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  • 特開-補強構造および補強方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000683
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】補強構造および補強方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20231226BHJP
   E01D 19/02 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
E01D22/00 B
E01D19/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099522
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】藤代 勝
(72)【発明者】
【氏名】小林 克哉
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆文
(72)【発明者】
【氏名】内山 隆史
(72)【発明者】
【氏名】高松 寛子
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA01
2D059AA03
2D059BB39
2D059GG01
2D059GG40
(57)【要約】
【課題】耐力の高い補強構造等を提供する。
【解決手段】補強構造1は、基礎版3の上に設けられた既設の橋脚2を補強するものである。補強構造1は、基礎版3の上で、底部11aがその上方部分11bに対して外側に拡幅するように橋脚2の外周部に設けられたコンクリート11と、コンクリート11内で、コンクリート11の底部11aと上方部分11bに亘って鉛直方向に配置され、下端部がコンクリート11の底部11a内で定着される補強主筋12と、基礎版3に下端部を固定して、コンクリート11の底部11a内に埋設されるアンカー鉄筋13と、を有する。アンカー鉄筋13の上端部には定着部131が設けられる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎版の上に設けられた既設の柱部材の補強構造であって、
前記基礎版の上で、底部がその上方部分に対して外側に拡幅するように前記柱部材の外周部に設けられたコンクリートと、
前記コンクリート内で、前記コンクリートの底部と上方部分に亘って鉛直方向に配置され、下端部が前記コンクリートの底部内で定着される補強主筋と、
前記基礎版に下端部を固定して、前記コンクリートの底部内に埋設されるアンカー鉄筋と、
を有し、
前記アンカー鉄筋の上端部に定着部が設けられたことを特徴とする補強構造。
【請求項2】
前記コンクリートの底部内に、前記柱部材から突出する水平方向鉄筋が埋設され、
前記定着部は、前記水平方向鉄筋に係止するように配置されることを特徴とする請求項1記載の補強構造。
【請求項3】
前記アンカー鉄筋は、前記柱部材の幅方向において前記補強主筋よりも多段に配置されることを特徴とする請求項1記載の補強構造。
【請求項4】
前記アンカー鉄筋は、前記補強主筋よりも細径であることを特徴とする請求項3に記載の補強構造。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の補強構造による既設の柱部材の補強方法であって、
前記柱部材の外周部で、前記補強主筋と前記アンカー鉄筋を配置する工程と、
前記柱部材の外周部に前記コンクリートを打設する工程と、
を有することを特徴とする補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱部材の補強構造および補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、既存の橋脚の補強構造として、橋脚の外周部に根巻きコンクリートと巻き立てコンクリートを設け、軸方向鉄筋をこれらのコンクリートに埋設し、PC鋼棒によって根巻きコンクリートをフーチングに固定したものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6427045号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の補強構造により、橋脚の曲げ耐力等を向上させることができ、橋脚の耐震補強が可能になる。しかしながら、大規模な橋脚ではより大きな曲げが発生し、そのような大きな曲げに対しても耐えることのできる補強構造が求められていた。例えば橋脚の曲げに伴って軸方向鉄筋には引張力が作用するが、その引張力により根巻きコンクリートにコーン状破壊が生じると、耐力が低下する恐れがある。
【0005】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、耐力の高い補強構造等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した課題を解決するための第1の発明は、基礎版の上に設けられた既設の柱部材の補強構造であって、前記基礎版の上で、底部がその上方部分に対して外側に拡幅するように、前記柱部材の外周部に設けられたコンクリートと、前記コンクリート内で、前記コンクリートの底部と上方部分に亘って鉛直方向に配置され、下端部が前記コンクリートの底部内で定着される補強主筋と、前記基礎版に下端部を固定して、前記コンクリートの底部内に埋設されるアンカー鉄筋と、を有し、前記アンカー鉄筋の上端部に定着部が設けられたことを特徴とする補強構造である。
【0007】
本発明では、既設の柱部材の外周部にコンクリートを設け、補強主筋をコンクリートに埋設してコンクリートの底部内に定着し、アンカー鉄筋によってコンクリートの底部を基礎版に固定することで、既設の柱部材が補強される。特に、アンカー鉄筋の上端部に定着部が設けられるので、柱部材の曲げに伴って補強主筋に引張力が作用した際に、その引張力によりコンクリートの底部にコーン状破壊が生じるのが防止され、耐力が向上する。
【0008】
前記コンクリートの底部内に、前記柱部材から突出する水平方向鉄筋が埋設され、前記定着部は、前記水平方向鉄筋に係止するように配置されることが望ましい。
上記の水平方向鉄筋により、柱部材とコンクリートが連結され、地震時等で両者が離間するのが防止される。またアンカー鉄筋の定着部を水平方向鉄筋に係止することで、アンカー鉄筋の配筋が容易になる。
【0009】
前記アンカー鉄筋は、前記柱部材の幅方向において前記補強主筋よりも多段に配置されることが望ましい。前記アンカー鉄筋は、例えば前記補強主筋よりも細径である。
本発明では、補強主筋に生じる引張力を、補強主筋のコンクリートの底部への定着によって底部内に伝達する構造とし、引張力は複数本のアンカー鉄筋によって基礎版に分散して伝達される。そのため、アンカー鉄筋として補強主筋よりも低強度の鉄筋を用いることができる。例えばアンカー鉄筋として細径のものを用いることで、アンカー鉄筋の基礎版への施工が容易になる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明の補強構造による既設の柱部材の補強方法であって、前記柱部材の外周部で、前記補強主筋と前記アンカー鉄筋を配置する工程と、前記柱部材の外周部に前記コンクリートを打設する工程と、を有することを特徴とする補強方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、耐力の高い補強構造等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】補強構造1の概略を示す図。
図2】補強構造1を示す図。
図3】補強構造1の水平方向断面を示す図。
図4】補強構造1の地震時の挙動について説明する図。
図5】補強構造1による補強方法について説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る橋脚2の補強構造1の概略を示す図である。図1(a)は橋脚2の幅方向の断面を示す図であり、図1(b)は補強構造1を上から見た図である。
【0015】
補強構造1は、既設の橋脚2の基部を補強するものであり、当該基部の曲げ耐力の向上等の目的で設けられる。
【0016】
橋脚2は、基礎版3の上に設けられるコンクリート製の柱部材であり、内部には主筋等の補強筋(不図示)が設けられる。基礎版3は、コンクリート製の板状部材であり、内部には同じく補強筋(不図示)が設けられる。橋脚2および基礎版3の平面は矩形状であり、橋脚2は、平面の中央部に中空部20を有する。
【0017】
補強構造1は、橋脚2の外周部に設けられたコンクリート11、コンクリート11内に配置される補強主筋12、コンクリート11と基礎版3とを連結するアンカー鉄筋13、橋脚2とコンクリート11を連結する水平方向鉄筋14等を有する。
【0018】
図2は、補強構造1の詳細を示す図であり、補強構造1について、橋脚2の幅方向の断面を示したものである。
【0019】
コンクリート11は、基礎版3の上で橋脚2の外周部に設けられる。コンクリート11の底部11aは、その上方部分11bに対して拡幅している。コンクリート11には普通コンクリートが用いられるが、底部11aに高強度コンクリートを用いることも可能である。また、橋脚2および基礎版3とコンクリート11の底部11aとの境界面では、橋脚2の表面を斫る、基礎版3の表面処理を行うなどして凹凸を設けることも可能である。
【0020】
補強主筋12は、コンクリート11内で、コンクリート11の底部11aと上方部分11bに亘って鉛直方向に配置される鉄筋であり、太径の鉄筋、例えばSD490が用いられる。補強主筋12は橋脚2の近傍に配置され、その下端部は、外側に折り曲げてコンクリート11の底部11a内に定着される。仮に補強主筋12の下端部を基礎版3に定着する場合、補強筋(不図示)が密集する基礎版3に太径の孔を設けなければならないなど、施工面等の問題があるためである。
【0021】
アンカー鉄筋13は鉛直方向の鉄筋であり、コンクリート11の底部11a内に埋設される。アンカー鉄筋13の下端部は、基礎版3の補強筋の間に設けた孔32に挿入される。孔32にはエポキシ樹脂やセメント等の充填材が充填され、これによりアンカー鉄筋13の下端部が基礎版3に固定される。アンカー鉄筋13としては、SD345など、補強主筋12よりも細径の鉄筋が用いられ、基礎版3の補強筋との干渉を防止することで施工性が向上する。
【0022】
水平方向鉄筋14は、橋脚2の幅方向に沿って、橋脚2から外側へと水平方向に突出する鉄筋であり、一方の端部が橋脚2の側面に設けた孔22に挿入される。孔22にはエポキシ樹脂やセメント等の充填材が充填され、これにより水平方向鉄筋14の一方の端部が橋脚2に固定される。水平方向鉄筋14の当該端部より外側の部分は、コンクリート11の底部11a内に埋設される。なお、水平方向鉄筋14は、分離した複数本(例えば2本)の鉄筋を重ね継ぎ手等で接続した構成としても良い。これにより、水平方向鉄筋14の高さ調整がしやすくなり、孔22を橋脚2中の既設配筋位置から正確にあけられない場合等で好ましい。
【0023】
底部11a内には、上記の水平方向鉄筋14と平面視で直交する方向(橋脚2の周方向)の水平方向鉄筋15も埋設される。水平方向鉄筋15は、橋脚2の幅方向に間隔を空けて複数段配置される。
【0024】
図3は、図2の線a-aによる水平方向の断面を示す図である。図3に示すように、水平方向鉄筋14は、水平方向鉄筋14と平面視で直交する方向(図3の上下方向に対応する)に間隔を空けて複数本配置される。補強主筋12およびアンカー鉄筋13も、上記方向に間隔を空けて複数本配置される。
【0025】
橋脚2の幅方向(図3の左右方向に対応する)において、補強主筋12は1段に配置され、アンカー鉄筋13は、複数段(図の例では9段)に配置される。橋脚2の幅方向におけるアンカー鉄筋13の間隔は、橋脚2に近い位置で小さく、それより外側では大きくなっているが、これに限ることはない。ただし、アンカー鉄筋13は、補強主筋12に近い位置で配置する方が構造的に望ましい。
【0026】
図2に示すように、本実施形態では、アンカー鉄筋13の上端部に、アンカー鉄筋13に対して拡幅したT字状の定着部131が設けられる。定着部131は、水平方向鉄筋14、15の交差箇所において、水平方向鉄筋14、15に上から係止するように配置される。
【0027】
図4(a)に示すように、本実施形態の補強構造1は、地震等が発生した際に、橋脚2の曲げMに伴って補強主筋12に生じる引張力Pを、補強主筋12のコンクリート11の底部11aへの定着によって底部11a内に伝達する構造とし、引張力Pは複数段のアンカー鉄筋13によって基礎版3に分散して伝達される。
【0028】
また、アンカー鉄筋13の上端部が定着部131を有するT字状となっていることで、コンクリート11の底部11aの点線Qから上方の部分が補強主筋12の引張力Pにより抜け出すコーン状破壊が抑制される。特に、当該部分への定着長が短い外側のアンカー鉄筋13も、当該部分が引張力Pにより抜け出すコーン状破壊に対し有効に抵抗し、コーン状破壊の抑制に寄与する。
【0029】
より大きな地震等が発生した場合には、図4(b)に示すように、補強主筋12がコンクリート11の底部11aとその上方部分11bの間で降伏することにより、底部11aにはそれ以上の引張力は作用せず、底部11a内のアンカー鉄筋13等は弾性挙動となる。
【0030】
図5は、補強構造1による既設の橋脚2の補強方法を説明する図である。
【0031】
本実施形態では、まず図5(a)に示すように、水平方向鉄筋14の一方の端部を橋脚2に固定し、水平方向鉄筋14の配筋を行う。その後、図5(b)に示すように、前記の補強主筋12とアンカー鉄筋13、水平方向鉄筋15等を橋脚2の外周部に配置するとともに、コンクリート11を打設するための型枠(不図示)を配置する。型枠の内部にコンクリート11を打設することで、図2に示す補強構造1が形成され、これにより既設の橋脚2が補強される。前記したように、水平方向鉄筋14は、分離した2本の鉄筋によって構成することも望ましく、この場合、橋脚2側の鉄筋を孔22内に挿入して橋脚2に固定した後、その外側の鉄筋を設置する。また、当該外側の鉄筋を設置する前に、最外部のアンカー鉄筋13を設置しておく。なお、このアンカー鉄筋13は定着部131を有していない。
【0032】
以上説明したように、本実施形態によれば、既設の橋脚2の外周部にコンクリート11を設け、補強主筋12をコンクリート11に埋設してコンクリート11の底部11a内に定着し、アンカー鉄筋13によってコンクリート11の底部11aを基礎版3に固定することで、既設の橋脚2が補強される。特に、アンカー鉄筋13の上端部に定着部131が設けられるので、橋脚2の曲げMに伴って補強主筋12に引張力Pが作用した際に、その引張力Pによりコンクリート11の底部11aにコーン状破壊が生じるのが防止され、耐力が向上する。
【0033】
また本実施形態では、水平方向鉄筋14により、橋脚2とコンクリート11が連結一体化され、地震時等で両者が離間するのが防止される。またアンカー鉄筋13の定着部131を水平方向鉄筋14に係止することで、アンカー鉄筋13の配筋が容易になる。
【0034】
また本実施形態では、地震時等で補強主筋12に生じる引張力Pを、補強主筋12のコンクリート11の底部11aへの定着によって底部11a内に伝達する構造とし、引張力Pは複数段のアンカー鉄筋13によって基礎版3に分散して伝達される。そのため、アンカー鉄筋13として補強主筋12よりも低強度の鉄筋を用いることができ、例えばアンカー鉄筋13として細径のものを用いることで、アンカー鉄筋13の基礎版3への施工が容易になる。その他、アンカー鉄筋13は300mm程度のピッチ(図3の上下方向の間隔)で配置する場合が多く、補強主筋12の配置が150mmピッチの場合も、アンカー鉄筋13を上記のように複数段に分散して配置する必要が生じる。
【0035】
しかしながら、本発明は以上の実施形態に限定されない。例えば、アンカー鉄筋13の定着部131は、T字状に拡幅するものに限らない。例えばアンカー鉄筋13の上端部をフック状に折り曲げて定着部131とし、フック状の折曲部分を水平方向鉄筋14等に係止しても良い。
【0036】
補強主筋12やアンカー鉄筋13の配置も前記に限定されず、アンカー鉄筋13が、橋脚2の幅方向において、補強主筋12よりも多段に配置されればよい。また水平方向鉄筋14を省略することも可能である。さらに、補強主筋12は、耐震設計上はSD490等の高強度鉄筋の配置が望ましいが(配置本数を少なくできるため)、施工実績等の観点から、高強度鉄筋ではなく、SD345等の普通鉄筋を用いる場合もある。
【0037】
また橋脚2や基礎版3の形状、構成等も特に限定されない。例えば橋脚2は、中空部20を有する矩形状平面とするものに限らず、円形平面としてもよいし、中空部20を有しないものとしてもよい。さらに、補強構造1の適用対象が橋脚2に限ることもなく、補強構造1は各種の柱部材の補強に適用することが可能である。
【0038】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0039】
1:補強構造
2:橋脚
3:基礎版
11:コンクリート
11a:底部
11b:上方部分
12:補強主筋
13:アンカー鉄筋
14、15:水平方向鉄筋
131:定着部
図1
図2
図3
図4
図5