(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068233
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】歯車加工装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/09 20060101AFI20240513BHJP
B23F 5/16 20060101ALI20240513BHJP
B23F 23/12 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
B23Q17/09 B
B23F5/16
B23F23/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178513
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兼田 真照
(72)【発明者】
【氏名】石榑 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】夏田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】宇野 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】米津 寿宏
(72)【発明者】
【氏名】大谷 尚
(72)【発明者】
【氏名】多田 典広
(72)【発明者】
【氏名】阿部 守年
【テーマコード(参考)】
3C025
3C029
【Fターム(参考)】
3C025AA11
3C029DD01
3C029DD11
(57)【要約】
【課題】外周面に複数の刃を有する歯切り工具の寿命を高精度に予測可能な歯車加工装置を提供する。
【解決手段】歯車加工装置1は、外周面に複数の刃を有する歯切り工具により工作物に歯車を創成する加工機械本体を備える。そして、加工機械本体の加工工程に対応するデータが複数連続して含まれる加工中の機械状態データを取得するデータ取得部51と、機械状態データを加工工程に対応する所定期間で分割するデータ分割部53と、分割データから特徴量を抽出する特徴量抽出部54と、特徴量と歯切り工具の摩耗量又は摩耗量関係値とに基づいて摩耗量との相関性の強い成分を主成分とする主成分分析を行う主成分分析部55と、主成分分析の結果に基づいて主成分と歯切り工具の寿命に相関する工具寿命スコアとの対応関係を記憶する対応関係記憶部57と、歯切り工具の上記主成分と上記対応関係とから工具寿命スコアを算出する工具寿命スコア算出部59とを備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に複数の刃を有する歯切り工具と工作物とを同期回転させながら、上記工作物の回転軸線方向に沿って上記歯切り工具を上記工作物に対して相対移動させることにより、上記工作物に歯車を創成する加工機械本体と、
上記加工機械本体にて複数の加工工程が連続して実施された場合において、上記加工工程に対応するデータが複数連続して含まれる加工中の機械状態データを取得するデータ取得部と、
取得された上記機械状態データを上記加工工程に対応する所定期間で分割して分割データを取得するデータ分割部と、
上記分割データから特徴量を抽出する特徴量抽出部と、
上記特徴量と、上記歯切り工具の摩耗量又は該摩耗量に関係する摩耗量関係値とに基づいて、上記摩耗量との相関性の強い成分を主成分とする主成分分析を行う主成分分析部と、
上記主成分分析の結果に基づいて、上記主成分と上記歯切り工具の寿命に相関する工具寿命スコアとの対応関係を記憶する対応関係記憶部と、
上記歯切り工具における上記主成分と、上記対応関係とから上記歯切り工具の上記工具寿命スコアを算出する工具寿命スコア算出部と、を備える歯車加工装置。
【請求項2】
上記データ取得部は、上記歯切り工具を上記工作物に対する複数の加工パスが実施される場合において、上記加工工程に対応する上記加工パスに対応するデータが複数連続して含まれる加工中の上記機械状態データを取得し、
上記データ分割部は、一つの上記加工パスの期間ごとに上記機械状態データを分割し、
上記特徴量抽出部は、上記工作物ごとの上記複数の加工パスにおける同一期間の上記加工パスに基づいて上記特徴量を抽出する、請求項1に記載の歯車加工装置。
【請求項3】
上記データ取得部は、上記機械状態データとして、加工中の上記歯切り工具又は工作物の振動量、位置データ、所定位置に移動させるための動力値、上記歯切り工具における工具すくい面振れ量、再研磨回数、工具外径振れ量、再研磨後の工具諸元、工具コーティングに係る諸元の少なくとも一つを含み、
上記主成分分析部は、上記機械状態データに含まれる少なくともいずれか一つを上記主成分として上記主成分分析を行う、請求項1又は2に記載の歯車加工装置。
【請求項4】
上記工具寿命スコアは、上記歯切り工具における摩耗限界量と、上記歯切り工具における摩耗量との比較結果に基づいて算出される、請求項1又は2に記載の歯車加工装置。
【請求項5】
上記摩耗限界量は、上記歯切り工具における再研磨回数に基づいて規定される、請求項4に記載の歯車加工装置。
【請求項6】
算出された上記工具寿命スコアに基づいて、上記歯切り工具における工具摩耗量、残加工回数、残加工時間、残研磨回数の少なくとも一つを推定する推定部を有する、請求項1又は2に記載の歯車加工装置。
【請求項7】
上記特徴量は、上記歯切り工具における工具軸方向の負荷のバラつき量と、上記歯切り工具における工具軸の振動量を周波数変換したデータを少なくとも含んでいる、請求項1又は2に記載の歯車加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、工具により工作物を加工する加工装置において、工具交換時期を最適化するために、加工装置の状態データを説明変数とし、工具の寿命までの残加工回数を目的変数とする学習済みモデルを用いて、工具の残加工回数を予測する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、外周面に複数の刃を有する歯切り工具により工作物に歯車を創成する歯車加工装置では、当該工具は高価であることから、工具が寿命に到達する前に工具を交換すると工具費用に大きな無駄が生じる。そのため、当該工具の寿命予測にはより高い精度が要求される。かかる観点から、特許文献1に開示の構成では、このような歯車創成用の工具の寿命予測に特化したものとはなっておらず、予測精度を一層高めるには改善の余地がある。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、外周面に複数の刃を有する歯切り工具の寿命を高精度に予測可能な歯車加工装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、外周面に複数の刃を有する歯切り工具と工作物とを同期回転させながら、上記工作物の回転軸線方向に沿って上記歯切り工具を上記工作物に対して相対移動させることにより、上記工作物に歯車を創成する加工機械本体と、
上記加工機械本体にて複数の加工工程が連続して実施された場合において、上記加工工程に対応するデータが複数連続して含まれる加工中の機械状態データを取得するデータ取得部と、
取得された上記機械状態データを上記加工工程に対応する所定期間で分割して分割データを取得するデータ分割部と、
上記分割データから特徴量を抽出する特徴量抽出部と、
上記特徴量と、上記歯切り工具の摩耗量又は該摩耗量に関係する摩耗量関係値とに基づいて、上記摩耗量との相関性の強い成分を主成分とする主成分分析を行う主成分分析部と、
上記主成分分析の結果に基づいて、上記主成分と上記歯切り工具の寿命に相関する工具寿命スコアとの対応関係を記憶する対応関係記憶部と、
上記歯切り工具における上記主成分と、上記対応関係とから上記歯切り工具の上記工具寿命スコアを算出する工具寿命スコア算出部と、を備える歯車加工装置にある。
【発明の効果】
【0007】
上記歯車加工装置においては、歯車加工装置における加工中の機械状態データを取得し、加工工程に対応する所定期間で分割して分割データを作成したうえで、当該分割データから特徴量を抽出し、特徴量と歯切り工具の摩耗量又は摩耗量関係値とに基づいて摩耗量との相関性の強い主成分を分析した分析結果に基づいて、主成分と歯切り工具の寿命に相関する工具寿命スコアとの対応関係を記憶する。そして、歯切り工具における上記主成分と、上述の対応関係とから当該工具の工具寿命スコアを算出する。このように、工具寿命スコアを算出するための上記対応関係における特徴量は、機械状態データから分割された分割データから抽出されたものであるため、より高精度に歯切り工具の寿命を予測することができる。
【0008】
以上のごとく、上記態様によれば、外周面に複数の刃を有する歯切り工具の寿命を高精度に予測可能な歯車加工装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1における、歯車加工装置の構成を示す概念図。
【
図2】実施形態1における、加工する状態における工作物とギヤスカイビングカッタとを示す図であって、工作物の軸方向から見た図。
【
図4】実施形態1における、歯車加工装置の一部構成についての機能ブロック図。
【
図5】実施形態1における、歯車加工装置のおける機械状態データの例を示す図。
【
図6】実施形態1における、(a)特徴量の一例を示す図、(b)特徴量の他の例を示す図。
【
図7】実施形態1における、歯切り工具の摩耗量を示す概念図。
【
図8】実施形態1における、主成分分析結果を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
1.歯車加工装置1の構成
実施形態1の歯車加工装置1について
図1を参照して説明する。歯車加工装置1は、歯切り工具Tと工作物Wとを回転させながら相対移動させることにより、歯切り工具Tによって工作物Wに歯形(歯車の歯)を創成加工する装置である。特に、本形態においては、歯車加工装置1は、工作物Wの内周面に内歯を創成する場合を例に挙げる。
【0011】
本形態においては、歯車加工装置1は、汎用的な工作機械、例えば、マシニングセンタを適用する。マシニングセンタは、工具交換可能に構成されており、装着された工具に応じた加工が可能である。例えば、交換可能な歯切り工具Tとしては、ギヤスカイビングカッタやホブカッタなどがある。ギヤスカイビングカッタに交換されることで、歯車加工装置1は、ギヤスカイビング加工により、工作物Wに歯形(歯車の歯)を加工する装置となる。ホブカッタに交換することで、歯車加工装置1は、ホブ加工により工作物Wに歯形(歯車の歯)を加工する装置となる。なお、
図1においては、工具交換装置および複数の工具を収容する工具マガジンは図示しない。
【0012】
また、本形態においては、歯車加工装置1としてのマシニングセンタは、横形マシニングセンタを基本構成とする。ただし、歯車加工装置1は、立形マシニングセンタなど、他の構成を適用することもできる。
【0013】
図1に示すように、歯車加工装置1は、例えば、相互に直交する3つの直進軸(X軸、Y軸、Z軸)を駆動軸として有する。ここで、歯切り工具Tの回転軸線(工具主軸の回転軸線に等しい)の方向をZ軸方向と定義し、Z軸方向に直交する2軸をX軸およびY軸と定義する。
図1においては、水平方向をX軸方向とし、鉛直方向をY軸方向とする。
【0014】
さらに、歯車加工装置1は、工作物Wと歯切り工具Tとの相対姿勢を変更するための1つの回転軸(B軸)を駆動軸として有する。本形態において、B軸は、Y軸方向に平行な軸線を回転中心とする回転軸である。また、歯車加工装置1は、歯切り工具Tを回転するための回転軸としてのCt軸、および、工作物Wを回転するための回転軸としてのCw軸を有する。Ct軸は、Z軸方向に平行な軸線を回転中心とする回転軸である。Cw軸は、B軸を基準角度とした状態において、Z軸方向に平行な軸線を回転中心とする回転軸である。
【0015】
歯車加工装置1において、工作物Wと歯切り工具Tとを相対移動させる構成は、適宜選択可能である。例えば、歯車加工装置1は、B軸に代えて、X軸方向を回転中心とするA軸を有する構成としても良い。以下においては、歯車加工装置1は、歯切り工具TをY軸方向およびZ軸方向に直動可能とし、工作物WをX軸方向に直動可能とし、さらに工作物WをB軸に回転可能とする場合を例にあげる。
【0016】
歯車加工装置1は、加工機械本体を構成する、ベッド10、工作物保持装置20、工具保持装置30、及び制御装置40を備える。歯車加工装置1は、加工機械本体10、20、30、40に加えて、予測システム50を備える。歯車加工装置1の加工機械本体を構成する各要素について説明する。
【0017】
ベッド10は、設置面上に設置され、工作物保持装置20の形状および工具保持装置30の形状などに応じた形状に形成される。本形態においては、ベッド10は、例えば、矩形状とする。ベッド10の上面には、X軸方向に延在する一対のX軸ガイドレール11、および、Z軸方向に延在する一対のZ軸ガイドレール12が形成されている。
【0018】
工作物保持装置20は、工作物Wをベッド10に対して、X軸方向に直動し、B軸に回転可能とし、Cw軸に回転可能とする。工作物保持装置20は、X軸移動テーブル21、B軸回転テーブル22、工作物主軸装置23を主に備える。
【0019】
X軸移動テーブル21は、後述のX軸用移動装置41によってベッド10のX軸ガイドレール11に案内されながらX軸方向へ移動する。B軸回転テーブル22は、X軸移動テーブル21の上面に設置され、X軸移動テーブル21と一体的にX軸方向へ移動する。また、B軸回転テーブル22には後述の回転装置44が接続されており、B軸回転テーブル22は回転装置44を介してB軸に回転可能となる。
【0020】
工作物主軸装置23は、B軸回転テーブル22に設けられ、B軸回転テーブル22と一体的にB軸回転する。工作物主軸装置23は、工作物Wを回転可能に保持する。工作物主軸装置23には、図示しない回転モータが収納され、工作物主軸装置23は、回転モータの駆動により工作物WをCw軸に回転可能とする。このようにして、工作物保持装置20は、工作物Wを、ベッド10に対して、X軸方向へ移動可能とし、B軸およびCw軸に回転可能とする。
【0021】
詳細には、工作物主軸装置23は、ハウジング23aと主軸23bとを備える。工作物主軸装置23のハウジング23aがB軸回転テーブル22に固定され、工作物主軸装置23の主軸23bがハウジング23aに回転可能に支持されている。この主軸23bの先端に、工作物Wが取り付けられている。つまり、工作物Wは、工作物主軸装置23の主軸23bに片持ち支持されている。
【0022】
工具保持装置30は、コラム31、サドル32、工具主軸装置33、センサ34、35を主に備える。コラム31は、後述のZ軸用移動装置43によってベッド10のZ軸ガイドレール12に案内されながらZ軸方向へ移動する。コラム31の上下方向に延びる面(
図1の左面)には、Y軸ガイドレール31aが形成されている。サドル32は、図示しないリニアモータまたはボールねじ機構などの駆動装置によって駆動されることにより、コラム31のY軸ガイドレール31aに案内されながらY軸方向へ移動する。
【0023】
工具主軸装置33は、サドル32に設けられると共に、サドル32と一体的にY軸方向へ移動する。工具主軸装置33は、歯切り工具Tを保持する。工具主軸装置33には、図示しない回転モータが収納され、工具主軸装置33は、回転モータの駆動により歯切り工具TをCt軸に回転可能とする。このようにして、工具保持装置30は、歯切り工具Tを、ベッド10に対して、Y軸方向およびZ軸方向に移動可能とし、かつ、Ct軸に回転可能に保持する。
【0024】
詳細には、工具主軸装置33は、ハウジング33aと主軸33bとを備える。工具主軸装置33のハウジングがサドル32に固定され、工具主軸装置33の主軸33bがハウジング33aに回転可能に支持されている。この主軸33bの先端に、歯切り工具Tが取り付けられている。つまり、歯切り工具Tは、工具主軸装置33の主軸33bに片持ち支持されている。
【0025】
センサ34は、工作物主軸装置23のハウジング23aに設けられる。本実施形態1では、センサ34は、加速度センサからなり、工作物主軸装置23の振動を検出するように構成されている。センサ35は、工具主軸装置33のハウジング33aに設けられる。本実施形態1では、センサ35は加速度センサからなり、工具主軸装置33の振動を検出するように構成されている。センサ35は、サドル32に設けても良い。
【0026】
X軸用移動装置41は、ベッド10に対してX軸移動テーブル21をX軸方向に移動するための駆動装置である。Y軸用移動装置42は、コラム31に対してサドル32をY軸方向に移動するための駆動装置である。また、Z軸用移動装置43は、ベッド10に対してコラム31をZ軸方向に移動するための駆動装置である。本形態においては、各軸用移動装置41~43は、リニアモータまたはボールねじ機構などの駆動機構により構成される。回転装置44は、工作物Wと歯切り工具Tとの姿勢を変更するための移動装置である。本形態においては、回転装置44は、X軸移動テーブル21に対してB軸回転テーブル22をB軸に回転するための回転モータを含む。
【0027】
制御装置40は、演算処理装置(プロセッサ)および記憶装置を備えており、加工プログラムを実行することにより、各駆動装置を制御する。つまり、制御装置40は、歯切り工具Tの回転、工作物Wの回転、工作物Wと歯切り工具Tとの相対的な移動を制御する。そして、制御装置40は、工作物Wに歯車の歯を加工するために、工作物主軸装置23と工具主軸装置33とを同期して回転制御しながら、各駆動装置を制御する。
【0028】
詳細には、制御装置40は、歯切り工具Tの回転軸線Ctを、工作物Wの回転軸線Cwに平行な軸線に対して図示しない軸交差角を有する状態とする。本形態においては、制御装置40がB軸回転テーブル22を回転することにより、工作物Wと歯切り工具Tとが軸交差角を有する状態に位置決めする。そして、制御装置40は、工作物Wと歯切り工具Tとを同期回転させながら、工作物Wに対して歯切り工具Tを工作物Wの軸方向に相対移動させることにより、工作物Wの内周面に内歯を創成する。
【0029】
2.歯切り工具TとしてのギヤスカイビングカッタTaの構成
歯切り工具TとしてのギヤスカイビングカッタTaの構成について
図2、
図3を参照して説明する。ギヤスカイビングカッタTaは、工作物Wの内周面に内歯を創成するための工具である。ギヤスカイビングカッタTaは、工具主軸装置33の主軸33b(
図1に示す)に装着され、主軸33bと一体的に回転する。ギヤスカイビングカッタTaは、複数の切刃T1と、主軸装着部T2とを備える。ギヤスカイビングカッタTaは、主軸装着部T2を介して主軸33bに接続される。
【0030】
複数の切刃T1は、ギヤスカイビングカッタTaの外周面(歯切り工具Tの外周面に相当)に形成されており、工作物Wの内周面を加工するための刃である。複数の切刃T1は、ギヤスカイビングカッタTaの周方向に配列されている。本形態においては、複数の切刃T1は、周方向に等間隔に形成されている場合を例に挙げるが、欠刃を設けることにより不等間隔に形成されるようにしても良い。本実施形態1では、切刃T1は合計21個備えられる。
【0031】
複数の切刃T1は、ギヤスカイビングカッタTaの回転軸線Ctに対して、正または負のねじれ角を有するように形成される場合、平行に形成される場合(ねじれ角ゼロの場合)がある。切刃T1のねじれ角は、工作物Wの内歯のねじれ角、加工条件のうち工作物Wの回転軸線CwとギヤスカイビングカッタTaの回転軸線Ctとの軸交差角などによって決定される。
【0032】
複数の切刃T1のそれぞれは、ギヤスカイビングカッタTaの軸方向端面をすくい面T1aとし、ギヤスカイビングカッタTaの外周面を前逃げ面T1bとし、ギヤスカイビングカッタTaの周方向に法線を有する面を側逃げ面T1cとする。本形態においては、切刃T1のすくい面T1aは、正のすくい角を有するように形成されているが、任意のすくい角を有するように設定可能である。
【0033】
切刃T1の前逃げ面T1bは、ギヤスカイビングカッタTaの回転軸線Ctに対して傾斜するように、すなわち円錐面上に位置するように形成されている。つまり、切刃T1の前逃げ面T1bは、正の前逃げ角を有する。ただし、切刃T1の前逃げ面T1bは、ギヤスカイビングカッタTaの回転軸線Ctに平行に、すなわち円筒面上に位置するように形成しても良い。つまり、複数の切刃T1の外接面は、円錐面に形成されるようにしても良いし、円筒面に形成されるようにしても良い。切刃T1の側逃げ面T1cは、切刃T1の歯すじ方向に対して傾斜するように形成されている。つまり、切刃T1の側逃げ面T1cは、正の側逃げ角を有する。
【0034】
以下において、ギヤスカイビングカッタTaの軸方向において、切刃T1のすくい面T1aの側(
図2の左側)を前方とし、切刃T1のすくい面T1aの裏面側(
図2の右側)を後方とする。
【0035】
3.ギヤスカイビング加工
歯切り工具TとしてギヤスカイビングカッタTaを適用した場合に、ギヤスカイビングカッタTaにより工作物Wの内周面に内歯を創成するギヤスカイビング加工について、
図2及び
図3を参照して説明する。制御装置40の制御により、
図2に示すように、ギヤスカイビングカッタTaの回転軸線Ctと、工作物Wの回転軸線Cwとが、軸交差角を有する状態とする。さらに、制御装置40の制御により、工作物WとギヤスカイビングカッタTaとを同期回転させながら、工作物Wに対してギヤスカイビングカッタTaを工作物Wの軸方向に相対移動させる。このようにして、工作物Wの内周面に内歯が創成される。
【0036】
4.予測システム50の構成
図1に示すように、歯車加工装置1は、加工機械本体10、20、30、40に加えて、予測システム50を備える。予測システム50について
図4を参照して説明する。予測システム50は、歯切り工具Tの寿命予測を行う。特に、本形態においては、予測システム50は、歯切り工具TとしてのギヤスカイビングカッタTaの寿命予測を行う。
【0037】
予測システム50は、
図4に示すように、データ取得部51、データ記憶部52、データ分割部53、特徴量抽出部54、主成分分析部55、対応関係作成部56、対応関係記憶部57、予測用データ取得部58、工具寿命スコア算出部59、推定部60を備える。
【0038】
データ取得部51は、歯車加工装置1の加工機械本体10、20、30、40における加工中の機械状態データを取得する。機械状態データは、加工中の上記歯切り工具又は工作物の振動量、位置データ、所定位置に移動させるための移動装置41~44の動力値、歯切り工具Tにおける工具すくい面振れ量、再研磨回数、外径振れ量、再研磨後の工具諸元、工具コーティングに係る諸元の少なくとも一つを含む。
【0039】
加工中の上記歯切り工具又は工作物の振動量は、工作物主軸装置23や工具主軸装置33に設けられたセンサ34、35により取得できる。加工中の歯切り工具T又は工作物Wの位置データは工作物主軸装置23や工具主軸装置33における各軸の位置データとすることができる。加工中の上記歯切り工具T又は工作物Wを所定位置に移動させるための動力値は、工作物主軸装置23や工具主軸装置33における各軸用の移動装置(図示せず)における電流値とすることができる。
【0040】
また、工具すくい面振れ量は、歯切り工具Tの回転中におけるすくい面T1a(
図3参照)の振れ量をさす。工具外径振れ量は歯切り工具Tの回転中における歯切り工具Tの最外径位置の振れ量をさす。再研磨回数は、歯切り工具Tの交換タイミングに到達した歯切り工具Tを研磨して再使用可能な状態にした回数をさす。再研磨後の工具諸元は、再研磨後における歯切り工具Tの外径、すくい面T1aの大きさ、刃付け角度など、歯切り工具Tにおける各種機械データをさす。工具コーティングに係る諸元は歯切り工具Tに設けられたコーティングの厚さなどの値をさす。
【0041】
データ取得部51で取得される加工中の機械状態データは、所定の加工工程のデータが複数回連続した状態で取得される。所定の加工工程は、例えば、1回の加工パスとする。本実施形態1においては、複数の工作物Wが連続して加工される場合とする。従って、データ取得部51で取得される加工中の機械状態データは、各工作物Wを加工したときのデータが連続したデータとなる。
【0042】
さらに、本実施形態1においては、一つの工作物Wが複数の加工パスにより加工される場合とする。1回の加工パスは、歯切り工具Tを工作物Wの軸方向への移動において、移動開始位置から移動終了位置までの移動経路である。従って、一つの工作物Wが複数の加工パスにより加工されるため、データ取得部51が取得する一つの工作物Wの加工中の機械状態データは、各加工パスのデータが連続したデータとなる。
【0043】
複数の加工パスは、例えば、荒加工に相当する第1パス、仕上げ加工に相当する第2パスを含んでいてもよいし、荒加工又は仕上げ加工を複数の加工パスで構成してもよい。本実施形態1では、
図5(a)~(d)に示すように、機械状態データは、荒加工に相当する第1パスの機械状態データと仕上げ加工に相当する第2パスの機械状態データとを連続状態で含んでいる。なお、本実施形態1では、4種の歯切り工具Tについて機械状態データを取得した。
【0044】
本実施形態1においては、所定の加工工程を1回の加工パスとする場合には、データ取得部51で取得される加工中の機械状態データは、第1の工作物Wの第1パスのデータ、第1の工作物Wの第2パスのデータ、第2の工作物Wの第1パスのデータ、第2の工作物Wの第2パスのデータ、・・・が連続したデータとなる。これに代えて、所定の加工工程を一つの工作物Wの加工としてもよい。
【0045】
データ分割部53は、機械状態データを、所定の加工工程に対応する所定期間に分割する。本実施形態1では、所定の加工工程を、1回の加工パスとする。従って、データ分割部53は、複数の加工パスでのデータが連続された機械状態データを取得し、機械状態データを加工パスごとに分割した分割データを取得する。なお、これに替えて、データ分割部53は、工作物単位で分割して分割データを取得することとしてもよい。
【0046】
特徴量抽出部54は、分割データから特徴量を抽出する。特徴量は、分割データから算出された所定の統計量とすることができ、例えば、分割データの平均値、標準偏差、分散、RMS(二乗平均)、ピーク値などとすることができる。また、特徴量は、工作物ごとの複数の加工パスにおける同一期間の加工パスを収集して上記特徴量を抽出することができる。本実施形態1では、4個の歯切り工具Tにおける特徴量として、
図6(a)に示す第1パスにおけるZ軸電流RMS値、
図6(b)に示す第1パスにおける主軸振動FFTピーク値を例示できる。
図6(a)に示す第1パスにおけるZ軸電流RMS値は、歯切り工具Tにおける工具軸方向Zの負荷のバラつき量を示している。また、
図6(b)に示す第1パスにおける主軸振動FFTピーク値は、工具軸Ctの振動量を周波数変換したデータである。
【0047】
図4に示す主成分分析部55は、特徴量と、歯切り工具Tの摩耗量又は該摩耗量に関係する摩耗量関係値とに基づいて、摩耗量との相関性の強い主成分を分析する。歯切り工具Tの摩耗量は、使用済みの歯切り工具Tを測定して取得した実測値とすることができる。また、摩耗量に関係する摩耗量関係値として、予め作成した理論モデルや理論式に基づいて算出した値を用いることができる。主成分分析部55による主成分分析を行うことにより、取得された特徴量の次元数を削減することができる。
【0048】
図4に示す対応関係作成部56は、主成分分析の結果に基づいて、上記主成分と歯切り工具Tの寿命に相関する工具寿命スコアとの対応関係を作成する。工具寿命スコアは、例えば、摩耗量、加工回数、加工時間などとすることができる。例えば、本実施形態1では、対応関係作成部56は、主成分分析(一元化)の結果として、
図8に示す加工回数と工具の予測寿命値との対応関係を作成する。作成された対応関係は、対応関係記憶部57に記憶される。
【0049】
図4に示す予測用データ取得部58は、寿命予測を行う対象となる歯切り工具Tにおける主成分を取得する。予測用データ取得部58において取得される主成分は、寿命予測を行う対象となる歯切り工具Tにおいて上述の主成分分析部55で取得される主成分と同様とすることができる。
【0050】
図4に示す工具寿命スコア算出部59は、歯切り工具Tについて取得された主成分と、上記対応関係とから寿命予測の対象である歯切り工具Tの工具寿命スコアを算出する。また、工具寿命スコアは、歯切り工具における摩耗限界量と、歯切り工具Tにおける摩耗量との比較結果に基づいて算出することができる。そして、摩耗限界量は、歯切り工具Tにおける再研磨回数に基づいて規定することができる。例えば、摩耗限界量は、再研磨許容範囲内の厚さから当該再研磨により取り除かれた厚さを差し引いた値とすることができる。
【0051】
推定部60は、工具寿命スコア算出部59により算出された工具寿命スコアに基づいて、歯切り工具Tにおける工具摩耗量、残加工回数、残加工時間、残研磨回数の少なくとも一つを推定する。本実施形態1では、推定部60は、
図8に示す対応関係において、工具寿命スコアとしての予測寿命値と閾値Lとの差分に基づいて残加工回数N1~N3として推定する。また、残摩耗量P1~P3を推定することもできる。推定結果は表示部61に表示される。
【0052】
5.歯切り工具Tの寿命予測
歯車加工装置1における、歯切り工具Tの寿命予測について以下に述べる。まず、データ取得部51により、歯車加工装置1の加工中の機械状態データを取得する。本実施形態1では、例えば、
図5(a)~(d)に示すように、Z軸電流値、Cw軸電流値、Ct軸電流値、主軸振動を取得する。Z軸電流値はZ軸用移動装置43における駆動電流の値である。Cw軸電流値は、工作物主軸装置23に備えられた工作物WをCw軸中心に回転させるためのモータの駆動電流の値である。Ct軸電流値は工具主軸装置33に備えられた歯切り工具TをCt軸中心に回転させるためのモータの駆動電流の値である。主軸振動は、センサ35における振動センサの出力のFFT値である。なお、本実施形態1では、データ取得部51は工具諸元入力部36を介して歯切り工具Tの工具諸元も取得する。また、本実施形態1では言及しないが、データ取得部51はセンサ34により検出された工作物主軸装置23の振動を取得することとしてもよい。取得された各種データはデータ記憶部52に記憶される。
【0053】
次に、データ分割部53により、機械状態データを所定期間で分割する。本実施形態1では、例えば、
図5(a)~(d)に示すように、第1パスと第2パスに分割した分割データを所得する。その後、特徴量抽出部54により、分割データから特徴量を抽出する。本実施形態1では、特徴量は、例えば、
図6(a)に示す第1パスのZ軸電流RMS値や、
図6(b)に示す第2パスの主軸振動FFTのピーク値である。なお、本実施形態1では、4種の歯切り工具T(第1~第4工具)について特徴量を抽出した。
【0054】
次いで、主成分分析部55により、特徴量と歯切り工具Tの摩耗量又は該摩耗量に関係する摩耗量関係値とに基づいて、摩耗量との相関性の強い成分を主成分とする主成分分析を行う。本実施形態1において、歯切り工具Tの摩耗量は、
図7に示すように、歯切り工具Tに備えられた21個の切刃T1の各摩耗量を測定した実測値として取得することができる。そして、対応関係作成部56により、主成分分析の結果に基づいて、上記主成分と歯切り工具Tの寿命に相関する工具寿命スコアとの対応関係を作成する。本実施形態1では、主成分分析部55による主成分分析の結果は、例えば、
図8に示すように、予測寿命値と加工回数との対応関係として表される。作成された対応関係は対応関係記憶部57に記憶される。
【0055】
そして、寿命予測の対象である歯切り工具Tについて上述のデータ取得部51、データ分割部53、特徴量抽出部54及び主成分分析部55を介して取得された主成分を予測用データ取得部58が取得し、当該主成分と、対応関係記憶部57に記憶された対応関係とから寿命予測の対象である歯切り工具Tの工具寿命スコアを算出する。本実施形態1では、歯切り工具Tの工具寿命スコアは、
図8に示すように加工回数に応じた予測寿命値として算出される。
【0056】
推定部60により、工具寿命スコアとしての予測寿命値と摩耗量限界である閾値Lとの比較結果から、例えば、工具摩耗量、残加工回数、残加工時間を推定し、推定結果を表示部61に表示する。本実施形態1では、
図8に示すように、閾値Lに到達していない第1~第3工具では残加工回数はP1~P3と推定される。一方、閾値Lに到達している第4工具では残加工回数は推定されない。
【0057】
6.作用効果
以下、本実施形態1の歯車加工装置1における作用効果について述べる。歯車加工装置1では、歯車加工装置1における加工中の機械状態データを取得し、加工工程に対応する所定期間で分割して分割データを作成したうえで、当該分割データから特徴量を抽出し、特徴量と歯切り工具Tの摩耗量又は摩耗量関係値とに基づいて摩耗量との相関性の強い主成分を分析した分析結果に基づいて、主成分と歯切り工具Tの寿命に相関する工具寿命スコアとの対応関係を記憶する。そして、歯切り工具Tにおける上記主成分と、上述の対応関係とから当該工具Tの工具寿命スコアを算出する。このように、工具寿命スコアを算出するための上記対応関係における特徴量は、機械状態データから分割された分割データから抽出されたものであるため、より高精度に歯切り工具Tの寿命を予測することができる。
【0058】
本実施形態1では、データ取得部51は、歯切り工具Tを工作物Wに対する複数の加工パスが実施される場合において、加工工程に対応する加工パスに対応するデータが複数連続して含まれる加工中の上記機械状態データを取得する。そして、データ分割部53は、一つの加工パスの期間ごとに機械状態データを分割し、特徴量抽出部54は、工作物Wごとの複数の加工パスにおける同一期間の加工パスに基づいて特徴量を抽出する。これにより、歯切り工具Tの寿命の予測精度を一層向上することができる。
【0059】
また、本実施形態1では、データ取得部51は、機械状態データとして、加工中の歯切り工具T又は工作物Wの振動量、位置データ、所定位置に移動させるための動力値、上記歯切り工具における工具すくい面振れ量、再研磨回数、工具外径振れ量、再研磨後の工具諸元、工具コーティングに係る諸元の少なくとも一つを含む。そして、主成分分析部55は、上記機械状態データに含まれる少なくともいずれか一つを上記主成分として主成分分析を行う。これにより、歯切り工具Tの寿命の予測精度を一層向上することができる。
【0060】
また、本実施形態1では、工具寿命スコアは、歯切り工具Tにおける摩耗限界量と、歯切り工具Tにおける摩耗量との比較結果に基づいて算出される。これにより、歯切り工具Tの寿命の予測精度を一層向上することができる。
【0061】
また、本実施形態1では、上記摩耗限界量は、上記歯切り工具における再研磨回数に基づいて規定される。これにより、歯切り工具Tの摩耗限界量を最適化でき、歯切り工具Tの寿命の予測精度を一層向上することができる。
【0062】
また、本実施形態1では、算出された工具寿命スコアに基づいて、歯切り工具Tにおける工具摩耗量、残加工回数、残加工時間、残研磨回数の少なくとも一つを推定する推定部60を有する。これにより、歯切り工具Tにおける工具摩耗量、残加工回数、残加工時間、残研磨回数の少なくとも一つを高精度に推定することができる。
【0063】
また、本実施形態1では、特徴量は、歯切り工具Tにおける工具軸方向の負荷のバラつき量と、工具軸Ctの振動量を周波数変換したデータを少なくとも含んでいる。これにより、歯切り工具Tの寿命の予測精度を一層向上することができる。
【0064】
なお、本実施形態1における歯切り工具Tの摩耗量に基づいて、歯車加工装置1における加工品質の異常検知や、当該歯車加工装置1における劣化予測を行うことができる。また、歯切り工具Tの摩耗量に応じて良品工具の条件解析を行って工具品質の向上を図ることもできる。
【0065】
以上のごとく、上記態様によれば、外周面に複数の刃を有する歯切り工具Tの寿命を高精度に予測可能な歯車加工装置1を提供することができる。
【0066】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 歯車加工装置
23 工作物主軸装置
33 工具主軸装置
34、35 センサ
50 予測システム
51 データ取得部
52 データ記憶部
53 データ分割部
54 特徴量抽出部
55 主成分分析部
57 対応関係記憶部
59 工具寿命スコア算出部
60 推定部
61 表示部
T 歯切り工具
W 工作物