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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067994
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】人工弁
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/24 20060101AFI20240510BHJP
   F16K 15/16 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
A61F2/24
F16K15/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178468
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(71)【出願人】
【識別番号】503430957
【氏名又は名称】エムエスシーソフトウェア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】山岡 哲二
(72)【発明者】
【氏名】深澤 今日子
(72)【発明者】
【氏名】平林 朋之
(72)【発明者】
【氏名】和久 智裕
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 浩志
(72)【発明者】
【氏名】立石 源治
(72)【発明者】
【氏名】大島 徹也
【テーマコード(参考)】
3H058
4C097
【Fターム(参考)】
3H058AA19
3H058BB33
3H058CA02
3H058CA13
3H058EE01
3H058EE12
4C097AA27
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC14
4C097DD01
4C097DD09
4C097DD10
4C097SB02
4C097SB09
(57)【要約】
【課題】流体の詰まりを抑制し、開閉不能な状態に陥るのを抑制することができる、人工弁を提供する。
【解決手段】本発明に係る人工弁は、流体が流れる流路に配置される人工弁であって、環状に形成された弁輪部材と、前記弁輪部材に取り付けられ、当該弁輪部材の周方向に沿って並ぶ複数の弁葉部材と、を備え、前記各弁葉部材は、本体部と、前記本体部に取り付けられ、前記弁輪部材に係合する係合部と、を備え、前記各弁輪部材は、前記弁輪部材の周方向に沿って移動可能に構成され、前記各弁葉部材は、前記係合部側を支点として前記弁輪部材に対して回動することで、前記流路を閉じる閉位置と前記流路を開く開位置との間で変位するように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流れる流路に配置される人工弁であって、
環状に形成された弁輪部材と、
前記弁輪部材に取り付けられ、当該弁輪部材の周方向に沿って並ぶ複数の弁葉部材と、
を備え、
前記各弁葉部材は、
本体部と、
前記本体部に取り付けられ、前記弁輪部材に係合する係合部と、
を備え、
前記各弁輪部材は、前記弁輪部材の周方向に沿って移動可能に構成され、
前記各弁葉部材は、前記係合部側を支点として前記弁輪部材に対して旋回することで、前記流路を閉じる閉位置と前記流路を開く開位置との間で変位するように構成されている、人工弁。
【請求項2】
前記各弁葉部材の本体部は、平面視扇形状に形成され、
前記閉鎖部は、複数の前記本体部によって円錐形状に形成される、請求項1に記載の人工弁。
【請求項3】
前記各弁葉部材において、前記本体部の周方向の両端に当接部がそれぞれ設けられており、
前記各当接部は、径方向に延びる当接面を有し、
隣接する前記弁葉部材の前記当接部の当接面同士が接するように構成されている、請求項1に記載の人工弁。
【請求項4】
前記弁輪部材の内周面には径方向外方に凸の円弧状の溝が形成されており、
前記各当接部は、前記溝内で回転可能となるように少なくとも一部が円弧状の外縁を有している、請求項3に記載の人工弁。
【請求項5】
前記各弁葉部材は、隣接する前記弁葉部材と連動して開閉するように構成されている、請求項1に記載の人工弁。
【請求項6】
前記各弁葉部材が前記閉位置と前記開位置との間を変位するときに、隣接する前記弁葉部材において、一方の前記弁葉部材の前記当接面が、これと接する他方の前記弁葉部材の当接面に力を及ぼし、前記一方の弁葉部材の変位に伴って、前記他方の弁葉部材が変位するように構成されている、請求項3に記載の人工弁。
【請求項7】
前記各弁葉部材の表面には、少なくとも1つの凹部が形成されており、前記開位置において、当該凹部に前記弁輪部材の内縁が嵌まるように構成されている、請求項1に記載の人工弁。
【請求項8】
前記弁葉部材が3~6個設けられている、請求項1に記載の人工弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体が流れる流路に配置される人工弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、血管に取り付けられる種々の人工弁が提案されている。例えば、非特許文献1には、リング状の弁輪部材に2つの弁葉部材が開閉可能に取り付けられた人工弁が開示されている。
【0003】
人工弁は、患者自身の不良な又は損傷した弁と置換するために使用される。現在使用されている人工心臓弁は2種類で、生体弁と機械弁とに大別される。
【0004】
生体弁は、動物から採取した組織を用いて形成される。一般的に、生体弁は患者の体に適合し、最小限の抗凝固療法のみを必要とする。しかしながら、生体弁は比較的早く劣化し、寿命が10~20年であるという短所がある。
【0005】
機械弁は優れた耐久性を有し、一般に患者は生涯使用することが可能である。しかしながら、機械弁は、血栓塞栓性等を防止するために生涯にわたって、抗凝固療法を必要とするという短所がある。
【0006】
すなわち、現行の人工弁は、生体弁と機械弁といずれとも短所を有しており、これらの短所を克服する新たな人工弁が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献1】さいたま市立病院 心臓血管外科・循環器科、" 人工弁の種類と特徴"、[online]、[令和4年7月1日検索]、インターネット、https://www.city.saitama.jp/hospital/department/001/p074387_d/fil/01_jinkouben.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、非特許文献1の人工弁においては、弁葉部材に軸が設けられ、この軸が軸受けに取り付けられることで、弁葉部材が旋回し、人工弁が開閉するようになっている。しかしながら、このような構成では、軸受けの穴に血栓が形成され、これによって弁葉部材が開閉不能になる恐れがある。なお、このような問題は血管に留置される人工弁に限定される問題ではなく、例えば、粘性が高く詰まりやすい液体が流れる流路に設けられる人工弁でも生じ得る問題である。本発明は、この問題を解決するためになされたものであり、流体の詰まりを抑制し、開閉不能な状態に陥るのを抑制することができる、人工弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、材料表面の材料表面の抗血栓性のみでは解決できない上記課題について、この解決を目指して新たな人工弁の形状を見出した。すなわち、本発明に係る人工弁は、血管に取り付け可能に構成され、血液の流路を囲むように環状に形成された弁輪部材と、前記弁輪部材に取り付けられ、当該弁輪部材の周方向に沿って並ぶ複数の弁葉部材と、を備え、前記各弁葉部材は、本体部と、前記本体部に取り付けられ、前記弁輪部材に係合する係合部と、を備え、前記各弁輪部材は、前記弁輪部材の周方向に沿って移動可能に構成され、前記各弁葉部材は、前記係合部側を支点として前記弁輪部材に対して回動することで、前記流路を閉じる閉位置と前記流路を開く開位置との間で変位するように構成され、前記閉位置においては、複数の前記弁葉部材の本体部によって前記流路を閉じる閉鎖部を形成するように構成されている。
【0010】
この構成によれば、弁葉部材の係合部が弁輪部材に係合した簡易な構造であるため、血栓の形成を抑制することができる。特に、各弁葉部材が弁輪部材の周方向に移動可能になっており、周方向に固定されていないため、血栓の形成をより抑制することができる。その結果、弁葉部材が開閉不能な状態に陥るのを抑制することができる。
【0011】
上記人工弁において、前記各弁葉部材の本体部は、平面視扇形状に形成され、前記閉鎖部は、複数の前記本体部によって円錐形状に形成することができる。
【0012】
上記人工弁においては、前記弁輪部材の内周面に溝が形成され、前記各弁葉部材の係合部は、前記溝に係合するように構成することができる。
【0013】
上記人工弁において、前記各弁葉部材において、前記本体部の周方向の両端に当接部がそれぞれ設けられており、前記各当接部は、径方向に延びる当接面を有し、隣接する前記弁葉部材の前記当接部の当接面同士が接するように構成することができる。
【0014】
この構成によれば、隣接する弁葉部材において当接面同士が当接することにより、弁葉部材が隣接する弁葉部材を超えて周方向に移動するのを規制することができる。これにより、弁葉部材の弁輪部材からの離脱を防止することができる。
【0015】
上記人工弁において、前記弁輪部材の内周面には径方向外方に凸の円弧状の溝が形成されており、前記各当接部は、前記溝内で回転可能となるように少なくとも一部が円弧状の外縁を有することができる。
【0016】
この構成によれば、各当接部は、溝内で回転可能となるように少なくとも一部が円弧状の外縁を有しているため、当接部が溝内でスムーズに回転することができる。その結果、各弁輪部材をスムーズに開閉させることができる。また、凹部内で、各弁輪部材が上下動するのを抑制することができる。
【0017】
上記人工弁において、前記各弁葉部材は、隣接する前記弁葉部材と連動して開閉するように構成することができる。
【0018】
上記人工弁において、記各弁葉部材が前記閉位置と前記開位置との間を変位するときに、隣接する前記弁葉部材において、一方の前記弁葉部材の前記当接面が、これと接する他方の前記弁葉部材の当接面に力を及ぼし、前記一方の弁葉部材の変位に伴って、前記他方の弁葉部材が変位するように構成することができる。
【0019】
この構成によれば、開閉によって隣接する弁葉部材に力が及ぶため、隣接する弁葉部材が連動しながら開位置から閉位置、または閉位置から開位置への変位させることができる。すなわち、各弁葉部材を同時に開閉させることができる。
【0020】
上記人工弁において、前記各弁葉部材の表面には、少なくとも1つの凹部が形成され、前記開位置において、当該凹部に前記弁輪部材の内縁が嵌まるように構成することができる。
【0021】
上記人工弁においては、前記弁葉部材を3~6個設けることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る人工弁によれば、流体の詰まりを抑制し、開閉不能な状態に陥るのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る人工弁を上方から見た斜視図である。
図2図1の人工弁を下方から見た斜視図である。
図3】弁輪部材の平面図である。
図4図3のA-A線断面図である。
図5】弁葉部材を径方向内方から見た図である。
図6】弁葉部材を径方向外方から見た図である。
図7】閉状態にある人工弁の平面図である。
図8】閉状態にある人工弁の側面図である。
図9図8とは異なる角度から見た閉状態にある人工弁の側面図である。
図10】開状態にある人工弁の平面図である。
図11】開状態にある人工弁の側面図である。
図12図11とは異なる角度から見た開状態にある人工弁の側面図である。
図13】弁葉部材の凹部に弁輪部材の内周縁がはまった状態を示す斜視図である。
図14】閉状態から開状態に変位する弁葉部材において、隣接する弁葉部材に及び力を説明する側面図である。
図15】開状態から閉状態に変位する弁葉部材において、隣接する弁葉部材に及び力を説明する側面図である。
図16】弁葉部材の他の例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る人工弁の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
<1.人工弁の構造>
図1は、本実施形態に係る人工弁を上方から見た斜視図、図2図1の人工弁を下方から見た斜視図である。いずれも人工弁が閉じた閉状態を示している。以下では、説明の便宜のため、血液が図面の下方から上方に流れるものとする。但し、本発明はこの方向に限定して発明が特定されるものではない。
【0026】
図1及び図2に示すように、この人工弁10は、血管8の内周面に取り付けられ、平面視円形状の血液の流路11を囲むように環状に形成された弁輪部材1と、この弁輪部材1に取り付けられた3枚の弁葉部材2~4と、を備えている。以下では、説明の便宜のため、3つの弁葉部材を第1弁葉部材2、第2弁葉部材3、及び第3弁葉部材4と称することとする。本実施形態の人工弁10では、血液が通過する開状態と血液の通過を止める閉状態とを選択的に取り得るように構成されており、閉状態においては3つの弁葉部材2~4がそれぞれ閉位置に変位し、開状態においては3つの弁葉部材2~4がそれぞれ開位置に変位するように構成されている。図1に示すように、閉位置においては、3つの弁葉部材2~4が組み合わさることで円錐状の閉鎖部5が形成され、この閉鎖部5によって弁輪部材1の流路11を閉じるようになっている。以下、弁輪部材1及び各弁葉部材2~4について、詳細に説明する。
【0027】
<1-1.弁輪部材>
図3は弁輪部材の平面図、図4は弁輪部材のA-A線断面図である。図3及び図4に示すように、弁輪部材1は、平面視リング状に形成され、その内周面には周方向に沿って延びる凹部12が形成されている。より詳細に説明すると、凹部12は、径方向外方に凸となるように断面円弧状に形成されている。これに合わせて、弁輪部材1の外周面は、径方向外方に凸となるように断面円弧状に形成されている。すなわち、弁輪部材1を構成する壁部13は、断面が円弧状に形成されている。
【0028】
また、図示を省略するが、弁輪部材1の外周面には、これを血管8に取り付けるための凸部、凹部、貫通孔等の種々の構造を設けることができ、これを利用して、弁輪部材1を血管8に縫い付けることができる。あるいは、血管に留置されるステントのように拡径する構造を弁輪部材1に設け、血管の内壁面に固定されるようにすることもできる。
【0029】
<1-2.弁葉部材>
図5は第1弁葉部材を径方向外方から見た図、図6は第1弁葉部材を径方向内方から見た図である。各弁葉部材2~4は同形状であるため、以下では第1弁葉部材2について説明する。
【0030】
図5及び図6に示すように、第1弁葉部材2は、湾曲した板状の本体部21を有しており、この本体部21には係合部22と2個の当接部23,24とが取り付けられている。本体部21は平面視扇形状に形成されている。ここでは説明の便宜上、隣接する第2弁葉部材3及び第3弁葉部材4の本体部31,41と接する直線状の辺をそれぞれ、第1辺211、第2辺212と称することとする。また、第1辺211と第2辺212の下端同士を連結する辺を第3辺213と称することとする。
【0031】
第3辺213は、弁輪部材1に沿うように平面視円弧状に形成されており、この第3辺213には、概ね水平方向に径方向外方に延びる板状の係合部22が形成されている(例えば、図9参照)。係合部22は円弧状に形成され、弁輪部材1の凹部12に入り込むように形成されている。また、図5に示すように、本体部21の表面において、第1辺211及び第2辺212の下端部には、凹部214が形成されており、この凹部214は、後述するように、弁輪部材1の内周縁が嵌まるようになっている。
【0032】
係合部22の周方向の両端には、第1当接部23と第2当接部24とがそれぞれ設けられている。すなわち、第1辺211側に第1当接部23が設けられ、第2辺212側に第2当接部24が設けられている。各当接部23,24は、周方向から見たときに略円形の円板状に形成されている。また、各当接部23,24は、隣接する弁葉部材3,4の当接部33,34,43,44と向き合う対向面を有している。各対向面には、隣接する対向面の一部と接する半円状の当接面231,241と半円状の逃げ面232,242とが形成されている。より詳細には、第1当接部23の当接面231は、第2弁葉部材3の第2当接部34の当接面341と当接し、第2当接部24の当接面241は、第3弁葉部材4の第1当接部43の当接面431と当接するようになっている。
【0033】
第1当接部23及び第2当接部24はそれぞれ、係合部22よりも径方向外方に突出している。また、第1当接部23の当接面231は、第1辺211と隣接する位置に設けられているが、第1辺211と同じ直線上にはない。すなわち、後述する図7に示すように、第1当接部23の当接面231は、第1辺211から屈曲し、第2弁葉部材3側に斜めに延びている。また、この当接面231と隣接する逃げ面232は当接面231とは鈍角をなすように傾斜している。
【0034】
一方、第2当接部24の当接面241は、第2辺212と隣接する位置に設けられているが、第2辺212と同じ直線上にはない。すなわち、図7に示すように、第2当接部24の当接面241は、第2辺212から屈曲し係合部22側へ入り込むように延びている。また、この当接面241と隣接する逃げ面242は当接面241とは鈍角をなすように傾斜している。
【0035】
このように、第1当接面231と第2当接面241は周方向に互いに反対側に延びているが、例えば、隣接する第1弁葉部材2と第2弁葉部材3においては、図7に示すように、対向する第1当接面231と第2当接面341は、閉状態にあるときには接するようになっている。一方、対向する第1逃げ面232と第2逃げ面342は、閉状態及び開状態のいずれにあるときも、完全には接しないようになっている(後述する図8参照)。
【0036】
各弁葉部材2~4においては、各係合部22,32,42及び各当接部23,24,33,34,43,44が弁輪部材1の凹部12に係合しているが、周方向の位置が固定されているわけではなく、各弁葉部材2~4は弁輪部材1に沿って周方向に移動可能となっている。
【0037】
<1-3.人工弁の材料>
弁輪部材1及び弁葉部材2~4を構成する材料は特には限定されない。機械弁として構成するのであれば、ステンレス合金、チタン合金、チタン・ニッケル合金、ニッケル・コバルト合金、コバルト・クロム合金等の金属材料、グラファイト、パイロライトカーボン等の炭素素材、抗血栓性を有する樹脂素材(例えば、ポリエーテルエーテルケトン等が示されるがこれに限られない。)で形成することができる。また、弁輪部材1及び弁葉部材2~4の表面には、例えば、抗血栓性を有するコーティングなど、各種のコーティングを施すことができる。これらのコーティングはカーボンコーティング、樹脂コーティング等が挙げられるがこれらに限られない。
【0038】
<2.人工弁の動作>
次に、上記のように構成された人工弁の動作について説明する。まず、閉状態から説明する。図7は閉状態にある人工弁の平面図、図8図7の側面図、図9図8とは異なる角度から見た側面図である。なお、図9は第1弁葉部材2の当接部23が最も弁輪部材1の凹部12の内壁面に近接した状態を示す断面である。この点は、後述する図12も同じである。
【0039】
まず、図7図9に示すように、閉状態においては、各弁葉部材2~4は、凹部12内にある当接部23,24,33,34,43,44を支点として径方向内方に旋回している(倒れている)。すなわち、図9に示すように、各弁葉部材2~4の当接部23,24,33,34,43,44は円板状に形成されているため、これが弁輪部材1の凹部12の内壁面と概ね密着しながら回転し、これによって弁葉部材2~4が旋回するようになっている。各弁葉部材2~4が内側に旋回したとき、各弁葉部材2~4の第1辺211~411及び第2辺212~412は、それぞれ隣接する弁葉部材2~4の第2辺212~412及び第1辺211~411に接する。これにより、各弁葉部材2~4がそれ以上径方向内方に倒れるのが阻止され、円錐状の閉鎖部5が形成される。その結果、弁輪部材1の流路11が閉じられ、上方から血液が通過しがたくなっている(逆流しがたくなっている)。また、図9に示すように、各弁葉部材2~4の係合部22~42の先端付近は、凹部12の上端付近に接するため、これによっても、各弁葉部材2~4が、それ以上径方向内方に倒れるのを阻止している。さらに、各弁葉部材2~4の各当接部23,24,33,34,43,44の円弧状の外縁は、概ね弁輪部材1の凹部12に接しているため(あるいは若干のクリアランスを開けて接しているため)、各弁葉部材2~4が上下方向に移動するのが規制される。すなわち、各弁葉部材2~4の上下方向の位置がずれるのが防止される。
【0040】
上記のように、各弁葉部材2~4の第1辺211~411及び第2辺212~412は、それぞれ隣接する弁葉部材2~4の第2辺212~412及び第1辺211~411に接し、各弁葉部材2~4の係合部22~42の先端付近は、凹部12の上端付近に接するため、上方から流れる血液が人工弁10を通過して下方に流れるのを抑制することができる。すなわち、血液の逆流が抑制される。
【0041】
また、閉状態においては、図10に示すように、隣接する当接部23,24,33,34,43,44同士が接しているため、各弁葉部材2~4が隣接する弁葉部材2~4を超えて周方向に移動するのが規制されている。これにより、弁葉部材2~4が弁輪部材1から離脱するのが防止される。
【0042】
次に、開状態について説明する。図10は開状態にある人工弁の平面図、図11図10の側面図、図12図11とは異なる角度から見た側面図である。
【0043】
一方、閉状態において、下方から血液が流れると、血液が各弁葉部材2~4を下方から押し上げる。これにより、図10図12に示すように、各弁葉部材2~4が閉位置から開位置に変位する。このとき、各弁葉部材2~4の当接部23,24,33,34,43,44の外縁が凹部12の内壁面に接しつつ、当接部23,24,33,34,43,44が回転するため、各弁葉部材2~4は当接部23,24,33,34,43,44を支点として径方向外方に旋回する。これにより、流路11が開き、血液が流れるようになる。
【0044】
図13に示すように、開状態にあるとき、各弁葉部材2~4の凹部214,314,414には、弁輪部材1の内周縁が嵌まるようになっている。これにより、弁葉部材2~4がさらに開くようになっており、人工弁10を通過する血液の流量を増大することができる。
【0045】
上記のように、隣接する弁葉部材2~4において、当接している第1当接面と第2当接面は、第1辺または第2辺と同一直線上になく、斜めに傾斜した状態で当接している(例えば、図7の破線を参照)。そのため、例えば、弁葉部材2~4が閉位置から開位置に変位する過程においては、例えば、図14に示すように、第1弁葉部材2の第2当接部24の当接面241が、第2弁葉部材3の第1当接部33の当接面331を押圧し、第2弁葉部材3が開く方向に力が及ぶ。これにより、隣接する弁葉部材2~4は連動しながら閉位置から開位置へ変位する。すなわち、各弁葉部材2~4が同時に開くように力が作用する。また、このような機構は、弁葉部材2~4の弁輪部材1からの離脱の防止にも寄与する。
【0046】
開位置においては、各弁葉部材2~4の旋回に伴い、上述したように、各弁葉部材2~4の凹部214~414に弁輪部材1の内周縁が嵌まるため、これによって、各弁葉部材2~4が、それ以上径方向外方に旋回するのを規制している。
【0047】
また、各弁葉部材2~4が開位置から閉位置に変位するときには、例えば、図15に示すように、第2弁葉部材3の第1当接部33の当接面331が、第1弁葉部材2の第2当接部24の当接面241を押圧し、第1弁葉部材2が、閉じる方向に力が及ぶ。これにより、隣接する弁葉部材2~4は連動しながら開位置から閉位置へ変位する。すなわち、各弁葉部材2~4が同時に閉じるように力が作用する。
【0048】
こうして、血液の流れによって人工弁10が開閉し、血液の逆流及び/又は滞留が防止される。
【0049】
<3.特徴>
上記のように構成された人工弁10では、従来技術のように弁葉部材の開閉機構に軸受けが設けられておらず、弁葉部材2~4の係合部22~42及び当接部23,24,33,34,43,44が弁輪部材1の凹部12に入り込んだ簡易な構造であるため、血栓の形成を抑制することができる。特に、本実施形態の人工弁10は、各弁葉部材2~4が弁輪部材1の周方向に移動可能になっており、周方向に固定されていないため、血栓の形成をより抑制することができる。その結果、弁葉部材2~4が開閉不能な状態に陥ることを抑制する。
【0050】
なお、人工弁10の可動性は、機構解析ソフトウェアAdams(Hexagon 社)を用いて確認した。さらに、熱流体解析ソフトウェアscFLOW(Hexagon 社)で人工弁周囲の流体シミュレーションを行った。この結果、人工弁10は、血液の流れによって、弁葉部材2~4の開閉が実現できることを確認するとともに、血流の逆流及び/又は滞留が生じにくいことを確認した(例えば、図9及び図12)。
【0051】
但し、この人工弁10においては、閉状態において血液の流れを完全に遮断できなくてもよく、例えば、各弁葉部材2~4の第1辺211~411及び第2辺212~412が密に接して血液の流れを完全に遮断していなくてもよい。すなわち、一般的な人工弁に求められる逆流防止効果が得られればよい。同様に、例えば、図9に示す閉状態において、各弁葉部材2~4の係合部22~42が、弁輪部材1の凹部12に完全に接していなくてもよく、わずかな隙間があってもよい。また、弁葉部材2~4の当接部23,24,33,34,43,44と弁輪部材1の凹部12の内壁面との間にも多少の隙間(例えば、1mm以下の隙間)があってもよい。そして、このような隙間が生じたとしても、血液には粘性があるため、概ね逆流を防止できるし、仮に逆流が生じたとしても、一般的な人工弁に求められる逆流防止性能があればよい。
【0052】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、以下の変形例は適宜、組み合わせることができる。
【0053】
(1)上記実施形態では、弁葉部材2~4の当接面231,241,331,341,431,441が第1辺211~411及び第2辺212~412とは同一直線上にないように傾斜させ、これによって開閉時に各弁葉部材2~4が同時に変位するようにしているが、これに限定されるものではない。すなわち、上記実施形態の当接面231,241,331,341,431,441は、隣接する弁葉部材2~4に力を及ぼすための一例である。したがって、開閉に伴って隣接する弁葉部材2~4に力を及ぼし、複数の弁輪部材2~4が連動して開閉できるのであれば、他の構成でもよい。また、第1辺211~411及び第2辺212~412と同一直線上に当接面231,241,331,341,431,441が形成されていてもよい。
【0054】
(2)上記実施形態では、各弁葉部材2~4に円板状の当接部23,24,33,34,43,44を設け、これによって、各弁葉部材2~4が隣接する弁葉部材2~4を超えて周方向に移動するのを防止したり、各弁葉部材2~4が上下方向にずれるのを抑制しているが、このような当接部23,24,33,34,43,44を設けなくてもよい。例えば、図16に示すように、当接部を設けず、弁輪部材1の凹部12に係合する係合部22~42のみを設けた弁葉部材2~3を用いることもできる。この係合部22~42は、上記実施形態と同様に凹部12に係合し、弁葉部材2~4を旋回させる役割を果たす。このような場合でも、弁葉部材2~4は係合部22~42側を支点として旋回するとともに、弁葉部材2~4に沿って周方向に移動可能に構成できるため、上述したように血栓の形成を抑制することができる。
【0055】
また、図16に示すように、弁葉部材2の第1辺211及び第2辺212の下端付近に、隣接する弁葉部材3,4と接するような突部23を設けることもでき、これによって、各弁葉部材が隣接する弁葉部材を乗り越えて周方向に移動するのを防止することもできる。なお、係合部22~42は、少なくとも一部が弁輪部材1の凹部12に入り込んでいればよく、係合部22~42と本体部21~41との角度など、係合部22~42の形状は特には限定されない。また、例えば、本体部21~41の一部が弁輪部材1の凹部12に入り込んでもよいし、係合部22~42のみが凹部12に入り込んでもよい
【0056】
(3)上記実施形態では、各弁葉部材2~4の本体部21~41に一対の凹部214を設けているが、凹部214の形状、数、位置は特には限定されない。すなわち、弁葉部材2~4が開位置にあるときに、弁葉部材2~4において、弁輪部材1と干渉する位置に凹部を形成すればよい。したがって、係合部22~42に凹部を設けることもできる。なお、凹部214は必須ではなく、必ずしも設けなくてもよい。
【0057】
(4)上記実施形態では、弁葉部材2~4の形状を平面視扇形にし、閉鎖部5を円錐状形成しているが、弁輪部材1の流路11を閉じることができるのであれば、その形状は特には限定されない。
【0058】
(5)上記実施形態では、弁葉部材2~4の数が3個の人工弁について説明したが、弁葉部材の数は特には限定されず、例えば、4~6個にすることができる。
【0059】
(6)上記実施形態に係る人工弁は、生体弁又は機械弁に限定されず使用することができるが、機械弁に好適に用いることができる。機械弁は耐久性に優れ生涯使用することが可能であるが、抗血液凝固剤を生涯に亘り服用する必要がある。これが敬遠され、徐々に生体弁の使用数が増加し、機械弁の使用数は人工弁全体の15%に減少している状況にある。上記実施形態に係る人工弁を機械弁に用いることにより、生涯に亘る抗血液凝固剤を低減させることができる。
【0060】
(7)上記実施形態では、本発明の人工弁を、血管に留置する場合について説明した。本発明の人工弁は、留置される血管は限定されるものではないが、大動脈弁として好適に用いることができる。例えば、大動脈弁置換術において、患者の大動脈弁を本発明の人工弁に置き換えることができる。また、カテーテルに本発明の人工弁を装着することで、経カテーテル的大動脈弁置換術に用いることもできる。本発明の人工弁は、上述のとおり、血管への留置に好適に使用することができるが、これに限定されるものではない。血管以外であっても、例えば、心臓等の臓器内の血液が流れる流路にも配置することができる。本発明の人工弁は単独で用いることも可能であるが、ステントと組み合わせて用いてもよい。また、血液以外の液体が流れる流路に配置することもできる。例えば、粘度が高く滞留しやすい液体の流路に本発明の人工弁を配置すれば、上記のように軸が設けられていないため、液体の滞留が抑制され、弁の開閉に支障を来すのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 弁輪部材
11 流路
12 凹部
2 第1弁葉部材
21 本体部
22 係合部
23 第1当接部
24 第2当接部
3 第2弁葉部材
31 本体部
32 係合部
33 第1当接部
34 第2当接部
4 第3弁葉部材
41 本体部
42 係合部
43 第1当接部
44 第2当接部
5 閉鎖部
図1
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