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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006829
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】:超時間分解イメージセンサ
(51)【国際特許分類】
   H01L 27/146 20060101AFI20240110BHJP
   H01L 27/144 20060101ALI20240110BHJP
   H04N 25/70 20230101ALI20240110BHJP
【FI】
H01L27/146 A
H01L27/144 K
H04N5/369
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022114373
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】591128888
【氏名又は名称】江藤 剛治
(71)【出願人】
【識別番号】519127030
【氏名又は名称】松長 誠之
(71)【出願人】
【識別番号】522284258
【氏名又は名称】廣瀬 裕
(72)【発明者】
【氏名】江藤 剛治
(72)【発明者】
【氏名】松長 誠之
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 裕
【テーマコード(参考)】
4M118
5C024
【Fターム(参考)】
4M118AA05
4M118AA10
4M118AB01
4M118BA19
4M118CA14
4M118CB01
4M118DA25
4M118DD04
4M118FA06
4M118FA13
4M118GA02
4M118HA22
4M118HA25
5C024GX02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】超高速撮影技術を提供する。
【解決手段】シリコンブランチングイメージセンサは、隣接する縦型転送ゲートの間の空間を光と電子の不透過層で埋め、転送ゲートの電極には光の反射抑制層を付ける。またフォトダイオードの厚さを開口サイズの1/2以下とする。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体デバイスと、
入射電磁波または入射荷電粒子(以後これらを「光」と総称する)を前記の半導体デバイスの上に集光する手段と、
前記の半導体デバイスを制御するとともに、前記の半導体デバイスから出力される信号を処理する手段とを備える撮影手段であって、
前記の光の半導体デバイスへの平均的入射方向を垂直、垂直方向に垂直な方向を水平と呼び、前記の半導体デバイスの光が入射する側の面を裏面、逆の面の近傍を表面側と呼ぶとき、
前記の半導体デバイスは、M行N列(ここにMとNは2以上の整数)の画素を備え、
前記の画素の各々は、
(1)前記の光を電荷に変換する光電変換デバイスと、
(2)前記の光電変換デバイスの水平面における中心から実質的に等距離の位置にあって、前記の電荷を中心から遠方に転送するm個(ここにmは3以上)の電荷転送手段とを備え、
前記の入射光で生じる全電荷数の内、前記の電荷転送手段の周辺を通過するもの、及び前記の光電変換デバイスと前記の電荷転送手段での入射光の反射、回折及び屈折によって生じ、前記の電荷転送手段を通過するものを併せて迷入電荷と呼ぶとき、前記の全電荷数に対する迷入電荷数が占める割合を抑制する手段を備えることを特徴とする。
【請求項2】
請求項1の撮像手段であって、前記の電荷転送手段の各々は、垂直な電極を1個もしくは2個と、その側面にあって、前記の電荷が通過する転送路とを備える縦型転送ゲートから成る。
【請求項3】
請求項2の撮影手段であって、前記の迷入電荷数を抑制する手段が、
電極の表面にあって、前記の入射光の反射を阻害する手段を含む。
【請求項4】
請求項2または請求項3の撮影手段であって、前記の迷入電荷数を抑制する手段が、
隣接する前記の縦型転送ゲートの間の間隙にあって、前記の光、もしくは電荷の通過を抑制する手段を含む。
【請求項5】
請求項1の撮影手段であって、前記の迷入電荷数を抑制する手段が、
裏面に開口部を備える光の入射防止層を備え、前記の開口部の端部が前記の光電変換デバイスの端部に比べて画素中心から見て内側にあるとともに、前記の縦型転送ゲートの電極の画素中心側の端面が前記の光電変換デバイスの端面より中心から見て外側にある。
【請求項6】
請求項1の撮影手段であって、前記の迷入電荷数を抑制する手段が、
前記の光電変換デバイスの水平方向の最大距離が垂直方向の長さの2倍以上であることであることを含む。
【請求項7】
請求項1の撮影手段であって、前記の迷入電荷数を抑制する手段が、
前記の光電変換デバイスの可視光の吸収係数が実質的にシリコンの吸収係数の2倍以上であることを含む。
【請求項8】
請求項1の撮影手段であって、前記の迷入電荷数を抑制する手段が、
前記の電荷転送手段の後段に、前記の電荷転送手段から転送される電荷を保存する手段を備え、前記の電荷保存手段が、前記の電荷転送手段を延長した面外に位置する。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれかの撮影手段であって、前記の光電変換デバイスが、異なる種類の半導体を積層して成る。
【請求項10】
請求項9の撮影手段であって、前記の異なる種類の半導体がシリコンとゲルマニウム、またはInGaAsとInPである。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれかの撮影手段であって、前記の光電変換デバイスがゲルマニウムを主たる構成要素とする光電変換材料から成り、前記の光電変換デバイスの外部の領域はシリコンを主たる構成要素とする半導体から成る。
【請求項12】
請求項11の撮影手段であって、前記の光電変換デバイスがゲルマニウムを主たる構成要素とする光電変換材料から成り、前記の光電変換デバイスの外部の領域はシリコンを主たる構成要素とする半導体から成るとともに、前記の光電変換デバイスの平面形状が正方形であるとともに、前記の電荷転送手段は前記の光電変換デバイスの平面形状と同心の正方形上にある。
【請求項13】
請求項11の撮影手段であって、正方形上に位置する光電変換デバイスの数は2以下である。
【請求項13】
請求項1から10までのいずれかの撮影手段であって、前記の光電変換デバイスがInGaAsを主たる構成要素とする光電変換材料から成り、前記の光電変換デバイスの外部の領域はInPを主たる構成要素とする半導体から成る。
【請求項14】
請求項1から14までのいずれかの撮影手段であって、いずれかのゲートの電極に異なる電圧が加えられる2個以上のコンタクトを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超高速撮影技術に関する。
【背景技術】
(バーストイメージセンサ)
【0002】
非常に小さいフレームインタバルの超高速撮影ではバーストイメージセンサが使われる。
【0003】
バーストイメージセンサは、各画素内に画像信号のその場保存要素(以後「保存要素」と呼ぶ)を複数個備え、撮影操作中は、生成した画像信号を順次保存要素に保存する。従ってフレームインタバルは、各画素の光電変換部から隣接する保存要素までの電子の転送時間という極めて短い時間になる。
【0004】
フレームレート(撮影速度)はフレームインタバルの逆数であるから、バーストイメージセンサは撮影枚数が少ないものの、原理的に限界の超高速撮影を可能にする。
【0005】
撮影後、画像信号を画素内の保存要素からゆっくり読み出す。
(ブランチングイメージセンサ)
【0006】
裏面照射イメージセンサでは光の入射面を裏面、逆の面側を表面側と呼ぶ.以下の説明では、裏面方向を上方向、表面方向を下方向と呼ぶ。
【0007】
図1はブランチングイメージセンサの1画素の例100を示す。このセンサは裏面照射イメージセンサであり、画素中心に光電変換層101を備え、光電変換層から降りてきた信号電子をセンターゲート102から放射方向に配置した8個の転送ゲート103で順次信号電荷の保存要素104に送る。
【0008】
この場合、保存要素はフローティングディフュージョン(以後「FD」と呼ぶ)が兼ねている。従って光電変換層から各保存要素に対して同じ時間で、かつ最小時間で信号電子を転送できる(特許文献1)。
【0009】
また光電変換層から保存要素までの経路を空乏化することにより、原理的にノイズレスで画像信号を転送できる。
(裏面照射接合型イメージセンサ)
【0010】
このように各画素に、光電変換層を1個と、信号電子の転送デバイスと保存要素の組を複数個備える半導体チップを第1の半導体チップと呼ぶことにする。
【0011】
第1の半導体チップを裏面照射センサチップにすると、表側に第2の半導体チップを接合することができる。第2の半導体チップ上に、各画素または近接する画素からなる画素群を駆動するドライバ回路を載せることにより、両チップから成るイメージセンサを超高速駆動できる。
【0012】
通常の表面照射のイメージセンサでは駆動電圧を送付するためのドライバ回路を受光面の両側に備える。この場合、駆動電圧の送付距離は受光面の両端から受光面の中央までの水平距離であるから数mm、すなわち数1000μmである。
【0013】
画素サイズは数μmであるから、その間に1列だけで1000個程度の画素がある。通常の表面照射のイメージセンサではこれらの多数の画素を、一組の配線を通して送られる駆動電圧群で駆動する。
【0014】
接合型の裏面照射イメージセンサでは表面側の第2の半導体チップに各画素(群)を駆動するための多数のドライバ回路を載せることができる。
【0015】
この場合、駆動電圧の送付距離は数μmから数10μmである。また一組の駆動電圧で駆動される画素の数は多くても数列×数行、すなわち数10個である。
【0016】
駆動電圧の送付距離が1/100から1/1000になることと、一組の駆動電圧で駆動する画素の数が激減することで、ドライバ回路を搭載した第2のチップを接合した裏面照射イメージセンサでは、表面照射のイメージセンサに比べて、各画素を同時に超高速駆動できる。
【0017】
(シリコン裏面照射イメージセンサの限界時間分解能)
通常のイメージセンサはシリコンで作られる。例えばシリコンへの550nmの緑色光の平均侵入深さは約1.73μmである。この値は文献で異なる。採用した1.73μmという値は安全側となるように選んだ大きめの値である。
【0018】
赤色光まで考慮すると、図1での光電変換層層の厚さ105は最低3μm必要である。この厚さをDとする。
【0019】
通常のイメージセンサでは,信号電子を、第1の半導体チップの表面側の絶縁層の表面側(下側)に備えた水平電極に加える電圧を変えて水平方向に転送する。このようなゲートを水平転送ゲート(Flat Transfer Gate、FTG))と呼ぶ。今後これらのゲートをFTGと書く。
【0020】
図2はFTGを備えるブランチングイメージセンサを示している。
【0021】
FTGの水平電極の狭い方の幅106をWとする。
【0022】
図2(a)には信号電子の転送路107、108を示す。1個の転送路107には高い電圧VHが、残りの7個の転送路108には低い電圧VLがかけられている。ここに、転送ゲートの電極にコンタクトから2値の電圧が送られる場合、高い方をVH、低い方をVLと書く。以後も、VH、VLについては同様の定義とする。
【0023】
図2(b)は図2(a)におけるB-B’断面の断面図である。
【0024】
水平電極に加える電圧で、直上の半導体層の中の電位が変化するが、電位が有効に変化する層109の厚さ(高さ)HはWと同程度かWより小さい。最近のイメージセンサではWは大きくても数100nmである。すなわちシリコンイメージセンサではD(数μm)>W(数100nm)>Hである。
【0025】
従って、図1が端的に示しているように、これまでのブランチングイメージセンサでは、信号電子はまず厚さ数μm(W)の光電変換層内を垂直転送し、その後数100nm(H)の厚さ109の転送路層110を水平転送する。
【0026】
このため時間分解能は光電変換層領域での深さ方向への信号転送に要する時間に依存する。
【0027】
光電変換層に短いパルス光が入射すると、各深さでの光の強度は指数分布に従って減衰する。この光により、深さ方向に指数分布に従う数の信号電子が瞬時に生成する。
【0028】
これらの各信号電子の生成位置から光電変換層の下端までの平均到達時間は、走行距離をドリフト速度で割ったものになる。距離が指数分布するので、各信号電子に対しては,平均到達時間も指数分布する。ただし光電変換層の厚さはDであるから、Dより深い部分が切れた指数分布(Truncated Exponential Distribution)となる。この効果による光電変換層下端までの到達時間分布の広がりを混合効果と呼ぶ。
【0029】
各電子の到達時間は、生成位置の深さから光電変換層の底面までの距離を走行する間、拡散効果によりさらに広がる
【0030】
本発明の発明者らは、このような垂直混合拡散を対象として、イメージセンサの理論的な限界時間分解能の式を導いた。
【0031】
シリコン光電変換層内での垂直混合拡散による信号電荷の限界時間分解能は理論的に11.1psである(非特許文献1、非特許文献2)。撮影速度に換算すると約1000億枚/秒である。
【0032】
ほとんどのイメージセンサはシリコン半導体である。従って11.1psより短い時間分解能をスーパー時間分解と呼ぶことにした。
【0033】
現在、世界最高速クラスのバーストイメージセンサの時間分解能は約10nsである(非特許文献3)。撮影速度に換算すると1億枚/秒である。従って撮影速度については約1000倍の改善余地がある。
(VTG)
【0034】
これに対して、図3(b)に示す様に、酸化膜111の直上の転送路114、115の転送方向に垂直の2枚の平行する電極を置き、2枚の電極で挟まれる領域を電子の転送路とし、これらの電極に加える電圧を変えることにより、平行電極間を通過する電子の移動を制御することもできる。
【0035】
このようなゲートを縦型転送ゲート(Vertical Tranmsfer Gate)116と呼ぶ。以後これをVTGで表す。図3(b)ではVTGは水平電極の上に建てられ、凹の字型の内部の空間が転送路になっている。
【0036】
VTGは1個の垂直電極で作ることもできる。水平電極の中央に1本の垂直電極を立て凸の字型にすると、底部だけでなく、垂直電極の両側を電荷が流れ、水平電極だけの場合に対して電荷転送量を大きくできる。また光電変換層の同じ口径に対して、凹の字型に比べて電荷転送路数を増やすことができる。しかし、隣接する転送路間の信号電荷間のクロストークが大きくなる。
【0037】
VTGの底部の水平電極の長さは、垂直部の長さと同じである必要はない。
【0038】
武藤はシリコンのブランチングイメージセンサに凹の字型のVTGを適用することを提案した。これにより、光電変換層領域から転送ゲートまでの全深さにわたって信号電子の転送方向を実質的に水平方向にすることができる(非特許文献4)。
【0039】
なお武藤の報告の内容は本発明の発明者の一人である江藤との意見交換が活かされていることは謝辞に述べられている。
(迷光と迷入電子によるクロストークとディープトレンチ)
【0040】
これまでの垂直電極の高さは数10nmから数100nmであった。
【0041】
初期の裏面照射イメージセンサでは、各画素面積の大部分で受光でき、感度が上がるという長所があった。一方で、斜めに入射する光の隣接する画素への迷入や、生成した電子の迷入による大きなクロストークが問題になった。シリコンへの可視光の侵入長は数μmである。従ってイメージセンサではこれらの迷光や迷入電子を防ぐために狭くて深いトレンチで光電変換層を囲む技術が開発された。このようなトレンチをディープトレンチと呼ぶ。
【0042】
図1のブランチングイメージセンサでは、光電変換層の周辺に複数の転送ゲート、保存要素等がある。これらの周辺要素への迷光や電子の迷入を防ぐために、光電変換層もディープトレンチで囲まれている(光電変換層まわりのディープトレンチは図示していない)。
【0043】
ブランチングイメージセンサでは迷光と迷入電子対策は非常に重要な課題である。
【0044】
例えば図3の構造では連続8枚撮影できるが、1枚目の信号電荷パケットを保存した後、8枚目を保存する間に7枚を撮影する間に迷入電子(以下、迷光で生じる分も含む)が1枚目の信号電荷に加算される。
【0045】
ブランチングイメージセンサは超高速撮影に使われるので、撮影期間の照明強度は非常に強い。従って迷入電子の課題はより深刻である。
【0046】
ブランチングイメージセンサの撮影枚数は少ないのでマクロピクセルの導入は不可欠である。マクロピクセルとは隣接する複数の画素を併せて機能させる場合の画素群である。
【0047】
例えば2×2画素をマクロピクセルとして32(=8×4)枚を連続撮影する場合は、1枚目の信号電荷を保存後、31枚の画像を撮影する間、迷入電子が1枚目の画像信号電荷の記録要素に迷入し続けるので、迷入電子の課題はさらに深刻になる。
【0048】
従って迷入電子の影響を徹底的に防止する必要がある。対策にはハード的な手段とソフト的な手段がある。
【0049】
ハード的な手段は2つある。一つは迷入電子の防止である。他はドレーンである。
【0050】
高性能のドレーンは2×2マクロピクセル技術を使う場合には必須である。4個の内の1個の画素での撮影が終わったのち、隣接する他の3個の画素で画像信号を記録中に強い照明が被写体に当たり続けるからである。
【0051】
ドレーンは撮影後の読出し中の暗電流や暗電流に起因する迷入電子の防止対策としても重要である。
【0052】
ドレ―ンとしては、垂直オーバーフロードレーン(既存技術)と、8個の転送ゲートの一つをドレーンとして使う場合がある。
【0053】
垂直オーバーフロードレーンでは、光電変換層領域の下部にp-well、その下に電極を設けておき、撮影後はこの電極に高い電圧をかけ、p-wellのポテンシャルバリアを無くしてこの電極から暗電流を素子の外部に排出する。
【0054】
図3ではFD117が保存要素を兼用している。FDを経由して隣接するドレーン118に不要電荷を排出する場合の信号電子の転送経路119も図中に示している。この場合、撮影枚数は7枚となる。また2×2マクロピクセルに対しては撮影枚数は28枚になる。
【0055】
特にゲルマニウムやInGaAsのような光電変換材料を使う場合は、撮影後の長い読出し時間の間に光電変換層で大きな暗電流が生じる。
【0056】
転送ゲートから記録要素、読出し回路までをシリコンで作ると、これらの領域で読出し中に生じる暗電流は大きく軽減される。従ってこの場合は、光電変換層領域からの暗電流による迷入電子も大きな課題として残る。
【0057】
ソフト的な手段は、撮影と画像信号読出し後のポスト画像信号処理である。例えば、1枚目の保存電子パケットの電子数は、1枚目の画像信号に相当する電子数と、2枚目から8枚目を撮影中の7枚分の迷入電子数の和になっている。
【0058】
2枚目から8枚目の内の1枚、即ちN枚目(N=2から8)を撮影中の迷入電子数は、N枚目の画像信号に相当する電子数に比例する。
【0059】
このような関係を行列表示し、解けば1枚目から8枚目の画像信号数を計算できる。
【0060】
しかし、ソフト的な方法はあくまで補助的な手段で、ハード的な手段で極力迷入電子を抑制し、その上で取りうる手段を全て適用して迷入電子の影響を除去する必要がある。
(ゲルマニウムとInGaAsの吸収係数)
【0061】
図4はシリコン120、ゲルマニウム121、InGaAs122の光電変換材料の入射光の波長に対する吸収係数を示す。ゲルマニウム、InGaAsの吸収係数はシリコンの数10倍である。従って同一の波長の光に対して、光電変換に必要な光電変換層の厚さはシリコンのそれの数10分の1になる。
(ゲルマニウム光電変換層の暗電流と抑制)
【0062】
本発明の発明者らは、可視光撮影に対して、シリコンに代えて、ゲルマニウムやInGaAsのような吸収係数のはるかに大きい光電変換材料を用いることにより、限界時間分解能を大きく改善できることを示した。ゲルマニウム光電変換層では1ps以下の時間分解能を達成できる(特許文献2、非特許文献5)。
【0063】
ゲルマニウムやInGaAsの暗電流はシリコンのそれに比べて非常に大きい。しかしフレームインタバルが1ナノ秒程度以下になると、その間に生じる暗電流はゲルマニウムの場合であっても小さい。
【0064】
読出しノイズは読出しフレームインタバルの平方根に逆比例する。従って空乏層内での完全転送による低ノイズ特性を享受するには、読出し速度をあまり速くすることはできない。
【0065】
バーストイメージセンサでは読出し操作の時間が撮影に要する時間に比べて数桁長い。従って光電変換層領域はゲルマニウム等であっても、転送ゲートと、さらにその外部の信号電子の保存領域と、撮影後の信号読出し回路をシリコンで作り、PD領域には高性能のドレーンをつけて読出し時間中に光電変換層領域で生じる暗電流を排出すれば、読出し時間中に光電変換層領域で生成し、保存要素で保存されている信号電荷に迷入する暗電流を効果的に抑制できる。
【0066】
読出し操作時間中に生じる暗電流を効果的に減らす他の方法もある。例えば、各画素、もしくは離接する一組の画素から成るマクロ画素に対して1個のADコンバータを備え、各画素で保存領域に保存されているアナログ信号を、撮影直後に、画素単位で一斉にデジタル信号に変換してその場保存する。これに要する時間は、その後の読み出し時間に比べて十分短い。従って読出し時間中に生成する暗電流の影響を最小限に抑えることができる。
(ゲルマニウム光電変換層の消費電力)
【0067】
図5にシリコンとゲルマニウムの電界に対する電子のドリフト速度と拡散係数の図を示す。シリコン中の電子のドリフト速度123もゲルマニウム中のドリフト速度124も電界に対して単調増加し、やがて飽和ドリフト速度に達する。シリコンとゲルマニウム中の電子の進行方向の拡散係数125、126は、電界に対してドリフト速度が増加する範囲では単調減少する。また飽和ドリフト速度に対して実質的に最小値を取る。
【0068】
ドリフト速度が飽和ドリフト速度の95%になる時の電界を限界電界と呼ぶことにする。また限界電界に対するドリフト速度と拡散係数を限界ドリフト速度、限界拡散係数と呼ぶことにする。
【0069】
真性シリコンの限界電界と限界ドリフト速度は25kV/cmと9.1×10**6cm/secである。ゲルマニウムの限界電界と限界ドリフト速度は4kV/cmと5.8×10**6cm/secである。ここに**は「乗」を表す。従って、同じドリフト速度で転送する場合に、ゲルマニウム層ではシリコン層の1/4(=4/25×9.1/5.8)の電圧差で駆動できる。駆動に伴う消費電力は電圧差の2乗に比例するので、ゲルマニウムではシリコンの場合の1/16の消費電力で信号電荷を転送できる。
(シリコン拡散層で囲まれたゲルマニウムPD)
【0070】
図3で、転送路の1個114の電極に相対的に高い電圧を加えると、信号電子は、より高い電圧が加えられている外側のFD117に出る。直後に転送ゲート114には相対的に低い電圧が付加され、隣の転送ゲートに高い電圧が加えられる。従って転送ゲート114から一旦外に出た信号電子は転送ゲートの内側には戻れない。
【0071】
従って時間分解能は光電変換層領域で生成した電子が転送ゲートの1個を通過するまでの時間で規制される。従って光電変換層領域から転送ゲートについてはできる限りの高速転送を達成する。外部の領域は1桁程度遅い速度で転送して良い。
【0072】
従って光電変換層領域をゲルマニウムやInGaAsとする場合でも、センターゲートの外の領域は同じ電界に対してドリフト速度は小さいが、ノイズの少ないシリコンやInPで作る方が良い。
【0073】
シリコン層をエッチングしてゲルマニウムによる光電変換層層を形成する場合、できるだけ結晶性の良いゲルマニウム層を成長させるには、シリコン層の表面が(100)面の場合、シリコン側面は(100)の垂直面、もしくは(111)の54.7°の斜面であることが望ましい。
【0074】
図6はシリコン層のウエットエッチングの例を示す。この場合の斜面は(111)結晶面で、斜面は鏡面となる。
【0075】
光電変換層がゲルマニウムで周囲がシリコン層の場合、結晶方向を一致させるために平面形状は正方形で、4個の斜面は同一の結晶面であることが望ましい。
【0076】
例えば図7の場合はシリコン光電変換層領域が正方形127で、センターゲート128が6角形である。転送ゲート129はセンターゲートの辺上に配置されている。
【0077】
このために、画素中心から光電変換層のコーナーを通る経路130と辺部分を通る経路131に沿うポテンシャルプロファイル132、133が大きく異なり、転送時間が大きく異なることがわかっている(非特許文献6)。
【0078】
非特許文献6に示す様に、不純物濃度分布の注意深い調整で、設計上はポテンシャルプロファイルを合わせることは可能である。しかし、設計に大きな労力がかかる上に、このような微妙な調整をしても、実際のプロセスにおける不純物打ち込み条件の揺らぎ等のために、転送路間の転送時間に大きなずれが生じるリスクが伴う。
(レジスティブゲート)
【0079】
図8に示す様に、通常のイメージセンサのゲートは電極134に1個のコンタクト135を持つ。これに対して図8に示す様に電極の両端に2つのコンタクト136を備え、異なる電圧を与えるゲート構造をレジスティブゲート137と呼ぶ。2つのコンタクトの間を流れる電流を極力減らすために、10**16/cm**3程度の高抵抗電極を使用するからである。
【0080】
コンタクトが1個の通常のゲートの場合、ゲート中央部で電子の移動経路138に沿う電界139がややフラットになり電荷の転送速度が遅くなる。一方、レジスティブゲートの場合、電界140が直線化され、超高速駆動に有利である。
【0081】
レジスティブゲートをブランチングイメージセンサに適用するとする(特許文献4)。センターゲートが通常のゲートの場合とレジスティブゲートの場合をシミュレーションで比較した例を図9に示す。図では光電変換層領域の下部に電子を1個置いた場合のシミュレーション例を比較している。
【0082】
センターゲート141が8個のコンタクト142を備えるレジスティブゲートの場合143に対して濃度と電圧を最適化した条件で、コンタクトを中央の1個144にした通常ゲートの場合145をシミュレーションしている。
【0083】
従ってやや過度にレジスティブセンターゲートが有利な条件になっているが、転送ゲートまでの到達時間はレジスティブゲートの場合は10ps程度であるのに対し、通常ゲートでは100ps程度になっている。
【0084】
その後、それぞれを最適化して比較した場合でも、レジスティブゲートの到達時間が通常ゲートの場合の1/3から1/5になる。
(生体の窓)
【0085】
図10は波長に対するヘモグロビンの吸収係数141と水の吸収係数142を示す(非特許文献7)。
【0086】
波長650nm付近から900nmで両者を併せた吸収係数が低い。以前はこの領域143を「生体の窓」と呼んでいた。
【0087】
実際の生体計測では脂肪や細胞内外の微細構造による散乱の影響が非常に大きい。光エネルギーの吸収損失が同じでも、大きく広がって見えるので実際の計測上大きな障害になる。従ってこれらの影響を含めたいくつかの「生体の窓」の定義が示されている。
【0088】
図11はその例である(非特許文献8)。波長1000nm以下では散乱144の影響が大きい。また図には示されていないが生体要素からの自発光蛍光が大きい。
【0089】
従って最近は700nmから1000nmを第1の生体の窓145、1000nmから1400nmを第2の生体の窓146、1500nmから1800nmを第3の生体の窓147と呼ぶことが多い。
【0090】
そのため、第2の生体の窓、第3の生体の窓に対する蛍光体やイメージセンサなどの開発が進められている。
【0091】
これらの光を用いて可視化するにはゲルマニウムやInGaAs等の従来から近赤外線での画像計測に用いられてきた光電変換材料が有効である。
【0092】
また生体の窓での計測と、スーパー時間分解に近い超高速撮影との組み合わせは、原理的に全く新しい生体の観察技術を提供する。
【0093】
例えば、光は生体中を10psで約2mm進む。皮下20mmにある乳がん細胞から発した近赤外光は100ps後に表面に届く。この光は直進した光であり、がん細胞とカメラを結ぶ直線と皮膚の交点のまわりの数mmの狭い範囲で撮影される。続いて散乱を受けた光が、到着が遅いほど中心から広がって表面に届く。
【0094】
こうした光を10psごとに撮影した10枚以上の画像を逆解析すれば、1回の撮影で空間分解能数mmで乳がんを可視化できる。
【0095】
この技術は、X線CT等と空間分解能は同程度であるが、無害である。
【発明が解決しようとする課題】
【0096】
本発明の基本的な課題は、ブランチングイメージセンサ構造に対して、シリコン光電変換層内での垂直転送時間に基づく時間分解能の限界11.1psを越える時間分解能を達成することである。
【0097】
このために、FTGを背の高いVTGに代えて、信号電荷の垂直転送を実質的に排除して水平転送のみで転送すること(非特許文献4)や、シリコンを吸収係数が高い光電変換材料に代えて光電変換層の厚さを薄くし、垂直転送時間を短縮する(特許文献2、非特許文献5)ことが提案されている。
【0098】
本発明の課題は、これらの提案に伴って生じる不都合を解消することと、これらの組み合わせで新たなメリットを生み出すことである。
【0099】
例えば、背の高いVTGと光電変換層まわりのディープトレンチは競合関係にあるので、背の高いVTGの採用で、光電変換層から転送ゲートの外側への迷光や迷入電子が大きくなる。
【0100】
とくにブランチングメージセンサでは、1枚目の画像信号を保存した後、引き続き画素中心の光電変換層から他の複数個のメモリ要素に画像信号を転送するので、この間の迷光や迷入電子の抑制が、通常のイメージセンサの場合よりはるかに重要になる。
【0101】
一方、高い吸収係数の光電変換材料を用いると垂直転送時間の短縮による時間分解能の向上ができるだけでなく、光電変換層層の厚さが薄くなるので、厚さに逆比例して迷光や迷入電子が小さくなる。
【0102】
ただし、吸収係数の高いゲルマニウムやInGaAs等の光電変換材料は低いエネルギーバンドのために暗電流が大きい。しかし超高速撮影では1フレーム当たりの暗電流は小さい。
【0103】
一方、ブランチングイメージセンサでは、撮影後の信号読出し時間は長い。従って光電変換層の外側領域はエネルギーバンドが高く暗電流が小さいシリコンやInP等で作ることが望ましい。
【0104】
ただし、光電変換層と外部領域を別の半導体材料で作ると、結晶定数と結晶方位の関係によって、光電変換層形状等に制限が生じる。
【0105】
一方、VTGと高吸収係数の光電変換材料の併用で、それぞれを単一利用する場合では得られない新たな機能をブランチングゲートイメージセンサに付与することができる。
先行技術文献
特許文献
【0106】
【特許文献1】江藤剛治・山田哲生・ツルオン ソン ダオ、特願2014-502360、特許6188679
【特許文献2】志村考功・渡部平司・江藤剛治、特願2020-105037、特開2021―197523
【特許文献3】江藤剛治・松長誠之、特願2019―073808
【特許文献4】志村考功・渡部平司・江藤剛治・松長誠之・武藤秀樹 特願2021―082593
【特許文献5】江藤剛治・エドアルド シャルボン 特願 2016―506440
【特許文献6】江藤剛治、特開 2019―161211
非特許文献
【0107】
【非特許文献1】Takeharu Goji Etoh,et al.,The theoretical highest frame rate of silicon image sensors,Sensors,Vo.17,No.3,2017.DOI:10.3390/s17030483
【非特許文献2】江藤剛治:「超高速カメラ開発の歴史と展望」,応用物理,Vol.90,No.6,2021.
【非特許文献3】Takeharu Goji Etoh,et al.,Light-In-Flight Imaging by a Silicon Image Sensor:Toward the Theoretical Highest Frame Rate,Sensors,Vol.19,No.10,2019.DOI:10.3390/s19102247
【非特許文献4】武藤秀樹:縦型転送ゲートの電荷転送解析シミュレーションと高速イメージセンサへの適用,映像情報メディア学会技術報告,46(14),2022.
【非特許文献5】Nguyen Hoai Ngo,et al.,Toward the Super Temporal Resolution Image Sensor with a Germanium Photodiode for Visible Light,Sensors,Vol.20,No.23,2020. DOI:10.3390/s20236895
【非特許文献6】Nguyen Hoai Ngo,et al.,A pixel design of a Branching Ultra-Highspeed Image Sensor,Vol.21,No.7,2021;DOI:10.3390/s21072506
【非特許文献7】川上淳:科研基盤研究C報告書課題番号16K05805 16K05805研究成果報告書(nii.ac.jp)
【非特許文献8】曽我公平:ドージンニューズ DOJIN NEWS/Review(dojindo.co.jp)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0108】
ブランチングイメージセンサであって、前記の入射光で生じる全電荷数の内、電荷転送手段の周辺を通過するもの、及び光電変換デバイスと電荷転送手段での入射光の反射、回折及び屈折によって生じ、前記の電荷転送手段を通過する電荷を併せて迷入電荷と呼ぶとき、入射光で生じる全電荷数に対して、迷入電荷数が占める割合を抑制する手段を備えることにより、
隣接する保存要素に順次転送されて保存される電荷量の間のクロストークの増大による時間分解能の低下を防ぐことができる。
【0109】
前記の迷入電荷数の抑制手段を備えるブランチングイメージセンサであって、電荷転送手段の各々は、垂直な電極を1個もしくは2個と、その側面にあって、前記の電荷が通過する転送路とを備えるVTGから成ることにより、
光電変換層における信号電荷の転送方向を実質的に垂直転送から水平転送に代えることによる時間分解の向上ができ、同時に、迷入電荷の抑制手段を備えているのでその欠点を補える。
【0110】
例えば、電極の表面にあって、入射光の反射を阻害する手段により、迷入電荷数が抑制される。
【0111】
また、隣接するVTGの間の間隙にあって、光、もしくは電荷の通過を抑制する手段により、迷入電荷数が軽減される。
【0112】
また、裏面に開口部を備える光の入射防止層を備え、開口部の端部が光電変換デバイスの端部に比べて画素中心に近く、さらに縦型転送電極が光電変換デバイスの外側に位置することにより、迷入電荷数が軽減される。
【0113】
さらに、前記の光電変換デバイスの水平方向の最大距離が垂直方向の長さの2倍以上であることであることにより、
光電変換デバイスの端部への入射光の回折と、斜め入射光で生成する電荷の全生成電荷に占める割合を効果的に減らすことができ、端部で生成する電荷数に強く依存する迷入電子の割合を効果的に減らすことができる。
【0114】
また光電変換デバイスの水平方向の最大距離が垂直方向の長さの2倍以上であることであることもまた、迷入電子数の抑制に貢献する。
すなわち、全入射光の内、クロストーク要因となる入射光は、主として光電変換デバイスの開口部の端部に入射する光である。深さに対して開口部の口径の比(アスペクト比)が2倍以上になると、全開口面積に対する端部面積(端部の長さ×迷光の原因となる光の入射や回折幅)の比は1/2以下になり、端部への入射光で生成する電荷の全生成電荷に占める割合を1/2以下に減らすことができ、端部で生成する電荷数に実質的に比例する迷入電子数も1/2以下に減らすことができる。
【0115】
また、光電変換デバイスの可視光の吸収係数が実質的にシリコンの吸収係数の2倍以上であることにより、
同じ口径の光電変換デバイスに対してアスペクト比が2以上になり、端部で生成する電荷数に強く依存する迷入電子数の割合を、アスペクト比が1の場合に比べて1/2以下に減らすことができる。
【0116】
なお、VTGを備え、限界に近い撮影速度のシリコンブランチングイメージセンサのアスペクト比は1に近い。なぜなら光電変換層の厚さは光の平均侵入深さ程度であり、一方、VTGの採用で光電変換層での垂直転送による時間分解能の制限を超えるには、光電変換層の水平サイズは光の平均侵入深さ以下でなければならないからである。
【0117】
また、電荷転送手段の後段にあって電荷転送手段を延長した面外に位置する画像信号の保存手段を備えることにより、電荷転送手段を通る迷光が前記の画像信号保存手段に迷入する確率を効果的に下げることができる。
【0118】
さらに、前記の光電変換デバイスが、異なる種類の半導体を積層して成ることにより、例えばこれらが200nm程度の薄いシリコンと1μm程度のゲルマニウムの組み合わせであると、近紫外光はシリコン部分で、近赤外光はゲルマニウムで光電変換でき、可視光から、生体の光の窓にわたる非常に広い波長幅で超高速撮影ができる。
【0119】
InPとInGaAsの組み合わせでも同じである。要は結晶定数が近く、バンドギャップが大きく異なる材料の組み合わせであれば良い。
【0120】
上記は垂直方向に積層した場合のメリットであるが、水平方向でも同じ組み合わせに効果がある。近赤外撮影を行うにはバンドギャップの小さいゲルマニウムやInGaAs等を使う。周辺回路は読出し中の暗電流を抑制するために、バンドギャップの大きいSiやInPを使う。
【0121】
特に、光電変換デバイスがゲルマニウムで、外部の回路領域がシリコンの場合は、シリコンのエッチングプロセスとその後のゲルマニウム光電変換層の成長プロセスにおける結晶方位の整合性を保つために、ゲルマニウム光電変換層の平面形状は正方形が望ましい。
【0122】
また、正方形光電変換層の各辺には2個の転送ゲートを備えることが望ましい。
【0123】
3個以上であると、光電変換層の各辺から3個の転送ゲートまでの距離が異なるか、もしこの距離を同じにすると画素中心からの距離が異なる。
【0124】
いずれの場合でも、3個以上の転送路におけるポテンシャルプロファイルが異なり、転送時間が異なる。
【0125】
3個以上の転送路への不純物濃度分布を微妙に調整すれば計算上転送時間を合わせることができるが、多大な労力を必要とする上に、マスクの増加などでプロセス費用が増大する。
【0126】
各辺に対する転送ゲートの数が1個または2個であるとこの課題を回避できる。
【0127】
一般的にはメモリ数が多い2個(合計8個)が望ましいが、小さい画素や、距離レンジが小さくて良い間接TOF(Time-of-Flight)等への適用では1辺あたり1個(合計4個)でも良い。画素サイズが小さくなるので画素数を増やして交換解像力を上げることができる。
【0128】
またセンターゲートがレジスティブゲートであることにより、さらに短いフレームインタバルを達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0129】
図1】ブランチングイメージセンサの画素の例(立体図)
図2】FTGを備えるブランチングイメージセンサの画素の例
図3】VTGを備えるブランチングイメージセンサの画素の例
図4】波長に対するシリコン、ゲルマニウム、InGaAsの吸収係数
図5】電界に対する真性シリコンと真性ゲルマニウムのドリフト速度と拡散係数
図6】シリコン層のウェットエッチングでできた(111)面を持つ逆ピラミッド
図7】正方形の光電変換層と6角形のセンターゲートを持つブランチングイメージセンサにおける転送経路の違いによるポテンシャルプロファイルの違い
図8】通常のレジスティブゲートの説明図
図9】ブランチングイメージセンサのセンターゲートにレジスティブゲートを適用したときの効果
図10】ヘモグロビンと水の吸収係数から定義した生体の窓
図11】生体の窓の最近の定義
図12】本発明の第1の実施の形態の1画素の平面図と断面図
図13】第1の実施の形態の3×3画素の平面図
図14】第2の実施の形態の1画素の平面図
図15】第3の実施の形態の1画素の平面図
【発明を実施するための形態】
(第1の実施の形態)
(第1の実施の形態の構造)
【0130】
図12に本発明の第1の実施の形態の1画素の平面図200とX-X‘とY-Y’の断面図201,202を示す。
【0131】
実際には総画素数は1000×1000である。全画素(受光面)は描けない。描いても概念的なものとなり、画素間の接合関係を示すことはできない。そのため図13に3×3画素203を示す。
【0132】
イメージセンサは一般的に受光面の外部に駆動回路の一部と撮影した信号の読出し回路を備えるが、一般的な技術であるので図は割愛している。
【0133】
本発明のイメージセンサは裏面照射型で、表面側に駆動回路の載った構造を持つ。このような構造は現在では一般的であり、特許文献5、特許文献6等でも接合構造の概念的な説明図を示しているので、本明細書では割愛する。
【0134】
画素サイズは5μmである。中央の光電変換層204の水平サイズは2.5μmである。
【0135】
また光電変換層部分の厚さ205は1μmであるが、X-X‘断面図201に示す通り、上層(裏面側)が厚さ200nmのシリコン層206、下層が厚さ800nmのゲルマニウム層207からなる。
【0136】
また遮光層208を備えている。遮光層の中心側エッジ209は光電変換層層の端部210よりも中心側に張り出している。開口部(受光面)の辺長は2μmである。
【0137】
VTGの中心側エッジ212は光電変換層領域のエッジより100nm外側の正方形の辺上に位置している。
【0138】
各辺に2個づつで合計8個のVTG211を備える。
【0139】
各VTGの外部に信号電荷のメモリゲート213、以下、信号電荷の転送方向214に沿って、バリアゲート215、FD216、リセットゲート(以下「RS」と書く)217、ドレーン218が続く。
【0140】
各VTGは2枚の垂直電極219と酸化膜220の下の水平電極221から成る。
【0141】
また隣接するVTGの間には、VTGと同じ高さの縦型遮光膜222が立てられている。
【0142】
またVTGの平面電極部分の表面には厚さ100nmの酸化シリコンと窒化ケイ素の互層からなる反射防止膜223を成長させており、裏面からVTGに斜めに入射した光の上方への反射による信号電荷のメモリゲートへの迷入を阻害している。
(第1の実施の形態の機能)
【0143】
VTGを備えるブランチングイメージセンサは、信号電子の運動を実質的に水平のみにすることで、光電変換層内の信号電子の垂直転送による限界時間分解能の条件を超えることができる。
【0144】
一方、シリコンイメージセンサでは信号電子の転送経路の高さが数μmに及ぶので、対策を講じなければ中心から全方向への迷光や迷入電子が非常に大きい。
【0145】
まず、縦型遮光膜222により、迷光や迷入電子の外部への経路を転送ゲートの内側だけに限ることができ、光電変換層の辺長に対する8個のVTGの開口部(転送路)の総延長の比から、迷光や迷入電子数を1/4程度に抑制することができることがわかる。
【0146】
また、裏面の遮光層208の開口部、光電変換層層の外縁、VTGの内縁が順次外側に広がっているので、斜め入射光により光電変換層内で生成する電荷を抑制できる。総迷入電荷数は、斜め入射光により生成する電荷数に大きく依存するので、総迷入電荷数をさらに抑制できる。
【0147】
さらに、光電変換層層の主要部分をゲルマニウムにすることにより、光電変換層層の厚さを1μm以下に抑えている。遮光層の開口部は2μmであるから、遮光層の開口部は光電変換層層の厚さの2倍であり、全入射光で生じる電荷数に対して、遮光層の端部の近傍に入射する光によって生成する電荷数の割合が小さくなる。この割合は直接迷光に関係するので、迷光の抑制に効果がある。
【0148】
なお可視光だけを対象にするならば、ゲルマニウム層の厚さは100nmで良く、2μmの開口があれば迷光の問題は実質的になくなる。
【0149】
光電変換層層を比較的厚いゲルマニウム層と、その上部のシリコン層にすることで、迷光等の負の効果の抑制に加えて、非常に大きな正の効果が生じる。
【0150】
すなわち迷入電子をある程度抑制しつつ、近紫外光はシリコン層で光電変換し、緑色光から1000nmを超える近赤外光はゲルマニウム層で光電変換することにより、非常に広い波長範囲でシリコンの理論限界を越えるスーパー時間分解イメージングができる。
【0151】
これにより、第1の生体の窓、第2の生体の窓での時間分解能10ps以下(生体中での光の到達距離が約2mm)の連続撮影が可能になり、超短時間時空間データの逆解析により、全く新規な生体計測技術が開発される。
(第1の実施の形態の操作)
【0152】
特許文献1、特許文献3、特許文献5等でブランチングイメージセンサの操作方式について図を用いて説明している。第1の実施形態の操作方式もこれらと変わるところはほとんどないので操作様式全般については図示していない。
【0153】
ただし、図2図3の例と違い図12では、信号電荷の転送経路に画素内メモリゲート213を備えているので、撮影後、CDS(Correlated Double Sampling、相関2重サンプリング)を適用して低ノイズ読出しができる。これについて説明する。
【0154】
撮影中は8個のメモリゲート213にVHがかけられている。
【0155】
7個のVTGにVLがかけられ、1個のVTGにVHがかけられると、VHがかけられているVTGに接続するメモリに電荷が送られる。VHをかけるVTGを順次変えると7枚の画像信号が7個の画素内メモリに保存される。
【0156】
読出し中は7個のVTGにVLをかけ、1個のVTGとそれに続く全ゲートをVHにして撮影後に生成する電子をドレーンに導き、センサ外に排出する。
【0157】
残りの7グループの転送路についてはCDSを適用して信号を読み出す。
【0158】
即ち、まずリセットゲート217にVHをかけ、FD216を空にするとともに、その時の電位を記録する。次にバリアゲート215にVHをかけ、メモリゲート213にVLをかけるとメモリゲートに保存されていた信号電子はFDに移り、FDの電位が低下する(信号電子の場合)。FDの電位の差から高精度で信号電荷量(数)を検出できる。
【0159】
なお、バリアゲートの電位は中電位で固定しておき、メモリゲートの電位がVLになる時、信号電荷がポテンシャルバリアを越えてFDに流れ込むようにしても良い。これにより、バリアゲートの電圧変化に伴うノイズが抑制される。
(第2の実施の形態)
(第2の実施の形態の平面構造)
【0160】
図14に第2の実施の形態の1画素の平面図224を示す。断面構造は基本的に第1の実施の形態と同じである。
【0161】
第1の実施の形態と異なるのは以下の2点である。
【0162】
メモリゲート225がVTG236の幾何学的延長線上にない。
【0163】
第1方向選択ゲート227(以下「第1選択ゲート」と書く)、第2方向選択ゲート228(以下「第2選択ゲート」と書く)、及び第2ドレーン229が加えられている。
(第2の実施の形態の機能)
【0164】
第1の実施の形態が備える迷入電子の抑制手段に加えて、メモリゲートの遮蔽機能を加えることにより全迷入電子数を実質的に無視できるレベルに抑制できる。
(第2の実施の形態の操作)
【0165】
撮影中は第1選択ゲートにVHを、第2選択ゲートにVLをかける。VTGにVHをかけると信号電荷はメモリゲートに転送される。
【0166】
読出し中は第1選択ゲートにVLを、第2選択ゲートにVHをかける。VLがかかっている7個のVTGへの迷光で生成した電子は第2選択ゲートから第2ドレーンに排出される。
【0167】
すなわち、信号読出し中は、1個ではなく、全ての転送ゲートと第2選択ゲートを通して暗電流や迷光で生成した電子がドレーンに排出され、メモリゲートの遮蔽と併せて非常に効果の高い迷光、迷入電子の削減ができる。
(第3の実施の形態)
(第3の実施の形態の構造)
【0168】
図15に第3の実施の形態の1画素230を示す。
【0169】
センターゲート231が8個のFTG238の前に8個のコンタクト232を備えるレジスティブゲートになっている。これにより、広いセンターゲート上の転送方向に沿う電界が直線化され、レジスティブゲート以外のセンターゲート構造の場合に比べ、同じ転送電界に対してフレームインタバルが数分の1になる。
【0170】
光電変換層はInGaAs層233で周辺はInP層234である。
【0171】
レジスティブゲートの濃度は10**16/cm**3で、光電変換層の底面はInP層235であるが、濃度はレジスティブゲートの濃度と同オーダーの2*10**16/cm**3である。
【0172】
ゲートの周辺領域はPwell236で覆われており、Pwellコンタクト237を通じて基盤電圧が与えられている。
【0173】
このケースでは転送ゲート238はFTGである。
【0174】
周囲のInPでは撮影後の暗電流がシリコンの場合に比べて大きい。一方、InGaAsの飽和電界はゲルマニウムのそれの2から3倍であるから、画素サイズが小さくなったときは、より高い電圧差をかけてより高速転送できる。
(その他の実施の形態)
【0175】
信号電荷はホールでも良い。その場合は、駆動電圧と半導体の極性は逆になる
【0176】
本発明の目的は迷光や迷入電子の抑制が目的であるので、駆動のための条件等の説明は割愛した。
本発明の撮影装置
【0177】
本発明の撮影装置はカメラ部分、撮影時の制御回路部分、撮影後の信号制御部分からなる。本発明になるデバイスはカメラ部分の中枢であるイメージセンサである。
【0178】
具体的な機器構成は、特許文献1、特許文献3、特許文献5に記載している。
【産業上の利用可能性】
【0179】
現在、ポンプ・プローブ法でしか観察できない超高速現象をワンショットの撮影で観察できるようになり、新規の材料開発、製薬開発等の基礎研究を進展させる。
【0180】
また距離測定に使われる間接TOF計測の制度を各段に高める
【0181】
また光は10psで生体中を約2mmしか進まないので、時間と空間を含む4次元画像計測技術により、がん細胞等の生体内での蛍光材料の集積位置を高い精度で3次元空間上で可視化できる。
【0182】
非特許文献2で説明されているように、この時間分解能レベルの超高速撮影技術の多くは強い波長依存性がある。
【0183】
例えば少しづつ波長の異なる光の到着時間の差を利用している。従って、画素群へのカラーフィルタの装着や、異なる波長のフィルタを付けた複数のカメラによる多波長撮影(典型的にはカラー撮影)等ができない。
【0184】
またホログラフィ技術では、非常に幅の狭い干渉性の高い光以外は用いることができない。
【0185】
本発明の撮影装置はこのような制限を受けず、広い波長範囲の現象を一度に撮影できる。またカラーフィルタにより1度に多波長超高速度撮影ができる。
【0186】
従って、時空間4次元、波長1次元の5次元超高速撮影ができる。
【0187】
さらに迷光や迷入電子による連続フレーム間のクロストークによる時間分解能の低減を防ぐと同時に、ノイズとしてのこれらの電荷の加算によるSN比の低下の抑制と、撮影後の低速読み出しによる読出しノイズの低下により、超高速であると同時に超高感度の撮像手段を提供する。
【符号の説明】
100 ブランチングイメージセンサの画素の例
101 光電変換層
102 センターゲート
103 転送ゲート
104 信号電荷保存要素
105 光電変換層層の厚さD
106 水平転送電極の狭い方の幅W
107 VHがかかっている転送ゲート
108 VLがかかっている転送ゲート
109 FTGにより電位が有効に変化する厚さH
110 VHが加えられた転送路層
111 絶縁酸化膜
112 VHをかけた電極
113 VLをかけた電極
114 VHがかかる転送路
115 VLがかかる転送路
116 凹の字型の転送電極
117 FD
118 ドレーン
119 信号電子の転送方向
120 シリコンの吸収係数
121 ゲルマニウムの吸収係数
122 InGaAsの吸収係数
123 電界による真性シリコン中の電子のドリフト速度
124 電界による真性ゲルマニウム中の電子のドリフト速度
125 電界による真性シリコン中の電子の拡散係数
126 電界による真性ゲルマニウム中の電子の拡散係数
127 正方形の光電変換層
128 6角形のセンターゲート
129 転送ゲート
130 光電変換層のコーナーを通る電子の転送経路
131 光電変換層の辺を通る電子の転送経路
132 光電変換層のコーナーを通る電子の転送経路に沿うポテンシャル
133 光電変換層の辺を通る電子の転送経路に沿うポテンシャル
134 ゲート電極
135 通常のゲートの1個のコンタクト
136 レジスティブゲートの場合の2個のコンタクト
137 レジスティブゲート
138 電子の移動経路
139 通常のゲートのポテンシャルプロファイル
140 レジスティブゲートのポテンシャルプロファイル
141 センターゲート
142 レジスティブゲートの8個のコンタクト
143 センターレジスティブゲートを備えるブランチングイメージセンサの信号電子の軌跡の例
144 通常のゲートの1個のコンタクト
145 通常のゲートを備えるブランチングイメージセンサの信号電子の軌跡の例
146 ヘモグロビンの吸収係数
147 水の吸収係数
148 古典的な「生体の窓」の定義
149 波長に対する生体(皮膚)の散乱
150、151、152 第1の生体の窓、第2の生体の窓、第3の生体の窓
(200以降は発明を実施するための形態)
200 第1の実施の形態の平面図
201 第1の実施の形態のX-X‘断面図
202 同Y-Y‘断面図
203 同3×3画素の平面図
204 光電変換層
205 光電変換層の厚さ
206 光電変換層のシリコン層
207 同ゲルマニウム層
208 遮光層
209 遮光層の中心側エッジ
210 光電変換層のエッジ
211 VTG
212 VTGの中心側エッジ
213 信号電荷のメモリゲート
214 信号電荷の転送方向
215 バリアゲート
216 FD(フローティングディフュージョン)
217 RS(リセットゲート)
218 ドレーン
219 VTGの垂直電極部
220 酸化膜
221 VTGの水平電極部
222 縦型遮光膜
223 反射防止膜
224 第2の実施の形態の平面図
225 メモリゲート
226 VTG
227 第1(方向)選択ゲート
228 第2(方向)選択ゲート
229 第2ドレーン
230 本発明の第3の実施の形態
231 レジスティブセンターゲート
232 レジスティブセンターゲートの8個のコンタクト
233 InGaAs光電変換層
234 InP層
235 低濃度InP層
236 InPのpwell層
237 pwellコンタクト
238 メモリゲート
図1
図2
図3
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