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特開2024-68281エンド・カンナビノイド・システム(ECS)調整剤、それを含む食品組成物および医薬組成物
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  • 特開-エンド・カンナビノイド・システム(ECS)調整剤、それを含む食品組成物および医薬組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068281
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】エンド・カンナビノイド・システム(ECS)調整剤、それを含む食品組成物および医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20240513BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20240513BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20240513BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20240513BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20240513BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K31/05
A61K9/48
A61K47/22
A61K47/44
A61P25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178598
(22)【出願日】2022-11-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 配布日: 令和4年2月 配布した場所: スマイルライフ株式会社(東京都新宿区大久保2-7-1 大久保フジビル302) 配布日: 令和4年2月 配布した場所: 株式会社ANGEL(東京都港区港南4-6-6) 配布日: 令和4年10月27日 配布した場所: 株式会社エーエフシー(東京都港区赤坂2-17-55 AFC-HD東京赤坂ビル) 配布日: 令和4年11月3日 配布した場所: ベスリクリニック(東京都千代田区神田鍛冶町3-2サンミビル8階) 配布日: 令和4年8月 配布した場所: 株式会社北海道食品研究院(東京都千代田区神田鍛冶町3-2サンミビル8階)
(71)【出願人】
【識別番号】518257758
【氏名又は名称】ONE PRIME株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522434336
【氏名又は名称】佐藤 均
(74)【代理人】
【識別番号】100173521
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 淳司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 均
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LE02
4B018MD07
4B018MD08
4B018MD14
4B018ME14
4C076AA53
4C076BB01
4C076CC01
4C076DD59M
4C076EE51
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA19
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA57
4C206MA72
4C206NA12
4C206ZA01
(57)【要約】
【課題】カンナビノイドの生物学的利用率に優れたエンド・カンナビノイド・システム(ECS)調整剤を提供する。
【解決手段】カンナビノイドの代謝を阻害する代謝阻害化合物と共に用いる、カンナビノイドを有効成分として含むエンド・カンナビノイド・システム(ECS)調整剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンナビノイドを有効成分として含むエンド・カンナビノイド・システム(ECS)調整剤であって、
カンナビノイドの代謝を阻害する代謝阻害化合物と共に用いられるためのECS調整剤。
【請求項2】
有効成分のカンナビノイドと、カンナビノイドの代謝を阻害する代謝阻害化合物とを含む、エンド・カンナビノイド・システム(ECS)調整剤。
【請求項3】
カンナビノイドがカンナビジオール(CBD)を含有する、請求項1または2に記載のECS調整剤。
【請求項4】
代謝阻害化合物がシトクロムP450(CYP)阻害化合物を含有する、請求項1または2に記載のECS調整剤。
【請求項5】
鎮静作用を有する鎮静化合物をさらに含む、請求項または2に記載のECS調整剤。
【請求項6】
油をさらに含む、カプセル剤である、請求項1または2に記載のECS調整剤。
【請求項7】
ECS異常の抑制または改善のための、請求項1~6のいずれか一項に記載のECS調整剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のECS調整剤を含む、食品組成物。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載のECS調整剤を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンド・カンナビノイド・システム(ECS)調整剤、ECS調整剤を含む食品組成物および医薬組成物、ECS異常の抑制または改善方法、ならびにECS異常関連疾患の治療または予防方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの体内には、地球上で生きていくために必要なエンド・カンナビノイド・システム(Endocannabinoid System, ECS:内因性カンナビノイド系)と呼ばれる身体調節機能が備わっている。ECSは、食欲、痛み、免疫調節、感情制御、運動機能、発達と老化、神経保護、認知と記憶などに関わる細胞同士のコミュニケーション活動を支えている。ECSは、体内カンナビノイドと呼ばれるアナンダミド(anandamide, arachidonoylethanolamide)と2-アラキドノイルグリセロール(2-Arachidonoylglycerol, 2-AG)がカンナビノイド(cannabinoid, CB)受容体に結合することで機能している。近年、外部からの強いストレスや、加齢に伴う老化によってECSの働きが弱まることで、様々な疾患になることが明らかになっている(非特許文献1)。
【0003】
薬用植物のアサ(cannabis sativa L.)には100種以上のカンナビノイドが含まれており、その中でよく知られているのがテトラヒドロカンナビノール(tetrahydrocannabinol, THC)とカンナビジオール(cannabidiol, CBD)の2つである。THCは体内カンナビノイドと類似した構造を持ち、CB受容体に結合することで鎮痛などの薬効を示すが、身体依存性や精神依存性を来すため薬物乱用の原因となる。よって、現在日本では1948年に制定した大麻取締法によって、カンナビノイドを多く含む花穂と葉の利用の禁止に加え、医師の交付や患者への施用が禁止されているため、THCを医薬品として使用することはできない(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,716,928号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“基礎情報”, [online], 2019(accessed Sept. 11, 2022),日本臨床カンナビノイド学会, [令和4年10月7日検索], インターネット<URL: http://cannabis.kenkyuukai.jp/special/index.asp?id=19132>
【非特許文献2】CANNABIDIOL(CBD) Pre-review Report Agenda Item 5.2. World Health Organization (WHO) Expert Committee on Drug Dependence (ECDD) Thirty-ninth Meeting.Geneva, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、CBDの薬効には、抗不安、神経保護、血管弛緩、抗痙攣、抗虚血、抗ガン、制吐、抗菌、抗糖尿、抗炎症、骨の成長促進などがあると報告されている。また、CBDはヒトにおいては乱用あるいは依存性を示さないという報告もある。これらから、CBDはCB受容体に対する親和性はTHCに比較して低いが、アナンダミドの再取り込み遮断とその分解酵素を抑制することで、間接的にECSと相互作用することで薬効を発現している可能性がある。実際、CBD製剤は、非常に多くの疾患に対する臨床試験が世界中で現在行われている。
【0007】
日本国内でも、THCを医薬品として使用することはできないものの、アサの成熟した茎および種子由来のCBDは規制されていないため、精製したCBDを少なくとも食品成分やサプリメントとして用いることは可能である(非特許文献1)。ただし、日本ではまだ臨床試験が行われていないため、低用量のサプリメントが健康を維持する目的で取り扱われているのみである。
【0008】
CBDは水に対し難溶性を示すため、主としてオイル製剤が市場に流通している。しかし、オイル製剤を経口投与しても、消化管からの吸収性が低く肝初回通過効果も大きいため、バイオアベイラビリティ(bioavailability, BA:生物学的利用能)はヒトにおいて非常に低い。よって、低用量のCBDを含有するサプリメントでは、その薬効が発現しにくく、持続しにくいという問題がある。BAが低い薬物の効果は非常にばらつくため、BA向上によって安定した効果を得ようとする試みがなされてきた。しかしながら、ECS調整剤としてのCBDの効果を維持するためのBA向上に関しては前例がない。
【0009】
また、CBDは価格が高いため、高用量のCBDを含む製品では消費者の経済的負担が大きい。よって、サプリメントにもできる簡易な構成で、低用量の含有量であっても薬効の持続性に優れる安価なCBD製剤が望まれている。
【0010】
本発明は、簡易な構成で、カンナビノイドの生物学的利用能に優れたエンド・カンナビノイド・システム(ECS)調整剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ラットにCBDオイル製剤を投与し、薬物代謝酵素CYP(シトクロムP450)3Aの阻害剤であるケルセチンを併用した場合としない場合についてCBD薬物動態の変化を比較することによって、クエルセチンがCBDの血中濃度を上昇させることができることを見出した。
それによって、カンナビノイドを有効成分として含むエンド・カンナビノイド・システム(ECS)調整剤を、カンナビノイドの代謝を阻害する代謝阻害化合物と共に用いることが上記課題の解決に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記ECS調整剤を提供する。
[1] カンナビノイドを有効成分として含むエンド・カンナビノイド・システム(ECS)調整剤であって、
カンナビノイドの代謝を阻害する代謝阻害化合物と共に用いられるためのECS調整剤。
[2] 有効成分のカンナビノイドと、カンナビノイドの代謝を阻害する代謝阻害化合物とを含む、エンド・カンナビノイド・システム(ECS)調整剤。
[3] カンナビノイドがカンナビジオール(CBD)を含有する、[1]または[2]に記載のECS調整剤。
[3-1] CBDがアサ属(Cannabis)植物の茎または種子に由来する、[3]に記載のECS調整剤。
[4] 代謝阻害化合物がシトクロムP450(CYP)阻害化合物を含有する、[1]~[3]のいずれか一項に記載のECS調整剤。
[4-1] 代謝阻害化合物がクエルセチンを含有する、[4]に記載のECS調整剤。
[4-2] カンナビノイドに対する代謝阻害化合物の質量比(代謝阻害化合物/カンナビノイド)が0.1~10である、[1]~[3]のいずれか一項に記載のECS調整剤。
[5] 鎮静作用を有する鎮静化合物をさらに含む、[1]~[4]のいずれか一項に記載のECS調整剤。
[5-1] 鎮静化合物がテアニンを含有する、[5]に記載のECS調整剤。
[6] 油をさらに含む、カプセル剤である、[1]~[5]のいずれか一項に記載のECS調整剤。
[6-1] 経口で摂取または投与されるための、[1]~[5]のいずれか一項に記載のECS調整剤。
[7] ECS異常の抑制または改善のための、[1]~[6]のいずれか一項に記載のECS調整剤。
【0013】
また、本発明は、下記食品組成物及び医薬組成物を提供する。
[8] [1]~[7]のいずれか一項に記載のECS調整剤を含む、食品組成物。
[8-1] ECS異常を抑制または改善するための、[8]に記載の食品組成物。
[9] [1]~[7]のいずれか一項に記載のECS調整剤を含む、医薬組成物。
[9-1] ECS異常関連疾患を治療または予防するための、[9]に記載の医薬組成物。
【0014】
さらに、本発明は、ECS異常の抑制または改善方法、およびECS異常関連疾患の治療または予防方法を提供する。
[10] 有効成分のカンナビノイドを含むエンド・カンナビノイド・システム(ECS)調整剤を対象に摂取させる工程と、
カンナビノイドの代謝を阻害する代謝阻害化合物を対象に摂取させる工程と、
を含む、ECS異常の抑制または改善方法。
[11] 有効成分のカンナビノイドと、カンナビノイドの代謝を阻害する代謝阻害化合物とを含む、エンド・カンナビノイド・システム(ECS)調整剤を対象に摂取させる工程を含む、ECS異常の抑制または改善方法。
[12] [1]~[7]のいずれか一項に記載のECS調整剤を対象に摂取させる工程を含む、ECS異常の抑制または改善方法。
[13] 有効成分のカンナビノイドを含むエンド・カンナビノイド・システム(ECS)調整剤を対象に投与する工程と、
カンナビノイドの代謝を阻害する代謝阻害化合物を対象に投与する工程と、
を含む、ECS異常関連疾患の治療または予防方法。
[14] 有効成分のカンナビノイドと、カンナビノイドの代謝を阻害する代謝阻害化合物と、を含む、エンド・カンナビノイド・システム(ECS)調整剤を対象に投与する工程を含む、ECS異常関連疾患の治療または予防方法。
[15] [1]~[7]のいずれか一項に記載のECS調整剤を対象に投与する工程を含む、ECS異常関連疾患の治療または予防方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、カンナビノイドの生物学的利用能に優れたエンド・カンナビノイド・システム(ECS)調整剤を提供され、ECS異常の抑制または改善、あるいはECS異常関連疾患の治療または予防を効果的に達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例においてCBDオイル投与時のCBD血中濃度推移(mean+SEM)に及ぼすクエルセチン併用の影響を検討した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、カンナビノイドの代謝を阻害する代謝阻害化合物(以下、単に「代謝阻害化合物」ともいう。)と共に用いる、カンナビノイドを有効成分として含むエンド・カンナビノイド・システム(ECS)調整剤(以下、単に「ECS調整剤」ともいう。)である。代謝阻害化合物と共にカンナビノイドを含むECS調整剤を用いることにより、カンナビノイドの生物学的利用能に優れる。
代謝阻害化合物と共に用いる態様は特に限定されず、ECS調整剤に代謝阻害化合物を直接含んでもよく、ECS調整剤とは別に代謝阻害化合物を含む代謝阻害剤を準備し、ECS調整剤と同時または逐次で用いてもよい。
【0018】
ECSとは、ヒトを含む生命体が地球上で生きていくために本来備わっている全体の調節機構である。このECSにより、生命を維持するホメオスタシス(生命の恒常性)が生命体の自然治癒力を維持しようとしている。このECS内では、生命体内で生成・活性化・代謝される内因性カンナビノイドと呼ばれる物質が働いている。カンナビノイドは、直接または間接にECSに関与し、ECSを調整する作用を有している。特に、外部からの強いストレスや、加齢に伴う老化によってECSの働きが弱まる場合には、カンナビノイドによってECSの働きを補強し、適正にECSを調整することができる。
【0019】
カンナビノイド
カンナビノイドとは、カンナビノイド(cannabinoid, CB)受容体に結合し得る化合物を意味する。カンナビノイドを有効成分として用いることにより、ECSの働きを補強し、適正にECSを調整することができる。
カンナビノイドは、植物性カンナビノイド、内在性カンナビノイド、合成カンナビノイドなどのように分類することができる。具体的な化合物としては、例えば、カンナビクロメン(CBC)、カンナビクロメン酸(CBCV)、カンナビジオール(CBD)、カンナビジオール酸(CBDA)、カンナビジバリン(CBDV)、カンナビゲロール(CBG)、カンナビゲロールプロピル変異物(CBGV)、カンナビシクロール(CBL)、カンナビノール(CBN)、カンナビノールプロピル変異物(CBNV)、カンナビトリオール(CBO)、テトラヒドロカンナビノール(THC)、テトラヒドロカンナビノール酸(THCA)、テトラヒドロカンナビバリン(THCV)、およびテトラヒドロカンナビバリン酸(THCVA)が挙げられる。これらの中でも、カンナビジオール(CBD)が好ましい。
カンナビノイドは、1種単独でもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0020】
カンナビノイドの入手方法は、特に限定されないが、化学合成、生合成、植物からの抽出等によって調製することで得ることができる。
植物からの抽出部位としては、例えばアサ属(Cannabis)植物(例えばアサ)の茎芯、花、葉、根、および種子の殻が挙げられる。植物の異なる部位を別々に抽出してもよく、それらの部位の組み合わせを抽出してもよい。これらの中でも、日本国内では、アサ属(Cannabis)植物の茎または種子に由来するカンナビノイドが好ましい。
【0021】
代謝阻害化合物
代謝阻害化合物とは、カンナビノイドの代謝を阻害する化合物を意味する。カンナビノイドは、経口で接種される場合に、バイオアベイラビリティが非常に低い。それは、消化管からの吸収性が低いことと、吸収されたカンナビノイドが代謝を受けやすいこととに起因すると推察される。また、カンナビノイドは、ECSに作用するため、血中濃度が高すぎると、不活性化してしまう場合がある。よって、吸収されたカンナビノイドが代謝を受けやすいことに着目し、代謝阻害化合物を用いる。これにより、カンナビノイドの不活性化を抑制しつつ、バイオアベイラビリティを向上させることができる。
【0022】
カンナビノイドは、主としてその代謝酵素、特にシトクロムP450(CYP)によって代謝されている。よって、カンナビノイドの代謝を抑制するために、代謝阻害化合物は、シトクロムP450(CYP)酵素を阻害するCYP阻害化合物を含有することが好ましい。
CYP酵素としては、主としてCYP1A群、CYP2A群、CYP2B群、CYP2C群、CYP2D群、CYP2E群、CYP3A群の酵素が挙げられる。これらの中でも、代謝阻害化合物は、CYP2C群及びCYP3A群の酵素を阻害する化合物が好ましく、CYP2C19及びCYP3A4を阻害する化合物がより好ましく、CYP3A4を阻害する化合物がさらに好ましい。
CYP阻害化合物は、CYP酵素を阻害する化合物として公知のものから適宜採用できる。CYP3A4を阻害する物質で、かつ食品中に添加できるものとして、クエルセチン(以下、「ケルセチン」ともいう。)やカテキン類(例えば、エピガロカテキンガレート(EGCG)及びその熱異性化体であるガロカテキンガレート(GCG)、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガレート(ECG)、カテキン(C)、カフェイン(CAF))が挙げられる。これらの中でも、クエルセチンが好ましい。なお、本明細書で「CYP酵素を阻害する化合物」には、他の作用(副作用など)が顕著になるほど高用量で用いなければ、CYP酵素を阻害する作用が発現しない化合物は含まない。
【0023】
クエルセチンは、ポリフェノールの一種であるフラボノイドであって、主にタマネギなどの野菜に多く含まれている。血流を改善する効果や動脈硬化を予防する作用、関節痛の症状をやわらげる効果も有する。よって、血流改善が必要な対象や、高血圧、生活習慣病、高コレステロール、関節痛の予防や改善に対する効果を期待できる。
【0024】
ポリフェノール類の中の大きなグループであるフラボノイドは、植物界に数千種以上も存在することが知られ、近年の多くの研究で、抗酸化作用をはじめ、がん細胞増殖阻害作用、抗炎症作用など様々な生理機能を有する。クエルセチンはフラボノイドの中でも特に強い抗酸化活性を示すため、活性酸素による酸化ストレスが関与する、がん、動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病の予防に重要な役割を果たし得る。例えば、動脈硬化の初期病変であるLDL(低比重リポタンパク)の酸化を抑制し得る。また、糖尿病モデルラットを用いた実験で、タマネギの長期間摂取は生体内の酸化ストレスを軽減する効果や血糖値を下げる効果がある。
【0025】
代謝阻害化合物は、1種単独でもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0026】
カンナビノイドに対する代謝阻害化合物の質量比(代謝阻害化合物/カンナビノイド)は、カンナビノイドの不活性化をより抑制するために、好ましくは0.3~1、より好ましくは1以上である。
【0027】
鎮静化合物
ECS調整剤は、本発明の作用効果をより確実に奏するため、鎮静作用を有する鎮静化合物をさらに含むことが好ましい。
鎮静化合物は、鎮静作用を有する物質で食品として用いることができる公知のものから適宜採用できる。例えば、鎮静化合物としては、テアニン、フランキンセンスやナイアシン、GABA(ガンマアミノ酪酸)が挙げられる。これらの中でもテアニンが好ましい。
【0028】
例えばテアニンは、睡眠の質の向上や鎮静作用を有する。主としてECS調整とは異なる作用機序によって作用を発現する鎮静化合物を用いることにより、カンナビノイドのECS調整作用と併せて、より安定的な効果を得やすくなる。
【0029】
テアニンは、お茶のうま味・甘味に関与する成分で、玉露や抹茶などに多く含まれ、興奮を鎮めて緊張を和らげる働きと、心身をリラックスさせる効果を有する。テアニンが脳内に入ることで、神経伝達物質のドーパミンやセロトニンの濃度を変化させるため、血圧降下作用や脳神経細胞保護作用に加え、記憶力や集中力を高める効果がある。その他、冷え性を改善する効果、睡眠を促す効果、月経前症候群、更年期障害の症状を改善する効果、高血圧を予防する効果を奏する。
【0030】
例えばリラックス効果について説明すれば、日常生活で多くのストレスを受けることによって、精神的・身体的に緊張状態が続くと、体にも様々な障害が発生する。このような生活の中で、テアニンを摂取するとα波が出現する。
【0031】
鎮静化合物は、1種単独でもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0032】
ECS調整剤は、カンナビノイドが水に対して難溶性を示すため、油をさらに含むことが好ましい。油としては、例えば、グリセロールと、
カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノエライジン酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸およびドコサヘキサエン酸、ならびにこれらの混合物、
水素化植物油、ナッツ油、アニス油、大豆油、水素化大豆油、杏仁油、トウモロコシ油、オリーブ油、ピーナッツ油、アーモンド油、クルミ油、カシュー油、米ぬか油、ケシ油、綿実油、キャノーラ油、ゴマ油、水素化ゴマ油、ココナツ油、アマニ油、シナモン油、丁子油、ナツメグ油、コリアンダー油、レモン油、オレンジ油、ベニバナ油、ココアバター、パーム油、パーム核油、ヒマワリ油、菜種油、ヒマシ油、水素化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ルリヂサ油、ハチミツ、ラノリン、ワセリン、鉱物油および鉱物軽油と、
から誘導されるトリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリドが挙げられる。
また、油として、グレープシードオイル、ココナツ油、中鎖脂肪酸(MCT)、長鎖脂肪酸(LCT)も挙げられる。
【0033】
ECS調整剤は、ヒトおよび非ヒト動物に経口で摂取される、あるいは投与することができる。経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠など)、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、および懸濁剤が挙げられる。これらの製剤は、公知の手法により、薬学上許容される担体を用いて製剤化することができる。薬学上許容される担体としては、賦形剤、結合剤、希釈剤、添加剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、および防腐剤が挙げられる。具体的には、ゼラチン、グリセリン、L-テアニン、グリセリン脂肪酸エステル、ミツロウなどでECS調整剤を製剤化することができる。
【0034】
ECS調整剤は、安定的な吸収が可能で、1回の摂取量・投与量の制御が容易であるため、カプセル剤であることが好ましい。一方、ECS調整剤が油を含む場合には、舌下剤とすることも選択できるが、カプセル剤と比べて1回の吸収量にムラが生じやすい。また、カプセル剤は、比較的携帯しやすく、カンナビノイドの酸化を抑制できる。
特に、ECS調整剤が代謝阻害化合物と油を同時に用いる場合には、カプセル剤であることにより、カンナビノイドの吸収効率が向上する傾向にある。
【0035】
カプセル剤以外にも、その用途や目的に応じて、ECS調整剤は、オイル剤、電子タバコで吸うリキッド剤、グミやキャンディ等の製菓の形態とすることが可能である。
【0036】
ECS調整剤とは別に用いる代謝阻害化合物は、特に限定されないが、上述したECS調整剤と同様に、経口剤とすることができる。ただし、代謝阻害化合物は、カンナビノイドとは異なる物性を示すため、油を含む剤以外にも適宜好ましい製剤を選択できる。例えばクエルセチンは水に懸濁した水性懸濁剤とすることができる。
【0037】
食品組成物
本発明の食品組成物は、本発明のECS調整剤を含む。本発明の食品組成物は、対象に摂取させることによって、ECS異常を抑制または改善することができる。
【0038】
ECS異常
ECS異常とは、ECSの機能が弱まることに関連した、食欲、痛み、免疫調整、感情制御、運動機能、発達と老化、神経保護、認知と記憶などの機能の異常を意味する。
【0039】
ECS異常の抑制または改善方法
本発明のECS異常の抑制または改善方法は、本発明のECS調整剤を対象に摂取させる工程を含む。また、本発明のECS異常の抑制または改善方法は、カンナビノイドの代謝を阻害する代謝阻害化合物を対象に摂取させる工程をさらに含んでもよい。
【0040】
医薬組成物
本発明の医薬組成物は、本発明のECS調整剤を含む。本発明の医薬組成物は、対象に投与することによって、ECS異常関連疾患を治療または予防することができる。
【0041】
ECS異常関連疾患
ECS異常関連疾患とは、ECSの機能が弱まることに関連した疾患を意味する。例えば、感染症、がん、うつ、痴呆症(アルツハイマー)、自己免疫疾患、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、多尿症(過活動膀胱)が挙げられる。
【0042】
ECS異常関連疾患の治療または予防方法
本発明のECS異常関連疾患の治療または予防方法は、本発明のECS調整剤を対象に投与する工程を含む。また、本発明のECS異常関連疾患の治療または予防方法は、カンナビノイドの代謝を阻害する代謝阻害化合物を対象に投与する工程をさらに含んでもよい。
【0043】
本発明のECS調整剤によれば、様々なECS異常ないしECS異常関連疾患に対して効果を示す。例えば、様々な免疫系の作用抑制、腫瘍・癌細胞の増殖抑制、神経系変性の保護(パーキンソ病・アルツハイマー病・ALSなど)、殺菌・細菌増殖抑制、動脈閉塞のリスク減少、血糖値の減少、抗うつ作用、小腸収縮抑制、発作とけいれんの抑制、抗けいれん効果、骨の成長促進、抗炎症作用、疼痛緩和、乾癬の治療、睡眠補助などの効果が挙げられる。また、小児や現代病等に対する効果としては、ひきこもりの改善・予防(ゲーム依存症・不眠・昼夜逆転)、記憶力・学習効果の向上、集中力工場、多動性障害(ADHD)改善、不安・恐怖心の軽減、感染症予防、免疫力向上が挙げられる。
【実施例0044】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの記載に限定されるものではない。なお、以下において「mg/mL」などの表記による断りがなく、容量基準などの基準であることが明らかでない限り、「%」及び「部」は質量基準である。
【0045】
カンナビジオール(CBD)の血中濃度推移に及ぼすケルセチン併用の効果
実験方法
1.薬品および標準品
カンナビジオール(CBD)粉末(純度99.8%)はENDOCA社より、ケルセチンおよび内部標準に使用したクロベタゾール(clobetasol, CLB)はSigma-Aldrich社より購入した。移動相作製に使用したギ酸アンモニウムおよびLC/MS(Liquid Chromatography/Mass spectrometry:液体クロマトグラフィー/質量分析法)用メタノールは和光純薬社より、LC/MS用アセトニトリルはSigma-Aldrich社より購入した。
【0046】
2. CBDオイル投与後の血漿中CBD濃度推移の検討
投与液の調製
CBDを中鎖脂肪酸(Medium-chain triglycerides, MCT)オイルに加えて40 mg/mLにし、溶解させたものをCBDオイル投与液とした。また、ケルセチンにMilli-Q(登録商標)水を加え6 mg/mLにし懸濁をしてケルセチン投与液とした。
【0047】
動物試験
Wistar系雄性ラットを用いた。一晩絶食(飲水可)後、イソフルラン麻酔下で大腿動脈へのカニュレーションを施し、固定した。ボールマンゲージに固定後、覚醒下、CBDオイル 10 mg/kg/2.5 mLを胃ゾンデを用いて経口投与した。大腿動脈カニューレにより採血し、1回あたりの採血量は約200 μLとした。採血時間はCBDオイル投与後0.25, 0.5, 2, 5, 8, 12, 24hrとした。採血したサンプルを3000 g, 4℃にて15分間遠心分離し、血漿を分取した。ケルセチン併用試験では、CBD投与の30分前にケルセチン10 mg/kg/2.5 mLを経口投与した。
【0048】
測定サンプル調製
バキュームに固相抽出カラム(Bond Elut Plexa,60 mg,3 mL,Agilent)をセットし、メタノール2 mLの順で添加した(コンディショニング)。CLB100 μLを窒素乾固したチューブに血漿50 μLを添加し、シリカゲルに吸着させた(アプライ)。Milli-Q(登録商標)水:アセトニトリル:氷酢酸(79:20:1) 2 mLにより不純物を除去した後、バキュームで50秒間乾燥させた。その後、1%氷酢酸-アセトニトリル1.5 mLで溶出させた溶出液を窒素乾固し、一晩静置した。翌日80%アセトニトリル-1 mMギ酸アンモニウムを300 μL加え、15 min撹拌後、遠心分離(10000 G,4℃,10 min)した。上清を分取してフィルター(Ekicrodisc(登録商標)3CR,孔径0.45 μL,フィルターサイズ3 mmφ)を用いてろ過し、測定用サンプルを得た。検量線サンプルは図1及び表1に従いCBD及びCLB溶液を各チューブに分注し、窒素乾固させたのちラットのプランク血漿100μLを加えたものを作製し、同様の手順で測定用サンプルを調製した。
【0049】
LC(Liquid Chromatography:液体クロマトグラフィー)条件
高速液体クロマトグラム(High Performance LC)は、島津製作所製のPump Shimadzu LC20AD,AutoSampler Shimadzu SIL20ACを、マススペクトロメーターには、Massspectrometer QTRAP5500 (Absciex社)を用いた。カラムには、Waters X Bridge(登録商標)C18 5 μm, 2.1×10mm Guard Cartridgeを用いた。移動相Aを1 mMギ酸アンモニウム、移動相Bをアセトニトリルとした。移動相Aはギ酸アンモニウム63.06 mgを計量し、Milli-Q(登録商標)水1 Lを加え作製した。オートサンプラー温度は14℃、流速0.3 mL/minでグラジエント分析を行った。グラジエント条件は、移動相Bの割合を、0.01~0.2分まで25%、0.2~2分で50%、8~9分で65%、14~15分で100%まで上げ、20~22分で25%に戻して、30分まで測定した。
【0050】
4. 統計解析
CBDの血中濃度データ及び薬物動態パラメータは、平均値±標準誤差で表した。薬物動態パラメータとしては、AUC(Area Under the Curve:血中濃度下面積)と最高血中濃度(Cmax)を用いた。統計解析にはJMP(登録商標)Pro14 (SAS Institute Inc. Cary, NC, USA)を使用し、薬物動態パラメータについてStudentのt検定を行った。有意水準はp<0.05とした。
【0051】
結果
CBDオイル投与後の血漿中CBD濃度推移
CBDオイル投与後のCBD血中濃度推移に対するケルセチン併用の影響を検討した結果を図1に示す。ケルセチン併用群では非併用群と比べて、投与後の吸収が速く、少なくとも投与後24 hrまで高い血中濃度を示した。ケルセチン非併用群と併用群の、薬物動態パラメータの比較を表1に示す。CBDオイルを10 mg CBD/kg投与時では、ケルセチン10 mg/kgの併用によって、AUC、Cmaxともに有意に高い値を示した。
【表1】
【0052】
考察
CBDオイル10mg/kg投与後のCBD血中濃度は、CYP3A阻害剤であるケルセチン
の併用時、対象群(非併用群)と比較してAUC及びCmaxの有意な上昇がみられた。これによって、ケルセチンのCYP3A阻害作用によりCBDの肝臓における初回通過効果が減少し、血中濃度が上昇したことが明らかとなった。つまり、CBDオイル製剤にケルセチンを併用することで、CBDのバイオアベイラビリティを向上させ、CBDの効果を高めることができた。
図1