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特開2024-68296化合物、有機EL材料及び有機EL素子
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  • 特開-化合物、有機EL材料及び有機EL素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068296
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】化合物、有機EL材料及び有機EL素子
(51)【国際特許分類】
   C07D 471/06 20060101AFI20240513BHJP
   C07D 513/06 20060101ALI20240513BHJP
   C07D 498/06 20060101ALI20240513BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20240513BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20240513BHJP
   H10K 50/12 20230101ALI20240513BHJP
【FI】
C07D471/06
C07D513/06
C07D498/06
C09K11/06 645
C09K11/06
H10K85/60
H10K50/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178627
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】521467881
【氏名又は名称】吉林OLED日本研究所株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187388
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 天光
(72)【発明者】
【氏名】張 鵬
(72)【発明者】
【氏名】索 紅光
【テーマコード(参考)】
3K107
4C065
4C072
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC02
3K107DD53
3K107DD59
3K107DD69
3K107FF14
4C065AA03
4C065BB04
4C065CC09
4C065DD01
4C065EE02
4C065HH05
4C065JJ01
4C065KK01
4C065LL01
4C065PP01
4C072AA02
4C072BB02
4C072BB08
4C072CC01
4C072CC11
4C072CC16
4C072EE07
4C072EE17
4C072FF07
4C072GG01
(57)【要約】
【課題】有機EL素子の発光材料として用いることにより、有機EL素子の輝度を更に向上させることができる化合物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される分子骨格を有する化合物。
(式(1)中、Qは、直接結合、-O-、-S-、-SiAr-、-PAr-、-P(=O)Ar-、又は、-P(=S)Ar-を表す。一般式(1)で表される分子骨格は、置換基で置換されていてもよい。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される分子骨格を有する化合物。
【化1】
(一般式(1)中、Qは、直接結合、-O-、-S-、-SiAr-、-PAr-、-P(=O)Ar-、又は、-P(=S)Ar-を表す。一般式(1)で表される分子骨格は、置換基で置換されていてもよい。)
【請求項2】
下記一般式(1)で表される分子骨格を有する有機EL材料。
【化2】
(一般式(1)中、Qは、直接結合、-O-、-S-、-SiAr-、-PAr-、-P(=O)Ar-、又は、-P(=S)Ar-を表す。一般式(1)で表される分子骨格は、置換基で置換されていてもよい。)
【請求項3】
光を発光する発光層と、
前記発光層を挟持する一対の電極と、
を有する有機EL素子において、
下記一般式(1)で表される分子骨格を有する材料を含有する、有機EL素子。
【化3】
(一般式(1)中、Qは、直接結合、-O-、-S-、-SiAr-、-PAr-、-P(=O)Ar-、又は、-P(=S)Ar-を表す。一般式(1)で表される分子骨格は、置換基で置換されていてもよい。)
【請求項4】
請求項3に記載の有機EL素子において、
前記発光層は、前記一般式(1)で表される分子骨格を有する材料を0.1~10wt%含有する、有機EL素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、有機EL材料及び有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electro Luminescence)素子は、光を発光する発光層と、当該発光層を挟持する一対の電極と、を有し、発光層は、発光材料としての有機化合物を含む。このような有機EL素子では、一対の電極間に電圧を印加することにより、陽極から発光層に正孔が注入され、陰極から発光層に電子が注入され、発光層に注入された電子と正孔とが再結合することで励起子が形成され、形成された励起子が励起状態から基底状態に戻る際に励起子が光を放出することで、発光層が発光する。即ち、有機EL素子は、自発光素子である。そのため、有機EL素子は、自発光素子でない液晶素子に比べ、輝度が明るく、視認性に優れ、鮮明な表示が可能である。
【0003】
有機EL素子は、自発光素子としての利点を活かし、高発光効率、高画質、低消費電力、長寿命、更には薄型のデザイン性に優れた発光素子として、期待されている。特に、フルカラーディスプレイ及び照明アプリケーション等において、最も有望な技術となっている。
【0004】
このような有機EL素子では、輝度を向上させるために、発光層に注入された電子と正孔とから効率よく励起子を生成し、生成された励起子から高効率の発光を得ることが重要である。従って、発光層に含まれる発光材料であって、効率よく励起子を生成し、生成された励起子から高効率の発光を得ることが可能な発光材料に関し、種々の研究が行われており、好適な発光材料の探索が続いている。
【0005】
中国特許出願公開第113943287号明細書(特許文献1)には、有機EL素子の発光材料としての多環芳香族化合物において、窒素で3つの芳香族環が連結されたトリアリールアミンが2箇所で架橋された分子骨格を有するトリアリールアミン誘導体である技術が開示されている。また、上記特許文献1には、このような架橋構造を有するトリアリールアミン誘導体を発光材料として用いた有機EL素子において、発光効率が高く、スペクトル色純度が高く、発光スペクトルの半ピーク幅が狭いことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】中国特許出願公開第113943287号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、フルカラーディスプレイ及び照明アプリケーション等に用いる場合には、有機EL素子の輝度を更に向上させることが望ましい。しかしながら、有機EL素子の発光材料として、従来の化合物を用いた場合、有機EL素子の輝度を十分に向上させることができないおそれがある。
【0008】
本発明は、上述のような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、有機EL素子の発光材料として用いることにより、有機EL素子の輝度を更に向上させることができる化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0010】
本発明の一態様としての化合物は、下記一般式(1)で表される分子骨格を有する。
【化1】
一般式(1)中、Qは、直接結合、-O-、-S-、-SiAr-、-PAr-、-P(=O)Ar-、又は、-P(=S)Ar-を表す。一般式(1)で表される分子骨格は、置換基で置換されていてもよい。
【0011】
また、本発明の一態様としての有機EL材料は、下記一般式(1)で表される分子骨格を有する。
【化2】
一般式(1)中、Qは、直接結合、-O-、-S-、-SiAr-、-PAr-、-P(=O)Ar-、又は、-P(=S)Ar-を表す。一般式(1)で表される分子骨格は、置換基で置換されていてもよい。
【0012】
また、本発明の一態様としての有機EL素子は、光を発光する発光層と、発光層を挟持する一対の電極と、を有する有機EL素子である。当該有機EL素子は、下記一般式(1)で表される分子骨格を有する材料を含有する。
【化3】
一般式(1)中、Qは、直接結合、-O-、-S-、-SiAr-、-PAr-、-P(=O)Ar-、又は、-P(=S)Ar-を表す。一般式(1)で表される分子骨格は、置換基で置換されていてもよい。
【0013】
また、他の一態様として、発光層は、一般式(1)で表される分子骨格を有する材料を0.1~10wt%含有してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様を適用することで、当該化合物を有機EL素子の発光材料として用いることにより、有機EL素子の輝度を更に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施の形態の有機EL素子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の各実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実施の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0018】
また本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0019】
更に、実施の形態で用いる図面においては、構造物を区別するために付したハッチング(網掛け)を図面に応じて省略する場合もある。
【0020】
なお、以下の実施の形態においてA~Bとして範囲を示す場合には、特に明示した場合を除き、A以上B以下を示すものとする。
【0021】
(実施の形態)
本発明の一実施形態である実施の形態の化合物、有機EL材料及び有機EL素子について説明する。
【0022】
<化合物>
本実施の形態の化合物は、下記一般式(1)で表される分子骨格を有する。
【0023】
【化4】
【0024】
一般式(1)中、Qは、直接結合、-O-、-S-、-SiAr-、-PAr-、-P(=O)Ar-、又は、-P(=S)Ar-を表す。一般式(1)で表される分子骨格は、置換基で置換されていてもよい。
【0025】
本実施の形態の化合物は、トリアリールアミンが2箇所で架橋された分子骨格を有するトリアリールアミン誘導体である。
【0026】
なお、「-O-」はエーテル結合を表し、「-S-」はスルフィド結合を表し、「-SiAr-」はシリレン結合を表し、「-PAr-」はホスフィン結合を表し、「-P(=O)Ar-」はホスフィンオキシド結合を表し、「-P(=S)Ar-」はホスフィンスルフィド結合を表す。また、本願明細書において、一般式(1)で表される分子骨格が、置換基で置換されているとは、例えば、一般式(1)で表される分子骨格の水素の一部又は全部が、置換基で置換されていることを意味する。
【0027】
一般式(1)に置換できる置換基は単数又は複数であり、複数の場合、それぞれ同一でもよく、異なっていてもよい。
【0028】
そのような置換基の例としては、重水素基、ハロゲン基、シアノ基、シリル基、カルボニル基、アミノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、核炭素数6~18のアリール基、核原子数3~18のヘテロアリール基が挙げられる。
【0029】
ハロゲン基の例としては、フッ素基、塩素基、臭素基、ヨウ素基等が挙げられる。好ましくは、ハロゲン基は、フッ素基である。
【0030】
炭素数1~20のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、又は、アダマンチル基等が挙げられる。好ましくは、炭素数1~20のアルキル基は、メチル基、t-ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、又は、アダマンチル基である。
【0031】
炭素数1~20のアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、i-プロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、s-ブチルオキシ基、t-ブチルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、又は、アダマンチルオキシ基等が挙げられる。好ましくは、炭素数1~20のアルコキシ基は、メトキシ基、t-ブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、又は、アダマンチルオキシ基である。
【0032】
核炭素数6~18のアリール基の例としては、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フェナンスリル基、フルオランテニル基、フルオレニル基、ピレニル基、ペリレニル基、トリフェニレン基、又は、トリプチセニル基等が挙げられる。好ましくは、核炭素数6~18のアリール基は、フェニル基、ナフチル基、又は、フルオレニル基である。
【0033】
核原子数3~18のヘテロアリール基の例としては、ピリジン基、ピリミジン基、トリアジン基、ピロール基、インドール基、カルバゾール基、フラン基、ベンゾフラン基、ジベンゾフラン基、チオフェン基、ベンゾチオフェン基、ジベンゾチオフェン基、オキサゾール基、チオキサゾール基、オキサジアゾール基、チアジアゾール基、トリアゾール基、イミダゾール基、ベンゾイミダゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾチアゾール基、アクリジン基、アクリドン基、フェノキサジン基、フェノチアジン基、フェナザシリン基、ピラン基、ベンゾピラン基、ジベンゾピラン基、チオピラン基、ベンゾチオピラン基、ジベンゾチオピラン基、シロール基、ベンゾシロール基、又は、ジベンゾシロール基等が挙げられる。好ましくは、核原子数3~18のヘテロアリール基は、ピリジン基、トリアジン基、カルバゾール基、ジベンゾフラン基、アクリジン基、フェノキサジン基、フェノチアジン基、又は、フェナザシリン基である。
【0034】
一般式(1)の具体例としては、以下の化合物CE1乃至CE18が挙げられる。なお、一般式(1)で示される化合物であればよく、具体例に記載したものに限定されるものではない。また、化合物CE4におけるPhはフェニル基を表し、化合物CE8におけるDは重水素を表し、化合物CE9におけるt-Buはt-ブチル基を表し、化合物CE12におけるMeはメチル基を表す。
【0035】
【化5】
【0036】
【化6】
【0037】
【化7】
【0038】
前述したように、本実施の形態の化合物は、トリアリールアミンが2箇所で架橋された分子骨格を有するトリアリールアミン誘導体である。2箇所の架橋のうち1箇所目は、炭素、即ち-C(CN)-(ジシアノエチレン基による結合)により架橋されている。2箇所の架橋のうち2箇所目は、上記一般式(1)に示すQ、即ち-O-、-S-、-SiAr-、-PAr-、-P(=O)Ar-、又は、-P(=S)Ar-により架橋されている。
【0039】
ここで、上記特許文献1に記載の多環芳香族化合物も、トリアリールアミンが2箇所で架橋された分子骨格を有するトリアリールアミン誘導体であり、2箇所の架橋のうち1箇所目は、炭素により架橋されている。しかしながら、上記特許文献1に記載の多環芳香族化合物では、2箇所の架橋のうち2箇所目は、-C(=O)-(カルボニル基)、又は、-S(=O)-(スルホニルジオキシド基)による結合、即ち上記一般式(1)に示すQとは異なる官能基による結合で架橋されている。
【0040】
なお、好適には、一般式(1)中、Qは、直接結合である。
【0041】
本実施の形態の化合物は、種々の公知の方法で合成することができる。
【0042】
例えば、8H-インドロ[3,3,1-de]アクリジン-8-オンとマロノニトリルとを三ツ口フラスコに入れ、無水酢酸を加え、窒素雰囲気下で加熱還流する。24時間後に反応を止め、室温まで冷却した後、減圧吸引濾過し、少量の無水酢酸で洗浄を行い、濾過残留物をカラムクロマトグラフィーを用いて精製し、昇華精製をすると化合物CE1が得られる。
【0043】
<有機EL材料>
本実施の形態の有機EL材料は、下記一般式(1)で表される分子骨格を有する。即ち、本実施の形態の有機EL材料は、実施の形態の化合物を有機EL材料として用いるものである。
【0044】
【化8】
【0045】
一般式(1)中、Qは、直接結合、-O-、-S-、-SiAr-、-PAr-、-P(=O)Ar-、又は、-P(=S)Ar-を表す。一般式(1)で表される分子骨格は、置換基で置換されていてもよい。
【0046】
本実施の形態の有機EL材料は、実施の形態の化合物を有機EL材料として用いるものである。そのため、一般式(1)で表される分子骨格が置換される置換基の例、及び、一般式(1)の具体例については、実施の形態の化合物における置換基の例、及び、一般式(1)の具体例と同様にすることができ、詳細な説明を省略する。
【0047】
本実施の形態の有機EL材料については、実施の形態の化合物も同様であるが、後述する実施例において説明するように、有機EL素子の発光材料として本実施の形態の有機EL材料を用いることにより、上記特許文献1に記載の多環芳香族化合物に比べて、有機EL素子の輝度を更に向上させることができる。
【0048】
<有機EL素子>
本実施の形態の有機EL素子は、光を発光する発光層と、発光層を挟持する一対の電極と、を有する。また、本実施の形態の有機EL素子は、下記一般式(1)で表される分子骨格を有する材料即ち有機材料を含有する。
【0049】
【化9】
【0050】
一般式(1)中、Qは、直接結合、-O-、-S-、-SiAr-、-PAr-、-P(=O)Ar-、又は、-P(=S)Ar-を表す。一般式(1)で表される分子骨格は、置換基で置換されていてもよい。
【0051】
本実施の形態の有機EL素子は、実施の形態の化合物を有機EL材料として含有するものである。そのため、一般式(1)で表される分子骨格が置換される置換基の例、及び、一般式(1)の具体例については、実施の形態の化合物における置換基の例、及び、一般式(1)の具体例と同様にすることができ、詳細な説明を省略する。
【0052】
図1は、実施の形態の有機EL素子を模式的に示す図である。
【0053】
本実施の形態の有機EL素子は、典型的には、基板1の上に、陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層4、電子障壁層5、発光層6、正孔障壁層7、電子輸送層8、電子注入層9及び陰極10がこの順に積層した多層構造を有する。
【0054】
即ち、本実施の形態の有機EL素子は、電極間に有機層を一層又は二層以上積層した多層構造を有し、例えば、基板1上に、「陽極2/正孔注入層3/正孔輸送層4/電子障壁層5/発光層6/正孔障壁層7/電子輸送層8/電子注入層9/陰極10」がこの順に積層した構造を有する。ここで、有機層とは、陽極2、陰極10以外の層、即ち、正孔注入層3、正孔輸送層4、電子障壁層5、発光層6、正孔障壁層7、電子輸送層8及び電子注入層9を指す。
【0055】
なお、上記した多層構造において、いくつかの層を省略することもでき、例えば、電子注入層9を電子輸送層8の機能も併せ持つ電子注入・輸送層とすることもできる。
【0056】
基板1には、透明且つ平滑であって、少なくとも70%以上の全光線透過率を有するものが用いられ、具体的には、フレキシブルな透明基板である、数μm厚のガラス基板や特殊な透明プラスチック等が用いられる。
【0057】
陽極2は、正孔を、正孔注入層3、正孔輸送層4及び発光層6に注入する機能を有する電極である。陽極2には、仕事関数が大きく(4.5eV以上)、且つ、全光線透過率が通常80%以上である材料が用いられる。具体的には、陽極2から発光した光を透過させるため、酸化インジウムスズ(ITO)若しくは酸化亜鉛(ZnO)等の透明導電性セラミックス、ポリチオフェン-ポリスチレンスルホン酸(PEDOT-PSS)若しくはポリアニリン等の透明導電性高分子、又は、その他の透明導電性材料が用いられる。陽極2の膜厚は、通常5~500nm、好ましくは10~200nmである。
【0058】
陽極2は、蒸着法、電子線ビーム法、スパッタリング法、化学反応法又は塗布法等により形成される。
【0059】
正孔注入層3は、発光効率の向上のために導入される層である。正孔注入層3を形成する正孔注入材料には、例えば、ポリ(アリーレンエーテルケトン)含有トリフェニルアミン(KLHIP:PPBI)、1,4,5,8,9,11-ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル(HATCN)又はPEDOT-PSS等が挙げられる。
【0060】
正孔輸送層4は、陽極2と発光層6との間に設けられ、陽極2から正孔を効率良く発光層6に輸送するための層である。正孔輸送層4を形成する正孔輸送材料には、イオン化ポテンシャルが小さいもの、即ち、HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)から電子が励起されやすく、正孔が生成されやすいものが用いられる。正孔輸送材料として、例えば、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-アルト-N-(4-ブチルフェニル)ジフェニルアミン)(TFB)、4,4’-シクロヘキシリデンビス[N,N-ビス(4-メチルフェニル)ベンゼンアミン](TAPC)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(m-トリル)ベンジジン(TPD)、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニルベンジジン(NPD)、4DBFHPB(ヘキサフェニルベンゼン誘導体)、4,4’,4’’-トリ-9-カルバゾリルトリフェニルアミン(TCTA)又は4,4’,4’’-トリス[フェニル(m-トリル)アミノ]トリフェニルアミン等が挙げられる。
【0061】
発光層6と正孔輸送層4との間には、適宜、電子障壁層5を設けてもよい。電子障壁層5は、電子が正孔輸送層4に向かって発光層6を通過することを阻止する役割を有する。また、電子障壁層5を設けることで、電子を発光層6内に閉じ込めて、発光層6における電荷の再結合確率を高め、発光効率を向上させることができる。電子障壁層5を形成する電子障壁材料には、モノアミン誘導体等が用いられる。電子障壁層5及び後述する正孔障壁層7は、それぞれ励起子阻止層としての機能も兼ね備える。
【0062】
発光層6は、発光層6に注入された電子と正孔とが再結合することで励起子が形成され、形成された励起子が励起状態から基底状態に戻る際に励起子が光を放出することで、発光する。好適には、発光層6は、ドーパントとホストとを含む。また、好適には、発光層6は、ドーパントとして、上記一般式(1)で表される分子骨格を有する材料を含有する。しかしながら、有機EL素子が上記一般式(1)で表される分子骨格を有する材料を含有すればよく、上記一般式(1)で表される分子骨格を有する材料を含有する層は、発光層6には限定されない。
【0063】
発光層6に含まれるホストとしては、正孔輸送層4及び電子輸送層8からの電荷注入障壁を最小限にし、電荷を発光層6に閉じ込め、且つ、発光励起子の消光を防ぐものであれば、公知の材料を広く用いることができる。本実施の形態では、好適には、下記一般式(2)で表されるアントラセン誘導体が用いられる。
【0064】
【化10】
【0065】
一般式(2)では、アントラセン骨格の9位(又は10位)の炭素がジベンゾフラン部位の1~4位のいずれかの炭素に結合している。
【0066】
Yは芳香族環式置換基又は非芳香族環式置換基を表す。芳香族環式置換基又は非芳香族環式置換基は、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、又は、ジベンゾフラニル基等であることが好ましく、フェニル基、1-ビフェニル基、1-ナフチル基、又は、2-ジベンゾフラニル基等であることがより好ましい。
【0067】
Cyは核炭素数6~12のアリール基を表す。核炭素数6~12のアリール基は、具体的にはベンゼン環又はナフタレン環である。即ち、アントラセン骨格の10位(又は9位)はジベンゾフラン又はベンゾナフトフランの構造を有する。
【0068】
【化11】
【0069】
一般式(2)で表されるアントラセン誘導体は、好適には、下記構造式を有する。
【0070】
【化12】
【0071】
【化13】
【0072】
これらのアントラセン誘導体については、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0073】
好適には、発光層6は、ホストを、発光層6用材料全体の90~99.9wt%含有する。このような場合、好適には、発光層6は、ドーパントとして、上記一般式(1)で表される分子骨格を有する材料を、発光層6全体の0.1~10wt%含有する。発光層6におけるドーパントの含有率が0.1wt%以上の場合、ドーパントの含有率が0.1wt%未満の場合に比べ、ドーパントの含有率が低くなりすぎないので、有機EL素子の輝度を向上させることができる。一方、発光層6におけるドーパントの含有率が10wt%以下の場合、ドーパントの含有率が10wt%を超える場合に比べ、ホストの含有率が低くなりすぎないので、有機EL素子の輝度を向上させることができる。
【0074】
発光層6と電子輸送層8との間には、適宜、正孔障壁層7を設けてもよい。正孔障壁層7は、正孔を発光層6内に閉じ込めて、発光層6における電荷の再結合確率を高め、発光効率を向上させるための層である。正孔障壁層7を形成する正孔障壁材料には、例えば、ジブチルスズ-トリフェニルトリアジン(DBT-TRZ)、バソクプロイン(BCP)等のフェナントロリン誘導体、若しくは、アルミニウム(III)ビス(2-メチル-8-キノリナート)-4-フェニルフェノレート(BAlq)等のキノリノール誘導体の金属錯体、各種の希土類錯体、オキサゾール誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ピリミジン誘導体、オキサジアゾール誘導体、又は、ベンゾアゾール誘導体等が用いられる。
【0075】
電子輸送層8は、陰極10と発光層6との間に設けられ、陰極10から電子を効率良く発光層6に輸送するための層である。電子輸送層8を形成する電子輸送材料には、電子親和力が大きいもの、即ち、LUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)のエネルギーが小さく、励起電子が存在しやすいものが用いられる。電子輸送材料として、例えば、1,4-ビス(1,10-フェナントロリン-2-イル)ベンゼン(DPB)、8-ヒドロキシキノリノラトリチウム(Liq)、4,6-ビス(3,5-ジ(ピリジン-3-イル)フェニル)-2-メチルピリミジン(B3PymPm)、4,6-ビス(3,5-ジ(ピリジン-4-イル)フェニル)-2-フェニルピリミジン(B4PyPPm)、2-(4-ビフェニリル)-5-(p-t-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(tBu-PBD)、1,3-ビス[5-(4-t-ブチルフェニル)-2-[1,3,4]オキサジアゾリル]ベンゼン(OXD-7)、3-(ビフェニル-4-イル)-5-(4-t-ブチルフェニル)-4-フェニル-4H-1,2,4-トリアゾール(TAZ)、バソクプロイン(BCP)、1,3,5-トリス(1-フェニル-1H-ベンズイミダゾール-2-イル)ベンゼン(TPBi)、又は、3-(4-ビフェニリル)-4-フェニル-5-(4-t-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール(TAZ)等が挙げられる。これらのうち、DPB及びLiqの混合層等が好ましい。なお、正孔障壁層7の材料は、電子輸送層8の材料を兼ねてもよい。
【0076】
電子注入層9は陰極10に接し、電子を輸送する役割を有する層である。電子注入層9を形成する電子注入材料には、例えば、フッ化リチウム(LiF)、又は、2-ヒドロキシ-(2,2’)-ビピリジニル-6-イル-フェノラトリチウム(Libpp)等が挙げられる。
【0077】
基板1上に形成される、正孔注入層3、正孔輸送層4、電子障壁層5、発光層6、正孔障壁層7、電子輸送層8及び電子注入層9の薄膜は、真空蒸着法又は塗布法で積層される。真空蒸着法には、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、又は、分子積層法等が挙げられる。真空蒸着法を用いる場合、通常10-3Pa以下に減圧した雰囲気で、蒸着物を300~400℃に加熱して行う。
【0078】
塗布法を用いる場合、各層の構成材料を例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート、又は、水等に溶解させて公知の塗布法により各層を形成する。塗布法には、例えば、バーコート法、キャピラリーコート法、スリットコート法、インクジェット法、スプレーコート法、ノズルコート法、又は、印刷法が挙げられる。各層の形成にすべて同じ塗布法を用いてもよいし、インクの種類に応じて適宜最適な塗布法を個別に用いてもよい。
【0079】
陽極2と陰極10との間の各有機層の膜厚は、構成材料の抵抗値や電荷移動度によって異なるが、通常1~100nm、好ましくは1~50nmである。
【0080】
陰極10は、電子を、電子輸送層8及び発光層6に注入する機能を有する電極である。陰極10には、仕事関数が小さく(4eV以下)、且つ、化学的に安定な材料が用いられる。具体的には、Al、MgAg合金、又は、AlLi若しくはAlCa等のAlとアルカリ金属との合金等の陰極材料が用いられる。陰極10の膜厚は、通常10~200nmである。
【0081】
陰極10は、蒸着法、電子線ビーム法、スパッタリング法、化学反応法、又は、塗布法等により形成される。
【0082】
本実施の形態の有機EL素子は、枚葉方式によって各層を形成する以外に、例えば、ロール・ツー・ロール法によって形成してもよい。
【0083】
また、後述する実施例において説明するように、有機EL素子として本実施の形態の有機EL素子を用いることにより、上記特許文献1に記載の多環芳香族化合物を用いた有機EL素子に比べて、有機EL素子の輝度を更に向上させることができる。
【実施例0084】
以下、実施例に基づいて本実施の形態を更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0085】
(実施例1)
[化合物CE1の合成]
8H-インドロ[3,3,1-de]アクリジン-8-オン(1.00g、3.72mmol、SynQuest Laboratories社製)とマロノニトリル(0.30g、4.5mmol、東京化成社製)250mlとを三ツ口フラスコに入れ、そこに無水酢酸(100ml、東京化成社製)を加えた。それを窒素雰囲気下で24時間加熱還流した。
【0086】
反応終了後、室温まで冷却した後、減圧吸引濾過し、少量の無水酢酸で洗浄を行った。
【0087】
濾過残留物をカラムクロマトグラフィーを用いて精製し、昇華精製をしたところ、0.68gの生成物が得られた。これをFD-MS(Field Diffusion Mass Spectroscopy)で分析したところ、M/Z=317のピークを観測したので、生成物を化合物CE1と同定した(収率58%)。
【0088】
(実施例2)
[化合物CE1を用いた有機EL素子の評価]
スパッタリングにより180nmの厚さに成膜したITOを150nmまで研磨して得られた26mm×28mm×0.7mmのガラス基板((株)オプトサイエンス製)を、透明支持基板とした。
【0089】
この透明支持基板を市販の蒸着装置((株)昭和真空製)の基板ホルダーに固定し、HIM(正孔注入材料)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、HTM(正孔輸送材料)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、EBL(電子障壁材料)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、BH1(ホスト)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、実施例1で得られた化合物CE1を入れたモリブデン製蒸着用ボート、HBL(正孔障壁材料)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、ETM(電子輸送材料)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、LiFを入れたモリブデン製蒸着用ボート、及び、アルミニウムを入れたタングステン製蒸着用ボートを装着した。HIM、HTM、EBL、HBL、BH1及びETMの各々の材料の構造式を、以下に示す。なお、BH1は、前述した一般式(2)で表されるアントラセン誘導体として列挙した構造式のうちの一つと同一である。
【0090】
【化14】
【0091】
【化15】
【0092】
透明支持基板のITO膜の上に順次、下記各層を形成した。真空槽を5×10-4Paまで減圧し、まずHIMが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚5nmになるように蒸着して正孔注入層3を形成した。次いでHTMが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚105nmになるように蒸着して正孔輸送層4を形成した。更にEBLが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚20nmになるように蒸着して電子障壁層5を形成した。
【0093】
次にBH1が入った蒸着用ボートと化合物CE1が入った蒸着用ボートを同時に加熱して膜厚25nmになるように蒸着して発光層6を形成した。BH1と化合物CE1との重量比がおよそ95対5になるように蒸着速度を調整した。
【0094】
次にHBLが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚20nmになるように蒸着して正孔障壁層7を形成した。次いでETMが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚10nmになるように蒸着して電子輸送層8を形成した。
【0095】
各層の蒸着速度は、0.01~2nm/秒であった。
【0096】
その後、電子注入層9の材料であるLiFが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚1nmになるように0.01~0.1nm/秒の蒸着速度で蒸着した。次いで、アルミニウムが入った蒸着用ボートを加熱して100nmになるように0.01~2nm/秒の蒸着速度で蒸着することにより陰極10を形成し、実施例2の有機EL素子を作製した。
【0097】
このようにして得られた実施例2の有機EL素子について、ITO電極を陽極2とし、LiF/アルミニウム電極を陰極10として、電源11により直流電圧を印加すると、青色発光が得られた。また、実施例2の有機EL素子を10mA/cmの電流密度で駆動した際の輝度を測定した。
【0098】
(比較例1)
[Refを用いた有機EL素子の評価]
化合物CE1の代わりに、Refを用いたこと以外は実施例2と全く同様にして、比較例1の有機EL素子を作製した。
【0099】
【化16】
【0100】
このようにして得られた比較例1の有機EL素子についても、ITO電極を陽極2とし、LiF/アルミニウム電極を陰極10として、電源11により直流電圧を印加すると、青色発光が得られた。このとき、比較例1の有機EL素子を10mA/cmの電流密度で駆動した際の輝度を測定し、実施例2の有機EL素子及び比較例1の有機EL素子について、比較例1の有機EL素子について測定した輝度を100としたときの輝度の相対値を算出して比較した。その結果を、表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1に示すように、比較例1の有機EL素子について測定した輝度を100としたとき、実施例2の有機EL素子について測定した輝度は112となり、実施例2の有機EL素子における輝度は、比較例1の有機EL素子における輝度よりも高くなった。そのため、有機EL素子の発光材料として、実施の形態の化合物を用いることにより、上記特許文献1に記載の多環芳香族化合物を用いた場合に比べて、有機EL素子の青色発光の輝度を更に向上させることができることが分かった。
【0103】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0104】
本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0105】
例えば、前述の各実施の形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除若しくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略若しくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0106】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 電子障壁層
6 発光層
7 正孔障壁層
8 電子輸送層
9 電子注入層
10 陰極
11 電源
図1