(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068093
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】フレキシブルプリント配線板
(51)【国際特許分類】
H05K 1/02 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
H05K1/02 J
H05K1/02 B
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119479
(22)【出願日】2023-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2022177636
(32)【優先日】2022-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000230249
【氏名又は名称】日本メクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】成澤 嘉彦
【テーマコード(参考)】
5E338
【Fターム(参考)】
5E338AA03
5E338AA12
5E338BB19
5E338BB28
5E338BB54
5E338CC02
5E338CC06
5E338CD13
5E338CD23
5E338CD25
5E338CD32
5E338EE11
(57)【要約】
【課題】屈曲する際に特性インピーダンスが変動することを抑制し、かつ耐屈曲性に優れたフレキシブルプリント配線板を提供する。
【解決手段】実施形態のフレキシブルプリント配線板1は、空気層AL1,AL2が設けられた屈曲領域Rを有するフレキシブルプリント配線板であって、屈曲領域Rを通る信号線2と、絶縁層を介して信号線2と異なる層に設けられたグランド層61,62と、を備え、屈曲領域Rにおいて、フレキシブルプリント配線板1を厚さ方向に見て、グランド層61,62は信号線2と重なる部分の少なくとも一部において設けられておらず、かつ、前記信号線の幅方向に見て、前記空気層は、前記フレキシブルプリント配線板を貫通している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気層が設けられた屈曲領域を有するフレキシブルプリント配線板であって、
前記屈曲領域を通る信号線と、絶縁層を介して前記信号線と異なる層に設けられたグランド層と、を備え、
前記屈曲領域において、前記フレキシブルプリント配線板を厚さ方向に見て、前記グランド層は、前記信号線と重なる部分の少なくとも一部において設けられておらず、かつ、前記信号線の幅方向に見て、前記空気層は、前記フレキシブルプリント配線板を貫通している、フレキシブルプリント配線板。
【請求項2】
前記グランド層には、前記フレキシブルプリント配線板を厚さ方向に見て、少なくとも一部が前記信号線と重なるグランド開口が設けられている、請求項1に記載のフレキシブルプリント配線板。
【請求項3】
前記グランド開口の幅は前記信号線の幅と等しい、請求項2に記載のフレキシブルプリント配線板。
【請求項4】
前記信号線を挟むように設けられたガードグランド配線を備え、
前記グランド開口は、前記フレキシブルプリント配線板を厚さ方向に見て、前記ガードグランド配線の前記信号線に対向する側の側端部まで開口している、請求項2に記載のフレキシブルプリント配線板。
【請求項5】
前記信号線を挟むように設けられたガードグランド配線を備え、
前記グランド開口は、前記フレキシブルプリント配線板を厚さ方向に見て、前記ガードグランド配線の途中まで開口している、請求項2に記載のフレキシブルプリント配線板。
【請求項6】
前記信号線は、複数本が並走するように設けられており、
前記グランド開口は、前記フレキシブルプリント配線板を厚さ方向に見て、少なくとも一部が前記複数本の信号線と重なるように開口している、請求項2に記載のフレキシブルプリント配線板。
【請求項7】
前記グランド開口は、前記信号線の側端部から前記信号線の幅方向に50~100μm離れた位置まで開口している、請求項2に記載のフレキシブルプリント配線板。
【請求項8】
前記グランド層は、前記屈曲領域を挟む第1のグランド層と第2のグランド層を有する、請求項1に記載のフレキシブルプリント配線板。
【請求項9】
前記グランド開口は、前記屈曲領域の長手方向の全域にわたって延在するように設けられている、請求項2に記載のフレキシブルプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルプリント配線板に関し、より詳しくは、屈曲領域を有するフレキシブルプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器内の信号伝送速度の高速化に伴い、細線同軸ケーブルなどの高速伝送信号を行うための配線が多く利用されている。複数の高速伝送信号の伝送が必要なケースでは、より省スペースで機器内配線を行うことが容易なプリント配線板への置き換えが進んでいる。たとえば、特許文献1には、高速信号を伝送するための高速信号伝送用配線が設けられたフレキシブルプリント配線板(可撓性プリント配線板)が記載されている。
【0003】
フレキシブルプリント配線板を電子機器の筐体の折り畳み部(ヒンジ等)に配置する場合、フレキシブルプリント配線板は十分な耐屈曲性を有する必要がある。しかし、2層以上の導体層を有するフレキシブルプリント配線板の場合、屈曲時に導体層へ生じる応力が大きいため、金属疲労により導体層が断線するリスクが高くなる。これを回避するために、屈曲領域の導体層間に中空部(空気層)を設けることで、屈曲時に導体層に加わる応力を大幅に緩和することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6732723号
【特許文献2】特許第4236837号
【特許文献3】特許第4481184号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、高速信号の反射により信号品質が劣化することを抑制するためには、フレキシブルプリント配線板の中空部および非中空部の全域にわたって、特性インピーダンスを所定の値(目標値)に整合させる必要がある。たとえば、アンテナが受信した信号の伝送を想定すると、信号品質の劣化を抑制するには、フレキシブルプリント配線板の屈曲に伴う特性インピーダンスの変化を目標値の±10%以内に収めることが望ましい。シングルエンド50Ωで構成される伝送線路系の場合、特性インピーダンスは50±5Ωの範囲内で整合されていることが好ましい。
【0006】
しかしながら、従来のフレキシブルプリント配線板では、特性インピーダンスを当該範囲内に収めることは困難であった。その理由として、フレキシブルプリント配線板が屈曲する際、中空部において信号線とグランド層間の距離が変動し、それに伴い、信号線とグランド層間のキャパシタンス成分が変化する結果、特性インピーダンスの変動が発生することが挙げられる。
【0007】
本発明は、上記認識に基づいてなされたものであり、フレキシブルプリント配線板が屈曲する際に特性インピーダンスが変動することを抑制でき、かつ耐屈曲性に優れたフレキシブルプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係るフレキシブルプリント配線板は、
空気層が設けられた屈曲領域を有するフレキシブルプリント配線板であって、
前記屈曲領域を通る信号線と、絶縁層を介して前記信号線と異なる層に設けられたグランド層と、を備え、
前記屈曲領域において、前記フレキシブルプリント配線板を厚さ方向に見て、前記グランド層は、前記信号線と重なる部分の少なくとも一部において設けられておらず、かつ、前記信号線の幅方向に見て、前記空気層は、前記フレキシブルプリント配線板を貫通している。
【0009】
また、前記フレキシブルプリント配線板において、
前記グランド層には、前記フレキシブルプリント配線板を厚さ方向に見て、少なくとも一部が前記信号線と重なるグランド開口が設けられているようにしてもよい。
【0010】
また、前記フレキシブルプリント配線板において、
前記グランド開口の幅は前記信号線の幅と等しいようにしてもよい。
【0011】
また、前記フレキシブルプリント配線板において、
前記信号線を挟むように設けられたガードグランド配線を備え、
前記グランド開口は、前記フレキシブルプリント配線板を厚さ方向に見て、前記ガードグランド配線の前記信号線に対向する側の側端部まで開口しているようにしてもよい。
【0012】
また、前記フレキシブルプリント配線板において、
前記信号線を挟むように設けられたガードグランド配線を備え、
前記グランド開口は、前記フレキシブルプリント配線板を厚さ方向に見て、前記ガードグランド配線の途中まで開口しているようにしてもよい。
【0013】
また、前記フレキシブルプリント配線板において、
前記信号線は、複数本が並走するように設けられており、
前記グランド開口は、前記フレキシブルプリント配線板を厚さ方向に見て、少なくとも一部が前記複数本の信号線と重なるように開口しているようにしてもよい。
【0014】
また、前記フレキシブルプリント配線板において、
前記グランド開口は、前記信号線の側端部から前記信号線の幅方向に50~100μm離れた位置まで開口しているようにしてもよい。
【0015】
また、前記フレキシブルプリント配線板において、
前記グランド層は、前記屈曲領域を挟む第1のグランド層と第2のグランド層を有するようにしてもよい。
【0016】
また、前記フレキシブルプリント配線板において、
前記グランド開口は、前記屈曲領域の長手方向の全域にわたって延在するように設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フレキシブルプリント配線板が屈曲する際に特性インピーダンスが変動することを抑制でき、かつ耐屈曲性に優れたフレキシブルプリント配線板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】実施形態に係るフレキシブルプリント配線板の製造方法を説明する工程断面図である。
【
図1B】
図1Aに続く、実施形態に係るフレキシブルプリント配線板の製造方法を説明する工程断面図である。
【
図1C】
図1Bに続く、実施形態に係るフレキシブルプリント配線板の製造方法を説明する工程断面図である。
【
図2】実施形態に係るフレキシブルプリント配線板の平面図である。
【
図3】(a)は
図2のI-I線に沿う断面図であり、(b)は
図2のII-II線に沿う断面図である。
【
図4】実施形態に係るフレキシブルプリント配線板の伝送特性(特性インピーダンス)のシミュレーション結果を示す図である。
【
図5】実施形態の変形例1に係るフレキシブルプリント配線板の平面図である。
【
図7】実施形態の変形例1に係るフレキシブルプリント配線板の伝送特性(特性インピーダンス)のシミュレーション結果を示す図である。
【
図8】実施形態の変形例2に係るフレキシブルプリント配線板の平面図である。
【
図10】実施形態の変形例2に係るフレキシブルプリント配線板の伝送特性(特性インピーダンス)のシミュレーション結果を示す図である。
【
図11】(a)は比較例に係るフレキシブルプリント配線板の平面図である。(b)は(a)のI-I線に沿う断面図である。
【
図12】比較例に係るフレキシブルプリント配線板の伝送特性(特性インピーダンス)のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図においては、同等の機能を有する構成要素に同一の符号を付している。また、図面は模式的なものであり、各実施形態に係る特徴部分を中心に示すものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。
【0020】
<フレキシブルプリント配線板の製造方法>
まず、
図1A~
図1Cの工程断面図を参照しつつ、実施形態に係るフレキシブルプリント配線板の製造方法を説明する。
【0021】
図1A(1)に示すように、ベースフィルム11(第1のベースフィルム)と、ベースフィルム11の一方の主面に設けられた金属箔12(第1の金属箔)とを有する片面金属張積層板10を用意する。ベースフィルム11は、ポリイミドなどからなる絶縁フィルムである。金属箔12は銅箔である。
【0022】
次に、
図1A(2)に示すように、フォトファブリケーション等の手法を用いて片面金属張積層板10の金属箔12をパターニングして、信号線2を形成する。なお、本工程において、後述のガードグランド配線3も形成される。
【0023】
次に、
図1A(3)に示すように、カバーフィルム21と、このカバーフィルム21の一方の主面に設けられた接着剤層22とを有するカバーレイ20を用意し、接着剤層22が信号線2を埋設するようにカバーレイ20をベースフィルム11に貼り合わせる。
【0024】
次に、
図1A(4)に示すように、貫通領域A1が設けられたボンディングシート31をカバーフィルム21の上に仮付けする。同様に、貫通領域A2が設けられたボンディングシート32をベースフィルム11の上に仮付けする。ボンディングシート31,32は、たとえば、接着剤層22と同じ材料からなる。打ち抜き等により、貫通領域A1,A2がボンディングシート31,32にそれぞれ設けられている。
【0025】
本実施形態において、ボンディングシート31,32は、貫通領域A1と貫通領域A2が厚さ方向に見てほぼ重なるように配置される。貫通領域A1およびA2が空気層(中空部)となり、実施形態に係るフレキシブルプリント配線板の屈曲領域R(後述)となる。なお、ボンディングシート31,32は、貫通領域A1と貫通領域A2が厚さ方向に見て一部のみ重なるように配置されてもよい。
【0026】
次に、
図1B(1)に示すように、ベースフィルム11Aと、このベースフィルム11Aの一方の主面に設けられた金属箔12Aとを有する片面金属張積層板10Aを用意する。ベースフィルム11Aはポリイミドなどからなる絶縁フィルムであり、金属箔12Aは銅箔である。ベースフィルム11Aがボンディングシート31に接するように片面金属張積層板10Aをボンディングシート31に貼り合わせる。
【0027】
同様に、ベースフィルム11Bと、このベースフィルム11Bの一方の主面に設けられた金属箔12Bとを有する片面金属張積層板10Bを用意する。ベースフィルム11Bはポリイミドなどからなる絶縁フィルムであり、金属箔12Bは銅箔である。ベースフィルム11Bがボンディングシート32に接するように片面金属張積層板10Bをボンディングシート32に貼り合わせる。
【0028】
このように、片面金属張積層板10Aおよび片面金属張積層板10Bをボンディングシート31およびボンディングシート32にそれぞれ貼り合わせた後、真空プレス装置または真空ラミネータ装置を用いて加熱加圧することで接着剤層22およびボンディングシート31,32を硬化させる。
【0029】
次に、
図1B(2)に示すように、金属箔12Aにレーザ加工用のコンフォーマルマスクM1,M2を形成する。コンフォーマルマスクM1,M2は、たとえば、金属箔12Aに対しエッチング処理を施すことにより形成する。本実施形態では、コンフォーマルマスクM1,M2は、信号線2の両端部(
図1B(2)中の左端および右端)に対応する部分に形成される。
【0030】
次に、
図1B(3)に示すように、コンフォーマルマスクM1,M2にレーザ光を照射して、底面に信号線2が露出した導通用孔H1,H2を形成する。レーザ光は、たとえば、炭酸ガスレーザなどの赤外線レーザ、あるいはUV-YAGレーザなどを用いる。レーザ光を照射した後、デスミア処理を行って導通用孔H1,H2の底部の樹脂残渣等を除去する。
【0031】
次に、
図1B(4)に示すように、導通用孔H1,H2にめっき処理(たとえば、電解銅めっき処理)を施して、信号線2と金属箔12Aを電気的に接続するビア41,42を形成する。本実施形態では導通用孔H1,H2をめっき金属(たとえば、銅)で充填するが、充填しなくてもよい。
【0032】
次に、
図1C(1)に示すように、フォトファブリケーション等の手法を用いて金属箔12Aをパターニングして、ビア41,42に電気的に接続する信号端子51,52を形成する。なお、本工程において、ガードグランド配線が電気的に接続し、グランド開口GO1が設けられたグランド層61も形成される。詳しくは後述するが、グランド開口GO1は、屈曲領域Rにおいて、厚さ方向に見て、信号線2と重なるように形成される。
【0033】
図1C(1)に示すように、金属箔12Bをパターニングして、グランド開口GO2が設けられたグランド層62が形成される。なお、図示しないが、延在領域Sにおいてガードグランド配線3がグランド層62に電気的に接続する。
【0034】
本実施形態では、グランド開口GO1とグランド開口GO2は厚さ方向に見て重なるように設けられている。
【0035】
その後、
図1C(2)に示すように、保護用のカバーレイ20A,20Bを貼り合わせる。詳しくは、カバーフィルム21Aと、このカバーフィルム21Aの一方の主面に設けられた接着剤層22Aとを有するカバーレイ20Aを用意し、接着剤層22Aがビア41,42およびグランド開口GO1を埋設するようにカバーレイ20Aを貼り合わせる。また、カバーフィルム21Bと、このカバーフィルム21Bの一方の主面に設けられた接着剤層22Bとを有するカバーレイ20Bを用意し、接着剤層22Bがグランド開口GO2を埋設するようにカバーレイ20Bを貼り合わせる。その後、真空プレス装置または真空ラミネータ装置を用いて加熱加圧することで接着剤層22A,22Bを硬化させる。
【0036】
上記の工程の後、信号端子51,52の表面処理や、外形加工等を行って、実施形態に係るフレキシブルプリント配線板1が作製される。本実施形態では、外形加工において不要な端部が除去されることより、空気層は信号線2の幅方向に見て、フレキシブルプリント配線板1を貫通するようになる。また、上記製造方法によれば、信号端子51,52を形成する工程内においてグランド開口GO1を形成することができる。すなわち、新たな工程を追加することなく、実施形態に係るフレキシブルプリント配線板1を製造することができる。
【0037】
なお、ベースフィルム11,11A,11Bおよびカバーフィルム21の材料は、MPI、PIなどのポリイミド系材料でもよく、あるいは、液晶ポリマー(LCP)、フッ素系材料(PFA、PTFE等)等の他の絶縁材料あってもよい。また、金属箔12,12A,12Bは、銅以外の金属(銀、アルミニウムなど)からなる金属箔でもよい。
【0038】
<フレキシブルプリント配線板>
次に、
図2および
図3等を参照して、上記のようにして作製されたフレキシブルプリント配線板の構成について説明する。
図2は、本実施形態に係るフレキシブルプリント配線板の平面図である。
図3(a)は
図2のI-I線に沿う断面図であり、
図3(b)は
図2のII-II線に沿う断面図であり。なお、
図3(b)は
図1C(2)と同じ図である。
【0039】
本実施形態に係るフレキシブルプリント配線板1は、信号線2と、ガードグランド配線3と、ビア41,42と、信号端子51,52と、グランド層61,62とを備える。
【0040】
フレキシブルプリント配線板1において、信号線2とグランド層61,62との間に空気層AL1,AL2が設けられた領域が屈曲領域Rとなっている。空気層AL1,AL2が設けられていることにより、信号線2、グランド層61およびグランド層62は独立して屈曲することができる。その結果、屈曲時の曲率半径の違いにより発生する応力が緩和されるため、高い耐屈曲性が得られる。
【0041】
また、空気層AL1,AL2は、信号線2の幅方向に見て、フレキシブルプリント配線板1を貫通している。すなわち、空気層AL1,AL2は、フレキシブルプリント配線板1の一方の側面から他方の側面まで延在している。これにより、フレキシブルプリント配線板1の耐屈曲性(繰り返し屈曲性)をさらに向上させることができる。
【0042】
屈曲領域Rを挟むように、信号線2が延在する延在領域Sが設けられている。
図2では、屈曲領域Rの方が延在領域Sよりも長い形態を図示している。これに限られず、延在領域Sは屈曲領域Rよりも長い領域であってもよい。
【0043】
図3(a)に示すように、延在領域Sにおいて、信号線2とグランド層61は、接着剤層22、カバーフィルム21、ボンディングシート31およびベースフィルム11Aからなる絶縁層を挟むように設けられている。屈曲領域Rにおいて、信号線2とグランド層61は、接着剤層22、カバーフィルム21、空気層AL1およびベースフィルム11Aからなる絶縁層を挟むように設けられている。
【0044】
また、延在領域Sにおいて、信号線2とグランド層62は、ベースフィルム11、ボンディングシート32およびベースフィルム11Bからなる絶縁層を挟むように設けられている。屈曲領域Rにおいて、信号線2とグランド層62は、ベースフィルム11、空気層AL2およびベースフィルム11Bからなる絶縁層を挟むように設けられている。
【0045】
信号線2は、高周波信号が伝播する線路である。本実施形態では、信号線2は、フレキシブルプリント配線板1の長手方向に沿って、屈曲領域Rを通って延在するように設けられている。フレキシブルプリント配線板1は、信号線1の上側および下側にグランド層61およびグランド層62がそれぞれ設けられる、いわゆるストリップライン構造を有する。
【0046】
ガードグランド配線3は、
図2および
図3(b)に示すように、平面視で信号線2を挟むように設けられている。本実施形態では、ガードグランド配線3は、フレキシブルプリント配線板1の長手方向に沿って、屈曲領域Rを通って延在するように設けられている。ガードグランド配線3は、延在領域Sにおいて、図示しないビアによりグランド層61および/またはグランド層62に電気的に接続されている。
【0047】
なお、複数の信号線2が並走するように設けられてもよい。その場合、信号線2間にガードグランド配線3が設けられる。あるいは、複数の信号線2を挟むようにガードグランド配線3が設けられてもよい。
【0048】
ビア41は、信号線2の一端と信号端子51とを電気的に接続する。ビア42は、信号線2の他端と信号端子52とを電気的に接続する。信号端子51,52はコネクタ、または他のプリント配線板等に接続される。
【0049】
グランド層61,62は、上記のように絶縁層を介して信号線2と異なる層に設けられている。なお、グランド層61,62は、フレキシブルプリント配線板1が電子機器の筐体内に配置されたときに他の部品またはプリント配線板と近接することとなる近接面において、いわゆるベタパターンとなっていることが好ましい。グランド層61,62は、屈曲領域Rおよび延在領域Sにわたってベタパターンとなっていてもよい。
【0050】
図2および
図3(b)に示すように、グランド層61,62には、屈曲領域Rにおいて、フレキシブルプリント配線板1を厚さ方向に見てグランド層61,62が信号線2と重ならないように、グランド開口GO1,GO2が設けられている。すなわち、グランド層61には厚さ方向に見て信号線2と重なるグランド開口GO1が設けられており、グランド層62には厚さ方向に見て信号線2と重なるグランド開口GO2が設けられている。本実施形態では、
図3(b)に示すように、グランド開口GO1,GO2の幅は、信号線2の幅と等しい。
【0051】
図4に、本実施形態に係るフレキシブルプリント配線板1の伝送特性(特性インピーダンス)のシミュレーション結果を示す。信号線2とガードグランド配線3との間の距離は50μmとした。ガードグランド配線3の線幅は信号線2と同じとした。シミュレーションに用いた各層の厚みおよび物性は表1に示す通りである。
【0052】
【表1】
上記条件で行ったシミュレーションの結果によれば、特性インピーダンスの目標値である50Ωは、空気層AL1,AL2の厚さ(Gap)がそれぞれ25μm(設計値)であり、かつ信号線2の線幅が150~160μmの間の場合に達成される。また、Gapが0μmの場合、当該線幅における特性インピーダンスは38Ω(目標値から-12.0Ω)であり、Gapが50μmの場合、当該線幅における特性インピーダンスは58Ω(目標値から+8.0Ω)である。このように、屈曲による空気層AL1,AL2の厚みの変化に伴って特性インピーダンスは目標値から±10%以上変動する。しかし、グランド開口のない場合(後述の比較例)に比べると、特性インピーダンスの変動を小さくすることができる。
【0053】
なお、グランド層61,62のグランド開口GO1,GO2は、屈曲領域Rの長手方向の全域にわたって設けられていなくてもよい。すなわち、屈曲領域Rの長手方向の一部領域にのみグランド開口GO1,GO2が設けられていてもよい。
【0054】
また、グランド開口GO1,GO2は、フレキシブルプリント配線板1の長手方向と直交する幅方向の全域にわたって信号線2の側端部まで開口していなくてもよい。すなわち、屈曲領域Rの幅方向の一部領域にのみグランド開口GO1,GO2が設けられていてもよい。
【0055】
また、グランド開口GO1とグランド開口GO2の開口形状が互いに異なってよい。
【0056】
また、複数本の信号線2が設けられる場合、グランド開口GO1,GO2はフレキシブルプリント配線板1を厚さ方向に見て、少なくとも一部が複数本の信号線2と重なるように開口してもよい。あるいは、各信号線2について、対応する信号線2の少なくとも一部と重なるグランド開口GO1,GO2が設けられてもよい。
【0057】
グランド開口GO1,GO2の開口幅は上記実施形態に限られない。グランド開口GO1,GO2の開口幅が異なる変型例1,2を以下に説明する。
【0058】
<変型例1>
次に、
図5および
図6等を参照して、変型例1に係るフレキシブルプリント配線板1Aについて説明する。
図5は、フレキシブルプリント配線板1Aの平面図である。
図6は、
図5におけるII-II線に沿う断面図である。なお、
図5におけるI-I線に沿う断面図は
図1C(2)と同じである。
【0059】
図5および
図6から分かるように、本変型例では、グランド開口GO1,GO2はガードグランド配線3の側端部まで開口している。詳しくは、グランド開口GO1は、フレキシブルプリント配線板1を厚さ方向に見て、ガードグランド配線3の信号線2に対向する側の側端部まで開口している。図示しないが、グランド開口GO2も同様に、フレキシブルプリント配線板1を厚さ方向に見て、ガードグランド配線3の信号線2に対向する側の側端部まで開口している。
【0060】
図7は、本変型例に係るフレキシブルプリント配線板1Aの伝送特性(特性インピーダンス)のシミュレーション結果を示している。グランド開口GO1,GO2の開口幅以外のシミュレーション条件は、前述の実施形態の場合と同じである。
【0061】
シミュレーション結果によれば、特性インピーダンスの目標値である50Ωは、空気層AL1,AL2の厚さ(Gap)が各25μmであり、かつ信号線2の線幅が500~550μmの間で達成される。また、Gapが0μmの場合、当該線幅における特性インピーダンスは48.3Ω(目標値から-1.7Ω)であり、Gapが50μmの場合、当該線幅における特性インピーダンスは51.2Ω(目標値から+1.2Ω)である。このように、本変型例によれば、空気層AL1,AL2の厚みの変化に伴う特性インピーダンスの変動を目標値の±10%の範囲内に収めることができる。
【0062】
なお、グランド開口GO1,GO2は、グランド開口GO1,GO2の長手方向の全域にわたってガードグランド配線3の側端部まで開口していなくてもよい。すなわち、グランド開口GO1,GO2が長手方向の一部の領域においてガードグランド配線3の側端部まで開口するようにしてもよい。
【0063】
<変型例2>
次に、
図8および
図9等を参照して、変型例2に係るフレキシブルプリント配線板1Bについて説明する。
図8は、フレキシブルプリント配線板1Bの平面図である。
図9は、
図8におけるII-II線に沿う断面図である。なお、
図8におけるI-I線に沿う断面図は
図1C(2)と同じである。
【0064】
図8および
図9から分かるように、本変型例では、グランド開口GO1,GO2は、フレキシブルプリント配線板1を厚さ方向に見て、ガードグランド配線3の途中まで(すなわち、ガードグランド配線3の側端部よりも幅方向の外側まで)開口している。
【0065】
図10は、本変型例に係るフレキシブルプリント配線板1Bの伝送特性(特性インピーダンス)のシミュレーション結果を示している。グランド開口GO1,GO2の開口幅以外のシミュレーション条件は実施形態の場合と同じである。
【0066】
シミュレーション結果によれば、特性インピーダンスの目標値である50Ωは、空気層AL1,AL2の厚さ(Gap)が各25μmであり、かつ信号線2の線幅が1050~1150μmの間で達成される。また、Gapが0μmの場合、当該線幅における特性インピーダンスは48.7Ω(目標値から-1.3Ω)であり、Gapが50μmの場合、当該線幅における特性インピーダンスは50.4Ω(目標値から+0.4Ω)である。このように、本変型例によれば、空気層AL1,AL2の厚みの変化に伴う特性インピーダンスの変動を大幅に低減することができる。
【0067】
なお、グランド開口GO1,GO2は、グランド開口GO1,GO2の長手方向の全域にわたってガードグランド配線3の途中まで開口していなくてもよい。すなわち、グランド開口GO1,GO2が長手方向の一部の領域においてガードグランド配線3の途中まで開口するようにしてもよい。
【0068】
上記の実施形態および変型例から分かるように、グランド開口GO1,GO2の開口幅が大きくなるにつれて、空気層AL1,AL2の厚みの変化に伴う特性インピーダンスの変動が小さくなる傾向にある。他方、グランド開口GO1,GO2の開口幅が大きすぎると、グランド層の効果が薄れてしまい、ノイズ耐性の劣化などを引き起こしてしまう。このため、たとえば、グランド開口GO1,GO2が信号線2の側端部から信号線2の幅方向に50~100μm離れた位置まで開口するようにすることが望ましい。
【0069】
さらに、変型例2のように、グランド開口GO1,GO2が、信号線2と同じ層にあるガードグランド配線3の途中まで開口していることにより、特性インピーダンスの変動を大幅に抑制することができる。
【0070】
なお、上記実施形態および変型例で示した材料の種類、厚みは一例であり、他の材料の種類、厚みであってもよい。
【0071】
また、上記の実施形態では導体層が3層であったが、これに限定されない。すなわち、信号線が含まれる導体層と、グランド層が含まれる導体層とを有するものであれば、2層または4層以上の導体層を有するフレキシブルプリント配線板であってもよい。
【0072】
また、上記の実施形態ではフレキシブルプリント配線板の信号線の上下両側の層にグランド層が設けられる、いわゆるストリップライン構造であったが、これに限られない。すなわち、フレキシブルプリント配線板は、信号線の片側の層のみにグランド層が設けられる、いわゆるマイクロストリップライン構造を有するものであってもよい。この場合、フレキシブルプリント配線板には、たとえば、グランド層61およびグランド層62のいずれか一方のみが設けられる。
【0073】
また、上記の実施形態ではグランド層にグランド開口が設けられたが、これに限定されず、グランド層が屈曲領域Rを挟んで2つに分離されてもよい。この場合、グランド層は、屈曲領域を挟む第1のグランド層と第2のグランド層を有する。
【0074】
また、上記フレキシブルプリント配線板の製造方法によれば、信号端子を形成する工程内でグランド開口を形成するため、新たな工程を追加する必要無く、安価に、屈曲領域の曲げに対して特性インピーダンスの変動が抑制されたフレキシブルプリント配線板を製造することができる。
【0075】
以上説明したように、本開示において、信号線2の上下に位置するグランド層61,62は、屈曲領域Rにおいて、フレキシブルプリント配線板1の厚さ方向に見て、信号線2の少なくとも一部と重ならないように構成されている。換言すれば、屈曲領域Rにおいて、フレキシブルプリント配線板を厚さ方向に見て、グランド層は、信号線と重なる部分の少なくとも一部において設けられていない。これにより、フレキシブルプリント配線板が屈曲する際に空気層AL1,AL2の厚みが変化しても、特性インピーダンスの変動を抑制することができる。
【0076】
さらに、実施形態に係るフレキシブルプリント配線板1では、屈曲領域Rにおいて信号線2とグランド層61,62との間に空気層AL1,AL2が設けられ、かつ、空気層AL1,AL2がフレキシブルプリント配線板1を幅方向に貫通している。このため、フレキシブルプリント配線板の耐屈曲性(繰り返し屈曲性)を大幅に向上させることができる。
【0077】
<比較例>
図11(a),(b)および
図12を参照して、比較例を説明する。
図11(a)は、比較例に係るフレキシブルプリント配線板100の平面図である。
図11(b)は、
図11(a)におけるI-I線に沿う断面図である。
図12は、フレキシブルプリント配線板100の伝送特性(特性インピーダンス)のシミュレーション結果を示している。
【0078】
比較例に係るフレキシブルプリント配線板100は、
図11に示すように、信号線120と、ガードグランド配線130と、ビア141,142と、信号端子151,152と、グランド層161,162とを備える。グランド層161,162は、フレキシブルプリント配線板100を厚さ方向に見て、絶縁層171,172を介して信号線120を挟み込み、ストリップライン構造を形成するように設けられている。
【0079】
フレキシブルプリント配線板100は、屈曲領域Rと、この屈曲領域Rを挟むように、信号線120が延在する延在領域Sが設けられている。屈曲領域Rには、空気層(中空部)AL110,AL120が設けられている。グランド層161,162には、グランド開口は設けられておらず、いわゆるベタパターンとして設けられている。
【0080】
図12は、比較例に係るフレキシブルプリント配線板100の特性インピーダンスのシミュレーションを行った結果を示すグラフである。グラフの横軸は信号線120の線幅、縦軸は特性インピーダンスをそれぞれ示している。シミュレーションで使用した各層の厚み、および比誘電率は、前述の表1と同じである。
【0081】
シミュレーションの結果によれば、特性インピーダンスの目標値である50Ωは、空気層AL110,AL120の厚さ(Gap)が各25μmであり、かつ信号線120の線幅が120~130μmの間で達成される。また、Gapが0μmの場合、当該線幅における特性インピーダンスは34.3Ω(目標値から-15.7Ω)であり、Gapが50μmの場合、当該線幅における特性インピーダンスは60Ω(目標値から+10.0Ω)である。このように、比較例に係るフレキシブルプリント配線板の場合、屈曲時の特性インピーダンスの変動が上述の実施形態および変型例に比べて大きく、特性インピーダンスの変化を目標値の±10%であり、高速信号を伝播させることが困難である。
【0082】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した実施形態および変型例に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0083】
1,1A,1B,100 フレキシブルプリント配線板
2,120 信号線
3,130 ガードグランド配線
10,10A,10B 片面金属張積層板
11,11A,11B ベースフィルム
12,12A,12B 金属箔
20,20A,20B カバーレイ
21,21A,21B カバーフィルム
22,22A,22B 接着剤層
31,32 ボンディングシート
41,42,141,142 ビア
51,52,151,152 信号端子
61,62,161,162 グランド層
171,172 絶縁層
A1,A2 貫通領域
GO1,GO2 グランド開口
AL1,AL2,AL110,AL120 空気層
H1,H2 導通用孔
M1,M2 コンフォーマルマスク
R 屈曲領域
S 延在領域