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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068163
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】質量分析計の信号の増強
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20240510BHJP
   H01J 49/00 20060101ALI20240510BHJP
   H01J 49/10 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
G01N27/62 E
H01J49/00 310
H01J49/10 500
【審査請求】有
【請求項の数】25
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023187433
(22)【出願日】2023-11-01
(31)【優先権主張番号】2216432.1
(32)【優先日】2022-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】508306565
【氏名又は名称】サーモ フィッシャー サイエンティフィック (ブレーメン) ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100224672
【弁理士】
【氏名又は名称】深田 孝徳
(72)【発明者】
【氏名】ヨナ タルマン
(72)【発明者】
【氏名】ハンス-ユルゲン シュルーター
(72)【発明者】
【氏名】ベンノ シュトラッサー
(72)【発明者】
【氏名】ノルベルト クアース
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA14
2G041EA04
2G041GA13
2G041GA15
2G041GA17
2G041GA25
2G041GA29
2G041KA03
2G041LA06
2G041LA08
(57)【要約】
【課題】試料中の分析対象以外の他の構成物質の存在によって影響を受けることがない質量分析計、及び質量分析計、誘導結合プラズマ質量分析法を操作する方法を提供する。
【解決手段】試料の最初の質量スペクトルを取得する工程を含む、スキマー及びスキマーに電位を印加するように構成されている回路を有する質量分析計を操作する方法であり、得られた最初の質量スペクトルの値を測定する工程であって、該値が、1種以上のイオン種のイオンビーム強度を示す、工程と、スキマーに様々なDC電位を印加して、動作電位を特定する工程であって、1種以上のイオン種のイオンビーム強度を示す値が、所定量だけ変化するまで、DC電位を変化させる、工程と、スキマーに印加された動作電位により、質量スペクトルを含む出力値を提示する工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スキマー及び前記スキマーに電位を印加するように構成されている回路を有する質量分析計を操作する方法であって、
試料の最初の質量スペクトルを取得する工程と、
前記得られた最初の質量スペクトルの値を測定する工程であって、前記値が、1種以上のイオン種のイオンビーム強度を示す、工程と、
前記スキマーに様々なDC電位を印加して、動作電位を特定する工程であって、前記1種以上のイオン種の前記イオンビーム強度を示す前記値が、所定量だけ変化するまで、前記DC電位を変化させる、工程と、
前記スキマーに印加された前記動作電位を用いて、質量スペクトルを含む出力値を得る工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記試料の前記最初の質量スペクトルを取得する前記工程が、電位なしに又は前記スキマーに印加された地電位を用いて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
サンプリング開口部と前記スキマーとの間の境界面の圧力を増大又は低下させて、前記1種以上のイオン種における前記イオンビーム強度を示す前記値を変化させ、その結果、圧力及び電位の増大又は低下を組み合わせて、前記所定量において前記1種以上のイオン種の前記イオンビーム強度を示す前記値を得る工程を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記イオンビーム強度を示す前記値が、質量スペクトルにおける1つ以上のピークの振幅、及び全電流の測定値のうちのいずれか1つ以上である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記所定量が、前記値の百分率変化又は分数変化である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記所定量が前記値の低下である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記低下が3分の1~10分の1である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
既知組成を有する様々な試料を使用して前記方法工程を繰り返す工程と、各既知組成に対するイオンビーム強度を示す前記値を前記所定量だけ変化させるために必要な電位を記録する工程と、を更に含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記スキマーに印加された前記動作電位により質量スペクトルを含む更なる出力値を提示する工程を更に含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記電位が負の電位である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記電位が-1V~-4Vである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
様々な試料タイプ及び組成物に対して、前記1種以上のイオン種の前記イオンビーム強度を示す前記値を前記所定量まで変化させるために必要な電位を記憶する工程を更に含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記DC電位を印加するのと同時に、前記スキマーにAC電流を印加する工程を更に含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記電位の印加を解除する工程と、
前記スキマーに印加された前記電位なしの質量スペクトルを含む更なる出力値を提示する工程と、を更に含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
質量分析計を操作する方法であって、
試料の最初の質量スペクトルを取得する工程と、
前記得られた最初の質量スペクトルの値を測定する工程であって、前記値が、1種以上のイオン種のイオンビーム強度を示す、工程と、
前記質量分析計内の圧力を変化させて、動作圧力を特定する工程であって、前記1種以上のイオン種の前記イオンビーム強度を示す前記値が、所定量だけ変化するまで、前記圧力を変化させる、工程と、
前記動作圧力における、前記質量分析計内の前記圧力により質量スペクトルを含む出力値を提示する工程と、を含む、方法。
【請求項16】
前記質量分析計のスキマーに様々なDC電位を印加して、動作電位を特定する工程であって、前記DC電位が変化し、その結果、前記動作圧力と前記スキマーへの前記電位の印加とを組み合わせることにより、前記少なくとも1種以上のイオン種の前記イオンビーム強度を示す前記値が前記所定量まで変化する、工程を更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記動作電位が負の電位である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記所定量が、前記1種以上のイオン種の前記イオンビーム強度を示す前記値の低下である、請求項15~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記圧力が増大する、請求項15~18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記圧力が、前記質量分析計のサンプリング開口部と前記スキマーとの間の境界面における圧力である、請求項15~19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
スキマー及び前記請求項のいずれかに記載の工程を実行するようになされている手段を有する、質量分析計。
【請求項22】
誘導結合プラズマ質量分析計、すなわちICP-MSである、請求項21に記載の質量分析計。
【請求項23】
前記スキマーに前記電位を印加するよう構成されているバイポーラ電源を更に備える、請求項21及び22に記載の質量分析計。
【請求項24】
前記スキマーが、白金、アルミニウム、チタン若しくはニッケル、又はこれらの任意の組み合わせ物から形成される、請求項21~23のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項25】
200℃~750℃、好ましくは450℃~650℃の温度に前記スキマーを維持するよう構成されているヒーターを更に備える、請求項21~24のいずれかに記載の質量分析計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析計、及び質量分析計、とりわけ誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)を操作する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析計によって生成した、特定の分析対象に関するデータは、試料中の分析対象以外の他の構成物質の存在によって影響を受けることがある。これは、マトリックス効果又はマトリックス干渉と説明されることがある。一般に、これは、質量スペクトル内のイオン強度信号を抑制するおそれがあり、これによって、感度の低下、定量結果の不正確さ及び他のエラーをもたらし得る。
【0003】
マトリックス効果のタイプの1つは、試料中の総溶解固形物(total dissolved solid、TDS)のレベル又は酸濃度によって引き起こされる分析対象の信号の物理的抑制である。別のタイプのマトリックス効果は、マトリックス成分がプラズマ放電におけるイオン化条件に影響を及ぼす際に誘発されて、マトリックス成分の濃度に応じて、様々な量の信号抑制をもたらす。信号抑制をもたらす更なる機構は、分析対象の信号の低下を生じるマトリックス誘導効果である、空間電荷効果として知られている。これは、分析対象の信号の抑制を生じるマトリックス誘導干渉のタイプである。この空間電荷効果は、イオンビームの焦点のずれを引き起こすおそれがある。したがって、非常に豊富なマトリックス元素がイオンビームを占め、分析対象イオンをそれらの経路から押し出し、通常、感度の低下をもたらす。
【0004】
更に、マトリックス成分が、長期間、機器を運転することによって、スキマー又はサンプラーオリフィスの周囲に堆積することがある。これは、測定したイオン強度値における長期不安定性をもたらし得る。マトリックス干渉の補正には、内部標準が使用されることがあり、内部標準は、理想的には、分析対象の類似の質量及び試料組成を有するが、これは、類似分析対象の検討に限られる。しかし、とりわけ、依然として、サンプリング領域及び他の場所での堆積のためにドリフト効果が起こる、長期間の実験の場合のマトリックス効果に関して結果を改善する必要がある。
【0005】
質量分析計の構成の一部は、一層高い感度をもたらすが、これらは、マトリックス効果に対して一層、影響を受けやすくなり得る。マトリックス効果に関してよりロバストな構成と感度の改善した構成との間の切り替えは、ハードウェアへの変更を必要とする可能性があり、これは、時間がかかり、他の課題を引き起こし、熟練した人員を必要とし得る。
【0006】
したがって、これらの課題を克服する方法及びシステムが必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
質量分析計、例えば、以下に限定されないが、液体クロマトグラフィー-質量分析計(LC-MS)又は誘導結合プラズマ-質量分析計(ICP-MS)は、特定の試料又は試料タイプと共に使用するよう構成され得る、較正され得る、又はその他には最適化され得る。例えば、試料は分析対象を含み得るが、マトリックス(例えば、分析対象のイオンビーム強度信号を妨害するおそれがある、汚染物質又は他の構成物質成分)もまた含有することがある。質量分析計はまた、スキマーを有しており、このスキマーを使用して、プラズマプルームの境界領域をすくいとり、イオンビームが質量分析計の質量分析器に入る際にイオンビームを形成することができる。
【0008】
マトリックスは、分析対象よりも全イオン流に占める割合がはるかに高くなり得、したがって、質量スペクトル内では、分析対象の信号強度よりもはるかに高い信号強度によって表されることがある。マトリックス効果は、質量分析計によって検出される分析対象イオンの量の低下を挙げることができる。別のマトリックス効果は、例えば、抽出レンズの電圧を遮蔽する空間電荷が原因である。これは、イオン光学系の焦点化に影響を及ぼすおそれがある。いずれの場合でも、マトリックスの存在により、少なくとも1つの分析対象のイオンビーム強度を示す値の予想が変わる可能性があり、これは、特定のマトリックス濃度の結果である。これによって、試料中の分析対象の誤った濃度を示す、不正確な結果がもたらされるおそれがある。
【0009】
しかし、スキマーへの電位(好ましくは、負のDC電位)の印加は、これが、分析対象とマトリックスの両方からの全信号強度を低下させるおそれがある(しかし、常にではない)場合でさえも、マトリックス依存性を低減し、マトリックス制御の効果を低下さることができる。
【0010】
スキマーに電位をかける更なる利点は、汚染物質を偏向することによって、この構成要素を清浄に保つことである(この目的の場合、好ましくは正のDC電位)。これは、スキマー開口部のサイズが小さいために、スキマー開口部が詰まりやすくなるおそれがあるので、特に利点がある。
【0011】
本システム及び方法は、電圧を設定することによって、スキマーに印加する電圧(通常、負電圧であるが、一部の場合、正電圧が使用されてもよい)の改善又は最適化を見出すことからなり、その結果、1種以上のイオン種の質量分析計信号が、特定の量又は割合だけ変化(増大又は低下)する(例えば、3/4)。
【0012】
これは、特定の試料又は試料タイプに対して、質量分析計をセットアップする方法の調整、又はその操作として説明することができる。この技法により、特定の試料に対するデバイスの即時信号回収率が改善される。この調整方法は、例えば、自動化されて、コンピュータ制御(質量分析計との情報通信する)を使用して実行されてもよく、又は本方法を実行するよう構成されているファームウェアを有する専用コントロールユニットを使用してもよい。
【0013】
長期安定性(例えば、デバイスが、数時間にわたり使用される場合)を改善するため、電圧(例えば、負電圧)をスキマーに印加する代わりに、又はそれと同時に、一層高い圧力又は高めた圧力を質量分析計内部にかけることができる。どちらの技法も、全信号強度を変化させることができ、これにより、2つの方法で、全信号強度を低減することもできる。スキマーに電圧(例えば、負のDC電圧)をかけると、マトリックスの瞬時の回収が改善されて、ビーム経路内の圧力の向上(例えば、スキマー又は抽出領域において)により、長期安定性が改善される。したがって、両方の技法が、相互に補完し合う。
【0014】
要約すると、これは、スキマーにおける圧力の増大を使用する、及び/又は質量分析計のスキマーに電圧を印加する、及び/又は圧力の増大を適用することによって、最適なマトリックス安定性/耐性が確保される。
【0015】
このような背景に対して、及び第1の態様によれば、スキマー及びスキマーに電位を印加するように構成されている回路を有する質量分析計を操作する方法であって、
試料の最初の質量スペクトルを取得する工程と、
得られた最初の質量スペクトルの値を測定する工程であって、該値が、例えば、1種以上のイオン質量又はイオン種のイオンビーム強度を示す、工程と、
スキマーに様々なDC電位を印加して、動作電位を特定する工程であって、1種以上のイオン種のイオンビーム強度を示す値が、所定量だけ変化するまで、DC電位を変化させる、工程と、
スキマーに印加された動作電位を用いて、質量スペクトルを含む出力値を提示する工程と、を含む、方法が提供される。
【0016】
したがって、マトリックス効果は、低減され得る、部分的に解消され得る、又は完全に解消され得る。こうして、一層一貫した、又は一層正確な定量的測定値を得ることができる。1種以上のイオン種の強度が所定量だけ変化すると、スキマーに印加された電位が記録されて(例えば、特定の試料及び他の動作条件に対する)、変化させることを終了することができる。この電位が、質量分析計から得ることができる、1つ以上の質量スペクトルに対する動作電位又は操作電位になる。質量スペクトルは、動作電位を示すデータと共に記憶されてもよい。このプロセスは、一連の特定の測定に対して又は取得されるすべての質量スペクトルの前に、1回行われ得る。
【0017】
イオンビーム強度が所定量だけ変化したことを示す値を決定するために様々な方法が存在することがある。例えば、質量スペクトルにおける特定のイオンに対する振幅は、特定の割合、絶対値又は比(元の値対新しい値)だけ低下させることができる。値が所定量だけ変動又は変化したことを示す他の条件が、直接的又は間接的に到達されてもよい。電位は、質量分析計の他の部分又は構成要素に対して設定されてもよい。これらの他の構成要素は、例えば、通常、接地されてもよく、又はアースされてもよい。スキマーに印加された動作電位で質量スペクトルを得る最終方法工程において出力値が得られる場合、更なる出力値は、最初の質量スペクトルを含むことができ、その結果、両方の質量スペクトル、すなわちスキマーに印加された電位のある場合とない場合とを比較することができる。
【0018】
好ましくは、試料の最初の質量スペクトルを取得する工程は、電位なしに(フローティングスキマー)又はスキマーに印加した地電位(すなわち、0V)を用いて行われる。最初の質量スペクトルのためにスキマーに一定の非ゼロ電圧が印加されることもあるが、通常、スキマーは、最初は接地される。
【0019】
場合により、本方法は、(質量分析計の)サンプリング開口部とスキマーとの間の境界面の圧力を増大又は低下させて、1種以上のイオン種のイオンビーム強度を示す値を変化(増大又は低下)させ、その結果、圧力及び電位の増大又は低下を組み合わせて、所定量で1種以上のイオン種のイオンビーム強度を示す値を得る、工程を更に含んでもよい。一旦、値が、所定量だけ変化すると、圧力を記録し、動作圧力又は操作圧力として設定されて、1つ以上の質量スペクトルに対する動作電位と共に使用され得る。質量スペクトルは、動作圧力及び/又は動作電位の値と共に記録されてもよい。例えば、圧力は、サンプラーとスキマーとの間に位置する拡張領域(境界面領域)内で増大させてもよいか、又は変化させてもよい。一般に、圧力が増大する(約2.9mbar(Ar)以下の拡張真空から)と、質量分析計からの信号が低下する。
【0020】
ここで、所与の圧力値だけが、例示的な値として採用されるべきである。更に、これらの値は、通常、窒素に対して較正されたピラニ(熱伝導)圧力計を使用して測定される。この値を物理圧(面積で除算した力で表される)に変換するため、これは、ガスのタイプに応じて補正されなければならない。本発明者らは、ガス混合物を取り扱っているので、これは、容易ではない。したがって、記載したシステム及び方法に、ピラニ出力値を使用しているが、物理圧の値は、ピラニ出力値からわずかに外れることがある。
【0021】
スキマーに印加された電圧は、イオン強度信号を増大する、又は低下させることがある。両方の効果が発生すると、全体的な結果は、スキマーに電圧を印加せず、かつ通常の操作圧を用いて得られた値と比較した場合、元の信号の所定量(例えば、3/4又は1/2)だけ信号が変化(例えば、低下)することになる。圧力は、圧力調整器又はコントロールユニットによって、測定されてもよく、構成されてもよく、調整されてもよい。圧力は、拡張領域で測定されてもよいが、抽出領域におけるスキマーの下流でも測定されてもよい。圧力変化はまた、例えば、コンピュータ制御、又は好適なファームウェアを有する専用コントロールユニットを使用して自動的に管理されてもよい。サンプラー(又は、質量分析計への入口)とスキマーとの間の境界面は、スキマーのコーンの真正面の領域とすることができる。境界面圧力は、ポンプを使用して変動させて、圧力センサを使用して測定されてもよい。境界面圧力は、例えば、回転式ポンプのスピードを変化させることによって、コンダクタンスを変化させることによって(例えば、調節弁を使用するか、又は他にはガス流量を変える)、異なるコンダクタンス間で切り替えることによって、及び/又は更なるポンプシステムの電源をオン及びオフにすることによって変えることができる。
【0022】
場合により、イオンビーム強度を示す値は、質量スペクトルにおける1つ以上のピークの振幅、及び全電流(例えば、全イオン電流)の測定値のうちのいずれか1つ以上とすることができる。イオン電流は、例えば、イオン光学レンズを使用して測定することができる。質量スペクトル若しくは信号の他の値又は特性も、同様に使用されてもよい。
【0023】
好ましくは、所定量は、百分率での低下であってもよく、又は分数での低下であってもよい。所定のレベルは、例えば、一連の所定量、又は様々な実験条件、試料、試料タイプ若しくはマトリックスタイプに特異的なレベルのいずれか1つから選択されてもよい。
【0024】
場合により、所定量は、値の百分率変化又は分数変化であってもよい。
【0025】
場合により、所定量は、値の低下であってもよい。
【0026】
場合により、低下(所定量)は、約3分の1(1/3)~10分の1(1/10)の低下であってもよい。しかし、値のより少ない低下が使用されてもよい(例えば、約半分又は3/4だけ低下)。
【0027】
場合により、本方法は、既知組成を有する様々な試料を使用して、工程を繰り返す工程(すなわち、取得工程、測定工程、印加工程及び提示工程、並びに任意選択工程のいずれか又は全部)と、各既知組成に対するイオンビーム強度を示す値を所定量だけ変化させるために必要な電位を記録する工程と、を更に含んでもよい。値若しくは信号を所定量だけ変化させる、又は低下させるスキマーに印加された電位は、既知組成の各々に対して記録され得る。これは、一連の既知組成に対する較正プロセスの形態をとってもよく、自動化してコンピュータにより制御されたプロセスの一部であってもよい。これらの値は、既知の較正組成にある予想組成又は既知の較正組成に近い予想組成を有する試料が調査される場合に、記憶されて、検索されてもよい。したがって、検索された電位が、このような試料に直ちに適用(他の工程を必要とすることなく)されてもよい。
【0028】
好ましくは、電位は負の電位(例えば、サンプリング用コーン、又は接地され得る、若しくはアースされ得る分光計の他の構成要素に対する)であってもよい。大部分の試料に対して、負電圧が適切となり得るが、一部の場合、正電圧もまた使用されてもよい。本方法により、ある範囲の電圧(例えば、+10V~-10V、+5V~-5V、+4V~-4V、+3V~-3V又は任意の他の範囲)にわたり走査されてもよい。その範囲のいずれか又は全体が、上限値として、10V、9V、8V、7V、6V、5V、4V、3V、2V、1V、0Vを有することができる。その範囲のいずれか又は全体が、下限値として、-10V、-9V、-8V、-7V、-6V、-5V、-4V、-3V、-2V、-1V、0Vを有することができる。範囲は、試料又はマトリックスタイプ、及び目的の分析対象のイオン質量に基づいて設定され得る。
【0029】
好ましくは、本方法は、スキマーに印加された動作電位により、質量スペクトルを含む更なる出力値を提示することを更に含むことができる。1つ以上の追加のデータ一式(質量スペクトル)が、動作電位において設定したスキマーの電位と共に収集され得る。これらは、更なる分析に使用するデータとすることができる。
【0030】
場合により、電位は、-1V~-4Vであってもよい。他の値又は範囲が使用されてもよい(例えば、0V~-5V)。
【0031】
場合により、本方法は、
様々な試料タイプ及び組成物に対して、1種以上のイオン種のイオンビーム強度を示す値を所定量まで変化させるために必要な電位を記憶する工程を更に含むことができる。したがって、値のデータベース又はデータストアを開発することができる。
【0032】
場合により、本方法は、DC電位を印加するのと同時に、スキマーにAC電流を印加する工程を更に含んでもよい。AC電流は、変動されてもよく、又は固定されてもよい。好適な周波数は、例えば、50~60Hzとすることができる。まとめると、スキマーに印加されるDC電位及びAC電流は、値を所定量まで変化させることができる。AC RMS範囲(固定又は変動)は、例えば、+/-1V、2V、3V、4V、5V、最大で10Vとすることができる。
【0033】
場合により、本方法は、
電位の印加を解除する工程と、
スキマーに印加された電位なし(例えば、接地された、又は0Vに設定されたスキマーを用いる)に、質量スペクトルを含む更なる出力値を提示する工程と、を更に含むことができる。スキマーに印加された電位を使用する及びこれを使用しないでデータを取得することは、試料に関する更なる情報をもたらすことができる。したがって、これは、試料に関する追加情報が、スキマーに印加された電位を使用した質量スペクトルとスキマーに印加された電位を使用しない質量スペクトルとを比較することによって収集することが可能な、更なる探索技法を成すことができる。このプロセスはまた、動作電位が正しく、再評価すること又はリセットすることを必要としないかを確認するために使用されてもよい。
【0034】
第2の態様によれば、質量分析計を操作する方法であって、
試料の最初の質量スペクトルを取得する工程と、
得られた最初の質量スペクトルの値を測定する工程であって、該値が、1種以上のイオン種のイオンビーム強度を示す、工程と、
質量分析計内の圧力を変化させて、動作圧力を特定する工程であって、1種以上のイオン種のイオンビーム強度を示す値が、所定量だけ変化するまで、圧力を変化させる、工程と、
動作圧力における、質量分析計内の圧力により質量スペクトルを含む出力値を提示する工程と、を含む、方法が提供される。
【0035】
場合により、本方法は、質量分析計のスキマーに様々なDC電位を印加して、動作電位を特定する工程であって、DC電位が変化し、その結果、動作圧力とスキマーへの電位の印加とを組み合わせることにより、少なくとも1種以上のイオン種のイオンビーム強度を示す値が所定量まで変化する、工程を更に含んでもよい。AC電流(上記)もまた、スキマーに印加されてもよい。
【0036】
好ましくは、動作電位は負の電位であってもよい。正の電位も使用されてもよい。好ましくは、スキマーは、他の構成要素から電気絶縁されていてもよく、システムへの支持体及び入口が、接地されていてもよく、又はアースされていてもよい。
【0037】
好ましくは、所定量は、1種以上のイオン種のイオンビーム強度を示す値の低下であってもよい。
【0038】
好ましくは、圧力は増大されてもよい。
【0039】
好ましくは、圧力は、質量分析計のサンプラーとスキマーとの間の境界面における圧力であってもよい。これは、コーンのちょうど上流又はスキマーの先端部の圧力である。この境界面領域は維持されてもよく、又はポンプ及び圧力センサを使用して、その圧力が変化してもよい。
【0040】
第3の態様によれば、スキマー、及び記載の方法の工程を実行するようになされている手段を有する質量分析計が提供される。
【0041】
好ましくは、質量分析計は、誘導結合プラズマ質量分析計、すなわちICP-MSであってもよい。他の質量分析計が使用されてもよい。本技法はまた、液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS)及び/又はレーザアブレーションと共に使用されてもよい。
【0042】
場合により、質量分析計は、スキマーに電位を印加するように構成されているバイポーラ(又は4象限)電源を更に備えてもよい。4象限電源は、例えば、電子ソース又は電子シンクの両方として動作してもよい(例えば、電位を固定して維持している間)。
【0043】
場合により、スキマーは、白金、アルミニウム、チタン又はニッケル(又は、これらの任意の組み合わせ)から形成されてもよい。他の材料が使用されてもよい(例えば、導電性又は半導電性)。好ましくは、スキマーは、コーンを備えてもよい。
【0044】
場合により、質量分析計は、450℃~650℃の温度(又は、より一般には、200℃~750℃)にスキマーを維持するように構成されているデバイス又は設定を更に備えてもよい。他の温度及び温度範囲が使用されてもよい(例えば、最大で1000℃)。これは、受動的加熱(すなわち、プラズマによる)を含むことができるが、好適な熱的結合(例えば、能動的又は受動的)によって調節されてもよい。スキマー全体に温度勾配が存在してもよく、その結果、先端部(コーン)の温度は、例えば、450℃~750℃とすることができる。
【0045】
更なる態様によれば、スキマー及びスキマーに電位を印加するように構成されている回路を有する質量分析計を操作して、スキマーに印加された動作電位により質量スペクトルを含む出力値を提示する方法が提供される。
【0046】
スキマーにおける動作電位を決定する方法は、
試料の最初の質量スペクトルを取得する工程と、
得られた最初の質量スペクトルの値を測定する工程であって、該値が、1種以上のイオン質量又はイオン種のイオンビーム強度を示す、工程と、
スキマーに様々なDC電位を印加して、動作電位を特定する工程であって、1種以上のイオン質量のイオンビーム強度を示す値が、所定の条件を満たすまで、DC電位を変化させる、工程と、を含むことができる。
【0047】
更なる態様によれば、質量分析計を操作する方法であって、
試料の最初の質量スペクトルを取得する工程と、
得られた最初の質量スペクトルの値を測定する工程であって、該値が、1種以上のイオン質量又はイオン種のイオンビーム強度を示す、工程と、
質量分析計内の圧力を変化させて、動作圧力を特定する工程であって、1種以上のイオン質量のイオンビーム強度を示す値が、所定の条件を満たすまで、圧力を変化させる、工程と、
動作圧力における、質量分析計内の圧力により質量スペクトルを含む出力値を提示する工程と、を含む、方法が提供される。
【0048】
上記の方法は、コンピュータを動作させるためのプラグラム命令を含むコンピュータプログラムとして実装されてもよい。コンピュータプログラムは、コンピュータで読取り可能な媒体に記憶されてもよい。コンピュータは、質量分析計の一部を形成してもよく、又は個々の装置であってもよい。
【0049】
コンピュータシステムは、中央処理装置(CPU)などのプロセッサ(単数又は複数)(例えば、ローカル、バーチャル又はクラウドベース)、及び/又は単体のグラフィックス処理装置(GPU)若しくはそのコレクションを含むことができる。プロセッサは、ソフトウェアプログラムの形態で、ロジックを実行してもよい。コンピュータシステムは、揮発性及び不揮発性記憶媒体を含むメモリを含むことができる。ロジック又はプログラム命令を記憶するために、コンピュータにより読取り可能な媒体が含まれてもよい。本システムの異なる部分は、ネットワーク(例えば、無線ネットワーク及び有線ネットワーク)を使用して接続されてもよい。コンピュータシステムは、1つ以上のインターフェースを含むことができる。コンピュータシステムは、例えばUNIX(登録商標)、Windows(登録商標)又はLinux(登録商標)などの好適なオペレーティングシステムを含むことができる。
【0050】
上記のいずれの特徴も、本発明の任意の特定の態様又は実施形態と共に使用されてもよいことに留意すべきである。
【0051】
本発明は、多くの方式で実施することができ、ここで実施形態を、単なる例示として、添付の図面を参照して以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】質量分析計システムの模式図を示す図である。スキマー電位Vsk、境界面圧力Psk、内圧力Pint及びスキマー先端温度Tskが、この図に示されている。
図2】単なる例として示されている、図1のシステムを操作する方法のフローチャートを示す図である。
図3】単なる例として示されている、図1のシステムを操作する更なる方法のフローチャートを示す図である。
図4】単なる例として示されている、図1のシステムを操作する更なる方法のフローチャートを示す図である。
図5】スキマーに異なる電圧を印加した場合の、図1のシステムから得られた質量スペクトルのイオン強度の変化を示すグラフ表示結果を示す図である。
図6】例となる4象限電源の動作モードを例示するグラフを示す図である。
図7図6により動作する4象限電源を使用してスキマーに異なるDC電圧及びAC電圧を印加した場合の、図1のシステムから得られた質量スペクトルのイオン強度の変化を示すグラフ表示結果を示す図である。
図8】スキマーに異なるDC電圧を印加した場合の、異なるマトリックス濃度の試料を使用して図1のシステムから得られた質量スペクトルの分析対象のイオン強度の変化を示す更なるグラフ表示結果を示す図である。
図9】イオン質量を選択するため、様々な境界面圧力を使用して、図1のシステムから得られたイオン信号のグラフ表示を示す図である。
図10】イオン質量を選択するため、様々なスキマー電圧及び特定の境界面圧力を使用して、図1のシステムから得られたイオン信号のグラフ表示を示す図である。
図11】イオン質量を選択するため、特に、様々なスキマー電圧及び特定の境界面圧力を使用して、様々な機器設定を用いて得られた回収率のグラフ表示を示す図である。
【0053】
図は、簡単にするために示されているものであり、必ずしも一定の縮尺で描画されているわけではないことに注意されたい。同様の特徴には、同じ参照番号が付されている。
【発明を実施するための形態】
【0054】
記載したシステムにより、質量分析計、特に誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)のマトリックス耐性が改善される。
【0055】
ICP-MSでは、試料は、試料が気化されてイオン化されるプラズマに導入される。試料のイオンは、境界面近くのプラズマからサンプリングされて、質量分析計に導入される。プラズマサンプリング境界面は、通常、サンプラー及びスキマーを含む。これらの要素は、接地されてもよい。しかし、正電圧又は負電圧のどちらか(試料、分析対象及び/又はマトリックスに応じる)が、地面からやはり電気隔離されているスキマーに印加されると、改善が示される。
【0056】
好ましくは、イオンが、ICPトーチ内で生成されて(しかし、他の技法が使用されてもよい)、境界面を介して真空に導入され、イオン光学系を介して、質量分離デバイスに案内され得る。プラズマサンプリング境界面は、通常、サンプラー及び絶縁スキマーを含む。図1は、単純化したシステム10の模式図を示す。サンプラー50は、大気圧(約1000mbar)とスキマー30の前のより低い圧力領域(境界面圧力、2.5~4.0mbar(Ar))とを分離する。質量分析器20は高真空で動作し、真空レベルは、具体的な測定モード、例えば、衝突ガスが使用されるか否かに依存する。
【0057】
電位は、コントロールユニット40(例えば、4象限電源)によって制御され、これは、デジタル式ポートを使用して調整され、好適なソフトウェア(例えば、Qtegra(商標)ソフトウェア)によって動作され得る。コントロールユニット40はまた、コンピュータ60によって制御されてもよい。手動電源もまた使用されてもよい。スライダ又は他のユーザインターフェースを使用して、特定の電圧が選択されてもよく、又はこれは、好適なソフトウェアによってコンピュータ制御されてもよい。選択可能な電圧範囲(例えば、-10V~+10V)は、コントロールユニット40又はコントロールソフトウェアの機器制御ウィンドウ内に提示され得る。電圧は、具体的な必要な分析対象の回収率を調整するために選択されてもよい。
【0058】
スキマーに印加された電位30は、ユーザにより選択され得る具体的な操作要件に依存する。例えば、コントロールユニット40の電圧設定は、各分析対象の質量に対して高い感度又は最適マトリックスのロバストネスを実現するよう構成され得る(すなわち、動的レンズ調整)。スキマーに印加する特定の電位を選択するために使用される調整方法の説明を以下に記載する。
【0059】
図1では、イオンビームは、左から右に動く。しかし、質量分析計の構成要素とイオンビームとは、違う方向に進んでもよい。ICPトーチ(この図には示されていない)の後に、接地されており、中間真空にイオンを導入するサンプラー50が存在する。スキマー30のコーン区域は、電位を制御するためのコントロールユニット40の電圧源に接続されている。スキマー30は、圧力Pskを有する中間(境界面)領域(例えば、2.5mbar(Ar)以下)から、質量分析器20が配置されている圧力Pintを有する高真空領域にイオンを導入する。質量分析器20は、データ、及び動作プロセッサ又はコンピュータ60への制御接続部を有する。コンピュータ60は、質量分析器20とは別個の装置であってもよく、又はそれらは、一体型ユニットを形成してもよい。コンピュータは、質量スペクトル、動作パラメータ、又は質量分析計の操作方法において使用される他のパラメータを記憶するために使用される、データストア又はデータベース70に接続されている。コンピュータ60はまた、質量分析計の動作を自動化することもできる。
【0060】
したがって、スキマー30は、絶縁され(例えば、Kapton(登録商標)又はポリイミド箔を使用)、スキマーの表面を任意の支持体又は冷却板(この図には示されていない)から電気的に隔離している。
【0061】
図2は、スキマー30に印加される電位差又は電圧を決定するために使用される例となる方法100のフローチャートを示す。工程110では、試料の最初の質量スペクトルは、接地されたスキマー30を用いて取得される(例えば、コントロールユニット40によって達成される)。質量スペクトルは、イオンビーム強度を示す振幅を有する1つ以上のイオン質量ピークを含む。これらの1つ以上のピークのイオンビーム強度又は振幅は、工程120において測定される(例えば、コンピュータ60によって)。
【0062】
工程130において、及び質量分析計が動作し、イオンビームが質量分析器20から信号を生成すると同時に、スキマー30に印加された電圧又は電位を、コントロールユニット40を使用して変化させる。これは、コンピュータ60又は他の方法によって制御されてもよい。イオンビーム強度は、スキマー30への印加電圧の変化に伴って変化する(通常、少なくともイオン質量が小さいほど低下する)。これは、質量分析器20からの信号から明白である。システム10には、イオンビーム強度の所定のレベルの変化又は低下を規定するデータが記憶されている。印加電圧は、この所定の変化若しくは低下量が達成されるか、又は他の強度条件が満たされるまで変化させる。これは、絶対変化、相対変化又は比例変化であってよい。これは、スキマー30に印加される操作電圧又は動作電圧を決定付ける(すなわち、値の必要な変化が達成された際)。質量スペクトルは、スキマー30に印加された動作電圧を用いて生成され、これは、工程140において出力される(例えば、コンピュータ60から出力される、及び/又はデータベース70と共に記憶されている)。
【0063】
スキマー30への電位(Vsk)の印加は、マトリックス効果を低減又は相殺することができるが、電位の印加の代わりに、又は電位の印加に加えて、更なる技法が使用されてもよい。質量分析器20からのイオン質量における信号を変化又は低下させるために電位を印加する代わりに、質量分析計内(例えば、スキマー30と質量分析器20との間)の圧力Pintを変化させてもよい。通常、この圧力を増大させると、イオンビーム強度が低下する。図3は、このような技法(圧力変動のみ)を説明する方法200のフローチャートを示す。
【0064】
図2を参照して説明されている方法100と同様に、工程210において、最初の質量スペクトルが取得される。これは、デフォルト又は通常の圧力レベル(すなわち、2.5mbar(Ar)以下の境界面真空)での質量分析計(例えば、(質量分析計の)サンプリング開口部とスキマーとの間の境界面)内の圧力を用いて得られる。
【0065】
また、イオンビーム強度は、最低又はデフォルト圧力レベル(中間真空)で、工程220において測定される。この測定は、質量分析器20からの信号の振幅から行われる。質量分析計の境界面領域内の圧力は、信号が生成されている間、増大する。これは、コンピュータ60又は他の方法によって制御されてもよい。これは、1つ以上のイオン質量におけるイオンビーム強度を示す信号の値が、図2の方法を参照して説明したものと同じ又は類似の所定のレベルだけ変化する(低下又は増大する)まで、又は別の強度条件が満たされるまで続く。この境界面圧力が新しい操作圧力となる。この圧力の調整に続いて、工程235において、残りの機器パラメータが、新しい圧力での性能発揮のために最適化される。工程240aにおいて、操作圧力で質量分析器20からの出力値としての質量スペクトルが得られる。更なる質量スペクトルが、圧力を変化させることなく、この試料又は同様の試料から得ることができる。
【0066】
サンプラー50は、大気圧(約1000mbar)とスキマー30の前のより低い圧力領域(通常、2.9~3.1mbar(Ar)に設定されたPsk)(境界面領域)とを分離する。境界面領域内の圧力は制御され得、真空レベルが調整可能であり、好ましくはコンピュータ制御可能である真空で動作することができる。
【0067】
組み合わされた方法300は、図4を参照して説明される。最初の質量スペクトルが工程310において得られる。これは、デフォルト圧力レベル(すなわち、3.1mbar(Ar)以下の中間真空)における質量分析計内の圧力(例えば、試料コーン50とスキマー30との間)を用いて得られる。
【0068】
次に、工程320において、デフォルト圧力レベル(境界面真空)で、イオンビーム強度が測定される。この測定は、質量分析器20からの信号の振幅から行われる。質量分析計内の圧力は、信号が生成されている間、増大する。これは、1つ以上のイオン質量におけるイオンビーム強度を示す信号の値が、図4の方法を参照して説明したものと類似の所定のレベルだけ低下するまで続く(工程330)。この圧力が操作圧力となる。この圧力の調整に続いて、残りの機器パラメータは、接地状態にあるスキマー電位を除いて、工程335において新しい圧力で性能発揮するために最適化される。
【0069】
続いて、工程340において、質量分析計を動作して、イオンビームが質量分析器20から信号を生成しながら、スキマー30に印加された電圧又は電位が、コントロールユニット40を使用して変化される。印加電圧は、所定の変化又は低下量が達成されるまで変化する。これは、スキマー30に印加される操作電圧又は動作電圧を決定付ける(すなわち、値の必要な変化が達成された際)。
【0070】
工程350aにおいて、操作圧力で質量分析器20からの出力値としての質量スペクトルが得られる。更なる質量スペクトルが、圧力を変化させることなく、この試料又は同様の試料から得ることができる。
【0071】
図3及び図4において、「機器を最適化する」ための工程は、接地されたスキマーの後ろの第1のイオン光学素子(例えば、静電レンズ)から始まり、質量分析計の分析器の入口前の最後のイオン光学素子で終わる、イオン透過を最大化する機器パラメータ(すなわち、レンズ電圧)を探索する手順を含む。
【0072】
イオン透過の最大化を規定する詳細な条件は、レンズごとに、及び反復ごとに様々となり得、追加の側面条件を有し得る。このプロセスを2回、反復するのが一般的である。最適化プロセスは、手動で実行され得るか、又は例えば、機器のコンピュータ制御された「自動調整」を定めるアルゴリズムを使用することによって自動的に実行され得るかのどちらかである。
【0073】
図5は、選択された例となるイオン質量についての2つのグラフ表示データセットを示す。y軸はイオンビーム強度を示す。スキマー30に印加される電圧は、x軸上に示される。これらのデータセットは、較正溶液(マトリックスなし)におけるイオン信号強度に対するスキマー電位の直接的な影響を示している。更に、これらのプロットから、最高強度に対する最適設定(すなわち印加電圧の最適設定)は、イオン質量の変化に伴って異なることが分かる。
【0074】
例えば、イオン質量強度信号における所定の条件は、特定の質量イオンに対するこの信号を最大化することであり得る。例のイオン59Coは、正のスキマー電圧(約4.5V)を必要とし、例のイオン209Biは、わずかに負の電圧(-1V~-2V)を必要とする。これは、分析対象及び試料タイプのすべてに対して(少なくとも感度を最大化するため)、及びすべての目的のため、強度ゲインをもたらすことができる最適スキマー電位が存在しないことがあることを示す。より高い質量のイオンは、より低い質量のイオンよりもより負の電圧を必要とし得るので、必要とされるスキマー操作電圧は、理想的には、分析対象と試料タイプとの間で変わる必要がある。これは、適応レンズ調整プロセス及び動的レンズ調整プロセスと説明することができる。
【0075】
マトリックス効果は、低濃度試料(例えば、1ppb)から得られるイオン信号強度を低下させる。この低下は、スキマー30内又はその後の空間電荷効果によるものであり得る。システム10のこの領域では、デバイ長がスキマー寸法と比較してもはや小さくない場合は常に、電荷が分離され、電子が失われる。残りの陽イオンの空間電荷(すなわち、イオン間のクーロン力)により、イオンビームが焦点ずれするか、又はイオンビームからイオンが発射される。この効果は、より多数のイオンが存在する場合(例えば、より高いマトリックス含有量に起因する)に増強されることがあり、マトリックス含有量の増加に伴って信号の一層高い抑制がもたらされる。スキマーに小さな負電圧が印加されている場合、電子損失が軽減されるので、この効果は低減されることがあるか、回避されることがあるか、又は少なくとも弱化され得る。しかし、電圧を変化させ、信号が元の値の割合に達するまで信号をモニタリングすることによって、スキマー30への正確な又は最適な印加電位を決定することも重要である。
【0076】
図6は、4象限電源の動作のチャートを示している。各象限は、正又は負の電圧及びソース電流又はシンク電流のいずれかをもたらす。
【0077】
図7は、試料が異なる量のマトリックス成分を含有し、スキマーに異なる電圧が印加されるときの、図1のシステムから得られた質量スペクトルのイオン強度の変化を示すグラフ結果を示している。
【0078】
図7におけるグラフのプロットは、従来のラングミュアプロットに非常に類似している。しかし、スキマーがラングミュアプローブと比較してプラズマサイズのスケールに関して大きいこと、及びプラズマがスキマー(「プローブ」)に向かって超音波速度で移動していることを含む、いくつかの相違点がある。それにもかかわらず、いくつかのプラズマパラメータを決定することができ、これは、図7のグラフに示されているデータによって示される。
【0079】
図7では、I(電流)対U(電圧)プロットの4つの象限が1~4とラベル付けされている。UとIとの間の測定された関係は、3つの象限:1、4及び3にある。線8は、電子電流が優勢である範囲を示している一方、線9は、イオン電流とスキマーを出る光電子の電流との合計が優勢な範囲を示している。その間には、線6によって示されるように、移行範囲が存在する。
【0080】
正味の電流が流れない電圧が、浮遊電位である。矢印7によって示される電圧は、プラズマ電位の良好な近似値である。
【0081】
代替的又は追加的に、スキマー30に印加された電位は、DC電圧(図7のx軸)の上部により小さいAC電圧を印加することによって修正されてもよい。測定された電流(図7のy軸)は、ラングミュア曲線の勾配を与え、絶対電流と組み合わせて、ラングミュア曲線上の位置を示している。
【0082】
図7の結果において、曲線5は座標系の原点を通らないが、座標系の4つの象限のうちの3つを横切ることが分かる。したがって、スキマー電位を任意の必要な値に設定するためには、4象限電源又はバイポーラ電源によって駆動されるべきである。この電源は、ソース及びシンクの両方として動作することができる。したがって、(コントロールユニット40としての)バイポーラ電源又は4象限電源を設けると、システム10に更なる利点をもたらすことができる。象限1、3及び4(図6及び7から)が、本システムにおいて使用される。
【0083】
システム10の動作を高感度設定(最高信号を実現する)モードとマトリクスロバストネス設定(マトリックス試料では、信号はより低いが、一層良好な信号回収率を実現する)モードとの間で移行させる手段又はスイッチをシステムに設けることも有用となり得る。したがって、電圧及び圧力(及び他のパラメータ)は、好ましくは、同じ測定又は実験中に切り替えることができる。モード切り替えのこのような構成は、コンピュータ60又はコントロールユニットによって自動化されて制御されてもよい。
【0084】
DC電圧(及び、特に負電圧)の印加は、マトリックス効果を低減するという説明した利点を実現するが、この電圧は、質量分析計の動作に対する更なる改善を可能にする。正の電圧がスキマー30に印加された状態でシステム10が動作されると、電圧によって誘導される偏向効果によってスキマーがより清浄に保たれるか、又は清浄される。これは、DCオフセットを超えるAC電流の印加によって改善され得る。質量分析計の通常動作下では、他の構成要素よりも頻繁に洗浄を必要とするのが、スキマーである。この労力は、本明細書で説明される改善によって低減され得る。これは、ニッケルスキマーの場合に特に有利となり得、ここで、堆積物は、高マトリックス試料の場合、経時的に蓄積するおそれがある。
【0085】
特定の分析対象の質量に対する信号を最大化する場合以外に、スキマー電位を使用して、高レベルのマトリックス成分を含有する試料に対する質量分析計信号の応答を改善することができる。図8は、第1に、スキマー電位の関数としての115Inの信号の依存性を示しており、第2に、試料中のマトリックス含有量の量に対するその依存性を示している。この場合のマトリックスは、Fe、Ni、Mg、Ca及び他の元素の混合物の濃度を増加させることからなる。このプロットは、115In分析対象の応答が、スキマー上の接地電位に対して非対称であることを示している。それはまた、マトリックス含有量が高いほど、より多くの115In分析対象の信号が失われることを示している。
【0086】
しかし、十分に負のスキマー電位が選択される場合、図8は、115In分析対象の信号の損失が溶液中のマトリックス含有量の量にますます依存しなくなることを示している。スキマー電位が約-2.5Vに設定される場合、115In分析対象の信号は、1000ppmのマトリックス含有量まで変化しないが、2000ppmのマトリックス濃度は、依然として顕著な信号損失をもたらす。この残留信号損失は、スキマー電位が-4.0Vに設定されたときに依然として低減され得る。図8において、マトリックスを含まない試料に関する信号損失は、-4.0Vのスキマー電位の場合、わずか10%である一方、-2.5Vのスキマー電位の場合、約25%となる。同時に、測定された115In信号強度は、-2.5Vから-4.0Vになると、約2分の1に低下する。
【0087】
要約すると、図8は、負のスキマー電位を設定することによって、2つの効果が観察されることを示している。
1)全体強度が低下する。
2)高いマトリックス含有量を有する試料の場合でさえも、信号回収率が改善する。
【0088】
図2に概説される方法を参照すると、これは、接地されたスキマーの場合に4分の1に信号が低下する条件を使用し、かつ清浄な試料を使用して、-2.5Vのスキマー電位を使用すると定めたものであることを、図8は示している。-2.5Vのこのスキマー電位が2000ppmのマトリックス含有量を有する試料を分析するために使用される場合、115In信号の信号回収率は、接地されたスキマーの場合の30%の回収率と比較して75%まで改善される。信号回収率は、図2に示されている方法における条件として、約6又は7となるより高い信号低下係数を使用することによって更に改善され得る。これは、-4.0Vのスキマー電位を定め、2000ppmのマトリックス試料における信号回収率を75%から90%まで更に改善する。したがって、スキマー30に適切な電圧を印加すると、定量結果がより正確になり得る。最適電位は、以下:
測定されている元素
試料中のマトリックスタイプ及び濃度、
プラズマ条件、
使用に伴って変化し得るスキマーコーンの状態、
結果の用途又は目的、
を含む様々な要因に依存する。
【0089】
最適電圧を見つけ出す方法の1つは、目的のイオン質量からの信号が所定量だけ変化又は低下するまで、スキマー電圧を変化させることである。所定量の最良値は、図8に示されているものなどのプロットから見つけ出すことができる。
【0090】
適切なスキマー電位を決定する際に、追加情報が考慮されてもよい。それらは以下を含む:
1)プラズマ関連イオン(Ar2、Ar、ArO、O2など)、及びそれらの関係、相互作用、割合などを測定する。
2)レンズ、この目的のためにビーム経路に挿入された専用電極、又はスキマー自体などのイオン光学素子に影響する全(イオン及び電子)電流の測定。
【0091】
図9は、マトリックス試料において、信号回収率を改善するために使用することができる第2の機構を示す。試料コーンとスキマーコーンとの間のプラズマサンプリング境界面における圧力は、質量分析計へのイオン透過に強力な影響を及ぼす。それはまた、質量分析計に入るイオンビーム強度を制御するために使用され得る。図9では、3つの異なる分析対象のイオン信号が、5つの異なる境界面圧力について示されている。境界面圧力が増大すると、信号は低下する。図3に概説されている方法によれば、境界面圧力は、例えば、図9中の分析対象のうちの1つの信号が所定の係数だけ低下するまで増大し得る。115Inの場合、圧力が図9に示されている範囲に制限されると、この係数は2となり得る。圧力範囲がこれらの値を超えて拡張されると、圧力は一層、高くなり得る。
【0092】
境界面圧力の増大によりイオンビーム強度を低下させる方法は、スキマー電位を使用する方法よりも小さい低下係数に一層、制限される。最初に圧力増大、次いでスキマー電位を使用することによる両方の方法が組み合わされて、一層高い低下係数を実現し、それによって一層良好なマトリックス回収率値を達成することができる。図4に概説されるように、組み合わされた方法を使用する利点は、マトリックス回収率の改善が、長期挙動においてより安定であることである。
【0093】
図10は、従来技術(a)Vsk=0V;(b)Vsk=-4.5V;c)Psk 0.7mbar(Ar)より高い;d)Psk 0.4mbar(Ar)より高い、かつVsk=-2.5Vに準拠し、かつ図2~4に記載されているように設定された質量分析計を用いて測定された、選択された信号を示す。従来技術の設定に関すると、115In信号は、他の3つのマトリックスの改善された設定の場合よりも約3倍高い。この場合、データは、図8のシステムとは異なるシステムで取得されたものであり、所定の信号を4分の1に低下させる場合に見出されたスキマー電位は、Vsk=-2.5Vと既に判明した。これは、スキマー電位のシフトを固定負電圧に適用することによってではなく、信号低下係数によって誘導される機器固有調整の重要性に反映する。
【0094】
同様に、図10には、図2の方法(Vsk=-4.5V)と図3の方法(Pskは0.7mbar(Ar)高い)との間の特定の差異が示されている。第1の方法はまた、先行技術と比較して9Beなどの軽い質量の分析対象を非常に強く抑制する一方、第2の方法は、軽いイオンの強度をほとんど変化させない。軽いイオンは、ICP-MS機器の質量バイアスによって、一般に過小評価されるので、境界面圧力の増大を使用することは、軽いイオンの場合に有利である。程度はより少ないが、同様の利点が、境界面圧力の増大が使用される場合、238Uなどの高い質量のイオンの場合に観察される。
【0095】
最後に、図11は、高マトリックス試料において図9の4つの異なる機器設定を使用した結果を示している。試料は、図8で使用したものと同じマトリックス成分の混合物を含有する。棒グラフは、1000ppmのマトリックス溶液中の図10に示される3つのイオン信号の回収率(%)を示している。
【0096】
従来技術の設定は、80%、50%及び30%未満の回収率しか達成しないが、図2、3及び4により見出された設定はすべて、通常、特定の分析対象に応じて、より良好に性能発揮する。図2及び4による方法はどちらも、すべての示された分析対象について80%~120%の回収率を達成する。238Uの場合、図4による方法を使用すると、30%から90%への回収率の強力な改善は、分析対象の信号強度のわずか20%の損失と共に生じる。
【0097】
図8図11を要約すると、ビーム強度の低下を制御することは、高マトリックス試料における全元素質量範囲にわたる分析対象の信号回収率にとって利点がある。ビーム強度の低下を制御するため、電気絶縁されたスキマーに印加される負の電位、及び境界面圧力の増大を使用することができる。清浄な試料の分析対象の信号の所定の低下は、同時に、高マトリックス試料における分析対象の回収率の改善を達成する。ビーム強度の低下の制御は、例えば、それぞれ24.31u、40.08u、55.85u及び58.71uの平均イオン質量を有するMg、Ca、Fe及びNiなどの主要なマトリックス構成物質であるそのような分析対象の質量の範囲において実質的に最適であると評価される。
【0098】
更に、特定のスキマー材料、とりわけ、低熱伝導率を有するスキマー材料が使用される場合、スキマー30のコーンは、非常に高い温度(例えば、1000℃)-Tskに到達し得る。高い先端温度は、堆積物の蓄積を回避する一助になり得るが、酸化が、分解を急速にもたらすことがあり、これによって、質量分析計の動作が劣化する。スキマーに電位を印加することにより、積極的なプラズマ条件によって引き起こされることが多い酸化を低減することもでき、とりわけ、チタン、ニッケル又はアルミニウムなどのスキマー材料に追加の利点をもたらす。
【0099】
スキマー電位の異なる値が、各(異なる)試料タイプに対して使用されてもよい。最適なスキマー電位(特定の試料タイプ及びある特定の分析対象の場合)は、信号回収率が可能な限り100%近くに留まるときである。したがって、スキマー電位を、マトリックスが存在する場合及び存在しない場合で変えることができる。
【0100】
最適なスキマー電位はまた、イオン質量に依存し得る。したがって、特定の分析対象の目的のイオン質量を使用して、マトリックス効果に対する最適な感度又は/及びロバストネスを実現する動作スキマー電位を決定することができる。言い換えると、方法100は、動作スキマー電圧を決定するために、特定の範囲内の1つ以上のイオン質量の強度値を使用してもよい。
【0101】
利点には、高い総溶解固形物(TDS)試料の場合の機器の分析ロバストネスの向上、スキマー電位によって調節又は設定することができる感度の(可能な)向上、及び高感度モードと高マトリックスモードとの間での切り替え時のハードウェアの変更の回避が挙げられる。更に、コーティング又は堆積の低下のために、長期信号安定性を改善することができる。
【0102】
プラズマ境界面のサンプラーコーンとスキマーコーンとの間の膨張チャンバ圧力は、ビーム強度全体にとって重要である。一般に、この領域において圧力が低いほど、多くのイオンが質量分析計に入ることが可能になる一方、圧力が高いほど、イオン強度が抑制される。図9に示されるグラフは、低~中質量イオンは、低圧の場合に、最も利点が得られる一方、より高い圧は、主にすべての強度を低下させることを示している。結果は、スキマーを接地して得られた。伝送光学系は、個々の境界面圧力に対して最適化した。
【0103】
一般に、分析対象の信号は、3.5mbar(Ar)以上の圧力の場合に低下する。この傾向は、スキマーコーンに入る全ビーム強度を低下させるために使用され、抽出領域内のスキマーの下流でも起こり得る。この低下は、約2分の1以上となることがある。
【0104】
機器調整スキームが実行され得る。これは、以下の工程を含むことができる:
1.境界面圧力を増大させることによって、イオンビーム/空間電荷を弱化させる。
2.伝送光学系の電圧を高い境界面圧力に適合するように最適化する。
再調整後のレンズ電圧は、以下のどちらか一方である:
a.静的;又は
b.質量依存的(走査)。
最適なレンズ電圧は利点を示し、分析対象の信号の安定性を更に改善する。
3.負のスキマー電位を設定して、ビーム強度の規定された割合分、焦点ずれさせる。
【0105】
これは、ビーム強度を更に弱化させ、上記のとおり、マトリックス搭載試料における信号回収率を改善する。負の電位は、圧力が標準値(例えば、約2.9~3.1mbar(Ar)以下)に維持される場合と比較して、所定量だけイオン強度の値を変化させるために必要とされるものの約半分を必要とし得る。したがって、電圧値(4.3mbar(Ar)までの圧力の増大を伴う)は、-0.5V~-3Vの範囲であってもよい。
【0106】
スキマー電位が負の電圧に設定された後の伝送光学系の最適化はマトリックス抑制を劣化させることがあるので、この順序の工程に従うことが好ましい。
【0107】
長期安定性及びマトリックス抑制の改善もまた達成可能である。マトリックス抑制における改善は、負のスキマー電位のみを使用する場合と依然として同等である。更に、より高い圧力を使用することなくスキマー電位が印加される場合と比較して、境界面及び抽出領域内の圧力を増大させることによって、マトリックス搭載試料における信号の長期安定性が改善され得る。経時的な信号ドリフトが、境界面圧力の増大と共に減少する。この例における安定性は、3.8mbar(Ar)という高い境界面圧力及び-2.2Vの負のスキマー電位において最も高い。一層良好な長期安定性は、測定中にパラメータを能動的に制御する必要性を低減することができる。
【0108】
低い質量感度も考慮される。負のスキマー電位に連携して高い境界面圧力を使用する場合、低質量イオンに対する感度は、標準境界面又は常圧(約3.0mbar(Ar))で稼働する場合よりも2倍高いことがある。現在の質量分析計は、異なる動作モードを使用してマトリックス効果を相殺する試みが行われることがある。
【0109】
最適パラメータの決定を行うことができる。これにより、境界面圧力とスキマー電位の値との改善された又は最適な組み合わせが見出される。どちらも、個々のスキマー及び試料コーンのサイズ、状態及び条件に強く依存し得る。それらの重要なパラメータは以下のとおりである:
1.試料コーンオリフィスサイズ(公称)
2.試料コーンの被覆(マトリックス堆積物)
3.スキマーコーンオリフィスサイズ(公称)
4.スキマーの被覆(マトリックス堆積物)
5.スキマー形状
6.トーチ位置(サンプリング深さ)
7.コーン温度
8.コーン材料
【0110】
改善されたマトリックスモードを設定する場合(境界面圧力及びスキマー電位の選択による)、未知の試料が未知の量のマトリックスを含み得るので、「マトリックス内調整」手法を使用することができない。これはまた、調整のために1つではなく少なくとも2つの標準品を必要とする。
【0111】
完全な調整が1つの清浄試料だけを使用することによって行われる場合、2段階手法が使用され得る。第1の工程は、最初に調整された一式のパラメータを用意する。第2の工程は、分析全体を通して信号を積極的に安定化させることである。これは、調整戦略の任意選択的特徴となり得る。
【0112】
第1の工程の説明を続ける。パラメータの最初の調整は、分析測定が行われる前に実行される。
【0113】
第1の工程:
1.スキマー上の規定電圧(例えば、0又は正の値)において、標準分析対象の強度をモニタリングしながら境界面圧力を増大させる。
2.1つ以上の分析対象の強度(イオン質量)が以下だけ変化する場合、圧力測定値を記録する(例えば、圧力センサを使用する):
a.70%未満(又は60%、50%、40%、30%)
及び
b.65%超(又は55%、45%、35%、25%)
3.機器感度(伝送光学系のレンズ電圧)を最適化する。
a.最適化された静電圧を保存する
b.質量依存性の電圧補正を保存する(該当する場合)
4.スキマー電位を低下させる。
5.1つ以上の分析対象の強度が以下を有する、スキマー電位(動作電位)を維持して保存する。
a.70%未満(又は60%、50%、40%、30%)
及び
b.3の後に観察された強度の65%超(又は55%、45%、35%、25%)
【0114】
モニタリングされる標準分析対象の全弱化又は変化(上記の調整手順を実行した後及びその前の感度の比)は、6%~50%の範囲内にあり得る。
【0115】
第2の工程:
分析測定中の電圧及び/又は圧力の連続モニタリング及び制御。
【0116】
コーン条件は、高いマトリックス含有量に起因して分析時間全体を通して変化し得るので、1つ以上のパラメータを測定して、フィードバックループを介して一定に保つことができる。
【0117】
これらのパラメータは以下のとおりとすることができる:
1.境界面圧力
2.他のシステム圧力又はガス流量
3.f.ex.38Ar+などのプラズマ関連イオン信号、又は40Ar40Ar+若しくは他のものなどの分子イオン
4.スキマーにおいて、又はスキマー30の下流の別の電極における、イオン電流(又は電子若しくは全電流)を測定する。これは、レンズ又は開口部などのイオン光学部品であってもよい。この部品は、スキマーの後方に0.5mm近く、又はシステムの第1のRF多重極の前方に0.5mm近く、又は間のどこかに存在し得る。
5.マトリックス試料に添加される内部標準のイオン信号。
【0118】
フィードバックループは、これらのパラメータのうちの1つ又はいくつかをモニタリングして制御し、変動を初期値周辺の狭帯域内に保つように構成され得る。
【0119】
これは、境界面圧力を制御する場合の前方ポンプ速度などの関連する第2のシステムパラメータを制御することによって行われる。フィードバックループはまた、モニタリングされるシステムパラメータを一定値に維持するために、スキマー電位又は伝送光学系レンズの電位のいずれかなど、最初に調整されたパラメータの他のいずれかを制御することもできる。
【0120】
当業者によって理解されるように、上記の実施形態の詳細は、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲から逸脱することなく変更され得る。
【0121】
例えば、異なる電圧をスキマーに印加してもよい。異なるタイプの質量分析計が使用されてもよい。質量スペクトルにおけるピークの強度(振幅)からイオンビーム強度を導くことが好ましいが、イオン光学レンズを使用して全イオン電流を測定するなど、他の選択肢が存在する。質量スペクトルは、単一の質量だけからなり得る。マトリックス成分は、ニッケル及び海水成分を含んでもよい。目的の他の試料は、廃水、探査地質学的試料(脱溶媒和後の鉱物)、及びレーザアブレーションされた固体表面(例えば、鉱物及びガラス)を含むことができる。コーンスキマーが図示され説明されているが、平坦なスキマー(孔をそこに有する単なるディスク)、又は平坦なコーンを有するスキマーも使用されてもよいが、一層平坦なスキマーを用いた場合、性能が劣る場合がある。イオンビーム強度の所定の変化(例えば、イオン質量信号又は振幅によって示される)は、毎回及び本方法の開始時に決定されてもよい。例えば、様々な条件、パラメータ、試料、試料タイプ及びマトリックスタイプは、所定量の値に影響を及ぼし得る。
【0122】
既知の様々な組成を有する異なる試料を使用して本方法を繰り返し、既知の組成ごとに必要な電位を記録する場合、この情報を使用して、質量分析計の最適設定を見つける。これによって、既知の(類似の)マトリックス組成を有する新しい試料を用いて参照されるルックアップテーブルを作成することができる。しかし、同様の組成のパラメータを使用してもよい。
【0123】
イオン種が述べられる場合、これらはイオン質量と呼ばれることもある。イオン質量が述べられる場合、これらはまた、イオン種とも称されることがある。
【0124】
1種以上のイオン種のイオンビーム強度が所定量だけ変化することを示す値は、1つ以上のイオン種のイオンビーム強度が所定の条件を満たすことを示す値として記載されてもよく、この場合、特定のレベルの値がこの一例である。
【0125】
当業者には、上述の実施形態の特徴に対する多くの組み合わせ、変更、又は改変がすぐに分かり、本発明の一部を成すことが意図されている。一実施形態又は一例に関連して具体的に説明された特徴のいずれも、適切な変更を行うことによって、他のどのような実施形態にも使用され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2024-02-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スキマー及び前記スキマーに電位を印加するように構成されている回路を有する質量分析計を操作する方法であって、
試料の最初の質量スペクトルを取得する工程と、
前記得られた最初の質量スペクトルの値を測定する工程であって、前記値が、1種以上のイオン種のイオンビーム強度を示す、工程と、
前記スキマーに様々なDC電位を印加して、動作電位を特定する工程であって、前記1種以上のイオン種の前記イオンビーム強度を示す前記値が、所定量だけ変化するまで、前記DC電位を変化させる、工程と、
前記スキマーに印加された前記動作電位を用いて、質量スペクトルを含む出力値を得る工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記試料の前記最初の質量スペクトルを取得する前記工程が、電位なしに又は前記スキマーに印加された地電位を用いて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
サンプリング開口部と前記スキマーとの間の境界面の圧力を増大又は低下させて、前記1種以上のイオン種における前記イオンビーム強度を示す前記値を変化させ、その結果、圧力及び電位の増大又は低下を組み合わせて、前記所定量において前記1種以上のイオン種の前記イオンビーム強度を示す前記値を得る工程を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記イオンビーム強度を示す前記値が、質量スペクトルにおける1つ以上のピークの振幅、及び全電流の測定値のうちのいずれか1つ以上である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記所定量が、前記値の百分率変化又は分数変化である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記所定量が前記値の低下である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記低下が3分の1~10分の1である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
既知組成を有する様々な試料を使用して前記方法工程を繰り返す工程と、各既知組成に対するイオンビーム強度を示す前記値を前記所定量だけ変化させるために必要な電位を記録する工程と、を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記スキマーに印加された前記動作電位により質量スペクトルを含む更なる出力値を提示する工程を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
前記電位が負の電位である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
前記電位が-1V~-4Vである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
様々な試料タイプ及び組成物に対して、前記1種以上のイオン種の前記イオンビーム強度を示す前記値を前記所定量まで変化させるために必要な電位を記憶する工程を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項13】
前記DC電位を印加するのと同時に、前記スキマーにAC電流を印加する工程を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項14】
前記電位の印加を解除する工程と、
前記スキマーに印加された前記電位なしの質量スペクトルを含む更なる出力値を提示する工程と、を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項15】
質量分析計を操作する方法であって、
試料の最初の質量スペクトルを取得する工程と、
前記得られた最初の質量スペクトルの値を測定する工程であって、前記値が、1種以上のイオン種のイオンビーム強度を示す、工程と、
前記質量分析計内の圧力を変化させて、動作圧力を特定する工程であって、前記1種以上のイオン種の前記イオンビーム強度を示す前記値が、所定量だけ変化するまで、前記圧力を変化させる、工程と、
前記動作圧力における、前記質量分析計内の前記圧力により質量スペクトルを含む出力値を提示する工程と、を含む、方法。
【請求項16】
前記質量分析計のスキマーに様々なDC電位を印加して、動作電位を特定する工程であって、前記DC電位が変化し、その結果、前記動作圧力と前記スキマーへの電位の印加とを組み合わせることにより、前記少なくとも1種以上のイオン種の前記イオンビーム強度を示す前記値が前記所定量まで変化する、工程を更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記動作電位が負の電位である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記所定量が、前記1種以上のイオン種の前記イオンビーム強度を示す前記値の低下である、請求項15~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記圧力が増大する、請求項15~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記圧力が、前記質量分析計のサンプリング開口部とスキマーとの間の境界面における圧力である、請求項15~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
スキマー及び請求項15~17のいずれか1項に記載の工程を実行するようになされている手段を有する、質量分析計。
【請求項22】
誘導結合プラズマ質量分析計、すなわちICP-MSである、請求項21に記載の質量分析計。
【請求項23】
前記スキマーに電位を印加するよう構成されているバイポーラ電源を更に備える、請求項21及び請求項22に記載の質量分析計。
【請求項24】
前記スキマーが、白金、アルミニウム、チタン若しくはニッケル、又はこれらの任意の組み合わせ物から形成される、請求項21に記載の質量分析計。
【請求項25】
200℃~750℃の温度に前記スキマーを維持するよう構成されているヒーターを更に備える、請求項21に記載の質量分析計。
【外国語明細書】