(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068224
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】除塵機
(51)【国際特許分類】
E02B 5/08 20060101AFI20240513BHJP
B01D 33/00 20060101ALI20240513BHJP
B01J 20/12 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
E02B5/08 102B
B01D33/00 D
B01J20/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171951
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】梶山 加成恵
(72)【発明者】
【氏名】野村 章夫
【テーマコード(参考)】
4D116
4G066
【Fターム(参考)】
4D116AA18
4D116BB11
4D116BC62
4D116BC67
4D116DD04
4D116FF12B
4D116KK01
4D116QA41C
4D116QA41D
4D116QA41F
4D116VV07
4G066AA66B
4G066CA21
4G066CA23
4G066CA28
4G066CA31
4G066CA32
4G066CA45
4G066DA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】除塵機に吸着部材を取付けることで、周辺の塩分濃度を低下させ、ブッシュなどの腐食防止に寄与できる。
【解決手段】左右一対の無端状のキャリングチェーン12に、水路を幅方向に横切るように塵芥を捕捉するスクリーン14を備え、
複数のリンク部を無端状に連結し構成される前記キャリングチェーン12のブッシュ15とローラ16が上下スプロケットホイールの歯に当接し噛み込まれることで、前記キャリングチェーン12が前記スクリーン14の延在方向に沿って回動する除塵機において、
前記キャリングチェーン12に、粘土鉱物と用土により構成された吸着部材18が取付けられたことを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の無端状のキャリングチェーンに、水路を幅方向に横切るように塵芥を捕捉するスクリーンを備え、
複数のリンク部を無端状に連結し構成される前記キャリングチェーンのブッシュとローラが上下スプロケットホイールの歯に当接し噛み込まれることで、前記キャリングチェーンが前記スクリーンの延在方向に沿って回動する除塵機において、
前記キャリングチェーンに、粘土鉱物と用土により構成された吸着部材が取付けられたことを特徴とする除塵機。
【請求項2】
キャリングチェーンは対面する左右一対のリンクプレートの両端にブッシュとローラを介して無端状に連結され、
前記リンクプレートと、前記リンクプレートの両端にある前記ローラの間において、
前記リンクプレートに吸着部材が脱着自在に取付けられたことを特徴とする請求項1に記載の除塵機。
【請求項3】
キャリングチェーンは対面する左右一対のリンクプレートの両端にブッシュとローラを介して無端状に連結され、
前記リンクプレートと前記ローラで囲まれた空間において、前記左右一対の対面するリンクプレートに対して鉛直方向に一対のディスタンスピースを備え、
前記一対のディスタンスピースの間に、吸着部材が脱着自在に取付けられたことを特徴とする請求項2に記載の除塵機。
【請求項4】
左右一対の無端状のキャリングチェーンの間に流水方向に対向させて設けたスクリーンは、前記キャリングチェーンを構成するリンク部のリンクプレートに固定され、
前記スクリーン上に並べて吸着部材が脱着自在に取付けられたことを特徴とする請求項1又は2に記載の除塵機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川や海などから取水する水路に、流水から塵芥を捕捉するスクリーンを水流方向に対して備えた除塵機に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所などの発電プラントにおいては、河川や海などからの冷却水として使用するために取水設備が配置されている。この取水設備には、流水中に浮遊する塵芥等の異物を捕捉して除去するための除塵機が設置されている。
【0003】
図4には、従来の除塵機100が示してあり、無端状に左右一対のキャリングチェーン102に、水路を左右(幅方向)に横切るようにリンク毎にスクリーン104を備えた網枠を、水流に対して鉛直もしくは傾斜させて取付けた構造をとっている。また、キャリングチェーン102は上下部のスプロケットホイール103A,103Bを介して、スクリーン104を水路の深さ方向に対して上下に回動させている。
【0004】
また、特許文献1に開示のように、除塵機の本体は、水中に浸かっている水中部と、水面より上の水上部がある。水中部と水上部に、それぞれスプロケット(スプロケットホイールに相当)を備えており、これらの上下スプロケットホイールを介して、キャリングチェーンに固定された塵芥捕捉用のバー枠や網枠(スクリーンに相当)が水中部と水上部を行き来して、流水中の塵芥等を捕捉し除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
除塵機のキャリングチェーンを構成する部品であるブッシュは、リンクプレートとローラを介してせん断と曲げを受けるとともに、チェーンがスプロケットとかみ合い衝撃を受け磨耗されやすく、安定な金属表面である不動態皮膜を形成することができない。
その上、長期間、海水等に触れることで、化学的な腐食が加わり、磨耗が加速されて金属の寿命を縮める。さらに、腐食が進行するとブッシュ等の金属材料が減量するため強度の低下を招いてしまう。
これら腐食によって水素が鋼材に吸収されることで水素脆化が起こり、キャリングチェーンのブッシュなどが割れる現象が生じていた。
【0007】
また、他にも貝やフジツボなどの海洋生物が付着することで流路が狭くなり発生する隙間腐食や、酸素濃淡電池が構成されて局部腐食が生じる。これらの海洋生物は、除塵装置の腐食の原因だけでなく、腐敗し有毒な硫化水素を発生させることも問題になっていた。
【0008】
そのため、腐食を防ぐ目的で防食効果のある塗料を塗装する方法や耐食性の高い部品を採用する方法がある。しかし、ブッシュのような除塵装置の内装品において、これらの方法をとるのは適合性や寿命の面などから容易ではない。そこで、除塵装置の安定な運転に支障が出る前に、機器点検作業をおいて、ブッシュ交換もしくはチェーン全体の交換が必要になっていた。部品等の交換に費用がかかるうえ、かなりの手間と時間がかかっていた。
また、防食の他の方法として、犠牲陽極(アルミ陽極など)が複数取付ける方法がある。しかし、定期的(例えば2年毎)に犠牲陽極の交換が必要で、スクリーンフレーム内側に取付けられているものは、スクリーンが取付けられた網枠を取り外さないと交換作業ができないため、事前に地上で網枠を取り外すクレーンなどを用いた大掛かりな作業が必要となる。
このように、どちらの方法も作業の手間と時間がかかっており課題となっていた。
【0009】
そこで本発明では、腐食の原因である塩分濃度を低下させる除塵機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記を解決するために、第1の手段として、左右一対の無端状のキャリングチェーンに、水路を幅方向に横切るように塵芥を捕捉するスクリーンを備え、
複数のリンク部を無端状に連結し構成される前記キャリングチェーンのブッシュとローラが上下スプロケットホイールの歯に当接し噛み込まれることで、前記キャリングチェーンが前記スクリーンの延在方向に沿って回動する除塵機において、
前記キャリングチェーンに、粘土鉱物と用土により構成された吸着部材が取付けられたことを特徴とする除塵機を提供する。
上記第1の手段によれば、粘土鉱物と用土により構成された吸着部材が取付けられたことで塩分を吸着し、塩分濃度を低下させることができる。
【0011】
上記を解決するために、第2の手段として、キャリングチェーンは対面する左右一対のリンクプレートの両端にブッシュとローラを介して無端状に連結され、
前記リンクプレートと、前記リンクプレートの両端にある前記ローラの間において、
前記リンクプレートに吸着部材が脱着自在に取付けられたことを特徴とする第1の手段に記載の除塵機を提供する。
上記第2の手段によれば、粘土鉱物と用土により構成された吸着部材が取付けられたことで塩分を吸着し、塩分濃度を低下させることができる。また、吸着部材は脱着自在に取付けられているため、簡単に脱着可能である。
【0012】
上記を解決するために、第3の手段として、キャリングチェーンは対面する左右一対のリンクプレートの両端にブッシュとローラを介して無端状に連結され、
前記リンクプレートと前記ローラで囲まれた空間において、前記左右一対の対面するリンクプレートに対して鉛直方向に一対のディスタンスピースを備え、
前記一対のディスタンスピースの間に、吸着部材が脱着自在に取付けられたことを特徴とする第2の手段に記載の除塵機を提供する。
上記第3の手段によれば、粘土鉱物と用土により構成された吸着部材が取付けられたことで塩分を吸着し、塩分濃度を低下させることができる。また、吸着部材は脱着自在に取付けられているため、簡単に脱着可能である。
【0013】
上記を解決するために、第4の手段として、左右一対の無端状のキャリングチェーンの間に流水方向に対向させて設けたスクリーンは、前記キャリングチェーンを構成するリンク部のリンクプレートに固定され、
前記スクリーン上に並べて吸着部材が脱着自在に取付けられたことを特徴とする第1又は2の手段に記載の除塵機を提供する。
上記第4の手段によれば、粘土鉱物と用土により構成された吸着部材が取付けられたことで塩分を吸着し、塩分濃度を低下させることができる。また、吸着部材は脱着自在に取付けられているため、簡単に脱着可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、除塵機に吸着部材を取付けることで、周辺の塩分濃度を低下させ、ブッシュなどの腐食防止に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の除塵機のキャリングチェーンの一部を示した図である。
【
図2】本発明の除塵機の実施形態の一部を示した図である。
【
図3】本発明の除塵機を示した側面の簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら、実施形態に係る除塵機20について説明する。
図3に示すように、除塵機20は、左右の上部スプロケットホイール23Aと下部スプロケットホイール23Bを介して無端状のキャリングチェーン12を周回転させており、このキャリングチェーン12に金網が接合したスクリーン14が取水路を横切るように取付けられている。
また、上部スプロケットホイール23Aは地上のハウジング21内に、下部スプロケットホール23Bは取水路の底に設置されている。
【0017】
[キャリングチェーン]
図1は、左右一対のキャリングチェーンのうち一方であり、リンク部が2つ連結したキャリングチェーンの一部を示している。
キャリングチェーン12は、
図1に示すように、一対のリンクプレート13をディスタンスピース17によって架橋しており、一対のリンクプレート13同士をブッシュ15とローラ16で繰り返し接続して構成されている。
また、ローラ16はブッシュ15に内包されているため、キャリングチェーン12の周回転に伴って、ローラ16を起点にしてリンクプレート13は回転自在に動くことができる。ローラ16が上下部スプロケットホイールの歯と噛み合うことで、キャリングチェーン12は周回動して地上と取水路内を行き来している。
【0018】
本実施形態において、
図2に示すように、除塵機のキャリングチェーン12に吸着部材18が取付けられている。
【0019】
図2(a),(b)では、スクリーン14の両側にそれぞれキャリングチェーンが設けられているが、省略して片側のみを示しており、不図示の他方の片側も同じ構造である。キャリングチェーン12は、一対の対面するリンクプレート13に鉛直方向にディスタンスピース17を設け架橋し、一対のリンクプレート13同士をブッシュ15とローラ16で上下へ繰り返し連結することで、無端状に構成されている。それに伴って、スクリーン14も上下へ連続して設けられている。
【0020】
[実施例1]
図2(a)に示すように、キャリングチェーン12は左右一対のリンクプレート13同士を架橋する上下のディスタンスピース17の間に吸着部材18が脱着自在に取付けられる。
例えば、吸着部材18は、左右一対のリンクプレート13に穴をあけてボルトなどにより固定される。
【0021】
[実施例2]
図2(b)に示すように、キャリングチェーン12に設けられたスクリーン14上に並んで吸着部材18が脱着自在に取付けられる。
例えば、吸着部材18は、キャリングチェーン12にスクリーンを固定するためのピン19を利用して、ピン19によって固定される。
【0022】
本実施形態の吸着部材18は脱着自在にボルトやピンなどによって固定して取付けられる。
また本発明は、状況に応じて、実施例1と実施例2で示した実施形態のうち、どちらかを用いても良いし、その両方を組み合わせて用いても良い。
この吸着部材18はキャリングチェーン12の周回転と伴に、地上と取水路内を行き来しているため、地上に吸着部材18があるタイミングで除塵機の運転を停止して点検ドアなどから簡単に交換することが可能である。
【0023】
[吸着部材18が奏する効果]
吸着部材18によれば、除塵機において、腐食の原因になる海水中の塩分濃度を低下させる。したがって、吸着部材18によれば、腐食によるブッシュ15の割れを防ぐことができる。
【0024】
背景として、海水の塩分濃度は約3%で、その塩分は主に塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化カリウム(KCl)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、硫酸カルシウム(CaSO4)であり、なかでも、塩化ナトリウムが最も多く、これらの塩分は海水中では乖離しており、イオン(マイナスイオンとプラスイオン)の状態で存在している。
腐食の原因となる塩分濃度を低下させるためには、これらのイオンを取り除く必要があった。
【0025】
そこで、本発明の吸着部材には、全体に網目もしくはスリット目の入った籠状の容器に、粘土鉱物や用土を詰めて構成することにする。また粘土鉱物にはハイドロタルサイトを、用土には赤玉土や鹿沼土を用いることが好ましい。
また、吸着部材に用いる籠状の容器は、ステンレス製が好ましい。
【0026】
[粘土鉱物の効果]
粘土鉱物としてのハイドロタルサイトは、層状構造を持ちマイナスイオンを層間へトラップする能力を持つことが知られており、そのトラップ能力は、CO3
2->>SO4
2->>OH->F->Cl->Br->NO3
->I-となっており、海水の塩分を構成するマイナスイオンをトラップする能力があることが知られている。
【0027】
[用土の効果]
海水中の塩分を構成するイオンはマイナスイオン量がプラスイオン量の2倍近くあり、効率的に塩分を除去するためには、マイナスイオンをトラップ、吸着する能力を高くする必要がある。
そこで、本発明では、海水中の塩分を構成するプラスイオンだけでなくマイナスイオンも吸着して除去する能力を持つ用土として赤玉土や鹿沼土などを用いる。なお、赤玉土や鹿沼土は、塩分除去の作用を有することが多くの論文で報告されており、Na+、Mg2+,Ca2+,K+,Cl-,SO4
2-を除去することができる。
【0028】
本発明は、マイナスイオンをトラップする能力を持つハイドロタルサイトと、マイナスイオンとプラスイオンを吸着する能力を持つ赤玉土や鹿沼土を併せて使用することで、塩分濃度を低下させ、腐食を防ぐものである。
吸着部材を構成するハイドロタルサイトと赤玉土や鹿沼土の用土の配合比は、ハイドロタルサイト量:用土量=1:1が基本であるが、予め海水の塩分をイオンクロマトグラフィーなどの装置で分析して求め、調整することも可能である。
【0029】
また、吸着部材を構成する物質は、これら粘土鉱物や用土に限らず、塩分を吸着して、塩分濃度を低下させるものであれば使用可能である。
【0030】
さらに、本発明では、塩分以外の腐食の原因である海洋生物の付着による局部腐食を防ぐ効果も期待できる。
局部腐食の原因となる海洋生物は動物性プランクトンを捕食しており、その動物性プランクトンはリンを捕食する。そのため、リンが多い場所には捕食者である動物性プランクトンが集まり、そのうえ動物性プランクトンを捕食するクラゲやフジツボなどの海洋生物が集まってくる。
【0031】
本発明で用いる吸着部材を構成する粘土鉱物や用土として好ましいとする、ハイドロタルサイトと赤玉土、鹿沼土はリンを吸着できることが知られている。
本発明によって、リンを吸着し除去することで、動物性プランクトンを減少させ、動物性プランクトンを捕食しようと集まってくる海洋生物を減らすことが期待できる。また、これによって、貝やフジツボなどが腐敗して生じていた有毒な硫化水素の発生を抑制する効果も期待される。
【0032】
このように本発明では、粘土鉱物と用土を充填させた吸着部材によって課題を解決する。この吸着部材は、一定期間使用した後、交換することができるカートリッジタイプであり、交換は吸着部材が地上にあるタイミングで上部ハウジングの点検ドアを利用して、簡単に交換が可能である。
また、使用後の粘土鉱物や用土は乾燥処理などを行ない融雪材やグランドの土固めとして再利用しても良い。
【0033】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明した。本発明の吸着部材は、キャリングチェーンと接するフレームの水中部に取付けても良い。
上記実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の変更が可能である。
また、本発明は、実施形態において示された組み合わせに限定されることなく、種々の組み合わせによって実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
腐食対策として除塵機以外にも、海水にさらされる橋の躯体などの海洋構造物に本発明の吸着部材を活用できる。
【符号の説明】
【0035】
12 キャリングチェーン
13 リンクプレート
14 スクリーン
15 ブッシュ
16 ローラ
17 ディスタンスピース
18 吸着部材
19 ピン
20 除塵機
21 ハウジング
23A,103A 上部スプロケットホイール
23B,103B 下部スプロケットホイール
100 従来の除塵機
101 ハウジング
102 キャリングチェーン
104 スクリーン