間で塗抹標本1の受け渡しを行う機能を有している。
【0055】
なお、本明細書においては、
図4に示すX方向を左右方向、Y方向を前後方向、Z方向を上下方向として説明する。また、
図4においてはY2側を前側とし、Y1側を後側としている。つまり、検査システム200において、標本作製部110が容器搬送部130の右側部に配置され、容器搬送部130の後側に標本撮像部150が配置されている。容器搬送部130は、その一部が標本撮像部150の前側に対向して配置されている。また、本明細書においては、左右方向と言う意味で「横」と記載することがあり、前後方向という意味で「縦」と記載することがある。
【0056】
図5に示すように、標本作製部110と、容器搬送部130と、標本撮像部150とは、それぞれ、別々の筐体に収容されている。オイル除去装置100は、容器搬送部130の筐体内に収容されている。検査システム200は、
図5の形態以外にも、標本作製部110と、容器搬送部130と、標本撮像部150とを単一の筐体に収容した単一の検査装置として構成されてもよい。
【0057】
[標本作製部]
図4に示すように、標本作製部110は、被験者の検体である血液をスライドガラス2(
図3参照)上に塗抹し、乾燥および染色等の処理を施すことにより塗抹標本1を作製する。標本作製部110は、作製した塗抹標本1を、複数の塗抹標本1を収容可能に構成された収容容器5に収容する。なお、本明細書では、標本作製部110における標本作製処理が完了したものだけでなく、標本作製処理が完了する前のスライドガラス2も塗抹標本1と称する。
【0058】
標本作製部110は、スライド供給部111と、印刷部112と、塗抹部113と、吸引部114と、乾燥部115と、染色部116と、乾燥槽118と、移送部119(
図7参照)と、搬送部123とを備えている。標本作製部110は、さらに、染色部116に対してそれぞれ染色液および洗浄液を供給し、また排出するための流体回路部121(
図7参照)と、移送部119の動作の制御を行うための制御部170とを備えている。
【0059】
スライド供給部111は、検体を塗抹する前の未使用のスライドガラス2を多数収納している。スライド供給部111は、塗抹前のスライドガラス2を一枚ずつ印刷部112に供給する。印刷部112は、スライドガラス2のフロスト部2a(
図3参照)に、各種情報を印字する。フロスト部2aに印字される情報には、たとえば、検体識別情報と、撮像要否識別情報とが含まれる。検体識別情報は、検体番号、日付、受付番号、被験者の氏名等の検体を識別するための情報である。撮像要否識別情報は、標本撮像部150の撮像対象となる検体であるか否かを識別するための情報である。検体が撮像対象であるか、撮像対象でないかは、検査を受け付けるときに予めホストコンピュータ300に入力することができる。印刷部112は、印字したスライドガラス2を塗抹部113に供給する。
【0060】
吸引部114は、検体搬送部105により搬送された検体容器7中の検体を吸引する。検体搬送部105は、複数の検体容器7を保持できる検体ラック8を搬送することにより、検体ラック8に保持された複数の検体容器7を読取位置E1に順次搬送した後、順次吸引位置E2に搬送する。検体ラック8は、複数の検体容器7を所定方向に並べて保持する。検体容器7には、検体の識別IDを記録したバーコードが付与されており、読取位置E1において、ID読取部114aによって識別IDが読み取られる。ID読取部114aは、光学式のバーコードリーダからなる。吸引部114は、吸引位置E2に搬送された検体容器7内から検体を吸引して、吸引した検体を塗抹部113に供給する。
【0061】
塗抹部113は、吸引部114により吸引された検体を、印刷部112から送られてきたスライドガラス2の中央部1c(
図3参照)に塗抹する。塗抹部113は、塗抹処理後の塗抹標本1を乾燥部115に供給する。
【0062】
乾燥部115は、検体が塗抹された塗抹標本1を塗抹部113から受け取り、中央部1c(
図3参照)に塗抹された検体を乾燥させる機能を有する。
【0063】
乾燥部115で乾燥された検体塗抹済みの塗抹標本1に対して、染色部116で染色処理および洗浄処理が行われる。その後、乾燥槽118で乾燥処理が行われる。塗抹標本1の染色が完了すると、染色済みの塗抹標本1は搬送部123に送られる。これらの各部間の塗抹標本1の移送は、移送部119(
図7参照)により行われる。
【0064】
染色部116は、塗抹標本1に塗抹された検体を染色液により染色する染色処理、および検体を洗浄液により洗浄する洗浄処理を行う。染色部116は、染色槽116a~116eと、洗浄槽117aおよび117bとを含む。
【0065】
図7に示すように、染色槽116a~116eの各々は、上面が開放された凹状の内部空間を有する容器形状に形成されており、検体が塗抹された塗抹標本1を浸すことができるように、その内部に染色液121aが溜められる。また、各洗浄槽117aおよび117bも容器形状に形成されており、染色された塗抹標本1を浸すことができるように、その内部に洗浄液121bが溜められる。標本作製部110では、3つの染色槽116a、116b、116c、洗浄槽117a、2つの染色槽116d、116e、および洗浄槽117bがY方向に沿って順に配置されており、これらの槽は染色部116を構成する一部分として合成樹脂で一体形成されている。
【0066】
染色槽116a、116b、116c、116d、116eおよび洗浄槽117a、117b内は、それぞれ仕切りが設けられている。塗抹標本1は、隣接する仕切りの間に挿入されることで、各槽内ではZ方向に沿って立てた姿勢で保持される。
【0067】
移送部119は、塗抹標本1を把持して移送するように構成されている。移送部119は、染色槽116a、116b、116c、116d、116e内又は洗浄槽117a、117b内に塗抹標本1を1枚ずつ出し入れできるように構成されている。
【0068】
移送部119は第1移送部119aおよび第2移送部119bを備えている。第1移送部119aおよび第2移送部119bは、いずれも染色槽116a、116b、116c、116d、116eおよび洗浄槽117a、117bの上方(Z1方向)に配置される。第1移送部119aおよび第2移送部119bは、共通のX軸レール125aに対してそれぞれ係合するX軸スライダ125bと、対応するX軸モータ125cとによって、それぞれX方向に移動可能である。第1移送部119aおよび第2移送部119bは、それぞれ、Y軸レール125dと、Y軸レール125dに係合するY軸スライダ125eと、Y軸モータ125fとによって、Y方向に移動可能である。第1移送部119aおよび第2移送部119bは、互いに独立して水平方向(X方向およびY方向)に移動することができる。ハンド部122は、Z軸モータ122aと伝達機構122bとによりZ方向に移動することができる。ハンド部122は、一枚の塗抹標本1を厚さ方向に挟んで把持したり、把持した塗抹標本1を開放したりできる。塗抹標本1を1枚ずつ出し入れするための移送部119の構成としては、上記構成以外でも種々の構成を採用することができる。
【0069】
乾燥槽118は、染色処理および洗浄処理が施された塗抹標本1を乾燥させるように構成されている。乾燥槽118は、隣接する仕切りの間に塗抹標本1をZ方向に沿って立てた姿勢で保持できる。乾燥槽118には、乾燥槽118内に保持された塗抹標本1に温風を供給するための送風ユニット118aが設けられている。
【0070】
染色、洗浄および乾燥処理が終了した塗抹標本1は、移送部119により
図4に示した搬送部123に設置された収容容器5に移送される。搬送部123は、収容容器5を搬送するように構成されている。
【0071】
図6に示すように、収容容器5は、複数の収容部5aを有し、染色済みの塗抹標本1を複数収容可能に構成されている。収容容器5は、上面が開口した箱型形状を有し、内部に複数の仕切り部5bが設けられている。収容部5aは、収容容器5の長手方向に隣り合う仕切り部5bの間の空間により構成されている。本実施形態では、収容容器5が収容可能な塗抹標本1の最大枚数は10枚である。
【0072】
図4に戻り、搬送部123は、複数の空の状態の収容容器5を貯留および搬送することができる搬入路123a、複数の塗抹標本1が収納された収容容器5を貯留および搬送することができる搬出路123b、および収容容器5を搬入路123aから搬出路123bに送る横送り機構123cを含んでいる。搬入路123aおよび搬出路123bは、いずれもベルトコンベヤを含んでおり、収容容器5をY方向に搬送することができる。搬送部123では、ユーザが空の収容容器5を搬入路123aの投入位置E3にセットすると、収容容器5が標本収容位置E4に向けてY1方向へ自動的に搬送される。
【0073】
乾燥槽118による乾燥処理が終了した塗抹標本1から順番に、移送部119が掴み上げ、標本収容位置E4に配置された収容容器5の空いた収容部5aに塗抹標本1が順次収容される。本実施形態では、塗抹標本1が、収容容器5に対して1枚ずつ収容される。収容容器5に塗抹標本1が順次収容される過程で、予め設定された搬送条件が満たされると、標本収容位置E4の収容容器5が、横送り機構123cによって搬入路123aから搬出路123bへと移送される。搬出路123bに移送された収容容器5は、Y2側に自動的に搬送される。搬出路123bの最もY2側に搬送された収容容器5は、横送り部124によって容器搬送部130に移送される。
【0074】
(容器搬送部)
容器搬送部130は、標本作製部110から収容容器5を受け取り、収容容器5に収容された塗抹標本1を搬送するように構成されている。容器搬送部130は、複数の塗抹標本1を収容した収容容器5を搬送するための容器搬送路131と、容器搬送路131により搬送された収容容器5に収容された塗抹標本1を取り出し、取り出した塗抹標本1を、標本撮像部150に供給するための標本移送部141とを備えている。さらに、本実施形態では、容器搬送部130は、オイル除去装置100を備えている。すなわち、容器搬送部130は、オイル除去装置100と、塗抹標本1を移送する標本移送部141と、複数の塗抹標本1を収容可能に構成された収容容器5を搬送する容器搬送路131と、を備えた搬送装置である。容器搬送部130は、撮像済みの塗抹標本1を標本撮像部150から受け取り、オイル除去装置100によりオイル3を除去した後、収容容器5に収容するように構成されている。これにより、塗抹標本1に付着したオイル3が収容容器5の内面に付着することを抑制できる。そのため、塗抹標本1を鏡検に適したオイル除去状態で保管できることに加えて、収容容器5の洗浄作業の負荷を低減できる。
【0075】
〈容器搬送路〉
容器搬送路131は、Y1側の第1搬送路132と、Y2側の第2搬送路133とを有している。第1搬送路132および第2搬送路133は、いずれもベルト132b(
図9参照)と、当該ベルト132bを駆動させる駆動部132a(
図9参照)とを備えたベルトコンベヤを含んでおり、収容容器5をX方向に搬送することができる。
【0076】
図8に示すように、第1搬送路132は、上流側(X1側)から下流側(X2側)に向けて、待機位置C2、取出位置C1、および第1貯留領域C3を含む。
【0077】
第1搬送路132は、上流側(X1側)端部において、標本作製部110の搬出路123bと接続されている。標本作製部110から搬送された収容容器5は、横送り部124によって第1搬送路132の上流端に移送される。第1搬送路132に移送された収容容器5は、取出位置C1へ搬送される。取出位置C1に既に収容容器5がある場合、第1搬送路132に移送された収容容器5は待機位置C2で待機する。
【0078】
取出位置C1に搬送された収容容器5から、撮像対象の塗抹標本1が取り出される。収容容器5内に撮像対象の塗抹標本1がなくなると、第1搬送路132は、その収容容器5を取出位置C1から第1貯留領域C3へ搬送する。取出位置C1の収容容器5から第1貯留領域C3へ搬送されると、第1搬送路132は、空いた取出位置C1へ、待機位置C2から次の収容容器5を搬送する。
【0079】
第2搬送路133は、上流側(X1側)から下流側(X2側)に向けて、セット領域D2、撮像済み収容位置D1、第2貯留領域D3を含む。
【0080】
第2搬送路133は、空の収容容器5をセット領域D2から撮像済み収容位置D1まで搬送する。標本撮像部150による撮像が終了した塗抹標本1が、撮像済み収容位置D1の収容容器5内に順次収容される。つまり、撮像対象の塗抹標本1は、第1搬送路132の収容容器5から取り出され、撮像後には第2搬送路133の別の収容容器5に収容される。撮像済み収容位置D1の収容容器5が満杯になると、第2搬送路133は、撮像済み収容位置D1の収容容器5を撮像済み収容位置D1から第2貯留領域D3に搬送する。
【0081】
〈標本移送部〉
標本移送部141は、第1搬送路132および第2搬送路133の上方(Z1方向)に設けられている。標本移送部141は、標本作製部110における移送部119(
図7参照)と同様に塗抹標本1を把持して移送する。標本移送部141は、収容容器5内に塗抹標本1を1枚ずつ出し入れできるように構成されている。本実施形態では、標本移送部141には、水平方向(Y方向)および上下方向(Z方向)に移動可能であり、塗抹標本1を把持するためのハンドリング部142(
図9参照)を含む2軸直交ロボットを採用している。
【0082】
図9に示すように、標本移送部141は、Y軸レール143aと、当該Y軸レール143aと係合するY軸スライダ143bと、Y軸モータ143cとによって水平方向(Y方向)に移動可能である。Y軸モータ143cは、例えばステッピングモータである。Y軸モータ143cは、ベルト‐プーリ機構からなる伝達機構を介してY軸スライダ143bをY方向に移動させる。
【0083】
標本移送部141は、ハンドリング部142を昇降させるためのZ軸モータ143dと、伝達機構143eとを含んでいる。Z軸モータ143dは、伝達機構143eを介してハンドリング部142を昇降させることができる。
【0084】
ハンドリング部142は、一対の把持板により一枚の塗抹標本1を厚さ方向に挟んで把持したり、把持した塗抹標本1を開放したりできる。ハンドリング部142は、塗抹標本1の表面側と裏面側とにそれぞれ接触して塗抹標本1を把持する。
【0085】
標本移送部141は、標本撮像部150に向けて搬送された収容容器5に収容された塗抹標本1を検出する検出部160を備える。検出部160は、標本移送部141に設けられたカメラにより構成されている。検出部160は、ハンドリング部142により把持された塗抹標本1におけるフロスト部2a(
図3参照)を撮像する。撮像された画像データから、制御部170(
図4参照)がフロスト部2aに印字された情報を読み取ることによって、塗抹標本1が標本撮像部150の撮像対象であるか否かの判定が行われる。
【0086】
標本撮像部150による撮像対象であると判定された塗抹標本1は、
図8に示すように、標本移送部141によって、第2位置P2まで移送される。この第2位置P2と、第1位置P1とに跨がるように、オイル除去装置100が設けられている。
【0087】
〈オイル除去装置〉
オイル除去装置100は、第2位置P2において標本移送部141から撮像前の塗抹標本1を第1保持部10に受け取る。オイル除去装置100は、第1保持部10を第1位置P1へ向けてX2方向に移動させ、第1位置P1において撮像前の塗抹標本1を標本撮像部150の標本受渡部151に受け渡す。
【0088】
また、オイル除去装置100は、第1位置P1において標本受渡部151から撮像済みの塗抹標本1を第1保持部10に受け取る。標本受渡部151から受け取る塗抹標本1は、塗抹面1aにオイル3(
図1(A)参照)が付着しているオイル除去対象の塗抹標本1である。オイル除去装置100は、第1保持部10に保持させた塗抹標本1の塗抹面1aを、第2保持部20に保持された吸油部材4に当接させるオイル除去処理を行う。オイル除去装置100は、オイル除去処理後に、第1保持部10を第2位置P2に向けてX1方向に移動させ、第2位置P2においてオイル除去済みの塗抹標本1を第1保持部10から標本移送部141に受け渡す。このように、オイル除去装置100は、撮像済みの塗抹標本1を第1位置P1から第2位置P2へ移動させる過程で、塗抹標本1に付着したオイル3を除去する処理を行う。
【0089】
オイル除去装置100は、移動機構部30によって、第1位置P1と第2位置P2との間で第1保持部10をX方向に移動させるように構成されている。上記の通り、第1位置P1は、オイル除去対象の塗抹標本1を第1保持部10に保持させる位置である。第1位置P1は、撮像対象の塗抹標本1を第1保持部10から標本撮像部150に受け渡す位置でもある。第2位置P2は、オイル除去後の塗抹標本1を第1保持部10から取り出す位置である。第2位置P2は、撮像対象の塗抹標本1を標本移送部141から第1保持部10に保持させる位置でもある。
【0090】
オイル除去装置100の詳細な構成は、後述する。
【0091】
(標本撮像部)
図4に戻り、標本撮像部150は、容器搬送部130から搬送された塗抹標本1の塗抹面1aにオイル3を供給し、油浸対物レンズによって塗抹標本1の撮像を行う。標本撮像部150は、容器搬送部130のオイル除去装置100から搬送された塗抹標本1を撮像するように構成されている。標本撮像部150は、標本受渡部151、搬送部152、オイル塗布部153、撮像部154および分析部155を備える。
【0092】
標本受渡部151は、撮像対象の塗抹標本1をオイル除去装置100から受け取り、撮像済みの塗抹標本1をオイル除去装置100に受け渡すように構成されている。搬送部152は、受け取った撮像対象の塗抹標本1を、オイル塗布部153に搬送する。オイル塗布部153は、塗抹標本1の塗抹面1aに塗抹されている検体にオイル3を塗布する。搬送部152は、塗抹標本1を撮像部154に搬送する。撮像部154は、顕微鏡とカメラとを含む。この撮像部154が、油浸対物レンズにより塗抹標本1の標本画像を撮像する。撮像された標本画像は、分析部155に出力される。撮像済みの塗抹標本1は、オイル3が付着したままの状態で、搬送部152によって標本受渡部151に戻され、標本受渡部151からオイル除去装置100に受け渡される。
【0093】
オイル除去装置100は、標本受渡部151から受け渡されたオイル除去対象の塗抹標本1に対して、オイル除去を行う。オイル除去後の塗抹標本1は、第2位置P2において、標本移送部141により第1保持部10から取り出される。標本移送部141は、取り出したオイル除去後の塗抹標本1を、撮像済み収容位置D1に配置された収容容器5に収容する。
【0094】
オイル除去装置100は、複数の塗抹標本1のそれぞれが標本受渡部151から第1保持部10に1枚ずつ受け渡される度に、オイル除去動作を実行する。標本移送部141は、複数の塗抹標本1のそれぞれについて、オイル除去装置100によりオイル3が除去された後、第1保持部10から取り出し、第1保持部10から取り出した塗抹標本1を、収容容器5に収容するように構成されている。これにより、撮像済みの塗抹標本1を、保管または鏡検のために、収容容器5に複数枚まとめて収容することができる。そして、オイル除去装置100により適切にオイル3が除去されるので、収容容器5にオイル3が付着することを抑制できる。つまり、保管または鏡検のために塗抹標本1におけるオイル3の残留を抑制できることに加えて、収容容器5へのオイル3の付着を抑制することにより、たとえば収容容器5に付着したオイル3を除去するための洗浄作業などの作業負荷を低減できる。
【0095】
図10を参照して、検査システム200の制御に関わる構成について説明する。
【0096】
標本作製部110は、制御部170と、記憶部171と、通信部172と、I/O(Input/Output)基板173と、表示部174および入力部175とを備える。容器搬送部130は、検出部160と、通信部181と、I/O基板182と、を備える。標本撮像部150は、制御部191と、通信部192と、I/O基板193と、を備える。
【0097】
標本作製部110のI/O基板173には、駆動機構176が接続されている。駆動機構176は、標本作製部110の各部に設けられたモータ、センサ、バルブなどの総称である。
【0098】
制御部170は、プロセッサ(CPU)とメモリとを含んで構成され、記憶部171に記憶されたプログラム171aをプロセッサが実行することにより、標本作製部110の各部を制御する。なお、制御部170は、ASICやFPGAを含んで構成されてもよい。制御部170は、プログラム171aを実行することにより、標本作製部110を制御する。具体的には、制御部170は、I/O基板173を介して駆動機構176を制御することにより、標本作製部110による塗抹標本1の作製動作および収容容器5の搬送動作を制御する。また、制御部170は、プログラム171aを実行することにより、容器搬送部130を制御する。制御部170は、通信部172を介して容器搬送部130を制御する。したがって、オイル除去装置100の動作は、制御部170により制御される。
【0099】
記憶部171は、SSDからなる記憶装置で構成され、上記したプログラム171aを記憶するとともに、後述する第1モードと第2モードとの設定情報171bを記憶している。また、記憶部171は、オイル除去処理を行った塗抹標本1の枚数(以下、除去枚数という)である除去情報171cを記憶している。除去枚数とは、吸油部材4を使用して塗抹標本1のオイル3を除去した枚数である。
【0100】
表示部174は、制御部170が出力する画像信号に基づいて各種画面を表示可能である。入力部175は、制御部170に対する入力操作を受け付ける。表示部174は、液晶表示装置からなり、入力部175は、表示部174に設けられたタッチパネルからなる。また、表示部174は、後述するように、吸油部材4の交換を案内するための案内画面210(
図25参照)およびオイル除去装置100の動作モードを設定する設定画面220(
図26参照)を表示することができる。通信部172は、容器搬送部130の通信部181およびホストコンピュータ300と通信を行うための通信インターフェースである。通信部172と通信部181とは、たとえば、USB規格に準拠したケーブル(USBケーブル)により互いに接続されている。通信部172は、たとえばEthernet(登録商標)規格に準拠したケーブル(いわゆるLANケーブル)によってホストコンピュータ300と接続されている。なお、通信部172は、通信部181およびホストコンピュータ300と、無線により通信可能に接続されていてもよい。
【0101】
容器搬送部130のI/O基板182には、搬送機構183と、オイル除去装置100とがそれぞれ接続されている。搬送機構183は、容器搬送部130に設けられたモータ、センサなどの総称である。検出部160とI/O基板182とは、それぞれ通信部181と接続されている。通信部181は、標本作製部110の通信部172と通信を行うための通信インターフェースである。
【0102】
標本撮像部150の制御部191は、たとえば、CPUおよびメモリを含んで構成されている。通信部192は、分析部155およびホストコンピュータ300と通信を行うための通信インターフェースである。標本撮像部150のI/O基板193には、撮像部154および搬送部152が接続されている。なお、I/O基板193には、オイル塗布部153などを構成するモータ、センサ、バルブなどの各種機構が接続されている。制御部191は、I/O基板193を介して、撮像部154により塗抹標本1の標本画像を取得する。制御部191は、取得した標本画像を、通信部192を介して分析部155に送信する。
【0103】
分析部155は、パーソナルコンピュータ(PC)からなり、CPU、ROM、RAMなどからなる本体と、液晶ディスプレイからなる表示部と、キーボードおよびマウスからなる入力デバイスとから主として構成されている。
【0104】
分析部155は、撮像部154で撮像された標本画像に対して画像処理および/または分類処理を実行する。具体的には、分析部155は、細胞の特徴抽出処理や識別分類処理、および、血球画像の切り出し、血球の自動分類、血球種ごとの計数等の所定の処理を行う。撮像された画像データや分析結果は、表示部に表示したり、プリンタを介して出力したりすることができる。
【0105】
(オイル除去装置の構成)
図11は、オイル除去装置100の全体構成を示している。オイル除去装置100は、上記の通り、第1保持部10と、第2保持部20と、移動機構部30とを備えている。
図11では、移動機構部30は、第1保持部10を移動させるように構成され、第2保持部20は移動しない。第2保持部20は、3つの吸油部材4a~4cを保持している。
【0106】
図11に示したように、第1保持部10には、塗抹標本1を出し入れ可能に受け入れる収容部が設けられている。第1保持部10は、一端側から塗抹標本1を出し入れ可能であり、他端部が回転軸32に固定されている。第1保持部10は、回転軸32の回転に伴って、R方向(
図12参照)に回動可能に設けられている。第1保持部10は、オイル除去対象の塗抹標本1を収容する第1収容部11と、撮像前の塗抹標本1を収容する第2収容部12と、を含む。
【0107】
第1収容部11は、塗抹標本1の塗抹面1aの略全体を露出させた状態で、塗抹標本1を収容する。第1収容部11は、塗抹標本1の裏面1dを支持する裏面支持部13(
図12参照)と、塗抹標本1の長手方向の他端部を支持する他端支持部14と、塗抹標本1の左右の側端面をそれぞれ支持する側方支持部15aおよび15bと、により囲まれた空間によって構成されている。
【0108】
他端支持部14および側方支持部15aは、裏面支持部13に固定されている。側方支持部15bは、裏面支持部13に対して移動可能に設けられている。側方支持部15aおよび側方支持部15bは、互いに向かい合う側面に、塗抹標本1の側端面が進入可能な凹状の段差部(
図14(A)および
図14(B)参照)を有する。
図12に示すように、側方支持部15bは、ガイドバー16に摺動可能に取り付けられ、ガイドバー16に沿って側方支持部15aに対して接近および離隔するように移動可能である。さらに、ガイドバー16には、側方支持部15bを側方支持部15aに対して接近する方向に付勢する付勢部材16aが設けられている。付勢部材16aは圧縮コイルばねからなる。これにより、側方支持部15aおよび側方支持部15b(
図14(A)および
図14(B)参照)は、凹状の段差部の内側に塗抹標本1の側端面を収容することで塗抹面1aの外周縁1bの一部を局所的に覆い、塗抹標本1の外周縁1bを塗抹面1a側から支持するように構成されている。
【0109】
第2収容部12は、裏面支持部13(
図12参照)と、塗抹標本1の左右の側端面をそれぞれ支持する側方支持部15a(
図11参照)および側方支持部15c(
図12参照)と、塗抹標本1の他端部を支持するとともに塗抹面1aを覆うように設けられたカバー部17(
図11参照)と、により囲まれた空間によって構成されている。撮像前の塗抹標本1にはオイル3が塗布されていないため、第2収容部12は、塗抹標本1の裏面1d(
図3参照)や左右の側端面だけでなく、カバー部17によって塗抹標本1の塗抹面1a側も覆うように設けられている。
【0110】
図11に示すように、移動機構部30は、第1保持部10の端部を支持して水平面内の回転軸32周りに第1保持部10を回動させる回動駆動部30aと、第1保持部10を水平方向に移動させる水平駆動部30bとを含む。
【0111】
回動駆動部30aは、回転軸32と、回転軸32を回転駆動するモータ31と、伝達機構とを有する。モータ31は、制御部170によって制御される電動モータであって、たとえばステッピングモータからなる。回転軸32は、X方向に沿って延びるように設けられ、シャーシ30cによって回転可能に支持されている。伝達機構は、モータ31の出力軸の回転を、回転軸32に伝達する。伝達機構は、回転軸32に取り付けられたプーリ33a、モータ31の出力軸に取り付けられたプーリ33b、および、プーリ33aとプーリ33bとに掛け渡されたベルト33cとを有するベルト‐プーリ機構からなる。モータ31の回転によって、回転軸32が回転し、回転軸32に固定された第1保持部10が回転軸32を中心としたR方向(
図12参照)に回動する。回動駆動部30aは、第1保持部10をR方向に所定の角度範囲で回動させることができる。所定の角度範囲は、各収容部が水平方向を向く第1角度位置R1(
図11参照)と、各収容部が垂直方向を向く第2角度位置R2(
図13参照)とを含む。
【0112】
図13に示すように、第1保持部10は、回動駆動部30aによる第1保持部10の回転角度に応じて側方支持部15bを移動させる開閉機構18を有する。開閉機構18は、第1保持部10の角度位置に応じて、第1保持部10が第2角度位置R2(
図13参照)にある場合に塗抹標本1を保持する閉位置へ側方支持部15bを移動させ、第1保持部10が第1角度位置R1(
図11参照)にある場合に塗抹標本1の保持を解除する開位置へ側方支持部15bを移動させる。
【0113】
開閉機構18は、側方支持部15bの移動方向(X方向)に沿って傾斜した案内面18aと、側方支持部15bに固定された作動部材18bとを含む。案内面18aは、第1保持部10とは別個に、シャーシ30cに固定されている。作動部材18bは、ブラケット18cを介して側方支持部15bの下面側に設けられたローラーである。案内面18aは、第1保持部10の回動に伴う作動部材18bの回転軌道上の所定位置に配置されている。
【0114】
図14(A)および
図14(B)は、第1保持部10の角度位置に応じた開閉機構18の動作を模式的に示している。
図14(A)に示すように、第1保持部10が垂直方向に向く第2角度位置R2(
図13参照)にある場合、作動部材18bが案内面18aから離れて非接触となる。そのため、側方支持部15bおよび作動部材18bは、付勢部材16a(
図13参照)の付勢力によって側方支持部15a側に移動し、塗抹標本1の側端面と当接する。これにより、塗抹標本1が第1保持部10に保持される。
【0115】
図14(B)に示すように、第1保持部10を第2角度位置R2から第1角度位置R1へ向けて回動させると、作動部材18bが案内面18aと接触し、作動部材18bが傾斜した案内面18aに沿って移動する。作動部材18bが付勢部材16a(
図13参照)の付勢力に抗して、案内面18aに沿って移動することにより、付勢部材16aが圧縮される。その結果、第1角度位置R1(
図11参照)では、側方支持部15bは、付勢部材16aの付勢力に抗して、側方支持部15aから離れる方向に移動し、塗抹標本1の側端面から離れる。これにより、塗抹標本1の幅方向の間隔が拡大し、塗抹標本1を第1収容部11に容易に挿入できる。
【0116】
また、開閉機構18は、第1角度位置R1と第2角度位置R2との間の第3角度位置R3(
図12参照)で、側方支持部15bを閉位置に維持しつつ、第1保持部10を斜め方向に傾けた状態にすることができる。第3角度位置R3は、作動部材18bが案内面18aと接触する直前の位置である。
【0117】
図11に戻り、水平駆動部30bは、ガイド部42と、シャーシ30cをガイド部42に沿って駆動するモータ41と、伝達機構とを有する。モータ41は、制御部170によって制御される電動モータであって、たとえばステッピングモータからなる。ガイド部42は、X方向に沿って延びるガイドレール42aと、ガイドレール42aと係合して移動可能なスライダ42bとを含む。スライダ42bは、シャーシ30cに設けられている。伝達機構は、モータ41の出力軸の回転を、シャーシ30cに伝達する。伝達機構は、モータ41の出力軸に取り付けられたプーリ43a、プーリ43aからX方向に離れた位置に配置されたプーリ43b、および、プーリ43aとプーリ43bとに掛け渡されたベルト43cとを有するベルト‐プーリ機構からなる。シャーシ30cは、ベルト43cの一部と連結されている。これにより、モータ41の回転によって、ベルト43cに固定されたシャーシ30c(第1保持部10および回動駆動部30aを含む)がガイドレール42aに沿ってX方向に移動する。
【0118】
図15に示すように、水平駆動部30bは、第1保持部10を水平方向(X方向)に移動させることにより、第1位置P1と第2位置P2との間で第1保持部10を移動させる。すなわち、水平駆動部30bは、第1保持部10をX方向に移動させることにより、第1位置P1と、第2位置P2と、各吸油部材4a~4cの配置位置P3a~P3cと、に第1保持部10を位置付けることができる。オイル除去装置100は、水平駆動部30bによる第1保持部10のX方向の原点位置を検出する位置センサ43dを備える。
図15の例では、第2位置P2が原点位置である。制御部170(
図10参照)は、原点位置から予め設定されたパルス数だけモータ41を駆動することにより、第1保持部10をP1、P2、P3a~P3cの各位置へ移動させる位置制御を行う。
【0119】
このような構成により、本実施形態では、移動機構部30は、塗抹面1aと吸油部材4を当接および離隔させる際の移動方向である第1方向(R方向、
図12参照)と、第1方向とは異なる第2方向(X方向)とに、第1保持部10を移動可能に構成されている。そして、第1方向は、回動駆動部30aによる回動方向(R方向)であり、第2方向は、水平駆動部30bによる移動方向(X方向)である。
【0120】
図12および
図13に示したように、回動駆動部30aは、第1保持部10の端部を支持して水平面内の回転軸32周りに第1保持部10を回動させることにより、塗抹面1aと当接面CSとを当接および離隔させる。ここで、吸油部材4の当接面CSは、XZ平面に沿った平坦面である。
図13に示したように、第1保持部10が第2角度位置R2に移動したとき、塗抹標本1は、XZ平面に沿った直立状態となる。したがって、移動機構部30は、塗抹標本1を垂直方向に沿って配置し、吸油部材4と水平方向に対向させた状態で塗抹面1aと吸油部材4とを面接触させるように構成されている。面接触により、塗抹面1aと吸油部材4とを密着させることができるので、塗抹面1aに付着したオイル3を効果的に吸油部材4に吸収させることができる。
【0121】
このように、移動機構部30は、塗抹面1aと当接面CSとを当接面CSの法線方向(A方向)に対向させた状態から塗抹面1aと当接面CSとを当接させるように構成されている。なお、当接面CSの法線方向とは、当接面CSに対して垂直な線の延びる方向である。これにより、塗抹面1aと吸油部材4とを当接させる際に、塗抹面1aが吸油部材4に対して摺動することを抑制できる。塗抹面1aの摺動が抑制されることにより、標本が摺動に起因するダメージを受けること、および、吸油部材4の一部が脱落して塗抹面1aに付着することを抑制できる。塗抹面1aへの異物(吸油部材4からの脱落物)の付着抑制効果は、塗抹標本1が鏡検に供される際に、顕微鏡像に写る像の誤認識を抑制する観点で特に重要である。
【0122】
なお、移動機構部30は、塗抹面1aと吸油部材4を当接および離隔させる際の移動方向である第1方向と、第1方向とは異なる第2方向とに、第1保持部10および第2保持部20の少なくとも一方を移動可能に構成されていてもよい。
【0123】
(第2保持部)
図11に示すように、第2保持部20は、第1保持部10よりも上方となる位置に設けられている。第2保持部20は、第1保持部10が垂直方向を向く第2角度位置R2(
図13参照)に配置されたときに、第1保持部10に保持された塗抹標本1が吸油部材4と当接するように、吸油部材4をZ方向の所定位置に保持している。
【0124】
第2保持部20は、第1の吸油部材4a、第2の吸油部材4bおよび第3の吸油部材4cの、3つの吸油部材4を保持している。本実施形態では吸油部材4の数が3つである例を開示しているが、吸油部材の数は複数、例えば2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。以下、3つの吸油部材4a~4cに共通する事項については、単に「吸油部材4」という。吸油部材4a~4cは、同一形状、同一構造を有している。
【0125】
第2保持部20は、3つの吸油部材4を、同一の高さ位置で、X方向に間隔を隔てて保持している。第2保持部20は、3つの吸油部材4の各々の当接面CSがXZ平面に沿う向きとなるように、各吸油部材4を保持している。
【0126】
第2保持部20は、第2方向(X方向)における第1位置P1と第2位置P2との間の位置(
図15参照)で、かつ、第1保持部10を第1方向(R方向、
図12参照)に移動させた軌道上に吸油部材4(第2の吸油部材4bおよび第3の吸油部材4c)を保持している。これにより、第1保持部10を第1位置P1から第2位置P2へ移動させる過程で、第1保持部10に保持された塗抹標本1の塗抹面1aを吸油部材4に当接させる動作を行うことができる。なお、第1の吸油部材4a(
図15参照)は、第1位置P1と第2位置P2との間の領域の外部に配置されている。
【0127】
第2保持部20は、第2保持部20に着脱可能に設けられた保持具21を有している。吸油部材4は、保持具21に取り付けられている。つまり、3つの吸油部材4が、単一の保持具21に取り付けられている。これにより、使用可能な上限回数に達した吸油部材4を交換する際に、ユーザは、保持具21を第2保持部20から取り外すだけで全ての吸油部材4を除去でき、新しい吸油部材4を保持した保持具21を第2保持部20に取り付けるだけで全ての吸油部材4をセットできるため、吸油部材4の交換作業が簡便である。また、オイル3を含んだ吸油部材4を直接触らなくてよいため、ユーザにとっての利便性を向上させることができる。
【0128】
第2保持部20は、保持具21の下面を支持する座面22と、保持具21の長手方向(X方向)の両端部を支持する一対の支持部23を有する。一対の支持部23に対して、保持具21の両端部を上方から差し込むことにより保持具21が第2保持部20に装着される。保持具21を上方に移動させれば、保持具21を第2保持部20から取り外せる。
【0129】
図16に示すように、第2保持部20は、容器搬送部130の筐体部135に対して、スライド移動可能に設けられている。具体的には、筐体部135には、スライドレール136が設けられ、第2保持部20がスライドレール136に沿って移動可能に設けられている。第2保持部20は、保持具21が筐体部135よりも外側に配置される位置まで、スライド可能である。これにより、第2保持部20に対する保持具21の着脱を容易に行える。また、第2保持部20は、ユーザが手で把持するための把持部24を有する。これにより、第2保持部20のスライド移動を容易に行える。
【0130】
保持具21は、3つの吸油部材4を装着するための装着部21aと、取手21bと、を一体的に有する。装着部21aは、吸油部材4の外形形状に合わせた凹部であり、凹部内に吸油部材4の一方の側面が嵌め込まれることにより、吸油部材4を保持する。吸油部材4のうち、装着部21aに嵌め込まれた面と反対側の面が、当接面CSである。取手21bは、保持具21の上面から上方に延びる板状部分である。ユーザが取手21bを把持することで、保持具21を第2保持部20に対して容易に着脱できる。
【0131】
(吸油部材)
次に、
図17(A)、
図17(B)および
図18を参照して、吸油部材4について説明する。3つの吸油部材4a~4cは同一構造を有するので、3つをまとめて吸油部材4として説明する。
【0132】
図17(A)に示すように、吸油部材4は、直方体形状を有する。本実施形態では、吸油部材4の塗抹標本1との当接面CSは、塗抹標本1の塗抹面1aよりも小さく形成されている。吸油部材4の当接面CSは、長さL1、幅W1の長方形形状を有する。吸油部材4は、奥行き方向の幅W2を有する。これに対して、
図17(B)に示すように、塗抹標本1(つまり、スライドガラス2、
図3参照)の塗抹面1aは、長さL0、幅W0の長方形形状を有する。当接面CSは、長さL1および幅W1は、それぞれ、塗抹面1aの長さL0および幅W0よりも小さい。
【0133】
塗抹標本1に用いるスライドガラス2の長さL0および幅W0は、国際規格(ISO)で定められており、標準形でL0=76mm、W0=26mm(寸法公差は省略する)である。一例では、当接面CSの長さL1=38mm、幅W1=24mmである。なお、吸油部材4の奥行き方向の幅W2は、吸収すべきオイル3の液量に応じて設定され、一例ではW2=30mmである。
【0134】
吸油部材4は、弾性変形可能な多孔質部材からなる。塗抹標本1のオイル3を除去する吸油部材4に求められる性能は、(a)オイル3の吸収性能が高いこと、(b)当接に起因する標本に対するダメージが少ないこと、(c)当接に伴う脱落物の塗抹面1aへの付着が少ないこと、の3つが挙げられる。
【0135】
(a)吸収性能が高いことは、液体を吸収する部材全般に求められる性能である。(b)当接に起因する標本に対するダメージの観点で、塗抹面1aに塗抹された検体と吸油部材4とが当接したときに、検体(細胞など)が剥がれたり削れたりしないように、吸油部材4が弾性変形可能な柔軟材料であることが望ましい。(c)当接に伴う脱落物の塗抹面1aへの付着に関して、塗抹面1aと吸油部材4とを当接および離隔させたときに、吸油部材4から脱落して塗抹面1a側に付着する脱落物が存在すると、オイル除去後の塗抹標本1を顕微鏡で観察する時に、元々の検体に含有していた物質と脱落物とが区別しにくく鏡検の妨げとなる。そのため、吸油部材4には、織布や不織布など多数の繊維から構成された材料よりも、樹脂材料などから一体成形された多孔質部材が好ましい。細かな繊維は塗抹面1aに付着しやすいためである。
【0136】
また、本実施形態の吸油部材4は、連続気孔構造を有する多孔質部材からなる。連続気孔構造とは、三次元方向に連続している気泡(気孔)を含む構造である。連続気孔構造では、多孔質部材に形成された多数の気孔の大部分が互いに連通している。これにより、吸油部材4の気孔内に吸収したオイル3が、毛細管現象を利用して吸油部材4の内部に速やかに浸透する。そのため、オイル3の吸収性能の高い吸油部材4が得られる。
【0137】
本発明者らが各種の材料を試験した結果では、吸油部材4としては、連続気孔構造を有するウレタンスポンジが好ましいことが判明した。特に、吸油部材4には、
図18に示すように、気孔径の大きい気孔と、気孔径の小さい気孔とが、樹脂基材50に混在する構造を有する材料が好ましい。
図18では、気孔の部分にハッチングを付して示している。一例として、吸油部材4は、平均気孔径が約300μmの大孔部51と、平均気孔径が約15μmの小孔部52とが二峰性分布となるように混在した構造を有する。吸油部材4の気孔率は、たとえば80%以上90%以下である。このような連続気孔構造を有する弾性変形可能な多孔質材料からなる吸油部材4は、上記した(a)~(c)の3つの性能を高水準で有するため特に好ましい。
【0138】
(オイル除去処理)
次に、オイル除去装置100によるオイル除去処理の動作について詳細に説明する。本実施形態では、オイル除去処理は、移動機構部30が、第1保持部10を第2保持部20に対して移動させることによって実行される。オイル除去処理における移動機構部30の制御は、制御部170(
図10参照)によって行われる。
【0139】
移動機構部30(
図11参照)は、第1保持部10を移動させることにより、吸油部材4が当接面CSの法線方向に離れて配置された離隔状態から、塗抹面1aおよび吸油部材4を当接させた当接状態にしてオイル3を除去し、オイル3の除去後に、塗抹面1aおよび吸油部材4が当接した当接状態から離隔させる。本実施形態では、移動機構部30は、一枚の塗抹標本1の塗抹面1aを、2つの吸油部材4にそれぞれ当接させるように構成されている。具体的には、移動機構部30は、制御部170の制御の下、3つの吸油部材4のうち2つの吸油部材4に対して、一枚の塗抹標本1の塗抹面1aをそれぞれ当接させる。すなわち、3つの吸油部材4のうち、1つ目の吸油部材4に塗抹面1aを当接および離間させる1次除去動作と、1次除去動作の後、2つ目の吸油部材4に塗抹面1aを当接および離間させる2次除去動作と、が行われる。なお、移動機構部30は、一枚の塗抹標本1の塗抹面1aを、3つ以上の吸油部材4にそれぞれ当接させてもよい。
【0140】
1次除去動作で最初に当接する1つ目の吸油部材4は、塗抹面1aに付着したオイル3の大部分を吸収し、塗抹標本1の離隔直後にオイル3の吸収性能が一時的に低下する可能性がある。そこで、2次除去動作において、オイル3の吸収能力が低下していない別の吸油部材4に塗抹面1aを当接させることにより、塗抹面1aに残留したオイル3を効果的に除去できる。その結果、塗抹標本1に付着したオイル3をより効果的に、より短時間で、除去することができる。以下では、1次除去動作に吸油部材4aを用い、2次除去動作に吸油部材4bを用いるオイル除去処理を例に説明する。
【0141】
〈1次除去動作〉
図11に示したように、第1保持部10は、第1位置P1において、略水平となる第1角度位置R1に配置された状態で、標本撮像部150から塗抹標本1を受け取る。第1保持部10に保持された塗抹標本1の塗抹面1aと当接面CSとは、当接面CSの法線方向(A方向)において離隔している。なお、当接面CSの法線方向(A方向)は、Y方向と略一致する。第1保持部10が第1角度位置R1にあるとき、第1保持部10に保持された塗抹標本1の塗抹面1aと当接面CSとは離隔状態にある。
【0142】
制御部170は、水平駆動部30bを制御して、第1保持部10に保持された塗抹標本1と、第2保持部20に保持されたいずれかの吸油部材4とのX方向位置を一致させる。たとえば、制御部170は、
図15において、吸油部材4aのX方向の中心位置である配置位置P3aと第1収容部11の塗抹標本1のX方向の中心位置とを略一致させるように水平駆動部30bを制御する。これにより、塗抹標本1の移動経路(回転軸32を中心とする回転軌道)上に吸油部材4aが配置される。
【0143】
そして、制御部170は、回動駆動部30aを制御して、第1保持部10を第1角度位置R1から第2角度位置R2へ回動させる。この結果、
図19に示すように、第1保持部10に保持された塗抹標本1が吸油部材4aに向けて移動して、塗抹標本1の塗抹面1aが吸油部材4aの当接面CSに当接する。
【0144】
図23(A)に示したように、塗抹標本1の塗抹面1aと、吸油部材4aの当接面CSとは、両者が当接するタイミングでは、互いに略平行で、かつ、当接面CSの法線方向に対向した状態になる。
【0145】
また、移動機構部30は、
図17(B)に示したように、当接面CSが塗抹面1aの外周縁1bよりも内側に収まるように、塗抹面1aと当接面CSとを当接させるように構成されている。すなわち、吸油部材4aのX方向の中心位置と塗抹標本1のX方向の中心位置とが略一致している状態で、塗抹標本1が回転軸32を中心に回動されることによって、吸油部材4aの当接面CSが、塗抹面1aの幅W0の範囲内かつ、塗抹面1aの長さL0の範囲内に収まるように塗抹面1aに当接する。当接面CSは、検体が塗抹されている塗抹面1aの中央部1cを内側に含む範囲で、塗抹面1aに当接する。なお、塗抹面1aの長さ方向における当接位置は、吸油部材4a~4cの高さ位置を、塗抹面1aの移動経路(回転軌道)に合わせて設定することによって調整されている。
【0146】
これにより、吸油部材4aの当接面CSと塗抹面1aとが当接する際に、塗抹面1aに付着したオイル3の一部が塗抹面1aと当接面CSとの間に挟まれて当接面CSの外側にはみ出してしまう場合でも、当接面CSの外側にはみ出したオイル3が塗抹面1aの外周縁1bに到達することを抑制できる。オイル3が塗抹面1aの外周縁1bに到達すると、オイル3が塗抹標本1の側端面および裏面1dまで移動してしまう可能性があるため、上記構成によって、オイル3が塗抹面1a以外の面へ移動することを抑制できる。
【0147】
また、
図23(B)に示すように、移動機構部30は、当接状態において、塗抹面1aにより吸油部材4aを圧縮させるように構成されている。すなわち、吸油部材4aの当接面CSは、第1保持部10が第2角度位置R2に配置されたときの塗抹面1aの位置よりも、僅かに手前側(Y1側)に突出した位置に配置されている。吸油部材4aは弾性変形可能であるため、第1保持部10が第2角度位置R2に到達することによって、突出量Tfの分だけ、吸油部材4が塗抹面1aによってY2方向に圧縮変形される。突出量Tfは、たとえば5mm以下である。
【0148】
これにより、塗抹面1aを吸油部材4に確実に密着させることができる。その結果、塗抹面1aに付着したオイル3を効果的に吸油部材4に吸収させることができる。
【0149】
当接後、制御部170は、当接状態において第1保持部10の角度位置を維持させることにより、所定時間の間、塗抹面1aと吸油部材4との当接状態を維持する。その後、
図23(C)に示すように、制御部170は、回動駆動部30aを制御して、第1保持部10を第2角度位置R2から第3角度位置R3(
図12参照)へ回動させる。この結果、第1保持部10に保持された塗抹標本1が吸油部材4から離れる方向へ移動して、塗抹標本1の塗抹面1aが吸油部材4の当接面CSから離隔する。
図12に示したように、第1保持部10が第3角度位置R3にあるとき、第1保持部10に保持された塗抹標本1の塗抹面1aと当接面CSとは離隔状態にある。
【0150】
ここで、本実施形態では、制御部170は、当接状態において、塗抹面1aと当接面CSとが互いに摺動しない範囲に、第1保持部10および第2保持部20の相対位置を維持するように、移動機構部30を制御する。具体的には、制御部170は、回動駆動部30aにより第1保持部10を回動させて塗抹面1aと当接面CSとを当接させてから離隔させるまでの間、水平駆動部30bによる第1保持部10のX方向移動を実行しない。第1保持部10は、水平駆動部30bによるX方向への移動を停止した状態で、回動駆動部30aにより回動される。したがって、塗抹面1aと当接面CSとの当接状態で、塗抹面1aが当接面CSに対してX方向に位置ずれすることがない。これにより、塗抹面1aと当接面CSとを当接および離隔させる際に、第2方向(X方向)への相対移動に起因して塗抹面1a上の検体と当接面CSとが摺動することを防ぐことができる。これにより、塗抹面1aと吸油部材4とが当接状態にある場合に摺動が生じないので、塗抹面1aに塗抹された検体がダメージを受けること、および、吸油部材4の構成材料が脱落して塗抹面1aに付着することを効果的に抑制できる。以上により、1次除去動作が実行される。
【0151】
〈2次除去動作〉
次に、制御部170は、水平駆動部30bを制御して、
図15において、吸油部材4bのX方向の中心位置である配置位置P3bと第1収容部11の塗抹標本1のX方向の中心位置とを略一致させるように水平駆動部30bを制御する。これにより、
図20に示すように、塗抹標本1の移動経路(回転軸32を中心とする回転軌道)上に吸油部材4bが配置される。
【0152】
そして、制御部170は、回動駆動部30aを制御して、第1保持部10を第1角度位置R1から第2角度位置R2へ回動させる。この結果、
図21に示すように、第1保持部10に保持された塗抹標本1が吸油部材4b(
図20参照)に向けて移動して、塗抹標本1の塗抹面1aが吸油部材4bの当接面CSに当接する。
【0153】
図23(D)に示すように、制御部170は、当接状態において第1保持部10の角度位置を維持させることにより、所定時間の間、塗抹面1aと吸油部材4bとの当接状態を維持する。その後、
図23(E)に示すように、制御部170は、回動駆動部30aを制御して、第1保持部10を第2角度位置R2から第3角度位置R3へ回動させる。この結果、第1保持部10に保持された塗抹標本1が吸油部材4bから離れる方向へ移動して、塗抹標本1の塗抹面1aが吸油部材4bの当接面CSから離隔する。
【0154】
ここで、本実施形態では、制御部170は、一枚の塗抹標本1の塗抹面1aを、吸油部材4と複数回当接させるように、移動機構部30を制御する。これにより、1回の当接では吸収しきれないオイル3が塗抹面1aに残留する場合でも、残留したオイル3を2回目以降の当接によって吸油部材4bに吸収させることができる。そのため、塗抹面1aへのオイル3の残存量を効果的に低減できる。
【0155】
具体的には、移動機構部30は、制御部170の制御により、2次除去動作において、一枚の塗抹標本1の塗抹面1aを同一の吸油部材4bと複数回当接させるように動作する。すなわち、制御部170は、塗抹標本1の塗抹面1aを、一の吸油部材4aに第1回数だけ当接させた後、他の吸油部材4bに対して、塗抹面1aを第1回数よりも多い第2回数だけ当接させるように移動機構部30を制御する。具体的には、制御部170は、1次除去動作においては、一枚の塗抹標本1の塗抹面1aを一の吸油部材4aと1回当接させ、2次除去動作においては、一枚の塗抹標本1の塗抹面1aを他の吸油部材4bと3回当接させる。つまり、第1回数は「1」であり、第2回数は「3」である。
【0156】
ここで、最初に塗抹面1aと当接する吸油部材4aは、塗抹面1aに付着したオイル3の大部分を吸収することになる。1つ目の吸油部材4aでは、相対的に多量のオイル3を吸収することで、吸収したオイル3が吸油部材4aの内部に十分に浸透するまでは、当接面CSの近傍における気孔内の保液量が一時的に増大する。そのため、1つ目の吸油部材4aでは、塗抹標本1の離隔直後にオイル3の吸収性能が一時的に低下する可能性がある。これに対して、次に塗抹面1aと当接する他の吸油部材4bは、オイル3の吸収量が少ないためオイル3の吸収性能が低下せず、当接回数を増やすほど効果的にオイル3の残存量を低減できる。そのため、後に当接する他の吸油部材4bの当接回数(第2回数)を、先に当接する一の吸油部材4aの当接回数(第1回数)よりも多くすることが、塗抹面1aにおけるオイル3の残存量を低減するのに有効である。
【0157】
したがって、
図23(A)~
図23(C)の1次除去動作は1回実行される一方、
図23(D)および
図23(E)の2次除去動作は3回反復実施される。以上により、2次除去動作が実行される。
【0158】
なお、2次除去動作の後、
図22に示すように、制御部170は、水平駆動部30bを制御して、第1保持部10を第2位置P2へ移動させる。その後、制御部170は、回動駆動部30aを制御して、第3角度位置R3から第2角度位置R2(
図13参照)へ回動させる。制御部170は、第1保持部10を垂直に向けた状態で、標本移送部141(
図9参照)によって、オイル除去後の塗抹標本1を第1保持部10から取り出させる。
【0159】
〈複数の吸油部材の使い分け〉
図24に示すように、本実施形態では、制御部170は、第1群の塗抹標本1の各々について、塗抹面1aを第1の吸油部材4aと当接させた後、塗抹面1aを第2の吸油部材4bと当接させるように構成されている。その後、制御部170は、第1群とは異なる第2群の塗抹標本1の各々について、塗抹面1aを第2の吸油部材4bと当接させた後、塗抹面1aを第3の吸油部材4cと当接させるように構成されている。
【0160】
このように、複数の塗抹標本1を2つの群に分け、2つの群に対して3つの吸油部材4a~4cを使い分けることにより、少ない数の吸油部材4によって、より多くの塗抹標本1に対して、吸油性能(吸油部材4との当接後のオイル3の残存量の少なさ)を維持できる。
【0161】
具体的には、制御部170は、吸油部材4によりオイル3を除去した塗抹標本1の枚数(除去枚数)をカウントし、記憶部171(
図10参照)に除去情報171cとして記憶させる。制御部170は、3つの吸油部材4を、吸油部材4の使用開始時からの累計の除去枚数Kに応じて使い分ける制御を行う。制御部170は、除去枚数Kが1枚目からM枚目に該当する塗抹標本1を第1群とし、除去枚数がM+1枚目からN枚目に該当する塗抹標本1を第2群とする。なお、吸油部材4が交換された場合、制御部170は、除去情報171cの除去枚数Kの値をゼロにリセットする。
【0162】
本実施形態では、M=300(枚)、N=600(枚)である。これは、たとえば検査システム200によって作製及び撮像される塗抹標本1の1日当たりの枚数を120枚/日とした場合に、1週間(5日)分の塗抹標本1のオイル除去を行えることを意味する。
【0163】
したがって、制御部170は、1枚目~300枚目までの第1群の塗抹標本1を、1次除去動作において吸油部材4aと当接させ、2次除去動作において吸油部材4bと当接させる。そして、制御部170は、301枚目~600枚目までの第2群の塗抹標本1を、1次除去動作において吸油部材4bと当接させ、2次除去動作において吸油部材4cと当接させる。
【0164】
上記の通り、塗抹面1aに付着したオイル3は、大部分が1次除去動作で除去(吸収)されるため、吸油部材4bは、第1群の塗抹標本1に対する2次除去動作に用いられた後でも、十分なオイル吸収能力を維持する。そのため、吸油部材4bは、第2群の塗抹標本1に対する1次除去動作に用いられる場合でも、オイル3を十分に吸収できる。
【0165】
〈吸油部材の交換案内〉
本実施形態では、上記の通り、3つの吸油部材4を用いて、600枚の塗抹標本1に対するオイル除去処理を行うことが可能である。そして、600枚の塗抹標本1に対するオイル除去処理を行った後は、上記の通り保持具21を第2保持部20から着脱することによる吸油部材4の交換作業が行われる。当然、除去枚数が600枚に到達する前に吸油部材4を交換してもよい。
【0166】
そこで、制御部170は、除去枚数Kのカウント値に基づいて、吸油部材4の交換案内処理を行うように構成されている。具体的には、制御部170は、記憶部171に記憶された除去枚数のカウント値が、予め設定された案内閾値に到達した場合に、吸油部材4の交換を促す案内画面210を表示部174に表示させるように構成されている。
【0167】
案内閾値は、たとえば、3つの吸油部材4による除去枚数の上限値である600(枚)である。案内閾値は、ユーザにより予め設定されてもよい。この場合、案内閾値は、1以上600未満の範囲で設定されうる。案内閾値は、複数設定されうる。すなわち、ユーザが指定した交換予告用の第1の案内閾値(<600)と、除去枚数の上限値として予め設定された第2の案内閾値(=600)と、のそれぞれで、案内画面を表示させてもよい。この場合、それぞれの案内閾値で表示させる案内画面を異ならせてもよい。これにより、ユーザが、吸油部材4の交換作業を行うべきことを、適切なタイミングで把握することができる。第1の案内閾値で予告を行う場合、オイル3の除去回数の上限が到達する前に、交換用の吸油部材4の在庫確認などをユーザが行えるので、ユーザにとって利便性が高い。
【0168】
案内画面210では、メッセージ領域211において、吸油部材4の交換を促すメッセージが表示される。また、メッセージ領域211では、残り使用回数として、上限値である600枚から除去枚数のカウント値を減算した値が表示される。また、案内画面210は、オイル除去設定ボタン212と、OKボタン213と、キャンセルボタン214とを含む。オイル除去設定ボタン212が入力されると、後述する設定画面220(
図26参照)が表示される。OKボタン213が入力されると、制御部170が、吸油部材4の交換用の処理を実行し、交換後に記憶部171に記憶された除去枚数Kのカウント値をリセットする。キャンセルボタン214が入力されると、案内画面210が消去される。
【0169】
〈オイル除去機能のオンオフ切り替え〉
上記のように、除去枚数Kのカウント値が上限値(=600)に到達したが、交換用の吸油部材4の在庫がない場合が想定される。また、ユーザによっては、オイル3の自動除去を行わずに、従来通り、手作業でオイル除去を行いたいと考える可能性がある。
【0170】
そこで、本実施形態では、制御部170は、オイル除去処理を実行する第1モードと、オイル除去処理を実行しない第2モードとで、選択的に動作可能に構成されている。具体的には、制御部170は、ユーザの入力操作に応じて、
図26に示すオイル除去処理の設定画面220を表示部174に表示させる。
【0171】
設定画面220は、オイル除去処理を実行する第1モードを指定する選択部221aと、オイル除去処理を実行しない第2モードを指定する選択部221bと、OKボタン222と、キャンセルボタン223と、を含む。選択部221aと選択部221bとは択一的に入力が可能なラジオボタンである。OKボタン222が入力されると、制御部170は、選択部221aまたは選択部221bの選択内容を記憶部171に記録して、モード設定を反映する。キャンセルボタン223が入力されると、制御部170は、選択内容を反映せずに設定画面220を閉じる。動作モードの設定内容は、
図10に示した記憶部171の設定情報171bに記録される。
【0172】
制御部170は、第1モードが設定されている場合、標本画像の撮像後のオイル除去対象の塗抹標本1に対して、オイル除去装置100によるオイル除去処理を実行する。制御部170は、第2モードが設定されている場合、標本撮像部150からオイル除去対象の塗抹標本1が第1保持部10に移送されても、オイル除去処理を実行せずに、オイル3が付着したままの塗抹標本1を標本移送部141へ受け渡すようにオイル除去装置100を制御する。
【0173】
〈検査システムの制御処理〉
次に、検査システム200の制御処理を説明する。検査システム200の構成は、
図4を参照し、検査システム200の制御に関わる構成は
図10を参照するものとする。
図27のステップS1~S7は、制御部170により実行される制御処理を示し、
図27のステップS11~S13は、制御部191により実行される制御処理を示す。
【0174】
なお、検査システム200の動作開始前の準備作業として、標本作製部110の検体搬送部105に、検体容器7を保持した検体ラック8がユーザにより設置される。標本作製部110の搬入路123aの投入位置E3と、容器搬送部130の第2搬送路133のセット領域D2とに、それぞれ、所定数の空の収容容器5が、ユーザにより設置される。そして、ユーザから標本作製開始の指示を受け付けると、検査システム200は、
図27に示す制御処理を開始する。
【0175】
図27のステップS1において、制御部170は、標本作製依頼を受け付ける。制御部170は、検体搬送部105により検体ラック8を搬送し、読取位置E1に搬送された各検体の識別IDをID読取部114aによって取得する。制御部170は、通信部172を介して、各検体の識別IDをホストコンピュータ300に送信し、ホストコンピュータ300から、識別IDに対応付けてホストコンピュータ300に記録されている標本作製依頼を受信する。標本作製依頼は、検体の識別IDと、その検体の検査項目とを、少なくとも含む。
【0176】
ステップS2において、制御部170は、塗抹標本1の作製動作を実行するための下記の制御を行う。具体的には、制御部170の制御の下、スライド供給部111が未使用のスライドガラスを印刷部112に供給し、印刷部112が、供給されたスライドガラスのフロスト部2aに、標本作製依頼に対応した情報を印刷し、印刷済みスライドガラスを塗抹部113へ供給する。また、検体搬送部105により吸引位置E2に搬送された検体容器7中の検体を吸引部114が吸引し、吸引した検体を塗抹部113へ供給する。塗抹部113が、印刷部112から供給された印刷済みスライドガラス2の中央部1cに、吸引部114から供給された検体を、塗抹する。検体塗抹済みの塗抹標本1が、塗抹部113から乾燥部115へ供給され、乾燥部115において塗抹された検体に乾燥処理が施された後、乾燥処理後の塗抹標本1が、染色処理に供される。すなわち、塗抹標本1が、移送部119によって、染色槽116a~116eおよび洗浄槽117a~117bの一部または全部に対して予め決められた順番で投入されることにより、検体の染色処理および洗浄処理が施される。染色処理および洗浄処理後の塗抹標本1が、移送部119によって乾燥槽118に投入され、乾燥槽118で乾燥処理が行われる。これらの一連の処理の結果、1枚の塗抹標本1の作製処理が完了する。なお、制御部170は、検体ラック8に保持されている複数の検体容器7について、ステップS2の処理を順次行う。
【0177】
ステップS3において、制御部170は、作製した塗抹標本1を、収容容器5へ収容する制御を行う。制御部170は、標本作製動作を開始した時点で、投入位置E3にセットされた収容容器5の先頭の1つを、予め標本収容位置E4に配置させるように搬送部123を動作させる。そして、ステップS2で塗抹標本1が作製されると、制御部170は、移送部119によって、乾燥槽118から塗抹標本1を取り出すとともに、取り出した塗抹標本1を標本収容位置E4の収容容器5の空いている収容部5aに収容する。
【0178】
検体ラック8に保持されている全ての検体容器7について検体吸引が完了すると、次の検体ラック8について、ステップS1~S3の処理が実施される。そのため、ステップS1~S3の処理は、検体搬送部105に処理対象となる検体がある限り、所定時間間隔で開始時点をずらしながら継続的に実行される。したがって、上記ステップS2では、複数の塗抹標本1が、単位枚数(1枚)ずつ順次作製され、塗抹標本1が作成される度に、作成された塗抹標本1がステップS3により収容容器5に収容される。
【0179】
標本収容位置E4の収容容器5が塗抹標本1で満杯になると、制御部170は、ステップS4において、標本収容位置E4から、収容容器5を容器搬送部130へ搬送する。すなわち、制御部170は、横送り機構123cによって標本収容位置E4の収容容器5を搬入路123aから搬出路123bへと移送し、移送された収容容器5を搬出路123bによって横送り部124まで搬送する。制御部170は、横送り部124により、収容容器5を容器搬送部130の第1搬送路132へ送り出す。
【0180】
ステップS5において、制御部170は、標本撮像部150へ向けて塗抹標本1を搬送するための下記の制御を行う。具体的には、制御部170の制御の下、第1搬送路132に受け入れた収容容器5を、第1搬送路132が取出位置C1へ搬送する。収容容器5が取出位置C1まで搬送されると、制御部170は、塗抹標本1のフロスト部2aに印字された情報を検出部160であるカメラにより撮像し、得られた撮像信号に基づき、その塗抹標本1が撮像対象か、撮像対象でないかを判別する。標本の種別判別は、収容容器5に収容されている全ての塗抹標本1について実施される。
【0181】
制御部170は、判別結果に基づき、取出位置C1の収容容器5から、撮像対象の塗抹標本1を標本移送部141により取り出して、取り出した塗抹標本1を、第2位置P2でオイル除去装置100の第1保持部10の第2収容部12に受け渡す。制御部170は、塗抹標本1を標本受渡部151に受け渡すため、第1保持部10を第2位置P2から第1位置P1に移動させる。なお、制御部170は、収容容器5に収容されている撮像対象の塗抹標本1の全てについて、標本受渡部151への搬送を順次行う。
【0182】
一方、標本撮像部150の制御部191は、ステップS11において、標本受渡部151によって、オイル除去装置100の第1保持部10の第2収容部12に保持された塗抹標本1を取り出す。
図27における一点鎖線の矢印は、第1保持部10と標本受渡部151との間の塗抹標本1の受け渡しを示している。
【0183】
ステップS12において、制御部191は、塗抹標本の撮像処理を実行する。まず、制御部191は、標本受渡部151により取り出した撮像対象の塗抹標本1を、搬送部152によってオイル塗布部153および撮像部154へ搬送する。制御部191は、オイル塗布部153により、塗抹標本1にオイル3を塗布し、撮像部154によりオイル3が塗布された塗抹標本1を撮像する。撮像後、制御部191は、撮像済みの塗抹標本1をオイル除去装置100に受け渡すため、撮像済みの塗抹標本1を搬送部152によって標本受渡部151に戻す。ステップS13において、制御部191は、標本受渡部151により、撮像済みの塗抹標本1を、オイル除去装置100の第1保持部10の第1収容部11に返却する。
【0184】
ステップS6において、制御部170は、オイル除去装置100によるオイル除去処理を行う。制御部170は、標本撮像部150から搬送される撮像済みの塗抹標本1(つまり、オイル除去対象の塗抹標本1)を第1保持部10の第1収容部11に受け入れて、第1モードに設定されている場合には塗抹標本1に対するオイル除去動作を実行する。なお、制御部170は、第2モードに設定されている場合には塗抹標本1に対するオイル除去動作を実行しない。その後、制御部170は、第1保持部10を第2位置P2に移動させる。制御部170は、第2位置P2においてオイル除去装置100から撮像済みの塗抹標本1を標本移送部141により取り出して、撮像済み収容位置D1に搬送しておいた収容容器5の空いている収容部5aに撮像済みの塗抹標本1を収容する。ステップS6のオイル除去処理の詳細は、後述する。
【0185】
制御部170は、取出位置C1に配置された収容容器5中の全ての撮像対象の塗抹標本1に対する撮像処理が完了すると、ステップS7において、第1搬送路132により、取出位置C1に配置された収容容器5を、取出位置C1から第1貯留領域C3へと搬送し、待機位置C2に待機させていた次の収容容器5を取出位置C1に搬送する。ステップS7の後、制御部170は、処理を終了する。
【0186】
〈オイル除去処理〉
次に、
図28を参照して、
図27のステップS6に示したオイル除去処理の詳細を説明する。オイル除去処理は、制御部170の制御により実施される。
【0187】
ステップS21において、制御部170は、オイル除去対象の塗抹標本1を第1保持部10に受け入れる制御を行う。すなわち、制御部170は、水平駆動部30bにより、第1保持部10を第1位置P1(
図15参照)へ配置する。制御部170は、回動駆動部30aにより、第1保持部10を第1角度位置R1(
図11参照)に配置する。この状態で、
図27のステップS13の処理において、制御部191が、標本受渡部151により、撮像済みの塗抹標本1を第1保持部10の第1収容部11に配置する。なお、第1保持部10の第2収容部12に撮像前の塗抹標本1が保持されている場合、次の標本撮像のため、制御部191が、
図27のステップS11の処理において、標本受渡部151により、第2収容部12から撮像前の塗抹標本1を取り出す。
【0188】
ステップS22において、制御部170は、記憶部171の設定情報171bを参照して、オイル除去装置100のモード設定が第1モードに設定されているか否かを判断する。制御部170は、現在のモード設定がオイル除去を実行する第1モードに設定されている場合、処理をステップS23に進める。制御部170は、現在のモード設定がオイル除去を実行しない第2モードに設定されている場合、処理をステップS29に進める。
【0189】
ステップS23において、制御部170は、現在の除去枚数KがM(=300)枚以下であるか否かを判断する。すなわち、制御部170は、今回のオイル除去対象の塗抹標本1が、第1群(1枚目~300枚目)に属するか、第2群(301枚目~600枚目)に属するかを判断する。現在の除去枚数Kが300枚以下である(今回の塗抹標本1が第1群に属する)場合、制御部170は、ステップS24a、25aを実行する。現在の除去枚数Kが300枚より多い(今回の塗抹標本1が第2群に属する)場合、制御部170は、ステップS24b、25bを実行する。
【0190】
〈第1群の塗抹標本に対するオイル除去〉
ステップS24aにおいて、制御部170は、第1の吸油部材4aにより1次除去動作を実行する制御を行う。まず、制御部170は、水平駆動部30bにより、第1保持部10を第1位置P1から第1の吸油部材4aの配置位置P3a(
図15参照)へ移動させる。制御部170は、水平駆動部30bの駆動を停止した状態で、回動駆動部30aを制御して、第1保持部10の第1収容部11に保持された塗抹標本1の塗抹面1aを、第1の吸油部材4aと当接および離隔させる1次除去動作を実行する。上記の通り、1次除去動作では、制御部170は、塗抹面1aを1回当接させるとともに、当接状態を3秒間維持する。1次除去動作の実行後、制御部170は、回動駆動部30aにより、第1保持部10を第3角度位置R3に配置させる。
【0191】
ステップS25aにおいて、制御部170は、第2の吸油部材4bにより2次除去動作を実行する制御を行う。すなわち、制御部170は、水平駆動部30bにより、第1保持部10を第2の吸油部材4bの配置位置P3b(
図15参照)へ移動させる。制御部170は、水平駆動部30bの駆動を停止した状態で、回動駆動部30aを制御して、第1保持部10の第1収容部11に保持された塗抹標本1の塗抹面1aを、第2の吸油部材4bと当接および離隔させる2次除去動作を実行する。上記の通り、2次除去動作では、制御部170は、塗抹面1aを3回当接させるとともに、3回の当接それぞれにおいて当接状態を1秒間維持する。2次除去動作の実行後、制御部170は、回動駆動部30aにより、第1保持部10を第3角度位置R3に配置させる。
【0192】
〈第2群の塗抹標本に対するオイル除去〉
ステップS24bでは、制御部170は、第2の吸油部材4bにより1次除去動作を実行する制御を行う。まず、制御部170は、水平駆動部30bにより、第1保持部10を第1位置P1から第2の吸油部材4bの配置位置P3b(
図15参照)へ移動させる。制御部170は、水平駆動部30bの駆動を停止した状態で、回動駆動部30aを制御して、第1保持部10の第1収容部11に保持された塗抹標本1の塗抹面1aを、第2の吸油部材4bと当接および離隔させる1次除去動作を実行する。上記の通り、1次除去動作では、制御部170は、塗抹面1aを1回当接させるとともに、当接状態を3秒間維持する。1次除去動作の実行後、制御部170は、回動駆動部30aにより、第1保持部10を第3角度位置R3に配置させる。
【0193】
ステップS25bにおいて、制御部170は、第3の吸油部材4cにより2次除去動作を実行する制御を行う。すなわち、制御部170は、水平駆動部30bにより、第1保持部10を第3の吸油部材4cの配置位置P3c(
図15参照)へ移動させる。制御部170は、水平駆動部30bの駆動を停止した状態で、回動駆動部30aを制御して、第1保持部10の第1収容部11に保持された塗抹標本1の塗抹面1aを、第3の吸油部材4cと当接および離隔させる2次除去動作を実行する。上記の通り、2次除去動作では、制御部170は、塗抹面1aを3回当接させるとともに、3回の当接それぞれにおいて当接状態を1秒間維持する。2次除去動作の実行後、制御部170は、回動駆動部30aにより、第1保持部10を第3角度位置R3に配置させる。
【0194】
オイル除去動作の実行後、ステップS26において、制御部170は、現在の除去枚数Kに「1」を加算する。
【0195】
ステップS27において、制御部170は、記憶部171に設定された案内閾値を参照し、現在の除去枚数Kが案内閾値未満か否かを判断する。制御部170は、現在の除去枚数Kが案内閾値未満である場合、ステップS29に処理を進める。制御部170は、現在の除去枚数Kが案内閾値以上である場合、ステップS28に処理を進める。
【0196】
ステップS28において、制御部170は、表示部174に、案内画面210(
図25参照)を表示させる。これにより、ユーザは、吸油部材4の使用回数が案内閾値に到達したことを把握できる。なお、案内画面210の表示にしたがって、ユーザが吸油部材4の交換を行い、案内画面210のOKボタン213を入力した場合、制御部170は、現在の除去枚数Kの値をゼロにリセットする。
【0197】
ステップS29において、制御部170は、標本移送部141により塗抹標本1を第1保持部10から取り出す制御を行う。すなわち、制御部170は、水平駆動部30bにより、第1保持部10を第2位置P2(
図15参照)へ移動させる。制御部170は、回動駆動部30aにより、第1保持部10を第3角度位置R3から第2角度位置R2(
図13参照)に配置する。この状態で、次に撮像する塗抹標本1が存在する場合、制御部170は、標本移送部141により、次の撮像対象の塗抹標本1を収容容器5から取り出し、第1保持部10の第2収容部12に移送する。その後、制御部170は、標本移送部141により、第1保持部10の第1収容部11に保持された塗抹標本1を第1収容部11から取り出す。
【0198】
その後、ステップS30において、制御部170は、標本移送部141により取り出した塗抹標本1を、撮像済み収容位置D1に搬送しておいた収容容器5の空いている収容部5aに収容する制御を行う。
【0199】
このように、ステップS21~S30は、撮像済みの塗抹標本1を収容容器5へ返却する過程の動作であり、
図27に示したステップS11における塗抹標本1を第1保持部10から標本受渡部151に受け渡す動作と並行して行われる。つまり、撮像対象の塗抹標本1を標本受渡部151に受け渡す動作が第1保持部10の第2収容部12を用いて実行され、オイル除去対象の塗抹標本1に対するオイル除去処理が第1保持部10の第1収容部11を用いて実行される。
【0200】
また、
図27のステップS6では、複数の塗抹標本1のそれぞれについて、塗抹面1aと当接面CSとの当接および離隔により塗抹面1aに付着したオイル3を除去した後、標本移送部141により第1保持部10から塗抹標本1を取り出し、第1保持部10から取り出した塗抹標本1を標本移送部141により収容容器5に収容する動作が、順次行われる。
【0201】
図28のステップS22で第1モードでない(第2モードである)と判断された場合には、ステップS21で第1保持部10の第1収容部11に収容された塗抹標本1が、オイル除去されることなく、ステップS29で標本移送部141により取り出され、ステップS30で撮像済み収容位置D1の収容容器5に収容されることになる。
【0202】
以上のようにして、検査システム200の動作制御が行われる。
【0203】
(実施例)
次に、本実施形態のオイル除去装置100によるオイル除去処理の実施例1および2について説明する。
【0204】
〈実施例1〉
実施例1では、オイル除去処理を実施した塗抹標本1の枚数(除去枚数)によるオイル3の残留量の変化を測定した。オイル除去処理は、オイル3の初期付着量を50[μL]とした200枚の塗抹標本1に対して、同一の吸油部材4a、4bを用いて実施した。そして、オイル除去処理後の各塗抹標本1の塗抹面1aに残留したオイル3の残留量を計測した。
図29は、試験結果を示すグラフであり、横軸が除去枚数[枚]を示し、縦軸が塗抹面1aにおけるオイル3の残留量[μL]を示す。
図29のグラフにおいて、「1次除去」のプロットは、吸油部材4aによる1次除去動作のみを行った場合の残留量を示し、曲線90aが「1次除去」のプロットの近似曲線である。「2次除去」のプロットは、吸油部材4aによる1次除去動作および吸油部材4bによる2次除去動作を行った場合の残留量を示し、曲線90bが「2次除去」のプロットの近似曲線である。
【0205】
オイル3の残留量に関して、本願発明者らが鏡検を行うユーザに聞き取りを行ったところ、塗抹面1aにおけるオイル3の残留量が7μL程度であれば、観察の妨げにならず、キシレンを用いたオイル除去が必要ないことが確認された。
【0206】
図29の「1次除去」のプロットおよび曲線90aから、1つの吸油部材4に対する1次除去動作のみを行う場合、除去枚数が少ない初期段階では、残留量を7μLよりも低減できているものの、除去枚数が増大するにしたがって、残留量が7μLを超えて増大することが確認された。
【0207】
図29の「2次除去」のプロットおよび曲線90bから、異なる吸油部材4により2次除去動作を行う場合、曲線90aと比較して、より残留量を低減できることが確認された。また、曲線90aと曲線90bとを比較すると、2次除去動作を行う場合では、除去枚数が増大しても残留量が増大しにくく、オイル除去効果が長期間に亘って維持されることが分かる。少なくとも本実施例1で試験を行った200枚の塗抹標本1は、すべて残留量を7μL未満に抑制できることが確認された。
【0208】
これらの点から、1次除去動作のみを行う場合でも、1次および2次除去動作の両方を行う場合でも、鏡検に適した水準(7μL)までオイル残留量を低減可能な高いオイル除去性能が得られることが分かった。一方、1次除去動作のみを行う場合と2次除去動作を行う場合と比べると、2次除去動作を行う場合の方がオイル除去性能の維持効果が高く、吸油部材4の交換頻度を効果的に低減できることが確認された。
【0209】
〈実施例2〉
実施例2では、塗抹面1aと吸油部材4との当接回数を異ならせた2種の条件でオイル除去動作を実施し、それぞれの条件でのオイル3の残留量を測定した。
【0210】
具体的には、下記の条件Aと条件Bとでオイル除去試験を実施した。
条件A:1次除去動作の当接回数1回、当接時間3秒
2次除去動作の当接回数1回、当接時間3秒
条件B:1次除去動作の当接回数1回、当接時間3秒
2次除去動作の当接回数3回、当接時間1秒
オイル除去試験は3回実施し、除去前の液量、吸油部材4によるオイル吸収量、塗抹面1aでのオイル残留量、条件Aと条件Bとの残留量の差分、をそれぞれ求めた。
【0211】
【0212】
表1から分かるように、いずれの試験結果においても、条件A(試験No.1A、2A、3A)でのオイル残留量よりも、条件B(試験No.1B、2B、3B)でのオイル残留量が小さかった。条件Aおよび条件Bにおける当接状態の時間長さの合計は等しいため、上記の結果から、複数回の当接を行うことによりオイル残留量を効果的に低減できることが確認された。
【0213】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0214】
例えば、上記実施形態では、移動機構部30が、移動しない第2保持部20に対して第1保持部10を移動させる例を示したが、本発明はこれに限られない。移動しない第1保持部10に対して第2保持部20を移動させてもよい。移動機構部30は、第1保持部10および第2保持部20の両方を移動させてもよい。
【0215】
また、上記実施形態では、回転軸32を中心に第1保持部10を回動させることにより、塗抹標本1を回転軸32周りに移動させて吸油部材4に当接させる例を示したが、本発明はこれに限られない。
図30および
図31に示すように、塗抹標本1(第1保持部10)を直線移動させることで塗抹面1aと吸油部材4とを当接させてもよい。直線移動の移動方向は、
図30に示すように当接面CSの法線方向(A方向)でもよいし、
図31に示すように当接面CSの法線方向に対して傾斜した方向でもよい。なお、
図30、
図31において、第1保持部10ではなく第2保持部20を移動させてもよいし、第1保持部10および第2保持部20の両方を移動させてもよい。
【0216】
また、上記実施形態では、塗抹標本1を垂直方向に沿って配置し、吸油部材4と水平方向に対向させた状態で塗抹面1aと当接面CSとを面接触させる例を示したが、本発明はこれに限られない。
図30に示したように、塗抹標本1を水平方向に沿って配置し、塗抹面1aを吸油部材4の当接面CSと垂直方向に対向させてもよい。
【0217】
図30では、移動機構部30は、塗抹標本1を水平方向に沿って配置し、吸油部材4の当接面CSと塗抹面1aとを垂直方向に対向させた状態で塗抹面1aと当接面CSとを面接触させるように構成されている。すなわち、移動機構部30は、塗抹面1aが上方(Z1方向)に向くように塗抹標本1を配置し、塗抹標本1の上方に離隔させた配置した吸油部材4と塗抹標本1とを互いに近づけるようにZ方向に相対移動させることにより、塗抹面1aを当接面CSに当接させる。移動機構部30は、第1保持部10を上方に移動させてもよいし、第2保持部20を下方に移動させてもよい。このように構成すれば、一般的に顕微鏡画像の撮影は塗抹標本1を水平方向に沿って配置した状態で行われるため、撮影時と同じ姿勢のままで塗抹標本1からオイル3を除去できる。このため、塗抹標本1の姿勢を変更する機構が不要で装置構成を簡素にできる。また、塗抹標本1の姿勢を変更しないので、塗抹面1aに付着したオイル3が移動したり塗抹標本1から落下したりする可能性を低減できる。
【0218】
また、上記実施形態では、1枚の塗抹標本1の塗抹面1aを、複数の吸油部材4に対してそれぞれ当接させる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、1枚の塗抹標本1の塗抹面1aを、1つの吸油部材4のみに当接させてもよい。この際、1枚の塗抹標本1の塗抹面1aを、1つの吸油部材4の別々の領域に当接させてもよい。たとえば
図32のように、姿勢変更部301によって吸油部材4の向きを変更することで、吸油部材4の複数の当接面CSに対して塗抹面1aをそれぞれ当接させてもよい。また、塗抹面1aよりも大きい寸法の当接面CSを有する吸油部材4を設けて、当接面CS内の複数箇所に順番に塗抹面1aを当接させてもよい。
【0219】
また、上記実施形態では、塗抹面1aの表面に付着したオイル3を、多孔質の吸油部材4によって吸収させる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば一端面から他端面まで貫通する細孔が形成された吸油部材の他端面に負圧を供給し、一端面に塗抹標本1の塗抹面1aを当接させることによって、塗抹面1aに付着したオイル3を細孔内に吸引するようにしてもよい。この場合、オイル除去装置100は、負圧供給源としてシリンジポンプまたはエジェクタを備えうる。
【0220】
また、上記実施形態では、塗抹面1aと当接面CSとの当接状態において、塗抹面1aと当接面CSとが相対移動しない例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、塗抹面1aと当接面CSとの当接状態において、塗抹面1aと当接面CSとが相対移動してもよい。たとえば、
図33に示すように、吸油部材4を回転可能なローラー形状に形成して、塗抹面1a上を転動するようにしてもよい。
図33では、ローラー形状の吸油部材4が第2保持部20に保持されている。当接面CSは、吸油部材4の円筒状の外周面である。移動機構部30が、第2保持部20を塗抹面1aに沿う方向に移動させることにより、吸油部材4と塗抹面1aとを当接状態および離隔状態にさせる。
図33では吸油部材4を1つ設けているが、吸油部材4を複数設けてもよい。
【0221】
また、
図34では、吸油部材4が、環状のベルトとして形成されている。第2保持部20a、20bは回転可能なプーリであり、第2保持部20aと第2保持部20bとに吸油部材4が掛け渡されている。吸油部材4の環状の外周面が当接面CSである。第2保持部20aは、モータからなる姿勢変更部301により回転駆動される。第2保持部20aの回転に伴い、ベルト状の吸油部材4が循環回転する。移動機構部30は、第1保持部10を移動させることにより、第1保持部10に保持された塗抹標本1の塗抹面1aと吸油部材4の当接面CSとを当接状態および離隔状態にする。離隔状態で吸油部材4を循環回転させることにより、オイル3を吸収する箇所が分散するように、当接面CSのうちの塗抹面1aと当接させる領域を変更できる。
【0222】
また、上記実施形態では、オイル除去装置100を検査システム200の容器搬送部130に設けた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえばオイル除去装置100を検査システム200の標本撮像部150に設けてもよい。この他、
図35に示すように、オイル除去装置100を検査システム200内の独立したユニットとして構成し、容器搬送部130に対してオイル除去装置100と標本撮像部150とが並列で並ぶように設置してもよい。この場合、容器搬送部130が、撮像済みの塗抹標本1を標本撮像部150から受け取った後、受け取った塗抹標本1をオイル除去装置100に供給することにより、オイル除去装置100がオイル除去処理を行う。オイル除去処理の後、容器搬送部130が、オイル除去済みの塗抹標本1をオイル除去装置100から受け取り、受け取った塗抹標本1を収容容器5へ収容する。また、オイル除去装置100を検査システム200に組み込むことなく、単独の装置として構成してもよい。この場合、標本撮像装置で撮像された後の塗抹標本1を、ユーザが標本撮像装置から取り出して、オイル除去装置100の第1保持部10に手動で設置するようにしてもよい。
【0223】
また、上述した実施形態では、標本作製部110の制御部170が、オイル除去装置100を含む容器搬送部130の制御を行っているが、
図35に示すように、制御部170が標本作製部110とは別個に設けられていてもよい。
図35では、制御部170は、標本作製部110、容器搬送部130および標本撮像部150とは別個の制御ユニットとして設けられている。
図35では、制御部170は、オイル除去装置100、標本作製部110、容器搬送部130および標本撮像部150をそれぞれ制御する。この他、オイル除去装置100の制御を行う制御部が、容器搬送部130に設けられていてもよいし、オイル除去装置100の専用の制御部をオイル除去装置100に設けてもよい。
【0224】
すなわち、
図10において、オイル除去装置100に制御部を設けてオイル除去装置100を制御してもよい。また、
図10において、標本撮像部150の制御部191が、オイル除去装置100を制御するように構成されていてもよい。本発明において、オイル除去装置100の制御部は、検査システム200を構成するどの装置に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0225】
1:塗抹標本、1a:塗抹面、1b:外周縁、3:オイル、4:吸油部材、4a:第1の吸油部材、4b:第2の吸油部材、4c:第3の吸油部材、10:第1保持部、20、20a、20b:第2保持部、21:保持具、30:移動機構部、30a:回動駆動部、30b:水平駆動部、32:回転軸、100:オイル除去装置、170a:制御部、CS:当接面、P1:第1位置、P2:第2位置