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特開2024-68241がんの予防または治療剤及び医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068241
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】がんの予防または治療剤及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/17 20150101AFI20240513BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
A61K35/17
A61P35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178538
(22)【出願日】2022-11-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度国立研究開発法人日本医療研究開発機構「次世代がん医療創生研究事業 ゲノム異常を有する腫瘍浸潤リンパ球の1細胞解析方法の開発とその臨床的意義の解明」、令和4年度国立研究開発法人日本医療研究開発機構「革新的がん医療実用化研究事業 腫瘍微小環境のミトコンドリア異常に基づく新規バイオマーカー及び治療開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(71)【出願人】
【識別番号】510097747
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立がん研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨樫 庸介
(72)【発明者】
【氏名】河津 正人
【テーマコード(参考)】
4C087
【Fターム(参考)】
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB26
(57)【要約】
【課題】がんの高い治療有効性と長期にわたって抗腫瘍効果を発現することができるがんの予防または治療剤及び医薬組成物を提供する。
【解決手段】リンパ節由来のリンパ球を含む、がんの予防または治療剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンパ節由来のリンパ球を含む、がんの予防または治療剤。
【請求項2】
前記リンパ球が腫瘍特異的リンパ球である、請求項1に記載のがんの予防または治療剤。
【請求項3】
前記リンパ球は、JunD及び/又はMBD2を高発現している、請求項1に記載のがんの予防または治療剤。
【請求項4】
前記リンパ球は、少なくとも1種のミトコンドリア関連因子を高発現している、請求項1に記載のがんの予防または治療剤。
【請求項5】
前記ミトコンドリア関連因子は、PGC1α及びNFR2からなる群から選ばれる、請求項4に記載のがんの予防または治療剤。
【請求項6】
前記リンパ球がミトコンドリアDNA(mtDNA)変異を有しない、請求項1に記載のがんの予防または治療剤。
【請求項7】
リンパ節由来のリンパ球を含む、がんの予防または治療用の医薬組成物。
【請求項8】
前記リンパ球が腫瘍特異的リンパ球である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記リンパ球は、JunD及び/又はMBD2を高発現している、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記リンパ球は、少なくとも1種のミトコンドリア関連因子を高発現している、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記ミトコンドリア関連因子は、PGC1α及びNFR2からなる群から選ばれる、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記リンパ球がミトコンドリアDNA(mtDNA)変異を有しない、請求項7に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんの予防または治療剤及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗PD-1抗体に代表される免疫チェックポイント阻害剤(ICI)が臨床応用されているが、その効果は満足のいくものではない(非特許文献1:冨樫.実験医学増刊2020)。ICIは腫瘍を直接攻撃するT細胞(腫瘍特異的T細胞)を活性化している治療であり、本質的には腫瘍と直接対峙している腫瘍浸潤リンパ球(TIL)が重要と考えられてきた。今まで抗PD-1抗体に組み合わせて多くの治験が行われてきたが、現状は劇的な上乗せ効果は報告されていない。特に腫瘍特異的T細胞がTILに存在しない場合にはT細胞を含め免疫活性化に関わる類似薬剤の上乗せ効果が乏しいことがわかってきている。
【0003】
そのような場合には外から攻撃する細胞を入れる細胞療法が注目されている。特に血液腫瘍領域ではCAR-T細胞療法が承認され(非特許文献2:Schuster SJ, et al. NEJM 2018)、固形癌領域でも試みがある。腫瘍に反応するT細胞受容体(TCR)を用いるTCR-T細胞療法もあり、一部の抗原では開発が進んでいる(非特許文献3:Ikeda H, et al. Int Immunol 2016)。また、自己のTILを体外で増やして戻すTIL療法が副作用も少なく、ICI耐性の症例でも海外を中心に有効性が報告され(非特許文献4:Tran E, et al. Science 2015; 非特許文献5:Zacharakis N, et al. Nat Med 2018)、TIL療法を行うIovanceというベンチャー企業も海外にはあり大規模に資金を集め開発が行われているが、本邦ではほとんど取り組まれていない。
【0004】
CAR-T細胞療法に関しては特異的抗原が限られており副作用の問題も大きく、現状は血液腫瘍のみで固形癌への適応は広がっていない。TCR-T細胞療法も現状は抗原が非常に限られてしまっている。また、固形癌では特に抑制性の腫瘍微小環境が細胞療法の効果を落としている可能性が指摘されており、それを改変するような試みもある(非特許文献6:Adachi K, et al. Nat Biotech 2018)。TIL療法に関しては自己のTILを使用するため副作用は少ないが、TILを増やす手間がかかること、腫瘍特異的T細胞が増えないと効果ない、その成功率、といった問題点が存在する(非特許文献7:Ikeda H, et al. Int Immunol 2016)。特に、どのようなTILが増殖してくるかによって効果が異なるとされているが、増殖過程は不明な点が多い。
【0005】
本発明者らは先行研究で腫瘍微小環境の代謝・老化の重要性を示したが(非特許文献8:冨樫ら、Immunity 2020)、細胞療法の問題点として、分化・老化した細胞では長期生存できず、がんが早期再発してしまう可能性が報告されている(非特許文献9:Krishna S, et al. Science 2020)。そこで長期生存が期待できる細胞として、iPS細胞から作る方法などが考案されている。一方で自己のTILの中では、もともとそのような細胞は少ないという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】冨樫.実験医学増刊2020
【非特許文献2】Schuster SJ, et al. NEJM 2018
【非特許文献3】Ikeda H, et al. Int Immunol 2016
【非特許文献4】Tran E, et al. Science 2015
【非特許文献5】Zacharakis N, et al. Nat Med 2018
【非特許文献6】Adachi K, et al. Nat Biotech 2018
【非特許文献7】Ikeda H, et al. Int Immunol 2016
【非特許文献8】冨樫ら、Immunity 2020
【非特許文献9】Krishna S, et al. Science 2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、がんの高い治療有効性と長期にわたって抗腫瘍効果を発現することができるがんの予防または治療剤及び医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のがんの予防または治療剤及び医薬組成物を提供するものである。
〔1〕リンパ節由来のリンパ球を含む、がんの予防または治療剤。
〔2〕前記リンパ球が腫瘍特異的リンパ球である、〔1〕に記載のがんの予防または治療剤。
〔3〕前記リンパ球は、JunD及び/又はMBD2を高発現している、〔1〕に記載のがんの予防または治療剤。
〔4〕前記リンパ球は、少なくとも1種のミトコンドリア関連因子を高発現している、〔1〕に記載のがんの予防または治療剤。
〔5〕前記ミトコンドリア関連因子は、PGC1α及びNFR2からなる群から選ばれる、〔4〕に記載のがんの予防または治療剤。
〔6〕前記リンパ球がミトコンドリアDNA(mtDNA)変異を有しない、〔1〕に記載のがんの予防または治療剤。
〔7〕リンパ節由来のリンパ球を含む、がんの予防または治療用の医薬組成物。
〔8〕前記リンパ球が腫瘍特異的リンパ球である、〔7〕に記載の医薬組成物。
〔9〕前記リンパ球は、JunD及び/又はMBD2を高発現している、〔7〕に記載の医薬組成物。
〔10〕前記リンパ球は、少なくとも1種のミトコンドリア関連因子を高発現している、〔7〕に記載の医薬組成物。
〔11〕前記ミトコンドリア関連因子は、PGC1α及びNFR2からなる群から選ばれる、〔10〕に記載の医薬組成物。
〔12〕前記リンパ球がミトコンドリアDNA(mtDNA)変異を有しない、〔7〕に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、長期生存及び増殖性に優れ、高い抗腫瘍効果と長期奏功性を備えたがんの予防または治療剤及び医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】リンパ節由来のリンパ球が腫瘍特異的T細胞を含むことを示す。
図2】(A)リンパ節由来のリンパ球のJUND及びMBD2の高発現 (B)リンパ節由来のリンパ球においてミトコンドリアが保たれていることを示す。
図3】リンパ節由来のリンパ球と腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の増殖効率及びがん細胞に対する反応性の比較。
図4】腫瘍浸潤リンパ球(TIL)において、ミトコンドリアDNA(mtDNA)変異があり、この変異ががん細胞からの水平伝搬によることを示す。
図5】ミトコンドリアDNA(mtDNA)変異による酸化的リン酸化、解糖系の比較。
図6】ミトコンドリアDNA(mtDNA)変異による活性化の評価。
図7】ミトコンドリアDNA(mtDNA)変異による老化T細胞の割合、増殖、細胞死の評価。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のがんの予防または治療剤及び医薬組成物の有効成分は、リンパ節由来のリンパ球(LNL)である。リンパ節由来リンパ球は、増殖効率がよく、かつ、がん細胞に対する反応性に優れている。
【0012】
リンパ球としては、腫瘍特異的リンパ球が挙げられ、リンパ球の種類としては、T細胞、NK細胞またはそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0013】
ミトコンドリアDNAは電子伝達系に関わる13個のDNAがコードされているが、核DNAには、ミトコンドリア酵素や転写因子といったより多くの遺伝子がコードされている。このような核DNAに含まれ、ミトコンドリアの生合成に関連する遺伝子を「ミトコンドリア関連因子」と称し、ミトコンドリア関連因子には、NRF1/NRF2、ERRα、PPARsのような転写因子と、前記転写因子と結合して転写を促進するPGC-1αのような転写共役因子が包含される。
【0014】
リンパ節由来のリンパ球は、がん患者から手術により採取したリンパ節、あるいは、がん患者から採取したリンパ節由来のリンパ液を含む生検試料から血球成分を除去することにより得ることができる。好ましくは、手術により採取したリンパ節、特に所属リンパ節から所望のリンパ球を採取する。得られたリンパ球は、必要な数が得られるまで培地中で培養することができる。
【0015】
本発明の好ましいリンパ節由来のリンパ球は、がん細胞のミトコンドリアDNA(mtDNA変異を有する異常ミトコンドリアが水平伝搬していないものである。
【0016】
本明細書において、「リンパ節由来のリンパ球がミトコンドリアDNA(mtDNA)変異を有しない」とは、がん細胞のミトコンドリアDNA(mtDNA)変異を有する異常ミトコンドリアが、がん細胞からリンパ節由来のリンパ球に水平伝搬していないことを意味する。
【0017】
目的のリンパ球の調製には、がん患者から手術により得たリンパ節又は生検試料(以下、これらを合わせて「リンパ節試料」と記載する。)を用いることができる。リンパ節試料が採取されるリンパ節は、がんに近いリンパ節、特に所属リンパ節が好ましいが、がんから離れたリンパ節であっても、JunD及び/又はMBD2、あるいは、ミトコンドリア関連遺伝子を高発現している腫瘍特異的リンパ球が存在すればよい。リンパ節の例として、後頭リンパ節、耳介後リンパ節、耳下腺リンパ節、顎下リンパ節、オトガイリンパ節、鎖骨上リンパ節、腋窩リンパ節、縦隔リンパ節、傍大動脈リンパ節、鼠径リンパ節を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0018】
本発明のがんの予防または治療剤及び医薬組成物は、追加の治療剤又は治療方法と組み合わせて癌患者に適用することができる。追加の治療剤又は治療方法としては、化学療法薬、標的化抗がん療法薬、腫瘍溶解薬、細胞傷害性薬剤、免疫療法薬、サイトカイン、放射線療法、免疫チェックポイント阻害剤、ワクチン、細胞免疫療法剤、またはそれらの任意の組み合わせを含む。
【0019】
1回あたりにがん患者に投与されるリンパ節由来のリンパ球の数は、通常1×10~1×1011個程度、好ましくは1×10~1×1010個程度、より好ましくは1×10~5×10個程度、さらに好ましくは5×10~3×10個程度である。
【0020】
本発明の好ましい1つの実施形態において、リンパ節由来のリンパ球は、リンパ球が解凍時に機能するように凍結保存され得る。本明細書で使用される場合、「凍結保存」は、氷点下温度、例えば、77Kまたは-196℃(液体窒素の沸点)に冷却することによる細胞の保存を指す。凍結防止剤は、低温での冷凍または室温への温度上昇による損傷から保存されている細胞を防ぐために、氷点下温度で使用され得る。凍結保存剤および最適な冷却速度が、リンパ球の負傷から保護し得る。使用され得る凍結防止剤としては、これらに限定されないが、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0021】
本発明のがんの予防または治療剤及び医薬組成物は、治療有効量のリンパ節由来リンパ球を含む。「予防または治療剤及び医薬組成物」は、単独、または1つ以上の他の様式の療法を組み合わせて、ヒトを含む哺乳動物への投与のために、薬学的に許容される、または生理学的に許容される溶液中で配合された剤及び組成物を指す。必要に応じて、予防または治療剤及び医薬組成物は、他の薬剤、例えば、サイトカイン、成長因子、ホルモン、小分子、化学療法、プロドラッグ、薬物、抗体、または他の様々な薬学的に活性な薬剤などと組み合わせて投与されてもよい。追加の薬剤が、本発明のがんの予防または治療剤及び医薬組成物中に含まれてもよい。
【0022】
本発明のがんの予防または治療剤及び医薬組成物は、「薬学的に許容される担体」を含んでいてもよい。ヒトを含む哺乳動物に使用するために許容されているものとして、日本薬局方、米国食品医薬品局などによって認可されている任意の補助剤、担体、賦形剤、流動促進剤、甘味料、希釈剤、保存料、染料/着色料、調味料、界面活性剤、湿潤剤、分散剤、懸濁剤、安定剤、等張剤、溶媒、界面活性剤、または乳化剤などが挙げられる。例示的な薬学的に許容される担体としては、これらに限定されないが、糖類、例えば、ラクトース、グルコース、およびサッカロース;でんぷん、例えば、コーンスターチおよびジャガイモでんぷん;セルロースおよびそれの誘導体、例えば、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、およびセルロースアセテート;トラガカント;モルト;ゼラチン;タルク;ココアバター、ワックス、獣脂および植物性脂肪、パラフィン、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、酸化亜鉛;油、例えば、ピーナッツ油、綿実油、サフラワー油、ごま油、オリーブ油、コーン油、および大豆油;グリコール、例えば、プロピレングリコール;ポリオール、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、およびポリエチレングリコール;エステル、例えば、エチルオレエートおよびエチルラウレート;寒天;緩衝剤、例えば、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム、アルギン酸、パイロジェンフリー水、注入用の水、食塩水、好ましくは、生理食塩水、リンゲル溶液、エチルアルコール、リン酸緩衝液などが挙げられる。
【0023】
本発明のがんの予防または治療剤及び医薬組成物は、非経口投与、例えば、血管内(静脈内または動脈内)投与のために配合される。好ましい実施形態では、本明細書で意図される予防または治療剤及び医薬組成物は、単一用量で対象となるヒトなどの哺乳動物の静脈内に注入され得る。
【0024】
本明細書で意図されるがんの予防又は治療方法は、リンパ節由来リンパ球を含むがんの予防または治療剤及び医薬組成物を治療対象のがん患者に投与することを含む。
【0025】
本明細書で使用される場合、「治療」または「治療する」は、がんの症状または病状に対する任意の有益な、または望ましい効果を含み、がんの1つ以上のマーカーの低下を含み得る。治療は、がんの症状の改善、またはがんの進行の遅延のいずれかを任意的に含む。「治療」は、必ずしも、がんまたはその関連症状の完全な根絶もしくは治癒を示すわけではない。
【0026】
本明細書で使用される場合、「予防する」、および同様の語、例えば、「予防された」、「予防している」などは、がんの再発の可能性を予防する、阻止する、または低減するための手段を示す。
【0027】
本明細書において、がんとしては、胃がん、食道がん、大腸がん、結腸がん、直腸がん、膵臓がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、扁平上皮細胞がん、基底細胞がん、腺がん、骨髄がん、腎細胞がん、尿管がん、肝がん、胆管がん、子宮頚がん、子宮内膜がん、精巣がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、上皮がん、頭蓋咽頭がん、喉頭がん、舌がん、繊維肉腫、粘膜肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、精上皮腫、ウィルムス腫瘍、神経膠腫、星状細胞腫、骨髄芽種、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、髄芽腫、網膜芽細胞腫、悪性リンパ腫などのヒト由来のがんが挙げられる。
【0028】
本発明の好ましい1つの実施形態では、治療有効量のリンパ節由来のリンパ球を含むがんの予防または治療剤及び医薬組成物は、がんの再発を予防又は治療するためにがん患者又はがん治療を終えた被験者に投与される。
【実施例0029】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。
実施例1
非小細胞肺癌、頭頚部癌患者5名で原発腫瘍、転移のないリンパ節、末梢血それぞれからT細胞をソートし、シングルセルシークエンスで遺伝子発現とTCRの配列を解析した(図1)。TCR配列の共通性を線で引いて表現しているが、腫瘍TILで紫色に表現されたクローンが腫瘍特異的T細胞で、それと共通のTCRを持つT細胞クローンは末梢血PBLにはほとんど存在せず、リンパ節LNLには多く存在していた。サークルサイズがクローンの割合である。
【0030】
実施例2
図1のデータを基に、TILとLNLでの腫瘍特異的T細胞クローンに絞って、遺伝子発現を個々に比較、もしくはGSEAで比較したところ、個々の遺伝子で比較した場合にはLNLにJunDとMBD2が高発現しており、GSEAではミトコンドリア関連因子がエンリッチしていた(図2)。
【0031】
実施例3
同一症例から腫瘍とリンパ節同じ質量からTILとLNLを抽出し、2週間培養した場合の増殖効率を比較したところLNLではTILよりも効率がよい場合が多かった。腫瘍組織自体をオルガノイド化し、増殖したリンパ球と共培養して反応性をIFN-γ産生で評価したところ、LNLのほうが反応性がいい場合が多かった(図3)。
【0032】
実施例4
同一患者由来のTIL04とがん細胞MEL04をペアでシークエンスしたところ共通のmtDNA変異を同定した。LCL04が胚細胞で野生型。念のためTILにコンタミがないかを確認したがほとんどがT細胞で、CD3陽性T細胞でソートしても変異は同じようにあった。変異のないTIL04_#9のミトコンドリアをMitoBright LT Greenで、変異のあるがん細胞株MEL04のミトコンドリアをMitoTracker Redで標識して72時間共培養したところ、TILにRedで標識されたミトコンドリアが伝搬した。2週間共培養したところ、がん細胞株の変異がTILでもホモプラスミーになって検出された(図4)。
【0033】
実施例5
T細胞株であるJurkat細胞をエチジウムブロマイドで長期培養し、ミトコンドリアフリーのRho0細胞を作成した。さらにそこに胚細胞由来野生型ミトコンドリアを導入した細胞Rho+LCL04とがん細胞由来の変異型ミトコンドリアを導入した細胞Rho+MEL04を作成し、比較した。フラックスアナライザーで代謝機能を解析したところ、変異型では酸化的リン酸化ミトコンドリア呼吸が低下し、解糖系が亢進していた(図5)。**P<0.01
【0034】
実施例6
図5と同じ細胞を用いて、抗CD3/CD28抗体で刺激してフローサイトメトリーで活性化マーカーPD-1とCD69を解析した。またELISAで上清のIL-2も測定した。いずれも変異型Jurkat細胞では低下していた(図6)。*P<0.05;**P<0.01
【0035】
実施例7
図5と同じ細胞を用いて、フローサイトメトリーで老化マーカーβ-Galactosidase、CD27陰性CD28陰性の老化分画、CFSEを評価した細胞分裂している分画、Annexin Vで評価したアポトーシス分画を解析した。変異型Jurkat細胞で老化は上昇し、細胞分裂は低下、アポトーシスは上昇していた(図7)。*P<0.05;**P<0.01
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7