(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068167
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】半つや消し装飾部品の製造方法及び半つや消し装飾部品
(51)【国際特許分類】
A44C 5/00 20060101AFI20240510BHJP
A44C 27/00 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
A44C5/00 E
A44C27/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023187778
(22)【出願日】2023-11-01
(31)【優先権主張番号】CH001316/2022
(32)【優先日】2022-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(31)【優先権主張番号】FR2211512
(32)【優先日】2022-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】521095271
【氏名又は名称】シャネル・ソシエテ・ア・レスポンサビリテ・リミテ
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(74)【代理人】
【識別番号】100208258
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 友子
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・シェネ
(72)【発明者】
【氏名】ピエール-フランソワ・フェルッチ
【テーマコード(参考)】
3B114
【Fターム(参考)】
3B114AA03
3B114AA14
3B114AA16
3B114AA21
3B114BE01
(57)【要約】
【課題】従来のつや消しより、汚れにくく洗浄しやすく、異なる外観のつや消しを提供する。
【解決手段】本発明は、半つや消し装飾部品の製造方法に関し、この方法は、-800HV以上の硬度を持つ装飾部品を調達するステップと、-ダイヤモンドと、窒化ホウ素と、炭化ケイ素と、アルミナと、炭化ホウ素との中の少なくとも1つの材料の研磨粉末を収容しているドラム内に装飾部品を配置するステップと、-ドラムを少なくとも3時間作動させて、装飾部分を0.5m/分から1.5m/分の間の平均速度で動かすステップとを備える。半つや消し装飾部分(1)は、絹のような外観、又はベロアのような外観を持ち、薄い色、例えば白色でよい。既知のつや消し部分よりも汚れがつきにくく、容易に洗浄できる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半つや消し装飾部品の製造方法であって、前記方法が、
- 装飾部品を調達するステップ(100)であって、前記装飾部品は800HV以上の硬度を持つ、装飾部品を調達するステップ(100)と、
- 前記装飾部品を、ダイヤモンドと、窒化ホウ素と、炭化ケイ素と、アルミナと、炭化ホウ素との中の少なくとも1つから選択される少なくとも1つの材料の研磨粉を収容しているドラム内に配置するステップ(200)と、
- 前記ドラムを少なくとも3時間作動させて、装飾部品を0.5m/分から1.5m/分の間の平均速度で動かして、これにより、表面を半つや消しにして、-1μmから-0.3μmの範囲の非対称性(Rsk)と、0.1μmから1.5μmの範囲の外形の高さ(Rt)と、0.1μmから0.2μmの範囲の粗さ(Ra)とを持つ表面の外形を取得可能にするステップ(300)と
を備える、半つや消し装飾部品の製造方法。
【請求項2】
前記研磨粉の粒子の大きさは、5μmから50μmの範囲、好ましくは10μmから30μmの範囲、例えば15μmから25μmの範囲である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記研磨粉が液体に懸濁しているものである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記液体が界面活性剤を含む、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ドラムを搭載するステップ(200)の前に、前記装飾部品を磨くステップを備える、請求項1から4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
最大寸法が0.3mmから15mmの範囲にある媒体を前記装飾部品と共に前記ドラム内に配置するステップを備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記装飾部品が、セラミックと、サーメットと、サファイアと、焼結ガラスとの中の少なくともいずれか1種類で作られている、請求項1から6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
800HV以上の硬度を持ち、
複数の傷のある表面を持ち、
-1μmから-0.3μmの範囲の非対称性(Rsk)と、0.1μmから1.5μmの範囲の外形の高さ(Rt)と、0.1μmから0.2μmの範囲の粗さ(Ra)とを持つ表面の外形と持つことで前記表面を半つや消しにしている、
装飾部品(1)。
【請求項9】
前記装飾部品が、セラミックと、サーメットと、サファイアと、焼結ガラスとの中の少なくともいずれか1種類で作られている、請求項8に記載の装飾部品(1)。
【請求項10】
前記表面上の前記傷の方向の分布が不規則である、請求項8又は9に記載の装飾部品(1)。
【請求項11】
単位表面積当たりの前記傷の密度は表面上で均一である、請求項8から10のいずれか一項に記載の装飾部品(1)。
【請求項12】
前記傷が谷と頂点を画定していて、前記谷の深さと前記頂点の高さとの間の平均高さは、0.1μmから1μmの範囲である、請求項8から11のいずれか一項に記載の装飾部品(1)。
【請求項13】
前記頂点の高さと、前記谷の深さとの少なくとも一方は不規則である、請求項8から12のいずれか一項に記載の装飾部品(1)。
【請求項14】
前記表面上の前記傷の長さが1μmから70μmの範囲であることと、
前記表面上の前記傷の幅が1μmから5μmの範囲であることと
の少なくとも一方である、請求項8から13のいずれか一項に記載の装飾部品(1)。
【請求項15】
請求項8から14のいずれか一項に記載の装飾部品を備えた時計又は宝飾品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半つや消し装飾部品の製造方法及びセミマット(半つや消し)装飾部品に関する。本発明による半つや消し装飾部品は、時計及び宝飾品の分野に限定されるものではなく、微細加工技術の一般的な分野、可動又は可搬装置の分野、車両の分野、もしくは半つや消し部品が、物体の装飾に使用され、その物体の使用中に見えるその他の分野にも、用途を見いだせる。
【背景技術】
【0002】
マットな(つや消し)装飾部品、すなわち、輝きのない部品と、キラキラしない部品と、光を反射しない部品との少なくとも1つが、広く知られていて、様々な対象物、特に時計及び宝飾品の分野で使用されている。
【0003】
これらのつや消し装飾部品の非限定的な例としては、腕時計のケースやブレスレットのリンク(金属製バンドのコマ)がある。
【0004】
つや消しの外観は、数μmの大きさの深さのスクラッチ(傷)があることで達成される。このような傷は汚れを集めやすく、洗浄が困難である。さらに、このような汚れは、装飾部分が明るい色、例えば白色であると特に目立つ。
【0005】
したがって、公知の装飾部品よりも汚れを集めにくい装飾部品に対する必要性が存在する。
【0006】
公知の装飾部品よりも容易に洗浄可能な装飾部品に対する必要性もまた、存在する。
【0007】
公知の装飾部品とは異なる外観を持つ装飾部品に対する必要性も存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の1つの課題は、公知の装飾部品の制限から解放された装飾部品を提案することである。
【0009】
本発明の別の課題は、公知の装飾部品よりも汚れを集めにくい装飾部品を提案することである。
【0010】
本発明の別の課題は、公知の装飾部品よりも容易に洗浄できる装飾部品を提案することである。
【0011】
本発明の別の課題は、公知の装飾部品とは異なる外観を持つ装飾部品を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、これらの課題は、特に、請求項1に係る半つや消し装飾部品の製造方法及び請求項8に係る装飾部品によって達成される。
【0013】
本発明による、半つや消し装飾部品の製造方法は、以下のステップ、
- 800HV以上の硬度を持つ装飾部品を調達するステップと、
- 前記装飾部品を、ダイヤモンドと、窒化ホウ素と、炭化ケイ素と、アルミナと、炭化ホウ素との中の少なくとも1つから選択される少なくとも1つの材料の研磨粉を収容しているドラム内に配置するステップと、
- ドラムを少なくとも3時間作動させて、装飾部品を0.5m/分から1.5m/分の間、好ましくは0.7m/分から0.9m/分の間、例えば0.8m/分で動かして、これにより、表面を半つや消しにして、-1μmから-0.3μmの範囲の非対称性と、0.1μmから1.5μmの範囲の外形の高さと、0.1μmから0.2μmの範囲の粗さとを持つ表面の外形を取得可能にするステップと
を備える。
【0014】
一実施形態では、部品の動きは、一度に複数の方向への移動、例えば振動移動である。
【0015】
この文脈では、「半つや消し部品」という表現は、光が部分的にしか反射せず、鏡面反射(鏡のように、法線に対する入射角と等しい角度で、同一平面内で反射)し、主に光を乱反射(すなわち、多数の角度で光を反射)し、部分的な輝きを持ち、部分的にきらめく部品を示す。その視覚的外観は、絹のような、ベルベットのような、又はベロアのようである。
【0016】
一実施形態では、同じ材料で作られた研磨済部品(すなわち、滑らかな表面を持つ部品)と比較して、本発明による部品からの鏡面反射は最大69%減少し、同じ材料で作られた研磨された部品と比較して、本発明による部品からの拡散反射は100%以上、例えば最大113%増加する。
【0017】
本願の内容では、変数「非対称性」(Rsk)は、評価又は基準長さ(例えば250μm)にわたって定義された表面の要素(特に頂点及びくぼみ)の分布の非対称性を意味する。この変数は表面状態の形態に関する情報を提供する。Rskの正の値は、表面上に突出した頂点を持ち、したがって分布が最低点に向かってずれている表面に対応し、負の値は、深い谷(又はくぼみ)を持ち、分布が最高点に向かってずれている平らな表面に対応する。
【0018】
本願の内容では、変数「外形の高さ」(Rt)は、評価長さ(例えば250μm)にわたる最も深い谷と最も高い頂点との間の高さを意味する。この変数によって、外形の局所的な評価が可能になる。
【0019】
本願の内容では、変数「粗さ」(Ra)は、装飾部品の表面の外形の算術平均粗さを指す。これは、基準長さにわたって定義される。この変数により、外形の粗さの振幅を全体的に評価可能である。
【0020】
本願の解決策は、そのため、特定のタイプの研磨材、すなわち、ダイヤモンドと、窒化ホウ素と、炭化ケイ素と、アルミナと、炭化ホウ素との中の少なくとも1つの材料の研磨粉と共にタンブリングする(非制御の落下を何度もさせる)ステップを提供する。
【0021】
この研磨粉は、その粒子がタンブリング中にほとんど壊れないか全く壊れないという特殊な性質を持つ。これが、タンブリング中にタンブリングが研磨工程になるのを防げるようにする。実際に製造される部品は、研磨部品ではなく、半つや消し部品である。
【0022】
好ましい実施形態では、ダイヤモンド研磨粉を使用する。
【0023】
本発明による研磨粉、特にダイヤモンド研磨粉の使用は、第一に、この(ダイヤモンド研磨)粉の費用ゆえに自明ではない。さらに、この粉、特にダイヤモンド粉は、ドラムの劣化を引き起こす可能性がある。また、この粉はしばしば液体、例えば油に懸濁しているため、ドラムの洗浄が複雑になる。
【0024】
出願人によって実施された試験により、この研磨粉の本発明による使用が可能であるばかりでなく、公知の装飾部品よりも汚れが少なく、公知のつや消し装飾部品よりも容易に洗浄できる半つや消し部品を得られることが実証された。実際、変数Rskと、Rtと、Raとによって定義されるその構造のために、本発明による半つや消し部品は、公知のつや消し部品に比べて汚れが少なくなり、たとえ汚れたとしても、容易に洗浄可能である。その結果、本発明による半つや消し装飾部品は、明るい色、例えば白色で製造も可能である。
【0025】
この解決策は、特に、既知の装飾部品の(つや消し又は薄い)外観とは異なる、絹のような外観又はベロアに似た外観を持つ装飾部品を提案するという、従来技術に対する有利点を持つ。
【0026】
一実施形態では、本方法は、半つや消し装飾部品をドラムから降ろすステップを備える。
【0027】
一実施形態では、方法は、原則としてドラムを降ろすステップに続くドラムを洗浄するステップを備える。
【0028】
一実施形態では、方法は、原則としてドラムを降ろすステップに続く半つや消し装飾部品を洗浄するステップを備える。
【0029】
一実施形態では、方法は、原則としてドラムを降ろすステップに続く(一般に直後ではない)半つや消し装飾部品を検査するステップ、例えば検査ステップを備える。
【0030】
一実施形態では、方法は、原則としてドラムを搭載するステップに先行する、装飾部品を研磨するステップを備える。換言すると、この実施形態では、本発明による方法は、以前に研磨された部品の「くすんだ感じ」を可能にし、半つや消し状態にする。
【0031】
一実施形態では、研磨粉(power, powder)の粒子の大きさ(すなわちその最大寸法)は、5μmから50μmの範囲、好ましくは10μmから30μmの範囲、例えば15μmから25μmの範囲である。
【0032】
一実施形態では、研磨粉の粒子は必ずしも全て同じ形状ではない。
【0033】
一実施形態では、研磨粉の粒子は必ずしも全て同じ大きさではない。
【0034】
一実施形態では、ドラムに使用される研磨粉は液体中に懸濁状態にある。
【0035】
一実施形態において、液体は、液体中における研磨粉の懸濁を改善するために、界面活性剤、例えば油と石鹸との少なくとも一方を含有する。
【0036】
一実施形態では、本方法は、複数の装飾部品、例えば数十、数百又は数千の装飾部品をドラム内に配置するステップを備える。
【0037】
一実施形態では、この方法は、最大寸法が0.3mmから15mmの範囲にある媒体又は「チップ」を装飾部品と共にドラム内に配置するステップも備える。これらの媒体は、円柱形状又は他の適切な形状とし得る。一実施形態では、ドラム内の媒体の体積は、ドラム内の装飾部品の総体積の約4倍である。
【0038】
一実施形態では、装飾部品は、セラミックと、サーメットと、サファイアと、焼結ガラスとの中の少なくともいずれか1種類で作られている。
【0039】
一実施形態において、ドラムは、本発明による方法にいったん使用されると、もはや他の異なる工程(例えば研磨など)には使用不可であり、本発明による方法専用のままである。実際、要求される研磨粉は、ドラムの壁の劣化を引き起こし、そのドラム内で研磨しようとする部品の表面状態に影響を与える。一方、本発明による方法に再使用できる。
【0040】
一実施形態では、ドラムは、3時間よりも長い時間、例えば5時間又は10時間作動される。
【0041】
本発明はまた、800HV以上の硬度を持ち、傷のある表面と、-1μmから-0.3μmの範囲の非対称性を持つ表面の外形と、0.1μmから1.5μmの範囲の外形の高さと、0.1μmから0.2μmの範囲の粗さとを持ち、表面を半つや消しにする装飾部品にも関する。
【0042】
一実施形態では、装飾部品はセラミックと、サーメットと、サファイアと、焼結ガラスとの中の少なくともいずれかで作られている。
【0043】
一実施形態において、表面上の傷の方向の分布は不規則であり、すなわち、傷は全てが同じ方向ではない。それどころか、各傷は、別の傷の方向とは必ずしも一致しない方向を持ち、これらの傷は、擦過、衝撃又は浸食によって生じる。
【0044】
一実施形態では、単位表面積当たりの傷の密度は表面上で均一である。一実施形態において、この密度は、一辺の長さが100μmの正方形の表面に対して100から400(個所、個)の範囲の傷であり、好ましくは、一辺の長さが100μmの正方形の表面に対して180から220の範囲の傷である。
【0045】
一実施形態では、傷は谷と頂点を画定する。
【0046】
この文脈において、「頂点」という用語は、突起、すなわち、一方の端部(基端部)が他方の端部(自由端部又は先端部)よりも大きい、2つの端部の間に画定される突起を示す。頂点は、ピラミッド、円錐、切頭ピラミッド、切頭円錐などの形状であってもよい。
【0047】
頂点は、表面、特に少なくとも2つの表面によって画定される谷、すなわちくぼみ又は開口部によって分かれていてよい。変形例では、これらの表面は、2つの連続する頂点の側方表面である。
【0048】
頂点は、必ずしも周期的、すなわち規則的に間隔をあけて配置されている必要はなく、例えば逆V字形状、逆U字形状などの異なる断面を持ってよく、非限定的に断面を持ってよい。本発明による半つや消し装飾部品は、異なる形状の頂点を備えてよい。
【0049】
一実施形態では、谷の底は、本発明による半つや消し装飾部分の実質的に一定の深さに位置する。しかしながら、様々な深さの谷も想定され得る。
【0050】
一実施形態では、谷の深さと頂点の高さとの間の平均高さは、0.1μmから1μmの範囲である。外形の要素のこの平均高さは、評価長さにわたって定義される。この変数は、国際標準化機構の規格ISO12085の変数Rに近く、パターン変数(ISO25178参照)とみなせる。
【0051】
一実施形態では、頂点の高さと、谷の深さとの少なくとも一方は不規則である。
【0052】
好ましい実施形態では、傷は全て実質的に直線又は矩形である。別の実施形態では、少なくともいくつかの傷は直線状ではなく、例えば曲線状である。
【0053】
一実施形態では、表面上の傷の長さは、1μmから70μmの範囲である。
【0054】
一実施形態では、表面上の傷の幅は、1μmから5μmの範囲である。
【0055】
一実施形態では、同じ材料で作られた研磨部品と比較して、本発明による部品からの鏡面反射は最大70%減少し、同じ材料で作られた研磨部品と比較して、本発明による部品からの拡散反射は100%以上増加する。
【0056】
一実施形態では、半つや消し装飾部品は一体部品、すなわち一体で作られた部品である。
【0057】
一実施形態において、半つや消し装飾部品は、ブレスレット(例えば腕時計)のリンク(コマ)又は時計(例えば腕時計)のケースである。
【0058】
本発明はまた、本発明による半つや消し装飾部品を備える時計(例えば時計又は腕時計)及び宝飾品にも関する。
【0059】
本発明の実施の形態は、添付の図によって示される説明に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】
図1は、本発明による半つや消し装飾部品の一実施形態の透視図である。
【
図2】
図2は、
図1の半つや消し装飾部品の部分断面図である。
【
図3A】
図3Aは、ゼロ粗さ非対称変数Rskを持つ表面の外形を示す図である。
【
図3B】
図3Bは、正の粗さ非対称性変数Rskを持つ表面の外形を示す。
【
図3C】
図3Cは、負の粗さ非対称性変数Rskを持つ表面の外形を示す。
【
図4A】
図4Aは、一実施形態による半つや消し装飾部品の表面の透視図である。
【
図4B】
図4Bは、サンドブラスト処理された装飾部品の表面の透視図である。
【
図5】
図5は、一実施形態による半つや消し装飾部品の表面を上から見た図である。
【
図6A】
図6Aは、一実施形態に係る半つや消し装飾部品の表面を上方から見た別の図である。
【
図6B】
図6Bは、サンドブラストされた装飾部品の表面を上方から見た図である。
【
図7A】
図7Aは、本発明による部品及び研磨部品の鏡面反射を測定するシステムの上方からの図であり、下部には、システムのビデオカメラによって見られる2つの部品の上方からの図が示されている。
【
図7B】
図7Bは、本発明による部品及び研磨部品の拡散反射を測定するシステムを上方から示す図であり、下部にはシステムのビデオカメラによって見られる2つの部品の上方からの図が示されている。
【
図8】
図8は、半つや消し装飾部品を製造する本発明の一実施形態による方法のステップを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0061】
図1は、本発明による半つや消し装飾部品1の一実施形態の透視図である。描かれている例では、部品1はブレスレットのリンク(金属製ベルトのコマ)である。
図1の部品1は、第1表面10と、第1表面10に対向する第2表面12とを持つ。描かれている実施形態では、第2表面12は第1表面10と平行である。
図1の実施形態では、半つや消し装飾部品1はモノブロック部品(単一部品)である。
【0062】
図1の半つや消し装飾部品は、特定の形状及び幾何学的形状を持つリンクであるが、本発明はこのような幾何学的形状又は形に限定されるものではなく、形と、比率と、寸法との中の少なくとも1つで他の任意の幾何学形状に適用される。
【0063】
また、本発明はブレスレットのリンク(腕時計の金属製ベルトのコマ)に限定されるものではない。
【0064】
本発明によれば、装飾部品1は、800HV以上の硬度を持ち、傷のある表面と、-1μmから-0.3μmの範囲の非対称性を持つ表面の外形と、0.1μmから1.5μmの範囲の外形高さと、0.1μmから0.2μmの範囲の粗さとを持ち、表面を半つや消しにしている。
【0065】
一実施形態では、装飾部品1は、セラミックと、サーメットと、サファイアと、焼結ガラスとの中の少なくとも1つで作られている。
【0066】
図2は、
図1の半つや消し装飾部品1の
図1の線A-Aに沿って取った断面の部分図である。
【0067】
装飾部品1の表面10は、谷13と頂点11とからなる。頂点11は、必ずしも周期的、すなわち規則的な間隔を有している必要はなく、非限定的な例として、逆V字形状、逆U字形状等の異なる断面を持っていてもよい。本発明による半つや消し装飾部品1は、異なる形状の頂点を備えてよい。
【0068】
図2の実施形態では、頂点11は表面上に不規則に分布している。換言すると、頂点11は、互いに垂直な線及び列からなる行列を形成するようには配置されていない。
【0069】
図2の実施形態では、谷の底130は、本発明による半つや消し装飾部において実質的に一定の深さに位置している。しかしながら、様々な深さの谷13も等しく想定してよい。
【0070】
一実施形態では、くぼみの深さと頂点の高さとの間の平均高さは、0.1μmから1μmの範囲である。外形の要素のこの平均高さは、評価長さにわたって定義される。この変数はISO12085の変数Rに近く、パターン変数(ISO25178参照)とみなせる。
【0071】
一実施形態では、頂点の高さと、谷の深さとの少なくとも一方は不規則である。
【0072】
図3Aは、ゼロ算術平均粗さRskを持つ表面の外形を示す。
図3Bは、正の算術平均粗さRskを持つ表面の外形を示す。
図3Cは、負の算術平均粗さRskを持つ表面の外形を示す。
【0073】
本発明による半つや消し装飾部品1の非対称性は(
図3Cのように)負である。
【0074】
さらに、本出願人により実施された試験により、本発明による半つや消し装飾部品1の非対称性は、サンドブラスト表面の非対称性よりも顕著であり、その範囲は-0.3μmから-0.15μmであり、これはより深い谷とより低い頂点に反映されることが実証された。
【0075】
本出願人により実施された試験により、本発明による半つや消し装飾部品1の外形の全高は、サンドブラスト表面のそれよりも小さく、その範囲は2μmから3μmであることが実証された。
【0076】
本出願人により実施された試験により、本発明による半つや消し装飾部品1の輪郭の算術平均粗さは、サンドブラスト表面よりも小さく、0.3μmから0.5μmの範囲であることが実証された。
【0077】
一実施形態では、本発明による半つや消し装飾部品1の谷の深さと頂点の高さとの間の平均高さは、0.1μmから1μmの範囲である。
【0078】
本出願人により実施された試験により、本発明による半つや消し装飾部品1の谷の深さと頂点の高さとの間の平均高さは、1.3μmから2μmの範囲であるサンドブラスト表面よりも低いことが実証された。
【0079】
図4Aは、一実施形態に係る半つや消し装飾部品の表面の透視図である。
図4Bは、サンドブラスト装飾部品の表面の透視図である。
図4A及び
図4Bは、測定値による表面間の粗さの差を示す。
【0080】
図4B及び
図6Bに関連して言及した試験中に考慮したサンドブラスト表面は、(コランダム粉を用いた)サンドブラストによって得られた800HV以上の硬度を持つ部品(特に、
図4A及び
図6Aの半つや消し部品と同じ材料からなる部品)の表面であり、サンドブラスト工程の後に、ガラスビーズを用いたショットブラスト工程が続く。このサンドブラスト部品はつや消しの外観を持つ。
【0081】
図5は、一実施形態による半つや消し装飾部品1の表面を上から見た図である。本発明による装飾部品の特徴である、装飾部品1の表面上にわたった研磨粉のひっかきにつながる傷を見ることができる。
【0082】
図5に見られるように、一実施形態では、表面上にわたった傷の方向の分布は不規則であり、すなわち、全ての傷が同じ方向にあるわけではなく、それどころか、各傷は、別の傷の方向とは必ずしも一致しない方向を持ち、これらの傷は、擦過、衝撃又は浸食によって作られたものである。
【0083】
図5からわかるように、一実施形態では、単位表面積当たりの傷の密度は表面上で均一である。
図5からわかるように、一実施形態では、この密度は、一辺の長さが100μmの正方形の表面に対して、傷は100から400(個所、個数)の範囲にあり、好ましくは、一辺の長さが100μmの正方形の表面に対して、傷は180から220の範囲にある。
【0084】
好ましい実施形態では、傷は全て実質的に直線又は矩形である。
図5に見られるように、一実施形態では、少なくともいくつかの傷は直線状ではなく、例えば曲線状である。
【0085】
図5に見られるように、一実施形態では、表面上の傷の長さは、1μmから70μmの範囲である。
【0086】
一実施形態では、表面上の傷の幅は、1μmから5μmの範囲である。
【0087】
図6Aは、一実施形態による半つや消し装飾部品1の表面を上から見た別の図である。この実施形態では、半つや消し装飾部品1は、装飾部品1の表面上の研磨粉の摩擦に関連する方法に特徴的な傷を備える。これらの傷は、例えば、
図6Bに見られるように、粒状で均一な外観を持つサンドブラスト表面には存在しない。
図7Aは、上部に、本発明による部品1及び同じ材料で作られた研磨部品1’からの鏡面反射を測定するシステム201を示し、下部に、システム201のビデオカメラ22によって見られる2つの部品1、1’の上方からの図を示す。
【0088】
システム201は、光源20とビデオカメラ22とを備える。ビデオカメラ22は、部品1又は1’の表面に対する法線nに対する部品1又は1’の表面上の光源20からの光の入射角αに等しい角度αに配置される。
【0089】
図7Bは、上部に、本発明による部品1及び研磨された部品1’による拡散反射を測定するシステム202を示し、下部に、システム202のビデオカメラ22によって見られる2つの部品1、1’の上方からの図を示す。
【0090】
システム201はまた、光源20とビデオカメラ22と備えるが、ビデオカメラ22は、部品1又は1’の表面に対する法線nに対する部品1又は1’の表面上の光源20からの光の入射角αと等しくない(図示の場合は、入射角より小さい)角度βに配置されている。
【0091】
2つのシステムのビデオカメラ22によって取得された画像の灰色のレベル(灰色の濃度)を測定することによって、表面の定量的な比較が可能になる。
【0092】
本出願人が、本発明による部品1(色は白黒)を、同じ材料からなる研磨部品1’(色は白黒)と相対的に用いて実施した試験は、研磨部品と比較して本発明による部品による鏡面反射が最大69%減少し、研磨部品と比較して本発明による部品による拡散反射が100%以上、例えば最大113%増加することを示している。一実施形態では、半つや消し装飾部品1は、(例えば腕時計の)ブレスレットのリンク(コマ)又は時計ケース(例えば腕時計ケース)である。
【0093】
本発明は、本発明による半つや消し装飾部品1を備える、時計と、宝飾品にとの少なくとも一方も関する。
【0094】
図8は、半つや消し装飾部品を製造する本発明の一実施形態による方法のステップのフローチャートである。
【0095】
本発明による半つや消し装飾部品の製造方法は、以下の
- 装飾部品を調達するステップであって、前記装飾部品は800HV以上の硬度を持つ、装飾部品を調達するステップ(ステップ100)と、
- 前記装飾部品を、ダイヤモンドと、窒化ホウ素と、炭化ケイ素と、アルミナと、炭化ホウ素との中の少なくとも1つから選択される少なくとも1つの材料の研磨粉を収容しているドラム内に配置するステップ(ステップ200)と、
- ドラムを少なくとも3時間作動させ、装飾部分を0.5m/分と1.5m/分との間の平均速度で移動させ、これにより、表面を半つや消しにして、-1μmから-0.3μmの範囲の非対称性と、0.1μmから1.5μmの範囲の外形の高さと、0.1μmから0.2μmの範囲の粗さとを持つ表面の外形を取得可能にする(ステップ300)と
を備える。
【0096】
この解決策は、そのため、特定のタイプの研磨材、すなわち、ダイヤモンドと、窒化ホウ素と、炭化ケイ素と、アルミナと、炭化ホウ素との中の少なくとも1つの材料の研磨粉と共にタンブリングする(非制御の落下を何度もさせる)ステップを提供する。
【0097】
この研磨粉は、その粒子がタンブリング中(自由落下を何度もする間)にあまり壊れないか全く壊れないという特殊な性質を持っている。これが、タンブリング中にタンブリングが研磨工程になるのを防げるようにする。実際に製造される部品は、研磨部品ではなく、半つや消し部品である。
【0098】
一実施形態では、この方法は、半つや消し装飾部品をドラムから降ろすステップ(図示せず)を備える。
【0099】
一実施形態では、本方法は、原則としてドラムを降ろすステップに続くドラムを洗浄するステップ(図示せず)を備える。
【0100】
一実施形態では、方法は、原則としてドラムを降ろすステップに続く半つや消し装飾部品を洗浄するステップ(図示せず)を備える。
【0101】
一実施形態では、方法は、原則としてドラムを降ろすステップに続く半つや消し装飾部品1を検査するステップ(図示せず)、例えば検査ステップを備える。
【0102】
一実施形態では、この方法は、原則としてドラム搭載するステップ200に先行する、装飾部品を研磨するステップ(図示せず)を備える。換言すると、この実施形態では、本発明による方法は、以前に研磨された部品の「くすんだ感じ」を可能にし、半つや消し状態にする。
【0103】
一実施形態では、研磨粉の粒子の大きさ(すなわちその最大寸法)は、5μmから50μmの範囲、好ましくは10μmから30μmの範囲、例えば15μmから25μmの範囲である。
【0104】
一実施形態では、研磨粉の粒子は必ずしも全て同じ形状ではない。
【0105】
一実施形態では、研磨粉の粒子は必ずしも全て同じ大きさではない。
【0106】
一実施形態では、ドラムに使用される研磨粉は、液体中で懸濁状態にある。
【0107】
一実施形態では、液体は、液体中での研磨粉の懸濁を改善するために、界面活性剤、例えば油と、石鹸との少なくとも一方を含有する。
【0108】
一実施形態では、本方法は、複数の装飾部品、例えば数十、数百又は数千の装飾部品をドラム内に配置するステップを備える。
【0109】
一実施形態では、この方法は、最大寸法が0.3mmから15mmの範囲にある媒体又は「チップ」を装飾部品と共にドラム内に配置するステップも備える。これらの媒体は、円柱の形状又は他の任意の適切な形状としてよい。一実施形態では、ドラム内の媒体の体積は、振動ドラム内の装飾部品の総体積の約4倍である。
【0110】
一実施形態では、装飾部品は、セラミックと、サーメットと、サファイアと、焼結ガラスとの中の少なくとも1つで作られている。
【外国語明細書】