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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068260
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】亀裂を補修する装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/342 20140101AFI20240513BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20240513BHJP
   E21D 13/00 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
B23K26/342
E04G23/02 B
E21D13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178562
(22)【出願日】2022-11-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)学会論文 開示日 :令和3年11月9日 開示刊行物:第65回宇宙科学技術連合講演会DVD講演集 (2)学会論文 開示日 :令和4年8月1日 開示刊行物:土木学会全国大会第77回年次学術講演会梗概集 (3)学会論文 開示日 :令和4年11月1日 開示刊行物:第66回宇宙科学技術連合講演会DVD講演集
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】591114803
【氏名又は名称】公益財団法人レーザー技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田島 孝敏
(72)【発明者】
【氏名】新村 亮
(72)【発明者】
【氏名】石川 洋二
(72)【発明者】
【氏名】藤田 雅之
【テーマコード(参考)】
2D155
2E176
4E168
【Fターム(参考)】
2D155AA10
2D155LA16
2E176AA01
2E176BB17
4E168BA32
4E168BA90
4E168CB03
4E168FB01
(57)【要約】
【課題】容易に亀裂を補修できる装置を提供する。
【解決手段】粒状の充填材を亀裂に噴射する噴射部と、前記充填材にレーザー光を照射して溶融させる照射部と、を備え、前記供給部は、前記充填材を貯蔵する貯蔵部と、前記充填材を前記貯蔵部から前記レーザー光に向けて搬送する搬送部と、を有する、装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状の充填材を亀裂に供給する供給部と、
前記充填材にレーザー光を照射して溶融させる照射部と、
を備え、
前記供給部は、前記充填材を貯蔵する貯蔵部と、
前記充填材を前記貯蔵部から前記レーザー光に向けて搬送する搬送部と、
を有する、装置。
【請求項2】
前記搬送部は、
前記貯蔵部から前記レーザー光の近傍まで延びる管路を有する、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記搬送部は、
前記管路の内部に配置されたスクリューをさらに備える、
請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記充填材は砂である、
請求項1または2に記載の装置。
【請求項5】
前記充填材は月の砂である、
請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記亀裂は、月の溶岩チューブに生じた亀裂である、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記亀裂は、コンクリート類、無機化合物材料を焼成した焼成材、無機化合物材料を焼結した焼結材、及び岩石のいずれかに生じた亀裂である、
請求項1または2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亀裂を補修する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネルや岩盤に発生した亀裂を、水ガラスなどの充填材を用いて補修する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-092186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の方法では、充填材が亀裂に浸透するのに時間を要するし、充填材を用意するためのコストが必要となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、一実施形態として、粒状の充填材を亀裂に噴射する噴射部と、前記充填材にレーザー光を照射して溶融させる照射部と、を備え、前記供給部は、前記充填材を貯蔵する貯蔵部と、前記充填材を前記貯蔵部から前記レーザー光に向けて搬送する搬送部と、を有する装置を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、容易に亀裂を補修できる装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】溶岩チューブの概要図である。
図2】実施形態の装置1を示す(a)側面図及び(b)下面図である。
図3】装置1の構成を説明する図である。
図4】装置1を用いてビードを形成する状況を説明する図である。
図5】(a)試験体の寸法を示す図、(b)試験体の補修後の形状を示す図、及び(c)試験体の強度試験の加力状況を示す図である。
図6】試験体の開先補修において用いた条件を示す表である。
図7】変形例による装置10を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をその一実施形態に即して図面を参照しつつ説明する。
【0009】
〔構成〕
図2に本発明の一実施形態に係る装置1を示す。装置1は、指向性エネルギー堆積法(DED)を用いて、岩盤やコンクリート類の亀裂補修、砂若しくは粘土などの無機化合物材料を焼成した焼成材の亀裂補修、または、砂若しくは粘土などの無機化合物材料を焼結した焼結材の亀裂補修、特に、月の溶岩チューブLにおいて亀裂補修を行う装置である。なお、コンクリート類とはコンクリート、モルタル、またはグラウトなど、セメントを含んで硬化した材料を指す。
【0010】
溶岩チューブLは、図1に示すように、月の表面から100m程度下方において溶岩が流れた後に形成された管状の物体であり、内部には空洞が形成される。
【0011】
溶岩チューブは、溶岩が冷えて硬化することによって形成されたものであるため、表面には硬化時に収縮することによって生じた亀裂Cがある。
【0012】
溶岩チューブLの大きさは直径100m程度、長さは数キロメートルから数十キロメートルに及ぶ。その大きさや構造のため、溶岩チューブLは、月面基地建設の候補地として挙げられている。
【0013】
溶岩チューブL内部に基地などの居住施設を建設する場合、内部を空気で満たし、1気圧を維持する必要がある。そのため、溶岩チューブLには気密性が要求される。
【0014】
溶岩チューブLの気密性を保持するためには亀裂Cを塞ぐ必要があるが、装置1は、この亀裂Cを防ぐために用いられる。
【0015】
装置1は、図2(a)に示すように、照射ヘッド11と、レーザー照射部12と、噴射部13とを有する。なお、以下では、図2に示すように上下左右の各方向を定め、この方向に基づいて説明を行う。
【0016】
照射ヘッド11は、水平方向に広がる略円盤状に形成された部材であり、レーザー照射部12と噴射部13とを保持する機能を有する。
【0017】
レーザー照射部12は、高出力でのレーザー発振を行うレーザー発振器121と、1以上のレンズで構成された光学系122とを備える(図2図3)。レーザー発振器121から出射したレーザー光は、図3に点線で示すように、光学系122を通って下方へ照射される。
【0018】
噴射部13は、図2及び図3に示すように、充填材30を貯蔵する貯蔵部131と、充填材30を下方に噴射する開口である噴射口132と、貯蔵部131と噴射口132とを接続する管部133と、充填材30にガスを用いて圧力を加える加圧部134とを備える。
【0019】
貯蔵部131が貯蔵する充填材30は様々な物が考え得るが、ケイ素を含んだ材料等、高温で溶融しガラス化する材料であることが望ましい。以下の説明では、充填材30として月や地球の砂を用いるものとする。
【0020】
図2(b)は照射ヘッド11を下方から視た図であるが、噴射口132は、照射ヘッド11の下部において、円周方向に等間隔に、かつ、光学系122から同じ距離をおいて3か所に形成される。
加圧部134は、高圧のガスを保持している。加圧部134は、貯蔵部131に貯蔵された充填材30にガスを供給し、充填材30を、ガスを用いて加圧する機能を有する。加圧部134と貯蔵部131は内部の空間が繋がっている。貯蔵部131の充填材30は加圧部134から供給されたガスと共に管部133内を移動し、噴射口132から噴射される。
【0021】
3つの噴射口132から照射された充填材30は、図3に点線で示すように、焦点Fに集まるように噴射される。焦点Fは光学系122の直下に位置する。焦点Fに噴射された充填材30には、光学系122から出射したレーザー光の照射が可能である。
【0022】
<亀裂の補修作業>
溶岩チューブLに生じた亀裂Cの補修作業について以下に説明する。まず作業者は、補修を行う亀裂Cの位置に焦点Fを合わせる。
【0023】
次に作業者は装置1を操作して溶射を行う。溶射の際、装置1は、レーザー光の照射と充填材30の噴射を同時に行う。焦点Fに噴射された充填材30は、亀裂Cの内部に充填されるとともに、レーザー光によって溶融してガラス化する。
【0024】
作業者が焦点Fを亀裂Cに沿って移動させると、亀裂Cに沿って溶射処理が連続して実行され、亀裂Cに沿って充填材30の溶融及び充填が実行される。
【0025】
亀裂Cに充填された充填材30は、時間経過とともに冷却し、硬化する。充填材30は、周囲の母材に溶け込み、一体となって硬化する。このようにして、亀裂Cの補修が完了する。
【0026】
亀裂Cが大きな幅を有する場合、図4に示すように、装置1は照射ヘッド11を亀裂C及び溶岩チューブLの表面に沿って移動(掃引)させ、複数のビードを形成するように溶射を行えばよい。ビードを積層することによって、充填材30が亀裂Cを塞ぐとともに、周囲と一体化するように硬化する。
【0027】
<実験>
上記のように形成した補修部について、強度を確認する試験を行った。
【0028】
実験は、図5(a)のように、楔形の開先を有する試験体Sを用いて行った。具体的には、試験体Sの開先に装置1を用いて充填材30を噴射するとともにレーザーによって溶融させた。また、開先に沿って焦点Fを毎秒7.5ミリメートルの速度で掃引し、複数のビードを積層した。レーザーの出力は、300Wとした。その他の試験条件は図6に示す。このようにして開先を接合し、試験体Sを略直方体の形状とした。開先接合前後の試験体Sの寸法は図5(a)、(b)に示すとおりである。
【0029】
充填材30には月の模擬砂を用いた。具体的には、火山溶岩石を原料とする月土壌シミュラントFJS-1を充填材30として使用した。シミュラントFJS-1の主な化学組成はSiO2が49.8%,Al2O3 が19.9%,CaO が10.2%である。アポロ計画で採取された月土壌の粒度分布の上下限内に収められ、50%粒径が0.067mmである。
【0030】
試験体Sは、溶岩チューブLの表層を模擬するため、模擬砂を焼結することによって形成されている。
【0031】
開先接合後の試験体Sに対し、曲げ荷重を与えて強度を計測した。強度の計測は、図5(c)のように、試験体Sを単純支持とし、支点間の中央に集中荷重をかけることにより行った。
【0032】
試験の結果1~2N/mmの曲げ強度が計測され、ある一定の強度を有することが分かった。試験時の破壊は、充填材30と母材(補修前の試験体S)の境界ではなく、充填材30の中心を通るように発生した(図5(c))。母材と充填材30とが十分な強度をもって接合されていることが分かる。
【0033】
<変形例>
上記装置1においては、高圧のガスを用いて充填材30を噴射することにより、充填材30を焦点Fに移動させるという構成が採用されている。なお、充填材30を焦点Fへ搬送するためにその他の構成が採られてもよい。例えば、図7に変形例による装置10として示すように、噴射部13の代わりに、供給部14が充填材30の搬送に用いられてもよい。
【0034】
装置10は、供給部14を備える一方で、その他の構成は装置1と同様であり、説明を省略する。
【0035】
詳細に述べると、装置10の供給部14は、貯蔵部131を備えているが、加圧部134を備えていない。また、装置10の供給部14は、長尺状のスクリュー141、142と、スクリュー141、142の外周を覆うように配置された管路143を備える。その他の構成は装置1と同様であり、説明を省略する。
【0036】
スクリュー141は、円柱形状の軸141Aと、軸141Aに固定された螺旋状の羽根141Bとを有する。
【0037】
スクリュー142は、スクリュー141の下方に配置され、その下端部は焦点Fの近傍に配置される。スクリュー142は、円柱形状の軸142Aと、軸142Aに固定された螺旋状の羽根142Bとを有する。
【0038】
スクリュー141、142は、それぞれ、軸141A、軸142Bを中心に不図示の動力によって回転することができる。
【0039】
管路143は、中空の管であり、スクリュー141、142を内部に収容する。管路143の中央部は屈曲しており、その下端部は、焦点Fの近傍に配置される。
【0040】
スクリュー141、142が回転すると、羽根141A、142Aの形状に従って、充填材30は下方へと搬送される。その結果、管路143の下端部から焦点Fに充填材30が供給される。
【0041】
なお、供給部14の構成には、上記の他にも、ベルトコンベアを用いる形式など様々な構成が考えられる。この供給部14のように充填材30を搬送する機械を用いた場合、空気の無い環境においても、気体を用いずに充填材30を安定して焦点Fに供給することが可能となる。
【0042】
<その他変形例>
上記装置1による亀裂Cの補修は、溶岩チューブLだけでなく、コンクリート構造物や、岩石など、ケイ素を含む物体や構造物に広く適用可能である。例えば、岩盤の補修やトンネルの亀裂の補修などに、上記の装置1及び補修方法は、適用可能である。このような物体、構造物に対しても充填材30はガラス化し、母材と一体となって硬化するため、上記と同様に、装置1による亀裂補修作業の実施が可能である。
【0043】
充填材30の材料としては、月面の砂に限定されず、地球上の砂が用いられてもよい。また、溶岩の粉砕物など、その他の材料が使用可能である。充填材30としては、ケイ素が含まれる粉体または粒体を用いることが好ましいと考えられる。
【0044】
上記実施形態では、充填材30を亀裂内において溶融させることによって作業が実行された。別の形態として、溶融した充填材30を噴射することにより、亀裂Cの補修作業が実施されてもよい。
【0045】
<効果>
(態様1)上記実施形態または変形例では、コンクリート類、または岩石の亀裂Cにおいて、粒状の充填材30を亀裂Cに供給する供給部14と、充填材30にレーザー光を照射して溶融させるレーザー照射部12と、を備える装置1、10が提示される。供給部14は、充填材30を貯蔵する貯蔵部131と、充填材30を貯蔵部131からレーザー光に向けて搬送する搬送部(スクリュー141、142、管路143)とを有する。
【0046】
上記態様において、装置1、10は、コンクリートや溶岩などの岩石に生じた亀裂Cを十分な強度をもって補修することができる。また、レーザー光を照射して充填材を加熱するため、酸素の無い環境においても、装置1、10は補修作業を確実に実施可能である。また、搬送部を用いて空気の無い環境においても充填材30を供給できるため、亀裂の補修を実行可能である。
【0047】
(態様2)態様1において、搬送部は管路143を備える。
【0048】
上記構成では、充填材30を安定供給できる。
【0049】
(態様3)態様1または2において、管路143の内部に配置されたスクリュー141またはスクリュー142をさらに備える。
【0050】
上記構成では、充填材30を安定供給できる。
【0051】
(態様4)態様1から3のいずれか1つにおいて、充填材30は砂である。
【0052】
上記態様のように、充填材30を砂とすることで、容易に入手できる安価な材料によって、亀裂Cの補修を実施することが可能となる。
【0053】
(態様5)態様1から4のいずれか1つにおいて、充填材30は月の砂である。
【0054】
上記態様とすることにより、月で亀裂補修作業を実施する際、地球から月面まで充填材30を運搬する必要が無くなる。そのため、月でも容易に亀裂補修を行い、基地など居住施設の建設を円滑に進めることが可能となる。
【0055】
(態様6)態様5において、亀裂Cは、月の溶岩チューブに発生した亀裂である。
【0056】
実施形態及び変形例は、月の砂を用いて溶岩チューブLの亀裂Cを補修することに適している。月の砂と溶岩チューブLの組成がほぼ同じであるため、十分な強度が期待できる。溶岩チューブL内部の気密性を維持するに十分な、補修が可能となる。
【0057】
(態様7)態様1から6のいずれかにおいて、亀裂Cはコンクリート類、無機化合物材料を焼成した焼成材、無機化合物材料を焼結した焼結材、及び岩石のいずれかに生じた亀裂である。
【0058】
上記のように装置1、10は、コンクリート、砂質、石質の材料に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0059】
1、10 装置
11 照射ヘッド
12 レーザー照射部
14 供給部
30 充填材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7