(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068072
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】車体骨格部品及び該車体骨格部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B62D 29/04 20060101AFI20240510BHJP
B29C 65/48 20060101ALI20240510BHJP
B29C 65/02 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
B62D29/04 A
B29C65/48
B29C65/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065405
(22)【出願日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2022177772
(32)【優先日】2022-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】樋貝 和彦
(72)【発明者】
【氏名】石川 俊治
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 毅
【テーマコード(参考)】
3D203
4F211
【Fターム(参考)】
3D203BB12
3D203CA25
3D203CA29
3D203CA43
3D203CA79
3D203CA86
4F211AA15
4F211AA29
4F211AA31
4F211AA39
4F211AA45
4F211AD03
4F211AG07
4F211AR12
4F211TA03
4F211TC14
4F211TH06
(57)【要約】
【課題】車体の側方から衝突荷重が入力した際に、折れ曲がることで吸収する衝突エネルギーを向上することができる車体骨格部品及び該車体骨格部品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る車体骨格部品1は、天板部3aと、天板部3aからパンチ肩R部3bを介して連続する一対の縦壁部3cとを有する断面ハット形部材又は断面コ字状部材と、該断面ハット形部材又は断面コ字状部材の少なくともパンチ肩R部3bの外面に形成された樹脂層7と、天板部3aを跨ぐように配設されて樹脂層7の表面を外面側から覆うとともに、両端部が一対の縦壁部3cの外面に接合された薄肉パッチ部材11と、を有し、塗布又は貼付された樹脂層7は、加熱された後に室温で10MPa以上の接着強度で前記断面ハット形部材又は断面コ字状部材の外面及び薄肉パッチ部材11に接着されており、薄肉パッチ部材11の引張強度は、前記断面ハット形部材又は断面コ字状部材より低強度であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の側部に設けられ、該車体の側方から衝突荷重が入力した際に折れ曲がることで衝突エネルギーを吸収する車体骨格部品であって、
天板部と、該天板部からパンチ肩R部を介して連続する一対の縦壁部とを有する断面ハット形部材又は断面コ字状部材と、
該断面ハット形部材又は断面コ字状部材の少なくとも前記パンチ肩R部の外面に形成された樹脂層と、
前記天板部を跨ぐように配設されて前記樹脂層の表面を外面側から覆うとともに、両端部が前記一対の縦壁部の外面に接合された薄肉パッチ部材と、を有し、
前記樹脂層は、加熱された後に室温で10MPa以上の接着強度で前記断面ハット形部材又は断面コ字状部材の外面及び前記薄肉パッチ部材に接着されており、
前記薄肉パッチ部材の引張強度は、前記断面ハット形部材又は断面コ字状部材より低強度であることを特徴とする車体骨格部品。
【請求項2】
前記樹脂層は、樹脂を塗布又は貼付されて形成されたものであること、を特徴とする請求項1記載の車体骨格部品。
【請求項3】
前記薄肉パッチ部材は、少なくとも前記パンチ肩R部との間に0.2mm以上3mm以下の隙間を空けて配設され、
前記樹脂層は、電着塗料による塗膜により前記隙間に形成されたものであること、を特徴とする請求項1記載の車体骨格部品。
【請求項4】
請求項2の車体骨格部品の製造方法であって、
樹脂を塗布又は貼付して形成される樹脂層の厚みを決定する樹脂層の厚み決定工程と、
該樹脂層の厚み決定工程で決定した厚みとなるように樹脂を塗布又は貼付して前記断面ハット形部材又は前記断面コ字状部材の外面に樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
該樹脂層形成工程で形成した樹脂層の表面を覆うように薄肉パッチ部材を配置し、該薄肉パッチ部材の両端部を前記縦壁部の外面に接合する薄肉パッチ部材接合工程と、
前記樹脂層及び薄肉パッチ部材を設けた前記断面ハット形部材又は前記断面コ字状部材を加熱処理する加熱工程とを備え、
該樹脂層の厚み決定工程は、
必要な曲げ剛性を有するベースとなる断面ハット形部材又は断面コ字状部材のベース板厚、ベース曲げ剛性及びベース重量を設定し、
板厚が前記ベース板厚より薄く、曲げ剛性が前記ベース曲げ剛性よりも低下させない場合の樹脂層の厚みを下限値として求め、
重量がベース重量より増加せずに最大限曲げ剛性を向上できる場合の樹脂層の厚みを上限値として求め、
前記下限値と上限値の間で樹脂層の厚みを決定することを特徴とする車体骨格部品の製造方法。
【請求項5】
請求項3の車体骨格部品の製造方法であって、
電着塗料による塗膜によって形成される樹脂層の厚みを決定する樹脂層の厚み決定工程と、
前記断面ハット形部材又は前記断面コ字状部材と、該断面ハット形部材又は該断面コ字状部材の外面側に配設され、少なくとも前記パンチ肩R部の外面との間に前記樹脂層の厚み決定工程で決定した厚みに相当する隙間が設けられた薄肉パッチ部材とを有する部品を製造する部品製造工程と、
前記部品が取り付けられた車体に電着塗装を行い、前記隙間に電着塗料の塗膜による樹脂層を形成させる樹脂層形成工程と、
前記樹脂層が形成された前記部品を加熱処理する加熱工程とを備え、
前記樹脂層の厚み決定工程は、
必要な曲げ剛性を有するベースとなる断面ハット形部材又は断面コ字状部材のベース板厚、ベース曲げ剛性及びベース重量を設定し、
板厚が前記ベース板厚より薄く、曲げ剛性が前記ベース曲げ剛性よりも低下させない場合の樹脂層の厚みを下限値として求め、
重量がベース重量より増加せずに最大限曲げ剛性を向上できる場合の樹脂層の厚みを上限値として求め、
前記下限値と上限値の間で樹脂層の厚みを決定することを特徴とする車体骨格部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用の車体骨格部品に関し、特に、車体の側方から衝突荷重が入力した際に、折れ曲がることで衝突エネルギーを吸収する車体骨格部品及び該車体骨格部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突エネルギー吸収性能を向上させる技術として、自動車部品の形状・構造・材料等を最適化する多くの技術が存在する。衝突エネルギーを吸収する自動車部品は、例えば車体の側部に設けられており、車体の側方から衝突荷重が入力した際に折れ曲がることで衝突エネルギーを吸収する。近年では、閉断面構造を有する自動車部品の内部に樹脂(発泡樹脂など)を発泡させて充填することで、該自動車部品の衝突エネルギー吸収性能の向上と軽量化を両立させる技術が数多く提案されている。
【0003】
特許文献1には、アウタパネルとレインフォースメントとの間のみに充填材を充填すると共に、その充填材の平均圧縮強度を4MPa以上に設定しかつ最大曲げ強度を10MPa以上に設定する技術が開示されている。特許文献1の技術によれば、充填材の使用量を出来る限り少なくして車体の軽量化を図ると共に、衝突安全性を効果的に向上させることができる。
【0004】
また、特許文献2には、インナパネルとアウタパネルとの間に金属製リインフォースメントパネルを内設した中空構造物(中空パネル)の補強構造が開示されている。特許文献2の補強構造では、アウタパネルとリインフォースメントパネルとの間に構成された第2の中空領域が発泡体により充填され、さらにリインフォースメントパネルのコーナー部に沿って断面形状保持部材が配置されている。このような補強構造により、中空構造物を効率的に補強できるとしている。
【0005】
さらに特許文献3には、天板部と、天板部からパンチ肩R部(成形品の部位を意味する)を介して連続する一対の縦壁部とを有するアウタ部品と、アウタ部品の内面に塗布された樹脂と、該樹脂の表面を覆う離脱防止部材と、を有する車体骨格部品が開示されている。アウタ部品の内面に塗布された樹脂は、パンチ肩R部を挟んで両側の天板部側及び縦壁部側の少なくとも所定の範囲に延出し、加熱された後に室温で10MPa以上の接着強度で内面に接着される。このようにアウタ部品の内面に樹脂を接着することによって部品の座屈耐力が向上し、衝突エネルギーの吸収性能を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-48054号公報
【特許文献2】特開2003-226261号公報
【特許文献3】特許第6950871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2によれば、自動車部品の内部に発泡充填材又は発泡体を充填することにより、該自動車部品の曲げ変形に対する強度や衝撃エネルギー吸収性を向上することができ、当該自動車部品の変形を抑制することが可能であるとされている。
しかしながら、車体の側方から衝突荷重が入力した際に折れ曲がることで衝突エネルギーを吸収する車体骨格部品に対しては、上記技術を適用したとしても、折れ曲がる過程の途中で部品を構成する部材が破断する場合がある。部品を構成する部材が破断してしまうと衝突エネルギーの吸収性能が想定するほど向上しないため課題となっていた。
【0008】
特許文献3では、車体骨格部品が折れ曲がる際にパンチ肩R部の内側で金属板と金属板との間に樹脂が挟まることで、パンチ肩R部の曲げ半径が著しく小さくならず、パンチ肩R部の割れを防止できるので、衝突エネルギーの吸収性能を向上できるとされている。
しかしながら、車体側方からの衝突荷重が入力するサイドシル(ロッカ)の内部には、衝突特性を高めるため、バルクヘッド等の補剛部品が配置されるので、既存のサイドシル構造を前提とすると、内部に樹脂及び離脱防止部材を設けるのが難しい場合があった。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、既存のサイドシル構造にも適用が可能で、車体の側方から衝突荷重が入力した際に、折れ曲がることで吸収する衝突エネルギーを向上することができる車体骨格部品及び該車体骨格部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る車体骨格部品は、車体の側部に設けられ、該車体の側方から衝突荷重が入力した際に折れ曲がることで衝突エネルギーを吸収するものであって、天板部と、該天板部からパンチ肩R部を介して連続する一対の縦壁部とを有する断面ハット形部材又は断面コ字状部材と、該断面ハット形部材又は断面コ字状部材の少なくとも前記パンチ肩R部の外面に形成された樹脂層と、前記天板部を跨ぐように配設されて前記樹脂層の表面を外面側から覆うとともに、両端部が前記一対の縦壁部の外面に接合された薄肉パッチ部材と、を有し、前記樹脂層は、加熱された後に室温で10MPa以上の接着強度で前記断面ハット形部材又は断面コ字状部材の外面及び前記薄肉パッチ部材に接着されており、前記薄肉パッチ部材の引張強度は、前記断面ハット形部材又は断面コ字状部材より低強度であることを特徴とするものである。
【0011】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記樹脂層は、樹脂を塗布又は貼付されて形成されたものであること、を特徴とするものである。
【0012】
(3)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記薄肉パッチ部材は、少なくとも前記パンチ肩R部との間に0.2mm以上3mm以下の隙間を空けて配設され、前記樹脂層は、電着塗料による塗膜により前記隙間に形成されたものであること、を特徴とするものである。
【0013】
(4)また、本発明に係る車体骨格部品の製造方法は、上記(2)に記載の車体骨格部品の製造方法であって、
樹脂を塗布又は貼付して形成される樹脂層の厚みを決定する樹脂層の厚み決定工程と、
該樹脂層の厚み決定工程で決定した厚みとなるように樹脂を塗布又は貼付して前記断面ハット形部材又は前記断面コ字状部材の外面に樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
該樹脂層形成工程で形成した樹脂層の表面を覆うように薄肉パッチ部材を配置し、該薄肉パッチ部材の両端部を前記縦壁部の外面に接合する薄肉パッチ部材接合工程と、
前記樹脂層及び薄肉パッチ部材を設けた前記断面ハット形部材又は前記断面コ字状部材を加熱処理する加熱工程とを備え、
該樹脂層の厚み決定工程は、
必要な曲げ剛性を有するベースとなる断面ハット形部材又は断面コ字状部材のベース板厚、ベース曲げ剛性及びベース重量を設定し、
板厚が前記ベース板厚より薄く、曲げ剛性が前記ベース曲げ剛性よりも低下させない場合の樹脂層の厚みを下限値として求め、
重量がベース重量より増加せずに最大限曲げ剛性を向上できる場合の樹脂層の厚みを上限値として求め、
前記下限値と上限値の間で樹脂層の厚みを決定すること、を特徴とするものである。
【0014】
(5)また、本発明に係る車体骨格部品の製造方法は、上記(3)に記載の車体骨格部品の製造方法であって、
電着塗料による塗膜によって形成される樹脂層の厚みを決定する樹脂層の厚み決定工程と、
前記断面ハット形部材又は前記断面コ字状部材と、該断面ハット形部材又は該断面コ字状部材の外面側に配設され、少なくとも前記パンチ肩R部の外面との間に前記樹脂層の厚み決定工程で決定した厚みに相当する隙間が設けられた薄肉パッチ部材とを有する部品を製造する部品製造工程と、
前記部品が取り付けられた車体に電着塗装を行い、前記隙間に電着塗料の塗膜による樹脂層を形成させる樹脂層形成工程と、
前記樹脂層が形成された前記部品を加熱処理する加熱工程とを備え、
前記樹脂層の厚み決定工程は、
必要な曲げ剛性を有するベースとなる断面ハット形部材又は断面コ字状部材のベース板厚、ベース曲げ剛性及びベース重量を設定し、
板厚が前記ベース板厚より薄く、曲げ剛性が前記ベース曲げ剛性よりも低下させない場合の樹脂層の厚みを下限値として求め、
重量がベース重量より増加せずに最大限曲げ剛性を向上できる場合の樹脂層の厚みを上限値として求め、
前記下限値と上限値の間で樹脂層の厚みを決定すること、を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、断面ハット形部材又は断面コ字状部材が折れ曲がる過程において、座屈耐力を向上させて衝突最大荷重を増大させるとともに、割れが発生するのを防止し、衝突エネルギーの吸収性能を向上することができる。
さらに、本発明は、内部にバルクヘッド等の補剛部品が配置されたサイドシルにも適用が可能であるので、既存のサイドシル構造を活用しつつ、さらに衝突エネルギー吸収性能を向上することができる。
そして、衝突初期のサイドシル構造へ入力する荷重の立ち上がりを早めることができるので、衝突初期の吸収エネルギーを高めることができる。また、車両に加わる衝撃をいち早く検出することが可能となり、衝突時の加速度を検知して動作するエアバック、ブレーキ等の起動を早めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施の形態に係る車体骨格部品を示す斜視図である。
【
図2】実施の形態に係る車体骨格部品を示す断面図である。
【
図3】車体の側方から衝突荷重が入力した際における従来の車体骨格部品の曲げ圧壊過程を説明する図であり、折れ曲がりが生じる部位の断面形状を示した模式図である。
【
図4】実施の形態に係る3層構造のモデルと従来例及び比較例のモデルとを比較する図である。
【
図5】3層構造を有する車体骨格部品と従来の車体骨格部品の荷重-ストローク曲線を示すグラフである。
【
図6】3層構造を有する車体骨格部品と従来の車体骨格部品の吸収エネルギーを示すグラフである。
【
図7】実施の形態に係る車体骨格部品の他の態様を示す断面図である(その1)。
【
図8】実施の形態に係る車体骨格部品の他の態様を示す断面図である(その2)。
【
図9】実施例における実験方法を説明する図である。
【
図10】実施例における発明例、従来例及び比較例の重量効率(単位重量当りの吸収エネルギー)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態にかかる車体骨格部品の説明に先立ち、まずは本発明に至った経緯について、
図3~
図6を用いて以下に説明する。
【0018】
[発明に至った経緯]
鋼板等の金属板で形成された従来の車体骨格部品31は、例えば、
図3(a)に示すように、断面ハット形部材であるアウタ部品3と平板状の部材であるインナ部品5が接合されてなる筒状の部材である。
このような車体骨格部品31は、アウタ部品3の天板部3aを車体の側方に向けて車体の側部に取り付けられる。
【0019】
車体の側方から衝突荷重が入力すると、アウタ部品3の天板部3aに衝突荷重が入力し、
図3(b)に示すように、天板部3aが外方に広がるように伸ばされ、縦壁部3cの角度が変化する。そして、アウタ部品3の座屈耐力(折れ曲がりが発生する時点における衝突荷重)を越えると、
図3(c)に示すようにアウタ部品3が押し潰され、車体骨格部品31が折れ曲がる。この折れ曲がる過程(曲げ圧壊過程)において車体骨格部品31が衝突エネルギーを吸収する。
【0020】
この過程において、アウタ部品3に割れが生じずに折れ曲がりが生じると衝突エネルギーは最も吸収されやすい。しかしながら、折れ曲がる過程においてアウタ部品3に割れが生じると、折れ曲がりの変形抵抗が小さくなって容易に折れ曲がるために衝突エネルギーの吸収が不足し、本来の能力を発揮できなくなる。
【0021】
アウタ部品3において、折れ曲がる過程に衝突エネルギーを吸収する能力が高い部位は天板部3aと縦壁部3cをつなぐパンチ肩R部3bである。しかしながら、パンチ肩R部3bは、
図3(c)に示すように、アウタ部品3が折れ曲がる過程においてその曲げ半径が著しく小さくなるため、外面に引張応力が集中して割れが発生しやすい。殊に、アウタ部品3がプレス成形された断面ハット形部材である場合、パンチ肩R部3bはプレス成形過程において最も塑性変形を受け易く加工硬化している部位でもある。その結果、パンチ肩R部3bにおいては、プレス成形時の加工硬化による延性の低下のため、他の天板部3aや縦壁部3c等に比べると割れが発生しやすい。
【0022】
さらには、近年、衝突特性と軽量化の両立を目的として自動車部品に採用されている高強度鋼板は、従来の強度の鋼板に比較して延性が小さい。したがって、同じ板厚の場合には鋼板の引張強度TSが大きいほど大きな曲げ半径で破断(割れ)が発生しやすい。
【0023】
発明者らは、鋭意検討した結果、パンチ肩R部3bの曲げ剛性を高くすれば、アウタ部品3が折れ曲がる過程において、パンチ肩R部3bの曲げ半径が小さくなるのを抑止し、外面に引張応力が集中して割れが発生するのを防止できる、との着想に至った。
【0024】
パンチ肩R部3bの曲げ剛性は、アウタ部品3に用いられる材料のヤング率Eと、アウタ部品3に用いられる金属板(鋼板等)の断面二次モーメントIとの積で表される。金属板の断面二次モーメントIは、金属板の板厚の3乗に比例するので、曲げ剛性を高くするためには、アウタ部品3に用いられる金属板の板厚を厚くすればよいが、部品重量が増加する。
【0025】
そこで、アウタ部品3に用いられる金属板の板厚を厚くする代わりに、折れ曲がる過程において応力が集中して割れの発生するパンチ肩R部3bの外面側に、金属板よりも低密度でヤング率の低い樹脂層を形成することを想起した。さらに、金属板で該樹脂層の表面を覆い、金属板で樹脂層を挟んだサンドイッチ構造にして総厚みを厚くすることを想起した。
3層(アウタ部品3/樹脂層/金属板)のサンドイッチ構造としたときの曲げ剛性(EI)は、下式(1)に示す積層材の曲げ剛性についての一般式を用いて評価することができる。
【0026】
【0027】
式(1)において、Lは積層材の幅、iは材料、nは層の数、Eiは材料iのヤング率、hiはi=1の材料から材料iの層までの厚み、λはi=1の材料の表面から積層材の中立面までの距離である。
【0028】
図4にアウタ部品3のパンチ肩R部3bにおける板厚方向の断面構造のパターンと、各パターンにおける総厚み、曲げ剛性及び重量を比較した結果を示す。
図4(a)はアウタ部品3に相当する金属板(厚みT
0)のみからなる1層構造のモデルである。
図4(b)はアウタ部品3に相当する金属板(厚みT
0)と、樹脂層(厚みT
r)と、薄肉の金属板(厚みT)とがそれぞれ接着されてなる3層構造(サンドイッチ構造)のモデルである。
図4(c)はアウタ部品3に相当する金属板(厚みT
0)に薄肉の金属板(厚みT)が接着されてなる2層構造のモデルである。
【0029】
図中に示した寸法の一例は、アウタ部品3に相当する金属板の板厚T
0を1.4mmとし、
図4(b)及び
図4(c)のモデルの曲げ剛性が、
図4(a)のモデルの曲げ剛性の2倍となるように、樹脂層の厚みT
r及び薄肉の金属板の厚みTを設定したものである。
【0030】
上記寸法における各モデルの総厚み、及び
図4(a)を基準とした単位面積当たりの重量を図中に示した。
図4に示すように、3層(アウタ部品3/樹脂層/薄肉の金属板)のサンドイッチ構造とした
図4(b)は、見かけの板厚(総厚み)が厚くなって曲げ剛性が向上する。そして、発明者らは、3層構造の一部に低密度な樹脂を使用することにより、同じ曲げ剛性の
図4(c)と比べて部品重量の軽量化が可能となることを見出した。
【0031】
なお、アウタ部品3と樹脂層と薄肉の金属板とが一体となって荷重を受けることで曲げ剛性が効果的に向上するので、アウタ部品3と樹脂層、及び、樹脂層と薄肉の金属板は所定の強度で接着されている必要がある。この理由は下記の通りである。
例えば、
図4(b)の3層構造において、アウタ部品3と樹脂層と薄肉の金属板とがまったく接着されていない場合、全体としての曲げ剛性は、アウタ部品3、樹脂層、薄肉の金属板のそれぞれ単体の曲げ剛性を合計した値となる。これは、アウタ部品3と樹脂層と薄肉の金属板とが接着されている場合の曲げ剛性(式(1)によって求められる曲げ剛性)と比べて著しく低下する。
【0032】
したがって、アウタ部品3と樹脂層と薄肉の金属板が一体となって荷重を受けられるよう、アウタ部品3と樹脂層が十分な強度で接着され、かつ、樹脂層と薄肉の金属板が接着されていることが重要である。
また、接着されていたとしても、衝突時の曲げ圧壊の過程で樹脂層が剥離してしまった場合には接着されていない場合と同様に曲げ剛性が低下するので、十分な接着強度で接着されている必要がある。
そこで発明者らは、樹脂層における樹脂の接着強度を10MPa以上とすれば、曲げ圧壊の過程で樹脂層が剥離しにくく、3層のサンドイッチ構造を維持できることを知見した。
【0033】
さらに、樹脂層及び薄肉の金属板を、アウタ部品3が折れ曲がる際に引張応力が集中するパンチ肩R部3bの外側に配設した方が、内側に配設するよりも、衝突初期段階の衝突エネルギー吸収効果を高められることを見出した。この点について、以下、具体例に基づいて説明する。
【0034】
図3の車体骨格部品31のアウタ部品3に、
図4(b)の構造(3層(アウタ部品/樹脂層/薄肉の金属板)のサンドイッチ構造)を適用した場合の衝突CAE解析結果の一例を
図5、
図6に示す。なお、
図4(b)の構造の適用例として、樹脂層及び薄肉の金属板をアウタ部品3の外面側に配設した場合と、内面側に配設した場合についてそれぞれ解析を実施した。また、比較例として、アウタ部品3に樹脂層及び薄肉の金属板を配設しない場合(
図4(a)の構造)の解析結果についても示した。
【0035】
本解析においては、車体骨格部品31のアウタ部品3を引張強度1180MPa級、板厚1.2mmの鋼板製とした。また、
図4(b)の構造の適用例である2例については、樹脂層の厚みを1.0mmとし、薄肉の金属板を引張強度270MPa級、板厚0.6mmの鋼板製とした。
【0036】
衝突CAE解析では、アウタ部品3の天板部3aに衝突体(カマボコ型パンチ)を衝突させ、衝突体の衝突開始からのストローク(mm)とアウタ部品3に入力した荷重(kN)との関係(荷重-ストローク曲線)を測定した。
図5に、
図4(b)の構造とした2例と、
図4(a)の構造とした比較例の、荷重-ストローク曲線を示す。また、
図5の荷重-ストローク曲線から算出したストローク10mm時点、及びストローク40mm時点における吸収エネルギー(kJ)を
図6に示す。
【0037】
図5、
図6に示すように、3層(アウタ部品/樹脂層/薄肉の金属板)のサンドイッチ構造とした2例は、樹脂層及び薄肉の金属板を設けていない比較例と比べて、アウタ部品3への入力荷重を高め、吸収エネルギーを大幅に向上できることが分かる。
【0038】
特に、樹脂層及び薄肉の金属板を外側に配設することで、引張応力が集中するパンチ肩R部3bの外面側の曲げ剛性を高めることができる。これにより、衝突初期の断面ハット形部材の形状崩れの開始を、樹脂層及び薄肉の金属板を内側に配設する場合と比べて遅らせることができる。
したがって、樹脂層及び薄肉の金属板を内側に配設する場合と比べて、衝突初期の荷重の立ち上がりを早めることができ(約0.2msec)(
図5参照)、吸収エネルギー(ストローク0~40mm)を約4%高めることができる(
図6参照)。
本発明は上記検討結果に基づくものである。以下に本発明の実施の形態を説明する。
【0039】
[実施の形態1]
本発明の一実施の形態に係る車体骨格部品1は、車体の側部に設けられ、該車体の側方から衝突荷重が入力した際に長手方向に交差する方向に折れ曲がることで衝突エネルギーを吸収するものである。車体骨格部品1は、
図1及び
図2に例示するように、アウタ部品3と、インナ部品5と、アウタ部品3の外面に樹脂が塗布されて形成された樹脂層7と、アウタ部品3とインナ部品5とが接合されてなる筒状部材9と、薄肉パッチ部材11と、を備えている。
【0040】
アウタ部品3は、金属板から形成された断面ハット形部材であり、天板部3aと、天板部3aからパンチ肩R部3bを介して連続する一対の縦壁部3cと、各縦壁部3cからそれぞれ連続するフランジ部3dとを有する。なお、パンチ肩R部は断面ハット形部材の部位を意味する。
インナ部品5は、金属板から平板状に形成された平板状部材である。そして、インナ部品5の側端部とアウタ部品3のフランジ部3dとが接合され、筒状部材9が形成されている。
【0041】
アウタ部品3のような断面ハット形部材を有する車体骨格部品1は、自動車の車体骨格の一部を構成するものである。本発明は、車体の側部の左右位置に配設されて前記車体骨格を構成する車体骨格部品を対象とし、具体的には、車体上下方向に延設されたAピラー及びBピラー等や、車体前後方向に延設されたロッカ(サイドシル)やルーフレール、等が挙げられる。
【0042】
アウタ部品3及びインナ部品5に用いられる金属板の種類としては、冷延鋼板、熱延鋼板、ステンレス鋼板、亜鉛系めっき鋼板、亜鉛合金系めっき鋼板、アルミ合金系めっき鋼板、アルミニウム合金板、が例示できる。
【0043】
樹脂層7は、
図1及び
図2に示すように、アウタ部品3における天板部3a、パンチ肩R部3b及び縦壁部3cの外面に塗布されている。
そして、塗布された樹脂層7は、加熱された後の厚みが8mm以下であり、かつ室温で10MPa以上の接着強度でアウタ部品3の外面及び薄肉パッチ部材11に接着されている。
【0044】
樹脂層7における樹脂の種類については、熱可塑系、熱硬化系又はエラストマー系のものが挙げられる。
熱可塑系の樹脂としては、ビニル系(酢酸ビニル、塩化ビニル等)、アクリル系、ポリアミド系、ポリスチレン系、シアノアクリレート系のものが例示できる。
熱硬化系の樹脂としては、エポキシ系、ウレタン系、エステル系、フェノール系、メラミン系、ユリア系のものが例示できる。
エラストマー系の樹脂としては、ニトロゴム系、スチレンブタジエンゴム系、変性シリコン系、ブチルゴム系、ウレタンゴム系、アクリルゴム系のものが例示できる。
いずれの種類の樹脂においても、曲げ変形時に破断・崩壊しないものであることが好ましい。
【0045】
薄肉パッチ部材11は、金属板製(例えば、鋼板製)であり、天板部3aを跨ぐように配設されて樹脂層7の表面を外面側から覆うとともに、両端部がアウタ部品3の一対の縦壁部3cの外面に接合(例えばスポット溶接)されている。
【0046】
なお、樹脂層7は少なくともパンチ肩R部3bの外面に必要であり、軽量化の観点から、樹脂層7および薄肉パッチ部材11の縦壁高さ(縦壁部3cに塗布する範囲)を短くするのが好ましい。したがって、薄肉パッチ部材11はアウタ部品3の縦壁部3cに接合させるようにした。また、前記薄肉パッチ部材11の端部に接合凸部を長手方向に所定の間隔を設けて形成し、接合凸部をアウタ部品3の縦壁部3cに接合させるようにしてもよい。
【0047】
薄肉パッチ部材11は、サンドイッチ構造を構成するためのものであり、高い材料強度を必要としない。したがって薄肉パッチ部材11の引張強度は、アウタ部品3やインナ部品5より低強度で良い。
【0048】
アウタ部品3の外面に樹脂を塗布されて形成された樹脂層7は、加熱処理を行うことで樹脂層7の樹脂自体の接着能によりアウタ部品3及び薄肉パッチ部材11に接着させることができる。この場合、樹脂層7の樹脂とアウタ部品3及び薄肉パッチ部材11の接着強度は、所定の温度及び時間で加熱処理することで、室温に戻しても10MPa以上とすることができる。加熱処理における温度及び時間は、樹脂層7の樹脂の種類に応じて適宜調整すればよい。
【0049】
なお、樹脂層7の樹脂と金属板(アウタ部品3、薄肉パッチ部材11)の接着強度は、金属板と樹脂層7との界面に作用する最大せん断応力又は平均せん断応力とすることができる。最大せん断応力又は平均せん断応力は、例えば、金属板と樹脂層7とを接着した2層角柱の衝突実験から樹脂層7の剥離が生じる境界条件を求めて、当該境界条件に基づく衝突解析により求めることができる。あるいは、上記接着強度の測定は、JIS K 6850の「接着剤-剛性被着材の引張せん断 接着強さ試験方法」に基づいて実施し、金属板と樹脂層との界面に作用する接着面に平行な最大せん断応力又は平均せん断応力を接着強度としてもよい。
【0050】
また、樹脂層7の樹脂と金属板(アウタ部品3、薄肉パッチ部材11)の接着強度は、接着後の樹脂層7と金属板の一部を切り出して引張試験機に設置し、一方は樹脂層7を、他方は金属板を挟んで、引っ張って求めたものとしてもよい。
あるいは、接着後の樹脂層7と金属板の一部を切り出して引張試験機に設置し、一方は樹脂層7を挟み、他方は金属板を折り曲げて形成した掴み部(図示なし)を掴んで引っ張る方法により測定したものとしてもよい。
若しくは、金属板(アウタ部品3、薄肉パッチ部材11)に掴み部品を接合して、該掴み部品を引張試験機で掴んで引っ張る方法により測定したものを、樹脂層7の樹脂とアウタ部品3及び薄肉パッチ部材11の接着強度としてもよい。
【0051】
上述した車体骨格部品1は、アウタ部品3の天板部3a、パンチ肩R部3b、縦壁部3cに樹脂が塗布されて樹脂層7が形成されたものであるが、本発明はこれに限られない。本発明では、少なくともパンチ肩R部の外面に樹脂層が形成されていれば良いので、
図7(a)、
図7(b)に示す車体骨格部品21、23のように、アウタ部品3のパンチ肩R部3bの外面にのみ樹脂層7を形成したものであってもよい。
【0052】
この場合も、10MPa以上の接着強度で樹脂層7をアウタ部品3及び薄肉パッチ部材11と接着させることで、曲げ圧壊過程において、パンチ肩R部3bの曲げ剛性が高い状態に維持されてアウタ部品3の座屈耐力が向上する。そして、パンチ肩R部3bの曲げ半径が小さくなるのを抑止し、外面に応力が集中するのを緩和して割れの発生を防止できる。これにより、衝突エネルギーの吸収性能を向上させることができる。
【0053】
なお、上述した車体骨格部品1、21、23は、アウタ部品3とインナ部品5とにより筒状部材9が形成されたものであるが、本発明に係る車体骨格部品はこれに限るものではなく、アウタ部品3のみを有するものであってもよい。
また、上記の説明では断面ハット形部材であるアウタ部品3を例示したが、本発明は断面ハット形部材を有するものに限らず、天板部と、該天板部からパンチ肩R部を介して連続する一対の縦壁部を有する断面コ字状部材を有するものであってもよい。
【0054】
また、上述した車体骨格部品1、21、23は、アウタ部品3の外面に樹脂が塗布されて樹脂層7が形成されたものであるが、本発明は、板状の樹脂がアウタ部品の外面に接着剤を用いて貼付されたものであってもよい。
さらには、ラミネート鋼板におけるラミネート並みに、100μm程度の厚みのフィルム状の樹脂がアウタ部品の外面に貼付されたものであってもよい。
そして、板状の樹脂又はフィルム状の樹脂とアウタ部品3及び薄肉パッチ部材11との接着強度が室温で10MPa以上であればよい。
【0055】
さらに、他の態様として、樹脂層7が電着塗料による塗膜によって形成されたものであってもよい。このような態様の車体骨格部品について、
図8を用いて具体的に説明する。
【0056】
図8(a)に示す車体骨格部品25は、アウタ部品3とインナ部品5とが接合されてなる筒状部材9と、電着塗料が硬化して形成された塗膜13と、薄肉パッチ部材11とを備えている。車体骨格部品25のアウタ部品3及びインナ部品5は、
図1に示したアウタ部品3及びインナ部品5と同様のものであるので同一の符号を付して説明を省略する。
【0057】
車体骨格部品25の塗膜13は、自動車製造の塗装工程で一般的に行われる電着塗装の塗料が硬化して形成されたものである。
電着塗装時に所定の厚みの塗膜13を形成するため、薄肉パッチ部材11は、電着塗装前の状態において、アウタ部品3の外面との間に0.2mmから3mmの隙間が生じるように設けられる。
【0058】
筒状部材9(アウタ部品3、インナ部品5)に薄肉パッチ部材11が取り付けられた部品が車体に取り付けられた状態で該車体が電着塗装されることで、上記隙間に電着塗料が入り込み、これが熱処理されることで該塗料が硬化して塗膜13が形成される。
通常電着塗装を行うと、鋼板の表面には0.05mm程度の塗膜が形成されるが、本例においてはアウタ部品3の外面側に所定の隙間を設けて薄肉パッチ部材11を配設することにより、該隙間に所定の厚みの塗膜13を形成させることができる。すなわち、本例における薄肉パッチ部材11は、塗膜形成部材としての機能も有する。
【0059】
電着塗装を経て、アウタ部品3と薄肉パッチ部材11との隙間に塗膜13が形成されることで、アウタ部品3の外面側にアウタ部品3、塗膜13、薄肉パッチ部材11からなるサンドイッチ構造が形成される。
これにより、塗膜13が、前述した車体骨格部品1(
図1、
図2参照)の樹脂層7と同様に機能し、アウタ部品3のパンチ肩R部3bの割れを抑制する。
【0060】
なお、電着塗料の種類としては例えば、ポリウレタン系カチオン電着塗料、エポキシ系カチオン電着塗料、ウレタンカチオン電着塗料、アクリル系アニオン電着塗料、フッ素樹脂電着塗料などが挙げられる。
【0061】
前述したように、樹脂層7は少なくともアウタ部品3のパンチ肩R部3bに形成されていればよいので、本例のように電着塗料の塗膜13を樹脂層7として機能させる場合も、少なくともパンチ肩R部3bの外面に塗膜13が形成されていればよい。
したがって、塗装前の状態において、薄肉パッチ部材11は、少なくともパンチ肩R部3bの外面との間に0.2mmから3mmの隙間が生じるように設ければよい。よって、
図8(b)に示す車体骨格部品27のように、パンチ肩R部3bの外面以外の部分は塗膜13(樹脂層7)が形成されていなくてもよい。
【0062】
このように、電着塗装で形成される塗膜を本発明の樹脂層として機能させることで、樹脂の塗布(又は貼付)工程を省略することができ、従来の自動車製造ラインを活用して本発明の車体骨格部品を製造できる。
【0063】
以上、本実施の形態によれば、アウタ部品3の少なくともパンチ肩R部3bに樹脂層7及び薄肉パッチ部材11を設けることにより、衝突時にパンチ肩R部3bの割れを防止し、衝突エネルギーの吸収性能を向上できる。
また、アウタ部品3の外面側に樹脂層7及び薄肉パッチ部材11を配設するようにしたことで、内部に補剛部品が配置される既存のサイドシルにも適用が可能である。
さらに、荷重の立ち上がりを早めることができるので、衝突初期のエネルギー吸収効果が高まると共に、車両に加わる衝撃をいち早く検出することが可能となり、衝突時の加速度を検知して動作するエアバック、ブレーキ等の起動を早めることができる。
【0064】
[実施の形態2]
次に、実施の形態1で説明した車体骨格部品の製造方法について説明する。
図1の車体骨格部品1のように塗布又は貼付された樹脂によって樹脂層7を形成する場合と、
図8(a)の車体骨格部品25のように電着塗料の塗膜によって樹脂層7を形成する場合とで製造方法が異なるので、各例について以下説明する。
【0065】
まず、塗布又は貼付された樹脂によって樹脂層7が形成される車体骨格部品1の製造方法は、樹脂層の厚み決定工程と、樹脂層形成工程と、薄肉パッチ部材接合工程と、加熱工程とを備えている。
【0066】
<樹脂層の厚み決定工程>
樹脂層の厚み決定工程は、樹脂を塗布又は貼付して形成される樹脂層7の厚みを決定する工程である。
式(1)に示した積層材の曲げ剛性によれば、樹脂層7の厚みが薄すぎると3層(アウタ部品3/樹脂層/金属板)のサンドイッチ構造による曲げ剛性向上の効果が低くなる。一方、樹脂層7の厚みが厚すぎると軽量化の効果が低くなる。したがって、軽量化と曲げ剛性向上の両効果をバランスよく発揮するためには、樹脂層7を適切な厚みに設定することが重要である。
そこで、樹脂層の厚み決定工程では、下記の方法により樹脂層7の適切な厚みを決定する。
【0067】
本実施の形態に係る樹脂層の厚み決定工程は、必要な曲げ剛性を有するベースとなる断面ハット形部材のベース板厚、ベース曲げ剛性及びベース重量を設定する工程と、断面ハット形部材の板厚がベース板厚より薄く、曲げ剛性がベース曲げ剛性よりも低下させない場合の樹脂層7の厚みを下限値として求める工程と、重量がベース重量より増加せずに最大限曲げ剛性を向上できる場合の樹脂層7の厚みを上限値として求める工程と、下限値と上限値の間で樹脂層の厚みを設定する工程を備えたものである。
【0068】
まず、樹脂層7の厚みを検討するベースとして、ベース板厚、ベース曲げ剛性及びベース重量を設定する。
ここでは、必要な曲げ剛性を有する断面ハット形部材として、板厚1.60mmの鋼板製のアウタ部品3を用意し、該アウタ部品3の曲げ剛性(具体的にはパンチ肩R部の曲げ剛性)を求めた。また、このアウタ部品3に平板形状のインナ部品5を接合して筒状部材9とし、該筒状部材9の重量を求めた。その結果を表1の≪ベース≫に示す。
表1の≪ベース≫に示したアウタ部品の板厚hc(1.60mm)がベース板厚、曲げ剛性(70GPa/mm4)がベース曲げ剛性、重量(3.59kg)がベース重量となる。
【0069】
次に、実施の形態1で説明した車体骨格部品1を構成するアウタ部品3として、上記ベース板厚よりも板厚が薄い断面ハット形部材を用意する。
ここでは、板厚0.80mmのアウタ部品3≪No.1≫、板厚1.00mmのアウタ部品3≪No.2≫、板厚1.20mmのアウタ部品3≪No.3≫の3種類を用意した。また、板厚0.40mmの鋼板製の薄肉パッチ部材11を用意した(≪No.1≫~≪No.3≫で共通)。
【0070】
そして、上記≪No.1≫~≪No.3≫の各アウタ部品3と薄肉パッチ部材11を用い、パンチ肩R部3bの曲げ剛性が≪ベース≫の曲げ剛性と同程度になるように樹脂層7の厚みを調整して車体骨格部品1を構成した(A)。
【0071】
また、上記≪No.1≫~≪No.3≫の各アウタ部品3と薄肉パッチ部材11を用い、車体骨格部品1の重量が≪ベース≫の重量と同程度になるように樹脂層7の厚みを調整して車体骨格部品1を構成した(B)。
【0072】
≪No.1≫~≪No.3≫の各アウタ部品3を用いて上記A、Bの車体骨格部品1を構成したときの樹脂層7の厚みを表1に示す。
なお、表1の≪ベース≫の重量は、アウタ部品3とインナ部品5の重量の合計(筒状部材9の重量)であり、≪No.1≫~≪No.3≫の重量は、アウタ部品3、インナ部品5、樹脂層7および薄肉パッチ部材11の重量を合計(車体骨格部品1の重量)である。
【表1】
【0073】
表1に示す≪No.1≫~≪No.3≫のAは、アウタ部品3の板厚を≪ベース≫よりも薄くして、鋼板よりもヤング率の低い樹脂を樹脂層7として設け、薄肉パッチ部材11とのサンドイッチ構造の総厚みを≪ベース≫の板厚よりも厚くして≪ベース≫の曲げ剛性(70GPa・mm4)と同程度の曲げ剛性を確保しつつ、鋼板よりも低密度の樹脂を用いることによる軽量化の効果を最大化したものである。その軽量化率は、≪No.1≫で21%、≪No.2≫で12%、≪No.3≫で4%となっている。
≪No.1≫~≪No.3≫のAにおける樹脂層の厚みは、本発明の「板厚がベース板厚より薄く、曲げ剛性がベース曲げ剛性よりも低下させない場合の樹脂層の厚み」に相当する。Aにおける樹脂層の厚みを、≪No.1≫~≪No.3≫の各アウタ部品3を用いて車体骨格部品1を構成する場合の樹脂層の厚みの下限値とする。
【0074】
一方、≪No.1≫~≪No.3≫のBは、≪ベース≫の重量(3.59kg)と同程度の重量となるまで樹脂厚を厚くし、Aよりもサンドイッチ構造の総厚みを厚くして、曲げ剛性向上の効果を最大化したものである。その曲げ剛性向上率は、≪No.1≫で1599%、≪No.2≫で796%、≪No.3≫で171%となっている。
≪No.1≫~≪No.3≫のBにおける樹脂層の厚みは、本発明の「重量がベース重量より増加せずに最大限曲げ剛性を向上できる場合の樹脂層の厚み」に相当する。Bにおける樹脂層の厚みを、≪No.1≫~≪No.3≫の各アウタ部品3を用いて車体骨格部品1を構成する場合の樹脂層の厚みの上限値とする。
【0075】
表1の結果に基づき、≪ベース≫よりも曲げ剛性を低下させずに最大限軽量化できるAの場合の樹脂層の厚みを下限値とし、≪ベース≫よりも重量を増加させずに最大限曲げ剛性を向上できるBの場合の樹脂層の厚みを上限値として、樹脂層の厚みを決定する。したがって、≪No.1≫(アウタ部品3の板厚hc=0.80mm、薄肉パッチ部材11の板厚hp=0.40mm)の場合は、0.45mm~4.00mmの範囲内で樹脂層7の厚みを設定すればよい。同様に、≪No.2≫(ハット断面部材の板厚hc=1.00mm、補強板の板厚hp=0.40mm)の場合は、樹脂層7の厚みを0.25mm~2.50mmの範囲内、≪No.3≫(アウタ部品3の板厚hc=1.20mm、薄肉パッチ部材11の板厚hp=0.40mm)の場合は、樹脂層7の厚みを0.02mm~0.80mmの範囲内に設定すればよい。
【0076】
<樹脂層形成工程>
樹脂層形成工程は、上記樹脂層の厚み決定工程で決定した厚みとなるように樹脂を塗布又は貼付してアウタ部品3の外面に樹脂層7を形成する工程である。
本実施の形態では、まず、アウタ部品3とインナ部品5とを接合して筒状部材9を形成する。そして、上記樹脂層の厚み決定工程で決定した厚みとなるように、樹脂をアウタ部品3の外面、具体的には、天板部3a、パンチ肩R部3b及び縦壁部3cの外面に塗布又は貼付けて樹脂層7を形成する。
このとき、液体状の樹脂をアウタ部品3の外面に塗布してもよいし、板状の樹脂をアウタ部品3の外面に接着剤を用いて貼り付け(接着)してもよい。
【0077】
<薄肉パッチ部材接合工程>
薄肉パッチ部材接合工程は、上記樹脂層形成工程で形成した樹脂層7の表面を薄肉パッチ部材11で覆い、薄肉パッチ部材11の両端部をアウタ部品3の縦壁部3cの外面にスポット溶接等により接合する工程である。このとき、薄肉パッチ部材11を樹脂層7の表面に貼付または接着剤を用いて接着する。
【0078】
<加熱工程>
加熱工程は、樹脂層7及び薄肉パッチ部材11を設けた筒状部材9(アウタ部品3、インナ部品5)を加熱処理する工程である。
加熱処理により、樹脂層7とアウタ部品3及び樹脂層7と薄肉パッチ部材11とが十分な接着強度(10MPa以上)で接着され、
図1の車体骨格部品1が製造できる。
なお、
図7(a)、
図7(b)の車体骨格部品21、23も同様の方法で製造できる。
【0079】
次に、電着塗料の塗膜によって樹脂層7が形成される車体骨格部品25の製造方法について説明する。車体骨格部品25の製造方法は、樹脂層の厚み決定工程と、部品製造工程と、樹脂層形成工程と、加熱工程とを備えている。
【0080】
<樹脂層の厚み決定工程>
樹脂層の厚み決定工程は、電着塗料による塗膜13によって形成される樹脂層7の厚みを決定する工程である。本例における樹脂層の厚み決定工程は、車体骨格部品1の製造方法で説明した樹脂層の厚み決定工程と同様の方法で行う。
なお、電着塗料の塗膜13によって樹脂層7を形成する場合には、実施の形態1で説明したように、製造の特性上、厚みを0.20mm以上3.00mm以下に設定するのが好ましい。したがって、この場合の樹脂層7の厚みは、前述した下限値と上限値の間、かつ、0.20mm以上3.00mm以下とするのがよい。
【0081】
<部品製造工程>
部品製造工程は、アウタ部品3と、アウタ部品3の外面側に配設された薄肉パッチ部材11とを有する部品を製造する工程である。
本実施の形態では、まず、アウタ部品3とインナ部品5とを接合して筒状部材9を形成する。そして、アウタ部品3の外面側にアウタ部品3の天板部3aを跨ぐように薄肉パッチ部材11を配置し、薄肉パッチ部材11の端部をアウタ部品3の縦壁部3cの外面にスポット溶接等により接合する。この際、アウタ部品3の外面と薄肉パッチ部材11との間には、上記樹脂層の厚み決定工程で決定した厚みに相当する隙間を設けるようにする。
【0082】
<樹脂層形成工程>
樹脂層形成工程は、上記部品が取り付けられた車体に電着塗装を行い、前記隙間に電着塗料の塗膜による樹脂層を形成させる工程である。
上記部品が車体に取り付けられた状態で該車体を電着塗料が貯留された電着槽に浸漬させると、上記隙間に電着塗料が入り込み、塗膜13が形成される。そして、この塗膜13により樹脂層7が形成される。
【0083】
<加熱工程>
加熱工程は、上記樹脂層7が形成された部品を加熱処理する工程である。
電着槽に浸漬された車体は、表面の塗膜を硬化させるため加熱処理される。この際、車体と共に上記樹脂層7が形成された部品が加熱処理され、樹脂層7とアウタ部品3及び樹脂層7と薄肉パッチ部材11とが十分な接着強度(10MPa以上)で接着され、
図8(a)の車体骨格部品25が製造される。
なお、
図8(b)の車体骨格部品27も同様の方法で製造できる。
【0084】
上記2例は、断面ハット形部材であるアウタ部品3によって構成された車体骨格部品を製造する例であったが、断面コ字状部材から構成される車体骨格部品を製造する場合も同様である。
【0085】
以上のように、本実施の形態2によれば、樹脂層の適切な厚みを決定する樹脂層の厚み決定工程を備えたことにより、軽量化と曲げ剛性向上の両効果をバランスよく発揮できる車体骨格部品を製造することができる。
【実施例0086】
本発明に係る車体骨格部品の効果を確認するための実験を行ったので、その結果について以下に説明する。
本実施例では、本発明に係る車体骨格部品の車体側面から衝突荷重を与えて折れ曲がる過程での衝突エネルギーの吸収特性を評価する実験を行った。
【0087】
実験では、
図9に示すように、軸方向長さ700mmの断面ハット形部材であるアウタ部品3と平板状部材であるインナ部品5からなる筒状部材9(従来構造体)を用いて各種試験体を作成した。
発明例として、アウタ部品3の外面の中央部200mmの範囲に、樹脂層7と、樹脂層7の表面を覆う薄肉パッチ部材11を設け、実施の形態で説明した車体骨格部品1、21、23、25、27に対応する試験体をそれぞれ用意した。薄肉パッチ部材11の両端部はアウタ部品3の縦壁部3cの外面にスポット溶接で接合した。
【0088】
また、従来例として、筒状部材9のみからなる試験体を用意した。
さらに、比較例として、薄肉パッチ部材11を有さない試験体や、樹脂の接着強度が10MPaに満たない試験体を用意した。
なお、本実施例における接着強度は、アウタ部品3に用いた鋼板と樹脂層7とを接着した2層角柱の衝突実験に基づいて求めた鋼板と樹脂層7との界面に作用する最大せん断応力又は平均せん断応力とした。
【0089】
各試験体のアウタ部品3は板厚1.2mm又は1.4mm、引張強度980MPa級の鋼板製とした。また、インナ部品5は、いずれの試験体も、板厚1.2mm、引張強度590MPa級の鋼板製とした。さらに、薄肉パッチ部材11は、板厚0.6mm、引張強度270MPa級のいわゆる軟鋼板製とした。また、樹脂層7の樹脂はエポキシ系又はウレタン系とした。
【0090】
実験では、
図9に示すように、衝突体15(カマボコ型パンチ、R部の曲率半径=100mm)を各試験体のアウタ部品3側からインナ部品5側に向けて速度15.3m/sで衝突させ、衝突体15を試験体に150mm押し込んだ。その際、衝突体15が試験体に衝突してからのストローク量と荷重との関係を示す荷重-ストローク曲線を測定し、該荷重-ストローク曲線から、ストローク0~100mmまでの吸収エネルギーを求めた。なお、荷重を入力する際にインナ部品5側を支持する軸方向の支点間距離は500mmとした。
【0091】
表2に、発明例、従来例及び比較例の各試験体のアウタ部品3および薄肉パッチ部材11の板厚、樹脂層7の樹脂の種類及び接着強度等の各条件、試験体重量、及び式(1)により算出したパンチ肩R部3bの曲げ剛性を示す。なお、曲げ剛性の算出において、式(1)中のLは200mm相当とした。
【0092】
【0093】
表2の樹脂の範囲において、「アウタ」はアウタ部品3を、「パンチ肩R」はアウタ部品3のパンチ肩R部3bを示す。
また、表2の試験体重量は、樹脂層7及び薄肉パッチ部材11を有する試験体(発明例1~8、比較例2~3)においてはアウタ部品3、インナ部品5及び薄肉パッチ部材11と樹脂層7の各重量の総和である。そして、樹脂層7を有するが薄肉パッチ部材11を有さない試験体(比較例1)においてはアウタ部品3、インナ部品5及び樹脂層7の各重量の総和であり、樹脂層7を有さない試験体(従来例1~2)においてはアウタ部品3とインナ部品5の各重量の総和である。
【0094】
また、表2の吸収エネルギーの列には、ストローク0~100mmまでの吸収エネルギー(kJ)と重量効率(kJ/kg)を併記している。重量効率は、単位重量当りの吸収エネルギーを示すものであり、吸収エネルギーを試験体重量で除した値である。
【0095】
従来例1、2は、筒状部材9のみからなる従来構造の車体骨格部品31(
図3参照)に対応した試験体を用いたものである。表2に示すように、従来構造の試験体を用いた従来例1(アウタ部品3の板厚1.2mm)及び従来例2(アウタ部品3の板厚1.4mm)では、どちらも試験体の上部に割れが見られた。また、ストローク0~100mmにおける吸収エネルギーは、従来例1が2.60kJ、従来例2が3.43kJであった。
【0096】
これに対し、発明例1は、車骨格部品1(
図1参照)に対応した試験体を用いたものであり、アウタ部品3の板厚を従来例1と同じ1.2mmとしたものである。発明例1では、樹脂をアウタ部品3の天板部3aから縦壁部3cにかけて厚さ1.0mmで塗布して樹脂層7を形成し、樹脂層7の表面を覆うように薄肉パッチ部材11を配設した。また、樹脂層7とアウタ部品3及び薄肉パッチ部材11との接着強度は本発明の範囲内(10MPa以上)である11.9MPaとした。
【0097】
発明例1の曲げ剛性は、117.5×10-5GPa・m4であり、アウタ部品3の板厚が同じ従来例1の曲げ剛性(5.9×10-5GPa・m4)よりも著しく向上している。
そして、ストロークが0~100mmにおける吸収エネルギーは、従来例1よりも49%向上し、3.87kJであった。また、折れ曲がり過程においてアウタ部品3に割れは生じなかった。
なお、発明例1の試験体重量は3.32kgであり、従来例1の試験体重量(=3.03kg)よりも0.29kg増加したものの、重量効率は1.17kJ/kgであり、従来例1(=0.86kJ/kg)よりも36%向上した。
【0098】
また、発明例1は、試験体重量がほぼ同等の従来例2と比較しても、吸収エネルギーが向上しており、発明例1の重量効率(=1.17kJ/kg)も、従来例2の重量効率(=1.02kJ/kg)もより向上した。
【0099】
上記のように、発明例1においては、アウタ部品3の外面に樹脂層7と薄肉パッチ部材11を配設し、樹脂層7とアウタ部品3及び薄肉パッチ部材11とを10MPa以上の接着強度で接着したことにより、衝突エネルギーの吸収性能が向上した。これは、前述したように、3層構造にしたことでパンチ肩R部3bの曲げ剛性が向上し、折れ曲がり過程におけるパンチ肩R部3bの割れが抑制され、座屈耐力が向上したからである。
【0100】
発明例2、3は、発明例1と同様に車体骨格部品1(
図1参照)に対応した試験体を用いたものである。発明例2、3では、樹脂層7の厚みを2mm又は3mmとし、パンチ肩R部3bの曲げ剛性を発明例1の2.1倍又は3.6倍にそれぞれ高くしている。
発明例2、3においては、折れ曲がり過程において破断(割れ)はいずれも発生せず、吸収エネルギーはそれぞれ4.35kJ、4.82kJであり、発明例1における吸収エネルギー(=3.87kJ)に比べて各12%、25%向上した。また、発明例2、3の重量効率は1.29kJ/kg、1.40kJ/kgであり、樹脂層7が厚くなるほど、重量効率が向上した。
【0101】
発明例4は、車体骨格部品21(
図7(a)参照)に対応した試験体を用いたものである。発明例4では、樹脂層7の樹脂を貼付ける範囲をアウタ部品3のパンチ肩R部3bのみとし、接着強度を本発明の範囲内(10MPa以上)である21.5MPaとした。
発明例4においては、折れ曲がり過程において破断(割れ)は発生せず、吸収エネルギーは3.71kJであった。発明例4の吸収エネルギーは、発明例1(=3.87kJ)に比べて4%低下するものの、従来例1(=2.60kJ)より43%向上した。また、発明例4の重量効率は1.13kJ/kgであり、発明例1(=1.17kJ/kg)より3%低下するものの、従来例1(=0.86kJ/kg)より32%向上した。
【0102】
発明例5は、車体骨格部品23(
図7(b)参照)に対応した試験体を用いたものである。発明例5では、樹脂層7の樹脂を塗布する範囲をアウタ部品3のパンチ肩R部3bのみとし、薄肉パッチ部材11が覆う範囲を最小化した。樹脂層7の樹脂の接着強度は本発明の範囲内(10MPa以上)である10.5MPaとした。
発明例5においては、折れ曲がり過程において破断(割れ)は発生せず、吸収エネルギーは発明例4と同じ3.71kJであった。発明例5は、薄肉パッチ部材11が覆う範囲が発明例4よりも少ないため、薄肉パッチ部材11の重量が低下して試験体重量が軽量化されている。よって、重量効率(=1.18kJ/kg)が発明例4(=1.13kJ/kg)も向上した。また、樹脂層の厚みが同じである発明例1(=1.17kJ/kg)と比較しても重量効率が向上した。
【0103】
発明例6、7は、車体骨格部品25(
図8(a)参照)に対応した試験体を用いたものである。発明例6、7では、アウタ部品3の外面側に、該外面と0.2mm又は0.5mmの隙間が生じるように薄肉パッチ部材11を設け、電着塗装時に該隙間に電着塗料を浸入させ、焼付工程で該塗料を硬化させて厚さ0.2mm又は0.5mmの塗膜13(樹脂層7)を形成した。塗膜13(樹脂層7)の接着強度は本発明の範囲内(10MPa以上)である12.1MPa、13.5MPaとした。
発明例6、7においては、折れ曲がり過程において破断(割れ)はいずれも発生しなかった。発明例6、7の吸収エネルギーは、3.49kJ、3.63kJであり、従来例1(=2.60kJ)に比べてそれぞれ34%、40%向上した。また、発明例6、7の重量効率は1.07kJ/kg、1.11kJ/kgであり、従来例1(=0.86kJ/kg)よりもそれぞれ25%、29%向上した。
【0104】
発明例8は、車体骨格部品27(
図8(b)参照)に対応した試験体を用いたものである。発明例8では、塗膜13を形成する範囲をアウタ部品のパンチ肩R部のみとし、薄肉パッチ部材11が覆う範囲を最小化した。塗膜13(樹脂層7)の厚みは、発明例7と同じ0.5mmとし、接着強度は本発明の範囲内(10MPa以上)である15.7MPaとした。
発明例8においては、折れ曲がり過程において破断(割れ)は発生しなかった。発明例8の吸収エネルギーは3.48kJであり、発明例7(=3.63kJ)に比べて4%低下するものの、重量効率は発明例7と同じ1.11kJ/kgであった。
【0105】
比較例1は、発明例1と同様に車体骨格部品1(
図1参照)に対応した試験体を用いたものであるが、薄肉パッチ部材11を配置せず、厚み1.0mmの樹脂のみを樹脂層7としてアウタ部品3に接着強度10.9MPaで貼付けたものである。
比較例1においては、折れ曲がり過程において割れ(破断)が発生し、吸収エネルギーは2.72kJであった。比較例1は、吸収エネルギーが従来例1(=2.60kJ)よりも5%向上するに留まり、発明例1(=3.87kJ)よりも30%低下した。また、比較例1の重量効率は0.88kJ/kgであり、発明例1よりも低かった。
これは、比較例1が薄肉パッチ部材11を設けていない2層構造であるため、3層構造の発明例1ほど曲げ剛性を向上できず、アウタ部品3の曲げ圧壊の際の座屈耐力を十分に向上できなかったからである。
【0106】
比較例2、3は、発明例1と同様に車体骨格部品1(
図1参照)に対応した試験体を用いたものであるが、樹脂層7の接着強度を本発明の範囲外(10MPa未満)としたものである。比較例2は接着強度を0MPa(樹脂層7がアウタ部品3および薄肉パッチ部材11と接着されていない状態)とし、比較例3は接着強度を9MPaとした。
比較例2、3においては、折れ曲がり過程において割れ(破断)が発生し、吸収エネルギーは比較例2が2.78kJ、比較例3が2.84kJであった。また、重量効率は比較例2が0.84kJ/kg、比較例3が0.86kJ/kgであり、ともに低い結果であった。また、比較例3においては樹脂層7がアウタ部品3から剥離していた。
前述したように、3層構造で高い曲げ剛性を実現するには、3層一体となって荷重を受ける必要があるが、比較例2、3は、樹脂層7が接着されていない又は接着強度が弱いため、曲げ圧壊の過程で3層一体となって荷重を受けることができなかった。したがって、比較例2、3の曲げ剛性は従来例1よりそれぞれ13%、17%向上するに留まり、発明例1ほど曲げ剛性を向上できず、アウタ部品3の曲げ圧壊の際の座屈耐力を十分に向上できなかった。
【0107】
図10に、表2の発明例1~8、従来例1、2及び比較例1~3の重量効率(kJ/kg)を比較したグラフを示す。
図10に示すように、発明例1~8は、従来例1、2及び比較例1~3よりも、吸収エネルギーの重量効率が高いことが分かる。
【0108】
以上のように、本発明に係る車体骨格部品によれば、側方から衝突荷重が入力して折れ曲がることで衝突エネルギーを吸収する際に、衝突エネルギーの吸収性能を効率良く向上できることが示された。また、吸収エネルギーの重量効率が高いので、車体骨格部品の軽量化も可能であることが示された。