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特開2024-68131マスターバッチを含むアイオノマー組成物およびそれから製造されたガラス積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068131
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】マスターバッチを含むアイオノマー組成物およびそれから製造されたガラス積層体
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20240510BHJP
   C09J 133/02 20060101ALI20240510BHJP
   C09J 123/08 20060101ALI20240510BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20240510BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20240510BHJP
   C08K 5/544 20060101ALI20240510BHJP
   C03C 27/12 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
C08J3/22 CES
C09J133/02
C09J123/08
C08L23/26
C08K5/54
C08K5/544
C03C27/12 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023181436
(22)【出願日】2023-10-20
(31)【優先権主張番号】10-2022-0145694
(32)【優先日】2022-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】515215276
【氏名又は名称】エスケー ジオ セントリック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】イ サン ユプ
(72)【発明者】
【氏名】ベロット クリスチャン マッロ
(72)【発明者】
【氏名】クウォン スン ミン
【テーマコード(参考)】
4F070
4G061
4J002
4J040
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AB01
4F070AC53
4F070AC75
4F070AE30
4F070FA03
4F070FA17
4F070FB03
4F070FB06
4F070FB07
4F070FC05
4G061AA01
4G061CB16
4G061CD18
4J002BB231
4J002BB232
4J002EX066
4J002EX076
4J002EX086
4J002GF00
4J002GJ01
4J040DA071
4J040DF011
4J040GA07
4J040HD32
4J040JA09
4J040LA06
4J040MA05
4J040PA30
4J040PA33
(57)【要約】      (修正有)
【課題】架橋副反応を効果的に抑制することで、透明性、加工性およびガラス接着力が著しく向上したアイオノマー組成物、ガラス積層体およびアイオノマー組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】ナトリウムアイオノマーと、亜鉛アイオノマーおよびカップリング剤を含有するマスターバッチと、を含み、前記ナトリウムアイオノマーは、亜鉛アイオノマーよりも高い含有量で含まれる、アイオノマー組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムアイオノマーと、
亜鉛アイオノマーおよびカップリング剤を含有するマスターバッチと、
を含み、
前記ナトリウムアイオノマーは、亜鉛アイオノマーよりも高い含有量で含まれる、アイオノマー組成物。
【請求項2】
前記ナトリウムアイオノマーおよび亜鉛アイオノマーは、それぞれ独立してエチレン-(メタ)アクリル酸アイオノマーである、請求項1に記載のアイオノマー組成物。
【請求項3】
前記亜鉛アイオノマーは、亜鉛金属による中和度が5~50mol%である、請求項1に記載のアイオノマー組成物。
【請求項4】
前記ナトリウムアイオノマーは、ナトリウム金属による中和度が10~60mol%である、請求項1に記載のアイオノマー組成物。
【請求項5】
前記ナトリウムアイオノマーと前記亜鉛アイオノマーの重量比が4~20:1である、請求項1に記載のアイオノマー組成物。
【請求項6】
前記カップリング剤は、アルコキシシラン系化合物を含む、請求項1に記載のアイオノマー組成物。
【請求項7】
前記アルコキシシラン系化合物は、アミノ基およびC1-5のアルコキシ基を含有するものである、請求項6に記載のアイオノマー組成物。
【請求項8】
前記アルコキシシラン系化合物は、アミノプロピルジメトキシメチルシラン、アミノプロピルジエトキシメチルシラン、アミノプロピルジメトキシエチルシラン、アミノプロピルジエトキシエチルシラン、アミノプロピルジメトキシプロピルシランおよびアミノプロピルジエトキシプロピルシランから選択される1つまたは2つ以上の組み合わせである、請求項6に記載のアイオノマー組成物。
【請求項9】
前記カップリング剤は、前記亜鉛アイオノマー100重量部に対して0.1~5重量部含まれる、請求項1に記載のアイオノマー組成物。
【請求項10】
前記マスターバッチは、前記ナトリウムアイオノマー100重量部に対して5~30重量部含まれる、請求項1に記載のアイオノマー組成物。
【請求項11】
前記アイオノマー組成物は、ASTM D1238に準拠して190℃の温度および2.16kgの荷重条件で測定したメルトフローインデックスが0.5~10g/10min.である、請求項1に記載のアイオノマー組成物。
【請求項12】
前記アイオノマー組成物は、合わせガラスの中間層を形成するのに用いられる、請求項1に記載のアイオノマー組成物。
【請求項13】
前記アイオノマー組成物は、1mm厚さの条件で測定したガラスに対する接着力が50N/cm以上である、請求項1に記載のアイオノマー組成物。
【請求項14】
前記アイオノマー組成物から形成された1mm厚さのフィルムは、ASTM D1003に基づき測定したヘイズが0.7%以下である、請求項1に記載のアイオノマー組成物。
【請求項15】
第1のガラスと、
前記第1のガラスの上面に位置し、請求項1に記載のアイオノマー組成物から形成された中間層と、
前記中間層の上面に位置する第2のガラスと、
を含む、ガラス積層体。
【請求項16】
(a)亜鉛アイオノマーおよびカップリング剤を含む組成物を溶融混練してマスターバッチを製造するステップと、
(b)ナトリウムアイオノマーおよび前記マスターバッチを溶融混練するステップと、
を含む、アイオノマー組成物の製造方法。
【請求項17】
前記(a)ステップで、
前記マスターバッチは、前記カップリング剤が前記亜鉛アイオノマーの内部に均一な分散状態で存在している、請求項16に記載のアイオノマー組成物の製造方法。
【請求項18】
前記(a)ステップの溶融混練温度は、前記(b)ステップの溶融混練温度よりも低い、請求項16に記載のアイオノマー組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マスターバッチを含むアイオノマー組成物およびそれから製造されたガラス積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
アイオノマーとは、共有結合とイオン結合を同時に所有している熱可塑性プラスチックを意味し、代表的にエチレン-メタクリル酸共重合体やエチレン-アクリル酸共重合体などのエチレン系アイオノマーを例に挙げることができる。一般的に、アイオノマーは食品包装フィルム、トレイ、ポーチ、ガラスおよび容器に接着用またはコーティング用などに使用されている。
【0003】
特に、前記エチレン-メタクリル酸共重合体やエチレン-アクリル酸共重合体などのアクリル酸またはメタクリル酸成分の含有量を高めたり、金属塩による中和度を高める方法により、透明性に優れたアイオノマーを製造し、合わせガラス中間層、太陽電池封止層、透明容器などの透明素材分野に適用することもある。また、金属塩の種類によってこのような透明性が変わってくるが、主に高透明性アイオノマーとしてナトリウム(Na)アイオノマーを使用している。しかし、ナトリウムアイオノマーのナトリウム金属イオンは強い凝集力を示し、周囲のアクリル酸またはメタクリル酸と相互作用するため、余剰の酸基が少なくガラスとの接着性能が不十分という問題がある。
【0004】
前述の問題を解決するために、ガラスとの接着性能を向上させるシランカップリング剤を投入した場合には、前記ナトリウムアイオノマーとカップリング剤が過度に架橋副反応を起こし、溶融流動指数(メルトフローインデックス)が著しく低下し、ヘイズが過度に高くなるという問題が発生した。
【0005】
一方、亜鉛(Zn)アイオノマーは、決められた酸価または配位数により、周囲のアクリル酸またはメタクリル酸の一部分だけ相互作用し、ナトリウムアイオノマーより余剰の酸基が多く残る。このため、亜鉛アイオノマーはナトリウムアイオノマーよりガラス板だけでなく、アルミ箔や金属表面、紙表面の水酸化物、セルロースなどの成分とも強い接着力を実現できる利点がある。しかし、亜鉛アイオノマーは透明性がナトリウムアイオノマーより不十分であるという欠点がある。
【0006】
したがって、透明性に優れたナトリウムアイオノマーの利点と、接着力に優れた亜鉛アイオノマーの利点を同時に実現できる、透明性、加工性およびガラス接着性に優れたアイオノマー組成物に対する研究開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の目的は、カップリング剤の架橋副反応を最小化し、透明性、加工性およびガラス接着性に優れたアイオノマー組成物およびその製造方法を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、透明性および接着性に優れたガラス積層体およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前述の問題点を解決するために、亜鉛アイオノマーをシランカップリング剤と先に混合してマスターバッチを製造した後、前記マスターバッチおよびナトリウムアイオノマーを含むアイオノマー組成物を製造する場合、前記シランカップリング剤の架橋副反応が効果的に抑制され、従来急激に悪化していたメルトフローインデックスとヘイズが良好な値を示し、同時にガラス接着力が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本開示は、ナトリウムアイオノマーと、亜鉛アイオノマーおよびカップリング剤を含むマスターバッチと、を含み、前記ナトリウムアイオノマーは、亜鉛アイオノマーよりも高い含有量で含まれるアイオノマー組成物を提供する。
【0011】
一実施形態によれば、前記ナトリウムアイオノマーおよび亜鉛アイオノマーは、それぞれ独立してエチレン-(メタ)アクリル酸アイオノマーであることが好ましい。
【0012】
一実施形態によれば、前記亜鉛アイオノマーは、亜鉛金属による中和度が5~50mol%であることが好ましい。
【0013】
一実施形態によれば、前記ナトリウムアイオノマーは、ナトリウム金属による中和度が10~60mol%であることが好ましい。
【0014】
一実施形態によれば、前記ナトリウムアイオノマーと前記亜鉛アイオノマーとの重量比は、4~20:1であることが好ましい。
【0015】
一実施形態によれば、前記カップリング剤は、アルコキシシラン系化合物を含むことが好ましい。
【0016】
一実施形態によれば、前記アルコキシシラン系化合物は、アミノ基およびC1-5のアルコキシ基を含むことが好ましい。
【0017】
一実施形態によれば、前記アルコキシシラン系化合物は、アミノプロピルジメトキシメチルシラン、アミノプロピルジエトキシメチルシラン、アミノプロピルジメトキシエチルシラン、アミノプロピルジエトキシエチルシラン、アミノプロピルジメトキシプロピルシランおよびアミノプロピルジエトキシプロピルシランなどから選択される1つまたは2つ以上の組み合わせであることが好ましい。
【0018】
一実施形態によれば、前記カップリング剤は、前記亜鉛アイオノマー100重量部に対して0.1~5重量部を含むことが好ましい。
【0019】
一実施形態によれば、前記マスターバッチは、前記ナトリウムアイオノマー100重量部に対して5~30重量部を含むことが好ましい。
【0020】
一実施形態によれば、前記アイオノマー組成物は、ASTM D1238に準拠して190℃の温度および2.16kgの荷重条件で測定したメルトフローインデックスが0.5~10g/10min.であることが好ましい。
【0021】
一実施形態によれば、前記アイオノマー組成物は、合わせガラスの中間層を形成するのに用いられることが好ましい。
【0022】
一実施形態によれば、前記アイオノマー組成物は、1mmの厚さの条件で測定したガラスに対する接着力が50N/cm以上であることが好ましい。
【0023】
一実施形態によれば、前記アイオノマー組成物から形成された1mm厚さのフィルムは、ASTM D1003に基づいて測定したヘイズが0.7%以下であることが好ましい。
【0024】
本開示は、第1ガラスと、前記第1ガラスの上面に位置し、前記アイオノマー組成物から形成された中間層と、前記中間層の上面に位置する第2ガラスを含むガラス積層体と、を提供することができる。
【0025】
本開示は、(a)亜鉛アイオノマーおよびカップリング剤を含む組成物を溶融混練してマスターバッチを製造するステップと、(b)ナトリウムアイオノマーおよび前記マスターバッチを溶融混練するステップと、を含むアイオノマー組成物の製造方法を提供することができる。
【0026】
一実施形態によれば、前記(a)ステップにおいて、前記マスターバッチは、前記カップリング剤が前記亜鉛アイオノマー内部に均一な分散状態で存在していることが好ましい。
【0027】
一実施形態によれば、前記(a)ステップの溶融混練温度は、前記(b)ステップの溶融混練温度よりも低いことが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本開示は、ガラスとの接着性に優れたアイオノマー組成物に関するものであって、亜鉛アイオノマーおよびカップリング剤が溶融混練されたマスターバッチを、ナトリウムアイオノマーとともに溶融混錬することにより、従来問題となっていた架橋副反応を効果的に抑制することができる。これにより、前記アイオノマー組成物は、従来よりも透明性、加工性およびガラス接着力が顕著に向上する効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、以下の実施例または実施形態は、本発明を詳細に説明するための例示であって、本発明がこれに限定されるものではなく、複数の形態で実施することができる。
【0030】
また、特に定義されていない限り、すべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。
【0031】
本発明において説明に使用される用語は、特定の実施形態を効果的に説明するためのものであり、本発明を限定することを意図するものではない。
【0032】
また、明細書および添付された特許請求の範囲に使用される単数形は、文脈から特別な指示がない限り、複数形も含むことを意図することができる。
【0033】
また、ある部分があるコンポーネントを「含む」と言うとき、これは特に反対の記載がない限り、他のコンポーネントを除外するのではなく、他のコンポーネントをさらに含めることができることを意味する。
【0034】
また、本明細書の用語(メタ)アクリル酸は、メタクリル酸またはアクリル酸を意味することができる。
【0035】
また、本明細書で使用される数値範囲は、下限値と上限値とその範囲内のすべての値、定義される範囲の形態と幅から論理的に誘導される増分、二重に限定されたすべての値、および異なる形態で限定された数値範囲の上限と下限のすべての可能な組み合わせを含むことができる。本発明の明細書で特別な定義がない限り、実験誤差または値の丸めにより発生する可能性がある数値範囲外の値も定義された数値範囲に含まれる。
【0036】
以下、本発明についてより具体的に説明する。
【0037】
従来、透明性は非常に優れているが、ガラス等との接着性が不十分なナトリウムアイオノマーにシランカップリング剤のような添加剤を投入して欠点を補おうとしたが、むしろ過剰な架橋副反応が起こり、加工性、透明性および成形品質が急激に低下する問題が発生した。
【0038】
このような問題を解決するために、本開示において、亜鉛アイオノマーをシランカップリング剤と先に混合してマスターバッチを製造した後、前記マスターバッチをナトリウムアイオノマーに投入してアイオノマー組成物を製造する方法を考案し、このような方法により、前記シランカップリング剤の架橋副反応を効果的に抑制し、従来の問題を効果的に解決することができ、さらに優れた透明性とガラス接着性を同時に実現できることを見出し、本発明を完成させた。
【0039】
本開示は、ナトリウムアイオノマーと、亜鉛アイオノマーおよびカップリング剤を含有するマスターバッチと、を含むアイオノマー組成物を提供する。具体的には、前記ナトリウムアイオノマーは、亜鉛アイオノマーよりも高い含有量で含まれることを特徴とする。
【0040】
一実施形態によれば、前記ナトリウムアイオノマーおよび亜鉛アイオノマーは、それぞれ独立してエチレン-(メタ)アクリル酸アイオノマーであってもよい。また、前記(メタ)アクリル酸は、アクリル酸またはメタクリル酸であってもよい。
【0041】
一実施形態によれば、前記ナトリウムアイオノマーは、ナトリウム中和エチレン-(メタ)アクリル酸アイオノマーであってもよい。具体的には、前記ナトリウム中和エチレン-(メタ)アクリル酸アイオノマーは、(メタ)アクリル酸の繰り返し単位を1~40wt%であることが好ましく、より好ましくは5~30wt%、さらに好ましくは10~25wt%である。
【0042】
また、前記ナトリウムアイオノマー、具体的にはナトリウム中和エチレン-(メタ)アクリル酸アイオノマーは、ナトリウム金属による中和度が5~70mol%であることが好ましく、より好ましくは10~60mol%、さらに好ましくは20~50mol%である。
【0043】
一実施形態によれば、前記ナトリウムアイオノマーは、ASTM D1238に準拠して190℃の温度および2.16kgの荷重条件で測定したメルトフローインデックスが0.1~10g/10min.であることが好ましく、より好ましくは1~5g/10min.であるが、これに限定されない。
【0044】
一実施形態によれば、前記ナトリウムアイオノマーは、1mm厚さのフィルム形態の場合、ASTM D1003に準拠して測定したヘイズが0.01~5%であることが好ましく、より好ましくは0.1~2%であるが、これに限定されない。
【0045】
一実施形態によれば、前記亜鉛アイオノマーは、亜鉛中和エチレン-(メタ)アクリル酸アイオノマーであってもよい。具体的には、前記亜鉛中和エチレン-(メタ)アクリル酸アイオノマーは、(メタ)アクリル酸繰り返し単位が1~40wt%であることが好ましく、より好ましくは5~30wt%、さらに好ましくは10~25wt%である。
【0046】
一実施形態によれば、前記亜鉛アイオノマー、具体的には亜鉛中和エチレン-(メタ)アクリル酸アイオノマーは、亜鉛金属による中和度が5~50mol%であることが好ましく、より好ましくは10~40mol%、さらに好ましくは15~30mol%である。
【0047】
一実施形態によれば、前記亜鉛アイオノマーは、ASTM D1238に準拠して190℃の温度および2.16kgの荷重条件で測定した溶融流量指数が0.1~30g/10min.であることが好ましく、より好ましくは3~20g/10min.であるが、これに限定されない。
【0048】
一実施形態によれば、前記亜鉛アイオノマーは、1mm厚さのフィルム形態の場合、ASTM D1003に準拠して測定したヘイズが0.1~10%であることが好ましく、より好ましくは0.1~5%であるが、これに限定されない。
【0049】
一実施形態によれば、前記ナトリウムアイオノマーと前記亜鉛アイオノマーとの重量比は、2~100:1であることが好ましく、より好ましくは4~50:1、さらに好ましくは9~30:1または4~20:1である。また、前記ナトリウムアイオノマーのナトリウム金属と前記亜鉛アイオノマーの亜鉛金属の重量比は、5~100:1であることが好ましく、より好ましくは5~70:1、さらに好ましくは7~40:1である。前記ナトリウムアイオノマーが亜鉛アイオノマーより高い含有量で含まれることにより、より向上した透明性、ガラス接着力が実現できる。
【0050】
一実施形態によれば、前記カップリング剤は、アルコキシシラン系化合物を含むことが好ましい。具体的には、前記アルコキシシラン系化合物は、C1-5のアルコキシ、 C1-3のアル コキシ基を含有することが好ましく、さらに、アミノ基、エポキシ基およびチオール基などから選択される1つ以上の官能基をさらに含有することがより好ましい。前記アルコキシシラン系化合物は、アミノ基およびC1-5のアルコキシ基を含有する化合物であることがより好適である。
【0051】
一実施形態によれば、前記アルコキシシラン系化合物は、3-アミノプロピルジメトキシメチルシラン、3-アミノプロピルジエトキシメチルシラン、アミノプロピルジメトキシエチルシラン、アミノプロピルジエトキシエチルシラン、アミノプロピルジメトキシプロピルシランおよびアミノプロピルジエトキシプロピルシランなどから選択される1つまたは2つ以上の組み合わせであることが好ましく、特に3-アミノプロピルジエトキシメチルシランであることが好適である。
【0052】
一実施形態によれば、前記カップリング剤は、前記亜鉛アイオノマー100重量部に対して0.01~10重量部であることが好ましく、より好ましくは0.1~5重量部、さらに好ましくはは0.5~3重量部である。また、前記カップリング剤は、前記ナトリウムアイオノマー100重量部に対して0.005~1重量部であることが好ましく、より好ましくは0.01~0.5重量部、さらに好ましくは0.05~0.3重量部である。
【0053】
一実施形態によれば、前記マスターバッチは、前記ナトリウムアイオノマー100重量部に対して1~50重量部であることが好ましく、より好ましくは3~40重量部、さらに好ましくは5~30または5~12重量部である。
【0054】
一実施形態によれば、前記アイオノマー組成物は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、ブロッキング防止剤、顔料、染料、遮熱物質(赤外線吸収剤)等、またはそれらの混合物を含む1つ以上の添加剤をさらに含むことができる。これらの添加剤は、通常、関連技術分野の当業者によく知られているものであれば、制限なく使用することができる。
【0055】
一実施形態により、前記アイオノマー組成物は、ASTM D1238に準拠して190℃の温度および2.16kgの荷重条件で測定したメルトフローインデックスが0.5~10g/10min.であることが好ましく、より好ましくは0.8~7g/10min.、さらに好ましくは1~5g/10min.である。従来のアイオノマー組成物は、過度の架橋副反応によりメルトフローインデックスが急激に低下するという問題があったが、一実施形態によるアイオノマー組成物は、このような問題を解決することにより、優れた加工性を実現することができる。
【0056】
一実施形態によれば、前記アイオノマー組成物は、透明性およびガラスとの接着性が要求される用途、例えば、合わせガラスの中間層、太陽電池の封止層、透明容器などの透明素材分野に幅広く適用することができる。
【0057】
一実施形態によれば、前記アイオノマー組成物は、厚さ1mmの条件で測定したガラスに対する(ガラス)接着力が50N/cm以上であることが好ましく、より好ましくは60N/cm以上、さらに好ましくは70N/cm以上、または75N/cm以上であり、また、上限は大きく制限されないが、200N/cm以下であることが好ましい。一実施形態によるアイオノマー組成物は、前記ナトリウムアイオノマーの(ガラス)接着力よりも向上した接着力を有することができる。
【0058】
一実施形態によれば、前記アイオノマー組成物から形成された1mm厚さのフィルムは、ASTM D1003に準拠して測定したヘイズが2%以下であることが好ましく、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.8%以下または0.7%以下であり、より好適には0.01~0.5%である。一実施形態によるアイオノマー組成物は、従来よりもヘイズ値の上昇が効果的に抑制できるという利点がある。
【0059】
本開示は、前述のアイオノマー組成物から製造されたアイオノマーフィルムを提供することができる。前記アイオノマーフィルムは、厚さが1μm~500mmであることができ、10μm~10mmであることができるが、これに限定されない。
【0060】
本開示は、第1ガラスと、前記第1ガラスの上面に位置し、前記アイオノマー組成物から形成された中間層と、前記中間層の上面に位置する第2ガラスとを含むガラス積層体を提供することができる。
【0061】
第1ガラスおよび第2ガラスは、それぞれ独立して通常知られているガラスを使用することができ、厚さは特に限定されないが、一例として1mm~50cmであることができる。第1ガラスおよび第2ガラスは、それぞれ独立して表面に接着力の向上のために追加の処理を行ったものであることができる。
【0062】
中間層は、上述したアイオノマー組成物から形成されたもので、優れた透明性およびガラス接着性を示すことができ、厚さは特に限定されないが、例えば、10μm~100mmの範囲にすることができる。前記中間層は、ガラスとガラスの間に介在してガラス間を接着する役割を果たすことができる。
【0063】
前記ガラス積層体を製造する方法は特に限定されず、第1ガラスと第2ガラスの間に上述したアイオノマー組成物から形成されたフィルムを介在させた後、熱などのエネルギーを加えて接着させることができるが、通常使用されるまたは公知の方法に従って行うことができる。
【0064】
本開示は、(a)亜鉛アイオノマーおよびカップリング剤を含む組成物を溶融混練してマスターバッチを製造するステップと、(b)ナトリウムアイオノマーおよび前記マスターバッチを溶融混練するステップと、を含むアイオノマー組成物の製造方法を提供することができる。
【0065】
一実施形態によれば、前記(a)ステップは、亜鉛アイオノマーおよびカップリング剤を含むマスターバッチを製造するステップであって、亜鉛アイオノマーおよびカップリング剤を含む組成物を、好適には100~250℃、より好適には120~200℃の温度で溶融混練するステップを含むことができる。これにより、前記マスターバッチは、前記亜鉛アイオノマー内部に前記カップリング剤が均一に分散されている状態で、前記亜鉛アイオノマーが単にカップリング剤が亜鉛アイオノマーの一部分や表面だけにあるのではなく、カップリング剤のキャリアとしての役割を果たし、カップリング剤の分散性を著しく向上させることができる。さらに、前記亜鉛アイオノマーがカップリング剤のキャリアとしての役割を果たすことにより、後日(b)ステップでナトリウムアイオノマー間に起こりうる過剰な架橋副反応を効果的に抑制することができる。これにより、一実施によるアイオノマー組成物は、優れた透明性および(ガラス)接着性を同時に実現することができる。また、マスターバッチを製造する過程は、一般的に使用したり、公知の方法、押出、射出などの加工方法を利用することができる。
【0066】
一実施形態によれば、前記(b)ステップは、前記(a)ステップで製造したマスターバッチをナトリウムアイオノマーと混合してアイオノマー組成物を製造するステップであり、具体的には、ナトリウムアイオノマーおよび前記マスターバッチを、好適には130~300℃、より好適には150~280℃、さらに好適には180~250℃の温度で溶融混練するステップを挙げることができる。また、アイオノマー組成物を製造するステップは、一般的に使用される方法や公知の方法、押出、射出などの加工方法を利用することができる。
【0067】
一実施形態によれば、前記(a)ステップであるマスターバッチ製造時の溶融混練温度は、前記(b)ステップの溶融混練温度よりも低いことが好ましく、それらの温度差は10~150℃であることが好ましく、より好ましくは15~120℃、さらに好ましくは20~80℃である。これにより、より向上した透明性を示すアイオノマー組成物を製造することができる。
【0068】
また、前記製造されたアイオノマー組成物を利用してフィルムやシート状に成形するステップをさらに含むことができ、前記成形するステップは、一般的に使用したり、公知の方法、押出、射出などの加工方法を利用することができる。
【0069】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、以下の実施例および比較例は、本発明をより詳細に説明するための一例であって、本発明が以下の実施例および比較例によって限定されるものではない。
【0070】
以下の実施例および比較例の物性は、以下の方法で測定した。
【0071】
[物性の評価方法]
1.メルトフローインデックス(Melt Flow Index, MFI)[g/10min.]
ASTM D1238に準拠して、190℃の温度および2.16kgの荷重条件でメルトフローインデックス(MFI)を測定した。
【0072】
2.ヘイズ(Haze)[%]
ASTM D1003に準拠して、Hazemeter(NDH8000、日本電産)で実施例または比較例で製造されたアイオノマーフィルム(厚さ1mm)のヘイズを測定した。
【0073】
3.接着力[N/cm]
ガラス板(幅7cm、長さ10cm、厚さ2cm)に実施例または比較例で製造されたアイオノマーフィルム(厚さ1mm、幅5cm、長さ8cm)およびテフロンフィルムを順に位置させた後、真空合紙装置で125℃の温度および12.5MPaの圧力で30分間加圧した。その後、サンプルを装置から取り出し、製造されたガラス積層体のテフロンフィルムを除去し、25℃および50RH%条件のオーブンで24時間放置した後、ガラス板上に接着されたアイオノマーフィルムを幅1cmに裁断してテスト用サンプルを製造した。製造されたサンプルのガラス板-アイオノマーフィルム間の接着力を測定した。測定器はUTM(INSTRON 5965)を用い、Tタイプ(180°角度)、200mm/min.の剥離速度条件で行った。
【0074】
- マスターバッチの製造
[製造例1]
亜鉛中和エチレンアクリル酸アイオノマー(アクリル酸13.5wt%、亜鉛中和度15mol%)100重量部に対し、3-アミノプロピルジエトキシメチルシラン1重量部を含む組成物を一軸反応押出機に投入し、180℃で30rpmで溶融押出し、製造例1のマスターバッチチップを製造した。
【0075】
[製造例2]
前記製造例1で亜鉛中和エチレンアクリル酸アイオノマーではなく、ナトリウム中和エチレンアクリル酸アイオノマー(アクリル酸13.5wt%、ナトリウム中和度31mol%)を同量使用した以外は、製造例1と同様に行った。
【0076】
- アイオノマー組成物の製造
[実施例1]
ナトリウム中和されたエチレンアクリル酸アイオノマー(アクリル酸13.5wt%、ナトリウム中和度31mol%)900gおよび前記製造例1のマスターバッチ100gを含む組成物をT-ダイの一軸反応押出機に投入し、230℃で30rpmで溶融押出し、厚さ約1mmのアイオノマーフィルムを製造した。また、押出機吐出部のダイをT-ダイから丸穴ダイに変更し、同じ押出工程でアイオノマーストランドを製造した。
【0077】
[比較例1]
亜鉛中和されたエチレンアクリル酸アイオノマー(アクリル酸13.5wt%、亜鉛中和度15mol%)1000gおよび3-アミノプロピルジエトキシメチルシラン1gを含む組成物を一軸反応押出機に投入し、230℃で30rpmで溶融押出し、厚さ約1mmのアイオノマーフィルムを製造した。また、実施例1と同様に押出工程を経てアイオノマーストランドを製造した。
【0078】
[比較例2]
前記実施例1において、製造例1のマスターバッチではなく、製造例2のマスターバッチを同量使用した以外は、実施例1と同様に行った。
【0079】
[比較例3]
前記比較例1でナトリウム中和エチレンアクリル酸アイオノマー900g、亜鉛中和エチレンアクリル酸アイオノマー100gおよび3-アミノプロピルジエトキシメチルシラン1gを含む組成物を使用した以外は、比較例1と同様に行った。
【0080】
前記実施例1および比較例1~3によるアイオノマー組成物のメルトフローインデックス、アイオノマーフィルムのヘイズ、接着力およびアイオノマーストランドの表面を測定して下記表1に示した。
【0081】
また、前記アイオノマーストランドの表面は、触感による表面の凹凸の粗さの程度により、不十分(凹凸の程度が顕著に現れる場合)、良好(凹凸の程度が弱く現れる場合)、優秀(凹凸の程度がほとんど感じられない場合)と評価した。
【0082】
【表1】
【0083】
前記表1から分かるように、カップリング剤のキャリア樹脂として亜鉛アイオノマーを含有するマスターバッチを製造した後、これをナトリウムアイオノマーに投入してアイオノマー組成物を製造する場合、良好なメルトフローインデックスを持ち、これを用いたアイオノマーフィルムはガラスとの優れた接着性と低いヘイズ値を示した。
【0084】
特に、比較例1~3のヘイズは、過度の架橋反応により、いずれも実施例1より高く測定され、比較例1の場合、過度に高いメルトフローインデックスを示し、比較例2、3の場合、低い接着力と不十分なストランド表面を示した。これらの比較例のアイオノマー組成物は、透明な特性が要求される合わせガラス中間層、太陽電池封止層、透明素材に使用するには限界があり、これにより、一実施形態によるアイオノマー組成物は、上述したマスターバッチを使用することにより、優れたガラスとの接着力、低いヘイズおよび優れた成形性を実現できることを確認した。
【0085】
以上のように、本発明では特定の事項と限定された実施例によって説明したが、これは本発明のより全体的な理解を助けるために提供されたものであり、本開示は前述の実施例に限定されるものではなく、本発明が属する分野で通常の知識を有する者であれば、これらの記載から様々な修正および変形が可能である。
【0086】
したがって、本発明の思想は、説明された実施例に限定して定められるものではなく、後述する特許請求の範囲だけでなく、この特許請求の範囲と均等または等価な変形があるすべてのものは、本発明の思想の範疇に属するといえる。