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特開2024-68179ハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法及びフッ化物イオンを選択的に吸着する吸着剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068179
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】ハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法及びフッ化物イオンを選択的に吸着する吸着剤
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/28 20230101AFI20240510BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20240510BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20240510BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
C02F1/28 L
B01J20/06 A
B01J20/34 G
B01J20/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023188354
(22)【出願日】2023-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2022177148
(32)【優先日】2022-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(71)【出願人】
【識別番号】390005681
【氏名又は名称】伊勢化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】和嶋 隆昌
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴弘
【テーマコード(参考)】
4D624
4G066
【Fターム(参考)】
4D624AA04
4D624AB11
4D624BA14
4D624BB01
4D624BC01
4D624DA03
4D624DA07
4G066AA13D
4G066AA23B
4G066BA20
4G066BA26
4G066BA36
4G066CA31
4G066CA32
4G066DA08
4G066FA03
4G066FA11
4G066FA21
4G066FA36
4G066GA11
4G066GA34
4G066GA35
(57)【要約】
【課題】フッ化物イオン濃度が他のハロゲン化物イオン濃度に比べて極めて低いハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法及びこれに用いられるフッ化物イオンを選択的に吸着する吸着剤を提供する。
【解決手段】フッ化物イオン、及び他のハロゲンで構成されたイオン成分を含有する被処理液に対して、ジルコニウムを含む酸化物から構成され表面を水酸基により改質した吸着剤によりフッ化物イオンを吸着処理して処理液を作製する第1工程を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化物イオン、及び他のハロゲンで構成されたイオン成分を含有する被処理液に対して、ジルコニウムを含む酸化物から構成され表面を水酸基により改質した吸着剤により前記フッ化物イオンを吸着処理して処理液を作製する第1工程を有することを特徴とするハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記イオン成分が、ヨウ化物イオンを含むことを特徴とする請求項1に記載のハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記被処理液は、前記イオン成分のモル濃度の総和が、前記フッ化物イオンのモル濃度に対して10倍以上であることを特徴とする請求項1に記載のハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法。
【請求項4】
前記被処理液は、pH調整によりpH6.0以下とされることを特徴とする請求項1に記載のハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法。
【請求項5】
前記被処理液から前記処理液が作製される過程において、常にpH6.0以下であることを特徴とする請求項4に記載のハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法。
【請求項6】
前記吸着剤は、水酸化物イオン濃度が1mol/L以上のアルカリ水溶液中で加熱することにより、表面が改質されていることを特徴とする請求項1に記載のハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法。
【請求項7】
前記吸着剤は、水酸化物イオン濃度が1mol/L以上のアルカリ水溶液中で常温保持することにより、表面が改質されていることを特徴とする請求項1に記載のハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法。
【請求項8】
前記吸着剤がジルコニウムを45質量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載のハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法。
【請求項9】
前記吸着処理後の吸着剤からpH6.0以上の水溶液を用いて前記フッ化物イオンを脱離させた脱離液を作製する第2工程を有することを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載のハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法。
【請求項10】
前記処理液におけるフッ化物イオン濃度を監視し、該処理液におけるフッ化物イオン濃度が予め定めた所定の下限値になったときから、前記脱離液の作製に移行することを特徴とする請求項9に記載のハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法。
【請求項11】
前記第2工程で脱離処理された吸着剤を、前記第1工程の吸着剤として用いることを特徴とする請求項9に記載のハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法。
【請求項12】
ジルコニウムを含む酸化物から構成され表面が水酸基により改質されていることを特徴とするフッ化物イオンを選択的に吸着する吸着剤。
【請求項13】
ジルコニウムを45質量%以上含むことを特徴とする請求項12に記載のフッ化物イオンを選択的に吸着する吸着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化物イオン濃度が他のハロゲン化物イオン濃度に比べて極めて低いハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法及びこれに用いられるフッ化物イオンを選択的に吸着する吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
工業廃水、海水等、フッ化物イオンを含む排水は複数存在する。フッ化物イオンは強酸性条件においてフッ酸となり人体に悪影響があるため、排出にはフッ化物イオン濃度の排水基準(8mg/L)を満たす必要がある。そのため、これらの排水におけるフッ化物イオン濃度を下げる処理が行われている。
【0003】
従来、フッ化物イオンを含む排水は、フッ化物イオン濃度を下げるために、カルシウム化合物を添加することによりフッ化カルシウムとして沈殿、分離させるフッ化カルシウム法が用いられてきた。この方法では、フッ化物イオンをフッ化カルシウムとして回収できるため析出物の再利用が可能である。しかしながら、フッ化カルシウム法では、フッ化カルシウムの溶解度以下にフッ化物イオン濃度を低減させることが難しく、一般的なフッ化カルシウム法による処理後のフッ化物イオン濃度は20mg/L程度であることから、上記排水基準を満たすためには大過剰のカルシウム化合物を添加する必要がある。また、処理後の水溶液はフッ化カルシウム飽和状態になるため、以降の工程において処理液中に無機塩の析出、プラント閉塞が起こる懸念がある。
【0004】
また、一般的なフッ化カルシウム法に加えて、ポリ塩化アルミニウム等の凝集剤を用いて更にフッ素イオン濃度を下げる二段沈殿法が提案されている。しかしながら、二段沈殿法ではフッ化物イオン濃度を十分に下げるために、カルシウム化合物以外に多種類の薬品の添加が必要となり、フッ化カルシウム法と異なり複数の元素を含む塩を生成するため、回収したフッ化カルシウムをリサイクル原料として用いることができず、フッ素を含む多量の産業廃棄物が発生してしまう。
【0005】
これらの問題を解決する方法として、近年、吸着剤を用いてフッ化物イオンを吸着分離する技術が提案されている。例えば、特許文献1の吸着剤は、酸化カルシウムとカルシウムアルミネートとからなり、粒子形状の吸着剤と被処理液を接触させることにより、常温において広い濃度範囲で有害アニオン、例えばフッ素イオン及びテトラフルオロホウ酸等のフッ素とホウ素化合物のイオンを吸着することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2005-118762号公報(第4頁~第6頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1においては、フッ化物イオンに加えて、ヨウ化物イオン等の他のハロゲン化物イオンを含有する被処理水に対して吸着剤を使用すると、フッ化物イオンと共に、フッ化物イオンと特徴の近い他のハロゲン化物イオンが一定の割合で吸着されてしまう虞がある。そのため、特に被処理液中のフッ化物イオン濃度が低く、他のハロゲン化物イオンの濃度が高い場合、フッ化物イオンを選択的に吸着分離することが難しく、被処理液中のフッ化物イオン濃度を効率よく下げられないという問題があった。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、フッ化物イオン濃度が他のハロゲン化物イオン濃度に比べて極めて低いハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法及びこれに用いられるフッ化物イオンを選択的に吸着する吸着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明のハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法は、
フッ化物イオン、及び他のハロゲンで構成されたイオン成分を含有する被処理液に対して、ジルコニウムを含む酸化物から構成され表面を水酸基により改質した吸着剤により前記フッ化物イオンを吸着処理して処理液を作製する第1工程を有することを特徴としている。
この特徴によれば、被処理液中において、ジルコニウムを含む酸化物から構成される吸着剤の表面における水酸基とフッ化物イオンとのイオン交換反応が起こりやすく、他のハロゲン化物イオンとのイオン交換反応が起こりにくいことにより、フッ化物イオン濃度が低い被処理液に対しても吸着剤によりフッ化物イオンが選択的に吸着処理されるため、処理液としてフッ化物イオン濃度が他のハロゲン化物イオン濃度に比べて極めて低いハロゲン化物イオン含有水溶液を得ることができる。
【0010】
前記イオン成分が、ヨウ化物イオンを含むことを特徴としている。
この特徴によれば、ヨウ化物イオンは、ハロゲン化物イオンの中で、ジルコニウムを含む酸化物から構成される吸着剤の表面における水酸基とイオン交換反応が最も起こりにくいため、処理液としてフッ化物イオン濃度がヨウ化物イオン濃度に比べて極めて低く、かつ被処理液中のヨウ化物イオンが略全て残存したハロゲン化物イオン含有水溶液を得ることができる。
【0011】
前記被処理液は、前記イオン成分のモル濃度の総和が、前記フッ化物イオンのモル濃度に対して10倍以上であることを特徴としている。
この特徴によれば、被処理液におけるフッ化物イオン濃度が他のハロゲン化物イオンの濃度よりも大幅に低い状態でも、吸着剤が他のハロゲン化物イオンの影響を受けることなく、フッ化物イオンを選択的に吸着することができる。
【0012】
前記被処理液は、pH調整によりpH6.0以下とされることを特徴としている。
この特徴によれば、被処理液に対する吸着剤のフッ化物イオン吸着能力を高めることができる。
【0013】
前記被処理液から前記処理液が作製される過程において、常にpH6.0以下であることを特徴としている。
この特徴によれば、吸着剤により吸着されたフッ化物イオンの脱離を防止することができ、被処理液に対する吸着剤のフッ化物イオン吸着能力を高い状態に維持できる。
【0014】
前記吸着剤は、水酸化物イオン濃度が1mol/L以上のアルカリ水溶液中で加熱することにより、表面が改質されていることを特徴としている。
この特徴によれば、ジルコニウムを含む酸化物から構成される吸着剤の表面が水酸基により効率よく改質され、フッ化物イオンの選択的吸着性を高めることができる。
【0015】
前記吸着剤は、水酸化物イオン濃度が1mol/L以上のアルカリ水溶液中で常温保持することにより、表面が改質されていることを特徴としている。
この特徴によれば、ジルコニウムを含む酸化物から構成される吸着剤の表面が水酸基により改質され、フッ化物イオンの選択的吸着性を高めることができる。また、表面改質に伴う素材の溶出を抑制し、吸着剤の回収率を高めることができる。
【0016】
前記吸着剤がジルコニウムを45質量%以上含むことを特徴としている。
この特徴によれば、吸着剤の表面における水酸基密度が向上しフッ化物イオンの吸着能力を高めることができる。
【0017】
前記吸着処理後の吸着剤からpH6.0以上の水溶液を用いて前記フッ化物イオンを脱離させた脱離液を作製する第2工程を有することを特徴としている。
この特徴によれば、吸着剤に吸着されたフッ化物イオンを脱離液中に脱離させ、回収することができる。また、フッ化物イオンの脱離に伴い、吸着剤の表面に水酸基が戻り再生されるため、吸着剤をフッ化物イオンの吸着処理に繰り返し使用することができる。
【0018】
前記処理液におけるフッ化物イオン濃度を監視し、該処理液におけるフッ化物イオン濃度が予め定めた所定の下限値になったときから、前記脱離液の作製に移行することを特徴としている。
この特徴によれば、吸着限界に達した吸着剤から脱離液中にフッ化物イオンを脱離させることができるため、フッ化物イオンの回収効率が高い。
【0019】
前記第2工程で脱離処理された吸着剤を、前記第1工程の吸着剤として用いることを特徴としている。
この特徴によれば、第2工程において、吸着剤からのフッ化物イオンの脱離と、該吸着剤の水酸基改質を同時に行うことができるため、第1工程の吸着剤として効率的に繰り返し使用することができる。
【0020】
本発明のフッ化物イオンを選択的に吸着する吸着剤は、
ジルコニウムを含む酸化物から構成され表面が水酸基により改質されていることを特徴としている。
この特徴によれば、ジルコニウムを含む酸化物から構成される吸着剤の表面における水酸基とフッ化物イオンとのイオン交換反応が起こりやすく、他のハロゲン化物イオンとのイオン交換反応が起こりにくいことにより、フッ化物イオン濃度が低いハロゲン化物イオンの混合溶液からフッ化物イオンのみを選択的に吸着することができる。
【0021】
ジルコニウムを45質量%以上含むことを特徴としている。
この特徴によれば、吸着剤の表面における水酸基密度が向上し、フッ化物イオンの吸着能力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の製造方法を実施するためのバッチ法の一例を示すフロー図である。
図2】本発明の製造方法を実施するための連続法の一例を示すフロー図である。
図3】本発明の吸着剤の改質処理によるフッ化物イオン吸着量の変化を示すグラフである。
図4】吸着剤の造粒処理における焼結温度によるフッ化物イオン吸着量の変化を示すグラフである。
図5】吸着剤に対する吸着処理におけるpHに応じたフッ化物イオン吸着率を示すグラフである。
図6】吸着剤に対する脱離処理におけるpHに応じたフッ化物イオン脱離率を示すグラフである。
図7】処理法としてバッチ式を採用した吸着剤に対する吸着処理、脱離処理の繰り返しによるフッ化物イオン吸着率の変化を示すグラフである。
図8】吸着剤(改質処理なし)に対する吸着処理、脱離処理の繰り返しによるフッ化物イオン吸着率の変化を示すグラフである。
図9】処理法として連続式を採用した吸着剤に対する吸着処理、脱離処理の繰り返しによるフッ化物イオン吸着率の変化を示すグラフである。
図10】処理法として連続式を採用した吸着剤に対する吸着処理における被処理液の通液量ごとにカラム出口から排出される処理液及び累積処理液のフッ化物イオン濃度の変化を示すグラフである。
図11】(a),(b)は、吸着剤に対する夾雑イオンの種類及び夾雑イオンとフッ化物イオンの濃度比によるフッ化物イオン吸着率の変化を示すグラフである。
図12】本発明の吸着剤の常温(10℃,20℃,40℃)での改質処理によるフッ化物イオン吸着量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態や実施例の例示に限定されるものではない。
【0024】
発明者らは、試行錯誤の研究の末、ジルコニウムを含む酸化物から構成され表面を水酸基により改質した吸着剤を作製し、当該吸着剤とフッ化物イオンを含む高濃度ハロゲン化物イオン含有水溶液とを接触させることにより、フッ化物イオンのみを選択的に吸着することができるという知見を得た。そして、この知見を基に、被処理液に対して、上記吸着剤を用いた吸着処理を行うことにより、処理液としてフッ化物イオン濃度が他のハロゲン化物イオン濃度に比べて極めて低い、すなわちフッ化物イオン濃度の排水基準(8.0mg/L)を下回るハロゲン化物イオン含有水溶液を作製することができた。
【0025】
(吸着剤)
本発明に係る吸着剤(以下、「本吸着剤」と言う)は、ジルコニウムを含む酸化物から構成され、表面が水酸基により改質されている。
【0026】
なお、ジルコニウムを含む酸化物とは、具体的には、ジルコニウム(Zr)と酸素(O)を構造に有する化合物であり、例えばケイ酸ジルコニウム(ZrSiO)、ジルコニア(ZrO)、又はケイ酸ジルコニウムとジルコニアの混合物を主成分としている。すわなち、本吸着剤の平均化学組成は、ジルコニウムが45質量%以上を占めている。
【0027】
また、ジルコニウムを含む酸化物は、例えばイオン交換樹脂のような他の吸着剤と比べて耐薬品性が非常に高い。特に、被処理液として高濃度ヨウ素水溶液を吸着処理する場合、外的要因により強い腐食性を有する遊離ヨウ素が発生する可能性があるが、ジルコニウムを含む酸化物から構成される本吸着剤は、その高い耐薬品性により、劣化が起こりにくくなっている。
【0028】
また、ジルコニウムを含む酸化物は、高強度であるため、被処理液の吸着処理が行われる筐体の劣化や、処理中の衝撃等による吸着剤の破損がほとんど起こらず、処理液中に微細な吸着剤の破片が入り込み、最終製品にコンタミするリスクを抑制することができる。
【0029】
本吸着剤は、好ましくはケイ酸ジルコニウムを主成分とし、ジルコニウムを45質量%以上、更に好ましくは48質量%以上含んでいる。
【0030】
なお、本吸着剤は、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、燐(P)、硫黄(S)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ハフニウム(Hf)、鉛(Pb)、トリウム(Th)、ウラン(U)等の無機元素を含む化合物のような不可避的不純物を含んでいてもよい。
【0031】
ケイ酸ジルコニウムは、酸化ジルコニウムと比べて加工性に優れ、微粉化や造粒・焼結による実用性に富んだ吸着剤の成形が行いやすい。詳しくは、ケイ酸ジルコニウムは、難焼結性であり、焼結による緻密化が起こりにくいことから、加工時において比表面積を低下させにくく、ポーラスを有する構造体を容易に作製することができ、高い吸着性能を維持することができる。
【0032】
また、ケイ酸ジルコニウムは、ジルコンと呼ばれる天然鉱石を粉砕等によって加工することにより得られ、粒径を変えることで比表面積を調整することができる。なお、ケイ酸ジルコニウムの比表面積に特に制限はないが、好ましくは0.2m/g以上、更に好ましくは2.0m/g以上、特に好ましくは8.0m/g以上である。また、比表面積が8.0m/gを大幅に超えるケイ酸ジルコニウムは機能的な問題はないが、ハンドリングの観点から後述する造粒処理を行うことが好ましい。なお、これは、特に造粒処理を行って使用することを制限するものではない。
【0033】
また、ケイ酸ジルコニウムは、鉱山採取から加工プロセスが少なく、非常に安価に入手できることから、本吸着剤を低コストで作製することができる。
【0034】
なお、酸化ジルコニウムは、ケイ酸ジルコニウムと比べて加工性に劣るものの、単位表面積当たりのフッ化物イオンの吸着量が多い。なお、本吸着剤は、被処理液の組成やフッ化物イオン濃度等に応じて、ケイ酸ジルコニウムと酸化ジルコニウムを所定の混合比で混合したものであってもよいし、酸化ジルコニウムを主成分とするものであってもよい。
【0035】
(改質処理)
本吸着剤は、表面が水酸基により改質されている。具体的には、上述したジルコニウムを含む酸化物から構成される本吸着剤を改質水溶液(アルカリ水溶液)中、150~650℃の範囲、好ましくは180~600℃の範囲で適切な時間加熱した後、純水で洗浄することにより表面が水酸基により改質される。なお、改質水溶液は、アルカリ性の水溶液であり、水酸化物イオンの濃度は1mol/L以上、好ましくは5mol/L以上、更に好ましくは10mol/L以上である。また、水酸化物イオンを供給する化合物は、特に制限はないが、水酸化ナトリウムが低コストであり好ましい。
【0036】
また、改質処理は、本吸着剤を改質水溶液中で加熱するものに限らず、本吸着剤を改質水溶液中で常温、すなわち10~60℃の範囲、好ましくは10~40℃の範囲、更に好ましくは20~40℃の範囲で適切な時間保持した後、純水で洗浄することによっても表面を水酸基により改質することが可能である。なお、常温での改質処理においては、本吸着剤を改質水溶液中で30分以上、好ましくは8時間以上、更に好ましくは24時間以上保持することにより、吸着剤の表面における水酸基の量を上限近くまで増やすことができる。
【0037】
本吸着剤は、上述した改質処理が行われることにより、吸着剤の表面における水酸基の量が増えると、フッ化物イオンの吸着量が増加する(後述する図3参照)。また、本吸着剤は、フッ化物イオンの選択的吸着性が向上しており、フッ化物イオン濃度が低く(50mg/L以下)、他のハロゲン化物イオンの濃度が高い被処理液に対してもフッ化物イオンを選択的に吸着することができる。
【0038】
更に、本吸着剤は、一度改質処理が行われると、後述するフッ化物イオンの吸着処理(第1工程)と脱離処理(第2工程)を繰り返し行ってもフッ化物イオンの吸着量が略変化することがない(後述する図7,9参照)。なお、改質処理が行われていない吸着剤、あるいは改質処理が十分に行われていない吸着剤は、初めのうちはフッ化物イオンの吸着処理におけるフッ化物イオンの吸着量が安定しないものの、フッ化物イオンの吸着処理と脱離処理を繰り返すにつれて、脱離処理に使用されるアルカリ水溶液の影響により徐々に吸着剤の表面における水酸基の量が増えていき、フッ化物イオンの吸着量が増加する(図8参照)。すなわち、本実施形態における改質処理は、初回のフッ化物イオンの吸着処理の前に行われることにより、フッ化物イオンの吸着能力を最大まで高めた状態で安定させることができる。
【0039】
本吸着剤によるフッ化物イオンの吸着メカニズムとしては、改質処理によって吸着剤最表面に配置された水酸基とフッ化物イオンとのイオン交換反応により、フッ化物イオンの選択的吸着が起こるものと推測される。フッ化物イオンの選択的吸着が起こる理由としては、水酸基の有効イオン半径(145pm)に比べてフッ化物イオンの有効イオン半径(133pm)が小さく、イオン交換反応が起こりやすいためであると推測される。また、ハロゲン化物イオンである塩化物イオン(181pm)、臭化物イオン(196pm)、ヨウ化物イオン(220pm)は、水酸基よりも有効イオン半径が大きいため、吸着剤最表面に形成されたイオン交換サイトに入らず、ヨウ化物イオンとのイオン交換反応が起こりにくいものと推測される。特にヨウ化物イオンは、ハロゲン化物イオンの中で有効イオン半径が最も大きいことから、吸着剤最表面に配置された水酸基とヨウ化物イオンとのイオン交換反応が最も起こりにくく、実質的にイオン交換反応が起こらないものと推測される。すなわち、本吸着剤は、特に低濃度のフッ化物イオンと高濃度のヨウ化物イオンを含む被処理液から、フッ化物イオンを選択的に吸着する用途に適している。
【0040】
これは被処理液におけるハロゲン化物イオンのモル濃度の総和(Hs)とフッ化物イオンのモル濃度(Fs)の濃度比Hs/Fsを変えたときに、本吸着剤のフッ化物イオン吸着能力が変わらないことからも説明できる。詳しくは、本吸着剤とフッ化物イオンとの結合がファンデルワールス力による物理吸着であれば、競争吸着を起こす夾雑イオンを増やしてHs/Fsが大きくなるほどフッ化物イオンの吸着量が低下するが、Hs/Fsを変えてもフッ化物イオン吸着能力が変わらない(後述する図11参照)ことから、本吸着剤最表面に配置された水酸基とフッ化物イオンとの間でイオン交換反応による化学吸着が起こり、低濃度フッ化物イオンの水溶液からフッ化物イオンを選択的に吸着して更にフッ化物イオン濃度を低くすることができるものと推測される。
【0041】
更に、本吸着剤は、ケイ酸ジルコニウムを主成分とすることにより、酸化ジルコニウムを主成分とする場合と比べて、フッ化物イオンの吸着能力を任意に調整することができる。詳しくは、ケイ酸ジルコニウムは単位表面積当たりのフッ化物イオン吸着能力が酸化ジルコニウムにやや劣るものの、粒径1μm以下の超微粉の領域においても加工性に優れ、様々な比表面積に加工することが容易であるため、重量当たりのフッ化物イオン吸着能力を精度良く制御することできる。
【0042】
また、本吸着剤は、ハロゲン化物イオン以外の陰イオン、特に中心金属とクーロン力が強く働く硫酸イオン(SO 2-)等の多価陰イオンの影響も受けない(後述する図11(b)参照)ことから、排水に含まれる様々な夾雑物や酸によるpH調整の影響を受けず、簡便にフッ化物イオンの吸着に用いることができる。
【0043】
(造粒処理)
本吸着剤は、造粒・焼結により吸着構造体として構成されてもよい。吸着構造体として構成された本吸着剤の粒径は、特に制限はないが、1mm以上であるとハンドリングの観点から好ましい。
【0044】
造粒処理は、上述した吸着剤に接着剤としてケイ酸ナトリウムを少量加え、造粒装置を用いて撹拌することにより得られた造粒物を加熱し、焼結することで吸着構造体を作製する。なお、焼結温度が高すぎると吸着剤のポーラスが閉塞されたり、液相焼結によって吸着剤同士が緻密に焼結されたりすることで比表面積が低下し、吸着性能が低下する(後述する図4参照)。そのため、造粒処理は、焼結温度600℃以下、好ましくは500℃以下、更に好ましくは400℃以下で行われる。また、焼結温度を400℃以下とすることにより、ハンドリング性を向上させつつ、造粒処理前の粉体の吸着剤と同等の吸着性能を有する吸着構造体が得られる。
【0045】
(ハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法)
本発明に係るハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法(以下、「本製造方法」と言う)は、フッ化物イオン、及び他のハロゲンで構成されたイオン成分を含有する被処理液に対して、ジルコニウムを含む酸化物から構成され表面を水酸基により改質した本吸着剤によりフッ化物イオンを吸着処理して処理液を作製する第1工程を有している。
【0046】
(被処理液)
本吸着剤により吸着処理される被処理液は、必ずしもこれらに限定されるものではないが、例えばガラス加工、フッ素樹脂合成、半導体エッチング等の製造工程における廃液や洗浄液等の原液に必要に応じて濃度調整、pH調整処理を行ったものである。なお、複数のハロゲン化物を含むフッ化物固体を溶解処理することにより原液を作製してもよい。また、前処理としてフッ化カルシウム法等によりフッ化物イオン濃度を低下させた原液を用いてもよい。
【0047】
被処理液は、原液にpH調整剤を添加することにより、pH6.0以下、好ましくはpH5.0からpH1.5、更に好ましくはpH4.3からpH2.0にpH調整処理が行われる。
【0048】
pH調整処理に用いるpH調整剤は、pHを調整可能なものであれば特に制限はないが、酸性の水溶液(例えば、塩酸、硫酸等の鉱酸、酢酸、クエン酸等の有機酸)又はアルカリ性の水溶液(水酸化ナトリウム、アンモニア、炭酸ナトリウム等)が好ましい。
【0049】
なお、pH調整処理前の原液は、フッ化物イオンと、他のハロゲンで構成されたイオン成分、すなわちハロゲン化物イオンであるヨウ化物イオン、臭化物イオン、塩化物イオンを含有する水溶液である。また、原液は、フッ化物イオン以外のハロゲン化物イオンが1種類、あるいは任意の比率で2種類以上が含まれていてもよい。
【0050】
また、被処理液におけるハロゲン化物イオンのモル濃度の総和(H)は、フッ化物イオンのモル濃度(F)に対して、10倍(H/F=10)以上、好ましくは100倍(H/F=100)以上、更に好ましくは1000倍(H/F=1000)以上である。
【0051】
また、被処理液のフッ化物イオンの存在形態は、一部がフッ化水素酸(HF)の形態であってもよい。被処理液中においてフッ化物イオンとフッ化水素酸は平衡状態であるため、フッ化物イオンが吸着剤に吸着されると平衡が崩れ、フッ化水素酸が解離する。そのため、pH調整処理等によるフッ化水素酸の形成は、フッ化物イオンの吸着に影響を及ぼさない。なお、本実施形態において、被処理液におけるフッ化物イオン濃度はフッ化水素酸の形態のものを含む濃度である。同様に、ハロゲン化物イオン濃度はハロゲン化水素の形態のものを含む濃度である。
【0052】
また、被処理液は、ヨウ化水素酸(HI)、臭化水素酸(HBr)、塩化水素(HCl)等のハロゲン化水素、ヨウ素酸イオン(IO )、次亜ヨウ素酸イオン(IO)、過ヨウ素酸イオン(IO )等のヨウ素オキソ酸イオン、臭素酸イオン(BrO )、次亜臭素酸イオン(BrO)、過臭素酸イオン(BrO )等の臭素オキソ酸イオン、塩素酸イオン(ClO )、次亜塩素酸イオン(ClO)、過塩素酸イオン(ClO )等の塩素オキソ酸イオン、三ヨウ化物イオン(I )等のポリハロゲン化物イオンを含んでいてもよい。なお、ポリハロゲン化物イオンはフッ素を含まないものである。
【0053】
また、被処理液は、フッ化物イオン及びハロゲン化物イオン以外の陰イオンを含んでいてもよい。具体的には、水酸化物イオン(OH)、硫酸イオン(SO 2-)、亜硫酸イオン(SO 2-)、チオ硫酸イオン(S 2-)、テトラチオン酸イオン(S 2-)、その他硫黄のオキソ酸イオン、硝酸イオン(NO )、リン酸イオン(PO 3-)、リン酸水素イオン(HPO 2-)、リン酸二水素イオン(HPO )、炭酸イオン(CO 2-)、重炭酸イオン(HCO )、硫化物イオン(S2-)、硫化水素イオン(HS)、シアン化物イオン(CN)等の無機陰イオン及び、ギ酸イオン、酢酸イオン等の有機陰イオンが挙げられる。これらは原液に含まれていてもよく、pH調整処理により加えられてもよい。
【0054】
また、被処理液は、無機塩や有機塩等の固体を含んでいてもよいが、本吸着剤による吸着処理の前に固液分離等の処理で取り除いておくことが望ましい。
【0055】
また、被処理液は、例えばアスコルビン酸等の有機還元剤や原液が排出した製造工程に由来する水溶性有機物を含んでいてもよいが、本吸着剤による吸着処理の前に水溶性有機物をあらかじめ凝集沈殿、活性炭吸着、燃焼分解、又は電気透析等により分離除去しておくことが望ましい。
【0056】
(吸着処理(第1工程))
本製造方法においては、被処理液に本吸着剤を添加し、所定時間混合しながら吸着処理を行う。吸着処理に要する時間は30秒以上、好ましくは2分以上、更に好ましくは10分以上である。なお、被処理液中におけるフッ化物イオン濃度を事前に測定することにより、吸着処理に必要な本吸着剤の添加量を算出することができる。
【0057】
また、吸着処理における被処理液の温度は、0~60℃の範囲、好ましくは5~40℃の範囲である。なお、被処理液の温度が高すぎるとフッ酸の蒸気圧が上がり、気化量が増加することから好ましくない。
【0058】
本吸着剤にフッ化物イオンが吸着すると、イオン交換反応により脱離した水酸化物イオンにより被処理液のpHが変化する。そのため、吸着処理における被処理液のpHを監視し、常にpH6.0以下、好ましくはpH5.0からpH1.5、更に好ましくはpH4.3からpH2.0になるようにpH調整を行うことにより、本吸着剤に吸着されたフッ化物イオンの脱離を抑制することができ、本吸着剤によるフッ化物イオンの吸着効率を高めることができる。
【0059】
また、吸着処理における被処理液のpHと共に、処理液におけるフッ化物イオン濃度を監視し、処理液におけるフッ化物イオン濃度が予め定めた所定の下限値になったこと、すなわち本吸着剤の吸着限界を確認してから、後述する本吸着剤の脱離処理(第2工程)に移行するようにしてもよい。
【0060】
なお、吸着処理後の本吸着剤と処理液は、本吸着剤の脱離処理に移行する前にろ過等による固液分離を行う。固液分離により得られる処理液は、フッ化物イオン濃度の排水基準(8.0mg/L)を下回るハロゲン化物イオン含有水溶液であり、当該処理液から精製を行うことにより高純度のハロゲンを回収することができる。
【0061】
(脱離処理(第2工程))
本製造方法においては、吸着処理(第1工程)後、固液分離により得られる本吸着剤をpH6.0以上の水溶液、好ましくはpH7.0より大きいアルカリ水溶液、更に好ましくはpH8.2以上のアルカリ水溶液、特に好ましくはpH11.7以上のアルカリ水溶液と所定時間接触させる脱離処理を行うことにより、本吸着剤に吸着されたフッ化物イオンを脱離させた脱離液を作製する。脱離処理に要する時間は30秒以上、好ましくは2分以上、更に好ましくは10分以上である。
【0062】
また、脱離処理における脱離液の温度は、特に制限はないが、0~60℃の範囲、好ましくは5~40℃の範囲である。
【0063】
なお、脱離処理により得られた脱離液は、本吸着剤と固液分離を行った後、例えばカルシウム化合物を添加してフッ化カルシウム法を行うことにより、フッ化物イオンをフッ化カルシウムとして回収することができる。また、フッ化物イオンを回収した脱離液は、原液と混合して吸着処理に繰り返し使用することができる。すなわち、排水基準(8.0mg/L)を超えるフッ化物イオンが残留している脱離液を排水として排出することなく、濃縮回収することができる。それにより、本製造方法に係る系外への排水が常に排水基準を満たすことができる。
【0064】
また、脱離処理後、固液分離により得られる本吸着剤は、フッ化物イオンの吸着量が略変化することがないため、上述した吸着処理(第1工程)に繰り返し使用することができる。これは、フッ化物イオンの脱離に伴い吸着剤の表面に水酸基が戻り再生されるためであると推測される。すなわち、本製造方法で使用される本吸着剤は、産業廃棄物として廃棄する必要がなく、コストを抑制することができる。
【0065】
なお、本製造方法を実施するための処理法としては、例えばバッチ式(図1参照)や連続式(図2参照)を採用することができる。図1に示されるように、バッチ式においては、被処理液と吸着剤が供給される吸着槽中の処理液pH及びフッ化物イオン濃度を監視することが好ましい。詳しくは、吸着層に一定量供給された被処理液に対して吸着剤を添加して吸着処理を行い、吸着槽中の処理液のフッ化物イオン濃度が予め定めた所定値になった時点で、分離装置に処理液と吸着剤を一緒に供給し固液分離を行う。その後、吸着剤は脱離処理され、吸着槽へ再投入されることにより吸着処理に繰り返し使用される。
【0066】
また、図2に示されるように、連続式においては、吸着剤が充填され被処理液が供給される複数の吸着塔から排出される処理水のpH及びフッ化物イオン濃度を監視することが好ましい。詳しくは、吸着塔において吸着処理が行われた処理液におけるフッ化物イオン濃度を監視し、該処理液におけるフッ化物イオン濃度が予め定めた所定の下限値になった時点で、被処理液の供給を止めて吸着塔から処理液を全て排出した後、ラインを切り換えてアルカリ溶液を供給することにより脱離処理に移行する。これによれば、吸着限界に達した吸着剤から脱離液(アルカリ溶液)中にフッ化物イオンを脱離させることができるため、フッ化物イオンの回収効率が高い。なお、図2において、吸着塔1,2では吸着処理、吸着塔3では脱離処理が行われている状態を示しているが、全ての吸着塔がラインの切り換えにより吸着処理と脱離処理を繰り返し行うことができる。このように、連続式ではバッチ式と比べて固液分離の工程を行う必要がなくなるため、処理効率が高い。また、図2では吸着塔が3塔設けられる例について説明しているが、吸着塔の塔数は3以外、例えば1塔であってもよい。
【実施例0067】
上記実施形態に係る実施例の吸着剤について各種条件を変更したものを実際に作製し、吸着特性を確認した。以下具体的に説明する。
【0068】
(吸着剤の作製)
本実施例の吸着剤は、ジルコンサンド(ケイ酸ジルコニウム)を主成分として作製した。本実施例において素材として使用したジルコンサンド及びジルコニア(酸化ジルコニウム)の物性を下記表1に示す。なお、平均粒径はレーザー回折・散乱法、比表面積はBET法を用いて測定を行った。更になお、本発明はこれらの物性値に限定されるものではない。
【0069】
【表1】
【0070】
(改質処理試験)
本実施例の吸着剤について、改質処理の処理方法1として、上記素材2のジルコンサンド5gにアルカリ水溶液である水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液1mLを混ぜ、600℃で3時間加熱し、加熱後ジルコンサンド2gを蒸留水10mLに加えて30分間振盪し、1時間静置、ろ過、乾燥して吸着剤を作製した。なお、該処理方法1においては、NaOH濃度を1mol/L、5mol/L、10mol/L、20mol/Lの4段階に調整したNaOH溶液を用いた。また、改質処理の処理方法2として、上記素材2のジルコンサンド2.5gにアルカリ水溶液であるNaOH水溶液10mLを混ぜ、180℃で24時間加熱し、加熱後ジルコンサンドを蒸留水10mLに加えて30分間振盪し、1時間静置、ろ過、乾燥して吸着剤を作製した。なお、該処理方法2においては、NaOH濃度を10mol/Lに調整したNaOH溶液を用いた。
【0071】
上記処理方法1,2により作製した吸着剤1gにそれぞれ模擬的に作製した被処理液(フッ素:50mg/L、ヨウ素:80g/L)10mLを添加し、吸着処理として、室温で120分間振盪した後、ろ過を行い、処理液のフッ化物イオン濃度を測定した結果を表2及び図3に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
表2及び図3に示されるように、処理方法1により作製した吸着剤は、NaOH濃度20mol/LのNaOH溶液を用いて改質処理を行った吸着剤が最もフッ化物イオン吸着量が多く、NaOH濃度が低下するにつれてフッ化物イオン吸着量が徐々に低下することを確認した。詳しくは、NaOH濃度20mol/LのNaOH溶液を用いて改質処理を行った吸着剤の吸着率を100%としたとき、NaOH濃度10mol/Lで改質処理を行った吸着剤の吸着率が97%、NaOH濃度5mol/Lで改質処理を行った吸着剤の吸着率が81%、NaOH濃度1mol/Lで改質処理を行った吸着剤の吸着率が45%となり、改質処理を行っていない未処理のジルコンサンドの吸着率(16%)と比べてフッ化物イオン吸着量が増加することを確認した。
【0074】
また、処理方法2により作製した吸着剤が56%となり、改質処理を行っていない未処理のジルコンサンドの吸着率(16%)と比べてフッ化物イオン吸着量が増加することを確認した。
【0075】
なお、同じNaOH濃度(10mol/L)のNaOH溶液を用いて改質処理を行った場合、処理方法2と比べて処理方法1の吸着剤の吸着率が大幅に向上することを確認した。
【0076】
すなわち、吸着剤の改質処理は、水酸化物イオンの濃度1mol/L以上のアルカリ水溶液中、好ましくは5mol/L以上のアルカリ水溶液中、更に好ましくは10mol/L以上のアルカリ水溶液中で180~600℃の範囲、好ましくは600℃で加熱することにより、フッ化物イオン吸着性能を向上させることができる。
【0077】
(造粒処理試験)
上述した改質処理の処理方法1(NaOH濃度10mol/L)により作製した吸着剤を粒径1mmとなるように造粒し、焼結することにより吸着構造体を構成した。なお、焼結温度を25℃(焼結しない)、200℃、400℃、600℃、800℃、1000℃に調整した吸着構造体をそれぞれ作製した。
【0078】
上記吸着構造体として構成した吸着剤1gにそれぞれ模擬的に作製した被処理液(フッ素:50mg/L、ヨウ素:80g/L)10mLを添加し、吸着処理として、室温で120分間振盪した後、ろ過を行い、処理液のフッ化物イオン濃度を測定した結果を図4に示す。
【0079】
図4に示されるように、焼結温度25~400℃まではフッ化物イオン吸着量が略一定に維持され、焼結温度が400℃よりも高くなっていくにつれてフッ化物イオン吸着量が徐々に低下することを確認した。詳しくは、焼結温度400℃以下としたとき、フッ化物イオン吸着量が0.43~0.44mg/gとなり、造粒処理前の粉体の状態の吸着剤(フッ化物イオン吸着量0.45mg/g,図3参照)と同等の吸着性能を有することを確認した。また、焼結温度600℃とした吸着剤のフッ化物イオン吸着量が0.42mg/g、焼結温度800℃とした吸着剤のフッ化物イオン吸着量が0.39mg/g、焼結温度1000℃とした吸着剤のフッ化物イオン吸着量が0.37mg/gとなり、造粒処理前の粉体の状態の吸着剤と比べてフッ化物イオン吸着量が低下することを確認した。
【0080】
すなわち、吸着剤の造粒処理は、焼結温度400℃以下で行うことにより、ハンドリング性を向上させつつ、造粒処理前の粉体の吸着剤と同等のフッ化物イオン吸着性能を維持することができる。
【0081】
(吸着処理試験)
上述した改質処理の処理方法1により作製した吸着剤0.1gを、フッ化カリウム(KF)を用いてフッ化物イオン濃度を1mMに調整し、かつpH調整剤として塩酸(HCl)を用いて所定のpHに調整した被処理液10mLに添加し、室温で12時間振盪した後、遠心分離により得られた上澄みを処理液として回収し、該処理液のフッ化物イオン吸着率を測定した結果を図5に示す。なお、フッ化物イオンの吸着率は、pH3.5の被処理液におけるフッ化物イオン吸着量を基準として、各pHの被処理液におけるフッ化物イオン吸着量から算出した。
【0082】
図5に示されるように、被処理液のpHは、アルカリ性(pH8.0)から中性、酸性に向かうにつれてフッ化物イオン吸着率が上昇していき、pH3.5をピークにpHが更に低くなるにつれてフッ化物イオン吸着率が徐々に低下することを確認した。詳しくは、pH8.0の被処理液においてフッ化物イオン吸着率が10%、pH7.5の被処理液においてフッ化物イオン吸着率が13%、pH6.0の被処理液においてフッ化物イオン吸着率が35%、pH5.0の被処理液においてフッ化物イオン吸着率が73%、pH4.3の被処理液においてフッ化物イオン吸着率が87%、pH3.7の被処理液においてフッ化物イオン吸着率が96%、pH3.5の被処理液においてフッ化物イオン吸着率が100%となり、被処理液のpHがアルカリ性から中性、酸性に向かうにつれてフッ化物イオン吸着率が上昇することを確認した。また、pH2.3の被処理液においてフッ化物イオン吸着率が92%、pH2.0の被処理液においてフッ化物イオン吸着率が87%、pH1.8の被処理液においてフッ化物イオン吸着率が77%、pH1.5の被処理液においてフッ化物イオン吸着率が73%となり、被処理液のpH3.5をピークにpHが更に低くなるにつれてフッ化物イオン吸着率が徐々に低下することを確認した。
【0083】
すなわち、吸着剤の吸着処理は、好ましくは被処理液をpH5.0からpH1.5の範囲に調整することによりフッ化物イオン吸着率が70%以上となり、更に好ましくは被処理液をpH4.3からpH2.0の範囲に調整することによりフッ化物イオン吸着率が85%以上となり、特に好ましくは被処理液をpH3.7からpH2.3の範囲に調整することによりフッ化物イオン吸着率が90%以上となり、被処理液中のフッ化物イオンを効率よく吸着することができる。
【0084】
(脱離処理試験)
上述した改質処理の処理方法1により作製した吸着処理後の吸着剤8gを、pH調整剤として塩酸(HCl)と水酸化ナトリウム(NaOH)を用いて所定のpHに調整した脱離液40mLに添加し、室温で120分間振盪した後、ろ過を行い、脱離液のpHとフッ化物イオン脱離率を測定した結果を図6に示す。なお、フッ化物イオンの脱離率は、被処理液から吸着されたフッ化物イオンの吸着量と、脱離液に脱離されたフッ化物イオンの脱離量から算出した。
【0085】
図6に示されるように、pH11.7以上の脱離液において、フッ化物イオン脱離率が100%となり、pHが低下するにつれてフッ化物イオン脱離率が徐々に低下することを確認した。詳しくは、pH10.8の脱離液においてフッ化物イオン脱離率が94%、pH10の脱離液においてフッ化物イオン脱離率が90%、pH9.4の脱離液においてフッ化物イオン脱離率が85%、pH9.2の脱離液においてフッ化物イオン脱離率が70%、pH8.2の脱離液においてフッ化物イオン脱離率が50%、pH6.2の脱離液においてフッ化物イオン脱離率が18%、pH6.0の脱離液においてフッ化物イオン脱離率が5%となり、脱離液のpHがアルカリ性から中性に近づくほどフッ化物イオン脱離率が大きく低下することを確認した。
【0086】
また、pH5.6以下の脱離液において、フッ化物イオン脱離率が0%であり、脱離液のpHを酸性に維持することで、吸着剤からのフッ化物イオンの脱離を抑制できることを確認した。
【0087】
すなわち、吸着剤の脱離処理は、脱離液としてpH6.0以上の水溶液、好ましくはpH7.0より大きいアルカリ水溶液、更に好ましくはpH8.2以上のアルカリ水溶液、特に好ましくはpH11.7以上のアルカリ水溶液を用いることにより、脱離液中にフッ化物イオンを効率よく脱離させて回収することができる。また、吸着剤の吸着処理は、被処理液あるいは処理液としてpH6.0より低い水溶液を用いることにより、フッ化物イオンの脱離を防止してフッ化物イオンを効率よく吸着することができる。
【0088】
(バッチ式繰り返し試験)
処理法として上述したバッチ式を採用し、上述した処理方法1により作製した吸着剤にフッ化物イオンの吸着処理、脱離処理を繰り返し行うことによるフッ化物イオンの吸着率の変化を測定した結果を図7に示す。なお、フッ化物イオンの吸着率は、1回目の吸着処理において被処理液から吸着されたフッ化物イオンの吸着量と、2回目以降の吸着処理において被処理液から吸着されたフッ化物イオンの吸着量から算出した。また、脱離処理は、脱離液としてpH11.7以上のアルカリ水溶液を用いて行った。
【0089】
図7に示されるように、フッ化物イオンの吸着処理、脱離処理を繰り返し行った結果、1回目から5回目まで全てフッ化物イオン吸着率が略100%となることを確認した。なお、3回目から5回目におけるフッ化物イオン吸着率が100%を超えているのは、被処理液のフッ化物イオン濃度が低く、フッ化物イオンの吸着量が少ないことによる測定誤差であると推測される。
【0090】
すなわち、改質処理された吸着剤は、脱離処理を行ってもフッ化物イオンの吸着量が略変化することがないため、吸着処理に繰り返し使用することができる。
【0091】
なお、処理法としてバッチ式を採用し、改質処理を行っていない吸着剤(素材4(表1参照)のジルコンサンド)にフッ化物イオンの吸着処理、脱離処理を繰り返し行うことによるフッ化物イオンの吸着率の変化を測定した結果を図8に示す。
【0092】
図8に示されるように、フッ化物イオンの吸着処理、脱離処理を繰り返し行った結果、1回目のフッ化物イオン吸着率が88%であり、フッ化物イオンの吸着処理と脱離処理を繰り返すにつれて、フッ化物イオンの吸着率が徐々に上昇していき、4回目以降でフッ化物イオン吸着率が安定し、一定となることを確認した。
【0093】
(連続式繰り返し試験)
処理法として上述した連続式を採用し、上述した処理方法1により作製した吸着剤を粒径2~4mmに造粒し、焼結温度400℃で焼結することにより造粒処理を行って作製した吸着構造体について、フッ化物イオンの吸着処理、脱離処理を繰り返し行うことによるフッ化物イオンの吸着率の変化を測定した結果を図9に示す。詳しくは、カラムに造粒処理により吸着構造体として構成された吸着剤を充填し、模擬的に作製した被処理液(フッ素:50mg/L、ヨウ素:80g/L)を流速1mL/min(空間速度SV:10)でカラムに通液し吸着処理を行った。吸着処理を行ったカラムに対して、洗浄処理として0.01Mの硫酸(HSO)を8mL/minで通液し、カラム内に残留している被処理液の除去を行った後、0.1Mの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を8mL/minで通液し脱離処理を行い、吸着剤からフッ化物イオンを脱離させた。更に、繰り返し試験の準備として、カラム内に水を8mL/minで通液し、カラム内に残留している脱離液の除去を行った後、上記吸着処理、洗浄処理、脱離処理を繰り返し行った。なお、フッ化物イオンの吸着率は、1回目の吸着処理において被処理液から吸着されたフッ化物イオンの吸着量と、2回目以降の吸着処理において被処理液から吸着されたフッ化物イオンの吸着量から算出した。
【0094】
図9に示されるように、フッ化物イオンの吸着処理、脱離処理を繰り返し行った結果、1回目から6回目まで全てフッ化物イオン吸着率が略100%となることを確認した。なお、2回目から6回目におけるフッ化物イオン吸着率が100%を超えているのは、被処理液のフッ化物イオン濃度が低く、フッ化物イオンの吸着量が少ないことによる測定誤差であると推測される。
【0095】
すなわち、造粒処理により吸着構造体として構成された吸着剤に脱離処理を行ってもフッ化物イオンの吸着量が略変化することがないため、吸着処理に繰り返し使用することができる。また、処理法として連続式を採用した場合でも、前述したバッチ式を採用した場合と同様に、吸着処理と脱離処理を繰り返し行うことができることを確認した。
【実施例0096】
(吸着処理試験)
本実施例においては、被処理液の組成や吸着処理の条件等を変えたサンプル1~7と比較例1~4について吸着処理を行い、フッ素(フッ化物イオン)吸着率とヨウ素(ヨウ化物イオン)吸着率を測定した。本実施例のサンプル1~7及び比較例1~4における被処理液の組成について表3に示す。なお、本実施例における被処理液は、ハロゲン化合物とpH調整剤(硫酸(HSO))をビーカーに入れ、マグネティックスターラで混合することにより作製した。ハロゲン化合物については、サンプル1,2,7と比較例1~3はフッ化ナトリウム(NaF)、塩化ナトリウム(NaCl)、臭化ナトリウム(NaBr)、ヨウ化カリウム(KI)を用い、それ以外のサンプル3~6と比較例4はフッ化カリウム(KF),ヨウ化カリウム(KI)を用いた。
【0097】
【表3】
【0098】
また、本実施例のサンプル1~7及び比較例1~4における吸着処理の条件について表4に示す。なお、本実施例における吸着剤としての改質処理ZrSiO及び改質処理ZrOは、上述した素材2のジルコンサンド及び素材3のジルコニア(表1参照)を処理方法1(NaOH濃度20mol/L)で作製したものである。また、サンプル6で用いた吸着構造体は、改質処理ZrSiOを粒径2~4mmに造粒し、焼結温度400℃で焼結することにより造粒処理を行って作製した。また、他の吸着剤として、MgFe-Cl型層状複水酸化物、Zr担持活性炭、中性活性炭(富士フィルム和光純薬社 活性炭)を使用した。
【0099】
【表4】
【0100】
なお、サンプル6については、処理法として連続式を採用した。詳しくは、カラムに造粒処理により得られた吸着構造体を充填し、被処理液(表3参照)を流速1mL/min(空間速度SV:10)でカラムに通液し、通液量ごとにカラムから排出される処理液のサンプリングを行い、フッ化物イオン濃度を測定した。
【0101】
また、吸着処理を行った本実施例のサンプル1~7及び比較例1~4における処理液の組成について表5に示す。なお、本実施例においては、ろ過により吸着剤と処理液を固液分離して回収した処理液における各種成分濃度を測定した。比較例1~3は、イオンクロマトグラフィにより全成分の濃度を測定し、それ以外のサンプル1~7と比較例4は、フッ素イオン電極とイオンクロマトグラフィの併用により濃度を測定した。
【0102】
【表5】
【0103】
表5に示されるように、サンプル1において、フッ化物イオンと他のハロゲン化物イオン(ヨウ化物イオン、塩化物イオン)を含み、他のハロゲン化物イオンとフッ化物イオンの比率(Hs/Fs比)が1000倍以上であるpH1.8の被処理液を40℃で180分間吸着処理した場合、改質処理ZrSiOが他のハロゲン化物イオンの影響を受けることなくフッ化物イオンのみを選択的に吸着し、処理液のフッ化物イオン濃度を排水基準(8.0mg/L)以下に低下させることを確認した。なお、サンプル1において、ヨウ素濃度と塩素濃度が増加しているのは、分析前処理(希釈等)や分析装置の繰返し誤差による分析誤差であると推測される。
【0104】
また、サンプル2において、サンプル1よりも少量のフッ化物イオンと他のハロゲン化物イオン(ヨウ化物イオン、塩化物イオン)を含み、他のハロゲン化物イオンとフッ化物イオンの比率(Hs/Fs比)が1000倍以上であるpH2.6の被処理液を60℃で180分間吸着処理した場合、改質処理ZrSiOが他のハロゲン化物イオンの影響を受けることなくフッ化物イオンのみを選択的に吸着し、処理液のフッ化物イオン濃度を排水基準(8.0mg/L)以下に低下させることを確認した。なお、サンプル2の被処理液におけるフッ化物イオン濃度は、排水基準よりも低い3mg/Lであったが、吸着処理により0.5mg/Lと極めて低いフッ化物イオン濃度まで低下させることを確認した。なお、サンプル2において、ヨウ素濃度と塩素濃度が増加しているのは、分析前処理(希釈等)や分析装置の繰返し誤差による分析誤差であると推測される。
【0105】
また、サンプル3において、フッ化物イオンとヨウ化物イオンを含み、他のハロゲン化物イオンとフッ化物イオンの比率(Hs/Fs比)が1000倍以上であるpH2.0の被処理液を室温で60分間吸着処理した場合、改質処理ZrSiOが他のハロゲン化物イオンの影響を受けることなくフッ化物イオンのみを選択的に吸着し、処理液のフッ化物イオン濃度を排水基準(8.0mg/L)以下に低下させることを確認した。
【0106】
また、サンプル4において、フッ化物イオンとヨウ化物イオンを含み、他のハロゲン化物イオンとフッ化物イオンの比率(Hs/Fs比)が1000倍以上であるpH2.0の被処理液を室温で10分間吸着処理した場合、改質処理ZrSiOが他のハロゲン化物イオンの影響を受けることなくフッ化物イオンのみを選択的に吸着し、処理液のフッ化物イオン濃度を排水基準(8.0mg/L)以下に低下させることを確認した。なお、サンプル4は、サンプル3と被処理液の組成は同一であるが、吸着処理に用いた溶液量と吸着剤量が5倍スケールであり、処理時間が10分間と短かかったが、処理液のフッ化物イオン濃度を排水基準(8.0mg/L)以下に低下させることを確認した。
【0107】
また、サンプル5において、フッ化物イオンとヨウ化物イオンを含み、他のハロゲン化物イオンとフッ化物イオンの比率(Hs/Fs比)が1000倍以上であるpH2.0の被処理液を室温で120分間吸着処理した場合、改質処理ZrOが他のハロゲン化物イオンの影響を受けることなくフッ化物イオンのみを選択的に吸着し、処理液のフッ化物イオン濃度を排水基準(8.0mg/L)以下に低下させることを確認した。
【0108】
また、サンプル6において、フッ化物イオンとヨウ化物イオンを含み、他のハロゲン化物イオンとフッ化物イオンの比率(Hs/Fs比)が1000倍以上であるpH2.0の被処理液を室温で流速1mL/min(空間速度SV:10)で通液処理した場合、改質処理ZrSiOを造粒処理した吸着構造体が他のハロゲン化物イオンの影響を受けることなくフッ化物イオンのみを選択的に吸着し、処理液のフッ化物イオン濃度を排水基準(8.0mg/L)以下に低下させることを確認した。詳しくは、図10に示されるように、100mL通液した段階でカラム出口から排出される処理液のフッ化物イオン濃度が0.6mg/L、累積処理液のフッ化物イオン濃度が0.24mg/L、200mL通液した段階でカラム出口から排出される処理液のフッ化物イオン濃度が2.7mg/L、累積処理液のフッ化物イオン濃度が0.93mg/L、400mL通液した段階でカラム出口から排出される処理液のフッ化物イオン濃度が7.3mg/L、累積処理液のフッ化物イオン濃度が3.0mg/L、600mL通液した段階でカラム出口から排出される処理液のフッ化物イオン濃度が11.9mg/L、累積処理液のフッ化物イオン濃度が5.3mg/L、800mL通液した段階でカラム出口から排出される処理液のフッ化物イオン濃度が15.6mg/L、累積処理液のフッ化物イオン濃度が7.4mg/Lとなった。このときの吸着構造体の単位重量当たりのフッ素吸着量は0.41mg/gであった。
【0109】
また、サンプル7において、フッ化物イオンと他のハロゲン化物イオンを全て含み、他のハロゲン化物イオンとフッ化物イオンの比率(Hs/Fs比)が3と低いpH2.0の被処理液を室温で180分間吸着処理した場合であっても、改質処理ZrSiOが他のハロゲン化物イオンの影響を受けることなくフッ化物イオンのみを選択的に吸着することを確認した。なお、サンプル7は、後述する比較例1,2との比較のために吸着剤量を0.5gと少なく設定したため、フッ化物イオン濃度が排水基準を下回らず、フッ素吸着率も45%と低くなったが、吸着剤の単位重量当たりのフッ素吸着量は他のサンプル1~6よりも多くなったことから、サンプル7の吸着剤のみが吸着限界に達しているものと推測される。
【0110】
なお、比較例1は、吸着剤としてMgFe-Cl型層状複水酸化物を使用しているため、フッ化物イオンの吸着性能には優れるものの、吸着剤がヨウ化物イオンや臭化物イオンを一緒に吸着してしまっている。
【0111】
また、比較例2は、吸着剤としてZr担持活性炭を使用しているため、フッ化物イオンの吸着性能には優れるものの、ヨウ化物イオンや臭化物イオンを一緒に吸着してしまっている。
【0112】
また、比較例3は、吸着剤として中性活性炭を使用しているため、フッ化物イオンの吸着性能が良くなく、ヨウ化物イオンや臭化物イオンも一緒に吸着してしまっている。
【0113】
また、比較例4は、吸着剤としてZrSiOを使用しているが、被処理液がpH7.0と中性であるため、フッ化物イオンのみを選択的に吸着できるものの、フッ化物イオンの吸着量が不十分となってしまっている。
【実施例0114】
(夾雑物の影響評価試験)
1mMのフッ化物イオンと夾雑イオンとなる陰イオンを1mM、10mM、100mM、1000mM含む溶液をそれぞれ作製した。フッ化物イオンは、NaF、夾雑イオンは、NaCl、NaBr、NaI、Na・10HO、NaSOにより供給した。また、夾雑イオンがSO 2-である溶液は酢酸、それ以外の夾雑イオンを含む溶液は硫酸を用いてpH2.0に調整し、被処理液を作製した。各被処理液10mLに前記実施例2と同じ改質処理ZrSiOを2g添加し、室温で2時間振盪し、処理液のフッ化物イオン濃度を測定した結果を図11に示す。
【0115】
図11に示されるように、夾雑イオンとしてハロゲン化物イオンであるCl、Br、Iを含む被処理液、夾雑イオンとして多価陰イオンであるB 2-、SO 2-を含む被処理液について、夾雑イオンとフッ化物イオンの濃度比を1~1000まで変化させても、フッ化物イオンの吸着率は略100%となり、夾雑イオンの影響を受けることなくフッ化物イオンを選択性に吸着することを確認した。
【実施例0116】
(改質処理試験(常温))
本実施例の吸着剤について、常温での改質処理の処理方法として、素材4(表1参照)のジルコンサンド5gにアルカリ水溶液である水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液1mLを混ぜ、常温(10℃,20℃,40℃)で24時間保持し、常温保持後ジルコンサンド2gを蒸留水10mLに加えて30分間振盪し、1時間静置、ろ過、乾燥して吸着剤を作製した。なお、該常温での処理方法においては、NaOH濃度を1mol/L、5mol/L、10mol/L、16mol/Lの4段階に調整したNaOH溶液を用いた。
【0117】
上記常温での処理方法により作製した吸着剤1.25gにそれぞれ模擬的に作製した被処理液(フッ素:90mg/L、ヨウ素:410g/L)25mLを添加し、吸着処理として、室温で240分間振盪した後、ろ過を行い、処理液のフッ化物イオン吸着量を測定した結果を表6及び図12に示す。
【0118】
【表6】
【0119】
表6及び図12に示されるように、上記常温での処理方法により作製した吸着剤は、10℃,20℃,40℃で改質処理を行った全ての吸着剤において、NaOH濃度16mol/LのNaOH溶液を用いて改質処理を行った吸着剤が最もフッ化物イオン吸着量が多く、NaOH濃度が低下するにつれてフッ化物イオン吸着量が徐々に低下することを確認した。詳しくは、10℃,20℃,40℃で改質処理を行った全ての吸着剤において、NaOH濃度0mol/LのNaOH溶液を用いて改質処理を行った吸着剤(比較例)、すなわち実質的に改質処理を行っていない未処理の吸着剤の吸着率(63.9%)と比べてフッ化物イオンの吸着率が増加することを確認した。
【0120】
なお、同じNaOH濃度のNaOH溶液を用いて改質処理を行った場合、10℃で改質処理を行った吸着剤と比べて20~40℃で改質処理を行った吸着剤の吸着率が大幅に向上することを確認した。また、本実施例においては、20℃で改質処理を行った吸着剤が最も吸着率が向上した。
【0121】
すなわち、常温での吸着剤の改質処理は、水酸化物イオンの濃度1mol/L以上のアルカリ水溶液中、好ましくは5mol/L以上のアルカリ水溶液中、更に好ましくは10mol/L以上のアルカリ水溶液中、特に好ましくは15mol/L以上のアルカリ水溶液中、10~40℃の範囲、好ましくは20~40℃の範囲で保持することにより、フッ化物イオン吸着性能を向上させることができる。
【0122】
また、常温での改質処理により得られる吸着剤は、前記実施例1等において高温での改質処理により得られる吸着剤と比べて、フッ化物イオン吸着量の増加率はやや劣るものの、吸着率は70%以上、最も好適な条件では90%以上となり、フッ化物イオン吸着性能に優れる。
【実施例0123】
(改質処理試験(常温と高温の比較))
本実施例の吸着剤について、素材4(表1参照)のジルコンサンド5gにアルカリ水溶液である水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液1mLを混ぜ、各温度で各時間保持した後、ジルコンサンド2gを蒸留水10mLに加えて30分間振盪(洗浄)し、1時間静置、ろ過、乾燥して吸着剤の回収重量を計量した。なお、本実施例においては、前記実施例4の常温での処理方法(20℃で24時間保持)で処理を行ったものと、前記実施例1の処理方法1(600℃で3時間保持)及び処理方法2(180℃で24時間保持)で処理を行ったものについて比較を行った。また、各処理方法においては、NaOH濃度を1mol/L、5mol/L、10mol/L、16mol/Lの4段階に調整したNaOH溶液を用いた。
【0124】
上記各処理方法により作製した吸着剤の回収重量及び回収率を比較した結果を表7に示す。
【0125】
【表7】
【0126】
表7に示されるように、常温(20℃)で改質処理した場合と比べて、高温(180℃,600℃)で改質処理したものは、NaOH濃度が高くなることで吸着剤の回収重量が減少することを確認した。また、高温で改質処理した場合、吸着剤の回収重量の減少は、NaOH濃度が高くなるほど顕著になることを確認した。これに対し、常温(20℃)で処理した場合、吸着剤の回収重量は、NaOH濃度が高くなっても略変化しないことを確認した。
【0127】
また、高温で改質処理した場合、蒸留水中で洗浄する際に、吸着剤の回収重量が減少したものと推測される。これに対し、常温(10~60℃)で改質処理した場合、重量減少は略確認されなかった。
【0128】
これらのことから、常温での改質処理は、吸着剤の回収率(歩留まり)を高めることができる。
【0129】
以上、これら実施形態及び実施例により、フッ化物イオン濃度が他のハロゲン化物イオン濃度に比べて極めて低いハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法及びこれに用いられる吸着剤を提供することができる。
【0130】
なお、前記実施例1~5において、吸着剤としての改質処理ZrSiOを上述した素材1のジルコンサンド(表1参照)を用いて作製した場合も、同様の傾向を示す試験結果が得られることを確認した。
【0131】
また、前記実施例1~5において、処理液のフッ化物イオン濃度は、1回の吸着処理で排水基準(8.0mg/L)を下回らない場合もあるが、この場合には、吸着処理に使用する吸着剤の量を増やす、又は吸着処理を複数回繰り返す等の方法により、処理液のフッ化物イオン濃度が排水基準を下回るように調整可能であることは言うまでもない。
[産業上の利用可能性]
【0132】
本発明は、吸着剤によるフッ化物イオンの選択吸着性が非常に高いことから、処理液のフッ化物イオン濃度を他のハロゲン化物イオン濃度に比べて極めて低くしてフッ化物イオンの排水基準を達成することができる技術であるとともに、他のハロゲン化物イオンを高濃度で含有する水溶液においてもフッ化物イオンを選択的に吸着、回収できることから、特に高濃度ヨウ素水溶液からフッ化物イオンを選択分離する技術として極めて有用な技術である。また、本発明は、フッ化カルシウム法等との組み合わせるにより、フッ化物イオンや他のハロゲン化物イオンのリサイクル技術としても利用できることから、応用範囲は広い。
図1
図2
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図5
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