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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068140
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】半導体基板用処理液
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
H01L21/304 647A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023183934
(22)【出願日】2023-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2022177316
(32)【優先日】2022-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】山田 晃平
【テーマコード(参考)】
5F157
【Fターム(参考)】
5F157AA42
5F157AA73
5F157AA92
5F157AA93
5F157AA94
5F157AC01
5F157BB66
5F157BB73
5F157BD57
5F157BF24
5F157BF32
5F157BF63
5F157DA11
(57)【要約】
【課題】基板上の有機物の除去性に優れる半導体基板用処理液を提供する。
【解決手段】本開示は、一態様において、芳香族溶剤(成分A)と有機酸(成分B)とを含み、成分Aは芳香族エーテルを含む、半導体基板用処理液に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族溶剤(成分A)と、有機酸(成分B)と、を含み、
成分Aは芳香族エーテルを含む、半導体基板用処理液。
【請求項2】
ハロゲン系化合物を含まない、請求項1に記載の処理液。
【請求項3】
成分Aは、ジフェニルエーテルを含む、請求項1又は2に記載の処理液。
【請求項4】
成分Bは、スルホン酸類を含む、請求項1から3のいずれかに記載の処理液。
【請求項5】
成分Bは、フェノール類とスルホン酸類を含む、請求項1から4のいずれかに記載の処理液。
【請求項6】
成分Bは、アルキルフェノールとアルキルベンゼンスルホン酸を含む、請求項1から5のいずれかに記載の処理液。
【請求項7】
成分Bは、p-t-ブチルフェノールとドデシルベンゼンスルホン酸を含む、請求項1から6のいずれかに記載の処理液。
【請求項8】
前記処理液は、有機物を有する基板から有機物を除去するための剥離液である、請求項1から7のいずれかに記載の処理液。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載の処理液を用いて、有機物を有する基板を洗浄する工程を含む、洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体基板用処理液及びこれを用いた洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造過程において、リソグラフィ工程、エッチング工程等の様々な工程が含まれている。一般的に、各工程の終了後や次の工程に移る前に、基板上に存在する不要な有機物や無機物を処理液で処理する工程が含まれている。
例えば、特許文献1には、回路パターンが形成された基板の洗浄に用いる処理液として、特定のアルコキシシランと、特定のスルホン酸類と、炭化水素、エーテル及びチオールから選ばれる少なくとも1種の溶媒を含む薬液が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-168804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基板上に存在する有機物(例えば、樹脂マスク、反射防止膜等)や無機物(例えば、パーティクル)の除去に用いる処理液には、除去性を向上するために、ハロゲン化芳香族化合物が含まれていることがある。しかし、ハロゲン化芳香族化合物が含まれていると、焼却処理時に有毒物質が発生するという問題がある。
処理液には、ハロゲン化芳香族化合物を含まなくても、基板上に存在する有機物や無機物に対する高い除去性が要求される。
【0005】
そこで、本開示は、基板上の有機物の除去性に優れる処理液及びこれを用いた洗浄方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、一態様において、芳香族溶剤(成分A)と、有機酸(成分B)と、を含み、成分Aは芳香族エーテルを含む、半導体基板用処理液に関する。
【0007】
本開示は、一態様において、本開示の処理液を用いて、有機物を有する基板を洗浄する工程を含む、洗浄方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、基板上の有機物の除去性に優れる半導体基板用処理液を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、芳香族エーテルを含む芳香族溶剤(成分A)及び有機溶剤(成分B)を含む処理液を用いることで、基板表面から有機物を効率よく除去できるという知見に基づく。
【0010】
[半導体基板用処理液]
本開示は、一態様において、芳香族溶剤(成分A)と、有機酸(成分B)と、を含み、成分Aは芳香族エーテルを含む、半導体基板用処理液(以下、「本開示の処理液」ともいう)に関する。
【0011】
本開示によれば、基板上の有機物の除去性に優れる半導体基板用処理液を提供できる。そして、本開示の処理液を、樹脂マスクを有する電子回路基板等の電子部品の洗浄に用いることで、高い収率で高品質の電子部品を得ることができる。
【0012】
本開示の効果発現の作用メカニズムの詳細は不明な部分があるが、以下のように推定される。
有機酸(成分B)は、基板上の有機物に浸透し、有機物内に存在する酸感応性部位と反応して、有機物を改質すると考えられる。芳香族エーテルを含む芳香族溶剤(成分A)は、有機物に対する処理液の親和性を高め、有機酸(成分B)の浸透を促進すると考えられる。さらに、芳香族エーテルを含む芳香族溶剤(成分A)は、改質された後の有機物に対して高い溶解を示すため、極めて高い有機物除去効果が発現すると考えられる。
但し、本開示はこのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0013】
本開示において、基板上の有機物は、一又は複数の実施形態において、樹脂マスク、反射防止膜等の有機膜、及び、エッチング残渣等の有機物残渣を含む。
【0014】
本開示の処理液は、半導体基板用処理液である。本開示において、半導体基板とは、半導体デバイスの製造工程で用いられる基板をいう。
本開示の処理液は、一又は複数の実施形態において、半導体デバイスの製造工程において有機物を処理するための処理液である。
本開示の処理液は、一又は複数の実施形態において、有機物を有する基板から有機物を除去するための処理液、例えば、基板上に存在する樹脂マスク、反射防止膜、エッチング残渣等の有機物を除去するための処理液(例えば、除去液、剥離液、洗浄液)として使用できる。
本開示の処理液は、一又は複数の実施形態において、研磨後の基板表面に残留又は付着するパーティクル(例えば、研磨くずや砥粒由来の異物)を除去するための洗浄液として使用できる。
本開示の処理液は、一又は複数の実施形態において、半導体デバイスの製造工程において基板表面を処理するための処理液として使用できる。例えば、本開示の処理液は、基板表面を改質するための表面改質剤として使用できる。
【0015】
(成分A:芳香族溶剤)
本開示の処理液に含まれる芳香族溶剤(以下、「成分A」ともいう)は、芳香族エーテル(以下、「成分A1」ともいう)を含む芳香族溶剤である。成分A1は、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
成分Aは、一又は複数の実施形態において、芳香族エーテル(成分A1)である。成分Aは、その他の一又は複数の実施形態において、成分A1に加えて芳香族炭化水素(成分A2)、及び芳香族アルコール(成分A3)から選ばれる少なくとも1種をさらに含む芳香族系溶剤であってもよく、成分A2及びA3を含まない芳香族溶剤であってもよい。成分A中の芳香族エーテル(成分A1)の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上である。成分A1が2種以上の組合せである場合、成分A1の含有量はそれらの合計含有量をいう。
成分Aは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0016】
<成分A1:芳香族エーテル>
芳香族エーテル(以下、「成分A1」ともいう)は、芳香環及びエーテル結合を有する化合物である。成分A1は、有機物除去性及び引火性などの安全性の観点から、炭素数1~6のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基と炭素数1~12のアルキル基とがエーテル結合を介して結合した化合物、炭素数1~12のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基同士がエーテル結合を介して結合した化合物等が挙げられる。芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられる。
成分A1の炭素数は、有機物除去性及び引火性などの安全性の観点から、7以上が好ましく、10以上がより好ましく、そして、20以下が好ましく、14以下がより好ましい。
成分A1としては、例えば、ベラトロール(1,2-ジメトキシベンゼン)、ジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0017】
成分Aは、有機物の除去性向上の観点から、ジフェニルエーテルを含むことが好ましい。
【0018】
<成分A2:芳香族炭化水素>
芳香族炭化水素(以下、「成分A2」ともいう)は、芳香環及び炭化水素基を有する化合物である。成分A2は、有機物除去性及び引火性などの安全性の観点から、1~3個の炭化水素基を有する芳香環が好ましい。炭化水素基としては、有機物除去性及び引火性などの安全性の観点から、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基等が挙げられる。芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられる。
成分A2の炭素数は、有機物除去性及び引火性などの安全性の観点から、7以上が好ましく、8以上がより好ましく、そして、14以下が好ましく、10以下がより好ましい。
成分A2としては、例えば、メシチレン(1,3,5-トリメチルベンゼン)等が挙げられる。
【0019】
<成分A3:芳香族アルコール>
芳香族アルコール(以下、「成分A3」ともいう)は、芳香環及び水酸基を有する化合物である。成分A3は、有機物除去性及び引火性などの安全性の観点から、置換基を有する芳香環の少なくとも1つの置換基に水酸基が結合している化合物が挙げられる。置換基としては、炭素数1~3のアルキル基が挙げられる。芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられる。ただし、成分A3には、フェノール化合物(芳香環に水酸基が直接結合している化合物)は含まれない。
成分A3の炭素数は、有機物除去性及び引火性などの安全性の観点から、7以上が好ましく、そして、9以下が好ましい。
成分A3としては、例えば、ベンジルアルコール等が挙げられる。
【0020】
本開示の処理液中における芳香族エーテル(成分A1)の含有量は、有機物除去性及び引火性などの安全性の観点から、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましく、そして、有機物除去性、液の安定性及び引火性などの安全性の観点から、80質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の処理液中の成分A1の含有量は、10質量%以上80質量%以下が好ましく、15質量%以上60質量%以下がより好ましく、20質量%以上30質量%以下が更に好ましい。成分A1が2種以上の組合せである場合、成分A1の含有量はそれらの合計含有量をいう。
本開示の処理液中における芳香族溶剤(成分A)の含有量は、有機物除去性及び引火性などの安全性の観点から、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、25質量%以上が更に好ましく、そして、有機物除去性、液の安定性及び引火性などの安全性の観点から、90質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、50質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の処理液中の成分Aの含有量は、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%以上70質量%以下がより好ましく、25質量%以上50質量%以下が更に好ましい。成分Aが2種以上の組合せである場合、成分Aの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0021】
本開示において「処理液中の各成分の含有量」とは、使用時、すなわち、処理液による被処理物の処理を開始する時点での各成分の含有量をいう。
本開示の処理液中の各成分の含有量は、一又は複数の実施形態において、本開示の処理液中の各成分の配合量とみなすことができる。
【0022】
(成分B:有機酸)
本開示の処理液に含まれる有機酸(以下、「成分B」ともいう)としては、例えば、フェノール類(成分B1)及びスルホン酸類(成分B2)から選ばれる少なくとも1種を含む有機酸が挙げられる。成分Bは、一又は複数の実施形態において、スルホン酸類を含むものが挙げられる。成分B中のフェノール類(成分B1)及びスルホン酸類(成分B2)の合計含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。成分Bは、1種でもよいし、2種以上の組合せもよい。
【0023】
<成分B1:フェノール類>
フェノール類(以下、「成分B1」ともいう)としては、例えば、フェノール;p-エチルフェノール、p-t-ブチルフェノール、2,4,6-トリメチルフェノール等のアルキルフェノール類;等が挙げられる。成分B1は1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
本開示の処理液中のフェノール類(成分B1)の含有量は、有機物除去性の観点から、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、製造の容易性、液の安定性の観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。より具体的には、本開示の処理液中の成分B1の含有量は、好ましくは2質量%以上40質量%以下、より好ましくは5質量%以上30質量%以下、更に好ましくは10質量%以上20質量%以下である。成分B1が2種以上の組合せである場合、成分B1の含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0024】
<成分B2:スルホン酸類>
スルホン酸類(以下、「成分B2」ともいう)としては、例えば、m-キシレン-4-スルホン酸(2,4-ジメチルベンゼンスルホン酸)、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸が挙げられる。成分B2は1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
本開示の処理液中のスルホン酸類(成分B2)の含有量は、製造の容易性、液の安定性の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、有機物除去性の観点から、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。より具体的には、本開示の処理液中の成分B2の含有量は、好ましくは10質量%以上70質量%以下、より好ましくは30質量%以上65質量%以下、更に好ましくは50質量%以上60質量%以下である。成分B2が2種以上の組合せである場合、成分B2の含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0025】
成分Bは、一又は複数の実施形態において、有機物の除去性向上の観点から、スルホン酸類(成分B2)であることが好ましい。成分B2としては、同様の観点から、アルキルベンゼンスルホン酸を含むことが好ましく、m-キシレン-4-スルホン酸及びドデシルベンゼンスルホン酸の少なくとも一方を含むことがより好ましい。
成分Bは、一又は複数の実施形態において、有機物の除去性向上の観点から、フェノール類(成分B1)とスルホン酸類(成分B2)を含むことが好ましく、アルキルフェノールとアルキルベンゼンスルホン酸を含むことがより好ましく、p-t-ブチルフェノールとドデシルベンゼンスルホン酸を含むことが更に好ましい。
【0026】
本開示の処理液中における成分Bの含有量は、有機物除去性及び液の安定性の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましく、そして、有機物除去性、液の安定性及び取り扱い性の観点から、85質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、75質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の処理液中の成分Bの含有量は、5質量%以上85質量%以下が好ましく、10質量%以上80質量%以下がより好ましく、20質量%以上75質量%以下が更に好ましい。成分Bが2種以上の組合せである場合、成分Bの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0027】
本開示の処理液中の成分Aと成分Bの合計の含有量は、有機物除去性の観点から、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、100質量%が更に好ましい。
【0028】
本開示の処理液中の成分A1と成分Bとの質量比A1/Bは、有機物除去性及び液の安定性の観点から、0.2以上が好ましく、0.25以上がより好ましく、0.3以上が更に好ましく、そして、有機物除去性及び液の安定性の観点から、2.5以下が好ましく、2.0以下がより好ましく、1.0以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の処理液中の質量比A1/Bは、0.2以上2.5以下が好ましく、0.25以上2.0以下がより好ましく、0.3以上1.0以下が更に好ましい。
本開示の処理液中の成分Aと成分Bとの質量比A/Bは、有機物除去性及び液の安定性の観点から、0.2以上が好ましく、0.25以上がより好ましく、0.3以上が更に好ましく、そして、有機物除去性及び液の安定性の観点から、2.5以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の処理液中の質量比A/Bは、0.2以上2.5以下が好ましく、0.25以上1.5以下がより好ましく、0.3以上1以下が更に好ましい。
【0029】
(その他の成分)
本開示の処理液は、前記成分A及び成分B以外に、必要に応じてその他の成分をさらに含有することができる。その他の成分としては、通常の処理液又は洗浄剤に用いられうる成分を挙げることができ、例えば、成分A以外の溶剤、成分B以外の酸、アルカリ剤、界面活性剤、キレート剤、増粘剤、分散剤、防錆剤、高分子化合物、可溶化剤、酸化防止剤、防腐剤、消泡剤、抗菌剤等が挙げられる。
【0030】
本開示の処理液は、一又は複数の実施形態において、水を含有しない、又は、水の含有量が10質量%以下であることが好ましい。水としては、一又は複数の実施形態において、イオン交換水、RO水、蒸留水、純水、超純水等が挙げられる。
本開示の処理液中の水の含有量としては、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは0質量%(すなわち、含まないこと)が挙げられる。
【0031】
本開示の処理液は、一又は複数の実施形態において、ハロゲン系化合物を実質的に含まないものとすることができる。例えば、本開示の処理液中のハロゲン系化合物の含有量としては、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0質量%(すなわち、含まないこと)が挙げられる。
【0032】
本開示の処理液は、一又は複数の実施形態において、アルコキシシランを実質的に含まないものとすることができる。例えば、本開示の処理液中のアルコキシシランの含有量としては、好ましくは0.5質量%未満、より好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0質量%(すなわち、含まないこと)が挙げられる。
【0033】
(処理液の製造方法)
本開示の処理液は、一又は複数の実施形態において、成分A、成分B、必要に応じて上述した任意成分(その他の成分)を公知の方法で配合することにより製造できる。例えば、本開示の処理液は、一又は複数の実施形態において、成分A及び成分Bを配合してなるものとすることができる。
したがって、本開示は、少なくとも成分A及び成分Bを配合する工程を含む、処理液の製造方法に関する。本開示において「配合する」とは、成分A、成分B、及び必要に応じて上述した任意成分(その他の成分)を同時に又は任意の順に混合することを含む。本開示の処理液の製造方法において、各成分の好ましい配合量は、上述した本開示の処理液の各成分の好ましい含有量と同じとすることができる。
【0034】
[被処理物]
被処理物としては、一又は複数の実施形態において、有機物を有する基板が挙げられる。有機物を有する基板としては、例えば、有機膜及び/又は有機物残渣を有する基板が挙げられる。有機膜としては、例えば、樹脂マスク、反射防止膜等が挙げられる。有機膜は単層膜であってもよいし、多層膜であってもよい。有機物残渣としては、例えば、エッチング残渣、レジスト残渣等が挙げられる。基板としては、プリント基板、ウエハ、銅板、アルミニウム板等が挙げられる。
本開示の処理液は、一又は複数の実施形態において、樹脂マスクを有する基板、反射防止膜を有する基板、樹脂マスク及び反射防止膜を有する基板の洗浄に好適に用いることができる。
【0035】
本開示において、樹脂マスクとは、エッチング、めっき、加熱等の処理から物質表面を保護するためのマスク、すなわち、保護膜として機能するマスクである。樹脂マスクとしては、一又は複数の実施形態において、露光及び現像工程後のレジスト層、露光及び現像の少なくとも一方の処理が施された(以下、「露光及び/又は現像処理された」ともいう)レジスト層、あるいは、硬化したレジスト層が挙げられる。
また、樹脂マスクは、一又は複数の実施形態において、光や電子線等によって現像液に対する溶解性等の物性が変化するレジストを用いて形成されるものである。レジストは、光や電子線との反応方法から、ネガ型とポジ型に大きく分けられている。ネガ型レジストは、露光されると現像液に対する溶解性が低下する特性を有し、ネガ型レジストを含む層(以下、「ネガ型レジスト層」ともいう)は、露光及び現像処理後に露光部が樹脂マスクとして使用される。ポジ型レジストは、露光されると現像液に対する溶解性が増大する特性を有し、ポジ型レジストを含む層(以下、「ポジ型レジスト層」ともいう)は、露光及び現像処理後に露光部が除去され、未露光部が樹脂マスクとして使用される。このような特性を有する樹脂マスクを使用することで、金属配線、金属ピラーやハンダバンプといった回路基板の微細な接続部を形成することができる。
樹脂マスクを形成する樹脂材料としては、一又は複数の実施形態において、フィルム状の感光性樹脂、レジストフィルム、又はフォトレジストが挙げられる。レジストフィルムは汎用のものを使用できる。
樹脂マスクとしては、例えば、アクリル酸系ポリマー膜、フェノール系ポリマー膜、環化ポリイソプレン膜等が挙げられる。
樹脂マスクの厚みとしては、例えば、1μm~50μmが挙げられる。
【0036】
本開示において、反射防止膜とは、光を吸収する性能を有し、入射した光の反射を防止するための反射防止膜をいう。反射防止膜は、一又は複数の実施形態において、樹脂マスクと基板との間に形成される。
反射防止膜を形成する材料としては、無機系被覆材と有機系被覆材が知られている。無機系被覆材としては、TiN、TiON、TiW及びスピンオン有機ポリマー等が挙げられる。有機系被覆材としては、フェノール樹脂、フェノール樹脂誘導体等の高芳香族性ポリマーや、光吸収基(例えば、ベンゼン環)を有するシロキサン化合物等が挙げられる。
反射防止膜としては汎用のものを使用でき、例えば、特開2006-343416号公報に記載の反射防止膜、特表2005-517972号公報に記載の反射防止膜等が挙げられる。
反射防止膜の厚みとしては、例えば、30nm~150nmが挙げられる。
【0037】
被処理物としては、一又は複数の実施形態において、有機物が付着した被処理物が挙げられる。有機物が付着した被処理物としては、例えば、樹脂マスクを有する電子部品及びその製造中間物、樹脂マスク及び反射防止膜を有する電子部品及びその製造中間物等が挙げられる。電子部品としては、例えば、プリント基板、ウエハ、銅板及びアルミニウム板等の金属板から選ばれる少なくとも1つの部品が挙げられる。前記製造中間物は、電子部品の製造工程における中間製造物であって、樹脂マスク処理後の中間製造物を含む。
【0038】
有機物が付着した被処理物としては、例えば、基板上に絶縁膜を形成する工程、絶縁膜上に反射防止膜を形成する工程、反射防止膜上にレジストを塗布し、現像及び/又は露光処理し、パターン化されたレジスト膜(樹脂マスク)を形成する工程、パターン化されたレジスト膜をマスクとして反射防止膜及び絶縁膜をエッチングする工程を経ることにより得られた基板が挙げられる。
【0039】
有機物が付着した被処理物としては、一又は複数の実施形態において、樹脂マスクを使用した半田付けやメッキ処理(銅メッキ、アルミニウムメッキ、ニッケルメッキ等)等の処理を行う工程を経ることにより、配線や接続端子等が基板表面に形成された基板が挙げられる。
【0040】
本開示の処理液は、一又は複数の実施形態において、洗浄効果の点から、樹脂マスク、あるいは、更にメッキ処理及び/又は加熱処理された樹脂マスクが付着した被処理物の洗浄に好適に用いられうる。樹脂マスクとしては、例えば、ネガ型樹脂マスクでもよいし、ポジ型樹脂マスクでもよく、本開示の効果が発揮されやすい点からは、ネガ型樹脂マスクが好ましい。ネガ型樹脂マスクとしては、例えば、露光及び/又は現像処理されたネガ型ドライフィルムレジストが挙げられる。本開示においてネガ型樹脂マスクとは、ネガ型レジストを用いて形成されるものであり、例えば、露光及び/又は現像処理されたネガ型レジスト層が挙げられる。本開示においてポジ型樹脂マスクとは、ポジ型レジストを用いて形成されるものであり、例えば、露光及び/又は現像処理されたポジ型レジスト層が挙げられる。
【0041】
[洗浄方法]
本開示は、一態様において、本開示の処理液を用いて、有機物を有する基板(被処理物)を洗浄する工程(以下、「洗浄工程」)を含む、洗浄方法に関する。前記洗浄工程は、一又は複数の実施形態において、被処理物に本開示の処理液を接触させることを含む。被処理物としては、上述した被処理物が挙げられる。本開示の処理液は、一又は複数の実施形態において、樹脂マスクを有する基板、反射防止膜を有する基板、樹脂マスク及び反射防止膜を有する基板の洗浄に好適に用いることができる。
前記洗浄工程は、一又は複数の実施形態において、有機物を有する基板から有機物を除去する工程であり、例えば、樹脂マスクを有する基板から樹脂マスクを剥離する工程、反射防止膜を有する基板から反射防止膜を剥離する工程、又は、樹脂マスク及び反射防止膜を有する基板から樹脂マスク及び反射防止膜を剥離する工程(剥離工程)である。
本開示の洗浄方法によれば、一又は複数の実施形態において、基板上の有機物を効率よく除去できる。本開示の洗浄方法は、一又は複数の実施形態において、被処理物が樹脂マスク及び反射防止膜を有する基板である場合、基板上の樹脂マスク及び反射防止膜の両方を効率よく除去できる。
【0042】
本開示の処理液を用いて被処理物を洗浄する方法、又は、被処理物に本開示の処理液を接触させる方法としては、例えば、処理液を入れた洗浄浴槽内へ浸漬することで被処理物に接触させる方法、処理液をスプレー状に射出して接触させる方法(シャワー方式)、浸漬中に超音波照射する超音波洗浄方法等が挙げられる。本開示の処理液は、希釈することなくそのまま洗浄に使用できる。被処理物としては、上述した被処理物を挙げることができる。浸漬時間としては、例えば、1分以上10分以下、更には3分以上6分以下が挙げられる。スプレー時間としては、例えば、1分以上10分以下、更には3分以上6分以下が挙げられる。
【0043】
本開示の洗浄方法は、一又は複数の実施形態において、被処理物に処理液を接触させた後、リンス液(例えば、水、エタノール、イソプロピルアルコール等)でリンスし、乾燥する工程を含むことができる。リンス方法としては、例えば、流水リンスが挙げられる。乾燥方法としては、例えば、エアブロー乾燥が挙げられる。
本開示の洗浄方法は、一又は複数の実施形態において、被処理物に処理液を接触させた後、水ですすぐ工程を含むことができる。
【0044】
本開示の洗浄方法は、本開示の処理液の洗浄力が発揮されやすい点から、被処理物と本開示の処理液との接触時に超音波を照射したり、処理液をスプレー噴霧することが好ましい。その超音波は比較的高周波数であることがより好ましい。前記超音波の照射条件は、同様の観点から、例えば、26~72kHz、80~1500Wが好ましく、36~72kHz、80~1500Wがより好ましい。スプレー噴霧時の圧力は比較的高圧力であることが好ましく、例えば、0.1~0.3MPaであることが好ましい。
【0045】
本開示の洗浄方法において、本開示の処理液の洗浄力が発揮されやすい点から、処理液の温度は50℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましく、そして、基板に対する影響低減の観点から、150℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましい。
【0046】
[電子部品の製造方法]
本開示は、一態様において、本開示の処理液を用いて、被処理物を洗浄する工程(以下、「洗浄工程」ともいう)を含む、電子部品の製造方法に関する。被処理物としては、上述した被処理物を挙げることができる。前記洗浄工程は、一又は複数の実施形態において、樹脂マスクを有する基板から樹脂マスクを剥離する工程、反射防止膜を有する基板から反射防止膜を剥離する工程、又は、樹脂マスク及び反射防止膜を有する基板から樹脂マスク及び反射防止膜を剥離する工程(剥離工程)である。前記洗浄工程における洗浄方法としては、上述した本開示の洗浄方法と同様の方法が挙げられる。
本開示の電子部品の製造方法によれば、電子部品に付着した有機物を効率よく除去できるため、信頼性の高い電子部品の製造が可能になる。更に、本開示の洗浄液を用いることにより、電子部品に付着した有機物の除去が容易になることから、洗浄時間が短縮化でき、電子部品の製造効率を向上できる。
【0047】
[キット]
本開示は、一態様において、本開示の洗浄方法及び本開示の電子部品の製造方法のいずれかに使用するためのキット(以下、「本開示のキット」ともいう)に関する。本開示のキットは、一又は複数の実施形態において、本開示の処理液を製造するためのキットである。本開示のキットによれば、基板上に存在する有機物の除去性に優れる処理液を得ることができる。
本開示のキットとしては、一又は複数の実施形態において、成分Aを含有する溶液(第1液)と、成分Bを含有する溶液(第2液)とを、相互に混合されない状態で含み、第1液と第2液とは使用時に混合されるキット(2液型処理液)が挙げられる。第1液及び第2液の各々には、必要に応じて上述した任意成分(その他の成分)が含まれていてもよい。
【実施例0048】
以下に、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0049】
1.実施例1~7及び比較例1~7の処理液(洗浄剤組成物)の調製
表1~2に示す各成分を表1~2に記載の配合量(質量%、有効分)で配合し、それを攪拌して混合することにより、実施例1~7及び比較例1~7の処理液(洗浄剤組成物)を調製した。
【0050】
実施例1~7及び比較例1~7の処理液(洗浄剤組成物)の調製には、下記のものを使用した。
(成分A1:芳香族エーテル)
ベラトロール(1,2-ジメトキシベンゼン)[富士フィルム和光純薬株式会社製]
ジフェニルエーテル[富士フィルム和光純薬株式会社製]
(成分A2:芳香族炭化水素)
メシチレン[富士フィルム和光純薬株式会社製]
(成分A3:芳香族アルコール)
ベンジルアルコール[富士フィルム和光純薬株式会社製]
(成分B1:フェノール類)
フェノール[富士フィルム和光純薬株式会社製]
p-エチルフェノール[富士フィルム和光純薬株式会社製]
p-t-ブチルフェノール[富士フィルム和光純薬株式会社製]
(成分B2:スルホン酸類)
m-キシレン-4-スルホン酸[富士フィルム和光純薬株式会社製]
ドデシルベンゼンスルホン酸[花王株式会社製、ネオペレックスGS-P]
(非成分A)
ジイソアミルエーテル[富士フィルム和光純薬株式会社製]
【0051】
2.実施例1~7及び比較例1~7の処理液(洗浄剤組成物)の評価
調製した実施例1~7及び比較例1~7の処理液(洗浄剤組成物)について下記評価を行った。
【0052】
[テストピース]
テストピースは、20mm×20mmのサイズであり、薄膜が形成された基板(Siウエハ)である。薄膜には下記の2種の有機系被覆材を用いた。
薄膜Aには、厚み45nmのシロキサン化合物含有膜を用いた。
薄膜Bには、厚み90nmのフェノール樹脂誘導体膜を用いた。
【0053】
[洗浄性(薄膜の除去性)の評価]
100mLビーカーに実施例1~7及び比較例1~7の処理液(洗浄剤組成物)を50mL添加して120℃に加温し、薄膜が付着したテストピースを5分間浸漬させた。
そして、テストピースを処理液(洗浄剤組成物)から取り出し、別途2つの100mLビーカーに調整した室温のイソプロピルアルコール50mLに連続で浸漬してすすいだ後、室温で静置乾燥させた。
テストピース上の薄膜の残存量をデジタルカメラで撮影した画像データをもとに、画像処理ソフトウェア(ImageJ)用いてその面積を数値化して洗浄率を算出し、下記の評価基準に基づき洗浄性(薄膜の除去性)を評価した。結果を表1~2に示した。
洗浄率=(洗浄後で薄膜が除去された面積)/(テストピースの面積)×100
<評価基準>
A:洗浄率90%以上
B:洗浄率70%以上90%未満
C:洗浄率50%以上70%未満
D:洗浄率50%未満
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
表1に示すとおり、芳香族エーテル(A1)を含む芳香族溶剤(成分A)と有機酸(成分B)とを含有する実施例1~5の処理液(洗浄剤組成物)は、有機酸(成分B)を含まない比較例5、芳香族エーテル(A1)を含む芳香族溶剤(成分A)を含まない比較例6、芳香族溶剤として非成分Aを用いた比較例7に比べて、薄膜Aの除去性に優れていることがわかった。さらに、芳香族エーテル(A1)を含む芳香族溶剤(成分A)を用いた実施例1~5の処理液(洗浄剤組成物)は、芳香族エーテル(A1)を含まない芳香族溶剤(成分A)を用いた比較例1~4に比べて、薄膜Bの除去性も優れていることが分かった。
表2に示すとおり、ジフェニルエーテル(A1)を含む芳香族溶剤(成分A)とスルホン酸類(B2)を含有する実施例4、6、7はいずれも、薄膜A及び薄膜Bの除去性に優れていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本開示によれば、基板上に存在する有機物の除去性に優れる処理液を提供できる。そして、本開示の処理液を用いることで、製造される電子部品の性能・信頼性の向上が可能となり、半導体装置の生産性を向上できる。
【手続補正書】
【提出日】2024-02-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族溶剤(成分A)と、有機酸(成分B)と、を含み、
成分Aはジフェニルエーテルを含む、半導体基板用処理液。
【請求項2】
ハロゲン系化合物を含まない、請求項1に記載の処理液。
【請求項3】
成分Bは、スルホン酸類を含む、請求項に記載の処理液。
【請求項4】
成分Bは、フェノール類とスルホン酸類を含む、請求項に記載の処理液。
【請求項5】
成分Bは、アルキルフェノールとアルキルベンゼンスルホン酸を含む、請求項に記載の処理液。
【請求項6】
成分Bは、p-t-ブチルフェノールとドデシルベンゼンスルホン酸を含む、請求項に記載の処理液。
【請求項7】
前記処理液は、有機物を有する基板から有機物を除去するための剥離液である、請求項1からのいずれかに記載の処理液。
【請求項8】
請求項1からのいずれかに記載の処理液を用いて、有機物を有する基板を洗浄する工程を含む、洗浄方法。