(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068002
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】切削インサート
(51)【国際特許分類】
B23B 27/22 20060101AFI20240510BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20240510BHJP
B23B 1/00 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
B23B27/22
B23B27/14 C
B23B1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178480
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】523194617
【氏名又は名称】NTKカッティングツールズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】南田 貴章
【テーマコード(参考)】
3C045
3C046
【Fターム(参考)】
3C045AA01
3C046CC01
3C046CC06
3C046JJ00
(57)【要約】
【課題】 切削インサートにおいて、損傷を抑制する技術を提供する。
【解決手段】 切削インサートは、多角形板状をなし、少なくとも1つの多角形面を表面とされるとともに、表面の周りに配置される側面を逃げ面とし、表面と逃げ面との交差稜線に切刃が形成されており、表面の角部にコーナ刃が形成され、コーナ刃から交差稜線につながる主切刃が形成され、コーナ刃の他端から交差稜線につながる副切刃が形成されており、主切刃と副切刃に連なり、コーナ刃と主切刃から離間するに従い、裏面に向かうすくい面が形成されており、すくい面に連なり、主切刃から離間するに従い、裏面から遠ざかるように突出するブレーカ面が形成され、ブレーカ面は、曲面状であり、副切刃から立ち上がり、ブレーカ面と逃げ面に連なる立ち上がり面が形成されており、主切刃に垂直な断面でみたすくい角が、コーナ刃から離間するに従い漸増する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多角形板状をなし、少なくとも1つの多角形面を表面とされるとともに、前記表面の周りに配置される側面を逃げ面とし、前記表面と前記逃げ面との交差稜線に切刃が形成された切削インサートであって、
前記表面の角部にコーナ刃が形成され、前記コーナ刃から前記交差稜線につながる主切刃が形成され、前記コーナ刃の他端から前記交差稜線につながる副切刃が形成されており、
前記主切刃と前記副切刃は、前記コーナ刃から離間するに従い、前記裏面に向かうよう形成されており、
前記主切刃と前記副切刃に連なり、前記コーナ刃と前記主切刃から離間するに従い、前記裏面に向かうすくい面が形成されており、
前記すくい面に連なり、前記主切刃から離間するに従い、前記裏面から遠ざかるように突出するブレーカ面が形成され、前記ブレーカ面は、曲面状であり、
前記副切刃から立ち上がり、前記ブレーカ面と前記逃げ面に連なる立ち上がり面が形成されており、
前記主切刃に垂直な断面でみたすくい角が、前記コーナ刃から離間するに従い漸増する、切削インサート。
【請求項2】
前記主切刃に垂直な断面でみたすくい角が、前記コーナ刃から離間するに従い、正の5度から正の17度までの範囲で変化する、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
前記主切刃に垂直な断面でみた前記主切刃から前記ブレーカ面の端部までの距離が、0.3mm~0.42mmである、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項4】
前記多角形面は、三角形、又は四角形で形成された、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項5】
多角形板状の両側に切刃が形成された、請求項4に記載の切削インサート。
【請求項6】
低周波振動切削加工機で使用できる、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の切削インサート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削インサートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、すくい面と逃げ面との交差稜線に切刃が形成されている切削インサートが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のような先行技術によっても、切削インサートにおいて、切削インサートの損傷を抑制する技術については、なお、改善の余地があった。例えば、特許文献1に開示されている技術では、すくい面は、円筒状の面であって、すくい角が一定となっている。しかしながら、すくい角が小さい場合、切削加工によって発生する切屑がすくい面に溶着しやすくなるため、すくい面に溶着した切屑が振動などによって脱落すると、切屑が溶着していたすくい面が欠けるおそれがあった。また、すくい角が大きい場合、切屑がすくい面に溶着しにくくなるが、切刃の強度が低下する。このため、切刃が損傷するおそれがあった。
【0005】
本発明は、切削インサートにおいて、損傷を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、切削インサートが提供される。この切削インサートは、多角形板状をなし、少なくとも1つの多角形面を表面とされるとともに、前記表面の周りに配置される側面を逃げ面とし、前記表面と前記逃げ面との交差稜線に切刃が形成されており、前記表面の角部にコーナ刃が形成され、前記コーナ刃から前記交差稜線につながる主切刃が形成され、前記コーナ刃の他端から前記交差稜線につながる副切刃が形成されており、前記主切刃と前記副切刃は、前記コーナ刃から離間するに従い、前記裏面に向かうよう形成されており、前記主切刃と前記副切刃に連なり、前記コーナ刃と前記主切刃から離間するに従い、前記裏面に向かうすくい面が形成されており、前記すくい面に連なり、前記主切刃から離間するに従い、前記裏面から遠ざかるように突出するブレーカ面が形成され、前記ブレーカ面は、曲面状であり、前記副切刃から立ち上がり、前記ブレーカ面と前記逃げ面に連なる立ち上がり面が形成されており、前記主切刃に垂直な断面でみたすくい角が、前記コーナ刃から離間するに従い漸増する。
【0008】
この構成によれば、主切刃に垂直な断面でみた、すくい面のすくい角がコーナ刃から離間するに従い漸増する。これにより、コーナ刃近くの主切刃の肉厚は、比較的厚くなるため、主切刃の強度を向上することができる。したがって、切屑が切削インサートと被削材との間に巻き込まれても、切削インサートが損傷することを抑制することができる。また、主切刃に垂直な断面でみたすくい面のすくい角は、コーナ刃から離間するに従い漸増す
るため、コーナ刃から離れるにしたがって、すくい面に切屑が溶着しにくくなる。これにより、すくい面の耐溶着性が向上するため、溶着した切屑の脱落による主切刃の損傷を抑制することができる。また、主切刃と副切刃とのそれぞれは、コーナ刃から離間するに従い、裏面へ向かうように形成されている。これにより、主切刃における切削抵抗を低減するとともに、副切刃への切屑の接触を低減することができるため、切刃の損傷を抑制することができる。さらに、ブレーカ面は、曲面状に形成されているため、切屑の流れを制御することで巻き込みを抑制し、切削用インサートの損傷を抑制することができる。また、ブレーカ面と逃げ面に連なる立ち上がり面が形成されているため、切屑と切削インサートとの接触面積が増えるため、応力集中が緩和され、切削インサートの損傷を抑制することができる。
【0009】
(2)上記形態の切削インサートにおいて、前記主切刃に垂直な断面でみたすくい角が、前記コーナ刃から離間するに従い、正の5度から正の17度までの範囲で変化してもよい。この構成によれば、主切刃に垂直な断面でみた、すくい面のすくい角は、コーナ刃から離間するに従い、正の5度から正の17度までの範囲で変化する。これにより、主切刃は、コーナ刃近くでは比較的高い強度を有しつつ、コーナ刃から離れるにしたがってすくい面に切屑が溶着しにくくなる。したがって、主切刃の損傷をさらに抑制することができる。
【0010】
(3)上記形態の切削インサートにおいて、前記主切刃に垂直な断面でみた前記主切刃から前記ブレーカ面の端部までの距離が、0.3mm~0.42mmであってもよい。この構成によれば、主切刃からブレーカ面の端部までの距離が一定程度の距離を有しているため、切屑を正常に処理することができる。これにより、切屑の巻き込みを抑制し、切削用インサートが損傷することを抑制することができる。
【0011】
(4)上記形態の切削インサートにおいて、前記多角形面は、三角形、又は四角形で形成されてもよい。この構成によれば、切削インサートの形状を、切刃を形成可能な端部を3つ有する三角形、または、切刃を形成可能な端部を4つ有する四角形とする。これにより、1つの切削インサートが複数の切刃を有することができるため、1つの切削インサートで比較的長く加工を行うことができる。したがって、切削加工に要する費用を低減することができる。
【0012】
(5)上記形態の切削インサートにおいて、多角形板状の両側に切刃が形成されてもよい。この構成によれば、切削インサートには、表面と裏面とのそれぞれに、切刃が形成されている。これにより、1つの切削インサートが複数の切刃を有することができるため、1つの切削インサートで比較的長く加工を行うことができる。したがって、切削加工に要する費用を低減することができる。
【0013】
(6)上記形態の切削インサートにおいて、低周波振動切削加工機で使用してもよい。低周波振動切削加工機では、切削インサートによる被削材への切り込みの大きさが変化するため、切削インサートに作用する負荷が変化しやすい。上述の構成によれば、コーナ刃付近の主切刃の強度が向上するため、低周波振動切削加工機で使用しても、損傷しにくくなる。
【0014】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、切削インサートを備える装置、切削インサートを備える装置の制御方法、切削インサートの製造方法、切削インサートの使用方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態の切削インサートの斜視図である。
【
図2】第1実施形態の切削インサート1の使用例を説明する図である。
【
図4】第1実施形態の切削インサートの平面図である。
【
図5】第1実施形態の切削インサートの第1の部分拡大図である。
【
図6】第1実施形態の切削インサートの第2の部分拡大図である。
【
図13】切削インサートの比較試験を説明する模式図である。
【
図14】第1の比較試験の結果を説明する第1の図である。
【
図15】第1の比較試験の結果を説明する第2の図である。
【
図16】第2の比較試験の結果を説明する第1の図である。
【
図17】第2の比較試験の結果を説明する第2の図である。
【
図18】第3の比較試験の結果を説明する図である。
【
図19】第2実施形態の切削インサートの斜視図である。
【
図20】第2実施形態の切削インサートの平面図である。
【
図21】第2実施形態の切削インサートの底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の切削インサート1の斜視図である。
図2は、本実施形態の切削インサート1の使用例を説明する図である。切削インサート1は、
図1に示されるように、菱形板状の形状を有する。切削インサート1は、主に、超硬合金、サーメット、セラミック等の硬質材料から形成されている。切削インサート1では、これらの硬質材料の表面に、チタンやクロム、アルミニウムなどから選ばれる複合材からなる酸化物、炭化物、炭窒化物、窒化物(TiN,TiCN,TiAlN,TiAlCrN,AlCrN等)を膜厚(単層又は複層)1μmから4μmで、PVD(Physical Vapor Deposition)もしくはCVD(Chemical Vapor Deposition)によってコーティングされている。本実施形態の切削インサート1は、主に金属や非鉄金属、樹脂等の切削を行うためのインサートであり、
図2に示すように、切削工具本体(ホルダ)100に取り付けられて使用される。本実施形態の切削インサート1は、例えば、低周波振動切削機能を有する加工機にも用いることができる。なお、
図1には、切削インサート1の厚さ方向をz軸方向とし、z軸に垂直な方向であって、菱形形状において、内角が小さい2つの端部(ノーズR部6,7)のそれぞれの先端部分を通る軸をx軸とし、z軸に垂直な方向であって、かつ、x軸に垂直な方向をy軸とする。
【0017】
切削インサート1は、切刃10と、切刃10を形成するすくい面20および逃げ面30と、ブレーカ面40と、取付部50と、を備える。ここで、便宜的に、菱形板状の切削インサート1において、切削インサート1のx軸方向の端部のうち、プラス側に位置する端部をノーズR部6とし、マイナス側に位置する端部をノーズR部7とする。また、切削インサート1のy軸方向の端部のうち、プラス側に位置する端部を中間端部8とし、マイナス側に位置する端部を中間端部9とする。
【0018】
切刃10は、切削インサート1における、z軸のプラス側の面である表面1aと、側面1bとの交差稜線に形成されている。具体的には、切刃10は、表面1aに形成されるすくい面20と、すくい面20に隣接する側面1bである逃げ面30との交差稜線に形成されている。本実施形態の切削インサート1では、切刃10は、切削インサート1の中心軸
C1を挟んで対角する位置のそれぞれに形成されている。すなわち、本実施形態の切削インサート1は、2つの切刃10を備える。
【0019】
図3は、
図1のA-A部分拡大図である。
図4は、本実施形態の切削インサート1の平面図である。切刃10は、コーナ刃11と、主切刃12と、副切刃13と、を含む。コーナ刃11は、切削インサート1のノーズR部6とノーズR部7とのそれぞれにおいて、表面1aの角部に形成されている。
【0020】
主切刃12は、コーナ刃11の一端から、表面1aと側面1bとの交差稜線につながり、切削インサート1のy軸方向の中間端部8,9のいずれかに向かって伸びるように形成されている。具体的には、
図4に示すように、切削インサート1のノーズR部6に形成されている主切刃12は、ノーズR部6に形成されているコーナ刃11の一端から、y軸方向のプラス側の中間端部8に向かって伸びるように形成されている(
図4参照)。切削インサート1のノーズR部7に形成されている主切刃12は、ノーズR部7に形成されているコーナ刃11の一端から、y軸方向のマイナス側の中間端部9に向かって伸びるように形成されている(
図4参照)。
【0021】
図5は、本実施形態の切削インサート1の部分拡大図である。
図5に示す図は、切削インサート1を主切刃12に対向する方向から見たときのノーズR部6を含む部分の部分拡大図である。
図5に示すように、主切刃12は、表面1aに対して切り下がるように形成されている。すなわち、主切刃12は、コーナ刃11から離間するに従い、切削インサート1の裏面1cに向かうよう形成されている。これにより、主切刃12における切削抵抗を低減することができるため、主切刃12の損傷を抑制することができる。
【0022】
副切刃13は、コーナ刃11の他端から、表面1aと側面1bとの交差稜線につながり、切削インサート1のy軸方向の中間端部8,9のいずれかに向かって伸びるように形成されている。具体的には、
図4に示すように、切削インサート1のノーズR部6に形成されている副切刃13は、ノーズR部6に形成されているコーナ刃11の一端から、y軸方向のマイナス側の中間端部9に向かって伸びるように形成されている。切削インサート1のノーズR部7に形成されている副切刃13は、ノーズR部7に形成されているコーナ刃11の一端から、y軸方向のプラス側の中間端部8に向かって伸びるように形成されている。
【0023】
図6は、本実施形態の切削インサート1の部分拡大図である。
図6に示す図は、切削インサート1を主切刃12に対して垂直な方向から見たときのノーズR部6を含む部分の部分拡大図である。
図6に示すように、副切刃13は、表面1aに対して切り下がるように形成されている。すなわち、副切刃13は、コーナ刃11から離間するに従い、切削インサート1の裏面1cに向かうよう形成されている。これにより、切削インサート1では、ノーズR部6に対する断続的な切屑の接触が抑えられ、副切刃13を含むノーズR部6が損傷することを抑制することができる。
【0024】
すくい面20は、切削インサート1の表面1a側に形成される。本実施形態では、切削インサート1の中心軸C1を挟んで対角に位置する主切刃12に合わせて、2か所形成されている。すくい面20は、切削インサート1が被削材を切削するとき、切削によって発生する切屑が擦過していく面であって、被削材をすくい上げる面である。本実施形態の切削インサート1では、すくい面20は、主切刃12と副切刃13に連なり、コーナ刃11と主切刃12から離間するに従い、切削インサート1の裏面1cに向かうように形成されている。すくい面20は、ねじれ形状を有する。すくい面20の形状の詳細については後述する。
【0025】
逃げ面30は、切削インサート1の側面1bの一部であって、すくい面20と接するように形成されている。これにより、すくい面20と逃げ面30との交差稜線が、切刃10となる。逃げ面30は、被削材を切削するとき、被削材と干渉しないように切削インサート1を逃がすための面である。
【0026】
ブレーカ面40は、すくい面20に対して、切刃10とは反対側に形成されている。ブレーカ面40は、切刃10によって削り取られた切屑の流れを制御する。本実施形態の切削インサート1が備えるブレーカ面40は、すくい面20に連なり、主切刃12から離間するに従い、裏面1cから遠ざかるように突出している。本実施形態のブレーカ面40は、曲面形状を有する。これにより、切削インサート1の表面1aでの切屑の流れが制御されるため、切屑の巻き込みが抑制され、切削インサート1の損傷を抑制することができる。
【0027】
立ち上がり面41は、
図3に示すように、副切刃13から立ち上がり、ブレーカ面40と逃げ面30に連なるように形成されている。立ち上がり面41は、切削加工において発生する切屑と切削インサート1との接触面積が比較的大きくなるため、衝突する切屑による応力集中を緩和することができる。これにより、切削インサート1の損傷を抑制することができる。
【0028】
取付部50は、切削インサート1の表面1aにおいて、略中央に配置されている。取付部50は、表面1aからz軸のプラス方向に突出するように形成されている。取付部50の中央には、切削インサート1が装着される切削工具本体100の一部が挿入される取付穴51が形成されている。取付部50における取付穴51の外周面52は、工具本体に設けられたチップ座に装着される際に、チップ座の底面に当接する着座面として機能する
【0029】
図7は、
図4のB-B部分拡大図である。
図7に示す切削インサート1の部分拡大図は、切削インサート1の平面図におけるノーズR部6の部分拡大図である。ここで、本実施形態の切削インサート1の特徴について説明する。切削インサート1では、主切刃12に垂直な断面でみたすくい面20のすくい角が、コーナ刃11から離間するに従い漸増する。
【0030】
本実施形態では、すくい面20のすくい角を測定するにあたって、すくい面20の位置を次のように定義する。
図7に示す平面図において、主切刃12上の仮想線VL12に対して垂直な線であって、かつ、ノーズR部6に接する仮想線VL6を規定し、仮想線VL6からの距離を「すくい面20の位置」とする。例えば、後述するC3-C3線切断部端面図の「すくい面20の位置」は、距離L3の数値が該当する。本実施形態では、すくい角は、主切刃12に垂直な断面において、裏面1cに平行な仮想線を主切刃12に接するように引いた場合の仮想線L1とすくい面20とがなす角度としている。
【0031】
図8は、
図7のC1-C1線切断部端面図である。
図8に示すC1-C1線切断部端面図は、コーナ刃11と主切刃12との境界にあたる、すくい面20の位置が0.2mmでのすくい面20のすくい角θ
C1を示している。
図8に示すすくい角θ
C1は、正の5度となっている。
【0032】
図9は、
図7のC2-C2線切断部端面図である。
図9に示すC2-C2線切断部端面図は、すくい面20の位置が0.5mmでのすくい面20のすくい角θ
C2を示している。
図9に示すすくい角θ
C2は、
図8に示すすくい角θ
C1に比べ、大きい。本実施形態では、
図9に示す端面図において、ブレーカ面40とすくい面20との境界40a(ブレーカ面40の端部)と、主切刃12との間の距離W2、すなわち、すくい面20の幅は、0.3mm~0.42mmとなっている。
【0033】
図10は、
図7のC3-C3線切断部端面図である。
図10に示すC3-C3線切断部端面図は、すくい面20の位置が1.0mmでのすくい面20のすくい角θ
C3を示している。
図10に示すすくい角θ
C3は、
図9に示すすくい角θ
C2に比べ大きく、正の17度となっている。本実施形態では、
図10に示す端面図において、ブレーカ面40とすくい面20との境界40aと、主切刃12との間の距離W3(すくい面20の幅)は、0.3mm~0.42mmとなっている。
【0034】
図11は、
図7のC4-C4線切断部端面図である。
図11に示すC4-C4線切断部端面図は、すくい面20の位置が1.5mmでのすくい面20のすくい角θ
C4を示している。
図11に示すすくい角θ
C4は、
図10に示すすくい角θ
C3と同じ大きさとなっている。本実施形態では、
図11に示す端面図において、ブレーカ面40とすくい面20との境界40aと、主切刃12との間の距離W4(すくい面20の幅)は、0.3mm~0.42mmとなっている。
【0035】
図12は、
図6のC5-C5線切断部端面図である。
図12に示すC5-C5線切断部端面図は、すくい面20の位置が2.0mmでのすくい面20のすくい角θ
C5を示している。
図12に示すすくい角θ
C5は、
図11に示すすくい角θ
C4と同じ大きさとなっている。
【0036】
このように、本実施形態の切削インサート1は、主切刃12に垂直な断面において、すくい面20のすくい角θが、コーナ刃11から離間するに従い漸増する特徴を備える。具体的には、主切刃12に垂直な断面でみたすくい角がすくい面20の位置が0.2mmの位置において正の5度であり、すくい面20の位置が大きくなるに従ってすくい角が漸増し、すくい面20の位置が1.0mmとなる位置において、正の17度となる。また、本実施形態の切削インサート1は、すくい面20の位置が0.5mmから1.5mmまでの範囲では、主切刃12に垂直な断面において、ブレーカ面40とすくい面20との境界40aと、主切刃12との間の距離が、0.3mm~0.42mmとなる特徴を備える。
【0037】
図13は、切削インサートの比較試験を説明する模式図である。次に、本実施形態の切削インサート1の効果について説明する。
図13には、比較試験で用いた試験装置90の模式図を示している。切削インサートの比較試験では、すくい角が異なる複数の切削インサートのサンプルを準備する。
図13に示すように、準備したサンプルS1を切削工具本体100に取り付けて、試験装置90に取り付けた被削材91に対して実際に切削加工を行う。以下に、比較試験における実験条件を示す。
被削材:SUS316L(素材径20mm)
試験装置(使用機械):L20-LFV
切削速度:Vc=80m/min
切り込み:1mm
送り:0.05mm/rev(振幅比率Q=0.5、振動回数D=0.5)
切削油:WET
【0038】
第1の比較試験として、すくい角が異なることによる性能の違いについて比較した結果について説明する。第1の比較試験では、上記の実験条件において、8km加工した時点でのサンプルの耐欠損性と耐溶着性とを比較した。
【0039】
図14は、第1の比較試験の結果を説明する図である。
図14には、異なるすくい角を有する2つのサンプルについて、8km加工した時点でのノーズR部、主切刃、および、副切刃のそれぞれを撮影した写真が示されている。第1の比較試験では、すくい角が7度で一定のサンプル(以下、「サンプルA」という)と、すくい角が15度で一定のサンプ
ル(以下、「サンプルB」という)とを用いた。
図14に示す写真は、主切刃の周辺を「側方1から撮影」した写真と、副切刃の周辺を「側方2から撮影」した写真とが示されている。なお、
図14に記載の「側方1」とは、本実施形態の切削インサート1の3軸(
図1参照)において、「y軸方向のプラス側からの方向」とおおよそ同じ方向を指し、「側方2」とは、「y軸方向のマイナス側からの方向」とおおよそ同じ方向を指す。
図14に示すように、すくい角が比較的大きいサンプルBにおいて、ノーズR部周辺にチッピングが発生することが確認された。すなわち、すくい角が小さい方が、耐欠損性が優れていることが確認された。
【0040】
図15は、第1の比較試験の結果を説明する第2の図である。
図15には、サンプルAとサンプルBとのそれぞれについて、主に主切刃での切屑の付着状態を比較した写真である。
図15には、「酸処理前」の状態を示す写真と、切屑の溶着度合いがよりわかる「酸処理後」の状態を示す写真とが示されている。
図15に示すように、すくい角が比較的小さいサンプルAにおいて、主切刃周辺に切屑が溶着することが確認された。すなわち、すくい角が大きい方が、耐溶着性が優れていることが確認された。
【0041】
第2の比較試験として、すくい面の形状が異なる4つのサンプルについて、8km加工した時点でのサンプルの損傷状態(ノーズR部および主切刃のそれぞれの欠損状態)を比較した。第2の比較試験で用いた4つのサンプルのそれぞれにおける、すくい面の形状に関する情報は以下のとおりである。
サンプル1:コーナ刃から0.2mmの位置ですくい角が7度であり、
コーナ刃から離間するに従い15度まで大きくなる。
サンプル2:すくい角が18度で一定
サンプル3:すくい角が7度で一定
サンプル4:すくい角が15度で一定
【0042】
図16は、第2の比較試験の結果を説明する第1の図である。
図16には、4つのサンプル1~4のそれぞれについて、刃先の写真が示されている。
図16に示す刃先の写真は、
図14と同様に、主切刃の周辺を「側方1から撮影」した写真と、副切刃の周辺を「側方2から撮影」した写真と、である。
図16に示す刃先の写真から、すくい角が18度で一定のサンプル2においては、切刃全体に損傷が発生することが確認された。また、ノーズR部のすくい角が15度であるサンプル4では、コーナ刃に欠損が生じる一方、ノーズR部のすくい角が7度であるサンプル1とサンプル3とのそれぞれは、損傷が抑制されていることがわかる。一方で、すくい角が7度で一定のサンプル3では、主切刃においてチッピングが発生していることがわかる。すくい角がコーナ刃での7度から主切刃での15度まで漸増するサンプル1では、切刃全体においてチッピングや欠損の発生が抑制されることが確認された。
【0043】
図17は、第2の比較試験の結果を説明する第2の図である。
図17には、4つのサンプル1~4のそれぞれについて、コーナ刃および主切刃における耐欠損性を示している。
図17に示すように、すくい角が18度で一定のサンプル2は、コーナ刃と主切刃とのそれぞれにおいてチッピングが発生するため、耐欠損性は低い。一方で、コーナ刃から離間するにしたがってすくい角が大きくなるサンプル1は、コーナ刃での耐欠損性を有するサンプル3と、主切刃での耐欠損性を有するサンプル4とのそれぞれの特性を兼ね備えたものとなっている。
【0044】
図18は、第3の比較試験として、すくい面の幅が異なる3つのサンプルについて、8km加工した時点でのサンプルの刃先の状態を比較した。第3の比較試験で用いた3つのサンプルのそれぞれにおける、すくい面の幅に関する情報は以下のとおりである。
サンプルα:すくい面の幅0.3mm
サンプルβ:すくい面の幅0.42mm
サンプルγ:すくい面の幅0.43mm
図18には、各サンプルにおける刃先の写真を示している。
図18には、サンプルごとに、
図16に示した写真と同じ2つの方向のそれぞれから撮影した写真が示されている。
図18に示すように、すくい面の幅が0,43mmのサンプルγでは、チッピングが確認できる一方、すくい面の幅が0.3mmのサンプルαと0,42mmのサンプルβとでは、刃先の損傷は確認されなかった。
【0045】
以上説明した、本実施形態の切削インサート1によれば、主切刃12に垂直な断面でみた、すくい面20のすくい角がコーナ刃11から離間するに従い漸増する。これにより、コーナ刃11近くの主切刃12の肉厚は、比較的厚くなるため、主切刃12の強度を向上することができる。したがって、切屑が切削インサート1と被削材との間に巻き込まれても、切削インサート1が損傷することを抑制することができる。また、主切刃12に垂直な断面でみたすくい面20のすくい角は、コーナ刃11から離間するに従い漸増するため、コーナ刃11から離れるにしたがって、すくい面20に切屑が溶着しにくくなる。これにより、すくい面20の耐溶着性が向上するため、溶着した切屑の脱落による主切刃12の損傷を抑制することができる。
【0046】
また、本実施形態の切削インサート1によれば、主切刃12と副切刃13とのそれぞれは、
図5および
図6に示すように、コーナ刃11から離間するに従い、切削インサート1の裏面1cへ向かうように形成されている。これにより、主切刃12における切削抵抗を低減するとともに、副切刃13への切屑の接触を低減することができるため、切刃10の損傷を抑制することができる。
【0047】
また、本実施形態の切削インサート1によれば、ブレーカ面40は、曲面状に形成されている。これにより、切削インサート1の表面1aでの切屑の流れを制御することで、切屑の巻き込みを抑制し、切削インサート1の損傷を抑制することができる。
【0048】
また、本実施形態の切削インサート1によれば、ブレーカ面40と逃げ面30に連なる立ち上がり面41が形成されている(
図3参照)。立ち上がり面41は、切削加工において発生する切屑と切削インサート1との接触面積が比較的大きくなるため、衝突する切屑による応力集中を緩和することができる。これにより、切削インサート1の損傷を抑制することができる。
【0049】
また、本実施形態の切削インサート1によれば、主切刃12に垂直な断面でみた、すくい面20のすくい角は、コーナ刃11から離間するに従い、正の5度から正の17度までの範囲で変化する。これにより、主切刃12は、コーナ刃11近くでは比較的高い強度を有しつつ、コーナ刃11から離れるにしたがってすくい面20に切屑が溶着しにくくなる。したがって、主切刃12の損傷をさらに抑制することができる。
【0050】
また、本実施形態の切削インサート1によれば、主切刃12に垂直な断面でみた主切刃12からブレーカ面40の端部40aまでの距離が、0.3mm~0.42mmとなっている。これにより、すくい面20が一定程度の幅を有しているため、切屑を正常に処理することができる。これにより、切屑の巻き込みを抑制し、切削インサート1が損傷することを抑制することができる。
【0051】
また、本実施形態の切削インサート1によれば、切削インサート1は、菱形形状を有しており、中心軸C1を挟んで対角する位置のそれぞれに、切刃10が形成されている。これにより、1つの切削インサート1が複数の切刃を有することができるため、1つの切削インサート1で比較的長く加工を行うことができる。したがって、切削加工に要する費用
を低減することができる。
【0052】
また、本実施形態の切削インサート1によれば、低周波振動切削加工機で使用することができる。低周波振動切削加工機では、切削インサートによる被削材への切り込みの大きさが変化するため、切削インサートに作用する負荷が変化しやすい。本実施形態の切削インサート1によれば、コーナ刃11付近の主切刃12の強度が向上するため、低周波振動切削加工機で使用しても、損傷しにくくなる。
【0053】
<第2実施形態>
図19は、第2実施形態の切削インサートの斜視図である。第2実施形態の切削インサート2は、第1実施形態の切削インサート1(
図1)と比較すると、裏面にも切刃が形成されている点が異なる。
【0054】
図20は、第2実施形態の切削インサート2の平面図である。
図21は、第2実施形態の切削インサート2の底面図である。第2実施形態の切削インサート2は、切刃10と、切刃10を形成するすくい面20および逃げ面30と、ブレーカ面40と、取付部50と、取付部60と、を備える。切削インサート2は、
図20の平面図に示すように、表面1aの側に2つの切刃10を備えており、
図21の底面図に示すように、裏面1cの側において、ノーズR部6,7のそれぞれに切刃10を備えている。すなわち、切削インサート2は、4つの切刃10を備えている。
【0055】
取付部60は、切削インサート2の裏面1cにおいて、略中央に配置されている(
図21参照)。取付部60は、裏面1cからz軸のマイナス方向に突出するように形成されている。取付部60の中央には、取付穴51が形成されている。取付部60における取付穴51の外周面62は、工具本体に設けられたチップ座に装着される際に、チップ座の底面に当接する着座面として機能する
【0056】
以上、本実施形態の切削インサート2によれば、表面1aと裏面1cとのそれぞれに、2つずつの切刃10が形成されている。これにより、1つの切削インサート2が複数の切刃10を有することができるため、1つの切削インサート2で比較的長く加工を行うことができる。したがって、切削加工に要する費用を低減することができる。
【0057】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0058】
[変形例1]
上述の実施形態では、切削インサート1,2は、菱形形状を有するとした。しかしながら、切削インサートの形状はこれに限定されない。三角形状や、菱形形状以外の四角形状であってもよい。
【0059】
[変形例2]
上述の実施形態では、すくい面20のすくい角は、正の5度から正の17度まで漸増するとした。すくい角の変化はこれに限定されない。すくい角は、主切刃に沿ってコーナ刃から離間するに従い漸増すればよい。すくい角の大きさは、例えば、8度から12度までの範囲でもよく、ただ6度から16度までの範囲が好ましく、7度から15度までの範囲がより好ましい。これにより、コーナ刃付近の主切刃の強度を向上しつつ、すくい面の耐溶着性を向上させることができる。
【0060】
[変形例3]
上述の実施形態では、ブレーカ面40とすくい面20との境界40aと、主切刃12との間の距離、すなわち、すくい面20の幅は、0.3mm~0.42mmであるとした。しかしながら、すくい面20の幅はこれに限定されない。すくい面20の幅を0.3mm~0.42mmとすることで、切屑の巻き込みを抑制し、切削用インサートが損傷することを抑制することができる。なお、すくい面20の幅は、0.33mm~0.42mmが好ましく、0.35mm~0.40mmがより好ましい。すくい面20の幅をこれらの数値範囲とすることで、切削用インサートが損傷することをさらに抑制することができる。
【0061】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【0062】
(適用例1)
多角形板状をなし、少なくとも1つの多角形面を表面とされるとともに、前記表面の周りに配置される側面を逃げ面とし、前記表面と前記逃げ面との交差稜線に切刃が形成された切削インサートであって、
前記表面の角部にコーナ刃が形成され、前記コーナ刃から前記交差稜線につながる主切刃が形成され、前記コーナ刃の他端から前記交差稜線につながる副切刃が形成されており、
前記主切刃と前記副切刃は、前記コーナ刃から離間するに従い、前記裏面に向かうよう形成されており、
前記主切刃と前記副切刃に連なり、前記コーナ刃と前記主切刃から離間するに従い、前記裏面に向かうすくい面が形成されており、
前記すくい面に連なり、前記主切刃から離間するに従い、前記裏面から遠ざかるように突出するブレーカ面が形成され、前記ブレーカ面は、曲面状であり、
前記副切刃から立ち上がり、前記ブレーカ面と前記逃げ面に連なる立ち上がり面が形成されており、
前記主切刃に垂直な断面でみたすくい角が、前記コーナ刃から離間するに従い漸増する、切削インサート。
(適用例2)
前記主切刃に垂直な断面でみたすくい角が、前記コーナ刃から離間するに従い、正の5度から正の17度までの範囲で変化する、適用例1に記載の切削インサート。
(適用例3)
前記主切刃に垂直な断面でみた前記主切刃から前記ブレーカ面の端部までの距離が、0.3mm~0.42mmである、適用例1または適用例2に記載の切削インサート。
(適用例4)
前記多角形面は、三角形、又は四角形で形成された、適用例1から適用例3のいずれか一例に記載の切削インサート。
(適用例5)
多角形板状の両側に切刃が形成された、適用例1から適用例4のいずれか一例に記載の切削インサート。
(適用例6)
低周波振動切削加工機で使用できる、適用例1から適用例5のいずれか一例に記載の切削インサート。
【符号の説明】
【0063】
1,2…切削インサート
1a…表面
1b…側面
1c…裏面
6,7…角部
10…切刃
11…コーナ刃
12…主切刃
13…副切刃
20…すくい面
30…逃げ面
40…ブレーカ面
41…立ち上がり面