(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068173
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂及びポリエステル樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 63/183 20060101AFI20240510BHJP
C08G 63/78 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
C08G63/183
C08G63/78
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023188160
(22)【出願日】2023-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2022178226
(32)【優先日】2022-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】和田 啓暉
(72)【発明者】
【氏名】小野 勝則
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA03
4J029AB01
4J029AB05
4J029AC01
4J029AD01
4J029AD06
4J029AE01
4J029AE02
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4J029BA03
4J029BF09
4J029CB06A
4J029HA01
4J029HB01
4J029HB03A
4J029JA091
4J029JA093
4J029JE162
4J029JF321
4J029JF323
4J029JF361
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4J029KB22
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE02
4J029KE03
4J029KE05
4J029LA01
4J029LA02
4J029LA04
(57)【要約】
【課題】ビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレートを原料に用い、重合工程中に発生する熱劣化物の少ないポリエステル樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】ビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレートを用いて重合したポリエステル樹脂であり、全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、ジエチレングリコールの含有量が4.0モル%以下である。異物量が5,000個/m2以下であることを特徴とするポリエステル樹脂。当該樹脂の第一の製造方法は下記(1)、(2)の工程を含む。
(1)エチレンテレフタレートオリゴマーとエチレングリコールとを含む混合物に、ビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレートを添加し、200~280℃の熱処理条件下でエステル化反応を行うことにより反応生成物を得る工程
(2)前記反応生成物に重合触媒を添加し、温度260~285℃及び1.0hPa以下の減圧下で重縮合反応を行う工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレートを用いて重合したポリエステル樹脂であり、全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、ジエチレングリコールの含有量が4.0モル%以下であり、異物量が5,000個/m2以下であることを特徴とするポリエステル樹脂。
【請求項2】
請求項1に記載のポリエステル樹脂を製造する方法であって、下記(1)および(2)の工程を含むことを特徴とする、製造方法。
(1)エチレンテレフタレートオリゴマーとエチレングリコールとを含む混合物に、ビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレートを添加し、200~280℃の熱処理条件下でエステル化反応を行うことにより反応生成物を得る工程
(2)前記反応生成物に重合触媒を添加し、温度260~285℃及び1.0hPa以下の減圧下で重縮合反応を行う工程
【請求項3】
請求項1に記載のポリエステル樹脂を製造する方法であって、下記(3)および(4)の工程を含むことを特徴とする、製造方法。
(3)ビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレートにテレフタル酸を添加し、200~250℃の熱処理条件下でエステル化反応を行うことにより反応生成物を得る工程
(4)前記反応生成物に重合触媒を添加し、温度260~285℃及び1.0hPa以下の減圧下で重縮合反応を行う工程
【請求項4】
請求項1のポリエステル樹脂を含む、繊維。
【請求項5】
請求項1のポリエステル樹脂を含む、成形品。
【請求項6】
請求項1の樹脂を含む、フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出発原料としてビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレートを用いた、各種成形品に加工することができるポリエステル樹脂及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)に代表されるポリエステル樹脂は、高融点で耐薬品性があり、また比較的低コストであるため、繊維、フィルム、ペットボトル等の成形品等に幅広く用いられている。そして、出発原料としてビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレート(BHET)を重合し、PETを得ることが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のように、BHETのみを用いて重合したポリエステル樹脂においては、副生成物であるジエチレングリコールの生成量が多くなり、熱安定性や機械的特性に劣るという問題がある。また、ポリエステル樹脂においては、得られる成形品またはフィルムのヘーズや各種特性、または紡糸工程又は製膜工程における加工操業性の点から、重合中に発生する熱劣化物等の異物量が十分に低減されることも求められている。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記の問題点を解決し、出発原料としてBHETを重合させて得られ、樹脂中に含有される異物量とジエチレングリコールの量が少なく、各種の形態のポリエステル製品の製造に好適に利用できるポリエステル樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、ビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレート(BHET)を用いて重合したポリエステル樹脂において、特定のエステル化反応や重縮合反応を経ることで、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、下記のポリエステル樹脂及びその製造方法、及び当該ポリエステル樹脂を用いて得られた繊維、成形品、フィルムに係る。
(I)ビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレートを用いて重合したポリエステル樹脂であり、
全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、ジエチレングリコールの含有量が4.0モル%以下であり、異物量が5,000個/m2以下である、ポリエステル樹脂。
(II)(I)のポリエステル樹脂を製造する方法であって、下記(1)および(2)の工程を含む、製造方法。
(1)エチレンテレフタレートオリゴマーとエチレングリコールとを含む混合物に、ビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレートを添加し、200~280℃の熱処理条件下でエステル化反応を行うことにより反応生成物を得る工程
(2)前記反応生成物に重合触媒を添加し、温度260~285℃及び1.0hPa以下の減圧下で重縮合反応を行う工程
(III)(I)のポリエステル樹脂を製造する方法であって、下記(3)および(4)の工程を含む、製造方法。
(3)ビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレートにテレフタル酸を添加し、200~250℃の熱処理条件下でエステル化反応を行うことにより反応生成物を得る工程
(4)前記反応生成物に重合触媒を添加し、温度260~285℃及び1.0hPa以下の減圧下で重縮合反応を行う工程
(IV)(I)1のポリエステル樹脂を含む、繊維。
(V)(I)のポリエステル樹脂を含む、成形品。
(VI)(I)の樹脂を含む、フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレートを用い、重合中に発生する熱劣化物等の異物量と副生成物であるジエチレングリコールの量が少ない、ポリエステル樹脂を得ることができる。
本発明のポリエステル樹脂により得られる製品(繊維、シート、フィルム、ボトル等)は、ヘーズや機械的特性、紡糸工程又は製膜工程における加工操業性に優れ、バージンポリエステル樹脂を用いたものと同様の優れた品質を発揮することができる。
【0009】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法によれば、上記したような異物量とジエチレングリコール含有量が少ないポリエステル樹脂を、効率よくかつ確実に製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリエステル樹脂は、ビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレートを用いて重合されたものであり、異物量が5,000個/m2以下である。
本発明における「異物」とは、エステル化反応時や重縮合時の熱劣化により発生するものをいう。
【0011】
本発明のポリエステル樹脂は、後述の実施例にて記載の方法で測定された異物量が5,000個/m2以下であり、1000個/m2以下であることがより好ましく、500個/m2以下であることがさらに好ましく、300個/m2以下であることが特に好ましい。異物量を十分に低減させることで、得られる成形品の特性(ヘーズ、機械的特性)や、紡糸工程又は製膜工程における加工操業性に優れたポリエステル樹脂とすることができる。異物量の下限値は少なければ少ないほど好ましく、例えば5ppmであることが好ましく、0ppmであることがより好ましい。
【0012】
ビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレートとしては、特に限定されるものではなく、例えば、使用済みのPET製品等を粉砕しエチレングリコール等で解重合して得られたもの、テレフタル酸とエチレングリコールとをエステル化反応させて得られたもの、市販品等を用いることができる。
ビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレートが使用済みPET製品などから解重合して得られたものである場合、金属成分が含まれることがある。ビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレート中の金属成分含有量は、得られるポリエステル樹脂中の異物量をいっそう低減させ、各種特性を向上させることから、300ppm以下であることが好ましく、150ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることがさらに好ましく、50ppm以下であることがいっそう好ましい。上記の金属成分は、例えば、原料である使用済みPET製品に含有される金属触媒に由来するものであるが、これに限定されるものではない。
【0013】
本発明のポリエステル樹脂は、全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、ジエチレングリコールの含有量が4.0モル%以下であり、3.0モル%以下であることが好ましく、2.0モル%以下であることがより好ましい。本発明の製造方法により得られる本発明のポリエステル樹脂においては、エチレングリコールを原料の一つとして用いるので、その際の副生成物としてジエチレングリコールが生じ得る。その含有量を4モル%以下とすることにより、熱安定性や機体的特性に優れポリエステル樹脂を得ることができる。このため、繊維、射出成形体や各種のブロー成形体、シート、フィルム等の成形品を生産性良く得ることが可能となる。なお、ジエチレングリコールの含有量の下限値は、例えば0.5モル%とすることができるが、これに限定されない。
【0014】
本発明のポリエステル樹脂は、ポリエチレンテレフタレート(PET)を主体とするものであることが好ましい。本発明のポリエステル樹脂中におけるPETの含有量は70質量%以上であることが好ましく、中でも80質量%以上であることが好ましく、さらには90~100質量%であることが好ましい。
【0015】
特に、後述の本発明の製造方法においては、通常はエチレングリコールとテレフタル酸の重縮合物であるPETを得ることができるが、酸成分又はグリコール成分として、以下に示す成分が共重合されていてもよい。これらの成分は2種以上含まれていてもよい。
【0016】
酸成分としては、例えばイソフタル酸、5-スルホイソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ドデカン二酸等、ダイマー酸、更には無水トリメリット酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ε-カプロラクトン、イタコン酸、リン系化合物(9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキシド、2-(9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-イル)-メチルコハク酸ビス-(2-ヒドロキシエチル)-エステル、2-カルボキシエチルフェニルホスフィン酸)等が挙げられる。
【0017】
グリコール成分としては、例えばネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、1,2-プロピレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサメチレンジオール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ダイマージオール、ブチルエチルプロパンジオール、(2-メチル1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA又はビスフェノールSのエチレンオキシド付加体等を挙げることができる。
【0018】
本発明のポリエステル樹脂に金属成分が含まれる場合、その含有量は、各種特性に優れることから、1000ppm以下であることが好ましく、500ppm以下であることがより好ましく、300ppm以下であることがさらに好ましく、200ppm以下であることがいっそう好ましい。
【0019】
本発明のポリエステル樹脂は、カルボキシル末端基濃度が40当量/t以下であることが好ましく、30当量/t以下であることがより好ましく、20当量/t以下であることがさらに好ましい。カルボキシル末端基濃度が40当量/t以下であると、耐熱性にいっそう優れたポリエステル樹脂とすることができる。カルボキシル末端基濃度の下限値は、例えば5当量/t程度とすることができるが、これに限定されない。
【0020】
本発明のポリエステル樹脂は、次の方法により測定される平均昇圧速度が0.6MPa/h以下であることが好ましく、0.5MPa/h以下であることがより好ましく、0.4MPa/h以下であることがさらに好ましい。本発明における平均昇圧速度は、異物量の指標の一例であり、平均昇圧速度が小さいほど異物の混入量が少ないことを示すものである。なお、平均昇圧速度の下限値は、例えば0.01MPa/h程度とすることができるが、これに限定されない。
【0021】
平均昇圧速度の測定方法は、エクストルーダー及び圧力センサを含む昇圧試験機を用い、エクストルーダーの先端に前記フィルターをセットし、ポリエステル樹脂をエクストルーダーにて300℃で溶融し、前記フィルターからの吐出量29.0g/分で当該溶融物を押し出した時の前記フィルターにかかる圧力値として、押し出し開始時の圧力値を「初期圧力値(MPa)」とし、その後連続して12時間押し出しをした時点の圧力値を「最終圧力値(MPa)」とした場合、それらの圧力値に基づいて下記計算式Aにより上記平均昇圧速度を算出する:
平均昇圧速度(MPa/h)=(最終圧力値-初期圧力値)/12)・・・A)
という方法によるものである。
【0022】
前記の測定で用いるエクストルーダー、フィルター等は、本発明の規定を満たす限りは、公知又は市販のものを適宜使用することもできる。必要に応じて、測定結果に実質的に影響を与えない範囲内において、フィルターに補強材を付加してもよい。
【0023】
本発明のポリエステル樹脂の極限粘度は、特に限定されないが、0.44~0.80であることが好ましい。また、本発明のポリエステル樹脂は、後述するように、固相重合工程を経て高重合度化することで成形用途に用いることも可能である。この場合、得られるポリエステル樹脂の極限粘度は0.80~1.25とすることが好ましい。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂の第一の製造方法は、下記の(1)および(2)の工程を含む。
(1)エチレンテレフタレートオリゴマーとエチレングリコールとを含む混合物に、ビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレートを添加し、200~280℃の熱処理条件下でエステル化反応を行うことにより反応生成物を得る工程
(2)前記反応生成物に重合触媒を添加し、温度260~285℃及び1.0hPa以下の減圧下で重縮合反応を行う工程
【0025】
工程(1)において、出発原料としてのBHETに加え、さらにエチレンテレフタレートオリゴマー及びエチレングリコールを用いることが重要である。BHETを用いることにより、反応温度を低くして異物の発生を抑制することができ、エチレンテレフタレートオリゴマー及びエチレングリコールを用いることにより、副生成物であるジエチレングリコールの量を低くすることができる。つまり、ジエチレングリコールの含有量と異物量の何れもが十分に低減されたポリエステル樹脂を得ることができる。
【0026】
用いられるエチレンテレフタレートオリゴマー及びエチレングリコールは、いずれも公知又は市販のものを使用することができる。また、公知の製造方法によって製造することもできる。
特に、エチレンテレフタレートオリゴマーとしては、例えばエチレングリコールとテレフタル酸とのエステル化反応物を好適に用いることができる。本発明において、エチレンテレフタレートオリゴマーの数平均重合度は、2~20であることが好ましい。
【0027】
エチレンテレフタレートオリゴマーとエチレングリコールとの使用量は、反応を十分に進行させるという見地より、エチレンテレフタレートオリゴマー100質量部に対してエチレングリコールを5~15質量部とすることが好ましく、10~15質量部とすることがより好ましい。エチレングリコールの添加量が15質量部を超えると、反応器内でエチレンテレフタレートオリゴマーが固化しやすくなり、以後の反応が継続できなくなる場合がある。
【0028】
エチレンテレフタレートオリゴマー及びエチレングリコールの混合に際しては、特に限定されないが、例えばエチレンテレフタレートオリゴマー中にエチレングリコールを添加することが好ましい。また、添加する際は、オリゴマーの固化を防ぐ目的で、攪拌機を回しながら内容物の温度を均一にし、添加することが好ましい。
【0029】
工程(1)において、原料の使用量(質量比)としては、(エチレンテレフタレートオリゴマー)/(ビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレート)=80/20~20/80であることが好ましく、70/30~30/70であることがより好ましく、60/40~40/60であることがさらに好ましい。
前者が上記範囲を超えて多いと、工程(1)及び工程(2)における反応温度を低く調整できない場合があり、その結果、得られるポリエステル樹脂の異物量が多くなることがある。
後者が上記範囲を超えて多いと、後述の(全グリコール成分)/(全酸成分)のモル比(G/A)を低くすることができないことがあり、その結果、ジエチレングリコールの含有量が多くなる傾向にある。また、使用済みPETなどから得られたBHETを用いて本発明のポリエステル樹脂を得た場合、原料由来の金属残渣量が多くなることがあり、その結果、異物量が多くなることがある。
【0030】
上記原料を投入する際には、常圧下で撹拌しながら行うことが好ましく、少量の不活性ガス(一般的には窒素ガスを使用)でパージした状態で投入することがより好ましい。これによって、酸素の混入を妨げ、色調の悪化をより確実に防ぐことができる。
【0031】
また、ビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレートを投入する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、フレーク形状のような固形状態で反応缶へ投入しても良いし、加熱融解させてメルト状態で反応缶へ投入してもよい。
【0032】
工程(1)において、オリゴマー、エチレングリコール及びビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレートを含む全ての成分を、(全グリコール成分)/(全酸成分)のモル比(G/A)が、1.1~2.5となるように使用することが好ましく、前記モル比は、1.1~1.8であることがより好ましく、1.1~1.5であることがさらに好ましい。1.1以上とすることにより、エステル化反応を十分に進行し反応生成物が得やすくなる。2.5以下とすることにより、ポリエステル樹脂中のジエチレングリコールの含有量を低減させて、特定範囲とすることができる。
【0033】
工程(1)において、反応温度(特に反応器の内温)を200~280℃の範囲に設定することが好ましく、その中でも220~270℃の範囲に設定することがより好ましい。200℃未満であると反応時間が長くなり、生産性に劣る場合がある。また、反応物が固化し、操業性が悪化したり、エステル化反応が進行しない場合がある。一方で280℃を超えると、ジエチレングリコールの副生量が多くなったり、熱分解による異物量が多くなる。
【0034】
また、工程(1)の反応時間(原料の投入終了後からの反応時間)は、特に限定されないが、通常は4時間以内とすることが好ましく、特にジエチレングリコールの副生量を抑えること、ポリエステルの色調悪化を抑えること等の観点から2時間以内とすることがより好ましい。前記反応時間の下限値は、特に限定されないが、例えば1時間である。
【0035】
また、工程(1)の内圧は、常圧でもよく、必要に応じて圧力をかけながら反応させてもよい。反応器の内圧は0~0.5Mpaが好ましく、0.05~0.3Mpaがより好ましい。
【0036】
本発明の製造方法で用いる反応装置は、特に限定されず、公知又は市販の装置も使用することができる。特に、反応器においても、その容量、攪拌翼形状等は一般的に使用されているエステル化反応器で特に問題ないが、解重合反応を効率的に進めるため、エチレングリコールを系外に溜出させない蒸留塔を併設している構造を有する反応器であることが好ましい。
【0037】
工程(1)で得られた反応生成物は液状体であり、ろ過工程に供してもよい。
ろ過に使用できるフィルターとしては、例えばステンレス鋼等の金属製フィルターが挙げられる。フィルター形式も、特に限定されず、例えばスクリーンチェンジャー式フィルター、リーフディスクフィルター、キャンドル型焼結フィルター等が挙げられる。また、フィルターの濾過粒度は10~25μmが好ましい。
【0038】
工程(2)では、前記反応生成物に重縮合触媒を添加し、温度260~285℃及び1.0hPa以下の減圧下で、前記反応生成物の重縮合反応を行う。
【0039】
重縮合触媒としては、特に限定されないが、例えばゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、コバルト化合物等の少なくとも1種を用いることができる。また、重縮合触媒として、2-スルホ安息香酸無水物、o-スルホ安息香酸、m-スルホ安息香酸、p-スルホ安息香酸、5-スルホサリチル酸、ベンゼンスルホン酸、o-アミノベンゼンスルホン酸、m-アミノベンゼンスルホン酸、p-アミノベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸メチル、5-スルホイソフタル酸、これらの塩などの、有機スルホン酸系化合物を用いてもよい。
【0040】
重縮合触媒の使用量は、特に限定されないが、例えば生成するポリエステル樹脂の酸成分1モルに対して5×10-5モル/unit以上とすることが好ましく、その中でも6×10-5モル/unit以上とすることがより好ましい。上記使用量の上限は、例えば1×10-3モル/unitとすることができるが、これに限定されない。
【0041】
なお、使用済みPET製品を解重合して得られたBHETを原料として用いる場合は、この原料に含まれる重合触媒残渣も、重縮合反応時に触媒として作用する場合がある。そのため、原料BHET中に含まれる重合触媒の種類及びその含有量を考慮して、重縮合触媒の使用量を調整することが好ましい。
【0042】
また、重縮合反応時には、必要に応じて、上記の重縮合触媒と併せて、溶融粘度を調整することができる脂肪酸エステル、ヒンダードフェノール系抗酸化剤、樹脂の熱分解を抑制することができるリン化合物を添加することもできる。
【0043】
脂肪酸エステルとしては、例えば蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノスアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレート等が挙げられる。これらの中でも、グリセリンモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレートが好ましい。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0044】
ヒンダードフェノール系抗酸化剤としては、例えば2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’-ブチリデンビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕、3,9-ビス{2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕-1,1’-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン等が用いられるが、効果とコストの点で、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンが好ましい。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0045】
リン化合物としては、例えば亜リン酸、リン酸、トリメチルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリデシルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリデシルフォスフェート、トリフェニルフォスフォート等のリン化合物を用いることができる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0046】
工程(2)において、温度260~285℃及び1.0hPa以下の減圧下で重縮合反応を行う。重縮合反応温度が260℃未満であったり、あるいは重縮合反応時の圧力が1.0hPaを超えると、重縮合反応時間が長くなるため、生産性に劣るものとなる。また、反応時間が長くなり、熱履歴によりジエチレングリコールの量が多くなり、異物量が多くなる場合がある。重縮合反応温度は、その中でも、重縮合反応を進行させやすい点から、270℃以上とすることがより好ましい。一方、重縮合反応温度が高過ぎると熱分解によりポリマーが着色し、色調が悪化したり、同じく熱分解により異物量が多くなるため、重縮合反応温度の上限は285℃以下とすることが好ましい。
【0047】
本発明のポリエステル樹脂の第二の製造方法は、下記の(3)と(4)の工程を含む。
(3)ビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレートにテレフタル酸を添加し、200~250℃の熱処理条件下でエステル化反応を行うことにより反応生成物を得る工程
(4)前記反応生成物に重合触媒を添加し、温度260~285℃及び1.0hPa以下の減圧下で重縮合反応を行う工程
【0048】
工程(3)において、出発原料としてのBHETに加え、さらにテレフタル酸を用いることが重要である。BHETを用いることにより、反応温度を低くして異物の発生を抑制することができ、テレフタル酸を用いることにより、副生成物であるジエチレングリコールの量を低くすることができる。つまり、ジエチレングリコールの含有量と異物量の何れもが十分に低減されたポリエステル樹脂を得ることができる。
【0049】
用いられるテレフタル酸は、いずれも公知又は市販のものを使用することができる。また、公知の製造方法によって製造することもできる。
【0050】
工程(3)において、原料の使用量(質量比)としては、(テレフタル酸)/(ビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレート)=40/60~1/99であることが好ましく、30/70~10/90であることがより好ましい。前者が上記範囲を超えて多いと、工程(3)及び工程(4)におけるエステル化反応時間が長くなったり、また反応温度を低く調整できない場合があり、その結果、得られるポリエステル樹脂の異物量が多くなることがある。
後者が上記範囲を超えて多いと、後述の(全グリコール成分)/(全酸成分)のモル比(G/A)を低くすることができないことがあり、その結果、ジエチレングリコールの含有量が多くなる傾向にある。また、使用済みPETなどから得られたBHETを用いて本発明のポリエステル樹脂を得た場合、原料由来の金属残渣量が多くなることがあり、その結果、異物量が多くなることがある。
【0051】
上記原料を投入する際には、常圧下で撹拌しながら行うことが好ましく、少量の不活性ガス(一般的には窒素ガスを使用)でパージした状態で投入することがより好ましい。これによって、酸素の混入を妨げ、色調の悪化をより確実に防ぐことができる。
【0052】
また、ビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレートを投入する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、フレーク形状のような固形状態で反応缶へ投入しても良いし、加熱融解させてメルト状態で反応缶へ投入してもよい。
【0053】
工程(3)において、テレフタル酸、及びビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレートを含む全ての成分を、(全グリコール成分)/(全酸成分)のモル比(G/A)が、1.1~2.5となるように使用することが好ましく、前記モル比は、1.1~1.8であることがより好ましく、1.1~1.5であることがさらに好ましい。1.1以上とすることにより、エステル化反応を十分に進行し反応生成物が得やすくなる。2.5以下とすることにより、ポリエステル樹脂中のジエチレングリコールの含有量を低減させて、特定範囲とすることができる。
【0054】
工程(3)において、反応温度(特に反応器の内温)を200~250℃の範囲に設定することが好ましく、その中でも220~240℃の範囲に設定することがより好ましい。200℃未満であると反応時間が長くなり、生産性に劣る場合がある。また、反応物が固化し、操業性が悪化したり、エステル化反応が進行しない場合がある。一方で250℃を超えると、ジエチレングリコールの副生量が多くなったり、熱分解による異物量が多くなる。
【0055】
また、工程(3)の反応時間(原料の投入終了後からの反応時間)は、ジエチレングリコールの副生量や色調悪化を抑制する点から、工程(1)と同様の範囲とすることが好ましい。工程(3)の内圧は、常圧でもよく、必要に応じて圧力をかけながら反応させてもよい。反応器の内圧は0~0.5Mpaが好ましく、0.05~0.3Mpaがより好ましい。
【0056】
第二の製造方法で用いる反応装置は、第一の製造方法と同様に特に限定されず、公知又は市販の装置も使用することができる。特に、反応器においても、その容量、攪拌翼形状等は一般的に使用されているエステル化反応器で特に問題ないが、解重合反応を効率的に進めるため、エチレングリコールを系外に溜出させない蒸留塔を併設している構造を有する反応器であることが好ましい。
【0057】
工程(3)で得られた反応生成物は液状体であり、ろ過工程に供してもよい。
ろ過に使用できるフィルターとしては、上記第一の方法における工程(1)で例示するものが挙げられる。
【0058】
工程(4)では、工程(3)で得られた反応生成物に重縮合触媒を添加し、温度260~285℃及び1.0hPa以下の減圧下で、前記反応生成物の重縮合反応を行うものであり、上記第一の製造方法の工程(2)と同様のプロセスである。
【0059】
工程(4)において、温度260~285℃及び1.0hPa以下の減圧下で重縮合反応を行う。重縮合反応温度が260℃未満であったり、あるいは重縮合反応時の圧力が1.0hPaを超えると、重縮合反応時間が長くなるため、生産性に劣るものとなる。また、反応時間が長くなり、熱履歴によりジエチレングリコールの量が多くなり、異物量が多くなる場合がある。重縮合反応温度は、その中でも、重縮合反応を進行させやすい点から、270℃以上とすることがより好ましい。一方、重縮合反応温度が高過ぎると熱分解によりポリマーが着色し、色調が悪化したり、同じく熱分解により異物量が多くなるため、重縮合反応温度の上限は285℃以下とすることが好ましい。
【0060】
工程(4)において、使用する重合触媒の種類やその添加量は、上記工程(2)と同様とすることができる。
【0061】
本発明では、必要に応じて、上記で得られたポリエステル樹脂をさらに結晶化工程に供することで、ポリエステル樹脂の結晶性を高めることができる。
【0062】
結晶化条件は、特に限定されないが、例えば用いるポリエステル樹脂の結晶化温度又はそれ以上の温度で熱処理をすることによって実施することができる。例えば、ポリエステル樹脂がPETの場合、PETの結晶化温度が通常130℃程度であるので、例えば135℃以上(好ましくは140~180℃)の温度下で熱処理することができる。熱処理時間は、熱処理温度等により変更でき、例えば30分~20時間程度とすることができる。
【0063】
また、本発明では、必要に応じて、前記の重縮合工程又は結晶化工程で得られる樹脂をさらに固相重合反応に供することもできる。これにより、ポリエステル樹脂をさらに高重合度化することによって成形用としてより適した物性とすることができる。
【0064】
固相重合反応の条件は、特に限定されないが、得られるポリエステル樹脂の極限粘度は0.80~1.25(特に0.82~1.24)となるように熱処理を実施することが好ましい。より具体的には、例えば、得られたポリエステル樹脂を不活性ガス雰囲気下180~240℃程度で熱処理することによって実施することができる。熱処理時間は、熱処理温度等によるが、通常は5~50時間程度とすればよい。
【0065】
本発明のポリエステル樹脂は、そのまま又は必要に応じて他の添加剤を配合して樹脂組成物とした上で各種の製品の製造に用いてもよい。
【0066】
添加剤としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば、上記したような重合触媒、抗酸化剤、リン化合物等の添加剤のほか、着色剤、顔料、分散剤、フィラー、紫外線吸収剤、増粘剤、帯電防止剤、着色防止剤、安定剤、難燃剤、滑剤等が挙げられる。
【0067】
特に、着色防止剤も好適に用いることができる。例えば、亜リン酸、リン酸、トリメチルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリデシルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリデシルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート等のリン化合物を用いることができる。これらのリン化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
【0068】
また、ポリエステル樹脂の熱分解による着色を抑制するために酢酸コバルト等のコバルト化合物、酢酸マンガン等のマンガン化合物、アントラキノン系染料化合物、銅フタロシアニン系化合物等の添加剤が含有されていてもよい。
【0069】
各種の製品としては、従来のポリエステル製品と同様の形態を採用することができる。ポリエステル製品としては、例えば繊維、成形品、フィルム等の形態に好適に用いることができる。
【0070】
繊維の場合は、例えば本発明樹脂を含む原料を溶融し、紡糸する工程を含む製造方法によって繊維を製造することができる。これにより、例えば単糸繊度が0.8デシテックス以下(好ましくは0.6~0.3デシックス)の極細繊維も製造することができる。紡糸方法等は、公知の条件に従って実施することができる。
【0071】
本発明のポリエステル樹脂は、前記したように異物の含有量が少ないうえ、ジエチレングリコールの含有量も少ないことから、溶融紡糸、延伸・熱処理、巻取工程のいずれにおいても糸切れのトラブルが生じにくく、生産性良くポリエステル繊維を得ることができる。
【0072】
本発明のポリエステル樹脂を含有する本発明の繊維としては、例えばモノフィラメント、マルチフィラメント等のいずれであっても良く、また長繊維、短繊維等のいずれであってもよい。繊維の製造においては、一般的にマルチフィラメントを製造する方が困難度が高いが、本発明の繊維では、例えば単糸繊度0.3~30デシテックス、単糸数2~300、総繊度5~350、強度1~5cN/デシテックス、伸度10~400%の特性値を有するマルチフィラメントとすることができる。その中でも製造することの困難度がより高い極細繊維も得ることができる。
【0073】
成形品の場合は、例えば本発明のポリエステル樹脂を含む原料を用いてプレス成形、押出成形、圧空成形、ブロー成形等の各種の成形方法を適用することにより製造することができる。これにより、容器をはじめ、各種の部品を提供することができる。本発明のポリエステル樹脂は、ジエチレングリコールの含有量が少なく熱安定性に優れているという理由から、特にブロー成形品の製造に適している。従って、本発明樹脂を含む溶融物からパリソンを得る工程及び前記パリソン内部に気体を吹き込む工程を含む成形体の製造方法を好適に採用することができる。これによって、容器等の成形体を製造することができる。
【0074】
フィルムの場合は、本発明のポリエステル樹脂を含む原料を用いて、公知のフィルム製膜法によって成形することができる。例えば、上記原料の溶融物をTダイから押出後、キャスティングロールで冷却して未延伸シートを作製する。本発明のポリエステル樹脂は、異物の含有量が少ないうえ、ジエチレングリコールの含有量が少なく熱安定性に優れているため、MD及びTD方向への延伸を操業性良く行うことができる。延伸方法としては、一軸延伸又は二軸延伸のどちらでも良く、二軸延伸方法としては、同時二軸延伸、逐次二軸延伸のいずれの方法も採用することができる。そして、バージンポリエステル樹脂を用いた場合とほぼ同様の強度、伸度等の特性値を有し、かつ、透明性に優れたポリエステルフィルムを得ることができる。
【0075】
フィルムの厚みは、限定されないが、通常は10~50μmの範囲内で適宜設定することができる。また、必要に応じて、他の層(例えば、接着層、ヒートシール層、表面保護層、印刷層、意匠層等)と積層して積層体として使用することができるほか、その積層体を成形することにより上記のような各種の成形体として利用することもできる。
【実施例0076】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、測定、評価は以下の方法により行った。
【0077】
(a)極限粘度
フェノールと四塩化エタンとの等重量混合液を溶媒として、温度20℃で測定した。
【0078】
(b)BHET中、樹脂中の金属成分含有量
誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)により、金属成分(Sb、Ge)の含有量を求めた。
【0079】
(c)ジエチレングリコール量
得られたポリエステル樹脂を、重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比が1:20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製「LA-400型NMR」装置にて1H-NMRを測定し、得られたチャートの各成分のプロトンのピークの積分強度から、ジエチレングリコール含有量を求めた。
【0080】
(d)融点(Tm)
パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC-7を用い、窒素気流中、温度範囲25~280℃、昇温速度20℃/分で測定した。
【0081】
(d)異物量
得られた樹脂の異物数の測定方法は、以下のようにして測定した。Opical Control Systems社製のフィッシュアイカウンター(ゲルカウンター)にて、押出機の温度260~290℃、回転数50rpm、巻き取り機の温度50℃、回転数5m/minの条件にて膜厚0.1mmのシートを作製し、シート1m2あたりの粒子サイズ25μm以上の異物数を検出して計測した。
【0082】
(e)紡糸操業性(切糸、昇圧)
切糸:24時間連続して紡糸を行った間の切糸回数を数え、1回以下/24時間・16錘を「○」とし、2~4回/24時間・16錘を「△」とし、5回以上/24時間・16錘を「×」とした。
昇圧:24時間連続して紡糸し、その間ノズルパック圧力を測定し、紡糸初期に設定した圧力よりも2MPa以上の昇圧が生じなかった場合を「○」、前記のような昇圧が生じた場合を「×」とした。
【0083】
(h)成形性
得られた容器(サンプル数100本)の胴部の厚さを測定し、最厚部と最薄部の厚さの差が0.30mmまでのものを合格とし、合格のサンプル数が90個以上の場合、成形性が良好である(〇)とした。
【0084】
(i)成形品のヘーズ
ポリエステル樹脂を日精樹脂社製NEX110型射出成形機に投入し、シリンダ温度285℃、金型温度40℃で、長さ90mm、幅50mm、厚さ2mmのプレートを作製した。得られたプレートの濁度を日本電色工業社製の濁度系MODEL 1001DPで評価した。この値が小さいほど透明性が良好であり、例えば、空気のヘーズは0%である。
【0085】
(j)耐衝撃性
前記(h)の成形性の評価にて、合格となった成形品(サンプル数100本)に、水道水340mlを充填し、室温下にて、Pタイル上に、200cmの高さから、成形体の底面を下向き、側面を下向きにして成形体を1回ずつ落下させた。このとき割れなかった成形体の本数が90本以上の場合、耐衝撃性が良好である(〇)と評価した。
(k)フィルムの操業性(製膜性)
ポリエステルフィルムを連続して生産した状況において、下記の基準で評価した。
〇:24時間以上連続して操業することができた。
×:24時間の連続操業中に、Tダイのリップ面の汚染、フィルムの破断、ロール汚染等によって、フィルムを生産できない状況に陥った。
(l)フィルムのヘーズ(%)
日本電色社製ヘーズメーター(NDH4000)を用い、JIS K7136に準じて各実施例及び比較例で得られた二軸延伸PET樹脂フィルムのTD方向の中央部を測定した。
【0086】
A.ポリエステル樹脂について
実施例1
エステル化反応器に、テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)のスラリー(TPA/EGモル比=1/1.6)を供給し、温度250℃及び圧力50hPaの条件で反応させ、エステル化反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマー(数平均重合度:5)を得た。
エチレンテレフタレートオリゴマー50.0質量部とエチレングリコール6.0質量部をエステル化反応器に仕込み、続いてエステル化反応器(以後「ES缶」と表記)の撹拌機を回した状態で、50.0質量部のBHETをロータリーバルブを介して投入した。このときに、(全グリコール成分)/(全酸成分)のモル比(以下、G/A)が1.71となるように、原料を投入した。使用したBHET中に含まれる金属量(アンチモン、ゲルマニウム)は21ppmであった。その後、250℃の熱処理条件下で1時間エステル化反応(工程(1))を行った。
そして、得られた反応生成物を、重縮合反応器(以後PC缶と表記)へ圧送した後、重合触媒として三酸化アンチモンを1.0×10-4mol/unit、二酸化チタンのEGスラリーを0.20質量%となるように加え、PC缶を減圧にして60分後に最終圧力0.5hPa及び温度275℃で4時間、溶融重合反応を行い(工程(2))、ポリエステル樹脂(極限粘度:0.66)を得た。得られたポリエステル樹脂中の金属成分含有量は133ppmであった。
【0087】
実施例2~7、比較例1~4、7
原料(BHET、エチレンテレフタレートオリゴマー、テレフタル酸、エチレングリコール)の仕込み量、G/A、工程(1)または工程(2)の反応温度を表1に記載の通りに変更し、ポリエステル樹脂を得た。
【0088】
実施例8
テレフタル酸35.0質量部をエステル化反応器に仕込み、続いてエステル化反応器(以後「ES缶」と表記)の撹拌機を回した状態で、65.0質量部のBHETをロータリーバルブを介して投入した。このときに、(全グリコール成分)/(全酸成分)のモル比(以下、G/A)が1.10となるように、原料を投入した。使用したBHET中に含まれる金属量(アンチモン、ゲルマニウム)は21ppmであった。その後、240℃の熱処理条件下で1時間エステル化反応(工程(3))を行った。
そして、得られた反応生成物を、重縮合反応器(以後PC缶と表記)へ圧送した後、重合触媒として三酸化アンチモンを1.0×10-4mol/unit、二酸化チタンのEGスラリーを0.20質量%となるように加え、PC缶を減圧にして60分後に最終圧力0.5hPa及び温度275℃で4時間、溶融重合反応を行い(工程(4))、ポリエステル樹脂(極限粘度:0.62)を得た。
【0089】
実施例9~10、比較例5~6
原料(BHET、テレフタル酸)の仕込み量、G/A、工程(3)、工程(4)の反応温度を表1に記載の通りに変更し、ポリエステル樹脂を得た。
【0090】
なお、比較例2では、エステル化反応温度が低かったため、工程(1)において反応生成物を得ることができず、ポリエステル樹脂が得られなかった。また、比較例3では、重縮合反応温度が低かったため重合が進行せず、ポリエステル樹脂が得られなかった。また、比較例5ではG/Aが低かったため、工程(1)において反応生成物を得ることができずに、ポリエステル樹脂が得られなかった。
【0091】
【0092】
比較例8
BHETに代えて、リサイクルポリエステル原料(使用済みのポリエチレンテレフタレートボトルを粉砕したフレーク状のもの)(金属成分含有量180ppm)を、G/Aが1.25となるように投入した。その後、275℃の熱処理条件下で1時間エステル化反応を行った。そして、重合触媒として三酸化アンチモンを得られるポリエステル樹脂の酸成分1モルに対して、1.0×10-4mol、酸化チタンのEGスラリーを酸化チタンの含有量が0.20質量%となるように加え、PC缶を減圧にして60分後に最終圧力0.5hPa及び温度280℃で4時間、溶融重合反応を行い、ポリエステル樹脂を得た。
【0093】
実施例、比較例で得られたポリエステル樹脂、およびその評価結果について、表2に示す。
【0094】
【0095】
B.ポリエステル樹脂を用いた繊維について
実施例、比較例で得たポリエステル樹脂をエクストルーダー型溶融紡糸機によって、樹脂温度300℃、濾過粒度15μmのフィルターを備えた紡糸ノズル(孔径0.2mm、孔数72ホール)より紡出し、3250m/分の紡糸速度で巻き取った。得られた半未延伸糸を延伸装置にて延伸温度160℃、延伸倍率1.6倍で延伸し、繊度84dtexの延伸マルチフィラメント糸を得た。
評価結果を表2に示す。
【0096】
C.ポリエステル樹脂を用いた成形品について
実施例、比較例で得たポリエステル樹脂を結晶化装置に連続的に供給し、150℃で結晶化をさせた後、乾燥機に供給し、175℃で4時間乾燥後、予備加熱機に送り、210℃まで加熱した後、固相重合機へ供給し、窒素ガス雰囲気下にて固相重合反応を210℃で30時間行い、極限粘度1.21のポリエステル樹脂を得た。
固相重合反応により得られたポリエステル樹脂をチップ化し、乾燥させた後、ダイレクトブロー成形機(タハラ社製)を用い、押出温度280℃で樹脂を押出して円筒形パリソンを形成し、パリソンが軟化状態にあるうちに金型で挟み、底部形成を行い、これをブローしてボトルを成形した。このとき、パリソン径3cmで長さが25cmとなったところで底部形成を行い、ブロー成形して350mlの中空容器(ダイレクトブロー成形品)を得た。
評価結果を表2に示す。
【0097】
D.ポリエステル樹脂を用いたフィルムについて(実施例11~12、比較例9~10)
実施例1、2、および比較例1、4で得たポリエステル樹脂をそれぞれ93.5質量%、シリカ粒子を1.5質量%含有するポリエチレンテレフタレート樹脂をマスターチップとして6.5質量%混合し、両樹脂を押出機内で溶融混錬し、Tダイへ供給してシート状に吐出し、20℃に音調した金属ドラムに巻き付け、冷却して巻き取ることにより、約150μmの厚みの未延伸シートを製造した。次いで、この未延伸シートの端部をテンター式同時二軸延伸装置のクリップで保持し、180℃の条件下で、MD方向に3.0倍、TD方向に3.3倍の延伸倍率で同時二軸延伸した後、TD方向の弛緩率を5%として215℃で4秒間の熱処理を施し、室温まで徐冷し、片面にコロナ放電処理を行った後に巻き取った。このようにして、厚み15μmの二軸延伸PET樹脂フィルムを得た。
評価結果を表3に示す。
【0098】
【0099】
実施例1~10で得られたポリエステル樹脂は、重合中に発生する熱劣化物等の異物が低減されており、繊維や成形品、フィルムとした場合の品質に優れるものであった。
比較例1では、エステル化反応温度が高かったため、得られたポリエステル樹脂中のジエチレングリコールの含有量が多くなったことから、異物量が多く、成形性、透明性、耐衝撃性に劣る成形品となった。
比較例4では、重縮合反応温度が高かったため、得られたポリエステル樹脂中のジエチレングリコールの含有量が多くなったことから、異物量が多く、成形性、透明性、耐衝撃性に劣る成形品となった。
比較例6では、エステル化反応温度が高かったため、得られたポリエステル樹脂中のジエチレングリコールの含有量が多くなったことから、成形性、透明性、耐衝撃性に劣る成形品となった。
比較例7では、原料としてビスー2ーヒドロキシエチルテレフタレートのみを用いたところ、異物量が多くなり、透明性に劣るものとなった。
比較例8では、使用済みポリエチレンテレフタレートボトル由来の原料を用い、エステル化反応温度、重縮合反応温度を高くしたところ、異物量が多くなり、透明性に劣るものとった。
【0100】
実施例11、12から明らかなように、本発明のポリエステル樹脂から得られたフィルムは、操業性、透明性に優れるものであった。