(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068035
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】加工装置及びそのプロセスダンピング発現方法
(51)【国際特許分類】
B23B 27/00 20060101AFI20240510BHJP
B23B 29/02 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
B23B27/00 C
B23B29/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022187803
(22)【出願日】2022-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】000102865
【氏名又は名称】エヌティーエンジニアリング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】駒井 保宏
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046BB02
3C046KK02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡単な構成で、生産効率を有効に向上させるとともに、容易且つ経済的に製造することを可能にする。
【解決手段】ボーリングバー12には、内径加工用のチップ24及び平板状部材26が装着される。チップ24は、クランプブロック38を介して着脱可能に取り付けられ、平板状部材26は、前記チップ24の逃げ面24bの後方に位置して固定ボルト28により着脱自在に取り付けられる。平板状部材26の加工径方向先端部26aとチップ24による加工後ワーク内周面Waとの間隔Tは、3ミクロン≦T≦10ミクロンの範囲内に設定される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボーリングバーと、
前記ボーリングバーに、クランプ機構を介して着脱可能に取り付けられる内径加工用の刃工具と、
前記ボーリングバーに、前記刃工具の逃げ面後方に位置して着脱自在に取り付けられる平板状部材と、
前記平板状部材を、前記ボーリングバーに対して前記刃工具による加工径方向に位置調整可能に固定する固定機構と、
を備え、
前記平板状部材の加工径方向先端部と前記刃工具による加工後ワーク内周面との間隔は、3ミクロンから10ミクロンの範囲内に設定されていることを特徴とする加工装置。
【請求項2】
請求項1記載の加工装置において、前記平板状部材の前記加工径方向先端部は、少なくとも一部が断面R形状又は多角形状に構成されていることを特徴とする加工装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の加工装置において、前記平板状部材は、前記刃工具による加工方向の厚さが前記加工径方向外方に向かって漸減又は漸増されていることを特徴とする加工装置。
【請求項4】
請求項1記載の加工装置において、前記刃工具を、前記加工径方向に位置補正可能な作動機構を備えていることを特徴とする加工装置。
【請求項5】
ボーリングバーと、
前記ボーリングバーに、クランプ機構を介して着脱可能に取り付けられる内径加工用の刃工具と、
前記ボーリングバーに、前記刃工具の逃げ面後方に位置して着脱自在に取り付けられる平板状部材と、
前記平板状部材を、前記ボーリングバーに対して前記刃工具による加工径方向に位置調整可能に固定する固定機構と、
を備える加工装置において、
前記平板状部材の加工径方向先端部と前記刃工具による加工後ワーク内周面との間隔が、3ミクロンから10ミクロンの範囲内に設定されることにより、前記加工径方向先端部にプロセスダンピングを発現させることを特徴とする加工装置のプロセスダンピング発現方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボーリングバーに、クランプ機構を介して内径加工用の刃工具が取り付けられる加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、加工工具を介してワークに加工処理を施すために、各種の工作機械が使用されている。例えば、ボーリング加工は、中ぐり用カッタ(刃先)が設けられたボーリングバーを工作機械の回転主軸(スピンドル)に取り付け、前記ボーリングバーを高速で回転させながら下穴に沿って順次繰り出すことにより、その刃先加工径で所定の位置に高精度な孔部を加工するものである。
【0003】
この種の加工装置では、回転主軸や加工工具やワークに、切削抵抗による撓みが発生し易い。そして、この撓みに起因して加工工具やワークに振動が惹起され、この振動がびびり(所謂、再生びびりを含む)となって加工に表れる場合がある。特に、金型を相当に長尺なツールで加工する場合や、難削材を効率的に加工する場合には、びびりの抑制又は回避が大きな課題となっている。
【0004】
そこで、びびり対策(防振対策)の一つとして、所謂、プロセスダンピング(PROCESS DAMPING)効果を発現させる手法が知られている。このプロセスダンピングは、切削加工時にびびり振動が発生した際、加工工具の逃げ面が振動するワーク加工面に接触して減衰効果(振動の減衰力)を生じさせる現象である。
【0005】
具体的には、
図9に示すように、チップ(加工工具)1を用いてワーク(被削材)2を加工する際、主として固有振動に起因する機械加工の振動が発生し易い。そして、ワーク2に生じる切削振動波形の振幅が大きくなり、チップ1の逃げ面部3が前記切削振動波形のピーク部に接触することによって、減衰効果が発現している。ところが、上記のプロセスダンピングの効果は、振動波長が短い低速回転域にのみ適用されるものであり、例えば、加工の取り代の増加や送り量の増加等が困難となり、加工の生産効率が低下するという不具合がある。
【0006】
そこで、例えば、チップの逃げ面部に特殊な面取り加工を施しておき、ワークの加工面が前記チップの面取り逃げ面部に接触することにより、大きな減衰効果を与える工夫がなされている。この種の技術は、例えば、特許文献1に開示されている切削工具を参照して実施することができる。
【0007】
この切削工具は、ワークの丸穴に侵入する能動主刃を有し、前記能動主刃の最外端部には、副刃が設けられるとともに、前記副刃には、副刃逃げ面が接続されている。さらに、副刃逃げ面に支持部が設けられ、前記支持部の回転半径は、能動主刃の飛翔円半径よりも張り出し量が大きく設定されている。これにより、穿孔工程の間にすでに切削工具の支持が行われ、孔壁の領域での加工面の平滑化及び微細化が得られる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の特許文献1では、加工後のワーク加工面に支持部が常時接触して前記ワーク加工面の平滑化を図るものであって、良好なプロセスダンピングの効果を得ることができない。しかも、切削工具自体の加工処理が煩雑化することともに、汎用性に劣り且つ経済的ではないという問題がある。
【0010】
本発明は、この種の問題を解決するものであり、簡単な構成で、生産効率を有効に向上させるとともに、容易且つ経済的に製造することが可能な加工装置及びそのプロセスダンピング発現方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る加工装置は、ボーリングバーと、内径加工用の刃工具と、平板状部材と、固定機構とを備えている。刃工具は、ボーリングバーにクランプ機構を介して着脱可能に取り付けられている。平板状部材は、ボーリングバーに、刃工具の逃げ面後方に位置して着脱自在に取り付けられている。固定機構は、平板状部材を、ボーリングバーに対して刃工具による加工径方向に位置調整可能に固定している。そして、平板状部材の加工径方向先端部と刃工具による加工後ワーク内周面との間隔Tは、3ミクロン(μm)≦T≦10ミクロン(μm)の範囲内に設定されている。さらに、間隔Tが、3ミクロン(μm)≦T≦10ミクロン(μm)の範囲内に設定されることにより、加工径方向先端部にプロセスダンピングを発現させている。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、刃工具の逃げ面後方に平板状部材が取り付けられるとともに、前記平板状部材の加工径方向先端部と前記刃工具による加工後ワーク内周面との間隔が、3ミクロンから10ミクロンの範囲内に設定されている。このため、刃工具による内径加工時に生じる切削振動波形の振幅が大きくなると、平板状部材の加工径方向先端部が前記切削振動波形のピーク部に接触する。従って、減衰効果が発現し、良好な防振効果を得ることができる。これにより、簡単な構成で、例えば、加工の取り代の増加や送り量の増加等が可能になって生産効率を有効に向上させるとともに、容易且つ経済的に製造することが可能になる。しかも、加工径方向先端部には、プロセスダンピングを良好に発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】 本発明の第1の実施形態に係る加工装置を構成するボーリングバー先端側の要部斜視説明図である。
【
図2】 クランプブロックを取り外した状態で、前記ボーリングバー先端側の要部斜視説明図である。
【
図3】 前記ボーリングバー先端側の断面説明図である。
【
図4】 前記クランプブロックの断面説明図である。
【
図5】 前記ボーリングバー先端側の要部拡大図である。
【
図6】 前記ボーリングバーに取り付けられた平板状部材の説明図である。
【
図7】 本発明の第2の実施形態に係る加工装置を構成するボーリングバーの先端側の要部断面説明図である。
【
図8】 本発明の第3の実施形態に係る加工装置を構成するボーリングバーの先端側の要部断面説明図である。
【
図9】 一般的なプロセスダンピングの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1乃至
図3に示すように、本発明の第1の実施形態に係る加工装置10は、ボーリングバー12を備え、前記ボーリングバー12は、図示しないスピンドル(主軸)に着脱自在に取り付けられる。なお、ボーリングバー12は、回転工具として使用される他、被加工物であるワークWを回転させて加工を行う構成であってもよい。
【0015】
図2に示すように、ボーリングバー12の先端部には、前記ボーリングバー12の外周部から加工径方向(矢印R方向)内方に切り込んで第1壁面14aが形成される。第1壁面14aの内方端には、前記第1壁面14aに直交して第2壁面14bが形成されるとともに、前記第2壁面14bの後方端には、湾曲する第3壁面14cを介して該第2壁面14bに直交する第4壁面14dが形成される。
【0016】
第1壁面14aは、ボーリングバー12の加工径方向に交差する回転軸方向(加工軸方向)(矢印L方向)に延在し、前記第1壁面14aの前方端部には、カートリッジ取り付け用凹部16が形成される。
図3に示すように、カートリッジ取り付け用凹部16の底面16aには、第1ボルト穴18aと第2ボルト穴18bとが形成される。
【0017】
第1壁面14aには、
図2に示すように、カートリッジ取り付け用凹部16の後方に位置してクランプボルト穴20が形成される。
図4に示すように、クランプボルト穴20は、軸線が第1壁面14aに垂直な垂直線Vに対して第3壁面14cから離間する側に角度γだけ傾斜する。第1壁面14aの後方縁部には、クランプ凹部22が形成される。
図2に示すように、クランプ凹部22は、略三角形状を有し、クランプボルト穴20側の壁面が傾斜面22aを構成する。傾斜面22aは、内方に向かって第3壁面14c側に傾斜する(
図4参照)。
【0018】
図2及び
図3に示すように、カートリッジ取り付け用凹部16には、内径加工用のチップ(刃工具)24、平板状部材26、前記平板状部材26をボーリングバー12に対して加工径方向に位置調整可能に固定する固定ボルト(固定機構)28及び前記チップ24を前記加工径方向に位置補正可能な作動機構30が装着される。チップ24は、例えば、矩形状を有し、中央にガイド孔部32が形成され、前記ガイド孔部32の上端側には、テーパ孔部34が同軸的に連通する。
【0019】
図3及び
図5に示すように、チップ24は、先端に加工径方向最外方に突出するチップ先端(加工点)24aを有し、前記チップ先端24aから加工方向(矢印F方向)後方に向かってチップ逃げ角αに設定された逃げ面24bが設けられる。チップ24としては、チップ逃げ角αが、例えば、8度までのポジチップを使用することが好ましい。
【0020】
平板状部材26は、チップ24の形状に対応する形状に設定され、例えば、加工方向の厚さが均一な矩形状を有する。平板状部材26は、チップ24の逃げ面24bの後方に位置し且つ前記チップ24に重ね合わされた状態で、カートリッジ取り付け用凹部16の底面16aに着脱自在に取り付けられる。
図6に示すように、平板状部材26の加工径方向先端部26aは、少なくとも一部が断面R形状に構成され、例えば、部分的に曲率半径の異なるR形状に形成される。加工径方向先端部26aとチップ24による加工後ワーク内周面Waとの間隔Tは、3ミクロン(μm)≦T≦10ミクロン(μm)の範囲内に設定される。間隔Tは、より好ましくは、5ミクロン(μm)≦T≦10ミクロン(μm)の範囲内に設定される。
【0021】
図5に示すように、平板状部材26の中央には、孔部36が形成され、この孔部36に遊嵌する固定ボルト28は、第1ボルト穴18aにねじ込まれる。固定ボルト28の直径は、孔部36の開口径よりも小径に構成され、前記固定ボルト28に固定される平板状部材26は、加工径方向に位置調整可能である。固定ボルト28の頭部28aは、チップ24のガイド孔部32に挿入され、前記チップ24の取り付け用ガイドとして機能する。
【0022】
チップ24は、クランプブロック(クランプ機構)38を介してボーリングバー12に着脱可能に取り付けられる。クランプブロック38は、
図1に示すように、第1壁面14aを覆うとともに、第2壁面14b~第4壁面14dに沿った形状を有する。
図4に示すように、クランプブロック38の中央側には、傾斜する段付き孔部40が形成され、前記段付き孔部40には、クランプボルト41が挿入され、前記クランプボルト41がクランプボルト穴20にねじ込まれる。クランプブロック38の第2壁面14bに近接する角部近傍には、レンチ孔部42が形成される(
図1及び
図3参照)。
【0023】
図4に示すように、クランプブロック38の底面側には、チップ24のテーパ孔部34に篏合する湾曲突起部44と、第1壁面14aのクランプ凹部22に係合する爪部46とが設けられる。爪部46には、クランプ凹部22の傾斜面22aに当接する傾斜面部46aが形成される。
【0024】
図2及び
図3に示すように、作動機構30は、略角柱形状を有するテーパ駒部材48と、前記テーパ駒部材48をカートリッジ取り付け用凹部16の側面16bに沿って進退させる調整ボルト50とを備える。テーパ駒部材48は、カートリッジ取り付け用凹部16の底面16aに向かって外方(チップ24側)に傾斜しチップ24の傾斜面24cに当接するテーパ面48aと、厚さ方向に貫通するねじ孔48bとを有する。
【0025】
調整ボルト50は、第1ねじ部52aと第2ねじ部52bとを同軸的に備える。第1ねじ部52aは、テーパ駒部材48のねじ孔48bに螺合する一方、第2ねじ部52bは、カートリッジ取り付け用凹部16の第2ボルト穴18bに螺合する。第1ねじ部52aのピッチは、第2ねじ部52bのピッチよりも大きな値に設定され、調整ボルト50が正回転される際に、ピッチ差によりテーパ駒部材48が底面16aから離間する方向に押し上げられる。なお、底面16aとテーパ駒部材48との間には、押圧用スプリングを介装してもよい。
【0026】
このように構成される第1の実施形態に係る加工装置10の動作について、以下に説明する。
【0027】
図3に示すように、加工装置10を構成するスピンドルが矢印F方向に回転駆動されると、前記スピンドルと一体にボーリングバー12が矢印F方向に回転される。ボーリングバー12には、チップ24が取り付けられており、前記ボーリングバー12の回転作用下に、前記チップ24のチップ先端24aは、ワークWの内周面Wfを加工(内径加工)する。その際、平板状部材26とワークWとの間のクリアランスに切削屑等が入り込まないように、前記平板状部材26の上側面にクーラントを供給してもよい。なお、ボーリングバー12を回転させることなく、ワークWを矢印F方向とは反対方向に回転させてもよい。
【0028】
チップ24によりワークWの内径加工が行われる際、前記チップ24の逃げ面24bは、チップ先端24a側の一部が前記ワークWの加工後ワーク内周面Waに接触し、減衰効果、すなわち、プロセスダンピング効果が発現されている。なお、チップ24の設置状態や逃げ角等により、逃げ面24bがワークWの加工後ワーク内周面Waに接触しない場合がある。
【0029】
この場合、第1の実施形態では、平板状部材26の加工径方向先端部26aとチップ24による加工後ワーク内周面Waとの間隔Tは、3ミクロン(μm)≦T≦10ミクロン(μm)の範囲内、より好ましくは、5ミクロン(μm)≦T≦10ミクロン(μm)の範囲内に設定されている。このため、チップ24による内径加工時に生じる切削振動波形の振幅が大きくなると、すなわち、相対的に長い波長の振動が発生すると、平板状部材26の加工径方向先端部26aが前記切削振動波形のピーク部に接触する。
【0030】
従って、
図3に示すように、平板状部材26の中心部より刃先までの寸法Sの長さが、振動波長1/4λ以内に相当する比較的長い振動波長に対しても減衰効果が発現し、良好な防振効果(プロセスダンピング効果)を得ることができる。これにより、高速加工が確実に遂行され、簡単な構成で、例えば、加工の取り代の増加や送り量の増加等が可能になって生産効率を有効に向上させるとともに、容易且つ経済的に製造することが可能になるという効果が得られる。
【0031】
一方、チップ24による内径加工時に発生する振動が小さいと、平板状部材26の加工径方向先端部26aがワークWの加工後ワーク内周面Waに接触しない場合がある。その際、平板状部材26の加工径方向先端部26aと加工後ワーク内周面Waとの間隔Tは、3ミクロン(μm)≦T≦10ミクロン(μm)の範囲内、より好ましくは、5ミクロン(μm)≦T≦10ミクロン(μm)の範囲内に設定されている。このため、クーラント液体による動圧ダンピング効果が得られるという利点がある。
【0032】
ここで、間隔Tが3ミクロンを下回ると、良好な防振効果が得られるものの、前記間隔Tの設定作業が相当に煩雑化する一方、該間隔Tが10ミクロンを上回ると、良好な防振効果及び良好な動圧ダンピング効果が得られないという問題がある。さらに、間隔Tが5ミクロン以上であれば、前記間隔Tの設定作業が一層簡素化するという利点がある。
【0033】
次いで、加工作業によりチップ24の刃先(チップ先端24a)が摩耗した際には、
図3に示すように、作動機構30を介して前記チップ24を加工径方向外方に位置調整(補正)する。具体的には、調整ボルト50が正回転されると、第1ねじ部52aが、テーパ駒部材48のねじ孔48bにねじ込まれるとともに、第2ねじ部52bが、カートリッジ取り付け用凹部16の第2ボルト穴18bにねじ込まれる。
【0034】
その際、第1ねじ部52aのピッチは、第2ねじ部52bのピッチよりも大きな値に設定されており、調整ボルト50が正回転される際に、ピッチ差によってテーパ駒部材48が底面16aから離間する方向に押し上げられる。テーパ駒部材48のテーパ面48aは、チップ24の傾斜面24cに当接しており、前記テーパ駒部材48が押し上げられることにより、チップ24は、加工径方向外方に押し出され、前記チップ24の位置調整が行われる。ここで、第1ねじ部52aと第2ねじ部52bとのピッチ差を設定するとともに、テーパ駒部材48に設けたテーパ面48aのテーパ角を設定することにより、チップ24を加工径方向外方にミクロン単位で調整することができる。
【0035】
さらに、平板状部材26の加工径方向外方への位置調整が求められる場合がある。その際、固定ボルト28を第1ボルト穴18aから弛緩させた状態で、前記固定ボルト28の直径と孔部36の開口径との寸法差分だけ、平板状部材26を加工径方向外方に位置調整することが可能になる。また、平板状部材26に設けられた加工径方向先端部26aのR形状が適切でない場合には、他のR形状又は多角形状を有する他の平板状部材26と容易に交換することができる。このため、種々の平板部材26を必要に応じて変更することが可能になり、ボーリングバー12自体の構造変更が不要になり、経済的且つ汎用性に優れるという効果がある。
【0036】
次に、チップ24を固定する作業について説明すると、前記チップ24は、ガイド孔部32に固定ボルト28の頭部28aが挿入されることにより、取り付け位置にガイドされる。そこで、クランプブロック38が、チップ24に押し当てられる。クランプブロック38では、
図4に示すように、湾曲突起部44がチップ24のテーパ孔部34に篏合する一方、爪部46が第1壁面14aのクランプ凹部22に係合する。さらに、クランプブロック38の段付き孔部40には、クランプボルト41が挿入され、前記クランプボルト41がクランプボルト穴20にねじ込まれる。
【0037】
その際、クランプボルト穴20は、軸線が第1壁面14aに垂直な垂直線Vに対して第3壁面14cから離間する側に角度γだけ傾斜している。従って、クランプブロック38は、ボーリングバー12の内側(軸心方向)に押し付けられ、湾曲突起部44の湾曲面がチップ24のテーパ孔部34の内側壁面に押し付けられる一方、爪部46の傾斜面部46aがクランプ凹部22の傾斜面22aに押し付けられる。これにより、チップ24は、軸心方向に引き寄せられるようにして、クランプブロック38により強固に保持される。
【0038】
なお、図示しないが、単一のボーリングバー12に上記のチップ24及び平板状部材26等を複数配置することができる。このため、多数の刃によるトルクフラット化と、多数の刃によるプロセスダンピング効果を発現させ、びびりを阻止し且つ真円度等の加工形状精度を一層向上させることも可能になる。
【0039】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る加工装置60を構成するボーリングバー12aの先端側の要部断面説明図である。なお、第1の実施形態に係る加工装置10のボーリングバー12(
図3に示す)と同一の構成要素には、同一の参照符号を付してその詳細な説明は省略する。以下に説明する第3の実施形態においても同様に、その詳細な説明は省略する。
【0040】
ボーリングバー12aの先端部に設けられたカートリッジ取り付け用凹部16には、内径加工用のチップ(刃工具)62が装着される。チップ62は、先端に加工径方向最外方に突出するチップ先端(加工点)62aを有し、前記チップ先端62aから加工方向後方に向かって第1チップ逃げ角α1に設定された第1逃げ面62bと、第2チップ逃げ角α2に設定された第2逃げ面62cとが設けられる。チップ62としては、第1チップ逃げ角α1が、例えば、1度前後であり、第2チップ逃げ角α2が、例えば、8度までのポジチップを使用することが好ましい。
【0041】
このように構成される第2の実施形態では、チップ62の第1逃げ面62bに、ワークWの加工直後に生じる弾性復元作用により復元膨張したピーク部が接触することで、プロセスダンピング効果が得られる。さらに、相対的に長い波長の振動が発生すると、平板状部材26の加工径方向先端部26aが切削振動波形のピーク部に接触する。これにより、高速加工が確実に遂行され、簡単な構成で、生産効率を有効に向上させるとともに、容易且つ経済的に製造することが可能になる等、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0042】
図8は、本発明の第3の実施形態に係る加工装置70を構成するボーリングバー12bの先端側の要部断面説明図である。
【0043】
ボーリングバー12bの先端部に設けられたカートリッジ取り付け用凹部16には、内径加工用のチップ(刃工具)72及び平板状部材74が装着される。チップ72は、チップ先端(加工点)72aを有し、前記チップ先端72aから加工方向後方に向かってチップ逃げ角α3に設定された逃げ面72bが設けられる。チップ72としては、チップ逃げ角α3が、例えば、数度以上で11度前後までのポジチップが使用される。平板状部材74は、チップ72の形状に対応する矩形状に設定されるとともに、加工方向の厚さが加工径方向外方に向かって漸増する断面略台形状を有する。
【0044】
このように構成される第3の実施形態では、チップ逃げ角α3が大きなチップ72が使用される際、加工方向の厚さが加工径方向外方に向かって漸増する平板状部材74を前記チップ72に重ね合わせて装着している。このため、チップ72は、相対的に小さな逃げ角を有することになり、良好なプロセスダンピング効果が得られる他、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。なお、チップの相対的な逃げ角を大きくする際には、加工方向の厚さが加工径方向外方に向かって漸減する平板状部材(図示せず)を使用すればよい。
【符号の説明】
【0045】
10、60、70…加工装置 12、12a、12b…ボーリングバー
14a~14d…壁面 16…カートリッジ取り付け用凹部
16a…底面 24、62、72…チップ
24a、62a、72a…チップ先端
24b、62a、62b、72b…逃げ面 26、74…平板状部材
26a…加工径方向先端部 28…固定ボルト
30…作動機構 38…クランプブロック
48…テーパ駒部材 50…調整ボルト