(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067991
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】情報処理プログラム、情報処理装置、および情報処理方法
(51)【国際特許分類】
G16C 10/00 20190101AFI20240510BHJP
G06Q 99/00 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
G16C10/00
G06Q99/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178465
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今村 智史
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049DD02
5L050DD02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】規定された時間内で実行可能な量子化学計算アルゴリズムをより容易に決定する情報処理プログラムを提供する。
【解決手段】情報処理装置が実行する情報処理プログラムは、入力データとして入力された分子情報に含まれる基底関数および分子の種類から基底関数の数を取得することと、量子化学計算に利用可能な各アルゴリズムの実行時間を、予め構築された単回帰モデルを用いて予測して決定することと、評価範囲及び時間制約を入力として線形計画問題を解き、PES又はPEC上の各点のポテンシャルエネルギーを求めるアルゴリズムを決定することと、決定したアルゴリズムを用いて、PES又はPEC上の各点のポテンシャルエネルギーを算出することと、算出したポテンシャルエネルギーに基づいて、PES又はPECをプロットすることと、を実行する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上のアルゴリズムを用いて、対象分子に対する量子化学計算を実行する際に、
用いる前記アルゴリズムごとに、実行時間を決定し、
決定された前記実行時間に基づいて、指定された時間内で前記量子化学計算が実行できる前記アルゴリズムの第1の組み合わせを決定する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする情報処理プログラム。
【請求項2】
前記アルゴリズムごとに、精度に対応する値を決定し、
前記第1の組み合わせのうち、前記精度に対応する値が最も高い組み合わせを決定する
処理を前記コンピュータに実行させることを特徴とする請求項1に記載の情報処理プログラム。
【請求項3】
決定された前記第1の組み合わせに基づいて、前記対象分子に対する前記量子化学計算を実行して前記対象分子のポテンシャルエネルギーを算出する
処理を前記コンピュータに実行させることを特徴とする請求項1に記載の情報処理プログラム。
【請求項4】
前記実行時間を決定する処理は、
用いる前記アルゴリズムごとに、ベンチマークとなる分子の基底関数の数を変化させて前記実行時間を測定し、
用いる前記アルゴリズムごとに、単回帰分析を用いて精度の指標となる回帰係数および定数項を決定し、
用いる前記アルゴリズムごとに、決定された前記回帰係数および前記定数項に基づいて、前記対象分子に対する前記量子化学計算の前記実行時間を予測して決定する
処理を含むことを特徴とする請求項2に記載の情報処理プログラム。
【請求項5】
前記第1の組み合わせを決定する処理は、
決定された前記実行時間に基づいて、ポテンシャルエネルギー曲面または曲線上の指定された点ごとに、指定された前記時間内で前記量子化学計算が実行できる前記アルゴリズムを決定することで、前記第1の組み合わせを決定する
処理を含むことを特徴とする請求項1に記載の情報処理プログラム。
【請求項6】
1つ以上のアルゴリズムを用いて、対象分子に対する量子化学計算を実行する際に、
用いる前記アルゴリズムごとに、実行時間を決定し、
決定された前記実行時間に基づいて、指定された時間内で前記量子化学計算が実行できる前記アルゴリズムの第1の組み合わせを決定する
処理を実行する制御部を備えたことを特徴とする情報処理装置。
【請求項7】
1つ以上のアルゴリズムを用いて、対象分子に対する量子化学計算を実行する際に、
用いる前記アルゴリズムごとに、実行時間を決定し、
決定された前記実行時間に基づいて、指定された時間内で前記量子化学計算が実行できる前記アルゴリズムの第1の組み合わせを決定する
処理をコンピュータが実行することを特徴とする情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大規模系向けの量子化学計算アルゴリズム自動選択技術に関する。
【背景技術】
【0002】
分子軌道構成の元となる関数である基底関数、および分子の種類とから系のエネルギーを求めることで分子の特性を把握できる。分子特性の把握は、創薬や新材料の発見などに役に立つため、系のエネルギー(ポテンシャルエネルギー)を求める量子化学計算の重要性は高い。
【0003】
系の特性を分析するために、例えば、分子構造を変化させながら対象系のエネルギーをプロットし、ポテンシャルエネルギー曲面(PES:Potential Energy Surface)を構築する方法がある。なお、PESは、パラメータが単一の場合は、ポテンシャルエネルギー曲線(PEC:Potential Energy Curve)と呼ばれる場合もある。PESまたはPECから分子の特性が把握可能である。また、系のエネルギーを算出するためのアルゴリズムは数多くあり、専門家が対象分子などによって適切なアルゴリズムを選択している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、系のエネルギーを算出するためのアルゴリズムの選択は容易でない。例えば、高精度でのエネルギー算出が要求される一方、対象系の規模増大に伴い、精度とトレードオフとなる実行時間は現実的な時間制約が課せられる。そのため、実行可能かつ高精度なアルゴリズムの選択は、困難な場合がある。
【0006】
1つの側面では、規定された時間内で実行可能な量子化学計算アルゴリズムをより容易に決定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの態様において、情報処理プログラムは、1つ以上のアルゴリズムを用いて、対象分子に対する量子化学計算を実行する際に、用いるアルゴリズムごとに、実行時間を決定し、決定された実行時間に基づいて、指定された時間内で量子化学計算が実行できるアルゴリズムの第1の組み合わせを決定する処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0008】
1つの側面では、規定された時間内で実行可能な量子化学計算アルゴリズムをより容易に決定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、量子化学計算の一例について説明するための図である。
【
図2】
図2は、エネルギー算出のための様々なアルゴリズムの一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本実施形態にかかる情報処理装置10の構成例を示す図である。
【
図4】
図4は、本実施形態にかかる評価範囲の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、本実施形態にかかるパラメータ情報32に記憶されるデータの一例を示す図である。
【
図6】
図6は、本実施形態にかかる実行時間の測定結果の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、本実施形態にかかる量子化学計算処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、本実施形態にかかる情報処理装置10のハードウェア構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本実施形態にかかる情報処理プログラム、情報処理装置、および情報処理方法の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例により本実施形態が限定されるものではない。また、各実施例は、矛盾のない範囲内で適宜組み合わせることができる。
【0011】
まず、本実施形態の対象となる量子化学計算について説明する。
図1は、量子化学計算の一例について説明するための図である。
図1のグラフは、横軸を原子間距離、縦軸を基底エネルギー、対象分子を水素分子として、水素分子のポテンシャルエネルギー曲線(PEC)を示すものである。
図1に示すように、量子化学計算では、原子間距離を変化させて複数点の基底エネルギーを求め、線で結ぶことによりPECを求めることができる。これにより、対象分子の分子特性が把握可能である。例えば、
図1に示すように、PECの極大点では、原子同士が離れた状態である遷移状態を示す。一方、PECの極小点では、原子同士が結合し、対象分子が生成された安定状態を示す。このように、対象分子のエネルギーを求めることで対象分子の特性を把握できる。なお、
図1ではPECを例として説明したが、ポテンシャルエネルギー曲面(PES)も同様に、対象分子のエネルギーを求めることで対象分子の特性を把握できる。
【0012】
しかしながら、対象分子のエネルギーを算出するためのアルゴリズムは数多くある。
図2は、エネルギー算出のための様々なアルゴリズムの一例を示す図である。
図2に示すように、対象分子のエネルギーを算出するためのアルゴリズムには、例えば、DFT(Density Functional Theory:密度汎関数理論)法、MP2(Moller-Plesset摂動)法、CCSD(1電子および2電子クラスター展開)法などがある。
図2に示すようなアルゴリズムによって対象分子のエネルギーを算出できるが、
図2に示すように、アルゴリズムによって計算コストや精度が異なる。また、エネルギー算出の計算コストと精度とはトレードオフの関係にある。そのため、本実施形態では、現実的な時間制約で実行可能かつ、より高精度なアルゴリズムを選択する。
【0013】
(情報処理装置10の機能構成)
次に、本実施形態の動作主体となる情報処理装置10の機能構成について説明する。
図3は、本実施形態にかかる情報処理装置10の構成例を示す図である。
図3に示す情報処理装置10は、例えば、サーバコンピュータ、またはデスクトップPC(Personal Computer)やノートPCなどの情報処理装置である。なお、
図3では、情報処理装置10を1台のコンピュータとして示しているが、複数台のコンピュータで構成される分散型コンピューティングシステムであってもよい。また、情報処理装置10は、クラウドコンピューティングサービスを提供するサービス提供者によって管理されるクラウドコンピュータ装置であってもよい。
【0014】
図3に示すように、情報処理装置10は、通信部20、記憶部30、および制御部40を有する。
【0015】
通信部20は、他の装置との間の通信を制御する処理部であり、例えば、ネットワークインタフェースカードなどの通信インタフェースやUSB(Universal Serial Bus)インタフェースである。
【0016】
記憶部30は、各種データや、制御部40が実行するプログラムを記憶する機能を有し、例えば、メモリやハードディスクなどの記憶装置により実現される。記憶部30は、入力情報31、およびパラメータ情報32などを記憶する。
【0017】
入力情報31には、例えば、量子化学計算時に入力される入力情報などが記憶される。当該入力情報は、例えば、分子軌道構成の元となる関数である基底関数や分子の種類を含む分子情報、および量子化学計算の評価範囲や時間制約などに関する情報であってよい。
【0018】
ここで、入力情報31に記憶される評価範囲とは、例えば、
図1に示したようなPEC上の原子間距離0.5~2.4Å(オングストローム)間の0.1Å刻みの20点などであってよい。
図4は、本実施形態にかかる評価範囲の一例を示す図である。
図4は、評価範囲として、PEC上の所定の原子間距離間の5点がユーザによって指定された例である。
【0019】
また、入力情報31に記憶される時間制約は、例えば、ユーザによって指定される400や100sec(秒)であってよい。なお、ユーザによって指定される評価範囲や時間制約などの入力情報は、例えば、ユーザが利用する情報処理端末を介して入力されてよい。本実施形態では、評価範囲としてユーザによって指定された各点について時間制約で実行可能かつ、より高精度な量子化学計算アルゴリズムが選択される。そのため、ユーザによって指定される時間制約は、評価範囲としてユーザによって指定された各点におけるアルゴリズムの実行時間の合計に対する制約である。なお、実行時間とは、例えば、ある原子間距離1点において、当該アルゴリズムがポテンシャルエネルギーを求めるためにかかる時間を示す。
【0020】
パラメータ情報32には、例えば、量子化学計算に用いられる各アルゴリズムの精度の指標である回帰係数や実行時間などが記憶される。
図5は、本実施形態にかかるパラメータ情報32に記憶されるデータの一例を示す図である。
図5に示すように、パラメータ情報32には、例えば、「アルゴリズム」、「m
a」、「time
a」が対応付けて記憶される。「アルゴリズム」は、例えば、量子化学計算に用いられる所定のアルゴリズムaを一意に識別するための識別子や名称などであってよい。「m
a」は、例えば、精度に対応する値、すなわち精度の指標である回帰係数であって、アルゴリズムaの計算コストを示す値であってよい。「time
a」は、例えば、アルゴリズムaに対して予測された実行時間を示す値であってよい。
【0021】
なお、記憶部30に記憶される上記情報はあくまでも一例であり、記憶部30は、上記情報以外にも様々な情報を記憶できる。
【0022】
制御部40は、情報処理装置10全体を司る処理部であり、例えば、プロセッサなどである。制御部40は、決定部41、および算出部42を備える。なお、各処理部は、プロセッサが有する電子回路の一例やプロセッサが実行するプロセスの一例である。
【0023】
決定部41は、例えば、1つ以上のアルゴリズムを用いて、対象分子に対する量子化学計算を実行する際に、用いるアルゴリズムごとに、実行時間、および精度に対応する値を決定する。各アルゴリズムの実行時間を決定するために、決定部41は、例えば、次の式(1)によって示される、実行時間を予測する単回帰モデルを用いる。
【0024】
【0025】
式(1)において、timeaは、アルゴリズムaに対して予測される実行時間を示す。また、Nは、電子数と軌道から定まる基底関数の数を示し、分子情報および基底関数から取得できる。また、maは回帰係数であり、アルゴリズムaの計算コストの指標となる。caは定数項である。回帰係数maおよび定数項caの決定方法について説明する。
【0026】
まず、決定部41は、例えば、ベンチマークとなる分子の基底関数の数Nを変化させて、アルゴリズムaなど各アルゴリズムの実行時間を測定する。例えば、基底関数の数Nを変化させるためには基底関数を変化させる。
図6を用いて実行時間の測定結果の一例を示す。
【0027】
図6は、本実施形態にかかる実行時間の測定結果の一例を示す図である。
図6のグラフは、ベンチマークとなる分子の基底関数の数Nを変化させて測定した、各アルゴリズムの実行時間をログスケールで示すグラフである。また、横軸は基底関数の数Nをログスケールで示す。基底関数の数Nは基底関数の規模に応じて増加する。
【0028】
そして、決定部41は、例えば、
図6に示す測定結果などから、単回帰分析を用いて、アルゴリズムaの回帰係数m
aおよび定数項c
aを決定する。
図6の例では、5種類のアルゴリズムそれぞれに対し、回帰係数m
aおよび定数項c
aが決定される。
【0029】
このように、決定部41は、選択候補として用いるアルゴリズムごとに、式(1)で示されるような単回帰モデルの各パラメータを決定し、単回帰モデルを構築する。そして、決定部41は、選択候補として用いるアルゴリズムごとに、決定された回帰係数maおよび定数項caに基づいて、構築された単回帰モデルを用いて、対象分子に対する量子化学計算の実行時間を予測して決定する。なお、決定された回帰係数や予測された実行時間は、それぞれ、アルゴリズムごとにパラメータ情報32の「ma」および「timea」に記憶されてよい。
【0030】
また、決定部41は、例えば、決定された回帰係数m
a、および予測して決定された実行時間に基づいて、指定された時間内で量子化学計算が実行できるアルゴリズムの組み合わせを決定する。これは、例えば、PESまたはPEC上の評価範囲として指定された点ごとに、指定された時間内、すなわち時間制約で量子化学計算が実行できるアルゴリズムを決定することで、アルゴリズムの組み合わせを決定することを含む。また、決定された回帰係数m
a、や予測して決定された実行時間は、それぞれ、例えば、
図5に示すような、アルゴリズムごとの「m
a」および「time
a」に記憶される値である。
【0031】
より具体的には、決定部41は、例えば、次の式(2)で示される、精度の最大化を目的関数とする線形計画問題を、評価範囲として指定された点に対して解くことで、アルゴリズムの組み合わせを決定する。なお、評価範囲として指定された点とは、例えば、
図4に示される5点である。
【0032】
【0033】
式(2)において、pは、評価範囲として指定された、PESまたはPEC上の点の集合Pに含まれる点pを示す。また、aは、量子化学計算アルゴリズムの集合Aに含まれるアルゴリズムaを示す。m
a,pは、点pのポテンシャルエネルギーを求めるアルゴリズムaの回帰係数であり、アルゴリズムaの精度を示す。
図2に示すように、計算コストN
maが大きいほど高精度であるため、例えば、各アルゴリズムの回帰係数m
aを精度指標とみなす。アルゴリズムaの回帰係数m
aは、例えば、アルゴリズムごとに決定され、パラメータ情報32に予め記憶される。x
a,pは、次の式(3)で示されるように、点pのポテンシャルエネルギーをアルゴリズムaで求める場合に1、それ以外の場合に0を示す。
【0034】
【0035】
また、点pのポテンシャルエネルギーを求めるアルゴリズムは、量子化学計算アルゴリズムの集合Aに含まれるいずれか1つのアルゴリズムに決定されるため、xa,pは、次の式(4)で示される制約が課せられる。
【0036】
【0037】
また、ユーザによって指定される時間内、すなわち時間制約は、次の式(5)で示される。
【0038】
【0039】
式(5)において、timea,pは、点pのポテンシャルエネルギーを求めるアルゴリズムaに対して予測される実行時間を示す。アルゴリズムaに対して予測される実行時間timeaは、例えば、アルゴリズムごとに予測して決定され、パラメータ情報32に予め記憶される。timelimitは、ユーザによって指定される時間制約である。すなわち、決定部41は、式(5)を用いて、ユーザによって指定される評価範囲の全ての点のポテンシャルエネルギーを求める合計時間timetotalが、時間制約timelimit以内になるように制御する。
【0040】
また、決定部41は、次の式(6)を用いて、例えば、原子間距離が長い、または原子間角度(「結合角」ともいう)が大きいなど、値が大きい点ほど高精度にポテンシャルエネルギーが求められるように制御してもよい。
【0041】
【0042】
式(6)において、iおよびjは、PESまたはPEC上の点の集合Pに含まれる各点であり、jの方が、iよりも原子間距離が長い、または結合角が大きいなど、値が大きい点である。
【0043】
決定部41は、式(2)~(6)を用いて、指定された時間制約で量子化学計算が実行できるアルゴリズムの第1の組み合わせを決定する。また、決定部41は、決定した第1の組み合わせのうち、精度に対応する値が最も高い組み合わせを決定する。
【0044】
次の式(7)および(8)は、それぞれ、時間制約を400秒として、
図4に示されるような5点のポテンシャルエネルギーを求めるアルゴリズムの組み合わせを、
図5に示されるようなパラメータ情報に基づいて決定した場合の、目的関数の値および合計実行時間を示す式である。
【0045】
【0046】
【0047】
式(7)および(8)において、アルゴリズムaの精度m
a,pおよび実行時間time
a,pは、それぞれ、パラメータ情報32の「m
a」および「time
a」に記憶された値が用いられてよい。式(7)の目的関数により精度が最大となり、かつ式(8)の合計実行時間が400秒以下となるように各点のポテンシャルエネルギーを求めるアルゴリズムが決定される。これにより、例えば、アルゴリズムの組み合わせとして、[DFT、DFT、MP2、CCSD、CCSD(T)]が決定される。なお、アルゴリズムの組み合わせ[DFT、DFT、MP2、CCSD、CCSD(T)]は、例えば、左から、
図4に示されるような5点の左の点から各点のポテンシャルエネルギーを求めるためのアルゴリズムとして用いられる。また、式(7)および(8)の解は、それぞれ、決定された各アルゴリズムに対応するパラメータ情報32の「m
a」および「time
a」に記憶された値の合計となる。
【0048】
別例として、次の式(9)および(10)は、それぞれ、時間制約を100秒として、5点のポテンシャルエネルギーを求めるアルゴリズムの組み合わせを、
図5に示されるようなパラメータ情報に基づいて決定した場合の、目的関数の値および合計実行時間を示す式である。
【0049】
【0050】
【0051】
式(9)および(10)を用いて、例えば、アルゴリズムの組み合わせとして、[DFT、DFT、DFT、DFT、MP2]が決定される。なお、式(7)~(10)を用いて説明した例では、アルゴリズムの組み合わせが複数種類のアルゴリズムによって構成されるが、全て同一のアルゴリズムによって構成される場合もあり得る。
【0052】
(処理の流れ)
次に、
図7を用いて、情報処理装置10によって実行される量子化学計算処理について説明する。
図7は、本実施形態にかかる量子化学計算処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図7に示す量子化学計算処理は、例えば、情報処理装置10に対する入力データとして、基底関数や分子の種類を含む分子情報、評価範囲、および時間制約などの情報がユーザによって入力されたことに応答して開始される。また、
図6などを用いて説明したように、量子化学計算に利用可能な各アルゴリズムの単回帰モデルの回帰係数m
aおよび定数項c
aは単回帰分析を用いて決定され、単回帰モデルが予め構築されているものとする。
【0053】
まず、
図7に示すように、情報処理装置10は、例えば、入力データとして入力された分子情報に含まれる基底関数および分子の種類から基底関数の数を取得する(ステップS101)。
【0054】
次に、情報処理装置10は、例えば、量子化学計算に利用可能な各アルゴリズムの実行時間を、予め構築された単回帰モデルを用いて予測して決定する(ステップS102)。
【0055】
次に、情報処理装置10は、例えば、評価範囲および時間制約を入力として線形計画問題を解き、PESまたはPEC上の各点のポテンシャルエネルギーを求めるアルゴリズムを決定する(ステップS103)。当該線形計画問題は、例えば、式(2)で示される、精度の最大化を目的関数とする線形計画問題である。
【0056】
次に、情報処理装置10は、例えば、ステップS103で決定されたアルゴリズムを用いて、PESまたはPEC上の各点のポテンシャルエネルギーを算出する(ステップS104)。
【0057】
次に、情報処理装置10は、例えば、ステップS104で算出されたポテンシャルエネルギーに基づいて、PESまたはPECをプロットする(ステップS105)。ステップS105の実行後、
図7に示す量子化学計算処理は終了する。
【0058】
(効果)
上述したように、情報処理装置10は、1つ以上のアルゴリズムを用いて、対象分子に対する量子化学計算を実行する際に、用いるアルゴリズムごとに、実行時間を決定し、決定された実行時間に基づいて、指定された時間内で量子化学計算が実行できるアルゴリズムの第1の組み合わせを決定する。
【0059】
このように、情報処理装置10は、アルゴリズムごとに実行時間を決定し、決定された実行時間に基づいてアルゴリズムの組み合わせを決定する。これにより、情報処理装置10は、規定された時間内で実行可能な量子化学計算アルゴリズムを決定できる。
【0060】
また、情報処理装置10は、アルゴリズムごとに、精度に対応する値を決定し、第1の組み合わせのうち、精度に対応する値が最も高い組み合わせを決定する。
【0061】
これにより、情報処理装置10は、規定された時間内で実行可能かつ高精度な量子化学計算アルゴリズムを決定できる。
【0062】
また、情報処理装置10は、決定された第1の組み合わせに基づいて、対象分子に対する量子化学計算を実行して対象分子のポテンシャルエネルギーを算出する。
【0063】
これにより、情報処理装置10は、規定された時間内でポテンシャルエネルギーを算出できる。
【0064】
また、情報処理装置10によって実行される、実行時間を決定する処理は、用いるアルゴリズムごとに、ベンチマークとなる分子の基底関数の数を変化させて実行時間を測定し、用いるアルゴリズムごとに、単回帰分析を用いて精度の指標となる回帰係数および定数項を決定し、用いるアルゴリズムごとに、決定された回帰係数および定数項に基づいて、対象分子に対する量子化学計算の実行時間を予測して決定する処理を含む。
【0065】
これにより、情報処理装置10は、規定された時間内で実行可能かつ高精度な量子化学計算アルゴリズムを決定できる。
【0066】
また、情報処理装置10によって実行される、第1の組み合わせを決定する処理は、決定された実行時間に基づいて、ポテンシャルエネルギー曲面または曲線上の指定された点ごとに、指定された時間内で量子化学計算が実行できるアルゴリズムを決定することで、第1の組み合わせを決定する処理を含む。
【0067】
これにより、情報処理装置10は、規定された時間内で実行可能かつより高精度な量子化学計算アルゴリズムを決定できる。
【0068】
(システム)
上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報は、特記する場合を除いて任意に変更されてもよい。また、実施例で説明した具体例、分布、数値などは、あくまで一例であり、任意に変更されてもよい。
【0069】
また、情報処理装置10の構成要素の分散や統合の具体的形態は図示のものに限られない。例えば、情報処理装置10の決定部41が複数の処理部に分散されたり、情報処理装置10の決定部41と算出部42とが1つの処理部に統合されたりしてもよい。つまり、その構成要素の全部または一部は、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合されてもよい。さらに、各装置の各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0070】
図8は、本実施形態にかかる情報処理装置10のハードウェア構成例を示す図である。
図8に示すように、情報処理装置10は、通信インタフェース10a、HDD(Hard Disk Drive)10b、メモリ10c、プロセッサ10dを有する。また、
図8に示した各部は、バスなどで相互に接続される。
【0071】
通信インタフェース10aは、ネットワークインタフェースカードなどであり、他の情報処理装置との通信を行う。HDD10bは、例えば、情報処理装置10の各機能を動作させるプログラムやデータを記憶する。
【0072】
プロセッサ10dは、CPU、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)などである。また、プロセッサ10dは、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などの集積回路により実現されるようにしてもよい。プロセッサ10dは、例えば、
図3などに示した各処理部と同様の処理を実行するプログラムをHDD10bなどから読み出してメモリ10cに展開する。これにより、プロセッサ10dは、情報処理装置10の各機能を実現するプロセスを実行するハードウェア回路として動作可能である。
【0073】
また、情報処理装置10は、媒体読取装置によって記録媒体から上記プログラムを読み出し、読み出された上記プログラムを実行することで上記実施例と同様の機能を実現することもできる。なお、この他の実施例でいうプログラムは、情報処理装置10によって実行されることに限定されるものではない。例えば、他の情報処理装置がプログラムを実行する場合や、他の情報処理装置と情報処理装置10とが協働してプログラムを実行するような場合にも、上記実施例が同様に適用されてよい。
【0074】
当該プログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布されてもよい。また、当該プログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、MO(Magneto-Optical disk)、DVD(Digital Versatile Disc)などのコンピュータ可読記憶媒体に記録されてよい。そして、当該プログラムは、情報処理装置10などによって記録媒体から読み出されることによって実行されてもよい。
【0075】
以上の実施例を含む実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0076】
(付記1)1つ以上のアルゴリズムを用いて、対象分子に対する量子化学計算を実行する際に、
用いる前記アルゴリズムごとに、実行時間を決定し、
決定された前記実行時間に基づいて、指定された時間内で前記量子化学計算が実行できる前記アルゴリズムの第1の組み合わせを決定する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする情報処理プログラム。
【0077】
(付記2)前記アルゴリズムごとに、精度に対応する値を決定し、
前記第1の組み合わせのうち、前記精度に対応する値が最も高い組み合わせを決定する
処理を前記コンピュータに実行させることを特徴とする付記1に記載の情報処理プログラム。
【0078】
(付記3)決定された前記第1の組み合わせに基づいて、前記対象分子に対する前記量子化学計算を実行して前記対象分子のポテンシャルエネルギーを算出する
処理を前記コンピュータに実行させることを特徴とする付記1に記載の情報処理プログラム。
【0079】
(付記4)前記実行時間を決定する処理は、
用いる前記アルゴリズムごとに、ベンチマークとなる分子の基底関数の数を変化させて前記実行時間を測定し、
用いる前記アルゴリズムごとに、単回帰分析を用いて精度の指標となる回帰係数および定数項を決定し、
用いる前記アルゴリズムごとに、決定された前記回帰係数および前記定数項に基づいて、前記対象分子に対する前記量子化学計算の前記実行時間を予測して決定する
処理を含むことを特徴とする付記2に記載の情報処理プログラム。
【0080】
(付記5)前記第1の組み合わせを決定する処理は、
決定された前記実行時間に基づいて、ポテンシャルエネルギー曲面または曲線上の指定された点ごとに、指定された前記時間内で前記量子化学計算が実行できる前記アルゴリズムを決定することで、前記第1の組み合わせを決定する
処理を含むことを特徴とする付記1に記載の情報処理プログラム。
【0081】
(付記6)1つ以上のアルゴリズムを用いて、対象分子に対する量子化学計算を実行する際に、
用いる前記アルゴリズムごとに、実行時間を決定し、
決定された前記実行時間に基づいて、指定された時間内で前記量子化学計算が実行できる前記アルゴリズムの第1の組み合わせを決定する
処理を実行する制御部を備えたことを特徴とする情報処理装置。
【0082】
(付記7)前記アルゴリズムごとに、精度に対応する値を決定し、
前記第1の組み合わせのうち、前記精度に対応する値が最も高い組み合わせを決定する
処理を前記制御部が実行することを特徴とする付記6に記載の情報処理装置。
【0083】
(付記8)決定された前記第1の組み合わせに基づいて、前記対象分子に対する前記量子化学計算を実行して前記対象分子のポテンシャルエネルギーを算出する
処理を前記制御部が実行することを特徴とする付記6に記載の情報処理装置。
【0084】
(付記9)前記実行時間を決定する処理は、
用いる前記アルゴリズムごとに、ベンチマークとなる分子の基底関数の数を変化させて前記実行時間を測定し、
用いる前記アルゴリズムごとに、単回帰分析を用いて精度の指標となる回帰係数および定数項を決定し、
用いる前記アルゴリズムごとに、決定された前記回帰係数および前記定数項に基づいて、前記対象分子に対する前記量子化学計算の前記実行時間を予測して決定する
処理を含むことを特徴とする付記7に記載の情報処理装置。
【0085】
(付記10)前記第1の組み合わせを決定する処理は、
決定された前記実行時間に基づいて、ポテンシャルエネルギー曲面または曲線上の指定された点ごとに、指定された前記時間内で前記量子化学計算が実行できる前記アルゴリズムを決定することで、前記第1の組み合わせを決定する
処理を含むことを特徴とする付記6に記載の情報処理装置。
【0086】
(付記11)1つ以上のアルゴリズムを用いて、対象分子に対する量子化学計算を実行する際に、
用いる前記アルゴリズムごとに、実行時間を決定し、
決定された前記実行時間に基づいて、指定された時間内で前記量子化学計算が実行できる前記アルゴリズムの第1の組み合わせを決定する
処理をコンピュータが実行することを特徴とする情報処理方法。
【0087】
(付記12)前記アルゴリズムごとに、精度に対応する値を決定し、
前記第1の組み合わせのうち、前記精度に対応する値が最も高い組み合わせを決定する
処理を前記コンピュータが実行することを特徴とする付記11に記載の情報処理方法。
【0088】
(付記13)決定された前記第1の組み合わせに基づいて、前記対象分子に対する前記量子化学計算を実行して前記対象分子のポテンシャルエネルギーを算出する
処理を前記コンピュータが実行することを特徴とする付記11に記載の情報処理方法。
【0089】
(付記14)前記実行時間を決定する処理は、
用いる前記アルゴリズムごとに、ベンチマークとなる分子の基底関数の数を変化させて前記実行時間を測定し、
用いる前記アルゴリズムごとに、精度の指標となる回帰係数および定数項を決定し、
用いる前記アルゴリズムごとに、決定された前記回帰係数および前記定数項に基づいて、前記対象分子に対する前記量子化学計算の前記実行時間を予測して決定する
処理を含むことを特徴とする付記12に記載の情報処理方法。
【0090】
(付記15)前記第1の組み合わせを決定する処理は、
決定された前記実行時間に基づいて、ポテンシャルエネルギー曲面または曲線上の指定された点ごとに、指定された前記時間内で前記量子化学計算が実行できる前記アルゴリズムを決定することで、前記第1の組み合わせを決定する
処理を含むことを特徴とする付記11に記載の情報処理方法。
【0091】
(付記16)プロセッサと、
プロセッサに動作可能に接続されたメモリと
を備えた情報処理装置であって、プロセッサは、
1つ以上のアルゴリズムを用いて、対象分子に対する量子化学計算を実行する際に、
用いる前記アルゴリズムごとに、実行時間を決定し、
決定された前記実行時間に基づいて、指定された時間内で前記量子化学計算が実行できる前記アルゴリズムの第1の組み合わせを決定する
処理を実行することを備えたことを特徴とする情報処理装置。
【符号の説明】
【0092】
10 情報処理装置
10a 通信インタフェース
10b HDD
10c メモリ
10d プロセッサ
20 通信部
30 記憶部
31 入力情報
32 パラメータ情報
40 制御部
41 決定部
42 算出部